説明

ばね鋼およびその製造方法

【課題】従来の高強度ばね鋼に対して、C、Si、Mn、CrおよびMoの添加量の適正化を行うことによって、腐食時に発生する孔食の深さを抑制し、高強度でありながら、耐孔食性ならびに腐食疲労特性に優れた高強度のばね鋼をその好ましい製造方法とともに提供する。
【解決手段】C:0.35質量%超0.50質量%未満、Si:1.75質量%超3.00質量%以下、Mn:0.2質量%以上1.0質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.04質量%以下、P:0.025質量%以下、S:0.025質量%以下、Mo:0.1質量%以上1.0質量%以下およびO:0.0015質量%以下を、PC=4.2×([C]+[Mn])+0.1×(1/[Si]+1/[Mo])+20.3×[Cr]+0.001×(1/[N])で算出されるPC値が3.3超8.0以下の条件下に含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用の懸架ばね、トーションバーおよびスタビライザーなどの素材となる高強度ばね鋼、特に高強度でかつ耐孔食性および腐食疲労特性に優れ、自動車用の足回り部品として好適な高強度のばね鋼およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題の観点から、自動車の燃費向上、ならびに二酸化炭素排出量の削減が要望されており、自動車の軽量化の要望がますます高くなっている。特に、自動車の足回り部品の一つである懸架ばねの軽量化に対する要望が強く、焼入れ−焼戻し後の強度が2000MPa以上となる、高強度化した素材を用いた高応力設計が適用されている。
【0003】
汎用的なばね用鋼は、JIS G4801などに規定される、焼入れ−焼戻し後の強度が1600〜1800MPa程度のものであり、熱間圧延で所定の線材に製造後、熱間成形ばねの場合はばね状に加熱成形してから焼入れ−焼戻し処理を行い、冷間成形ばねの場合は、引き抜き加工後、焼入れ−焼戻し処理を行い、ばね状に成形される。
【0004】
例えば、懸架ばねにおいては、これまで一般的に使用されている素材として、JIS G4801に記載のSUP7がある。SUP7は、高強度化すると大気中の疲労特性が向上するが、腐食後の疲労特性が低下するため、高強度化による腐食疲労特性の低下が問題となっている。そのため、使用可能な硬さの上限はHRC51レベル、設計応力として1100MPaが上限とされており、高強度化を図るには限界がある。
【0005】
焼入れ−焼戻し処理後の強度1900MPa以上に高強度化した素材では、割れ感受性が高まるので、耐孔食性が劣る場合には、自動車用足回り部品の懸架ばね等の、外部に露出する部品では、小石などで塗装がはがれた個所に腐食ピットが形成され、該腐食ピットを起点とする疲労亀裂の伝播により、部品が破損することが懸念されている。
【0006】
そこで、上記問題を克服するため、いくつかの提案がなされている。特許文献1には、成分組成ならびにFP値(下記1a式)を2.5〜4.5の間に制御することで、圧延後の組織中に過冷却組織が出現することなく、圧延後の強度は冷間加工の容易な1350MPa程度以下に抑えられ、その後の焼入れ焼戻しにより均一且つ十分な焼きが入り、焼入れ焼戻し後の強度で1900MPaレベル以上を達成することができることが明らかとされている。しかしながら、耐食性を向上させる合金元素を添加することを基本としており、FP値が2.5〜4.5の範囲に制御しても、必ずしも耐孔食性および腐食疲労特性が良好な高強度ばね鋼が得られるとは限らない。

FP=(0.23[C]+0.1)×(0.7[Si]+1)×(3.5[Mn]+1)×(2.2[Cr]+1)×(0.4[Ni]+1)×(3[Mo]+1)・・・(1a)
但し、[ ]は各元素の含有量(質量%)を表す。
【0007】
特許文献2には、ばね鋼母材の表面の少なくとも一部が犠牲アノードとして機能する防食膜で被覆されたばね鋼において、前記ばね鋼母材に炭窒化物形成元素が添加されて前記ばね鋼母材に炭窒化物が微分散しているばね鋼が開示されている。本特許文献では、防食膜として、ばね鋼母材よりも電気化学的に卑な金属または合金からなる金属膜や、非金属膜中にばね鋼母材よりも電気化学的に卑な金属またはその合金を多数分散させた複合膜が用いられている。しかしながら、ばね鋼に防食膜を形成させる工程が必要になるため、製造コストの増加を招く。また、小石などにより防食膜が剥れた場合には、腐食ピットが形成され、腐食疲労特性の低下を招くと考えられる。
【0008】
特許文献3には、Cが腐食疲労強度の低下原因であるとしてCを低減すること、そしてCの低減によって懸念される耐へたり性の低下をSi添加で防止し、Si/Cの比率が重要であることを開示している。しかしながら、腐食疲労強度の低下抑制に有効な、C量低減には限界があるため、Si/Cの比率のみでは必ずしも耐孔食性および腐食疲労特性が良好な高強度ばね鋼が得られるとは限らない。
【0009】
特許文献4には、Cr含有量の低減により、腐食ピット先端での発生水素量を抑制することができ、鋼中への水素の侵入が抑制でき、水素脆性が抑制できること、また、水素が鋼材中に侵入した場合には、Ti、Vにより水素のトラップを行うことで、水素脆性が抑制できることから、Cr、Ti、Vの量を適切にバランスさせれば耐腐食疲労性が改善できることが開示されている。しかしながら、Cr、Ti、V量の適正化のみではばね鋼の水素脆性を抑制できたとしても、耐孔食性および腐食疲労特性が良好な高強度ばね鋼が得られるとは限らない。
【0010】
特許文献5では、HRC50.5〜55.0になるように熱処理を施した後、表面下0.2mm位置で600MPa以上の残留応力を発生させるように温間ショットピーニングを施すことで耐腐食疲労特性を向上できることが開示されている。しかしながら、ばね鋼にショットピーニングを施す工程が必要になるため、製造コストの増加を招く。また、ショットピーニングによる残留応力の付与は、表面亀裂発生抑制には効果があるものの、耐孔食性および腐食疲労特性が良好な高強度ばね鋼が得られるとは限らない。
【0011】
特許文献6では、ばね鋼の硬さの観点からC、Si、Mn、Cr、Ni、Cuの量を、ピット形状の観点からC、Cr、Ni、Cuの量を、耐水素脆性の観点からC、Si、Mn、Cr、Ni、Cu、Ti、Nbの量を適正にバランスさせることにより、腐食疲労特性に優れたばね鋼について開示されている。しかしながら、C、Cr、Ni、Cu量のみで、ピットの形状の最適化を行うには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2932943号公報
【特許文献2】特開平10−196697号公報
【特許文献3】特許第3896902号公報
【特許文献4】特許第4280123号公報
【特許文献5】特開2008−106365号公報
【特許文献6】特開2009−46764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の通り、自動車の燃費向上、ならびに二酸化炭素排出量の削減の観点から、自動車の足回り部品の1つである懸架ばねの更なる高強度化が課題となっていた。しかしながら、高強度化に伴い素材の割れ感受性が高まるため、素材の耐孔食性が劣る場合には腐食疲労損傷性が低下することが問題となっていた。
【0014】
本発明は、このような課題を解決すべくなされたものであり、従来の高強度ばね鋼に対して、C、Si、Mn、CrおよびMoの添加量の適正化を行うことによって、腐食時に発生する孔食の深さを抑制し、高強度でありながら、耐孔食性ならびに腐食疲労特性に優れた高強度のばね鋼をその好ましい製造方法とともに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、前記課題を解決するため、C、Si、Mn、CrおよびMoの添加量を変化させ、かつ下記(1)式で表されるPC値を変化させた高強度ばね鋼を製作し、耐孔食性および耐腐食疲労特性について鋭意調査した。

PC=4.2×([C]+[Mn])+0.1×(1/[Si]+1/[Mo])+20.3×[Cr]
+0.001×(1/[N]) ・・・(1)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【0016】
その結果、C、Si、Mn、CrおよびMoの添加量の最適化、並びにPC値を適正範囲に制御することによって、素材の耐孔食性並びに耐腐食疲労特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
1.C:0.35質量%超0.50質量%未満、
Si:1.75質量%超3.00質量%以下、
Mn:0.2質量%以上1.0質量%以下、
Cr:0.01質量%以上0.04質量%以下、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Mo:0.1質量%以上1.0質量%以下および
O:0.0015質量%以下
を、下記(1)式で算出されるPC値が3.3超8.0以下の条件下に含有し、残部不可避的不純物およびFeの成分組成を有し、さらに、マルテンサイト分率が90%以上の組織を有し、かつ引張強さが1900MPa以上であることを特徴とするばね鋼。

PC=4.2×([C]+[Mn])+0.1×(1/[Si]+1/[Mo])+20.3×[Cr]
+0.001×(1/[N]) ・・・(1)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
なお、Nは積極的に添加しなくとも、N量:0.005質量%未満の範囲にて不可避的不純物として含有される。従って、上記(1)式におけるN含有量[N]については、不可避的不純物として含有されるNの含有量(質量%)あるいは、後述する積極的に添加した場合にはその含有量(質量%)、の値を用いるものとする。
【0017】
2.前記成分組成が、さらに、下記(2)式を満足することを特徴とする前記1に記載のばね鋼。

[Cr]/[Mo]≦0.35 ・・・(2)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【0018】
3.前記成分組成は、さらに、
Al:0.01質量%以上0.50質量%以下、
Cu:0.005質量%以上1.0質量%以下および
Ni:0.005質量%以上2.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1または2に記載のばね鋼。
【0019】
4.前記成分組成は、さらに、
W:0.001質量%以上2.0質量%以下、
Nb:0.001質量%以上0.1質量%以下、
Ti:0.001質量%以上0.2質量%以下および
V:0.002質量%以上0.5質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1ないし3のいずれかに記載のばね鋼。
【0020】
5.前記成分組成は、さらに、
B:0.0002質量%以上0.005質量%以下
を含有することを特徴とする前記1ないし4のいずれかに記載のばね鋼。
【0021】
6.前記成分組成は、さらに、
N:0.005質量%以上0.020質量%以下
を含有することを特徴とする前記1ないし5のいずれかに記載のばね鋼。
【0022】
7.C:0.35質量%超0.50質量%未満、
Si:1.75質量%超3.00質量%以下、
Mn:0.2質量%以上1.0質量%以下、
Cr:0.01質量%以上0.04質量%以下、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Mo:0.1質量%以上1.0質量%以下および
O:0.0015質量%以下
を、下記(1)式で算出されるPC値が3.3超8.0以下の条件下に含有する成分組成を有する鋼素材を、Ac点以上(Ac点+200℃)以下の温度域に加熱し、10℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却し、その後、150℃以上500℃以下の温度域まで加熱し、冷却することを特徴とするばね鋼の製造方法。

PC=4.2×([C]+[Mn])+0.1×(1/[Si]+1/[Mo])+20.3×[Cr]
+0.001×(1/[N]) ・・・(1)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【0023】
8.前記成分組成が、さらに、下記(2)式を満足することを特徴とする前記7に記載のばね鋼の製造方法。

[Cr]/[Mo] ≦0.35 ・・・(2)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【0024】
9.前記成分組成は、さらに、
Al:0.01質量%以上0.50質量%以下、
Cu:0.005質量%以上1.0質量%以下および
Ni:0.005質量%以上2.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記7または8に記載のばね鋼の製造方法。
【0025】
10.前記成分組成は、さらに、
W:0.001質量%以上2.0質量%以下、
Nb:0.001質量%以上0.1質量%以下、
Ti:0.001質量%以上0.2質量%以下および
V:0.002質量%以上0.5質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記7ないし9のいずれかに記載のばね鋼の製造方法。
【0026】
11.前記成分組成は、さらに、
B:0.0002質量%以上0.005質量%以下
を含有することを特徴とする前記7ないし10のいずれかに記載のばね鋼の製造方法。
【0027】
12.前記成分組成は、さらに、
N:0.005質量%以上0.020質量%以下
を含有することを特徴とする前記7ないし11のいずれかに記載のばね鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従来の高強度ばね鋼に比べて遥かに優れた耐孔食性および腐食疲労特性を有する高強度のばね鋼を、安定して製造することが可能となる。更には自動車の軽量化にも寄与するため、産業上有益な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】孔食深さの評価結果を、PC値に関して整理して示した図である。
【図2】耐腐食疲労特性の評価結果を、PC値に関して整理して示した図である。
【図3】腐食試験に供した試験片の形状を示す図である。
【図4】耐へたり性評価試験に供した試験片の形状を示す図である。
【図5】耐へたり試験の試験機の概略図である。
【図6】孔食深さ測定用サンプルの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明のばね鋼の成分組成並びにその製造条件について説明する。
C:0.35質量%超0.50質量%未満
Cは、必要な強度を確保するために必須の元素であり、0.35質量%以下では所定の強度確保が難しく、また所定強度を確保するためには、合金元素の多量添加が必要となって、合金コストの上昇を招くことから、0.35質量%超とする。一方、0.50質量%以上の添加は、鋼中に炭化物が多量に生成し、炭化物-母相界面の優先腐食により耐孔食性が低下し、腐食疲労特性の低下や靭性の低下を招く。以上のことから、C量は0.35質量%超0.50質量%未満とする。
【0031】
Si:1.75質量%超3.00質量%以下
Siは、脱酸剤として、また、固溶強化や焼戻し軟化抵抗を向上させることにより鋼の強度を高め、鋼の耐へたり性を向上する。さらに、耐孔食性も向上するため添加される元素であり、本発明では、1.75質量%超で添加する。しかし、3.00質量%を超える添加は、延性が低下し、鋳造時に素材に割れが発生するため、素材の手入れが必要となり製造コストの増加を招く。また、鋼が高強度化するために、靭性およびコイリング性が著しく低下する。よって、Siの上限は3.00質量%とする。以上のことから、Si量は1.75質量%超3.00質量%以下とする。
【0032】
Mn:0.2質量%以上1.0質量%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させ強度増加に有益であるため、0.2質量%以上添加する。しかし、1.0質量%を超える添加は、鋼を高強度化するため、母材靭性の低下を招く。また、鋼の腐食速度を増加させて、孔食深さも深くなるため、腐食疲労特性の低下を招く。よって、Mnの上限は、1.0質量%とする。以上のことから、Mn量は、0.2質量%以上1.0質量%以下とする。
【0033】
P、S:0.025質量%以下
PおよびSは、粒界に偏析して鋼の母材靭性の低下を招く。また、腐食速度を増加させ、それに伴い、孔食深さも深くなる。とくに、SはMnSとして鋼中に存在するため、MnSの溶解による孔食深さが深くなる。以上のことから、これらの元素はできるかぎり低減するのが好ましい。よって、PおよびSはいずれも0.025質量%以下とする。
【0034】
Cr:0.01質量%以上0.04質量%以下
Crは、鋼の焼入れ性を向上させ強度を増加させる元素である。そのため、0.01質量%以上は添加する。また、表層部に生成する錆を緻密化して腐食を抑制する元素である。一方で、孔食部のpH値を低下させるため、孔食深さを増大させ、耐腐食疲労特性を低下させる元素である、そのため、本発明では、耐孔食性を向上させるために、Cr量は0.04質量%以下に制御する。以上のことから、Cr量は0.01質量%以上0.04質量%以下とする。
【0035】
Mo:0.1質量%以上1.0質量%以下
Moは、本発明において特に重要な元素である。Moは不動態皮膜の形成により腐食抑制機能ならびに耐孔食性を向上させる元素であり、0.1質量%以上で添加する必要がある。しかし、1.0質量%を超えて添加すると、高強度化による靭性の低下をまねき、また合金コストの上昇をも招く。以上のことから、Mo量は0.1〜1.0質量%とする。
【0036】
O:0.0015質量%以下
Oは、SiやAlと結合し、硬質な酸化物系非金属介在物を形成して、疲労寿命特性の低下を招くため、可能な限り低い方が良いが、本発明では、0.0015質量%までは許容される。
【0037】
PC値(上記(1)式):3.3超8.0以下
さらに、発明者らは、成分組成並びにPC値を変化させてばね鋼を作製し、その孔食深さおよび耐腐食疲労特性を調査した。なお、孔食深さならびに腐食疲労特性は、後述する試験方法で実施した。表1に成分組成を、表2に孔食深さ並びに耐腐食疲労特性の評価結果を、それぞれ示す。また、図1および図2に、孔食深さ並びに耐腐食疲労特性の評価結果を、PC値に関して整理して示した。
【0038】
ここで、ばね鋼の製造条件は、基準となる鋼以外は同じにした。すなわち、製造条件は、次の通りである。
まず、真空溶解で溶製したビレットを1100℃に加熱後、熱間圧延を行い、直径25mmの丸棒にした。その後、950℃で1時間のノルマライジング処理を行ってから、直径15mmまで伸線加工を行った。得られた線材に対して、高周波加熱による、焼入れ−焼戻し処理を行った。この熱処理条件は、1000℃まで100℃/秒の加熱速度で加熱を行い、5秒保持後、50℃/秒で50℃まで冷却した。焼戻し条件は、300℃まで50℃/秒の加熱速度で加熱を行い、20秒保持後に空冷した。
【0039】
但し、基準となる鋼(A−1:SUP7準拠)については、直径15mmの伸線加工後、焼入れ−焼戻し処理を実施した。焼入れ条件は、840℃に電気炉加熱(以下、単に炉加熱とも言う)を行い、0.5時間保持後、60℃の油にて焼入れを行った。焼戻し条件は、焼入れ後の鋼を510℃に加熱し、1時間保持後、放冷した。
【0040】
表2、図1および図2に示すように、PC値が8.0超になると孔食深さが深くなり、耐腐食疲労特性が低下した。一方、PC値を3.3以下としても、孔食深さの低減および耐腐食疲労特性の顕著な向上は認められなかった。しかも、PC値が3.3以下の場合には、添加する合金元素が増加するため、合金コストが増加することになる。以上のことから、PC値は、3.3超8.0以下の範囲に調整することによって、耐孔食性および耐腐食疲労特性が向上することが判明した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
[Cr]/[Mo]≦0.35
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
比[Cr]/[Mo](以下、AR値という)は、CrとMoの添加量の比で表される。ここに、Crは添加量の増加に伴い孔食深さを深くする元素であり、Moは添加量の増加に伴い孔食深さを浅くする元素である。そのため、その添加量比も重要になる。すなわち、AR値が0.35超になると、Crによる孔食深さが深くなり、Moによる孔食深さの抑制効果が低下するため、AR値は0.35以下とすることが好ましい。
【0044】
Al:0.01質量%以上0.50質量%以下、Cu:0.005質量%以上1.0質量%以下およびNi:0.005質量%以上2.0質量%以下のうちの1種または2種以上
CuおよびNiは、焼入れ性や焼戻し後の強度を高め、更には、鋼の耐食性を向上させる元素であり、選択して添加することができる。このような効果を得るためには、CuおよびNiは0.005質量%以上で添加することが好ましい。しかし、Cuは1.0質量%およびNiは2.0質量%を超えて添加すると、却って合金コストが上昇するため、Cuは1.0質量%およびNiは2.0質量%を上限として添加するのが好ましい。
また、Alは脱酸剤として不可欠であり、さらに、焼入れ時のオーステナイト粒成長を抑制することによって、強度の維持に有効な元素であるため、好ましくは0.01質量%以上で添加する。しかしながら、0.50質量%を超えて添加しても、その効果は飽和してコスト上昇を招く不利が生じる上、冷間でのコイリング性も低下する。よって、Alは0.50質量%を上限として添加することが好ましい。
【0045】
さらに、本発明のばね鋼は、強度を高めたり、鋼の耐孔食性や腐食疲労特性を向上させたりするため、上記成分に加えて、以下の成分を含有することができる。
W:0.001質量%以上2.0質量%以下、Nb:0.001質量%以上0.1質量%以下、Ti:0.001質量%以上0.2質量%以下およびV:0.002質量%以上0.5質量%以下のうちの1種または2種以上
W、Nb、TiおよびVは、いずれも焼入れ性や焼戻し後の鋼の強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して添加することができる。さらに、Wは、鋼の耐孔食性も向上させる元素である。このような効果を得るためには、W、NbおよびTiは、それぞれ0.001質量%以上、Vは0.002質量%以上添加することが好ましい。しかし、Vは0.5質量%、Nbは0.1質量%およびTiは0.2質量%を超えて添加すると、鋼中に炭化物が多量に生成し、炭化物−母相界面の優先腐食により耐孔食性が低下するため、耐腐食疲労特性の低下を招く。Nb、TiおよびVは、それぞれ上記の値を上限として添加するのが好ましい。また、Wは2.0質量%を超えて添加すると、高強度化して靭性が低下し、合金コストの上昇を招く。よって、Wは、2.0質量%を上限として添加するのが好ましい。
【0046】
B:0.0002質量%以上0.005質量%以下
Bは、焼入れ性の増大により焼戻し後の鋼の強度を高める元素であり、必要に応じて含有することができる。上記効果を得るためには、0.0002質量%以上で添加するのが好ましい。しかし、0.005質量%を超えて添加すると、冷間での加工性が劣化する。よって、Bは0.0002〜0.005質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0047】
N:0.005質量%以上0.020質量%以下
Nは、鋼材の腐食抑制機能ならびに耐孔食性を向上させる元素であり、この効果を発現させるために0.005質量%以上で添加することができる。しかし、0.020質量%を超えて添加すると、粒界に窒化物が形成され易くなり、粒界腐食が起こり、鋼の耐食性が低下する。また、窒化物−母相界面の優先腐食により耐孔食性が低下し、腐食疲労特性の低下や、靭性の低下を招く。以上のことからNを積極的に添加する場合のN量は0.005〜0.020質量%とする。
なお、上記したように、本発明においては、Nを積極的に添加しない場合を含み、この場合はN量が0.005質量%未満にて不可避的不純物として含有される。上記(1)式におけるN含有量[N]については、不可避的不純物として含有されるNの含有量(質量%)あるいは、積極的に添加した場合にはその含有量(質量%)、の値を用いるものとする。
以上説明した元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0048】
以上の成分組成を有する鋼塊は、転炉による溶製においても真空溶製によるものでも使用できる。そして、鋼塊、スラブ、ブルームまたはビレットなどの素材は、加熱されて熱間圧延され、酸洗してスケール除去された後に伸線されて所定の太さに整えられ、ばね用鋼に供される。
【0049】
さらに、得られた伸線材に焼入れ−焼戻し処理を施すことによって、次の組織および機械的特性を付与する。
マルテンサイト分率:90%以上
マルテンサイトは、強度を得るために必要な組織である。本発明の場合には、体積率で90%以上のマルテンサイト組織とすることによって、優れた特性が得られる。すなわち、マルテンサイトの体積率が90%未満では、強度の上昇に寄与しない残留オーステナイト相などの未変態相や、炭化物などの析出物の量が多くなりすぎて、引張強さ1900MPa以上という高強度化の達成は困難となる。
【0050】
以上の成分組成および鋼組織を有し、且つ引張強さで1900MPa以上が必要である。すなわち、引張強さが1900MPa未満では、ばね鋼の高強度化に対応できないため、1900MPa以上とする。
【0051】
次に、上記の組織および引張強さを得るための製造条件について説明する。
前述した鋼を得るためには、前述した成分組成の鋼素材に、焼入れ−焼戻し処理を施すことが有効である。すなわち、Ac点以上に加熱して焼き入れることにより、マルテンサイト分率を90%以上とできるが、(Ac点+200℃)を超える温度域での加熱は、旧オーステナイト粒を粗大化させることになる。そこで、鋼素材のサイズにもよるが、Ac点以上(Ac点+200℃)以下の温度域に保持して10℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却して焼き入れする工程が、上述したマルテンサイト分率90%以上を達成する上で最も有効である。
【0052】
また、焼戻し処理では、粒内炭化物をできるだけ細かく分散させることが重要となる。粗大な炭化物が形成されると、母相と局部電池を形成して、炭化物が溶解して孔食が形成され、孔食底部で腐食が促進し孔食深さが深くなる。孔食深さが深くなることで腐食疲労特性が低下する。さらに、上記の引張強さを達成するためにも、焼戻し条件が重要である。このためには、150〜500℃の温度域にて、焼戻しを行い、その後冷却することが有効である。
【0053】
なお、鋼素材は、熱間圧延により線材または棒鋼とされ、酸洗によるデスケーリング、さらに伸線処理を経たものが好適であり、ばねへの成形は、上述した焼入れ−焼戻し処理前、焼入れ−焼戻し処理後または焼入れ処理後に実施するのが好ましい。
【0054】
かくして得られた高強度ばね鋼は、安価に製造できるにも関わらず、高強度と、優れた耐孔食性および耐腐食疲労特性とを有し、1900MPa以上の高強度を必要とする、例えば自動車の足回り部品である懸架ばねへの適用が可能である。
【実施例1】
【0055】
表3に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、これらの鋼から製造したビレットを、1100℃に加熱後、熱間圧延を行い、直径25mmの丸棒にした。その後、950℃で1時間のノルマライジング処理を行ってから、直径15mmまで伸線加工を行った。得られた線材に対して、表4に示す条件で高周波加熱による焼入れ−焼戻し処理を施した。
かくして得られた線材を、以下に示す、引張試験、腐食試験、孔食深さ測定、腐食疲労試験およびへたり試験に供した。また、線材のマルテンサイト分率の測定を、次のように行った。
【0056】
[マルテンサイト分率]
マルテンサイト分率は、線材1/4D部(Dは線材の直径)付近より採取した薄膜状のサンプルを透過型電子顕微鏡により、2万倍の倍率で20視野観察し、セメンタイトの析出していない領域の面積を測定し、その測定面積の全体に対する割合に基づいて、マルテンサイト分率として求めた。
【0057】
[引張試験]
引張試験は、平行部の直径6mmφ×長さ32mm、つかみ部12mmφの引張試験片を1/2D(Dは線材の径)を中心として採取し、評点間距離25mmおよび引張速度5mm/分にて試験を実施した。
【0058】
[腐食試験]
耐孔食性並びに耐腐食疲労特性を評価するには、実際にばねを製造し、実車試験を実施するのが好ましいが、それでは多大な時間と費用を要する。そのため、図3に示す試験片を採取し、腐食試験に供した。この腐食試験は、塩水噴霧−恒温恒湿サイクル試験とした。試験片は、前処理として、全試験片について、アセトン中で10分間超音波洗浄し、全試験片について、端部および掴み部をポリエステルテープにてマスキングを行った。マスキング後の試験片を、「塩水噴霧8時間 → 恒温恒湿(35℃,50%)下で16時間保持」を1サイクルとし、7サイクルにわたり実施した。なお、塩水噴霧試験は、JIS Z2371に準拠して実施した。試験の詳細は下記の通りである。
【0059】
<塩水噴霧試験>
噴霧塩水:5%塩水(50±5g/l)、比重1.029〜1.036、pH6.5〜7.2
試験槽内温度:35℃
噴霧量:1.5±0.5ml/80cm2/1h
<恒温恒湿試験>
試験槽内温度:35℃
試験槽内湿度:50%RH
<試験機>
スガ試験機製 塩乾湿複合サイクル試験機 CYP90
【0060】
<孔食深さ測定>
上述した腐食試験終了後、JIS Z2371参考表1 化学的腐食生成物除去方法に準拠し、20%クエン酸水素二アンモニウム水溶液−80℃−20分浸漬にて除錆した。その後、平行部を、図6に示すように切り出し、孔食の深さを測定し、一番深い孔食の深さを最大孔食深さと定義した。
【0061】
[腐食疲労試験]
上述した腐食試験終了後、JIS Z2371参考表1 化学的腐食生成物除去方法に準拠し、20%クエン酸水素二アンモニウム水溶液−80℃−20分浸漬にて除錆した。その後、島津製作所製 島津小野式回転曲げ疲れ試験機 H7型試験機により、疲労限を導出した。腐食疲労特性は、それぞれの鋼の疲労限の値を基準材の疲労限の値で除して規格化を行い、導出した数値が1.1以上になった場合に腐食疲労特性が向上したと判断した。
【0062】
[へたり試験]
ばね鋼の重要特性である耐へたり性は、実車試験で評価するのが好ましいが、それでは多大な時間と費用を要する。そのため、耐へたり性は、ねじりクリープ試験で評価した。すなわち、直径15mmに伸線加工を行ったサンプルから、図4に示す試験片を採取し、へたり試験に供した。へたり試験は、ばねのセッティングを模擬して1%の予歪を負荷した後、試験片にねじり応力を錘で負荷し、錘の降下量(へたり量)を計測して、96時間試験後のへたり量をもって耐へたり性を評価した。図5に、へたり試験の概要を示す。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
表5に、引張強さ、マルテンサイト分率、最大孔食深さ、耐腐食疲労特性および耐へたり試験の各結果を示した。本発明の成分組成およびPC値を満たす、B−1〜4、B−6〜10、B−14〜15、B−17〜18およびB−21〜25の鋼は、最大孔食深さが浅く、かつ良好な耐腐食疲労特性を有していることが分かる。これに対して、成分組成が本発明範囲内であっても、PC値が本発明の範囲を満たさないB−5の鋼は、最大孔食深さが深く、耐腐食疲労特性が低下していることが分かる、また、成分組成が本発明の範囲を満たさないB−11〜13、B−19〜20およびB−27の鋼は、最大孔食深さが深く、腐食疲労特性が低下していることが分かる。また、B−16のようにPC値が本発明の範囲より小さい場合、耐孔食性および腐食疲労特性の向上代が小さく、飽和していることが分かる。さらに、C量が本発明の範囲外であるため、引張強さが本発明範囲外となっている。また、B−23のように、AR値が0.35以下を満足しない場合、他の発明例に比較して最大孔食深さが深く、腐食疲労特性も低めである。
【0066】
【表5】

【実施例2】
【0067】
表6に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製して製造した。これらの鋼から製造したビレットを1100℃に加熱後、熱間圧延を行い、直径25mmφの丸棒にした。その後、950℃で1時間のノルマライジング処理を行ってから、直径15mmφまで伸線加工を行った。得られた線材に対して、表7に示す条件で高周波加熱による焼入れ−焼戻し処理を施した。得られた線材に対して、上述した試験を実施し、それぞれ評価を行った。
【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】
表8に、引張強さ、マルテンサイト分率、最大孔食深さ、腐食疲労特性およびへたり試験の結果を示した。本発明の成分組成およびPC値を満たす、C−1〜4、C−6〜10、C−14〜15、C−17〜18、C−21〜24およびC−27の鋼は、最大孔食深さが浅く、かつ良好な腐食疲労特性を有していることが分かる。これに対して、成分組成が本発明範囲内であっても、PC値が本発明の範囲を満たさないC−5の鋼は、最大孔食深さが深く、腐食疲労特性が低下していることが分かる。また、成分組成が本発明の範囲を満たさない、C−11〜13、C−19〜20およびC−26の鋼は、最大孔食深さが深く、腐食疲労特性が低下していることが分かる。また、C−16のようにPC値が本発明の範囲より小さい場合、耐孔食性および耐腐食疲労特性の向上代が小さく、飽和していることが分かる。また、添加する合金元素も多いため、却って合金コストの上昇を招く。C−25は、焼戻し温度が本発明の範囲外であるため、引張強度が低く、最大孔食深さが深く、腐食疲労特性が低下していることが分かる。また、C−23のように、AR値が0.35以下を満足しない場合、他の発明例に比較して最大孔食深さが深く、腐食疲労特性も低めである。
【0071】
【表8】

【実施例3】
【0072】
表9に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製して製造した。これらの鋼から製造したビレットを1100℃に加熱後、熱間圧延を行い、直径25mmの丸棒にした。その後、950℃で1時間のノルマライジング処理を行ってから、直径15mmまで伸線加工を行った。得られた線材に対して、表10に示す条件で電気炉加熱(以下、炉加熱と略す)を行い、焼入れ−焼戻し処理を施した。得られた線材に対して、上述した試験を実施し、それぞれ評価を行った。
【0073】
【表9】

【0074】
【表10】

【0075】
表11に、引張強さ、マルテンサイト分率、最大孔食深さ、腐食疲労特性およびへたり試験の結果を示した。本発明の成分組成およびPC値を満たす、D−1〜4、D−6〜10、D−14〜15、D−17〜18、D−21〜29およびD−31の鋼は、最大孔食深さが浅く、かつ良好な腐食疲労特性を有していることが分かる。これに対して、成分組成が本発明範囲内であっても、PC値が本発明の範囲を満たさないD−5の鋼は、最大孔食深さが深く、腐食疲労特性が低下していることが分かる。また、成分組成が本発明の範囲を満たさない、D−11〜13およびD−19〜20の鋼は、最大孔食深さが深く、腐食疲労特性が低下していることが分かる。また、D−16のようにPC値が本発明の範囲より小さい場合、耐孔食性および耐腐食疲労特性の向上代が小さく、飽和していることが分かる。また、添加する合金元素も多いため、却って合金コストの上昇を招く。D−30の鋼は、焼戻し温度が本発明の範囲外であり、引張強度が低く、最大孔食深さが深く、腐食疲労特性が低下していることが分かる。また、D−23のように、AR値が0.35以下を満足しない場合、他の発明例に比較して最大孔食深さが深く、腐食疲労特性も低めである。
【0076】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.35質量%超0.50質量%未満、
Si:1.75質量%超3.00質量%以下、
Mn:0.2質量%以上1.0質量%以下、
Cr:0.01質量%以上0.04質量%以下、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Mo:0.1質量%以上1.0質量%以下および
O:0.0015質量%以下
を、下記(1)式で算出されるPC値が3.3超8.0以下の条件下に含有し、残部不可避的不純物およびFeの成分組成を有し、さらに、マルテンサイト分率が90%以上の組織を有し、かつ引張強さが1900MPa以上であることを特徴とするばね鋼。

PC=4.2×([C]+[Mn])+0.1×(1/[Si]+1/[Mo])+20.3×[Cr]
+0.001×(1/[N]) ・・・(1)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【請求項2】
前記成分組成が、さらに、下記(2)式を満足することを特徴とする請求項1に記載のばね鋼。

[Cr]/[Mo]≦0.35 ・・・(2)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【請求項3】
前記成分組成は、さらに、
Al:0.01質量%以上0.50質量%以下、
Cu:0.005質量%以上1.0質量%以下および
Ni:0.005質量%以上2.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のばね鋼。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに、
W:0.001質量%以上2.0質量%以下、
Nb:0.001質量%以上0.1質量%以下、
Ti:0.001質量%以上0.2質量%以下および
V:0.002質量%以上0.5質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のばね鋼。
【請求項5】
前記成分組成は、さらに、
B:0.0002質量%以上0.005質量%以下
を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のばね鋼。
【請求項6】
前記成分組成は、さらに、
N:0.005質量%以上0.020質量%以下
を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のばね鋼。
【請求項7】
C:0.35質量%超0.50質量%未満、
Si:1.75質量%超3.00質量%以下、
Mn:0.2質量%以上1.0質量%以下、
Cr:0.01質量%以上0.04質量%以下、
P:0.025質量%以下、
S:0.025質量%以下、
Mo:0.1質量%以上1.0%以下および
O:0.0015質量%以下
を、下記(1)式で算出されるPC値が3.3超8.0以下の条件下に含有する成分組成を有する鋼素材を、Ac点以上(Ac点+200℃)以下の温度域に加熱し、10℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却し、その後、150℃以上500℃以下の温度域まで加熱し、冷却することを特徴とするばね鋼の製造方法。

PC=4.2×([C]+[Mn])+0.1×(1/[Si]+1/[Mo])+20.3×[Cr]
+0.001×(1/[N]) ・・・(1)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【請求項8】
前記成分組成が、さらに、下記(2)式を満足することを特徴とする請求項7に記載のばね鋼の製造方法。

[Cr]/[Mo] ≦0.35 ・・・(2)
但し、[ ]は該括弧内成分の含有量(質量%)
【請求項9】
前記成分組成は、さらに、
Al:0.01質量%以上0.50質量%以下、
Cu:0.005質量%以上1.0質量%以下および
Ni:0.005質量%以上2.0質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項7または8に記載のばね鋼の製造方法。
【請求項10】
前記成分組成は、さらに、
W:0.001質量%以上2.0質量%以下、
Nb:0.001質量%以上0.1質量%以下、
Ti:0.001質量%以上0.2質量%以下および
V:0.002質量%以上0.5質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載のばね鋼の製造方法。
【請求項11】
前記成分組成は、さらに、
B:0.0002質量%以上0.005質量%以下
を含有することを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載のばね鋼の製造方法。
【請求項12】
前記成分組成は、さらに、
N:0.005質量%以上0.020質量%以下
を含有することを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載のばね鋼の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−246811(P2011−246811A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19206(P2011−19206)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】