アクリルエマルジョンおよびその製造方法
【課題】付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮し、かつ動的粘弾性挙動が適切に制御されたアクリルエマルジョンおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在することを特徴とする。
【解決手段】メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的粘弾性挙動が適切に制御され、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮する塗料、粘着剤、接着剤などに用いられるアクリルエマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
“にかわ”等で知られているとおり、接着剤は、太古の昔から身近な存在である。接着剤は、ポリ酢酸ビニルエマルジョンやゴム糊などのように、溶媒が蒸発することで接着機能を発揮するものから、エポキシ樹脂接着剤のように主剤と硬化剤を混合し、加熱等により三次元架橋を起こさせてより強靱な接着力や耐熱性、耐薬品性を発揮するものもある。
【0003】
特許文献1には、アルキル基の炭素原子数が4〜14個の(メタ)アクリル酸エステルとカルボキシル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、水酸基含有モノマーから選ばれる一種以上のモノマー、反応性ノニオン乳化剤を使用し、75℃以下の重合温度で乳化重合するアクリル系粘着剤が提案されている。特許文献1に示されている技術では、乳化重合用乳化剤として反応性ノニオン乳化剤が使用されるため、乳化重合中におけるアクリル単量体の乳化、分散安定化の不良が懸念され、凝集、皮張りなどの不具合が予測される。
【0004】
特許文献2には、乳化重合用乳化剤としてノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤を併用するアクリルエマルジョンが提案されている。特許文献2では、相対的に乳化剤の使用量が多くなり、かつ、ノニオン性乳化剤の使用量が多いことからアクリルエマルジョンの泡立ちと塗膜への泡の巻き込み、耐水性などの耐薬品性の悪化が予測される。
【0005】
特許文献3には、特定の反応性乳化剤を使用するアクリルエマルジョンを含む粘着剤が提案されている。特許文献3で提案されている技術では、アクリルエマルジョンの固形分が高く、粘度が高いため、被着体への浸透性、親和性、ヌレ性が不良であることが予測され、接着剤、粘着剤、塗料として十分な性能が発揮されないことが予測される。
【0006】
上述した特許文献1〜3を含む従来技術では、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮し、かつ動的粘弾性挙動が適切に制御されたアクリルエマルジョンを得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−143444号公報
【特許文献2】特開2005−232331号公報
【特許文献3】特開2003−336024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮し、かつ動的粘弾性挙動が適切に制御されたアクリルエマルジョンおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアクリルエマルジョンは、メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、親水性アクリル単量体を含む特定組成のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50〜100℃の温度範囲にのみ存在し、その数が1つだけであるため、アクリルエマルジョンの動的粘弾性挙動が適切に制御され、凝集力が強く、種々被着体に対する浸透性、ヌレ性、親和性に優れ、特に性質が異なる異種材料の被着体間の接着において良好な接着力を発揮する。本発明のアクリルエマルジョンは、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮するため、塗料、粘着剤、接着剤などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図2】実施例2のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図3】実施例3のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図4】実施例4のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図5】実施例5のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図6】実施例6のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図7】比較例1のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図8】比較例2のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図9】比較例3のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図10】比較例4のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図11】比較例5のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、アクリルエマルジョンのtanδは、10℃〜170℃の動的粘弾性試験により測定される。tanδは散逸率=E″/E′と等価な減衰項を表し、tanδは次元を持たない特性である。ここで、E′は複素動的ヤング率の実数部(すなわち貯蔵弾性率、以下単に「ヤング率」と言うことがある)、E″は複素動的ヤング率の虚数部(すなわち損失弾性率)である。
【0013】
アクリルエマルジョンのtanδ、複素動的ヤング率の実数部E′および虚数部E″は「Reogel E4000」((株)ユービーエム社製の動的粘弾性測定装置)を使用し、測定開始温度10℃、測定終了温度170℃、昇温速度4℃/分、ステップ温度1℃、周波数1Hzの条件で行う動的粘弾性試験により求めるものとする。なお、動的粘弾性試験で測定されたクロマトに現れる微小ピークは測定ノイズと見なし、tanδのピークとしてカウントしない。本発明では、アクリルエマルジョンの損失弾性率E″の変化(ピーク)が見られない温度領域に現れるtanδのピークは測定ノイズと見なし、tanδのピークとしてカウントしないものとする。なお、tanδのピークがその頂部で複数に分かれても、最も大きいピークに対し±5℃以内に位置するときは1つのピークとする。
【0014】
本発明のアクリルエマルジョンは、そのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲にだけ存在し、かつそのピークの数が1つだけであるため、動的粘弾性試験で測定されるヤング率E′が適切に制御され、アクリルエマルジョンの成膜性が良好となる。本発明のアクリルエマルジョンは、結果として、アクリルエマルジョンの引張強度、伸度などの機械的性質が向上し、粘着力や接着強度が向上する。
【0015】
また、アクリルエマルジョンのtanδが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在するため、塗料に使用される場合には、塗料の成膜性、レベリング性が向上し、光沢や鮮映性などの塗膜外観が優れたものとなる。接着剤や粘着剤に使用される場合には、アクリルエマルジョンが被着体に均一に展開し、バラツキのない良好な粘着力、接着力が発揮される。
【0016】
これに対し、動的粘弾性試験により測定される温度域において、アクリルエマルジョンのtanδが2ピーク以上、すなわち複数存在する場合には、tanδのピーク位置が安定せず、安定した粘着性、接着性が発揮されない。
【0017】
またアクリルエマルジョンのtanδのピークが50〜100℃の範囲に存在せず、50℃未満の温度領域に存在する場合には、アクリルエマルジョンが強度不足となって、必要な接着強度が発揮されない。またtanδのピークが100℃を超えた温度領域に存在する場合には、アクリルエマルジョンが脆くなり、成膜性が悪化して、十分な接着強度が発揮されない。
【0018】
本発明のアクリルエマルジョンでは、tanδのピークが現れる温度を持ってtanδを代表させる場合がある。すなわち、仮に、tanδのピークが50℃であるとすれば、tanδは50℃であるという場合がある。
【0019】
本発明のアクリルエマルジョンでは、アクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃、好ましくは53℃〜85℃、より好ましくは55℃〜80℃の範囲のみに1ピークだけ存在する。アクリルエマルジョンのtanδが、好ましくは53℃〜85℃の範囲のみに1ピークだけ存在するとき、アクリルエマルジョンがより強靱となり、付着性、粘着性、接着性が一段と向上する傾向が見られる。
【0020】
本発明では、メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%により、アクリル単量体100重量%を組成する。以下、メタクリル酸を「MAA」、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを「HEMA」、メタクリル酸4−ヒドロキシブチルを「4HBMA」と略記することがある。
【0021】
アクリル単量体100重量%中、MAAの使用量は0〜3重量%、好ましくは0〜2重量%、より好ましくは0.2〜1.5重量%である。MAAは任意成分であり、その使用量が3重量%を超える場合には、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が悪くなり、貯蔵経時で粘度上昇を起こす。
【0022】
アクリル単量体100重量%中、HEMAおよび/または4HBMAの使用量は3〜20重量%、好ましくは3〜16重量%、より好ましくは5〜16重量%である。なおHEMAおよび4HBMAを共に使用する場合、その合計量を上述した範囲内にする。HEMAおよび/または4HBMAの使用量が3重量%未満の場合には、アクリルエマルジョンの凝集力が不足し、接着性、付着性、粘着性が低下する。またHEMAおよび/または4HBMAの使用量が、20重量%を超える場合には、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が悪化し、貯蔵経時で粘度上昇、エマルジョン粒子径の肥大化を起こしやすくなる。
【0023】
本発明では、接着性、付着性、粘着性の観点から、HEMAの使用が推奨される。最も好ましくは、アクリル単量体100重量%中、HEMAが8〜12重量%使用されるのが推奨される。HEMAを8〜12重量%使用することにより、アクリルエマルジョンの凝集力が適切となり、粘度が制御されて、被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が向上し、接着性が一段と良好となる。
【0024】
アクリル単量体として、アルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステルを含む。このようなメタクリル酸アルキルエステルとして、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルへキシルなどが例示される。これらのメタクリル酸アルキルエステルは単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0025】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基が直鎖状であり、かつアルキル基の炭素原子数が1〜4個のものが好ましい。例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチルなどが好ましい。このようなメタクリル酸アルキルエステルが使用されるとき、アクリルエマルジョンの凝集エネルギーが大きくなり、被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が向上して接着性、付着性、粘着性が向上する傾向が見られる。
【0026】
アクリル単量体100重量%中、アルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステルの使用量は、77〜97重量%、好ましくは82〜97重量%、より好ましくは82.5〜94.8重量%である。メタクリル酸アルキルエステルの使用量が77重量%未満の場合には、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が悪化し、貯蔵経時で粘度上昇を起こす。またメタクリル酸アルキルエステルの使用量が97重量%を超える場合には、アクリルエマルジョンの凝集エネルギーが不足し、接着性が悪化する。
【0027】
本発明では、使用する全てのアクリル単量体は、メタクリレート(CH2=C(CH3)−C(O)O−)であるのが好ましい。全てのアクリル単量体がメタクリレートの場合、ポリエチレン、ABS、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ビニル樹脂などの有機高分子材料、アルミニウム、鉄、チタン合金などの金属、ガラス、モルタルなどの無機材料などの被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が良好となって接着性、付着性、粘着性が向上する傾向が見られる。
【0028】
本発明のアクリルエマルジョンの粒子径は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは50〜300nm、さらに好ましくは80〜250nmであるとよい。アクリルエマルジョンの粒子径が50〜500nmであれば、被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が良好となる傾向が見られ、接着性が向上する傾向が見られる。なおアクリルエマルジョンの粒子径は、濃厚系粒径アナライザー「FPAR−1000」(大塚電子(株)社の分析器)を使用して25℃で測定した。
【0029】
本発明のアクリルエマルジョンは乳化重合で製造される。このアクリルエマルジョンは、水、好ましくはイオン交換水を分散媒体とし、重合開始剤として例えば過硫酸アンモニウムなどを使用し、乳化重合用乳化剤として例えばドデシルベンゼンスルホン酸ソーダなどの陰イオン性乳化剤を使用し、MAA0〜3重量%、HEMAおよび/または4HBMA3〜20重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体混合物を、重合温度65〜75℃で乳化重合して製造される。
【0030】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、先ず上述したアクリル単量体混合物、水、およびアクリル単量体混合物100重量部に対して、0.8〜5.0重量部の陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩を含むプレエマルジョンを調製する。このプレエマルジョン100重量%中のアクリル単量体濃度は65〜75重量%にする。
【0031】
次いでプレエマルジョンを、2〜5時間で重合系に添加し、重合温度65〜75℃、好ましくは67〜73℃でプレエマルジョン法により乳化重合することにより、アクリルエマルジョンを製造する。重合開始剤として、好ましくは過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、水溶性有機アゾ系重合開始剤などの水溶性重合開始剤が例示される。水溶性有機アゾ系重合開始剤としては、2,2′−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン(和光純薬工業(株)の「VA−061」)などが例示される。
【0032】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、より好ましくは、プレエマルジョンの一部、好ましくは5〜30重量%を先に乳化重合しシードエマルジョンを製造した後、残りのプレエマルジョンを所定時間で添加して乳化重合するのが推奨される。シードエマルジョンを製造することにより、アクリルエマルジョンが低粘度化され、被着体への侵入性、浸透性、ヌレ性が向上し、接着性がよりよくなる傾向が見られる。また、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が向上する傾向が見られる。
【0033】
本発明の製造方法では、陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基、炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェニル基
等を例示することができる。置換基を有していてもよい陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩として、「ラテムル PD−104」(ポリオキシレンアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、花王(株)社の製品)、「アクアロン KH−05」、「アクアロン KH−10」(以上、第一工業製薬(株)社の製品)、「アデカリアソーブ SR−1025」(アデカ(株)社の製品)などが例示される。置換基を有していてもよい陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0034】
本発明では、陰イオン性反応性乳化剤は、アクリル単量体100重量部に対して、好ましくは0.8〜5.0重量部、より好ましくは0.8〜3.5重量部、さらに好ましくは1.0〜3.5重量部使用される。陰イオン性反応性乳化剤の使用量が、アクリル単量体100重量部に対して0.8〜5.0重量部であれば、乳化重合安定性が良好で、粒子径が制御可能な、貯蔵安定性に優れたアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0035】
本発明では、プレエマルジョン中のアクリル単量体の濃度は、好ましくはプレエマルジョン100重量%中65〜75重量%、より好ましくは65〜73重量%、さらに好ましくは68〜72重量%であるのが望ましい。プレエマルジョン中のアクリル単量体濃度が65〜75重量%であれば、アクリルエマルジョン製造中にプレエマルジョンの分離が起こり難くなる傾向が見られ、アクリルエマルジョンに凝集物の生成が少なくなる傾向があり、アクリルエマルジョンの粒子径が制御されて安定性の良好なアクリルエマルジョンが製造される傾向が見られる。
【0036】
本発明の製造方法では、プレエマルジョンを重合系へ添加する添加時間は、好ましくは2〜5時間、より好ましくは2〜4.5時間、さらに好ましくは、3〜4.5時間であるとよい。プレエマルジョンの添加時間が2〜5時間であれば、重合温度65〜75℃との相乗効果で、tanδが1ピーク化され易くなる傾向が見られる。
【0037】
乳化重合温度は65〜75℃、好ましくは67〜73℃、より好ましくは67〜72℃、さらに好ましくは68〜72℃である。重合温度が65〜75℃であれば、アクリル単量体の重合速度がより適切に調節され、未反応モノマーが少ないtanδが1ピークのアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0038】
本発明の製造方法では、重合開始剤の使用量は、アクリル単量体の合計量100重量部に対し、好ましくは0.02〜5.0重量部、より好ましくは0.05〜3.5重量部、さらに好ましくは、0.05〜3.0重量部にするとよい。重合開始剤の使用量が、0.02〜5.0重量部であれば、乳化重合時間が長くなることや発熱が大きくなることがなく、安全で経済的にアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0039】
プレエマルジョンは、上述したアクリル単量体混合物、水、陰イオン性反応性乳化剤を混合し、例えば、ホモジナイザーなどの乳化機を使用して高速撹拌することにより製造できる。ここで、乳化重合に使用する水は、乳化重合の安定性、製造したアクリルエマルジョンの貯蔵安定性を向上するため、イオン交換水を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明では、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性を向上するために、アクリルエマルジョンに、好ましくは、アンモニア、トリエチルアミン、苛性ソーダなどの塩基性化合物を添加し、pH(25℃)を好ましくは6.5〜9.5に調節することが推奨される。アクリルエマルジョンのpH(25℃)が6.5〜9.5であれば、アクリルエマルジョンが貯蔵経時で分離、沈殿、粘度上昇などを起こすことなく安定化される傾向が見られる。
【0041】
本発明の製造方法では、乳化重合中の酸素の影響を抑制するため、最初に重合装置に仕込む水の溶存酸素濃度は、好ましくは2mg/L以下にするとよい。初期仕込み水中の溶存酸素濃度(mg/L)は、溶存酸素計「OM−51ハンディタイプ」((株)HORIBA社の溶存酸素濃度計)を使用して測定した。
【0042】
アクリルエマルジョンの製造方法の一例を以下に説明する。
【0043】
(重合装置・製造準備)
撹拌機、コンデンサー、温度センサー、アクリル単量体添加装置、窒素ガス吹き込み口がある重合装置に、イオン交換水(以下、初期仕込み水とも言う)を仕込み、窒素ガスのバブリングを行って溶存酸素濃度を2mg/L以下にする。所定の重合温度(65〜75℃の範囲で選択)まで昇温を行う。この後、アクリルエマルジョン製造中は窒素ガスの吹き込みを継続する。
【0044】
(乳化重合)
所定量のアクリル単量体、イオン交換水、陰イオン性反応性乳化剤(アクリル単量体100重量部に対し0.8〜5.0重量部の範囲で選択)を混合し、例えば、ホモミキサーを使用してプレエマルジョン(アクリル単量体濃度は65〜75重量%の範囲で選択)を調製する。
【0045】
重合系が所定の重合温度になれば、重合開始剤を添加し、次いで所定の重合温度を保持しながら、所定時間(2〜5時間の範囲で選択)でプレエマルジョンを添加する。
【0046】
(熟成反応)
プレエマルジョン添加終了後、重合温度を65〜75℃に昇温して、熟成反応を行い、未反応アクリル単量体の削減、消去を行う。所定熟成温度に昇温した後、30〜60分程度熟成反応を行い、必要であれば、重合開始剤、イオン交換水を追添加してさらに熟成反応を継続してもよい。熟成反応温度、熟成反応時間、追添重合開始剤量などの目安は、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性、有害性、安全衛生の観点から、好ましくは、未反応のアクリル単量体が1000ppm以下となるよう設定するのが望ましい。
【0047】
(後工程)
撹拌しながら40℃以下に冷却し、必要であれば、消泡剤を添加する。好ましくは、アンモニア水、トリエチルアミンなどの塩基性化合物を添加して、pHを好ましくは6.5.〜9.5(25℃)に調節してアクリルエマルジョンを製造する。
【0048】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、好ましくは、プレエマルジョンの2〜30重量%を重合系に先仕込みし(以下、プレチャージとも言う)、重合温度65〜75℃で、好ましくは10〜120分間プレチャージしたプレエマルジョンの乳化重合を行いシードエマルジョンを製造した後、残りのプレエマルジョン70〜98重量%を2〜5時間、好ましくは3〜5時間で添加し、アクリルエマルジョンを乳化重合で製造するのが推奨される。
【0049】
このようなシードエマルジョンを製造する工程を経由することで、乳化重合安定性が改善され、乳化重合中の凝集物の生成、皮張りが解消される傾向が見られる。シードエマルジョンを製造する工程を経由することで、アクリルエマルジョンが低粘度化される傾向が見られ、アクリルエマルジョンのハンドリング性が大きく改善される。またシードエマルジョンを製造する工程を経由することで、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が改善される。アクリルエマルジョンのpH(25℃)が2〜4程度の低いままでも、貯蔵経時でアクリルエマルジョンが粘度上昇することがなく、粒子径が肥大化することがなく、貯蔵安定性が良好になる傾向が見られる。
【0050】
シードエマルジョンを製造する工程の条件は、プレチャージの量がプレエマルジョンの好ましくは2〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%にするとよい。プレチャージの量が2〜30重量%であれば、アクリルエマルジョンの乳化重合安定性が確保され、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が良好となる傾向が見られる。また、製造スケールに関わりなく設計通りの粒子径を有するアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0051】
シードエマルジョンの製造条件は、重合温度65〜75℃で、好ましくは10〜120分間、乳化重合してシードエマルジョンを製造するのが推奨される。プレチャージしたプレエマルジョンの乳化重合時間は、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜120分間、さらに好ましくは、30〜60分間であるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、プレチャージしたプレエマルジョンの乳化重合時間が10〜120分間であれば、シードエマルジョンの重合率が必要十分なレベルまで高くなり、乳化重合安定性が向上し、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が向上する傾向が見られる。
【0052】
本発明のアクリルエマルジョンは、アクリル単量体として、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマー0.5〜10重量%をさらに使用することができる。アクリルマクロモノマーとしては、例えばポリメタクリル酸メチルマクロモノマー、ポリスチレンマクロモノマー、ポリスチレン/アクリロニトリルマクロモノマーなどが例示される。これらのアクリルマクロモノマーは、単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。なかでもポリメタクリル酸メチルマクロモノマーが好ましく、アクリルエマルジョンの凝集力が向上し、硬さや強靱性、耐熱性を悪化させることなく種々被着体への接着性が向上する傾向が見られる。
【0053】
上市されているアクリルマクロモノマーとして、例えば「アロンマクロマーAA−6」、「アロンマクロマーAS−6」、「アロンマクロマーAN−6」、「アロンマクロマーAB−6」(以上、東亞合成(株)社の製品)などが例示される。
【0054】
本発明では、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマーが使用されることで、種々素材、被着体へのアクリルエマルジョンの浸透性、侵入性、ヌレ性が一段と改善され、向上するだけでなく、被着体表面にアクリルエマルジョンが均一に塗布、展開される傾向が見られ、接着性、付着性、粘着性が一段と向上する傾向が見られる。
【0055】
分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマーの使用量は、アクリル単量体100重量%中に、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは、1〜8重量%、さらに好ましくは、3〜8重量%使用されるのが望ましい。分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマーの使用量が0.5〜10重量%であれば、被着体表面にアクリルエマルジョンが均一に塗布、展開される傾向が見られ、接着性、付着性、粘着性が一段と向上する傾向が見られる。
【0056】
以下に実施例で本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0057】
以下に実施例で本発明の詳細を説明する。なお、以下の実施例では、評価方法、測定方法等を次の通りとした。また、特に断りがない限り、組成比は重量%を表すものとする。
1)固形分(%)(以下、加熱残分とも言う)
JIS K 5407:1997にしたがって加熱残分を測定した。なお、測定は14
0℃で60分間加熱乾燥し、行った。
【0058】
2)pH(25℃)
pHメーターを使用し、25℃で測定した。
3)粒子径(nm)
濃厚系粒径アナライザー「FPAR−1000」(大塚電子(株)社の分析器)を使用して25℃で測定した。
【0059】
4)貯蔵安定性
アクリルエマルジョンを250mLマヨネーズ瓶に200mLとり、23℃1ヶ月静置後の粘度上昇率、粒子径変化率を評価した。
【0060】
粘度上昇率が20%以内のものは合格(○)、それ以上のものは不合格(×)とし変化率を記載した。なお、粘度は「VISCOMETER TVB−10」(TOKI SANGYO(株)の粘度測定装置)を使用し、25℃で測定した。
【0061】
粒子径変化率は、粒子径が変化しないものは合格(○)、粒子径が変化するものは不合格(×)とし変化率を記載した。なお、粒子径は、濃厚系粒径アナライザー「FPAR−1000」(大塚電子(株)社の分析器)を使用して25℃で測定した。
【0062】
5)溶存酸素濃度(mg/L)
初期仕込み水中の溶存酸素濃度(mg/L)を、溶存酸素計「OM−51ハンディタイプ」((株)HORIBA社の溶存酸素濃度計)を使用して測定した。
【0063】
6)動的粘弾性試験(tanδ、ヤング率、損失弾性率の測定)
アクリルエマルジョンの動的粘弾性試験は(株)ユービーエム社製の動的粘弾性測定装置「Reogel E4000」を使用し、室温〜170℃の範囲で測定した。
【0064】
動的粘弾性試験方法は、
測定法:動的粘弾性率測定(正弦波)、
測定モード:温度依存性、
チャック:引張、
波形:正弦波、
加振の種類:ストップ加振、
初期荷重:初期歪み制御(0.02mm)、
条件:周波数1Hz、測定開始温度10℃、ステップ温度1℃、測定終了温度170℃、昇温速度4℃/minとした。
【0065】
動的粘弾性試験用テストピースは、アクリルエマルジョンを引張コイルばね「KS−2056」(KS産業(株)社製)表面に、乾燥膜厚が10〜20μmになるようコーティングを行い、所定条件で乾燥または硬化反応を行った後、コイルバネの両端フック部分を動的粘弾性測定装置チャックに固定し、動的粘弾性試験を行った。
【0066】
上記に記載したコーティングおよび試験用サンプル作製は、アクリルエマルジョンを加熱残分が約15%になるようイオン交換水で希釈し、これにブチルセロソルブを10%添加し、均一に混合し、平坦なガラス板上にアクリルエマルジョン/ブチルセロソルブ液の液滴を作り、この上で引張コイルばね「KS−2056」を転がして行った。1回のコーティングでつける膜厚を1μm程度の薄膜とし、{コーティング→室温乾燥(1〜10分)→60℃乾燥(10分)→}を1工程としてこれを所定膜厚が得られるまで10〜15回繰り返した。コーティングが終了した引張コイルばね「KS−2056」を140℃で30分間、加熱乾燥し動的粘弾性試験用の試験片とした。なお、コーティング膜厚は、アクリル共重合体の比重を1.15として、重量法により算出した。
【0067】
7)異種材料接着性試験(引張剪断強度の測定)
1.使用した材料
・ポリプロピレンシート:ポリプロピレン「J−900GP」(出光石油化学(株)社製)/無水マレイン酸10%変性ポリプロピレン「ユーメックス 1010」(三洋化成(株)社製)(=90/10重量%)を、あらかじめ混合、混練し、加熱プレスを使用して、厚さ1.5mmのシートにした。
・アルミニウム板:厚さ1.5mmのJIS A2017Pアルミニウム板を使用した。
・接着剤:実施例および比較例で得られたアクリルエマルジョンを、それぞれイオン交換水で固形分が15%になるよう希釈し、異種材料間のアクリルエマルジョン接着剤として使用した。
【0068】
2.接着試験用テストピースの作製
アルミニウム板にアクリルエマルジョン接着剤を乾燥膜厚が200μmになるよう塗布した後、140℃で30分間加熱した。
【0069】
アクリルエマルジョンが塗布されている面をポリプロピレンシートに圧着し、200℃で3分間、加熱プレスし、接着試験用テストピースを作製した。
【0070】
3.接着試験
JIS K 6850:1999に準じて接着試験を行い、異種材料間の引張剪断強度を測定した。引張剪断強度が15MPa以上で合格(○)とした。また接着状態の破壊形態が「凝集破壊」「界面破壊」のいずれであるかを観察した。
【0071】
実施例1
撹拌装置、温度センサー、還流冷却器、モノマー滴下口がついた500mL四つ口フラスコにイオン交換水137.4gを仕込み、脱気、窒素ガスのバブリングを数回繰り返し溶存酸素濃度が0.5mg/L以下になるまで脱酸素した後、昇温を開始した。以後の乳化重合工程では、窒素ガスの吹き込みを継続した。
【0072】
メタクリル酸メチル41.0g、メタクリル酸n−ブチル54.0g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5.0gのアクリル単量体混合物100g、「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社製の反応性乳化剤、25%水溶液)8.0g、プレエマルジョン製造用イオン交換水39.7gを混合し、乳化機にかけ10000回転で10分間乳化し、プレエマルジョンを製造した。
【0073】
フラスコ内温度が70℃になった時点で、プレエマルジョンの10wt%(14.8g)をフラスコ内に投入した。フラスコ内温度が重合温度の73℃に回復した時点で、重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.2gを添加し、この後73℃で30分間乳化重合を行い、シードエマルジョンを製造した。
【0074】
プレエマルジョンの残り90wt%(132.9g)を3時間でフラスコ内に滴下し、滴下終了後73℃でさらに30分間重合を行った後、30分で80℃に昇温し、熟成反応を行った。80℃に昇温後、30分後に過硫酸アンモニウム0.020g、イオン交換水0.400gを添加し、この後30分後に、さらに過硫酸アンモニウム0.010g、イオン交換水0.200gを添加し、添加終了後さらに30分間熟成反応を行った。
【0075】
40℃以下になるまで冷却して、「アデカネートB−1016」(アデカ(株)の消泡剤)0.05gを添加し、さらに30分間撹拌、混合し、さらに25%アンモニア水0.47gを添加してpH調節し、実施例1のアクリルエマルジョンAE−1を製造した。
【0076】
アクリルエマルジョンAE−1の固形分は35.2%、粘度は12.0mPa・s、pHは8.5、粒子径は135nmであった。
【0077】
アクリルエマルジョンAE−1の貯蔵安定性を評価したところ、アクリルエマルジョンAE−1は貯蔵経時で増粘、粒子径変化を起こすことなく「〇」、貯蔵安定性が良好「〇」であった。
【0078】
アクリルエマルジョンAE−1の動的粘弾性試験により得られたチャートを図1に示した。図に見られるとおり、アクリルエマルジョンAE−1製造に当たり、陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(「アデカリアソーブSR−1025」)を適正量使用し、乳化重合温度とアクリル単量体添加時間を適切に選択した結果、アクリルエマルジョンAE−1のtanδは50〜100℃の温度範囲にのみ、1ピークだけであった。アクリルエマルジョンAE−1のtanδは62℃、ヤング率は237MPaであった。
【0079】
実施例2〜実施例6
アクリル単量体組成等を表1に示したとおり変える以外は、実施例1と同様にして実施例2〜実施例6のアクリルエマルジョンAE−2、AE−3、AE−4、AE−5、AE−6を製造した。表1中、(1)はフラスコに仕込むイオン交換水の量(重量部)を表し、(2)は重合開始剤の過硫酸アンモニウムの使用量(重量部)を表す。(3)はアクリルエマルジョン製造に使用するアクリル単量体の使用量(重量部)を表し、ここで、「アロンマクロマーAA−6」は東亞合成(株)社製ポリメタクリル酸メチルマクロモノマーである。またアクリル単量体の合計を100重量部とした。(4)はプレエマルジョンを作製する際に使用する陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩の「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社の反応性乳化剤)の使用量(重量部)を表し、(5)はプレエマルジョンを製造するためのイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(6)(7)は熟成反応に使用する重合開始剤の過硫酸アンモニウムとイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(8)はアクリルエマルジョンの泡立ちを抑制する消泡剤である「アデカネートB−1016」(アデカ(株)社の消泡剤)の使用量(重量部)を表す。(9)はアクリルエマルジョンのpHを調整するための25%アンモニア水の使用量(重量部)を表す。(10)は製造したアクリルエマルジョンの合計量(重量部)を表す。(11)はアクリルエマルジョンの製造条件(プレエマルジョン添加時間、重合温度)を表す。(12)はアクリルエマルジョンの動的粘弾性試験結果(tanδ、ヤング率)を表し、(13)はアクリルエマルジョンの特性値を表す。また備考欄にはアクリルエマルジョンに対応した動的粘弾性試験結果のチャート番号を示した。
【0080】
アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6の貯蔵安定性試験結果を表2に示した。アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6は貯蔵経時で増粘、粒子径変化を起こすことなく、貯蔵安定性が良好であった。
【0081】
アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6の動的粘弾性試験により得られたチャートを図2〜図6に示した。図に見られるとおり、アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6製造に当たり、陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(「アデカリアソーブSR−1025」)を適正量使用し、乳化重合温度とアクリル単量体添加時間を適切に選択した結果、アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6のtanδは50〜100℃の温度範囲にのみ、1ピークだけであった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
比較例1
撹拌装置、温度センサー、還流冷却器、モノマー滴下口がついた500mL四つ口フラスコにイオン交換水137.4gを仕込み、窒素ガスのバブリングを行った。溶存酸素濃度を測定したところ0.5mg/Lであった。この後、アクリルエマルジョン製造中は、窒素ガスの吹き込みを継続した。
【0085】
メタクリル酸メチル35.0g、メタクリル酸n−ブチル54.0g、メタクリル酸1.0g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10.0gのアクリル単量体混合物100g、「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社製の反応性乳化剤、25%水溶液)8.0g、プレエマルジョン製造用イオン交換水39.7gを混合し、乳化機にかけ10000回転で10分間乳化し、プレエマルジョンを製造した。
【0086】
フラスコ内温度が80℃になった時点で、プレエマルジョンの10wt%(14.8g)をフラスコ内に投入した。フラスコ内温度が80℃に回復した時点で、重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.2gを添加し、この後80℃で30分間乳化重合を行った。
【0087】
プレエマルジョンの残り90wt%(132.9g)を2時間でフラスコ内に滴下し、滴下終了後80℃でさらに30分間重合を行った。以後、80℃で熟成反応を継続して行った。プレエマルジョン添加終了30分後に過硫酸アンモニウム0.020g、イオン交換水0.400gを添加し、この後30分後に、さらに過硫酸アンモニウム0.010g、イオン交換水0.200gを添加し、添加終了後さらに30分間重合を行った。
【0088】
40℃以下になるまで冷却して、「アデカネートB−1016」(アデカ(株)の消泡剤)0.05gを添加し、さらに30分間撹拌、混合して、さらにpH調整用の25%アンモニア水0.47gを添加して比較例1のアクリルエマルジョンAE−7を製造した。
アクリルエマルジョンAE−7の固形分は35.2%、粘度は12.5mPa・s、pHは8.6、粒子径は112nmであった。
【0089】
アクリルエマルジョンAE−7の貯蔵安定性を評価したところ、アクリルエマルジョンAE−7は貯蔵経時で増粘、粒子径変化を起こすことなく「〇」、貯蔵安定性が良好「〇」であった。
【0090】
アクリルエマルジョンAE−7の動的粘弾性試験により得られたチャートを図7に示した。アクリルエマルジョンAE−7は、アクリル単量体組成が、メタクリル酸/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル/メタクリル酸メチル/メタクリル酸n−ブチル(=1/10/35/54重量%)と好ましい範囲にあり、乳化重合時の乳化剤に陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(「アデカリアソーブSR−1025」)を使用している。一方で、乳化重合温度が高く、アクリル単量体添加時間が短いため、アクリルエマルジョンAE−7のtanδは57℃と109℃の2カ所に現れた。
【0091】
比較例2〜比較例5
アクリル単量体組成等を表3に示したとおり変える以外は、比較例1と同様にして比較例2〜比較例5のアクリルエマルジョンAE−8〜AE−11を製造した。表3中、(1)はフラスコに仕込むイオン交換水使用量(重量部)表し、(2)は重合開始剤の過硫酸アンモニウムの使用量(重量部)を表す。(3)はアクリルエマルジョンに使用するアクリル単量体の使用量(重量部)を表し、アクリル単量体の合計を100重量部とした。(4)はプレエマルジョンを作製する際に使用する陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩の「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社の反応性乳化剤)の使用量(重量部)を表し、(5)はプレエマルジョンを製造するためのイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(6)(7)は熟成反応に使用する重合開始剤の過硫酸アンモニウムとイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(8)はアクリルエマルジョンの泡立ちを抑制する消泡剤である「アデカネートB−1016」(アデカ(株)社の消泡剤)の使用量(重量部)を表す。(9)はアクリルエマルジョンのpHを調節する25%アンモニア水の使用量(重量部)を表す。(10)は製造したアクリルエマルジョンの合計量(重量部)を表す。(11)はアクリルエマルジョン製造条件(プレエマルジョン添加時間、重合温度)を表し、(12)はアクリルエマルジョンの動的粘弾性試験結果(tanδ、ヤング率)を表し、(13)はアクリルエマルジョンの特性値を表す。また備考欄にはアクリルエマルジョンに対応した動的粘弾性試験結果のチャート番号を示した。
【0092】
アクリルエマルジョンAE−8〜AE−11の貯蔵安定性試験結果を表4に示した。アクリルエマルジョンAE−8は貯蔵安定性が良好で、貯蔵経時で粘度上昇、粒子径の変化を起こすことがなかった。アクリルエマルジョンAE−9、AE−10、AE−11は、貯蔵安定性が悪く、貯蔵経時で著しい粘度上昇、粒子径の肥大化を起こした。特に、アクリルエマルジョンAE−10、AE−11は貯蔵経時でゲル状になった。
【0093】
アクリルエマルジョンAE−8〜AE−11の動的粘弾性試験により得られたチャートを図8〜図11に示した。図に見られるとおり、アクリルエマルジョンAE−8〜AE−11は、tanδのピークが2個以上複数観察された。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
比較例1のアクリルエマルジョンAE−7はアクリル単量体組成は好ましい範囲にあるものの乳化重合条件が適性でないためtanδが2個以上複数となり、比較例2のアクリルエマルジョンAE−8はアクリル単量体組成も乳化重合条件も適性でないためtanδが2個以上複数となり、比較例3〜比較例5のアクリルエマルジョンAE−9〜AE−11は乳化重合条件は適性範囲にあるがアクリル単量体組成が好ましい範囲をはずれているためtanδが2個以上複数となった。
【0097】
アクリルエマルジョンの試験結果
実施例、比較例で製造したアクリル共重合体をイオン交換水で加熱残分が15%になるよう希釈した。このアクリルエマルジョンを性質の異なる異種材料であるポリプロピレン/アルミニウム合金の接着剤として使用し、上述した方法により引張剪断強度を求めた。表5に実施例1〜6のアクリルエマルジョンAE−1〜AE−6を使用した引張剪断強度を、表6に比較例1〜5のアクリルエマルジョンAE−7〜AE−11を使用した引張剪断強度を示した。
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
表5に見られるとおり、tanδが50〜100℃の範囲のみに1ピークだけの実施例のアクリルエマルジョンAE−1〜AE−6は、引張剪断強度は構造用接着剤の目安である15MPaを上回り良好な結果であった。アクリルマクロモノマーが使用されているアクリルエマルジョンAE−6では、一段と良好な引張剪断強度が発揮された。
【0101】
表6に見られるとおり、比較例のアクリルエマルジョンAE−7〜AE−11は、引張剪断強度が低い値となった。また、tanδが高温側にもあるためヤング率が大きくなりアクリルエマルジョンが脆くなって接着面は界面破壊となった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、動的粘弾性挙動が適切に制御され、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮する塗料、粘着剤、接着剤などに用いられるアクリルエマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
“にかわ”等で知られているとおり、接着剤は、太古の昔から身近な存在である。接着剤は、ポリ酢酸ビニルエマルジョンやゴム糊などのように、溶媒が蒸発することで接着機能を発揮するものから、エポキシ樹脂接着剤のように主剤と硬化剤を混合し、加熱等により三次元架橋を起こさせてより強靱な接着力や耐熱性、耐薬品性を発揮するものもある。
【0003】
特許文献1には、アルキル基の炭素原子数が4〜14個の(メタ)アクリル酸エステルとカルボキシル基含有モノマー、アミド基含有モノマー、水酸基含有モノマーから選ばれる一種以上のモノマー、反応性ノニオン乳化剤を使用し、75℃以下の重合温度で乳化重合するアクリル系粘着剤が提案されている。特許文献1に示されている技術では、乳化重合用乳化剤として反応性ノニオン乳化剤が使用されるため、乳化重合中におけるアクリル単量体の乳化、分散安定化の不良が懸念され、凝集、皮張りなどの不具合が予測される。
【0004】
特許文献2には、乳化重合用乳化剤としてノニオン性乳化剤とアニオン性乳化剤を併用するアクリルエマルジョンが提案されている。特許文献2では、相対的に乳化剤の使用量が多くなり、かつ、ノニオン性乳化剤の使用量が多いことからアクリルエマルジョンの泡立ちと塗膜への泡の巻き込み、耐水性などの耐薬品性の悪化が予測される。
【0005】
特許文献3には、特定の反応性乳化剤を使用するアクリルエマルジョンを含む粘着剤が提案されている。特許文献3で提案されている技術では、アクリルエマルジョンの固形分が高く、粘度が高いため、被着体への浸透性、親和性、ヌレ性が不良であることが予測され、接着剤、粘着剤、塗料として十分な性能が発揮されないことが予測される。
【0006】
上述した特許文献1〜3を含む従来技術では、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮し、かつ動的粘弾性挙動が適切に制御されたアクリルエマルジョンを得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−143444号公報
【特許文献2】特開2005−232331号公報
【特許文献3】特開2003−336024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮し、かつ動的粘弾性挙動が適切に制御されたアクリルエマルジョンおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアクリルエマルジョンは、メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、親水性アクリル単量体を含む特定組成のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50〜100℃の温度範囲にのみ存在し、その数が1つだけであるため、アクリルエマルジョンの動的粘弾性挙動が適切に制御され、凝集力が強く、種々被着体に対する浸透性、ヌレ性、親和性に優れ、特に性質が異なる異種材料の被着体間の接着において良好な接着力を発揮する。本発明のアクリルエマルジョンは、付着性、接着性などの機械的性質に安定した性能を発揮するため、塗料、粘着剤、接着剤などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図2】実施例2のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図3】実施例3のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図4】実施例4のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図5】実施例5のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図6】実施例6のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図7】比較例1のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図8】比較例2のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図9】比較例3のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図10】比較例4のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【図11】比較例5のアクリルエマルジョンの動的粘弾性を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、アクリルエマルジョンのtanδは、10℃〜170℃の動的粘弾性試験により測定される。tanδは散逸率=E″/E′と等価な減衰項を表し、tanδは次元を持たない特性である。ここで、E′は複素動的ヤング率の実数部(すなわち貯蔵弾性率、以下単に「ヤング率」と言うことがある)、E″は複素動的ヤング率の虚数部(すなわち損失弾性率)である。
【0013】
アクリルエマルジョンのtanδ、複素動的ヤング率の実数部E′および虚数部E″は「Reogel E4000」((株)ユービーエム社製の動的粘弾性測定装置)を使用し、測定開始温度10℃、測定終了温度170℃、昇温速度4℃/分、ステップ温度1℃、周波数1Hzの条件で行う動的粘弾性試験により求めるものとする。なお、動的粘弾性試験で測定されたクロマトに現れる微小ピークは測定ノイズと見なし、tanδのピークとしてカウントしない。本発明では、アクリルエマルジョンの損失弾性率E″の変化(ピーク)が見られない温度領域に現れるtanδのピークは測定ノイズと見なし、tanδのピークとしてカウントしないものとする。なお、tanδのピークがその頂部で複数に分かれても、最も大きいピークに対し±5℃以内に位置するときは1つのピークとする。
【0014】
本発明のアクリルエマルジョンは、そのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲にだけ存在し、かつそのピークの数が1つだけであるため、動的粘弾性試験で測定されるヤング率E′が適切に制御され、アクリルエマルジョンの成膜性が良好となる。本発明のアクリルエマルジョンは、結果として、アクリルエマルジョンの引張強度、伸度などの機械的性質が向上し、粘着力や接着強度が向上する。
【0015】
また、アクリルエマルジョンのtanδが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在するため、塗料に使用される場合には、塗料の成膜性、レベリング性が向上し、光沢や鮮映性などの塗膜外観が優れたものとなる。接着剤や粘着剤に使用される場合には、アクリルエマルジョンが被着体に均一に展開し、バラツキのない良好な粘着力、接着力が発揮される。
【0016】
これに対し、動的粘弾性試験により測定される温度域において、アクリルエマルジョンのtanδが2ピーク以上、すなわち複数存在する場合には、tanδのピーク位置が安定せず、安定した粘着性、接着性が発揮されない。
【0017】
またアクリルエマルジョンのtanδのピークが50〜100℃の範囲に存在せず、50℃未満の温度領域に存在する場合には、アクリルエマルジョンが強度不足となって、必要な接着強度が発揮されない。またtanδのピークが100℃を超えた温度領域に存在する場合には、アクリルエマルジョンが脆くなり、成膜性が悪化して、十分な接着強度が発揮されない。
【0018】
本発明のアクリルエマルジョンでは、tanδのピークが現れる温度を持ってtanδを代表させる場合がある。すなわち、仮に、tanδのピークが50℃であるとすれば、tanδは50℃であるという場合がある。
【0019】
本発明のアクリルエマルジョンでは、アクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃、好ましくは53℃〜85℃、より好ましくは55℃〜80℃の範囲のみに1ピークだけ存在する。アクリルエマルジョンのtanδが、好ましくは53℃〜85℃の範囲のみに1ピークだけ存在するとき、アクリルエマルジョンがより強靱となり、付着性、粘着性、接着性が一段と向上する傾向が見られる。
【0020】
本発明では、メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%により、アクリル単量体100重量%を組成する。以下、メタクリル酸を「MAA」、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを「HEMA」、メタクリル酸4−ヒドロキシブチルを「4HBMA」と略記することがある。
【0021】
アクリル単量体100重量%中、MAAの使用量は0〜3重量%、好ましくは0〜2重量%、より好ましくは0.2〜1.5重量%である。MAAは任意成分であり、その使用量が3重量%を超える場合には、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が悪くなり、貯蔵経時で粘度上昇を起こす。
【0022】
アクリル単量体100重量%中、HEMAおよび/または4HBMAの使用量は3〜20重量%、好ましくは3〜16重量%、より好ましくは5〜16重量%である。なおHEMAおよび4HBMAを共に使用する場合、その合計量を上述した範囲内にする。HEMAおよび/または4HBMAの使用量が3重量%未満の場合には、アクリルエマルジョンの凝集力が不足し、接着性、付着性、粘着性が低下する。またHEMAおよび/または4HBMAの使用量が、20重量%を超える場合には、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が悪化し、貯蔵経時で粘度上昇、エマルジョン粒子径の肥大化を起こしやすくなる。
【0023】
本発明では、接着性、付着性、粘着性の観点から、HEMAの使用が推奨される。最も好ましくは、アクリル単量体100重量%中、HEMAが8〜12重量%使用されるのが推奨される。HEMAを8〜12重量%使用することにより、アクリルエマルジョンの凝集力が適切となり、粘度が制御されて、被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が向上し、接着性が一段と良好となる。
【0024】
アクリル単量体として、アルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステルを含む。このようなメタクリル酸アルキルエステルとして、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルへキシルなどが例示される。これらのメタクリル酸アルキルエステルは単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0025】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基が直鎖状であり、かつアルキル基の炭素原子数が1〜4個のものが好ましい。例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチルなどが好ましい。このようなメタクリル酸アルキルエステルが使用されるとき、アクリルエマルジョンの凝集エネルギーが大きくなり、被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が向上して接着性、付着性、粘着性が向上する傾向が見られる。
【0026】
アクリル単量体100重量%中、アルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステルの使用量は、77〜97重量%、好ましくは82〜97重量%、より好ましくは82.5〜94.8重量%である。メタクリル酸アルキルエステルの使用量が77重量%未満の場合には、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が悪化し、貯蔵経時で粘度上昇を起こす。またメタクリル酸アルキルエステルの使用量が97重量%を超える場合には、アクリルエマルジョンの凝集エネルギーが不足し、接着性が悪化する。
【0027】
本発明では、使用する全てのアクリル単量体は、メタクリレート(CH2=C(CH3)−C(O)O−)であるのが好ましい。全てのアクリル単量体がメタクリレートの場合、ポリエチレン、ABS、ポリカーボネート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ビニル樹脂などの有機高分子材料、アルミニウム、鉄、チタン合金などの金属、ガラス、モルタルなどの無機材料などの被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が良好となって接着性、付着性、粘着性が向上する傾向が見られる。
【0028】
本発明のアクリルエマルジョンの粒子径は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは50〜300nm、さらに好ましくは80〜250nmであるとよい。アクリルエマルジョンの粒子径が50〜500nmであれば、被着体への浸透性、ヌレ性、親和性が良好となる傾向が見られ、接着性が向上する傾向が見られる。なおアクリルエマルジョンの粒子径は、濃厚系粒径アナライザー「FPAR−1000」(大塚電子(株)社の分析器)を使用して25℃で測定した。
【0029】
本発明のアクリルエマルジョンは乳化重合で製造される。このアクリルエマルジョンは、水、好ましくはイオン交換水を分散媒体とし、重合開始剤として例えば過硫酸アンモニウムなどを使用し、乳化重合用乳化剤として例えばドデシルベンゼンスルホン酸ソーダなどの陰イオン性乳化剤を使用し、MAA0〜3重量%、HEMAおよび/または4HBMA3〜20重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体混合物を、重合温度65〜75℃で乳化重合して製造される。
【0030】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、先ず上述したアクリル単量体混合物、水、およびアクリル単量体混合物100重量部に対して、0.8〜5.0重量部の陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩を含むプレエマルジョンを調製する。このプレエマルジョン100重量%中のアクリル単量体濃度は65〜75重量%にする。
【0031】
次いでプレエマルジョンを、2〜5時間で重合系に添加し、重合温度65〜75℃、好ましくは67〜73℃でプレエマルジョン法により乳化重合することにより、アクリルエマルジョンを製造する。重合開始剤として、好ましくは過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、水溶性有機アゾ系重合開始剤などの水溶性重合開始剤が例示される。水溶性有機アゾ系重合開始剤としては、2,2′−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン(和光純薬工業(株)の「VA−061」)などが例示される。
【0032】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、より好ましくは、プレエマルジョンの一部、好ましくは5〜30重量%を先に乳化重合しシードエマルジョンを製造した後、残りのプレエマルジョンを所定時間で添加して乳化重合するのが推奨される。シードエマルジョンを製造することにより、アクリルエマルジョンが低粘度化され、被着体への侵入性、浸透性、ヌレ性が向上し、接着性がよりよくなる傾向が見られる。また、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が向上する傾向が見られる。
【0033】
本発明の製造方法では、陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば炭素数1〜18のアルキル基、フェニル基、炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェニル基
等を例示することができる。置換基を有していてもよい陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩として、「ラテムル PD−104」(ポリオキシレンアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、花王(株)社の製品)、「アクアロン KH−05」、「アクアロン KH−10」(以上、第一工業製薬(株)社の製品)、「アデカリアソーブ SR−1025」(アデカ(株)社の製品)などが例示される。置換基を有していてもよい陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0034】
本発明では、陰イオン性反応性乳化剤は、アクリル単量体100重量部に対して、好ましくは0.8〜5.0重量部、より好ましくは0.8〜3.5重量部、さらに好ましくは1.0〜3.5重量部使用される。陰イオン性反応性乳化剤の使用量が、アクリル単量体100重量部に対して0.8〜5.0重量部であれば、乳化重合安定性が良好で、粒子径が制御可能な、貯蔵安定性に優れたアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0035】
本発明では、プレエマルジョン中のアクリル単量体の濃度は、好ましくはプレエマルジョン100重量%中65〜75重量%、より好ましくは65〜73重量%、さらに好ましくは68〜72重量%であるのが望ましい。プレエマルジョン中のアクリル単量体濃度が65〜75重量%であれば、アクリルエマルジョン製造中にプレエマルジョンの分離が起こり難くなる傾向が見られ、アクリルエマルジョンに凝集物の生成が少なくなる傾向があり、アクリルエマルジョンの粒子径が制御されて安定性の良好なアクリルエマルジョンが製造される傾向が見られる。
【0036】
本発明の製造方法では、プレエマルジョンを重合系へ添加する添加時間は、好ましくは2〜5時間、より好ましくは2〜4.5時間、さらに好ましくは、3〜4.5時間であるとよい。プレエマルジョンの添加時間が2〜5時間であれば、重合温度65〜75℃との相乗効果で、tanδが1ピーク化され易くなる傾向が見られる。
【0037】
乳化重合温度は65〜75℃、好ましくは67〜73℃、より好ましくは67〜72℃、さらに好ましくは68〜72℃である。重合温度が65〜75℃であれば、アクリル単量体の重合速度がより適切に調節され、未反応モノマーが少ないtanδが1ピークのアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0038】
本発明の製造方法では、重合開始剤の使用量は、アクリル単量体の合計量100重量部に対し、好ましくは0.02〜5.0重量部、より好ましくは0.05〜3.5重量部、さらに好ましくは、0.05〜3.0重量部にするとよい。重合開始剤の使用量が、0.02〜5.0重量部であれば、乳化重合時間が長くなることや発熱が大きくなることがなく、安全で経済的にアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0039】
プレエマルジョンは、上述したアクリル単量体混合物、水、陰イオン性反応性乳化剤を混合し、例えば、ホモジナイザーなどの乳化機を使用して高速撹拌することにより製造できる。ここで、乳化重合に使用する水は、乳化重合の安定性、製造したアクリルエマルジョンの貯蔵安定性を向上するため、イオン交換水を使用するのが好ましい。
【0040】
本発明では、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性を向上するために、アクリルエマルジョンに、好ましくは、アンモニア、トリエチルアミン、苛性ソーダなどの塩基性化合物を添加し、pH(25℃)を好ましくは6.5〜9.5に調節することが推奨される。アクリルエマルジョンのpH(25℃)が6.5〜9.5であれば、アクリルエマルジョンが貯蔵経時で分離、沈殿、粘度上昇などを起こすことなく安定化される傾向が見られる。
【0041】
本発明の製造方法では、乳化重合中の酸素の影響を抑制するため、最初に重合装置に仕込む水の溶存酸素濃度は、好ましくは2mg/L以下にするとよい。初期仕込み水中の溶存酸素濃度(mg/L)は、溶存酸素計「OM−51ハンディタイプ」((株)HORIBA社の溶存酸素濃度計)を使用して測定した。
【0042】
アクリルエマルジョンの製造方法の一例を以下に説明する。
【0043】
(重合装置・製造準備)
撹拌機、コンデンサー、温度センサー、アクリル単量体添加装置、窒素ガス吹き込み口がある重合装置に、イオン交換水(以下、初期仕込み水とも言う)を仕込み、窒素ガスのバブリングを行って溶存酸素濃度を2mg/L以下にする。所定の重合温度(65〜75℃の範囲で選択)まで昇温を行う。この後、アクリルエマルジョン製造中は窒素ガスの吹き込みを継続する。
【0044】
(乳化重合)
所定量のアクリル単量体、イオン交換水、陰イオン性反応性乳化剤(アクリル単量体100重量部に対し0.8〜5.0重量部の範囲で選択)を混合し、例えば、ホモミキサーを使用してプレエマルジョン(アクリル単量体濃度は65〜75重量%の範囲で選択)を調製する。
【0045】
重合系が所定の重合温度になれば、重合開始剤を添加し、次いで所定の重合温度を保持しながら、所定時間(2〜5時間の範囲で選択)でプレエマルジョンを添加する。
【0046】
(熟成反応)
プレエマルジョン添加終了後、重合温度を65〜75℃に昇温して、熟成反応を行い、未反応アクリル単量体の削減、消去を行う。所定熟成温度に昇温した後、30〜60分程度熟成反応を行い、必要であれば、重合開始剤、イオン交換水を追添加してさらに熟成反応を継続してもよい。熟成反応温度、熟成反応時間、追添重合開始剤量などの目安は、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性、有害性、安全衛生の観点から、好ましくは、未反応のアクリル単量体が1000ppm以下となるよう設定するのが望ましい。
【0047】
(後工程)
撹拌しながら40℃以下に冷却し、必要であれば、消泡剤を添加する。好ましくは、アンモニア水、トリエチルアミンなどの塩基性化合物を添加して、pHを好ましくは6.5.〜9.5(25℃)に調節してアクリルエマルジョンを製造する。
【0048】
本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、好ましくは、プレエマルジョンの2〜30重量%を重合系に先仕込みし(以下、プレチャージとも言う)、重合温度65〜75℃で、好ましくは10〜120分間プレチャージしたプレエマルジョンの乳化重合を行いシードエマルジョンを製造した後、残りのプレエマルジョン70〜98重量%を2〜5時間、好ましくは3〜5時間で添加し、アクリルエマルジョンを乳化重合で製造するのが推奨される。
【0049】
このようなシードエマルジョンを製造する工程を経由することで、乳化重合安定性が改善され、乳化重合中の凝集物の生成、皮張りが解消される傾向が見られる。シードエマルジョンを製造する工程を経由することで、アクリルエマルジョンが低粘度化される傾向が見られ、アクリルエマルジョンのハンドリング性が大きく改善される。またシードエマルジョンを製造する工程を経由することで、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が改善される。アクリルエマルジョンのpH(25℃)が2〜4程度の低いままでも、貯蔵経時でアクリルエマルジョンが粘度上昇することがなく、粒子径が肥大化することがなく、貯蔵安定性が良好になる傾向が見られる。
【0050】
シードエマルジョンを製造する工程の条件は、プレチャージの量がプレエマルジョンの好ましくは2〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%にするとよい。プレチャージの量が2〜30重量%であれば、アクリルエマルジョンの乳化重合安定性が確保され、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が良好となる傾向が見られる。また、製造スケールに関わりなく設計通りの粒子径を有するアクリルエマルジョンが製造できる傾向が見られる。
【0051】
シードエマルジョンの製造条件は、重合温度65〜75℃で、好ましくは10〜120分間、乳化重合してシードエマルジョンを製造するのが推奨される。プレチャージしたプレエマルジョンの乳化重合時間は、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜120分間、さらに好ましくは、30〜60分間であるのが望ましい。本発明のアクリルエマルジョンの製造方法では、プレチャージしたプレエマルジョンの乳化重合時間が10〜120分間であれば、シードエマルジョンの重合率が必要十分なレベルまで高くなり、乳化重合安定性が向上し、アクリルエマルジョンの貯蔵安定性が向上する傾向が見られる。
【0052】
本発明のアクリルエマルジョンは、アクリル単量体として、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマー0.5〜10重量%をさらに使用することができる。アクリルマクロモノマーとしては、例えばポリメタクリル酸メチルマクロモノマー、ポリスチレンマクロモノマー、ポリスチレン/アクリロニトリルマクロモノマーなどが例示される。これらのアクリルマクロモノマーは、単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。なかでもポリメタクリル酸メチルマクロモノマーが好ましく、アクリルエマルジョンの凝集力が向上し、硬さや強靱性、耐熱性を悪化させることなく種々被着体への接着性が向上する傾向が見られる。
【0053】
上市されているアクリルマクロモノマーとして、例えば「アロンマクロマーAA−6」、「アロンマクロマーAS−6」、「アロンマクロマーAN−6」、「アロンマクロマーAB−6」(以上、東亞合成(株)社の製品)などが例示される。
【0054】
本発明では、分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマーが使用されることで、種々素材、被着体へのアクリルエマルジョンの浸透性、侵入性、ヌレ性が一段と改善され、向上するだけでなく、被着体表面にアクリルエマルジョンが均一に塗布、展開される傾向が見られ、接着性、付着性、粘着性が一段と向上する傾向が見られる。
【0055】
分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマーの使用量は、アクリル単量体100重量%中に、好ましくは、0.5〜10重量%、より好ましくは、1〜8重量%、さらに好ましくは、3〜8重量%使用されるのが望ましい。分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有するアクリルマクロモノマーの使用量が0.5〜10重量%であれば、被着体表面にアクリルエマルジョンが均一に塗布、展開される傾向が見られ、接着性、付着性、粘着性が一段と向上する傾向が見られる。
【0056】
以下に実施例で本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0057】
以下に実施例で本発明の詳細を説明する。なお、以下の実施例では、評価方法、測定方法等を次の通りとした。また、特に断りがない限り、組成比は重量%を表すものとする。
1)固形分(%)(以下、加熱残分とも言う)
JIS K 5407:1997にしたがって加熱残分を測定した。なお、測定は14
0℃で60分間加熱乾燥し、行った。
【0058】
2)pH(25℃)
pHメーターを使用し、25℃で測定した。
3)粒子径(nm)
濃厚系粒径アナライザー「FPAR−1000」(大塚電子(株)社の分析器)を使用して25℃で測定した。
【0059】
4)貯蔵安定性
アクリルエマルジョンを250mLマヨネーズ瓶に200mLとり、23℃1ヶ月静置後の粘度上昇率、粒子径変化率を評価した。
【0060】
粘度上昇率が20%以内のものは合格(○)、それ以上のものは不合格(×)とし変化率を記載した。なお、粘度は「VISCOMETER TVB−10」(TOKI SANGYO(株)の粘度測定装置)を使用し、25℃で測定した。
【0061】
粒子径変化率は、粒子径が変化しないものは合格(○)、粒子径が変化するものは不合格(×)とし変化率を記載した。なお、粒子径は、濃厚系粒径アナライザー「FPAR−1000」(大塚電子(株)社の分析器)を使用して25℃で測定した。
【0062】
5)溶存酸素濃度(mg/L)
初期仕込み水中の溶存酸素濃度(mg/L)を、溶存酸素計「OM−51ハンディタイプ」((株)HORIBA社の溶存酸素濃度計)を使用して測定した。
【0063】
6)動的粘弾性試験(tanδ、ヤング率、損失弾性率の測定)
アクリルエマルジョンの動的粘弾性試験は(株)ユービーエム社製の動的粘弾性測定装置「Reogel E4000」を使用し、室温〜170℃の範囲で測定した。
【0064】
動的粘弾性試験方法は、
測定法:動的粘弾性率測定(正弦波)、
測定モード:温度依存性、
チャック:引張、
波形:正弦波、
加振の種類:ストップ加振、
初期荷重:初期歪み制御(0.02mm)、
条件:周波数1Hz、測定開始温度10℃、ステップ温度1℃、測定終了温度170℃、昇温速度4℃/minとした。
【0065】
動的粘弾性試験用テストピースは、アクリルエマルジョンを引張コイルばね「KS−2056」(KS産業(株)社製)表面に、乾燥膜厚が10〜20μmになるようコーティングを行い、所定条件で乾燥または硬化反応を行った後、コイルバネの両端フック部分を動的粘弾性測定装置チャックに固定し、動的粘弾性試験を行った。
【0066】
上記に記載したコーティングおよび試験用サンプル作製は、アクリルエマルジョンを加熱残分が約15%になるようイオン交換水で希釈し、これにブチルセロソルブを10%添加し、均一に混合し、平坦なガラス板上にアクリルエマルジョン/ブチルセロソルブ液の液滴を作り、この上で引張コイルばね「KS−2056」を転がして行った。1回のコーティングでつける膜厚を1μm程度の薄膜とし、{コーティング→室温乾燥(1〜10分)→60℃乾燥(10分)→}を1工程としてこれを所定膜厚が得られるまで10〜15回繰り返した。コーティングが終了した引張コイルばね「KS−2056」を140℃で30分間、加熱乾燥し動的粘弾性試験用の試験片とした。なお、コーティング膜厚は、アクリル共重合体の比重を1.15として、重量法により算出した。
【0067】
7)異種材料接着性試験(引張剪断強度の測定)
1.使用した材料
・ポリプロピレンシート:ポリプロピレン「J−900GP」(出光石油化学(株)社製)/無水マレイン酸10%変性ポリプロピレン「ユーメックス 1010」(三洋化成(株)社製)(=90/10重量%)を、あらかじめ混合、混練し、加熱プレスを使用して、厚さ1.5mmのシートにした。
・アルミニウム板:厚さ1.5mmのJIS A2017Pアルミニウム板を使用した。
・接着剤:実施例および比較例で得られたアクリルエマルジョンを、それぞれイオン交換水で固形分が15%になるよう希釈し、異種材料間のアクリルエマルジョン接着剤として使用した。
【0068】
2.接着試験用テストピースの作製
アルミニウム板にアクリルエマルジョン接着剤を乾燥膜厚が200μmになるよう塗布した後、140℃で30分間加熱した。
【0069】
アクリルエマルジョンが塗布されている面をポリプロピレンシートに圧着し、200℃で3分間、加熱プレスし、接着試験用テストピースを作製した。
【0070】
3.接着試験
JIS K 6850:1999に準じて接着試験を行い、異種材料間の引張剪断強度を測定した。引張剪断強度が15MPa以上で合格(○)とした。また接着状態の破壊形態が「凝集破壊」「界面破壊」のいずれであるかを観察した。
【0071】
実施例1
撹拌装置、温度センサー、還流冷却器、モノマー滴下口がついた500mL四つ口フラスコにイオン交換水137.4gを仕込み、脱気、窒素ガスのバブリングを数回繰り返し溶存酸素濃度が0.5mg/L以下になるまで脱酸素した後、昇温を開始した。以後の乳化重合工程では、窒素ガスの吹き込みを継続した。
【0072】
メタクリル酸メチル41.0g、メタクリル酸n−ブチル54.0g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5.0gのアクリル単量体混合物100g、「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社製の反応性乳化剤、25%水溶液)8.0g、プレエマルジョン製造用イオン交換水39.7gを混合し、乳化機にかけ10000回転で10分間乳化し、プレエマルジョンを製造した。
【0073】
フラスコ内温度が70℃になった時点で、プレエマルジョンの10wt%(14.8g)をフラスコ内に投入した。フラスコ内温度が重合温度の73℃に回復した時点で、重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.2gを添加し、この後73℃で30分間乳化重合を行い、シードエマルジョンを製造した。
【0074】
プレエマルジョンの残り90wt%(132.9g)を3時間でフラスコ内に滴下し、滴下終了後73℃でさらに30分間重合を行った後、30分で80℃に昇温し、熟成反応を行った。80℃に昇温後、30分後に過硫酸アンモニウム0.020g、イオン交換水0.400gを添加し、この後30分後に、さらに過硫酸アンモニウム0.010g、イオン交換水0.200gを添加し、添加終了後さらに30分間熟成反応を行った。
【0075】
40℃以下になるまで冷却して、「アデカネートB−1016」(アデカ(株)の消泡剤)0.05gを添加し、さらに30分間撹拌、混合し、さらに25%アンモニア水0.47gを添加してpH調節し、実施例1のアクリルエマルジョンAE−1を製造した。
【0076】
アクリルエマルジョンAE−1の固形分は35.2%、粘度は12.0mPa・s、pHは8.5、粒子径は135nmであった。
【0077】
アクリルエマルジョンAE−1の貯蔵安定性を評価したところ、アクリルエマルジョンAE−1は貯蔵経時で増粘、粒子径変化を起こすことなく「〇」、貯蔵安定性が良好「〇」であった。
【0078】
アクリルエマルジョンAE−1の動的粘弾性試験により得られたチャートを図1に示した。図に見られるとおり、アクリルエマルジョンAE−1製造に当たり、陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(「アデカリアソーブSR−1025」)を適正量使用し、乳化重合温度とアクリル単量体添加時間を適切に選択した結果、アクリルエマルジョンAE−1のtanδは50〜100℃の温度範囲にのみ、1ピークだけであった。アクリルエマルジョンAE−1のtanδは62℃、ヤング率は237MPaであった。
【0079】
実施例2〜実施例6
アクリル単量体組成等を表1に示したとおり変える以外は、実施例1と同様にして実施例2〜実施例6のアクリルエマルジョンAE−2、AE−3、AE−4、AE−5、AE−6を製造した。表1中、(1)はフラスコに仕込むイオン交換水の量(重量部)を表し、(2)は重合開始剤の過硫酸アンモニウムの使用量(重量部)を表す。(3)はアクリルエマルジョン製造に使用するアクリル単量体の使用量(重量部)を表し、ここで、「アロンマクロマーAA−6」は東亞合成(株)社製ポリメタクリル酸メチルマクロモノマーである。またアクリル単量体の合計を100重量部とした。(4)はプレエマルジョンを作製する際に使用する陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩の「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社の反応性乳化剤)の使用量(重量部)を表し、(5)はプレエマルジョンを製造するためのイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(6)(7)は熟成反応に使用する重合開始剤の過硫酸アンモニウムとイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(8)はアクリルエマルジョンの泡立ちを抑制する消泡剤である「アデカネートB−1016」(アデカ(株)社の消泡剤)の使用量(重量部)を表す。(9)はアクリルエマルジョンのpHを調整するための25%アンモニア水の使用量(重量部)を表す。(10)は製造したアクリルエマルジョンの合計量(重量部)を表す。(11)はアクリルエマルジョンの製造条件(プレエマルジョン添加時間、重合温度)を表す。(12)はアクリルエマルジョンの動的粘弾性試験結果(tanδ、ヤング率)を表し、(13)はアクリルエマルジョンの特性値を表す。また備考欄にはアクリルエマルジョンに対応した動的粘弾性試験結果のチャート番号を示した。
【0080】
アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6の貯蔵安定性試験結果を表2に示した。アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6は貯蔵経時で増粘、粒子径変化を起こすことなく、貯蔵安定性が良好であった。
【0081】
アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6の動的粘弾性試験により得られたチャートを図2〜図6に示した。図に見られるとおり、アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6製造に当たり、陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(「アデカリアソーブSR−1025」)を適正量使用し、乳化重合温度とアクリル単量体添加時間を適切に選択した結果、アクリルエマルジョンAE−2〜AE−6のtanδは50〜100℃の温度範囲にのみ、1ピークだけであった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
比較例1
撹拌装置、温度センサー、還流冷却器、モノマー滴下口がついた500mL四つ口フラスコにイオン交換水137.4gを仕込み、窒素ガスのバブリングを行った。溶存酸素濃度を測定したところ0.5mg/Lであった。この後、アクリルエマルジョン製造中は、窒素ガスの吹き込みを継続した。
【0085】
メタクリル酸メチル35.0g、メタクリル酸n−ブチル54.0g、メタクリル酸1.0g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10.0gのアクリル単量体混合物100g、「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社製の反応性乳化剤、25%水溶液)8.0g、プレエマルジョン製造用イオン交換水39.7gを混合し、乳化機にかけ10000回転で10分間乳化し、プレエマルジョンを製造した。
【0086】
フラスコ内温度が80℃になった時点で、プレエマルジョンの10wt%(14.8g)をフラスコ内に投入した。フラスコ内温度が80℃に回復した時点で、重合開始剤である過硫酸アンモニウム0.2gを添加し、この後80℃で30分間乳化重合を行った。
【0087】
プレエマルジョンの残り90wt%(132.9g)を2時間でフラスコ内に滴下し、滴下終了後80℃でさらに30分間重合を行った。以後、80℃で熟成反応を継続して行った。プレエマルジョン添加終了30分後に過硫酸アンモニウム0.020g、イオン交換水0.400gを添加し、この後30分後に、さらに過硫酸アンモニウム0.010g、イオン交換水0.200gを添加し、添加終了後さらに30分間重合を行った。
【0088】
40℃以下になるまで冷却して、「アデカネートB−1016」(アデカ(株)の消泡剤)0.05gを添加し、さらに30分間撹拌、混合して、さらにpH調整用の25%アンモニア水0.47gを添加して比較例1のアクリルエマルジョンAE−7を製造した。
アクリルエマルジョンAE−7の固形分は35.2%、粘度は12.5mPa・s、pHは8.6、粒子径は112nmであった。
【0089】
アクリルエマルジョンAE−7の貯蔵安定性を評価したところ、アクリルエマルジョンAE−7は貯蔵経時で増粘、粒子径変化を起こすことなく「〇」、貯蔵安定性が良好「〇」であった。
【0090】
アクリルエマルジョンAE−7の動的粘弾性試験により得られたチャートを図7に示した。アクリルエマルジョンAE−7は、アクリル単量体組成が、メタクリル酸/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル/メタクリル酸メチル/メタクリル酸n−ブチル(=1/10/35/54重量%)と好ましい範囲にあり、乳化重合時の乳化剤に陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(「アデカリアソーブSR−1025」)を使用している。一方で、乳化重合温度が高く、アクリル単量体添加時間が短いため、アクリルエマルジョンAE−7のtanδは57℃と109℃の2カ所に現れた。
【0091】
比較例2〜比較例5
アクリル単量体組成等を表3に示したとおり変える以外は、比較例1と同様にして比較例2〜比較例5のアクリルエマルジョンAE−8〜AE−11を製造した。表3中、(1)はフラスコに仕込むイオン交換水使用量(重量部)表し、(2)は重合開始剤の過硫酸アンモニウムの使用量(重量部)を表す。(3)はアクリルエマルジョンに使用するアクリル単量体の使用量(重量部)を表し、アクリル単量体の合計を100重量部とした。(4)はプレエマルジョンを作製する際に使用する陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩の「アデカリアソーブSR−1025」(アデカ(株)社の反応性乳化剤)の使用量(重量部)を表し、(5)はプレエマルジョンを製造するためのイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(6)(7)は熟成反応に使用する重合開始剤の過硫酸アンモニウムとイオン交換水の使用量(重量部)を表す。(8)はアクリルエマルジョンの泡立ちを抑制する消泡剤である「アデカネートB−1016」(アデカ(株)社の消泡剤)の使用量(重量部)を表す。(9)はアクリルエマルジョンのpHを調節する25%アンモニア水の使用量(重量部)を表す。(10)は製造したアクリルエマルジョンの合計量(重量部)を表す。(11)はアクリルエマルジョン製造条件(プレエマルジョン添加時間、重合温度)を表し、(12)はアクリルエマルジョンの動的粘弾性試験結果(tanδ、ヤング率)を表し、(13)はアクリルエマルジョンの特性値を表す。また備考欄にはアクリルエマルジョンに対応した動的粘弾性試験結果のチャート番号を示した。
【0092】
アクリルエマルジョンAE−8〜AE−11の貯蔵安定性試験結果を表4に示した。アクリルエマルジョンAE−8は貯蔵安定性が良好で、貯蔵経時で粘度上昇、粒子径の変化を起こすことがなかった。アクリルエマルジョンAE−9、AE−10、AE−11は、貯蔵安定性が悪く、貯蔵経時で著しい粘度上昇、粒子径の肥大化を起こした。特に、アクリルエマルジョンAE−10、AE−11は貯蔵経時でゲル状になった。
【0093】
アクリルエマルジョンAE−8〜AE−11の動的粘弾性試験により得られたチャートを図8〜図11に示した。図に見られるとおり、アクリルエマルジョンAE−8〜AE−11は、tanδのピークが2個以上複数観察された。
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
比較例1のアクリルエマルジョンAE−7はアクリル単量体組成は好ましい範囲にあるものの乳化重合条件が適性でないためtanδが2個以上複数となり、比較例2のアクリルエマルジョンAE−8はアクリル単量体組成も乳化重合条件も適性でないためtanδが2個以上複数となり、比較例3〜比較例5のアクリルエマルジョンAE−9〜AE−11は乳化重合条件は適性範囲にあるがアクリル単量体組成が好ましい範囲をはずれているためtanδが2個以上複数となった。
【0097】
アクリルエマルジョンの試験結果
実施例、比較例で製造したアクリル共重合体をイオン交換水で加熱残分が15%になるよう希釈した。このアクリルエマルジョンを性質の異なる異種材料であるポリプロピレン/アルミニウム合金の接着剤として使用し、上述した方法により引張剪断強度を求めた。表5に実施例1〜6のアクリルエマルジョンAE−1〜AE−6を使用した引張剪断強度を、表6に比較例1〜5のアクリルエマルジョンAE−7〜AE−11を使用した引張剪断強度を示した。
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
表5に見られるとおり、tanδが50〜100℃の範囲のみに1ピークだけの実施例のアクリルエマルジョンAE−1〜AE−6は、引張剪断強度は構造用接着剤の目安である15MPaを上回り良好な結果であった。アクリルマクロモノマーが使用されているアクリルエマルジョンAE−6では、一段と良好な引張剪断強度が発揮された。
【0101】
表6に見られるとおり、比較例のアクリルエマルジョンAE−7〜AE−11は、引張剪断強度が低い値となった。また、tanδが高温側にもあるためヤング率が大きくなりアクリルエマルジョンが脆くなって接着面は界面破壊となった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在するアクリルエマルジョン。
【請求項2】
前記tanδのピークが53℃〜85℃の範囲のみに1ピークだけ存在する請求項1に記載のアクリルエマルジョン。
【請求項3】
メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体、水、前記アクリル単量体100重量部に対し0.8〜5.0重量部の陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩を含む、前記アクリル単量体濃度が65〜75重量%のプレエマルジョンを調製し、このプレエマルジョンを重合温度65〜75℃で乳化重合する請求項1または2に記載のアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項4】
前記ポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩が置換基を有する請求項3に記載のアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項1】
メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体が乳化重合したアクリルエマルジョンであり、このアクリルエマルジョンのtanδのピークが50℃〜100℃の範囲のみに1ピークだけ存在するアクリルエマルジョン。
【請求項2】
前記tanδのピークが53℃〜85℃の範囲のみに1ピークだけ存在する請求項1に記載のアクリルエマルジョン。
【請求項3】
メタクリル酸0〜3重量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび/またはメタクリル酸4−ヒドロキシブチル3〜20重量%、およびアルキル基の炭素原子数が1〜8個のメタクリル酸アルキルエステル77〜97重量%を含む合計で100重量%のアクリル単量体、水、前記アクリル単量体100重量部に対し0.8〜5.0重量部の陰イオン性反応性乳化剤のポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩を含む、前記アクリル単量体濃度が65〜75重量%のプレエマルジョンを調製し、このプレエマルジョンを重合温度65〜75℃で乳化重合する請求項1または2に記載のアクリルエマルジョンの製造方法。
【請求項4】
前記ポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩が置換基を有する請求項3に記載のアクリルエマルジョンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−219614(P2011−219614A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89963(P2010−89963)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】
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