説明

へスペレチン包接化合物およびナリンゲニン包接化合物の合成方法

【課題】天然に存在するフラバノンであるヘスペリジンまたはナリンジンの生体吸収性を向上させるための方法として、生体吸収性の向上したヘスペレチン包接化合物およびナリンゲニン包接化合物ならびにそれらを合成する方法を提供すること。
【解決手段】本発明によって、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物であるフラバノン包接化合物を合成する方法が提供される。この方法の1例は、ヘスペリジンまたはナリンジンを、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を得る工程;および該ヘスペリジン包接化合物または該ナリンジン包接化合物を加水分解してヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程を包含する。あるいは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンを直接包接してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラバノン包接化合物の製造方法ならびにフラバノン包接化合物を含む食品および医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールは、同一分子内に複数のフェノール性水酸基を有する植物成分の総称である。ポリフェノールは種々の植物に含まれており、抗酸化能力に優れた物質である。ポリフェノールは、種々の生理活性を有しており、医薬品、食品などの種々の用途に利用されている。ポリフェノールの中でも特に、フラボノイドに関する研究が進んでいる。
【0003】
フラボノイドについては、例えば、以下のような生理活性が知られている。ヘスペリジンおよびルチンは、古くからビタミンPとして知られており、ビタミンPは、血圧を下げる作用を有することが知られている(非特許文献1:神谷真太郎、新ビタミン学(日本ビタミン学会)1969、p439)。ヘスペリジンはさらに、抗アレルギー作用(非特許文献2:松田英秋ら、薬学雑誌、111、193−198(1991)、非特許文献3:J.A.Da Silva Emimら、J.Pharm.Pharmacol.,46,118−712(1994))、LDL−コレステロールを減少させ血中コレステロール値を改善する作用(非特許文献4:M.T.Monforteら、IlFarmaco,50,595−599(1995))、抗癌作用(非特許文献5:T.Tanakaら,CancerResearch,54,4653−4659(1994)、非特許文献6:T.Tanakaら,CancerResearch,57,246−252(1997)、非特許文献7:T.Tanakaら,Carcinogenesis,18,761−769(1997)、非特許文献8:T.Tanakaら,Carcinogenesis,18,957−965(1997))などの生理作用を有することが報告されている。非特許文献9(A.Garg,S.Garg、L.J.D.ZaneveldおよびA.K.Singla,Chemistry and pharmacology of the citrus bioflavonoid hesperidin,PHYTOTHERAPY RESARCH 15,655−669(2001))は、ヘスペリジンの化学および薬理作用について概説している。非特許文献9は、ヘスペリジンが、上記の作用以外にも、毛細血管壁の透過性および脆弱性を低下させる作用、大腸炎抑制作用、関節炎抑制作用、血小板および細胞の凝集抑制作用などの多様な生理作用を有することを記載する。
【0004】
さらに、最近の研究では、ヘスペリジンは前駆脂肪細胞の分化を促進し、糖尿病などの症状を改善する作用も期待されている。ヘスペリジンはまた、血行改善効果を持ち、血行改善による、肩こり、冷え性等の改善効果(特許文献1:特開平11−171778号公報)、肌状態の改善効果(特許文献2:特開2003−325135号公報)、および骨粗しょう症改善効果(特許文献3:特開2002−234844号公報)などを有することも報告されている。
【0005】
ナリンジンは柑橘類の苦味物質として知られており、苦味の付与を目的に食品・飲料などに用いられている。またそのアグリコンであるナリンゲニンは、抗変異原性(非特許文献10:W.L.BearおよびR.W.Teel.Effects of citrus flavonoids on the mutagenicity of heterocyclic amines and on cytochrome P450 1A2 activity.Anticancer Research 20:3609−3614(2000).)、細胞成長抑制作用(非特許文献11:T.Takahashiら,Structure−activity relationships of flavonoids and the induction of granulocytic− or monocytic−differentiation in HL60 human myeloid leukemia cells.Bioscience,Biotechnology and Biochemistry 62:2199−2204(1998))、筋収縮促進作用(非特許文献12:M.D.HerreraおよびE.Marhuenda Effect of naringin and naringenin on contractions induced by noradrenaline in rat vas deferens−I.Evidence for postsynaptic alpha−2 adrenergic receptor.Gen.Pharmac.24:739−742(1993))、腸管運動阻害作用(非特許文献13:G.D.Carloら,Inhibition of intestinal motility and secretion by flavonoids in mice and rats:structure−activity relationships.Journal of Pharmacy and Pharmacology 45:1054−1059(1993))、カルシウム流入阻害作用(非特許文献14:J.Summanenら,Effects of simple aromatic compounds and flavonoids on Ca2+ fluxes in rat pituitary GH4C1 cells.European Journal of Pharmacology 414:125−133(2001))などの種々の生理活性を有することが報告されている。
【0006】
フラボノイドは、pH3〜10の領域で難溶性であり、沈澱を形成しやすい。例えば、フラボノイドの1種であるバイカレインは、投与量の約300万分の1しか吸収されない。このように、フラボノイドは、体内への吸収効率が極めて悪いことが知られている(非特許文献15:W.Wakuiら、J.Chromatog.,575,131−136(1992))。体内に吸収されないと、フラボノイドの持つ生理活性が生体内で充分発揮されない。そこで、その吸収効率を上昇させることが切望されていた。
【0007】
天然に存在するフラボノイドは、一般的にアグリコンに糖が結合した配糖体の形で存在する。配糖体の形態のフラボノイドは、動物により摂取された後、腸管中に存在する細菌が産生する酵素により糖が加水分解され、アグリコンとなった後、大腸から体内に取り込まれると考えられている。フラボノイドの体内への吸収量を上げるための様々な試みが検討されてきたが、その一つとしてフラボノイドの溶解性を向上させる方法が検討されてきた。
【0008】
例えば、非特許文献16(Kayoko Shimoiら,Journal of Agricultural and Food Chemistry,第51巻,第9号(2003))は、アグリコンであるケルセチン、ケルセチンの二配糖化物であるルチン、およびケルセチンの三配糖化物である4−α−D−グルコピラノシルルチン(αG−ルチン)のラット体内への吸収性を比較している。非特許文献16によれば、ケルセチン<ルチン<αG−ルチンの順で吸収性が上昇する。
【0009】
ケルセチン、ルチンおよびαG−ルチンの吸収性および水への溶解度を以下の表1および図5にまとめる。吸収性は、非特許文献16の表1のAUC0→24hに基づく。なお、ここで、AUC0→24hは、非修飾体とメチル化体との合計(例えば、ケルセチンの場合は、ケルセチン、タマリゼチンおよびイソラムネチンの合計)の値を用いた。相対比として、αG−ルチンのAUC0→24hを1.0としたときの比を示す。溶解度は、ルチンおよびαG−ルチンについて既知の値を示す。ケルセチンは水にほとんど溶けない。なお、図5においては、対数グラフ上に載せるためにケルセチンの溶解度を0.01としてプロットした。
【0010】
【表1】

【0011】
表1および図5を見ると、溶解度が上昇するほど吸収性が上昇することがわかる。これらのことから、フラボノイドの溶解度を上昇させれば吸収性が上昇すると考えられる。
【0012】
一般に、フラボノイドを配糖化すると溶解度が上昇する。そのため、フラボノイドを配糖化することにより溶解度を上昇させる試みが種々行われている。
【0013】
例えば、特許文献4(特開2000−78956号公報)は、フラボノイド(例えば、配糖体であるヘスペリジン)に糖を結合させることにより、その糖転移化合物が非糖転移化合物よりも高率で体内に吸収されることを記載する。
【0014】
特許文献5(特開2000−78955号公報)は、フラボノイド(例えば、配糖体であるヘスペリジン)に糖が結合した糖転移化合物と、フラボノイドとを共に生体に投与することにより、フラボノイドの生体への吸収効率が大きく改善されることを記載する。
【0015】
フラボノイドの水に対する溶解度を向上させる方法としては他に、フラボノイドをシクロデキストリンで包接する方法が公知である。例えば、特許文献6(特開平6−54664号公報)は、ケルセチンの配糖体であるルチンをシクロデキストリンで包接することにより、水に対する溶解度を大幅に向上させることができることを記載する。
【0016】
しかし、他方で、ルチンをβ−シクロデキストリンで包接しても吸収性にほとんど影響がないという文献(非特許文献17:Kouzou Miyakeら,Improvement of solubility and oral bioavailability of rutin by complexation with 2−hydroxypropyl−β−cyclodextrin,Pharmaceutical development and technology,5(3),399−407(2000))もある。
【0017】
このように、従来、フラボノイドの吸収性を向上させる方法の一つとして、フラボノイドの溶解度を向上させることが試みられていた。フラボノイドの溶解度を向上させるためには、配糖体であるフラボノイドをさらに配糖化するか、またはシクロデキストリンで包接することが主に試みられていた。
【0018】
非特許文献18(R.Ficarraら,Study of flavonids/β−cyclodextrins inclusion complexes by NMR,FT−IR,DSC,X−ray investigation.,Journal of pharmaceutical and biomedical analysis 29(2002)1005−1014)は、ヘスペレチン、ヘスペリジン、ナリンゲニン、ナリンジンをβ−シクロデキストリンで包接し、包接されているかどうかを調べている。非特許文献18は、包接化合物の形成は水中での溶解度を上昇させることを記載しており、そして治療処方物において、薬物の溶解および吸収を改善する可能性があることを示唆している。しかし、非特許文献18は、これらの複合体の吸収性自体については調べていない。また、ヘスペレチンの配糖体とヘスペレチン包接物とでどちらがより生物学的利用能が高いかについては記載していない。また、非特許文献18に記載の方法では、メタノールなどの有機溶媒を用いて包接化合物を調製している。メタノールは人体に有害であるので、この方法を用いて調製された包接化合物は、食品として使用できない。
【0019】
さらに、吸収性を向上させる別の方法としては、フラボノイド配糖体の糖を切断してフラボノイドアグリコンとして摂取する方法が試みられてきた。
【0020】
ヘスペリジンの場合は、アグリコンであるヘスペレチンが、配糖体であるヘスペリジンより容易に吸収されることが非特許文献19(Booth ANら,Metabolic fate of hesperidin,eriodictyol,homoeriodictyol and diosmin,J.Biol.Chem.230:661−668(1958))において示されている。
【0021】
ルチンについては、β−シクロデキストリンで包接して溶解性を上げる方法は、吸収性向上にほとんど効果がない。ルチンに糖を転移して配糖体にする方法は、ルチンをシクロデキストリンで包接するよりもさらに溶解性を上げる効果が高く、そして吸収性をさらに上げる効果も高い。
【0022】
ヘスペリジンについては、ヘスペリジンに糖を転移して配糖体にすることにより溶解性を上げる方法よりも、ヘスペリジンの糖を切断して、溶解性が最も悪いアグリコンの形態にする方法の方が、吸収性を上げる効果は高い。
【0023】
このようにフラボノイドの種類によって吸収性を上げる方法は異なると考えられ、吸収性を最も上げる方法を予測することは困難である。
【0024】
ヘスペレチン包接物およびナリンゲニン包接物を効率的に包接する方法も公知ではない。
【特許文献1】特開平11−171778号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2003−325135号公報(第1頁)
【特許文献3】特開2002−234844号公報(第1頁)
【特許文献4】特開2000−78956号公報(第1頁要約)
【特許文献5】特開2000−78955号公報(第2頁)
【特許文献6】特開平6−54664号公報(第1頁)
【非特許文献1】神谷真太郎、新ビタミン学(日本ビタミン学会)1969、p439
【非特許文献2】松田英秋ら、薬学雑誌、111、193−198(1991)
【非特許文献3】J.A.Da Silva Emimら、J.Pharm.Pharmacol.,46,118−712(1994)
【非特許文献4】M.T.Monforteら、IlFarmaco,50,595−599(1995)
【非特許文献5】T.Tanakaら,CancerResearch,54,4653−4659(1994)
【非特許文献6】T.Tanakaら,CancerResearch,57,246−252(1997)
【非特許文献7】T.Tanakaら,Carcinogenesis,18,761−769(1997)
【非特許文献8】T.Tanakaら,Carcinogenesis,18,957−965(1997)
【非特許文献9】A.Garg,S.Garg、L.J.D.ZaneveldおよびA.K.Singla,Chemistry and pharmacology of the citrus bioflavonoid hesperidin,PHYTOTHERAPY RESARCH 15,655−669(2001)
【非特許文献10】W.L.BearおよびR.W.Teel.Effects of citrus flavonoids on the mutagenicity of heterocyclic amines and on cytochrome P450 1A2 activity.Anticancer Research 20:3609−3614(2000)
【非特許文献11】T.Takahashiら,Structure−activity relationships of flavonoids and the induction of granulocytic− or monocytic−differentiation in HL60 human myeloid leukemia cells.Bioscience,Biotechnology and Biochemistry 62:2199−2204(1998)
【非特許文献12】M.D.HerreraおよびE.Marhuenda Effect of naringin and naringenin on contractions induced by noradrenaline in rat vas deferens−I.Evidence for postsynaptic alpha−2 adrenergic receptor.Gen.Pharmac.24:739−742(1993)
【非特許文献13】G.D.Carloら,Inhibition of intestinal motility and secretion by flavonoids in mice and rats:structure−activity relationships.Journal of Pharmacy and Pharmacology 45:1054−1059(1993)
【非特許文献14】J.Summanenら,Effects of simple aromatic compounds and flavonoids on Ca2+ fluxes in rat pituitary GH4C1 cells.European Journal of Pharmacology 414:125−133(2001)
【非特許文献15】W.Wakuiら、J.Chromatog.,575,131−136(1992)
【非特許文献16】Kayoko Shimoiら,Journal of Agricultural and Food Chemistry,第51巻,第9号(2003)
【非特許文献17】Kouzou Miyakeら,Improvement of solubility and oral bioavailability of rutin by complexation with 2−hydroxypropyl−β−cyclodextrin,Pharmaceutical development and technology,5(3),399−407(2000)(図7)
【非特許文献18】R.Ficarraら,Study of flavonids/β−cyclodextrins inclusion complexes by NMR,FT−IR,DSC,X−ray investigation.,Journal of pharmaceutical and biomedical analysis 29(2002)1005−1014
【非特許文献19】Booth ANら,Metabolic fate of hesperidin,eriodictyol,homoeriodictyol and diosmin,J.Biol.Chem.230:661−668(1958)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、天然に存在する配糖体の形態であるヘスペリジンまたはナリンジンの生体吸収性を高める方法として、ヘスペレチン包接化合物およびナリンゲニン包接化合物を合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、天然に存在する配糖体の形態であるヘスペリジンまたはナリンジンを加水分解により糖を除去してアグリコンであるヘスペレチンまたはナリンゲニンとし、これらをさらにβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接する方法をとるか、ヘスペリジンまたはナリンジンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によってまず包接した後、さらにこれらから加水分解によって糖を除去することによりフラボノイドアグリコンの包接物に変化させる方法をとることが、ヘスペリジンまたはナリンジンの生体吸収性を最も高める方法であることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0027】
本発明の方法は、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物であるフラバノン包接化合物を合成する方法であって、
ヘスペリジンまたはナリンジンを、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を得る工程;および
該ヘスペリジン包接化合物または該ナリンジン包接化合物を加水分解してヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程
を包含する。
【0028】
1つの実施形態では、上記加水分解する工程は、該ヘスペリジン包接化合物または該ナリンジン包接化合物にラムノシダーゼおよびグルコシダーゼを作用させることにより行われ得る。
【0029】
1つの実施形態では、上記β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはその修飾物が、β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンに1〜6個のグルコース残基が側鎖として連結した分岐β−シクロデキストリン、およびそれらの化学修飾物からなる群より選択され得る。
【0030】
1つの実施形態では、上記ヘスペリジンまたはナリンジンを、分岐β−シクロデキストリンによって包接され得る。
【0031】
1つの実施形態では、上記分岐β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンに2個のグルコース残基が側鎖として連結した化合物であり得る。
【0032】
1つの実施形態では、上記フラバノン包接化合物はヘスペレチン包接化合物であり得る。
【0033】
本発明の別の方法は、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物であるフラバノン包接化合物を合成する方法であって、
ヘスペレチンまたはナリンゲニンを含む塩基性懸濁液または塩基性水溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を含む酸性水溶液とを混合することにより、ヘスペレチンまたはナリンゲニンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程
を包含する。
【0034】
1つの実施形態では、上記β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはその修飾物は、β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンに1〜6個のグルコース残基が側鎖として連結した分岐β−シクロデキストリン、およびそれらの化学修飾物からなる群より選択され得る。
【0035】
1つの実施形態では、上記ヘスペレチンまたはナリンゲニンを、分岐β−シクロデキストリンによって包接し得る。
【0036】
1つの実施形態では、上記分岐β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンに2個のグルコース残基が側鎖として連結した化合物であり得る。
【0037】
1つの実施形態では、上記フラバノン包接化合物は、ヘスペレチン包接化合物であり得る。
【0038】
本発明のさらに別の方法は、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物であるフラバノン包接化合物を合成する方法であって、
ヘスペレチンまたはナリンゲニンを含む有機溶媒溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を含む水溶液とを混合することにより、ヘスペレチンまたはナリンゲニンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程
を包含し、ここで、該有機溶媒は、エタノール、イソプロパノールまたはテトラヒドロフランである。
【0039】
本発明の食品は、フラバノン包接化合物を含む食品であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている。
【0040】
1つの実施形態では、本発明の食品は、健康食品であり得る。
【0041】
1つの実施形態では、本発明の健康食品は、血流改善および冷え性改善用であり得る。
【0042】
1つの実施形態では、本発明の健康食品は、肌状態改善用であり得る。
【0043】
1つの実施形態では、本発明の健康食品は、コレステロール低下用であり得る。
【0044】
1つの実施形態では、本発明の健康食品は、アレルギー症状改善用であり得る。
【0045】
1つの実施形態では、本発明の健康食品は、抗炎症用であり得る。
【0046】
本発明の医薬品は、フラバノン包接化合物を含む医薬品であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている。
【0047】
本発明の皮膚外用剤は、フラバノン包接化合物を含む皮膚外用剤であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている。
【0048】
本発明の包接化合物は、フラバノン包接化合物であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、分岐β−シクロデキストリンまたは化学修飾β−シクロデキストリンによって包接されている。
【発明の効果】
【0049】
ヘスペリジンまたはナリンジンを加水分解により、ヘスペレチンまたはナリンゲニンとした後、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によってこれらを包接するか、ヘスペリジンまたはナリンジンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接し、さらにこれらから加水分解によって糖を除去してフラボノイドアグリコンの包接物に変化させることにより、生体吸収性が極めて高い、ヘスペレチン包接化合物およびナリンゲニン包接化合物が高い効率で提供される。これらの包接物は生体吸収性が高いため、高い効率で迅速に体内に吸収されるため、ヘスペリジンまたはナリンジンを摂取した時と同様の生理効果を、少量摂取しただけで発揮し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0051】
本発明により、フラバノン包接化合物を製造する方法が提供される。このフラバノン包接化合物において、フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、このフラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている。
【0052】
本明細書中で「包接化合物」とは、分子錯体であって、一方の化学種が1〜3次元の分子規模の空間を作り、その空間に他方の化学種が取り込まれる(すなわち、包接される)ことによって生じる化合物をいう。空間を提供する化合物をホスト、包接される化学種をゲストという。本発明で合成されるフラバノン包接化合物においては、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物がホストであり、フラバノンがゲストである。
【0053】
(1.フラバノン)
本発明で合成される包接化合物においてゲストとして使用されるフラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンである。フラバノンは好ましくはヘスペレチンである。
【0054】
ヘスペレチンは、3’,5,7−トリヒドロキシ−4’−メトキシフラバノンとも呼ばれる。ヘスペレチンは、以下の構造を有する:
【化1】

【0055】
ヘスペレチンは、ヘスペリジンのアグリコンである。ヘスペレチンは、ヘスペリジンをヘスペリジナーゼまたはナリンギナーゼによって分解することにより入手され得る。ヘスペリジンはフラボノイドの一種であり、柑橘類(例えば、温州みかん、夏みかん、伊予みかん、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ)に含まれており、特に温州みかんに多く含まれている。ヘスペリジンは、未熟期のみかんに多量に含まれる。ヘスペリジンは、ミカンの部位でも、黄色い外果皮と果肉との間にある、白い中果皮に最も多く含まれている。ヘスペリジンは、柑橘類の果皮、果汁または種子より抽出することができる。例えば、温州みかんの搾汁粕からヘスペリジンを抽出する場合は、水酸化カルシウムを加えてpHを11.5〜12.5に調整してから撹拌混合し、これを圧搾してから遠心分離する。この液に酸を加えてpHを5〜5.5にしてから加温し、遠心分離により沈澱しているヘスペリジンを回収する方法が示されている(特開平8−188593号公報)。その後、ヘスペリジン水溶液を調製し、糖部分を(例えば、ナリンギナーゼの作用または酸性条件での加水分解により)分解することにより、ヘスペレチンが得られ得る。柑橘類からヘスペリジンを得る方法の詳細は、例えば、King FEおよびRobertson A.,Natural glucosides,Part 3.J.Chem.soc.(II):1704−1709(1931)に記載される。あるいは、市販のヘスペリジンを原料として用いてもよい。ヘスペリジンは、例えば、ハマリ産業株式会社から販売される。ヘスペレチンは、ヘスペリジンのアグリコンである。ヘスペリジンから酸分解によってヘスペレチンを得る方法の詳細は、例えば、Asahina Y.ら,Flavanone glucosides(V):Reduction of flavanone and flavonol derivatives,J.Pharm.Soc−Japan 50:217−223(1931)に記載される。ヘスペレチンは、ヘスペリジンをラムノシダーゼおよびグルコシダーゼによって酵素分解することによっても入手され得る。
【0056】
ナリンゲニンは、4’,5,7−トリヒドロキシフラバノンとも呼ばれる。ナリンゲニンは、以下の構造を有する:
【化2】

【0057】
ナリンゲニンは、その配糖化物として天然に存在する。すなわち、ナリンゲニンは、ナリンジン(ナリンギンともいう)のアグリコンである。ナリンゲニンは、ナリンジンをナリンギナーゼによって分解することにより入手され得る。ナリンジンはフラボノイドの一種であり、柑橘類、特にグレープフルーツ(Citrus paradisi MACF.)、ザボン(Citrus grandis)などに多く含まれている。ナリンジンは柑橘類の苦味物質である。ナリンジンは一般に、グレープフルーツの果実中に0.03〜0.1%含まれる。ナリンジンは、グレープフルーツの部位でも、黄色い外果皮と果肉との間にある、白い中果皮に最も多く含まれている。ナリンジンは、グレープフルーツ、ザボンなどの果皮、果汁または種子より、水または室温時有機溶媒(例えば、エタノールもしくはメタノール)で抽出することにより、分離され得る。ナリンジンの溶解度は水に対し0.1重量%であるが、アルカリ性水溶液に対しては1.0重量%以上溶解する。それゆえ、グレープフルーツ、ザボンなどの果皮、果汁または種子中のナリンジンをまずアルカリ性水溶液に溶解させ、酸で中和することにより、ナリンジンを結晶化してもよい。その後、ナリンジン水溶液を調製し、ナリンギナーゼを作用させて糖部分を分解することにより、ナリンゲニンが得られ得る。グレープフルーツからナリンジンを得る方法の詳細は、例えば、Determination of bioflavonoids in grapefruit juice.(Orii Yら,1997年 臨床薬理)に記載される。あるいは、市販のナリンジンを原料として用いてもよい。ナリンジンは、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から販売される。ナリンジンからナリンゲニンを得る方法の詳細は、例えば、酵素利用ハンドブック 小崎道雄 監修 地人書館刊に記載される。
【0058】
(2.β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物)
本発明で合成される包接化合物においては、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物が、ホストとして作用する。これらのホストは、その空洞内部に種々の有機化合物を取り込み、複合体を形成することが既に知られている。シクロデキストリンの空洞内部は、比較的疎水環境にあるため、水を媒体とした環境下では、親油性物質、あるいは親水性分子構造の中の比較的親油性となる官能基を選択的に取り込む傾向がある。
【0059】
本明細書では、「β−シクロデキストリン」とは、7個の環状α−(1→4)結合したD−グルコピラノース単位から構成されるマルトオリゴ糖をいう。β−シクロデキストリンは、立体的には、底の抜けたバケツの側壁を取り囲むようにグルコース残基が配位している。β−シクロデキストリンは、澱粉などの多糖にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)を作用させることにより調製され得る。β−シクロデキストリンの製造方法は、例えば、シクロデキストリン−基礎と応用−(戸田不二緒 監修 産業図書刊)に記載される。β−シクロデキストリンはまた、例えば、株式会社 横浜国際バイオ研究所から市販されている。
【0060】
本明細書では、「分岐β−シクロデキストリン」とは、β−シクロデキストリンに1個以上のグルコース残基が側鎖として連結した一般的に「分岐β−シクロデキストリン」と呼ばれるもの、およびβ−シクロデキストリンに結合しているグルコース残基のC4位水酸基またはC6位水酸基にβ−結合でガラクトシル基を結合させたガラクトシル−分岐βシクロデキストリン、β−シクロデキストリンに直接ガラクトシル基が結合したガラクトシル分岐β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンにマンノース残基が結合した6−O−α−D−マンノシル−β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンに結合しているグルコース残基のC4位水酸基またはC6位水酸基にα−結合でマンノース残基を結合させたマンノース−分岐βシクロデキストリン、β−シクロデキストリンにN−アセチルグルコサミン残基が結合した6−O−β−D−N−アセチルグルコサミニル−β−シクロデキストリンなどの一般に「ヘテロ分岐β−シクロデキストリン」と呼ばれているものをいう。包接能力を維持しかつ構造的に可能である限り、結合する残基は、β−シクロデキストリンの任意の位置に連結し得るが、好ましくは、バケツの底側にあたる位置に連結する。包接能力を維持しかつ構造的に可能である限り、結合する残基は、β−シクロデキストリンの1箇所または2箇所以上に連結し得るが、好ましくは、1箇所に連結する。β−シクロデキストリンに連結する残基は、好ましくは1〜6個であり、より好ましくは1〜5個であり、さらに好ましくは1〜4個であり、さらに好ましくは1〜3個であり、さらに好ましくは1または2個であり、最も好ましくは2個である。β−シクロデキストリンに連結する複数の残基からなる鎖は、直鎖状であってもよく、分岐していてもよい。分岐シクロデキストリンはシクロデキストリンよりも更に高い水溶性を示す。
【0061】
分岐β−シクロデキストリンは、例えば、まず、澱粉にCGTaseを作用させて得られた、β−シクロデキストリン含有澱粉分解物に、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼなどのシクロデキストリンを分解しないかまたは分解し難い酵素を添加して、澱粉分解物に残存する非環状デキストリンを分解してオリゴ糖を生成させる。次いで、このβ−シクロデキストリンおよびオリゴ糖を含む澱粉分解物に、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどの枝切り酵素を作用させて、オリゴ糖をシクロデキストリンに連結させることによって製造され得る。あるいは、純粋なβ−シクロデキストリンを含む水溶液中に、マルトース、マルトトリオースなどを添加し、この溶液に枝切り酵素を作用させることによっても製造され得る。あるいは、澱粉にシクロデキストリン生成酵素を作用させると、溶液中に分岐β−シクロデキストリンが形成される(特開平6−54664号公報)ので、これらを利用してもよい。分岐β−シクロデキストリンの製造方法は、例えば、特開平6−14789号公報に記載される。分岐β−シクロデキストリンはまた、例えば、株式会社 横浜国際バイオ研究所から市販されている。
【0062】
本明細書では、「それらの修飾物」とは、β−シクロデキストリンの修飾物または分岐β−シクロデキストリンの修飾物をいう。便宜上、分岐β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンの修飾物には含まれない。β−シクロデキストリンおよび分岐β−シクロデキストリンは、包接能力を維持しかつ構造的に可能である限り、任意に修飾され得る。修飾は好ましくは化学修飾である。化学修飾の例としては、メチル化、プロピル化、モノアセチル化、トリアセチル化、モノクロロトリアジニル化、ヒドロキシエチル化、2−ヒドロキシプロピル化、2,3−ジヒドロキシプロピル化、2−ヒドロキシブチル化、2−ヒドロキシイソブチル化、ジエチルアミノエチル化、トリメチルアンモニオプロピル化などが挙げられる。化学修飾β−シクロデキストリンの市販品の具体例としては、以下が挙げられる:CAVASOL W7 M、CAVASOLW7 M PharmaおよびCAVASOL W7 M TL(いずれも、ワッカーケミカルズイーストアジア株式会社製)として市販されるメチル−β−シクロデキストリン;CAVASOLW7 HPおよびCAVASOL W7 HP Pharma(いずれも、ワッカーケミカルズイーストアジア株式会社製)として市販されるヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン;CAVASOL W7 A(いずれも、ワッカーケミカルズ イーストアジア株式会社製)として市販されるモノアセチル−β−シクロデキストリン;CAVASOL W7 TA(いずれも、ワッカーケミカルズ イーストアジア株式会社製)として市販されるトリアセチル−β−シクロデキストリン;ならびにCAVASOL W7 MCT(いずれも、ワッカーケミカルズ イーストアジア株式会社製)として市販されるモノクロロトリアジニル−β−シクロデキストリン。β−シクロデキストリンまたは分岐β−シクロデキストリンを化学修飾する方法は当該分野で公知であり、例えば、シクロデキストリン−基礎と応用−(戸田不二緒 監修 産業図書刊)に記載される。
【0063】
本発明の包接化合物の合成方法においては、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物のうちの1種の化合物を単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。1種で単独で用いることが好ましい。本発明の合成方法においては、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を精製して用いることもできるが、これらのシクロデキストリンを調製して精製をしていない溶液を用いてもよい。精製物を用いることが好ましい。
【0064】
(3.フラバノン包接化合物)
本発明で合成されるフラバノン包接化合物は、一般式[F]・[βCD−R]により示される。ここで、Fは、
【化3】

または
【化4】

であり、βCD−Rは、(C10(C)−Rを示し、Rは、H、−(C11)(C10、低級アルキル、置換アルキル、アシルおよびアジニルからなる群より選択され、m、nおよびsはそれぞれ1以上の任意の整数である。周知のとおり、βCDは、グルコース残基が7つ連なった環状構造をとる。
【0065】
本明細書中では、「低級アルキル」とは、鎖中に1〜6個の炭素原子を有する、直鎖または分枝鎖であり得る基を意味する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、ヘプチル、ノニル、デシル、フルオロメチル、トリフルオロメチルおよびシクロプロピルメチルが挙げられる。
【0066】
本明細書中では、「置換アルキル」とは、アルキル基が1つ以上の置換基で置換されることを意味し、これらの置換基は、同じであっても異なっていてもよい。各置換基は、ハロ、アルキル、アリール、シクロアルキル、シアノ、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルチオ、アミノ、−NH(アルキル)、−NH(シクロアルキル)、−N(アルキル)、カルボキシおよび−C(O)O−アルキルからなる群から独立して選択される。
【0067】
本明細書中では、「アシル」は、H−C(O)−基、アルキル−C(O)−基、アルケニル−C(O)−基、アルキニル−C(O)−基、シクロアルキル−C(O)−基、シクロアルケニル−C(O)−基またはシクロアルキニル−C(O)−基を意味する。適切なアシル基の非限定的な例としては、ホルミル、アセチル、プロパノイル、2−メチルプロパノイルおよびシクロヘキサノイルが挙げられる。
【0068】
本発明で合成されるフラバノン包接化合物において、フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、このフラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている。フラバノンは好ましくは、分岐β−シクロデキストリンによって包接されている。
【0069】
m:nは、好ましくは1:1であり、mは、好ましくは1であり、nは好ましくは1である。
【0070】
は好ましくは−(C11)(C10である。−(C11)(C10は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。直鎖状であることが好ましい。
【0071】
sは好ましくは0〜5であり、より好ましくは0〜4であり、さらに好ましくは0〜3であり、さらにより好ましくは0〜2であり、さらにより好ましくは0〜1であり、最も好ましくは1である。
【0072】
ホストとゲストとから包接化合物が形成されたことは、当該分野で公知の方法により確認され得る。例えば、X線回折、核磁気共鳴(NMR)、示差走査熱分析(DSC)、フーリエ変換赤外分光計(FT−IR)などにより確認され得る。
【0073】
本発明で合成されるフラバノン包接化合物においては、ホストとゲストとが分子数の比にして1:1で包接しており、そのことは、例えば、NMRにより確認され得る。
【0074】
(4.フラバノン包接化合物を合成する方法)
本発明の方法により、フラバノン包接化合物が合成される。本発明の方法は、以下のいずれかの方法である。
【0075】
(4.1 配糖体を包接した後、糖部分を加水分解してアグリコン包接化合物を得る方法)
本発明の第1の方法は、フラバノン包接化合物を合成する方法であって、ヘスペリジンまたはナリンジンを、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を得る工程;および該ヘスペリジン包接化合物または該ナリンジン包接化合物を加水分解してヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程を包含する。
【0076】
包接化合物を合成する一般的な方法としては、シクロデキストリンの飽和水溶液中で包接化合物を作製する飽和水溶液法、シクロデキストリンと水およびゲスト物質を混練し、包接化合物を得る混練法、シクロデキストリンまたはシクロデキストリンを含む多糖水溶液とゲスト物質を噴霧乾燥して、包接化合物を含む粉体を得る噴霧乾燥法などがある。これらの方法の詳細は当該分野で公知である。シクロデキストリンと水およびゲスト物質を混練し、包接化合物を得る混練法の詳細は、例えば、CD包接フレーバー粉末の作成とその除放性質(吉井英文 2004年 日本食品工学会誌)に記載される。シクロデキストリンまたはシクロデキストリンを含む多糖水溶液とゲスト物質を噴霧乾燥して、包接化合物を含む粉体を得る噴霧乾燥法の詳細は、例えば、機能性食品粉末の作成とその特性に関する研究(吉井英文 2003年 日本食品工学会年次大会講演要旨集)に記載される。
【0077】
本発明の合成方法では、まず、配糖体であるヘスペリジンまたはナリンジンを、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を得る。本発明の合成方法は、ヘスペリジンおよびナリンジンが天然物であり、ヘスペレチンおよびナリンゲニンと比較して非常に容易かつ安価に入手できるという利点を有する。
【0078】
ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物は、以下の手順A1またはB1で作製され得る。
【0079】
(A1.塩基性水溶液を用いる手順)
ヘスペリジンまたはナリンジンの塩基性水溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物の酸性水溶液とを少しずつ混合して中和させると、この中和溶液中で包接化合物が形成される。ヘスペリジンまたはナリンジンは、塩基性にすると溶解度が上昇するので、ヘスペリジンまたはナリンジンの水溶液を塩基性にすることが好ましく、pHを約10〜約12にすることがより好ましく、約10.5〜約11.5にすることが最も好ましい。溶液を塩基性にするためには、当該分野で公知の任意の塩基を用い得る。溶液を塩基性にするために用いられ得る塩基の例として、以下が挙げられる:水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよびかんすい。得られるフラバノン包接化合物を食品用途に用いる場合、塩基は、食品添加物として用いられ得る塩基であることが好ましい。1種類の塩基を単独で用いてもよく、2種以上の塩基を混合して用いてもよい。
【0080】
有機溶媒を用いないで合成を行う場合、安全性の懸念がないことから、得られる包接化合物を食品に利用し得るという利点を有する。また、有機溶媒を用いない場合、有害物質が残留していないことを確認する必要がないため、簡便であり、コストが低くなるという利点も有する。
【0081】
(B1.有機溶媒を用いる手順)
ヘスペリジンまたはナリンジンを有機溶媒中に溶解した液に、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物の水溶液を少しずつ混合しながら撹拌することで、包接化合物を形成させてもよい。有機溶媒としては、水溶性のものが良く、好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0082】
上記のA1の手順およびB1の手順のいずれにおいても、混合する際のヘスペリジンまたはナリンジンとβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物とのモル濃度比は、任意に設定され得るが、好ましくは1:2〜1:6であり、より好ましくは1:3〜1:4である。
【0083】
次いで、このヘスペリジン包接化合物またはこのナリンジン包接化合物を加水分解してヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る。ヘスペリジン包接化合物またはこのナリンジン包接化合物の加水分解は、酵素的に行ってもよく、化学的に行ってもよい。
【0084】
加水分解を酵素的に行う場合、ラムノシダーゼおよびグルコシダーゼを用いる。ラムノシダーゼは、ヘスペリジンおよびナリンジン中のラムノース残基を加水分解する。グルコシダーゼは、ヘスペリジンおよびナリンジン中のグルコース残基を加水分解する。ラムノシダーゼおよびグルコシダーゼは、当該分野で容易に入手され得る。
【0085】
例えば、一般にナリンギナーゼと呼ばれる酵素は、ラムノシダーゼおよびβ−グルコシダーゼを含む混合物である。ナリンギナーゼは、糸状菌(Aspergillus sp.(例えば、Aspergillus usamiiおよびAspergillus niger)またはPenicillium sp.(Penicillium decumbens)またはConiothyrium sp.)の培養液より、水で抽出し、濃縮した後、エタノールで処理することにより得られ得る。
【0086】
抽出は、0℃〜15℃で行われることが好ましい。濃縮は、0℃〜30℃で行われることが好ましい。エタノール処理は、0℃〜15℃で行われることが好ましい。ナリンギナーゼは、田辺製薬株式会社から、ナリンギナーゼとして販売されている。
【0087】
一般にヘスペリジナーゼと呼ばれる酵素は、ラムノシダーゼおよびβ−グルコシダーゼを含む。ヘスペリジナーゼは、糸状菌(Aspergillus sp.(例えば、Aspergillus niger)またはPenicillium sp.(例えば、Penicillium decumbens))の培養液より、水で抽出し、濃縮した後、エタノールで処理することにより得られ得る。
【0088】
抽出は、0℃〜15℃で行われることが好ましい。濃縮は、0℃〜30℃で行われることが好ましい。エタノール処理は、0℃〜15℃で行われることが好ましい。ヘスペリジナーゼは、田辺製薬株式会社から、可溶性ヘスペリジナーゼ<タナベ>2号として販売されている。
【0089】
これら以外にも、他の任意のグルコシダーゼおよびラムノシダーゼを用いてもよい。
【0090】
グルコシダーゼおよびラムノシダーゼを作用させる前にヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を精製してもよく、あるいは、形成されたヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を精製することなくそのまま次の工程を行ってもよい。ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を含む溶液のpHは、任意に設定されるが、好ましくは、酵素反応を最適化するために、酸性に調整され、より好ましくはpHが約4〜5になるように調整される。酸性溶液中で包接されて溶解している状態を安定的に維持し、反応後のヘスペレチン包接物またはナリンゲニン包接物の収率を上げるために、ヘスペリジンまたはナリンジンの反応溶液中の濃度を0.1mg/ml〜15mg/ml、好ましくは4mg/ml〜12mg/mlとし、ヘスペリジンまたはナリンジンとシクロデキストリンとのモル比を1:2〜1:6、好ましくは1:3〜1:4とする。
【0091】
ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物に対して添加されるグルコシダーゼおよびラムノシダーゼの量は、任意に設定され得る。グルコシダーゼの量は、好ましくは、約0.001重量%〜約10重量%であり、より好ましくは約0.01重量%〜約5重量%であり、さらに好ましくは約0.05重量%〜約1重量%である。ラムノシダーゼの量は、好ましくは、約0.001重量%〜約10重量%であり、より好ましくは約0.01重量%〜約5重量%であり、さらに好ましくは約0.05重量%〜約1重量%である。例えば、グルコシダーゼおよびラムノシダーゼとしてナリンギナーゼを用いた場合、ナリンギナーゼの量は、好ましくは約0.01重量%〜約10重量%であり、より好ましくは約0.05重量%〜約5重量%であり、さらに好ましくは約0.1重量%〜約1重量%である。
【0092】
ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物と酵素とを反応させる際の溶液の温度は、任意に設定され得るが、好ましくは約10℃〜約70℃であり、より好ましくは約20℃〜約65℃であり、さらに好ましくは約30℃〜約60℃であり、最も好ましくは約40℃〜約55℃である。もちろん、反応温度は、使用する酵素の反応至適温度、反応効率などを考慮して設定される。反応時間は、任意に設定され得るが、好ましくは約30分間〜約100時間であり、より好ましくは約1時間〜約80時間であり、さらに好ましくは約5時間〜約60時間であり、最も好ましくは約10時間〜約50時間である。酵素反応後、この反応液を、必要に応じて、酵素反応よりも高温(例えば、約50℃〜約90℃、好ましくは約60℃〜約80℃)の条件で任意の時間(例えば、約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間)保持してもよい。
【0093】
このようにしてラムノシダーゼおよびグルコシダーゼがヘスペリジン包接物またはナリンジン包接化合物に作用すると、これらのフラバノンの糖部分が加水分解され、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物が形成される。
【0094】
加水分解を化学的に行う場合、ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を酸加水分解し得る。β−シクロデキストリンおよびアグリコン部分を分解しない限り、酸加水分解には、任意の酸を使用し得る。酸加水分解に使用され得る酸の例としては、塩酸、硫酸、硝酸が挙げられる。得られるフラバノン包接化合物を食品用途に用いる場合、酸は、食品添加物として用いられ得る酸であることが好ましい。塩酸を用いることが好ましい。1種類の酸を単独で用いてもよく、2種以上の酸を混合して用いてもよい。加水分解開始時における酸濃度は、好ましくは約0.1N〜約10Nであり、より好ましくは約1N〜約5Nである。酸濃度が低すぎると未分解ヘスペリジンの残存率が高くなる場合がある。酸濃度が高すぎると、β−シクロデキストリンによる包接が外れてしまう場合、またはβ−シクロデキストリン部分およびアグリコン部分が分解される場合がある。
【0095】
酸加水分解の際の反応温度は特に限定されないが、溶液を沸騰温度付近まで加熱することが好ましい。酸加水分解の反応時間は、特に限定されないが、好ましくは約1分間〜約100時間であり、より好ましくは約10分間〜約50時間であり、さらにより好ましくは約1時間〜約40時間であり、最も好ましくは約10時間〜約30時間である。反応時間が短すぎると、酸加水分解が不十分になる場合がある。反応時間が長すぎると、β−シクロデキストリンによる包接が外れてしまう場合、またはβ−シクロデキストリン部分およびアグリコン部分が分解される場合がある。
【0096】
(4.2 アグリコンにβ−シクロデキストリンを直接包接させる方法)
ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物は、アグリコンにβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を直接包接させることによって合成され得る。本発明のこの方法は、(A2)ヘスペレチンまたはナリンゲニンを含む塩基性懸濁液または塩基性水溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を含む酸性水溶液とを混合することにより、ヘスペレチンまたはナリンゲニンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程、あるいは、(B2)ヘスペレチンまたはナリンゲニンを含む有機溶媒溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を含む水溶液とを混合することにより、ヘスペレチンまたはナリンゲニンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程を包含する。アグリコンにβ−シクロデキストリンなどを直接包接させる場合も、上記のヘスペリジンまたはナリンジンを包接する場合について記載した方法と同様の包接方法を使用する。
【0097】
ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物は、以下の手順A2またはB2で作製され得る。
【0098】
(A2.塩基性水溶液を用いる手順)
例えば、ヘスペレチンまたはナリンゲニンの塩基性懸濁液または塩基性水溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物の酸性水溶液とを少しずつ混合して中和させると、この中和溶液中で包接化合物が形成される。ヘスペレチンまたはナリンゲニンは、塩基性にすると溶解度が上昇するので、ヘスペリジンまたはナリンゲニンの懸濁液または水溶液を塩基性にすることが好ましく、pHを約10〜約14にすることがより好ましく、約11.5〜約13.5にすることが最も好ましい。懸濁液または水溶液を塩基性にするためには、当該分野で公知の任意の塩基を用い得る。懸濁液または水溶液を塩基性にするために用いられ得る塩基の例として、以下が挙げられる:水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよびかんすい。得られるフラバノン包接化合物を食品用途に用いる場合、塩基は、食品添加物として用いられ得る塩基であることが好ましい。1種類の塩基を単独で用いてもよく、2種以上の塩基を混合して用いてもよい。
【0099】
有機溶媒を用いないで合成を行う場合、安全性の懸念がないことから、得られる包接化合物を食品に利用し得るという利点を有する。また、有機溶媒を用いない場合、有害物質が残留していないことを確認する必要がないため、簡便であり、コストが低くなるという利点も有する。
【0100】
(B2.有機溶媒を用いる手順)
ヘスペレチンンまたはナリンゲニンを有機溶媒中に溶解した液に、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物の水溶液を少しずつ混合しながら撹拌することで、包接化合物を形成させてもよい。有機溶媒としては、水溶性のものが良く、好ましくは、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0101】
上記のA2の手順およびB2の手順のいずれにおいても、混合する際のヘスペレチンまたはナリンゲニンとβ−シクロデキストリンとのモル濃度比は、任意に設定され得るが、好ましくは1:1〜1:6であり、より好ましくは1:2〜1:4である。
【0102】
混合は、任意の温度で行われ得る。混合後、この混合液を、必要に応じて、混合時よりも高温(例えば、約50℃〜約90℃、好ましくは約60℃〜約80℃)の条件で任意の時間(例えば、約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間)保持してもよい。
【0103】
(5.フラバノン包接化合物の溶解度の確認方法)
フラバノン包接化合物の溶解度は、当該分野で公知の方法によって確認され得る。例えば、0.1N NaOH中の種々の濃度のフラバノン塩基性溶液2.2体積部に、0.1N HCl中のβ−シクロデキストリン溶液1.7体積部を少量ずつ攪拌しながら添加して溶液のpHを中性に変化させながらフラバノン包接化合物を形成させ、析出が生じるか否かを確認することにより、簡便に溶解度を確認し得る。あるいは、例えば、フラバノン包接化合物を20℃の水に添加し、30分間攪拌したときに溶解するか否かを確認することにより、溶解度を確認し得る。
【0104】
(6.フラバノン包接化合物の吸収性の確認方法)
フラバノン包接化合物の吸収性は、当該分野に公知の方法を用いて確認され得る。フラバノン包接化合物の吸収性は、例えば、以下のようにして測定され得る。予備飼育(例えば、約3日〜1週間)した動物(例えば、6週齢のオスddYマウス)を絶食(例えば、約14時間)させ、所定濃度のフラバノン包接化合物の溶液(例えば、200μl)を経口投与する。ゾンデを用いて胃に直接投与してもよい。投与後、経時的に(例えば、心臓から)採血し、血清を分離する。次いで、血清に対し、スルファターゼ、グルクロニダーゼを含む溶液を添加して反応させた後、アセトニトリルを添加して遠心分離し、上清を濃縮遠心により乾固する。これをアセトニトリル/メタノール/水(50:20:30、v/v/v)で溶解し、攪拌した後、ソニケーションし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけて電気化学検出器で検出することにより、得られた血清中のフラバノン誘導体量を定量する。
【0105】
あるいは、得られた血液をJ.A.Boutinらの方法(The American
society for Pharmacology and Experimental Therapeutics,21,1157−1166(1993))によって前処理したのちに、HPLCを用いてそれに含まれるフラバノン包接化合物の量を定量してもよい。J.A.Boutinらの方法は以下のとおりである。採取された血液500μlにアセトニトリル1000μlを添加し、充分振とうした後、15分間静置する。5500rpmで20分間遠心した後、その上清をとり、凍結乾燥する。凍結乾燥した試料をアセトニトリル/蒸留水(20/80;V/V,0.01M NaOH)溶液100μlで溶解し、HPLCで分析する。HPLCの条件は、測定するフラバノン包接化合物により若干の違いはあるが、基本的な条件は以下のとおりである。カラム:ODS、カラム温度:40℃、溶離液:アセトニトリル/蒸留水(20/80;V/V)、流速:0.5ml/min、検出:UV 280nm。血液中のフラバノン包接化合物濃度は濃度既知のフラバノン化合物を用いて検量線を作成し求める。なお、実験動物としてはマウスのほか、ラットなどを用いることもできる。
【0106】
(7.フラバノン包接化合物を含む食品)
本発明の食品は、本発明の方法で合成されるフラバノン包接化合物を含む。食品は、任意の食品であり得る。食品は、固体であっても、半固体であっても、液体であってもよいが、好ましくは液体である。食品は、好ましくは、健康食品であり、より好ましくは健康飲料であるが、これらに限定されない。健康食品は、その健康食品に含まれるフラバノン包接化合物中のフラバノン(すなわち、ヘスペレチンまたはナリンゲニン)と同じ通常の用途に用いられ得る。健康食品の用途・効能の例としては、血流改善および冷え性改善用、肌状態改善用、コレステロール低下用、アレルギー症状改善用、ならびに抗炎症用が挙げられる。本発明の食品は、フラバノン包接化合物に加えて、甜茶抽出物を含み得る。甜茶抽出物を含むことにより、フラバノン包接化合物の生理活性と甜茶抽出物の生理活性との相乗効果が得られ得る。特に、本発明の食品がアレルギー症状改善用である場合、本発明の食品は、フラバノン包接化合物に加えて、甜茶抽出物を含むことが好ましい。
【0107】
食品は、例えば、冷菓(アイスクリーム、アイスミルク、氷菓など)、嗜好性飲料(例えば、清涼飲料、炭酸飲料(サイダー、ラムネ等)、薬味飲料、アルコール性飲料、粉末ジュースなど)、乳製品(牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、バター、マーガリン、チーズ、ホイップクリーム等)、菓子類(洋菓子、和菓子、スナック菓子等、例えば、あんこ、羊羹、饅頭、チョコレート、ガム、ゼリー、寒天、杏仁豆腐、ケーキ、カステラ、クッキー、煎餅、錠菓等)、パン、餅、水産練製品(蒲鉾、ちくわ等)、畜肉加工品(ソーセージ、ハム等)、果実加工品(ジャム、マーマレード、果実ソース等)、調味料(ドレッシング、マヨネーズ、味噌等)、麺類(うどん、そば等)、漬物、および蓄肉、魚肉、果実の瓶詰、缶詰類などであり得る。
【0108】
本発明の方法で合成された包接化合物を食品に添加するには特別な工程を必要とせず、食品の製造工程の初期において原料と共に添加するか、製造工程中に添加するか、あるいは製造工程の終期に添加する。添加方式は混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等通常の方法を食品の種類および性状に応じて選択する。本発明の食品は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0109】
(8.フラバノン包接化合物を含む医薬品)
本発明の医薬品は、本発明の方法で合成されたフラバノン包接化合物を含む。医薬品は、任意の医薬品であり得る。医薬品は、固体であっても、半固体であっても、液体であってもよいが、好ましくは液体である。
【0110】
本発明の方法で合成された包接化合物を医薬品に添加するには特別な工程を必要とせず、医薬品の製造工程の初期において原料と共に添加するか、製造工程中に添加するか、あるいは製造工程の終期に添加する。添加方式は混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等通常の方法を医薬品の種類および性状に応じて選択する。本発明の医薬品は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0111】
(9.フラバノン包接化合物の他の用途)
本発明の方法で合成されたフラバノン包接化合物は、他の種々の用途に用いられ得る。このような用途の例としては、皮膚外用剤が挙げられる。皮膚外用剤の例としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、養毛剤、育毛剤、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラー、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローションなどが挙げられる。本発明の方法で合成されたフラバノン包接化合物を含む皮膚外用剤は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0112】
本明細書中では、フラバノン包接化合物を繊維に結合したり、繊維材料に混合したり、繊維に含浸させたり、または布帛の表面に塗布したりすることにより、その繊維または布帛から製造した衣類(例えば、肌着など)と皮膚とが接触したときにフラバノン包接化合物が経皮吸収されるような利用方法におけるフラバノン包接化合物を含む衣類も、皮膚外用剤の概念に含む。フラバノン包接化合物を繊維に結合することは、例えば、架橋などにより行われ得る。化合物を繊維に結合する方法、繊維材料に混合する方法、繊維に含浸させる方法、布帛表面に塗布する方法などは、当該分野で公知である。
【0113】
本発明の方法で合成された包接化合物を皮膚外用剤に添加するには特別な工程を必要とせず、皮膚外用剤の製造工程の初期において原料と共に添加するか、製造工程中に添加するか、あるいは製造工程の終期に添加する。添加方式は混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等通常の方法を皮膚外用剤の種類および性状に応じて選択する。本発明の方法で合成された皮膚外用剤は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【実施例】
【0114】
<製造実施例1:包接ヘスペリジンを介した包接ヘスペレチンの製造>
0.1NのNaOH 100重量部にヘスペリジン(ハマリ産業株式会社から購入)1重量部を加えて溶解し、ヘスペリジン溶液(pH=12.5)を調製した。0.1NのHCl 76.8重量部に9.772重量部の分岐β−シクロデキストリン(G2−β−CD(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入))を加えて溶解し、分岐β−シクロデキストリン溶液(pH=1.2)を調製した。分岐β−シクロデキストリン溶液をヘスペリジン溶液に撹拌しながら少量ずつ加えて中和することにより、ヘスペリジン包接物溶液を調製した(ヘスペリジン濃度5.65mg/g、ヘスペリジン:分岐β−シクロデキストリンのモル比=1:4)。この溶液中でヘスペリジン包接物が形成されていることを、NMRにより確認した。
【0115】
この溶液に、さらに5NのHCl(約5重量部)を加えてpHを4.5に調整した後、ナリンギナーゼ(田辺製薬株式会社から購入)0.88重量部を加え溶解させた。この溶液を、振盪しながら48時間50℃に保つことにより、ナンリンギナーゼを包接ヘスペリジンに作用させた。この反応液を、75℃で4時間保持することにより、ヘスペレチン包接物溶液を得た。反応溶液を遠心分離して上清を取り、移動相はアセトニトリル/水(25:75、v/v)、流速1ml/min、検出器はUV(波長280nm)の条件で、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけて分析したところ、溶液中に存在しているのは大部分がヘスペレチンの包接物であり、最初のヘスペリジン包接物の95%以上がヘスペレチン包接物に変化していたことがわかった。ヘスペレチンが分岐β−シクロデキストリンに包接されている状態であることは、NMRにより確認した。
【0116】
この結果、大部分のヘスペリジンが分岐シクロデキストリンに包接された状態のまま、ヘスペレチンに結合しているラムノースおよびグルコースが切断されたことにより、ヘスペレチン包接物となったことがわかった。
【0117】
多孔性合成吸着剤による吸着性の差を利用して、このヘスペレチン包接物溶液から、切断されたグルコース、ラムノース、未反応の分岐β−シクロデキストリン、塩類等を除去するために、オルガノ(株)製の商品名アンバーライトXAD 16HPを充填したカラムに通液した。包接ヘスペレチンだけがカラムに吸着され、その他の物質は流出した。包接ヘスペレチンが吸着しているカラムを水で洗浄した後に、エタノール 50v/v%の溶液を通液し、カラムから包接ヘスペレチンを流出させた。この流出液のエタノールを留去させた後、残った溶液を噴霧乾燥して粉末を得た。この粉末は、水に良好な溶解性を示し、粉末に含有されているヘスペレチンは、ほぼ100%分岐β−シクロデキストリンによって包接されており、包接されていないヘスペレチンが残っていないことをDSCおよびFT−IRで分析することにより確認した。
【0118】
<製造実施例2:ヘスペレチンを直接包接することによる包接ヘスペレチンの製造>
蒸留水100重量部にヘスペリジン(ハマリ産業株式会社から購入)1重量部を加えて懸濁液を作り、これに1NのHClを用いてpH=2に調整した。この溶液を、100℃に保ちながら24時間保持し、ヘスペリジンを加水分解させた。反応後の沈澱物には、ヘスペレチン、ヘスペレチン−7−グルコシドおよび未反応のヘスペリジンが含まれていた。
【0119】
これらの生成物を0.1Nの水酸化ナトリウム溶液(pH=約11)に完全に溶解した後、疎水性合成吸着剤による吸着性の差を利用してヘスペレチンとその他の物質に分離するために、アマシャムバイオサイエンス株式会社製 Amersham Sephadex LH−20を充填したカラムに通液した。排出された100mlの液中にはヘスペレチン−7−グルコシドおよび未反応のヘスペリジンが含まれていた。このカラムに水100mlを通液したところ、最初に出てきた70mlには、不純物とヘスペレチン−7−グルコシドおよび未反応のヘスペリジンが含まれており、残りの30mlにはヘスペレチンが含まれていた。さらに、エタノール50v/v)%の溶液200mlを通液してこのカラムからヘスペレチン全量を流出させた。ヘスペレチンを含む流出液のエタノールを留去させた後の沈澱物を乾燥して、ヘスペレチンの粉末を得た。
【0120】
ヘスペレチンの粉末を9mg/mlの濃度になるように0.1N NaOHに溶解してヘスペレチン溶液(pH=12.3)を調製した。分岐β−シクロデキストリン(G2−β−CD(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入))を118mg/mlの濃度になるように0.1N HClに溶解して分岐β−シクロデキストリン溶液(pH=1.2)を調製した。分岐β−シクロデキストリン溶液1.7体積部をヘスペレチン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えて溶液のpHを中性領域に変化させることにより、ヘスペレチン包接物溶液を調製した。この反応液を、85℃で、6時間保持した。
【0121】
多孔性合成吸着剤による吸着性の差を利用して、このヘスペレチン包接物溶液から未反応の分岐β−シクロデキストリン、塩類等を除去するために、オルガノ(株)製 商品名アンバーライトXAD 16HPを充填したカラムに通液した。包接ヘスペレチンだけがカラムに吸着され、その他の物質は流出した。包接ヘスペレチンが吸着しているカラムを水で洗浄した後に、エタノール 50v/v%の溶液を通液し、カラムから包接ヘスペレチンを流出させた。この流出液のエタノールを留去させた後、残った溶液を噴霧乾燥して、噴霧乾燥して粉末を得た。この粉末は、水に良好な溶解性を示し、粉末に含有されているヘスペレチンは、ほぼ100%分岐β−シクロデキストリンによって包接されており、包接されていないヘスペレチンが残っていないことを、DSCおよびFT−IRで分析することにより確認した。
【0122】
<溶解性試験1:β−シクロデキストリンによる包接性試験>
0.1NのHClにβ−シクロデキストリン(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入)を15mg/mlの濃度になるように溶解し、β−シクロデキストリン溶液を調製した。0.1NのNaOHに各種のフラボノイドアグリコンを2mg/mlの濃度になるように溶解させ、アグリコン溶液を調製した。フラボノイドアグリコンとして、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ルテオリン、アピゲニン、ダイゼイン(いずれも、シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)およびケルセチン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。β−シクロデキストリン溶液1.7体積部をアグリコン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えて溶液のpHを中性領域に変化させることにより、フラボノイドアグリコンのβ−シクロデキストリン包接物溶液を調製した。
【0123】
β−シクロデキストリン溶液とアグリコン溶液との混合終了後、30分間放置し、析出が生じたか否かを目視により判断した。いずれのフラボノイドアグリコンを用いた場合も、析出は生じず、溶液状態であった。このことから、β−シクロデキストリンは、フラバノンアグリコンの包接ホストとして適切であることがわかった。
【0124】
<溶解性試験2:分岐β−シクロデキストリンによる包接性試験>
0.1NのHClに分岐−β−シクロデキストリン(β−シクロデキストリンを構成するグルコースの1つにα1−6結合によりマルトース残基が連結したもの;G2−β−CD(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入)を117.9mg/mlの濃度になるように溶解し、分岐β−シクロデキストリン溶液を調製した。0.1NのNaOHに各種のフラボノイドアグリコンを9.09mg/mlの濃度になるように溶解させ、アグリコン溶液を調製した。フラボノイドアグリコンとして、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ルテオリン、アピゲニンおよびダイゼインを用いた。分岐β−シクロデキストリン溶液1.7体積部をアグリコン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えて溶液のpHを中性領域に変化させることにより、フラボノイドアグリコンの分岐β−シクロデキストリン包接物溶液を調製した。
【0125】
分岐β−シクロデキストリン溶液とアグリコン溶液との混合終了後、30分間放置し、析出が生じたか否かを目視により判断した。この結果、フラバノンのアグリコンであるヘスペレチンおよびナリンゲニンを用いた場合は溶液状態で析出は生じなかった。しかし、他のフラボン、フラバノール、イソフラボン類のフラボノイドアグリコンを用いた場合は析出が生じた。このことから、分岐β−シクロデキストリンは、フラバノンアグリコンの包接ホストとして適切であることがわかった。
【0126】
<溶解性比較試験1:α−シクロデキストリンによる包接性試験>
0.1NのHClにα−シクロデキストリンを45mg/mlの濃度になるように溶解し、α−シクロデキストリン溶液を調製した。0.1NのNaOHに各種のフラボノイドアグリコンを6mg/mlの濃度になるように溶解させ、アグリコン溶液を調製した。フラボノイドアグリコンとして、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ルテオリン、アピゲニンおよびダイゼインを用いた。α−シクロデキストリン溶液1.7体積部をアグリコン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えてのpHを中性領域に変化させることにより、フラボノイドアグリコンのα−シクロデキストリン包接物溶液を調製した。
【0127】
α−シクロデキストリン溶液とアグリコン溶液との混合終了後、30分間放置し、析出が生じたか否かを目視により判断した。この結果、いずれのフラボノイドアグリコンを用いた場合であっても析出が生じた。このことから、α−シクロデキストリンは、フラボノイドアグリコンの包接ホストとして適切でないことがわかった。
【0128】
<溶解性比較試験2:分岐α−シクロデキストリンによる包接性試験>
0.1NのHClに分岐−α−シクロデキストリン(α−シクロデキストリンを構成するグルコースの一つにα1−6結合でマルトース残基が連結したもの;G2−α−CD)を117.9mg/mlの濃度になるように溶解し、分岐α−シクロデキストリン溶液を調製した。0.1NのNaOHに各種のフラボノイドアグリコンを9.09mg/mlの濃度になるように溶解させ、アグリコン溶液を調製した。フラボノイドアグリコンとして、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ルテオリン、アピゲニンおよびダイゼインを用いた。分岐α−シクロデキストリン溶液1.7体積部をアグリコン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えて溶液のpHを中性領域に変化させることにより、フラボノイドアグリコンの分岐α−シクロデキストリン包接物溶液を調製した。
【0129】
分岐α−シクロデキストリン溶液とアグリコン溶液との混合終了後、30分間放置し、析出が生じたか否かを目視により判断した。この結果、いずれのフラボノイドアグリコンを用いた場合であっても析出が生じた。このことから、分岐α−シクロデキストリンは、フラボノイドアグリコンの包接ホストとして適切でないことがわかった。
【0130】
<溶解性比較試験3:γ−シクロデキストリンによる包接性試験>
0.1NのHClにγ−シクロデキストリンを90mg/mlの濃度になるように溶解し、γ−シクロデキストリン溶液を調製した。0.1NのNaOHに各種のフラボノイドアグリコンを9.09mg/mlの濃度になるように溶解させ、アグリコン溶液を調製した。フラボノイドアグリコンとして、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、ルテオリン、アピゲニンおよびダイゼインを用いた。γ−シクロデキストリン溶液1.7体積部をアグリコン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えて溶液のpHを中性領域に変化させることにより、フラボノイドアグリコンのγ−シクロデキストリン包接物溶液を調製した。
【0131】
γ−シクロデキストリン溶液とアグリコン溶液との混合終了後、30分間放置し、析出が生じたか否かを目視により判断した。この結果、いずれのフラボノイドアグリコンを用いた場合であっても析出が生じた。このことから、γ−シクロデキストリンは、フラボノイドアグリコンの包接ホストとして適切でないことがわかった。
【0132】
<溶解性試験3:β−シクロデキストリン包接物溶液の溶解度>
0.1NのHClにβ−シクロデキストリンを15mg/mlの濃度になるように溶解し、β−シクロデキストリン溶液を調製した。0.1NのNaOHに各種のフラボノイドアグリコンの濃度を変えて溶解させ、アグリコン溶液を調製した。フラボノイドとして、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ルテオリン、ケルセチン、アピゲニンおよびダイゼインを用いた。β−シクロデキストリン溶液1.7体積部をアグリコン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えて溶液のpHを中性領域に変化させることにより、フラボノイドアグリコンのβ−シクロデキストリン包接物溶液を調製した。
【0133】
β−シクロデキストリンとアグリコン溶液との混合終了後、30分間放置し、析出が生じたか否かを目視により判断した。このようにしてアグリコン濃度の違いによる析出の有無を確認した。結果を表2に示す。
【0134】
【表2】

【0135】
析出が生じなかった最大の最終アグリコン濃度を溶解度とみなした。ヘスペレチンβCD包接物の溶解度は、2.8mg/mlであり、ナリンゲニンβCD包接物の溶解度は2.8mg/mlであり、ケルセチンβCD包接物の溶解度は1.4mg/mlであり、ルテオリンβCD包接物の溶解度は1.7mg/mlであり、アピゲニンβCD包接物の溶解度は1.1mg/mlであり、ダイゼインβCD包接物の溶解度は1.1mg/mlであった。これらの溶解度を図1にグラフとして示す。この結果、ヘスペレチン、ナリンゲニンのフラバノン類の包接物溶液が他のフラボノイドの包接物溶液よりも溶解性が高いことがわかった。
【0136】
<溶解性試験4:分岐β−シクロデキストリン包接物溶液の溶解度>
0.1NのHClに分岐β−シクロデキストリン(β−シクロデキストリンを構成するグルコースの1つにα1-6結合によりマルトース残基が連結したもの;G2−β−CD(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入))を150mg/mlの濃度になるように溶解し、分岐β−シクロデキストリン溶液(pH=1.2)を調製した。0.1NのNaOHに各種のフラボノイドアグリコンの濃度を変えて溶解させて、アグリコン溶液(pH=約12〜13)を調製した。フラボノイドアグリコンとして、ヘスペレチンおよびケルセチンを用いた。分岐β−シクロデキストリン溶液1.7体積部をアグリコン溶液2.2体積部中に少量ずつ撹拌しながら加えて溶液のpHを中性領域に変化させることにより、フラボノイドアグリコンの分岐β−シクロデキストリン包接物溶液を調製した。
【0137】
分岐β−シクロデキストリン溶液とアグリコン溶液との混合終了後、30分間放置し、析出が生じたか否かを目視により判断した。このようにしてアグリコン濃度の違いによる析出の有無を確認した。結果を表3に示す。
【0138】
【表3】

【0139】
析出が生じなかった最大の最終アグリコン濃度を溶解度とみなした。ヘスペレチンG2−βCD包接物の溶解度は、7.3mg/mlであり、ケルセチンG2−βCD包接物の溶解度は3.4mg/mlであった。これらの溶解度を図1にグラフとして示す。この結果、ヘスペレチンの包接物溶液がケルセチンの包接物溶液よりも顕著に溶解性が高いことがわかった。
【0140】
<評価実施例1:ヘスペレチン包接物の吸収性試験(G2−β−CD)>
0.1N HCl 8.47mlに分岐β−シクロデキストリン(β−シクロデキストリンを構成するグルコースの1つにα1−6結合によりマルトース残基が連結したもの;G2−β−CD(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入))を1g溶かし、分岐β−シクロデキストリン溶液とした。0.1N NaOH 11mlにヘスペレチン100mgを溶かし、ヘスペレチン溶液とした。ソニケーションをしながらヘスペレチン溶液を分岐β−シクロデキストリン溶液に加えて、G2−β−CD包接ヘスペレチン溶液とした(ヘスペレチン濃度5mg/ml)。
【0141】
6週齢の47匹のddYマウス(♂)に飼料としてMF(オリエンタル酵母(株)製)を与えて3日間予備飼育した後、試験物質投与前14時間絶食下においた。その後、G2−β−CD包接ヘスペレチン溶液(ヘスペレチン濃度:5mg/ml)を200μl経口投与した。投与15分後、30分後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、および9時間後にそれぞれ5〜6匹のマウスの心臓より採血し、常法により血清を分離した。
【0142】
採取した血清試料中のヘスペリジン誘導体量を定量するために、各血清試料50μlに対し、スルファターゼH−2(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製、スルファターゼ4,080ユニット/mlおよびグルクロニダーゼ141,000ユニット/mlからなる)を酢酸緩衝液(0.1M、pH5.0)で10倍希釈したものを50μl加えて37℃で2時間反応させた。次いで、この反応液にアセトニトリル750μlを加え十分に攪拌した後、遠心分離し、上清を濃縮遠心により乾固して固体を得た。この固体を100〜400μlのアセトニトリル/メタノール/水(50:20:30、v/v/v)で溶解、撹拌後15分程度ソニケーションし、高速液体クロマトグラフィーにかけ、電気化学検出器(ESA社製 クーロケムIII)を使用して分析した。それぞれの血清試料中のヘスペレチンの濃度を、ヘスペレチンを標準として換算することによって求めた。結果を図2および表4に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図3および表5に示す。
【0143】
<評価実施例2:溶解した状態のヘスペレチン包接物(β−CD)の吸収性試験>
0.1N HCl 8.47mlにβ−シクロデキストリン(β-CD、株式会社 横
浜国際バイオ研究所より購入)を1g溶かし、これに蒸留水10mlを加えてβ−シクロデキストリン溶液とした。0.1N NaOH 11mlにヘスペレチン(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)100mgを溶かし、ヘスペレチン溶液とした。ソニケーションをしながらヘスペレチン溶液をβ−シクロデキストリン溶液に加えて、β−CD包接ヘスペレチン溶液とした(ヘスペレチン濃度3.33mg/ml)。この溶液300μlを、評価実施例1と同様の条件の47匹のddYマウス(♂)に経口投与し、実施例1と同様の方法で吸収性を測定した。なお、この評価実施例では、包接物を溶解した状態に保ちながら評価実施例1と同じ量のヘスペレチンを投与するために、評価実施例1と比較してヘスペレチン濃度を下げ、投与容積を増やしている。結果を図2および表4に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図3および表5に示す。
【0144】
<評価実施例3:懸濁した状態のヘスペレチン包接物(β−CD)の吸収性試験>
0.1N HCl 8.47mlにβ−シクロデキストリン(β−CD、株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入)を1g溶かし、β−シクロデキストリン溶液とした。0.1N NaOH 11mlにヘスペレチン(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製)100mgを溶かし、ヘスペレチン溶液とした。ソニケーションをしながらヘスペレチン溶液をβ−シクロデキストリン溶液に加えて、β−CD包接ヘスペレチン溶液とした(ヘスペレチン濃度5mg/ml)。この溶液200μlを、実施例1と同様の条件の47匹のddYマウス(♂)に経口投与し、実施例1と同様の方法で吸収性を測定した。なお、この評価実施例では、評価実施例1と同じ濃度で、同じ投与容積で、かつ同じ重量のヘスペレチンを投与するために、懸濁した状態で投与した。結果を図2および表4に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図3および表5に示す。
【0145】
<評価比較例1:ヘスペレチンの吸収性試験>
蒸留水にヘスペレチン(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社より購入)50mgを加えてヘスペレチン懸濁液を調製した(ヘスペレチン濃度5mg/ml)。この溶液をよく撹拌した後すばやく200μlとり、実施例1と同様の条件の47匹のddYマウス(♂)に経口投与し、実施例1と同様の方法で吸収性を測定した。結果を図2および表4に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図3および表5に示す。
【0146】
<評価比較例2:ヘスペリジンの吸収性試験>
蒸留水にヘスペリジン(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社より購入;純度80%)を126mg(ヘスペリジン換算101mg)加えてヘスペリジン懸濁液を調製した(ヘスペレチン濃度5mg/ml)。この溶液をよく撹拌した後すばやく200μlとり、実施例1と同様の条件の47匹のddYマウス(♂)に経口投与し、実施例1と同様の方法で吸収性を測定した。結果を図2および表4に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図3および表5に示す。
【0147】
<評価比較例3:酵素処理ヘスペリジンの吸収性試験>
蒸留水に酵素処理ヘスペリジン(ヘスペリジンにさらにグルコース残基が1個付加されたもの;江崎グリコ株式会社より購入)128mgを加えて酵素処理ヘスペリジン溶液を調製した(ヘスペレチン濃度5mg/ml)。この溶液を200μlとり、実施例1と同様の条件の47匹のddYマウス(♂)に経口投与し、実施例1と同様の方法で吸収性を測定した。結果を図2および表4に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図3および表5に示す。
【0148】
<評価比較例4:分岐β−シクロデキストリンで包接したケルセチン(G2−β−CD)の吸収性試験>
0.1N HCl8.47mlにG2−β−シクロデキストリン(G2−β−CD、株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入)を1.2g溶かし、分岐β−シクロデキストリン溶液とした。0.1N NaOH 10.8mlにケルセチン(和光純薬工業株式会社から購入)60mgを溶かし、ケルセチン溶液とした。ソニケーションをしながらケルセチン溶液をG2−β−シクロデキストリン溶液に加えて、G2−β−CD包接ケルセチン溶液とした(ケルセチン濃度3mg/ml)。この溶液200μlとり、実施例1と同様の条件の47匹のddYマウス(♂)に経口投与し、実施例1と同様の方法でケルセチンとその代謝物であるタマリゼチンおよびイソラムネチンの吸収量を測定し、それらの合計を吸収性として評価した。結果を図6および表6に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図7および表7に示す。
【0149】
<評価比較例5:ケルセチンの吸収性試験>
蒸留水にケルセチン(和光純薬工業株式会社より購入)30mgを加えてケルセチン懸濁液を調製した(ケルセチン濃度3mg/ml)。この溶液をよく撹拌した後すばやく200μlとり、実施例1と同様の条件の47匹のddYマウス(♂)に経口投与し、実施例1と同様の方法でケルセチンの吸収性を測定した。結果を図6および表6に示す。また、このグラフの0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を計算した。結果を図7および表7に示す。
【0150】
<評価実施例1〜3および評価比較例1〜5のまとめ>
【表4】

【0151】
【表5】

【0152】
表5において相対比は、酵素処理(PA−T)のAUCを1.0としたときの比を示す。
【0153】
【表6】

【0154】
【表7】

【0155】
表7において相対比は、ケルセチンのAUCを0.06としたときの比を示す。表1におけるケルセチンのAUCの相対比が0.06であり、これに合わせたからである。
【0156】
評価実施例1〜3および評価比較例1〜3の結果、溶解した状態のヘスペレチン−β−シクロデキストリン包接物の投与から15分後の血清中ヘスペレチン濃度は、ヘスペレチン、ヘスペリジンおよび酵素処理ヘスペリジンを投与した場合の血清中ヘスペレチン濃度に比べてそれぞれ、約6倍、約700倍および約180倍の高濃度であることが示された。ヘスペレチン−β−シクロデキストリン包接物を析出した状態で投与した場合も、投与から15分後の血清中ヘスペレチン濃度は、ヘスペレチン、ヘスペリジンおよび酵素処理ヘスペリジンを投与した場合の血清中ヘスペレチン濃度に比べてそれぞれ、約9倍、約970倍および約240倍の高濃度であることが示された。さらに、ヘスペレチン−G2−β−シクロデキストリン包接物の投与から15分後の血清中ヘスペレチン濃度は、ヘスペレチン、ヘスペリジンおよび酵素処理ヘスペリジンを投与した場合の血清中ヘスペレチン濃度に比べてそれぞれ、約9倍、約1060倍および約270倍の高濃度であることが示された。
【0157】
ヘスペレチン−G2−β−シクロデキストリン包接物を投与したときの投与0〜9時間のAUC(血中濃度下面積)は、ヘスペレチン、ヘスペリジンおよび酵素処理ヘスペリジンを投与した場合のAUCと比べてそれぞれ、約4.4倍、約64倍および約27倍と顕著に高い値を示した。この結果から、ヘスペレチンをG2−β−シクロデキストリンまたはβ−CDで包接することにより体内への吸収効率が高くなることが分かった。
【0158】
この結果、吸収性は、βCD包接>G2−β−CD包接≫ヘスペレチン≫酵素処理>ヘスペリジンとなった。
【0159】
表5および図4からわかるように、アグリコンがヘスペレチンの場合、溶解度の上昇と吸収性とは全く関係がなかった。これは、図5に示されるような、アグリコンがケルセチンの場合に溶解度が上昇すると吸収性が上昇するという従来の知識からは全く予想できないことであった。また、β−シクロデキストリンで包接した包接化合物の溶解度がそれほど上がらなくても吸収性は上がることがわかった。
【0160】
本発明者らの実験結果によれば、分岐βシクロデキストリンのヘスペレチン包接物とβシクロデキストリンのヘスペレチン包接物とでは溶解性に差があるにもかかわらず、吸収性向上効果にはほとんど差がないことがわかった。それゆえ、包接により水への溶解性が上がることだけが、吸収性向上の理由ではなく、ヘスペレチンがシクロデキストリンに包接されることにより極性が変わる等の何らかの変化が吸収性向上に影響している可能性があると考えられる。
【0161】
(マウスにおける吸収性試験)
ナリンゲニンG2−βCD包接物、ナリンゲニンまたはナリンジンを評価実施例1と同様にマウスに投与して吸収性を試験することにより、ナリンジンの場合も、ヘスペリジンの場合と同様に、ナリンゲニンを包接することにより、吸収性が顕著に向上することがわかる。また、ヘスペリジンG2−βCD包接物またはメチルヘスペリジンを評価実施例1と同様にマウスに投与して吸収性を試験することにより、ヘスペレチン包接物を与えた場合に比べて、吸収性は顕著に向上しないことがわかる。
【0162】
<評価実施例4A−1:ヘスペレチン包接物のヒト吸収性試験(G2−β−CD)>
酵素処理ヘスペリジン(江崎グリコ株式会社製)270gを4.5Lの水道水に溶解し、5NのHClを約40ml加えてpHを5.5に調整した。この溶液にナリンギナーゼ9gおよびグルコアミラーゼ9gを加えて溶解し、温度を55℃に保ったまま48時間反応させて、沈澱を回収した。この沈澱を精製するために4.5Lの水を加えた後、5NのNaOHを約40ml加えてpHを11.0に調整していったん全ての沈澱を溶解した。その後、5NのHClを約60ml加えてpHを2.0まで下げることによりヘスペレチンを沈澱させ、上清中に残っている酵素処理ヘスペリジン、ヘスペリジンおよびヘスペレチン−7−グルコシドを除去した。この操作をもう一度繰り返して回収した沈澱を水で2度洗ったあと、沈澱物をフリーズドライして約30gの粉末を得た。この粉末を高速液体クロマトグラフィーに流してヘスペレチンのピーク面積を調べたところ約98%であった。この精製されたヘスペレチン1800mgを0.1NのNaOH 300mlに溶解させヘスペレチン溶液とした。
【0163】
分岐β−シクロデキストリン(G2−β−CD(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入))17.6gを0.1NのHCl 240mlに溶解し、これを少量ずつヘスペレチン溶液に撹拌しながら加えて中和(pH=7.5)しながらヘスペレチン包接物溶液を作成し、水を加えて全体の容量を600ml(ヘスペレチン換算:3mg/ml)とした。
【0164】
健康な27〜44才の成人男性5名を被験者とし、前日の午後9時30分以降絶食し、朝9時30分にヘスペレチン包接物溶液100ml(ヘスペレチン含有量300mg)を摂取した。摂取前、30分後および1時間後に、上腕部静脈から約10mlの血液を経時的に採取し、遠心分離により血清を分離した。
【0165】
採取した血清試料中のヘスペリジン誘導体量を定量するために、各血清試料500μlに対し、酢酸緩衝液(0.1M、pH4.5)を500μl加えた。さらに、スルファターゼH−2(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製、スルファターゼ4080ユニット/mlおよびグルクロニダーゼ141,000ユニット/mlからなる)を酢酸緩衝液(0.1M、pH5.0)で10倍希釈したものを100μl加えて37℃で2時間反応させた。次いで、シュウ酸(0.01M)を500μl添加し、十分に攪拌した後、8000rpmで5分間遠心分離し、上清を平衡化したOasis HLB 30mg/1cc(日本ウォーターズ株式会社製)にロードした。シュウ酸(0.01M)1ml、水1mlで洗浄後、メタノール1mlで溶出回収した。これを濃縮遠心により乾固した。ここに200μlのアセトニトリルを添加、撹拌後15分程度ソニケーションし、溶解させ、遠心分離後、上清を高速液体クロマトグラフィーにかけ、電気化学検出器(ESA社製 クーロケムIII)を使用して分析した。それぞれの血清試料中のヘスペレチンの濃度を、ヘスペレチンを標準として換算することによって求めた。結果を図8および表8に示す。
【0166】
<評価実施例4A−2:ヘスペレチン包接物のヒト吸収性試験(β−CD)>
β−シクロデキストリン(β−CD(株式会社 横浜国際バイオ研究所より購入))13.5gを0.1NのHCl 240mlに溶解し、これを少量ずつヘスペレチン溶液に撹拌しながら加えて中和(pH=7.5)しながらヘスペレチン包接物溶液を作成し、水を加えて全体の容量を600ml(ヘスペレチン換算:3mg/ml)とした。
【0167】
評価実施例4A−1と同じ被験者に対して、評価実施例4A−1と同様の方法で吸収性を測定した。結果を図8および表8に示す。
【0168】
<評価比較例6A:ヘスペレチンのヒト吸収性試験>
水道水100mlに評価実施例4A−1と同様に調整したヘスペレチン300mgを加えてヘスペレチン懸濁液を調製した(ヘスペレチン濃度:3mg/ml)。評価実施例4A−1と同じ被験者に、この溶液をよく撹拌した後摂取させ、評価実施例4A−1と同様の方法で吸収性を測定した。結果を図8および表8に示す。
【0169】
<評価実施例4A−1、評価実施例4A−2および評価比較例6Aのまとめ>
【表8】

【0170】
図8および表8に示すとおり、G2−βCD包接物を摂取した場合のヘスペレチン吸収量は、ヘスペレチンを摂取した場合に比べ、摂取30分および1時間後のいずれにおいても有意に高い値を示した。β−CD包接物を摂取した場合も同様に、ヘスペレチン吸収量は、ヘスペレチンを摂取した場合に比べ、摂取30分および1時間後に有意に高い値を示した。それゆえ、評価実施例4A−1、評価実施例4A−2および評価比較例6Aの結果、ヒトにおいても、図2におけるマウスの結果同様、ヘスペレチンをG2−βCDまたはβ−CDで包接することにより吸収性が顕著に向上することがわかった。
【0171】
(ヒトにおける吸収性試験)
ヘスペレチンβCD包接物、ヘスペリジン、酵素処理ヘスペリジンについても、評価実施例4A−1と同様にヒトに投与して吸収性を試験することにより、ヘスペレチンを包接することにより、吸収性が顕著に向上することがわかる。
【0172】
<評価実施例4Bおよび評価比較例6B:ヘスペレチン包接物(G2−β−CD)および酵素処理ヘスペリジンのヒト吸収性試験>
健康な27歳の成人男性1名、25歳の成人女性1名を被験者とし、前日の午後9時30分以降絶食し、ヘスペレチン含有量が違う以外は評価実施例4A−1と同様に調製したヘスペレチン包接物(G2−β−CD包接物)溶液100ml(ヘスペレチン含有量100mg;評価実施例4B)、もしくはヘスペレチン含有量が違う以外は評価比較例3と同様に調製した酵素処理ヘスペリジン溶液100ml(ヘスペレチン含有量100mg;評価比較例6B)を朝9時30分に摂取した。摂取前、15分後、30分後、45分後、および60分後、上腕部静脈から約10mlの血液を経時的に採取し、遠心分離により血清を分離した。採取した血清試料中のヘスペリジン誘導体量を、評価実施例4A−1と同様の方法によって測定した。結果を図9および表9に示す。
【0173】
<評価実施例4Bおよび評価比較例6Bのまとめ>
【表9】

【0174】
図9および表9に示すとおり、G2−βCD包接物を摂取した場合のヘスペレチン吸収量は、酵素処理ヘスペリジンを摂取した場合に比べ、摂取15分後から60分後まで終始、高い値を示した。この結果、ヘスペレチンをG2−βCDで包接することにより、酵素処理ヘスペリジンと比較して、吸収性が顕著に向上することがわかった。
【0175】

<評価比較例6C−1および評価比較例6C−2:ヘスペリジンおよび酵素処理ヘスペリジンのヒト吸収性試験>
健康な成人男性4名および成人女性3名を被験者とし、前日の午後9時30分以降絶食し、ヘスペリジン(浜理薬品工業株式会社製)を蒸留水に添加して攪拌した懸濁液100ml(ヘスペレチン含有量1500mg;評価比較例6C−1)、もしくはヘスペレチン含有量が違う以外は評価比較例3と同様に調製した酵素処理ヘスペリジン溶液100ml(ヘスペレチン含有量1500mg;評価比較例6C−2)を朝9時30分に摂取した。摂取前、30分後、1時間後、および2時間後、上腕部静脈から約10mlの血液を経時的に採取し、遠心分離により血清を分離した。採取した血清試料中のヘスペリジン誘導体量を、評価実施例4A−1と同様の方法によって測定した。結果を図10および表10に示す。
【0176】
<評価比較例6C−1および評価比較例6C−2のまとめ>
【表10】

【0177】
図10および表10に示すとおり、酵素処理ヘスペリジンを採取した場合のヘスペレチン吸収量は、ヘスペリジンを摂取した場合に比べ、摂取30分後および1時間後において高い値を示した。この結果、酵素処理ヘスペリジンは、ヘスペリジンよりも吸収性が高いことがわかった。
【0178】
評価実施例4A−1、評価実施例4A−2、評価実施例4B、評価比較例6A、評価比較例6B、評価比較例6C−1および評価比較例6C−2をまとめて考えると、ヘスペレチンG2−β−CD包接物およびヘスペレチンβ−CD包接物は、いずれも、酵素処理ヘスペリジン、ヘスペリジンおよびヘスペレチンのいずれよりも吸収性が極めて高いことがわかった。
【0179】
(ヘスペレチンの種々の効果)
ヘスペレチン分岐βCD包接物をヒト、マウス、ラットなどに投与することにより、アレルギー反応抑制効果が確認される。
【0180】
<評価実施例5:ヘスペレチン分岐(G2)βCD包接物のアレルギー反応抑制効果検証試験>
5週齢の雌性BALB/cマウス42匹を予備飼育の後、体重が均等になるように、7匹ずつ、対照群(A群)、甜茶抽出物投与群(B群)、酵素処理ヘスペリジン投与群(C1群、600mg/kg;C2群、120mg/kg)、ヘスペレチン包接物(評価実施例1と同様の方法で製造したヘスペレチン分岐(G2)βCD包接物)投与群(D1、D2群)、甜茶およびヘスペレチン包接物投与群(E群)の6群に分けた。マウスに5日間連続で被験物質溶液200μLを胃ゾンデにより経口投与した。このとき、被験物質溶液を、表11に示す投与量となるように調整した。経口投与3日目、片側の耳介にDNP特異的IgE抗体1375ng/ml(シグマ社製)を5μl皮内注射し、感作を行った。5日目の経口投与1時間後に0.2mlの0.25%エバンスブルー含有生理食塩水に溶解したDNP結合ウシ血清アルブミン0.05mgを尾静脈投与し、アレルギー反応を惹起した。惹起30分後、両方の耳介を切除し、直径7mmの皮革打抜き用パンチを用いて中央部を打ち抜いた。それぞれの耳介について、滲出したエバンスブルーをホルムアミドで抽出し、その濃度を620nmの吸光度で測定した。A群についての、感作した側の耳介の色素滲出量と感作していない側の耳介の色素滲出量との差の平均を1として、各群のアレルギー反応抑制率を算出した。その結果を図11に示す。
【0181】
図11に示すとおり、甜茶抽出物を単独で投与したB群では、蒸留水を投与したA群に対し、アレルギー反応の抑制傾向が認められたが、効果が弱かった。この結果は、甜茶抽出物が単独でアレルギー反応抑制効果を有することを示唆する。
【0182】
酵素処理ヘスペリジンを単独投与したC1群、C2群ではアレルギー抑制効果は認められなかった。
【0183】
ヘスペレチン包接物を単独で投与したD1群では、蒸留水を投与したA群に対し、60%を超える高いアレルギー反応抑制効果が認められたが、投与量を減らしたD2群では効果が低かった。これらの結果から、ヘスペレチン包接物が単独でアレルギー反応抑制効果を有することが示された。C群の酵素処理ヘスペリジン投与量とD1群のヘスペレチン包接物投与量はヘスペレチン換算で同等である。ヘスペレチン包接物は体内でヘスペレチンを放出すると考えられる。ヘスペリジンはアレルギー反応抑制作用を有することが公知である。また、ヘスペリジンは体内でアグリコンであるヘスペレチンに分解・吸収され、ヘスペレチンが抗アレルギー効果を発揮すると考えられている。このことから、ヘスペレチン包接物のアレルギー反応抑制効果は、ヘスペレチン吸収性の向上により、活性が強く発揮されたものと考えられる。従って、ヘスペレチン包接化合物として投与することにより、ヘスペリジンを投与したときよりも顕著に高いアレルギー反応抑制効果を、少量の摂取によって発揮させ得る。
【0184】
B群と等用量の甜茶およびD2群と等用量のヘスペレチン包接物を組み合わせて投与したE群では、蒸留水を投与したA群に対し、約60%のアレルギー反応抑制効果が認められた。この効果は、それぞれの投与量を単独で与えた場合のアレルギー反応抑制率の合計(約17%)よりも顕著に高い。この結果は、単独ではアレルギー反応抑制効果が低い投与量でも、甜茶抽出物とヘスペレチン包接物とを組み合わせることで、アレルギー反応抑制効果が相乗的に増強されたこと示唆する。
【0185】
【表11】

【0186】
ヘスペレチン分岐βCD包接物をヒト、マウス、ラットなどに投与することにより、血中コレステロール低下効果が確認される。
【0187】
<評価実施例6:ヘスペレチンG2βCD包接物のコレステロール上昇抑制効果検証試験>
6週齢の雄性BALB/cマウス30匹を予備飼育の後、体重が均等になるように、10匹ずつ、対照群(蒸留水投与)、ヘスペレチン投与群、およびヘスペレチンG2βCD包接物(製造実施例1と同様の方法で製造したヘスペレチン分岐(G2)βCD包接物)投与群の3群に分けた。3群に分けた後、1%コレステロール添加食をマウスに4週間摂食させた。この1%コレステロール添加食は高コレステロール食であり、その組成は、1kgあたりの重量で、コレステロール(和光純薬)10g、カゼイン(オリエンタル酵母)200g、コーンスターチ(オリエンタル酵母)541g、大豆油(和光純薬)100g、DL−メチオニン(和光純薬)2g、ミネラルミックス(オリエンタル酵母)40g、ビタミンミックス(オリエンタル酵母)22g、セルロース(オリエンタル酵母)85gであった。この4週間の摂食期間の間、マウスには1週間に5回、被験物質溶液200μLを胃ゾンデにより経口投与した。被験物質溶液は、対照群は蒸留水であり、ヘスペレチン投与群は0.5%ヘスペレチン溶液であり、そしてヘスペレチンG2βCD包接物投与群はヘスペレチン投与量がヘスペレチン投与群と等量になるように調整したヘスペレチンG2βCD包接物の溶液とした。なお、0.5%ヘスペレチン溶液は完全には溶解しないので、十分に懸濁した状態で投与した。
【0188】
4週間後、マウスを頚椎脱臼により屠殺して解剖を行い、体重、臓器重量(肝臓、心臓、脾臓、副精巣周囲脂肪および腎臓周囲脂肪の重量)、ならびに血中および肝臓中のコレステロール、HDLコレステロールおよび中性脂肪を測定した。詳細には、体重を測定後、解剖時にマウスを頚椎脱臼し、心臓より採血を行った後、肝臓、心臓、脾臓、副精巣周囲脂肪および腎臓周囲脂肪を摘出し、重量を測定し、摘出した肝臓を直ちに液体窒素で凍結し、−80℃で凍結保管した。血中の検査項目(コレステロール、HDLコレステロールおよび中性脂肪)については、解剖時に、採取した血液を遠心分離機で血清に分離した後、市販の脂質測定キット(コレステロールEテストワコー、HDL−コレステロールEテストワコー、トリグリセライドEテストワコー;すべて和光純薬製)を用いて測定した。肝臓中の検査項目(コレステロール、HDLコレステロールおよび中性脂肪)については、凍結保管しておいた肝臓を0.5g秤量したのち、Folch法(J.Folch et al.,J.Biol.Chem.,266,497,1957)にて脂質をクロロホルム抽出した後、減圧下で濃縮乾固し、エタノールに溶解しさらに溶解液(蒸留水中にTriton X−100を5g/L、コール酸ナトリウムを3mmol/L含む)を100μL添加し溶液としたものを、血清と同様に市販キットにて測定した。
【0189】
その結果の平均を表12に示す。表12に示すとおり、対照群と比較して、ヘスペレチン包接物投与群は約15%、ヘスペレチン群は約7%、肝臓コレステロールの上昇を抑制した。副精巣周囲脂肪および腎臓周囲脂肪重量は内臓脂肪の指標であるので、解剖時に測定した。副精巣周囲脂肪重量に関しては、対照群と比較して、ヘスペレチン包接物投与群は約16%低い値を、ヘスペレチン投与群は約14%低い値を示した。腎臓周囲脂肪重量に関しては、対照群と比較して、ヘスペレチン包接物投与群は約36%低い値を、ヘスペレチン群は約29%低い値を示した。各群間で体重、肝臓、心臓および脾臓重量に差は見られなかった(表には示さず)ことから、いずれもヘスペレチンを投与することにより、脂質の各指標が低下すること、さらにヘスペレチン包接物投与群で、ヘスペレチン投与群よりも高い脂質抑制効果が見られることがわかった。これらの結果は、図8および9の結果に見られるとおり、ヘスペレチン包接物投与群においてヘスペレチンの体内吸収性が向上したことに起因すると考えられる。
【0190】
【表12】

【0191】
ヘスペレチン分岐βCD包接物をヒト、マウス、ラットなどに投与することにより、血流改善効果および冷え性改善効果が確認される。
【0192】
<評価実施例7:ヘスペレチンG2βCD包接物の血流改善効果検証試験>
酵素処理ヘスペリジンは血流改善効果を有し、冷え症に有効であることが報告されている(第58、59回 日本栄養・食糧学会、吉谷ら)。冷え症診断基準(寺澤 捷年:生薬学誌,41(2),1987)により冷え症と診断された27歳女性において、ヘスペレチン換算40mg相当にあたるヘスペレチン包接物(評価実施例4A−1と同様の方法で製造したヘスペレチン分岐(G2)βCD包接物)もしくは酵素処理ヘスペリジンを37℃の水100mlに溶解させて摂取した際の血流改善効果を冷却負荷法で比較した(参考文献:鹿野昌彦,「末梢循環障害とサーモグラフィー」,BIOMEDICAL THERMOROGY,17(2),111−113,1998;および定方美恵子,佐藤悦,佐山光子,湊孝子,兵頭慶子,定方昭夫,「冷え症の客観的評価に対する予備的研究」,新潟大学医療技術短期大学紀要,7(2),215−226,2000)。なお、37℃の水100mlだけを摂取したときの血流改善値もコントロールとして測定した。食後2時間以上あけて試験飲料を摂取し、30分間安静にした後、左手を15℃に設定した水流付き恒温槽に1分間浸し、冷却負荷をかけた。その後30分間、5分毎に、サーモグラフィー(NEC三栄 TH3100MR)で左手指先の体表面温度を、レーザー血流計(オメガウェーブ FLO−N1)で血流量を測定した。
【0193】
その結果を表13、表14、図12および図13に示す。図12を、冷却直前温度を100%とし、冷却直後温度を0%としたときの表面温度回復率で示した。図13を、冷却直前の数値を100%としたときの変化率で表した。図12に示すとおり、ヘスペレチン包接物摂取により、酵素処理ヘスペリジンを摂取した場合よりも迅速に高い温度回復率が認められた。また、図13に示すとおり、ヘスペレチン包接物を摂取することにより、酵素処理ヘスペリジンよりも早い血流量の回復が認められた。以上の結果は、図8および9の結果に見られるとおり、ヘスペレチン包接物摂取では、ヘスペレチンの体内吸収が速やかであり、吸収量も高まっていることに起因すると考えられる。
【0194】
【表13】

【0195】
【表14】

【0196】
ヘスペレチン分岐βCD包接物をヒト、マウス、ラットなどに投与することにより、肌状態改善効果が確認される。
【0197】
ヘスペレチン分岐βCD包接物をヒト、マウス、ラットなどに投与することにより、抗炎症効果が確認される。
【0198】
<評価実施例8:ヘスペレチン分岐βCD包接物の抗炎症効果検証試験>
5週齢の雌性BALB/cマウス10匹を予備飼育の後、体重が均等になるように、5匹ずつ、対照群(A群)、ヘスペレチン包接物(評価実施例1と同様の方法で製造したヘスペレチン分岐(G2)βCD包接物)投与群(B群)の2群に分けた。マウスには4日間連続で被験物質溶液200μLを胃ゾンデにより経口投与した。被験物質溶液は、表15に示す投与量となるよう調整した。経口投与4日目、マウスの左耳介中央に10μL/earの0.06%クロトン油(シグマ社製)を塗布した。3時間後、0.2mlの1%エバンスブルー含有生理食塩水を尾静脈より投与し、さらに1時間後、耳介を切除した。直径7mmの皮革打抜き用パンチを用いて中央部を打ち抜き、耳介に滲出したエバンスブルーをホルムアミドで抽出し、その濃度を620nmの吸光度で測定した。A群の右耳介色素滲出量と左耳介色素滲出量との差を1として、B群の炎症抑制率を評価した。その結果を表15に示す。
【0199】
表15に示すとおり、ヘスペレチン包接物を投与したB群では、蒸留水を投与したA群に対し、炎症が41%抑制された。この結果から、ヘスペレチン包接物が抗炎症作用を有することが示された。
【0200】
【表15】

【0201】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明により、生体吸収性が極めて高い、ヘスペレチン包接化合物およびナリンゲニン包接化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0203】
【図1】図1は、種々のフラボノイドアグリコンをβ−シクロデキストリン(βCD)または分岐β−シクロデキストリン(G2βCD)で包接して得られた包接化合物の溶解度を示すグラフである。
【図2】図2は、分岐β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(G2βCD包接;評価実施例1)、溶解状態の、β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(βCD包接200μl;評価実施例2)、析出した状態の、β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(βCD包接300μl;評価実施例3)、ヘスペレチン(ヘスペレチン;評価比較例1)、ヘスペリジン(ヘスペリジン;評価比較例2)、酵素処理することにより糖鎖付加したヘスペリジン(酵素処理(PA−T);評価比較例3)をマウスに経口投与した後のマウス心臓血中のヘスペレチン濃度を経時的に示すグラフである。
【図3】図3は、分岐β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(G2βCD包接;評価実施例1)、溶解状態の、β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(βCD包接200μl;評価実施例2)、析出した状態の、β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(βCD包接300μl;評価実施例3)、ヘスペレチン(ヘスペレチン;評価比較例1)、ヘスペリジン(ヘスペリジン;評価比較例2)、酵素処理することにより糖鎖付加したヘスペリジン(酵素処理(PA−T);評価比較例3)をマウスに経口投与した後のマウス心臓血中のヘスペレチン濃度の0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を示すグラフである。
【図4】図4は、分岐β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(G2βCD包接;評価実施例1)、溶解状態の、β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(βCD包接200μl;評価実施例2)、析出した状態の、β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(βCD包接300μl;評価実施例3)の吸収性の相対比をX軸にとり、溶解性をY軸にとったグラフである。
【図5】図5は、酵素処理することにより糖鎖付加したルチン(酵素処理(αGルチン))、ルチン(ルチン)、ケルセチン(ケルセチン)の吸収性の相対比をX軸にとり、溶解性をY軸にとったグラフである。
【図6】図6は、分岐β−シクロデキストリンで包接したケルセチン(G2βCD包接ケルセチン;評価比較例4)またはケルセチン(ケルセチン;評価比較例5)をマウスに経口投与した後のマウス心臓血中のケルセチン濃度とタマリゼチン濃度とイソラムネチン濃度との合計を経時的に示すグラフである。
【図7】図7は、分岐β−シクロデキストリンで包接したケルセチン(G2βCD包接ケルセチン;評価比較例4)またはケルセチン(ケルセチン;評価比較例5)をマウスに経口投与した後のマウス心臓血中のケルセチン濃度とタマリゼチン濃度とイソラムネチン濃度との合計の0時間〜9時間の曲線下面積(AUC)を示すグラフである。
【図8】図8は、分岐β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(G2βCD包接物;評価実施例4A−1)、析出した状態の、β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(βCD包接物;評価実施例4A−2)またはヘスペレチン(ヘスペレチン;評価比較例6A−1)をヒトに経口摂取させた後のヒトの血清試料中のヘスペレチン濃度を経時的に示すグラフである。
【図9】図9は、分岐β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(G2βCD包接物;評価実施例4B)または酵素処理ヘスペリジン(酵素処理ヘスペリジン;評価比較例6B)をヒトに経口摂取させた後のヒトの血清試料中のヘスペレチン濃度を経時的に示すグラフである。
【図10】図10は、ヘスペリジン(ヘスペリジン;評価比較例6C−1)または酵素処理ヘスペリジン(酵素処理ヘスペリジン;評価比較例6C−2)をヒトに経口摂取させた後のヒトの血清試料中のヘスペレチン濃度を経時的に示すグラフである。
【図11】図11は、蒸留水、甜茶抽出物(80mg/kg)、酵素処理ヘスペリジン(600mg/kgまたは120mg/kg)、分岐β−シクロデキストリンで包接したヘスペレチン(ヘスペレチン包接物;550mg/kgまたは55mg/kg)または甜茶抽出物とヘスペレチン包接物との混合物をマウスに経口投与した場合の、A群のアレルギー反応と比較したアレルギー反応抑制率(%)を示すグラフである。
【図12】図12は、コントロール(水)、酵素処理ヘスペリジンまたはヘスペレチン包接物をヒトに経口摂取させた場合の表面温度回復率の経時変化を示すグラフである。縦軸は回復率(%)を、横軸は経過時間(分)を示す。
【図13】図13は、コントロール(水)、酵素処理ヘスペリジンまたはヘスペレチン包接物をヒトに経口摂取させた場合の血流量回復率の経時変化を示すグラフである。縦軸は回復率(%)を、横軸は経過時間(分)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物であるフラバノン包接化合物を合成する方法であって、
ヘスペリジンまたはナリンジンを、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペリジン包接化合物またはナリンジン包接化合物を得る工程;および
該ヘスペリジン包接化合物または該ナリンジン包接化合物を加水分解してヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記加水分解する工程が、該ヘスペリジン包接化合物または該ナリンジン包接化合物にラムノシダーゼおよびグルコシダーゼを作用させることにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはその修飾物が、β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンに1〜6個のグルコース残基が側鎖として連結した分岐β−シクロデキストリン、およびそれらの化学修飾物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヘスペリジンまたはナリンジンを、分岐β−シクロデキストリンによって包接する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分岐β−シクロデキストリンが、β−シクロデキストリンに2個のグルコース残基が側鎖として連結した化合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記フラバノン包接化合物がヘスペレチン包接化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物であるフラバノン包接化合物を合成する方法であって、
ヘスペレチンまたはナリンゲニンを含む塩基性懸濁液または塩基性水溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を含む酸性水溶液とを混合することにより、ヘスペレチンまたはナリンゲニンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程
を包含する、方法。
【請求項8】
前記β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはその修飾物が、β−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンに1〜6個のグルコース残基が側鎖として連結した分岐β−シクロデキストリン、およびそれらの化学修飾物からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ヘスペレチンまたはナリンゲニンを、分岐β−シクロデキストリンによって包接する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記分岐β−シクロデキストリンが、β−シクロデキストリンに2個のグルコース残基が側鎖として連結した化合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記フラバノン包接化合物がヘスペレチン包接化合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物であるフラバノン包接化合物を合成する方法であって、
ヘスペレチンまたはナリンゲニンを含む有機溶媒溶液と、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物を含む水溶液とを混合することにより、ヘスペレチンまたはナリンゲニンをβ−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接して、ヘスペレチン包接化合物またはナリンゲニン包接化合物を得る工程
を包含し、ここで、該有機溶媒は、エタノール、イソプロパノールまたはテトラヒドロフランである、方法。
【請求項13】
フラバノン包接化合物を含む食品であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている、食品。
【請求項14】
健康食品である、請求項13に記載の食品。
【請求項15】
血流改善および冷え性改善用である、請求項14に記載の食品。
【請求項16】
肌状態改善用である、請求項14に記載の食品。
【請求項17】
コレステロール低下用である、請求項14に記載の食品。
【請求項18】
アレルギー症状改善用である、請求項14に記載の食品。
【請求項19】
抗炎症用である、請求項14に記載の食品。
【請求項20】
フラバノン包接化合物を含む医薬品であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている、医薬品。
【請求項21】
フラバノン包接化合物を含む皮膚外用剤であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、β−シクロデキストリン、分岐β−シクロデキストリンまたはそれらの修飾物によって包接されている、皮膚外用剤。
【請求項22】
フラバノン包接化合物であって、該フラバノンは、ヘスペレチンまたはナリンゲニンであり、該フラバノンは、分岐β−シクロデキストリンまたは化学修飾β−シクロデキストリンによって包接されている、包接化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−182777(P2006−182777A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349679(P2005−349679)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】