説明

いびき検出装置

【課題】いびきだけに起因する信号を抽出することができるいびき検出装置を提供する。
【解決手段】呼吸帯域抽出部(33)が、体動センサ(20)の出力信号から呼吸信号を抽出する。いびき帯域抽出部(32)と同期検波部(40)は、音センサ(15)の出力信号から呼吸信号と同期する成分をいびきの音を示すいびき信号として抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いびきを検出するためのいびき検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、いびきを検出するためのいびき検出装置が知られている。例えば、特許文献1には、センサが検出する音の有無と、その音の周期とで、いびきであるか否かを判定するように構成されたいびき検出装置が記載されている。このいびき検出装置では、音を検出するためのセンサとして、マイクロフォンなどが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−233647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、いびきの検出に音センサを用いるいびき検出装置では、音センサの出力信号に、いびき以外の雑音が含まれてしまう場合がある。そして、従来のいびき検出装置のように、音センサの出力信号をフィルタ処理したとしても、いびき以外の雑音を除去することができない場合がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、いびきだけに起因する信号を抽出することができるいびき検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、就寝者が居る空間に設けられる音センサ(15)と、上記就寝者の体動を検出するための体動センサ(20)と、上記体動センサ(20)の出力信号から呼吸信号を抽出する呼吸抽出手段(33)と、上記音センサ(15)の出力信号から上記呼吸信号と同期する成分をいびきの音を示すいびき信号として抽出するいびき抽出手段(32,40)とを備えたいびき検出装置(10)である。
【0007】
第1の発明では、音センサ(15)が、就寝者のいびきを感知して信号を出力する。他方、体動センサ(20)は、就寝者の体動を感知して信号を出力する。そして、呼吸抽出手段(33)が、体動センサ(20)の出力信号から呼吸信号を抽出する。さらに、いびき抽出手段(32,40)が、音センサ(15)の出力信号から呼吸信号と同期する成分をいびき信号として抽出する。ここで、いびきは呼吸に伴って発せられるので、いびきは呼吸に必ず同期している。従って、音センサ(15)の出力信号から呼吸信号に同期する成分として抽出されたデータは、いきびを示すいびき信号となる。いびき信号は、いびきに同期しない成分を含まないデータとなる。このように、この第1の発明では、いびき抽出手段(32,40)によって、いびきに同期しない成分を含まないいびき信号が抽出される。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記いびき抽出手段(32,40)が、上記音センサ(15)の出力信号からいびきに対応する周波数帯域の信号を抽出することによっていびき帯域信号を作成した後に、上記呼吸信号を用いて上記いびき帯域信号から上記いびき信号を抽出する。
【0009】
第2の発明では、音センサ(15)の出力信号からいびきに対応する周波数帯域の信号を抽出することによっていびき帯域信号が作成される。そして、呼吸信号を用いていびき帯域信号からいびき信号が抽出される。この第2の発明では、音センサ(15)の出力信号からいびきに対応する周波数帯域の信号が抽出された後に、呼吸信号と同期する成分のいびき信号が抽出される。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記いびき抽出手段(32,40)が、上記呼吸信号を用いて上記いびき帯域信号を同期検波することによって上記いびき信号を抽出する。
【0011】
第3の発明では、呼吸信号を用いていびき帯域信号を同期検波する動作が行われる。ここで、ラジオのAM放送等で利用されている同期検波では、同期検波する対象の信号の周波数が予め分かっている。このため、同期検波する対象の信号に乗算する基準位相信号を容易に作成することが可能である。他方、いびきは呼吸に必ず同期しているため、いびき帯域信号は呼吸信号に同期する。このため、同期検波する対象のいびき帯域信号の周波数が分からなくても、同じ周波数の呼吸信号を用いることで、いびき帯域信号を同期検波することが可能である。この第3の発明では、そのような点に着目して、呼吸信号を用いていびき帯域信号を同期検波している。
【0012】
第4の発明は、上記第3の発明において、上記いびき抽出手段(32,40)が、上記呼吸信号を用いて上記いびき帯域信号を同期検波する第1動作と、上記呼吸信号と位相が90度異なる信号を用いて上記いびき帯域信号を同期検波する第2動作とをそれぞれ行う一方、上記第1動作によって抽出されたいびき信号と上記第2動作によって抽出されたいびき信号とに基づいて、上記就寝者のいびきの音量を検出する音量検出手段(39)を備えている。
【0013】
第4の発明では、呼吸信号を用いていびき帯域信号を同期検波する第1動作と、呼吸信号と位相が90度異なる信号を用いていびき帯域信号を同期検波する第2動作とがそれぞれ行われる。そして、第1動作によって抽出されたいびき信号と第2動作によって抽出されたいびき信号とに基づいて、就寝者のいびきの音量が検出される。ここで、いびきだけに起因する信号を、Asinωt(Aはいびきの振幅、ωはいびきの周波数をそれぞれ表している。)と表す。就寝者がいびきをかいていれば、第1動作では、例えば(A/2)cosψがいびき信号として得られ、第2動作では、例えば(A/2)sinψがいびき信号として得られる。ψは、いびき帯域信号と呼吸信号の位相差を表している。そして、cosψ+sinψ=1の関係を利用すれば、第1動作のいびき信号と第2動作のいびき信号とから三角関数が消去される。このため、上記位相差ψが分からなくても、いびきの音量を表すいびきの振幅Aを検出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、いびき抽出手段(32,40)によって、いびきに同期しない成分を含まないいびき信号が抽出される。音センサ(15)の出力信号にいびき以外の雑音が含まれたとしても、いびき抽出手段(32,40)において呼吸信号と同期する成分を抽出する過程で、雑音は除去される。従って、いびきだけに起因する信号を抽出することができる。
【0015】
また、上記第3の発明では、呼吸信号がいびき帯域信号と同じ周波数であることに着目して、呼吸信号を用いていびき帯域信号を同期検波している。同期検波によれば、いびき帯域信号の周波数が分からなくても、いびきに同期しない成分を含まないいびき信号が抽出される。このため、いびきだけに起因する信号を容易に抽出することができる。
【0016】
また、上記第4の発明では、いびき帯域信号と呼吸信号の位相差ψが分からなくても、いびきの音量を検出できるように、第1動作と第2動作の両方が行われる。従って、いびき帯域信号と呼吸信号の位相差ψが分からなくても、いびきの音量を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態のいびき検出装置の全体構成図である。
【図2】実施形態の体動センサの概略断面図である。
【図3】実施形態の回路ユニットのブロック図である。
【図4】実施形態のいびき帯域抽出部のブロック図である。
【図5】前処理部の出力信号、呼吸信号抽出部の出力信号、第1整形動作後の呼吸信号、及び第2整形動作後の呼吸信号を表す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本実施形態は、本発明に係るいびき検出装置(10)の一例である。いびき検出装置(10)は、音センサ(15)と体動センサ(20)と回路ユニット(30)とを備えている。音センサ(15)と回路ユニット(30)は、電源等の操作ボタンが設けられた本体ユニット(11)に設けられている。音センサ(15)は、就寝者の居る空間に設けられる。
【0020】
音センサ(15)は、マイクロフォンにより構成されている。音センサ(15)は、就寝者のいびきを感知するために設けられている。音センサ(15)は、感知した音を音信号として出力する。音センサ(15)には、無指向性のエレクトレットコンデンサマイクが用いられている。
【0021】
体動センサ(20)は、就寝者の体動に伴う体動信号を出力するように構成されている。体動センサ(20)は、図1及び図2に示すように、感圧部(21)と受圧部(22)とを備えている。
【0022】
感圧部(21)は、図1に示すように、ベッドなどの寝具の寝台に敷かれたマットレス上に敷設される。この感圧部(21)は、細長で中空状のチューブで構成され、その内側に空間が形成されている。そして、就寝者がベッドに横臥すると、就寝者の体動に伴い感圧部(21)に圧力・振動が伝達され、感圧部(21)の内圧が受圧部(22)に作用する。
【0023】
受圧部(22)は、ケーシング(23)と、このケーシング(23)に収納されるセンサ部(24)とで構成されている。センサ部(24)は、マイクロフォンや圧力センサなどで構成される。このセンサ部(24)は、上記感圧部(21)より作用した内圧を受け、この内圧を体動信号として、リード線(25)を介して回路ユニット(30)の前処理部(図示省略)に出力する。
【0024】
なお、本実施形態では、感圧部(21)と受圧部(22)との接続位置に微小なリーク溝(26)が形成されている。このため、例えば就寝者が感圧部(21)に強い衝撃を与えた際、センサ部(24)に対して急激に上昇した内圧が作用することが抑制され、センサ部(24)が故障してしまったり、体動信号が飽和状態となってしまったりすることが抑制される。
【0025】
回路ユニット(30)は、図3に示すように、前置増幅部(31)と、いびき帯域抽出部(32)と、呼吸帯域抽出部(33)と、信号整形部(34)と、同期検波部(40)と、音量検出部(39)とを備えている。呼吸帯域抽出部(33)は、体動センサ(20)の出力信号から呼吸信号を抽出する呼吸抽出手段(33)を構成している。いびき帯域抽出部(32)と同期検波部(40)とは、音センサ(15)の出力信号から呼吸信号と同期する成分をいびきの音を示すいびき信号として抽出するいびき抽出手段(32,40)を構成している。
【0026】
前置増幅部(31)は、2次帯域通過フィルタ(ローパスフィルタ)により構成されている。前置増幅部(31)では、音センサ(15)から出力された音信号から直流成分が除去されると共に、音信号に対してアンチエイリアス処理(アンチエイリアシング)が行われる。
【0027】
いびき帯域抽出部(32)は、音センサ(15)の出力信号からいびきに対応する周波数帯域の信号を抽出することによっていびき帯域信号を作成するように構成されている。いびき帯域抽出部(32)には、音センサ(15)の出力信号が前置増幅部(31)を介して入力される。いびき帯域抽出部(32)は、図4に示すように、第1抽出フィルタ(41)と第2抽出フィルタ(43)と第1包絡線検波回路(42)と第2包絡線検波回路(44)とを備えている。いびき帯域抽出部(32)では、第1抽出フィルタ(41)、第1包絡線検波回路(42)、第2抽出フィルタ(43)、第2包絡線検波回路(44)の順番に、入力信号が処理される。
【0028】
第1抽出フィルタ(41)は、4次帯域通過フィルタにより構成されている。第1抽出フィルタ(41)は、いびき周波数帯成分を抽出するためのフィルタである。具体的に、第1抽出フィルタ(41)には、中心周波数が400Hzで通過帯域幅が±300Hzのチェビシェフフィルタ(リップルチャンネル0.25dB)が用いられている。
【0029】
また、第2抽出フィルタ(43)は、8次帯域通過フィルタ(狭帯域フィルタ)により構成されている。第2抽出フィルタ(43)は、呼吸周波数帯成分を抽出するためのフィルタである。具体的に、第2抽出フィルタ(43)には、中心周波数が0.25Hzで通過帯域幅が±0.1Hzのチェビシェフフィルタ(リップルチャンネル0.25dB)が用いられている。
【0030】
第1包絡線検波回路(42)及び第2包絡線検波回路(44)は、共に、入力信号を全波整流した後に、その全波整流後の信号を包絡線検波するように構成されている。第1包絡線検波回路(42)の時定数τ1(例えば、τ1=0.1sec)は、第2包絡線検波回路(44)の時定数τ2(例えば、τ2=20sec)よりも小さな値になっている。第1包絡線検波回路(42)は、時定数τ1の1次低域通過フィルタによって包絡線検波を行う。第2包絡線検波回路(44)は、時定数τ2の1次低域通過フィルタによって包絡線検波を行う。いびき帯域抽出部(32)では、第2包絡線検波回路(44)の出力信号がいびき帯域信号になる。
【0031】
呼吸帯域抽出部(33)は、体動センサ(20)の出力信号から呼吸に対応する周波数帯域の信号を抽出することによって呼吸信号を作成するように構成されている。呼吸帯域抽出部(33)には、体動センサ(20)の出力信号が前処理部を介して入力される。呼吸帯域抽出部(33)は、例えば、4次帯域通過フィルタにより構成されている。呼吸帯域抽出部(33)には、例えば、中心周波数が0.6Hzで通過帯域幅が±0.6Hzのチェビシェフフィルタ(リップルチャンネル0.25dB)が用いられている。呼吸帯域抽出部(33)の出力データは、呼吸信号となる。
【0032】
信号整形部(34)は、呼吸帯域抽出部(33)の出力信号(呼吸信号)を整形するように構成されている。信号整形部(34)は、呼吸帯域抽出部(33)から出力された呼吸信号を矩形波に整形した第1整形信号と、第1整形信号と位相が90度異なるように第1整形信号を整形した第2整形信号とを作成する。第1整形信号は、呼吸信号に対して、波の谷と山の位置が概ね対応するように作成される。
【0033】
同期検波部(40)は、信号整形部(34)で整形後の呼吸信号を用いて、呼吸信号と同期する成分をいびき信号としていびき帯域信号から抽出する抽出動作を行うように構成されている。抽出動作では、いびきの振幅を表すデータが抽出される。同期検波部(40)は、抽出動作として、第1動作と第2動作とを行う。第1動作と第2動作とは、共に、いびき帯域信号を同期検波する動作である。第1動作では、基準位相信号(同期信号)として、第1整形信号が用いられる。第2動作では、基準位相信号(同期信号)として、第2整形信号が用いられる。第1動作と第2動作では、それぞれいびき信号が抽出される。なお、同期検波部(40)は、第1動作と第2動作の片方だけを行うように構成されていてもよい。
【0034】
具体的に、同期検波部(40)は、第1乗算部(35)と第2乗算部(36)と第1フィルタ部(37)と第2フィルタ部(38)とを備えている。第1乗算部(35)は、いびき帯域信号に第1整形信号を掛ける乗算処理を行う。第2乗算部(36)は、いびき帯域信号に第2整形信号を掛ける乗算処理を行う。第1フィルタ部(37)は、低域通過フィルタによるフィルタリング又は積分処理によって、第1乗算部(35)の出力信号から交流成分等を除去する。第2フィルタ部(38)は、低域通過フィルタによるフィルタリング又は積分処理によって、第2乗算部(36)の出力信号から交流成分等を除去する。同期検波部(40)では、第1乗算部(35)及び第1フィルタ部(37)によって第1動作が行われ、第2乗算部(36)及び第2フィルタ部(38)によって第2動作が行われる。
【0035】

音量検出部(39)は、就寝者のいびきの音量を検出する音量検出手段(39)を構成している。音量検出部(39)は、第1フィルタ部(37)で抽出されたいびき信号と第2フィルタ部(38)で抽出されたいびき信号とを用いて、就寝者のいびき音量を検出するように構成されている。音量検出部(39)は、所定の時間毎(例えば、1分毎)に、就寝者のいびき音量をデシベルに換算して記憶する。本実施形態では、本体ユニット(11)に、就寝者のいびき音量を表示するためのモニターが設けられている。回路ユニット(30)は、就寝者が起床したと判断すると、音量検出部(39)が検出したいびき音量をモニターに表示させる。
【0036】
−回路ユニットの動作−
回路ユニット(30)の動作について説明する。
【0037】
本実施形態のいびき検出装置(10)では、電源が「ON」に設定されると、音センサ(15)の出力信号と体動センサ(20)の出力信号とが回路ユニット(30)にそれぞれ入力される。
【0038】
まず、音センサ(15)の出力信号の処理について説明する。音センサ(15)の出力信号(音信号)は、前置増幅部(31)に入力される。前置増幅部(31)は、音センサ(15)の出力信号から直流成分を除去すると共に、音センサ(15)の出力信号に対してアンチエイリアス処理(アンチエイリアシング)を行う。前置増幅部(31)の出力信号は、いびき帯域抽出部(32)に入力される。
【0039】
いびき帯域抽出部(32)では、まず第1抽出フィルタ(41)が、前置増幅部(31)の出力信号からいびきに対応する周波数帯域の信号を抽出する。続いて、第1包絡線検波回路(42)が、第1抽出フィルタ(41)の出力信号を全波整流し、全波整流後の信号を包絡線検波する。続いて、第2抽出フィルタ(43)が、第1包絡線検波回路(42)の出力信号から呼吸に対応する周波数帯域の信号を抽出する。続いて、第2包絡線検波回路(44)が、第2抽出フィルタ(43)の出力信号を全波整流し、全波整流後の信号を包絡線検波する。第2包絡線検波回路(44)の出力信号は、いびき帯域信号として、第1乗算部(35)及び第2乗算部(36)にそれぞれ入力される。
【0040】
なお、第2抽出フィルタ(43)と第1包絡線検波回路(42)と第2包絡線検波回路(44)とを設けずに、第1抽出フィルタ(41)の出力信号をいびき帯域信号としてもよい。また、第1包絡線検波回路(42)と第2包絡線検波回路(44)とを設けずに、第1包絡線検波回路(42)の出力信号をいびき帯域信号としてもよい。
【0041】
続いて、体動センサ(20)の出力信号の処理について説明する。センサ部(24)の出力信号(体動信号)は、前処理部に入力される。前処理部は、高周波数成分を除いた後に体動信号を増幅する。さらに、前処理部は、増幅後の体動信号を64倍のオーバーサンプリングで読み取った後に、10msecで積算・平均して等価サンプリングする。前処理部では、センサ部(24)の出力信号からノイズが除去される。前処理部の出力信号は、呼吸帯域抽出部(33)に入力される。前処理部の出力信号は、図5において細い方の実線で示すような波形となる。
【0042】
呼吸帯域抽出部(33)は、前処理部の出力信号から呼吸に対応する周波数帯域の信号を抽出する。呼吸帯域抽出部(33)は、抽出した信号を呼吸信号として信号整形部(34)に出力する。呼吸帯域抽出部(33)の出力信号は、図5において太い方の実線で示すような波形となる。なお、前処理方法や信号の抽出方法は、上述以外の方法であってもよい。
【0043】
信号整形部(34)は、呼吸帯域抽出部(33)の出力信号(呼吸信号)を矩形波に整形した第1整形信号を作成する。信号整形部(34)は、整形前の呼吸信号に対して波の谷と山の位置が概ね一致するように第1整形信号を作成する。また、信号整形部(34)は、第1整形信号に−90度の位相を加えることによって第2整形信号を作成する。そして、信号整形部(34)は、第1整形信号を第1乗算部(35)に出力し、第2整形信号を第2乗算部(36)に出力する。
【0044】
例えば、第1整形信号f1(t)を下記の式1によって表す場合は、第2整形信号f2(t)は下記の式2によって表される。下記の式1及び式2において、ωは呼吸信号の周波数、ψは呼吸信号といびき帯域信号との位相差をそれぞれ表している。
【0045】
式1:f1(t)=sin(ωt+ψ)
式2:f2(t)=sin(ωt+ψ−π/2)
ここで、第1整形信号の作成方法について具体的に説明する。信号整形部(34)は、呼吸帯域抽出部(33)の出力信号の立ち上がり側のゼロクロス点(負から正に変化する際のゼロクロス点)が凸波の開始点(凹波の終了点)となり、呼吸帯域抽出部(33)の出力信号の立ち下がり側のゼロクロス点(正から負に変化する際のゼロクロス点)が凹波の開始点(凸波の終了点)となるように、呼吸帯域抽出部(33)の出力信号を矩形波に整形する第1整形動作を行う。第1整形動作後の呼吸信号の矩形波は、図5に破線で示すような波形となる。なお、第1整形動作では、ゼロクロス点と認識されても、そのゼロクロス点の前後の波形のピーク値と、隣りのゼロクロス点までの間隔とを考慮した所定の判定条件に合致しないゼロクロス点(例えば、図5において矢印が指すゼロクロス点)は、矩形波の作成に用いない。
【0046】
さらに、信号整形部(34)は、デューティー比が50%になるように、第1整形動作後の呼吸信号の矩形波をさらに整形する第2整形動作を行う。第2整形動作では、第2整形動作後の矩形波のゼロクロス点の時間間隔が呼吸信号の半周期の時間になるように、第1整形動作後の矩形波が整形される。
【0047】
第2整形動作では、まず、第1整形動作後の呼吸信号の矩形波の立ち下がり側のゼロクロス点の間隔に基づいて、呼吸信号の周期を求める周期算出動作が行われる。周期算出動作では、1つの波毎に、呼吸信号の周期が求められる。周期算出動作において、立ち下がり側のゼロクロス点から呼吸信号の周期を求めるのは、呼吸信号は立ち下がり側の方が立ち上がり側よりも変化が急峻なので、実際の呼吸の周期との誤差が少なくなるためである。続いて、第2整形動作では、周期算出動作で求めた呼吸信号の周期になるように、立ち下がり側のゼロクロス点を固定して、立ち上がり側のゼロクロス点の位置を調節する位置調節動作が行われる。位置調節動作では、立ち上がり側のゼロクロス点の位置を調節する波に対して、直前の波から求められた呼吸信号の周期が用いられる。本実施形態では、位置調節動作後の呼吸信号の矩形波が、図5に一点鎖線で示すような波形になり、これが第1整形信号となる。但し、第2整形動作を行わずに、第1整形動作後の呼吸信号の矩形波を第1整形信号としてもよい。また、位置調節動作において、直前の波から求めた呼吸信号の周期を用いずに、所定周期分の波から求めた呼吸信号の周期の平均値を用いてもよい。この場合、信号整形部(34)は、所定周期分の呼吸信号を保存可能に構成される。
【0048】
続いて、同期検波部(40)の動作について説明する。同期検波部(40)では、第1乗算部(35)に、いびき帯域抽出部(32)から出力されたいびき帯域信号と、信号整形部(34)から出力された第1整形信号とが入力される。同期検波部(40)では、第1乗算部(35)及び第1フィルタ部(37)によって、第1整形信号を基準位相信号としていびき帯域信号を同期検波する第1動作が行われる。第1動作では、第1乗算部(35)が、いびき帯域信号と第1整形信号との乗算処理を行う。そして、第1フィルタ部(37)が、低域通過フィルタによるフィルタリング又は積分処理によって、第1乗算部(35)の出力信号から交流成分等を除去する。第1フィルタ部(37)の出力信号は、第1動作で抽出された第1いびき信号として、音量検出部(39)に入力される。
【0049】
また、同期検波部(40)では、第2乗算部(36)に、いびき帯域抽出部(32)から出力されたいびき帯域信号と、信号整形部(34)から出力された第2整形信号とが入力される。同期検波部(40)では、第2乗算部(36)及び第2フィルタ部(38)によって、第2整形信号を基準位相信号としていびき帯域信号を同期検波する第2動作が行われる。第2動作では、第2乗算部(36)が、いびき帯域信号と第2整形信号との乗算処理を行う。そして、第2フィルタ部(38)が、低域通過フィルタによるフィルタリング又は積分処理によって、第2乗算部(36)の出力信号から交流成分等を除去する。第2フィルタ部(38)の出力信号は、第2動作で抽出された第2いびき信号として、音量検出部(39)に入力される。
【0050】
ここで、本実施形態における同期検波について説明する。
【0051】
いびきだけに起因する信号f3(t)は、例えば、下記の式3のように表すことができる。ユーザーが就寝中にいびきをかいている場合は、いびき帯域信号(いびき帯域抽出部(32)の出力信号)に、下記の式3の信号が含まれることになる。そして、第1動作における第1乗算部(35)の乗算結果には、下記の式4の信号が含まれる。下記の式3において、Aはいびきの振幅、ωはいびき帯域信号の周波数をそれぞれ表している。なお、ユーザーの就寝中にいびき以外の雑音が発生していれば、いびき帯域信号には、雑音に起因する信号も含まれている。
【0052】
式3:f3(t)=Asin(ωt)
式4:Asin(ωt)×sin(ωt+ψ)=(A/2)[cos{(ω−ω)t+ψ}−cos{(ω+ω)t+ψ}]
そして、第1フィルタ部(37)において、式4から交流成分が除去されると、式4のcos{(ω+ω)t+ψ}が消去される。さらに、いびき帯域信号の周波数ωは呼吸信号の周波数ωに等しいため、cos{(ω−ω)t+ψ}=cosψとなり、最終的に式4から(A/2)cosψが残る。いびき帯域信号に、いびき以外の雑音に起因する信号が含まれていたとしても、その信号の周波数が呼吸信号の周波数に等しくない限りは、第1フィルタ部(37)で除去される。第1動作で抽出された第1いびき信号は、(A/2)cosψとなる。同様に、第2動作で抽出された第2いびき信号は、(A/2)sinψとなる。
【0053】
続いて、いびき音の検出について説明する。音量検出部(39)には、第1いびき信号(A/2)cosψと、第2いびき信号(A/2)sinψとが入力される。音量検出部(39)は、cosψ+sinψ=1の関係を利用して位相差ψを消去することによって、就寝者のいびきの振幅Aを検出する。音量検出部(39)は、所定の時間毎(例えば、1分毎)に、いびきの振幅Aをデシベルに換算し、デシベルに換算した値をいびき音量として記録する。回路ユニット(30)は、就寝者が起床したと判断すると、音量検出部(39)が検出したいびき音量をモニターに表示させる。
【0054】
−実施形態の効果−
本実施形態では、いびき帯域抽出部(32)と同期検波部(40)によって、いびきに同期しない成分を含まないいびき信号が抽出される。音センサ(15)の出力信号にいびき以外の雑音が含まれたとしても、同期検波部(40)において呼吸信号と同期する成分を抽出する過程で、雑音は除去される。従って、いびきだけに起因するいびき信号を抽出することができる。そして、いびき信号を用いていびきの音量を検出するので、いびきの音量を正確に検出することができる。
【0055】
また、本実施形態では、呼吸信号がいびき帯域信号と同じ周波数であることに着目して、呼吸信号を用いていびき帯域信号を同期検波している。同期検波によれば、いびき帯域信号の周波数が分からなくても、いびきに同期しない成分を含まないいびき信号が抽出される。このため、いびきだけに起因するいびき信号を容易に抽出することができる。
【0056】
また、本実施形態では、いびき信号と呼吸信号の位相差ψが分からなくても、いびきの音量を検出できるように、第1動作と第2動作の両方が行われる。従って、いびき信号と呼吸信号の位相差ψが分からなくても、いびきの音量を正確に検出することができる。
【0057】
ここで、いびきは、息を吸うときに生じる場合が多いが、息を吐くときに生じる場合もある。吸気に伴ういびきと呼気に伴ういびきとの片方を対象として、いびきの音量を検出する場合は、上記位相差ψが分かる。このため、第1動作と第2動作の片方を行うだけで、いびきの音量を検出することができる。しかし、吸気に伴ういびきと呼気に伴ういびきの両方を対象として、いびきの音量を検出する場合は、上記位相差ψが分からない、又は上記位相差ψが分かったとしても該位相差ψが変化する。本実施形態では、位相差ψが分からなくても、いびきの振幅を検出することができるように、第1動作と第2動作の両方が行われる。従って、吸気に伴ういびきと呼気に伴ういびきの両方を対象として、いびきの音量を検出することができる。
【0058】
なお、回路ユニット(30)は、吸気に伴ういびきだけを対象としていびきの音量を検出するように構成されていてもよい。その場合は、回路ユニット(30)は、第1乗算部(35)と第1フィルタ部(37)とにより構成される。
【0059】
また、本実施形態では、呼吸帯域抽出部(33)において、いびきに対応する周波数帯域の信号を第1抽出フィルタ(41)によって抽出した後に、第2抽出フィルタ(43)によって呼吸に対応する周波数帯域の信号を抽出している。このため、いびきに対応する周波数帯域の信号から、呼吸に同期する波形だけを取り出すことができる。従って、不要な部分が除かれるので、正確にいびきの音量を検出できる。
【0060】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、いびきを検出するためのいびき検出装置について有用である。
【符号の説明】
【0062】
15 音センサ
20 体動センサ
30 回路ユニット
31 前置増幅部
32 いびき帯域抽出部(いびき抽出手段)
33 呼吸帯域抽出部(呼吸抽出手段)
34 信号整形部
35 第1乗算部
36 第2乗算部
37 第1フィルタ部
38 第2フィルタ部
39 音量検出部(音量検出手段)
40 同期検波部(いびき抽出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
就寝者が居る空間に設けられる音センサ(15)と、
上記就寝者の体動を検出するための体動センサ(20)と、
上記体動センサ(20)の出力信号から呼吸信号を抽出する呼吸抽出手段(33)と、
上記音センサ(15)の出力信号から上記呼吸信号と同期する成分をいびきの音を示すいびき信号として抽出するいびき抽出手段(32,40)とを備えていることを特徴とするいびき検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記いびき抽出手段(32,40)は、上記音センサ(15)の出力信号からいびきに対応する周波数帯域の信号を抽出することによっていびき帯域信号を作成した後に、上記呼吸信号を用いて上記いびき帯域信号から上記いびき信号を抽出することを特徴とするいびき検出装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記いびき抽出手段(32,40)は、上記呼吸信号を用いて上記いびき帯域信号を同期検波することによって上記いびき信号を抽出することを特徴とするいびき検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
上記いびき抽出手段(32,40)は、上記呼吸信号を用いて上記いびき帯域信号を同期検波する第1動作と、上記呼吸信号と位相が90度異なる信号を用いて上記いびき帯域信号を同期検波する第2動作とをそれぞれ行う一方、
上記第1動作によって抽出されたいびき信号と上記第2動作によって抽出されたいびき信号とに基づいて、上記就寝者のいびきの音量を検出する音量検出手段(39)を備えていることを特徴とするいびき検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253019(P2010−253019A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106267(P2009−106267)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】