説明

ある量の導電性材料を浮揚させる装置および方法

本発明は、ある量の導電性材料を浮揚させるための、該材料を浮揚状態に維持するためのコイルを備えてなり、該コイル中に変動する電流を使用する、装置に関する。本発明により、該装置は、第一コイルおよび第二コイルの2個のコイルを備えてなり、両方のコイルが使用中に交流電磁場を発生させ、該第一および第二コイルの交流電界が互いに反作用し、該第一および第二コイルが、該第一コイルおよび第二コイルの間で浮揚状態に維持されている該導電性材料が蒸発するように配置される。本発明は、ある量の導電性材料を浮揚させる方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある量の導電性材料を浮揚させるための、該材料を浮揚状態に維持するためのコイルを備えてなり、上記コイル中に変動する電流を使用する装置に関する。本発明は、該装置を使用し、ある量の浮揚された導電性材料を発生する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
導電性材料の浮揚は、物理的蒸着、すなわち真空チャンバー中で蒸気相から凝縮した材料の層を基材上に施す技術、に関して公知である。通常、そのような材料は、るつぼ中に保持し、そのるつぼ中で加熱して融解させ、蒸発させる。しかし、るつぼは冷却する必要があるので、大量のエネルギーが失われる。蒸発させるべき材料がるつぼを攻撃することも多い。これらの理由から、WO03/071000A1に記載されているように、電磁的浮揚が開発されている。
【0003】
電磁的浮揚では、ある量の導電性材料を、変動する電流を供給するコイルの上に浮揚した状態に維持する。変動する電流のために、交流電磁場がコイル中に発生する。電磁場は、上方向に向けられた力を導電性材料に及ぼす。この電磁力が、導電性材料に作用する重力と釣り合い、導電性材料を浮揚状態に維持する。磁力はコイルとの距離により変化するので、導電性材料は、コイル中の電流および導電性材料の質量に応じた距離で、コイル上で浮揚状態に維持される(または浮揚する)。
【0004】
電流は、電気的エネルギーも供給して導電性材料を加熱するので、導電性材料が融解し、最終的に蒸発する。この蒸発した材料が基材、例えば細片材料、を被覆するのである。
【0005】
上記の装置には、変動する電流が、浮揚力および加熱する力の両方を、その量の導電性材料に与えるという欠点がある。例えば材料の融解および蒸発温度が高いために、あるいはより高い蒸発速度が必要であるために、材料をより高い温度に加熱する必要がある場合、電流を増加する必要がある。しかし、その場合、電磁場の浮揚力も同時に増加し、その材料はコイル上の、コイルとの距離がより大きい位置で浮揚する。この距離では、電磁場が低下し、材料を加熱する力が、意図する力より低くなる。
【発明の目的】
【0006】
本発明の目的は、ある量の導電性材料を浮揚させ、加熱するための改良された装置を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、ある量の導電性材料を浮揚させ、その材料を加熱するための加熱力を制御できる装置を提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、ある量の導電性材料を浮揚させ、導電性材料の蒸発を制御できる方法を提供することである。
【発明の具体的説明】
【0009】
これらの目的の一つ以上は、ある量の導電性材料を浮揚させる装置であって、コイル中の変動する電流を使用して上記材料を浮揚状態に維持するためのコイルを備えてなり、該装置が、第一コイルおよび第二コイルの2個のコイルを備えてなり、両方のコイルが使用中に交流電磁場を発生させ、該第一および第二コイルの交流電磁場が互いに反作用し、該第一および第二コイルが、該第一コイルおよび第二コイルの間で浮揚状態に維持されている該導電性材料が蒸発するように配置される装置により達成される。
【0010】
2個のコイルを使用することにより、2個のコイル間の安定した位置で導電性材料が浮揚状態に維持されるように、2つの電磁場を発生することができる。2個のコイルにおける交流電磁場の反作用力のために、導電性材料はコイルから遠くに移動することができない。これによって導電性材料は所定の位置に保持されるので、より高い電流を、従って、より高い温度を導電性材料中に発生させることができる。これによって、経済的に有益な速度で基材を被覆するのに十分に高い導電性材料の蒸発速度が得られる。
【0011】
導電性材料は、加熱のために、蒸発する前に融解することが多いが、材料の一部は融解する前に昇華する。
【0012】
コイルは、実質的に同じ中央線を有するのが好ましい。コイルが同じ中央線を有する場合、導電性材料は、2つの磁界間に可能な最良の様式で捕獲される。コイルの中央線が相互にずれている、あるいはある角度を含む場合、導電性材料が融解した時に、その導電性材料は、コイル間の空間から外に漏れ、蒸発しなくなる傾向がある。
【0013】
好ましい実施態様では、コイルの巻線は、すべて実質的に閉じたループである。これによって、これらのコイルにより発生する磁界は、各コイルの中央線の周りで実質的に対称的になる。従って、導電性材料は、コイル間の空間内で中央に保持され、導電性材料が融解した時、磁界中の対称性に対応する対称的な形状を有するようになる。
【0014】
第一の好ましい実施態様では、各コイルは、個別の電流供給源を有する。各コイルが独自の電流供給源を有する場合、電流の強度を各コイルで独立して変えることができ、従って、コイル間の距離と同様、浮揚力および加熱力を変えることができる。欠点は、コイルの交流磁界を十分に制御する必要があることである。
【0015】
第二の好ましい実施態様では、コイルを接続し、同じ電流供給源を有する。これによって、同じ電流が使用されるので、磁界の位相に関わる問題は無くなるが、コイル同士が接続されるので、コイルの形成がより困難になり、コイルを巻いた後は、距離を変えることができず、加熱力および浮揚力を相互に独立して変えることができない。
【0016】
この最後の好ましい実施態様では、好ましくはコイル同士を反対の方向で巻き上げる。これによって、巻線を通して電流が同じ方向で流れるので、反作用する磁界がコイルに発生する。
【0017】
好ましい実施態様では、第一コイルを実質的に第二コイルの上に配置する。これによって、浮揚した導電性材料に作用する重力が、実質的にコイルの磁界と同じ線に沿って向けられる。従って、これらの力は十分に釣り合う。
【0018】
好ましくは、第一コイルは、第二コイルと同じ数の巻線またはそれより少ない巻線を有する。これによって、第二(下側)コイルの磁界は、第一(上側)コイルの磁界よりも強くなり、従って、重力に反作用し、導電性材料を第一と第二コイルとのほぼ中間に保持する。
【0019】
好ましい実施態様では、第一および第二コイルは、鏡像対称性の関係にある。このコイル配置により、コイルは下に説明するように操作することができる。
【0020】
本発明の第二の態様により、上記の装置を使用し、ある量の導電性材料を浮揚させる方法であって、2個のコイルにより発生した電磁場の間に導電性材料を捕獲し、該コイル中の電流および周波数で加熱することにより、蒸発させる、方法を提供する。
【0021】
2個のコイル間に導電性材料を捕獲することにより、電流を増加した時に導電性材料中に十分な加熱力を発生させ、経済的に有益な様式で基材を被覆するのに十分な、高い速度で導電性材料を蒸発させることができる。ただ1個のコイルだけを使用している公知の装置では、ほとんどの材料に対して、基材の被覆に関して経済的に有益な蒸発速度を達成するだけの、十分に高い温度に導電性材料を加熱することはできない。
【0022】
好ましくは、蒸発した導電性材料は、実質的にコイルの中央線の方向に沿って基材を被覆するために向けられる。コイルと導電性材料との間に隔離手段、例えばダクトまたはチューブ、を使用することにより、蒸発した材料は、装置の部品上に凝縮することなく、被覆すべき基材に向けることができる。
【0023】
好ましい実施態様では、コイル同士を一緒に操作し、蒸発した導電性材料を1または2の自由度で方向付ける。これは、導電性材料がコイル間に捕獲されており、コイルの組み合わされた磁界を離れることができないことから、可能である。例えば回転により、コイルを操作することにより、蒸発した材料は別の方向に向けることができ、これによって、真空チャンバー中に存在する一個以上の基材を、はるかに容易に被覆することができる。
【0024】
好ましくは、コイルを6の自由度で操作する。これによって、コイルは3方向に移動し、2本の水平軸および1本の垂直軸を中心にして回転することができる。
【0025】
好ましい方法では、2個のコイル中の電磁場強度により、電磁場中に捕獲された導電性材料がコイルの中央線に向かって押し付けられる。これは、コイルの真上にない基材に蒸発した材料を向ける必要がある場合に、特に有利である。これによって、コイルを操作し、蒸発材料をあらゆる方向に向け、真空チャンバー中の基材を被覆することができる。
【0026】
ここで、添付の図面を参照しながら本発明を説明する。
【0027】
図に示すのは第一コイル1および第二コイル2であり、各コイルは、3個の巻線、1a、1b、1cおよび2a、2b、2cからなる。コイル1および2は、それぞれ電磁場を形成し、コイル1の磁界はコイル2の磁界と反作用するので、得られる電磁場が、コイル間に供給された導電性材料3を捕獲する。電磁場は、電磁場線4により示す。
【0028】
図に示すように、反作用している磁界のために、2個のコイル間に最も強い磁界が存在する。これには、ここでは溶融した滴として示す導電性材料が、対称的なコイルの中央線5に向かって押し付けられるという効果がある。その上、これは、滴がコイルの外に移動できず、従って、コイルの巻線中に高電流を発生させ、コイルの高い加熱力を引き起こせることを意味する。従って、滴は高温に加熱され、急速に蒸発する。(超)加熱された導電性材料の蒸発速度は高く、基材の被覆速度が経済的に魅力のあるものになる。
【0029】
無論、3個以上のコイルを使用することができ、巻線は円形でよいが、別の形状を有することもでき、好ましくは軸に対して対称的である。巻線は、例えば正方形でよい。各コイルに対して3個の巻線の代わりに、それより少ない、または多い巻線を使用することも可能であり、各コイルの巻線数は異なっていてもよい。2個のコイルを接続しない場合、各コイルに異なった強度の電流を使用できる。
【0030】
蒸発した材料は、コイルと滴との間に配置された非導電性材料のダクトまたはチューブ(図には示していない)のために、中央線5の方向に主として流れる。このダクトは、巻線間のアーク発生および真空チャンバーの汚染を防止する。本発明の装置により、コイルを一緒に操作し、中央線の方向を変えることができる。このようにして、基材を下から、または上からだけではなく、側方からも被覆することができる。コイルを3方向に一緒にずらすことも可能である。導電性材料が2個のコイル間に捕獲されているので、材料はコイル間に止まり、操作の前、最中および後に蒸発する。
【0031】
本発明の物理的蒸着に関して、コイルおよび導電性材料は、無論、少なくとも10−3ミリバールの真空中に保持する。使用する変動電流および周波数は、導電性材料を加熱および蒸発させるのに十分に高い必要があり、導電性材料の種類および必要な被覆速度によって異なる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の2個のコイルと捕獲された材料を図式的に示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある量の導電性材料を浮揚させるため装置であって、コイル中の変動する電流を使用して前記材料を浮揚状態に維持するためのコイルを備えてなり、前記装置が、第一コイルおよび第二コイルの2個のコイルを備えてなり、両方のコイルが使用中に交流電磁場を発生させ、前記第一および第二コイルの前記交流電磁場が互いに反作用し、前記第一および第二コイルが、前記第一コイルと前記第二コイルとの間で浮揚状態に維持されている前記導電性材料が蒸発するように配置される、装置。
【請求項2】
前記コイルが、実質的に同じ中央線を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コイルが、すべて実質的に閉じたループである巻線を有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記コイルが、それぞれ個別の電流供給源を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記コイル同士が、接続され、なおかつ同じ電流供給源を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記コイル同士が反対の方向で巻かれている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第一コイルが実質的に前記第二コイルの上方に位置する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記第一コイルが、前記第二コイルと同じ数の巻線またはそれより少ない巻線を有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記第一および第二コイルが、鏡像対称性の関係にある、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の装置を使用して、ある量の浮揚された導電性材料を発生する方法であって、前記2個のコイルにより発生した電磁場の間に前記導電性材料を捕獲し、前記コイル中の電流および周波数で加熱することにより、蒸発させる、方法。
【請求項11】
前記蒸発した導電性材料が、基材を被覆するために実質的に前記コイルの中央線の方向に沿って方向付けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コイル同士が一緒に操作され、前記蒸発した導電性材料が1または2の自由度で方向付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コイルが6の自由度で操作される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記2個のコイル中の前記電磁場の強度が、前記電磁場中に捕獲された前記導電性材料が、前記コイルの中央線に向かって押し進められるようなものである、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−515133(P2008−515133A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−528625(P2007−528625)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005905
【国際公開番号】WO2006/021245
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(505008419)コラス、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ (15)
【氏名又は名称原語表記】CORUS TECHNOLOGY BV
【Fターム(参考)】