説明

アゴニストTRKB抗体およびその使用

TrkBアゴニスト抗体およびその使用の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、U.S.仮出願番号60/858,169、2006年11月9日出願の利益を主張する(これを出典明示によりそれら全体を本出願に包含させる)。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
I.TrkB
チロシン受容体キナーゼB(TrkB)はTrkAおよびTrkCを含む1回膜貫通受容体チロシンキナーゼファミリーに属する。これらのチロシン受容体キナーゼ(trk)はニューロトロフィンの活性を介在する。ニューロトロフィンは神経生存および発達に必要であり、神経構築およびシナプス可塑性の調節を介してシナプス伝達を調節する。ニューロトロフィンは、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)およびニューロトロフィン−4/5(NT−4/5)を含むが、これに限定はしない(Lo, KY et al., J. Biol. Chem., 280:41744-52 (2005))。TrkBはBDNFの高親和性受容体である(Minichiello, et al., Neuron 21:335-45 (1998))。trkへのニューロトロフィンの結合は受容体を活性化し、これが二量体化し、受容体の細胞内ドメインにおける特定のチロシン残基を自己リン酸化する(Jing, et al. Neuron 9:1067-1079 (1992); Barbacid, J. Neurobiol. 25:1386-1403 (1994); Bothwell, Ann. Rev. Neurosci. 18:223 253 (1995); Segal and Greenberg, Ann. Rev. Neurosci. 19:463 489 (1996); Kaplan and Miller, Curr. Opinion Neurobiol. 10:381 391 (2000))。これらのホスホ−チロシン残基は、ニューロン死の抑制およびニューロトロフィンの他の効果を引き起こす細胞内シグナル伝達カスケードの要素に対するドッキング部位として働く。例えば、Shc、FRS−2、SH2B、rAPSおよびPLCγはリン酸化チロシン残基を介してTrkBと相互作用する。これらのアダプター分子と活性化TrkBの結合はマイトージェン活性化タンパク質キナーゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼおよびPLCγ経路を含むシグナル伝達経路の開始を引き起こし、それによりニューロトロフィンの作用を介在する(Lo, KY et al., J. Biol. Chem., 280:41744-52 (2005))。
【0003】
II.糖尿病
ヒト血流におけるグルコース濃度は、正常な健康状態を維持するために、比較的狭い範囲内で制御されなければならない(1デシリットルの血液あたり60−120ミリグラム)。血液グルコースが低すぎるまで低下すると、脱力感、脱力、頭痛、混乱状態および人格変化のような症状を伴う低血糖として既知の状態となる。過剰の血中グルコースまたは高血糖は、細胞、組織および臓器における過剰のグルコースとタンパク質間の化学反応による組織損傷を引き起こし得る。この損傷は盲目、腎不全、性的不全、アテローム性動脈硬化症および感染に対する高い脆弱性の糖尿病性合併症を引き起こすと考えられる。
【0004】
糖尿病は持続的なかつ病的に高い血液グルコース濃度と関連している;それは米国における主な死因の1つであり、全ての死亡率の約5%を占める。糖尿病は、若年性糖尿病またはインスリン依存性糖尿病(IDDM)とも呼ばれるI型および成人発症型糖尿病または非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)とも呼ばれるII型の2つの主なサブクラスに分けられる。
【0005】
II型糖尿病の診断は症状の評価ならびに尿および血液中のグルコースの測定を含む。血中グルコース濃度測定は正確な診断のために必要である。より具体的には、空腹時血中グルコース濃度測定が使用される標準方法である。しかしながら、経口グルコース負荷試験(OGTT)は空腹時血液グルコース濃度よりもさらに感受性であると見なされる。II型糖尿病は経口グルコース負荷(OGT)と関係する異常である。それ故、OGTTは、一般的に糖尿病の診断に必須ではないが、II型糖尿病の診断に利用できる(Emancipator K, Am J Clin Pathol 1997 November ;112(5):665 74; Type 2 Diabetes Mellitus, Decision Resources Inc., March 2000)。
【0006】
耐糖能異常は、II型糖尿病の診断で必要とされる濃度未満の空腹時血中グルコース濃度を有するが、OGTT中は正常者と糖尿病患者の間の血漿グルコース応答を有する個体で診断される。耐糖能異常は前糖尿病状態と考えられ、耐糖能異常(OGTTにより定義される)はII型糖尿病の発症に対する強い予知因子である(Haffner S M, Diabet Med 1997 August ; 14 Suppl 3:S12 8)。
【0007】
II型糖尿病は、膵臓機能および/または他のインスリン関連プロセスの低下と関連し、血漿グルコース濃度の増加により悪化する進行性疾患である。したがって、II型糖尿病は、通常、長期の前糖尿病状態を有し、種々の病態生理学メカニズムが病的高血糖および耐糖能異常、例えば、前糖尿病状態のグルコース利用および有効性、インスリン作用ならびに/またはインスリン生産の異常を引き起こし得る(Goldberg R B, Med Clin North Am 1998 July ;82(4):805 21)。
【0008】
耐糖能障害と関連している前糖尿病状態は、また、腹部肥満、インスリン抵抗性、脂質異常症および高血圧に対する素因と関連し得る(Groop L, Forsblom C, Lehtovirta M, Am J Hypertens 1997 September ;10(9 Pt 2):172S 180S; Haffner S M, J Diabetes Complications 1997 March-April, 11(2):69 76; Beck-Nielsen H, Henriksen J E, Alford F, Hother-Nielson O, Diabet Med 1996 September ;13 (9 Suppl 6):S78 84)。
【0009】
病的高血糖または耐糖能異常の低下に焦点を当てたII型糖尿病を発症する危険性がある個体での早期介入は、II型糖尿病および合併症への進行を予防または遅延し得る。したがって、経口グルコース負荷での異常および/または高い血中グルコース濃度を有効に処置することにより、II型糖尿病への障害の進行を予防または阻害することができる。例えば、米国特許第7,109,174号参照。
【0010】
インスリンおよびスルホニルウレア(経口血糖低下治療剤)は米国で今日処方されている糖尿病用薬物の2つの主な種類である。インスリンはI型およびII型糖尿病患者の両方に処方されるが、一方、スルホニルウレアは、通常、II型糖尿病患者のみに処方される。スルホニルウレアは天然インスリンの分泌を刺激し、インスリン抵抗を減少させる;これらの化合物は代謝におけるインスリン機能に代わるものではない。スルホニルウレアを投与している約1/3の患者がそれに対して耐性となる。II型糖尿病患者の幾分かはスルホニルウレア治療に応答しない。スルホニルウレアでの最初の処置に応答した患者の5−10%は、約10年後にスルホニルウレア有効性の喪失を経験する可能性がある。例えば、米国特許第7,115,284号参照。
【0011】
II型糖尿病を処置するために一般的に処方される多数の抗糖尿病剤、例えば、スルホニルウレアおよびチアゾリジネジオンは、体重を増加する望ましくない副作用を有する。前糖尿病状態の患者またはII型糖尿病と診断された患者の体重増加は代謝および内分泌腺調節異常を増強することによる悪影響を引き起こし、肥満それ自体がII型糖尿病の発症および進行性悪化に対する極めて重要な危険因子である。したがって、体重を維持するか、または減少させる抗糖尿病剤が望ましい。例えば、米国特許第7,199,174号参照。
【0012】
肥満は、糖尿病、心臓疾患、卒中、高血圧およびいくつかのタイプの癌を含む多くの重篤な状態に対する個体の危険性を高めるため、共通かつ非常に重篤な公衆健康問題である。過去20年間にわたる肥満個体の数の大幅な増加は根深い公衆健康的意義を創り出した。食事療法および運動による肥満の減少は関連した危険因子を劇的に減少させることが研究で証明されたが、肥満が食欲増加、高カロリー食嗜好、身体活動低下、および脂質合成代謝増加に関与する遺伝因子と強く関連することを考慮すると、これらの処置はたいてい成功しない。例えば、米国特許第7,115,767号参照。したがって、現在の高血糖、肥満および糖尿病処置の欠点に取り組むことが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0013】
発明の概要
本発明は、チロシンキナーゼ受容体B(TrkB)の単離されたアゴニスト抗体を提供する。いくつかの態様において、該抗体はヒト化抗体である。いくつかの態様において、該抗体は一本鎖抗体である。いくつかの態様において、該抗体はチロシンキナーゼ受容体Aまたはチロシンキナーゼ受容体Cに結合しない。
【0014】
いくつかの態様において、該抗体はTrkBのリガンド結合ドメイン(LBD)に結合する。いくつかの態様において、該抗体はTrkBへの脳由来神経栄養因子(BDNF)の結合と競合する。いくつかの態様において、該抗体はTrkBへの結合に対して配列番号3を含む重鎖可変領域および配列番号4を含む軽鎖可変領域を含む競合抗体と競合する。いくつかの態様において、該抗体は配列番号7を含む重鎖可変領域および配列番号8を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号11を含む重鎖可変領域および配列番号12を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号15を含む重鎖可変領域および配列番号16を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号7、11および15を含む重鎖可変領域および配列番号8、12および16を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号3を含む重鎖可変領域および配列番号4を含む軽鎖可変領域を含む。
【0015】
いくつかの態様において、該抗体はTrkBのリガンド結合ドメインに結合しない。いくつかの態様において、該抗体はTrkBへの脳由来神経栄養因子(BDNF)の結合と競合しない。いくつかの態様において、該抗体はTrkBへの結合に対して配列番号1を含む重鎖可変領域および配列番号2を含む軽鎖可変領域を含む競合抗体と競合する。いくつかの態様において、該抗体は配列番号5を含む重鎖可変領域および配列番号6を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号9を含む重鎖可変領域および配列番号10を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号13を含む重鎖可変領域および配列番号14を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号5、9および13を含む重鎖可変領域および配列番号6、10および14を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの態様において、該抗体は配列番号1を含む重鎖可変領域および配列番号2を含む軽鎖可変領域を含む。
【0016】
本発明は、また、治療有効量の上記の抗体;および医薬担体を含む生理学的組成物を提供する。いくつかの態様において、該医薬組成物は、さらに個体における血中グルコース濃度を低下させる薬剤を含む。いくつかの態様において、該医薬組成物は、さらに個体における体重を減少させる薬剤を含む。
【0017】
本発明は、また、処置を必要とする個体における血中グルコース濃度および/または体重を減少させる方法を提供する。いくつかの態様において、該方法は治療有効量のチロシンキナーゼ受容体B(TrkB)のアゴニスト抗体を個体に投与することを含む。いくつかの態様において、該個体は前糖尿病である。いくつかの態様において、該個体はI型糖尿病を有する。いくつかの態様において、該個体はII型糖尿病を有する。いくつかの態様において、該個体は過体重である。いくつかの態様において、該個体は肥満である。
【0018】
いくつかの態様において、治療有効量の血中グルコースを減少させるために有効な第2の薬剤をTrkBのアゴニスト抗体と組み合わせて個体に投与する。いくつかの態様において、該第2の薬剤およびTrkBのアゴニスト抗体は混合物として投与される。いくつかの態様において、該第2の薬剤はTrkBのアゴニスト抗体と別々に投与される。いくつかの態様において、該第2の薬剤はインスリン、スルホニルウレア、インスリン分泌促進剤、メトホルミン、PPARγアゴニスト、PPARαアゴニスト、PPARδアゴニスト、PPARα/γデュアルアゴニスト、PPARα/γ/δパンアゴニスト、アルファ−グルコシダーゼ阻害剤、DPP−IV阻害剤およびGLP−1/GLP−1類似体からなる群から選択される。
【0019】
いくつかの態様において、治療有効量の、体重減少または肥満に有効な第2の薬剤をTrkBのアゴニスト抗体と組み合わせて個体に投与する。いくつかの態様において、該第2の薬剤およびTrkBのアゴニスト抗体は混合物として投与される。いくつかの態様において、該第2の薬剤はTrkBのアゴニスト抗体と別々に投与される。いくつかの態様において、該第2の薬剤はリパーゼ阻害剤、シブトラミン、CB−1阻害剤、トピラメート、アミリン、アミリン類似体、レプチン、PYY/PYY類似体およびGLP−1/GLP−1類似体からなる群から選択される。
【0020】
定義
“抗体”は、特異的に抗原を認識し、かつ結合する、免疫グロブリン遺伝子のフレームワーク領域またはそのフラグメントを含むポリペプチドを意味する。認識されている免疫グロブリン遺伝子はカッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、エプシロンおよびミュー定常領域遺伝子、ならびに多種多様の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖はカッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはエプシロンに分類され、これは次に免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEの各々を規定する。
【0021】
天然免疫グロブリンは、2つの同一の軽鎖(約24kD)および2つの同一の重鎖(約55または70kD)が四量体を形成する、共通のコア構造を有する。それぞれの鎖のアミノ末端部は可変(V)領域として知られており、それぞれの鎖の残りの、より保存された定常(C)領域と区別することができる。軽鎖の可変領域はJ領域として知られているC末端部である。重鎖の可変領域内に、J領域に加えてD領域がある。免疫グロブリンにおける多数のアミノ酸配列変異は、抗原結合と直接関連している超可変領域または相補性決定領域(CDR)として知られているV領域の3つの別々の位置に限定される。アミノ末端から順に、これらの領域はそれぞれCDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれている。CDRは、より保存されたフレームワーク領域(FR)により適当な位置に保たれている。アミノ末端から順に、これらの領域はそれぞれFRI、FR2、FR3およびFR4と呼ばれている。CDRおよびFR領域の位置ならびに付番方式は、例えば、Kabat et al. (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, U.S. Government Printing Office (1991))により定義されている。
【0022】
典型的な天然免疫グロブリン(抗体)の構造単位は四量体を含む。それぞれの四量体は2つの同一のペアのポリペプチド鎖から構成され、各ペアは1つの“軽”(約25kDa)および1つの“重”鎖(約50−70kDa)を有する。それぞれの鎖のN−末端は、最初に抗原認識に関与する約100から110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を規定する。可変軽鎖(V)および可変重鎖(V)なる用語は各々これらの軽鎖および重鎖を意味する。
【0023】
抗体は、例えば、無傷の免疫グロブリンとしてまたは種々のペプチダーゼでの消化により生じる多くのよく特徴付けられたフラグメントとして存在する。したがって、例えば、ペプシンは抗体のヒンジ領域下のジスルフィド結合を消化して、それ自体ジスルフィド結合により軽鎖をV−CH1に結合しているFabの二量体であるF(ab)’を製造する。F(ab)’はヒンジ領域のジスルフィド結合を破壊するために穏やかな条件下で還元して、F(ab)’二量体からFab’単量体に変換され得る。Fab’単量体は本質的にヒンジ領域の部分を有するFabである、FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY(Paul ed., 3d ed. 1993)参照。種々の抗体フラグメントが無傷の抗体の消化なる用語において規定されるが、当業者はこのようなフラグメントが化学的にまたは組み換えDNA方法論を使用することによりデノボ合成され得ることを理解している。したがって、本明細書で使用される“抗体”なる用語は、また、完全な抗体の変異により製造される抗体フラグメント、または、組み換えDNA方法論(例えば、一本鎖Fv)を使用してデノボ合成されるもの、またはファージディスプレイライブラリー(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990)参照)を使用して同定されるもののいずれかを含む。
【0024】
モノクローナルまたはポリクローナル抗体の製造のために、当分野で既知の全ての技術を使用することができる(例えば、Kohler & Milstein, Nature 256:495-497 (1975); Kozbor et al., Immunology Today 4:72 (1983); Cole et al., pp. 77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy (1985)参照)。“モノクローナル”抗体は単一のクローン由来の抗体を意味する。一本鎖抗体の製造のための技術(米国特許第4,946,778号)は、本発明のポリペプチドに対する抗体を製造するために適合できる。また、遺伝子組換えマウスまたは他の生物、例えば、他の哺乳動物が、ヒト化抗体を発現させるために使用され得る。あるいは、ファージディスプレイ技術は、特異的に選択された抗原に結合する抗体および異種Fabフラグメントを同定するために使用することができる(例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554 (1990); Marks et al., Biotechnology 10:779-783 (1992)参照)。
【0025】
“キメラ抗体”は、(a)定常領域またはその部分が、抗原結合部位(可変領域)が異なる、または変化したクラスの定常領域、エフェクター機能および/または種、または、キメラ抗体に新規特性を与える完全に異なる分子、例えば、酵素、トキシン、ホルモン、成長因子、薬剤などに結合するように改変、置換または交換されている;または(b)可変領域またはその一部が、異なる、または変化した抗原特異性を有する可変領域に改変、置換または交換されている、抗体分子である。
【0026】
“ヒト化”抗体は、ヒトにおける免疫原性が低いが、非ヒト抗体の反応性を維持している抗体である。これは、例えば、非ヒトCDR領域を維持し、抗体の残りの部分をそれらのヒトのカウンターパートで置き換えることにより達成できる。例えば、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984); Morrison and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988); Padlan, Molec. Immun., 28:489-498 (1991); Padlan, Molec. Immun., 31(3):169-217 (1994)、参照。
【0027】
タンパク質またはペプチドに言及したときの、抗体への“特異的(または選択的)結合”または“特異的(または選択的)免疫反応性”なるフレーズは、タンパク質および他の生物製剤の異種集団中でそのタンパク質の存在を決定する結合反応を意味する。したがって、示される免疫測定条件下で、特定の抗体は、特定のタンパク質にバックグランドに対して少なくとも2倍結合し、サンプル中に存在する多量の他のタンパク質に実質的に結合しない。このような状態下での抗体への特異的結合は、特定のタンパク質に対する特異性について選択された抗体を必要とし得る。この選択は、例えば、TrkAまたはTrkCと交差反応する抗体を除くことにより達成され得る。種々の免疫測定フォーマットを、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択するために使用し得る。例えば、固相ELISA免疫測定は、タンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択するために日常的に使用される(特異的免疫反応性を測定するために使用できる免疫測定フォーマットおよび条件の記載について、例えば、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988)、参照)。一般的に特異的または選択的反応は、バックグラウンドシグナルまたはノイズに対して少なくとも2倍であり、さらに一般的にはバックグラウンドに対して10から100倍以上である。
【0028】
“アゴニスト抗体”なる用語は、全てのまたは部分的な受容体介在応答を誘導するために受容体を活性化できる抗体を意味する。例えば、TrkBのアゴニストはTrkBに結合し、TrkB介在シグナル伝達を誘導する。いくつかの態様において、TrkBアゴニスト抗体は、TrkBに結合し、そして、SH−SY5Y細胞と接触したとき、またはそうでなければ本明細書に記載されているように、神経突起伸長を誘導する能力により同定できる。アゴニスト抗体は、抗体の非存在下での応答を少なくとも10%超えて受容体応答を活性化するものである。いくつかの場合、アゴニスト抗体は、抗体の非存在下での応答をさらに25%、50%、75%または100%超えて受容体応答を活性化する。いくつかのアゴニスト抗体は、抗体の非存在下での応答を200%、300%、400%、500%またはそれ以上超えて受容体応答を活性化する。
【0029】
本発明のポリペプチドの“活性”は、天然細胞または組織におけるポリペプチドの構造、調節または生化学機能を意味する。ポリペプチドの活性の例は直接的活性および間接的活性の両方を含む。典型的な直接的活性は、リガンド結合、例えば、TrkBのリガンド結合ドメイン(LBD)(例えば、Naylor et al., Biochem Biophys Res Commun. 291(3):501-7 (2002)および配列番号18、参照)へのBDNFの結合、セカンドメッセンジャー(例えば、cAMP、cGMP、IP、DAGまたはCa2+)の生産または減少、イオン流出およびリン酸化または転写レベルの変化を含む、ポリペプチドとの直接的相互作用の結果である。TrkBの内容における典型的な間接的活性は、ポリペプチドと他の細胞または組織成分との相互作用の結果として、ポリペプチドが指示する活性に対する細胞もしくは組織における表現型または応答の変化、例えば、全体的血中グルコース濃度の減少として観察される。
【0030】
成人に対して使用されるとき、“肥満”なる用語は、30以上の肥満度指数(BMI)を有する個体を意味する。成人に対して使用されるとき、“過体重”は、25以上のBMIを有する個体を意味する。子供において、年齢に対する肥満度指数のグラフを使用して、85th以上のBMIパーセンタイルを“過体重”と考え、95th以上のBMIパーセンタイルを“肥満”と考える。例えば、Clinical Guidelines on the Identification, Evaluation, and Treatment of Overweight and Obesity in Adult (National Heart, Lung and Blood Institute, June 17, 1998)およびPreventing and Managing the Global Epidemic of Obesity in Report of the World Health Organization Consultation of Obesity (WHO, Geneva, June 1997)参照。
【0031】
“前糖尿病個体”は、空腹時血液グルコース濃度が110mg/dlを超えるが126mg/dl未満であるか、または2時間PG記録が140mg/dlを超えるが200mg/dl未満である成人を意味する。患者由来サンプルと比較するために使用されるとき、“糖尿病個体”は、空腹時血液グルコース126mg/dlを超える、または2時間PG記録が200mg/dlを超える成人を意味する。“空腹時”は、少なくとも8時間カロリー摂取していないことを意味する。“2時間PG”は、水に溶解した75gの無水グルコースの当量を含むグルコース負荷で患者を負荷した後の血液グルコース濃度を意味する。全体的試験は、一般的に経口グルコース負荷試験(OGTT)と称される。例えば、Diabets Care, 2003, 26(11): 3160-3167 (2003)参照。
【0032】
核酸またはタンパク質に適用するとき、“単離された”なる用語は、核酸またはタンパク質が、それが天然状態で結合している他の細胞成分を本質的に含まないことを意味する。それは好ましくは均質状態である。それは乾燥状態または水溶液のいずれであってもよい。純度および均質性は一般的に分析化学技術、例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法または高速液体クロマトグラフィーを使用して決定される。調製物に存在する優勢な種類のタンパク質は、実質的に精製されている。特に、単離された遺伝子は、その遺伝子の側面に位置しており、そして興味ある遺伝子以外のタンパク質をコードするオープン・リーディング・フレームと分離される。“精製された”なる用語は、核酸またはタンパク質が電気泳動ゲルで本質的に1本のバンドを生じることを意味する。特に、それは、核酸またはタンパク質が少なくとも85%純粋、さらに好ましくは少なくとも95%純粋、より好ましくは少なくとも99%純粋であることを意味する。
【0033】
“核酸”または“ポリヌクレオチド”なる用語は、一本鎖または二本鎖形態のいずれかのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドおよびそれらのポリマーを意味する。具体的に限定されていない限り、該用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然ヌクレオチドと同様の方法で代謝される、天然に存在するヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を包含する。他に記載のない限り、特定の核酸配列は、また、明示しなくても保存的に改変されたそれらの変異体(例えば、縮重コドン置換)および相補配列ならびに明白に示された配列を包含する。具体的に、縮重コドン置換は、1以上の選択された(または全ての)コドンの3番目が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を製造することにより達成し得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);および Cassol et al. (1992); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。“核酸”および“ポリヌクレオチド”なる用語は互換的に使用される。
【0034】
“ポリペプチド”“ペプチド”および“タンパク質”なる用語は、本明細書で互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを意味する。該用語は1個以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学模擬体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマーおよび天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用する。本明細書で使用される、該用語は全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を含み、該アミノ酸残基は共有ペプチド結合により結合している。
【0035】
“アミノ酸”なる用語は、天然に存在するおよび合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様の方法で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模擬体を意味する。天然に存在するアミノ酸は遺伝子コードによりコードされているもの、ならびに、後に修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸およびO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体は天然に存在するアミノ酸と同様の基本的な化学構造を有する化合物を意味し、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムに結合しているα炭素を有する。このような類似体は修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本的な化学構造を維持している。“アミノ酸模擬体”なる用語は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様の方法で機能する化学化合物を意味する。
【0036】
アミノ酸は、本明細書において、一般的に既知の3文字記号またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨されている1文字記号のいずれかにより言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般的に受け入れられている1文字記号により言及され得る。
【0037】
“保存的に改変された変異体”はアミノ酸および核酸配列の両方に適用する。特定の核酸配列に関して、“保存的に改変された変異体”は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を意味し、または核酸がアミノ酸配列をコードしていないとき、本質的に同一の配列を意味する。遺伝子コードの縮重のため、多くの機能的に同一の核酸が任意のあるタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードするポリペプチドを変化させることなく、記載の対応するコドンのいずれかに変えることができる。このような核酸変異体は保存的に改変された変異体の1種である“サイレント変異体”である。ポリペプチドをコードする本明細書の全ての核酸配列は、また、核酸の全ての可能なサイレント変異体を意味する。当業者は、核酸のそれぞれのコドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および、通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)を、機能的に同一の分子を製造するために改変できることを理解できる。したがって、ポリペプチドをコードする核酸のそれぞれのサイレント変異体は、それぞれの記載されている配列に暗に含まれる。
【0038】
アミノ酸配列について、当業者は、コードされた配列中の1つのアミノ酸または数パーセントのアミノ酸を変化、付加または欠失する、核酸、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加が“保存的に改変された変異体”であり、ここで、該変化は化学的に同様のアミノ酸でのアミノ酸の置換をもたらす。機能的に同様のアミノ酸を提供する保存的置換目録は当分野で既知である。このような保存的に改変された変異体は、多型変異体、種間相同体、および本発明の対立遺伝子に加えられ、除外されない。
【0039】
下記8個のグループはそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)ジステイン(C)、メチオニン(M)
(例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
【0040】
“配列同一性パーセント”は、比較ウィンドウにわたる2つの最適アライン配列を比較することにより決定され、ここで、比較ウィンドウにおけるポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適アラインメントのために、付加または欠失を含まない参照配列(例えば、本発明のポリペプチド)と比較して、一部で付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。パーセントは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列で存在する位置の数を決定してマッチしている位置の数を得、マッチしている位置の数を比較ウィンドウの位置の全数で割り、配列同一性パーセントを得るためにその結果に100を掛けることにより計算される。
【0041】
2つ以上の核酸またはポリペプチド配列の文脈において、“同一”または“同一性”パーセントなる用語は、同じ配列である2つ以上の配列または部分配列を意味する。2つの配列が、下記配列比較アルゴリズムの1つを使用して、または手動アラインメントおよび目視検査により測定すると指定された領域である比較ウィンドウにわたり比較し、そして最大対応のために整列させたとき、または、記載されていないとき全体の配列にわたり、同じ(すなわち、特定の領域、または記載のないとき全体の配列にわたり、60%同一性、所望により65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%同一性)である特定の割合のアミノ酸残基またはヌクレオチドを有するならば、配列は“実質的に同一”である。本発明は、本明細書に例示されているポリペプチド(例えば、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18)に対して実質的に同一であるか、または実質的に同一の配列を含む、ポリペプチドまたはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。この定義は、また、ヌクレオチド試験配列の相補体も意味する。所望により、同一性は少なくとも約50ヌクレオチド長、またはさらに好ましくは100から500または1000以上のヌクレオチド長である領域で存在する。
【0042】
配列比較のために、典型的に一般的に1つの配列が参照配列として作用し、それに対して試験配列を比較する。配列比較アルゴリズムを使用するとき、試験および参照配列をコンピュータに入力し、必要であれば部分座標を指定し、そして配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。デフォルトプログラムパラメーターを使用できるか、または代わりのパラメーターを示すことができる。次に配列比較アルゴリズムが、プログラムパラメーターに基づいて、参照配列と比較して試験配列に対する配列同一性パーセントを計算する。
【0043】
本明細書で使用する“比較ウィンドウ”は、2つの配列を最適に整列化した後、1つの配列を同数の連続位置の参照配列と比較し得る、20から600、通常、約50から約200、より通常、約100から約150からなる群から選択される連続位置の数のいずれかのセグメントに対する言及を含む。比較のための配列のアラインメントの方法は、当分野で既知である。比較のための配列の最適アラインメントは、例えば、Smith and Waterman (1970) Adv. Appl. Math. 2:482cの局所的相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Nat’l. Acad. Sci. USA 85:2444の類似性検索方法、これらのアルゴリズム(the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIのGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA)のコンピューターでの手段、または手動アラインメントおよび目視検査(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (1995 supplement)参照)により行うことができる。
【0044】
配列同一性パーセントおよび配列類似性を決定するために適当であるアルゴリズムの2つの例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、これらはAltschul et al. (1977) Nuc. Acids Res. 25:3389-3402およびAltschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410に各々記載されている。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公的に入手できる。このアルゴリズムは、最初に、データベース配列中の同じ長さのワードと整列化したとき、ある正の値の閾値スコアTとマッチするか、または充足させるいずれかである、検索配列における長さWの短いワードを同定することにより、高いスコアリング配列ペア(HSP)を同定することを含む。Tは、近隣ワードスコア閾値(Altschul et al., 上記参照)と呼ばれる。これらの最初の近隣ワードヒットが、それらを含有するより長いHSPの検索を開始するための種として作用する。このワードヒットは、累積アラインメントスコアを増加することができる限り、それぞれの配列に沿って両方向に延長される。累積スコアは、核酸配列について、パラメーターM(マッチする残基のペアに対するリワードスコア(reward score);常に>0)およびN(マッチしない残基に対するペナルティースコア(penalty score);常に<0)を使用して計算する。アミノ酸配列について、スコアリングマトリクスを使用して累積スコアを計算する。それぞれの方向でのワードのヒットの延長は、累積アラインメントスコアがその到達した最大値から数量Xまで低下したとき;累積スコアが1つ以上の負のスコアリング残基のアラインメントの累積によってゼロもしくはそれ以下になったとき;または、いずれかの配列の末端に達したときに停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、TおよびXはアラインメントの感度およびスピードを決定する。BLASTNプログラム(核酸配列に対して)は、デフォルトとしてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両方の鎖の比較を使用する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、デフォルトとしてワード長3、および期待値(E)10を使用し、そしてBLOSUM62スコアリング・マトリックス(Henikoff and Henikoff (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915、参照)は、アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=−4、および両方の鎖の比較を使用する。
【0045】
BLASTアルゴリズムは2つの配列間の類似性の統計学的分析も実施する(例えば、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5787参照)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つの基準は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の2つのマッチが偶然に起こるであろう確率の指標を提供する、最小合計確率(P(N))である。例えば、参照核酸に対する試験核酸の比較における最小合計確率が約0.2未満、さらに好ましくは約0.01未満、より好ましくは約0.001未満であるとき、核酸は参照配列と類似であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1はAnoikisアッセイにおけるBDNFの作用を説明する。
【図2】図2はAnoikisアッセイにおける種々の同定されたTrkB抗体の作用を示す。
【図3】図3は単離されたTrkB抗体の反応性を示す。
【図4】図4は精製されたTrkB機能的アゴニスト抗体がヒトTrkAまたはTrkCに対して反応性がないことを示す。
【図5】図5はSH−SY5Y分化アッセイにおけるアゴニスト抗体を示す。
【図6】図6はTrkBモノクローナル機能的抗体のイソタイプの結果を示す。
【図7】図7は同定された種々のアゴニスト抗体に対する情報を要約する。
【図8】図8はTrkBアゴニスト抗体が血清グルコース濃度を減少させ、体重喪失を予防的に促進させることを説明する。
【図9】図9はTrkBアゴニスト抗体が血清グルコース濃度を減少させ、体重喪失を予防的におよび治療的に促進させることを説明する。
【図10】図10は本明細書に記載されているA10およびC20抗体の可変領域配列を提供する。それぞれの配列について、1番目の下線部がCR1であり、2番目の下線部がCDR2であり、そして3番目の下線部がCDR3である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
発明の詳細な説明
I.イントロダクション
本発明は、新規TrkBアゴニスト抗体を提供する。本発明のTrkBアゴニスト抗体は特異的にTrkBに結合し、TrkBを活性化する。驚くべきことに、本出願は、本発明のTrkBアゴニスト抗体が、また、インビボで糖尿病マウスの血中グルコース濃度を劇的に減少させることを証明する。さらに、本発明のTrkBアゴニスト抗体での処置は、これらのマウスにおいて通常観察される体重増加を予防した。これらの結果は、本発明の抗体がTrkBに対して特異的であり、受容体を活性化するために有効であることを証明する。さらに、結果はTrkB活性化が高血糖およびその関連状態、肥満、前糖尿病およびII型糖尿病を予防するために有用であることを示す。
【0048】
II.TrkBに結合する抗体
1.イントロダクション
全てのTrkBアゴニスト抗体が本発明の方法にしたがって使用することができる。
いくつかの態様において、本発明のTrkBアゴニスト抗体はTrkBリガンド結合部位に結合し、そして/またはTrkBへの結合に対してBDNFと競合する。TrkBのリガンド結合部位に結合する典型的な抗体は抗体A10F18.2(本明細書において“A10F18”または“A10”とも称される)である。抗体A10の重鎖可変領域は配列番号1に例示されており、そして抗体A10の軽鎖可変領域は配列番号2に例示されている。したがって、本発明はTrkBへの結合に対して配列番号1を含む重鎖可変領域および配列番号2を含む軽鎖可変領域を含む抗体と競合するアゴニスト抗体を提供する。いくつかの態様において、本発明の抗体は少なくとも配列番号1および/または2の相補性決定領域(CDR)を含む。本発明の範囲を限定する意図はないが、CDR3が抗体A10の結合において顕著な役割を果たすと考えられている。したがって、いくつかの態様において、本発明の抗体は、配列番号5および/または6を含む。しかしながら、CDR1および/またはCDR2は、また、結合において役割を果たす。したがって、いくつかの態様において、本発明の抗体は、配列番号9および/または10または13および/または14を含む。
【0049】
いくつかの態様において、本発明のTrkBアゴニスト抗体はTrkBリガンド結合部位に結合せず、そして/またはTrkBへの結合に対してBDNFと競合する。TrkBのリガンド結合部位へ結合しない典型的な抗体は抗体C20.i1.1(本明細書において“C20.i1”、“C20.I1”および“C20”とも称される)である。抗体C20の重鎖可変領域は配列番号3に例示されており、そして抗体C20の軽鎖可変領域は配列番号4に例示されている。したがって、本発明はTrkBへの結合に対して配列番号3を含む重鎖可変領域および配列番号4を含む軽鎖可変領域を含む抗体と競合するアゴニスト抗体を提供する。いくつかの態様において、本発明の抗体は少なくとも配列番号3および/または4の相補性決定領域(CDR)を含む。本発明の範囲を限定する意図はないが、CDR3が抗体C20の結合において顕著な役割を果たすと考えられている。したがって、いくつかの態様において、本発明の抗体は、配列番号7および/または8を含む。しかしながら、CDR1および/またはCDR2は、また、結合において役割を果たす。したがって、いくつかの態様において、本発明の抗体は、配列番号11および/または12または15および/または16を含む。
【0050】
全ての型のアゴニスト抗体を本発明の方法にしたがって使用し得る。一般的に、使用される抗体はモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は当分野で既知の何らかの方法により(例えば、ハイブリドーマ、組み換え発現および/またはファージディスプレイを使用して)製造できる。
【0051】
2.ヒト化抗体
いくつかの態様において、本発明にしたがって製造される抗体は、非ヒト抗TrkBアゴニスト抗体由来領域とヒト化抗体の領域から構成されるキメラ(例えば、マウス/ヒト)抗体である。例えば、キメラH鎖は少なくともヒト重鎖定常領域の部分に結合している非ヒト抗体の重鎖可変領域(例えば、配列番号1もしくは3または少なくともそれらの一部、例えば、CDR)の抗原結合領域を含むことができる。このヒト化またはキメラ重鎖は少なくともヒト軽鎖定常領域の部分に結合している非ヒト抗体の軽鎖可変領域(例えば、配列番号2もしくは4または少なくともそれらの一部、例えば、CDR)の抗原結合領域を含むキメラL鎖と結合していてもよい。いくつかの態様において、重鎖定常領域はIgMまたはIgA抗体であり得る。
【0052】
本発明のキメラ抗体は一価、二価または多価免疫グロブリンであってよい。例えば、一価キメラ抗体は、上記のとおり、ジスルフィド架橋を介して結合しているキメラH鎖とキメラL鎖により形成される二量体(HL)である。二価キメラ抗体は少なくとも1個のジスルフィド架橋を介して結合している2個のHL二量体により形成される四量体(H)である。多価キメラ抗体は鎖の集合に基づく。
【0053】
本発明の抗体のDNA配列を、当分野で既知の方法によって、同定し、単離し、クローン化し、そして発現させるための原核または真核細胞へ転移する。このような方法は、一般的にSambrook et al., supra、ならびにCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (Ausubel et al., eds., 1989)に記載されている。組み換え抗体および特にヒト化抗体の発現のために適当な発現ベクターおよび宿主細胞は、当分野でよく知られている。下記参考文献は、本発明の実行に利用され得る組み換え免疫グロブリンの発現のために適当な方法およびベクターの代表例である:Weidle et al., Gene, 51: 21-29 (1987); Dorai et al., J. Immunol., 13(12):4232-4241 (1987); De Waele et al., Eur. J. Biochem., 176:287-295 (1988); Colcher et al., Cancer Res., 49:1738-1745 (1989); Wood et al., J. Immunol., 145(a):3011-3016 (1990); Bulens et al., Eur. J. Biochem., 195:235-242 (1991); Beggington et al., Biol. Technology, 10:169 (1992); King et al., Biochem. J., 281:317-323 (1992); Page et al., Biol. Technology, 2:64 (1991); King et al., Biochem. J., 290:723-729 (1993); Chaudary et al., Nature, 339:394-397 (1989); Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986); Morrison and Oi, Adv. Immunol., 44:65-92 (1988); Benhar et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:12051-12055 (1994); Singer et al., J. Immunol., 150:2844-2857 (1993); Cooto et al., Hybridoma, 13(3):215-219 (1994); Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:10029-10033 (1989); Caron et al., Cancer Res., 32:6761-6767 (1992); Cotoma et al., J. Immunol. Meth., 152:89-109 (1992)。さらに、組み換え抗体の発現のために適当なベクターは市販されている。
【0054】
機能的免疫グロブリンを発現することができる宿主細胞は、例えば、哺乳動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;COS細胞;骨髄腫細胞、例えば、NSOおよびSP2/O細胞;細菌、例えば、大腸菌;酵母細胞、例えば、出芽酵母;および他の宿主細胞を含む。
【0055】
3.一本鎖抗体
いくつかの態様において、本発明の抗体は一本鎖Fvs(scFvs)である。scFv抗体のVおよびV領域(例えば、配列番号1および配列番号2、または配列番号3および配列番号4)は、二本鎖抗体で見られる抗原結合部位と同様の抗原結合部位を製造するように折りたたまれている一本鎖を含む。折りたたまれると、非共有相互作用が一本鎖抗体を安定化させる。いくつかの抗体態様のVおよびV領域を一体に直接結合することができるが、該領域が1個以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーにより分離され得ることを当業者は理解している。ペプチドリンカーおよびそれらの使用は当分野で既知である。例えば、Huston et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 8:5879 (1988); Bird et al., Science 242:4236 (1988); Glockshuber et al., Biochemistry 29:1362 (1990); U.S. Patent No. 4,946,778, U.S. Patent No. 5,132,405およびStemmer et al., Biotechniques 14:256-265 (1993)、参照。一般的に、ペプチドリンカーは、該領域に結合する、または、VとVのある最小距離または他の空間関係を保存する以外に特定の生物活性を有さない。しかしながら、ペプチドリンカーの構成アミノ酸は、分子のいくつかの特性、例えば、折りたたみ、正味荷電または疎水性に影響するため選択され得る。一本鎖Fv(scFv)抗体は、所望により、50個以下のアミノ酸、一般的に40個以下のアミノ酸、好ましくは30個以下のアミノ酸、およびさらに好ましくは20個以下のアミノ酸長のペプチドリンカーを含む。
【0056】
scFv抗体を製造する方法は記載されている。例えば、Huse et al., Science 246:1275-1281 (1989); Ward et al., Nature 341:544-546 (1989);およびVaughan et al., Nature Biotech. 14:309-314 (1996)、参照。手短には、免疫動物由来のB細胞のmRNAを単離し、そしてcDNAを製造する。cDNAを免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域に対して特異的なプライマーを使用して増幅する。PCR生成物を精製し、核酸配列を結合する。リンカーペプチドが望ましいとき、ペプチドをコードする核酸配列を重鎖と軽鎖核酸配列間に挿入する。scFvをコードする核酸をベクターに挿入し、適当な宿主細胞中で発現させる。具体的に所望の抗原に結合するscFvは、一般的にファージディスプレイライブラリーのパンニングにより見出される。パンニングは種々の方法により実施できる。パンニングは都合良くは表面で所望の抗原を発現する細胞を使用してか、または所望の抗原でコーティングされた固体表面を使用して実施することができる。都合良くは、表面は電磁ビーズであってよい。結合していないファージを固体表面から洗い落とし、結合しているファージを溶出する。
【0057】
非常に高い親和性を有する抗体の発見は、選択プロセスの効率により決定され、スクリーニングすることができるクローンの数およびそれを行うストリンジェンシーに依存する。一般的に、高いストリンジェンシーはより選択的なパンニングに相当する。条件がストリンジェントすぎるとき、しかしながら、ファージが結合しない。1回のパンニング後、TrkB被覆プレートまたは表面上にTrkBを発現する細胞に結合するファージを大腸菌に拡張させ、もう一回パンニングに付す。この方法で、多数の折りたたみの濃縮が3回のパンニングで起こる。したがって、それぞれの回での濃縮が少ないときでさえ、多数回のパンニングで稀なファージの単離に至り、その中に含まれる遺伝物質は最高の親和性を有するか、またはファージでより良好に発現されるscFvをコードする。
【0058】
選択されたパンニングの方法にかかわらず、ファージディスプレイにより提供される遺伝子型と表現型間の物理的結合が、大きなクローンのライブラリーでさえ、抗原への結合に対してcDNAライブラリーの全てのメンバーを試験することを可能にさせる。
【0059】
4.ヒト化抗体
いくつかの態様において、ヒト化抗体は本発明にしたがって使用される。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン配列由来抗体ライブラリーを使用するファージディスプレイ方法を使用することによる方法を含む種々の当分野で既知の方法により製造することができる。例えば、Lonberg and Huszar, Int. Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)、米国特許第4,444,887および4,716,111号;およびPCT公開WO98/46645、WO98/50433、WO98/24893、WO98/16654、WO96/34096、WO96/33735およびWO91/10741、参照;これらそれぞれを出典明示により本明細書にそれらの内容を包含させる。
【0060】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、ファージディスプレイを使用して製造される。例えば、機能的抗体ドメインは、それらをコードするポリヌクレオチド配列を有するファージ粒子の表面上に発現する。このようなファージは、レパートリーまたはコンビナトリアル抗体ライブラリー(例えば、ヒトまたはマウス)から発現される抗原−結合ドメインを示すため利用することができる。TrkBと結合する抗原結合ドメインを発現するファージを、例えば、標識TrkBを使用して、TrkBで選択するか、または同定することができる。これらの方法で使用されるファージは、一般的にファージ遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIタンパク質のいずれかに組換え的に融合された、Fab、Fvまたはジスルフィド安定化Fv抗体ドメインと共にファージから発現されるfdおよびM13結合ドメインを含む、糸状ファージである。本発明の抗体を製造するために使用することができるファージディスプレイ方法の例は、Brinkman et al., J. Immunol. Methods 182:41-50 (1995); Ames et al., J. Immunol. Methods 184:177-186 (1995); Kettleborough et al., Eur. J. Immunol. 24:952-958 (1994); Persic et al., Gene 187:9-18 (1997); Burton et al., Advances in Immunology 57:191-280 (1994);PCT出願PCT/GB91/01134;PCT公開WO90/02809;WO91/10737;WO92/01047;WO92/18619;WO93/11236;WO95/15982;WO95/20401;および米国特許第5,698,426;5,223,409;5,403,484;5,580,717;5,427,908;5,750,753;5,821,047;5,571,698;5,427,908;5,516,637;5,780,225;5,658,727;5,733,743および5,969,108号(これらそれぞれを出典明示によりその内容を本明細書に包含させる)に記載されているものを含む。
【0061】
5.アゴニスト抗体の製造
アゴニスト抗体は、抗TrkB抗体を製造し、次にそれぞれの抗体をTrkB介在事象を引き起こす、例えば、SH−SY5Y細胞の分化および/またはデンドリマー化(dendrification)を開始する能力について試験するか、可能性のあるTrkBアゴニストでの細胞の処理に応答したAnoikis(細胞基質相互作用の喪失によるアポトーシス)を測定するか、または、BaF3/TrkB細胞増殖アッセイを使用することにより同定することができる。
【0062】
SH−SY5Yアッセイは、SH−SY5Y細胞を平板培養し、細胞をレチノイン酸と、可能性のあるアゴニスト抗体および/またはBDNFの存在下または非存在下で処理し、次に神経突起伸長を測定することを含む。一般に、レチノイン酸単独は少しの神経突起伸長を誘導する。BDNF単独は有意な神経突起伸長を誘導せず、抗体単独は有意な神経突起伸長を誘導しない。しかしながら、レチノイン酸、BDNFおよび抗体で処理された細胞は大規模な神経突起伸長を示す。典型的なSH−SY5YアッセイはKaplan DR, et al., Neuron 11:321-331 (1993)に記載されている。
【0063】
BaF3/TrkB細胞増殖アッセイは、TrkB受容体アゴニズムにより刺激される細胞の増殖を測定することを含む。例えば、BaF3細胞をIL−3含有完全RPMI培地で増殖させ、TrkBレトロウイルスで感染させる。細胞をIL−3の非存在下で洗浄し、並べる。可能なアゴニスト抗体および細胞生存を、適当なインキュベーション後、(例えば、発光細胞生存能力検出試薬、例えば、Cell−Titer GloTMを使用して)測定する。陽性対照細胞をrhBDNFでインキュベートする。
【0064】
Anoikisアッセイは、RIE/TrkB細胞を(例えば、DMEM培地中で)再懸濁し、細胞を、所望によりマルチウェル容器中で、可能性のあるアゴニスト抗体(例えば、1−20μg/mlの抗体の10μlで2.5×10細胞)と接触させることを含む。混合物をhBDNF対照の存在または非存在下でインキュベートし、次に細胞生存能力について(例えば、発光細胞生存能力検出試薬、例えば、Cell−TiterGloTMを使用して)測定する。典型的なAnoikisアッセイはDouma et al., Nature 430:1034-1039(2004)に記載されている。
【0065】
TrkBアゴニストは、また、細胞をビンブラスチンおよびシスプラチン毒性から保護する能力について、SH−SY5Y細胞で評価することができる。このアッセイは、例えば、Scala et al., Cancer Res. 56(16):3737-42 (1996);および Jaboin et al., Cancer Res. 62(22):6756-63 (2002)に記載されている。
【0066】
III.抗体の使用
本発明のTrkBアゴニスト抗体はTrkB活性の増加が役立つ何らかの疾患または状態を処置または改善するために使用することができる。
【0067】
いくつかの態様において、本発明のTrkBアゴニスト抗体は個体の高血糖および/または糖尿病またはそれらの症状を処置または軽減するために使用される。あるいは、または組合せにおいて、本発明の抗体は処置を必要とする個体の体重を減少させるために使用することができる。いくつかの態様において、該抗体は肥満を軽減するために使用される。これはインスリン抵抗性およびII型糖尿病により発症しやすい肥満個体に対して特に有効であり得る。
【0068】
本発明は、また、本発明のTrkBアゴニスト抗体を処置を必要とする個体に投与することにより神経変性または中枢神経系(CNS)疾患を処置または予防するための方法を提供する。典型的なCNS疾患は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病またはALS疾患を含む。
【0069】
TrkB活性の増加は、また、薬物乱用の軽減に関連している。例えば、米国特許公開第2005/0203011号、参照。したがって、本発明は、本発明のTrkBアゴニスト抗体を処置を必要とする個体に投与することにより薬物(例えば、アルコール、ニコチンおよび/または麻薬)乱用および依存を軽減するための方法を提供する。
【0070】
本発明の抗体および薬剤を、処置を必要とする哺乳動物対象に直接投与することができる。本発明の組成物の投与は、通常、最終的に処置される組織との接触に至る抗体を含む医薬を導入するために使用される全ての経路による投与である。抗体は所望により薬学的に許容される担体と共に任意の適当な方法で投与される。このような抗体および薬剤を投与する適当な方法は、利用されており、当業者に既知であり、1種以上の経路が特定の組成物を投与するために使用することができ、特定の経路がしばしば他の経路よりもより即時反応および有効反応を提供することができる。
【0071】
薬学的に許容される担体は、主に投与される特定の組成物、ならびに組成物を投与するために使用される特定の方法により決定される。したがって、本発明の医薬組成物の種々の適当な製剤がある(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. 1985、参照)。
【0072】
抗体単独、または他の適当な成分との組合せは、吸引により投与されるエアロゾル製剤(すなわち、それらは“噴霧”され得る)で製造され得る。エアロゾル製剤は、許容される高圧ガス、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などに注入され得る。
【0073】
投与のために適当な製剤は、水性および非水性溶液、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および製剤を等張にする溶質を含み得る無菌等張溶液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および防腐剤を含み得る水性および非水性滅菌懸濁液を含む。本発明の実施において、組成物を、例えば、経口的に、局所的に、静脈内に、腹腔内に、膀胱内に、または髄腔内に投与することができる。所望により、該組成物を経鼻的に投与される。化合物の製剤は、1回投与用または複数回投与用の密閉容器、例えば、アンプルおよびバイアル中に存在してもよい。溶液および懸濁液は、滅菌粉末、顆粒、および上記の種類の錠剤から製造することができる。モジュレーターは、また、製造された食べ物または薬剤の一部として投与することができる。本発明の化合物は、また、所望の治療または効果に依存して1種以上のさらなる活性剤(例えば、化学療法剤)と組み合わせて効果的に使用することができる。
【0074】
本発明の文脈において、患者に投与される投与用量は、一定時間対象において有利な応答を引き起こすために十分である量である。投与用量は使用される特定の抗体および試薬の効力および対象の状態、ならびに処置される領域の体重または表面積により決定される。投与用量は、また、経験、性質、および特定の対象における特定の化合物またはベクターの投与による何らかの副作用の程度により決定される。投与は1回または分割投与用量を介して達成することができる。
【0075】
TrkBアゴニスト抗体は、体重を減少させるか、血中グルコース濃度を減少させるか、糖尿病を処置するか、もしくは糖尿病症状を緩和するか、神経変性疾患を処置するか、または薬物乱用を減少させるために有効であることが既知である薬剤と組み合わせて使用することができる。糖尿病を処置するために使用される典型的な薬剤は、例えば、インスリン;スルホニルウレア(例えば、グリピジドおよびアマリール)およびインスリン分泌促進剤(例えば、ナテグリニドおよびレパグリニド);メトホルミン;PPARガンマアゴニスト(例えば、ロシグリタゾンおよびピオグリタゾン)ならびにPPARアルファ、PPARデルタ、PPARアルファ/ガンマデュアルアゴニストおよびPPARアルファ/ガンマ/デルタパンアゴニスト;アルファ−グルコシダーゼ阻害剤(例えば、アカルボース);DPP−IV阻害剤(例えば、ビルダグリプチン);およびGLP−1/GLP−1類似体(例えば、エクセナチド)を含む。肥満を処置するために使用される典型的な薬剤は、例えば、リパーゼ阻害剤(例えば、オルリスタット);シブトラミン;CB−1阻害剤(例えば、リモナバント);トピラメート;アミリン/アミリン類似体(例えば、プラムリンチド)、レプチン、PYY/PYY類似体;およびGLP−1/GLP−1類似体(例えば、エクセナチド)を含む。
【0076】
活性剤は、TrkBアゴニスト抗体と共に混合物で投与することができ、また、それぞれ別々に投与することもできる。必ずしも必要ではないが、抗体薬剤および他の活性剤を共に投与することができる。
【実施例】
【0077】
実施例
実施例1
この実施例ではTrkBのアゴニスト抗体の同定および特徴付けについて論じる。
【0078】
マウスをヒトtrkB受容体で免疫性にし、血清IgG陽性マウス由来ハイブリドーマ上清をELISAによりTrkBに対する反応性についてスクリーニングした。得られた抗体をRIE/TrkB細胞をAnoikasから回避させる抗体の能力を試験することによりTrkBを活性化する能力をスクリーニングした。BDNFはRIE/TrkB細胞をAnoikasから回避させることが既知であり、したがって、このアッセイはTrkBを活性化する抗体の能力の良い基準である。図1、参照。多数のTrkBアゴニスト抗体が、図2で示されるとおり、AnoikisアッセイにおいてBDNFの活性を模倣することを同定した。陽性アゴニスト抗体は低IgG培地から精製した。
【0079】
アゴニスト抗体を、図3に示されるとおりに、huTrkB、muTrkBおよびTrkBリガンド結合ドメイン(LBD)に対する反応性についてスクリーニングした。多数のアゴニストはLBDに結合しなかった。特に、C20がマウスおよびヒトtrkBと反応することを見出した。A10はマウスおよびヒトtrkBと反応し、リガンド結合ドメインエピトープに結合する。図4に示されるとおり、多数の機能的抗体はマウスTrkBに対して反応することを示したが、TrkAまたはTrkCに結合しなかった。
【0080】
アゴニスト抗体をインビトロモデルで神経突起伸長について確認した。結果はTrkBアゴニスト抗体がBDNFと同様に神経突起伸長を刺激することを示した。
【0081】
機能的抗体を図6で示されるとおりイソタイプ化した。さらに機能的抗体は、ウエスタンブロッティング法によりRIE細胞で過剰発現したヒトTrkBへ結合することを示した。図7は同定された種々のアゴニスト抗体に対する情報を要約している。
【0082】
実施例2
この実施例はTrkBアゴニスト抗体がマウスの血液グルコースおよび体重を減少させるために有効であることを示す。
【0083】
2つの非常に強力なアゴニストである、A10およびC20(これらの可変領域は配列番号3および4ならびに配列番号1および2、各々で示される)を、2型糖尿病のdb/dbマウスモデルで試験した。図8および9に示されるとおり、両方の抗体は、予防的におよび治療的に、血清グルコース濃度を減少させること、および体重減少を促進することを示した。
【0084】
図9の上部のグラフに示されるとおり、抗体A10またはC20を投与したとき、高血中グルコース濃度になりやすいマウスは血中グルコース濃度が増加せず、一方で対照マウスは濃度が増加した。この結果は抗体が予防効果を有することを示す。高血糖性を試験する32日間、肥満対照動物(8)を2グループに分割した。1つのグループは抗体A10で処置し、もう1つのグループはPBSで処置した。処置は1週間以内に高血糖を回復させ、体重を25%減少させた。元々処置した動物をさらに4週間未処置で放置した。C20処置グループはグルコース濃度が増加し、体重が増加した。A10グループは正常グルコースを維持し、体重増加がわずかであった。これらの結果は図9の上下のグラフで示される。PK試験は、A10抗体が、インビボで見られる効果に相当する、より良い血清の半減期を有することを示した。
【0085】
ここに記載の例および実施例は、説明の目的のためのみであり、それに照らした様々な修飾または変化が当業者には示唆され、それらは本発明の精神および添付の特許請求の範囲内に包含されることは理解されるべきである。
【0086】
この明細書において引用されている全ての刊行物、データベース、Genbank配列、特許および特許出願は、それぞれが具体的に個々に引用により包含されている指示されているように、引用により本明細書に包含させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシンキナーゼ受容体B(TrkB)の単離されたアゴニスト抗体。
【請求項2】
該抗体がヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
該抗体が一本鎖抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
該抗体がチロシンキナーゼ受容体Aまたはチロシンキナーゼ受容体Cに結合しない、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
該抗体がTrkBのリガンド結合ドメイン(LBD)に結合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
該抗体がTrkBへの脳由来神経栄養因子(BDNF)の結合と競合する、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
該抗体が
i.配列番号7を含む重鎖可変領域;および
ii.配列番号8を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
該抗体が
i.配列番号7、配列番号11および配列番号15を含む重鎖可変領域;および
ii.配列番号8、配列番号12および配列番号16を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
該抗体が
i.配列番号3を含む重鎖可変領域;および
ii.配列番号4を含む軽鎖可変領域
を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
該抗体がTrkBのLBDに結合しない、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
該抗体がTrkBへのBDNFの結合と競合しない、請求項1に記載の抗体。
【請求項12】
i.配列番号5を含む重鎖可変領域;および
ii.配列番号6を含む軽鎖可変領域
を含む抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項13】
i.配列番号5、配列番号9および配列番号13を含む重鎖可変領域;および
ii.配列番号6、配列番号10および配列番号14を含む軽鎖可変領域
を含む抗体である、請求項12に記載の抗体。
【請求項14】
i.配列番号1を含む重鎖可変領域;および
ii.配列番号2を含む軽鎖可変領域
を含む抗体である、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
i.治療有効量の請求項1に記載の抗体;および
ii.医薬担体
を含む医薬組成物。
【請求項16】
該抗体が:
i.配列番号5を含む重鎖可変領域および配列番号6を含む軽鎖可変領域を含む抗体;および
ii.配列番号7を含む重鎖可変領域および配列番号8を含む軽鎖可変領域を含む抗体
からなる群から選択される、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
該医薬組成物が個体の血中グルコース濃度および/または体重を減少させる薬剤をさらに含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
処置を必要とする個体の血中グルコース濃度および/または体重を減少させる方法であって、治療有効量の請求項1に記載の抗体を該個体に投与することを含む方法。
【請求項19】
該個体が前糖尿病、I型糖尿病、II型糖尿病、過体重および肥満からなる群から選択される状態である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
治療有効量の血中グルコース濃度および/または体重を減少させるために有効な第2の薬剤を請求項1に記載の抗体と組み合わせて個体に投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
第2の薬剤および請求項1に記載の抗体を混合物として投与する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
第2の薬剤を請求項1に記載の抗体と別々に投与する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
該第2の薬剤が、インスリン、スルホニルウレア、インスリン分泌促進剤、メトホルミン、PPARγアゴニスト、PPARαアゴニスト、PPARδアゴニスト、PPARα/γデュアルアゴニスト、PPARα/γ/δパンアゴニスト、アルファ−グルコシラーゼ阻害剤、DPP−IV阻害剤、リパーゼ阻害剤、シブトラミン、CB−1阻害剤、トピラメート、アミリン、アミリン類似体、レプチン、PYY/PYY類似体およびGLP−1/GLP−1類似体からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
該抗体がヒト化抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
該抗体が
i.配列番号5を含む重鎖可変領域および配列番号6を含む軽鎖可変領域を含む抗体;および
ii.配列番号7を含む重鎖可変領域および配列番号8を含む軽鎖可変領域を含む抗体
からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−509354(P2010−509354A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536439(P2009−536439)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/083774
【国際公開番号】WO2008/058127
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(503261524)アイアールエム・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (158)
【氏名又は名称原語表記】IRM,LLC
【Fターム(参考)】