説明

アクリル酸の製造方法

【課題】グリセリンからのアクリル酸製造において廃棄される場合があるガスが有効に利用されるアクリル酸の製造方法の提供。
【解決手段】グリセリン含有ガスをグリセリン脱水用触媒に接触させてアクロレインを製造する脱水反応工程と、酸化反応によりそのアクロレインからアクリル酸を製造する酸化反応工程とを有するアクリル酸の製造方法において、酸化反応工程を経るまでに生成した化合物を含有する生成物含有ガスを、脱水反応工程で使用しているグリセリン脱水用触媒または脱水反応工程で使用する前のグリセリン脱水用触媒に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物油から製造されるバイオディーゼルは、化石燃料の代替燃料としてだけではなく、二酸化炭素の排出量が少ない点でも注目され、需要の増大が見込まれている。そのため、バイオディーゼルの副生成物であるグリセリンの副生量も増大が見込まれ、グリセリンの有効利用が望まれる。
【0003】
グリセリンを利用する一形態として、特許文献1には、グリセリンガスを触媒に接触させることによりアクロレイン含有ガスを製造し、当該アクロレイン含有ガス中のアクロレインの気相酸化を行ってアクリル酸を製造することが開示されている。アクロレインの気相酸化によりアクリル酸含有ガスが生成することになるが、当該ガスにはアクリル酸以外の化合物が含まれることになる。そこで、アクリル酸の純度を高めるべく、アクリル酸含有ガスからアクリル酸を捕集し、一方で捕集されなかったガスは、その用途がなければ、廃棄される。
【0004】
収率良くアクリル酸を製造する等の理由から、アクリル酸の製造過程でアクロレイン含有ガス中のアクロレイン濃度を高める場合がある。この高濃度化では、アクロレイン含有ガスからアクロレインの副生物を含有するガス(当該ガスは、通常、アクロレインを含有する)が除去される。そして、除去されたアクロレインの副生物ガスは、その用途がなければ、廃棄される。
【0005】
上記アクリル酸含有ガスからアクリル酸を捕集したガスまたはアクロレインの副生物ガスを利用できれば、アクリル酸の製造方法の経済的価値が向上するだけではなく、グリセリンを利用する経済的価値も高まる。
【特許文献1】特開2005−213225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、グリセリンからのアクリル酸製造において廃棄される場合があるガスが有効に利用されるアクリル酸の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、グリセリンからアクリル酸を製造するまでの過程で生成する各化合物を有効利用するべく様々な検討を行なった結果、アクリル酸が製造されるまでに生成する各化合物を含有するガスをグリセリン脱水用触媒に接触させると、アクリル酸製造開始当初のアクリル酸収率が高まることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、グリセリン含有ガスをグリセリン脱水用触媒に接触させてアクロレインを製造する脱水反応工程と、酸化反応により前記アクロレインからアクリル酸を製造する酸化反応工程とを有するアクリル酸の製造方法であって、前記酸化反応工程を経るまでに生成した化合物を含有する生成物含有ガスを、前記グリセリン脱水用触媒に接触させることを特徴とする。前記グリセリン脱水用触媒への生成物含有ガスの接触は、前記脱水反応工程において前記グリセリン含有ガスに前記生成物含有ガスを含有させて行っても良い。また、前記脱水反応工程の前に、前記グリセリン脱水用触媒への生成物含有ガスの接触を行なっても良い。
【0009】
前記グリセリン脱水用触媒は、再生処理を施したものであっても良い。
【0010】
本発明のアクリル酸の製造方法は、前記脱水反応工程と酸化反応工程との間に、1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールを前記アクロレインから除去する工程を有することが好ましい。この場合、酸化反応工程におけるアクロレインの転化率およびアクリル酸の収率が向上する。1−ヒドロキシアセトンが除去されている場合には、酸化反応工程における酢酸副生を抑制することができる。なお、1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールは、グリセリンからアクロレインを製造したときの副生物である。
【0011】
本発明のアクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体の製造方法におけるアクリル酸製造工程に使用することができるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、グリセリンからアクリル酸を製造するまでの過程において生成した一種以上の化合物を含有するガスをグリセリン脱水用触媒に接触させるので、アクリル酸製造開始当初からのアクロレインの収率が向上することになって、当初から収率良くアクリル酸を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るアクリル酸の製造方法を実施形態に基づき以下に説明する。
本実施形態のアクリル酸の製造方法は、グリセリン含有ガスをグリセリン脱水用触媒(以下、「グリセリン脱水用触媒」を単に「脱水用触媒」という)に接触させてアクロレインを製造する脱水反応工程と、この製造したアクロレインを酸化してアクリル酸を製造する酸化反応工程を有する。そして、本実施形態に係る製法は、酸化反応工程を経るまでに生成した化合物を含有する生成物含有ガスを、脱水用触媒に接触させることを特徴としている。
【0014】
先ず、本製法の特徴である生成物含有ガスをグリセリンに接触させることについて説明し、次いで、本製法の脱水反応工程、および酸化反応工程を工程毎に説明する。
【0015】
(生成物含有ガスの接触)
本製法のように脱水用触媒に生成物含有ガスを接触させると、次の問題を解決できる。その問題とは、アクリル酸の製造開始当初から、アクリル酸の収率が徐々に経時的上昇することである。アクリル酸の製造を継続すれば、アクリル酸収率の上昇が収まり、アクリル酸収率が安定する。しかし、この安定化までの時間を短縮、またはアクリル酸製造開始時からアクリル酸収率を安定化させることができれば、製造開始当初からアクリル酸を良収率で製造できることになる。本発明者は、上記製造開始当初からのアクリル酸収率の経時的上昇の原因がアクロレイン収率も同様に上昇することにある知見を得た。アクロレイン収率を予め上昇させるためには、生成物含有ガスを脱水用触媒に接触させることが効果的であることが判明したのである。
【0016】
生成物含有ガスを接触させる対象である脱水用触媒は、調製後に初めてグリセリン脱水反応に使用するものであっても、後述の再生処理を行ったものであっても良い。何れの脱水用触媒でも、上記脱水反応開始当初からのアクロレイン収率上昇が生じるからである。
【0017】
脱水用触媒に接触させる生成物含有ガスに含まれる生成物は、脱水反応工程おける生成物、および酸化反応工程における生成物から選択された一種または二種以上の化合物である。そして、生成物含有ガスには、必ずアクロレインが含まれる。
【0018】
上記脱水反応工程おける生成物としては、アクロレイン、およびアクロレイン副生物がある。アクロレイン副生物としては、アセトアルデヒド(沸点:21℃)、プロピレン(沸点:−48℃)、エチレン(沸点:−104℃)、メタン(沸点:−162℃)等のアクロレイン(沸点:53℃)よりも沸点が低い低沸点副生物(a);およびフェノール(沸点:182℃)、1−ヒドロキシアセトン(沸点:146℃)、水(沸点:100℃)、アリルアルコール(沸点:97℃)等のアクロレインよりも沸点が高い高沸点副生物(a);が挙げられる。
【0019】
一方、上記酸化反応工程における生成物としては、アクリル酸、およびアクリル酸副生物がある。アクリル酸副生物としては、酢酸(沸点:118℃)、アセトアルデヒド(沸点:21℃)、ホルムアルデヒド(沸点:−19℃)等のアクリル酸(沸点:141℃)よりも沸点が低い低沸点副生物(b)が挙げられる。
【0020】
上記生成物を含有するガスを脱水用触媒に接触させる方法は、例えば、(1)脱水反応工程で製造したアクロレイン含有ガスからアクロレインを捕集した後の未捕集ガス(以下、「未捕集ガス(a)」)および/または酸化反応工程で製造したアクリル酸含有ガスからアクリル酸を捕集した後の未捕集ガス(以下、「未捕集ガス(b)」)を含むグリセリン含有ガスを生成物含有ガスとして脱水用触媒に接触させる方法;(2)未捕集ガス(a)および/または未捕集ガス(b)を生成物含有ガスとして脱水工程前の脱水用触媒に接触させる方法;が挙げられる。生成物含有ガスに該当する未捕集ガス(a)および未捕集ガス(b)には、捕集されなかったアクロレインが必ず含まれることになる。
【0021】
上記方法(1)を選択した場合、脱水用触媒との接触後の生成物含有ガスに含まれていたアクロレインも脱水反応工程で製造されたアクロレイン含有ガスに含まれることになるから、アクロレイン含有ガスに含まれているアクロレインの捕集を行なえば、生成物含有ガスに含まれていたアクロレインも同時に捕集することができる。この方法(1)を選択したときは、アクロレイン捕集率が高い。
【0022】
また、上記方法(1)を選択した場合、最低限、アクロレイン収率の上昇が収まるまで生成物含有ガスをグリセリン含有ガスに含ませると良い。グリセリン含有ガス中の生成物含有ガス量が増加すればアクロレイン収率が早期に安定化するが、捕集工程でのアクロレインおよび/またはアクリル酸の捕集効率が下がる問題、脱水反応工程および/または酸化反応工程における反応圧力を損失する問題等が起こる場合があるため、アクリル酸の製造プロセス全体を勘案してグリセリン含有ガス中の生成物含有ガス量を設定することが好ましい。また、脱水反応工程のグリセリン含有ガスのグリセリン濃度を調節するため、アクリル酸製造用装置の運転開始直後においては窒素、空気、または水蒸気をグリセリン含有ガス調製用の希釈ガスに使用し、アクリル酸製造用装置の運転を継続するにつれて希釈ガス中の生成物含有ガス量を徐々に増加させ、最終的には生成物含有ガスのみを希釈ガスとして使用することも可能である。生成物含有ガスを希釈ガスに使用する場合には、グリセリン濃度が適切な範囲に収まる量の生成物含有ガスを使用する。
【0023】
上記方法(2)を選択した場合、その接触時の温度は、特に限定されないが、100〜500℃であると良く、好ましくは150℃〜450℃、より好ましくは200℃〜450℃、更に好ましくは脱水反応工程におけるグリセリンの脱水反応温度である。また、接触時間は、生成物含有ガスに含まれている有機化合物濃度および接触対象である脱水用触媒の量により適宜設定されるべきである。当該接触時間が経過するにつれて、アクロレイン収率が徐々に高まる傾向があるので、広範な範囲で接触時間を設定できる。但し、接触時間が長すぎてもアクロレイン収率が一定以上に高まらず、その接触が行なわれている反応器でアクロレインの脱水を行なうことができないので、アクロレイン収率の向上と反応器の稼働率を勘案して最長接触時間を適宜定める必要がある。通常、1分間〜24時間の間で接触時間を設定することができ、10分間〜12時間であると良い。
【0024】
なお、アクロレイン含有ガスからのアクロレインの捕集方法、およびアクリル酸含有ガスからのアクリル酸の捕集方法としては、捕集目的物(アクロレインまたはアクリル酸)を凝縮液化する方法、捕集目的物を溶剤に吸収させる方法がある。これらの方法は、捕集目的生成物と他の化合物とに沸点差があることを利用する方法であり、沸点差を利用する捕集方法であれば、他の公知の捕集方法を採用しても良い。
【0025】
上記捕集目的物を凝縮液化する方法は、捕集目的物の沸点未満にアクロレイン含有ガスまたはアクリル酸含有ガスを冷却するものである。当該凝縮液化では、多管式熱交換器、フィンチューブ式熱交換器、空冷式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、直接接触式熱交換器、プレート式熱交換器等の公知凝縮器を使用することができる。
【0026】
上記捕集目的物を溶剤に吸収させる方法は、アクロレイン含有ガスまたはアクリル酸含有ガスと捕集目的物を溶解する性質を有する溶剤とを接触させることにより、当該捕集用溶剤に捕集目的物を吸収させる方法である。捕集用溶剤との接触方法としては、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイ、ガーゼ型、シート型、グリット型の規則充填物、および、不規則充填物を用いる向流接触;が例示される。
【0027】
アクロレインを溶解する溶剤(以下、「捕集用溶剤(a)」)にアクロレインを吸収させる場合、捕集用溶剤(a)の温度は、通常0〜40℃、好ましくは1〜30℃である。捕集用溶剤(a)の上限温度を定めるのは、アクロレインの沸点以下であると捕集効率が良いからであり、同溶剤(a)の下限温度を定めるのは、冷却コスト抑制および捕集用溶剤(a)凝結による配管閉塞回避等の工業的理由からである。また、水のみを捕集用溶剤(a)として使用できるが、水単独ではアクロレインの吸収量が少ないので、水溶性有機化合物を含有する水溶液を捕集用溶剤(a)として使用することが好ましい。前記水溶性有機化合物としては、例えば、1−ヒドロキシアセトン等のグリセリン脱水反応で生成する高沸点副生物、グリセリンが挙げられる。また、アクロレインの重合を防止するために、捕集用溶剤(a)に重合防止剤を添加しても良い。
【0028】
一方、アクリル酸を溶解する溶剤(以下、「捕集用溶剤(b)」)にアクリル酸を吸収させる場合、捕集用溶剤(b)の温度は、通常0〜60℃、好ましくは10〜50℃である。また、捕集用溶剤(b)を例示すれば、ジフェニルエーテル、ジフェニル、ジフェニルエーテルとジフェニルとの混合物、水がある。捕集用溶剤(b)に吸収された重合性物質の重合防止を目的として、特開2001−348360号公報、2001−348358号公報、2001−348359号公報などに記載される重合防止剤を捕集用溶剤(b)に添加しても良い。
【0029】
(脱水反応工程)
脱水反応工程で製造されるアクロレインは、グリセリンの分子内脱水反応で生成する。当該反応は、グリセリンガスを脱水用触媒に接触させる接触気相脱水反応である。
【0030】
本工程で使用する脱水用触媒は、グリセリンの分子内脱水反応を促進させるためのものである。当該触媒は、固体酸触媒であると良く、その大きさは、通常、直径相当で0.1〜10mm程度である。また触媒の形状は、球状、柱状、リング状、または鞍状等、特に限定されない。
【0031】
脱水用触媒としては、例えば、Al、B、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、In、P、Sc、V、Ge、As、Y、Zr、In、Sn、Sb、およびLa、Si、B、Fe、Ga等から選ばれる1種または2種以上の原子をT原子とし、LTA、CHA、FER、MFI、MOR、BEA、MTW等の結晶構造である結晶性メタロシリケート;ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイトなどの粘土鉱物;MgSO4、Al2(SO4)3、K2SO4、Zr(SO4)2等の硫酸金属塩;AlPO4、Al2(HPO4) 3、Al(H2PO4)3、Al4(P27)3、AlHP27、Al2(H227)3、Al(H327)3等のリン酸アルミニウム塩、Zr(HPO4)2、ZrP27等のリン酸マグネシウム塩、MnPO4、Mn3(PO4) 2、MnHPO4、Mn(H2PO4)2等のリン酸マンガン塩、Na2HPO4、NaH2PO4、Na427、Na2227、K2HPO4、KH2PO4、K427、K2227、Cs2HPO4、CsH2PO4、Cs427、Cs2227等のリン酸アルカリ金属塩、MgHPO4、CaHPO4、SrHPO4、BaHPO4等のアルカリ土類金属塩等のリン酸金属塩;結晶構造を有するリン酸金属塩;硫酸金属塩、またはリン酸金属塩をα−アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン等に担持させた触媒;リン酸や硫酸等の鉱酸をα−アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン等に担持させた触媒;活性アルミナ、TiO2、ZrO2、SnO2、V25、SiO2−Al23、SiO2−TiO2、TiO2−WO3、TiO2−ZrO2などの無機酸化物または無機複合酸化物;を挙げることができる。その他の脱水用触媒としては、リン酸、硫酸、または酸化タングステンを担持している酸化ジルコニウムや、国際公開WO2006/087083号公報およびWO2006/087084号公報に開示されている固体酸がある。
【0032】
以上に例示した脱水用触媒において好ましいものは、アクロレインの収率に優れた結晶性メタロシリケートであり、MFI型の結晶性メタロシリケートが好ましく、MFI型の結晶性アルミノシリケートが更に好ましい。また、脱水用触媒の寿命を短命化させる原因の一つである炭素状物質の生成量を抑える観点からは、結晶構造を有するリン酸金属塩を脱水用触媒に使用することが好ましい。
【0033】
本工程で使用する脱水用触媒は、低下した活性を回復させるための再生処理を行ったものであっても良い。ここで、再生処理とは、グリセリンの分子内脱水反応において脱水用触媒表面に堆積した炭素状物質に酸化剤を接触させて、炭素状物質を二酸化炭素、一酸化炭素、その他の炭素含有化合物に酸化分解して除去する処理(炭素状物質を燃焼除去する処理)である。再生処理で使用する酸化剤には、通常、炭素状物質の酸化分解のために該炭素状物質に酸素元素を供給することが可能な気体分子の一種または二種が使用される。酸化剤として使用することができる気体分子は、例えば、酸素(空気中の酸素も酸化剤に該当する)、オゾン、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素を挙げることができる。再生処理で酸化剤を使用するときには、炭素状物質の急激な燃焼発熱を避けるため、炭素状物質の酸化分解に関与しない不活性ガス(窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、水蒸気等)から任意に選択した一種以上のガスと酸化剤との混合ガスを使用しても良い。
【0034】
グリセリンの接触気相脱水反応を行なうためには、脱水用触媒を内部に備える固定床反応器、移動床反応器、流動床反応器等から任意に選択した反応器内にグリセリン含有ガスを流通させると良い。
【0035】
グリセリン含有ガスにおいて使用されるグリセリンは、精製グリセリンおよび粗製グリセリンの何れであっても良い。グリセリン含有ガスにおけるグリセリン濃度は、特に限定されないが、0.1〜100モル%であると良く、経済的かつ高効率にアクロレインを生成させることができる10モル%以上が好ましい。なお、グリセリン含有ガス中におけるグリセリン濃度の調整が必要な場合には、水蒸気、窒素、および空気等から選択した一種以上のガスを濃度調整用ガスとして使用することができる。また、グリセリン含有ガスに酸素および/または水蒸気を含ませた場合には、脱水用触媒の活性低下が抑制される共に、アクロレイン収率が高まるので好適である。
【0036】
反応器内におけるグリセリン含有ガス量は、単位触媒容積あたりのグリセリン含有ガス流量(GHSV)で表すと100〜10000hr-1であると良い。好ましくは、5000hr-1以下であり、アクロレインの製造を経済的かつ高効率で行うためには、3000hr-1以下がより好ましい。また、グリセリンの分子内脱水反応を進行させるときの温度は、200〜500℃であると良く、好ましくは、250〜450℃、更に好ましくは、300〜400℃である。そして、脱水反応における圧力は、グリセリンが凝縮しない範囲の圧力であれば特に限定されない。通常、0.001〜1MPaであると良く、好ましくは、0.01〜0.5MPaである。
【0037】
(酸化反応工程)
酸化反応工程では、アクロレイン酸化用触媒(以下、「酸化用触媒」)に上記脱水反応工程で得たアクロレインを接触させる。
【0038】
酸化用触媒は、アクロレインをアクリル酸に転化する酸化反応を促進させる触媒であり、本実施形態の酸化用触媒には固体触媒が使用される。酸化用触媒には、公知の酸化用触媒を使用すると良い。例えば、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化アンチモン、酸化錫、および酸化銅等の金属酸化物の混合物;金属酸化物の複合物;を例示することができる。これら例示した触媒のうち、モリブデンおよびバナジウムが構成金属の主体となっているモリブデン−バナジウム系触媒が好適である。また、触媒は、担体(例えば、ジルコニア、シリカ、アルミナ、およびこれらの複合物、並びに、炭化珪素)に前述の混合物および/または複合物を担持させたものであっても良い。
【0039】
アクロレインを酸化用触媒に接触させるには、例えば、アクロレイン含有ガスと酸化用触媒とを固定床反応器、移動床反応器、流動床反応器等から任意に選択した酸化反応器内に共存させると良い。この場合、酸素も酸化反応器内に共存させる場合があり、その酸素共存量が過剰であると爆発を伴う恐れがあるので、酸素共存量の上限値は適宜設定することになる。また、酸化反応条件を調整するために、水蒸気を酸化反応器内に共存させる場合がある。酸化反応器内の温度は、200〜400℃であると良い。また、酸化反応器内にアクロレイン含有ガスを流通させる場合には、その流量はGHSV500〜20000hr-1であると良く、好ましくはGHSV1000〜10000hr-1である。酸化反応器内における圧力は、0.01〜1MPaであると良い。
【0040】
酸化反応工程で使用するアクロレインは、特に限定されない。しかし、アクロレインの酸化反応におけるアクロレインの転化率、および同反応で生成するアクリル酸の収率を向上させるためには、酸化反応前に、グリセリンからアクロレインを製造するときに副生する1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールをアクロレインから除去することが好ましい。1−ヒドロキシアセトンをアクロレインから除去した場合には、アクロレインの転化率およびアクリル酸収率の向上以外にも、アクロレインの酸化反応で副生する酢酸の生成量を抑制できる。
【0041】
1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールを除去するとアクロレインの転化率が向上する等の利点は、酸化用触媒を使用して本発明者が行った実験により判明した。当該実験およびその結果の一例を以下に示す。
【0042】
実験に使用した酸化用触媒は、次の通り調製した。加熱攪拌している水2500mlにパラモリブデン酸アンモニウム350g、メタバナジン酸アンモニウム116gおよびパラタングステン酸アンモニウム44.6gを溶解した後、三酸化バナジウム1.5gを添加した。これとは別に、加熱攪拌している水750mlに硝酸銅87.8gを溶解した後、酸化第一銅1.2gおよび三酸化アンチモン29gを添加した。これら2つの液を混合した後、担体である直径3〜5mmの球状α−アルミナ1000mlを加え、攪拌しながら蒸発乾固させて触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を400℃で6時間焼成して酸化用触媒を調製した。なお、当該触媒の担持金属組成は、Mo126.11Cu2.3Sb1.2である。
【0043】
行った実験の方法は次の通りである。20ccの酸化用触媒を充填したステンレス製反応管にアクロレイン含有ガスを流通(GHSV:2000hr-1)させ、反応温度230℃でアクリル酸を生成させた。そして、流通開始から60〜80分の間に反応管から流出したガスを捕集し、この成分をガスクロマトグラフィーで分析した。この実験でのアクロレイン含有ガスとしては、水蒸気33.36容量部(実験No.1);水蒸気33.18容量部、およびフェノール0.18容量部(実験No.2);水蒸気33.00容量部、および1−ヒドロキアセトン0.36容量部(実験No.3);または、水蒸気33.00容量部、およびアリルアルコール0.36容量部(実験No.4);と、窒素54.4容量部、酸素10.44およびアクロレイン1.8容量部とを成分に有するガスを使用した。
【0044】
この実験結果は、次表1の通りである。
【表1】

【0045】
表1に示す通り、フェノール(実験No.2)または1−ヒドロキシアセトン(実験No.3)を含むアクロレイン含有ガスを使用した場合、これらの化合物を含有しないガス(実験No.1、4)を使用するよりも、アクロレインの転化率、およびアクリル酸の収率の点で悪かったことを確認することができる。また、1−ヒドロキシアセトンを含有する場合、酢酸の副生量が多かったことを確認することができる。
【0046】
上記の通り、アクロレイン含有ガスにフェノールまたは1−ヒドロキシアセトンが含まれている場合、アクリル酸の収率が悪化するが、これは次の理由であると推定される。フェノールとアクロレインは、酸又は塩基が存在していると、重合して高分子化することと同様に、酸化用触媒の酸または塩基点でも高分子化した化合物が生成すると推定される。そして、酸化用触媒の酸点などでも前記化合物が生じた結果、この触媒の活性点が被覆され、アクリル酸の収率が悪化すると推定される。また、1−ヒドロキシアセトンが含まれている場合には、酢酸が多量に生成するので、酸化用触媒の酸化作用を受けた1−ヒドロキシアセトンが酢酸に転化していると推測される。このような転化は、アクロレインをアクリル酸に転化するための触媒活性点を減少させることになって、アクリル酸の収率を悪化させると推定される。
【0047】
フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンはアクリル酸の収率を低下させる化合物であるので、両化合物のアクロレインからの除去量は、多いほど好ましい。アクロレイン中のフェノールの量は、アクロレインの質量(A)とフェノールの質量(P)との比(P/A)で表せば、P/Aが0.020以下であることが好ましく、より好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下である。また、除去後のアクロレイン中の1−ヒドロキシアセトンの量は、アクロレインの質量(A)と1−ヒドロキシアセトンの質量(H)との比(H/A)で表せば、H/Aが0.020以下であることが好ましく、より好ましくは0.010以下、さらに好ましくは0.005以下である。
【0048】
上記の通り、フェノールおよび1−ヒドロキシアセトンの除去量が多いほど好ましいが、この除去量を多くすることに伴って、アクロレインの損失量が増大する問題および除去操作の煩雑化の問題が生じやすくなる。これらの問題は、フェノールの除去を蒸留操作などの加熱を伴う除去方法を採用する場合に生じやすい。このことを考慮すれば、P/Aが1×10-9以上であると良く、好ましくは1×10-7以上、更に好ましくは1×10-5以上である。また、1−ヒドロキシアセトンの除去においても上記の問題が生じる場合には、H/Aが1×10-9以上であると良く、好ましくは1×10-7以上、更に好ましくは1×10-5以上である。
【0049】
また、酸化反応工程においてはアクロレインの酸化反応によりアクリル酸を製造することになるが、その酸化反応系における水濃度がアクリル酸収率に影響を与える場合がある。そのため、所望のアクリル酸収率に応じて、1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールと共に水をアクロレインから除去すると良い。
【0050】
アクロレインから1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールを除去するためには、上述のアクロレイン含有ガスからのアクロレインの捕集方法と同様の捕集方法を採用すると良い。また、アクロレイン含有ガス自体を液化した後、アクロレイン放散用のガスを吹き込んでアクロレインを気化させる方法により、アクロレインから1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールを除去しても良い。その他、アクロレインとの沸点差を利用する公知方法により、アクロレインから1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールを除去しても良い。何れの方法によっても、アクロレインにおけるH/AおよびP/Aを上記範囲にすることができる。
【0051】
次に、図1〜3の工程フロー図を参照しつつ、本実施形態の方法について説明を加える。
【0052】
図1において、グリセリン含有ガスからアクロレイン含有ガスを製造するための2基の脱水反応器100a、100b(以下において、「脱水反応器100aおよび100b」を総称するときは「脱水反応器100」という)、アクロレイン含有ガスから高沸点副生物(a)を分離するための分離塔200、アクロレインの酸化反応によりアクリル酸を製造するための酸化反応器500、酸化反応器500で製造されたアクリル酸含有ガス中のアクリル酸を捕集するためのAA捕集塔600、およびこれら脱水反応器100等に接続された配管ライン1a(以下において「配管ライン」を単に「ライン」という)等は、次の通り配置する。
【0053】
脱水反応器100には、両端にラインが接続されている。脱水反応器100の一端には、グリセリン含有ガス、未捕集ガス(b)、および酸化剤含有ガスから選択された一種以上のガスを供給するためのライン1aまたは1bが接続され、ライン1aには、グリセリン含有ガス供給ライン2から分岐したライン2a、および酸化剤含有ガス供給ライン3から分岐したライン3aが接続されている(ライン1bには、ライン1aと同様、ライン2から分岐したライン2b、およびライン3から分岐したライン3bが接続されている)。一方の脱水反応器100の他端には、当該脱水反応器100から分離塔200へのアクロレイン含有ガス流路となるライン4aまたは4bが接続され、当該ガス流路ライン4aおよび4bの途中には、未捕集ガス(b)および酸化剤含有ガスを排出するためのライン5aまたは5bが接続されている。ライン4a、4bの先端は、共に、分離塔200へのアクロレイン含有ガスの直接的な供給ラインであるライン4に接続されている。
【0054】
分離塔200には、ライン4が接続され、アクロレイン含有ガス製造における高沸点副生物(a)を排出すためのライン14が底部に接続され、アクロレイン含有ガスを酸化反応器500に向けて供給するためのライン29が頂部に接続されている。
【0055】
酸化反応器500には、その一端に空気を導入するためのライン9が接続され、他端にアクリル酸含有ガスをAA捕集塔600に供給するためのライン10が接続されている。ライン9には、このライン9にアクロレイン含有ガスを流入させるためのライン29が接続されている。また、ライン9には、後記ライン13に空気を流入させるためのライン18が接続されている。
【0056】
AA捕集塔600には、酸化反応器500で製造されたアクリル酸含有ガスを導入するためのライン10が接続されている。また、AA捕集塔600の底部には、捕集されたアクリル酸を放出させるためのライン11が接続され、未捕集ガス(b)を放出するためのライン12が頂部に接続されている。このライン12の先端部には、未捕集ガス(b)の分岐流路になるライン13および30が延設されている。ライン13は、ライン1aおよび1bに未捕集ガス(b)を供給するためのものであり、一方のライン30は、ライン9に未捕集ガス(b)を流入させるものである。また、ライン12には、未捕集ガス(b)を排気するためのライン16が、ライン12の先端に至るまでの位置に設けられている。
【0057】
なお、本実施形態に係る発明を実施するためには、図1に示されていないが、各ライン内を流通するガスや液の量を制御するための制御弁や、ガスを流通させるためのポンプ等を適宜設けることになる。
【0058】
図1に表される各構成をその構成動作と共に更に説明する。
【0059】
脱水反応器100
脱水反応器100は、脱水用触媒が充填内蔵されたものであり、その内部温度を任意温度に昇温可能な機能を有する。脱水反応器100a、100bは、ライン1aまたは1bとライン4との間に並列設置されており、脱水反応器100a、100bには、ライン1a、1b、2a、2b、3a、または3bを通じて、グリセリン含有ガス、未捕集ガス(b)、グリセリン含有ガスと未捕集ガス(b)との混合ガス、または脱水用触媒を再生するための酸化剤含有ガスが流入する。グリセリン含有ガスは、連続してアクロレイン含有ガスを製造するため、脱水反応器100aおよび100bの何れか1基に常時流入する。このグリセリン含有ガス流入時に、同時に未捕集ガス(b)を脱水反応器100に流入させれば、グリセリン含有ガスと未捕集ガス(b)との混合ガスを脱水反応器100に流入させることになる。他方、グリセリン含有ガスの流入がない脱水反応器100には、未捕集ガス(b)または酸化剤含有ガスが流入する。
【0060】
グリセリン含有ガスが脱水反応器100に流入する場合、流入したグリセリン含有ガスが脱水用触媒と接触してアクロレイン含有ガスが生成する。生成したアクロレイン含有ガスは、ライン4aまたは4b、およびライン4を通じて、分離塔200内に流入する。
【0061】
上記未捕集ガス(b)が脱水反応器100に流入する場合においては、未捕集ガス(b)に酸化反応器500から流出した生成化合物が含まれることになるから、脱水反応器100におけるグリセリン脱水反応開始当初のアクロレイン収率が向上する。なお、グリセリン脱水反応前に未捕集ガス(b)を脱水反応器100に流入させる場合、この流入時間は適宜設定され、流入した未捕集ガス(b)はライン5aまたは5bに向けて脱水反応器100から流出する。
【0062】
酸化剤含有ガスが脱水反応器100に流入する場合、酸化剤含有ガスが脱水用触媒の再生処理に使用された後、ライン5aまたは5bに向けて反応器100から流出する。低下したアクロレイン収率を上昇させるために酸化剤含有ガスを脱水反応器100内に流入させるので、その酸化剤含有ガスの流入時間は、脱水用触媒再生に必要な時間に設定される。未使用の脱水用触媒が脱水反応器100に内蔵されている場合には、酸化剤含有ガスは脱水反応器100に流入しない。
【0063】
なお、2基の脱水反応器100を図1に表しているが、本発明のアクロレインの製造方法を実施するための脱水反応器100の設置数は、1基または3基以上であっても良い。連続してアクロレインを製造する場合の脱水反応器100の設置数は、アクロレイン含有ガスを連続製造できる数が必要である。そのためには、脱水用触媒の前処理および再生処理に必要な所要時間を考慮して、脱水反応器100の必要設置数を定めることになる。
【0064】
分離塔200
分離塔200は、アクロレイン含有ガスから高沸点副生物(a)を除去するためのものである。分離塔200は、高沸点副生物(a)を吸収する溶剤を内蔵する。当該溶剤中にライン4を通じてアクロレイン含有ガスが流入し、アクロレイン含有ガスが溶剤中を上昇する間に高沸点副生物(a)が溶剤に吸収される。溶剤に吸収されなかったアクロレイン含有ガスは、ライン29および9を通じて酸化反応器500に流入する。一方、アクロレイン含有ガスから分離された高沸点副生物(a)は、溶剤と共にライン14を通じて定期的に排出される。
【0065】
酸化反応器500
酸化反応器500は、酸化用触媒が充填内蔵されたものであり、その内部温度を任意温度に昇温可能な機能を有する。ライン9を通じて酸化反応器500内に供給されたアクロレイン含有ガスは、酸化用触媒に接触して、アクリル酸含有ガスとなる。当該アクリル酸含有ガスは、ライン10を通じて、AA捕集塔600に流入する。
【0066】
AA捕集塔600
AA捕集塔600は、捕集用溶剤(b)を貯留し、アクリル酸含有ガスのアクリル酸を凝縮捕集すると共に、凝縮しなかった未捕集ガス(b)を排出する。ライン10を通じて捕集用溶剤(b)中にアクリル酸含有ガスが流入し、アクリル酸含有ガスが捕集用溶剤(b)中を上昇する間に、アクリル酸が捕集用溶剤(b)に吸収され、当該溶剤(b)に吸収されなかったガスが未捕集ガス(b)となる。アクリル酸を吸収した捕集用溶剤(b)は、必要に応じて、ライン11から放出されることになる。一方、未捕集ガス(b)の一部が、(1)ライン12、13、およびライン1aまたは1bを通じて脱水反応器100に流入、(2)ライン12、30、および9を通じて酸化反応器500に流入、および(3)ライン12、および16を通じて排出、する。
【0067】
図1の工程フローの詳細は、以上の通りである。本発明に係る製法を実施するには、図1の工程フローに限定されない。つまり、図1の所定ラインを適宜削除することが可能である他、他の装置を追加することが可能である。所定ラインを削除する態様としては、例えば、ライン18を省く態様;ライン18、およびライン9の基端部からライン29接続部までを省略して、ライン9から空気を導入しない態様;ライン30を省く態様;ライン30、およびライン9のライン18接続部からライン29の接続までを省略する態様;ライン9のライン18接続部からライン29接続部までを省く態様;が挙げられる。また、他の装置を追加する態様は、例えば、アクロレイン含有ガスの温度を下げるための熱交換器を、ライン4の途中に設ける態様;ライン14からの流出物の一部を分離塔200に送る循環機構を設ける態様;ライン11からの流出物の一部をAA捕集塔600に送る循環機構を設ける態様;が挙げられる。
【0068】
図2において、脱水反応器100、第一アクロレイン含有ガス中のアクロレインを捕集するためのAcr捕集塔300、捕集されたアクロレインをガス化して第二アクロレイン含有ガスにするための放散塔400、酸化反応器500、AA捕集塔600、およびこれら脱水反応器100等に接続された配管ライン1a等は、次の通り配置する。
【0069】
脱水反応器100には、上記図1の脱水反応器100と同様に、ライン1aまたは1b、ライン4aまたは4bが接続されている。また、ライン2、2a、2b、3、3a、3b、5a、および5bの接続位置も、上記図1と同様である。ライン4aおよび4bは、その先端部でライン4に合流する。
【0070】
Acr捕集塔300には、第一アクロレイン含有ガスを流入させるためのライン4が接続され、捕集されたアクロレインを放散塔400にむけて供給するためのライン7が下部に接続されている。そして、第一アクロレイン含有ガスからアクロレインを捕集した後の残りのガス(未捕集ガス(a))を放散塔400に向けて供給するためのライン27が、Acr捕集塔300の上部に接続されている。
【0071】
放散塔400には、第一アクロレイン含有ガスから捕集されたアクロレインを流入させるためのライン7が接続され、ライン27の先端から分岐し且つ未捕集ガス(a)を流入させるためのライン28が下部に接続されている。また、放散塔400には、内部に蓄積された廃棄物を排出するためのライン15が底部に接続され、内部でガス化されたアクロレインを含有する第二アクロレイン含有ガスを酸化反応器500に向けて供給するためのライン8が頂部に接続されている。
【0072】
酸化反応器500には、図1と同様、ライン9、および10が接続されている。ライン9には、このライン9に第二アクロレイン含有ガスを流入させるためのライン8が接続されている。また、ライン9の途中からは、脱水反応器100への空気流路になるライン18、およびライン28への空気流路になるライン26が分岐する。
【0073】
AA捕集塔600には、図1と同様、ライン11および12が接続されている。また、ライン12には、図1と同様にライン13、16、および30が接続され、更にライン28へ未捕集ガス(b)を合流させるためのライン25が接続されている。
【0074】
なお、本実施形態に係る発明を実施するためには、図2には示されていないが、各ライン内を流通するガスや液の量を制御するための制御弁や、ガスを流通させるためのポンプ等を適宜設けることになる。
【0075】
図2に表される各構成をその構成動作と共に更に説明する。脱水反応器100については、図1の脱水反応器100の動作と同様である。
【0076】
Acr捕集塔300
Acr捕集塔300は、脱水反応器100で製造された第一アクロレイン含有ガス中のアクロレインを凝縮捕集すると共に、非凝縮のガスを未捕集ガス(a)として排出させるためのものであり、アクロレインを捕集するための捕集用溶剤(a)を貯留する。ライン4を通じて捕集用溶剤(a)中に第一アクロレイン含有ガスが流入し、第一アクロレイン含有ガスが捕集用溶剤(a)中を上昇する間に、アクロレインが捕集用溶剤(a)に吸収され、当該溶剤(a)に吸収されなかったガスが未捕集ガス(a)となる。アクロレインを吸収した捕集用溶剤(a)は、放散塔400に向けてライン7から放出される。一方の未捕集ガス(a)も、放散塔400に向けてライン27から放出される。
【0077】
放散塔400
放散塔400は、凝縮捕集されたアクロレインを含有する捕集用溶剤(a)を貯留し、当該溶剤(a)に放散用ガスを吹き込んで第二アクロレイン含有ガスを発生させるものである。第二アクロレイン含有ガスは、ライン8を通じて酸化反応器500に供給される。ライン28から供給される放散用ガスは、ライン25を通じてライン28に合流する未捕集ガス(b)、ライン26を通じてライン28に合流する空気、およびライン27を通じてライン28に合流する未捕集ガス(a)が成分になる。この放散用ガスの温度は、第二アクロレイン含有ガスの温度が30〜50℃になるように調整されていると良い。
【0078】
酸化反応器500
図2における酸化反応器500は、それ自体、図1における酸化反応器500と異なるところが無い。但し、酸化反応器500に流入してくるガスは、放散塔400からライン8を通じてライン9に流入する第二アクロレイン含有ガス、ライン9を直接的に流通する空気、およびAA捕集塔600からライン30を通じてライン9に流入する未捕集ガス(b)である。
【0079】
AA捕集塔600
図2におけるAA捕集塔600は、それ自体、図1におけるAA捕集塔600と異なるところが無い。但し、AA捕集塔600から放出する未捕集ガス(b)の一部は、放散塔400の放散用ガスとして使用される。
【0080】
図2の工程フローの詳細は、以上の通りである。本発明に係る製法を実施するには、図2の工程フローに限定されない。つまり、図2の所定ラインを適宜削除することが可能である他、他の装置を追加することが可能である。
【0081】
上記図2の所定ラインを削除する態様としては、例えば、ライン26、ライン18、ライン30、およびライン25を省く態様;ライン26、ライン18、およびライン25を省く態様;ライン26、ライン18、およびライン30を省く態様;ライン9のライン26接続部からライン8接続部、ライン18、ライン30、およびライン25を省く態様;ライン9のライン26接続部からライン8接続部、ライン18、およびライン25を省く態様;ライン9のライン26接続部からライン8接続部、ライン18、およびライン30を省く態様;ライン9のライン18接続部からライン8接続部、ライン26、ライン30、およびライン25を省く態様;ライン9のライン18接続部からライン8接続部、ライン26、およびライン25を省く態様;ライン9のライン18接続部からライン8接続部、ライン26、およびライン30を省く態様;ライン26、ライン30、およびライン25を省く態様;ライン26、およびライン25を省く態様;ライン26、およびライン30を省く態様;ライン9のライン26接続部からライン8接続部、ライン30、およびライン25を省く態様;ライン9のライン26接続部からライン8接続部、およびライン25を省く態様;ライン9のライン26接続部からライン8接続部、およびライン30を省く態様;が挙げられる。
【0082】
上記図2の他の装置を追加する態様は、例えば、アクロレイン含有ガスの温度を下げるための熱交換器を、ライン4の途中に設ける態様;ライン15からの流出物の一部を放散塔400に送る循環機構を設ける態様;ライン11からの流出物の一部をAA捕集塔600に送る循環機構を設ける態様;が挙げられる。
【0083】
また、本発明に係る製法を実施するには他のラインを追加することも可能である。例えば、ライン27に分岐するガス放出ラインを設ける態様が挙げられる。このガス放出ラインは、非凝縮性不活性ガス(ライン2、9から供給された窒素等のガス、グリセリンの酸化反応で生成する二酸化炭素等)の放出ラインになる。また、グリセリンの脱水反応条件およびアクロレインの酸化反応条件の調整の目的で、脱水反応器100および酸化反応器500に供給するガス量およびガス種を調整するためのガス放出ラインになる。なお、前記ガス放出ラインを設ける態様においては、ライン16からのガス放出が不要になる場合がある。
【0084】
図3において、脱水反応器100、分離塔200、Acr捕集塔300、放散塔400、酸化反応器500、AA捕集塔600、Acr捕集塔300からの未捕集ガス(a)を燃焼処理するための燃焼器700、およびこれら脱水反応器100等に接続された配管ライン1a等は、次の通り配置する。
【0085】
脱水反応器100には、上記図1の脱水反応器100と同様に、ライン1aまたは1b、ライン4aまたは4bが接続されている。また、ライン2、2a、2b、3、3a、3b、5a、5b、および4の接続関係も、上記図1と同様である。
【0086】
分離塔200には、上記図1と同様、ライン4、およびライン14が接続されている。そして、分離塔200の頂部には、高沸点副生物(a)が分離された後の第一アクロレイン含有ガスをAcr捕集塔300に向けて供給するためのライン6が接続されている。
【0087】
Acr捕集塔300には、第一アクロレイン含有ガスを流入させるためのライン6が接続され、捕集されたアクロレインを放散塔400にむけて供給するためのライン7が下部に接続されている。そして、Acr捕集塔300から未捕集ガス(a)を放出するためのライン19が接続されている。
【0088】
上記ライン19の先端には、ライン20及びライン22bが連結する。ライン20の先端は、後記ライン13aと13bとの接続部に接続する。一方、ライン22bの先端には、放散塔400へのガスの直接供給路になるライン23が接続する。また、ライン22bの中間部に燃焼器700が設けられ、ライン22bにおける燃焼器700の放散塔400側に燃焼器700を通過した後の未捕集ガス(a)を排出可能なライン22aが接続されている。
【0089】
放散塔400には、ライン7が接続され、燃焼後の未捕集ガス(a)を流入させるためのライン23が下部に接続されている。また、放散塔400には、内部に蓄積された廃棄物を排出するためのライン15が底部に接続され、内部でガス化されたアクロレインを含有する第二アクロレイン含有ガスを酸化反応器500に向けて供給するためのライン8が頂部に接続されている。
【0090】
酸化反応器500には、図1と同様、ライン9、および10が接続されている。ライン9には、このライン9に第二アクロレイン含有ガスを流入させるためのライン8が接続されている。また、ライン9の途中からは、脱水反応器100への空気流路になるライン18、および燃焼器700のAcr捕集塔300側でライン22bに接続する空気流通ライン21が分岐する。
【0091】
AA捕集塔600には、図1と同様、ライン11および12が接続されている。ライン12には、図1と同様にライン16が接続されている。またライン12の先端部には、未捕集ガス(b)の分岐流路になるライン13aおよび24が延設されている。ライン13aは、ライン1aおよび1bに未捕集ガス(b)を供給するためのものであり、ライン13aの先端にはライン1aおよび1bに未捕集ガス(b)を供給するためにライン13b、およびライン13cが連設されている。ライン13aとライン13bとの連結部には前記ライン20の先端も接続されている。一方のライン24は、ライン22bとライン23との連結部に接続し、ライン23への未捕集ガス(b)流路になる。
【0092】
なお、本実施形態に係る発明を実施するためには、図3に示されていないが、各ライン内を流通するガスや液の量を制御するための制御弁や、ガスを流通させるためのポンプ等を適宜設けることになる。
【0093】
図3に表される各構成をその構成動作と共に更に説明する。脱水反応器100については、図1の脱水反応器100の動作と同様である。
【0094】
分離塔200
図3における分離塔200は、それ自体、図1における分離塔200と異なるところがない。但し、高沸点副生物(a)が除去された後の第一アクロレイン含有ガスは、Acr捕集塔300に流入する。
【0095】
Acr捕集塔300
Acr捕集塔300は、ライン6を通じて導入された第一アクロレイン含有ガス中のアクロレインを捕集用溶剤(a)中に凝縮捕集すると共に、非凝縮のガスを未捕集ガス(a)として放出する。捕集されたアクロレインを含有する捕集用溶剤(a)は、放散塔400への流路であるライン7から放出される。一方、未捕集ガス(a)の一部は、ライン20を通じてライン13bおよびライン13cを通じて、脱水反応器100に供給される。また未捕集ガス(a)の一部は、燃焼器700で燃焼処理され、燃焼後のガスの一部は、ライン22aを通じて排気され、燃焼後のガスの残りは、ライン23に流入する。
【0096】
放散塔400
放散塔400は、ライン7を通じて流入したアクロレイン含有捕集用溶剤(a)を貯留し、当該溶剤(a)に放散用ガスを吹き込んで第二アクロレイン含有ガスを発生させる。第二アクロレイン含有ガスは、ライン8を通じて酸化反応器500に供給される。ライン23から供給される放散用ガスは、ライン22bを通じてライン23に合流する燃焼処理後の未捕集ガス(a)と、ライン24を通じてライン23に合流する未捕集ガス(b)と、ライン9、ライン21、およびライン22bを通じてライン23に合流する空気とが成分になる。ここでの放散用ガスの温度は、第二アクロレイン含有ガスの温度が30〜50℃になるように調整されていると良い。
【0097】
酸化反応器500
図3における酸化反応器500は、それ自体、図1における酸化反応器500と異なるところが無い。但し、酸化反応器500に流入してくるガスは、放散塔400からライン8を通じてライン9に流入する第二アクロレイン含有ガス、およびライン9を直接的に流通する空気である。
【0098】
AA捕集塔600
図2におけるAA捕集塔600は、それ自体、図1におけるAA捕集塔600と異なるところが無い。但し、AA捕集塔600から放出する未捕集ガス(b)の一部は、ライン24を通じて放散塔400の放散用ガスとして使用される。
【0099】
図3の工程フローの詳細は、以上の通りである。本発明に係る製法を実施するには、図3の工程フローに限定されない。つまり、図3の所定ラインを適宜削除することが可能である他、他の装置を追加することが可能である。
【0100】
上記図3の所定ラインを削除する態様としては、例えば、ライン22a、ライン18、およびライン13aを省く態様;ライン22bのライン22a接続部からライン23接続部、ライン18、ライン9のライン21接続部からライン8接続部、およびライン24を省く態様;ライン22a、およびライン18を省く態様;ライン22aを省く態様;ライン20、ライン18、ライン9のライン21接続部からライン8接続部、およびライン24を省く態様;ライン20、およびライン22aを省く態様;ライン20、ライン22a、およびライン18を省く態様;が挙げられる。
【0101】
上記図3の他の装置を追加する態様は、例えば、アクロレイン含有ガスの温度を下げるための熱交換器を、ライン4の途中に設ける態様;ライン14からの流出物の一部を分離塔200に送る循環機構を設ける態様;ライン15からの流出物の一部を放散塔400に送る循環機構を設ける態様;ライン11からの流出物の一部をAA捕集塔600に送る循環機構を設ける態様;ライン7の途中に捕集したアクロレインを一時貯留する貯留槽を設ける態様;が挙げられる。なお、前記ライン7の途中に貯留槽を設ける態様では、(1)放散塔400へのアクロレイン供給を一定にする場合には、酸化反応器500におけるアクロレインの酸化反応条件を安定化でき、(2)前記貯留槽から放散塔400にアクロレインが供給されれば、当該供給されたアクロレインがライン23からの放散用ガスと共に酸化反応器500に供給されることになるから、脱水反応器100においてアクロレインを製造していない場合であっても継続してアクリル酸を製造できる。
【0102】
本実施形態に係るアクリル酸の製造方法は、以上の通りである。製造されたアクリル酸は、既に公知となっている通り、アクリル酸エステル、ポリアクリル酸等のアクリル酸誘導体の製造原料として使用可能である。従って、上記アクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体の製造方法中に取り入れることが当然可能である。なお、上記本実施形態に係るアクリル酸の製法で得られたアクリル酸をアクリル酸誘導体原料に使用する場合、このアクリル酸を蒸留法や晶析法等の公知の精製法で精製した後にアクリル酸誘導体原料に使用しても良い。
【0103】
実験例
次に、実験例により、アクリル酸製造開始当初のアクロレイン収率向上を示す。当該アクロレイン収率の向上は、アクリル酸の製造方法におけるアクロレイン酸化反応初期のアクリル酸収率が高まることを示すものである。
【0104】
実験例として、グリセリンからアクロレインを製造した。使用した脱水用触媒、脱水用触媒の前処理方法、およびアクロレインの製造方法の詳細は、以下の実験例1〜5、および比較実験例1〜5の通りである。
【0105】
(脱水用触媒)
次の通りMFI型アルミノシリケートおよび活性アルミナを製造した。
【0106】
MFI型アルミノシリケート:
0.58gのNaOHと1.95gのNaAlO2とを蒸留水15.00gに順次溶解し、更に、10.15gの40質量%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム水溶液を蒸留水に添加した。そして、この溶液に蒸留水を加えて、全量が30mlの含浸液を調製した。次に、シリカビーズ(富士シリシア化学社製「キャリアクトQ−50」、10〜20メッシュ、平均細孔径50nm)の成形体を120℃で1日間乾燥した後、この30gを前記含浸液に1時間浸漬して、シリカビーズ成形体に含浸液を含浸させた。その後、当該シリカビーズを蒸発皿上で乾燥(乾燥温度100℃)し、更に80℃、窒素気流下で5時間乾燥して結晶性メタロシリケート前駆体を得た。この前駆体を、底部に1.00gの蒸留水を貯留する容積100mlのテトラフルオロエチレン製ジャケット付坩堝の中空部に配置し、この坩堝を、180℃の電気炉に8時間静置して前駆体を結晶化させた。この結晶化物を、60℃、1mol/L硝酸アンモニウム水溶液300gに1時間浸漬し、当該浸漬操作を繰り返した後に、結晶化物を水洗した。その後、結晶化物を空気気流中において540℃で3.5時間焼成してMFI型アルミノシリケート(H−ZSM5)製造した。
【0107】
活性アルミナ:
市販の顆粒状活性アルミナ(メルク社製「ALUMINIUMOXIDE90 ACTIVE ACIDIC, 0.063-0.200MM,ACTIVITY STAGEI」、製造番号101078)を、空気雰囲気下、500℃で2時間焼成した。得られた焼成物を、内径3cm、高さ5mmの塩化ビニル製の筒に充填して加圧成形後、破砕し、分級することにより、0.7〜1.4mmの活性アルミナを得た。
【0108】
(脱水用触媒の前処理)
上記MFI型アルミノシリケートまたは活性アルミナを15ml充填したステンレス製反応管(内径10mm、長さ500mm)を固定床反応器とした。前処理の準備として、360℃の塩浴に浸漬した前記固定床反応器内に61.5ml/minの流量で窒素ガスを30分間流通させた。続けて、前処理として、固定床反応器内に前処理用のガスを30分間流通させた。ここで使用した前処理用ガスおよびその流量は、次の通りである。
【0109】
実験例1
脱水用触媒:MFI型アルミノシリケート
前処理用ガス組成:アクロレイン10.1mol%、水63.4mol%、窒素26.5mol%
前処理用ガス流量:928hr-1(GHSV値)
【0110】
実験例2
脱水用触媒:MFI型アルミノシリケート
前処理用ガス組成:1−ヒドロキシアセトン21mol%、水48.2mol%、窒素30.8mol%
前処理用ガス流量:799hr-1(GHSV値)
【0111】
実験例3
脱水用触媒:MFI型アルミノシリケート
前処理用ガス組成:1−ヒドロキシアセトン21mol%、水48.2mol%、窒素24.3mol%、酸素6.5mol%
前処理用ガス流量:799hr-1(GHSV値)
【0112】
実験例4
脱水用触媒:活性アルミナ
前処理用ガス組成:アクロレイン10.1mol%、水63.4mol%、窒素26.5mol%
前処理用ガス流量:928hr-1(GHSV値)
【0113】
実験例5
脱水用触媒:活性アルミナ
前処理用ガス組成:1−ヒドロキシアセトン21mol%、水48.2mol%、窒素30.8mol%
前処理用ガス流量:799hr-1(GHSV値)
【0114】
比較実験例1
脱水用触媒:MFI型アルミノシリケート
前処理用ガスの流通無し
【0115】
比較実験例2
脱水用触媒:MFI型アルミノシリケート
前処理用ガス組成:窒素100mol%
前処理用ガス流量:61.5ml/min
【0116】
比較実験例3
脱水用触媒:MFI型アルミノシリケート
前処理用ガス組成:水81.4mol%、窒素18.6mol%
前処理用ガス流量:1326hr-1(GHSV値)
【0117】
比較実験例4
脱水用触媒:MFI型アルミノシリケート
前処理用ガス組成:空気
前処理用ガス流量:61.5ml/min
【0118】
比較実験例5
脱水用触媒:活性アルミナ
前処理用ガスの流通無し
【0119】
(アクロレインの製造)
360℃の塩浴に浸漬された前処理後の固定床反応器内に、80質量%グリセリン水溶液の気化ガスと窒素とを混合したグリセリン含有ガス(グリセリン含有ガス組成:グリセリン27mol%、水34mol%、窒素39mol%)を流通(GHSV:632hr-1)させて、グリセリン含有ガス中のグリセリンをアクロレインに転化させた。
【0120】
上記固定床反応器内にグリセリン含有ガスを流通させてから0〜30分、30〜60分および150〜180分の流出ガスを冷却液化捕集した(以下、「冷却液化捕集した流出ガス」を「流出物」という)。そして、流出物の定性および定量分析をガスクロマトグラフィ(GC)により行った。このGCによる分析の結果、アクロレインと共に、グリセリンおよび1−ヒドロキシアセトンが検出および定量された。この分析結果値を使用して、グリセリンの転化率、およびアクロレインの収率を算出した。なお、グリセリンの転化率およびアクロレインの収率は、次式(1)、(2)により算出した。
【0121】
【数1】

【0122】
【数2】

【0123】
以上の実験例および比較実験例の結果を表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2において、アクリル酸の製造過程で生成する化合物(アクロレイン)を含有するガスが含まれている前処理用ガスを使用した実験例1は、アクロレインを含有しない前処理ガスを使用した比較実験例1〜3に比して、0〜30分のアクロレイン収率が高かったことを確認することができる。また、アクリル酸製造過程で生成する化合物(1−ヒドロキシアセトン)が含まれている前処理用ガスを使用した実験例2および3も、1−ヒドロキシアセトンを含有しない前処理ガスを使用した比較実験例1〜3に比して、0〜30分のアクロレイン収率が高かったことを確認することができる。このようなアクロレインの高収率化は、実験例4および5においても同様であった。
【0126】
上記実験例1〜5、および比較実験例1〜5とは別に、下記実験例6の通りにアクロレインを製造した。
【0127】
(実験例6)
組成がアクロレイン0.5mol%、グリセリン26.5mol%、水34.3mol%、窒素38.7mol%であるガスをアクロレイン製造におけるグリセリン含有ガスとして使用した以外は、比較実験例1と同様にしてアクロレインを製造した。
【0128】
実験例6の結果を比較実験例1と併せて表3に示す。
【0129】
【表3】

【0130】
表3において、アクロレインを含むグリセリン含有ガスを使用した実験例6は、アクロレインを含まないグリセリン含有ガスを使用した比較実験例1に比して、0〜30分のアクロレイン収率が高かったことを確認することができる。この0〜30分における実験例6のアクロレイン収率が高かったことは、グリセリン含有ガスにアクロレインを含ませたことが主な原因ではない。なぜなら、後記参考実験例で示すとおり、アクロレイン製造開始当初の脱水用触媒と接触したアクロレインは、大部分が消滅するからである。
【0131】
また、表3において、実験例6のアクロレイン収率は、30〜60分および150〜180分においても、比較実験例1よりも高かったことを確認できる。30〜60分および150〜180分における実験例6のアクロレイン収率が高かったことは、グリセリン含有ガスにアクロレインを含ませたことが主な原因である(後記参考実験例参照)。
【0132】
上記実験例1〜6、および比較実験例1〜5とは別に、下記実験例7、実験例8、および比較実験例6の通りにアクロレインを製造した。
【0133】
(実験例7)
空気気流中において500℃、2時間の条件で、実験例2と同様のアクロレイン製造に使用した触媒を焼成し、触媒を再生した。この再生後の触媒を使用した以外は、実験例2と同様にしてアクロレインを製造した。
【0134】
(実験例8)
空気気流中において500℃、2時間の条件で、比較実験例1のアクロレイン製造に使用した触媒を焼成し、触媒を再生した。この再生後の触媒を使用した以外は、実験例2と同様にしてアクロレインを製造した。
【0135】
(比較実験例6)
空気気流中において500℃、2時間の条件で、実験例2と同様のアクロレイン製造に使用した触媒を焼成し、触媒を再生した。この再生後の触媒を使用した以外は、比較実験例1と同様にしてアクロレインを製造した。
【0136】
実験例7、実験例8、および比較実験例6の結果を表4に示す。
【0137】
【表4】

【0138】
表4の実験例7および8と比較実験例6との比較においても、前処理用ガスを使用した場合の実験例7および8は、前処理用ガスを使用しなかった比較実験例6に比して0〜30分のアクロレイン収率が高かったことを確認することができる。つまり、脱水用触媒が再生されたものであるか否かは、本発明の効果に影響を与えない。
【0139】
参考実験例
次に、脱水用触媒に接触したときのアクロレインの変化を確認するために行なった参考実験例を示す。
【0140】
参考実験例では、次の通り、アクロレイン含有ガス(グリセリンを含有しないガス)を脱水用触媒に接触させた。実験例1と同様にして調製したMFI型アルミノシリケートを15ml充填したステンレス製反応管(内径10mm、長さ500mm)を固定床反応器とした。先ず、360℃の塩浴に浸漬した前記固定床反応器内に61.5ml/minの流量で窒素ガスを30分間流通させた。その後、GHSV550hr-1でアクロレイン含有ガス(ガス組成:アクロレイン7.6容量%、水47.9容量%、窒素44.5容量%)を、固定床反応器に流通させた。
【0141】
固定床反応器内にアクロレイン含有ガスを流通させてから0〜30分、30〜60分および150〜180分の流出物を、GCにより、定性および定量分析した。当該定性分析では、アクロレインが検出された。また、次式(3)に従ってアクロレインの回収率を算出した。
【0142】
【数3】

【0143】
参考実験例の結果を次表5に示す。
【0144】
【表5】

【0145】
表5に示す通り、30〜60分および150〜180分のアクロレイン回収率は100%であり、脱水用触媒に接触したアクロレインは何ら変化しなかったことを確認できる。これに対して、0〜30分のアクロレイン回収率は1.44%であったことから、使用開始当初の脱水用触媒に接触したアクロレインは、大部分が反応消滅していた。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明製法の一実施形態に係るアクリル酸製造工程図である。
【図2】本発明製法の他の実施形態に係るアクリル酸製造工程図である。
【図3】本発明製法の更に他の実施形態に係るアクリル酸製造工程図である。
【符号の説明】
【0147】
100 脱水反応器
200 分離塔
300 Acr捕集塔
400 放散塔
500 酸化反応器
600 AA捕集塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン含有ガスをグリセリン脱水用触媒に接触させてアクロレインを製造する脱水反応工程と、
酸化反応により前記アクロレインからアクリル酸を製造する酸化反応工程とを有するアクリル酸の製造方法であって、
前記酸化反応工程を経るまでに生成した化合物を含有する生成物含有ガスを、前記グリセリン脱水用触媒に接触させることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
前記脱水反応工程において、前記グリセリン含有ガスに前記生成物含有ガスを含有させることにより、前記グリセリン脱水用触媒への生成物含有ガスの接触を行う請求項1に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項3】
前記脱水反応工程の前に、前記グリセリン脱水用触媒への生成物含有ガスの接触を行う請求項1または2に記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項4】
前記グリセリン脱水用触媒として、再生処理を施したグリセリン脱水用触媒を使用する請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項5】
前記脱水反応工程と酸化反応工程との間に、1−ヒドロキシアセトン及び/又はフェノールを前記アクロレインから除去する工程を有する請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル酸の製造方法を使用する工程を有するアクリル酸誘導体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−273885(P2008−273885A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120071(P2007−120071)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】