説明

あり溝用シール材およびあり溝用シール材が装着された真空用ゲート弁

【課題】あり溝からの脱落を生じないあり溝用シール材の提供。
【解決手段】互いに対面する一対の部材の接合箇所において、あり溝60内に装着されるあり溝用シール材10の断面形状において、あり溝の底面62と接触するとともに、あり溝の開口の最狭幅Gよりも若干幅狭に左右の隅角部が位置する底面部12と、底面部の隅角部14a,14bよりも幅方向に突出し、前記あり溝の内側の斜辺と当接するように設けられた側面突出部16a,16bと、側面突出部から連続して形成された張出肩部18であって、その隅角部20a,20bが、前記あり溝の開口側端面の位置よりもあり溝底面側に位置するとともに、あり溝の最狭部の位置よりもあり溝の開口側に位置する張出肩部と、張出肩部から連続するとともに、あり溝の開口よりも上方に突出して設置され、他方の部材90の表面と当接される際には両部材間を封止するシール凸部22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あり溝用シール材およびあり溝用シール材が装着された真空用ゲート弁に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置などで使用されている真空用ゲート弁として、例えば、ワンアクションタイプの真空用ゲート弁が知られている。
図9は、ワンアクションタイプの真空用ゲート弁の分解斜視図を示したものである。
【0003】
すなわち、この真空用ゲート弁100は、弁板102がアクチュエータ104から加えられる力により単一方向の直線移動を行い、これにより略矩形状のゲート開口部106を封止する構造を有している。
【0004】
このような真空用ゲート弁100では、一般に、弁板102の外周面に装着されるシール材として、断面が円形状であるOリング108が使用されている。
なお真空用ゲート弁100は、半導体あるいはFPD製造装置などにおいて、基板を内外に受け渡すために減圧と大気開放が繰り返される、ロードロックチャンバに使用される場合がある。
【0005】
ここで、真空用ゲート弁100の弁体が閉じた状態でロードロックチャンバが大気に開放されると、弁体は1気圧の差圧を受け、閉じられた状態のままロードロックチャンバと反対方向に移動する。そして、ロードロックチャンバが再び減圧されると、弁体はロードロックチャンバ側へ再び移動する。このように、ロードロックチャンバに取付けられた真空用ゲート弁100では、装置の構成上、弁体が頻繁に水平方向に移動することになる。
【0006】
例えば、図10に示したように、弁板102の矢印方向への移動が繰り返して行なわれると、Oリング108にシール荷重とスラスト荷重の合力が繰り返して作用するため、Oリング108の一部にねじれが発生し、シール不良が発生し易い。
【0007】
また、断面円形のOリング108は転動を起こし易い形状であるため、シール溝112からの脱落が発生し易い。このように、ねじれや脱落によるシール不良を発生し易いOリング108を使用した真空用ゲート弁100では、Oリング108を交換するためのメンテナンス作業が頻繁に必要になる。このようなメンテナンス作業は、生産ラインを一時的に停止することになるため、生産性に大きな損失を来たし、コスト高を招来する。
【0008】
一方、Oリング108を使用した場合、被処理体であるシリコンウエハなどの大型化に伴い真空用ゲート弁100が大型化されると、それに伴って、加工精度、組立誤差を許容する必要があるため、Oリング108の断面形状も大きくしなければならない。
【0009】
したがって、真空用ゲート弁100が大型化されると、Oリング108に対するつぶし代を得るための荷重も大きくなり、結果として、バルブケーシング110の剛性を上げたり、押付力を増すためにアクチュエータ104の出力を上げたりするなどの対応が必要で、コストアップの大きな要因となっている。
【0010】
そこで、近年では、本出願人などにより、断面円形のOリングに代えて、特殊な異形品のシール材が提供され、その異形品のシール材が、あり溝内に装着されるあり溝用シール材が提供されている。
【0011】
図11は、本出願人によって出願されたあり溝用シール材200を示したものであり、このあり溝用シール材200では、脱落と転動を防止するために断面円形のOリングではない異形状が採用されている(特許文献1(特開2003−14126号公報))。
【0012】
このようなあり溝用シール材200は、断面形状が、あり溝220の底面222に配置される平坦な底辺202と、底辺202の両側から斜め外向きに立ち上がる左右の斜辺204、204と、左右の斜辺204、204のそれぞれ先端に設けられ、あり溝220の内部で開口224近くに配置される左右の張出部206、206と、左右の張出部206、206の中央に設けられ、あり溝220の開口224よりも上方に突出して配置される中央凸部208と、張出部206、206と中央凸部208との間に設けられ、張出部206、206と中央凸部208との接線よりも内側に凹んだ凹部210、210からなる形状を有している。
【0013】
このようなあり溝用シール材200は、対称断面のため、双方からのスラスト荷重に対して転動防止効果がある。
また、あり溝220にあり溝用シール材200を装着する際においても、底辺202部分が分かり易い形状であるため、天地を誤ってあり溝220へ装着するおそれがない。
【特許文献1】特開2003−14126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このような従来のあり溝用シール材200では、中央凸部208の斜め方向から強い力が加わると一方の張出部206があり溝220の開口224より脱落する現象を完全に抑えることはできなかった。
【0015】
また、あり溝用シール材200が過度に圧縮されてしまうと、メタル同士のこすれによって、パーティクルが発生するおそれもある。
さらに、断面形状が異形状であるあり溝用シール材の場合には、あり溝内への装着性が困難になる場合が多い。
【0016】
本発明は、このような現状に鑑み、特に半導体製造装置、液晶製造装置などに好適に使用されるあり溝用シール材において、あり溝用シール材の左右双方からシール荷重やスラスト荷重が加えられても転動やあり溝からの脱落を生ずることがなく、あり溝内への装着性が良好なあり溝用シール材を提供することを目的とする。
【0017】
さらに、半導体製造装置、液晶製造装置などに使用される大型化された真空用ゲート弁であっても、低荷重で十分なシール力を得ることができる真空用ゲート弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、前述したような従来技術における課題および目的を達成するために発明されたものであって、
本発明のあり溝用シール材は、
互いに対面する一対の部材の接合箇所において、いずれか一方の部材の表面に設けられたあり溝に装着され、他方の部材の表面と当接することによって両部材間を封止する閉環状のあり溝用シール材であって、
前記あり溝内に装着される前記あり溝用シール材の断面形状において、
前記あり溝の底面と接触するとともに、前記あり溝の開口の最狭幅よりも若干幅狭に左右の隅角部が位置する底面部と、
前記底面部から連続するとともに、前記底面部の隅角部よりも幅方向に突出し、前記あり溝の内側の斜辺と当接するように設けられた側面突出部と、
前記側面突出部から連続して形成された張出肩部であって、
前記張出肩部の隅角部が、
前記あり溝の開口側端面の位置よりもあり溝底面側に位置するとともに、前記あり溝の最狭部の位置よりもあり溝の開口側に位置する張出肩部と、
前記張出肩部から連続するとともに、前記あり溝の開口よりも上方に突出して設置され、前記他方の部材の表面と当接される際には両部材間を封止するシール凸部と、
を備えることを特徴とする。
【0019】
このように構成することによって、あり溝用シール材の転動を防止し、さらにあり溝よりあり溝用シール材が脱落することを防止することができる。
また、あり溝用シール材には、張出肩部が設けられているため、あり溝内でのあり溝用シール材の挙動を安定させ、高い転動防止効果を得ることができる。
【0020】
さらに、あり溝用シール材を装着する際、張出肩部と側面突出部との境界部分が凹形状であるため、この一方の凹形状部分があり溝の最狭幅部分に当接し、それを基点にあり溝用シール材はあり溝の底面方向に回転するように挿入されるため、誰でも簡単にあり溝用シール材をあり溝に装着することができる。
【0021】
また、あり溝の内側の斜辺と略円弧状の側面突出部が広範囲に当接するため、応力集中を低減し、あり溝用シール材の異常磨耗によるパーティクルの発生を防止することができる。
【0022】
また、本発明のあり溝用シール材は、
前記あり溝用シール材の前記張出肩部の最広箇所の幅をW1、
前記あり溝の開口の最狭箇所の幅をGとしたとき、
前記W1の範囲が、0.75G<W1<G
であることを特徴とする。
【0023】
このような範囲に、張出肩部の最広箇所の幅を設定すれば、シール凸部の斜め方向から強い力が加わったとしても、張出肩部があり溝の開口縁の隅部に当接し、あり溝内でのあり溝用シール材の転動や姿勢の崩れを確実に防止することができる。
【0024】
また、本発明のあり溝用シール材は、
前記あり溝の底面から前記あり溝の開口側端面までの距離をH、
前記あり溝の底面から前記シール凸部の最頂箇所までの距離をH1としたとき、
前記H1の範囲が、1.20H<H1<1.60H
であることを特徴とする。
【0025】
このような範囲に、シール凸部の最頂箇所を設定すれば、他方の部材の表面とシール凸部が当接した際に、一方の部材と他方の部材間の充分なシール性能を得ることができる。
また、本発明のあり溝用シール材は、
前記あり溝の底面から前記あり溝の開口側端面までの距離をH、
前記あり溝の底面から前記側面突出部の、前記あり溝の開口側端面側の基端部までの距離をH2としたとき、
前記H2の範囲が、0.90H<H2<0.95H
であることを特徴とする。
【0026】
このような範囲に、側面突出部のあり溝の開口側端面側の基端部の位置を設定すれば、
あり溝の内側斜辺開口の最狭箇所付近の内側斜辺と側面突出部が当接するため、必要以上に側面突出部を幅方向に突出させることがない。
【0027】
このため、あり溝にあり溝用シール材を容易に装着することができるとともに、装着後はあり溝内でのあり溝用シール材の挙動を安定させ、高い転動防止効果を得ることができる。
【0028】
また、本発明のあり溝用シール材は、
前記あり溝の開口の最狭箇所の幅をG、
前記底面部の最広箇所の幅をW2としたとき、
前記W2の範囲が、0.75G<W2<G
であることを特徴とする。
【0029】
このような範囲に、底面部の最広箇所の幅を設定すれば、あり溝にあり溝用シール材を容易に装着できるとともに、あり溝の底面にあり溝用シール材の底面が安定した状態で配置され、安定したシール性能を発揮する。
【0030】
また、本発明のあり溝用シール材は、
前記底面部に凹部が設けられていることを特徴とする。
このように構成することによって、一方の部材と他方の部材間の封止の際、凹部が十分に変形されるので、低荷重でシール力を得ることができる。
【0031】
また、本発明のあり溝用シール材は、
前記あり溝用シール材が、
前記シール凸部の最頂箇所から前記底面部方向へ垂線を下ろした際、
前記垂線に対して線対称の形状であることを特徴とする。
【0032】
このように構成することによって、左右双方からの転動に対して、充分な耐性が得られる。
また、本発明の真空用ゲート弁は、
上記のあり溝用シール材が、弁体に装着されていることを特徴とする。
【0033】
このように構成することによって、あり溝用シール材の転動が防止され、あり溝への装着性も良好で、メタルタッチ、パーティクルの発生を防止することができ、さらにシール不良によるメンテナンスを少なくすることができる。
【0034】
したがって、ロードロックチャンバなどに効果的に使用することができる。また、ウエハなどの生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のあり溝用シール材およびあり溝用シール材が装着された真空用ゲート弁によれば、特に半導体製造装置、液晶製造装置などに好適に使用され、あり溝用シール材の左右双方からシール荷重やスラスト荷重が加えられても転動やあり溝からの脱落を生ずることがなく、あり溝内への良好な装着性を得ることができる。
【0036】
さらに、このようなあり溝用シール材が採用された真空用ゲート弁は、減圧と大気開放が繰り返し行われるロードロック室のロードロックチャンバに有効に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例に係るあり溝用シール材10を示した図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は側面図、図1(c)は底面図、図1(d)は図1(a)のX−X線による断面図である。
【0038】
図2は、本発明の一実施例に係るあり溝用シール材10の装着状態示した断面図、図3は本発明の一実施例に係るあり溝用シール材10を備えた真空用ゲート弁80の概略を示した概略図である。
【0039】
本発明のあり溝用シール材10は、図1(a)から図1(c)に示したように、閉環状のシール材であり、断面形状は図1(d)に示したように、複数の凸部と凹部から成る形状を有している。
【0040】
また、このあり溝用シール材10は、図2に示したように、閉環状のあり溝60が形成された一方の部材(例えば、弁板に相当)85と、他方の部材(例えば、バルブケーシングに相当)90との封止箇所に装着される。
【0041】
一方の部材85の表面に形成されたあり溝60は、一方の部材85の表面付近が最狭箇所となる開口64を有し、開口64の端縁からあり溝60の底面62にかけてテーパ−状に拡がる台形状をなし、一対の斜辺70a、70bと平坦な底面62を有している。
【0042】
また、あり溝60の開口64縁の隅部68a、68bと底面62側の隅部66a、66bには、大きなアールが設けられている。
一方、あり溝用シール材10は、まず、あり溝60の底面62と接触するとともに、あり溝60の開口64の最狭幅よりも若干幅狭に左右の隅角部14a、14bが位置する底面部12が設けられている。なお、底面部12には凹部23を設けてもよい。凹部23が設けられていれば、後述するように、一方の部材と他方の部材間の封止の際、凹部が設けられていない場合と比べて若干押圧力が弱くても同等のシール性能を得ることができる。
【0043】
さらにこの底面部12から連続して、底面部12の隅角部14a、14bよりも幅方向に突出し、あり溝60の内側の斜辺70a、70bと当接するように設けられた側面突出部16a、16bが設けられている。
【0044】
そして側面突出部16a、16bの上方には連続して張出肩部18が設けられている。
張出肩部18は、左右の隅角部20a、20bが、あり溝60の開口64側端面の位置よりもあり溝60の底面62側に位置するとともに、あり溝60の最狭部の位置72よりもあり溝60の開口64側に位置している。いわゆる、H3の範囲内に左右の隅角部20a、20bが位置するように張出肩部18が設けられている。
【0045】
さらに張出肩部18から連続して、あり溝60の開口64よりも上方に突出して設置され、他方の部材90の表面と当接される際には両部材間を封止するシール凸部22が設けられている。
【0046】
このようにして、あり溝用シール材10が構成されている。
以下、本実施例によるあり溝用シール材10の各部の望ましい設計条件について説明する。
【0047】
図2に示したように、あり溝用シール材10は、あり溝用シール材10の張出肩部18の最広箇所の幅をW1、あり溝60の開口64の最狭箇所の幅をGとしたとき、
W1の範囲が、0.75G<W1<G であることが望ましい。
【0048】
このような範囲に、張出肩部18の最広箇所の幅を設定すれば、シール凸部22の斜め方向から強い力が加わった際、張出肩部18があり溝60の開口64縁の隅部68a、68bに当接し、あり溝60内でのあり溝用シール材10の転動や姿勢の崩れを確実に防止することができる。
【0049】
また、あり溝60の底面62からあり溝60の開口側端面74までの距離をH、あり溝60の底面62からシール凸部22の最頂箇所までの距離をH1としたとき、
H1の範囲が、1.20H<H1<1.60H であることが望ましい。
【0050】
このような範囲に、シール凸部22の最頂箇所を設定すれば、他方の部材90の表面とシール凸部22が当接した際に、一方の部材85と他方の部材90間の充分なシール性能を得ることができる。
【0051】
また、あり溝60の底面62からあり溝60の開口側端面74までの距離をH、あり溝60の底面62から側面突出部16a、16bの、あり溝60の開口側端面74側の基端部までの距離をH2としたとき、
H2の範囲が、0.90H<H2<0.95H であることが望ましい。
【0052】
このような範囲に、側面突出部16a、16bのあり溝60の開口側端面74側の基端部の位置を設定すれば、あり溝60の内側斜辺開口の最狭箇所付近の斜辺70a、70bと側面突出部16a、16bが当接するため、必要以上に側面突出部16a、16bを幅方向に突出させることがない。
【0053】
このため、あり溝60にあり溝用シール材10を容易に装着することができるとともに、装着後はあり溝60内でのあり溝用シール材10の挙動を安定させ、高い転動防止効果を得ることができる。
【0054】
また、あり溝60の開口64の最狭箇所の幅をG、底面部12の最広箇所の幅をW2としたとき、
W2の範囲が、0.75G<W2<G であることが望ましい。
【0055】
このような範囲に、底面部12の最広箇所の幅を設定すれば、あり溝60にあり溝用シール材10を容易に装着できるとともに、あり溝60の底面にあり溝用シール材10の底面が安定した状態で配置され、安定したシール性能を発揮する。
【0056】
よって、上記のような範囲に各部の寸法が設計されていることが望ましい。
このようなあり溝用シール材10は、全体が弾性変形可能なゴム材料から形成されている。
【0057】
ゴム材料としては、例えば、硬度60〜70HA程度のフッ素ゴム、シリコンゴム、EPDM系ゴムなどが挙げられるが、特に、半導体製造装置や液晶製造装置の真空用ゲート弁などに使用される場合には、内部がプラズマ環境となる場合が多いことから、耐プラズマ性に優れたフッ素ゴムが好ましい。
【0058】
このようなあり溝用シール材10を、図3に示したように、例えば真空用ゲート弁80の減圧と大気開放が繰り返し行われるロードロック室のロードロックチャンバに設ければ、あり溝用シール材10の左右双方からシール荷重やスラスト荷重が加えられても転動やあり溝60からの脱落を生ずることがなく、あり溝60内への良好な装着性を得ることができる。
【0059】
以下に、このようなあり溝用シール材10のあり溝60内への装着について、図4を参照しながら説明する。
なお、図4(a)から図4(c)中の矢印は、力の作用する方向を示したものである。
【0060】
先ず、図4(a)に示したように、あり溝60内にあり溝用シール材10の底面部12から挿入する。
さらに図4(b)に示したように、あり溝60内にあり溝用シール材10の一方の側面突出部16aと張出肩部18の隅角部20aとの間の凹部24aが、あり溝60の隅部68aに当接し、あり溝用シール材10が傾く。
【0061】
この状態で、さらにあり溝用シール材10を押し込めば、凹部24aを基点にあり溝用シール材10はあり溝60の底面方向に回転するように挿入されるため、図4(c)に示したように、側面突出部16bがあり溝60の開口縁の隅部68bを完全に通過して、あり溝60の底面62に配置される。このとき、側面突出部16bの近傍を若干圧縮するだけで、あり溝用シール材10をあり溝60の内方に収納することができる。
【0062】
この際、底面部12に凹部23を有することであり溝用シール材10の変形を容易にし、したがって大きな力を必要とせずにあり溝60内にあり溝用シール材10を装着することができる。
【0063】
この状態から凹部23があり溝60の底面62に位置するまで押し込めば、あり溝用シール材10を完全にあり溝60内に装着することができる。
また、あり溝用シール材10は、側面突出部16a、16bの当接部26a、26bがあり溝60の斜辺70a、70bと当接されるため、図4(c)の状態では、あり溝用シール材10は、あり溝60の幅方向に移動することができず、しかも、あり溝60の開口縁が狭まっていることから、外方に脱落することもない。また、側面突出部16a、16bの開口側の曲面である当接部26a、26bがあり溝60の斜辺70a、70bと当接しているため、あり溝用シール材10が上方に脱落することもない。
【0064】
次に、一方の部材85に装着されたあり溝用シール材10を締め付ける場合の挙動について、図5(a)、図5(b)を参照しながら説明する。
今、図5(a)に示したように、あり溝用シール材10が一方の部材85内に装着され、この部材85に他方の部材90が接近して、シール凸部22の先端部に当接したとする。
【0065】
この状態で押し込まれれば、図5(b)に示したように、底面部12の凹部23を潰すようにしてシール凸部22が、あり溝60内に押し込まれる。
図5(b)のシール状態では、押圧力がシール面に対して略垂直に作用しており、これにより、あり溝用シール材10の転動が確実に防止されている。
【0066】
このように、本実施例では、あり溝用シール材10が装着された一方の部材85は、他方の部材90との締め付けにより、先にシール凸部22が変形され、底面部12の凹部23が十分に変形されるので、低荷重でシール力を得ることができる。
【0067】
また、このように締め付けられた状態であっても、側面突出部16a、16bの当接部26a、26bがあり溝60の斜辺70a、70bとぴったりと当接するよう変形するので、転動や姿勢の崩れを確実に防止することができる。
【0068】
さらに、図5(b)の状態からさらに、想定外の強い圧縮荷重を受けたとしても、張出
肩部18の隅角部20a、20bが、あり溝60の隅部68a、68bの最狭部の位置72よりも上方に設定されているため、この隅角部20a、20bは、あり溝の隅部68a、68bにぶつけるのみで、それ以上の圧縮変形が抑制され、あり溝用シール材10のあり溝60内での転動や姿勢の崩れを確実に防止することができる。
【0069】
図6(a−1)から図6(b−2)に示した図は、従来例であるシール材300と、本実施例によるあり溝用シール材10との装着性、圧縮性を対比して示した断面図である。
このような図6に示した本実施例におけるあり溝用シール材10と従来のシール材300のつぶし代t分を、他方の部材90を一方の部材85方向に移動させることにより、圧縮する。
【0070】
さらに、図7に示したグラフのように、つぶし代と圧縮荷重との関係を、実施例と従来例とを対比して示した。
図7のグラフから明らかなように、本実施例のあり溝用シール材10は、つぶし代tを変形させるための荷重が従来のシール材300に比べて小さくて良い。したがって、圧縮時に低荷重でシール性を得ることができることが明らかである。
【0071】
一般に、シール部分では、上記したように、一定以上の応力があり溝用シール材10、シール材300に作用して所定のつぶし代tを変形させてシール機能を発揮するが、従来例であるシール材300の場合には、つぶし代tが大きくなるに比例して、これに必要な圧縮荷重も大きくなっている。
【0072】
これに対して本実施例のあり溝用シール材10の場合には、従来例と同様につぶし代tが大きくなるに比例して、これに必要な圧縮荷重も大きくなっているが、
締付荷重は、従来のシール部材300に比べて小さいことが確認された。
【0073】
したがって、本実施例によれば、仮に、ウエハなどの被処理体が大型化するに伴って真空用ゲートバルブが大型化されたとしても、それに装着されるあり溝用シール材10は、従来のシール材300のように、圧縮荷重をそれ程大きくする必要はない。
【0074】
以上、本発明によるあり溝用シール材10の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されない。
例えば、本実施例のあり溝用シール材10は、底面部12の側面部13a、13bがあり溝60の底面62に対して垂直となるようになっているが、図8(a)に示したように、側面部13a、13bに凹部28a、28bを設けたり、また図8(b)に示したように、張出肩部18の直線部分に凹部を設けてもよい。
【0075】
さらに図8(c)に示したように側面部13a、13bと張出肩部18の直線部分の両方に凹部30a、30bも設けても良い。
すなわち、あり溝用シール材10の底面部12の最広箇所の幅(隅角部14aから隅角部14bまでの距離)W2が、あり溝の開口の最狭箇所の幅Gよりも幅狭であり、張出肩部18の隅角部20a、20bが最狭部の位置H3の範囲内であれば、あり溝用シール材10の形状は適宜変更が可能である。
【0076】
さらに、本実施例では略中央にシール凸部22を設けているが、これについても、張出肩部の最広箇所の幅W1内で移動可能であり、さらに形状も、台形、矩形などのいずれの形状であっても良いものである。
【0077】
また、上記実施例では、特に半導体製造装置、液晶製造装置において使用されるワンアクションタイプの真空用ゲート弁を例にして説明したが、使用箇所は、これに限定される
ものではない。あり溝60が形成されたシール溝であれば、どのような部材にも有効に適用することができる。
【0078】
以上、本発明によるあり溝用シール材の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されない。
例えば、上記実施例では、特に、半導体製造装置、液晶製造装置において使用されるワンアクションタイプの真空用ゲート弁を例にして説明したが、使用箇所は、これに限定されるものではなく、いわゆるツーアクションタイプの真空用ゲート弁にも適用可能である。また、特に、半導体あるいはFPD製造装置において、減圧と大気開放とが繰り返されるロードロックチャンバの真空用ゲート弁として好ましく使用することができる。
【0079】
さらに、あり溝60が形成されたシール溝であれば、どのような部材にも有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係るあり溝用シール材10を示した図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は側面図、図1(c)は底面図、図1(d)は図1(a)のX−X線による断面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施例に係るあり溝用シール材10の装着状態示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施例に係るあり溝用シール材10を備えた真空用ゲート弁80の概略を示した概略図である。
【図4】図4は、本実施例によるシール材のあり溝内への装着の手順を示した概略図である。
【図5】図5は、本実施例によるシール材の締め付け時の変形の状態を示した概略断面図である。
【図6】図6は、本実施例のあり溝用シール材と従来例であるシール材とを対比して、装着状態と圧縮状態とを模式的に示した図である。
【図7】図7は、本実施例のあり溝用シール材と従来例であるシール材とを対比して、つぶし代と圧縮荷重との関係を、示したグラフである。
【図8】図8は本願発明のあり溝用シール材の他の実施例を示した概略断面図である。
【図9】図9は、従来のあり溝にシール部材が装着された例として示した真空用ゲート弁の斜視図である。
【図10】図10はOリングが弁体に装着された場合にシール材に作用する力を示す従来例の断面図である。
【図11】図11は特開2003−14126号公報に開示されているあり溝用シール材の断面図である。
【符号の説明】
【0081】
10・・・溝用シール材
12・・・底面部
13a・・側面部
13b・・側面部
14a・・隅角部
14b・・隅角部
16a・・側面突出部
16b・・側面突出部
18・・・張出肩部
20a・・隅角部
20b・・隅角部
22・・・シール凸部
23・・・凹部
24a・・凹部
24b・・凹部
26a・・当接部
26b・・当接部
28a・・凹部
28b・・凹部
30a・・凹部
30b・・凹部
60・・・あり溝
62・・・底面
64・・・開口
66a・・隅部
66b・・隅部
68a・・隅部
68b・・隅部
70a・・斜辺
70b・・斜辺
72・・・最狭部の位置
74・・・開口側端面
80・・・真空用ゲート弁
85・・・一方の部材
90・・・他方の部材
H1・・あり溝の底面からシール凸部の最頂箇所までの距離
H2・・あり溝の底面から側面突出部の、あり溝の開口側端面側の基端部までの距離
H3・・最狭部の位置
W1・・あり溝用シール材の張出肩部の最広箇所の幅
W2・・底面部の最広箇所の幅
G・・・あり溝の開口の最狭箇所の幅
t・・・つぶし代
100・・・真空用ゲート弁
102・・・弁板
104・・・アクチュエータ
106・・・ゲート開口部
108・・・リング
110・・・バルブケーシング
112・・・シール溝
200・・・あり溝用シール材
202・・・底辺
204・・・斜辺
206・・・張出部
208・・・中央凸部
210・・・凹部
220・・・あり溝
222・・・底面
224・・・開口
300・・・シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対面する一対の部材の接合箇所において、いずれか一方の部材の表面に設けられたあり溝に装着され、他方の部材の表面と当接することによって両部材間を封止する閉環状のあり溝用シール材であって、
前記あり溝内に装着される前記あり溝用シール材の断面形状において、
前記あり溝の底面と接触するとともに、前記あり溝の開口の最狭幅よりも若干幅狭に左右の隅角部が位置する底面部と、
前記底面部から連続するとともに、前記底面部の隅角部よりも幅方向に突出し、前記あり溝の内側の斜辺と当接するように設けられた側面突出部と、
前記側面突出部から連続して形成された張出肩部であって、
前記張出肩部の隅角部が、
前記あり溝の開口側端面の位置よりもあり溝底面側に位置するとともに、前記あり溝の最狭部の位置よりもあり溝の開口側に位置する張出肩部と、
前記張出肩部から連続するとともに、前記あり溝の開口よりも上方に突出して設置され、前記他方の部材の表面と当接される際には両部材間を封止するシール凸部と、
を備えることを特徴とするあり溝用シール材。
【請求項2】
前記あり溝用シール材の前記張出肩部の最広箇所の幅をW1、
前記あり溝の開口の最狭箇所の幅をGとしたとき、
前記W1の範囲が、0.75G<W1<G
であることを特徴とする請求項1に記載のあり溝用シール材。
【請求項3】
前記あり溝の底面から前記あり溝の開口側端面までの距離をH、
前記あり溝の底面から前記シール凸部の最頂箇所までの距離をH1としたとき、
前記H1の範囲が、1.20H<H1<1.60H
であることを特徴とする請求項1または2に記載のあり溝用シール材。
【請求項4】
前記あり溝の底面から前記あり溝の開口側端面までの距離をH、
前記あり溝の底面から前記側面突出部の、前記あり溝の開口側端面側の基端部までの距離をH2としたとき、
前記H2の範囲が、0.90H<H2<0.95H
であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のあり溝用シール材。
【請求項5】
前記あり溝の開口の最狭箇所の幅をG、
前記底面部の最広箇所の幅をW2としたとき、
前記W2の範囲が、0.75G<W2<G
であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のあり溝用シール材。
【請求項6】
前記底面部に凹部が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のあり溝用シール材。
【請求項7】
前記あり溝用シール材が、
前記シール凸部の最頂箇所から前記底面部方向へ垂線を下ろした際、
前記垂線に対して線対称の形状であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のあり溝用シール材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載されたあり溝用シール材が、弁体に装着されていることを特徴とする真空用ゲート弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−205384(P2007−205384A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22235(P2006−22235)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】