説明

アクリル酸の製造方法

【課題】
アクロレインを高負荷条件で接触気相酸化してアクリル酸を製造する際におけるスタートアップの方法(反応停止状態から所定の反応条件までアクロレイン供給量(負荷量)を高めてゆく工程)の改良が提供される。
【解決手段】
この方法は、当該反応のスタートアップに際して、アクロレイン転化率が90モル%以上に、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度が400℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔT(触媒層最大ピーク温度−反応温度)の合計が150℃以下に、それぞれ維持される様に、反応温度、反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の少なくとも1つを調整しながら、所定の反応原料ガス組成および反応原料ガス風量になるまでアクロレイン供給量を高めることを特徴としている。この方法によれば、反応が迅速に定常状態に到達し、反応開始当初から安定して高いアクリル酸収率が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化して、アクリル酸を反応当初より安定して高生産性あるいは高収率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸は、各種合成樹脂、塗料および可塑剤の原料として工業的に重要であり、近年では、吸水性樹脂の原料としてその重要性が高まっている。アクリル酸の製法としては、プロピレンの接触気相酸化により主としてアクロレインを得て、続いて、得られたアクロレインの接触気相酸化によってアクリル酸を製造する2段酸化方法が最も一般的である。近年、グリセリンの脱水反応により得られたアクロレインを、接触気相酸化して、アクリル酸を製造する方法などの新しい製法も提案されている。アクリル酸は、全世界で現在数百万トン/年の規模で生産されており、吸水性樹脂の原料としてその需要はさらに伸びている。このような需要の増大に対応するには、接触気相酸化反応の定常状態における反応原料の負荷を高めることによって、アクリル酸生産性を上げるのが簡便で一般的である。
【0003】
しかしながら、アクロレインの接触気相酸化反応は発熱反応であり、反応原料のアクロレイン負荷量を高めると発熱量も増大する。また、反応停止状態からスタートアップし所定の反応条件に到達した直後までは、触媒の活性が安定せず、スタートアップに際して、反応原料のアクロレイン負荷量を急激に増大させると、触媒層での異常な発熱が起こり易く局所的な発熱部位(ホットスポット部位)が発生し、高温反応によるアクリル酸収率の低下と触媒が高温に晒されたことによる触媒の劣化を招く。このような問題は、高負荷条件で気相酸化反応を行う場合には、より顕著になる。
【0004】
このような、アクロレインを分子状酸素で接触気相酸化してアクリル酸を製造する方法において、より安定して高生産性であるいは高収率で製造する方法が望まれており、スタートアップ方法についても幾つか工夫する方法が提案されている。
【0005】
例えば、下記の特許文献1および2には、反応のスタートアップ時に、原料の単位時間当たりの供給量を低く抑えて一定期間保つ方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−336085号公報
【特許文献2】特表2007−502254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アクロレインを高負荷条件で接触気相酸化してアクリル酸を製造する方法において、反応停止状態から所定の反応条件までアクロレイン供給量(負荷量)を高めるスタートアップに際し、急激に原料アクロレイン供給量を増大させると、上記のようにアクリル酸収率の低下と触媒の劣化を招く。
【0008】
一方、特許文献1および2に記載のように、触媒層での異常な発熱を抑制するために、所定の反応条件に到達するまで負荷が低い(原料供給量が少ない)状態を長時間継続した場合には、その間のアクリル酸生産量が低下するだけでなく、触媒の活性化が十分に行えず、所定の反応条件に到達しても触媒の持つ本来の性能が十分発揮できず、安定した高い
触媒性能が達成されるまでに長時間を要し、また、触媒活性が不安定なため、場合によっては局所的な発熱のため触媒が劣化する。
【0009】
また、近年、固定床反応器を用いたアクロレインの接触気相酸化によるアクリル酸の製造方法において、反応管内に活性の異なる複数の反応帯が形成されるように触媒を充填した反応器を用いる方法が多数提案されている。このような複数の反応帯が形成された反応器を用いる場合、スタートアップに際しては、触媒活性が不安定なため、各反応帯での活性のバランスをとるのが難しく、一部の反応帯で急激に反応が進行するためにその反応帯で過度の発熱により触媒が劣化する問題がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、反応管内に活性の異なる複数の反応帯が形成されるように触媒を充填した反応器を用いる場合でも、迅速に定常状態に到達し、かつ、触媒の劣化も少なく反応開始当初から安定して高いアクリル酸収率が達成されるスタートアップ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、アクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスの存在下で接触気相酸化してアクリル酸を製造する方法において、当該反応のスタートアップに際して、特定の反応状態が得られるように反応条件を調整しながらスタートアップを行うことで、迅速に所定の反応条件に到達し、かつ、反応スタート当初から安定して高いアクリル酸収率が達成されることを見出した。
【0012】
斯くして、本発明によれば、各反応管の管軸方向に活性の異なる2層以上の反応帯が形成されるように触媒を充填した固定床反応器を用い、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化するアクリル酸の製造方法において、当該反応のスタートアップに際して、アクロレイン転化率が90モル%以上に、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度が400℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔT(触媒層最大ピーク温度−反応温度)の合計が150℃以下に、それぞれ維持されるように、反応温度、反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の少なくとも1つを調整しながら、所定の反応原料ガス組成および反応原料ガス風量になるまでアクロレイン供給量を高めることを特徴とするアクリル酸の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記のような本発明によれば、各反応管の管軸方向に活性の異なる2層以上の反応帯が形成されるように触媒を充填した固定床反応器を用いて、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスで接触気相酸化することによってアクリル酸を製造するに際して、スタートアップが短時間で行えるため、迅速に所定の反応条件に到達し、かつ、スタートアップ時の触媒の過熱による劣化を防ぎ、さらには、反応スタート当初から安定して高収率でアクリル酸を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるアクリル酸の製造方法について詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の説明内容には制限されず、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0015】
本発明方法は、各反応管の管軸方向に活性の異なる2層以上の反応帯が形成されるように触媒を充填した固定床反応器を用い、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化するアクリル酸の製造方法において、当該反応のスタートアップに際して、アクロレイン転化率が90モル%以上に、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度が400℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔT
(触媒層最大ピーク温度−反応温度)の合計が150℃以下に、それぞれ維持されるように、反応温度、反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の少なくとも1つを調整しながら、所定の反応原料ガス組成および反応原料ガス風量になるまでアクロレイン供給量を高めることを特徴とする。
【0016】
本発明で使用することができる触媒は、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを、分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクリル酸を製造する触媒であれば特に制限されず、従来より公知の酸化物触媒を使用することができる。具体的には、下記一般式(1)で表される触媒活性成分を有する酸化物触媒が好適に使用できる。Mo12Cu (1)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Cuは銅、Aはコバルト、鉄、ニッケル、鉛およびビスマスからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Bはアンチモン、ニオブおよびスズからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Cはケイ素、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Dはアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Oは酸素を表し、a、b、c、d、e、f、gおよびxはそれぞれMo、V、W、Cu、A、B、C、D及びOの原子数を表し、2≦a≦15、0≦b≦10、0<c≦6、0≦d≦30、0≦e≦6、0≦f≦60、0≦g≦6でありxは各元素の酸化状態により定まる値をとる。)
触媒の形状についても特に制限はなく、球状、円柱状、リング状、不定形などのいずれの形状でもよい。もちろん球状の場合、真球である必要はなく実質的に球状であればよく、円柱状およびリング状についても同様である。
【0017】
触媒の調製方法についても特に限定されず、従来より公知の方法を用いることができる。成型方法としては、押し出し成型法、打錠成型法、マルメライザー法、造粒法(転動造粒法および遠心流動コーティング法)、含浸法、蒸発乾固法等を採用することができる。これらの方法は適宜選択し、組み合わせて使用することもできるが、なかでも、触媒活性成分を一定の形状を有する任意の不活性担体に担持させる造粒法が好ましい。不活性担体としては具体的には、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、チタニア、マグネシア、ステアタイトおよび炭化ケイ素等を含んでなる一定の形状を有する担体を用いることができる。
【0018】
本発明においては、各反応管の管軸方向に活性の異なる2層以上の反応帯が形成されるように触媒を充填した固定床反応器として、反応ガス入口側から出口側に向かって反応帯の活性が順次高くなるように触媒が充填された固定床反応器を用いることが好適である。各反応帯で活性を変える手法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、触媒を不活性な物質で希釈する方法(特公昭53−30688号公報)、触媒の大きさを変える方法(特開平9−241209号公報)、触媒活性成分の担持率(触媒当りの活性物質の重量割合)を変える方法(特開平7−10802号公報)などが提案されている。各反応帯の長さは、上記のようにして選ばれた触媒がその効果を最大に発揮するように適宜決定すればよく、通常、反応ガス入口側に充填される触媒の反応帯の長さは、全触媒層長の10〜80%であり、好ましくは15〜70%である。また、各反応帯に充填される触媒は、その組成や形状が、同一でも、異なっていてもよく、触媒成分を一定の形状にした成型触媒であっても、触媒成分を一定の形状を有する任意の不活性な担体上に担持させた担持触媒でも、あるいはこれら成型触媒と担持触媒との組み合せであってもよいが、通常、同一反応帯には同一の組成および形状の成型触媒または担持触媒を充填するのが好ましい。
【0019】
本発明で使用できる反応器としては、反応管内に固体粒子(触媒粒子や不活性粒子など)を充填する管内充填方式のもので、少なくとも一つの反応管に固体粒子層の温度を測定できるよう温度計測装置があればよく、特に制限されるべきものではない。工業規模でアクリル酸を製造する際は、シングルリアクター、タンデムリアクターなど、従来公知の多管式反応器を適宜利用することができる。特に、本発明では、熱の除去または熱供給を制御するために、熱交換器を兼ねて設計された多管式反応器が有利に使用される。該多管式反応器では、固体粒子が充填された反応管内部には供給ガスが導入され、反応生成物(中間体を含む)が導出され、一方、管間の空隙には、熱媒(胴側流体)が貫流するように流され、反応管との間で熱交換しながら反応温度を所定温度に保持するようにして使用される。なお、本発明における反応温度とは、反応器または反応帯における熱媒入口温度を指す。
【0020】
本発明の上記計測用反応管に用いることのできる温度計装置としては、特に制限されるべきものではなく、使用目的に応じて従来公知のものを適宜利用することができる。温度計装置として適当なものとしては、反応管内で温度を測定するための温度検出部を有する熱電対(温度計)、抵抗温度計などが挙げられる。本発明でいう温度計装置とは、少なくとも温度検出部を有するものであればよく、触媒層最大ピーク温度が検出可能なように、反応管内の管軸方向に自由に移動できるタイプが好ましい。多管式反応器では、反応器内全体の温度分布を把握できるように、反応管束内に複数本の計測用反応管を設定することが好ましく、この場合各反応帯の触媒層でのΔTとして、該複数本の計測用反応管で得られたもの(触媒層最大ピーク温度−反応温度)のうち最も高い数値を採用する。
【0021】
本発明で使用する反応原料は、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスである。このアクロレインまたはアクロレイン含有ガスとしては、プロピレンの接触気相酸化反応やグリセリンの脱水反応などによって得られるアクロレイン含有の生成ガスをそのままで、あるいは、アクロレインを分離し、必要に応じて、酸素、水蒸気その他のガスを添加して、用いることもできる。さらに、これらを組み合わせて用いることもできる。
【0022】
本発明に従う、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを反応原料とし、分子状酸素または分子状酸素含有ガスでの接触気相酸化によってアクリル酸を製造する方法においては、本発明の趣旨に適合し得る限り反応条件に制限はなく、この種の反応に一般に用いられている条件を採用することができる。例えば、アクロレインからアクリル酸を製造する反応では、原料ガスとして1〜15体積%、好ましくは4〜12体積%のアクロレイン、0.5〜25体積%、好ましくは2〜20体積%の分子状酸素、0〜30体積%、好ましくは0〜25体積%の水蒸気、残部が窒素などの不活性ガスからなる混合ガスを230〜380、好ましくは230〜350℃の温度範囲で0.1から1.0MPaの反応圧力下で酸化触媒に接触させればよい。本発明は、特にアクロレイン高負荷条件での反応に有効であり、定常状態での設定条件として90hr−1(標準状態)以上、好ましくは100hr−1(標準状態)以上のアクロレイン空間速度での反応を行う際のスタートアップに有効である。また、使用する触媒にもよるが、通常、600hr−1(標準状態)、多くの場合300hr−1(標準状態)、を上回るアクロレイン空間速度の採用は、反応による発熱などにより触媒性能が充分に発揮できないため好ましくない。
【0023】
このような高負荷条件下では、スタートアップの際に原料アクロレインの供給を急激に上げると、原料供給率が設定された定常条件の85%程度に達したときに、原料供給率の急激な増大に伴なって、触媒層の最大ピーク温度が400℃を超える高温となってしまう場合がある。本発明においては、触媒層温度の変化を確認しながら、かつ、反応温度、反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の少なくとも1つを調整しながら、所定の反応原料ガス組成および反応原料ガス風量になるまでアクロレイン供給量を高める。ただし、その際に、触媒層最大ピーク温度が400℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔT(最大ピーク温度−反応温度)の合計が150℃以下に、それぞれ維持される様に運転することが必要である。
【0024】
また、アクロレイン転化率は、通常、高温反応によるアクリル酸収率の低下と触媒が高温に晒されたことによる触媒の劣化を招く範囲でなければ、より高いほうが生産性の観点から有利であり、スタートアップ時においても90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97.5%以上を維持するのが良い。ここで、アクロレイン転化率およびアクリル酸収率は、反応器入口ガスおよび反応器出口ガスを連続的にサンプリングし、オンラインガスクロによりモニターすることができる。
【0025】
本願発明において、アクロレイン供給量(負荷)を設定条件(目標値)にまで高めるに当たっては、触媒層の最大ピーク温度および各反応帯の触媒層でのΔTを監視しながら、以下のように反応温度、反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の調整を行う。斯くして、触媒性能に悪影響を及ぼさず、かつ、短期間で定常状態に到達させることが可能となる。
反応温度の調整
例えば、反応帯が2つの場合には、触媒層ΔTに関して下記(1)又は(2)の状態が想定されるので、触媒層最大ピーク温度および各反応帯の触媒層でのΔTについての調整を行う。
【0026】
(1)第1層目ΔT>第2層目ΔT
(2)第1層目ΔT<第2層目ΔT
(1)の場合は、反応温度を下げ、(2)の場合は、反応温度を上げることで、第1層目ΔTと第2層目ΔTのバランスをとりながら、触媒層の最大ピーク温度が400℃を超えないようにする。第1層目ΔTと第2層目ΔTの合計値が150℃を超えない範囲で、さらに原料供給量を増大させる。これらの触媒層最大ピーク温度および各反応帯の触媒層でのΔTの合計を所定の範囲に収めるための反応温度の調整は、原料供給量を固定したままあるいは増大させながらのいずれでも行うことができる。
反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の調整
酸化反応装置能力やプロセスにもよるが、通常ある程度の条件変更は可能であり、原料ガス中のアクロレイン濃度、酸素/アクロレイン比又は水蒸気濃度を変更することにより、第1層目ΔTと第2層目ΔTのバランスをとりながら、触媒層の最大ピーク温度が400℃以上を超えないようにする。第1層目ΔTと第2層目ΔTの合計値が150℃を超えない範囲で、さらに原料供給量を増大させる。これらの触媒層最大ピーク温度および各反応帯の触媒層でのΔTの合計を所定の範囲に収めるための反応原料ガス組成の調整は、原料供給量を固定したままあるいは増大させながらのいずれでも行うことができる。
【0027】
また、多管式反応器においては、反応器内全体の熱媒の温度分布や、触媒充填のばらつき等により、特にスタートアップ時や高負荷反応時に、同一反応器において、上記(1)および(2)両方の触媒層ΔTを示す反応管が存在することがある。この場合においても、全ての温度計測管が本発明の基準を満たすように、反応温度、反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の少なくとも1つを調整しながら、所定の反応原料ガス組成および反応原料ガス風量になるまでアクロレイン供給量を高めればよい。このとき各反応帯の触媒層でのΔT(触媒層最大ピーク温度−反応温度)の合計が150℃を超えそうな場合は、その時点でさらなる原料供給率の増大はできないものの、ΔTの合計値が低下傾向を示すようになれば、再び原料供給率を増大させることで、極めて短期間で定常状態に到達させることが可能である。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。なお、アクロレイン転化率およびアクリル酸収率は以下の式により算定した。
アクロレイン転化率(モル%)
=(反応したアクロレインのモル数/供給したアクロレインのモル数)×100
アクリル酸収率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数/供給したアクロレインのモル数)×100
<実施例1>
[触媒1の調製]
蒸留水2500部を加熱攪拌しながら、この中にパラモリブデン酸アンモニウム350部、メタバナジン酸アンモニウム58.0部およびパラタングステン酸アンモニウム89.2部を溶解した。別に、蒸留水250部を加熱攪拌しながら、この中に硝酸銅59.9部および硝酸コバルト28.9部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン36.1部および二酸化チタン17.2部を添加し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を加熱、攪拌、蒸発せしめた。このようにして得られた乾燥物を230℃で乾燥後に150μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径5.0mmのシリカ−アルミナ球状担体1150部を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液とともに触媒粉体を90℃の熱風を通しながら徐々に投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下410℃で6時間熱処理をして触媒1を得た。この触媒1の担持率は約32質量%であり、酸素および担体を除く金属元素組成は次のとおりであった。
Mo12Sb1.5Cu1.5Ti1.3Co0.6
[触媒2の調製]
同様に、平均粒径8.0mmのシリカ−アルミナ球状担体を用いた以外は触媒1と同様にして触媒2を得た。触媒2の担持率は約32質量%であった。
[反応器]
全長3000mm、内径25mmの鋼鉄製の反応管、これを覆う熱媒体を流すためのシェル、および反応管内で温度を測定するための温度検出部を有する熱電対が反応管内の管軸線方向に自由に移動できるようにした温度計測装置からなる反応器を鉛直方向に用意し、触媒層温度を常時モニターした。反応器上部より触媒2および触媒1を順次落下させて、第1反応帯(触媒2を充填した触媒層)および第2反応帯(触媒1を充填した触媒層)を形成し、それぞれの反応帯の層長が800mmおよび2100mmとなるように充填した。アクロレイン転化率およびアクリル酸収率は、反応器入口ガスおよび反応器出口ガスを連続的にサンプリングし、オンラインガスクロによりモニターした。
[酸化反応]
熱媒体温度を270℃に保ち、触媒を充填した反応管に、空気0.870m(標準状態)/hr、窒素0.788m(標準状態)/hrおよび水蒸気0.454m(標準状態)/hrからなる混合ガスを反応器下部より供給した。続いてアクロレインの供給を開始し、3時間後に0.128m(標準状態)/hrとなるようにした。3時間後の反応ガス組成は、アクロレイン5.7容量%、酸素8.1容量%、水蒸気20容量%、残りは窒素等の不活性ガスであり、アクロレイン転化率は99.2%、アクリル酸収率は93.9%であった。各反応帯での触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が335℃、第2反応帯が295℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は90℃であった。
【0029】
次に熱媒体温度を273℃に変更し、アクロレイン供給量を徐々に増加させる途中において、アクロレイン供給量が0.148m(標準状態)/hrとなった時点で、第2反応帯の触媒層最大ピーク温度は300℃であったが、第1反応帯の触媒層最大ピーク温度が380℃まで上昇し400℃を超えそうになったので、熱媒体温度を268℃に変更した。このとき、アクロレイン供給開始より約30時間経過しており、反応ガス組成は、アクロレイン6.5容量%、酸素8.0容量%、水蒸気20容量%、残りは窒素等の不活性ガスで、アクロレイン転化率は97.8%、アクリル酸収率は92.7%であった。第1反応帯の触媒層最大ピーク温度は一時的に385℃まで上昇し、各反応帯触媒層のΔTの合計は134℃であった。
【0030】
次に熱媒体温度268℃のまま、アクロレイン供給量を増加させたが、アクロレイン供給量を0.151m(標準状態)/hrまで増加させた時点で、アクロレイン転化率が90%未満になりそうであったので、経時46時間で窒素流量を0.712m(標準状態)/hrとなるようにし、熱媒体温度を270℃に変更し、アクロレイン供給量を増加させた。経時50時間でのアクロレイン供給量は0.155m(標準状態)/hr、反応ガス組成は、アクロレイン7.1容量%、酸素8.3容量%、水蒸気21容量%、残りは窒素等の不活性ガスであり、アクロレイン転化率は97.2%、アクリル酸収率は92.1%、触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が355℃、第2反応帯が320℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は135℃であった。
【0031】
さらにアクロレイン供給量を目標値の0.160m(標準状態)/hrまで増大させ、窒素流量を0.788m/hr(標準状態)まで増大させて所定の反応条件に到達せしめることにより、スタートアップを完了した。反応ガス組成は、アクロレイン7.1容量%、酸素8.0容量%、水蒸気20容量%、残りは窒素等の不活性ガスであった。
【0032】
スタートアップ中、アクロレイン転化率は90モル%以上に、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度は400℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔTの合計は150℃以下に、それぞれ維持された。
【0033】
スタートアップ完了時は、アクロレイン供給開始より65時間経過しており、アクロレイン転化率は98.0%、アクリル酸収率は92.9%、熱媒体温度は271℃、触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が357℃、第2反応帯が323℃、各反応帯触媒層のΔTの合計は138℃であった。
【0034】
その後、アクロレイン転化率が97.5%以上となるように熱媒体温度をコントロールしながら定常状態を維持し、4000時間反応を継続した。4000時間経過後において、熱媒体温度は278℃、触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が335℃、第2反応帯が313℃、各反応帯触媒層のΔTの合計は92℃であり、アクロレイン転化率は98.7%、アクリル酸収率は93.3%であった。
上記した段落[0028]から段落[0034]に至るまでの反応過程におけるデータを、下表に示す。
【表1】

<比較例1>
実施例1と同様に反応を開始し、アクロレイン供給量を徐々に増加させる途中において、アクロレイン供給量を0.148m(標準状態)/hrまで増加させた時点で、第2反応帯の触媒層最大ピーク温度は300℃であったが、第1反応帯の触媒層最大ピーク温度が380℃まで上昇し400℃を超えそうになった。しかし、そのままのアクロレイン供給量を維持したところ、第1反応帯の触媒層最大ピーク温度は410℃に達した。このとき、アクロレイン供給開始より約30時間経過しており、アクロレイン転化率は98.0%で、各反応帯の触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が410℃、第2反応帯が283℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は147℃であった。
【0035】
以降は実施例1と同様にアクロレイン供給量を目標値である0.160m(標準状態)/hrまで増大させて所定の反応条件に到達せしめることにより、スタートアップを完了した。このとき、アクロレイン供給開始より80時間経過しており、アクロレイン転化率は97.9%、アクリル酸収率は92.6%、熱媒体温度は273℃、各反応帯の触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が345℃、第2反応帯が340℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は139℃であった。
【0036】
その後、アクロレイン転化率が97.5%以上となるように熱媒体温度をコントロールしながら定常状態を維持し、4000時間反応を継続した。4000時間経過後において、熱媒体温度は284℃、各反応帯の触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が339℃、第2反応帯が320℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は91℃であった。アクロレイン転化率は98.4%、アクリル酸収率は92.9%であり、実施例1と比較して、経時的な熱媒体温度上昇速度が速く、触媒性能が低かった。
<比較例2>
実施例1と同様に反応を開始し、アクロレイン供給量を徐々に増加させる途中において、アクロレイン供給量を0.151m(標準状態)/hrまで増加させた時点で、アクロレイン転化率が90%未満になりそうであったが、そのままアクロレイン供給量を増大させた。経時50時間のアクロレイン供給量は0.155m(標準状態)/hr、各反応帯の触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が340℃、第2反応帯が320℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は124℃であり、アクロレイン転化率は94.6%、アクリル酸収率は89.6%であった。以降は実施例1と同様にアクロレイン供給量を目標値である0.160m(標準状態)/hrまで増大させて所定の反応条件に到達せしめることにより、スタートアップを完了した。スタートアップの間、実施例1に較べて触媒層温度の挙動が不安定であり、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度を400℃以下に維持し、かつ、各反応帯の触媒層でのΔT(触媒層最大ピーク温度−反応温度)の合計を150℃以下に維持するためにより多くの時間を必要とし、スタートアップに約150時間かかった。
<実施例2>
[触媒3の調製]
蒸留水2000部を加熱攪拌しながら、この中にパラモリブデン酸アンモニウム300部、メタバナジン酸アンモニウム66.3部およびパラタングステン酸アンモニウム49.7部を溶解した。別に、蒸留水200部を加熱攪拌しながら、この中に硝酸銅68.4部を溶解した。得られた2つの水溶液を混合し、さらに三酸化アンチモン20.6部および二酸化チタン14.7部を添加し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を加熱、攪拌、蒸発せしめた。このようにして得られた乾燥物を230℃で乾燥後に150μm以下に粉砕し、触媒粉体を得た。遠心流動コーティング装置に平均粒径5.0mmのシリカ−アルミナ球状担体960部を投入し、次いで結合剤として15質量%のグリセリン水溶液とともに触媒粉体を90℃の熱風を通しながら徐々に投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下400℃で6時間熱処理をして触媒3を得た。この触媒3の担持率は約31質量%であり、酸素および担体を除く金属元素組成は次のとおりであった。
Mo121.3Sb1.0Cu2.0Ti1.3
[触媒4の調製]
同様に、平均粒径8.0mmのシリカ−アルミナ球状担体を用いた以外は触媒3と同様にして触媒4を得た。触媒4の担持率は約31質量%であった。
[反応器]
反応管数24本の各全長3000mm、内径25mmの鋼鉄製の反応管、これを覆う熱
媒体を流すためのシェルからなる反応器の上部より触媒4および触媒3を順次落下させて、第1反応帯(触媒4を充填した触媒層)および第2反応帯(触媒3を充填した触媒層)を形成し、それぞれの反応帯の層長が800mmおよび2100mmとなるように充填した。反応管のうち6本は反応管内で温度を測定するための温度検出部を有する熱電対が、反応管内の管軸方向に自由に移動できるようにした温度計測装置を備えてあり、触媒層温度を常時モニターした。アクロレイン転化率およびアクリル酸収率は、反応器入口ガスおよび反応器出口ガスを連続的にサンプリングし、オンラインガスクロによりモニターした。
[酸化反応]
熱媒体温度を267℃に保ち、触媒を充填した反応管に、空気20.9m(標準状態)/hr、窒素21.9m(標準状態)/hrおよび水蒸気8.2m(標準状態)/hrなる組成の混合ガスを反応器下部より供給した。続いてアクロレインの供給を開始し、4時間後に、アクロレイン供給量が3.1m(標準状態)/hrとなるようにした。4時間後の反応ガス組成は、アクロレイン5.7容量%、酸素8.1容量%、水蒸気15容量%、残りは窒素等の不活性ガスで、アクロレイン転化率は99.2%、アクリル酸収率は93.7%、各反応帯での触媒層の最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が318℃、第2反応帯が306℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は90℃であった。
【0037】
次に熱媒体温度を268℃に変更し、アクロレイン供給量を徐々に増加させる途中において、アクロレイン供給量を3.4m(標準状態)/hrまで高めた時点で、第2反応帯の最大ピーク温度が331℃まで上昇した反応管があり、各反応帯触媒層のΔTの合計が一時的に143℃まで上昇し150℃を超えそうになったので、熱媒体温度を270℃に変更した。このとき、アクロレイン供給開始より約50時間経過しており、反応ガス組成は、アクロレイン6.3容量%、酸素8.0容量%、水蒸気15.1容量%、残りは窒素等の不活性ガスであり、アクロレイン転化率は98.6%、アクリル酸収率は93.2%であった。第2反応帯の最大ピーク温度は333℃、第1反応帯の最大ピーク温度は350℃であった。
【0038】
次に熱媒体温度269℃に変更し、アクロレイン供給量を3.5m(標準状態)/hrまで増加させたところ、経時80時間で触媒層最大ピーク温度は350℃、各反応帯触媒層のΔTの合計は137℃であった。さらにアクロレイン供給量を目標値3.6m(標準状態)/hrまで増大させて所定の反応条件に到達せしめることにより、スタートアップを完了した。スタートアップ中、アクロレイン転化率は95モル%以上に、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度は390℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔTの合計は150℃以下に、それぞれ維持された。スタートアップ完了時は、アクロレイン供給開始より100時間経過しており、熱媒体温度は268℃、反応ガス組成は、アクロレイン6.6容量%、酸素8.0容量%、水蒸気15容量%、残りは窒素等の不活性ガスであり、アクロレイン転化率は98.3%、アクリル酸収率は92.9%であった。触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が349℃、第2反応帯が322℃、各反応帯触媒層のΔTの合計は135℃であった。
<比較例3>
実施例2と同様に反応を開始し、アクロレイン供給量を増大させる途中において、アクロレイン供給量を3.4m(標準状態)/hrまで増加させた時点で、第2反応帯の最大ピーク温度が335℃まで上昇した反応管があったが、そのままのアクロレイン供給量を維持したところ、各反応帯触媒層のΔTの合計が158℃に到達した。このとき、アクロレイン供給開始より約50時間経過しており、第2反応帯の最大ピーク温度は346℃、第1反応帯の最大ピーク温度は348℃であった。以降は実施例2と同様にアクロレイン供給量を目標値である3.6m(標準状態)/hrまで増大させて、所定の反応条件に到達せしめることにより、スタートアップを完了した。このとき、アクロレイン供給開始より120時間経過しており、熱媒体温度は268℃、触媒層最大ピーク温度は349℃、各反応帯触媒層のΔTの合計は143℃であった。アクロレイン転化率は98.2%、アクリル酸収率は92.1%であり、実施例2と比較して、所定の反応条件到達時の触媒性能が低かった。
<実施例3>
[反応器]
全長3000mm、内径25mmの鋼鉄製の反応管、これを覆う熱媒体を流すためのシェル、および反応管内で温度を測定するための温度検出部を有する熱電対が反応管内の管軸線方向に自由に移動できるようにした温度計測装置からなる反応器を鉛直方向に用意し、触媒層温度を常時モニターした。反応器上部より触媒2、触媒4および触媒1を順次落下させて、第1反応帯(触媒2を充填した触媒層)、第2反応帯(触媒4を充填した触媒層)および第3反応帯(触媒1を充填した触媒層)を形成し、それぞれの反応帯の層長が150mm、700mmおよび2100mmとなるように充填した。アクロレイン転化率およびアクリル酸収率は、反応器入口ガスおよび反応器出口ガスを連続的にサンプリングし、オンラインガスクロによりモニターした。
[酸化反応]
熱媒体温度を271℃に保ち、触媒を充填した反応管に、空気0.87m(標準状態)/hr、窒素0.87m(標準状態)/hrおよび水蒸気0.42m(標準状態)/hrからなる混合ガスを反応器下部より供給した。続いてアクロレインの供給を開始し、3時間後に0.131m(標準状態)/hrとなるようにした。3時間後の反応ガス組成は、アクロレイン5.7容量%、酸素7.9容量%、水蒸気18.3容量%、残りは窒素等の不活性ガスであり、アクロレイン転化率は99.1%、アクリル酸収率は93.8%であった。各反応帯での触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が280℃、第2反応帯が331℃、第3反応帯が294℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は92℃であった。
【0039】
次に熱媒体温度を273℃に変更し、アクロレイン供給量を徐々に増加させる途中において、アクロレイン供給量が0.151m(標準状態)/hrとなった時点で、第1反応帯および第3反応帯の触媒層最大ピーク温度はそれぞれ284および298℃であったが、第2反応帯の触媒層最大ピーク温度が380℃まで上昇し400℃を超えそうになったので、熱媒体温度を269℃に変更した。このとき、アクロレイン供給開始より約30時間経過しており、反応ガス組成は、アクロレイン6.5容量%、酸素7.8容量%、水蒸気18.1容量%、残りは窒素等の不活性ガスで、アクロレイン転化率は97.8%、アクリル酸収率は92.6%であった。第2反応帯の触媒層最大ピーク温度は一時的に383℃まで上昇し、各反応帯触媒層のΔTの合計は143℃であった。
【0040】
次に熱媒体温度269℃のままで、アクロレイン供給量を徐々に増加させる途中において、アクロレイン供給量を0.154m(標準状態)/hrまで増加させた時点で、アクロレイン転化率が90%未満になりそうであったので、経時45時間で窒素流量を0.72m(標準状態)/hrとなるようにし、熱媒体温度を271℃に変更し、アクロレイン供給量を増加させた。経時50時間でのアクロレイン供給量は0.158m(標準状態)/hr、反応ガス組成は、アクロレイン7.3容量%、酸素8.3容量%、水蒸気19.2容量%、残りは窒素等の不活性ガスであり、アクロレイン転化率は97.5%、アクリル酸収率は92.1%、触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が283℃、第2反応帯が352℃、第3反応帯が318℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は140℃であった。
【0041】
さらにアクロレイン供給量を目標値の0.164m(標準状態)/hrまで増大させて所定の反応条件に到達せしめることにより、スタートアップを完了した。反応ガス組成は、アクロレイン7.1容量%、酸素7.8容量%、水蒸気18容量%、残りは窒素等の不活性ガスであった。
【0042】
スタートアップ中、アクロレイン転化率は90モル%以上に、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度は400℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔTの合計は150℃以下に、それぞれ維持された。
【0043】
スタートアップ完了時は、アクロレイン供給開始より63時間経過しており、アクロレイン転化率は98.0%、アクリル酸収率は92.8%、熱媒体温度は272℃、触媒層最大ピーク温度はそれぞれ第1反応帯が285℃、第2反応帯が354℃、第3反応帯が319℃で、各反応帯触媒層のΔTの合計は142℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各反応管の管軸方向に活性の異なる2層以上の反応帯が形成されるように触媒を充填した固定床反応器を用い、アクロレインまたはアクロレイン含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクリル酸を製造する方法において、当該反応のスタートアップに際して、アクロレイン転化率が90モル%以上に、各反応帯における触媒層の最大ピーク温度が400℃以下に、かつ、各反応帯の触媒層でのΔT(触媒層最大ピーク温度−反応温度)の合計が150℃以下に、それぞれ維持されるように、反応温度、反応原料ガス組成および反応原料ガス風量の少なくとも1つを調整しながら、所定の反応原料ガス組成および反応原料ガス風量になるまでアクロレイン供給量を高めることを特徴とするアクリル酸の製造方法。
【請求項2】
反応ガス入口側から出口側に向かって反応帯の活性が順次高くなるように触媒が充填された固定床反応器を用いる請求項1記載の方法。
【請求項3】
定常状態において90hr−1(標準状態)以上のアクロレイン空間速度で接触気相酸化を行う請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記アクロレインまたはアクロレイン含有ガスが、プロピレンの分子状酸素または分子状酸素含有ガスによる接触気相酸化反応によって得られるものである請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アクロレインまたはアクロレイン含有ガスが、グリセリンの脱水反応によって得られるものである請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−248172(P2010−248172A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60669(P2010−60669)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】