説明

めっき用治具およびめっき装置

【課題】磁石とめっき液との接触を防止するとともに、磁石を被めっき物の近傍に配置することができるめっき用治具を提供する。
【解決手段】本発明のめっき用治具2Aは、開口部10Gを有する第1の絶縁板10と、被めっき物Pが開口部10Gから外部に臨むように該被めっき物Pを第1の絶縁板10との間で挟持する第2の絶縁板20と、開口部10Gの周縁に位置して第1の絶縁板10と被めっき物Pとの間に介在して設置された内側シール30と、被めっき物Pの外側に位置して第1の絶縁板10と第2の絶縁板20との間に介在して設置された外側シール40と、内側シール30と外側シール40とによってシールされた空間内において被めっき物Pに電気的に接続する伝導体50と、内側シール30と外側シール40とによってシールされた空間内に配置され被めっき物Pを挟んで対向するN極とS極とを有する磁場形成体60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき用治具およびめっき装置に関し、さらに詳細には、主に磁性体膜をめっきで形成するための磁石内蔵型のめっき用治具および該めっき用治具を備えためっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被めっき物の表面に磁気異方性を有する磁性体膜(例えば、NiFe系合金膜)をめっきで形成するためのめっき装置としては、めっき液を貯留しためっき槽と、めっき槽内に設置された被めっき物(陰極)と、被めっき物(陰極)に対向するようにしてめっき槽内に設置された陽極と、めっき槽の外側に被めっき物(陰極)を挟んでN極とS極とが対向するように設置された永久磁石(または電磁石)とを備えためっき装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−17898号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記しためっき装置のように、めっき槽の外側から被めっき物に磁場を印加する場合、各磁極(N極またはS極)と被めっき物との距離や各磁極同士(N極とS極)の距離が大きくなるため、強い磁場を発生する磁石が必要となる。そのため、例えば、永久磁石の場合は、重くて高価な大型の磁石が必要となり、電磁石の場合は、巻数の大きなコイルや大電流の供給が必要となる。
【0004】
このような強い磁場を発生する磁石を必要としない手段として、各磁極と被めっき物との距離や各磁極同士の距離を小さくすること、すなわち、磁石を被めっき物の近傍(めっき槽内)に設置することが考えられる。しかしながら、磁石をそのままめっき槽内に設置すること、すなわち、磁石をそのままめっき液に浸漬することは、磁石の耐薬品性の問題から好ましいことではない。
【0005】
そこで、本発明は、磁石とめっき液との接触を防止するとともに、磁石を被めっき物の近傍に配置することができるめっき用治具および該めっき用治具を備えるめっき装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係るめっき用治具は、開口部を有する第1の絶縁板と、被めっき物が開口部から外部に臨むように該被めっき物を第1の絶縁板との間で挟持する第2の絶縁板と、開口部の周縁に位置して第1の絶縁板と被めっき物との間に介在して設置された内側シールと、被めっき物の外側に位置して第1の絶縁板と第2の絶縁板との間に介在して設置された外側シールと、内側シールと外側シールとによってシールされた空間内において被めっき物に電気的に接続する伝導体と、内側シールと外側シールとによってシールされた空間内に配置され被めっき物を挟んで対向するN極とS極とを有する磁場形成体と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このように構成されためっき用治具は、めっき用治具の内側シールと外側シールとによってシールされた空間内に磁場形成体が配置されることで、磁場形成体とめっき液との接触を防止することができる。また、このように構成されためっき用治具は、磁場形成体を被めっき物の近傍に配置することができる。
【0008】
また、本発明に係るめっき用治具の磁場形成体は、N極とS極とを磁気的に接続するヨークを備えることを特徴とする。
【0009】
このように構成されためっき用治具は、磁場形成体を構成する磁石の磁束密度を有効に利用することができるので、強い磁場を発生する磁石でなくても使用することができる。
【0010】
また、本発明に係るめっき用治具の磁場形成体は、被めっき物を挟んで対向する複数対の電磁石を備え、該複数対の電磁石のうちの少なくとも一対に電流が供給されることで、N極およびS極が構成されることを特徴とする。
【0011】
このように構成されためっき用治具は、一対の電磁石に供給される電流の大きさや向きを変化させたり、別の一対の電磁石に電流を供給したり、二対以上の電磁石に電流を供給したりすることが可能となるので、磁場を任意に制御することができる。
【0012】
また、前記課題を解決するため、本発明に係るめっき装置は、請求項1または請求項2に記載されためっき用治具と、陰極となる被めっき物に対向して設けられた陽極と、めっき液が貯留され、めっき用治具と陽極とが配置されるめっき槽と、を備えることを特徴とする。
【0013】
このように構成されためっき装置は、請求項1または請求項2に記載されためっき用治具を備えることにより、磁場形成体とめっき液との接触を防止することができるとともに、強い磁場を発生する大型の磁石を必要としないのでめっき装置の小型化を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係るめっき装置は、請求項3に記載されためっき用治具と、このめっき用治具の複数対の電磁石への電流供給を制御する制御装置と、陰極となる被めっき物に対向して設けられた陽極と、めっき液が貯留され、めっき用治具と陽極とが配置されるめっき槽と、を備えることを特徴とする。
【0015】
このように構成されためっき装置は、請求項3に記載されためっき用治具とその制御装置を備えるので、被めっき物の表面に形成される磁性体膜の磁化の向き等を制御することができる。
【0016】
また、本発明に係るめっき装置は、めっき用治具と陽極との間に配置された磁性体または磁石と、この磁性体または磁石を駆動させる駆動機構と、を備えることを特徴とする。
【0017】
このように構成されためっき装置は、駆動する磁性体または磁石を備えることで、被めっき物に印加される磁場の方向や密度等を変化させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁石(磁場形成体)とめっき液との接触を防止することができる。これにより、磁石(磁場形成体)の耐薬品性の問題を解決することができる。また、本発明によれば、磁石(磁場形成体)を被めっき物の近傍に配置することができる。これにより、強い磁場を発生する大型の磁石を必要とせず、比較的小型の磁石をめっき用治具に内蔵することができるため、めっき用治具や該めっき用治具を備えるめっき装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
[第1実施形態]
第1実施形態に係るめっき用治具2Aについて、適宜図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係るめっき用治具を示す全体斜視図であり、図2は、第1実施形態に係るめっき用治具の構成を示す分解斜視図である。図3は、図1に示した第1実施形態に係るめっき用治具のX−X断面斜視図であり、図4は、図1に示した第1実施形態に係るめっき用治具のY−Y断面図である。図5は第1実施形態に係るめっき用治具の変形例を示す断面図である。
【0021】
めっき用治具2Aは、被めっき物Pを保持する部品であり、図1,図2に示すように、第1の絶縁板10と、第2の絶縁板20と、内側シール30と、外側シール40と、伝導体50と、磁場形成体60とから概ね構成されている。
めっき用治具2Aに保持される被めっき物Pとしては、例えば、半導体ウェーハ、ガラス基板、セラミック基板、プリント基板、アルミ基板等が挙げられる。なお、本実施形態では、図2に示すように、被めっき物Pを四角形状としているが、これに限定されず、例えば、円形状や四角形以外の多角形状であってもよい。
【0022】
<第1の絶縁板10>
第1の絶縁板10は、被めっき物Pを第2の絶縁板20との間で挟持する部材であり、例えば、アクリル板等の絶縁体を用いて略四角形状の平板体として形成されている。
この第1の絶縁板10は、図2に示すように、表面10A、裏面10Bおよび上面10Cを有し、開口部10Gとネジ孔10Hと挿入孔15とが形成されている。
【0023】
開口部10Gは、図1,図2に示すように、被めっき物Pが外部(めっき液)に露出する部分であり、第1の絶縁板10の表面10Aから裏面10Bに向かって貫通するように形成されている。この開口部10Gは、略四角形状であり、その内周面には第1の絶縁板10の裏面10Bから表面10Aに向かって広がるテーパ面が形成されている。
なお、本実施形態では、開口部10Gは、略四角形状に形成されているが、これに限定されず、例えば、円形状や四角形以外の多角形状に形成してもよい。
【0024】
ネジ孔10Hは、第1の絶縁板10と第2の絶縁板20とを接続するネジ12,12・・・(図1参照)を取り付けるための部分であり、第1の絶縁板10を表面10Aから裏面10Bに向かって貫通するように形成されている。
挿入孔15は、図2に示すように、後記する伝導体50が挿入される部分であり、第1の絶縁板10の上面10Cに、伝導体50と同形状に形成されている。
【0025】
<第2の絶縁板20>
第2の絶縁板20は、被めっき物Pを第1の絶縁板10との間で挟持する部材であり、第1の絶縁板10と同様に、例えば、アクリル板等の絶縁体を用いて略四角形状の平板体として形成されている。
この第2の絶縁板20は、図2に示すように、表面20A、裏面20Bおよび上面20Cを有し、凹部21とネジ孔20Hとが形成され、被めっき物設置部22と支持部24とを備えている。
【0026】
凹部21は、図2に示すように、被めっき物設置部22と磁場形成体60とが配置される部分であり、正面視・断面視が略四角形状に形成されている。
ネジ孔20Hは、第1の絶縁板10と第2の絶縁板20とを接続するネジ12,12・・・(図1参照)を取り付けるための孔部であり、第1の絶縁板10のネジ孔10Hに対応する位置に形成されている。
【0027】
被めっき物設置部22は、図3に示すように、後記する弾性シート23を介して、被めっき物Pを設置し、被めっき物Pの設置位置を調節して(本実施形態では、第2の絶縁板20の裏面20Bと被めっき物設置部22の弾性シート23とが略同一平面となっている)、後記する内側シール30と被めっき物Pとを当接させる部材である。
また、被めっき物設置部22は、図3に示すように、凹部21に配置された後記する磁場形成体60(ヨーク62)を支持・固定する部材でもある。
この被めっき物設置部22は、例えば、アクリル樹脂等を用いて断面視略コの字形状をなすように形成されている。
【0028】
弾性シート23は、被めっき物Pに加えられる第1の絶縁板10の側からの荷重を弾性的に受け止める部材であり、図3に示すように、被めっき物Pと被めっき物設置部22の間に介在して設けられている。この弾性シート23は、例えば、シリコンゴムやフッ素系ゴム等からなる硬質または軟質の弾性材料を用いて被めっき物Pとほぼ同形状のシート状に形成され、被めっき物設置部22に、例えば、接着剤等で固着されている。
【0029】
なお、本実施形態では、被めっき物設置部22は、図3に示すように、第2の絶縁板20とは別部材として形成されているが、これに限定されず、例えば、第2の絶縁板20と一体に形成してもよい(図示せず)。
また、本実施形態では、図3,図4に示すように、被めっき物設置部22に弾性シート23を設けた構成となっているが、これに限定されず、例えば、弾性シート23を設けずに、被めっき物Pが、被めっき物設置部22に直接設置される構成としてもよい(図示せず)。
【0030】
支持部24は、めっき用治具2Aをめっき槽に設置する際に、めっき槽の周壁上部に設置されることでめっき用治具2Aを支持する部材であり、例えば、ステンレスやアクリル樹脂等を用いて略四角形状の平板体として形成されている。この支持部24は、図2に示すように、第2の絶縁板20の上面20Cに、例えば、ネジ25で取り付けられている。
なお、本実施形態では、支持部24は、2枚の平板体を第2の絶縁体20の上面20Cにネジ25で取り付けた構成となっているが、これに限定されず、例えば、1枚の長平板体を第2の絶縁体20の上面20Cにネジ等で取り付けた構成としてもよいし、第2の絶縁板20と支持部24とを一体に形成してもよい(図示せず)。
【0031】
<内側シール30>
内側シール30は、図2乃至図4に示すように、第1の絶縁板10の裏面10Bと被めっき物Pの表面に当接することにより、外側シール40とともに、被めっき物Pと導電ゴム51との電気的な接続部分や、磁場形成体60にめっき液が浸入するのを遮断する部材である。
この内側シール30は、例えば、樹脂材料等を用いて断面視略四角形状をなした枠体として形成され、第1の絶縁板10の開口部10Gの周縁に位置して、第1の絶縁板10と被めっき物Pとの間に介在して設置されている。
なお、内側シール30の固定方法は、本発明では特に限定されず、例えば、第1の絶縁板10の裏面10Bに形成された取付溝(図示せず)に内側シール30を嵌着する構成としてもよいし、内側シール30または第1の絶縁板10の裏面10Bに耐薬品性の接着剤(図示せず)を塗布して固着する構成としてもよい。また、内側シール30の形状は、開口部10Gの形状に合わせて適宜設定することができる。
【0032】
この内側シール30によって取り囲まれた被めっき物Pの表面が、図3に示すように、第1の絶縁板10の開口部10Gから露出する部分であり、めっき時に、磁性体膜が形成される被めっき面Psとなる。したがって、本実施形態においては、内側シール30および開口部10Gが、図2に示すように、略四角形状に形成されているので、被めっき面Psも略四角形状として形成される。
なお、被めっき面Psの形状は略四角形状に限定されず、内側シール30および開口部10Gの形状を、例えば、円形状や四角形以外の多角形状とすることで、所望の形状の被めっき面Psを形成することができる。
【0033】
<外側シール40>
外側シール40は、図2乃至図4に示すように、第1の絶縁板10の裏面10Bと第2の絶縁板20の裏面20Bに当接することにより、内側シール30とともに、被めっき物Pと導電ゴム51との電気的な接続部分や、磁場形成体60にめっき液が浸入するのを遮断する部材である。
この外側シール40は、内側シール30と同様に、例えば、樹脂材料等を用いて断面視略四角形状をなした枠体として形成され、第2の絶縁板20の凹部21の周縁に位置して、第1の絶縁板10と第2の絶縁板20との間に介在して設置されている。
なお、外側シール40の固定方法は、本発明では特に限定されず、例えば、第2の絶縁板20の裏面20Bに形成された取付溝(図示せず)に外側シール40を嵌着する構成としてもよいし、外側シール40または第2の絶縁板20の裏面20Bに耐薬品性の接着剤(図示せず)を塗布して固着する構成としてもよい。
【0034】
<伝導体50>
伝導体50は、めっき時に、電源(図示せず)の負極に接続されることで、導電ゴム51を介して、被めっき物Pに電気を供給する部材であり、例えば、銅や黄銅、ステンレス等の導電性物質を用いて長薄板形状に形成されている。
この伝導体50は、図2に示すように、第1の絶縁板10の上面10Cに設けられた挿入孔15に挿入され、その下部が、内側シール30の周縁に位置する導電ゴム51の上部にネジ51aで電気的に接続されている。
【0035】
導電ゴム51は、導電微粒子を混合した合成樹脂、例えば、金属微粒子を混合したシリコンゴム等からなる導電性と弾性の両方を兼ね備えたゴム材料を用いて断面視略四角形状をなした枠体として形成されたものである(図2参照)。なお、導電ゴム51の形状は、前記した内側シール30および開口部10Gの形状に合わせて適宜設定することができる。
【0036】
本実施形態では、伝導体50は、長薄板形状に形成されているが、これに限定されず、例えば、先端部分が平らになった丸棒(円柱)形状に形成してもよい(図示せず)。
また、伝導体50は、導電ゴム51を介して被めっき物Pに電気を供給する構成となっているが、被めっき物Pに電気を供給することができる構成であればこれに限定されない。例えば、導電ゴム51の代わりに枠体として形成された金属板(図示せず)を使用して被めっき物Pに電気的に接続される構成としてもよいし、伝導体50が直接被めっき物Pに当接して電気的に接続される構成としてもよい(図示せず)。
【0037】
<磁場形成体60>
磁場形成体60は、被めっき物Pに磁場を印加する部材であり、図4に示すように、被めっき物Pを挟んでN極とS極とが対向する一対の永久磁石61,61の一端を、金属、例えば、鋼鉄からなる略コの字形状のヨーク62で接続して略C字形状に形成されている。なお、N極およびS極の配置は任意に変更することができる。このように、永久磁石61,61をヨーク62で接続することにより、永久磁石61,61の磁束密度を有効に利用することができるので、強い磁場を発生する磁石でなくても使用することができる。
この磁場形成体60は、図3,図4に示すように、第2の絶縁板の凹部21に配置され、被めっき物設置部22でヨーク62が支持・固定されている。
【0038】
なお、本実施形態では、磁場形成体60は、永久磁石61,61をヨーク62に接続した構成となっているが、これに限定されず、例えば、一対の電磁石をヨーク62に接続した構成としてもよい(図示せず)。また、ヨーク62を使用せずに、例えば、略C字形状に形成した一本の永久磁石または一本の電磁石を配置した構成としてもよいし、被めっき物Pを挟んで対向するように配置した一対の永久磁石または一対の電磁石を備える構成としてもよい(図示せず)。
【0039】
以上のような構成を備えるめっき用治具2Aによれば、めっき用治具2Aの内側シール30と外側シール40とによってシールされた空間内に磁場形成体60が配置されることで、磁場形成体60とめっき液(図示せず)との接触を防止することができる。これにより、磁石(磁場形成体60)の耐薬品性の問題を解決することができる。
また、以上のような構成を備えるめっき用治具2Aは、磁場形成体60を被めっき物Pの近傍に配置することができる。これにより、強い磁場を発生する大型の磁石を必要とせず、比較的小型の磁石をめっき用治具2Aの内部に配置することができるため、めっき用治具2Aや該めっき用治具2Aを備えるめっき装置の小型化を図ることができる。
【0040】
また、被めっき物Pの近傍に磁場形成体60が配置されることで、めっき時に、磁場と電流の作用により、被めっき面Psの表面のめっき液(めっき液中の陽イオン・陰イオン。図示せず)に力が発生する。これにより、めっき液に対流が発生するので、被めっき面Psの表面のめっき液の撹拌・循環が促進され、常に新しいめっき液を被めっき面Psの表面に供給することができる(分極の防止)。
【0041】
本実施形態においては、図4に示すように、第2の絶縁板20の裏面20Bと略同一平面となる被めっき物設置部22の弾性シート23に、被めっき物Pが設置されているが、被めっき物Pの設置位置はこれに限定されない。例えば、図5に示すように、被めっき物設置部22の短手方向の厚さを薄くして(被めっき物設置部22’)、対向する一対の永久磁石61,61の対向面の中央部に被めっき物Pを設置する構成としてもよい。この時、第1の絶縁板10’は、その断面形状が、例えば、凸部を有する板体として形成され、この凸部に、開口部10Gが形成されるとともに、内側シール30と導電ゴム51とを備える構成となる。
ここで、対向する一対の永久磁石61,61の対向面の中央部は、磁場の最も強い位置であるから、この部分に被めっき物Pを設置することで、めっき時に、磁場形成体60(永久磁石61,61)の磁場を有効に利用することができる。
【0042】
なお、以上説明した第1実施形態では、図2等に示すように、被めっき物Pの左右方向に磁場形成体60(永久磁石61,61)を配置した構成としているが、これに限定されず、例えば、被めっき物Pの上下方向に磁場形成体60(永久磁石61,61)を配置した構成としてもよい(図示せず)。
【0043】
[第2実施形態]
第2実施形態に係るめっき用治具2B(後記図8参照)について、適宜図面を参照しながら説明する。図6は、第2実施形態に係るめっき用治具の第2の絶縁板、外側シール、磁場形成体を示す斜視図である。
【0044】
めっき用治具2Bは、第2の絶縁板70、外側シール80および電磁石90(磁場形成体)の構成が、第1実施形態に係るめっき用治具2Aと異なっている。以下、これらについて説明する。なお、被めっき物P、第1の絶縁板10、内側シール30および伝導体50については、第1実施形態に係るめっき用治具2Aと同様であるから説明を省略する。
【0045】
<第2の絶縁板70>
第2の絶縁板70は、被めっき物Pを第1の絶縁板10との間で挟持する部材であり、第1の絶縁板10と同様に、例えば、アクリル板等の絶縁体を用いて略四角形状の平板体として形成されている。
この第2の絶縁板70は、図6に示すように、表面70A、裏面70Bおよび上面70Cを有し、ネジ孔70Hと凹部71と被めっき物設置部72とが形成され、弾性シート73と支持部74とを備えている。
【0046】
凹部71は、電磁石90を配置する部分であり、被めっき物設置部72の周縁部に8箇所、正面視・断面視が略四角形状に等間隔で形成されている。
被めっき物設置部72は、弾性シート73を介して、被めっき物Pを設置し、被めっき物Pの設置位置を調節して、内側シール30と被めっき物Pとを当接させる部分であり、第2の絶縁板70と一体に形成されている。
弾性シート73は、第1実施形態の弾性シート23と同様の構成であり、被めっき物設置部72に、例えば、接着剤等で固着されている。
ネジ孔70Hおよび支持部74は、第1実施形態のネジ孔20Hおよび支持部24と同様に構成されているから説明を省略する。
【0047】
なお、本実施形態では、被めっき物設置部72は、第2の絶縁板70と一体に形成されているが、これに限定されず、例えば、第1実施形態の被めっき物設置部22と同様に、第2の絶縁板70から着脱可能な構成としてもよい。また、弾性シート73を設けない構成としてもよい。
また、本実施形態では、第2の絶縁板70に直接凹部71が形成されているが、これに限定されず、例えば、第2の絶縁板70に形成された1つの凹部(第1実施形態の凹部21参照)に、8つ(複数)の凹部71が形成された別の平板体を嵌設する構成としてもよい(図示せず)。
【0048】
<外側シール80>
外側シール80は、第1実施形態の外側シール40と同様に、第1の絶縁板10の裏面10Bと第2の絶縁板70の裏面70Bに当接することにより、内側シール30とともに、被めっき物Pと導電ゴム51との電気的な接続部分や、電磁石90にめっき液が浸入するのを遮断する部材である。
この外側シール80は、内側シール30と同様に、例えば、樹脂材料等を用いて横断面が略四角形状をなした枠体として形成され(図6参照)、電磁石90,90・・・を取り囲むように位置して、第1の絶縁板10と第2の絶縁板70との間に介在して設置されている。
なお、外側シール80の固定方法は、本発明では特に限定されず、例えば、第2の絶縁板70の裏面70Bに形成された取付溝(図示せず)に外側シール80を嵌着する構成としてもよいし、外側シール80または第2の絶縁板70の裏面70Bに耐薬品性の接着剤(図示せず)を塗布して固着する構成としてもよい。
【0049】
<電磁石90>
電磁石90は、被めっき物Pに磁場を印加する部材であり、図6に示すように、第2の絶縁板70の凹部71に、2つの電磁石90,90が被めっき物Pを挟んで対向するようにして四対が配置されている。これら四対の電磁石90,90によって、めっき用治具2Bの磁場形成体が構成されている。
電磁石90,90・・・のそれぞれの巻線(コイル)の両端は、凹部71,71・・・のそれぞれの内壁面から第2の絶縁板70の上面70Cに貫通するように形成された貫通孔76から引き出されて、電気的に接続しないように集められ、電線91として形成される。この電線91が、例えば、後記する制御装置5(図8参照)に電気的に接続されることで、被めっき物Pを挟んで対向する一対の電磁石90,90ごとに電流を供給することができる。
なお、本実施形態では、磁場形成体は、四対の電磁石90,90から形成されているが、複数対の電磁石90,90を備えていればよく、四対に限定されるものではない。
【0050】
以上のような構成を備えるめっき用治具2Bによれば、めっき時に、一対の電磁石90,90に供給される電流の大きさや向きを変化させたり、別の一対の電磁石90,90に電流を供給したり、二対以上の電磁石90,90に電流を供給したりすることが可能となるので、磁場を任意に制御することができる。これにより、めっき用治具2Bを備えるめっき装置は、被めっき面Psに形成される磁性体膜の磁化の向き等を制御することができる。
【0051】
ところで、被めっき面Psにあらかじめ形成された基板のパターンの向きによっては、めっき時に発生するガスの気泡が被めっき面Psの表面に残留・付着して、磁性体膜等のめっき皮膜の均一な形成を妨げるという問題があった。
これに対して、めっき用治具2Bによれば、磁場を任意に制御することができるので、めっき時に、磁場と電流の作用によって発生するめっき液の対流の向き、すなわち、めっき液の流れを制御することができる。これにより、基板のパターンの向きと同じ向きにめっき液の流れを制御することができるので、被めっき面Psの表面に付着したガスの気泡を除去して磁性体膜等のめっき皮膜を均一に形成することができるとともに、新しいめっき液を被めっき面Psの表面に供給することができる。
【0052】
[第3実施形態]
第3実施形態に係るめっき装置1Aについて、適宜図面を参照しながら説明する。図7は、第3実施形態に係るめっき装置を示す全体斜視図であり、図8は、第3実施形態に係るめっき装置の変形例を示す全体斜視図である。
【0053】
めっき装置1Aは、被めっき面Psに磁性体膜をめっきで形成するための装置であり、図7に示すように、陰極となる被めっき物Pを保持する前記した第1実施形態に係るめっき用治具2Aと、陰極となる被めっき物Pに対向して設けられる陽極3と、めっき液Lが貯留され、めっき用治具2Aと陽極3とが配置されるめっき槽4とから概ね構成されている。
【0054】
陽極3は、めっき時に、電源(図示せず)の正極に接続され、例えば、ニッケルやパーマロイ、銅、錫、白金等の導電性物質を用いて、図7に示すように、上部に支持部を有する略四角形状の平板体に形成されている。
なお、陽極3の形状はこれに限定されず、例えば、略棒状に形成されていてもよいし、ボール状やペレット状に形成された陽極を上部が開口したチタンメッシュ製のケースに充填した形状としてもよい。
【0055】
めっき槽4は、めっき用治具2Aおよび陽極3が配置され、めっき液Lが貯留される水槽であり、例えば、アクリル樹脂や塩化ビニル樹脂、テフロン(登録商標)樹脂等を用いて、図7に示すように、略直方体の蓋のない容器形状に形成されている。
なお、めっき槽4の形状や構成はこれに限定されず、例えば、円筒形状であってもよいし、蓋を備えていてもよい。また、めっき槽4に貯留されるめっき液Lは、磁性体膜用のめっき液に限定されず、電解用のめっき液や無電解用のめっき液であってもよい。
【0056】
続いて、めっき装置1Aの動作の概要について説明する(適宜図1乃至図4参照)。
まず、第2の絶縁板20の被めっき物設置部22に設けられた弾性シート23に被めっき物Pを設置して、第2の絶縁板20に第1の絶縁板10を合着し、第1の絶縁板10と第2の絶縁板20とをネジ12で接続する。なお、第1の絶縁板10と第2の絶縁板20とを合着する時には、第1の絶縁板10の裏面10Bに固着された内側シール30を被めっき物Pの表面に当接させて、被めっき物P(被めっき面Ps)を開口部10Gから外部に露出させるとともに、第2の絶縁板20の裏面20Bに固着させた外側シール40を第1の絶縁板10の裏面10Bに当接させるようにする。
次に、被めっき物P(被めっき面Ps)と陽極3とが対向するように、めっき用治具2Aと陽極3とをめっき液Lが貯留されためっき槽4に配置する。この時、めっき用治具2Aの第1の絶縁板10の開口部10G(被めっき面Ps)がめっき液Lに完全に浸漬するようにめっき用治具2Aを配置する。
そして、めっき用治具2Aの伝導体50の上端部に電源(図示せず)の負極を、陽極3の上端部に電源の正極を電気的に接続して、通電し、被めっき物P(被めっき面Ps)に磁性体膜を形成させる。
このとき、被めっき物Pには、該被めっき物Pを挟むように配置された磁場形成体60の対向するN極とS極とによって、一方向に磁場が印加されていることから、磁性体膜の磁化の向きが一方向に揃うこととなる。
【0057】
以上のような構成を備えるめっき装置1Aによれば、めっき用治具2Aを備えることにより、磁場形成体60とめっき液Lとの接触を防止することができるとともに、強い磁場を発生する大型の磁石を必要としないのでめっき装置1Aの小型化を図ることができる。
また、以上のような構成を備えるめっき装置1Aによれば、めっき槽4の外側に強い磁場を発生する磁石を配置する必要がないので、めっき槽4の内部に磁性体の部品(例えば、金属製のネジ等)を使用することができる。
【0058】
なお、めっき用治具2Aに代わって、図8に示すように、前記した第2実施形態に係るめっき用治具2Bと制御装置5とを備えることもできる。
めっき装置1A’は、被めっき物Pと陽極3との間を通電する前に、電磁石90,90・・・(図6参照)に電気的に接続された制御装置5を使用して、所望の一対の電磁石90,90(複数対でもよい)に、電流を供給してN極とS極を構成し、被めっき物Pに磁場を印加する工程が付加される。
以上のような構成を備えるめっき装置1A’によれば、磁場を任意に制御することができるので、被めっき面Psに形成される磁性体膜の磁化の向き等を制御することができる。
【0059】
[第4実施形態]
第4実施形態に係るめっき装置1Bについて、適宜図面を参照しながら説明する。図9は、第4実施形態に係るめっき装置を示す全体断面図である。
【0060】
めっき装置1Bは、図9に示すように、前記した第3実施形態に係るめっき装置1Aに、めっき用治具2Aと陽極3との間に配置されるパドル6と駆動機構7とをさらに備えた構成となっている。
【0061】
パドル6は、磁性体や磁石を用いて形成された略棒状の部材であり、その上部が駆動機構7に接続されている。なお、本実施形態では、このパドル6が特許請求の範囲に記載しためっき用治具と陽極との間に配置された磁性体または磁石に相当する。
駆動機構7は、パドル6を駆動させる装置であり、パドル6をめっき用治具2A(被めっき面Ps)に対して平行に往復運動させることができる。
【0062】
以上のような構成を備えるめっき装置1Bによれば、めっき液Lを撹拌することができるとともに、パドル6を磁性体または磁石を用いて形成したことで、被めっき物Pに印加される磁場の方向や密度等を変化させることができる。これにより、被めっき面Psに形成される磁性体膜の磁化の向き等を制御することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、パドル6は略棒状に形成されているが、これに限定されず、例えば、略長板状に形成されていてもよいし、略櫂状に形成されていてもよい。また、パドル6は全体を磁性体または磁石で形成してもよいし、その一部、例えば、めっき用治具2Aと陽極3との間に位置する部分のみを磁性体または磁石とする構成でもよい。
また、本実施形態では、パドル6は、めっき用治具2A(被めっき面Ps)に対して平行に往復運動する構成となっているが、これに限定されず、例えば、めっき用治具2A(被めっき面Ps)に対して垂直に往復運動する構成としてもよいし、めっき用治具2Aと陽極3との間で回転運動する構成としてもよい。さらに、例えば、パドル6の運動に規則性を持たせるために駆動機構7に運動制御機能等を備えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1実施形態に係るめっき用治具を示す全体斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るめっき用治具の構成を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示した第1実施形態に係るめっき用治具のX−X断面斜視図である。
【図4】図1に示した第1実施形態に係るめっき用治具のY−Y断面図である。
【図5】第1実施形態に係るめっき用治具の変形例を示す断面図である。
【図6】第2実施形態に係るめっき用治具の第2の絶縁板、外側シール、磁場形成体を示す斜視図である。
【図7】第3実施形態に係るめっき装置を示す全体斜視図である。
【図8】第3実施形態に係るめっき装置の変形例を示す全体斜視図である。
【図9】第4実施形態に係るめっき装置を示す全体断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1A,1A’,1B めっき装置
2A,2A’,2B めっき用治具
3 陽極
4 めっき槽
5 制御装置
6 パドル(磁性体または磁石)
7 駆動機構
10,10’ 第1の絶縁板
10G 開口部
20,20’,70 第2の絶縁板
30 内側シール
40,80 外側シール
50 伝導体
51 導電ゴム
60 磁場形成体
61 永久磁石
62 ヨーク
90 電磁石
L めっき液
P 被めっき物
Ps 被めっき面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する第1の絶縁板と、
被めっき物が前記開口部から外部に臨むように該被めっき物を前記第1の絶縁板との間で挟持する第2の絶縁板と、
前記開口部の周縁に位置して前記第1の絶縁板と前記被めっき物との間に介在して設置された内側シールと、
前記被めっき物の外側に位置して前記第1の絶縁板と前記第2の絶縁板との間に介在して設置された外側シールと、
前記内側シールと前記外側シールとによってシールされた空間内において前記被めっき物に電気的に接続する伝導体と、
前記内側シールと前記外側シールとによってシールされた空間内に配置され前記被めっき物を挟んで対向するN極とS極とを有する磁場形成体と、
を備えることを特徴とするめっき用治具。
【請求項2】
前記磁場形成体は、前記N極と前記S極とを磁気的に接続するヨークを備えることを特徴とする請求項1に記載のめっき用治具。
【請求項3】
前記磁場形成体は、前記被めっき物を挟んで対向する複数対の電磁石を備え、
該複数対の電磁石のうちの少なくとも一対に電流が供給されることで、前記N極および前記S極が構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のめっき用治具。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載されためっき用治具と、
陰極となる前記被めっき物に対向して設けられた陽極と、
めっき液が貯留され、前記めっき用治具と前記陽極とが配置されるめっき槽と、
を備えることを特徴とするめっき装置。
【請求項5】
請求項3に記載されためっき用治具と、
前記めっき用治具の前記複数対の電磁石への電流供給を制御する制御装置と、
陰極となる前記被めっき物に対向して設けられた陽極と、
めっき液が貯留され、前記めっき用治具と前記陽極とが配置されるめっき槽と、
を備えることを特徴とするめっき装置。
【請求項6】
前記めっき用治具と前記陽極との間に配置された磁性体または磁石と、
前記磁性体または磁石を駆動させる駆動機構と、
を備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−156677(P2008−156677A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344306(P2006−344306)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(394016519)株式会社山本鍍金試験器 (13)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【出願人】(591236921)
【Fターム(参考)】