説明

アイオノマー樹脂組成物の製造方法

【課題】 各種重合体の非帯電性を改良する添加剤として、又は各種用途に使用可能なカリウムアイオノマーをスクリュー押出機で工業的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 スクリュー押出機中、不飽和カルボン酸15重量%以下、融点90℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)2〜55重量%と不飽和カルボン酸含量15重量%超、融点90℃未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−2)98〜45重量%からなり、平均不飽和カルボン酸含量13〜20重量%、平均MFR(190℃、2160g荷重)200〜800g/10分の混合共重合体成分70〜98重量部と疎水性重合体(B)30〜2重量部を、溶融混練下イオン源のリウム化合物と反応させ混合共重合体成分のカルボキシル基の80%以上を中和するアイオノマー樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フイルム材料としてあるいは樹脂改質剤として好適な、加工性、非帯電性、高周波ウエルダー性、透湿性等に優れ、含水率の少ないアイオノマー樹脂組成物、その製法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が中和されてなるエチレン共重合体アイオノマーは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体とイオン源となる金属化合物を反応させることによって得ることができる。工業的には、生産性を考慮すると、スクリュー押出機中でエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を溶融混練させながら反応させる方法を採用するのが最も有利である。
【0003】
このようなエチレン共重合体アイオノマーにおいて、不飽和カルボン酸含量及び中和度の高いカリウムアイオノマーが帯電防止性能に優れることは古くから知られている。しかるに上記酸含量および中和度の高いカリウムアイオノマーを上記スクリュー押出機を用いる方法によって製造しようとしても、酸含量の高いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は金属への接着性が大きいため、溶融混練時にスクリューに融着して押出し不能になることがあり、連続した安定運転をすることが難しい。このようなトラブルは、スクリュー回転数、押出し温度、滞留時間等を調節することによってある程度回避することは可能であるが、イオン化反応を阻害するような方向となり、中和度を高めることが難しい上に未反応金属化合物が反応生成物中に混入する結果となり、工業的に採用しうる方法ではなかった。
【0004】
上記のような酸含量及び中和度の高いカリウムアイオノマーはまた、吸湿性(吸水性)が大きく、吸湿したアイオノマーの脱水は容易でないため、保存や取り扱いに注意を要するという問題があった。さらに一般には溶融粘度が高く、装置への粘着性が大きいため、加工性に難がある上に、吸湿したアイオノマーを成形すると発泡現象により満足すべき成形品が得られないという欠点もあった。
【0005】
非帯電性を実質的に損なわずに吸湿性を低減させる方法として、酸含量の高いカリウムアイオノマーと酸含量の低いカリウムアイオノマーをブレンドすることが有効であることは、特開平3−106954号公報に記載されている。しかしながらこの公報においても、具体的に示されている方法で得られるブレンド物の吸湿性は大きく、用途によっては一層の改良が求められていた。また上記のような工業的製法に関わる問題点を解決する方法は具体的には示されていなかった。
【0006】
非帯電性に優れたカリウムアイオノマーにおいて、グリセリンやポリオキシエチレングリコールのような多価アルコール系化合物を配合して使用する場合には、不飽和カルボン酸含量や中和度の若干低減されたカリウムアイオノマーを用いても同等の非帯電性を示すようになることは知られており、アイオノマーの吸湿性低減の処方としては有効である(特開平8−134295号公報など)。また多価アルコール系化合物の配合によって高周波ウエルダー性の改良もなされており、高周波シールを利用する用途におけるポリ塩化ビニルの代替材料としても魅力あるものである。しかしながらこのような配合処方においても多価アルコール系化合物の種類や配合量によっても異なるが、用途によってはそのブリードや変色、成形時の発泡などが問題になることがあり、これらを配合しなくても済むような代替処方が求められていた。
【0007】
さらに上記高酸含量、高中和度のカリウムアイオノマーの工業的製法に関わる問題点を解決する目的で、オレフィン重合体を共存させる方法が特開平6−287223号公報に記載されている。具体的には、高圧法ポリエチレンを大量に配合したものをイオン化した例が示されている。得られる組成物をそのまま使用する用途においては、このような具体例で示される方法は有効であるが、各種重合体の非帯電性改善の添加剤として利用する場合には問題であった。この公報においては、オレフィン重合体の添加量が少ない場合についても言及はされているが、その添加量を減少させた場合の工業的製法に関わる困難性を改善するための具体的な手法については明示されてはいなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−106954号公報
【特許文献2】特開平8−134295号公報
【特許文献3】特開平6−287223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、各種重合体の非帯電性を改良するための添加剤として、あるいは各種用途に広く使用することが可能なカリウムアイオノマーを、スクリュー押出機を使用して工業的に有利に製造する方法及びそれにより得られるアイオノマー樹脂組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、このようにして得られるアイオノマー樹脂組成物の樹脂改質剤としての使用及びフイルムとしての使用を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、不飽和カルボン酸含量が15重量%以下で融点が90℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び不飽和カルボン酸含量が15重量%より多く融点が90℃未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−2)をベースポリマーとする混合カリウムアイオノマー成分(A)であって、共重合体(Aー1)/共重合体(A−2)が2/98〜55/45(重量比)の割合で含有され、両者の平均不飽和カルボン酸含量が13〜20重量%、平均メルトフローレート(190℃、2160g荷重)が200〜800g/10分であり、かつ平均中和度が80%以上である上記混合カリウムアイオノマー成分(A)70〜98重量部と疎水性重合体(B)30〜2重量部とからなるアイオノマー樹脂組成物である。
【0011】
本発明はまた、スクリュー押出機中、不飽和カルボン酸含量が15重量%以下で融点が90℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)2〜55重量%と不飽和カルボン酸含量が15重量%より多く融点が90℃未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−2)98〜45重量%からなり、両者の平均不飽和カルボン酸含量が13〜20重量%、平均メルトフローレート(190℃、2160g荷重)が200〜800g/10分である混合エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分70〜98重量部と疎水性重合体(B)30〜2重量部とを、溶融混練させながらイオン源となるカリウム化合物と反応させ、上記混合エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分のカルボキシル基の80%以上を中和する上記アイオノマー樹脂組成物の製造方法に関する。
【0012】
本発明はまた、上記アイオノマー樹脂組成物の用途に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非帯電性に優れたアイオノマー樹脂組成物を工業的に有利に製造することができる。このようなアイオノマー樹脂組成物は、加工性、高周波ウエルダー性、透湿性等にも優れており、フイルム材料や樹脂改質剤など、種々の用途に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において使用される混合カリウムアイオノマー成分(A)は、2種のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び(A−2)をベースポリマーとし、これらのカルボキシル基が、平均で80%以上、好ましくは80〜95%がカリウムイオンで中和されているアイオノマーである。この2種のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び(A−2)はまた、前者の不飽和カルボン酸含量が15重量%以下で融点が90℃以上、好ましくは不飽和カルボン酸含量が5〜15重量%で融点が90〜110℃の範囲にあり、また後者の不飽和カルボン酸含量が15重量%より多く融点が90℃未満、好ましくは不飽和カルボン酸含量が17〜30重量%で融点が60〜89℃の範囲にあって、共重合体(A−1)/共重合体(A−2)が重量比で2/98〜55/45、好ましくは5/95〜50/50の割合となるように配合されている。そして両者は、両者を合わせた平均不飽和カルボン酸含量が13〜20重量%、好ましくは14〜19重量%の範囲にあり、また両者を合わせた平均メルトフローレートが200〜800g/10分、好ましくは250〜700g/10分の範囲であるように配合されている。
【0015】
ここに混合カリウムアイオノマー成分(A)における平均中和度が80%より低いものを使用すると、帯電防止性能が充分でなくなる。また中和度があまり高くなりすぎると凝集力が強くなり、他樹脂とブレンドした材料をフイルムにするとゲルが大量に発生して外観不良となり易い。また吸水状態では発泡するなど生産性及び加工性を損なうことがあるので、95%以下程度にするのが好ましい。
【0016】
ここにエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−2)のみを使用すると、スクリュー押出機において円滑に押し出すことができず、後記する疎水性重合体を併用したとしても所望性状のアイオノマー樹脂組成物を工業的に有利に製造することができない。また(A−2)のみをベースとするアイオノマー樹脂組成物を製造したとしても、帯電防止性は良好であるが、吸湿性が大きくなりすぎ、また加工性も損なわれる。したがって本発明においては、スクリュー押出機によるイオン化反応を円滑に行うため、また帯電防止性能の顕著な低下を伴わない範囲において、適量のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)を配合使用するものである。そして(A−1)及び(A−2)の配合量及び両者を合わせた平均不飽和カルボン酸含量を前記したような範囲に調整することにより、スクリュー押出機におけるアイオノマー樹脂組成物の生産性を高めるとともに、帯電防止性能及び加工性が優れ、吸水性、吸湿性の小さいアイオノマー樹脂組成物を得ることができる。
【0017】
共重合体(A−1)及び(A−2)はまた、両者を合わせたメルトフローレートが前記したような範囲となるように、適当なメルトフローレートのものを適当な割合で配合される。両者を合わせたメルトフローレートが200g/10分より小さいものは生産性及び加工性が充分でなく、またメルトフローレートが800g/10分を越えるものも生産性が良好でないので好ましくない。
【0018】
上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)としては、上述のように不飽和カルボン酸含量が15重量%以下、好ましくは5〜15重量%のものであり、融点が90℃以上、好ましくは92℃以上のものである。またメルトフローレートが、好ましくは30〜1000g/10分、さらに好ましくは50〜800g/10分のものである。上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−2)としては、上述のように不飽和カルボン酸含量が15重量%より多く、好ましくは17〜30重量%のものであり、融点が90℃未満、好ましくは60〜89℃のものである。またメルトフローレートが、好ましくは30〜1000g/10分、さらに好ましくは50〜800g/10分のものである。ここに融点は、DSC法[Differential Scanning Calorimeter(ティー・エー・インスツルメント社製)により測定]により測定した吸熱ピークを示す温度である(昇温速度10℃/分)。
【0019】
上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び(A−2)における不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などを代表例として例示することができる。これらの中ではアクリル酸又はメタクリル酸が最も好ましい。
【0020】
これら共重合体(A−1)及び(A−2)には、任意成分として他の単量体が共重合されていてもよい。このような任意共重合成分の存在は、アイオノマーの柔軟性付与や透湿度向上に効果的であって、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、一酸化炭素などを例示することができる。このような任意共重合成分は例えば40重量%以下、好ましくは20重量%以下の如き量で含有されていてもよい。このような任意共重合成分をあまり過度に含有せしめると機械的強度を低下させ、あるいはブロッキングの要因となるなどの悪影響を及ぼすようになる。
【0021】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)として、組成やメルトフローレートの異なる2種以上のものを併用してもよく、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−2)においても、同様に2種以上のものを併用することができる。
【0022】
上記のようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び(A−2)は、高温、高圧の条件下、エチレン、不飽和カルボン酸、任意に他の共重合成分をラジカル共重合することによって得ることができる。
【0023】
本発明のアイオノマー樹脂組成物は、上記混合カリウムアイオノマー成分(A)70〜98重量部、好ましくは75〜95重量部に対し、疎水性重合体(B)30〜2重量部、好ましくは25〜5重量部の割合で配合されている。すなわちこのような割合で疎水性化合物を配合することにより、スクリュー押出機におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び(A−2)のカリウムイオン化を生産性よく行うことが可能となる。また非帯電性をそれ程損なうことなく、吸湿性を顕著に低減させることできるので、保存や取り扱いにそれ程留意することなく、種々の用途に使用することができる。疎水性重合体の配合割合を前記範囲以上に増やしても、吸湿性の改良がそれ程顕著でなくなる一方で、カリウムアイオノマーの特性が損なわれるので用途が限定されるようになる。
【0024】
このような目的に使用される疎水性重合体(B)としては、高圧法ポリエチレン、線状低、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンのようなオレフィンの単独重合体又はオレフィン同士の共重合体、エチレンと、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチルのような不飽和カルボン酸エステルなどの不飽和エステルとの共重合体、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、スチレン・ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン・イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物などのスチレン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・66、ナイロン6・12、ナイロン6TIなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニルなどを例示することができる。
【0025】
これら疎水性重合体の中では、アイオノマーとの親和性、イオン化するときの溶融粘度などを考慮すると、オレフィン重合体又は共重合体、中でもポリエチレン又はエチレン・不飽和エステル共重合体、とりわけエチレン・不飽和エステル共重合体の使用が好ましい。
【0026】
ポリエチレンとしては種々触媒系を用い、種々の方法で製造されたものを使用することができるが、高圧法ポリエチレン又は線状低密度ポリエチレンとして知られているエチレンと炭素数3以上のαーオレフィンとの共重合体の使用が好ましい。線状ポリエチレンの共重合成分である炭素数3以上のαーオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテンなどであり、とりわけ炭素数4〜10のものが好ましい。また線状ポリエチレンとしては、高活性チタン触媒成分と有機アルミニウム触媒成分の組み合わせを代表例とするチーグラー型触媒やビスペンタジエニルジルコニウム化合物とアルミノオキサン化合物の組み合わせを代表例とするシングルサイト触媒で製造されたものなどを使用することができる。
【0027】
また疎水性重合体(B)として好適なエチレン・不飽和エステル共重合体は、不飽和エステル含量が、2〜50重量%、とくに4〜40重量%のものである。このようなエチレン・不飽和エステル共重合体を使用することにより、前記混合カリウムアイオノマー成分と均一に混合した比較的透明なアイオノマー樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
疎水性重合体として好適なポリエチレン及びエチレン・不飽和エステル共重合体としてはまた、イオン化反応時における溶融粘度あるいは生成したアイオノマー樹脂組成物の物性及び構成成分の相溶性などを考慮すると、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、0.5〜50g/10分、好ましくは1〜30g/10分程度のものを使用するのが好ましい。
【0029】
混合カリウムアイオノマー成分(A)と疎水性重合体(B)からなる本発明のアイオノマー樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び(A−2)と疎水性重合体(B)を、スクリュー押出機中で、溶融混練しながらカリウム化合物と反応させることによって得ることができる。溶融混練の温度は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)及び(A−2)と疎水性重合体(B)のそれぞれの融点以上の温度、一般的には150℃以上、好ましくは160〜280℃の範囲で、好ましくは60秒以上の滞留時間を維持して行うのが好ましい。スクリュー押出機としては相当の混練能力があり、またイオン化反応によって生じる副生物を除去するため、ベント機構を有するものを使用するのがよい。
【0030】
上記の如くにして得られる本発明のアイオノマー樹脂組成物は、一般には相対湿度30%RHにおける表面抵抗率が1013Ω以下、好ましくは1012Ω以下、誘電率と誘電正接の積が0.1以上、好ましくは0.2以上、50μm厚に成形されたインフレーションフイルムの透湿度が2000g/m/d以上、好ましくは3000〜20000g/m/dの値を示す。また含水率が10000ppm以下、好ましくは5000ppm以下のものを容易に得ることができる。
【0031】
このような特性を有する本発明のアイオノマー樹脂組成物は、そのまま、あるいは所望に応じ任意の添加剤、たとえば酸化防止剤、耐候安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、スリップ剤、顔料、染料、架橋剤、発泡剤、粘着付与剤などを加え、種々の用途に使用することができる。
【0032】
たとえば、各種フイルム(シート)、マット、コンテナー、壁紙、靴、バッテリーセパレーター、衛生品、透湿フイルム、不織布、食品包装材などに利用することができる。とくに本発明のアイオノマー樹脂組成物は、非帯電性のみならず高周波ウエルダー性に優れているので、高周波シールが適用される単層フイルムあるいは他材料との積層フイルムとして使用することができる。このような積層フイルムにおいて非帯電性と高周波シール性を併せ有するためには、本発明のアイオノマー樹脂組成物を、ヒートシール層としてあるいはヒートシール層に隣接する層として使用すればよい。
【0033】
上記積層フイルムの他の層として利用できる材料としては、上記した疎水性重合体のほか、アルミニウム箔、アルミ蒸着フイルム、シリカ蒸着フイルム、エチレン・ビニルアルコール共重合体などを挙げることができる。積層フイルムにおいては勿論、上記材料が1層のみならず、2層以上有していてもよい。本発明のアイオノマー樹脂組成物はまた、各種重合体に非帯電性を付与するための改質剤として使用することができる。改質の対象となる重合体としては、上記例示の疎水性重合体やエチレン・ビニルアルコール共重合体などを例示することができる。効果的な配合量は、配合した樹脂組成物中、カリウムアイオノマー成分として10〜30重量%を占めるようにすれば、改質の対象となる樹脂の物性をそれ程損なうことなく非帯電性を改良できるので好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例及び比較例で用いた各種原料及び得られたアイオノマー樹脂組成物の物性評価方法は、以下の通りである。
【0035】
(1)原料
[エチレン・メタクリル酸共重合体]
酸コポリマー(I):メタクリル酸含量10重量%、MFR(メルトフローレート)500g/10分、融点95℃
酸コポリマー(II):メタクリル酸含量15重量%、MFR60g/10分、融点90℃
酸コポリマー(III):メタクリル酸含量20重量%、MFR60g/10分、融点87℃
酸コポリマー(IV):メタクリル酸含量20重量%、MFR500g/10分、融点80℃
【0036】
[カリウム化合物]
イオン源:炭酸カリウム
【0037】
[疎水性重合体]
EVA:酢酸ビニル含量9重量%のエチレン・酢酸ビニル共重合体(MFR2.5g/10分)
EEA:アクリル酸エチル含量19重量%のエチレン・アクリル酸エチル共重合体(MFR5.0g/10分)
mPE:メタロセン触媒で製造された線状低密度ポリエチレン(三井化学(株)製SP0540、MFR4.0g/10分)
【0038】
(2)物性評価方法
[生産性]
○:65mmφベント付き押出機にて問題なく生産可能
△:65mmφベント付き押出機にて安定生産が不可
×:65mmφベント付き押出機にて生産不可
【0039】
[加工性]
EVAとアイオノマー樹脂組成物を重量比80/20の割合でドライブレンドし、30mmφインフレーションフイルム成形機にて50μm厚のフイルムに成形し、その外観を観察して下記基準により評価した。
○:均一なフイルムが得られる。
×:溶融粘度が高いあるいは吸湿によって均一なフイルムが得られない。
【0040】
[帯電防止性能]
サンプルを相対湿度30%RH条件下、24時間静置し、表面抵抗率の測定を行った。測定装置は三菱化学(株)製ハイレスタを使用した。
【0041】
[水分含有量]
イオン化したのちペレット化し、これを1昼夜、露天−40℃の乾燥空気にて除湿した後、その水分含量を190℃の条件で測定した。
【0042】
[高周波ウエルダー性]
サンプルの誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)をQメーターにより測定し、次のように評価した。
○:ε×tanδが0.1以上
×:ε×tanδが0.1より小さい
【0043】
[透湿性]
50μm厚のフイルムを成形し、カップ法により透湿度を測定した。
【0044】
[実施例1〜4、比較例1〜7]
65mmφのベント付きスクリュー押出機に、各原料のペレットをドライブレンドして供給し、樹脂温度240℃、押出量15kg/h条件にてイオン化を行い、押し出したストランドを水冷した後カットすることによりアイオノマー樹脂組成物のペレットを得た。この際、ベント部では発生するガス及び水分を真空ポンプにて除去した。各原料の使用量は、表1又は表2に示す通りであり、イオン源は表1又は表2に示す中和度に相当する量で使用した。
【0045】
上記方法にてアイオノマー組成物を調製したときの押出し状況により、その生産性を評価した。またこのようにして得たアイオノマー組成物を、30mmφのインフレーショフイルム成形機にて樹脂温210℃の条件で50μm厚のフイルムを作成し、加工性、帯電防止性能、高周波ウエルダー性、透湿性評価のサンプルとした。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
[実施例5]
実施例1で得られたアイオノマー樹脂組成物20重量部と前記EVA80重量部を溶融ブレンドして得た組成物について、帯電防止性能及び高周波ウエルダー性を評価した。帯電防止性能は2×1012Ω、高周波ウエルダー性は○であった。
【0049】
[実施例6]
実施例1で得られたアイオノマー樹脂組成物20重量部と前記EVA80重量部を溶融ブレンドして得た組成物について、帯電防止性能及び高周波ウエルダー性を評価した。帯電防止性能は2×1012Ω、高周波ウエルダー性は○であった。
【0050】
[実施例7]
3層インフレダイスを装備した多層インフレーションフイルム成形装置を使用し、中間層に中間層押出機を通じて実施例5で得られたEVA組成物を、また両外層に両外層の押出機を通じて線状低密度ポリエチレン(三井化学(株)製)をそれぞれ供給し、10μm/80μm/10μm構成の厚み100μmの3層フイルムを製造した。
【0051】
この3層フイルムの帯電防止性能を、以下の方法により減衰時間を測定することにより評価した。
測定器:米国ETS製Static Decay Meter Model 406D
測定条件:Federal Test Method 101C 4046に準拠
MIL-B-81705Cのテストスペックに記載
26℃、12%RHに24時間放置したサンプルを使用し、印加電圧5000Vで測定。5000Vから50Vまでの時間を測定
減衰時間は2秒以下であり、良好な非帯電性を示した。
【0052】
また上記3層フイルムを重ね合わせ、高周波シールし、シール部を剥離して剥離状況を目視で観察した。基材が破壊される程度まで接着しており、高周波シール性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により提供されるアイオノマー樹脂組成物の製造方法は、非帯電性に優れたアイオノマー樹脂組成物を工業的に有利に製造することができる方法である。
本発明により提供される製造方法により製造されるアイオノマー樹脂組成物は、加工性、高周波ウエルダー性、透湿性等にも優れており、フイルム材料や樹脂改質剤や、種々の用途に使用することができる。
本願発明のアイオノマー樹脂組成物は、アイオノマー樹脂組成物からなる樹脂改質剤としての使用にも好適に用いることができる。
本願発明のアイオノマー樹脂組成物は、アイオノマー樹脂組成物を疎水性重合体(B)で希釈した樹脂組成物として使用することができる。
本願発明のアイオノマー樹脂組成物は、アイオノマー樹脂組成物を疎水性重合体(B)で希釈した樹脂組成物からなるフイルムとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュー押出機中、不飽和カルボン酸含量が15重量%以下で融点が90℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−1)2〜55重量%と不飽和カルボン酸含量が15重量%より多く融点が90℃未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(A−2)98〜45重量%からなり、両者の平均不飽和カルボン酸含量が13〜20重量%、平均メルトフローレート(190℃、2160g荷重)が200〜800g/10分である混合エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分70〜98重量部と疎水性重合体(B)30〜2重量部とを、溶融混練させながらイオン源となるカリウム化合物と反応させ、上記混合エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分のカルボキシル基の80%以上を中和することを特徴とするアイオノマー樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
疎水性重合体(B)がオレフィンの重合体又は共重合体である請求項1に記載のアイオノマー樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
オレフィン重合体又は共重合体が、ポリエチレン又はエチレン・不飽和エステル共重合体である請求項2に記載のアイオノマー樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
水分含有量10000ppm以下、表面抵抗率1013Ω以下、誘電率×誘電正接が0.1以上、50μm厚に成形されたインフレーションフイルムの透湿度が2000g/m/d以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアイオノマー樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
(A−1)2〜45重量%と(A−2)98〜55重量%からなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のアイオノマー樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
混合エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分のカルボキシル基の85%以上95%以下を中和する請求項1〜5のいずれか1項に記載のアイオノマー樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−42809(P2011−42809A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269086(P2010−269086)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【分割の表示】特願2001−33968(P2001−33968)の分割
【原出願日】平成13年2月9日(2001.2.9)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】