説明

アクアポリン発現促進剤

【課題】皮膚細胞におけるアクアポリン発現促進剤の提供、及び、皮膚細胞におけるヒアルロン酸合成酵素の発現及びアクアポリン発現を促進して細胞環境全体の状態を健康に維持する細胞環境改善剤の提供。
【解決手段】トコフェリルレチノエートを有効成分とするアクアポリン発現促進剤を提供し、アクアポリンの発現を促進することによって皮膚細胞の水環境を優れた保湿効果を有するアクアポリン発現促進剤を得る。トコフェリルレチノエートを有効成分として、ヒアルロン酸合成酵素発現が増加してヒアルロン酸合成量が顕著に増加すると同時にアクアポリン発現が促進されるため、細胞間隙を含む皮膚細胞全体の環境を整え細胞を健全に維持する優れた皮膚細胞環境改善剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トコフェリルレチノエートを有効成分として含有することを特徴とするアクアポリン発現促進剤に関する。また本発明は、トコフェリルレチノエートを有効成分として含有することを特徴とする皮膚細胞環境改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の構造は、表面から表皮・真皮・皮下組織の3層構造をとっている。表皮は角層・顆粒層・有棘層・基底層に分かれており、基底細胞が分裂し細胞が順に押し上げられていき、すべての細胞が2〜4週間で新しく置き換わるサイクルを繰り返している。表皮では細胞が規則的に整列して肌表面のキメを整え、肌表面の立体的な構造を支え肌にハリや艶を保ち、細胞間ネットワークを介して情報や物質交換を行いながら、表皮全体の細胞環境を健康な状態に維持しつつターンオーバーを繰り返すことで表皮細胞環境を維持しているのである。
【0003】
ところで、皮膚細胞には広くヒアルロン酸が分布している。なかでも、表皮には基底層から顆粒層まで広くヒアルロン酸が分布しており、表皮細胞間の細胞外空間の構造を支え、表皮基底層から角層への栄養分・老廃物等の物質輸送に関与したり、表皮細胞のターンオーバーを促進するトリガーとして働いたり、ヒアルロン酸の保水作用によって、細胞間隙に水分を保持する役割を担っていることが知られている。ヒアルロン酸は高分子化合物であるため、皮膚の外側から表皮に供給することは困難であり、生体内で低分子の原料物質からヒアルロン酸合成酵素によって産生されているから、表皮細胞間にヒアルロン酸を供給するためにはヒアルロン酸合成酵素の発現が重要である。
【0004】
また、皮膚細胞では水チャンネルとして知られるアクアポリンが発現しており、細胞膜上に発現して細胞間隙の水分子等の低分子物質を細胞内へ取り込む役割を担っていることが知られている。ヒトでは11種類のアクアポリン遺伝子が発見されており、水に加えて保水作用に関わるグリセリンのような低分子化合物をも取り込むアクアポリンの存在も知られている。
【0005】
従来知られたヒアルロン酸合成促進剤としては、アロエ抽出物、オクラ抽出物、水溶性β−1,3−グルカン誘導体、酵母抽出物(特開2004−051533号公報)、ツカサノリ科トサカモドキ属に属する海藻の抽出物(特開2000−136147号公報)、ラベンダー抽出物(特開平10−182402号公報)、ダービリア科ダービリア属に属する海藻の抽出物(特開平9−176036号公報)が知られている。また、ヒアルロン酸合成酵素の発現を促進する化合物としては、ホスフェート誘導体(特開2002−363081号公報)、N−アセチル−D−グルコサミン含有糖ベンジル誘導体(特開2004−51579号公報)が知られている。さらに、アクアポリン合成促進剤としては、ノウゼンハレン科植物より得られる抽出物(特開2004−168732号公報)が知られている。しかしながら、十分な効果を奏する化合物は未だ知られていない。
【0006】
ところで、ビタミンA酸とトコフェロールとのエステル化合物であるトコフェリルレチノエート(ビタミンA酸トコフェロールエステル)には、α、β、γ等が知られている。このうち、α−トコフェリルレチノエートには、抗老化効果、皮膚炎(熱傷潰瘍、皮膚潰瘍、帯状疱疹、皮膚掻痒症、皮膚角化症、ひび、あかぎれ等)治療効果が知られ(特開昭54−92967号公報、特開昭61−207332号公報)、δ−トコフェリルレチノエートには活性酸素除去作用を有すること(第96回フレグランスジャーナルセミナー要旨集p20-22、2003年)が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、皮膚細胞においてアクアポリン発現を促進する化合物を見出すことにある。さらに、個々の表皮細胞のみならず細胞間隙にも作用して皮膚細胞全体の環境を整え維持する効果に優れる化合物を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、トコフェリルレチノエートが、アクアポリン発現を促進すること、さらに、ヒアルロン酸合成酵素の発現を促進しヒアルロン酸合成を促進し、アクアポリン発現を促進して、皮膚細胞全体の細胞環境を整え維持する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は下記に掲げる発明である。
(1)トコフェリルレチノエートを有効成分として含有するアクアポリン発現促進剤、
(2)保湿用組成物である、(1)に記載のアクアポリン発現促進剤、
(3)トコフェリルレチノエートをアクアポリン発現促進剤として含有する保湿用組成物
(4)トコフェリルレチノエートを有効成分として含有し、アクアポリン発現促進作用に基づいて水環境を制御するものである保湿用組成物、
(5)トコフェリルレチノエートを有効成分として含有する皮膚細胞環境改善剤、
(6)トコフェリルレチノエートを、アクアポリン発現促進剤及びヒアルロン酸合成酵素発現促進剤として含有する(5)に記載の皮膚細胞環境改善剤、
(7)保湿用組成物である、(6)に記載の皮膚細胞環境改善剤。
(8)トコフェリルレチノエートを有効成分として含有し、アクアポリン発現促進作用及びヒアルロン酸合成酵素発現促進作用に基づいて皮膚細胞全体の水環境を制御するものである(5)に記載の皮膚細胞環境改善剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、トコフェリルレチノエートを有効成分として含有するアクアポリン発現促進剤又は皮膚細胞環境改善剤を提供する。
本発明のアクアポリン発現促進剤によれば、アクアポリン発現が促進される結果、細胞内への水分子等の物質輸送が促進され代謝が改善されることによって、細胞の状態を健全に保つことができる。また、細胞の保湿効果に優れることから、化粧料として、特に抗シワ用組成物、抗タルミ用組成物、保湿用組成物に有用である。より特に保湿用組成物として有用である。
また本発明の皮膚細胞環境改善剤によれば、皮膚細胞でのアクアポリン発現を促進するとともにヒアルロン酸合成酵素の発現を促進しヒアルロン酸合成量を顕著に増大させることができる。それによって、個々の表皮細胞のみならず細胞間隙にも作用して皮膚細胞環境を整え維持し、肌の本来持っている働きにより肌の健康状態を維持することができる。さらに、肌荒れの改善や皮膚の弾力、張り、ツヤの付与、シワやタルミの改善といった皮膚老化防止にも有効である。本発明の皮膚細胞環境改善剤は、化粧料として、特に抗シワ用組成物、抗タルミ用組成物、保湿用組成物に有用である。より特に、保湿用組成物に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のトコフェリルレチノエートとは、トコフェロールとビタミンA酸とのエステル化合物であり、公知の方法(特開平4−244076号公報等)により製造しまたは市販品として入手することができ、d体、l体、dl体のいずれでもよい。トコフェリルレチノエートは、α,β,δ等のいずれでもよいが、δ−トコフェリルレチノエートが好ましい。
【0012】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚環境改善剤を研究用試薬として培養細胞に対して用いる場合には、その培養用培地中にトコフェリルレチノエートを、たとえば1nM〜1000mM、好ましくは100nM〜1000μM、より好ましくは1μM〜100μMで添加する。
【0013】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚環境改善剤を、外用組成物(医薬品や化粧料など)として用いる場合には、例えばヒトなどの哺乳動物に適用する場合には、その適用量は剤形や患者の体重等に応じて適宜選択することができ特に限定はされないが、組成物中にトコフェリルレチノエートを、好ましくは、0.0001重量%以上、より好ましくは0.0005重量%以上、さらに好ましくは0.001重量%以上、特に好ましくは0.005重量%以上、またより好ましくは0.05重量%以上、またさらに好ましくは0.2重量%以上、また特に好ましくは0.5重量%以上であり、配合上限は好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下で配合するのが好ましい。適用回数は1日1回程度でも可能であり、1日2〜4回、又はそれ以上の回数に分けて投与することも可能である。
【0014】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚環境改善剤を経口用組成物(医薬品や食品など)として用いる場合には、例えばヒトなどの哺乳動物に適用する場合、その適用量は剤形や患者の体重等に応じて適宜選択することができ特に限定はされないが、組成物中にトコフェリルレチノエートを、ヒト成人の場合通常10ng/kg〜100mg/kg、好ましくは50ng/kg〜80mg/kg、より好ましくは100ng/kg〜50mg/kgとなるように適用することができる。適用回数は1日1回程度でも可能であり、1日2〜4回、又はそれ以上の回数に分けて投与することも可能である。
【0015】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚環境改善剤には、前述するトコフェリルレチノエートに加えて、トコフェリルレチノエートの各種の作用を増強または補足する目的で、あるいは他の有用な作用を付加するため美白成分、抗炎症成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、ニキビ改善成分、コラーゲン等の生体成分合成促進成分、血行促進成分、保湿成分、老化防止成分等の各種成分を1種または2種以上組み合わせて配合することができる。好ましくは美白成分、抗炎症成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、老化防止成分または保湿成分の1種または2種以上の成分である。これらの各成分としては、医薬品、医薬部外品、食品または化粧品分野において従来より使用され、また将来使用されるものであれば特に制限されず、任意のものを適宜選択し使用することができる。
【0016】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚細胞環境改善剤は、上記各成分に加えて組成物の用途あるいは剤形に応じて、食品、医薬部外品、医薬品に通常使用される成分を適宜配合しても良い。配合できる成分としては、特に制限されないが、例えば、アミノ酸類、アルコール類、多価アルコール類、糖類、ガム質、多糖類などの高分子化合物、界面活性剤、可溶化成分、油脂類、経皮吸収促進成分、防腐・抗菌・殺菌剤、pH調整剤、キレート剤、抗酸化剤、酵素成分、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、清涼化剤の他、ミネラル類、細胞賦活剤、滋養強壮剤、賦形剤、増粘剤、安定化剤、保存剤、等張化剤、分散剤、吸着剤、崩壊補助剤、湿潤剤または湿潤調節剤、防湿剤、着色料、着香剤または香料、芳香剤、還元剤、可溶化剤、溶解補助剤、発泡剤、粘稠剤または粘稠化剤、溶剤、基剤、乳化剤、可塑剤、緩衝剤、光沢化剤などをあげることができる。特に界面活性剤、可溶化成分または油脂類を配合することによって、水性溶媒中におけるトコフェリルレチノエートの安定性、有効性、使用感をより向上させることができる。また、本発明の組成物が外用組成物である場合には、界面活性剤、可溶化成分、油脂類または経皮吸収促進成分を配合するのが好ましい。
【0017】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚細胞環境改善剤は、食品、医薬部外品、化粧品等に通常使用される剤形をとることができ、通常、固形剤、半固形剤または液剤である。具体的には、錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゲル剤、リポソーム剤、エキス剤、チンキ剤、レモネード剤、軟膏剤、ゼリー剤などの公知の形態をとることができる。また、必要に応じてその他の溶媒や通常使用される基剤等を配合することによって、ペースト状、ムース状、ジェル状、液状、乳液状、クリーム状、シート状(基材担持)、エアゾール状、スプレー状などの各種所望の形態に調製することができる。
【0018】
これらは当業界の通常の方法にて製造することができる。例えば、半固形剤であれば、トコフェリルレチノエート並びに必要に応じて上記各任意成分を配合混合し、さらに必要に応じてその他の溶媒や通常使用される外用剤の基剤等を配合することによって、ペースト状、ムース状、ジェル状、液状、乳液状、クリーム状、シート状(基材担持)、エアゾール状、スプレー状などの各種所望の形態に調製することができる。
【0019】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚細胞環境改善剤は、通常pH1〜8の液性を備えていればよいが、半固形剤又は液剤にする場合、トコフェリルレチノエートの安定性、皮膚や粘膜に対する低刺激性、及び皮膚使用感のよさという観点から、好ましくはpH2〜7、より好ましくはpH2〜6の酸性領域であることが望ましい。
【0020】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚細胞環境改善剤は、本発明の効果を奏すれば特に限定されないが、例えば医薬品、医薬部外品、食品[菓子、健康食品、栄養補助食品(バランス栄養食、サプリメントなど)を含む)、栄養機能食品、特定保健用食品を含む]、化粧料ではファンデーション、口紅、マスカラ、アイシャドウ、アイライナー、眉墨及び美爪料等のメーキャップ化粧料;乳液、クリーム、ローション、オイル及びパックなどの基礎化粧料;洗顔料やクレンジング、ボディ洗浄料などの洗浄料、入浴剤などとすることができる。
【0021】
本発明のアクアポリン発現促進剤又は皮膚細胞環境改善剤は内服用組成物として用いても外用組成物として用いてもよいが、本発明は外用組成物、特に化粧料として使用されることが好ましい。本発明は、美容上の問題を予防又は治療するための組成物(抗シワ用組成物、抗タルミ用組成物、抗保湿用組成物、皮膚代謝改善用組成物、皮膚バリア機能改善用組成物等)として用いることができる。特に、肌の角質水分量を増加させ、乾燥を防ぎカサツキを抑え肌をしっとりさせる保湿用組成物として用いるのが好適である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1 アクアポリン3発現試験
ヒト正常表皮角化細胞(Epider cell/新生児包皮: クラボウ社製) を、表皮角化細胞培養用培地(HuMedia−KG2:クラボウ社製)を用い、5%CO/空気、37℃条件下でコンフルエントになるまで96ウェルプレート(コーニング社製)で培養し、培地を、δ−トコフェリルレチノエート1×10−5M濃度含むHuMedia−KG2に交換して5%CO/空気、37℃条件下で24時間培養した。24時間後、培地を吸引除去し、4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液を加え、4℃で12時間放置した。リン酸緩衝液で5分間、3回洗浄し、0.05%ペプシン/0.01N塩酸溶液を加え、37℃で30分間反応させた。リン酸緩衝液で5分間、3回洗浄した後、ブロッキング液(商品名「ブロックエース」大日本製薬製)を加えて室温に1時間放置後、抗アクアポリン3抗体(ケミコン インターナショナル社製)を加え、室温で1時間反応させた。リン酸緩衝液で5分間、3回洗浄した後に、FITC標識二次抗体(ダコ社製)を加え、室温で1時間反応させた。リン酸緩衝液で5分間、3回洗浄したのち、各ウェルの蛍光強度を、蛍光光度計(大日本製薬製)で測定した。
【0023】
試料無添加群の蛍光強度を100%として、各サンプルの蛍光強度を%として表しアクアポリン3の発現量を比較した。試料無添加群と比べ、δ−トコフェリルレチノエート添加群では、顕著な蛍光強度の増加が認められ、アクアポリン3の合成促進効果を有することが認められた。皮膚細胞におけるアクアポリン3は、細胞への水の取り込みをコントロールするうえで重要な役割を担っていると考えられており(Biochimica et Biophysica Acta、1522巻、2001年、p82−88)、また、アクアポリン3遺伝子を欠損したマウスの皮膚細胞で、角層水分量、皮膚粘弾性、バリアー回復の低下すると報告されている(Journal of Dermatological Science、29巻、p143)。トコフェリルレチノエートはアクアポリン3の合成を促進することが示されたことから、皮膚細胞における水環境の制御を介して、皮膚の角質水分量を増加させ保湿効果を奏すると考えられる。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例2
ヒアルロン酸合成酵素3mRNA及びアクアポリン3mRNA発現測定試験
a)細胞培養と試料添加
ヒト正常表皮角化細胞( Epider cell/新生児包皮:クラボウ社製) を、表皮角化細胞培養用培地(HuMedia−KG2 クラボウ社製)を用い、5%CO/空気、37℃条件下でコンフルエントになるまで直径60mmの培養プレート(コーニング社製)で培養し、培地を、δ−トコフェリルレチノエート3×10−5M濃度含むHuMedia−KG2に交換して5%CO/空気、37℃条件下で24時間培養した。細胞を回収し、全RNA溶液を調製した。
【0026】
b)cDNAの合成
cDNAの合成は、cDNA合成キット(ファーストストランドシステム:インビトロジェン社製)を使用して行った。得られた全RNA500ngに純水を加えて全量を10μlとし、10mM dNTP Mixを1μl、オリゴdT溶液を1μl加えて、65℃、5分間保温した後、4℃まで急速冷却して熱変性を行った。さらに5×反応バッファーを4μl、0.1M ジチオトレイトールを2μl、RNaseインヒビターを0.5μl、RNaseを含まない純水を0.5μl、およびスーパースクリプトTMII逆転写酵素を1μl加え、4℃で5分間、23℃で10分間、42℃で120分間、70℃で15分間放置することで、一本鎖cDNAの合成を行った。さらに、RNaseHを1μl添加して37℃で20分間放置することで、RNAを分解した。
【0027】
c)リアルタイム PCR
リアルタイムPCR用のプライマーおよびTaqMan(登録商標)プローブには、標的遺伝子としてヒアルロン酸合成酵素3およびアクアポリン3、また参照遺伝子としてリボゾーマルRNAのそれぞれについてアプライドバイオシステムズ社製のアッセイズオンデマンド(登録商標)ジーンエクスプレッションミックスを使用した。PCR反応溶液の組成は、1サンプルあたり、cDNA溶液3μl、20×アッセイズオンデマンドTMジーンエクスプレッションミックス1.25μl、PCR増幅用混合液(TaqManユニバーサルPCRマスター・ミックス、アプライドバイオシステムズジャパン社製)12.5μl、超純水8.25μlとした。
【0028】
これら反応液を96穴反応プレート(マイクロアンプ・オプチカル・96ウェル・リアクション・プレート、アプライドバイオシステムズジャパン社製)のウェルに入れ、TaqMan(登録商標)PCR専用サーマルサイクラー・検出器(ABI7000、アプライドバイオシステムズ社製)を用いてPCRを行った。反応は、50℃で2分間、95℃で10分間保温の後、95℃で15秒間、60℃で1分間の反応を40サイクル繰り返し、1サイクル毎にレポーター色素の発光量を測定した。
【0029】
d)解析
各サイクル毎のレポーター色素の発光量からリボゾーマルRNA、アクアポリン3、およびヒアルロン酸合成酵素3のそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成した。対数増幅期において任意に設定した一定の発光量を超えたサイクル数を検量線上にプロットし、発現量を算出した。標的遺伝子(アクアポリン3およびヒアルロン酸合成酵素3)の相対的発現量は、同一サンプルにおける参照遺伝子(リボゾーマルRNA)の発現量の値で補正した後、試料無添加群を1.00とした割合として算出した。なお、参照遺伝子(リボゾーマルRNA)は、試料添加及び無添加において発現量にほとんど差が認められなかった。結果は表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に各試料添加における、アクアポリン3遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の相対的発現量を示した。この結果から、δ−トコフェリルレチノエートにより、アクアポリン3mRNAおよびヒアルロン酸合成酵素3mRNAの発現が著しく増加することが確認された。δ−トコフェリルレチノエートが、アクアポリンの発現とともにヒアルロン酸合成酵素の発現を促進することによって、細胞内及び細胞間隙の水環境を整え、皮膚細胞全体の保水効果が高まることが示唆された。
【0032】
実施例3 へアレスマウスを用いた保湿性試験
表3に示す比較例1、製剤例1及び製剤例2について、皮膚の保湿性に対するδ−トコフェリルレチノエートの効果を塗布試験により検討した。10週齡雌性へアレスマウスに、製剤例1、製剤例2又は比較例1を50μlずつ、1日1回、週5日塗布した。試験開始から6週間後に、表皮角層水分測定装置 (Skicon−200EX、IBS株式会社製)を用いて角質水分量を測定した。結果を表4に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
表4に示されるとおり、δ-トコフェリルレチノエートの配合濃度に依存して、角質水分量の増加が認められた。トコフェリルレチノエートを有効成分として含有するアクアポリン発現促進剤又は皮膚細胞環境改善剤は、角質水分量を増加させ優れた保湿効果を奏することが示された。
【0036】
製剤例3(化粧水)
δ−トコフェリルレチノエート 0.1(w/w%)
トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン 0.9
リン酸L−アスコルビルマグネシウム 3.0
ヒアルロン酸 0.05
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO−80) 1.0
パラオキシ安息香酸メチル 0.05
精製水 89.9
合 計 100.0(w/w%)
【0037】
製剤例4(クリーム)
δ−トコフェリルレチノエート 0.25(w/w%)
トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン 2.25
白色ワセリン 2.0
ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン 2.0
カルボキシビニルポリマー 0.1
1,3−ブチレングリコール 5.0
セタノール 0.5
濃グリセリン 5.0
シアノコバラミン 0.01
L−アルギニン 0.1
キサンタンガム 0.1
ヒドロキシエチルセルロース 0.1
アルギン酸ナトリウム 0.1
パラオキシ安息香酸メチル 0.05
パラオキシ安息香酸プロピル 0.05
精製水 82.39
合 計 100.0(w/w%)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコフェリルレチノエートを有効成分として含有するアクアポリン発現促進剤。
【請求項2】
保湿用組成物である、請求項1に記載のアクアポリン発現促進剤。
【請求項3】
トコフェリルレチノエートを有効成分として含有する皮膚細胞環境改善剤。
【請求項4】
トコフェリルレチノエートを、アクアポリン発現促進剤及びヒアルロン酸合成酵素発現促進剤として含有する請求項3に記載の皮膚細胞環境改善剤。
【請求項5】
保湿用組成物である、請求項3に記載の皮膚細胞環境改善剤。

【公開番号】特開2006−290873(P2006−290873A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58780(P2006−58780)
【出願日】平成18年3月5日(2006.3.5)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】