説明

ばね用鋼、ばね用鋼線及びばね

【課題】焼入れ後の焼戻し処理を省略しても高強度、高靭性、及び高耐力比を確保できるばね、ならびにこれに用いるばね用鋼線及びばね用鋼を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、質量%で、C:0.15〜0.40%、Si:0.40%以上、1.0%未満、Mn:0.2〜2%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.02%以下(0%を含まない)、Cr:0.01〜1.2%、Ti:0.005〜0.1%、B:0.005%以下(0%を含まない)、N:0.002〜0.015%を含有し、残部が鉄および不可避不純物であることを特徴とするばね用鋼である。また前記ばね用鋼を、焼入れした後、焼戻しをすることなく、スキンパス伸線して得られ、引張強さが1900MPa以上、耐力比が0.90以上であるばね用鋼線も本発明に包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルばね(例えば、懸架ばね)の素材として有用なばね用鋼、ばね用鋼線、及びばねに関するものであり、より詳細には焼入れ後の焼戻しを省略しても高強度と高耐力比を有するばね用鋼線およびそれに用いるばね用鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられるコイルばね(例えば、エンジンやサスペンション等に使用される弁ばね、懸架ばねなど)は、排ガスの低減や燃費向上のために軽量化が求められており、高強度化が要求されている。
【0003】
上記したようなコイルばねの製造方法としては、熱間巻きと冷間巻きがある。熱間巻きは、ばね用鋼(線材)を引抜き、磨棒した後、加熱したままコイリングし、その後、焼入れと焼戻しを行い、セッチング、ショットピーニング、塗装を行って製造される。冷間巻きは、ばね用鋼(線材)を伸線し、焼入れと焼戻しを行い、冷間でコイリングした後に、歪取り焼鈍し、セッチング、ショットピーニング、塗装を行って製造される。
【0004】
このように、コイルばねの製造工程では通常、焼入れと焼戻しを行って強度と靭性を調整しているが、近年では、地球環境に対する負荷を低減するため、CO2の削減が求めら
れており、焼戻しを行わない焼入れのままで高強度、高靭性を確保する方法が要求されている。
【0005】
コイルばねとは全く異なる技術分野であるが、例えば特許文献1には、化学成分組成を調整した鋼をスタビライザ形状に熱間成形し、熱間成形後に直ちに水焼入れし、焼戻しを行わないスタビライザの製造方法が提案されている。しかし、特許文献1で対象としているスタビライザは、コイリングするものではなく、コイルばねとは全く技術分野が異なっており、引張強さのレベルが大きく異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4406341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、コイルばねの製造方法において、鋼の焼戻しを省略して単に焼入れままにすると、得られるコイルばねの引張強さはある程度確保できたとしても、靭性や、コイルばねに通常要求される耐力比を所定以上確保することは難しく、コイルばねとして使用することができない。特に0.2%耐力が低く、耐力比が小さくなる場合、弾性変形領域が狭くなり、コイルばねに重要な耐へたり性が小さくなる。そこで、本発明は、焼入れ後の焼戻し処理を省略しても高強度、高靭性、及び高耐力比を確保できるばね、ならびにこれに用いるばね用鋼線及びばね用鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成した本発明のばね用鋼は、質量%で、C:0.15〜0.40%、Si:0.40%以上、1.0%未満、Mn:0.2〜2%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.02%以下(0%を含まない)、Cr:0.01〜1.2%、Ti:0.005〜0.1%、B:0.005%以下(0%を含まない)、N:0.002〜0.015%を含有し、残部が鉄および不可避不純物であることを特徴とする。本発明のばね用鋼は、必要に応じて更に、(a)Ni:2%以下(0%を含まない)およびCu:0.5%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも一種、(b)Nb:0.05%以下(0%を含まない)およびV:0.25%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも一種、(c)Mo:0.6%以下(0%を含まない)を含有しても良い。
本発明は、上記したばね用鋼を、焼入れした後、焼戻しをすることなく、スキンパス伸線して得られ、引張強さが1900MPa以上、耐力比が0.90以上であるばね用鋼線、およびこのばね用鋼線を、冷間でコイリングして得られるばねも包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ばね用鋼の化学成分を適切に調整するとともに、焼入れ後にスキンパス伸線などの軽度の冷間加工を行っているため、高強度、高耐力比及び高靭性であるばね用鋼線を実現することができる。本発明のばね用鋼線は、高耐力比であり、かつ組織が実質的にマルテンサイト組織であるため、これを用いたばねは耐へたり性及び耐食性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、ばね用鋼をコイリングしてばねを製造するにあたり、焼入れ後の焼戻し処理を省略したとしても、高強度、高靭性、高耐力比のばねを実現すべく検討を重ねた。その結果、化学成分を適切に調整した鋼に、焼入れ後に焼戻しを行うことなく軽度の冷間加工を行えば、強度、靭性および耐力比のいずれにも優れたばね用鋼線及びばねを実現できることを見出した。化学成分のうち、特にB(ボロン)の添加は靭性の向上に有効であり、また焼入れ後の軽度の冷間加工は強度と耐力比の向上に有効である。焼入れ後の軽度の冷間加工は、冷間巻きでばねを製造する場合は、スキンパス伸線(例えば、減面率が10%以下の伸線)とすることができる。
【0011】
以下、本発明のばね用鋼の化学成分について説明する。
【0012】
C:0.15〜0.40%
Cは、鋼の焼入れ性を高め、強度を確保するために有用な元素である。そこで、C量を0.15%以上と定めた。C量は、好ましくは0.18%以上、より好ましくは0.21%以上である。一方、C量が過剰になると強度が向上して靭性が低くなり、引抜き加工中に断線する。そこでC量を0.40%以下と定めた。C量は、好ましくは0.37%以下、より好ましくは0.35%以下である。
【0013】
Si:0.40%以上、1.0%未満
Siは、固溶強化により鋼の強度と耐力を確保するために有用な元素である。そこでSi量を0.40%以上と定めた。Si量は、好ましくは0.45%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。一方、Si量が過剰になるとフェライト生成することによって伸線性が低下し、また粒界酸化が顕著となる。そこで、Si量は1.0%未満と定めた。Si量は、好ましくは0.95%以下であり、より好ましくは0.90%以下である。
【0014】
Mn:0.2〜2%
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、強度を確保するために有用な元素である。また、硫化物系介在物を形成することによって、Sによる粒界脆化を抑制し、靭性を向上させることができる。そこで、Mn量を0.2%以上と定めた。Mn量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.8%以上である。一方、Mn量が過剰になると、熱間圧延後に過冷組織が発生し、靭性が劣化する。また硫化物系介在物が過剰に生成したり、粗大化して、靭性が劣化する。そこでMn量を2%以下と定めた。Mn量は、好ましくは1.8%以下であり、より好ましくは1.6%以下である。
【0015】
P:0.03%以下(0%を含まない)
Pは、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させるので、できるだけ抑制する必要がある。そこでP量を0.03%以下と定めた。P量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.015%以下である。P量の下限は特に限定されないが、通常0.003%程度である。
【0016】
S:0.02%以下(0%を含まない)
Sは、Pと同様に、旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させるので、できるだけ抑制する必要がある。そこで、S量を0.02%以下と定めた。S量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。S量の下限は特に限定されないが、通常0.003%程度である。
【0017】
Cr:0.01〜1.2%
Crは、Mnと同様に、鋼の焼入れ性向上に有用な元素である。そこでCr量を0.01%以上と定めた。Cr量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。一方、Cr量が過剰になると、焼入れ時に炭化物の溶け込みが起こりにくくなり、所定の強度を達成できなくなる。そこで、Cr量を1.2%以下と定めた。Cr量は、好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.7%以下である。
【0018】
Ti:0.005〜0.1%
Tiは、焼入れ後の旧オーステナイト結晶粒を微細化して靭性を向上させる効果を有する元素である。そこでTi量は、0.005%以上と定めた。Ti量は、好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは0.02%以上である。一方、Ti量が過剰になると粗大な介在物(例えば、Ti窒化物)が析出し、焼入れ後の軽度の冷間加工(スキンパス伸線など)時に鋼線が破断する。そこでTi量は、0.1%以下と定めた。Ti量は、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.06%以下である。
【0019】
B:0.005%以下(0%を含まない)
Bは、鋼の焼入れ性を向上させ、また鋼線またはばねの延性や靭性を向上させるのに有用な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、B量は0.0005%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0010%以上である。一方、B量が過剰になっても上記効果が飽和するため、B量は0.005%以下とする。B量は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは0.0035%以下である。
【0020】
N:0.002〜0.015%
Nは、CrやTiなどと窒化物を形成して結晶粒を微細にする効果を有する元素である。そこで、N量を0.002%以上と定めた。N量は、好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.004%以上である。一方、N量が過剰になると、前記窒化物が粗大化して伸線中に断線する可能性がある。そこでN量を、0.015%以下と定めた。N量は、好ましくは0.012%以下であり、より好ましくは0.009%以下である。
【0021】
本発明のばね用鋼の基本成分は以上の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が、各成分元素の作用効果やばねの特性を阻害しない範囲で鋼中に含まれることは当然に許容される。また、本発明のばね用鋼は、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、以下の任意元素を含有していることも好ましい。
【0022】
Ni:2%以下(0%を含まない)およびCu:0.5%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも一種
NiおよびCuは、いずれも鋼の焼入れ性を高めて、強度を向上させるのに有用な元素である。さらに、Niは、鋼の低温脆化を防ぐ作用があり、Cuはフェライト脱炭を抑制し、表層部の初析フェライト分率を低下させ、表層硬度を上昇させる作用を有する。このような作用を有効に発揮させるために、Ni量、Cu量はいずれも、0.05%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。一方、Ni量が過剰になると焼入れ時に残留オーステナイトが多量に残り、強度が低下してしまう。またCu量が過剰になると前記効果は飽和し、むしろ熱間圧延による素材の脆化を引き起こす恐れが生じる。そこでNi量は2%以下とすることが好ましく、Cu量は0.5%以下とすることが好ましい。Ni量は、より好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.8%以下である。Cu量は、より好ましくは0.4%以下であり、さらに好ましくは0.35%以下である。
【0023】
Nb:0.05%以下(0%を含まない)およびV:0.25%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも一種
NbおよびVは、いずれも焼入れ後の旧オーステナイト結晶粒を微細化して強度や耐力比を向上させ、また靭性を向上させて耐へたり性の向上に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、Nb量は0.005%以上とすることが好ましく、V量は0.05%以上とすることが好ましい。Nb量は、より好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.013%以上である。V量は、より好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.13%以上である。一方、Nb量及びV量が過剰になると、粗大な炭窒化物を形成することによって靭性が劣化し、伸線ができなくなる。そこでNb量は0.05%以下とすることが好ましく、V量は0.25%以下とすることが好ましい。Nb量は、より好ましくは0.04%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。V量は、より好ましくは0.23%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0024】
Mo:0.6%以下(0%を含まない)
Moは、靭性を高めて耐へたり性の向上に寄与する元素であり、また焼入れ性を高めて、鋼の強度と靭性を高める元素である。こうした効果を有効に発揮させるため、Mo量は0.05%以上とすることが好ましい。Mo量は、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。一方、Mo量が過剰になっても、上記効果は飽和するため、Mo量は0.6%以下とすることが好ましい。Mo量は、より好ましくは0.50%以下であり、さらに好ましくは0.40%以下である。
【0025】
本発明のばね用鋼線は、上記した化学成分の鋼を、焼入れした後、焼戻しをすることなく、軽度の冷間加工を行うことによって得られる。焼入れままの鋼に軽度の冷間加工を行うことによって、引張強さを向上できるとともに、0.2%耐力も向上でき、高耐力比を実現することができる。ばねを冷間巻きで製造する場合、前記した軽度の冷間加工としては、例えばスキンパス伸線が挙げられる。スキンパス伸線は、例えば減面率が10%以下の伸線(例えば、引抜き加工)である。前記減面率の下限は特に限定されないが、通常1%程度である。焼入れままの鋼に軽度の冷間加工を行うことによって得られる本発明の鋼線は、具体的には引張強さを1900MPa以上(好ましくは1950MPa以上)、耐力比を0.90以上(好ましくは0.92以上)とすることができる。引張強さ及び耐力比の上限は特に限定されないが、引張強さの実用化可能な上限は2100MPa程度であり、耐力比の上限は通常0.99程度である。また、本発明では、焼入れ後に焼戻しをすることがないため、炭化物の生成を抑制することができ、耐食性も向上できる。
【0026】
ばね用鋼線の線径は、例えば9〜20mmである。特に冷間巻きでばねを製造する場合は、約9〜12mmの鋼線を用いることが好ましい。
【0027】
前記した軽度の冷間加工を行った後の鋼線及びばねの組織は実質的にマルテンサイト組織(具体的には、マルテンサイト組織が90面積%以上であり、好ましくは95面積%以上であり、特に100面積%)である。
【0028】
焼入れの条件は特に限定されないが、例えば900〜950℃で5〜30分間加熱した後、30〜60℃の油浴に3〜10分間入れるという条件を採用することができる。
【0029】
上記ばね用鋼線を冷間でコイリングすることによってばねが得られる。コイリング後は、通常、歪取り焼鈍、セッチング、ショットピーニング、塗装を行う。
【0030】
本発明のばねは、強度、耐力比及び靭性に優れるため、自動車等のエンジンやサスペンション等に使用される弁ばねや懸架ばねといったコイルばねに好適に用いられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0032】
表1に示す化学成分の鋼(残部は鉄および不可避不純物)を、150kgの真空溶解炉で溶製して鋼塊を得、鋼塊を1200℃で保持した後、熱間鍛造して155mm角のビレットを作製した。該ビレットを熱間圧延して直径19.0mmのばね用線材を得た。なお、実操業では通常のばね用線材と同様の製造方法を採用することができ、例えば鋼片の熱間圧延前の加熱温度を1200℃以上、熱間圧延開始温度を850〜950℃、熱間圧延後の載置温度を900℃以上、載置温度から700℃までの冷却速度を3℃/秒以上として線材を製造すれば良い。本実施例で行った製造条件は、実操業における上記製造条件に相当する。
【0033】
【表1】

【0034】
上記ばね用線材を1000mmに切断し、実験No.1〜15については、925℃で10分間加熱した後、50℃の油浴に5分間入れて、焼入れを行い、その後、減面率7.5%の引抜き加工を行った。また、実験No.16は、懸架ばねとして用いられる鋼材であり、上記切断後、900℃、10分の焼入れと、390℃、60分の焼戻しを行った。
【0035】
(1)機械的性質の評価
実験No.1〜15については、焼入れままの線材および引抜き加工後の線材について、実験No.16については、焼入れ・焼戻し後の線材について、JIS Z2241に基づいて引張り試験を行い、引張強さ(TS)、0.2%耐力(表2では、「0.2%YP」と示す)、破断面の最小断面積(A)を測定した。引張強さ(TS)と0.2%耐力(0.2%YP)から耐力比(0.2%耐力/引張強さ)を計算し、引張り試験片の原断面積(A0)と破断面の最小断面積(A)から減面率(RA)を計算した。
【0036】
(2)耐食性の評価
実験No.1〜15は引抜き加工後の線材から、実験No.16は焼入れ・焼戻し後の線材から、機械加工によって腐食試験片を切り出し、下記の手順によって腐食試験を行った。5%NaCl水溶液を用いて、前記腐食試験片に8時間、塩水噴霧を行った後、35℃、相対湿度60%の湿潤環境で16時間保持するという組み合わせを1サイクルとし、これを14サイクル繰り返した。試験前後の試験片の質量差を腐食減量とした。
【0037】
上記(1)及び(2)の評価の結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
実験No.2、3、7、8、10、12〜15は、本発明のばね用鋼の化学組成を満足する鋼を用い、焼入れ後にスキンパス伸線を行ったため、焼戻しを省略しても高強度、高耐力比、高靭性を実現することができた。また、実験No.2、7、13の引抜き加工後の線材について、組織観察を行った。組織観察は、線材を軸方向に垂直な断面で切断し、任意のD/4位置(Dは線材の直径)の220μm×240μmの範囲を光学顕微鏡(倍率:1000倍)で観察した。その結果、マルテンサイト組織が96面積%であり、残りの4面積%がベイナイト組織であった。
【0040】
一方、No.1はB(ボロン)無添加の例であり、引抜き加工後にほとんど加工硬化せず、またRAも1%と低く、靭性が不十分であった。No.4はSi量が多かった例であり、引抜き加工中に断線した。No.5はSi量が少なかった例であり、引抜き加工後の引張強さ及び0.2%耐力が不十分であった。No.6はC量が多かった例であり、焼入れ後の引張強さが高くなりすぎて引抜くことができなかった。No.9はCr量が多かった例であり、引抜き加工後の引張り強さと耐力比が不十分であった。No.11はC量が少なかった例であり、引抜き加工後の引張強さと耐力比が不十分であった。
【0041】
また、通常、懸架ばねとして用いられている実験No.16の腐食減量は1083g/m2であったのに対し、本発明の要件を満たす実験No.2、3、7、8、10、12〜15の腐食減量は、いずれも1083g/m2を大きく下回っており、優れた耐食性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.15〜0.40%、
Si:0.40%以上、1.0%未満、
Mn:0.2〜2%、
P :0.03%以下(0%を含まない)、
S :0.02%以下(0%を含まない)、
Cr:0.01〜1.2%、
Ti:0.005〜0.1%、
B :0.005%以下(0%を含まない)、
N :0.002〜0.015%
を含有し、残部が鉄および不可避不純物であることを特徴とするばね用鋼。
【請求項2】
更に、Ni:2%以下(0%を含まない)およびCu:0.5%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも一種を含有する請求項1に記載のばね用鋼。
【請求項3】
更に、Nb:0.05%以下(0%を含まない)およびV:0.25%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも一種を含有する請求項1または2に記載のばね用鋼。
【請求項4】
更に、Mo:0.6%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のばね用鋼。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のばね用鋼を、焼入れした後、焼戻しをすることなく、スキンパス伸線して得られ、引張強さが1900MPa以上、耐力比が0.90以上であることを特徴とするばね用鋼線。
【請求項6】
請求項5に記載のばね用鋼線を、冷間でコイリングして得られるばね。

【公開番号】特開2012−132097(P2012−132097A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257311(P2011−257311)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】