説明

アザラシ油および低温圧搾バージンオリーブ油の組み合わせ

好ましくはアザラシ油である海産油、および低温圧搾バージンオリーブ油を含む、通常の食事の栄養補助食品として、または構成要素としての油の組み合わせ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
油の組み合わせ
本発明は、冠動脈心疾患(CHD)、血栓症、および乾癬やリウマチなどのその他の炎症性疾患の発生を妨げる、通常の食事の栄養補助食品として、または構成要素としての油の組み合わせに関する。本発明の組み合わせは、アザラシ油およびバージンオリーブ油を含む。
【背景技術】
【0002】
アテローム硬化性病変は、血液循環の3つの細胞成分である単球、血小板、およびT−リンパ球が、動脈壁内のLDLコレステロールと、内皮細胞(EC)および平滑筋細胞(SMC)の2つの細胞タイプと反応して形成される。
【0003】
アテローム発生の先行現象は、末梢血から血管壁内膜への単球およびリンパ球の動員であり、大量のLDLの局所的存在に左右されるように見える事象である。LDLが蓄積するにつれて、結合した脂質およびタンパク質は酸化されグリコシル化される。血管壁中の細胞は、この変化を危険信号として解釈するようであり、身体の防御システムに強化を要求する。これらのプロセスは、内皮細胞上の接着分子、特に血管細胞接着分子−1(VCAM−1)および細胞内接着分子−1(ICAM−1)の上方制御を促進するようである。したがって単球およびリンパ球動員が開始される。これは単球遊走の増大、内皮上への接着分子の上方制御された曝露、および化学誘引物質の生成および放出をもたらす。これらは内膜への単球の移行、および単球からマクロファージへの同時の分化のための必須の事象である。利用できる変性LDLもまた、血管壁内皮下の脂肪線条形成の主要因である、マクロファージの泡沫細胞(脂肪マクロファージ)へのさらなる発生のための必要条件である。LDLの変性形態(酸化、グリコシル化など)は、LDLの変性が、内膜中への単球およびリンパ球の接着および遊走によって開始されるプロセスによってトリガーされる炎症反応と結びつけられているので、特に興味深い。
【0004】
上述のように、アテローム発生の初期に単球が中心的役割を果すことがよく知られている。アテローム硬化性プロセスにおける最初の事象の1つは、内膜中への単球の動員である。単球の動員およびそれらの内皮への浸透は、サイトカインおよび成長因子などの活性化生成物の分泌と結びついているので、循環する単球の機能的反応性は非常に重要であると想定されるかもしれない。慢性感染症は単球を活性化して、それらがストレスに答えてサイトカインおよびケモカインなどの有害生成物を生成し放出する傾向を強めることで、機能的反応性に影響するかもしれないことが提案される。
【0005】
これまでのところ、循環する単球の機能特性がどのように厳密にアテローム発生に関係しているのかについては、わずかしか知られていない。しかしリウマチ、乾癬、およびその他の炎症性疾患の病態生理学において、活動亢進単球が重要な役割を演じることはよく確立されている。また、アテローム発生が炎症誘発性の疾患であることが知られている。したがって循環する単球の炎症誘発機能が、冠動脈心疾患(CHD)のリスク増大と結びついているかもしれず、高いコレステロールレベルが酸素ラジカル、サイトカインなどの炎症誘発生成物の生成を増大させることが想定されるかもしれない。
【0006】
長年にわたり本発明者は、リポ多糖類(LPS)で刺激された血液中のTNFaおよびIL−6などのサイトカインおよびトロンボプラスチン(組織因子=TF)の生成によってモニターされる単球の反応性が、個人間で低活性から非常に高い活性(高応答者)まで変動することを観察してきた。この単球の特質は、遺伝性であるように見える(オステルード(Osterud)ら著、Blood Coagulation and Fibrinolysis、2002年、13:399〜405頁)。本発明者はとりわけ、全血中の単球のLPS誘発反応性が、近親者に心筋梗塞(MI)または癌の病歴がある健康な個人の血清中の脂質プロフィールにどのように関係するかを生体外(in vitro)で調査した。心筋梗塞(MI)家系の総計54人の内、20人は中程度に高いコレステロール(7.1〜10.2mmol/L)を有したのに対し、34人は正常なコレステロールを有した。コレステロールが正常な個人の内、19人が活動亢進単球(高応答者)を有したのに対して、15人は正常に応答する単球を有した。LPS誘発トロンボプラスチン(TF)、TNFa、およびIL−6は、コレステロールが中程度に高い群と比較してコレステロールが正常な群で、平均で3〜4倍高かった。したがって活動亢進単球とコレステロールレベルの間の正相関は見いだされなかった。癌の病歴がある家系の42人全員が正常なコレステロールを有し、LPS誘発トロンボプラスチン(TF)、TNFa、およびIL−6は、心筋梗塞(MI)家系中のコレステロールが中程度に高い群の値と顕著に異ならなかった。これは、中程度に高いコレステロールが全血中の単球活性化増大に結びつかないのに対し、活動亢進末梢血単球は冠動脈心疾患発生の顕著な危険因子であるという結論を支持する。
【0007】
単球の反応性、ひいてはサイトカイン、酸化代謝産物、および成長因子などの炎症誘発生成物の生成を低下させることは、コレステロールレベルを低下させるので、おそらく少なくとも同じく重要である。新しい研究はまた、スタチンの抗炎症効果が、それらのコレステロール低下効果よりも重要であるかもしれないことを示す(バルク(Balk)ら、「心臓血管疾患に結びつく非脂質血清マーカーに対するスタチンの効果:系統的レビュー(Effects of statins on nonlipid serum markers associated with cardiovascular disease:a systematic review)」、Ann Intern Med.2003年、139:670〜82頁。レビュー)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の食用油はω−3脂肪酸を含有する。これらは、突然死を引き起こすことができる不整脈のリスクを低下させることが知られている。ω−3脂肪酸はまた、心臓麻痺および卒中を引き起こすことができる血栓症のリスクを低下させることが知られている。アテローム生成過程における病変形成は炎症誘発反応によって媒介されるので、それらはアテローム硬化性プラークの生育速度を低下させることで抗炎症特性を有する。さらにω−3脂肪酸は内皮機能を改善し、血液中のトリグリセリドレベルを低下させ、血圧をわずかに低下させる(概要については、PMクリス・エサートン(Kris−Etherton)、WSハリス(Harris)、LJアペル(Appell)著、Arterioscler Thromb Vasc Biol.、2003年、23:151〜2頁を参照されたい)。
【0009】
ω−3脂肪酸の特性の点から見て、ω−3脂肪酸の栄養補助食品は心臓血管疾患を予防するのに十分なはずであることが予期される。しかしノルウェーで実施された臨床研究は、ω−3脂肪酸の悪影響を示した(Iセルジェフォト(Seljefot)、Oヨハンセン(Johansen)、Hアーネセン(Arnesen)、JBエッゲスボ(Eggesbo)、ABウェストビル(Westvil)、Pキールルフ(Kierulf)著、Thromb Haemost.、1999年、81:566〜70頁;Oヨハンセン(Johansen)、Iセルジェフォト(Seljefot)、ATホストマーク(Hostmark)、Hアーネセン(Arnesen)著、Arterioscler Thromb Vasc Biol.、1999年、19;1681〜6頁)。6ヶ月間ω−3脂肪酸の栄養補助食品を投与された心臓血管疾患のある患者では、対照と比較してアンギナおよび閉塞の双方が倍になった。生体内(in vivo)における多価不飽和脂肪酸の炎症誘発性過酸化増大の徴候であるサイトカイン生成の増加もまた観察された(概要についてはH.アーネセン(Arnesen)著、Lipids、2001年;36補遺:S103〜6頁を参照されたい)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の知見は、ω−3脂肪酸の栄養補助食品を含む食餌に関する本発明者自身の結果と一致する。したがって健康な個人の食餌をω−3脂肪酸濃縮物で栄養補給することの抗炎症効果は、対応する量のタラ肝油(CLO)形態のω−3脂肪酸と比較して顕著でなかった。一方、本発明の油の組み合わせは、10週間にわたる毎日15mLの油の摂取後に、LPS誘発サイトカインおよびエイコサノイド生成に顕著な低下を与えた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
魚および海洋哺乳類からの油生産のための近代的精製工程の目的は、油をより健康的に、より安全に、より美味に、そしてより保存安定性にすることである。しかし知覚特性を増強するための望ましくない味または臭いを与える分子の除去は、強力な抗酸化物質を破壊するかもしれない。栄養価もまた、生物学的活性分子の含有量によって影響を受ける。これらの栄養素は、環境、利用可能性、化学安定性、加工度、および栄養が送達される形態などのいくつかの要因によって影響を受ける。魚油は丸ごとの魚、魚の肝臓(主としてタラ肝臓)または副産物(主としてサケ)から抽出される。海洋哺乳類からの油は、脂肪層および外側脂肪組織から製造される。
【0012】
海産油(marine oil)をヒト消費に適するようにする処理は、問題を含み得る。伝統的抽出技術は、脂質を放出するために原料を加熱または水蒸気蒸留することを伴う。海産油は、不飽和脂肪酸を高い含量で有する。抽出工程中の高温の使用は、酸化反応の開始、抗酸化物質の破壊、および油に臭いや味を与える分子の形成などの望ましくない効果を引き起こすであろう。40℃を超える温度での加熱抽出の間に、脂質構成要素には細胞中の「バージン」状態と比較して検出可能な変化が生じる。安定しており、官能的に許容可能で、安全な生成物を得るために、いくつかの構成要素(タンパク質、ペプチド、アミノ酸、遊離脂肪酸、リン脂質、色素、ステロール、形質転換生成物、金属、および可能な毒性物質)の除去が通常必要である。従来の精製工程は、ポリッシング、酸洗浄、漂白、および脱臭の4つの主要ステップからなる。さらに清澄化(濾過、沈降分離)、異なるバッチの混合、脱ろう、およびポリッシング濾過などのステップもまた使用される。精製ステップ中に、加工条件から独立して、いくつかの化学反応(加水分解、自己酸化、異性化、共役、重合、熱分解、および脱水)が起きるであろう。精製工程は、形成されるかもしれないあらゆる望ましくない副産物の除去を可能にしなくてはならない。処理段階の数はまた、付随する物質、不純物の量およびタイプ、以前の酸化のおよび加水分解損傷をはじめとする、粗製油の質によっても影響される。食用油の品質判定基準、環境条件、財政、および材料損失の低下は、全て精製工程を選択する際の重要な判定基準である。
【0013】
海産油を精製してそれらの知覚特性および安定性を改善することは、強力な抗酸化物質および潜在的に有益な機能特性を有する構成要素を破壊するかもしれない。
【0014】
ω−3脂肪酸をはじめとする多価不飽和脂肪酸をLDL粒子中に組み込んで、それらをより酸化され易くしてもよい。LDL粒子の酸化は、アテローム発生初期における主要反応の1つであるので、酸化の防止は内膜における泡沫細胞形成を防止する(概要についてはBオステルード(Osterud)およびEビョークリッド(Bjorklid)著、Physiological Reviews、2003年、83:1069〜112頁、レビューを参照されたい)。したがって抗酸化物質は、動物モデルにおいて病変形成を低下させることが示されている(M.アヴィラム(Aviram)およびB.フールマン(Fuhrman)著、Ann N Y Acad Sci、2002年、957:146〜61頁、レビュー)。さらに抗酸化物質もまた、エイコサノイド代謝の下方制御において重要である。とりわけ、ロイコトリエンB4の形成をもたらすリポキシゲナーゼ経路は、抗酸化物質によって阻害され、引き続くLTB4生成は減少する。とりわけ最近、アテローム性動脈硬化にかかりやすい遺伝子導入マウスにおけるLTB4受容体の阻害が、病変形成を約70%低下させることが示されている(RJアイエロ(Aiello)、PAブーラッサ(Bourassa)、Sリンゼイ(Lindsey)、Wウェン(Weng)、A.フリーマン(Freeman)、HJショーウェル(Showell)著、Aterioscler Thromb Vasc Biol.、2002年、22:443〜9頁)。
【0015】
10年間にわたり本発明の食用油を使用した対象者(本発明者)は、LPS誘発全血中に非常に低いLTB4産生を有する。対象者の血液への市販のLTB4の添加は、LPS誘発TF(組織因子)の70%を超える上昇を引き起こし、LPSに対する血液応答は、ここでも測定された中で最高である(オステルード(Osterud)、未公開データ)。
【0016】
本発明の油の組み合わせは、ω−3脂肪酸と、生体内(in vivo)および生体外(in vitro)の双方で抗酸化効果を与える相乗的構成要素との効果を組み合わせる。本発明に従って、この組み合わせは、非常に良好な臨床効果、より良い機能特性、およびより長い保存寿命の形態の驚くべき有利な特性を与える。本発明者らは、海洋哺乳類、好ましくはアザラシからの油および低温圧搾バージンオリーブ油を含有する生成物を使用して、特に有利な効果が得られることを示し、これらの構成要素のどちらもそれ自体が既知のやり方で製造される。得られる効果は、各構成要素が単独で使用される場合に予期されるよりも明白であるように見える。
【0017】
したがって本発明は、アザラシ油と低温圧搾バージンオリーブ油の組み合わせを含むことを特徴とする、通常の食事への栄養補助食品としての油の組み合わせに関する。
【0018】
本発明はまた、食料品中の水中油または油中水エマルジョン中の構成要素としての本発明の組み合わせの使用にも関する。
【0019】
さらに本発明は、例えば冠動脈心疾患および血栓症の発生を妨げるための、ならびに乾癬、リウマチ、およびその他の炎症誘発性疾患を抑止するための組成物を調製するために、本発明の組み合わせを任意にアジュバントと共に使用することに関する。
【実施例】
【0020】
健康な個人に対する毎日の栄養補助食品として、本発明の食用油を使用することの効果について2つの臨床研究が行われた。第1の研究では、対照群および本発明の食用油の摂取群はどちらも28人が参加したのに対し、タラ肝油(CLO)群には37人が参加した。各参加者は12週間にわたり、毎日15mLまたは皆無(対照群)の油を消費した。本発明の油の組み合わせの摂取群と比較して、CLO群の個人には血清中のω−3脂肪酸により高い上昇があったが、全血中のLPS誘発TNFの低下は、CLO群の5.0%と比較して、本発明の油の組み合わせの摂取群では24.0%であった。これは前述した研究同様に、刺激された血液細胞中の炎症性生成物量の減少が、ω−3脂肪酸含量と直接に関連しないことを示す(オステルード(Osterud)ら、1995年)。
【0021】
別の研究からは、表1に示す結果が生じた。
【0022】
【表1】

【0023】
表1は、冠動脈心疾患(CHD)に関する最も重要なパラメーターのいくつかの変化を示す。HDLコレステロールは有益なコレステロールであり、これにおけるいかなる正の変化も好ましいことである。高感受性C反応性タンパク質(hs−CRP)は、身体中の慢性炎症反応を反映する。0から5mmol/Lの間で増大する値は、特にhs−CRPに関連するHDLコレステロールに対して総コレステロールの比率が増大する場合に、冠動脈心疾患の良好なリスク指標であることが示されている(リファイ(Rifai)Nおよびリドカー(Ridker)PM著、「炎症性マーカーおよび冠動脈心疾患(Inflammatory markers and coronary heart disease)」、Curr Opin Lipidol.2002年、13:383〜9頁。レビュー)。単球化学走性タンパク質−1(MCP−I)は、アテローム性動脈硬化の発生において主要な役割を果たす非常に重要な化学誘引タンパク質であり、それは炎症誘発性物質をそれらの生成部位で動員する。したがってMCP−Iの減少を与えるいかなる栄養補助食品も高度に有益であるかもしれない。LTB4およびTxB2(TxA2の安定生成物)は、アラキドン酸の代謝に由来する炎症誘発生成物である。
【0024】
上記研究を対照群、CLO群、および本発明の食用油摂取群のそれぞれで、23人、18人、および19人の健康な人々において実施した。試験開始の直前に、そして12週間にわたる15g(または皆無=対照)の油の栄養補助食品摂取終了後に、8〜10時間絶食したボランティアからサンプルを採取した。前後の脂肪酸組成を血清サンプル中で判定した。
【0025】
上記研究の結論は、本発明の油の組み合わせが、有益なHDLコレステロールを増加させ、冠動脈心疾患の重要なマーカーおよび危険因子(hs−CRP)を顕著に低下させ、CLOよりも効率的にMCP−Iをさらに低下させる可能性を有することである。さらに炎症誘発生成物TxA2およびLTB4を低下させる有益な効果は、CLOと同一レベルである。概して栄養補助食品としての本発明の食用油は、CLOよりも顕著に高い抗炎症効果を有し、これもまたいくつかのω−3脂肪酸および魚油の研究で対照として単独で使用されるオリーブ油よりも優れている。本発明の食用油の効果は、おそらく海産油からのω−3脂肪酸と、バージンオリーブ油中に存在する強力な抗酸化物質との相乗的組み合わせを通じて生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アザラシ油および低温圧搾バージンオリーブ油を含むことを特徴とする、通常の食事の栄養補助食品として、または構成要素としての油の組み合わせ。
【請求項2】
組み合わせが混合物の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
アザラシ油とバージンオリーブ油との比率が1:9〜9:1、好ましくは2:8〜8:2、より好ましくは3:7〜7:3、さらにより好ましくは4:6〜6:4、最も好ましくは1:1であることを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項4】
食用油としての、または食料品中の水中油または油中水エマルジョン構成要素としての請求項1に記載の組み合わせの使用。
【請求項5】
冠動脈心疾患および血栓症の発生を妨げる、ならびに乾癬、リウマチ、およびその他の炎症誘発性疾患を抑止する組成物を調製するための任意にアジュバントを伴う、請求項1に記載の組み合わせの使用。

【公表番号】特表2008−539720(P2008−539720A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509960(P2008−509960)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000142
【国際公開番号】WO2006/118463
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507362487)
【Fターム(参考)】