説明

アクリル化ポリアミノアミド(II)

本発明は、末端アミン基含有ポリアミノアミド(A)とポリオールエステルアクリレート(B)とのマイケル付加により得られる放射線硬化性アクリル化ポリアミノアミドに関する。ポリオールエステルアクリレート(B)中のアクリレート基とポリアミノアミド(A)中のアミノ水素基のモル比は、少なくとも1:1である。本発明は、ポリアミノアミド(A)が115を超えるアミン価を有することを特徴とする。前記アクリル化ポリアミノアミドは、被覆組成物を製造するための放射線硬化性化合物として適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアクリル化ポリアミノアミド、およびその放射線硬化性被覆組成物への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル化アミンは、被覆目的の放射線硬化性化合物として以前から提案されていた。US 3,963,771(Union Carbide, 1976年)は、アクリレートエステルと第一級または第二級有機アミンとの反応生成物を開示している。
【0003】
ポリエステル(メタ)アクリレートと第一級または第二級アミノ基を含有するポリアミンとに基づく被覆組成物(2つの化合物は実質的に化学量論的に互いに反応する)も、EP 231 442 A2(PCI Polymerchemie, 1986年)において20年以上前に提案された。
【0004】
EP 0 002 801 B1は、少なくとも2つの必須成分、即ち(1)ポリマー鎖中の単位に結合する複数の第一級または第二級アミン基を含有するビニル付加ポリマー
および(2)少なくとも2個のアクリルオキシ基を含有する物質からなるバインダーを開示している(Rohm & Haas, 1978年)。
【0005】
US 6,706,821は、アミン末端ポリオレフィンと多官能性アクリレートとのマイケル付加生成物を記載している。
【0006】
DE 103 04 631 A1は、ネガティブ型の感光性樹脂組成物を記載している。該組成物は、特定のポリアミンと(二官能性)ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートとのマイケル付加生成物である。
【0007】
EP 0 002 457 B1(Rohm & Haas, 1978年)は、2つの単位、即ち(1)少なくとも2.5の官能価を有するアクリレートエステルモノマーおよび(2)1,000以下の分子量および100未満のNH当量を有する脂肪族アミンモノマーを含んでなる固体ポリアミノエステルポリマーであって、アクリレート:NH当量比が0.5〜2の範囲であるポリアミノエステルポリマーを記載している。
【0008】
US 4,975,498(Union Camp)は、熱硬化性アミノアミドアクリレートポリマーを記載している。
【0009】
EP 381 354 B1(Union Camp)は、1超〜100未満のアミン価を有する熱可塑性アミノアミドポリマーと複数のアクリレートエステル基を含有するポリオールエステル(ポリオールエステルアクリレート)とのマイケル付加生成物である放射線硬化性アクリレート変性アミノアミド樹脂を用いた結合方法を記載している。ポリオールエステルの最初のアクリレート基の、アミノアミドポリマーの最初のアミノ水素基に対する割合は、0.5超〜8未満である。同文献において、マイケル付加は、NH基のC=C基への付加であると理解されている。EP 381 354 B1の明細書から、前記したアクリレート:NH比がプロダクト・バイ・プロセス定義として理解されることが意図されていることは明らかである(特に、第3頁第2〜8行、第3頁第53〜56行および第4頁第15〜31行を参照)。
【0010】
同一出願人による後のEP 505 031 A2によれば、マイケル付加は、アミノアミドポリマーおよびNH含有反応性希釈剤の混合物とポリオールエステルアクリレートとの反応によって実施される。WO 93/15151(Union Camp)によれば、マイケル付加は水性分散体中で実施される。
【0011】
後の出願であるWO 01/53376 A1(Arizona Chemical Comp.)は、特定の樹脂混合物と多官能性アクリレートエステル(例えばTMPトリアクリレート)とのマイケル付加により得られる、極めて特殊な構造を有するアミノアミドアクリレートポリマーを記載している。
【0012】
US 6,809,127 B2(Cognis Corp.)は、アミン末端ポリアミノアミドとモノアクリレートまたはポリアクリレートとの反応生成物を含有する液状放射線硬化性組成物を記載している。
【0013】
WO 06/067639 A2(Sun Chemical)は、放射線硬化性アクリレート変性アミノアミド樹脂を記載している。該樹脂は、重合不飽和脂肪酸(例えば二量体脂肪酸)に由来する熱可塑性アミノアミドポリマーと、一分子あたり少なくとも3個のアクリレート基を含有するポリオールエステルとのマイケル付加生成物である。対象の文献によれば、アミノアミドポリマーは40〜60のアミン価を有さなければならず、ポリオールエステル中の最初のアクリレート基とアミノアミドポリマー中の最初のアミノ基の比は少なくとも4:1でなければならない。
【0014】
WO 07/030643 A1(Sun Chemical)は、ポリオールエステルアクリレートとポリアミノアミドとのマイケル付加生成物を印刷用インクに使用しており、該ポリアミノアミドはポリアミンと酸成分との反応生成物であり、該酸成分は2つの必須成分、即ち(a)重合不飽和脂肪酸(例えば二量体脂肪酸)および(b)2〜22個の炭素原子を有する脂肪酸を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US 3,963,771
【特許文献2】EP 231 442 A2
【特許文献3】EP 0 002 801 B1
【特許文献4】US 6,706,821
【特許文献5】DE 103 04 631 A1
【特許文献6】EP 0 002 457 B1
【特許文献7】US 4,975,498
【特許文献8】EP 381 354 B1
【特許文献9】EP 505 031 A2
【特許文献10】WO 93/15151
【特許文献11】WO 01/53376 A1
【特許文献12】US 6,809,127 B2
【特許文献13】WO 06/067639 A2
【特許文献14】WO 07/030643 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記文献が示すように、放射線硬化性アクリル化ポリアミノアミドは、一方ではある程度の伝統を有し、他方では改良に対する絶えることのない要求が存在する。これに関して、本発明が解決しようとする課題は、新規な放射線硬化性アクリル化ポリアミノアミドを提供することである。本発明のポリアミノアミドは、一般に被覆目的に、特に印刷用インク、好ましくはオフセット印刷用インクに適している。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、末端アミン基含有ポリアミノアミド(A)とポリオールエステルアクリレート(B)とのマイケル付加により得られる放射線硬化性アクリル化ポリアミノアミドであって、ポリオールエステルアクリレート(B)中のアクリレート基とポリアミノアミド(A)中のアミノ水素基のモル比が少なくとも1:1であり、ポリアミノアミド(A)が115を超えるアミン価を有することを特徴とするアクリル化ポリアミノアミドに関する。本発明では、用語「アクリレート基」がアクリレート基とメタクリレート基の両方を含むことが意図されており、用語の単純化のために「アクリレート基」を使用する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前述した従来技術と同様、マイケル付加は、アミノ基の(典型的にはエステルの)活性化C=C二重結合への付加反応であると理解される。形式上、これは、以下の反応式によって表すことができる。
NH + C=CC(O) → NC−CHC(O)
このような反応は一般に、穏やかに加熱すると自発的に起こる。しかしながら、マイケル付加を促進するために、触媒を使用することもできる。
【0019】
厳密に言えば、このタイプの反応は「マイケル−類似(Michael-analogous)」反応と記載したほうがよいが、前記特許文献において使用されているより手近な用語「マイケル付加」を本明細書においても使用する。これは、如何なる場合も、先に定義されているこの用語が何を意味するのか、当業者にとって明らかだからである。
【0020】
前述したように、マイケル付加による本発明の放射線硬化性アクリル化ポリアミノアミドの製造に、化合物(A)および(B)を使用する。これらの化合物を、以下でより詳細に記載する。
【0021】
化合物(A)
化合物(A)は、末端アミン基含有ポリアミノアミドである。末端アミン基は、第一級または第二級、即ちNH基またはNH基であってよい。他の点では、ポリアミノアミド(A)が115を超えるアミン価を有さなければならないという前記条件は別として、ポリアミノアミドの性質について基本的に制限は存在しない。
【0022】
ポリアミノアミド(A)のアミン価は、HCl滴定によって測定される。好ましい態様では、アミン価は125より大きく、特に130〜200の範囲である。
【0023】
使用されるポリアミノアミド(A)は、好ましくは、
・一分子あたり2〜54個の炭素原子および一分子あたり2個のCOOH基を有するカルボン酸(即ちジカルボン酸)と
・2〜36個の炭素原子を有するジアミン
との反応により得られる化合物である。
【0024】
1つの態様では、ジカルボン酸は、二量体脂肪酸、2〜22個の炭素原子を有する脂肪族α,ω−ジカルボン酸および8〜22個の炭素原子を有する二塩基性芳香族カルボン酸からなる群から選択される。
【0025】
好ましくは二量体脂肪酸をジカルボン酸として使用する。当業者に知られているように、二量体脂肪酸は、不飽和カルボン酸(一般に、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸などのような脂肪酸)のオリゴマー化により得られるカルボン酸である。オリゴマー化は通常、触媒(例えばクレイ)の存在下、高温で実施される。得られた物質(工業的品質の二量体脂肪酸)は、二量化生成物を主に含む混合物である。しかしながら、生成混合物は、少量のモノマー(二量体脂肪酸の粗混合物中のモノマーの全ては、当業者に単量体脂肪酸と称される。)およびより高級のオリゴマー(特にいわゆる三量体脂肪酸)も含有する。二量体脂肪酸は、市販品であり、様々な組成および品質で(例えば、本出願人の製品であるEmpol(登録商標)の名称で)入手可能である。
【0026】
1つの態様では、使用されるジカルボン酸は、2〜22個の炭素原子を有するα,ω−ジカルボン酸、特にこのタイプの飽和ジカルボン酸である。その例は、以下を包含する:エタンジカルボン酸(シュウ酸)、プロパンジカルボン酸(マロン酸)、ブタンジカルボン酸(コハク酸)、ペンタンジカルボン酸(グルタル酸)、ヘキサンジカルボン酸(アジピン酸)、ヘプタンジカルボン酸(ピメリン酸)、オクタンジカルボン酸(スベリン酸)、ノナンジカルボン酸(アゼライン酸)、デカンジカルボン酸(セバシン酸)、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸(ブラシル酸)、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸(タプス酸)、ヘプタデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ノナデカンジカルボン酸、エイコサンジカルボン酸。
【0027】
別の態様では、使用されるジカルボン酸は、8〜22個の炭素原子を有する二塩基性芳香族カルボン酸、例えばイソフタル酸である。
【0028】
別の態様は、様々なジカルボン酸の混合物、例えば2〜22個の炭素原子を有するα,ω−ジカルボン酸の群からの少なくとも1種の酸と混合した二量体脂肪酸を使用することを特徴とする。
【0029】
既に記載したように、ポリアミノアミド(A)のもとになるジアミンは、特に、2〜36個の炭素原子を有するジアミンの群から選択される。適当なジアミンの例は、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロパン、ピペラジン、アミノエチルピペラジン、4,4’−ジピペリジン、トルエンジアミン、メチレンジアニリン、キシレンジアミン、メチルペンタメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ポリエーテルジアミン、および二量体酸から調製されたジアミンである。ジアミンは、特に、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロパン、ピペラジンおよびアミノエチルピペラジンからなる群から選択される。ピペラジンおよびアミノエチルピペラジンが最も好ましい。
【0030】
ジカルボン酸およびジアミンからの化合物(A)の調製において、ジカルボン酸とジアミンとの反応を少量のC2〜22モノカルボン酸の存在下で実施することが望ましい場合もある。この場合、モノカルボン酸を、ジ以上のカルボン酸(ex dicarboxylic acid)およびモノカルボン酸の酸基の総数に基づいて1〜25%の酸基の量で使用する。
【0031】
化合物(B)
化合物(B)は、ポリオールエステルアクリレートである。化合物(B)のアクリレート官能価が、(A)と(B)とのマイケル付加で生じた化合物が放射線硬化に利用できる遊離C=C二重結合をなお含有することを確実にするのに十分大きいことが重要である。用語「放射線硬化性」はこのようなC=C二重結合が存在しなければならないことを含意するので、該化合物を用語「放射線硬化性アクリル化ポリアミノアミド」と表す。
【0032】
本明細書において、用語「アクリレート基」がアクリレート基とメタクリレート基の両方を包含することは明示されている。加えて、用語「アクリル酸」も用語「メタクリル酸」を包含する。
【0033】
ポリオールエステルアクリレートは、一分子あたり少なくとも2個のOH基を含有するポリオールとアクリル酸および/またはメタクリル酸とのエステル化により調製され得る。エステルは、好ましくは完全エステルである。即ち、ポリオールのOH基の全てが、アクリル酸またはメタクリル酸でエステル化される。ポリオールに代えて、そのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加生成物を使用することもできるということも明示する。
【0034】
適当なポリオールエステルアクリレート(B)の例は、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、グルコーストリ(メタ)アクリレート、グルコーステトラ(メタ)アクリレート、グルコーステトラ(メタ)アクリレート、グルコースペンタ(メタ)アクリレート、並びに前記化合物のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加生成物である。前記知見と同様、使用されるスペリングは、化合物(B)がアクリレート基のみ、メタクリレート基のみ、またはアクリレート基とメタクリレート基の両方を含有し得る化合物の全てであることを意味する。グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、並びにそれらのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシド付加生成物が、最も好ましい化合物(B)である。
【0035】
本発明はまた、架橋性化合物および光開始剤を含有する放射線硬化性被覆組成物に関し、該架橋性化合物は少なくとも1種のアクリル化ポリアミノアミドを含有する。先の知見の全てが、該アクリル化ポリアミノアミドにあてはまる。好ましい態様では、該組成物は、顔料を更に含有し、従って印刷用インクである、組成物である。対応する組成物は、好ましくはオフセット印刷に使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端アミン基含有ポリアミノアミド(A)とポリオールエステルアクリレート(B)とのマイケル付加により得られる放射線硬化性アクリル化ポリアミノアミドであって、ポリオールエステルアクリレート(B)中のアクリレート基とポリアミノアミド(A)中のアミノ水素基のモル比が少なくとも1:1であり、ポリアミノアミド(A)が115を超えるアミン価を有することを特徴とするアクリル化ポリアミノアミド。
【請求項2】
使用されるポリアミノアミド(A)がジカルボン酸とジアミンとの反応により得られる化合物であり、ジカルボン酸が二量体脂肪酸、2〜22個の炭素原子を有するα,ω−ジカルボン酸および8〜22個の炭素原子を有する芳香族ジカルボン酸からなる群から選択され、ジアミンが2〜36個の炭素原子を有するジアミンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のアクリル化ポリアミノアミド。
【請求項3】
ポリアミノアミド(A)が125を超えるアミン価を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のアクリル化ポリアミノアミド。
【請求項4】
ポリアミノアミド(A)が130〜200のアミン価を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル化ポリアミノアミド。
【請求項5】
ポリアミノアミド(A)のもとになるジアミンが、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロパン、ピペラジンおよびアミノエチルピペラジンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル化ポリアミノアミド。
【請求項6】
ポリアミノアミド(A)のもとになるジカルボン酸が二量体脂肪酸からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル化ポリアミノアミド。
【請求項7】
架橋性化合物および光開始剤を含有する放射線硬化性被覆組成物であって、架橋性化合物が請求項1〜6のいずれかに記載の少なくとも1種のアクリル化ポリアミノアミドを含有することを特徴とする組成物。
【請求項8】
顔料を更に含有し、印刷用インクであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物のオフセット印刷への使用。

【公表番号】特表2011−500904(P2011−500904A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529265(P2010−529265)
【出願日】平成20年10月4日(2008.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008405
【国際公開番号】WO2009/049781
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】