説明

アズレン誘導体の製造方法及びアズレン誘導体

【課題】2位の電子吸引基、及び/又は、6位の電子供与性基の置換基のみを有しているアズレン誘導体を提供する。
【解決手段】アズレン又はアズレン誘導体の1位及び3位に置換基を付加する置換基付加工程と、置換基付加工程で置換基が付加されたアズレン誘導体の6位に臭素を付加する臭素付加工程と、6位に付加した臭素を電子供与性基に置換する置換工程と、を備え、下記構造式に示すアズレン誘導体を
【化1】


合成する。ここで、上記式において、Pは電子供与性基を示し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光センサー、蛍光色素材料、医薬品、触媒配位子、電子写真感光体、液晶素子、有機伝導体、化粧品、染料等で有用な新規アズレン誘導体の製造方法及びアズレン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アズレン誘導体は古くから民間で薬用とされてきたニガヨモギやカミツレ精油の成分として知られているが、最近になって抗炎症剤、高脂血症治療剤、抗癌剤等の医薬品としての用途、更に蛍光センサー、蛍光色素材料、触媒配位子、電子写真感光体、液晶素子、有機伝導体、化粧品、染料等としての用途も注目されつつある化合物である。中でも、2位に置換基を有するアズレン類は、重要な基本化合物と目されている。また、6位に置換基を有するアズレン類も目されている。
【0003】
2位に電子吸引基又は電子供与性基の置換基を配する合成法の一つとして、例えば、2−ブロモアズレンとピロリジンをベンゼンと共に加熱することにより、2−ピロリジニルアズレンを合成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平11−48720号公報
【特許文献2】特開2004−35519号公報
【特許文献3】特開2006−96722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の合成方法では、アズレン誘導体の2位にピロリジル基を配することはできるが、2位の電子吸引基、及び/又は、6位の電子供与性基の置換基のみを有しているアズレン誘導体を合成することはできなかった。
【0005】
そこで本発明は、特異な置換基を有するアズレン誘導体、すなわち、2位に電子吸引基、及び/又は、6位に電子供与性基の置換基のみを有しているアズレン誘導体、及び、このような構造のアズレン誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のアズレン誘導体の製造方法においては、アズレン又はアズレン誘導体の1位及び3位に置換基を付加する置換基付加工程と、置換基付加工程で置換基が付加されたアズレン誘導体の6位にハロゲンを付加するハロゲン付加工程と、6位に付加したハロゲンを電子供与性基に置換する置換工程と、を備え、下記構造式(1)に示すアズレン誘導体を
【化1】

(1)
合成することを特徴としている。ここで、上記式(1)において、Pは電子供与性基を示し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。
【0007】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、Rは水素原子であって、置換工程によって6位に電子供与性基が付加されてなるアズレン誘導体の2位にハロゲンを付加する第2ハロゲン付加工程と、2位に付加したハロゲンを電子吸引性基に置換する第2置換工程と、を備え、下記構造式(2)に示すアズレン誘導体を
【化2】

(2)
合成することが好ましい。ここで、上記式(2)において、Pは電子吸引基を示す。
【0008】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、上記式(1)、(2)のR〜Rはすべて水素原子であるとよい。
【0009】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、上記式(1)、(2)の1位及び3位の置換基を除去する除去工程を備え、下記構造式(3)に示すアズレン誘導体を
【化3】

(3)
合成することが好ましい。
【0010】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、上記式(1)、(2)の1位及び3位に付加される置換基はエステル基とすることができる。
【0011】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、電子吸引性基はシアノ基を含むことが好ましい。
【0012】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、電子供与性基はピロリジニル基を含むとよい。
【0013】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、上記式(1)から(3)の6位にハロゲンが付加されるアズレン誘導体は、下記構造式(4)に示す2−アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化4】

(4)
であって、ハロゲン付加工程においては、ハロゲンとしての臭素を与えることによって、下記構造式(5)に示す2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化5】

(5)
を合成することができる。
【0014】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、置換工程においては、上記式(5)の2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンからアミノ基を除去して得られた、下記構造式(6)に示す6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、
【化6】

(6)
ピロリジンを加えることによって、下記構造式(7)に示す6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化7】

(7)
を合成することが好ましい。
【0015】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、第2ハロゲン付加工程においては、上記式(7)の6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、ハロゲンとしての臭素を与えることによって、下記構造式(8)に示す2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化8】

(8)
を合成することが好ましい。
【0016】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、第2置換工程においては、上記式(8)の2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムを加えることによって、下記構造式(9)に示す2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンを
【化9】

(9)
合成するとよい。
【0017】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、除去工程において、上記式(9)の2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、リン酸を加えることによって、下記構造式(10)に示す2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンを
【化10】

(10)
合成することが好ましい。
【0018】
本発明のアズレン誘導体の製造方法において、上記式(7)の6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンにリン酸を加えることによって、
下記構造式(11)に示す6−ピロリジニルアズレン
【化11】

(11)
を合成することができる。
【0019】
本発明に係るアズレン誘導体は、アズレン又はアズレン誘導体の1位及び3位に置換基を付加するとともに、6位にハロゲンを付加した後に、6位に付加したハロゲンを電子供与性基に置換することによって合成することを特徴としており、その構造は下記構造式(12)で示される。
【化12】

(12)
ここで、上記式において、Pは電子供与性基を示し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。
【0020】
本発明のアズレン誘導体において、上記構造式(12)に示すアズレン誘導体の2位にハロゲンを付加した後に、2位に付加したハロゲンを電子吸引性基に置換することによって下記構造式(13)に示すアズレン誘導体を合成することが好ましい。
【化13】

(13)
ここで、上記式において、Pは電子供与性基を示す。
【0021】
本発明のアズレン誘導体において、上記式(12)、(13)のR〜Rはすべて水素原子であることが好ましい。
【0022】
本発明のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、上記式(12)、(13)の1位及び3位の置換基を除去することによって得られる、下記構造式(14)に示すアズレン誘導体
【化14】

(14)
であるとよい。
【0023】
本発明のアズレン誘導体において、式(12)、(13)のR及びRはエステル基であることが好ましい。
【0024】
本発明のアズレン誘導体において、電子吸引性基はシアノ基を含むことが好ましい。
【0025】
本発明のアズレン誘導体において、電子供与性基はピロリジル基を含むとよい。
【0026】
本発明のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、下記構造式(15)に示す2−アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化15】

(15)
の6位にハロゲンとしての臭素を付加することによって得られる下記構造式(16)に示す2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化16】

(16)
であることが好ましい。
【0027】
本発明のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンからアミノ基を除去して得られた、下記構造式(17)に示す6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、
【化17】

(17)
ピロリジンを加えることによって得られる下記構造式(18)に示す6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化18】

(18)
であるとよい。
【0028】
本発明のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、ハロゲンとしての臭素を与えることによって得られる、下記構造式(19)に示す2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化19】

(19)
であることが好ましい。
【0029】
本発明のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムを加えることによって得られる、下記構造式(20)に示す2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化20】

(20)
であるとよい。
【0030】
本発明のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、リン酸を加えることによって得られる、下記構造式(21)に示す2−シアノ−6−ピロリジニルアズレン
【化21】

(21)
であることが好ましい。
【0031】
本発明のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、リン酸を加えることによって得られる、下記構造式(22)に示す6−ピロリジニルアズレン
【化22】

(22)
であるとよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、アズレン又はアズレン誘導体の1位及び3位に置換基を付加する置換基付加工程と、置換基付加工程で置換基が付加されたアズレン誘導体の6位にハロゲンを付加するハロゲン付加工程と、6位に付加したハロゲンを電子供与性基に置換する置換工程と、を備えることにより、後に1位及び3位の置換基を容易に除去することができるため、2位の電子吸引基及び/又は6位の電子供与性基のみを有するアズレン誘導体を合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態に係るアズレン誘導体及びその製造方法について詳しく説明する。
本実施形態に係るアズレン誘導体は、アズレン又はアズレン誘導体の1位、2位、及び3位に置換基を付加(置換基付加工程)するとともに、6位にハロゲン(例えば臭素、塩素、ヨウ素)を付加(ハロゲン付加工程)した後に、6位に付加したハロゲンを電子供与性基に置換(置換工程)する。これにより、下記構造式(23)に示すアズレン誘導体
【化23】

(23)
を合成する。この式(1)において、Pは電子供与性基を示し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。
【0034】
さらに、電子供与性基に置換されたアズレン誘導体の2位にハロゲンを付加(第2ハロゲン付加工程)した後に、2位に付加したハロゲンを電子吸引性基に置換(第2置換工程)する。これにより、下記構造式(24)に示すアズレン誘導体を
【化24】

(24)
を合成する。この式(2)において、Pは電子吸引基を示す。
【0035】
またさらに、1位及び3位の置換基を除去(除去工程)することによって、2位の電子吸引性基、及び/又は6位の電子供与性基のみを有するアズレン誘導体を合成する。これにより、下記の構造式(25)に示すアズレン誘導体
【化25】

(25)
を合成する。したがって、従来は合成することのできなかった、2位の電子吸引基及び/又は6位の電子供与性基のみを有するアズレン誘導体を合成することができる。
以下に、具体的な物質名を挙げて、各工程に対応する実施例について説明する。なお、以下の実施例では、ハロゲンとして臭素を用いた例を示すが本発明は臭素以外のハロゲンを用いた場合にも適用することができる。
【0036】
以下の実施例では、上記式(1)から式(3)に至る反応過程を次のように分けて、これらに対応する実施例について説明する。
(A)実施例1(アズレン合成):2‐トシルオキシトロポンから2‐アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンへの反応過程
(B)実施例2(ハロゲン付加工程):2−アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンから2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンへの反応過程
(C)実施例3(置換工程):2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンから、6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンを経て、6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに至る反応過程(B−1、B−2)
(D)実施例4(第2ハロゲン付加工程):6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンから2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンへの反応過程
(E)実施例5(第2置換工程):2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンから2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンへの反応過程
(F)実施例6(除去工程):2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンから2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンへの反応過程
【0037】
また、実施例5によって合成された2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンの分光特性の測定結果を実施例6として説明する。
【0038】
実施例2から実施例6によれば、2位のシアノ基(電子吸引性基)、6位のピロリジニル基(電子供与性基)のみが配置された2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンを合成することができる。これに対して、実施例3において合成された6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンから、6位にピロリジニル基のみが配置された6−ピロリジニルアズレンを合成することができる。この反応過程を実施例8として説明する。
【0039】
ここで、実施例の既知反応の引用文献を示す。
(1)2−アミノアズレン誘導体の合成
T.Nozoe, S.Seto, K.Takase, S.Matsumura, and
T.Nakazawa,
J. Chem. Soc. Jpn., 86, 346‐363(1965)
(2)臭素化反応
T.Nozoe, T.Asao, H.Susumago, and M.Ando,
Bull. Chem. Soc. Jpn., 47, 1471‐1476(1974)
(3)2−アミノ−6−ブロム−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンの脱アミノ化反応
McDonald et al.,
J. Org. Chem., 41, 1811(1976)
【実施例1】
【0040】
(A)2‐アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンの合成
2‐トシルオキシトロポン(60g,0.217mol)をEtOH(1350ml)に溶解し、シアノ酢酸エチル(55.5g,0.490mol)を加え、氷で冷却しながらt-ブチルアミン(36.65g,0.501mol)を滴下漏斗で滴下し、0℃で保ちながら一晩攪拌した。翌日、結晶の析出した反応溶液を吸引ろ過し、濾液を水(3000ml)に移し、析出した結晶をブフナー漏斗で吸引ろ過して回収、減圧乾燥にて乾燥した。粗結晶をEtOHで再結晶し、減圧乾燥にて乾燥させた後に2‐アミノ‐1,3‐ジエトキシカルボニルアズレン(収率75.5%)を回収した。

【実施例2】
【0041】
(B)2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンの合成
下記構造式(26)に示す2−アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン(10.06g、35mmol)
【化26】

(26)
をクロロホルム(100ml)に溶解させ攪拌しておき、室温下でクロロホルム(35ml)に溶解した臭素(10ml)をゆっくりと滴下した。その後、すぐに結晶が析出し、攪拌が出来なくなったので、クロロホルム(100ml)を加えて一晩攪拌した。翌日、単体臭素を除くために亜硫酸ナトリウム飽和溶液(200ml)を加えて、3時間攪拌した。その後、分液漏斗を用いてクロロホルム層を回収、有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、残留水分を除去した後、硫酸マグネシウムを濾別し溶媒を除去した。得られた粗結晶をEtOHで再結晶し、減圧乾燥にて乾燥させた後に、下記構造式(27)に示す2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化27】

(27)
を収率95.7%得た。
【実施例3】
【0042】
(C−1)6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンの合成
2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン(10.012g、27.3mmol)をジオキサン(700ml)に溶解し、濃硫酸(1.62ml)、THF(54.0ml)、p−ハイドロキノン(3.36g、30.5mol)を加えて攪拌しておき、二つの滴下漏斗から、ジオキサン(600ml)にp−ハイドロキノン(60.59g)を溶解したものと、ジオキサン(200ml)に亜硝酸イソアミル(67.5g)を溶解したものをそれぞれ同時に終了するように滴下し、滴下終了後、一晩攪拌(24時間)した。翌日、1M−硫酸ナトリウム(2000ml)を攪拌しながら加え、2時間自然放置後、析出した結晶を濾取し、減圧乾燥して、下記構造式(28)に示す6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化28】

(28)
を95.5%得た。
【0043】
(C−2)6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンの合成
6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン(5.997g、17.08mmol)をEtOH(600ml)に溶解しピロリジン(7.23g、0.102mol)を加え、9時間加熱還流を行った。反応終了を確認後、溶媒を半分除去した後に析出した結晶をEtOHで濾取し(濾液も再結晶に再度利用)、減圧乾燥して、下記構造式(29)に示す6−ピロリジル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化29】

(29)
を92.9%得た。
【実施例4】
【0044】
(D)2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンの合成
6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン(3.03g、8.877mmol)をクロロホルム(50ml)に溶解攪拌させ、クロロホルムに溶解した臭素(2.09g、13.1mmol)をゆっくりと滴下した。室温下で24時間攪拌後、臭素還元剤として亜硝酸ナトリウム飽和水溶液(150ml)を加え、この混合物をクロロホルムで抽出を行った。クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加え、一晩放置し、硫酸ナトリウムを濾別した。濾液の溶媒を減圧留去し、得られた粗結晶をEtOHで再結晶し、減圧乾燥にて乾燥させた後に、下記構造式(30)に示す2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化30】

(30)
を収率56.2%得た。構造は質量分析装置(MASS)、核磁気共鳴装置(H−NMR,13C−NMR)により確認した。
【0045】
MASS m/z = 421(M
H−NMR (400MHz、 CDCl−TMS)δppm = 1.44(6H、t)、 2.13(4H、m)、 3.53(4H、m)、 4.44(4H、q)、 6.62(2H、d)、 8.94(2H、d)
13C−NMR (400MHz、 CDCl−TMS) δppm = 165.38、 157.27、 137.44、 133.50、 119.69、 116.37、 114.96、 99.97、 77.02、 60.12、 49.51、 25.42、 14.52
【実施例5】
【0046】
(E)2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンの合成
2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン(0.506g、1.20mmol)に酢酸パラジウム(0.005mg、2.23×10−2mmol)、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム・三水和物(0.224g、5.30×10−1mmol)、無水炭酸ナトリウム(0.261g、2.46mmol)を三口ナシフラスコに移し、Ar.Gas置換を行った。容器内が完全にAr気流下になったら、N,N−ジメチルアセトアミド[脱水](90ml、 9.71×10−1mol)を加え、120℃で24時間過熱攪拌した。攪拌後、2、3時間自然放冷にて室温まで下がったら、水(100ml)を加え希釈し、ベンゼンで抽出した。抽出した溶液を5%塩化アンモニウム水溶液(600ml)で洗浄し、再びベンゼン相を回収して無水硫酸マグネシウムを加えて一晩放置した。その後、硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を減圧留去した。次に、カラムクロマトグラフィー(アルミナ:40g、展開液:ベンゼン:酢酸エチル=10:1、展着液:ベンゼン)を行い、Fr−1、Fr−2を回収し、さらに溶媒を減圧留去した。さらに各Frをカラムクロマトグラフィー(分取:YMS ODS−AM 120 S50:208.8g、展着液:アセトニトリル、展開液:アセトニトリル:純水=7:3)を行い、Fr−1、Fr−2共に2種類のFrを回収し、溶媒をベンゼンで抽出し、無水硫酸マグネシウムを加えて一晩放置した後、硫酸マグネシウムを濾別し、濾液を減圧留去した。減圧留去後、減圧乾燥させ結晶を回収した。
アルミナカラムのFr−1の分取Fr−1とアルミナカラムのFr−2の分取Fr−1から、下記構造式(31)に示す2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化31】

(31)
を収率65.5%得た。
構造は質量分析装置(MASS)、核磁気共鳴装置(H−NMR、13C−NMR)により確認した。
【0047】
yellow needles
MASS m/z = 366.1558(M
H−NMR (400MHz、 CDCl−TMS)δppm = 1.48(6H、t)、 2.20(4H、m)、 3.63(4H、m)、 4.44(4H、q)、 6.67(2H、d)、 9.10(2H、d)
13C−NMR (400MHz、 CDCl−TMS) δppm = 164.29、 159.18、 139.75、 133.04、 118.89、 117.26、 115.96、 109.23、 77.02、 60.50、 50.11、 25.31、 14.26
【実施例6】
【0048】
(F)2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンの合成
2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン(0.100g、0.273mmol)を90℃に温められている100%リン酸(20ml)に溶解し、10分間攪拌した。その後、すぐに氷水(30ml)に移して水を多量に加えた。この混合物をベンゼンで抽出を行い、ベンゼン層に無水硫酸マグネシウムを加えて、一晩放置後、硫酸マグネシウムを濾別した。濾液の溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(アルミナ:20g、展開、展着液:ベンゼン:酢酸エチル=10:1)を行い、Fr−1とFr−2を回収した。質量分析装置(MASS)によりFr−1に目的物等が確認され、Fr−2には不純物が確認された。さらに溶媒を減圧留去して、カラムクロマトグラフィー(分取:YMS ODS−AM 120 S50:209g、展着液:アセトニトリル、展開液:アセトニトリル:純水=7:3)を行い、Fr−1では2種類のFrを回収した。回収された溶媒をベンゼンで抽出し、ベンゼン層に無水硫酸マグネシウムを加えて一晩放置後、硫酸マグネシウムを濾別し、濾液の溶媒を減圧留去した。減圧留去後、減圧乾燥させ結晶を回収した。質量分析装置(MASS)によりFr−1に目的物等が確認され、Fr−2には不純物が確認された。カラムクロマトグラフィー(アルミナ:15g、展開、展着液:ベンゼン:酢酸エチル=20:1)により精製し、下記構造式(32)に示す2−シアノ−6−ピロリジニルアズレン
【化32】

(32)
を収率25%得た。構造は質量分析装置(MASS)、核磁気共鳴装置(H−NMR、13C−NMR)、赤外分光法(IR)により確認した。
【0049】
reddish orange needles 、 m.p. 215 ℃(dec.)
MASS m/z = 222.1158 (M
H−NMR (400MHz、 CDCl−TMS)δppm = 2.13(4H、m)、 3.60(4H、m)、 6.42(2H、d)、 7.26(2H、s)、 7、94(2H、d)
13C−NMR (400MHz、 CDCl−TMS) δppm = 139.67、 130.54、 121.29、 109.93、 99.99、 77.01、 49.70、 25.46
【実施例7】
【0050】
(G)2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンの分光
ここで、質量分析装置(MASS)を図1に、核磁気共鳴装置(H−NMR)を図2に、核磁気共鳴装置(H−NMRのピーク拡大図)を図3に、核磁気共鳴装置(13C−NMR)図4に、赤外分光法(IR)を図5に示す。
【0051】
上述の構成において合成した2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンを極性溶媒にアセトニトリル、無極性溶媒にヘキサンを用いて10−5Mオーダー溶液に調製して、吸収スペクトル(Shimadzu UV−2450を使用)を測定し、図6に示す。また、極性溶媒のアセトニトリルは10−3Mオーダー溶液に、無極性溶媒のヘキサンは10−5Mオーダー溶液に調製して、蛍光・蛍光励起スペクトル(Shimadzu RF−5000を使用)を測定し、図7に示す。
【実施例8】
【0052】
(H)6−ピロリジニルアズレンの合成
6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン(0.205g、0.601mmol)を90℃に温められている100%リン酸(100ml)に溶解し、24時間攪拌した。その後、すぐに氷水(200ml)に移して、水酸化ナトリウムで中和した。この混合物をベンゼンで抽出を行い、ベンゼン層に無水硫酸マグネシウムを加えて、一時間自然放置後、硫酸マグネシウムを濾別した。濾液の溶媒を減圧留去し減圧乾燥させた。その後、カラムクロマトグラフィー(アルミナ:20g、展開、展着液:ベンゼン)により、下記構造式(33)に示す6−ピロリジニルアズレン
【化33】

(33)
を収率54.2%得た。構造は質量分析装置(MASS)、核磁気共鳴装置(H−NMR、13C−NMR)により確認した。
【0053】
reddish orange needles
MASS m/z = 198 (M
H−NMR (400MHz、 CDCl−TMS) δppm = 2.08(4H、m)、 3.53(4H、m)、 6.37(2H、d)、 7.07(2H、s) 7.28(1H、s)、 8.02(2H、d)
13C−NMR (400MHz、 CDCl−TMS) δppm = 136.89、 117.70、 107.83、 77.01、 49.12、 25.63
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例7における2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンのMass spectrumを示す図である。
【図2】本発明の実施例7における2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンのH−NMR spectrumを示す図である。
【図3】本発明の実施例7における2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンのH−NMR spectrumのピーク拡大を示す図である。
【図4】本発明の実施例7における2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンの13C−NMR spectrumを示す図である。
【図5】本発明の実施例7における2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンのInfrared spectrumを示す図である。
【図6】本発明の実施例7における2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンの吸収スペクトルを示す図である。
【図7】本発明の実施例7における2−シアノ−6−ピロリジニルアズレンの蛍光スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズレン又はアズレン誘導体の1位、2位、及び3位に置換基を付加する誘導体合成工程と、
前記誘導体合成工程で置換基が付加されたアズレン誘導体の6位にハロゲンを付加するハロゲン付加工程と、
前記6位に付加したハロゲンを電子供与性基に置換する置換工程と、
を備え、下記構造式に示すアズレン誘導体を
【化1】

合成することを特徴とするアズレン誘導体の製造方法。
(上記式において、Pは電子供与性基を示し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。)
【請求項2】
前記Rは水素原子であって、前記置換工程によって前記6位に電子供与性基が付加されてなるアズレン誘導体の2位にハロゲンを付加する第2ハロゲン付加工程と、前記2位に付加したハロゲンを電子吸引性基に置換する第2置換工程と、を備え、下記構造式に示すアズレン誘導体を
【化2】

合成する請求項1に記載のアズレン誘導体の製造方法。
(上記式において、Pは電子吸引基を示す。)
【請求項3】
前記R〜Rはすべて水素原子である請求項1又は請求項2に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
1位及び3位の置換基を除去する除去工程を備え、下記構造式に示すアズレン誘導体を
【化3】

合成する請求項1又は請求項2に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記1位及び3位に付加される置換基はエステル基である請求項1又は請求項2に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記電子吸引性基はシアノ基を含む請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記電子供与性基はピロリジル基を含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記6位にハロゲンが付加されるアズレン誘導体は、下記構造式に示す2−アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化4】

であって、前記ハロゲン付加工程においては、前記ハロゲンとしての臭素を与えることによって、下記構造式に示す2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化5】

を合成する請求項1、2、4から7のいずれか1項に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記置換工程においては、2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンからアミノ基を除去して得られた、下記構造式に示す6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、
【化6】

ピロリジンを加えることによって、下記構造式に示す6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化7】

を合成する請求項8に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記第2ハロゲン付加工程においては、前記6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、前記ハロゲンとしての臭素を与えることによって、下記構造式に示す2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化8】

を合成する請求項9に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項11】
前記第2置換工程においては、前記2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムを加えることによって、下記構造式に示す2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンを
【化9】

合成する請求項10に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項12】
前記除去工程において、前記2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、リン酸を加えることによって、下記構造式に示す2−シアノ−6−ピロリジルアズレンを
【化10】

合成する請求項11に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項13】
前記6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンにリン酸を加えることによって、
下記構造式に示す6−ピロリジルアズレン
【化11】

を合成する請求項9に記載のアズレン誘導体の製造方法。
【請求項14】
アズレン又はアズレン誘導体の1位、2位、及び3位に置換基を付加するとともに、6位にハロゲンを付加した後に、前記6位に付加したハロゲンを電子供与性基に置換することによって合成することを特徴とする下記構造式に示すアズレン誘導体。
【化12】

(上記式において、Pは電子供与性基を示し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は任意の置換基を示す。)
【請求項15】
請求項14に記載のアズレン誘導体において、合成されたアズレン誘導体の2位にハロゲンを付加した後に、前記2位に付加したハロゲンを電子吸引性基に置換することによって合成することを特徴とする下記構造式に示すアズレン誘導体。
【化13】

(上記式において、Pは電子吸引性基を示す。)
【請求項16】
前記R〜Rはすべて水素原子である請求項14又は請求項15に記載のアズレン誘導体。
【請求項17】
請求項14又は請求項15に記載のアズレン誘導体において、合成されたアズレン誘導体の1位及び3位の置換基を除去することによって得られる、下記構造式に示すアズレン誘導体。
【化14】

【請求項18】
前記R及びRはエステル基である請求項14、請求項15、又は請求項17に記載のアズレン誘導体。
【請求項19】
前記電子吸引性基はシアノ基を含む請求項14から請求項18のいずれか1項に記載のアズレン誘導体。
【請求項20】
前記電子供与性基はピロリジル基を含む請求項14から請求項19のいずれか1項に記載のアズレン誘導体。
【請求項21】
請求項14、15、17から20のいずれか1項に記載のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、下記構造式に示す2−アミノ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化15】

の6位に前記ハロゲンとしての臭素を付加することによって得られる下記構造式に示す2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化16】

である請求項14、15、17から20のいずれか1項に記載のアズレン誘導体。
【請求項22】
請求項21に記載のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、前記2−アミノ−6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンからアミノ基を除去して得られた、下記構造式に示す6−ブロモ−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、
【化17】

ピロリジンを加えることによって得られる下記構造式に示す6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化18】

である請求項21に記載のアズレン誘導体。
【請求項23】
請求項22に記載のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、前記6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、前記ハロゲンとしての臭素を与えることによって得られる、下記構造式に示す2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化19】

である請求項22に記載のアズレン誘導体。
【請求項24】
請求項23に記載のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、前記2−ブロモ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムを加えることによって得られる、下記構造式に示す2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレン
【化20】

である請求項23に記載のアズレン誘導体。
【請求項25】
請求項24に記載のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、前記2−シアノ−6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、リン酸を加えることによって得られる、下記構造式に示す2−シアノ−6−ピロリジニルアズレン
【化21】

である請求項24に記載のアズレン誘導体。
【請求項26】
請求項22に記載のアズレン誘導体において、合成されるアズレン誘導体は、前記6−ピロリジニル−1,3−ジエトキシカルボニルアズレンに、リン酸を加えることによって得られる、下記構造式に示す6−ピロリジニルアズレン
【化22】

である請求項22に記載のアズレン誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−285435(P2008−285435A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131347(P2007−131347)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】