説明

アクリル系樹脂プレコート金属板

【課題】防汚性と絞り加工性に優れたアクリル系樹脂プレコート金属板を提供する。
【解決手段】金属板の上に化成皮膜を形成し、その上に樹脂皮膜を形成するプレコート金属板において、少なくとも外表面側はアクリル系樹脂を基材としかつコロイダルシリカ2、ワックス3を含有するシリカ含有アクリル系樹脂皮膜1であり、ワックス3の含有量は0.5〜10%であり、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、直径dが1μm以上15μm以下であって、深さfがd/4以上d/2以下の弓形のワックス粒子が1個以上30個以下であり、ゲル分率が90%以上であることを特徴とするアクリル系樹脂プレコート金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚性と絞り加工性に優れたアクリル系樹脂プレコート金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料は建築材料や土木構造物等に多く用いられている。これらの用途では、特に長期間の使用に耐える耐久性が求められており、表面処理を施し、金属材料の耐食性や耐候性を高めて、美観を維持する工夫がなされてきた。
近年、特に土木構造物に自動車排気ガス等による汚れが目立つようになった。その為、防汚性、すなわち、汚れにくく、汚れを除去しやすい性能を有する材料の開発が望まれている。このような材料として、高耐久性低汚染型塗料や光触媒塗料等が開発され、ポストコート法で実用化されている。
金属材料を加工した後に塗装するポストコート法と比較して、加工前に塗装するプレコート法では、工程短縮によるトータルコストの低減が可能である。その為、建築材料や土木構造物等の用途において、プレコート金属板が採用されており、防汚性を有するプレコート金属板が注目されている。そのようなプレコート金属板として、特許文献1にシリカ含有アクリル系樹脂プレコート金属板が開示されている。この樹脂皮膜は硬い為に汚れ物質が侵入しにくく、樹脂皮膜表面が親水性を有しているために汚れ物質を容易に洗浄することができる。
プレコート金属板では、金属板の塑性変形に樹脂皮膜の変形が追随できる必要があり、加工性は重要である。サイディング構造を有する浴室用の天井パネルや外装建材において、プレス、エンボス、ロールフォーミング等による加工を施す場合があり、凹凸の間隔が狭いような加工条件にも対応できるプレコート金属板として、特許文献2に防汚性プレコートアルミニウム板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−082516号公報
【特許文献2】特開2007−196403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防汚性を有するプレコート金属板には、益々、加工性の向上が望まれており、絞り加工にも耐え得ることが要求される場合がある。そのような場合において、樹脂皮膜表面粗度を大きくし、凹部に潤滑油を溜まりやすくし、加工時における潤滑性を確保することも考えられる。しかし、このような場合には、凹部に汚れ物質が堆積しやすくなり、防汚性が劣るという問題が残った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は請求項1に記載の通り、金属板の上に化成皮膜を形成し、その上に樹脂皮膜を形成するプレコート金属板において、少なくとも外表面側はアクリル系樹脂を基材としかつコロイダルシリカ、ワックスを含有するシリカ含有アクリル系樹脂皮膜であり、ワックスの含有量は0.5〜10%であり、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、直径dが1μm以上15μm以下であって、深さfがd/4以上d/2以下の弓形のワックス粒子が1個以上30個以下であり、ゲル分率が90%以上であることを特徴とするアクリル系樹脂プレコート金属板である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のシリカ含有アクリル系樹脂皮膜は特定の形状を有するワックス粒子が特定の分布状態である為に、優れた防汚性と絞り加工性を兼備することができる。本発明のシリカ含有アクリル系樹脂皮膜において、図1に示す通り、弓形のワックス粒子が存在する。このワックス粒子が一定の大きさを超えると、汚染物質が深さ方向に拡散し、除去できなくなる。本発明では、弓形のワックス粒子は特定の大きさである為に、汚染物質が深さ方向に拡散しにくく、除去し易いために、防汚性が優れている。又、弓形のワックス粒子の個数が特定の範囲であるために、優れた防汚性を維持しつつ、潤滑性が向上する為に、絞り加工性が優れている。又、本発明のシリカ含有アクリル系樹脂皮膜は特定のゲル分率を有する為に、緻密な架橋構造を有し、汚染物質は樹脂皮膜表面に侵入しにくい。それ故、樹脂皮膜表面のRaが0.15μmを超えて、汚染物質が樹脂皮膜表面の凹部に溜まり易くなっても、汚染物質が樹脂皮膜表面に侵入しにくい為に、汚染物質を容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は本発明のアクリル系樹脂プレコート金属板のシリカ含有アクリル系樹脂皮膜断面における弓形のワックス粒子の状態をあらわすイメージ図
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
A.金属板
本発明において用いる金属板は、建材等を形成するのに十分な強度を有し、かつ十分な加工性を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、1000系、3000系または5000系アルミニウム合金や溶融亜鉛めっき鋼、溶融亜鉛−アルミニウム系合金鋼、電気亜鉛めっき鋼、亜鉛アルミニウムめっき鋼、ステンレス鋼が挙げられる。
【0009】
B.化成皮膜
化成皮膜は、金属板の表面と樹脂皮膜膜との間に介在して両者の密着性を高めるものであれば特に限定されるものではない。例えば、アルミニウム合金には、安価で浴液管理が容易なリン酸クロメート処理液で形成される化成皮膜や、処理液成分の変化が無く水洗を必要としない塗布型ジルコニウム処理で形成される化成皮膜を用いることができる。このような化成処理は、アルミニウム合金板に所定の化成処理液をスプレーしたり、合金板を処理液中に所定の温度で所定時間浸漬したりすることによって施される。溶融亜鉛めっき鋼や溶融亜鉛−アルミニウム系合金鋼には、クロメート処理の他にリン酸塩処理液で形成される化成皮膜も用いることができる。なお、化成処理を行なう前に、金属板表面の汚れを除去したり表面性状を調整したりするために、金属板を、硫酸、硝酸、リン酸等による酸処理(洗浄)、或いは、カセイソーダ、リン酸ソーダ、ケイ酸ソーダ等によるアルカリ処理(洗浄)を行なうことが望ましい。このような洗浄による表面処理も、金属板に所定の表面処理液をスプレーしたり、金属板を処理液中に所定温度で所定時間浸漬したりすることによって施される。
【0010】
C.樹脂皮膜
前記化成皮膜上に樹脂皮膜が形成される。
C−1.少なくとも外表面側はアクリル系樹脂を基材としかつコロイダルシリカ、ワックスを含有するシリカ含有アクリル系樹脂皮膜である。
本発明の樹脂皮膜において、少なくとも外表面側はアクリル系樹脂を基材としかつコロイダルシリカ、ワックスを含有するシリカ含有アクリル系樹脂皮膜である。
アクリル系樹脂は特に耐候性に優れており、総合的に塗膜性能が良好である。又、比較的に安価である為、一般的に塗料に使用されることが多い。さらに塗膜表面の光沢を比較的高くすることができ、比較的硬い塗膜を形成させることができる。アクリル系樹脂はアクリル酸及びメタクリル酸等とそれらのエステルの共重合物である。このようなアクリル系樹脂に、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が少量配合されていても特に支障はない。
コロイダルシリカを塗料に添加することにより塗布直後は、樹脂皮膜内に均等に分散しているが、焼付乾燥時に樹脂皮膜表面に濃化する。この樹脂皮膜を大気中に暴露すると、空気中の水分や雨水と反応し、表面に親水性の高いシラノール基が生成され、樹脂皮膜表面の水接触角を下げることができる。その結果、樹脂皮膜表面にかかった雨水等が濡れ広がりやすく、付着した汚れを落としやすくできる。又、コロイダルシリカは無機物質であり、有機樹脂と比較して硬い為に、樹脂皮膜表面が硬くなり、汚れ物質が樹脂皮膜中に浸透しにくくなる。本発明で用いられるコロイダルシリカの平均粒径は0.01μm以上0.3μm以下である事が好ましい。さらに好ましくは0.02μm以上0.10μm以下である。。コロイダルシリカの粒径を0.3μm以下とすることにより、樹脂皮膜表面にシラノール基が微細に存在するために水濡れを良好にすることができるからである。また、コロイダルシリカの平均粒径が0.3μmを超えると、その部分では、樹脂皮膜が不連続となる為、絞り加工時に、樹脂皮膜の割れの起点となるからである。コロイダルシリカの平均粒径が0.01μm未満では、水濡れ性の向上が認められず、コストが高くなり好ましくない。コロイダルシリカの含有量は1〜10%の範囲である事が好ましい。1%未満では親水性の効果が十分に得られず、付着した雨水等が溜まりやすくなり、汚染物質を流し落としにくいからである。10%を超えると、樹脂皮膜が硬くなり、樹脂皮膜割れの起点が多くなって、絞り加工時に割れが発生しやすくなるからである。
本発明で用いられるシリカ含有アクリル系樹脂皮膜にはワックスが添加される。本発明で用いられるワックスは天然ワックス、合成ワックスの何れでも良い。天然ワックスとしては、みつろう、モンタンワックス、カルナウバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。一方、合成ワックスとしては、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ひまし油等が挙げられる。特にマイクロクリスタリンワックスやポリエチレンワックスを用いる事が好ましい。マイクロクリスタリンワックスは石油ワックスであり、白色、淡黄色の固体である。ポリエチレンワックスは合成炭化水素であり、白色の固体である。添加ワックスの融点は50〜150℃の範囲にあることが好ましい。
添加ワックスの平均粒径は5〜20μmであることが好ましい。ワックスの平均粒径が5μm未満であると、潤滑性が不足し、絞り加工性が劣る。一方、平均粒径が20μmを超えると、防汚性が劣る。
【0011】
C−2.ワックスの含有量は0.5〜10%であり、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、直径dが1μm以上15μm以下であって、深さfがd/4以上d/2以下の弓形のワックス粒子が1個以上30個以下である。
ワックスの含有量は乾燥塗膜重量の0.5〜10.0%である事が好ましい。0.5%未満であると、絞り加工性が劣る。10.0%を超えると、防汚性が劣る。
室温で塗料中に分散する固体のワックス粒子は焼付温度がワックス粒子の融点を超えた温度で液体になる。同時に溶剤の揮発も進むので,粘度も上昇し,ワックス粒子の形状もある程度制限されたものとなり,コロイダルシリカがワックス粒子を覆うと考えられる。対流によって,表層に到達したワックス粒子はベース樹脂より表面エネルギーが小さいことから,表面に濡れ広がる。しかしながら,表層において,ワックス粒子のない部分には,コロイダルシリカが分布するために,線状にはならず,弓形粒子が形成されると考えられる。
塗料に添加したワックス粒子には,粒径が存在する。塗料を焼付硬化する過程において,融点以上の温度に到達すると,ワックスは溶融する。前述した通り,塗料中に含まれているコロイダルシリカがワックス粒子を覆い弓形粒子となる。従って,弓形のワックス粒子の直径dはワックス粒子の粒径,樹脂の種類,コロイダルシリカの粒径,添加量に影響される。その後,ワックスの融点より高い温度から樹脂の硬化が進むにつれて,その形状が固定される。融点より高い温度から樹脂がある程度硬化する温度の時間が長い程,ゆっくりと形状が固定されるので,直径dは小さくなる。これに対し,短い程,急激に固定されるので,直径dは大きくなる。弓形のワックスの直径dはワックス粒子の粒径,樹脂の種類,コロイダルシリカの粒径,添加量,焼付条件を適切に制御することにより、調整することができる。任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において,弓形のワックス粒子の直径dは1μm以上15μm以下である。直径dが1μm未満であると、絞り加工性が劣り,直径dが15μmを超えると,防汚性が劣る。
弓形のワックス粒子の深さfは直径dが大きい程,大きくなる。焼付硬化過程において,ワックスが一旦溶融するが,ワックスの融点より高い温度から樹脂の硬化が進むにつれて,その形状が固定される。融点より高い温度から樹脂がある程度硬化する温度の時間が長い程,ゆっくりと形状が固定されるので,深さは小さくなる。これに対し,短い程,急激に固定されるので,深さfは大きくなる。任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、弓形のワックス粒子の深さfはd/4以上d/2以下である。深さfがd/4未満であると,絞り加工性が劣る。深さfがd/2を超えると防汚性が劣る。
本発明で用いられるシリカ含有アクリル系樹脂皮膜において、任意の100μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面における弓形のワックス粒子の個数が1個以上30個以下である。弓形のワックス粒子の個数が1個未満では,絞り加工性が劣る。弓形のワックス粒子の個数が30個を超えると,防汚性や絞り加工性が劣る。
樹脂皮膜断面における弓形のワックス粒子の状態はプレコート金属板の金属を溶解して樹脂層のみを採取し、採取した樹脂層をルテニウム酸にて染色し包埋樹脂に埋め込み、ウルトラミクロトームにて面出しし、FE-SEMにて観察し,弓形のワックス粒子の直径d,深さf,個数を計測する。
【0012】
C−3.ゲル分率は90%以上である。
シリカ含有アクリル系樹脂皮膜のゲル分率は90%以上である。好ましくは95%以上である。反応が進む程、ゲル分率は大きくなる為、ゲル分率が大きい程、樹脂のからみ合いは密になりやすく、汚染物質は樹脂皮膜表面に浸透しにくくなる。しかし、ゲル分率が90%未満では、樹脂のからみ合いが十分でない為、汚染物質が深さ方向に浸透しやすく、防汚性が劣る。
ゲル分率は沸騰させた2−ブタノン中にプレコート金属板を浸漬し、次式により算出する。
ゲル分率(%)=(浸漬後重量−脱膜後重量)*100/(初期重量−脱膜後重量)
シリカ含有アクリル系樹脂皮膜のゲル分率は後述する通り、金属板の最終到達板温度と焼付時間によって調整する。
なお、本発明で用いられるシリカ含有アクリル系樹脂皮膜の厚さは2〜20μmの範囲にあることが好ましい。厚さが2μm未満では、耐食性が劣り、20μmを超えると、加工時による金属板の変形に樹脂皮膜が追随できず、絞り加工性が劣る。
【0013】
C−4.添加剤
本発明に用いられる塗料には、塗装性及びプレコート材としての一般的性能を確保するために通常の塗料において用いられる、顔料、顔料分散剤、流動性調節剤、レベリング剤、ワキ防止剤、防腐剤、安定化剤等を適宜添加してもよい。顔料としては、例えば、酸化チタンやカーボンブラックが好ましく、染料としては、例えば、フタロシアニンブルー等を用いてもよい。又、塗装直後の親水性を向上させるために、アルコキシ基を含有するシリコーン化合物を添加してもよい。又、光沢を調整する為に、艶消し剤を添加してもよい。
【0014】
C−5.アクリル系樹脂プレコート金属板の製造方法
金属板の上に化成皮膜を形成し、その上に、アクリル系樹脂を基材としかつコロイダルシリカを含有させ、さらにワックスを特定量含有させた塗料を、ロールコーターによって塗布し、以下に示す方法で焼付け乾燥する。
本発明で用いられる塗料を室温で保管している間はワックスの融点よりも低いので、ワックスは固体の状態で塗料中に分散している。ワックスは適切に調整された溶剤に溶解させているので、凝集して沈降することなく、塗料中に均一に分散している。塗料を焼付け乾燥する過程において、塗料の温度は上昇する。ワックスの融点を超えると、塗料中のワックスは液体になり、塗料の対流によって攪拌され、塗料表面に移動したものはアクリル系樹脂より表面エネルギーが小さいので表面に濡れ広がる。その際に、本発明で用いられる塗料中には、コロイダルシリカが含まれており、前述したようにこれらは塗料表面に濃化する。その結果、ワックスの周囲にコロイダルシリカが存在するようになるので、ワックスの濡れ広がりは抑制されて、乾燥後の樹脂皮膜を断面から観察した際に、表面近傍では、弓形となる。
従って、本発明のワックス分布を得る為には、ワックスの融点より6℃高い温度から、最終到達温度より90℃低い温度までの時間を3秒以上とすることが好ましい。この温度範囲では、ワックスが溶融するがアクリル系樹脂の硬化が進まない温度範囲である。3秒未満では、多くのワックス粒子が塗料表面に移動し、乾燥後の樹脂皮膜表面近傍に弓形粒子が認められるようになる。ワックスの融点より6℃未満であると、ワックスが十分に溶融しない。ワックスの融点より6℃高い温度に達するまでの時間は10秒以内とすることが好ましい。10秒を超えると塗料中の溶剤が蒸発して塗料粘度が上昇し、アクリル系樹脂が硬化しない温度で保持してもワックスが表面に移動しない場合がある。
又、本発明のゲル分率を得る為には、金属板の最終到達温度を210〜250℃とし、焼付時間を30秒から80秒の範囲とすることが好ましい。210℃未満では、ゲル分率が90%未満となり、防汚性が劣る。250℃を超えると、オーバーベークとなり、シリカ含有アクリル系樹脂皮膜が劣化し、絞り加工性が劣る。30秒未満では、ゲル分率が90%未満となり、防汚性が劣る。80秒を超えると、生産性が劣り、コストがアップする。
塗料に用いる溶剤としては、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソホロン、シクロヘキサノンなどが用いられる。なお、ロールコーターに代えてエアスプレーやバーコーター等によって塗料を塗布してもよい。
【0015】
D.下塗り層
本発明に用いられるプレコート金属板の加工性を向上させる為に、前記化成皮膜とシリカ含有アクリル系樹脂皮膜との間に下塗り層を形成する事が好ましい。下塗り層の厚さは2〜50μmの範囲にあることが好ましい。2μm未満であると耐食性が劣り、50μmを超えると、絞り加工によって、防汚性樹脂皮膜の割れに追随して下塗り層が割れ易いからである。
下塗り層のベース樹脂としてはポリエステル系樹脂又はエポキシ系樹脂を用いる事が好ましい。ポリエステル系樹脂は塗装時の作業性が良好で、加工性が良いからである。エポキシ系樹脂は化成被膜との密着性が良く耐食性に優れるからである。
ポリエステル系樹脂としては、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及び変成アルキド樹脂等が用いられる。アルキド樹脂は、無水フタル酸などの多塩基酸とグリセリンなどの多価アルコールとの縮合物を骨格とし、これを脂肪酸の油脂で変性したものである。用いる油脂の種類と含有量によって、短油性アルキド樹脂、中油性アルキド樹脂、長油性アルキド樹脂及び超長油性アルキド樹脂に分類される。不飽和ポリエステル樹脂は、不飽和多塩基酸又は飽和多塩基酸とグリコール類をエステル化することによって合成される。多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びアジピン酸が用いられ、グリコール類としては、プロピレングリコールが多く用いられる。変成アルキド樹脂としては、天然樹脂、フェノール樹脂又はスチレンなどの重合性モノマーで変成されたものが用いられる。
エポキシ系樹脂としては、分子中の水酸基の反応を利用して焼付ける焼付け硬化型エポキシ樹脂や、硬化剤として加えられる第1級アミン又は第2級アミンとエポキシ基との付加反応による硬化を利用した2液硬化型エポキシ樹脂が多く用いられる。焼付け硬化型エポキシ樹脂には、アミン樹脂硬化型エポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化型エポキシ樹脂、イソシアナート硬化型エポキシ樹脂などが含まれる。2液硬化型エポキシ樹脂には、アミン硬化型樹脂、アミンアダクト硬化型樹脂、ポリアミド樹脂硬化型樹脂などが含まれる。
なお、焼付け硬化型エポキシ樹脂や2液硬化型エポキシ樹脂の他に、乾性油脂肪酸にエポキシ樹脂を反応させたエステル化合物を用いたエポキシエステル樹脂や、エポキシ樹脂の末端にメタクリル酸メチルを結合させてスチレンなどと共重合させたビニルエステルも用いることができる。
ベース樹脂を必須成分とし、適当な溶剤にこれらを溶解又は分散した塗料を、ロールコーターによって化成皮膜上に塗布し、所定温度のオーブン中で所定時間処理して焼付け乾燥する。溶剤としては、シクロヘキサン、イソホロン、イソブチルアルコール、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが用いられる。なお、ロールコーターに代えてエアスプレーやバーコーター等によって塗料を塗布してもよい。
【実施例】
【0016】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は請求項の範囲を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0017】
番号1〜7(発明例)
金属板の両面を、市販のアルカリ性脱脂液にて脱脂し、市販のりん酸クロメート処理液にて化成処理した。この片面にポリエステル系樹脂塗料を乾燥後の塗膜厚さが5μmとなるように塗装した。焼付温度は金属板の最終到達板温度で216℃であり、焼付時間は40秒であった。さらに表1に示す塗料Aを塗装した。
【0018】
【表1】

【0019】
番号8〜10(発明例)
金属板の両面を、市販のアルカリ性脱脂液にて脱脂し、希硫酸で酸洗後、市販のジルコニウム処理液にて化成処理した。この片面にエポキシ系樹脂塗料を乾燥後の塗膜厚さが5μmとなるように塗装した。焼付温度は金属板の最終到達温度で210℃であり、焼付時間は50秒であった。さらに表1に示す塗料Aを塗装した。

番号11〜12(発明例)
金属板の両面を、市販のクロメート処理液によって化成処理した。この片面にポリエステル系樹脂塗料を乾燥後の塗膜厚さが5μmとなるように塗装した。焼付温度は金属板の最終到達温度で210℃であり、焼付時間は50秒であった。さらに表1に示す塗料Aを塗装した。

番号13〜19(比較例)
番号1〜7と同様にして、塗装した。

上述した方法で得られた化成皮膜の皮膜量を蛍光X線分析装置により測定した結果、クロム量は、30mg/m、ジルコニウム量は、10mg/m2であった。

得られたプレコート金属板について、ゲル分率、弓形粒子の分布状態を測定した。
(1)ゲル分率
沸騰させた2−ブタノン中にプレコート金属板を浸漬し次式により算出した。
ゲル分率(%)=(浸漬後重量−脱膜後重量)*100/(初期重量−脱膜後重量)
(2)弓形粒子の分布状態
プレコート金属板の金属を溶解して樹脂層のみを採取し、採取した樹脂層をルテニウム酸にて染色し包埋樹脂に埋め込み、ウルトラミクロトームにて面出しし、FE-SEMにて、5箇所観察した。その観察像から弓形粒子の直径d,深さf,個数を計測し、それらの平均値を算出した。

得られたプレコート金属板を用いて防汚性と絞り加工性を評価した。評価は、○、○△、△を合格とし、×を不合格とした。
(1)防汚性
(a)耐カーボン汚染性
塗膜表面に、カーボンブラック5重量%を懸濁させた水溶液をスプレー塗布したのち60℃の恒温槽で1時間乾燥させた。ついで、流水中で皮膜表面に付着しているカーボンブラックをガー ゼで拭き取り乾燥させた後のΔL値を測定した。
○:ΔL≧−7
×:ΔL<−7
(b)耐赤マジックインク除去性
市販のサクラネーム(登録商標)赤マジックインクで3cm*5cmの線を描き、24時間放置した後、エタノールを浸したキムワイプで20回擦った後の塗膜表面に残存した赤マジックを目視によって評価した。
○ :殆ど除去された。
○△:若干跡が残った。
△ :弱く跡が残った。
× :相当量の跡が残った。
(2)絞り加工性
プレコート金属板の樹脂皮膜表面が円筒成形品の外側になるように絞り加工した。その結果得られた円筒成形品の側壁部の外観を目視で評価した。パンチ径はφ32mm、ダイス径はφ33.68mm、ブランク径は68.5mmとした。
○ :樹脂皮膜の割れは認められなかった。
○△:若干樹脂皮膜の割れが認められた。
△ :弱く樹脂皮膜の割れが認められた。
× :著しい樹脂皮膜の割れが認められた。

結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
番号1〜12は、金属板の上に化成皮膜を形成し、その上に樹脂皮膜を形成するプレコート金属板において、少なくとも外表面側はアクリル系樹脂を基材としかつコロイダルシリカ、ワックスを含有するシリカ含有アクリル系樹脂皮膜であり、ワックスの含有量は0.5〜10%であり、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、直径dが1μm以上15μm以下であって、深さfがd/4以上d/2以下の弓形のワックス粒子が1個以上30個以下であり、ゲル分率が90%以上である。従って、防汚性及び絞り加工性は良好であった。
一方、番号13は、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、弓形のワックス粒子の直径dが1μm未満の為、絞り加工性が劣った。
番号14は、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、弓形のワックス粒子の直径dが15μmを超える為、防汚性が劣った。
番号15は、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、弓形のワックス粒子の深さfがd/4未満の為、絞り加工性が劣った。
番号16は、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、弓形のワックス粒子の深さfがd/2を超える為、防汚性が劣った。
番号17は、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、弓形のワックス粒子の個数が1個未満の為、絞り加工性が劣った。
番号18は、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、弓形のワックス粒子の個数が30個を超える為、防汚性及び絞り加工性が劣った。
番号19は、ゲル分率が90%未満の為、防汚性が劣った。
【符号の説明】
【0022】
1 シリカ含有アクリル系樹脂皮膜
2 コロイダルシリカ
3 弓形のワックス粒子
4 直径d
5 深さf

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の上に化成皮膜を形成し、その上に樹脂皮膜を形成するプレコート金属板において、少なくとも外表面側はアクリル系樹脂を基材としかつコロイダルシリカ、ワックスを含有するシリカ含有アクリル系樹脂皮膜であり、ワックスの含有量は0.5〜10%であり、任意の1000μmの一の直線を一辺とする樹脂皮膜断面において、直径dが1μm以上15μm以下であって、深さfがd/4以上d/2以下の弓形のワックス粒子が1個以上30個以下であり、ゲル分率が90%以上であることを特徴とするアクリル系樹脂プレコート金属板

【図1】
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【公開番号】特開2011−16341(P2011−16341A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164168(P2009−164168)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】