説明

アクチュエータ用油路構造

【課題】嵌合孔を有する被取付け部材と、嵌合孔に嵌合される筒状部材との間に、筒状部材に収納されるアクチュエータに通じる油路が形成されるアクチュエータ用油路構造において、油路を構成するための加工を単純化して加工性を高める。
【解決手段】油路142,147を形成するための加工が施された筒状部材132が、被取付け部材18との間に油路142,147を形成すべく嵌合孔131に嵌合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧室の油圧を制御するようにして該油圧室に連なる油圧回路に介設されるアクチュエータを配置するための嵌合孔を有する被取付け部材と、前記嵌合孔に嵌合される筒状部材との間に、前記筒状部材に収納されるアクチュエータに通じる油路が形成されるアクチュエータ用油路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
被取付け部材であるキャップ部材に設けられたキャップボルト用の貫通孔にブッシュが圧入されることによって、キャップ部材およびブッシュ間に2つの油路を形成するようにした油路構造が、特許文献1で既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−242616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1で開示されたものでは、ブッシュに特別な加工が施されない一方で,前記キャップ部材に油路形成のための加工が施される構成となっており、このような油路構造を、アクチュエータの取付け部位に適用して油路のコンパクト化および簡素化を図ろうとした場合に、取付け部の油路構造は複雑であるので,被取付け部材側での加工が煩雑となる。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、油路を構成するための加工を単純化して加工性を高めたアクチュエータ用油路構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、油圧室の油圧を制御するようにして該油圧室に連なる油圧回路に介設されるアクチュエータを配置するための嵌合孔を有する被取付け部材と、前記嵌合孔に嵌合される筒状部材との間に、前記筒状部材に収納されるアクチュエータに通じる油路が形成される油路構造において、前記油路を形成するための加工が施された前記筒状部材が、前記被取付け部材との間に前記油路を形成すべく前記嵌合孔に嵌合されることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記被取付け部材であるエンジンケースに前記嵌合孔が設けられ、クランクシャフトおよび変速機軸間に設けられる油圧クラッチの断・接を切り換えるアクチュエータが備える油圧制御弁の弁ケースが前記筒状部材に嵌合され、前記弁ケースおよび前記エンジンケース間に形成される油路を形成する溝が前記筒状部材の外周面に設けられることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第2の特徴の構成に加えて、前記嵌合孔が前記エンジンケースの内面側に設けられることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第1〜第3の特徴のいずれかの構成に加えて、相互に平行な軸線を有する前記クランクシャフトおよび前記変速機軸と平行に、前記油圧制御弁の軸線が定められることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明は、第1〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記油圧クラッチおよび前記筒状部材が、前記クランクシャフトの軸線に沿う方向で一側に寄って配置されることを第5の特徴とする。
【0011】
本発明は、第4の特徴の構成に加えて、前記変速機軸の軸線に沿う方向で前記アクチュエータの長さが前記油圧クラッチの長さよりも短く設定されることを第6の特徴とする。
【0012】
本発明は、第2〜第6の特徴の構成のいずれかに加えて、複数の前記アクチュエータが、それらの前記油圧制御弁の入力ポートに共通に連なる単一の入口油路が設けられる前記エンジンケースに並列して配設されることを第7の特徴とする。
【0013】
本発明は、第2〜第7の特徴の構成のいずれかに加えて、前記油圧制御弁がその弁体の作動にダンパー効果を付与するためのダンパ室を有し、前記入口油路がオリフィスを介して前記ダンパ室に接続されることを第8の特徴とする。
【0014】
本発明は、第2〜第8の特徴の構成のいずれかに加えて、前記嵌合孔が有底にして前記エンジンケースに設けられ、前記油圧クラッチに連なる油路を形成するための溝が、前記嵌合孔の閉塞端側に開放するようにして前記筒状部材の外周面に設けられることを第9の特徴とする。
【0015】
さらに本発明は、第8の特徴の構成に加えて、前記ダンパ室からのオイルを排出するドレン油路を形成する溝が,前記ダンパ室から前記油圧制御弁に連結されるソレノイド側に向けて延びるように前記筒状部材の外周面に設けられることを第10の特徴とする。
【0016】
なお実施の形態のクラッチカバー18が本発明の被取付け部材およびエンジンケースに対応し、実施の形態の第1メインシャフト20および第2メインシャフト21が本発明の変速機軸に対応し、実施の形態のリニアソレノイド弁94A,94Bが本発明のアクチュエータに対応する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の特徴によれば、被取付け部材の嵌合孔に嵌合される筒状部材に油路を形成するための加工が施されるので、油路構造のコンパクトを図ることを可能としつつ、被取付け部材側に加工が施される場合に比べて油路形成のための加工が容易となり、加工性が向上する。
【0018】
また本発明の第2の特徴によれば、油圧クラッチの断・接を切り換えるためのアクチュエータが備える油圧制御弁の弁ケースが筒状部材に嵌合され、エンジンケースに設けられた嵌合孔に嵌合される筒状部材の外周面に、弁ケースに設けられた複数のポートに連なる溝が、エンジンケースとの間に各ポートに通じる油路を形成するようにして筒状部材の外周面に設けられるので、油圧制御弁およびエンジンケース間にわたる油路構造のコンパクトを図ることを可能としつつ、エンジンケース側に加工が施される場合に比べて油路形成のための加工が容易となり、加工性が向上する。
【0019】
本発明の第3の特徴によれば、嵌合孔がエンジンケースの内面側に設けられるので、アクチュエータがエンジンケースの内側に配設されることになり、エンジンケースの外側に配設される場合に比べてエンジンのコンパクト化を図ることが可能となるだけでなく、特別の保護対策を施すことを不要としてエンジンケースで前記アクチュエータを保護することができる。
【0020】
本発明の第4の特徴によれば、油圧制御弁の軸線が、相互に平行な軸線を有するクランクシャフトおよび変速機軸と平行に設定されるので、前記変速機軸の半径方向で該変速機軸に前記アクチュエータを近接させることを可能とし、それによってエンジンのコンパクト化を図ることができる。
【0021】
本発明の第5の特徴によれば、油圧クラッチおよび筒状部材が,前記クランクシャフトの軸線に沿う方向で一側に寄って配置されるので、クランクシャフトの軸線に沿う方向で前記油圧クラッチと反対側のエンジン本体内のスペースを確保することができる。
【0022】
本発明の第6の特徴によれば、変速機軸の軸線に沿う方向でのアクチュエータの長さが油圧クラッチよりも短いので、変速機軸の軸線に沿う方向でアクチュエータがエンジンケースから突出することがなく、アクチュエータのコンパクトな配置が可能となる。
【0023】
本発明の第7の特徴によれば、複数のアクチュエータの油圧制御弁の入力ポートに共通に連なる単一の入口油路がエンジンケースに設けられ、各アクチュエータがエンジンケースに並列して配設されるので、部品点数の増加を回避しつつ複数のアクチュエータをコンパクトに纏めて配置することができる。
【0024】
本発明の第8の特徴によれば、油圧制御弁が備えるダンパ室がオリフィスを介して入口油路に接続されるので、油圧制御弁が備える弁体の動きにダンパ効果を付与することができる。
【0025】
本発明の第9の特徴によれば、嵌合孔の閉塞端側に開放する溝が、油圧クラッチに連なる油路を形成するために筒状部材の外周面に設けられるので、嵌合孔の開放端側に設けられる場合に比べると油路構成を簡素化することができる。
【0026】
さらに本発明の第10の特徴によれば、ダンパ室からのオイルを排出するドレン油路を形成する溝が,ダンパ室からソレノイド側に向けて延びるように筒状部材の外周面に設けられるので、ダンパ室から排出されるオイルを利用してソレノイドを冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】エンジンの側面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】図1の5−5線断面図である。
【図6】油圧制御弁の縦断面図である。
【図7】筒状部材の外周面の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図1〜図7を参照しながら説明すると、先ず図1において、車両に搭載されるエンジンのエンジン本体11は、クランクシャフト17を回転自在に支承するクランクケース12と、前上がりに傾斜して該クランクケース12の前側上部に結合されるシリンダブロック13と、該シリンダブロック13の上部に結合されるシリンダヘッド14と、シリンダヘッド14の上部に結合されるヘッドカバー15とを備え、前記クランクケース12の下部にオイルパン16が結合される。
【0029】
図2を併せて参照して、前記クランクケース12の右側面には、エンジン本体11の一部を構成して前記クランクケース12の一部を覆うエンジンケースとしてのクラッチカバー18が結合されており、このクラッチカバー18に、クランクシャフト17と平行な軸線を有する第1メインシャフト20の一端部が回転自在に支承され、第1メインシャフト20には、第1メインシャフト20を同軸に囲繞する第2メインシャフト21が複数のニードルベアリング22を介して相対回転自在に支承される。
【0030】
前記変速機は、変速機軸である第1および第2メインシャフト20,21と、それらのメインシャフト20,21と平行な軸線を有するカウンタシャフト(図示せず)との間に選択的に確立可能な複数変速段のギヤ列(図示せず)が設けられて成る。
【0031】
第1メインシャフト20と、第1メインシャフト20を同軸に囲繞する伝動筒軸24との間に複数のニードルベアリング25が介装されており、第1メインシャフト20に相対回転可能に装着される伝動筒軸24には、クランクシャフト17からの回転動力が一次減速装置26、ダンパばね28および伝動部材29を介して入力されるものであり、伝動部材29は伝動筒軸24に相対回転不能に支持され、一次減速装置26の一部を構成する被動ギヤ27が前記ダンパばね28を介して前記伝動部材29に連結される。
【0032】
前記クランクシャフト17および前記駆動輪間の動力伝達系の途中には、第1および第2油圧クラッチ30,31が介設されるものであり、第1油圧クラッチ30は、前記伝動筒軸24および第1メインシャフト20間に設けられ、第2の油圧クラッチ31は、前記被動ギヤ27および前記伝動部材29を第1の油圧クラッチ30との間に挟むようにして前記伝動筒軸24および第2メインシャフト21間に設けられ、第1および第2の油圧クラッチ30,31は、クランクシャフト17の軸線に沿う方向で一側、この実施の形態では右側に寄って配置される。
【0033】
第1の油圧クラッチ30は、前記伝動筒軸24を囲繞する内筒部32aならびに該内筒部32aを同軸に囲繞する外筒部32bを有して前記伝動部材29および前記被動ギヤ27側を閉じた有底の二重円筒状に形成されて前記伝動筒軸24に固定される第1クラッチアウタ32と、第1クラッチアウタ32の内筒部32aおよび外筒部32b内に同軸に挿入される第1円筒部33aを有して第1メインシャフト20に固定される第1クラッチインナ33と、第1クラッチアウタ32の外筒部32bに相対回転不能に係合される複数枚の第1摩擦板34…と、第1クラッチインナ33の第1円筒部33aに相対回転不能に係合されるとともに第1摩擦板34…と交互に配置される複数枚の第2摩擦板35…と、相互に重なって配置される第1および第2摩擦板34…,35…のうち第1クラッチアウタ32の開口端側の端部に配置される摩擦板(この実施例では第2摩擦板35)に対向して第1クラッチアウタ32の外筒部32bに相対回転不能に係合される受圧板36と、第1および第2摩擦板34…,35…を前記受圧板36との間に挟んで第1クラッチアウタ32の内筒部32aおよび外筒部32bに液密かつ摺動可能に嵌合されるリング状の第1ピストン37と、第1クラッチアウタ32の内筒部32aに係合されるリテーナ39および第1ピストン37間に縮設される第1クラッチばね38とを備え、第1クラッチインナ33およびクラッチカバー18間にシール付きのボールベアリング40が介装される。
【0034】
第1クラッチアウタ32の閉塞端および前記第1ピストン37間には、第1油圧室41が形成されており、前記第1クラッチばね38は第1油圧室41の容積を縮小する側に前記第1ピストン37を付勢するばね力を発揮する。而して第1油圧室41に油圧が作用すると、第1ピストン37は第1クラッチばね38のばね力に抗して、第1および第2摩擦板34…,35…を前記受圧板36との間に挟圧する側に移動し、第1および第2摩擦板34…,35…が摩擦係合することで第1クラッチアウタ32および第1クラッチインナ33間、すなわち伝動筒軸24および第1メインシャフト20間で動力が伝達されることになる。
【0035】
第2の油圧クラッチ31は、前記伝動筒軸24を囲繞する内筒部42aならびに該内筒部42aを同軸に囲繞する外筒部42bを有して前記伝動部材29および前記被動ギヤ27側を閉じた有底の二重円筒状に形成されて伝動筒軸24に固定される第2クラッチアウタ42と、第2クラッチアウタ42の内筒部42aおよび外筒部42b内に同軸に挿入される第2円筒部43aを有して第2メインシャフト21に固定される第2クラッチインナ43と、第2クラッチアウタ42の外筒部42bに相対回転不能に係合される複数枚の第3摩擦板44…と、第2クラッチインナ43の第2円筒部43aに相対回転不能に係合されるとともに第3摩擦板44…と交互に配置される複数枚の第4摩擦板45…と、相互に重なって配置される第3および第4摩擦板44…,45…のうち第2クラッチアウタ42の開口端側の端部に配置される摩擦板(この実施例では第4摩擦板45)に対向して第2クラッチアウタ42の外筒部42bに相対回転不能に係合される受圧板46と、第3および第4摩擦板44…,45…を前記受圧板46との間に挟んで第2クラッチアウタ42の内筒部42aおよび外筒部42bに液密かつ摺動可能に嵌合されるリング状の第2ピストン47と、第2クラッチアウタ42の内筒部42aに係合されるリテーナ49および第2ピストン47間に縮設される第2クラッチばね48とを備える。
【0036】
第2クラッチアウタ42の閉塞端および前記第2ピストン47間には、第2油圧室51が形成されており、前記第2クラッチばね48は第2油圧室51の容積を縮小する側に前記第2ピストン47を付勢するばね力を発揮する。而して第2油圧室51に油圧が作用すると、第2ピストン47は第2クラッチばね48のばね力に抗して、第3および第4摩擦板44…,45…を前記受圧板46との間に挟圧する側に移動し、第3および第4摩擦板44…,45…が摩擦係合することで第2クラッチアウタ42および第2クラッチインナ43間、すなわち伝動筒軸24および第2メインシャフト21間で動力が伝達されることになる。
【0037】
第1メインシャフト20には、その一端部を開放するとともに第2の油圧クラッチ31に対応する部分で内端部を閉じた中心孔52が同軸に設けられており、第1メインシャフト20に対応する部分でクラッチカバー18には、該クラッチカバー18との間に第1油圧供給室53を形成する第1キャップ54が締結されるとともに、クラッチカバー18および第1キャップ54との間に第2油圧供給室55を形成する第2キャップ56が締結される。またクラッチカバー18の内面側には、第1メインシャフト20の一端部を挿入せしめる凹部57が設けられており、第1の油圧クラッチ30の第1クラッチインナ33と、前記クラッチカバー18における前記凹部57の開口端部との間にシール付きのボールベアリング40が介装されるので、クラッチカバー18、第1メインシャフト20の一端部および第1クラッチインナ33および前記ボールベアリング30によって油室58が形成される。
【0038】
前記クラッチカバー18には、一端を第1油圧供給室53に通じさせた第1パイプ59の一端部が挿通、支持され、第1パイプ59の他端は第1の油圧クラッチ30に対応する部分まで前記中心孔52に挿入される。また第1キャップ54には、一端を第2油圧供給室55に通じさせた第2パイプ60の一端部が挿通、支持され、第2パイプ60の他端は前記伝動部材29および前記被動ギヤ27に対応する部分まで前記中心孔52に挿入される。而して第1パイプ59の他端外周に固定された環状の第1シール部材61が中心孔52の内周に弾発保持され、第2パイプ60の他端外周に固定された環状の第2シール部材62が中心孔52の内周に弾発保持されており、第2パイプ60の外周と、中心孔52の内周および第1パイプ59の内周間には、第1油圧供給室53に通じる環状の第1油路63が形成され、第2油圧供給室55に通じる第2油路64が第2パイプ60の内周および中心孔52の内周により形成され、第1パイプ59の外周および中心孔52の内周間には油室58に通じる環状の第3油路65が形成される。
【0039】
而して第1メインシャフト20、伝動筒軸24および第1クラッチアウタ32の内筒部32aには、第1油路63を第1油圧室41に通じさせる第1連通路66が設けられ、第1メインシャフト20、伝動筒軸24および第2クラッチアウタ42の内筒部42aには、第2油路64を第2油圧室51に通じさせる第2連通路67が設けられ、第1メインシャフト20には、第1の油圧クラッチ30に対応した部分で第1メインシャフト20および伝動筒軸24間に介装されるニードルベアリング25側に第3油路65からの潤滑用の油を導く第3連通路68が設けられる。また第1メインシャフト20には、前記中心孔52の内端部との間に間隔をあけた位置に内端閉塞部を配置した潤滑油路69が第1メインシャフト20の他端側に開口するようにして同軸に設けられ、第2の油圧クラッチ31に対応した部分で第1メインシャフト20および伝動筒軸24間に介装されるニードルベアリング25側に前記潤滑油路69からの潤滑用の油を導く第4連通路70が第1メインシャフト20に設けられる。
【0040】
図3を併せて参照して、前記オイルパン16内に配置されるオイルストレーナ74を介してオイルパン16内の作動油を吸入する第1および第2オイルポンプ75,76が共通なポンプ軸77を有してクランクケース12の下部に配設されており、前記ポンプ軸77には、前記クランクシャフト17から回転動力が伝達される。
【0041】
第1オイルポンプ75から吐出されるオイルは第1および第2の油圧クラッチ30,31の作動を制御するために用いられ、第2オイルポンプ76から吐出されるオイルは、エンジン本体11の各部潤滑に用いられる。
【0042】
図4を併せて参照して、前記クラッチカバー18の下部には、オイルフィルタ78が配設されるものであり、このオイルフィルタ78のフィルタケース79は、内方に凹んだ凹部82を有してクラッチカバー18の下部に一体に設けられるケース主部80と、該ケース主部80の開口端を液密に閉じるようにしてケース主部80に締結される蓋部材81とから成り、前記凹部82内には、リング状のフィルタエレメント83を保持する枠部材84がケース主部80および蓋部材81間で弾発保持されるようにして収容され、フィルタケース79内には、前記フィルタエレメント83の外側の未浄化室85と、前記フィルタエレメント83の内側の浄化室86とが形成される。
【0043】
前記フィルタケース79に対応する部分で、前記クラッチカバー18の内面には、前記未浄化室85に通じる第1通路孔87ならびに前記浄化室86に通じる第2通路孔88を有する継手部材89が締結されており、第1オイルポンプ74から吐出される作動油を導くようにして第1オイルポンプ74のポンプケース90(図3参照)に一端が接続される第1導管91の他端が第1通路孔87に通じるようにして前記継手部材89に接続される。また前記継手部材89には、第2通路孔88に通じるようにして第2導管92の一端が接続されており、第2導管92の他端は、前記クラッチカバー18に設けられる第4油路93の下端に通じるようにしてクラッチカバー18の内面に接続される。
【0044】
前記第4油路93は、図1および図5で示すように、クランクシャフト17および第1メインシャフト20間で上下に延びるようにしてクラッチカバー18に設けられる。しかもクラッチカバー18の上部内面には、第1および第2の油圧クラッチ30,31における油圧室41,41の油圧を制御するようにしてそれらの油圧室41,51および第1オイルポンプ75間に設けられる油圧回路に介設される一対のアクチュエータとしてのリニアソレノイド弁94A,94Bが、図1で示すように、上下方向に並んで配設される。而して両リニアソレノイド弁94A,94Bは、油圧制御弁95…に、該油圧制御弁95…を駆動するソレノイド96が連結されて成る。
【0045】
図6において、前記油圧制御弁95は、円筒状の弁ケース104と、該弁ケース104に摺動可能に嵌合される弁体105と、該弁体105を前記ソレノイド96側に付勢するばね106とを備える。前記弁体105の一端には、前記ソレノイド96の作動ロッド107が連接され、前記ソレノイド96とは反対側で前記弁ケース104の端部を閉じる蓋部材108および弁体105間に形成されるダンパ室109に前記ばね106が収容される。
【0046】
前記弁体105の中間部には環状凹部110が設けられ、弁体105の他端側外面および弁ケース104の内面間には、前記弁体105に前記ソレノイド96側に向けての油圧力を及ぼすフィードバック用油圧室111が環状に形成される。また前記弁ケース104には、前記ソレノイド96側から順に、ドレンポート112、出力ポート113、入力ポート114、フィードバックポート115および連通ポート116が設けられる。
【0047】
而して前記弁体105は、前記環状凹部110を介して前記入力ポート114および前記出力ポート113間を連通する後退位置と、前記環状凹部110を介して前記出力ポート113および前記ドレンポート112間を連通する前進位置(図6で示す位置)との間を、前記ソレノイド96から作用する後退方向の力と、前記ばね106のばね力ならびに前記フィードバック用油圧室111の油圧力による前進方向の力とがバランスするように移動する。これにより前記出力ポート113からは、前記ソレノイド96が発揮する電磁力に比例する油圧が出力される。
【0048】
被取付け部材である前記クラッチカバー18の内面には、前記両リニアソレノイド弁94A,94Bを配置するための各リニアソレノイド弁94A,94Bに個別に対応した有底の嵌合孔131…が、相互に平行な軸線を有するクランクシャフト17ならびに第1および第2メインシャフト20,21と平行な軸線を有するようにして設けられており、前記両リニアソレノイド弁94A,94Bが備える油圧制御弁95…の弁ケース104…を嵌合せしめた筒状部材132が前記嵌合孔131に嵌合される。前記筒状部材132は、有底円筒状に形成される小径筒部132aと、小径円筒部132aよりも大径の大径円筒部132bとが同軸にかつ一体に連なって有底円筒状に形成されるものであり、小径円筒部132aの閉塞端を、前記嵌合孔131の閉塞端に向けるようにして嵌合孔131に嵌合される。しかも前記筒状部材132の大径円筒部132bには、クラッチカバー18および弁ケース104間に形成されるべき油路を形成するための加工が施される。
【0049】
図7を併せて参照して、前記筒状部材132の大径円筒部132bには、前記弁ケース104に設けられるドレンポート112に通じて前記ソレノイド96側に開口する開口部133が前記筒状部材132の開口端で前記ソレノイド96側に開放するようにして設けられるとともに、この開口部133によって前記弁ケース104およびクラッチカバー18間にはドレンポート112から排出されるオイルをソレノイド96側に導く油路134が形成される。
【0050】
また前記入力ポート114にほぼ対応した位置で筒状部材132における大径円筒部132bの外周面には凹部135が設けられ、該凹部135を前記入力ポート114に通じさせる連通孔136が大径円筒部132bに設けられる。而して前記クラッチカバー18には、図5で示すように、第4油路93に通じる入口油路137が、前記両リニアソレノイド弁94A,94B間の中央で両筒状部材132の前記凹部135…に共通に通じるようにして設けられ、両リニアソレノイド弁94A,94Bの入力ポート114…が単一の前記入口油路137に共通に通じることになる。
【0051】
また前記筒状部材132における大径円筒部132bの外周面には、出力ポート113に対応する位置から小径円筒部132aまで軸線方向に延びる溝138が設けられ、前記大径円筒部132bには、前記溝138の一端を前記出力ポート113に連通させる連通孔139と、前記溝138の中間部を前記フィードバックポート115に通じさせる連通孔140とが設けられる。而して筒状部材132を嵌合孔131に嵌合した状態で前記筒状部材132およびクラッチカバー18間には、前記出力ポート113および前記フィードバックポート115に通じる出力油路142が形成されることになる。
【0052】
図1で示すように、前記クラッチカバー18には、上下に並列配置された一対のリニアソレノイド弁94A,94Bのうち上方のリニアソレノイド弁94Aで制御された油圧を導く第5油路100が第1油圧供給室53に通じるようにして設けられるとともに、下方のリニアソレノイド弁94Bで制御された油圧を導く第6油路101が第2油圧供給室55に通じるようにして設けられており、また前記油室58に通じる潤滑油路102も第5および第6油路100,101と平行にして前記クラッチカバー18に設けられる。
【0053】
図5で示すように、前記クラッチカバー18には、上方のリニアソレノイド弁94Aの前記出力油路142および前記第5油路100間を結ぶ出力側連通路143と、下方のリニアソレノイド弁94Bの前記出力油路142および前記第6油路101間を結ぶ出力側連通路144とが設けられる。すなわち前記筒状部材132の外周面に、該筒状部材132の軸線に沿う方向で前記嵌合孔131の閉塞端側に開放する溝138…が、第1および第2の油圧クラッチ30,31に連なる出力油路142…を形成するために設けられることになる。
【0054】
また前記筒状部材132における大径円筒部132bの外周面には、入力ポート114に通じる前記凹部135に一端を通じさせて軸方向に延びるとともに、前記連通ポート116に対応する位置に他端を配置する溝145が設けられ、該溝145の他端および前記連通ポート116間に介在するオリフィス146が前記大径円筒部132bに設けられる。而して筒状部材132を嵌合孔131に嵌合した状態で前記筒状部材132およびクラッチカバー18間には、前記出力ポート113および前記連通ポート116に通じる連通油路147が形成されることになり、入口油路137がオリフィス146を介して前記ダンパ室109に接続されることになる。
【0055】
また前記筒状部材132における大径円筒部132bの外周面には、前記ダンパ室109からのオイルを排出するドレン油路148をクラッチカバー18との間に形成する溝149が、ソレノイド96側に向けて延びるように設けられる。
【0056】
上下一対のリニアソレノイド弁94A,94Bは、上述のようにして、クラッチカバー18の内面に配設されるのであるが、第1および第2の油圧クラッチ30,31と同様にして、クランクシャフト17の軸線に沿う方向で一側、この実施の形態では右側に寄って配置される。
【0057】
しかも第1および第2メインシャフト20,21の軸線に沿う方向でリニアソレノイド弁94A,94Bの長さL1が第1および第2の油圧クラッチ30,31の長さL2よりも短く設定される。
【0058】
次に本発明の実施の形態の作用について説明すると、クラッチカバー18に有底の嵌合孔131が設けられ、第1および第2の油圧クラッチ30,31の断・接を切り換えるリニアソレノイド弁94A,94Bが備える油圧制御弁95…の弁ケース104…が、前記嵌合孔131に嵌合される筒状部材132…に嵌合され、弁ケース104およびクラッチカバー18間に形成される出力油路油路142、連通油路147およびドレン油路148を形成する溝138,145,149が筒状部材132の外周面に設けられるので、油圧制御弁95…およびクラッチカバー18間にわたる油路構造のコンパクトを図ることを可能としつつ、クラッチカバー18側に加工が施される場合に比べて油路形成のための加工が容易となり、加工性が向上する。
【0059】
また嵌合孔131がクラッチカバー18の内面側に設けられるので、リニアソレノイド94A,94Bがクラッチカバー18の内側に配設されることになり、クラッチカバー18の外側に配設される場合に比べてエンジンのコンパクト化を図ることが可能となるだけでなく、特別の保護対策を施すことを不要としてクラッチカバー18で前記リニアソレノイド弁94A,94Bを保護することができる。
【0060】
また相互に平行な軸線を有するクランクシャフト17ならびに第1および第2メインシャフト20,21と平行に、油圧制御弁95の軸線が定められるので、第1および第2メインシャフト20,21の半径方向で第1および第2メインシャフト20,21に前記リニアソレノイド弁94A,94Bを近接させることを可能とし、それによってエンジンのコンパクト化を図ることができる。
【0061】
また第1および第2の油圧クラッチ30,31と、筒状部材132とが、クランクシャフト17の軸線に沿う方向で一側(この実施の形態では右側)に寄って配置されるので、クランクシャフト17の軸線に沿う方向で第1および第2の油圧クラッチ30,31と反対側のエンジン本体11内のスペースを確保することができ、第1および第2メインシャフト20,21の軸線に沿う方向で前記リニアソレノイド弁94A,94Bの長さL1が第1および第2の前記油圧クラッチ30,31の長さL2よりも短いので、第1および第2メインシャフト20,21の軸線に沿う方向で前記リニアソレノイド弁94A,94Bがクラッチカバー18から突出することがなく、リニアソレノイド弁94A,94Bのコンパクトな配置が可能となる。
【0062】
また一対のリニアソレノイド94A,94Bが、それらの油圧制御弁95…の入力ポート114…に共通に連なる単一の入口油路137が設けられる前記クラッチカバー18に並列して配設されるので、部品点数の増加を回避しつつ一対のリニアソレノイド弁94A,94Bをコンパクトに纏めて配置することができる。
【0063】
また前記油圧制御弁95…は、その弁体105…の作動にダンパ効果を付与するためのダンパ室109…を有しており、入口油路142がオリフィス146…を介して前記ダンパ室109…に接続されるので、油圧制御弁95…が備える弁体105…の動きにダンパ効果を付与することができる。
【0064】
また第1および第2の油圧クラッチ30,31に連なる出力油路142…を形成するための溝38…が、嵌合孔131…の閉塞端側に開放するようにして筒状部材32…の外周面に設けられるので、嵌合孔131…の開放端側に設けられる場合に比べると油路構成を簡素化することができる。
【0065】
さらにダンパ室109…からのオイルを排出するドレン油路148…を形成する溝149…が、ダンパ室109…からソレノイド96…側に向けて延びるように筒状部材132…の外周面に設けられるので、ダンパ室109から排出されるオイルを利用してソレノイド96…を冷却することができる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0067】
たとえば上記実施の形態ではクラッチカバー18をエンジンケースとして用いた場合について説明したが、エンジンケースは、エンジン本体11の外郭部を構成するもの全てを含むとする。
【符号の説明】
【0068】
17・・・クランクシャフト
18・・・被取付け部材およびエンジンケースであるクラッチカバー
20・・・変速機軸である第1メインシャフト
21・・・変速機軸である第2メインシャフト
30,31・・・油圧クラッチ
41,51・・・油圧室
94A,94B・・・アクチュエータであるリニアソレノイド弁
95・・・油圧制御弁
96・・・ソレノイド
104・・・弁ケース
105・・・弁体
109・・・ダンパ室
114・・・入力ポート
117・・・入口油路
131・・・嵌合孔
132・・・筒状部材
138,145,149・・・溝
142・・・出力油路
147・・・連通油路
146・・・オリフィス
148・・・ドレン油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧室(41,51)の油圧を制御するようにして該油圧室(41,51)の連なる油圧回路に介設されるアクチュエータ(94A,94B)を配置するための嵌合孔(131)を有する被取付け部材(18)と、前記嵌合孔(131)に嵌合される筒状部材(132)との間に、前記筒状部材(132)に収納されるアクチュエータ(94A,94B)に通じる油路(142,147,148)が形成される油路構造において、前記油路(142,147,148)を形成するための加工が施された前記筒状部材(132)が、前記被取付け部材(18)との間に前記油路(142,147,148)を形成すべく前記嵌合孔(131)に嵌合されることを特徴とするアクチュエータ用油路構造。
【請求項2】
前記被取付け部材であるエンジンケース(18)に前記嵌合孔(131)が設けられ、クランクシャフト(17)および変速機軸(20,21)間に設けられる油圧クラッチ(30,31)の断・接を切り換えるアクチュエータ(94A,94B)が備える油圧制御弁(95)の弁ケース(104)が前記筒状部材(132)に嵌合され、前記弁ケース(104)および前記エンジンケース(18)間に形成される油路(142,147,148)を形成する溝(138,145,149)が前記筒状部材(132)の外周面に設けられることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項3】
前記嵌合孔(131)が前記エンジンケース(18)の内面側に設けられることを特徴とする請求項2記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項4】
相互に平行な軸線を有する前記クランクシャフト(17)および前記変速機軸(20,21)と平行に、前記油圧制御弁(95)の軸線が定められることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項5】
前記油圧クラッチ(30,31)および前記筒状部材(132)が,前記クランクシャフト(17)の軸線に沿う方向で一側に寄って配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項6】
前記変速機軸(20,21)の軸線に沿う方向で前記アクチュエータ(94A,94B)の長さが前記油圧クラッチ(30,31)の長さよりも短く設定されることを特徴とする請求項4記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項7】
複数の前記アクチュエータ(94A,94B)が、それらの前記油圧制御弁(95)の入力ポート(114)に共通に連なる単一の入口油路(137)が設けられる前記エンジンケース(18)に並列して配設されることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項8】
前記油圧制御弁(95)がその弁体(105)の作動にダンパー効果を付与するためのダンパ室(109)を有し、前記入口油路(142)がオリフィス(146)を介して前記ダンパ室(109)に接続されることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項9】
前記嵌合孔(131)が有底にして前記エンジンケース(18)に設けられ、前記油圧クラッチ(30,31)に連なる油路(142)を形成するための溝(138)が、前記嵌合孔(131)の閉塞端側に開放するようにして前記筒状部材(32)の外周面に設けられることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載のアクチュエータ用油路構造。
【請求項10】
前記ダンパ室(109)からのオイルを排出するドレン油路(148)を形成する溝(149)が,前記ダンパ室(109)から前記油圧制御弁(95)に連結されるソレノイド(96)側に向けて延びるように前記筒状部材(132)の外周面に設けられることを特徴とする請求項8記載のアクチュエータ用油路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−75040(P2011−75040A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227778(P2009−227778)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】