説明

アスベスト成分飛散防止構造

【課題】 従来のアスベスト成分飛散防止技術は、アスベスト改質硬化剤を混合する手間および噴霧後に軽く押圧する手間がかかると共に、劣化した脆弱部に深く浸透しづらく、固化能力も不十分である。また、耐候性も弱く、新しい機能を付加することも出来ない。
【解決手段】 まず、波形スレートの表面を高圧洗浄機を使わずに洗浄する。次に、溶剤型または水性の2液または1液のエポキシ樹脂シーラーを、波形スレートの表面に塗布する。次に、この固化層の表面に、溶剤型または水性の2液または1液のウレタン樹脂塗料またはシリコン樹脂塗料を塗布する。次に、この第1被覆層の表面に、同種の樹脂塗料を重ねて塗布する。この結果、波形スレートの表面に、固化層、第1被覆層および第2被覆層がこの順に積層されて構成されるアスベスト飛散防止構造が形成される。希望により、遮熱性,断熱性等が付加された高機能構造にすることも出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の建物に使われているアスベスト含有建材からアスベスト成分が飛散することを防止するアスベスト成分飛散防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト含有建材は、波形スレートや住宅屋根用化粧スレートといった建物の屋根材、耐火被覆板や、窯業系サイディング、押出成型セメント板といった建物の壁材などに用いられている。この種のアスベスト含有建材は、経年劣化や、酸性雨,二酸化イオウ,大気汚染等の作用による劣化などにより結合の弱くなったアスベスト成分を、大気中に飛散させてしまう。アスベストは発癌性物質で人体に有害なため、アスベスト成分がこのように大気中に飛散してしまうことが大きな社会問題になりつつある。
【0003】
このため、従来から、アスベスト成分が大気中に飛散するのを防止する種々の技術が提案されている。例えば、下記の特許文献1には、ケイ酸塩類を主成分とするアルカリ性水溶液とガラスの微粒子とを容積比率91:9〜99:1で混合し、この混合物を、建築物解体現場のアスベスト断熱材に噴霧含浸させ、軽く押圧して、アスベスト成分の飛散を防止する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−137976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の特許文献1に開示されるアスベスト成分飛散防止技術は、ケイ酸塩類を主成分とするアルカリ性水溶液とガラスの微粒子とを所定の容積比率で混合する手間がかかると共に、劣化した脆弱部に深く浸透しづらく、また、固化能力も不十分である。また、混合物を噴霧含浸させた後に軽く押圧する手間もかかり、耐候性も弱く、長期にわたるアスベスト成分飛散防止能力の維持が困難である。さらに、遮熱性,断熱性,汚染防止性といった新しい機能を付加することも出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、アスベスト含有建材の表面に塗布されてアスベスト含有建材の劣化した脆弱層に深く浸透して固化させるエポキシ系樹脂からなる固化層と、この固化層の表面に塗布される耐候性,耐久性,耐薬品性,遮熱性,断熱性,または汚染防止性を持ったウレタン系樹脂またはシリコン系樹脂からなる第1被覆層と、この第1被覆層の表面に重ねて塗布された同種のウレタン系樹脂またはシリコン系樹脂からなる第2被覆層とにより、アスベスト含有建材からアスベスト成分が飛散するのを防止すると共に、遮熱性,断熱性,汚染防止性,防カビ性等の新機能を付加する構造を構成した。
【0006】
このアスベスト含有建材からのアスベスト成分飛散防止構造は、アスベスト含有建材の表面に、固化層、第1被覆層、および第2被覆層がこの順に塗布されることにより、実現される。この構造により、アスベスト含有建材の表面は、固化層によって固められてアスベスト成分が大気中に飛散するのが防止され、第1被覆層および第2被覆層によって耐候性,耐久性,耐薬品性,遮熱性,断熱性,または汚染防止性が持たせられてアスベスト含有建材の長寿命化が図られ、建物の資産価値が向上させられる。
【発明の効果】
【0007】
このような本発明によれば、例えば、市販のエポキシ系樹脂塗料、ウレタン系樹脂塗料またはシリコン系樹脂塗料をアスベスト含有建材の表面に塗布するだけで、簡単に、アスベスト含有建材からアスベスト成分が飛散するのを防止し、これまでになかった新機能を付加する構造を実現することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を既設建物の屋根材に用いられている波形スレートに適用した、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0009】
波形スレートは、アスベストにセメントを混ぜて加工された製品で、断熱性があり、製造も簡単なために、工場や駅舎などの屋根によく使われている。
【0010】
本実施の形態のアスベスト飛散防止構造をこの波形スレートに施行するには、まず、波形スレートの表面を洗浄する。この洗浄は、周辺に洗浄汚物を飛散させるおそれのある高圧洗浄機を使わず、波形スレートの素地表面に水を湿す程度に塗布し、波形スレートの表面の汚れ、かび、こけ等をブラシで除去することによって行われ、工事現場周辺へのアスベスト含有汚物の飛散が防止される。
【0011】
次に、浸透性がよい、溶剤型または水性の2液または1液のエポキシ樹脂シーラーを、波形スレートの表面に刷毛、ローラーまたはエアレス・スプレーで塗布する。この塗布量は0.18〜0.21[kg/m]程度であり、塗り重ね乾燥時間は24時間以上7日以内程度である。これにより、波形スレートの表面に深く浸透して波形スレートの表面を固化させるエポキシ系樹脂からなる固化層が形成される。
【0012】
次に、この固化層の表面に、溶剤型または水性の2液または1液のウレタン樹脂塗料またはシリコン樹脂塗料を刷毛、ローラーまたはエアレス・スプレーで塗布する。この塗布量は0.12〜0.14[kg/m]程度であり、塗り重ね乾燥時間は4時間以上7日以内程度である。これにより、固化層の表面に、固化層に耐候性を持たせるウレタン系樹脂またはシリコン系樹脂からなる着色された第1被覆層が、25[μm]程度の厚さに形成される。
【0013】
次に、この第1被覆層の表面に、溶剤型または水性の2液または1液のウレタン樹脂塗料またはシリコン樹脂塗料を刷毛、ローラーまたはエアレス・スプレーで、重ねて塗布する。この塗布量も0.12〜0.14[kg/m]程度である。これにより、第1被覆層の表面に、固化層に耐候性を持たせるウレタン系樹脂またはシリコン系樹脂からなる着色された第2被覆層が、25[μm]程度の厚さに形成される。この結果、波形スレートの表面に、固化層、第1被覆層および第2被覆層がこの順に積層されて構成されるアスベスト飛散防止構造が形成される。また、このウレタン樹脂塗料またはシリコン樹脂塗料に、遮熱性,断熱性,汚染防止性,防カビ性等の新機能が付加される。
【0014】
この波形スレートからのアスベスト成分飛散防止構造は、上記のように波形スレートの表面に、固化層、第1被覆層、および第2被覆層がこの順に塗布されることにより、実現される。この構造により、波形スレートの表面は、固化層によって固められて波形スレート中のアスベスト成分が大気中に飛散するのが防止され、第1被覆層および第2被覆層によって耐候性が持たせられると共に、第1被覆層および第2被覆層に使う樹脂塗料の種類を選択することによって、希望により、第1被覆層および第2被覆層の性能に、遮熱性,断熱性,汚染防止性,防カビ性等の新機能を持たせることが出来る。この結果、波形スレートの長寿命化および高機能化が図られる。
【0015】
このような本実施の形態によれば、例えば、市販のエポキシ樹脂シーラー、ウレタン系樹脂塗料またはシリコン系樹脂塗料を波形スレートの表面に塗布するだけで、簡単に、波形スレートからアスベスト成分が飛散するのを防止する構造を実現することが可能になる。従って、波形スレートを使った建物に対し、波形スレートが劣化した場合のアスベスト成分の飛散を防止すると共に、その建物の解体時期を延ばすことも可能になる。よって、本実施の形態によるアスベスト飛散防止構造によれば、経済性とエコロジーへの貢献が期待できる。
【0016】
なお、上記実施の形態における各樹脂塗料の塗布量や、乾燥時間、膜厚などは一例を示すものに過ぎず、これに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
上記の実施の形態では、本発明を波形スレートに適用した場合について説明したが、住宅屋根用化粧スレートといった建物の屋根材や、耐火被覆板、窯業系サイディング、押出成型セメント板といったといった建物の壁材などの他のアスベスト含有建材にも、同様に適用することができる。そして、この場合にも、上記の実施の形態と同様な作用効果が奏される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有建材の表面に塗布されてアスベスト含有建材の劣化した脆弱層に深く浸透して固化させるエポキシ系樹脂からなる固化層と、この固化層の表面に塗布される耐候性,耐久性,耐薬品性,遮熱性,断熱性,または汚染防止性を持ったウレタン系樹脂またはシリコン系樹脂からなる第1被覆層と、この第1被覆層の表面に重ねて塗布された同種のウレタン系樹脂またはシリコン系樹脂からなる第2被覆層とからなるアスベスト含有建材からのアスベスト成分飛散防止構造。

【公開番号】特開2007−197248(P2007−197248A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17246(P2006−17246)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(506023220)
【Fターム(参考)】