説明

すべり軸受

【課題】内燃機関運転時に半割形状すべり軸受の鋼裏金の外側背面に形成された被覆層が局部的に凝集することがなく、もって軸との強当りが発生し難いすべり軸受を提供する。
【解決手段】鋼裏金6の内側に摺動面としての軸受合金層7が形成された2個を一対として円筒形状とする半割形状すべり軸受1において、鋼裏金の外側背面にBi又はBi基合金の被覆層8を形成する。BiまたはBi基合金は背面圧や半割形状すべり軸受1の背面と軸受ハウジング内面間での相対的すべりによる応力での流動は起きるが、溶融すると体積が減少するので流動量が少なく、凝集部の体積が小さいために半割形状すべり軸受の摺動面を内面側に盛り上げて軸との直接、接触による強当りが発生し難くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された2個を一対として円筒形状とする半割形状すべり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された2個を一対として円筒形状とする半割形状すべり軸受において、例えば、特開平6−74238号公報及び特表2002−513890号公報に示されるように、軸受合金層が形成される内周面と反対側の鋼裏金の外側背面及び側辺、あるいは鋼裏金の全表面を覆うように、フラッシュめっき層(「被覆層」ともいう。)が被着されていた。このフラッシュめっき層は、鋼裏金の腐食を防止し、鋼裏金に光輝ある魅力的な外観を与えるために施されるものである。そして、フラッシュめっき層としては、厚さ0.1〜10μmのSnもしくはPbまたはこれらの合金のめっき層が用いられている。
【特許文献1】特開平6−74238号公報(請求項6、段落[0006]の(3))
【特許文献2】特表2002−513890(段落[0016])
【0003】
また、図2に示すように、上記した半割形状すべり軸受1は、例えば、内燃機関のクランク軸に連接されるコンロッド2とコンロッドキャップ3からなる軸受ハウジングの内面に嵌合されて使用される。しかして、内燃機関運転での動荷重負荷により、コンロッド2側とコンロッドキャップ3の軸受ハウジングには圧縮と引張の繰り返し応力が負荷されるが、特に近年の内燃機関の軽量化を目的としたコンロッドの低剛性化に伴い当該軸受ハウジングの弾性変形量が大きくなる場合には、半割形状すべり軸受1の背面と軸受ハウジング内面間で相対的すべりが起きる。さらに半割形状すべり軸受1の内面は軸との摺動による摩擦熱により発熱しており、これに伴い、従来のSn、PbまたはSn、Pb系合金の被覆層が溶融すると、半割形状すべり軸受1の軸受ハウジングに固定するための締め代による軸受背面圧(半径方向応力)やすべりによる応力により流動し、図3(A)(B)にデフォルメして示すように、圧力の低い部分に局部的に凝集する。また、Sn、PbまたはSn、Pb系合金は溶融すると体積が増加するので流動量が多くなる。このため局部的に凝集部の体積が大きくなり半割形状すべり軸受1の摺動面を内面側に盛り上げて軸との強当りが起き易いという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した問題点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、内燃機関運転時に半割形状すべり軸受の鋼裏金の外側背面に形成された被覆層が局部的に凝集することがなく、もって軸との強当りが発生し難いすべり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された2個を一対として円筒形状とする半割形状すべり軸受において、前記鋼裏金の外側背面にBi又はBi基合金の被覆層を形成したことを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、前記Bi基合金の被覆層は、Biと1〜30質量%以下のSn,Pb,In,Ag,Cuの1種以上とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明においては、BiまたはBi基合金は背面圧や半割形状すべり軸受1の背面と軸受ハウジング内面間での相対的すべりによる応力による流動は起きるが、溶融しても体積が減少するので流動量が少なく、凝集部の体積が小さいので半割形状すべり軸受の摺動面を内面側に盛り上げて軸と直接、接触することによる強当りが発生し難い。また、被覆層の流動量を少なくするために被覆層の厚さは薄いほど好ましいが、半割形状すべり軸受が製造され割型の軸受ハウジングに組み込まれる間の半割形状すべり軸受背面鋼の防錆のためには0.1〜10μmとすることが望ましいく、0.1〜5μmとすることがより望ましい。
【0008】
また、請求項2に係る発明は、被覆層は半割形状すべり軸受が製造され割型の軸受ハウジングに圧入されるまでの間も半割形状すべり軸受背面の鋼を防錆する効果も有するが、BiにSn、Pb、In、Agの1種以上を1〜30質量%以下含ませて合金化することにより防錆の効果がさらに高まる。また、BiにSn、Pb、In、Agの1種以上を1〜30質量%以下含ませてBi基合金も溶融すると体積が減少するので流動量が少なく、凝集部の体積が小さいので半割形状すべり軸受の摺動面を内面側に盛り上げて軸と直接、接触することによる強当りが発生し難い。1質量%未満では、防錆効果のさらなる向上を図ることができず、30質量%を超える場合には、合金化成分であるSn、Pb、In、Agは溶融すると体積が増加するという性質によりBiは溶融すると体積が減少するという性質が緩和され、特に50質量%以上を越えると、その性質はほとんど失なわれてしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1に示すように、鋼裏金6と軸受合金7からなる平板形状の複層の軸受材料をプレス成形し、前述した図2に示す半割形状すべり軸受1と同様に、鋼裏金が外周面となるように半割形状すべり軸受1を製造した後、電気めっき法等によりBi又はBi基合金の被覆層8を半割形状すべり軸受1の鋼裏金6の背面に形成する。半割形すべり軸受1の背面にBi又はBi基合金の被覆層8を形成する方法は電気めっき法に限定されず、投射法、溶射法等の他の一般的な被膜形成方法により形成することもでき、また、鋼裏金6の背面とBi又はBi基合金の被覆層8との接合強度を高めるため、脱脂処理、粗面化処理等の一般的な予備処理を鋼裏金6の背面に施した後Bi又はBi基合金の被覆層8を形成したり、鋼裏金6の背面にAg、Cu等の金属や合金からなる中間層を形成した後Bi又はBi基合金の被覆層8を形成してもよい。なお、被覆層8は、半割形状すべり軸受1の内側摺動面を除いて半割形状すべり軸受の鋼裏金の外側背面にのみ形成してもよいが、生産性を考慮して内側摺動面にも同時に形成しても良い。
【0010】
被覆層8の流動量を少なくするために被覆層8の厚さは薄いほど好ましいが、半割形状すべり軸受1が製造され割型の軸受ハウジングに組み込まれる間の半割形状すべり軸受1の背面鋼の防錆のためには0.1〜10μmが望ましく、0.1〜5μmとすることがより望ましい。また、BiにSn、Pb、In、Agの1種以上を1〜30質量%以下含ませて合金化することにより防錆の効果がさらに高まる。
【実施例】
【0011】
次に、上記のようにして製造した半割形状すべり軸受1の軸受試験の試験結果について表1、表2を参照して説明する。
【表1】

【0012】
【表2】

【0013】
表1において、実施例1、2は、鋼裏金6とAl系軸受合金7からなる複層材料をプレス成形し、鋼裏金6が外周面となるように外径48mm、内径45mm、幅21mmの半割形状すべり軸受1を製造した。次に電気めっき法により半割形状すべり軸受1の鋼裏金6の背面に表1に示すBiまたはBi基合金(Bi−2質量%Sn)の被覆層8を厚さが3μmとなるように形成した。その断面構造は、図1に示すようになっている。
【0014】
比較例1、2は、実施例1、2と同じ条件で製造した半割形状すべり軸受1に比較例1はPbの被覆層8を、比較例2はSnの被覆層8を電気めっき法により半割形状すべり軸受の背面に厚さが3μmとなるように形成した。なお、実施例1、2、及び比較例1、2ともに軸受試験に用いる軸受ハウジング内径に対し、すべり軸受固定のための締め代分だけ外径寸法を僅かに大きくしてある。
【0015】
上記のように構成される実施例1、2、及び比較例1、2のそれぞれの半割形状すべり軸受2個を一対とし図2に示すように割型の内燃機関のコンロッド2及びコンロッドキャップ3に挿入した後にボルトで締結した状態で、内燃機関に組付け、軸受試験を実施した。内燃機関には直列4気筒、排気量2000ccのエンジンを用い表2に示す試験条件で試験し、ハウジング剛性が最も低く相対的すべり量が最も大きくなると考えられる軸受周方向を0°としたときに45°及び135°の付近(図3(A)参照)で最も凝集が起こるため、実施例1、2、及び比較例1、2の同部におけるBi、Bi合金、Sn、Pbの凝集部4の厚さとそれに伴って起こる軸受摺動面の局部的な偏摩耗量を比較し評価した結果を表1に示す。凝集部4の厚さ、偏摩耗量の測定は凝集部4を切断し、その断面を実体顕微鏡で写真撮影してその数値を求めた。なお凝集部4の厚さの数値については、測定値から評価前の被覆層の厚さを減じた数値を示している。
【0016】
比較例1、2は、軸受試験にてコンロッド2の内径面と半割形状すべり軸受1の背面との相対的すべり量が多くなる部分でSnやPbが溶融、流動し半割形状すべり軸受1の背面で局部的な凝集部4が形成される。SnやPbは溶融すると体積が増加するので流動量が多く局部的な凝集部4が比較例1で7μm、比較例2で10μmと厚くなる。さらにこの凝集部4が半割形状すべり軸受1の摺動面を軸受内径側に盛り上げる変形を起こし、軸との隙間が狭くなり直接、接触するので軸受内面偏摩耗量が比較例1で5μm、比較例2で7μmと多くなった。
【0017】
一方、実施例1、2はコンロッド2の内径面と半割形状すべり軸受1の背面との相対的すべり量が多くなる部分でBiやBi基合金も溶融、流動しすべり軸受背面で局部的凝集部が形成される。しかし、BiやBi合金は溶融すると体積が減少するので流動量が少なく、実施例1、2ともに1μm程度の厚さの僅かに凝集部4が形成される程度である。この僅かな凝集部4は半割形状すべり軸受1の内面と相手軸との隙間により緩和され、半割すべり軸受1の摺動面と相手軸とが直接、接触しないので摺動面における摩耗量が実施例1、2とも0μmであって、偏摩耗が生じていないことがわかった。なお、軸受試験を行なったBi基合金について実施例2のみ示しているが、本発明者はBiと1〜30質量%以下のSn,Pb,In,Ag,Cuの1種以上とからなる他のBi基合金も、Biと同じく溶融すると体積が減少する性質を有することを確かめている。
【0018】
また、本発明は実施例で示した内燃機関用のコンロッドに用いられる半割形状すべり軸受に限定されず、他用途の割型軸受ハウジングに組み付けて用いられる半割形状すべり軸受に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る半割形状すべり軸受の概略部分断面図である。
【図2】半割形状すべり軸受とコンロッドとの関係を示す正面図である。
【図3】半割形状すべり軸受の背面と軸受ハウジングの内周面との間に形成される凝集部をデフォルメして描いた概念図である。
【符号の説明】
【0020】
1 半割形状すべり軸受
2 コンロッド
3 コンロッドキャップ
4 凝集部
6 鋼裏金
7 軸受合金
8 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼裏金の内側に摺動面としての軸受合金層が形成された2個を一対として円筒形状とする半割形状すべり軸受において、
前記鋼裏金の外側背面にBi又はBi基合金の被覆層を形成したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記Bi基合金の被覆層は、Biと1〜30質量%以下のSn,Pb,In,Ag,Cuの1種以上とからなることを特徴とする請求項1記載のすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228726(P2009−228726A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72995(P2008−72995)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】