説明

せん断変位波形の相関を向上させた方法及びシステム

【課題】超音波放射量を最適化しながら、せん断波速度推定、フレームレート及び空間分解能を向上させる。
【解決手段】基準パルスを複数の標的部位(102)に送達し、対応する初期位置を検出する。複数のプッシングパルスセグメントが押圧箇所に送達され、該複数のプッシングパルスセグメントに対応するパラメータは所望の波形を有するせん断変位波形を生成する。さらに、標的部位(102)の少なくとも1つの部分組の変位を時間の関数として検出するために、複数の標的部位(102)にトラッキングパルスを送達させる。具体的にはこれらの変位は、せん断変位波形の時間サンプルとして決定される。引き続いて、複数の標的部位(102)の部分組内の少なくとも異なる2つの標的部位(102)で検出されたせん断変位波形間のシフトが検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府の権利に関する表明)
本開示の実施形態は超音波撮像に関し、またさらに詳細にはせん断波(shear wave)速度推定を向上させたせん断波弾性撮像に関する。
【背景技術】
【0002】
医学診断用超音波は、生物学的組織の音響特性を探査して対応する画像を作成するために超音波を利用する撮像モダリティである。具体的には診断用超音波システムは、筋肉、腱及び多くの内部臓器を視覚化し、ほぼリアルタイムの断層画像を用いてそのサイズ、構造及び任意の病変部を捕捉するために使用される。さらに診断用超音波はまた、バイオプシーなどの介入的手技のガイドのために超音波探触子が使用されるような治療的手技にも用途を見出せる。
【0003】
超音波パルスの発生と反射エネルギーの検出は典型的には、超音波探触子内に患者の近傍または患者に接触させて配置した複数のトランスジューサを介して実現される。こうしたトランスジューサは典型的には、送信のために電気エネルギーを力学的エネルギーに変換すること並びに受信時に力学的エネルギーを電気信号に戻すことが可能な電気機械的素子を含む。これらの電気信号はさらに生物学的組織などの標的部位に関するディジタル画像を成すように処理かつ変換される。
【0004】
最近の超音波撮像技法は生物学的組織の力学特性を決定するために音響式に生成したせん断波を利用する。具体的にこれらの技法のうちの幾つかは、せん断速度及びせん断弾性係数などの組織力学特性を決定するために関心領域全体にわたってせん断波誘導による変位をトラッキングする。せん断波は、ファントームまたは標的組織内において1つまたは複数のプッシングパルスを標的部位に送達することによって生成される。プッシングパルスは、Bモードまたはカラードプラ超音波撮像で利用される音響パルスと比べてより大きな振幅及びより長いパルス長を有するのが典型的である。したがってプッシングパルスによって、生成点から組織を通って伝播するせん断波が生成され、これにより組織に沿った複数の箇所に時変動する変位が生じる。さらにせん断波が生じさせる変位は、標準のドプラトラッキングパルスを用いて検出されることがある。せん断波誘導による変位を時間の関数として複数の箇所でトラッキングすることによって、組織の1つまたは複数の力学特性と関連することになるせん断速度の推定が可能となる。
【0005】
せん断速度推定を用いたせん断剛性などの組織力学特性は、病理学に関連する組織状態と密接な関連があるため、組織力学特性の特徴付けは重要な医学的用途を有する。典型的には組織の少なくとも一部分が、がん、腫瘍、線維症、脂肪症またはこうした別の状況といった病変の発症または存在を示すように周囲の組織と比べてより硬くなることがある。しかし従来のせん断速度推定技法は、本質的に信号対雑音比(SNR)が低いためにせん断波トラッキングの能率が悪く、このためにさらに速度及び硬度の算定が誤りとなることがある。硬度値が誤っているとこれがさらに、医学的診断の正確さに悪影響を及ぼすことがある。せん断波の発生に使用するパルスの振幅及び/または持続時間を増大させることによってSNRを改善しようとする試みは、臨床使用のための音響放射量の増大につながることがあり、またこのために実用不可能となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第20080249408号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、高効率のせん断波弾性撮像のための有効な方法及びシステムが開発されることが望ましい。具体的には、例えば超音波放射量を最適化しながら、せん断波速度推定、フレームレート及び空間分解能を向上させた方法及びシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技法の態様により、せん断変位波形の相関を向上させるための方法を提示する。本方法は、1つまたは複数の基準パルスを複数の標的部位に送達し該複数の標的部位の初期位置を検出するステップを含む。さらに、複数のプッシングパルスセグメントが1つまたは複数の押圧箇所に送達される。具体的には、所望の波形を有する少なくとも1つのせん断変位波形を生成するように、複数のプッシングパルスセグメントに対応した1つまたは複数のパラメータを適応させている。さらに複数の標的部位に対して、該複数の標的部位の少なくとも1つの部分組の変位を時間の関数として検出するために1つまたは複数のトラッキングパルスが送達される。具体的にはこれらの変位は、せん断変位波形の時間サンプルとして決定される。引き続いて、複数の標的部位の部分組の少なくとも異なる2つの標的部位で検出されたせん断変位波形間のシフトが決定される。
【0009】
本システムの態様による超音波撮像システムを提示する。本システムは、複数のパルスを複数の標的部位に送達するトランスジューサアレイを含む。このために該複数のパルスは、1つまたは複数の基準パルスと、複数の標的部位に送達される1つまたは複数のトラッキングパルスと、1つまたは複数の押圧箇所に対して複数のプッシングパルスセグメントとして送達される少なくとも1つのプッシングパルスと、を含む。本システムはさらに、トランスジューサアレイと通信可能に結合されたパルス成形ユニットを含む。このパルス成形ユニットは、複数のプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数の適応化パラメータを用いて所望の波形を有する少なくとも1つのせん断変位波形を生成する。さらに本システムはまた、パルス成形ユニットとトランスジューサアレイのうちの少なくとも一方と通信可能に結合された処理ユニットも含む。この処理ユニットは、パルス成形ユニットによる所望の波形でのせん断変位波形の生成を可能にさせるように複数のプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数のパラメータを適応させている。さらにこの処理ユニットは、複数のプッシングパルスセグメントに応答して複数の標的部位の少なくとも1つの部分組から受け取ったデータを処理し、せん断変位波形の時間サンプルであるような複数の標的部位の変位を決定する。引き続いてこの処理ユニットは、複数の標的部位の部分組内の少なくとも異なる2つの標的部位で検出されたせん断変位波形間のシフトを決定する。
【0010】
本技法の別の態様では、せん断変位波形の相関を向上させるための実行可能プログラムをその上に備えた非一時的なコンピュータ読み取り可能記憶媒体を開示する。具体的にはこの実行可能プログラムは処理ユニットに対して、対応する初期位置を検出するために1つまたは複数の基準パルスを複数の標的部位に送達するように指令する。さらに、プログラム命令の下で複数のプッシングパルスセグメントが1つまたは複数の押圧箇所に送達される。このためには、所望の波形を有する少なくとも1つのせん断変位波形が生成されるように複数のプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数のパラメータを適応させている。さらに、1つまたは複数の標的部位に対して1つまたは複数のトラッキングパルスを送達し、複数の標的部位の少なくとも1つの部分組の変位を時間の関数として検出している。具体的にはこれらの変位はせん断変位波形の時間サンプルとして決定される。引き続いてこのプログラムは処理ユニットに対して、複数の標的部位の部分組内の少なくとも異なる2つの標的部位で検出されたせん断変位波形間のシフトを決定するように指令する。
【0011】
本技法に関するこれらの特徴、態様及び利点、並びにその他の特徴、態様及び利点については、同じ参照符号が図面全体を通じて同じ部分を表している添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによってより理解が深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本システムの態様に従った例示的なせん断波弾性撮像システムの概要図である。
【図2】本技法の態様に従ったせん断波速度推定を向上させるための例示的なせん断波弾性撮像法を表した流れ図である。
【図3】図2の方法を用いて標的部位に沿って様々なレベルの変位を誘導するせん断波の生成に使用する例示的なパルスシーケンスの概要図である。
【図4】図3のパルスシーケンスを用いて生成したせん断波が生じさせるファントーム内の複数の箇所の相対的な変位に関する例示的な構成を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明で、せん断波弾性撮像(SWEI)を強化したシステム及び方法を示すことにする。具体的には、本明細書で例証するある種の実施形態は、せん断変位波形の相関(すなわち、生物学的組織などの標的物体を撮像する間におけるせん断剛性などの力学特性の推定)を大幅に向上させたシステム及び方法を示している。以下の説明が含む実施形態は幾つかのみであるが、SWEIのシステム及び方法は処理及び付与量制御を最適化した撮像の強化を達成するように様々な別の撮像システムや用途で実現させることもできる。一例として、SWEIのシステム及び方法はまた、標的の薬剤や遺伝子の送達の監視、並びに超音波撮像に適したプラスチックや航空宇宙素材(aerospace composites)などの弾性材料に対する非破壊検査にも用いることができる。本開示に記載したシステム及び方法はまた、乳房、甲状腺、肝臓または別の臓器におけるがん性病変の検出にも用途が見出される。さらに本システム及び方法はまた、肝線維症の診断及びステージ判定の支援のため、並びに高強度集束超音波(HIFU)、ラジオ波アブレーション(RFA)及び密封小線源治療を含む治療の監視の支援のために用いられることもある。次のセクションでは図1を参照しながら、本システムの様々な実現形態を実施するのに適した例示的な環境について説明することにする。
【0014】
図1は、1つまたは複数のパルス超音波信号を用いて標的部位102を撮像するための超音波システム100を表している。一例として標的部位102は、心臓組織、肝臓組織、乳房組織、前立腺組織、甲状腺組織、リンパ節、脈管構造及び/または超音波撮像に適した別の対象などの1つまたは複数の生物学的組織を含むことがある。さらにこの超音波信号は例えば、1つまたは複数の基準パルス、1つまたは複数のプッシングパルス及び/または1つまたは複数のトラッキングパルスを含むことがある。
【0015】
本明細書で使用する場合に「基準パルス」という用語は、ほとんど動きが想定されないあるいは動きが既知量である時点で発射される超音波ビームのことを意味する。基準パルスは、組織が静止位置または平衡位置まで戻ったと見なされる時点であるプッシングパルスの前あるいは押圧からずっと後に発射されるのが典型的である。具体的には基準パルスは、標的部位102の初期位置または基準位置を検出するために発射される。「プッシングパルス」という用語は標的組織を変位させるのに用いられる高エネルギーの超音波ビームを意味している。典型的にはプッシングパルスは基準パルスと比べてより高い送信エネルギーを有する。さらに「トラッキングパルス」という用語はある具体的な時点における標的部位102の位置を検出するために用いられる基準パルスと同様の超音波ビームを示している。一例としてトラッキングパルスは、標的部位102の変位位置を決定するためにプッシングパルスの送達のわずか後に送達されることがある。
【0016】
したがって一実施形態によるシステム100は、トランスジューサ素子108のアレイ106(例えば、トランスジューサ探触子110内部の圧電結晶)を駆動しパルス状の超音波信号を身体またはボリューム内に送出するようなパルス波形を生成する送信回路104を含む。このパルス状超音波信号の少なくとも一部分は標的部位102から後方散乱され、トランスジューサアレイ106に戻されるエコーが生成される。トランスジューサ素子108は、これらのエコー信号を電気信号に変換しており、またこの電気信号はさらに処理するために受信回路112に伝送されることがある。
【0017】
一実施形態ではそのシステム100はさらに、送信回路104及び受信器回路の動作を制御する処理ユニット114を含む。このため処理ユニット114は、1つまたは複数の汎用または特定用途向けプロセッサと、ディジタル信号プロセッサと、マイクロコンピュータと、マイクロコントローラと、特定用途向け集積回路(ASIC)と、現場プログラム可能ゲートアレイ(FPGA)あるいはシステム100の別の構成要素と通信する適当な別のデバイスと、を含む。ある種の実施形態ではその処理ユニット114は、キーボード、タッチ画面、マウス、ボタン及び/またはスイッチなどの1つまたは複数のユーザ入力デバイス116を介して人間のオペレータから受け取ったコマンドに応答して動作する。
【0018】
処理ユニット114は、異なるパルスの送達シーケンス、トラッキングパルス及びプッシングパルスを送達する周波数、異なる2つのパルス間の時間遅延、ビーム強度及び/または別の撮像システムパラメータを制御するために制御信号及びタイミング信号を提供する。具体的には本技法の態様に従って処理ユニット114は、標的部位102を通過するように所望の波形を有するせん断変位波形を誘導させる押圧力を送達させるように、送信回路104に対して適当なタイミング信号及び制御信号を提供する。
【0019】
このために処理ユニット114は、所望の押圧力を有するプッシングパルスをより短いセグメントに分割し、より短い複数のプッシングパルスセグメントを生成する。さらに処理ユニット114は、標的部位102に沿った複数の点に所望の変位を誘導するせん断波が生成されるようにこのより短い複数のプッシングパルスセグメントに対応して1つまたは複数のパラメータを適応させている。一例としてこのより短い複数のプッシングパルスに対応する1つまたは複数のパラメータは、振幅、周波数、パルス長、波形及び/またはデューティサイクルを含む。具体的には処理ユニット114は、所望の正弦波形、三角形、正方形、sincまたはコード化形状を有するせん断波形を生成するように、このより短い複数のプッシングパルスセグメントの各々ごとに1つまたは複数のパラメータの適当な値を決定する。一実施形態では、その所望波形の選択は、せん断変位波形内のシフトを検出するために使用される具体的なアルゴリズム及び/または撮像中に遭遇するノイズの具体的な統計的形態に基づくことがある。
【0020】
さらにある種の実施形態ではその処理ユニット114は、さらなる処理のために1つまたは複数のパラメータに関する決定した値をメモリデバイス118内に保存することがある。このためにメモリデバイス118は、ランダムアクセスメモリ、読出し専用メモリ、ディスク駆動装置、半導体メモリデバイス及び/またはフラッシュメモリなどの記憶デバイスを含むことがある。別法としてその処理ユニット114は、より短い複数のプッシングパルスセグメントを生成する送信回路104内のパルス成形回路120にその決定値を伝達する。さらにこれらのより短いプッシングパルスセグメントは、デルタ関数でコンボリューショしたディジタルコード、デルタ関数でコンボリューショしたマルチレベルコード、正弦波形、方形波形、sinc波形、またはこれらを組み合わせたものを有するせん断変位波形を生成する。したがってパルス成形回路120は例えば、1つまたは複数の増幅器、アナログ対ディジタル変換器、ディジタル対アナログ変換器、フィルタ、メモリ及び/またはPCIバスインタフェース(図示せず)を含むことがある。図1はパルス成形回路120を送信回路104の一部として図示しているが、ある種の実施形態は独立したパルス成形システムを利用することがある。別法としてそのパルス成形回路120は、成形した波形を生成するための1つまたは複数の適応化パラメータを有するより短い複数のプッシングパルスセグメントを含むパルスシーケンスを作成するための処理ユニット114など別のシステム構成要素として設けられることがある。
【0021】
1つまたは複数のパラメータを変動させることによってより短い複数のプッシングパルスセグメントを含む駆動用パルスシーケンス内に成形したフィーチャを包含させることによって、標的部位102に沿った異なる点に対応する変位レベルを誘導するようなせん断波が得られる。具体的には得られる変位は、駆動用パルスシーケンス内に含まれかつシステムの残りの応答とコンボリューションしたフィーチャの形状及び箇所を近似している。一例として、パルス長は誘導される変位に比例することが知られている。したがって、より短い複数のプッシングパルスセグメントからなるシーケンス内において、対応するパルス長が正弦波形を近似するように適応されていれば、得られるせん断波が誘導する変位も正弦波形を近似している。時間の関数として決定されるこの得られる変位はしたがって、標的部位102に沿ってせん断波が伝播する際の異なる箇所における成形フィーチャを呈する。
【0022】
ある種の実施形態ではそのシステム100は、複数の箇所で検出した変位に対応する画像を表示するためにモニターなどの表示デバイス122を含む。一実施形態ではその表示デバイス122はさらに、ユーザに対して標的部位を撮像するための構成オプションを提供するためのグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を含むことがある。一例としてこの構成オプションには、所望の波形、より短いプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数のパラメータの値、選択可能な関心領域(ROI)、遅延プロフィール、所望のパルスシーケンス及び/または適当な別の撮像システム設定を含むことがある。この構成オプションは、せん断変位波形間の相関検出を向上させるために成形したパルスを用いてせん断波速度推定を向上させるように適応させることがある。
【0023】
したがって処理ユニット114は、タイミング回路(図示せず)を用いて異なる箇所で時間の関数として検出したせん断変位波形に対応する信号間の相関を推定している。具体的には処理ユニット114は、相関を迅速に推定するために送信パルスシーケンス内の成形されたフィーチャの箇所に対応した情報を使用する。処理ユニット114はこの相関させたフィーチャを用いて、異なる2つの標的部位で検出されたせん断変位波形間のシフトを決定する。さらに決定したこのシフトを用いて、せん断波形の速度を向上させた相関に基づいて推定することができる。せん断変位波形の相関を向上させかつせん断波速度を推定するための例示的な一方法について図2〜4を参照しながらさらに詳細に説明することにする。
【0024】
さらに、せん断波速度は標的部位102の材料特性に依存する。したがって、推定せん断波速度を用いて硬度や粘性などの組織力学特性を決定することができる。次いで、決定した組織特性を用いて標的組織内の病変や異常の有無を特定することができる。せん断変位波形の相関を向上させるために成形された波形を利用する例示的なSWEI法の1つについて図2を参照しながらさらに詳細に説明することにする。
【0025】
図2を見ると、本技法のある種の態様に従った例示的なSWEI法を表した流れ図200を示している。この例示的方法は、コンピュータ実行可能命令がコンピュータ処理システムまたはプロセッサ上にある一般的なコンテキストで記載することができる。一般にコンピュータ実行可能命令は、特定の機能を実行するまたは特定の抽象データタイプを実現するルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造、プロシージャ、モジュール、関数、その他を含むことがある。この例示的方法はさらに、通信ネットワークを介してリンクさせたリモート処理デバイスにより最適化機能が実行されるような分散コンピュータ処理環境で実施されることがある。分散コンピュータ処理環境ではコンピュータ実行可能命令は、メモリ記憶デバイスを含むローカルとリモートの両コンピュータ記憶媒体内に配置させることがある。
【0026】
さらに図2ではこの例示的方法を、ハードウェア、ソフトウェアまたはこれらの組み合わせの形で実現し得る動作を表した論理流れ図の形のブロック集合体として図示している。これらの様々な動作は、一般にこの例示的SWEI法の様々なフェーズにおいて実行される機能を示したブロックの形で図示している。ソフトウェアのコンテキストではこれらのブロックは、1つまたは複数の処理サブシステムによって実行させたときに記載された動作を実行するようなコンピュータ命令を示している。この例示的方法を記載する順序は限定と見なされるように意図しておらず、また本明細書に開示したこの例示的方法または同等の代替的方法を実現するように任意の数の記載ブロックを任意の順序で組み合わせることができる。さらに本明細書に記載した主題の精神及び趣旨を逸脱することなく、ある種のブロックをこの例示的方法から削除すること、あるいは追加的機能を備えた追加のブロックによってある種のブロックを増強することができる。検討を目的として、この例示的方法について図1の各要素を参照しながら説明することにする。
【0027】
SWEIは、せん断波が健全組織及び病的組織中を伝播する際のせん断波の推定速度に基づいた健全組織と病的組織の間の識別のために用いられる。せん断波速度は、様々な組織密度やせん断係数などの材料特性に依存する。したがってせん断波弾性撮像は、診断目的及び/または予後目的の2Dや3D画像を作成するために使用されることがある。典型的にはせん断波弾性撮像の間において標的部位に撮像システムの焦点が設定される。一例としてその標的部位は、腫瘍、がん性組織、切除組織及び/または硬化した血管など平均的な周囲組織と比べて硬度の上昇や低下があり得る領域を含むことがある。
【0028】
さらに本記載は、相互相関を用いた検出の改善を可能とするために所望の波形を有するせん断変位波形を発生させるようなプッシングパルスパラメータの適応を示した実施形態を含む。ある種の実施形態は、異なる標的部位で検出したせん断変位波形間のシフトに対する推定を向上させるために、絶対値差総和、反復位相ゼロ化、相互相関及び自己相関技法などの追加的な方法を利用することがある。
【0029】
したがってステップ202において、図1の送信回路104などの送信回路は1つまたは複数の標的部位に1つまたは複数の基準パルスを送達する。上で指摘したようにこの基準パルスは、組織が平衡位置にあると見なされる時点で発射される超音波ビームのことを意味する。したがって基準パルスによって、1つまたは複数の標的部位の各々の初期位置すなわち基準位置が検出される。さらにステップ204において送信回路は、標的部位内を伝播するせん断波を誘導させるように1つまたは複数の押圧箇所にプッシングパルスを送達する。
【0030】
具体的には送信回路は、ある具体的な押圧箇所に対するより短い複数のプッシングパルスセグメントとしてプッシングパルスを送達する。このためには、より短いN個のプッシングパルスセグメント並びに1つまたは複数の対応するパラメータが決定される。上で指摘したようにこの1つまたは複数のパラメータは例えば、振幅、周波数、位相、パルス長、波形及び/または集束箇所を含むことがある。具体的には、所望の正弦波形、三角形、正方形、sinc、コード化またはその他の形状を有するせん断変位波形を生成するように、より短い複数のプッシングパルスセグメントの各々ごとに1つまたは複数のパラメータの適当な値が決定される。
【0031】
したがって数N及びパラメータ値は、より短いプッシングパルスセグメントをある指定の反復速度あるいは不均等の間隔で発射することにより必要な空間的箇所に所望の変位が時間の関数として生成されるように決定される。一例としてパルス長は誘導される変位に比例することが知られている。したがってパルスシーケンス内のより短い複数のプッシングパルスセグメントの各々のパルス長は、得られるせん断変位波形に関する所望の波形を近似するように適応させることがある。
【0032】
一例として図3は、正弦波形の一部分を近似するように適応させた対応するパルス長を有するより短い複数のプッシングパルスセグメントの例示的なシーケンスを表したグラフ300を示している。図3では、要素302はある具体的な時点で発射される複数のトラッキングパルスを表す一方、円形要素304、306、308、310及び312はある具体的な押圧箇所に加えられるプッシングパルスセグメントを表している。具体的には、ある具体的なプッシングパルスセグメントに対応するY座標位置は、正弦波形のある具体的な位相に関する適正な変位を生成するのに用いられるパルス長を表している。さらに、対応するX座標位置は、その押圧箇所にプッシングパルスセグメントが加えられる当該時点を表している。一例としてプッシングパルスセグメント304は、図3に示したこの例示的パルスシーケンス内に87ミリ秒の時点で発射されている。さらにプッシングパルスセグメント304の長さは約92マイクロ秒である。
【0033】
上で指摘したように、より短いプッシングパルスセグメントのパルス持続時間またはパルス長は誘導される変位と正比例する。したがって、要素304〜328の各々に関連するパルス長は、所望の正弦波形状を近似するせん断変位波形を生成するような適当な押圧力が加えられるように変動させている。図3はパルス長に関する変動値を表しているが、所望の波形に対応するせん断変位波形を生成するために振幅、周波数、位相及び/または波形などの適当な別のパラメータを変動させることもある。具体的にはより短い複数のプッシングパルスセグメントのそれぞれごとに、例えば所望の正弦波形、三角形、正方形あるいはsinc形状などを近似する変位を生じさせるようなせん断変位波形を生成するようにパラメータの適当な値を決定することがある。上で指摘したように所望の波形の選択は、せん断変位波形のシフト及び/または撮像中に遭遇するノイズの具体的な統計的形態を決定するために用いている当該アルゴリズムに基づくことがある。
【0034】
図2のステップ206に戻ると、複数の標的部位の変位を時間の関数として検出するために複数の標的部位に対して1つまたは複数のトラッキングパルスが送達される。目下企図されている構成では、トラッキングパルスは複数のプッシングパルスセグメントの送達後に発射される。しかし代替的な実施形態では、その1つまたは複数のトラッキングパルスは、対応する変位を検出するためのプッシングセグメント同士の間で送達させることがある。具体的にはトラッキングパルスは、せん断波をその中に伝播させる組織の少なくとも1つの部分組の変位を決定するために用いられる。部分組内の各標的部位ごとに、一連のトラッキングパルスが発射される。これらのトラッキングパルスは、当該標的部位に関する対応する変位を時間の関数として決定するために用いられる。具体的には、発射される各トラッキングパルスごとに対応する変位が決定される。一例としてトラッキングパルスは、スペックル(speckle)トラッキング技法、絶対値差総和、反復位相ゼロ化、直接歪み推定、相互相関及び自己相関技法などの技法を用いて標的部位の変位を時間の関数として決定する。
【0035】
具体的には図4は、標的組織内のある具体的な箇所への図3のより短い複数のプッシングパルスセグメントの送達によって生じた変位を示す複数の波形を表したグラフ400を示している。さらに、その箇所に送達されるより短い複数のプッシングパルスセグメントは、標的組織を通って伝播するせん断変位波形を生成し、これにより送達点だけではなく標的組織内の複数の標的箇所にも変位が生じる。上で指摘したように、せん断波がその中を伝播する様々な箇所にある組織の変位を決定するためには一連のトラッキングパルスが用いられる。図4では波形402はプッシングパルスの送達点で検出される変位を表しており、一方波形404、406及び408は送達点からそれぞれ0.5mm、2.1mm及び7.1mmだけ空間的に離れた箇所で検出される相対的な変位を表している。これらを併せると、トラッキングパルスによって検出されるこれらの変位の各々はある具体的なトラッキング箇所に関するせん断変位波形を形成している。このせん断変位波形は、トラッキングパルスが発射される当該時点においてサンプリングされる。複数のトラッキング箇所が用いられており、またしたがってこれらの箇所のそれぞれにおいて時間の関数とした変位が利用可能である。
【0036】
変位は伝播するせん断波によって生じるため、互いに接近した箇所に関するせん断変位波形は同様の形状を有するが時間的にシフトしている。この時間的なシフトはせん断波がある箇所から別の箇所まで伝播するのにかかる時間によって生じている。ある種の簡略化の前提の下では、少なくとも異なる2つの箇所間の距離を波形の時間的シフトで割り算することによってせん断波の速度を計算することが可能である。この時間シフトは例えば、変位波形に関する相互相関によって決定可能である。
【0037】
したがって図2のステップ208において、複数の標的部位の部分組内の少なくとも異なる2つの標的部位で検出されたせん断変位波形間のシフトが決定される。具体的には、少なくとも1対のトラッキング箇所で検出したせん断変位波形同士の相互相関によってせん断波伝播時間の決定が可能となる。ステップ204を参照して上で説明したように、せん断変位波形は所望の形状及び時間範囲を有するように生成される。一例として図3及び4は、複数のサイクルを有するように生成した50Hzの正弦波形を表している。
【0038】
従来のSWEI技法は、単一のプッシングパルスを使用すると共に、単一の最大変位ピークを有する単一の波形を生成するような変位を生じさせるのが典型的である。複数の箇所における単一波形の相関は、SWEI処理のSNRが低いために通常は困難であり、このためにせん断波速度算定の確度に影響を及ぼす。しかし本SWEI法は、所望の波形を有するせん断変位波形が生成されるように適応させたパルスパラメータを有するより短い複数のプッシングパルスセグメントを利用している。一例として、図3で生成される正弦波形は、従来のSWEI技法で使用される簡単な単一プッシング波形の場合と比較してノイズの存在下で相関させたときに、複数のサイクルと明確な波形のためにより高い信号対雑音比(SNR)を有している。
【0039】
本明細書の上で開示したシステム及び方法は、このパルス成形技法の利用によれば、相関推定を大幅に向上させこれによりせん断波速度に関するより正確な推定を提供するように得られるせん断変位波形内への指定のフィーチャの包含が可能となることを示している。次いでこのせん断波速度の推定値を用いると、実質的に正確な診断を支援するために組織特性に関するより詳細かつより正確なレベルの情報を提供するような高分解能の超音波画像を作成することができる。
【0040】
したがって本システム及び方法は、せん断波弾性撮像に適した組織や別の任意の材料に関する力学特性を評価するために利用することができる。一例として本システム及び方法によれば、組織を通過するせん断波速度に関する改良した推定値に基づいて健全組織と病的組織の間の識別のための動脈硬化の特徴付け、筋肉緊張に関する評価及び腎臓硬化に関する評価が容易になる。さらに、この例示的SWEI法はまた、治療の進捗をほぼリアルタイムで監視するために肝臓がんについて用いられるようなラジオ波(RF)アブレーション治療で使用することができる。
【0041】
本発明のある種の特徴についてのみ本明細書において図示し説明してきたが、当業者によって多くの修正や変更がなされるであろう。したがって添付の特許請求の範囲が、本発明の真の精神の範囲に属するこうした修正や変更のすべてを包含させるように意図したものであることを理解されたい。
【符号の説明】
【0042】
100 撮像システム
102 標的部位
104 送信回路
106 トランスジューサアレイ
108 トランスジューサ素子
110 トランスジューサ探触子
112 受信回路
114 処理ユニット
116 入力デバイス
118 メモリデバイス
120 パルス成形回路
122 表示デバイス
200 例示的なせん断波弾性撮像(SWEI)方法を表した流れ図
202 例示的SWEI法を表した流れ図のステップ
204 例示的SWEI法を表した流れ図のステップ
206 例示的SWEI法を表した流れ図のステップ
208 例示的SWEI法を表した流れ図のステップ
300 正弦波形の一部分を近似するように適応させた対応するパルス長を有するより短い複数のプッシングパルスセグメントからなる例示的なシーケンスを表したグラフ
302 複数のトラッキングパルス
304 ある具体的な押圧箇所に加えられるプッシングパルスセグメントを表した円形要素
306 ある具体的な押圧箇所に加えられるプッシングパルスセグメントを表した円形要素
308 ある具体的な押圧箇所に加えられるプッシングパルスセグメントを表した円形要素
310 ある具体的な押圧箇所に加えられるプッシングパルスセグメントを表した円形要素
312 ある具体的な押圧箇所に加えられるプッシングパルスセグメントを表した円形要素
400 図3のより短い複数のプッシングパルスセグメントの標的組織内のある具体的な箇所への送達によって生じた変位を表した複数の波形を示したグラフ
402 プッシングパルスの送達点で検出される変位を表した波形
404 送達点から空間的に離れた箇所で検出される相対的な変位を表した波形
406 送達点から空間的に離れた箇所で検出される相対的な変位を表した波形
408 送達点から空間的に離れた箇所で検出される相対的な変位を表した波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断変位波形の相関を向上させるための方法であって、
複数の標的部位の初期位置を検出するために1つまたは複数の基準パルスを複数の標的部位に送達するステップと、
複数のプッシングパルスセグメントを1つまたは複数の押圧箇所を送達するステップであって、該複数のプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数のパラメータは所望の波形を有する少なくとも1つのせん断変位波形を生成するように適応させている送達ステップと、
複数の標的部位の少なくとも1つの部分組の変位を時間の関数として検出するために複数の標的部位に1つまたは複数のトラッキングパルスを送達するステップであって、該変位はせん断変位波形の時間サンプルである送達ステップと、
複数の標的部位の部分組内の少なくとも異なる2つの標的部位で検出されたせん断変位波形間のシフトを決定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記複数のプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数のパラメータは、振幅、周波数、パルス長、波形、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
所望の波形を有するせん断変位波形を生成する前記ステップは、正弦波形、三角波形、方形波形、sinc波形、またはこれらの組み合わせを生成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
所望の波形を有するせん断変位波形を生成する前記ステップは、デルタ関数でコンボリューショしたディジタルコード、デルタ関数でコンボリューショしたマルチレベルコード、正弦波形、方形波形、sinc波形、またはこれらを組み合わせたものを含む波形を生成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
せん断変位波形間のシフトを決定する前記ステップは、相互相関技法、絶対値差総和技法、ゼロ交差技法、またはこれらの組み合わせによって達成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも異なる2つの標的部位で検出されたせん断波変位波形間の前記決定したシフトに基づいてせん断速度を推定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも異なる2つの標的部位で検出されたせん断変位波形間の前記決定したシフトに基づいて標的部位のうちの複数部位に対応するせん断弾性係数、粘性、またはこれらの組み合わせを推定するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記変位を検出するステップは、スペックルトラッキング、絶対値差総和、反復位相ゼロ化技法、直接歪み推定、相互相関、自己相関、またはこれらの組み合わせを用いてある決定された時間期間にわたって複数の標的部位の少なくとも1つの部分組の変位を検出するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
複数のパルスを複数の標的部位(102)に送達するトランスジューサアレイ(106)であって、該複数のパルスは、1つまたは複数の基準パルスと、複数の標的部位(102)に送達される1つまたは複数のトラッキングパルスと、1つまたは複数の押圧箇所に複数のプッシングパルスセグメントとして送達される少なくとも1つのプッシングパルスと、を含んでいるトランスジューサアレイ(106)と、
前記トランスジューサアレイ(106)と通信可能に結合されたパルス成形ユニット(120)であって、複数のプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数の適応化パラメータを用いて所望の波形を有する少なくとも1つのせん断変位波形を生成しているパルス成形ユニット(120)と、
前記パルス成形ユニット(120)と前記トランスジューサアレイ(106)のうちの少なくとも一方と通信可能に結合された処理ユニット(114)であって、
前記パルス成形ユニット(120)に対して所望の波形を有するせん断変位波形の生成を可能にさせるように複数のプッシングパルスセグメントに対応して1つまたは複数のパラメータを適応させること、
せん断変位波形の時間サンプルであるような複数の標的部位(102)の変位を決定するために、複数のプッシングパルスセグメントに応答して複数の標的部位(102)の少なくとも1つの部分組から受け取ったデータを処理すること、
複数の標的部位(102)の部分組内の少なくとも異なる2つの標的部位(102)において検出されたせん断変位波形間のシフトを決定すること、
を行っている処理ユニット(114)と、
を備える超音波システム(100)。
【請求項10】
せん断変位波形の相関を向上させるための実行可能プログラムをその上に有する非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体であって、該プログラムは処理ユニットに対して、
複数の標的部位(102)の初期位置を検出するために複数の標的部位(102)に1つまたは複数の基準パルスを送達すること、
複数のプッシングパルスセグメントを1つまたは複数の押圧箇所に送達することであって、所望の波形を有する少なくとも1つのせん断変位波形を生成するように複数のプッシングパルスセグメントに対応する1つまたは複数のパラメータを適応させている送達と、
せん断変位波形の時間サンプルであるような複数の標的部位(102)の少なくとも1つの部分組の変位を時間の関数として検出するために1つまたは複数の標的部位(102)に1つまたは複数のトラッキングパルスを送達すること、
複数の標的部位(102)の部分組の少なくとも異なる2つの標的部位(102)において検出されたせん断変位波形間のシフトを決定すること、
を行うように指令している、非一時的コンピュータ読み取り可能記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−125549(P2012−125549A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224423(P2011−224423)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】