説明

すり板片の衝撃緩和構造

【課題】簡単な加工によってすり板片と電車線とが衝突したときに発生する衝撃を容易に緩和することができるすり板片の衝撃緩和構造を提供する。
【解決手段】隣接するすり板片12aの衝撃緩和部12kの傾斜面上にスライダS1の両側面が接触した状態でスライダS1がL1方向に僅かに移動する。このため、スライダS1が接近する側のすり板片12aの衝撃緩和部12kの傾斜面がこのスライダS1の一方の側面に対して相対的に下方に摺動する。また、スライダS1が遠ざかる側のすり板片12aの衝撃緩和部12kの傾斜面がこのスライダS1の他方の側面に対して相対的に上方に摺動する。その結果、隣接するすり板片12a間の段差部にスライダS1が嵌り込まず、すり板片12aとスライダS1との間に発生する衝撃を衝撃緩和部12kが緩和するため、隣接する一方のすり板片12aから他方のすり板片12aにスライダS1がスムーズに乗り移る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電車線と摺動するすり板を長さ方向に複数分割して並べたすり板片に発生する衝撃を緩和するすり板片の衝撃緩和構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、新幹線(登録商標)では360km/hでの走行が推進されており、この場合には従来型の新幹線用パンタグラフでは集電性能が不十分であり、この速度域で唯一十分な集電性能をもつ多分割すり板体の採用が有力である。従来の多分割すり板体は、架線のトロリ線と摺動する複数のすり板片と、この複数のすり板体の上下方向の移動に応じて弾性変形する可撓性シートと、複数のすり板体と電気的に接続する銅板と、複数のすり板体と一体となって上下方向に移動する複数の可動ガイドと、舟体フレームに取り付けられておりこの可動ガイドを移動自在にガイドする固定ガイド部と、この可動ガイド部の上下方向の移動を規制するストッパ部と、複数のすり板片を上下方向に移動在に支持する複数のばねなどを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の多分割すり板体では、すり板を長さ方向に複数のすり板片に分割して各すり板片の重量を軽減し、集電する際のトロリ線への追従性能を向上させることによって、すり板片がトロリ線から離れる離線を低減し集電性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-160266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図15は、従来の集電装置のすり板が交流用同相セクションを通過するときの状態を概略的に示す平面図である。図16は、従来の集電装置のすり板が交流用同相セクションを通過するときのスライダとすり板との状態をこのすり板の進行方向後側から見た正面図である。
図15に示す従来の集電装置103は、架線Lのトロリ線Tと摺動するすり板112を長さ方向に多数分割したすり板片112a,112bを備えている。すり板片112a,112bは、すり板112の進行方向(すり板112の長さ方向と直交する方向)L0に対して略15°の傾斜角度θ0で両側部が斜めに直線状に切断されている。このため、隣接するすり板片112a間及び隣接するすり板片112a,112b間に僅かに隙間を形成している。区分装置Sは、電車線を電気的に区分するための設備であり、入口側のトロリ線Tと出口側のトロリ線Tとの間ですり板112をガイドするスライダS1,S2などを備えている。スライダS1は、進行方向L0に対して進行方向左側に略10.8°の傾斜角度θ1でトロリ線Tから離れており、スライダS2は進行方向L0に対して進行方向右側から略10.8°の傾斜角度θ1でトロリ線Tに近づいている。
【0005】
図16に示すように、区分装置Sをすり板112が通過すると、スライダS1と摺動するすり板片112aには接触力Cが作用するためこのすり板片112aを支持するばねが圧縮する。しかし、スライダS1とは摺動していない隣接するすり板片112aには接触力Cが作用しないため、このすり板片112aを支持するばねが圧縮しない。その結果、隣接するすり板片112aの間に段差部が形成される。図15に示すように、すり板112の進行方向L0に対するすり板片112aの両側部及びすり板片112bの片側部の傾斜角度θ0と、すり板112の進行方向L0に対するスライダS1の傾斜角度θ1とが近い。このため、図16に示すように、区分装置Sをすり板112が通過するときに、隣接するすり板片112a間及び隣接するすり板片112a,112b間の隙間に形成される段差部にスライダS1が嵌り込み、すり板片112a,112bとスライダS1とが衝突してこれらの間に衝撃力が発生することがある。
【0006】
この発明の課題は、簡単な加工によってすり板片と電車線とが衝突したときに発生する衝撃を容易に緩和することができるすり板片の衝撃緩和構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、図2、図8〜図10及び図12に示すように、電車線(S1,S2)と摺動するすり板(12)を長さ方向に複数分割して並べたすり板片(12a,12b)に発生する衝撃を緩和するすり板片の衝撃緩和構造であって、隣り合う前記すり板片間においてこのすり板片と前記電車線とが衝突したときに発生する衝撃を緩和する衝撃緩和部(12k,12m)を備えることを特徴とするすり板片の衝撃緩和構造である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のすり板片の衝撃緩和構造において、図11に示すように、前記衝撃緩和部は、前記すり板片が所定の摩耗量に達するまで残存することを特徴とするすり板片の衝撃緩和構造である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のすり板片の衝撃緩和構造において、図8〜図10に示すように、前記衝撃緩和部は、前記すり板片の隅部(12i,12j)に形成されていることを特徴とするすり板片の衝撃緩和構造である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のすり板片の衝撃緩和構造において、図8〜図10に示すように、前記衝撃緩和部は、前記すり板片の隅部に形成されている面取り部であることを特徴とするすり板片の衝撃緩和構造である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項にすり板片の衝撃緩和構造において、図13及び図14に示すように、前記衝撃緩和部は、前記すり板片の隅部に形成されている丸み部であることを特徴とするすり板片の衝撃緩和構造である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、簡単な加工によってすり板片と電車線とが衝突したときに発生する衝撃を容易に緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備える集電装置の模式図であり、(A)は側面図であり、(B)は正面図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備える集電装置が区分装置を通過するときの状態を概略的に示す平面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備える集電舟の一部を省略して示す断面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備えるすり板組立体の外観図であり、(A)はすり板組立体の平面図であり、(B)は(A)のIV-IVB線で切断した状態を示す断面図である。
【図5】図3のV-V線で切断した状態を示す断面図である。
【図6】図3のVI-VI線で切断した状態を示す断面図である。
【図7】図3のVII-VII線で切断した状態を示す断面図である。
【図8】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備える主すり板片の斜視図である。
【図9】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備える主すり板片の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は正面図であり、(C)は背面図であり、(D)は右側面図であり、(E)は左側面図であり、(F)は(A)のIX-IXF線で切断した状態を示す断面図である。
【図10】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備える補助すり板片の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は正面図であり、(C)は右側面図である。
【図11】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備えるすり板片の摩耗前後の状態を示す正面図であり、(A)は主すり板片の摩耗前の状態を示す正面図であり、(B)は主すり板片の摩耗後の状態を示す正面図であり、(C)は補助すり板片の摩耗前の状態を示す正面図であり、(D)は補助すり板片の摩耗後の状態を示す正面図であり、
【図12】この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造の作用を説明するための模式図であり、(A)〜(D)は主すり板片と摺動する区分装置のスライダが横方向に変位したときの状態をすり板の進行方向後側から時系列順に見た模式図である。
【図13】この発明の第2実施形態に係る集電装置のすり板のすり板片の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は正面図であり、(C)は背面図であり、(D)は右側面図であり、(E)は左側面図であり、(F)は(A)のXIII-XIIIF線で切断した状態を示す断面図である。
【図14】この発明の第2実施形態に係る集電装置のすり板のすり板片の外観図であり、(A)は平面図であり、(B)は正面図であり、(C)は右側面図であり、(D)は(A)のXIV-XIVD線で切断した状態を示す断面図である。
【図15】従来の集電装置のすり板が交流用同相セクションを通過するときの状態を概略的に示す平面図である。
【図16】従来の集電装置のすり板が交流用同相セクションを通過するときのスライダとすり板との状態をこのすり板の進行方向後側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1に示す架線Lは、線路上空に架設される電車線であり、所定の間隔をあけて支持点で支持されている。トロリ線Tは、集電装置3のすり板12が接触する電線であり、すり板12が接触移動することによって車両1に負荷電流を供給する。車両1は、電車又は電気機関車などの電気車であり、例えば高速で走行する新幹線(登録商標)などの鉄道車両である。車体2は、乗客を積載し輸送するための構造物である。
【0015】
図2に示す区分装置Sは、電車線を電気的に区分するための装置である。図2に示す区分装置Sは、例えば、交流電化区間の駅構内などにおいて電源の位相が同じ箇所で架線Lを電気的に区分する場合に用いられる碍子形セクション(A形セクション)である。区分装置Sは、スライダ(セクションスライダ)S1,S2などを備えている。スライダS1,S2は、すり板12が進入する側のトロリ線Tとこのすり板12が進出する側のトロリ線Tとの間をこのすり板12が円滑に通過するように、このすり板12をガイドする電車線である。スライダS1は、すり板12が進入する側に配置されており、スライダS2はこのすり板12が進出する側に配置されている。スライダS1は、すり板12の進行方向L0に対して進行方向左側に略10.8°の傾斜角度θ1でトロリ線Tから離れており、終端部側がトロリ線Tと略平行に屈曲している。一方、スライダS2は、すり板12の進行方向L0に対して進行方向右側から略10.8°の傾斜角度θ1でトロリ線Tに近づいており、始端部側がトロリ線Tと略平行に屈曲している。
【0016】
図1に示す集電装置3は、トロリ線Tから電力を車両1に導くための装置であり、台枠4と、碍子5と、枠組6と、舟支え部7と、集電舟(舟体)8などを備えている。台枠4は、枠組6を支持する部分であり、碍子5は車体2と台枠4との間を電気的に絶縁する部材であり、枠組6は集電舟8を支持した状態で上下方向に動作可能なリンク機構である。舟支え部7は、集電舟8を架線Lに対して水平に押上げるとともに、図示しないばねによる緩衝作用を与える機構部であり、台枠4が備える図示しない押上げ用ばねによって上方に押上げられる。図1及び図2に示す集電装置3は、車両1の進行方向L0に対して非対称であり、一方向又は両方向に使用可能なシングルアーム式パンタグラフであり、枠組6に対してすり板12が進行方向後側に位置するなびき方向に進行している。
【0017】
図1〜図3に示す集電舟8は、すり板12を取り付けて支持する部材であり、一般にトロリ線Tと直交する方向に伸びた細長い金属製の部材である。集電舟8は、図1(B)〜図4に示すように、すり板12が複数に分割された多分割すり板体であり、すり板12を多数のすり板片12a,12bに分割することによって、トロリ線Tと接触して加振されるすり板12の質量を低減し、トロリ線Tに対する追従性能を向上させた新幹線用(高速用)パンタグラフの集電舟である。集電舟8は、図5〜図7に示す整流部9と、図1及び図2に示すホーン10と、図3〜図7に示すすり板組立体11と、図5〜図7に示す舟体枠23と、図5及び図6に示す固定ガイド部24と、図3及び図6に示す弾性支持部25と、図6に示す固定部26などを備えている。
【0018】
図5〜図7に示す整流部9は、気流によって発生する揚力を調整するための部材である。整流部9は、図示しない固定部材によって舟体枠23に着脱自在であり、最適な形状のものと交換することによって集電舟8の断面形状を任意の形状に変更可能である。
【0019】
図1及び図2に示すホーン10は、車両1が分岐器を通過するときに、この分岐器の上方で交差する2本のトロリ線Tのうち車両1の進行方向とは異なる方向のトロリ線Tへの割込みを防止するための部材である。ホーン10は、図1(B)及び図2に示すように、集電舟8の長さ方向の両端部から突出しており、先端部が湾曲して形成された金属製の部材である。
【0020】
図3〜図7に示すすり板組立体11は、集電舟8の主要構成部分を組み立てた部材である。すり板組立体11は、複数のすり板片12a,12b及び複数の可動ガイド部16などが整列された状態で組み立てられている組立品(すり板体)である。すり板組立体11は、図3に示すように、集電舟8の舟体枠23に嵌め込まれてこの舟体枠23と一体化される。すり板組立体11は、図1〜図7に示すすり板12と、図3及び図4に示す装着部13と、図3〜図7に示す弾性部14と、導電部15と、図3、図4(B)及び図5に示す可動ガイド部16と、図4及び図5に示す固定部17と、間隔調整部18と、図3〜図7に示すストッパ部19と、図5及び図6に示す緩衝部20と、図3、図4(B)及び図7に示す間隔調整部21と、図3、図4及び図7に示す固定部22などを備えている。
【0021】
図1〜図7に示すすり板12は、トロリ線Tと摺動する部材である。すり板12は、図1及び図2に示すように、車両1の進行方向と直交する方向に伸びた金属製又は炭素製の板状部材であり、すり板組立体11の一部を構成する構成部品である。すり板12の中央部は、車両1が本線走行時に主にトロリ線Tと摺動する主すり板として機能し、すり板12の両端部は主すり板に比べて摺動頻度が低い補助すり板として機能する。すり板12には、トロリ線Tと接触移動(摺動)して大電流が流れるため、一定の機械的強度、導電性及び耐摩耗性などが要求される。すり板12は、図1(B)〜図3に示すように、長さ方向に複数に分割されたすり板であり、図4に示すように集電舟8の中央部に取り付けられている合計12枚のすり板片12aと、集電舟8の両端部に取り付けられている合計2枚のすり板片12bとを備えている。
【0022】
図1(B)〜図6、図8及び図9に示すすり板片12aは、すり板12の主要部分を構成する部材である。すり板片12aは、図3及び図4に示すように、隣接するすり板片12a同士の干渉を防ぐために、集電舟8の長さ方向に沿って所定の間隔(隙間)Δ1をあけて一列に配置されているすり板小片であり、所定の幅(例えば52mm)、長さ(例えば74mm)及び厚さ(例えば10mm)に形成されている。すり板片12aは、例えば、図4(A)、図8及び図9に示すように、外観形状が平行四辺形の薄板状部材であり、すり板12の進行方向L0に対して略15°の傾斜角度θ0で両側部が斜めに直線状に切断されており、隣接するすり板片12aとの間に2mmの間隔Δ1を形成している。すり板片12aは、例えば、補助すり板として機能する両端部の2枚がアルミニウム製であり、主すり板として機能する中央部(例えば540mmの範囲)の10枚が鉄系焼結合金製である。すり板片12aは、トロリ線Tと接触することによってこのトロリ線Tとの間に作用する接触力Cの変動、及びトロリ線Tの上下方向の変位に追従してそれぞれ独立して上下方向に移動可能である。すり板片12aは、図2に示すスライダS1,S2と衝突したときに発生する衝撃を緩和する衝撃緩和構造を備えている。すり板片12aは、図5、図8及び図9(A)に示す雌ねじ部12cと、図8及び図9に示す端面部12eと、側面部12gと、隅部12iと、衝撃緩和部12kなどを備えている。
【0023】
図5、図8及び図9(A)に示す雌ねじ部12cは、固定ボルト17aの雄ねじ部と噛み合う部分であり、すり板片12aを貫通して形成されている。図8及び図9に示す端面部12eは、すり板片12aの進行方向前側及び進行方向後側に形成された部分であり、すり板片12aの表面に対して垂直な平坦面(先端面)である。側面部12gは、すり板片12a同士が隣り合う側に形成された部分であり、このすり板片12aの進行方向L0に対して傾斜角度θ0で傾斜し、このすり板片12aの表面に対して垂直な平坦面である。隅部12iは、端面部12eと側面部12gとが交わる部分であり、図9(A)に示すように端面部12eと側面部12gとが鋭角に交わる部分と鈍角に交わる部分とにそれぞれ形成されている。
【0024】
図1(B)〜図4、図7及び図10に示すすり板片12bは、すり板12の補助的部分を構成する部材である。すり板片12bは、両端部の2枚のすり板片12aと同様に補助すり板として機能する。すり板片12bは、例えば、図4(A)及び図10に示すように、先端部が2つに分かれた薄板状部材であり、所定の幅(例えば52mm)、長さ(例えば175mm)及び厚さ(例えば8mm)に形成されている。すり板片12bは、すり板片12aと隣接する側部がすり板12の進行方向L0に対して略15°の傾斜角度θ0で斜めに直線状に切断されており、隣接するすり板片12a,12b同士が干渉するのを防ぐために、隣接するすり板片12aとの間に2mmの間隔Δ1を形成している。すり板片12bは、例えば、アルミニウム製の薄板状部材であり、中央部のすり板片12aに比べてトロリ線Tと接触する頻度が低いため耐摩耗性よりも軽量化が重要視されている。すり板片12bは、すり板片12aと同様に、図2に示すスライダS1,S2と衝突したときに発生する衝撃を緩和する衝撃緩和構造を備えている。すり板片12bは、図7及び図10(A)に示す雌ねじ部12dと、図10に示す端面部12fと、側面部12hと、隅部12jと、衝撃緩和部12mなどを備えている。
【0025】
図7及び図10(A)に示す雌ねじ部12dは、固定ボルト22aの雄ねじ部と噛み合う部分であり、すり板片12bを貫通して形成されている。図10に示す端面部12fは、すり板片12bの進行方向前側及び進行方向後側に形成された部分であり、すり板片12bの表面に対して垂直な平坦面(先端面)である。側面部12hは、すり板片12a同士が隣り合う側に形成された部分であり、このすり板片12aの進行方向L0に対して傾斜角度θ0で傾斜し、すり板片12bに対して垂直な平坦面である。隅部12jは、端面部12fと側面部12hとが交わる部分であり、図10(A)に示すように端面部12fと側面部12hとが鋭角に交わる部分と鈍角に交わる部分とにそれぞれ形成されている。
【0026】
図8及び図9に示す衝撃緩和部12kは、隣り合うすり板片12a間においてこのすり板片12aとスライダS1,S2とが衝突したときに発生する衝撃を緩和する部分である。一方、図10に示す衝撃緩和部12mは、隣り合うすり板片12a,12b間においてこのすり板片12a,12bとスライダS1,S2とが衝突したときに発生する衝撃を緩和する部分である。衝撃緩和部12k,12mは、例えば、図2に示すような区分装置Sをすり板12が通過するときに、すり板片12a,12bの隅部12i,12jとスライダS1,S2の側面とが干渉するのを防止する。衝撃緩和部12k,12mは、いずれも同一構造であり、図8及び図9に示す衝撃緩和部12kは4箇所の隅部12iに形成されており、図10に示す衝撃緩和部12mは2箇所の隅部12jに形成されている。衝撃緩和部12k,12mは、図8〜図10に示すように、隅部12i,12jに形成されている面取り部であり、この隅部12i,12jを切削などの機械加工又は成形型によって焼結して形成される。衝撃緩和部12k,12mは、すり板片12a,12bが新品の状態であるときに、トロリ線Tとすり板片12a,12bとの間の接触面積が従来品に比べて減少しないような形状に形成されている。衝撃緩和部12k,12mは、すり板12の進行方向前側から進行方向後側に向かって斜め上方に所定の傾斜角度θ2,θ3で傾斜する平坦な傾斜面に形成されている。衝撃緩和部12kは、例えば、図9(A)(B)に示すように面取り寸法H1=10mm,H2=9mmであり、傾斜角度θ2≒45°である。一方、衝撃緩和部12mは、例えば、図10(A)(B)に示すように面取り寸法H1=10mm,H2=8mmであり、傾斜角度θ3≒45°である。
【0027】
図8〜図10に示す衝撃緩和部12k,12mは、図11に示すように、すり板片12a,12bが所定の摩耗量に達するまで残存する。衝撃緩和部12kは、例えば、図11(A)に示すように、すり板片12aが厚さB=10mmの摩耗前の新品の状態から使用を開始して、図11(B)に示すようにすり板片12aが使用限界の残存量Δ2=2mmになっても面取り部が残存しており、限界摩耗量に達するまで衝撃緩和防止機能を維持している。同様に、衝撃緩和部12mは、例えば、図11(C)に示すように、すり板片12bが厚さB=10mmの摩耗前の新品の状態から使用を開始して、図11(D)に示すようにすり板片12bが使用限界の残存量Δ2=3mmになっても面取り部が残存しており、限界摩耗量に達するまで衝撃緩和機能を維持している。衝撃緩和部12k,12mは、面取り寸法H1,H2が厚さBを超えるとすり板片12a,12bの形状が変化して空力特性などに影響を与えるおそれがあり、面取り寸法H1,H2が小さ過ぎるとすり板片12a,12bが使用限界に達する前に衝撃緩和機能が失われてしまう。このため、衝撃緩和部12kは、例えば、すり板片12aが厚さB=10mm、使用限界の残存量Δ2=2mmであるときには面取り寸法H1を9〜10mmの範囲内に設定することが好ましい。また、衝撃緩和部12mは、例えば、すり板片12bが厚さB=10mm、使用限界の残存量Δ2=3mmであるときには面取り寸法H1を8〜10mmの範囲内に設定することが好ましい。
【0028】
図3及び図4に示す装着部13は、集電舟8の舟体枠23にすり板組立体11を着脱自在に装着する部材である。装着部13は、外観形状が長方形状の薄板状部材であり、図示しないボルトなどの固定部材によってすり板片12bの下面に着脱自在に固定されている。装着部13は、図3に示すように、舟体枠23側の装着部23aと嵌合可能な凸状の嵌合部であり、すり板12の下面から突出するようにこのすり板12の両端部に配置されている。装着部13の高さは、ストッパ部19と導電部15との間に間隔調整部21を横方向から挿入するときに、この間隔調整部21とこの装着部13とが干渉しないように、弾性部14及び導電部15の厚さの合計よりも僅かに低く形成されている。装着部13は、図4に示すように、すり板12の両端部に配置されており、弾性部14、導電部15及び間隔調整部21をすり板片12bに位置決めするときの指標としても機能する。
【0029】
図3〜図7に示す弾性部14は、すり板12の上下方向への移動に応じて弾性変形する部材である。弾性部14は、耐アーク性を有する非導電性の長板状の可撓性部材(シート状部材)であり、弾性部14の上面にはすり板片12a,12bの下面が接触している。弾性部14は、例えば、ガラスクロス繊維の両面にシリコンゴムを接合した合計3枚のサンドイッチ構造の可塑性シートである。弾性部14は、トロリ線Tの変位に追従してすり板片12aが上下方向に移動すると、このすり板片12aの上下動作に応じて撓む。弾性部14は、図5及び図7に示すように、この弾性部14の長さ方向及び幅方向に所定の間隔をあけて貫通孔14aを備えている。
【0030】
図3〜図7に示す導電部15は、電流経路を確保するための部材である。導電部15は、弾性部14とともに弾性変形可能な可撓性を有する複数枚(例えば5枚1組)の銅板などを並べた導電性部材であり、図5〜図7に示すように導電部15の幅は弾性部14の幅よりも狭く形成されている。導電部15は、図5に示す固定ボルト17aを挿入するためにこの導電部15を貫通する貫通孔15aと、図7に示す固定ボルト22aを挿入するためにこの導電部15を貫通する貫通孔15bなどを備えている。図5〜図7に示すように、導電部15の上面には弾性部14の下面が接触し、導電部15の下面には可動ガイド部16、間隔調整部21及び弾性支持部25の上面がそれぞれ接触している。
【0031】
図3〜図5に示す可動ガイド部16は、すり板片12aとともに移動する部材である。可動ガイド部16は、図5に示すように、断面が四角形状の中空のフレーム部材であり、すり板片12a、弾性部14及び導電部15と一体となって上下方向にスライド可能である。可動ガイド部16は、図3及び図4に示すように、舟体枠23の長さ方向に所定の間隔をあけて複数配置されている。可動ガイド部16は、図5に示すように、この可動ガイド部16の上部を貫通する貫通孔16aと、固定ガイド部24側の摺動面24bと摺動する摺動面16bと、固定ボルト17aを挿入するために可動ガイド部16を貫通する貫通孔16cなどを備えている。可動ガイド部16は、トロリ線Tの変位に追従してすり板片12aが上下方向に移動するときに、このすり板片12aの上下動作に応じて上下方向にスライドする。
【0032】
図4及び図5に示す固定部17は、すり板片12aと可動ガイド部16とを固定する部材である。固定部17は、図5に示すように、すり板片12aの下面と可動ガイド部16の上面との間に弾性部14及び導電部15を挟み込むように、すり板片12aに可動ガイド部16を着脱自在に固定する。固定部17は、貫通孔15a,16a,18aを貫通して先端部がすり板片12aの雌ねじ部12cにねじ込まれる固定ボルト(すり板片取付ボルト)17aと、この固定ボルト17aと可動ガイド部16との間に挟み込まれる座金17bなどを備えている。
【0033】
図4、図5及び図7に示す間隔調整部18は、すり板片12a,12bと導電部15との間の間隔を調整する部材である。間隔調整部18は、図5及び図7に示すように、弾性部14の貫通孔14aに嵌め込まれる円環状のカラーなどであり、すり板片12aと導電部15との間の隙間を埋めてこれらを電気的に接続するスペーサとして機能する。間隔調整部18は、固定ボルト17a,22aが貫通する貫通孔18aを備えている。間隔調整部18は、図5に示すように、すり板片12a,12bと導電部15との間に挟み込まれることによってこれらの間の間隔を一定に調整している。
【0034】
図3〜図7に示すストッパ部19は、可動ガイド部16の可動範囲を所定範囲内に規制する部材である。ストッパ部19は、図5に示すように、断面形状が略W字状の薄板状部材であり、図3及び図4に示すように可動ガイド部16の内部を貫通しており、図3に示すようにストッパ部19の両端部は舟体枠23の内側底面に対して所定の高さで固定されている。ストッパ部19は、図5に示すこのストッパ部19の下部底面と可動ガイド部16の下部上面とを接触させることによって、可動ガイド部16の可動範囲(上下方向の移動量)の上限を規定するとともに、このストッパ部19の上端面と可動ガイド部16の上部下面とを接触させることによって、可動ガイド部16の可動範囲の下限を規定する。ストッパ部19は、図3に示す弾性支持部25の弾性力によってすり板片12a及び弾性部14などとともに可動ガイド部16が上方に移動して、これらの部材が舟体枠23から脱落するのを防止する。ストッパ部19は、図6に示すように、弾性支持部25を挿入するためにこのストッパ部19を貫通する貫通孔19aと、図5に示すように固定ボルト17aを挿入するためにこのストッパ部19を貫通する貫通孔19bと、図7に示すように固定ボルト22aを挿入するためにこのストッパ部19を貫通する貫通孔19cなどを備えている。
【0035】
図5及び図6に示す緩衝部20は、ストッパ部19の下部底面と可動ガイド部16の下部上面とが衝突したときに発生する衝撃を緩和する部材である。緩衝部20は、例えば、ゴム製の薄板状部材であり、図4に示すようにストッパ部19の長さ方向に沿ってこのストッパ部19の下部底面に接着剤などによって固定されている。緩衝部20は、図6に示すように、弾性支持部25を挿入するためにこの緩衝部20を貫通する貫通孔20aと、図5に示すように固定ボルト17aを挿入するためにこの緩衝部20を貫通する貫通孔20bなどを備えている。
【0036】
図3、図4(B)及び図7に示す間隔調整部21は、導電部15とストッパ部19との間の間隔を調整する部材である。間隔調整部21は、導電部15の下面とストッパ部19の上面との間に嵌め込まれる厚板状部材であり、図4(B)に示すように導電部15の両端部とストッパ部19の両端部との間の隙間を埋めるスペーサとして機能する。間隔調整部21は、図7に示すように、固定ボルト22aが貫通する貫通孔21aを備えており、導電部15とストッパ部19との間に挟み込まれることによってこれらの間の間隔を一定に調整している。
【0037】
図3、図4及び図7に示す固定部22は、すり板片12bとストッパ部19とを固定する部材である。固定部22は、図3及び図7に示すように、すり板片12bの下面とストッパ部19の上面との間に弾性部14、導電部15及び間隔調整部21を挟み込むように、すり板片12bにストッパ部19を着脱自在に固定する。固定部22は、図7に示すように、貫通孔15b,18a,19c,21aを貫通して先端部がすり板片12bの雌ねじ部12dにねじ込まれる固定ボルト(すり板片取付ボルト)22aと、この固定ボルト22aとストッパ部19との間に挟み込まれる座金22bなどを備えている。
【0038】
図3及び図5〜図7に示す舟体枠23は、集電舟8の本体部分を構成する部材である。舟体枠23は、図5〜図7に示すように、断面形状が略U字状の溝形のフレーム部材であり、舟体枠23の上部には開口部が形成されており、舟体枠23の内部には可動ガイド部16、ストッパ部19、固定ガイド部24及び弾性支持部25などが収容されている。舟体枠23の外側側面(前面及び後面)には、整流部9が取り付けられており、舟体枠23の下面には図1に示す舟支え部7が取り付けられている。舟体枠23の両端部には、図3に示すように、所定長さで溝のない厚板状部分が形成されており、この厚板状部分の上面にはすり板片12bの下面が取り付けられている。舟体枠23は、すり板組立体11側の装着部13を着脱自在に装着する装着部23aを備えており、この装着部23aは装着部13と嵌合可能な凹状の嵌合部である。
【0039】
図5及び図6に示す固定ガイド部24は、可動ガイド部16を移動自在にガイドする部材である。固定ガイド部24は、舟体枠23の内側両側面に対向して取り付けられた長板状部材であり、図5に示す可動ガイド部16側の摺動面16bと摺動する摺動面24bを備えている。固定ガイド部24は、可動ガイド部16の垂直方向の移動を許容し、この可動ガイド部16の水平方向の移動を規制するストッパ部として機能し、トロリ線Tの変位に追従して可動ガイド部16が上下方向に移動可能なようにこの可動ガイド部16を移動自在にガイドする。
【0040】
図3及び図6に示す弾性支持部25は、すり板片12aを弾性支持する部材である。弾性支持部25は、圧縮を受ける圧縮コイルばねなどの弾性体(付勢部材)であり、図3に示すように隣り合う可動ガイド部16間に配置されており、図3及び図6に示すように各すり板片12aに対応してすり板片12aと同じ個数配置されている。弾性支持部25は、図6に示すように、上端部がストッパ部19の貫通孔19a及び緩衝部20の貫通孔20aを貫通して導電部15の下面と接触しており、弾性支持部25の下端部は舟体枠23の底部上面に取り付けられている。弾性支持部25は、図3及び図6に示すように、弾性部14及び導電部15を介してすり板片12aを支持しており、図1に示すすり板片12aとトロリ線Tとの間に作用する接触力Cに応じて伸縮する。
【0041】
図6に示す固定部26は、弾性支持部25を舟体枠23に固定する部材である。固定部26は、舟体枠23の内側底面に取り付けられて弾性支持部25の下端部を保持する保持板26aと、この保持板26aとの間で弾性支持部25の下端部を挟み込みこの弾性支持部25の下端部を押さえ付ける押さえ板26bと、保持板26a及び押さえ板26bを舟体枠23に固定する固定ボルト26cと、この固定ボルト26cと押さえ板26bとの間に挟み込まれる座金26dなどを備えている。
【0042】
次に、この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造を備える集電舟の動作を説明する。
図1に示すように、車両1が進行方向L0に走行するとすり板12がトロリ線Tに対して接触移動し、すり板12の進行に伴ってトロリ線Tが押上げられる。トロリ線Tは長さ方向に所定の間隔をあけて架線金具によって支持点で支持されているため、トロリ線Tの支持点付近が硬点となる。このため、すり板12がトロリ線Tを上方向に変位させる押上げ量が支持点付近では小さいが、このトロリ線Tの支持点間の中央付近ではこの押上げ量が大きくなる。その結果、車両1の走行に伴ってすり板12が上下の波状運動を繰り返し、すり板12がトロリ線Tから離れる離線が発生する原因となる。従来のすり板体とは異なり多数のすり板片12a,12bによってすり板12が分割されているため、各すり板片12aの重量が軽減されている。また、弾性部14及び導電部15によってすり板片12aが柔軟に支持されているとともに、独立した弾性支持部25によって各すり板片12aが支持されている。このため、各すり板片12aに接触力Cが作用すると弾性支持部25の弾性力に抗して弾性部14及び導電部15が撓み、接触力Cが作用するすり板片12aが変位するとともに、このすり板片12aと隣り合う両側のすり板片12aも追従して変位する。その結果、すり板片12aのトロリ線Tへの追従性能が向上して離線が低減し集電性能が向上するとともに、すり板片12aとトロリ線Tとの間に発生する離線アークによるすり板12の損傷が低減する。
【0043】
次に、この発明の実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造の作用を説明する。
図2に示すように、車両1が進行方向L0に走行して区分装置Sの入口側から出口側に向かってすり板12が進入すると、図12(A)に示すようにすり板片12aとスライダS1との間に接触力Cが作用して、弾性支持部25の弾性力に抗して弾性部14及び導電部15がすり板片12aとともに撓み、接触力Cが作用するすり板片12aがこのすり板片12aに隣接するすり板片12aよりも下方に変位する。このため、接触力Cが作用するすり板片12aとこのすり板片12aに隣接するすり板片12aとの間に高低差が生じ、これらの間に段差部が形成される。図2に示すように、区分装置Sの入口側からすり板12がさらに進入すると、図12(B)に示すようにスライダS1がすり板12の長さ方向(図中L1方向)に偏移する。このため、隣り合うすり板片12a間の段差部にスライダS1が位置し、この隣り合うすり板片12aの衝撃緩和部12kの傾斜面とスライダS1の側面とが接触する。図2に示すように、区分装置Sの入口側からさらに前方にすり板12が進入すると、図12(C)に示すようにスライダS1がL1方向にさらに偏移する。このとき、図12(B)(C)に示すように、隣接するすり板片12aの衝撃緩和部12kの傾斜面上にスライダS1の両側面が接触した状態でスライダS1がL1方向に僅かに移動する。このため、スライダS1が接近する側(図中左側)のすり板片12aの衝撃緩和部12kの傾斜面がこのスライダS1の一方の側面(図中左側面)に対して相対的に下方に摺動する。また、スライダS1が遠ざかる側(図中右側)のすり板片12aの衝撃緩和部12kの傾斜面がこのスライダS1の他方の側面(図中右側面)に対して相対的に上方に摺動する。その結果、図12(D)に示すように、隣接するすり板片12a間の段差部にスライダS1が嵌り込まず、すり板片12aとスライダS1との間に発生する衝撃を衝撃緩和部12kが緩和するため、隣接する一方のすり板片12aから他方のすり板片12aにスライダS1がスムーズに乗り移る。同様に、図3及び図4に示す隣接するすり板片12a,12b間においても、この隣接するすり板片12a,12b間の段差部にスライダS1が嵌り込まず、すり板片12bとスライダS1との間に発生する衝撃を図10に示す衝撃緩和部12mが緩和するため、すり板片12aからすり板片12bにスライダS1がスムーズに乗り移る。
【0044】
図2に示す区分装置Sの出口側にすり板12が近づくときにも、隣接するすり板片12a,12b間の段差部にスライダS2が嵌り込まず、すり板片12a,12bとスライダS2との間に発生する衝撃を衝撃緩和部12k,12mが緩和する。このため、隣接するすり板片12bからすり板片12aにスライダS2がスムーズに乗り移るとともに、隣接する一方のすり板片12aから他方のすり板片12aにスライダS2がスムーズに乗り移る。図11に示すように、すり板片12a,12bが摩耗して使用限界の残存量Δ2に達しても、衝撃緩和部12k,12mの面取りが残存するためすり板片12a,12bの交換時期になるまで衝撃緩和機能が維持される。
【0045】
この発明の第1実施形態に係るすり板片の衝撃緩和構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、隣り合うすり板片12a間においてこのすり板片12aとスライダS1,S2とが衝突したときに発生する衝撃を衝撃緩和部12kが緩和する。また、この第1実施形態では、隣り合うすり板片12a,12b間においてこのすり板片12bとスライダS1,S2とが衝突したときに発生する衝撃を衝撃緩和部12mが防止する。このため、例えば、区分装置Sをすり板12が通過するときに、隣接するすり板片12a間の段差部及び隣接するすり板片12a,12b間の段差部にスライダS1,S2が嵌り込み、このすり板片12a,12bとこのスライダS1,S2とが干渉して、これらの間に発生する衝撃を衝撃緩和部12k,12mによって低減することができる。
【0046】
(2) この第1実施形態では、すり板片12a,12bが所定の摩耗量に達するまで衝撃緩和部12k,12mが残存する。このため、すり板片12a,12bが規定の摩耗限界に達し交換時期になるまで、すり板片12a,12bとスライダS1,S2との間に生ずる衝撃を確実に緩和することができる。
【0047】
(3) この第1実施形態では、すり板片12a,12bの隅部12i,12jに衝撃緩和部12k,12mが形成されている。このため、すり板片12a,12bの形状を大幅に変更することなく、すり板片12a,12bの一部を改良するだけですり板片12a,12bとスライダS1,S2とが干渉するのを容易に防止することができる。
【0048】
(4) この第1実施形態では、衝撃緩和部12k,12mがすり板片12a,12bの隅部12i,12jに形成されている面取り部である。このため、簡単な加工によってすり板片12a,12bとスライダS1,S2とが干渉するのを容易に防止することができる。
【0049】
(第2実施形態)
以下では、図1〜図13に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。図13及び図14に示す衝撃緩和部12k,12mは、すり板片12a,12bの隅部12i,12jに形成されている丸み部であり、この隅部12i,12jを切削などの機械加工又は成形型によって焼結して形成される。衝撃緩和部12k,12mは、断面形状が1/4円状であり所定の半径で湾曲する湾曲面に形成されている。この発明の第2実施形態には、第1実施形態と同様の効果がある。
【0050】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、枠組6に対してすり板12が進行方向後側に位置するなびき方向(進行方向L0)に集電装置3が移動する場合を例に挙げて説明したが、枠組6に対してすり板12が進行方向前側に位置する反なびき方向(進行方向L0とは逆方向)に集電装置3が移動する場合についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、集電装置3がシングルアーム式パンタグラフである場合を例に挙げて説明したが、菱型パンタグラフ、翼型パンタグラフなどの他の形式のパンタグラフについてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、すり板片12aが12枚でありすり板片12bが2枚であるすり板12を例に挙げて説明したが、すり板片12a,12bの枚数はこの枚数に限定するものではない。
【0051】
(2) この実施形態では、すり板12と摺動する電車線としてスライダS1,S2を例に挙げて説明したが、電車線金具などの他の電車線材料についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、すり板12がスライダS1からスライダS2に向かって進入する場合を例に挙げて説明したが、すり板12がスライダS2からスライダS1に向かって逆方向に進入する場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、新幹線用パンタグラフ舟体に使用される多分割すり板舟体のすり板片12a,12bにこの発明を適用する場合を例に挙げて説明したが、在来線用パンタグラフ舟体に多分割すり板舟体が使用される場合にはこのすり板片についてもこの発明を適用することができる。
【0052】
(3) この実施形態では、区分装置Sがトロリ線Tの一方の側面から1本のスライダS1が遠ざかりトロリ線の他方の側面に1本のスライダS2が近づく碍子型セクション(A形セクション)である場合を例にあげて説明したが、他の形式の区分装置についてもこの発明を適用することができる。例えば、トロリ線Tの両側面から左右にそれぞれ1本のスライダS1が遠ざかりトロリ線の両側面に左右からそれぞれ1本のスライダS2が近づく碍子型セクション(B形セクション)又はFRP形同相セクションなどについてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、区分装置Sをすり板12が通過するときに発生するスライダS1,S2とすり板片12a,12bとの間の衝撃を緩和する場合を例に挙げて説明したが、このような場合に限定するものではない。例えば、線路の分岐箇所において相互に交差するトロリ線Tを通過するときに発生する可能性があるトロリ線Tとすり板片12a,12bとの間の衝撃についても緩和することができる。
【符号の説明】
【0053】
3 集電装置
8 集電舟
12 すり板
12a,12b すり板片
12e,12f 端面部
12g,12h 側面部
12i,12j 隅部
12k,12m 衝撃緩和部
L 架線(電車線)
T トロリ線
S 区分装置
1,S2 スライダ(電車線)
θ0〜θ3 傾斜角度
0 進行方向
C 接触力
Δ1 間隔
Δ2 残存量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車線と摺動するすり板を長さ方向に複数分割して並べたすり板片に発生する衝撃を緩和するすり板片の衝撃緩和構造であって、
隣り合う前記すり板片間においてこのすり板片と前記電車線とが衝突したときに発生する衝撃を緩和する衝撃緩和部を備えること、
を特徴とするすり板片の衝撃緩和構造。
【請求項2】
請求項1に記載のすり板片の衝撃緩和構造において、
前記衝撃緩和部は、前記すり板片が所定の摩耗量に達するまで残存すること、
を特徴とするすり板片の衝撃緩和構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のすり板片の衝撃緩和構造において、
前記衝撃緩和部は、前記すり板片の隅部に形成されていること、
を特徴とするすり板片の衝撃緩和構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のすり板片の衝撃緩和構造において、
前記衝撃緩和部は、前記すり板片の隅部に形成されている面取り部であること、
を特徴とするすり板片の衝撃緩和構造。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれか1項にすり板片の衝撃緩和構造において、
前記衝撃緩和部は、前記すり板片の隅部に形成されている丸み部であること、
を特徴とするすり板片の衝撃緩和構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−80642(P2012−80642A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222212(P2010−222212)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000003115)東洋電機製造株式会社 (380)
【Fターム(参考)】