説明

ω3脂肪酸の乳化組成物

【課題】分散性、安定性および吸収性に優れる乳化組成物、その製法およびその使用方法の提供。
【解決手段】ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つと、下記(a)、(b)および(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つの乳化剤とを含有し、その平均乳化液滴径が2μm以下である乳化組成物:(a)レシチンおよび任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、(b)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(c)ショ糖脂肪酸エステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する乳化組成物、その製法およびその使用方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ω3多価不飽和脂肪酸(以下、ω3PUFAと記す)は、α−リノレン酸、イコサペント酸(以下、EPAと記す)、ドコサヘキサエン酸(以下、DHAと記す)などが知られている。ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルは、抗動脈硬化作用、血小板凝集抑制作用、血中脂質低下作用、抗炎症作用、抗癌作用、中枢作用など、多彩な作用を示すことから各種食品に配合されたり、健康食品あるいは医薬品として市販されたりしている。
【0003】
EPAエチルエステル(以下、EPA−Eと記す)は、閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善および高脂血症の経口治療薬として日本で市販されている(商品名エパデール、持田製薬)。EPA−Eを絶食下に経口投与した場合は血漿中EPA濃度の上昇は摂食下に経口投与した場合に比べて低い。これはEPA−Eの吸収には胆汁酸の分泌や食物からの成分が担体として必要であるためと考えられており、そのため、エパデールの用法は1日3回、毎食直後に経口投与するとされている(非特許文献1参照)。
近年のライフスタイルの変化に伴い1日3回の食事を摂らない人や、少量の食事しか摂取できない患者、流動食(牛乳、重湯、葛湯、卵、スープ、果汁、経口栄養剤)しか摂取できない患者、腸管での吸収能が低下した患者(高齢者、腸疾患患者、腸手術後、末期癌患者、リパーゼ阻害剤服用時)あるいは脳梗塞後など食事摂取不可能な患者等への服用法、あるいは服薬コンプライアンスの遵守が課題の一つとなっている。
【0004】
また、空腹時には正常値を示すが、食後に血清トリグリセリド(以下、TGと記す)が異常な増加を示し、あるいはこの状態が遷延するような非空腹時高TG血症と冠動脈疾患との関連が注目されており(非特許文献2参照)、その原因の1つとしてステロール調節エレメント結合タンパク質1c(以下、SREBP1cと記す)の亢進が関与していると考えられている。EPA−Eの摂餌下連続経口投与により、膵臓β細胞のパルミチン酸負荷による脂肪毒性が予防・改善され、その作用機序としてSREBP1cの抑制を介していることが報告されている(非特許文献3参照)。しかしながら、食前(空腹時)経口投与での有効性に関する報告はない。
【0005】
上記とは別に、不飽和脂肪酸類の安定化技術として乳化の応用が提案されている。たとえば、ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルを含有する乳化組成物としては、EPA−Eにリン脂質あるいは非イオン性界面活性剤などの乳化剤とビタミンEなどの抗酸化剤を添加した保存安定な乳剤(特許文献1参照)、豆乳中にEPAおよびDHA含有魚油を分散乳化させた乳化組成物(特許文献2参照)あるいはポリグリセリン中のトリグリセリン含量が60%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの乳化剤を添加した、加工・保存安定性を示し、経口投与後緩やかに吸収され長期的に吸収が持続する乳化組成物(特許文献3参照)などが報告されている。
【0006】
食前投与でも速やかに吸収されて食後の血清TG増加を抑制するω3PUFA製剤が望まれているが、しかしながら、食事の影響を受けにくく、食事摂取不可能な患者への投与や食前、就寝前などの空腹時での経口投与が可能な製剤、あるいは食前や就寝前などの空腹時に服用した場合でも血中EPA濃度が速やかに上昇し、その薬理作用、例えば食後の血清TG増加抑制、を速やかに、かつ効果的に発揮する製剤については未だ報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−123414号公報
【特許文献2】WO2002/037985号公開パンフレット
【特許文献3】特開2008−178341号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】エパデールS 医薬品インタビューフォーム、持田製薬、2007年3月
【非特許文献2】日本動脈硬化学会編「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」協和企画、2007年4月25日
【非特許文献3】ダイアベーテス(Diabetes)、2008年、第57巻、第9号、p.2382−2392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する乳化分散性、乳化安定性および吸収性の少なくとも1つに優れる乳化組成物、その製法およびその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つに、レシチンもしくは任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびショ糖脂肪酸エステルの少なくとも一つの乳化剤を添加して乳化することにより、既存のω3PUFA乳化組成物に比べ、乳化分散性、乳化安定性あるいは吸収性、特に空腹時における経口吸収性・吸収速度の少なくとも1つに優れる乳化組成物を見出し、本発明を完成した。本発明の態様例を以下に示す。
【0011】
(1)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つと、下記(a)、(b)および(c)からなる群より選ばれる少なくとも1つの乳化剤とを含有し、その平均乳化液滴径が2μm以下である乳化組成物:
(a)レシチンおよび任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
(b)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【0012】
(2)上記(a)のレシチンが、大豆レシチン、酵素分解大豆レシチン、水素添加大豆レシチンおよび卵黄レシチンからなる群から選ばれる少なくとも1つである上記(1)に記載の乳化組成物。
【0013】
(3)上記(a)のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが、ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコールおよびポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールからなる群から選ばれる少なくとも1つである上記(1)または(2)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0014】
(4)上記(a)のレシチンが大豆レシチンまたは酵素分解大豆レシチンであり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールがポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0015】
(5)上記(b)のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が、ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(50)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油およびポリオキシエチレン(100)硬化ヒマシ油からなる群から選ばれる少なくとも1つである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の乳化組成物。
(6)上記(b)のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0016】
(7)上記(c)のショ糖脂肪酸エステルがショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルおよびショ糖ステアリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0017】
(8)上記乳化剤の親水性親油性バランス(以下、HLBと記す)が10ないし18の範囲である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の乳化組成物。
(9)上記乳化剤のHLBが12ないし16の範囲である上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0018】
(10)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルの含量が0.01ないし50質量%の範囲である上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の乳化組成物。
(11)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルの含量が0.1ないし30質量%の範囲である上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の乳化組成物。
(12)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルの含量が9質量%以下である上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0019】
(13)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステル100質量部に対する乳化剤の含量が5ないし100質量部である上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の乳化組成物。
(14)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステル100質量部に対する乳化剤の含量が10ないし50質量部である上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の乳化組成物。
(15)上記乳化剤の含有量が2質量%以下である上記(1)ないし(14)に記載の乳化組成物。
【0020】
(16)上記平均乳化滴径が1.5μm以下である上記(1)ないし(15)のいずれかに記載の乳化組成物。
(17)乳化組成物中の平均乳化滴径が0.3μm以下である上記(1)ないし(16)のいずれかに記載の乳化組成物。
(18)調製後40℃6ヶ月間保存後の乳化組成物中の平均乳化滴径が1.5μm以下である上記(1)ないし(17)のいずれかに記載の乳化組成物。
(19)調製後40℃6ヶ月間保存後の乳化組成物中の平均乳化滴径が0.3μm以下である上記(1)ないし(18)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0021】
(20)雄性ビーグル犬に18時間以上絶食条件下でω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルとして600mgとなる乳化組成物を経口投与し、投与前の血中ω3PUFA濃度を減じた補正を行って算出した、ω3PUFA血中濃度最大値が90μg/mL以上および/または投与0から2時間までのω3PUFA血中濃度曲線下面積が100μg/mL・hr以上である上記(1)ないし(19)のいずれかに記載の乳化組成物。
(21)雄性ビーグル犬に18時間以上絶食条件下でω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルとして600mgとなる乳化組成物を経口投与し、投与前の血中ω3PUFA濃度を減じた補正を行って算出した、ω3PUFA血中濃度最大値が80μg/mL以上および/または投与0から2時間までのω3PUFA血中濃度曲線下面積が90μg/mL・hr以上である上記(1)ないし(19)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0022】
(22)雄性カニクイザルに12時間以上絶食条件下でω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルとして体重1kgあたり45mgとなる乳化組成物を経口投与し、投与前の血中ω3PUFA濃度を減じた補正を行って算出した、ω3PUFA血中濃度最大値が60μg/mL以上および/または投与0から12時間までのω3PUFA血中濃度曲線下面積が450μg/mL・hr以上である上記(1)ないし(19)のいずれかに記載の乳化組成物。
(23)雄性カニクイザルに12時間以上絶食条件下でω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルとして体重1kgあたり45mgとなる乳化組成物を経口投与し、投与前の血中ω3PUFA濃度を減じた補正を行って算出した、ω3PUFA血中濃度最大値が50μg/mL以上および/または投与0から12時間までのω3PUFA血中濃度曲線下面積が400μg/mL・hr以上である上記(1)ないし(19)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0023】
(24)ヒトにω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルとして1800mgとなる乳化組成物を食前に投与し、投与前の血中ω3PUFA濃度を減じた補正を行って算出した、ω3PUFA血中濃度最大値が50μg/mL以上および/または投与2時間後のω3PUFA血中濃度が10μg/mL以上である上記(1)ないし(19)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0024】
(25)EPA、DHAおよびそれらの製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する上記(1)ないし(24)のいずれかに記載の乳化組成物。
(26)EPA−Eおよび/またはDHAエチルエステルを含有する上記(1)ないし(25)のいずれかに記載の乳化組成物。
(27)EPA−Eを有効成分として含有する上記(1)ないし(26)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0025】
(28)第二の有効成分として、ポリエンフォスファチジルコリン、大豆油不けん化物(ソイステロール)、ガンマオリザノール、酪酸リボフラビン、デキストラン硫酸ナトリウムイオウ18、パンテチン、エラスターゼ、プラバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、セリバスタチン、シンフィブラート、クロフィブラート、クリノフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラート、オルリスタット、セチリスタット、コレスチラミン、コレスチミド、エゼチミブ、ビタミンC、ビタミンE、トコフェロールニコチン酸エステル、N−アセチルシステイン、プロブコール、イルベサルタン、オルメサルタンメドキソミル、カンデサルタンレキセチル、テルミサルタン、バルサルタン、ロサルタンカリウム、アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリル、リシノプリル水和物、アゼルニジピン、アムロジピンベシル酸塩、アラニジピン、エホニジピン塩酸塩、シルニジピン、ニカルジピン塩酸塩、ニフェジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、バルニジピン塩酸塩、フェロジピン、ベニジピン、マニジピン、トラゾリン、フェントラミン、アテノロール、メトプロロール、アセブトロール、プロプラノロール、ピンドロール、カルベジロール、ラベタロール塩酸塩、クロニジン、メチルドパ、エプレレノン、ヒドロクロロチアジド、フロセミド、アカルボース、ボグリボース、ミグリトール、グリクラジド、グリベンクラミド、グリメピリド、トルブタミド、ナテグリニド、ミチグリニド、メトホルミン塩酸塩、ブホルミン塩酸塩、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、サクサグリプチン、ピオグリゾン塩酸塩、ロシグリタゾンマレイン酸塩、エクセナチド、リラグルチドシロスタゾール、チクロピジン塩酸塩、アルプロスタジル、リマプロスト、ベラプロストナトリウム、サルポグレラート塩酸塩、アルガトロバン、ナフチドロフリル、塩酸イソクスプリン、バトロキソビン、ジヒドロエルゴトキシンメシル酸塩、塩酸トラゾリン、ヘプロニカート、四物湯エキス、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、胆汁末、デオキシコール酸、コール酸、胆汁エキス、熊胆、牛黄、デヒドロコール酸、ビオチン、シアノコバラミン、パントテン酸、葉酸、チアミン、ビタミンK、チロシン、ピロドキシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、カルシウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウム、大豆たんぱく質、キトサン、低分子アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮由来の食物繊維、リン脂質結合大豆ペプチド、植物ステロールエステル、植物スタノールエステル、ジアシルグリセロール、グロビン蛋白分解物、および茶カテキンからなる群から選ばれる少なくとも1つをさらに含有する上記(1)ないし(27)のいずれかに記載の乳化組成物。
(29)第二の有効成分が、トコフェロールニコチン酸エステルまたはウルソデオキシコール酸のいずれかである上記(28)に記載の乳化組成物。
【0026】
(30)上記(1)〜(29)のいずれかに記載の乳化組成物を含有する医薬。
(31)脂質異常症治療剤、食後高TG血症治療剤、抗動脈硬化剤、血小板凝集抑制剤、末梢循環不全治療剤、炎症性疾患治療剤、抗癌剤および中枢性疾患治療剤からなる群から選ばれる少なくとも1つである上記(30)に記載の医薬。
【0027】
(32)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つと、下記(a)、(b)および(c)の少なくとも1つの乳化剤とを混合して次いで高圧乳化または高速撹拌することを特徴とする乳化組成物の製法:
(a)レシチンおよび任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
(b)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【0028】
(33)ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つと、下記(a)、(b)および(c)の少なくとも1つの乳化剤とを混合して次いで平均乳化滴径が2μm以下に乳化することを特徴とする乳化組成物の製法:
(a)レシチンおよび任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
(b)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【発明の効果】
【0029】
ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つに、レシチンおよび任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つを添加して乳化することにより乳化分散性、乳化安定性あるいは吸収性、特に空腹時における経口吸収性・吸収速度の少なくとも1つに優れる乳化組成物、その製法およびその使用方法を提供することができる。
既存の乳化組成物に比べて空腹時経口投与においても速やかに吸収され、ω3PUFAの有する各種疾患に対する予防・改善あるいは治療効果を示すことが期待される。具体的には、1日3回食直後投与の用法の制約なく1日1ないし3回随時投与で有効性を示すことによる患者利便性の向上および服薬コンプライアンスをより高めることで更に有効性を高めることができること、食直後投与以外の投与用法の他剤との組合わせや配合剤化が可能となること、食前経口投与による食後の血清TG増加抑制作用を示すこと、あるいは就寝前投与によりリパーゼ阻害剤服用時の必須脂肪酸欠乏を予防すること、等の臨床における効果を示すことが期待される。
【0030】
ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルのうちEPA−Eは安全性の高い医薬品有効成分として知られているが、ごく稀に悪心(0.21%)、嘔気(0.23%)あるいは胃不快感(0.23%)の副作用が起こることがある。本発明によりω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの服薬量および/または投与回数を低減することができ、副作用をより軽減することにより服薬コンプライアンスを高めること、また、副作用のために投与を中断せざるを得なかった患者において治療を継続することが期待される。
また、脂質異常症などの慢性疾患の改善または治療薬は、長期間にわたり連続して服用することが基本的な用法であるところ、本発明により、できる限り少ない投与量・投与回数で改善または治療効果が得ることが期待される。
【0031】
日米欧などの先進諸国において補完代替医療が増加しており、特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品および栄養機能食品)や健康食品(サプリメント)などが利用されている。ω3PUFA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つと、レシチンおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含有する乳化組成物は、ω3PUFAを必要としているヒト用の保健機能食品として提供することができる。例えば、脂質異常症、末梢循環不全やメタボリックシンドロームあるいはその予備軍のヒトが更なる心・脳血管イベントや四肢末梢潰瘍や壊疽などへの進行することを抑制でき、生活の質を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、EPA、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つと、レシチンおよび任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびショ糖脂肪酸エステルのうちの少なくとも1つの乳化剤とを含有する乳化組成物、その製法およびその使用方法である。
【0033】
本発明において、「ω3PUFA」とは、分子内に複数の炭素−炭素の二重結合を有し、メチル基側から数えて3番目の位置に最初の二重結合がある脂肪酸である。代表的なものとして、α−リノレン酸、EPA、DHA、イコサトリエン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸およびニシン酸などが例示される。本発明における「ω3PUFA類」の語は、特に断らない限りは、ω3PUFAだけでなく、その製薬上許容される塩、あるいはエステルなども含む意味で用いられる。
【0034】
本発明で用いられるω3PUFA類は、合成品、半合成品または天然品のいずれでもよく、これらを含有する天然油の形態でもよい。ここで、天然品とは、ω3PUFA類を含有する天然油から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、あるいはそれらを更に高度に精製したものを意味する。半合成品は、微生物などにより産生されたω3PUFA類を含み、また該ω3PUFA類あるいは天然のω3PUFA類にエステル化、エステル交換等の化学処理を施したものも含まれる。本発明では、ω3PUFA類として、これらのうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明では、ω3PUFA類の酸基としてEPAおよびDHAが好ましい例として挙げられ、EPAが更に好ましい例として挙げられる。また、ω3PUFAの製薬学上許容しうる塩としてナトリウム塩、カリウム塩などの無機塩基、ベンジルアミン塩、ジエチルアミン塩などの有機塩基、アルギニン塩、リジン塩などの塩基性アミノ酸との塩およびエステルとしてエチルエステル等のアルキルエステルやモノ−、ジ−およびTG等のエステルが例示される。好ましくはエチルエステルまたはTGエステルが挙げられ、エチルエステルが更に好ましい例として挙げられる。すなわち、EPA−E、EPAのTGエステル、DHAエチルエステル(以下、DHA−Eと記す)、およびDHAのTGエステルが好ましい例として挙げられ、EPA−EおよびDHA−Eが更に好ましい例として挙げられ、EPA−Eがより好ましい例として挙げられる。
【0036】
ω3PUFA類の純度は特に限定されないが、通常、本組成物の全脂肪酸中のω3PUFA類の含量として、好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、とりわけ好ましくは96.5質量%以上である。EPA−E+DHA−E(EPA−Eのみ、DHA−Eのみ、または両方を含む場合は合計で)が高純度のもの、例えば、ω3PUFA類中のEPA−E+DHA−E含量比が50質量%以上のものが好ましく、60質量%以上のものがさらに好ましく、90質量%以上のものがさらに好ましく、99質量%以上のものが更に好ましい。すなわち、本剤組成物は、全脂肪酸中のω3PUFA類純度が高いことが好ましく、ω3PUFA類の酸基としてのEPA+DHA純度が高いことが更に好ましく、酸基としてのEPAの純度が高いことがより好ましい。
例えば、EPA−EとDHA−Eを用いる場合、酸基としてのEPAの本剤組成物の純度が上記であれば、EPA−E/DHA−Eの組成比および全脂肪酸中のEPA−E+DHA−Eの含量比は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。
また、本剤組成物はリノール酸、γリノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸などのω3PUFA類以外の多価不飽和脂肪酸、それらの製薬学上許容される塩またはエステルを含んでいても良いが、アラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満がさらに好ましく、アラキドン酸を実質的に含まない態様がとくに好ましい。
【0037】
本発明の乳化組成物中のω3PUFA類の含量は特に限定されないが、通常、0.01ないし50質量%、好ましくは0.1ないし30質量%の範囲であり、典型的に9質量%以下、たとえば0.1ないし9質量%、好ましくは0.1ないし7質量%、より好ましくは0.5ないし5質量%、さらに好ましくは1〜3質量%である。
【0038】
本発明の改善または治療薬に用いられるω3PUFA類は、魚油あるいは魚油の濃縮物に比べ、飽和脂肪酸やアラキドン酸等の心血管イベントに対して好ましくない不純物が少なく、栄養過多やビタミンA過剰摂取の問題もなく作用効果を発揮することが可能である。特に、エチルエステル体の場合、主にTG体である魚油等に比べて酸化安定性が高く、通常の酸化防止剤添加により十分安定な組成物を得ることが可能である。
【0039】
本発明では、このω3PUFA類は、市販品を用いることもできる。たとえば、EPA−Eは、日本において、ASOおよび高脂血症治療薬として入手可能な高純度EPA−E(96.5質量%以上)含有軟カプセル剤(商品名エパデール:持田製薬社製)を用いることができる。また、EPA−EとDHA−Eの混合物は、たとえば、米国で高TG血症治療薬として市販されているロバザ(Lovaza(登録商標):グラクソ・スミス・クライン:EPA−E約46.5質量%、DHA−E約37.5質量%含有する軟カプセル剤)を使用することもできる。
ω3PUFA類として、精製魚油も使用できる。また、ω3PUFA類のモノグリセリド、ジグリセリド、TG誘導体またはこれらの組合せなども好ましい態様の一つである。例えばインクロメガ(lncromega)F2250、F2628、E2251、F2573、TG2162、TG2779、TG2928、TG3525およびE5015(クローダ インターナショナル ピーエルシー(Croda International PLC, Yorkshire, England))、およびEPAX6000FA、EPAX5000TG、EPAX4510TG、EPAX2050TG、EPAX7010EE、K85TG、K85EEおよびK80EE(プロノバ バイオファーマ(Pronova Biopharma, Lysaker, Norway))などの種々のω3PUFA類を含有する製品が市販されており、これらを入手して使用することもできる。
【0040】
本発明において、「レシチン」はグリセロリン脂質の1種であり、大豆レシチン、酵素分解大豆レシチン、卵黄レシチン、水素添加リン脂質、牛乳由来リン脂質、リゾレシチン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルセリンが例示される。好ましくは、大豆レシチン、酵素分解大豆レシチンおよび卵黄レシチンが例示され、更に好ましくは大豆レシチンが例示される。また、これらのうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。本発明においてレシチンとは、特に断らない限りは、上記のようなグリセロリン脂質をすべて含む意味で用いられる。
精製大豆レシチン(日清オイリオ)、精製卵黄レシチン(旭化成ファーマ)、卵黄レシチンPL−100M(キューピー)などの種々の製品が市販されており、これらを入手して使用することもできる。
【0041】
本発明において、「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール」は、酸化プロピレンが重合したポリプロピレングリコールに酸化エチレンが重合した化合物である。
酸化プロピレンおよび酸化エチレンの平均重合度により種々の化合物が市販されており、例えば、ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール(アデカプルロニックL−31、アデカ)、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール(アデカプルロニックL−44、アデカ)、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(アデカプルロニックP123、アデカ)、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール(ニューデットPE−85、三洋化成工業)、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール(PEP101、三洋化成工業)、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール(アデカプルロニックF−87、アデカ)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(アデカプルロニックF−68、アデカ)、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(ルトロールF127、BASFジャパン)およびポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールが例示され、好ましくはポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールが例示される。また、これらのうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。本発明においてポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとは、特に断らない限りは、上記のような化合物をすべて含む意味で用いられる。
【0042】
本発明において、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」は、ヒマシ油に水素を添加した硬化油に酸化エチレンが付加重合した化合物である。酸化エチレンの平均重合度により種々の化合物が市販されており、例えば、ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油(NIKKOL HCO−20、日光ケミカルズ)、ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油(NIKKOL HCO−40、日光ケミカルズ)、ポリオキシエチレン(50)硬化ヒマシ油(NIKKOL HCO−50、日光ケミカルズ)、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(NIKKOL HCO−60、日光ケミカルズ)およびポリオキシエチレン(100)硬化ヒマシ油(NIKKOL HCO−100、日光ケミカルズ)が例示され、好ましくはポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油が例示される。また、これらのうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。本発明においてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とは、特に断らない限りは、上記のような化合物をすべて含む意味で用いられる。
【0043】
本発明において、「ショ糖脂肪酸エステル」は、ショ糖と脂肪酸のエステルである。エステル化する脂肪酸の種類やエステル化度により種々の化合物が市販されており、例えば、脂肪酸中にラウリン酸が95%含まれるサーフホープ SE PHARMA J−1216(三菱化学フーズ)、脂肪酸中にミリスチン酸が95%含まれるサーフホープ SE PHARMA J−1416(三菱化学フーズ)、脂肪酸中にパルミチン酸が70%含まれるサーフホープ SE PHARMA J−1615およびJ−1616(三菱化学フーズ)、脂肪酸中にステアリン酸が70%含まれるサーフホープ SE PHARMA J−1811、J−1815およびJ−1816(三菱化学フーズ)および脂肪酸中にオレイン酸が70%含まれるサーフホープ SE PHARMA J−1715等が例示される。また、これらのうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。本発明においてショ糖脂肪酸エステルとは上記のような化合物をすべて含む意味で用いられる。
【0044】
本発明の乳化組成物に添加する乳化剤のHLBは10ないし18が好ましく、12ないし16が更に好ましい。2種以上の乳化剤を添加する場合、乳化組成物に添加する乳化剤のHLBは、各HLBの質量平均として求める。例えば、2種の乳化剤AおよびBを添加する場合は以下の式より求められた値を乳化組成物中に添加する乳化剤のHLBとする。
HLB=(W+W)/(W+W
:乳化組成物中の乳化剤Aの含量(質量%)
:乳化組成物中の乳化剤Bの含量(質量%)
:乳化組成物中の乳化剤AのHLB
:乳化組成物中の乳化剤BのHLB
【0045】
本発明の乳化組成物に添加するレシチン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびショ糖脂肪酸エステルの合計含量は特に限定されないが、ω3PUFA類100質量部に対して、通常、5ないし100質量部、好ましくは10ないし70質量部、さらに好ましくは10ないし50質量部である。
また、乳化組成物中の上記乳化剤の含量(総量)は、少ないことが好ましく、たとえば2質量%以下が好ましい。
【0046】
上記のようなω3PUFA類と乳化剤とを含有する本発明乳化組成物において、好ましい態様は、EPA−Eおよび/またはDHA−Eと、大豆レシチン、酵素分解大豆レシチン、水素添加大豆レシチンあるいは卵黄レシチンからなる群から選ばれる少なくとも1つおよび任意にポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールとの組合わせ、EPA−Eおよび/またはDHA−Eと、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油との組合わせ、あるいはEPA−Eおよび/またはDHA−Eと、ショ糖脂肪酸エステルとの組合わせであり、特に好ましい態様は、EPA−Eと大豆レシチンおよびポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールとの組合せ、あるいはEPA−Eとポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油との組合せである。
【0047】
本発明において、「平均乳化滴径」は、粒度分布測定装置(例えばNanotorac、日機装製)により、分散媒として水を使用して測定した乳化組成物中の体積平均径の値である。本発明の乳化組成物の平均乳化滴径は2μm以下であり、乳化分散性、乳化安定性あるいは吸収性に優れる範囲であれば特に限定されないが、通常、平均乳化滴径は1.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下が例示される。安定性の観点では、調製後40℃6ヶ月間保存後の乳化組成物中の平均乳化滴径が2μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下であるような組成物が例示される。また、調製後40℃4週間保存後の乳化組成物中の平均乳化滴径が1.5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.2μm以下であるような組成物が例示される。
【0048】
本発明の乳化組成物に用いられるω3PUFA類の投与量および投与期間は対象となる作用を現すのに十分な量および期間とされるが、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢等によって適宜増減することができる。
【0049】
経口投与する場合は、例えばEPA−Eとして0.1〜5g/日、好ましくは0.2〜3g/日、より好ましくは0.4〜1.8g/日、さらに好ましくは0.6〜0.9g/日を1ないし3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。EPA−Eの吸収は食事が影響するため、投与時間は食中ないし食後が好ましく、食直後(30分以内)投与が更に好ましいとされているが、本発明の乳化組成物は空腹時でも吸収性に優れるため、食中、食後あるいは食直後以外の時間、例えば食前、食直前、就寝前に投与した場合、腸管での吸収能低下した患者(高齢者、腸疾患患者、腸手術後、末期癌患者、リパーゼ阻害剤服用時)に投与した場合あるいは、投与量を減量した場合も本発明の効果を発現させることができる。
【0050】
上記投与量を経口投与する場合、投与期間は対象疾患および症状の程度に応じて任意に設定することができる。例えば、対象疾患が脂質異常症の場合、脂質異常症に関連する生化学的マーカーや病態の改善または治療効果あるいはメタボリックシンドロームや心・脳血管イベントや四肢末梢潰瘍や壊疽などへの進行抑制であれば特に限定されないが、例えば、血漿中の脂質マーカー(総コレステロール(以下、Choと記す)、TG、食後TG、低比重リポ蛋白Cho、高比重リポ蛋白Cho、超低比重リポ蛋白Cho、非高比重リポ蛋白Cho、中間比重リポ蛋白Cho、超高比重リポ蛋白Cho、遊離脂肪酸、リン脂質、カイロミクロン、ApoB、リポプロテイン(a)、レムナント様蛋白Cho、小型高密度低比重リポ蛋白Cho等)の濃度改善、サーモグラフィーなどで測定できる四肢末梢の皮膚温度上昇、歩行距離の延長、血清CPK上昇などの検査値、あるいはしびれ、冷感、疼痛、安静時疼痛、かゆみ、チアノーゼ、発赤、しもやけ、肩こり、貧血、血色不良、掻痒および蟻走感などの諸症状の改善が例示される。その他の脂質異常症や末梢血行障害に関連する生化学的・病理学的あるいは病態パラメータにより改善または治療効果をモニタリングしてもよい。血症脂質濃度など生化学的指標の異常値や病態の異常が継続している間は投与を継続することが望ましい。また、例えば1日おきに投与する、1週間に2〜3日投与する態様や、場合により1日〜3ヵ月程度、好ましくは1週間〜1ヵ月程度の休薬期間を設けることもできる。
【0051】
医師の指示によっては、投与開始日に、1日のω3PUFA類推奨投与用量よりも低い用量を経口投与し、その後、維持量として、1日の最高投与量まで漸増して経口投与してもよい。また、患者の状態に応じて減量することも可能である。副作用軽減の観点で1日投与量をできるだけ減量し、服薬コンプライアンスの観点で1日1ないし2回投与とすることがより好ましい。
【0052】
本発明の乳化組成物に、乳化補助剤、防腐剤、安定化剤、界面活性剤、抗酸化剤などを含有させることもできる。乳化補助剤としては、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、リノレン酸、ミリスチン酸などの炭素数12ないし22の酸脂肪酸またはそれらの塩などが例示される。安定化剤としては、ホスファチジン酸、アスコルビン酸、グリセリン、セタノールなどが例示される。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが例示される。界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが例示される。抗酸化剤としては、ブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸プロピル、医薬として許容されうるキノン、アスタキサンチンおよびα−トコフェロールなどの油溶性の抗酸化剤およびアスコルビン酸およびその誘導体、エリソルビン酸およびその誘導体、亜硝酸塩、クエン酸などの水溶性の抗酸化剤が例示される。
【0053】
また、一般的に用いられる適当な担体または媒体、着色剤、香味剤、必要に応じて滅菌水や植物油、更には無害性有機溶媒あるいは無害性溶解補助剤(たとえばグリセリン、プロピレングリコール)、乳化剤、懸濁化剤(例えばツイーン80、アラビアゴム溶液)、等張化剤、pH調整剤、安定化剤、嬌味剤、着香剤、保存剤、酸化防止剤、緩衝剤、着色剤、吸収促進剤などの添加剤と適宜選択組み合わせて適当な医薬用製剤に調製することができる。添加剤として、たとえば乳糖、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール、トコフェロール、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、ジメチルポリシロキサン、カルナウバロウ、デスオキシコール酸ナトリウムなどを含有しうる。
【0054】
特に、ω3PUFA類は高度に不飽和であり、水分を含む乳剤においては酸化を受けやすく、特に乳化滴径を小さくすることで酸化されやすくなるため、水溶性の酸化防止剤および/または油溶性の酸化防止剤を酸化防止剤として有効量含有させることが望ましく、水溶性の酸化防止剤と油溶性の酸化防止剤の両方を含有させることが好ましい。水溶性の酸化防止剤としてはアスコルビン酸およびその誘導体、エリソルビン酸およびその誘導体、亜硝酸塩、クエン酸などが例示され、油溶性の酸化防止剤としてはブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸プロピル、医薬として許容されうるキノン、アスタキサンチンおよびα−トコフェロールなどが例示される。また、乳化組成物調製後は容器内を窒素置換して密封保存することが好ましい。保存温度は、室温が好ましく、冷暗所がさらに好ましく、凍結すると乳化安定性が悪くなる恐れがあるため、冷凍保存は避けることが好ましい。
【0055】
本発明の乳化組成物は、経口および静脈内あるいは動脈内、直腸内あるいは膣内を問わず患者に投与されるが、経口服用できる患者に対しては、簡便な経口用液体製剤が望ましく、透析患者や嚥下困難な患者などにはゼラチン等でゼリー化したゼリー剤として投与することもできる。
【0056】
本発明の乳化組成物は、ω3PUFA類、乳化剤、精製水、必要によりグリセリン、抗酸化剤などの他の添加剤を混合・溶解して、例えばマントンゴーリン型ホモジナイザーのような高圧乳化装置、高速撹拌機などを用いて乳化することにより製造することができる。
平均乳化滴径は、2μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下となるように乳化条件を適宜選択することができる。例えば、高速撹拌機(泡レスミキサー、美粒製)を用い15000rpmにて乳化する方法、あるいはさらに高圧乳化装置(DeBee2000、BEE インターナショナル製)を用い20000PSIにて高圧乳化する方法が挙げられる。
【0057】
本発明の乳剤組成物に第二の有効成分を組み合わせて使用することもできる。第二の有効成分は対象疾患および症状の程度に応じて任意に選択することができ、ω3PUFA類の効果を減弱しないことが好ましく、例えば、高脂血症治療薬、降圧薬、抗糖尿病薬、抗酸化剤、血流改善剤、胆汁酸誘導体などが例示される。
【0058】
好ましい第二の有効成分としては、高脂血症治療薬のうち、例えば、ポリエンフォスファチジルコリン、大豆油不けん化物(ソイステロール)、ガンマオリザノール、酪酸リボフラビン、デキストラン硫酸ナトリウムイオウ18、パンテチン、エラスターゼが挙げられる。また、プラバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、セリバスタチンのようなスタチンやシンフィブラート、クロフィブラート、クリノフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラートのようなフィブラート系薬剤、あるいはオルリスタット、セチリスタットのような脂肪分解酵素阻害剤、コレスチラミンやコレスチミドのようなレジン、トコフェロールニコチン酸エステル、エゼチミブなども挙げられる。
【0059】
降圧薬としては、イルベサルタン、オルメサルタンメドキソミル、カンデサルタンレキセチル、テルミサルタン、バルサルタン、ロサルタンカリウムのようなアンギオテンシンII受容体拮抗剤、アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリル、リシノプリル水和物のようなアンギオテンシン変換酵素阻害薬、アゼルニジピン、アムロジピンベシル酸塩、アラニジピン、エホニジピン塩酸塩、シルニジピン、ニカルジピン塩酸塩、ニフェジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、バルニジピン塩酸塩、フェロジピン、ベニジピン、マニジピンのようなカルシウム拮抗薬、トラゾリン、フェントラミンのようなα受容体遮断薬、アテノロール、メトプロロール、アセブトロール、プロプラノロール、ピンドロール、カルベジロール、ラベタロール塩酸塩のようなβ受容体遮断薬、クロニジン、メチルドパなどのα受容体刺激薬、エプレレノン、ヒドロクロロチアジド、フロセミドのような利尿薬なども挙げられる。
【0060】
抗糖尿病薬としては、アカルボース、ボグリボース、ミグリトールのようなα−グルコシダーゼ阻害剤、グリクラジド、グリベンクラミド、グリメピリド、トルブタミドのようなスルホニルウレア系血糖降下薬、ナテグリニド、ミチグリニドのような速効型インスリン分泌促進薬、メトホルミン塩酸塩、ブホルミン塩酸塩のようなビグアナイド系血糖降下薬、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、サクサグリプチンのようなジペプチジルホスファターゼ4阻害薬、ピオグリゾン塩酸塩、ロシグリタゾンマレイン酸塩のようなチアゾリジン系薬、エクセナチド、リラグルチドのようなグルカゴン様ペプチド1誘導体薬、なども挙げられる。
【0061】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)やトコフェロール(ビタミンE)、トコフェロールニコチン酸エステル等のビタミン類、N−アセチルシステイン、プロブコールなどが挙げられる。
【0062】
血流改善剤としては、例えば、シロスタゾール、チクロピジン塩酸塩、アルプロスタジル、リマプロスト、ベラプロストナトリウム、サルポグレラート塩酸塩、アルガトロバン、ナフチドロフリル、塩酸イソクスプリン、バトロキソビン、ジヒドロエルゴトキシンメシル酸塩、塩酸トラゾリン、ヘプロニカート、四物湯エキスなどが挙げられる。
【0063】
胆汁酸誘導体としては、例えば、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、胆汁末、デオキシコール酸、コール酸、胆汁エキス、熊胆、牛黄やデヒドロコール酸などが挙げられる。また、ビオチン(ビタミンB7)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、パントテン酸(ビタミンB5)、葉酸(ビタミンB9)、チアミン(ビタミンB1)、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、チロシン、ピロドキシン(ビタミンB6)、ロイシン・イソロイシン・バリンなどの分岐鎖アミノ酸類、カルシウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウムなどが好ましい例として挙げられる。また、大豆たんぱく質、キトサン、低分子アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮由来の食物繊維、リン脂質結合大豆ペプチド、植物ステロールエステル、植物スタノールエステル、ジアシルグリセロール、グロビン蛋白分解物、茶カテキンなどの特定保健用食品や栄養機能食品の成分が挙げられる。
【0064】
本発明の乳化組成物は、ω3PUFA類の薬理作用を発現できるように、乳化分散性に優れる、乳化安定性に優れる、保存安定性に優れる、吸収性、特に空腹時の吸収性・吸収速度に優れる、患者の服用利便性、あるいはコンプライアンスに優れる製剤の少なくともいずれか1以上の効果を持つことが望ましい。
【0065】
本発明の乳化組成物は、動物とりわけ哺乳動物の各種疾患治療剤、例えば、脂質異常症治療剤、食後高TG血症治療剤、抗動脈硬化剤、血小板凝集抑制剤、末梢循環不全治療剤、炎症性疾患治療剤、抗癌剤および中枢性疾患治療剤として使用することができる。特に、脂質異常症、食後高TG血症の改善または治療、再発予防あるいはメタボリックシンドロームや心・脳血管イベントや四肢末梢潰瘍や壊疽などへの進行抑制に有効である。哺乳動物とは、例えば、ヒトやウシ、ウマ、ブタなどの家畜動物やイヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどの家庭用動物等が挙げられ、好ましくはヒトである。特に、メタボリックシンドローム患者など、血中脂質が増加している、インスリン抵抗性を発現している、あるいは血圧が上昇している脂質異常症患者において脂質異常症や食後高TG血症の改善または治療効果を示すことが期待される。また、投与量や1日投与回数を減少することで、患者の服薬の負担を軽減し、服薬コンプライアンスを高めることで更に改善または治療効果を高めることができる。
【実施例】
【0066】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
大豆レシチン2.4gに濃グリセリン80.0gと精製水80.0gを加えて混合し、これにEPA−E16.0gを少量ずつ攪拌しながら加えた(調製液A)。別に、精製水1238.4gにエリソルビン酸ナトリウム20.8g、トレハロース160.0g、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール2.4gを溶解した(調製液B)。次に、調製液Aに調製液Bを少しずつ攪拌しながら加えた。これを高速攪拌器(泡レスミキサー、美粒製)を用い15000rpmにて乳化し乳化物を得た。次に、この乳化物を高圧乳化装置(DeBee2000、BEE インターナショナル製)を用い20000PSIにて高圧乳化し乳化組成物を得た。調製した乳化組成物は容器内を窒素置換して、評価を実施するまで密封して室温にて保管した。表1に乳化組成物の処方(質量%)を示す。
【0067】
【表1】

【0068】
(実施例2)
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油4.8g、エリソルビン酸ナトリウム20.8g、濃グリセリン80.0g、トレハロース160.0g、精製水1318.4gを量り取り、溶解した。これに、EPA−E16.0gを加えた。以下、実施例1に記載の方法と同様にして乳化して乳化組成物を得た。調製した組成物は容器内を窒素置換して、評価を実施するまで密封して室温にて保管した。表2に組成物の処方(質量%)を示す。
【0069】
【表2】

【0070】
(実施例3)
酵素分解大豆レシチン2.4gに濃グリセリン40.0gと精製水40.0gを加えて混合し、これにEPA−E8.0gを少量ずつ攪拌しながら加えた(調製液A )。別に、精製水619.2gにエリソルビン酸ナトリウム10.4g、トレハロース80.0gを溶解した(調製液B )。次に、調製液Aに調製液Bを少しずつ攪拌しながら加えた。これを、高速攪拌器(泡レスミキサー、美粒製)を用い15000rpmにて乳化し、乳化組成物を得た。調製した乳化組成物は容器内を窒素置換して、評価を実施するまで密封して室温にて保管した。表3に乳化組成物の処方(質量%)を示す。
【0071】
【表3】

【0072】
(実施例4)
ショ糖脂肪酸エステル(サーフホープ SE PHARMA J−1816、三菱化学フーズ)3.84g、ショ糖脂肪酸エステル(サーフホープ SE PHARMA J−1805、三菱化学フーズ)0.96g、エリソルビン酸ナトリウム20.8g、濃グリセリン80.0g、トレハロース160.0g、精製水1318.4gを量り取り、70℃に加温して溶解した。これに、EPA−E16.0gを加えた。以下、実施例1に記載の方法と同様にして乳化組成物を得た。調製した組成物は容器内を窒素置換して、評価を実施するまで密封して室温にて保管した。表4に実施例4の組成物の処方を示す。
【0073】
【表4】

【0074】
(実施例5)
大豆レシチン2.4gに濃グリセリン80.0gと精製水80.0gを加えて混合し、これにトコフェロールニコチン酸エステル5.3gをEPA−E16.0gに溶解させた溶液を少量ずつ攪拌しながら加えた(調製液A)。別に、精製水1233.1gにエリソルビン酸ナトリウム20.8g、トレハロース160.0g、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール2.4gを溶解した(調製液B)。以下、実施例1に記載の方法と同様にして乳化して乳化組成物を得た。調製した乳化組成物は容器内を窒素置換して、評価を実施するまで密封して室温にて保管した。表5に乳化組成物の処方(質量%)を示す。
【0075】
【表5】

【0076】
(比較例1)
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油2.4g、エリソルビン酸ナトリウム10.4g、濃グリセリン40.0g、トレハロース80.0g、精製水659.2gを量り取り、溶解した。これに、EPA−E8.0gを加え、高速攪拌器(泡レスミキサー、美粒製)を用い9000rpmにて乳化し乳化組成物を得た。調製した組成物は容器内を窒素置換して、評価を実施するまで密封して室温にて保管した。表6に乳化組成物の処方を示す。
【0077】
【表6】

【0078】
(比較例2)
ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール4.8g、エリソルビン酸ナトリウム20.8g、濃グリセリン80.0g、トレハロース160.0g、精製水1318.4gを量り取り、溶解した。これに、EPA−E16.0gを加えた。以下、実施例1に記載の方法と同様に乳化して乳化組成物を得た。調製した乳化組成物は容器内を窒素置換して、評価を実施するまで密封して室温にて保管した。表7に乳化組成物の処方(質量%)を示す。
【0079】
【表7】

【0080】
(実験例1)
平均乳化滴径の測定
粒度分布測定装置(Nanotorac、日機装製)により、分散媒として水を使用し、各実施例及び比較例の乳化組成物中の平均乳化滴径(体積平均径)を測定した。表8に調製直後の平均乳化滴径の測定結果を示す。
【0081】
【表8】

【0082】
また、表9に実施例1の、表10に実施例5の、それぞれの平均乳化滴径の経時変化を示す。
【0083】
【表9】

【0084】
保存期間中の平均乳化滴径の変化は僅かであり、40℃6ヶ月保存後においても0.3μm以下であった。
【0085】
【表10】

【0086】
保存期間中の平均乳化滴径の変化は僅かであり、40℃4週間保存後においても0.2μm以下であった。
【0087】
(実験例2)
ビーグル犬における薬物動態
実施例及び比較例の乳化組成物を各々雄性ビーグル犬(34〜55月齢、体重11〜17Kg、北山ラベス)3〜6例に絶食条件下で経口投与し、EPAの血中濃度の推移を評価した。なお、各被験動物は投与の18時間以上前より絶食とし、各動物にはEPA−Eとして600mgとなる量の組成物を投与した。また、対照群としてカプセルに充填したEPA−E原液も投与した。投与前、投与後1、1.5、2、2.5、3、4、6、8および24時間に採血を行い、血漿を分取して処理を行った後、血漿中のEPA濃度をLC/MS/MSにより測定した。表11には試験結果より算出した血中濃度最大値(Cmax)、0時間から2時間までの血中濃度曲線下面積(AUC0−2)、0時間から24時間までの血中濃度曲線下面積(AUC0−24)を示す。なお、各パラメーターの算出の際には各血中濃度より投与前の血中EPA濃度を減じた補正を行っている。
【0088】
【表11】

【0089】
各実施例の乳化組成物を投与した動物では、対照群あるいは比較例の乳化組成物を投与した動物よりも吸収速度のパラメーターであるCmaxおよびAUC0−2値が高くなった。特に、投与直後の血中濃度上昇のパラメーターとなるAUC0−2は、各実施例の組成物を投与した動物では対照群の約7.9ないし10.8倍、比較例の乳化組成物を投与した動物の約1.4倍ないし約2.0倍となった。同様にCmax値は、対照群の約5.6ないし8.3倍、比較例の乳化組成物を投与した動物の約1.4倍ないし約2.1倍となった。一方、吸収量のパラメーターであるAUC0−24値については、各実施例の乳化組成物を投与した動物では、対照群よりも高くなったが、比較例の乳化組成物を投与した動物とは大きな相違は認められなかった。すなわち、実施例の乳化組成物を投与した場合、比較例に比べて経口投与24時間後までのEPA吸収量には大差ないにもかかわらず、経口投与後速やかにEPAが吸収されることが確認された。従って、本発明の乳化組成物は、食前や就寝前などの空腹時に服用した場合でも血中EPA濃度が速やかに、かつより上昇し、その薬理作用を速やかに、かつより効果的に発揮することが期待される。
【0090】
(実験例3)
ビーグル犬における薬物動態
EPA−Eおよびトコフェロールニコチン酸エステルを雄性ビーグル犬(約18ヶ月齢、北山ラベス)各群4例に絶食条件下で経口投与し、EPAおよびトコフェロールニコチン酸エステルの血中濃度の推移を評価した。なお、各被験動物は投与の18時間以上前より絶食とし、各動物にはEPA−Eとして600mgおよびトコフェロールニコチン酸エステルとして200mgとなる量の組成物を投与した。乳剤投与群には実施例5に準じて作製した乳剤を、対照群にはEPA−E1%およびトコフェロールニコチン酸エステル0.33%を5%アラビアゴム水に懸濁した組成物を投与した。投与前、投与後1、2、3、4、8および24時間に採血を行い、血漿を分取して処理を行った後、血漿中のEPA濃度およびトコフェロールニコチン酸エステル濃度を各々LC/MS/MSおよびLC/MSにより測定した。
各血中濃度より血中濃度最大値(Cmax)、0時間から2時間までの血中濃度曲線下面積(AUC0−2)および0時間から24時間までの血中濃度曲線下面積(AUC0−24)を算出した。なお、各パラメーターの算出の際には各血中濃度より投与前の血中濃度を減じた補正を行っている。
【0091】
乳剤投与群ではEPAおよびトコフェロールニコチン酸エステルともに、吸収速度のパラメーターであるCmaxおよびAUC0−2、吸収量のパラメーターであるAUC0−24のいずれも対照群よりも高くなった。EPAに関して、乳剤投与群の投与直後の血中濃度上昇のパラメーターとなるAUC0−2は対照群の約6倍、同様にAUC0−24は対照群の約2倍であった。一方、トコフェロールニコチン酸エステルに関して、乳剤投与群のAUC0−2は対照群の約17倍、同様にAUC0−24は対照群の約5倍であった。絶食下乳剤投与によるEPAおよびトコフェロールニコチン酸エステルの吸収性は、EPA−E原液あるいはトコフェロールニコチン酸エステル製剤であるユベラNを給餌下投与した場合とほぼ同等であった(薬理と治療、1980年、2:410−414参照)。さらに、絶食下乳剤投与によるトコフェロールニコチン酸エステルの最大血中濃度到達時間(Tmax)は、ユベラNを給餌下投与した場合に比べ半分未満であり、吸収速度が速かった。
すなわち、EPA−Eおよびトコフェロールニコチン酸エステルを乳剤で投与した場合、対照群に比べて経口投与後速やかに吸収され、かつ吸収量も多いことが確認された。従って、本発明のEPA−Eおよびトコフェロールニコチン酸エステル乳剤は、食前や就寝前などの空腹時に服用した場合でも血中EPA濃度およびトコフェロールニコチン酸エステル濃度が速やかに、かつより上昇し、その薬理作用を速やかに、かつより効果的に発揮することが期待され有用である。
【0092】
(実験例4)
カニクイザルにおける薬物動態
実施例1の乳化組成物を雄性カニクイザル(2〜5歳、体重2.70〜4.65Kg、ハムリー)6例に絶食条件下で経口投与し、EPAの血中濃度の推移を評価した。なお、各被験動物は投与の12時間以上前より絶食とし、各動物にはEPA−Eとして45mg/kgとなる量の乳化組成物を投与した。また、対照群としてカプセルに充てんしたEPA−E原液も投与した。投与前、投与後1、2、4、6、8、10、12、24、48および72時間に採血を行い、血漿を分取して処理を行った後、血漿中のEPAをLC/MS/MSにより測定した。表12には試験結果より算出した血中濃度最大値(Cmax)、0時間から12時間までの血中濃度曲線下面積(AUC0−12)、0時間から72時間までの血中濃度曲線下面積(AUC0−72)を示す。なお、各パラメーターの算出の際には各血中濃度より投与前の血中EPA濃度を減じた補正を行っている。
【0093】
【表12】

【0094】
実施例1の乳化組成物を投与した動物は、対照群と比較して、全ての血中濃度パラメーターの上昇を認め、特にCmaxおよびAUC0−12は約9ないし10倍となった。すなわち、実施例1の乳化組成物を投与した場合、吸収量が増加するのみならず、経口投与後速やかにEPAが吸収されることが確認された。従って、本発明の乳化組成物は、食前や就寝前などの空腹時に服用した場合でも血中EPA濃度が速やかに、かつより上昇し、その薬理作用を速やかに、かつより効果的に発揮することが期待される。
【0095】
(実験例5)
絶食後糖負荷モデルラットにおける有効性
雄性Sprague Dawleyラット(10週齢、日本チャールス・リバー)を体重および血清TG値に差がないように各群10例ずつ4群に分ける。対照群にはカプセルに充填したオリーブ油を、EPA−E投与群にはカプセルに充填したEPA−E原液を、実施例群には実施例1の乳化組成物を、および比較群には比較例2の乳化組成物を経口投与する。なお、各被験動物は投与の24時間以上前より絶食とし、各動物にはそれぞれオリーブ油またはEPA−Eとして100mg/kgの量の組成物を投与する。投与30分後に、生理食塩水に溶解したグルコース溶液を2g/kgの割合で経口負荷する。経時的に尾静脈より採血し、血漿中TG濃度および遊離脂肪酸濃度を市販の測定キットを用いて測定する。各指標について、糖負荷前値からの変化量を算出する。
対照群において、血漿中TG濃度は糖負荷後上昇し、EPA−E投与群ではこの上昇の抑制効果を示さない。実施例群および比較群では糖負荷後の血漿中TG濃度、並びに、遊離脂肪酸濃度の上昇を抑制し、抑制効果は実施例群の方が比較群に比べ優れている。
従って、本発明の乳剤組成物は、食前投与にて食後高TG血症および食後高遊離脂肪酸血症の改善または治療に有用である。
【0096】
(製剤例1)乳剤
実施例1ないし4で得た乳化組成物を各々30mL、60mLあるいは90mLずつガラスボトルに分注し、1ボトルあたりEPA−Eとして300mg、600mgあるいは900mgを含有する乳剤を得る。
【0097】
(製剤例2)乳剤
実施例1ないし5において、EPA−Eの代わりにω3PUFA類(Lovaza(登録商標)(K85EE):ω3PUFA類約90%、EPA−E+DHA−E約84%含有、EPA−E:DHA−E=約1.2:1)を用いた他は同様にして乳化組成物を得る。この乳化組成物を100mLずつガラスボトルに分注し、1ボトルあたりEPA−E+DHA−Eとして約840mgを含有する乳剤を得る。
【0098】
(製剤例3)配合乳剤
実施例5で得た乳化組成物を100mLずつガラスボトルに分注し、1ボトルあたりEPA−Eとして100mg、トコフェロールニコチン酸エステルとして330mgを含有する乳剤を得た。
【0099】
(製剤例4)配合乳剤
実施例1の調製液Aにさらにウルソデオキシコール酸1.6gを添加し、実施例1記載の方法と同様にして乳化組成物を得る。この乳化組成物を60mLずつアンプルに分注し、1アンプルあたりEPA−Eとして600mg、ウルソデオキシコール酸として60mgを含有する乳剤を得る。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の乳化組成物は、ω3PUFA類から選ばれる少なくとも1つに、レシチンおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のいずれか一方を添加して乳化することにより乳化分散性、乳化安定性あるいは吸収性、特に空腹時における経口吸収性・吸収速度のいずれかに優れる乳化組成物、その製法およびその使用方法を提供することができる。
既存の乳化組成物に比べて空腹時経口投与においても速やかに吸収され、ω3PUFA類が有する予防あるいは治療効果を示すことが期待される。具体的には、1日3回食直後投与の用法の制約なく1日1ないし2回随時投与で有効性を示すことによる患者利便性の向上および服薬コンプライアンスをより高めることで更に有効性を高めることができること、食直後投与以外の投与用法の他剤との組合せや配合剤化が可能となること、食前経口投与による食後の血清TG増加抑制作用を示すこと、あるいは就寝前投与によりリパーゼ阻害剤服用時の必須脂肪酸欠乏を予防すること、等の臨床における効果を示すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つと、下記(a)、(b)および(c)からなる群より選ばれる少なくとも一つの乳化剤とを含有し、その平均乳化液滴径が2μm以下である乳化組成物成物:
(a)レシチンおよび任意にポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
(b)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
(c)ショ糖脂肪酸エステル。
【請求項2】
前記レシチンが大豆レシチン、酵素分解大豆レシチン、水素添加大豆レシチンおよび卵黄レシチンからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールがポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコールおよびポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコールからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1または2に記載の乳化組成物。
【請求項4】
前記レシチンが大豆レシチンまたは酵素分解大豆レシチンであり、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールがポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコールである請求項1ないし3のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項5】
前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油がポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(50)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油およびポリオキシエチレン(100)硬化ヒマシ油からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1ないし4のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項6】
前記ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油がポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油である請求項1ないし5のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項7】
前記ショ糖脂肪酸エステルがショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルおよびショ糖ステアリン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1ないし6のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項8】
イコサペント酸、ドコサヘキサエン酸およびそれらの製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1ないし7のいずれかに記載の乳化組成物。
【請求項9】
イコサペント酸エチルエステルおよび/またはドコサヘキサエン酸エチルエステルを含有する請求項1ないし8のいずれかに記載の乳化組成物。

【公開番号】特開2011−6380(P2011−6380A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1213(P2010−1213)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】