説明

アスベスト処理方法

【課題】基礎体表面からアスベスト含有物を除去する際にアスベストが空中に飛散するのを防止し、かつ、除去したアスベスト含有物を簡易に処理できるアスベスト処理方法を提供する。
【解決手段】飛散防止液を予めアスベスト含有物に塗布した後、基礎体表面からアスベスト含有物を除去するアスベスト処理方法において、(a)ポリアクリルアミド溶液又は水ガラスからなる前記飛散防止液を使用して、この飛散防止液をアスベスト含有物に低圧噴霧ノズルから噴霧して、アスベスト含有物を飛散防止液に包容させる噴霧工程と、(b)前記飛散防止液を含浸させたアスベスト含有物に高圧噴射ノズルから高圧水を噴射して、前記基礎体表面から該アスベスト含有物を剥離させる剥離工程と、(c)前記剥離したアスベスト含有物に凝集剤をふりかけてゲル状にする凝集工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の天井や壁等に用いられているアスベストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前においては、アスベスト(石綿)に対する法的規制がなく、かつ、防音性及び防火性に優れていたため、アスベストは、建築物の天井や壁によく用いられていた。
【0003】
しかし、現在においては、アスベストが、肺ガンや中皮腫の原因となることが判明しており、その処理が問題となっている。
【0004】
そこで、建築物に用いられているアスベストを除去しようとする試みがなされている。しかし、アスベストを除去する過程において、建築物の天井や壁等に用いられていたアスベストが空中に飛散し、それを作業者や近隣の住民が吸い込むことによって、肺ガンや中皮腫を引き起こす原因となることが懸念されている。
【0005】
そこで、従来においては、アスベストが用いられた箇所をシート等で囲った後にアスベストを除去する方法が用いられている(特許文献1参照)。
【0006】
また、保水剤等を用いて湿潤させた後にアスベストを除去することにより、アスベストが空中に飛散しないようにしている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−28026号公報
【特許文献2】特開平10−323614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1の方法では、前記囲いの中でアスベストが大量に飛散し、作業員が危険にさらされ、また、前記囲いの外へも少量のアスベストが飛散するおそれがあった。
【0008】
また、前記特許文献2の方法では、除去されたアスベストの後処理が改善されていなかった。
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、基礎体表面からアスベスト含有物を除去する際に、アスベストが空中に飛散することを防止すると共に、建築物の天井や壁から除去されたアスベストの後処理が簡易に行えるアスベスト処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のアスベスト処理方法は、飛散防止液を予めアスベスト含有物に塗布した後、基礎体表面からアスベスト含有物を除去するアスベスト処理方法において、以下の(a)〜(c)の各工程を有することを特徴とする。(a)水ガラスからなる前記飛散防止液を使用して、この飛散防止液をアスベスト含有物に低圧噴霧ノズルから噴霧して、アスベスト含有物を飛散防止液に包容させる噴霧工程と、(b)前記飛散防止液を含浸させたアスベスト含有物に、高圧噴射ノズルから高圧水を噴射して、前記基礎体表面から該アスベスト含有物を剥離させる剥離工程と、(c)前記剥離したアスベスト含有物に、凝集剤をふりかけて、ゲル状にする凝集工程。
【0011】
また、本発明のアスベスト処理方法は、飛散防止液を予めアスベスト含有物に塗布した後、基礎体表面からアスベスト含有物を除去するアスベスト処理方法において、以下の(a)〜(c)の各工程を有することを特徴とする。(a)ポリアクリルアミド溶液からなる前記飛散防止液を使用して、この飛散防止液をアスベスト含有物に低圧噴霧ノズルから噴霧して、アスベスト含有物を飛散防止液に包容させる噴霧工程と、(b)前記飛散防止液を含浸させたアスベスト含有物に、高圧噴射ノズルから高圧水を噴射して、前記基礎体表面から該アスベスト含有物を剥離させる剥離工程と、(c)前記剥離したアスベスト含有物に、凝集剤をふりかけて、ゲル状にする凝集工程。
【0012】
かかるアスベスト処理方法では、アスベスト含有物にポリアクリルアミド溶液又は水ガラスからなる飛散防止液を噴霧することにより、アスベスト含有物が飛散防止液にしっかりと包容された状態となって、アスベストが空中に飛散することが確実に防止される。
【0013】
また、高圧噴射ノズルから高圧水を噴射して、基礎体表面からアスベスト含有物を剥離させることにより、作業者は、アスベスト含有物を剥離させる場所から離れた位置で作業をすることができるようになり、たとえ万が一、微量のアスベストが空中に飛散した場合においても、作業者がアスベストを吸引する可能性が低くなる。
【0014】
さらに、剥離させたアスベスト含有物に凝集剤をふりかけてゲル状にすることにより、床等にアスベストが飛散することなく、床等にたまるようになる。
【0015】
ここで、本発明者らは、ポリアクリルアミド溶液には、一旦剥離されたアスベスト含有物を取り込むと、このアスベスト含有物を決して放さないという性質があることを発見した。
【0016】
また、本発明者らは、水ガラスは無機物質の溶液であり、アスベストも無機物質であるので、水ガラスによるアスベスト含有物の吸着力が高まることを発見した。
【0017】
本発明のアスベスト処理方法では、前記噴霧工程において、静電気が印加されたポリアクリルアミド溶液からなる飛散防止液を用いてもよい。
【0018】
このような構成とすると、ポリアクリルアミド溶液を噴霧する過程において、空気中に微小なアスベストが飛散している場合であっても、静電気が印加されたポリアクリルアミド溶液がこのアスベストをも静電引力により取り込むことができる。したがって、ポリアクリルアミド溶液のアスベストの包容能力がさらに向上する。
【0019】
また、本発明のアスベスト処理方法は、前記凝集工程の後に、さらに、前記ゲル状にしたアスベスト含有物を、少なくとも該ゲル状にしたアスベスト含有物が抜け出ることのない粗さのメッシュを有する第一のメッシュ袋に収納する第一の袋詰め工程を有することを特徴とする。
【0020】
このような構成とすると、その後のアスベスト含有物の取り扱いが容易になると共に、第一のメッシュ袋内においてゲル状になったアスベスト含有物が収納されたまま、余分な水分を除去することができるようになる。
【0021】
ここで、前記床等にたまったゲル状のアスベスト含有物を第一のメッシュ袋に収納する方法としては、例えば、床等にたまったゲル状のアスベスト含有物をスコップですくって第一のメッシュ袋に収納する方法が挙げられる。また、エアバキューム装置により床等にたまったゲル状のアスベスト含有物を吸引して、第一のメッシュ袋に収納する方法も用いることができる。
【0022】
また、本発明のアスベスト処理方法は、前記第一の袋詰め工程の後に、前記第一のメッシュ袋を、該第一のメッシュ袋より細かいメッシュの第二のメッシュ袋に袋詰めするとともに、第一のメッシュ袋と第二のメッシュ袋との間に脱水剤を投入する脱水工程を有することを特徴とする。
【0023】
このような構成とすると、第一のメッシュ袋から、脱水剤によって凝集剤に保持されていた水分が除去されて、第一のメッシュ袋内の剥離されたゲル状のアスベスト含有物の体積を小さくすることができるようになる。したがって、剥離されたアスベストの後処理をすることが容易になる。
【0024】
また、本発明のアスベスト処理方法においては、前記ポリアクリルアミド溶液の濃度が、500ppm以上5000ppm以下であることが好ましい。さらには、2000ppm以上3000ppm以下であることがより好ましい。
【0025】
このような構成とすると、アスベスト含有物が良好にポリアクリルアミド溶液に包容されるようになって、アスベストが空中へ飛散することがさらに防止されるようになる。ここで、濃度が500ppm未満だとアスベスト含有物がポリアクリルアミド溶液に包容されにくくなる一方、濃度が5000ppmを超えるとポリアクリルアミド溶液の粘性が高くなりすぎて、アスベスト含有物が包容されにくくなる。
【0026】
また、本発明のアスベスト処理方法においては、前記水ガラスが、常温で液体状態であることが好ましい。
【0027】
このような構成とすると、アスベスト含有物が良好に水ガラスに包容されるようになって、アスベストが空中へ飛散することが防止されるようになる。また、このような水ガラスを用いることにより、水ガラスを基礎体表面に噴霧しやすくなる。
【0028】
また、本発明のアスベスト処理方法においては、前記高圧水の圧力が、50kg/cm以上1000kg/cm以下であることが好ましい。また、前記高圧水の圧力が、100kg/cm以上500kg/cm以下であることが好ましく、200kg/cm以上400kg/cmであることがより好ましい。
【0029】
このような構成とすると、基礎体表面からアスベスト含有物が良好に剥離されると共に、アスベスト含有物がポリアクリルアミド溶液又は水ガラスからなる飛散防止液に包容されたままの状態で剥離されるようになる。
【0030】
本発明のアスベスト処理方法では、前記凝集工程における凝集剤としてアルミニウム系凝集剤を用いてもよい。
【0031】
このような構成とすると、アルミニウム系凝集剤を加えることによって、剥離されポリアクリルアミド溶液に包容されたアスベスト含有物が、ポリアクリルアミド溶液に包容されたままフロック状の沈殿となるため、濾過等の手段により分離することが可能になる。
【0032】
本発明のアスベスト処理方法は、前記凝集工程の後に、アスベスト含有物を含む沈殿と水とを分離する分離工程と、該分離工程において分離された水にアニオン系界面活性剤を加える再処理工程とを有してもよい。
【0033】
このような構成とすると、再処理工程により処理された水を、再度、ポリアクリルアミド溶液を調製するために用いることができる。したがって、水資源を有効に活用することができるので、水の搬送が少なくてすみ、例えば、ビルの高層階における作業が楽になる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のアスベスト処理方法によると、アスベスト含有物を基礎体表面から剥離させる場合において、アスベストの空中への飛散が防止される。また、基礎体表面から剥離されたアスベスト含有物の後処理をすることが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るアスベスト処理方法の処理フローを示すフローチャートである。図2は、図1のアスベスト処理方法のうちの一部の工程を示す概略図である。以下、図1及び図2を参照しながら、本実施形態に係るアスベスト処理方法について説明する。
【0036】
図1に示すように、本実施形態に係るアスベスト処理方法は、噴霧工程Aと、剥離工程Bと、凝集工程Cと、第一袋詰め工程Dと、第二袋詰め工程Eと、脱水工程Fと、第三袋詰め工程Gと、最終処理工程Hとを有する。
【0037】
噴霧工程Aにおいては、飛散防止液であるポリアクリルアミド溶液を基礎体表面のアスベスト含有物に対して低圧力(例えば、吐出圧力が1kg/cm程度)で噴霧する。ここで、基礎体表面としては、建築物の天井や柱に用いられる建材の表面が挙げられる。そして、ポリアクリルアミド溶液を基礎体表面のアスベスト含有物に対して噴霧すると、アスベスト含有物がポリアクリルアミド溶液に包容されるため、アスベストが空中にほとんど飛散しなくなる。また、ポリアクリルアミド溶液は、500ppm以上5000ppm以下の濃度に調製しておくことが好ましい。さらには、2000ppm以上3000ppm以下の濃度に調製しておくことがより好ましい。このような濃度範囲とすることにより、ポリアクリルアミド溶液にアスベスト含有物がより確実に包容される。
【0038】
剥離工程Bにおいては、ポリアクリルアミド溶液によって包容されたアスベスト含有物が基礎体表面から剥離される。ここで、剥離されたアスベスト含有物が一旦ポリアクリルアミド溶液に包容されると、ポリアクリルアミド溶液は決して剥離されたアスベスト含有物を放さなくなる。アスベスト含有物を剥離する手段としては、高圧に加圧された水を噴射する手段を用いることができる。また、アスベスト含有物を剥離するその他の手段としては、スクレイパーを用いて剥離する手段等を用いることができる。ここで、噴射する水は、50kg/cm以上1000kg/cm以下に加圧することが好ましく、さらに、100kg/cm以上500kg/cm以下に加圧することがより好ましく、さらには200kg/cm以上400kg/cmであることがより好ましい。このような圧力で水を噴射することにより、基礎体表面からアスベスト含有物が良好に剥離されると共に、アスベスト含有物がポリアクリルアミド溶液に包容されたままの状態で剥離されるようになる。
【0039】
なお、噴霧工程A及び剥離工程Bは、たとえ微量のアスベストが飛散した場合においても、外部に漏れないようにするため、略密閉空間において行うことが好ましい。あるいは、略密閉空間でなくても、作業者がアスベストを吸引しないようにするため、例えば、基礎体表面に沿って送風し、作業者のいない方向へアスベストを集めながら噴霧工程A及び剥離工程Bを行ってもよい。
【0040】
凝集工程Cにおいては、上記のようにしてポリアクリルアミド溶液に包容され剥離されたアスベスト含有物に凝集剤をふりかける。剥離されたアスベスト含有物に凝集剤をふりかけると、ゲル状のかたまり1となる。ここで、凝集剤としては、例えば吸水性高分子材料(吸水性ポリマー)を用いることができる。この吸水性高分子材料としては、例えば、デンプン系、カルボキシメチルセルロース系、ポリアクリル酸系、ポバール系等の材料を用いることができる。
【0041】
第一袋詰め工程Dにおいては、図2(a)に示すように、凝集剤により凝集されたアスベスト含有物のゲル状のかたまり1を第一のメッシュ袋2へと入れる。ここで、凝集剤により凝集されたアスベスト含有物のゲル状のかたまり1を第一のメッシュ袋2に収納する方法としては、例えば、このゲル状のかたまり1をスコップですくって第一のメッシュ袋2に収納する方法が挙げられる。また、ゲル状のかたまり1をエアバキューム装置により吸引して、第一のメッシュ袋2に収納する方法も用いることができる。上記第一のメッシュ袋2としては、凝集剤により凝集されたアスベスト含有物のゲル状のかたまり1が外部に漏れ出さない目の粗さのものを用いるようにする。ここで、第一のメッシュ袋2としては、例えば土嚢袋を用いることができる。
【0042】
第二袋詰め工程Eにおいては、図2(b)に示すように、第一袋詰め工程Dにおいて袋詰めにされた第一のメッシュ袋2を、第二のメッシュ袋3へと入れる。ここで、第二メッシュ袋3の目の粗さは第一メッシュ袋2の目の粗さよりも細かいものを用いる。例えば、第二メッシュ袋3の目の粗さとしては、0.1μm〜0.2μmのものを用いることが好ましい。ここで、このような目の粗さのものを用いることにより、第二のメッシュ袋3中からアスベスト含有物のうちの繊維状のアスベストが流出することが防止される。なお、この場合において、第二のメッシュ袋3の底部にも、凝集剤(吸水性ポリマー)を入れておくと、なお好ましい。これは、もし万が一、ゲル状のかたまり1に取り込まれたアスベストが第一のメッシュ袋2中から流れ出したとしても、第二のメッシュ袋3の底部の凝集剤により、再度、取り込まれるからである。
【0043】
脱水工程Fにおいては、図2(c)に示すように、第一メッシュ袋2と第二メッシュ袋3との隙間に脱水剤4を入れる。このようにすると、第一メッシュ袋2内の吸水した状態の吸水性高分子材料から、脱水剤4によって水が取り出されて脱水される。しかし、上記第二袋詰め工程Eにおいて説明したとおり、第二メッシュ袋3からは、アスベスト含有物のうちの繊維状のアスベストは流出しない。そして、アスベスト含有物をとり込んだゲル状のかたまり1の体積が、水を吸収していた場合の体積の約10分の1程度となる。このようにゲル状のかたまり1の体積を小さくすることによって、後述する最終処理工程Hにおける処理が容易になる。ここで、上記の脱水剤4としては、第一メッシュ袋2から、水を脱水するものであれば、特に限定なく用いることができる。例えば、浸透圧効果により第一メッシュ袋2から水を脱水させる塩である、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の無機塩や、有機塩を用いることができる。
【0044】
第三袋詰め工程Gにおいては、図2(d)に示すように、上記脱水工程Fにおいて脱水された第二メッシュ袋3を、第三の袋5に包む。ここで、第三の袋5に包むのは、十分に水切りされた第二メッシュ袋3からそれ以上水が漏れ出さないようにすると共に、アスベストが第二メッシュ袋3から飛び出さないようにするためである。したがって、上記脱水工程Fにおいて脱水された第二メッシュ袋3を、第三の袋5により二重又は三重に包むと、この効果がより大きくなる。ここで、第三の袋5としては、外部に水を漏らさない材料のものであれば特に限定なく用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の材料から構成されたものを用いることができる。
【0045】
最終処理工程Hにおいては、上記第三袋詰め工程Gにおいて第二メッシュ袋3を袋詰めにした第三の袋5を最終処理する。例えば、第二メッシュ袋3を袋詰めにした第三の袋5を焼却処理したり、埋め立て処理したりする。
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係るアスベスト処理方法の処理フローを示すフローチャートである。
【0046】
図3に示すように、本実施形態に係るアスベスト処理方法は、噴霧工程Aと、剥離工程Bと、凝集工程Cと、分離工程Sと、再処理工程Tと、最終処理工程Hとを有する。本実施形態のアスベスト処理方法においては、剥離工程Bまでの工程は上記第1実施形態と同様であり、凝集工程C以降の工程を変更する。
【0047】
まず、剥離工程Bにおいてポリアクリルアミド溶液に包容された状態で剥離されたアスベスト含有物と水との混合物を、例えば、エアバキューム装置等の手段により回収する。
【0048】
そして、凝集工程Cにおいては、回収された上記アスベスト含有物と水との混合物に対して、アルミニウム系凝集剤を加える。上記アスベスト含有物と水との混合物にアルミニウム系凝集剤を加えると、フロック状の沈殿が生成する。ここで、アルミニウム系凝集剤としては、例えば、硫酸アルミニウムやポリ塩化アルミニウムを用いることができる。
【0049】
次に、分離工程Sにおいては、凝集工程Cにおいて生成されたフロック状の沈殿と水とを分離する。フロック状の沈殿と水とを分離する方法としては、濾過等の公知の手法を用いることができる。分離されたフロック状の沈殿は、アスベスト含有物を包容したポリアクリルアミドを含んでいる。分離されたフロック状の沈殿は、最終処理工程Hにおいて処理される。最終処理工程Hとしては、例えば、焼却処理や埋め立て処理が挙げられる。
【0050】
一方、分離された水は、アルミニウム系凝集剤に由来するアルミニウムイオンを含んでいる。したがって、分離された水に対しては、以下の再処理工程Tを行う。
【0051】
再処理工程Tにおいては、分離された水にアニオン系界面活性剤を加える。すると、水中のアルミニウムイオンがアニオン系界面活性剤により電気的に中和される。電気的に中和された水は、再度、ポリアクリルアミド溶液を調製するために用いることが可能になる。したがって、水資源を有効に活用することができる。ここで、上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリカルボン酸系の界面活性剤を用いることができる。
【0052】
なお、上記のようにして分離された水のポリアクリルアミド溶液への再利用については、ポリアクリルアミド溶液噴霧装置の項において説明する。
(第3実施形態)
第3実施形態のアスベスト処理方法においては、飛散防止液として、上記ポリアクリルアミド溶液の代わりに水ガラスを用い、それ以外の処理については前記第1実施形態と同様にする。
【0053】
すなわち、噴霧工程Aにおいては、飛散防止液である水ガラスを基礎体表面のアスベスト含有物に対して低圧力(例えば、吐出圧力が1kg/cm程度)で噴霧する。水ガラスを基礎体表面のアスベスト含有物に対して噴霧すると、アスベスト含有物が水ガラスに包容されるため、アスベストが空中にほとんど飛散しなくなる。ここで、上記水ガラスは、例えば、ケイ酸ナトリウムを水に溶解させて調製する。水ガラスは、本実施形態では、常温で液体状態である。このような水ガラスを用いることにより、アスベスト含有物が良好に水ガラスに包容されるようになって、アスベストが空中へ飛散することが防止されるようになると共に、水ガラスを基礎体表面に噴霧しやすくなる。
【0054】
次に、剥離工程Bにおいては、水ガラスによって包容されたアスベスト含有物が基礎体表面から剥離される。ここで、剥離されたアスベスト含有物が一旦水ガラスに包容されると、水ガラスは決して剥離されたアスベスト含有物を放さなくなる。アスベスト含有物を剥離する手段としては、高圧に加圧された水を噴射する手段を用いることができる。また、アスベスト含有物を剥離するその他の手段としては、スクレイパーを用いて剥離する手段等を用いることができる。ここで、噴射する水は、50kg/cm以上1000kg/cm以下に加圧することが好ましく、さらに、100kg/cm以上500kg/cm以下に加圧することがより好ましく、さらには200kg/cm以上400kg/cmであることがより好ましい。このような圧力で水を噴射することにより、基礎体表面からアスベスト含有物が良好に剥離されると共に、アスベスト含有物が水ガラスに包容されたままの状態で剥離されるようになる。
【0055】
また、凝集工程Cにおいては、上記のようにして水ガラスに包容され剥離されたアスベスト含有物に凝集剤をふりかける。剥離されたアスベスト含有物に凝集剤をふりかけると、ゲル状のかたまり1となる。ここで、凝集剤としては、例えば吸水性高分子材料(吸水性ポリマー)を用いることができる。この吸水性高分子材料としては、例えば、デンプン系、カルボキシメチルセルロース系、ポリアクリル酸系、ポバール系等の材料を用いることができる。
【0056】
そして、上記以降の工程である、第一袋詰め工程D、第二袋詰め工程E、脱水工程F、第三袋詰め工程G、最終処理工程Hについては、上記第1実施形態と同様である。
【0057】
本実施形態のアスベスト処理方法においても、アスベストの飛散を防止しながらアスベストの除去を行うことができるという効果を奏する。
【0058】
また、水ガラスは無機物質であり、アスベストも無機物質であるので、水ガラスによるアスベスト含有物の吸着力が高くなる。
【0059】
さらに、最終処分する際に、埋め立て処分や焼却処分(低温焼却)をしても、ダイオキシン等の有害物質を発生させない。
[ポリアクリルアミド溶液噴霧装置]
次に、本発明の第1実施形態のアスベスト処理方法のうちの噴霧工程Aにおいて用いられるポリアクリルアミド溶液噴霧装置について説明する。
【0060】
図4は、本発明のアスベスト処理方法に用いるポリアクリルアミド溶液噴霧装置を示す概略図である。
【0061】
ポリアクリルアミド溶液噴霧装置は、ポリアクリルアミドタンク11と、水タンク12と、前記ポリアクリルアミドタンク11及び前記水タンク12に連結されたポンプ14と、該ポンプ14に連結された混合タンク15と、該混合タンク15と連結された噴霧ノズル17とを含んで構成される。
【0062】
ポリアクリルアミドタンク11は、ポリアクリルアミドを溶解させたポリアクリルアミド溶液を貯蔵する。ここで、このポリアクリルアミド溶液の濃度は仮に調製されたものであって、実際にアスベスト含有物に噴霧する際の濃度よりも高くしてある。
【0063】
水タンク12は、上記ポリアクリルアミドタンク11に貯蔵されたポリアクリルアミド溶液の濃度を最終的に調製するための水を貯蔵する。
【0064】
ポンプ14は、パイプ13を介して、ポリアクリルアミドタンク11及び水タンク12と接続されている。ここで、ポンプ14は、ポリアクリルアミドタンク11から所定の量のポリアクリルアミド溶液を吸引すると共に、水タンク12から所定の量の水を吸引して、後述する混合タンク15へと送る。
【0065】
混合タンク15は、パイプ13を介して、ポンプ14と接続されている。混合タンク15は、ポリアクリルアミドタンク11からポンプ14により吸引されたポリアクリルアミド溶液と、水タンク12からポンプ14により吸引された水とを混合することによって、所望の濃度のポリアクリルアミド溶液を調整する。ここで、ポリアクリルアミド溶液の所望の濃度とは、前述したように、500ppm以上5000ppm以下の濃度のことである。また、より好ましくは、2000ppm以上3000ppm以下の濃度である。このような濃度範囲とすることにより、アスベスト含有物がポリアクリルアミド溶液に十分に包容されるようになる。
【0066】
噴霧ノズル17は、ホース16を介して混合タンク15と接続されている。ここで、噴霧ノズル17により噴霧されたポリアクリルアミド溶液により、アスベスト含有物が包容される。噴霧ノズル17には、ポリアクリルアミド溶液を霧状にするため、例えば、噴霧面に多数の穴が設けられたものが用いられる。ここで、ポリアクリルアミド溶液をアスベスト含有物に噴霧する際には、なるべく低圧で噴霧するようにする。これは、ポリアクリルアミド溶液を高圧でアスベスト含有物に噴霧すると、アスベストが空中に飛散するおそれがあるからである。
(変形例1)
図5は、本発明のアスベスト処理方法において用いるポリアクリルアミド溶液噴霧装置の変形例を示す概略図である。
【0067】
図5に示すように、本変形例のポリアクリルアミド溶液噴霧装置では、噴霧ノズル17に静電気印加装置30が取り付けられている。静電気印加装置30としては、公知のものを用いることができる。それ以外の構成については、図4に示すポリアクリルアミド溶液噴霧装置と同様である。
【0068】
このような構成とすると、噴霧されるポリアクリルアミド溶液に静電気を印加することができる。したがって、噴霧工程Aにおけるポリアクリルアミド溶液を噴霧する過程で、空気中に飛散しているアスベストが存在する場合であっても、ポリアクリルアミド溶液がこのアスベストをも静電引力により取り込むことができる。
(変形例2)
図6は、前記第2実施形態において用いるポリアクリルアミド溶液噴霧装置を示す概略図である。
【0069】
本変形例のポリアクリルアミド溶液噴霧装置においては、水タンク12の前段階に、第二処理槽40と、第一処理槽50とが設けられている。水タンク12と第二処理槽40とは、パイプ13を介して接続されている。第二処理槽40と第一処理槽50とは、パイプ13を介して接続されている。
【0070】
第一処理槽50には、剥離工程Bにおいてポリアクリルアミド溶液に包容された状態で剥離されたアスベスト含有物と水との混合物が、エアバキューム装置等の手段により回収され、入れられる。次に、第一処理槽50においては、上記アスベスト含有物と水との混合物にアルミニウム系凝集剤が加えられる。そうすると、アスベスト含有物と水との混合物が、フロック状の沈殿100を生じさせる。このうちの水が、公知の手段(例えば、濾過)により分離される。このように第一処理槽50において処理された水を、第一次処理水と呼ぶ。第一次処理水は、パイプ13を介して第二処理槽40へと移動される。ここで、第一次処理水は、アルミニウム系凝集剤に由来するアルミニウムイオンを含んでいる。したがって、以下の再処理を行う。
【0071】
第二処理槽40においては、第一次処理水にアニオン系界面活性剤を加える(再処理)。このようにすると、第一次処理水中のアルミニウムイオンが電気的に中和される。このように第二処理槽40において処理された水を、第二次処理水と呼ぶ。第二次処理水は、再度、ポリアクリルアミドを溶解させることが可能である。
【0072】
第二次処理水は、パイプ13を介して水タンク12へと移動される。このようにして、アスベスト含有物を取り除いた水が第二次処理水となって、再度、ポリアクリルアミド溶液を調製するために用いられる。したがって、水資源を有効に活用することができる。また、濾過等により減少した水の分だけ新たな水を水タンク12に追加すればよいので、水の搬送が少なくてすみ、例えば、建物の高層階における作業が楽になる。
[水ガラス噴霧装置]
次に、本発明の第3実施形態のアスベスト処理方法のうちの噴霧工程Aにおいて用いられる水ガラス噴霧装置について、説明する。
【0073】
上記においては、第1実施形態及び第2実施形態で飛散防止液として用いたポリアクリルアミド溶液を噴霧するポリアクリルアミド溶液噴霧装置について説明したが、この噴霧装置の構成の一部を置き換えることにより、第3実施形態で飛散防止液として用いた水ガラスを噴霧するための水ガラス噴霧装置としても用いることができる。
【0074】
具体的には、ポリアクリルアミドタンク11の代わりに水ガラスタンクを用い、水ガラスを溶解させた水ガラスを貯蔵する。それ以外の水ガラス噴霧装置の構成については、ポリアクリルアミド溶液噴霧装置と同様である。
【0075】
ここで、水ガラスは、常温で液体状態である。このような水ガラスを用いることにより、アスベスト含有物が水ガラスに十分に包容されるようになると共に、水ガラスを基礎体表面に噴霧しやすくなる。
[高圧水噴射装置]
次に、本発明の第1実施形態乃至第3実施形態のアスベスト処理方法のうちの剥離工程Bにおいて用いられる高圧水噴射装置について、図7を参照しながら説明する。図7は、本発明のアスベスト処理方法に用いる高圧水噴射装置を示す概略図である。
【0076】
高圧水噴射装置は、水タンク21と、該水タンク21に連結された高圧ポンプ23と、該高圧ポンプ23に連結されたアキュムレータ24と、該アキュムレータ24に連結された高圧水噴射ガン26とを含んで構成される。
【0077】
水タンク21は、後述する高圧水噴射ガン26において噴射される水を貯蔵する。
【0078】
高圧ポンプ23は、上記水タンク21とパイプ22を介して接続されている。高圧ポンプ23は、水タンク21からパイプ22を介して送られた水を、後述するアキュムレータ24へと加圧供給する。
【0079】
アキュムレータ24は、パイプ22を介して、高圧ポンプ23と接続されている。アキュムレータ24は、後述する高圧水噴射ガン26から噴霧される高圧水の噴射圧を安定させるためのものである。
【0080】
高圧水噴射ガン26は、ホース25を介してアキュムレータ24と接続されている。この高圧水噴射ガン26から高圧水が噴射されることによって、基礎体表面からアスベスト含有物が剥離される。ここで、噴射する水は、50kg/cm以上1000kg/cm以下に加圧することが好ましく、また、100kg/cm以上500kg/cm以下に加圧することがより好ましく、さらには200kg/cm以上400kg/cmであることがより好ましい。このような圧力で水を噴射することにより、基礎体表面からアスベスト含有物が良好に剥離されると共に、アスベスト含有物がポリアクリルアミド溶液又は水ガラスからなる飛散防止液に包容されたままの状態で剥離されるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係るアスベスト処理方法は、基礎体表面からアスベスト含有物を除去する際にアスベストが空中に飛散するのを防止し、かつ、除去したアスベスト含有物を簡易に処理できる方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の第1実施形態のアスベスト処理方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図2】図1のアスベスト処理方法のうちの一部の工程を示す概略図である。
【図3】本発明の第2実施形態のアスベスト処理方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態のアスベスト処理方法に用いるポリアクリルアミド溶液噴霧装置を示す概略図である。
【図5】本発明のアスベスト処理方法において用いるポリアクリルアミド溶液噴霧装置の変形例を示す概略図である。
【図6】本発明のアスベスト処理方法において用いるポリアクリルアミド溶液噴霧装置の変形例であって、第2実施形態のアスベスト処理方法に用いるポリアクリルアミド溶液噴霧装置を示す概略図である。
【図7】本発明の第1実施形態乃至第3実施形態のアスベスト処理方法に用いる高圧水噴射装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0083】
A 噴霧工程
B 剥離工程
C 凝集工程
D 第一袋詰め工程
E 第二袋詰め工程
F 脱水工程
G 第三袋詰め工程
H 最終処理工程
S 分離工程
T 再処理工程
1 ゲル状のかたまり
2 第一のメッシュ袋
3 第二のメッシュ袋
4 脱水剤
5 第三の袋
11 ポリアクリルアミドタンク
12、21 水タンク
13、22 パイプ
14 ポンプ
15 混合タンク
16、25 ホース
17 噴霧ノズル
23 高圧ポンプ
24 アキュムレータ
26 高圧水噴射ガン
30 静電気印加装置
40 第二処理槽
50 第一処理槽
100 フロック状の沈殿


【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛散防止液を予めアスベスト含有物に塗布した後、基礎体表面からアスベスト含有物を除去するアスベスト処理方法において、以下の(a)〜(c)の各工程を有することを特徴とする。
(a)水ガラスからなる前記飛散防止液を使用して、この飛散防止液をアスベスト含有物に低圧噴霧ノズルから噴霧して、アスベスト含有物を飛散防止液に包容させる噴霧工程と、
(b)前記飛散防止液を含浸させたアスベスト含有物に、高圧噴射ノズルから高圧水を噴射して、前記基礎体表面から該アスベスト含有物を剥離させる剥離工程と、
(c)前記剥離したアスベスト含有物に、凝集剤をふりかけて、ゲル状にする凝集工程。
【請求項2】
飛散防止液を予めアスベスト含有物に塗布した後、基礎体表面からアスベスト含有物を除去するアスベスト処理方法において、以下の(a)〜(c)の各工程を有することを特徴とする。
(a)ポリアクリルアミド溶液からなる前記飛散防止液を使用して、この飛散防止液をアスベスト含有物に低圧噴霧ノズルから噴霧して、アスベスト含有物を飛散防止液に包容させる噴霧工程と、
(b)前記飛散防止液を含浸させたアスベスト含有物に、高圧噴射ノズルから高圧水を噴射して、前記基礎体表面から該アスベスト含有物を剥離させる剥離工程と、
(c)前記剥離したアスベスト含有物に、凝集剤をふりかけて、ゲル状にする凝集工程。
【請求項3】
前記噴霧工程において、静電気が印加されたポリアクリルアミド溶液からなる飛散防止液を用いることを特徴とする、請求項2に記載のアスベスト処理方法。
【請求項4】
前記凝集工程の後に、さらに、前記ゲル状にしたアスベスト含有物を、少なくとも該ゲル状にしたアスベスト含有物が抜け出ることのない粗さのメッシュを有する第一のメッシュ袋に収納する第一の袋詰め工程を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のアスベスト処理方法。
【請求項5】
前記第一の袋詰め工程の後に、前記第一のメッシュ袋を、該第一のメッシュ袋より細かいメッシュの第二のメッシュ袋に袋詰めするとともに、第一のメッシュ袋と第二のメッシュ袋との間に脱水剤を投入する脱水工程を有することを特徴とする、請求項4に記載のアスベスト処理方法。
【請求項6】
前記ポリアクリルアミド溶液の濃度が、500ppm以上5000ppm以下であることを特徴とする、請求項2〜5のいずれかに記載のアスベスト処理方法。
【請求項7】
前記水ガラスが、常温で液体状態であることを特徴とする、請求項1、4、5のいずれかに記載のアスベスト処理方法。
【請求項8】
前記高圧水の圧力が、50kg/cm以上1000kg/cm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のアスベスト処理方法。
【請求項9】
前記凝集工程における凝集剤としてアルミニウム系凝集剤を用いることを特徴とする、請求項2に記載のアスベスト処理方法。
【請求項10】
前記凝集工程の後に、アスベスト含有物を含む沈殿と水とを分離する分離工程と、該分離工程において分離された水にアニオン系界面活性剤を加える再処理工程とを有することを特徴とする、請求項9に記載のアスベスト処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−130626(P2007−130626A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30848(P2006−30848)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(503078597)
【Fターム(参考)】