説明

アゾ顔料を含むインクジェットインク組成物

液体媒質、アゾ顔料およびシナジストを含むインクジェットインク組成物が記載されている。アゾ顔料およびシナジストの着色剤は、特定の構造的特徴を有しており、それらは、組み合わせて、種々のインク媒質中で長期間の安定性を有するインクジェットインク組成物を形成するのに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のアゾ顔料および少なくとも1種のシナジストを含むインクジェットインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般には、顔料単独では液体媒質中には容易には分散しない。安定な顔料分散液を与えることができる種々の技術が開発されてきている。例えば、特定の媒質中の顔料の分散性を向上させるために、分散剤を顔料に加えることができる。水性媒質用の分散剤の例としては、水溶性ポリマーおよび界面活性剤が挙げられる。
【0003】
アゾ顔料は、着色顔料の特定の分類であり、通常は、黄、だいだい、または赤の色空間に入る。これらの顔料は、典型的にはジアゾニウム塩(ジアゾ成分)をジアゾニウム塩と反応することができる化合物(アゾ結合成分)と混合することによって調製される。それぞれの成分の種類および置換基が、顔料の色と輝度を決定する。
【0004】
アゾ顔料の分散液は、物理的(例えば粉砕)ならびに化学的の両方の、種々の異なる技術を用いて調製されている。例えば、アゾ顔料分散液は、着色顔料の化学的単位と、同じではないにしても、類似の構造単位を有する分散剤を用いて調製されている。例えば、独国特許第2356866号明細書には、ジアゾ化(カルボキシ/スルホ)−アニリンおよび1,4−ビス(アセトアセトアミド)フェニレンから誘導されたビス−アゾ化合物、ならびにそれらの顔料およびインク組成物における使用が開示されている。これらの材料は、ほとんど同じ構造を有する黄色およびだいだい色顔料との組み合わせで特に有用であることが見出されている。独国特許第2356634号には、同様の用途のための極めてよく似たモノ−アゾ化合物が記載されている。独国特許第2364322号には、モノアゾ顔料、特には黄色顔料との使用のための、N−(スルホフェニル)−アルファ−(2−メトキシ−4−ニトロフェニルアゾ)アセトアセトアミドが記載されている。また、米国特許第6,451,103号では、更に酸性官能基もしくは塩で置換された顔料である、水溶性顔料誘導体が、その特定の顔料の水性分散液を調製するために用いられている。インクジェットインクもまた開示されている。
【0005】
また、着色顔料の分散性を制御する他の方法も知られている。例えば、国際公開第00/26304号には、着色顔料の調製ロセスの間に成長する結晶化度の量を制御し、そして分散された顔料の再結晶化を防止する結晶成長抑制剤の調製が開示されている。この結晶成長抑制剤は、顔料の調製のための既知のプロセスと同様のプロセス(例えば、ジアゾニウム塩とアゾ結合剤との反応によって)を用いて調製され、そしてまた、着色剤の調製の間にその場で調製することができる。
【0006】
欧州特許第1316588号明細書および米国特許第7,300,504号明細書には、アゾ結合剤の混合物を用いたアゾ顔料の分散液の調製方法が記載されており、またはジアゾニウム剤の混合物もまた記載されている。例えば、欧州特許第1316588号明細書には、ジアゾ成分と結合剤成分との結合によって得られる顔料黄色74の調製が記載されている。この接合剤成分は、2−メトキシアセトアセトアニリドと、COOHもしくはSOH基で置換されていてもよい所定の式を有するアセトアセトアニリド誘導体とを含んでいる。また、これらの置換基を有するジアゾ成分の混合物を用いた同様の取り組みも記載されている。また、印刷用インクも開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの方法ではアゾ顔料の分散液が生成されるが、これらの分散液によっては、インクジェットインク組成物中に用いられる種々の共溶媒や添加剤に特に敏感であることが知られている。従って、この業界には、アゾ顔料、特に種々のタイプのインク媒質に亘って、長期間の分散安定性を有するアゾ顔料を含むインクジェットインク組成物の調製方法への要求が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、a)液体媒質、b)少なくとも1種のアゾ顔料、およびc)少なくとも1種のシナジスト、を含むインクジェットインク組成物に関する。このアゾ顔料は、以下の式を有する着色剤を含んでいる。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、P1〜P6は、アゾ顔料の着色剤の置換基であり、そしてP1およびP5はアルコキシ基ではない。少なくとも1種のシナジストは以下の式を有している。
【0011】
【化2】

【0012】
式中、S1〜S6は、シナジストの置換基であり、S2〜S4の少なくとも1つは、イオン基もしくはイオン性基を含んでおり、S5=P5であり、そしてS6=P6である。この着色剤とシナジストの両方で、Rは、C1〜C6アルキル基であり、そして特にはメチル基である。
【0013】
上記の包括的な説明および、以下の詳細な説明は、例示および説明のためだけのものであり、そして、特許請求した本発明の更なる説明を提供すること意図したものであることが理解されなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、アゾ顔料を含むインクジェットインク組成物に関する。
【0015】
本発明のインクジェットインク組成物は、液体媒質、少なくとも1種のアゾ顔料、および少なくとも1種のシナジストを含んでいる。この液体媒質は、50質量%超の水を含む媒質である水性媒質、または50質量%以下の水を含むか、もしくは水と混和性のない非水性液体媒質のいずれかであることができる。好ましくは、この媒質は水性媒質であり、そして例えば、水か、または水と、水と混和性の溶媒、例えばアルコールとの混合物であることができる。例えば、水性媒質は、水であることができる。
【0016】
有機着色顔料は、水に不溶性の着色剤を含んでおり、そしてそれらの着色剤の種類によって分類することができる。本発明のインクジェットインク組成物は、少なくとも1種のアゾ顔料を含んでおり、それは上記のように、特定の種類の着色顔料であり、通常は黄色、だいだい色、または赤色の色空間に入っている。また、アゾ顔料の組み合わせも用いることができる。アゾ顔料は、典型的には、ジアゾニウム塩(顔料ジアゾ成分)およびジアゾニウム塩と反応することができる化合物(顔料アゾ結合成分)を組み合わせることによって、調製することができる着色剤を含んでいる。本発明で用いられるアゾ顔料は、アリールアミンから形成された置換アリールジアゾニウム塩と、アシルアセトアミドベンゼン誘導体、例えばアセトアセトアミドベンゼン誘導体との反応生成物である着色剤を含んでおり、そして下記の式を有している。
【0017】
【化3】

【0018】
式中、P1〜P6は、アゾ顔料の着色剤の置換基であり、そしてこの式中のRは、C1〜C6アルキル基、好ましくはメチル基である。特に、P1〜P4は、この着色剤を調製するのに用いられるアゾ結合成分からの置換基であり、一方、P5〜P6は、ジアゾ成分からの置換基である。従って、本発明のインクジェットインク組成物に用いられるアゾ顔料は、下記の式
【0019】
【化4】

【0020】
を有するアリールアミンのジアゾ化によって調製されるアリールジアゾニウム塩と、下記の式を有するアゾ結合成分との反応によって調製される。
【0021】
【化5】

【0022】
着色剤の置換基P1〜P6は、変更することができる。特に、着色剤の置換基P2、P3、P4、およびP6は、当技術分野で知られている置換基でよく、例えば、インクジェットインク組成物の所望の色合いに応じて、H、ハロゲン(例えば、Cl)、アルキル基(例えば、CH基)、アルコキシ基(例えば、OCHもしくはOCHCH基)、アミド基(例えば、NHCOCHもしくはCONH基)、またはNO基が挙げられる。しかしながら、本発明では、P1およびP5のいずれもアルコキシ基、例えばメトキシもしくはエトキシ基ではない。従って、アゾ顔料の着色剤は、ジアゾ成分またはアゾ結合成分のいずれかからもたらされるアルコキシ置換基を含むことができるけれども、この着色剤は、上記で示した式中のアゾ基もしくはアミド基のいずれかのオルソ位にアルコキシ基を有さない。好適なアゾ顔料の具体的な例としては、ピグメントイエロー1、ピグメントイエロー1:1、ピグメントイエロー2、ピグメントイエロー3、ピグメントイエロー4、ピグメントイエロー5、ピグメントイエロー6、ピグメントイエロー9、ピグメントイエロー75、ピグメントイエロー98、およびピグメントイエロー116、ならびにそれらの顔料の組み合わせが挙げられ、それらは色特性の望ましい均衡を与えることができる。それらは、下記の表1中に示されている。
【0023】
【表1】

【0024】
他の好適な顔料は、当業者には知られている。好ましい顔料としては、費用と入手可能性に基づいて、ピグメントイエロー1、ピグメントイエロー1:1、ピグメントイエロー6、ピグメントイエロー9またはそれらの組み合わせが挙げられる。驚くべきことには、これらのアゾ顔料の特定の種類は、以下により詳細に議論される好適なシナジストと組み合わせた場合には、種々の異なる種類の液体媒質中で予期しない安定性を有するインクジェットインク組成物を調製するのに用いることができ、結果として、インク製造業者に少なからぬ配合の柔軟性を与えることが見出された。
【0025】
また、本発明のインクジェットインク組成物は、更に少なくとも1種のシナジストを含んでいる。この顔料は、改質顔料、すなわち、表面処理剤と反応した顔料、そして従って、少なくとも1つの結合した有機基を含んでいる顔料ではないので、シナジストは、液体媒質中のアゾ顔料の安定な分散を与えるために加えられる。従って、ここで用いられるシナジストは、このような改質アゾ顔料の安定な分散を得る、および/または維持するために、インクジェットインク組成物中に、アゾ顔料とは別に(すなわち、顔料の埒外で)加えられる材料である。従って、シナジストは、例えば既知の混合結合技術を用いて、顔料の調製の間に生成される材料、ではない。
【0026】
本発明では、シナジストは下記の式を有している。
【化6】

【0027】
式中、S1〜S6は、シナジストの置換基であり、そしてこの式中のRは、C1〜C6アルキル基、好ましくはメチル基である。従って、シナジストは、アゾ顔料の着色剤と構造的に同様なアゾ化合物であり、そしてこの色素と同様に、ジアゾニウム塩(シナジストジアゾ成分)とジアゾニウム塩と反応することができる化合物(シナジストアゾ結合成分)との組み合わせによって調製することができる。本発明では、シナジストは、アリールアミンから形成される置換アリールジアゾニウム塩と、アシルアセトアミドベンゼン誘導体、例えばアセトアセトアミドベンゼン誘導体との反応生成物を含んでいる。特に、S1〜S4は、アゾ結合成分からの置換基であり、一方で、S5〜S6はジアゾ成分からの置換基である。従って、本発明のインクジェットインク組成物中で用いられるシナジストは、下記の式
【0028】
【化7】

を有するアリールアミンのジアゾ化によって調製されるアリールジアゾニウム塩と、下記の式を有するアゾ結合成分との反応によって調製される。
【0029】
【化8】

【0030】
アゾ顔料の着色剤の置換基P1〜P6と同様に、シナジストの置換基S1〜S6もまた変更することができる。特に、シナジストの置換基S2、S3、S4およびS6は、例えばP2、P3、P4およびP6について上記したいずれかの基であることができる。しかしながら、本発明では、S1またはS5のいずれもアルコキシ基、例えばメトキシまたはエトキシ基ではない。従って、シナジストは、ジアゾ成分またはアゾ結合成分のいずれかからもたらされるアルコキシ置換基を含むことができるけれども、シナジストは、上記に示した式中のアゾ基もしくはアミド基のいずれかのオルソ位には、アルコキシ基を有さない。
【0031】
シナジストのジアゾ成分については、本発明では、置換基S5は、アゾ顔料着色剤の置換基P5と同じであり、そして置換基S6は、アゾ顔料着色剤の置換基P6と同じである。従って、シナジストとアゾ顔料は、同じジアゾ成分、例えばジアゾ化アリールアミンを用いて調製される。P5はアルコキシ基ではないので、従って、上記のように、S5もまたアルコキシ基ではない。驚くべきことには、シナジストとアゾ顔料の着色剤とのジアゾ成分を符合させることによって、種々の液体媒質中の向上した分散安定性がもたらされることが見出された。
【0032】
シナジストのアゾ結合成分については、本発明では、置換基S1〜S4は、顔料の着色剤の置換基P1〜P4と同じでも、異なっていてもよい。好ましくは、置換基S1〜S4の少なくとも1つ、例えば2つもしくは3つの基は、対応する置換基P1〜P4と同じである。例えば、基S1は、P1と同じであることができ、および/またはS2は、P2と同じであることができる。シナジスト構造が、着色剤により類似していれば、シナジストの色は、アゾ顔料により近くなる。また更に、向上した分散特性が見出された。しかしながら、シナジストのジアゾ成分は、顔料の着色剤のジアゾ成分と同じであるけれども、アゾ結合成分は、顔料の着色剤のアゾ結合成分と同じである必要はないが、しかしながら類似しているのが好ましい。
【0033】
更に、少なくとも1種の置換基S2、S3、またはS4は、少なくとも1種のイオン基もしくはイオン性基を含んでいる。例えば、S3は、少なくとも1種のイオン基または少なくとも1種のイオン性基(すなわち、インクジェットインク組成物中に用いられた場合に、イオン基を形成する基)を含む置換基であることができる。従って、アゾ顔料の着色剤とシナジストの両方が同様の構造を有しており、そして同様の方法で調製することができるけれども、シナジストは、少なくとも1種のイオン基もしくはイオン性基の存在のために水溶性である。イオン基はアニオン性またはカチオン性のいずれかであることができ、そして反対の荷電の対イオン、例えば、無機もしくは有機対イオン、例えば、Na、K、Li、NH、NR、アセテート、NO、SO−2、RSO、ROSO、OH、およびCl(ここで、これらの対イオン中のRは、水素もしくは有機基、例えば置換もしくは非置換アリールおよび/またはアルキル基)と会合している。イオン性基は、使用する媒質中でイオン基を形成することができる基である。有機イオン基としては、米国特許第5,698,016号明細書中に記載されている基が挙げられ、その記載を参照することによって全てを本明細書の内容とする。
【0034】
アニオン基は、負に荷電したイオン基であり、アニオンを形成することができるイオン性置換基(アニオン化可能基)、例えば酸性置換基を有する基から生成させることができる。また、それらは、イオン性置換基の塩中のアニオンであることもできる。アニオン性基の代表的な例としては、−COO、−SO、−OSO、−HPO、−OPO−2、および−PO−2、が挙げられる。アニオン化可能基の代表的な例としては、−COOH、−SOH、−PO、−R’SH、−R’OH、および−SONHCOR’が挙げられ、ここでこれらの基中のR’は、水素または有機基、例えば置換もしくは非置換アリールおよび/またはアルキル基を表す。好ましくは、アニオン性またはアニオン化可能基は、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、またはそれらの塩である。
【0035】
カチオン性基は、正に荷電した有機イオン性基であり、カチオンを形成することができるイオン化可能置換基(カチオン化可能基)から生成することができる基、例えばプロトン化アミンであることができる。例えば、アルキルもしくはアリールアミンは、酸性媒質中でプロトン化して、アンモニウム基、−NR’を形成することができ、ここでこの基の中のR’は、有機基、例えば置換もしくは非置換アリールおよび/またはアルキル基を表している。好ましくは、カチオン性またはカチオン化可能基は、アミン基もしくはそれらの塩あるいはアンモニウム基である。
【0036】
具体的な例としては、置換基S2、S3またはS4の少なくとも1つは、少なくとも1つのジェミナルビスホスホン酸基、その部分エステル、もしくはそれらの塩を含むことができ、すなわち、この置換基は、同じ炭素原子に直接に結合した、少なくとも2つのホスホン酸基、その部分エステル、またはそれらの塩を含むことができる。また、そのような基は、1,1−ジホスホン酸基、その部分エステル、またはそれらの塩と表すことができる。「その部分エステル」とは、このホスホン酸基が、式−POAHを有するホスホン酸部分エステル基、またはその塩であることができることを意味しており、ここでAは、アリール、アルカリル、アラルキルまたはアルキル基である。置換基のホスホン酸基のいずれか、もしくは両方は、ホスホン酸の部分エステル基であることができる。また、ホスホン酸基の1つは、式−POを有するホスホン酸エステルであることができ、一方で、他のホスホン酸基は、ホスホン酸の部分エステル基、ホスホン酸基またはそれらの塩であることができる。しかしながら、少なくとも1つのホスホン酸基は、ホスホン酸の塩もしくはその部分エステルである。
【0037】
例えば、置換基S2、S3またはS4の少なくとも1つは、式−CQ(PO)を有する基、その部分エステル、またはそれらの塩を含むことができる。Qは、ジェミナル位に結合しており、H、R’、OR’、SR’、またはNR’であることができ、ここでそれらの基のR’は、同じでも異なっていてもよく、H、C1〜C18飽和もしくは不飽和、分岐もしくは非分岐アルキル基、C1〜C18飽和もしくは不飽和、分岐もしくは非分岐アシル基、アラルキル基、アルカリル基、またはアリール基である。例えば、Qは、H、R’、OR’、SR’、またはNR’であることができ、ここでR’は、同じでも異なっていてもよく、H、C1〜C6アルキル基またはアリール基である。好ましくは、Qは、H,OH、またはNHである。更に、これらの置換基の1つは、式−(CH)−CQ(PO)を有する基、その部分エステル、またはそれらの塩を含むことができ、ここでQは、上記の通りであり、そしてnは、0〜9、例えば1〜9である。好ましくは、nは0〜3、例えば1〜3である。
【0038】
更なる例としては、置換基S2、S3またはS4の少なくとも1つは、式-CR''(PO)を有する基、その部分エステル、またはそれらの塩を含むことができる。この式では、R''は、HまたはC1〜C6アルキル基、例えばメチルもしくはエチル基であることができるが、しかしながら好ましくはHである。例えば、有機基は、式−CO−Z−CH(PO)または−SO−Z−CH(PO)を有する基、それらの部分エステル、またはそれらの塩を含むことができ、ここで、ZはO、SもしくはNR’であり、R’は、H、C1〜C18アルキル基、C1〜C18アシル基、アラルキル基、アルカリル基またはアリール基である。好ましくは、ZはNH、そして従って、この置換基は、少なくとも1つのアルキルアミド基を含み、ここでこのアルキル基は、ジェミナルビスホスホン酸基、その部分エステル、またはそれらの塩である。
【0039】
上記で議論したように、置換基S2、S3またはS4の少なくとも1つは、少なくとも1つのジェミナルビスホスホン酸基、その部分エステル、またはそれらの塩を含んでいる。「塩」は、ホスホン酸基が、カチオン性対イオンを有する、部分的に、もしくは完全にイオン化された形態であることを意味している。この有機基のホスホン酸基のいずれか、または両方は、部分的に、もしくは完全にイオン化された形態のいずれかであることができる。従って、少なくとも1つのこれらの置換基は、少なくとも1つのジェミナルビスホスホン酸基を含むことができ、ここでホスホン酸基のいずれか、または両方は、式−PO(一塩基性塩)または−PO−2+2(二塩基性塩)を有している。また、1つのホスホン酸基は、式−POを有することができる。これらの式で、M+は、カチオン、例えばNa、K、Li、またはNRであり、ここでこれらのカチオンのRは、同じでも異なっていてもよく、水素または有機基、例えば置換もしくは非置換アリール基および/またはアルキル基を表している。
【0040】
従って、本発明のインクジェットインク組成物は、少なくとも1種のアゾ顔料と、この顔料の着色剤のアゾ構造と同様のアゾ構造を有する少なくとも1種のシナジストとを含んでいる。この顔料の着色剤とシナジストの両方のジアゾ成分は同じであり、そしてそのいずれも、それらの構造のアゾ基のオルソ位であるアルコキシド基を有さない。更に、この着色剤のアゾ結合成分および、シナジストのアゾ結合成分はまた、それらの構造のアミド基のオルソ位であるアルコキシ基を有さない。更に、シナジストのアゾ結合成分は、少なくとも1種のイオン基またはイオン性基を含んでいる。
【0041】
また、インクジェットインク組成物は、2種以上のアゾ顔料および2種以上のシナジストを含むことができる。しかしながら、上記で議論した構造的な関係は、これらの混合物にも適用されなければならない。例えば、インクジェットインク組成物が、2種のアゾ顔料であって、それぞれが着色剤として異なるジアゾ成分を有している2種のアゾ顔料を含む場合には、このインクジェットインク組成物はまた、少なくとも2種のシナジスト、すなわち、第1のアゾ顔料のジアゾ成分を有する少なくとも1種と、第2のアゾ顔料のジアゾ成分を有する少なくとも1種、を含んでいる。同じジアゾ成分を有する2種のアゾ顔料の組み合わせが用いられる場合には、単に1種のシナジストが必要とされ、これもまた同じジアゾ成分を有していなければならない。また、それぞれのシナジストのジアゾ成分が、アゾ顔料の着色剤のジアゾ成分と同じでありさえすれば、1つの顔料に対して2種以上のシナジストを用いることができる。顔料とシナジストの他の組合せおよび混合物もまた、上記の構造的関係に合致すれば、可能である。
【0042】
インクジェットインク組成物のそれぞれの成分の量は、インクおよび/または結果として得られる印刷画像の所望の性質に応じて、変更することができる。特に、アゾ顔料の量は、変更することができるが、しかしながら典型的には、インクジェットインク組成物の質量を基準として、約0.1質量%〜約20質量%の範囲の量である。また、シナジストの量も変えることができるが、しかしながら典型的には、顔料の質量を基準として、約0.5質量%〜約10質量%、好ましくは約1.0質量%〜約8質量%、そしてより好ましくは顔料の質量を基準として、約2.0質量%〜約6質量%の範囲である。
【0043】
本発明のインクジェットインク組成物は、最小限の付加的な成分(添加剤および/または共溶媒)および処理工程で形成することができる。しかしながら、好適な添加剤をまた、組成物の安定性を維持したままで、多くの所望の特性を与えるために、これらのインクジェットインク組成物中に混合することができる。例えば、界面活性剤を、組成物のコロイド安定性を更に高めるために加えることができる。他の添加剤は、当技術分野でよく知られており、湿潤剤、殺生物剤および殺菌剤、結合剤、例えばポリマー結合剤、pH調節剤、乾燥促進剤、浸透剤などが挙げられる。具体的な添加剤の量は、種々の因子に応じて変わるが、しかしながら、一般的にはインクジェットインク組成物の質量を基準として、0質量%〜40質量%の範囲の量で存在する。更に、本発明のインクジェットインク組成物は、カラーバランスを修正し、そして光学密度を調整するために、色素を更に混合することができる。そのような色素としては、食用色素、FD&C色素、酸性染料、直接染料、反応性染料、スルホン酸フタロシアニンの誘導体、例えば、銅フタロシアニン誘導体、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、リチウム塩など、が挙げられる。また、上記の特定の構造的な要求に合致しない着色顔料を、特定の黄色顔料およびシナジストの組み合わせと共に、例えば、黄色の異なる色調(例えば赤みがかった、もしくは緑がかった色調)を作り出すために、または黄色の強度を向上させるために用いることも、本発明の範囲内である。
【0044】
驚くべきことに、上記でより詳細に議論した、特定の種類のアゾ顔料と特定の種類の好適なシナジストの組み合わせを含むインクジェットインク組成物は、種々の異なる種類の液体媒質中で、媒質が当技術分野で知られている種々の種類の添加剤を含んでいたとしても、予期しない安定性を有することが見出された。更に、驚くべきことに、これらの組成物はまた、エージングの検討を通して観察することができるように、長期に亘ってその安定性も維持している。従って、特定のアゾ顔料とシナジストの組合せは、種々の異なる配合で安定であるインクジェットインク組成物の調製を可能とする。
【実施例】
【0045】
本発明は、以下の例によって更に明確にされるが、それらは本来例示のためだけを意図したものである。
【0046】
以下の共通の手順を、本発明のインクジェットインク組成物を調製するために用いた。
【0047】
<ジアゾニウム溶液の調製>
ジアゾニウム塩の溶液を、下記のスキーム1に示した手順を用いて、対応する芳香族アミンから調製した。
【0048】
【化9】

【0049】
例えば、500mLの円錐形フラスコに、108ミリモルの芳香族アミン(または芳香族アミンの混合物)、250mLの氷水、および237ミリモルの濃塩酸(37%溶液を27.1mL)を加えた。この混合物を、氷の中で、攪拌しながら冷却し、そして55mLの2M亜硝酸ナトリム水溶液を加えることによってジアゾ化した。1時間の攪拌の後に、ジアゾ化は完了し、そして過剰の遊離の亜硝酸を0.5gの固体のスルファミン酸で破壊した。結果として得られたジアゾニウム溶液を、氷の上で保持し、そして調製から1時間以内に使用した。このジアゾニウム溶液は、シナジストとアゾ顔料の両方の調製に用い、従ってこれらの材料のジアゾ成分は同じであることを確実にした(すなわち、S5=P5、そしてS6=P6)。
【0050】
<シナジストの調製>
イオン基もしくはイオン性基を有するアゾ結合成分は、下記のスキーム2に示したように、米国特許第2,328,353号明細書中に記載されている手順を用いて、好適な芳香族アミンとジケテンの、水中での、3〜5℃、pH8〜10での反応によって調製した。
【0051】
【化10】

【0052】
収率は、LC−MSによって測定し、そしてほぼ定量的であることが見出された。結果として得られるシナジストアゾ結合成分は、水溶液として用いられ、そして容積測定された。
【0053】
8ミリモルの結合剤に相当するシナジストアゾ結合成分溶液の量を、1gの無水酢酸ナトリムが容れられた250mLの円錐形フラスコ中に容れた。これに、8ミリモルのジアゾニウム塩に相当するジアゾニウム溶液の量を、滴下して加え、そして黄色のスラリーがほぼ直ちに形成された。結果として得られたシナジスト(もしくはシナジストの混合物)スラリーは、HPLCによって、本質的に純粋であることが見出され、そしてそのまま、下記のインクジェットインク組成物を形成するために用いた。あるいは、このシナジストは、ろ過によって単離し、氷水で洗浄し、そして真空オーブンで、70℃で乾燥することもできた。
【0054】
下記の表2中に示したシナジストは、この共通の方法を用いて調製した。
【0055】
【表2】

【0056】
<アゾ顔料の合成>
アセトアセトニトリル(103ミリモル、18.4g、99%純度)を、380mLのDI水と126mLの1M水酸化ナトリウム水溶液を容れた4つ首丸底フラスコに加えた。15分間の攪拌の後に、アセトアセトニトリルナトリウム塩の透明な溶液が形成された。次いで、49mLの2.6M酢酸水溶液を、蠕動ポンプを用いて計り入れて、アゾ結合成分を、微細な結晶の形態で再沈殿させた。最後に、18gの無水酢酸ナトリウムを、結果として得られた結合剤スラリーに加えた。
【0057】
この結合剤スラリーに、100ミリモルのジアゾニウム塩に相当する量のジアゾニウム溶液を、室温で、1.5時間に亘って、蠕動ポンプを用いて加えた。この添加が終了した後に、H酸試験(10mLのDI水中に溶解した、0.1gのH酸および0.1gの重炭酸ナトリウム)(これは、ジアゾニウム塩が存在すると紫色に変わる)を用いて、ジアゾニウム塩は検知されなかった。結果として得た黄色のアゾ顔料を、真空ろ過によって取り出し、そして圧縮した塊りを、次いで、ろ液の導電率が200〜250マイクロジーメンスになるまで、DI水で洗浄した。これを、更なる精製なしで、下記のインクジェットインク組成物を形成するのに用いた。
【0058】
下記の表3中に示したアゾ顔料は、この共通の方法を用いて調製した。適切な場合には、これらの顔料の一般名(例えば、C.I番号)も示した。
【0059】
【表3】

【0060】
<アゾ顔料分散液の調製>
上記のように調製した種々のアゾ顔料を、上記のように調製した種々のシナジストと組み合わせて、そして固形分を15〜17%にするように、水を加えた。このようにして、シナジストは、アゾ顔料の質量を基準として8質量%の量で用いた。複数のアゾ顔料および/または複数のシナジストを用いる場合には、シナジストの総量は、アゾ顔料の総質量を基準として8質量%であり、そしてシナジストの比率は、アゾ顔料の比率と同じであった。
【0061】
一旦組み合わせると、結果として得られる混合物は、次いで2時間に亘り、65〜70℃で、Silverson LR-4オーバーヘッド混合機および外部加熱(熱盤)を用いて、均質化した。この後直ぐに、結果として得た分散液を、Misonix超音波処理器を用いて、3時間に亘って超音波処理した。残った塩を除去するために、この分散液を、次いで、中空繊維膜を用いて、浸透液の導電率が200〜500マイクロジーメンスに低下するまで、ダイアフィルトレーションに掛けた。最後に、アゾ顔料の水性懸濁液を、4500RPMで遠心分離して、粗い粒子を除去した。
【0062】
加熱エージング試験のための組成物を、下記の表4または表5中に示した配合(顔料の質量%は、乾燥品基準でのアゾ顔料/シナジストの量である)の1つを用いて、これらのアゾ顔料の水性分散液で調製した。
【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
結果として得られる組成物の平均体積顔料粒子径(mV)は、Microtrac Inc.によって製造されたNanotrac 250動的光散乱粒子分析器を用いて測定した。安定している場合には、その組成物を、対流式オーブンの中で、70℃に3週間に亘って加熱することにより、更なる加熱エージングに掛け、その時間の後に、再度平均体積粒子径を測定して、初期の粒子径と比較した。
【0066】
これらの組成物は、以下のように等級を定めた:A−メジアン粒子径成長が5〜10%;沈降なし;B−メジアン粒子径成長が11〜20%;沈降はほとんどないか、もしくはなし;C−メジアン粒子径成長が20%超、沈降;D−破局的な障害、完全な沈降;およびE−分散液が形成されない;材料は試験できない。等級AまたはBは、加熱エージング試験に合格であると考えられるが、一方で、等級Cまたは更に低い等級は、この試験に不合格であると考えられる。
【0067】
例1〜4
本発明のアゾ顔料分散液は、上記の共通手順を用いて調製した。それぞれの例についてのアゾ顔料とシナジストの具体的な組み合わせは、下記の表6中に示した。
【0068】
【表6】

【0069】
理解できるように、それぞれの組成物は、P1もしくはP5位にアルコキシ基を有しないアゾ顔料およびS3位にイオン基もしくはイオン性基を有するシナジストを含んでおり、これらの例のそれぞれでは、イオン基もしくはイオン性基はスルホン酸ナトリウム基である。更に、これらの例のそれぞれでは、アゾ顔料とシナジストの両方のジアゾ成分は同じであった(すなわち、S5=P5、そしてS6=P6)。更に、例3と4では、2種のアゾ顔料が、好適なシナジストと共に用いられており、2種のアゾ顔料は、それぞれが要求される構造的特徴を有しており、好適なシナジストもまた要求される構造的特徴に合致している。例3では、ピグメントイエロー1およびピグメントイエロー6を、50/50の質量比で用い、そして例4では、ピグメントイエロー1とピグメントイエロー1:1を、80/20の質量比で用いた。また、相当する比率のシナジストも用い、そしてシナジストの総量は、アゾ顔料の総質量を基準として8質量%であった。
【0070】
加熱エージング試験用の組成物は、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれについての加熱エージングの等級を、下記の表7中に示した。
【0071】
【表7】

【0072】
これらの結果が示すように、アゾ顔料とシナジストの適切な選択を含むこれらのアゾ顔料分散液のそれぞれは、両方の配合において優れた熱安定性を有しており、そしてその結果として、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待される。
【0073】
例5〜10
本発明のアゾ顔料分散液を、上記の共通手順を用いて調製した。それぞれの例におけるシナジストとアゾ顔料の具体的な組み合わせが、下記の表8中に示されている。理解できるように、それぞれの組成物は、P1およびP5位にアルコキシ基を有さないアゾ顔料であるピグメントイエロー1と、S3位(例5〜9)またはS4位(例10)のいずれかにイオン基もしくはイオン性基を有するシナジストとを含んでいる。これらの例のそれぞれでは、種々の異なる基が用いられており、そして、更に、アゾ顔料とシナジストの両方のジアゾ成分は同じである(すなわち、S5=P5、そしてS6=P6)。シナジストの総量は、アゾ顔料の総質量を基準として、8質量%であった。
【0074】
【表8】

【0075】
加熱エージング試験用の組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表9中に示した。
【0076】
【表9】

【0077】
これらの結果が示すように、アゾ顔料とシナジストの適切な選択を含むこれらのアゾ顔料分散液のそれぞれは、両方の配合において優れた熱安定性を有しており、そして結果として、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待される。
【0078】
例11〜13
本発明のアゾ顔料分散液を、上記の共通手順を用いて調製した。それぞれの例におけるシナジストとアゾ顔料の具体的な組み合わせが、下記の表10中に示されている。
【0079】
【表10】

【0080】
理解できるように、それぞれの組成物は、P1もしくはP5位にアルコキシ基を有しないアゾ顔料であるピグメントイエロー1およびピグメントイエロー1:1と、S3位にイオン基もしくはイオン性基を有するシナジストとの組み合わせを含んでいる。これらの例のそれぞれでは、種々の異なる基が用いられており、そしてアゾ顔料とシナジストの両方のジアゾ成分は同じである(すなわち、S5=P5、そしてS6=P6)。また、アゾ顔料の比率は変更されている。例4では、ピグメントイエロー1とピグメントイエロー1:1を、80/20の質量比で用いた。例11では、これらの顔料は、95/5の質量比で用いた。例12では、ピグメントイエロー1対ピグメントイエロー1:1の質量比は99/1であった。例13では、ピグメントイエロー1とピグメントイエロー1:1は、97.5/2.5の比率で用いた。これらの例のそれぞれでは、相当する比率のシナジストも用いられ、そしてシナジストの総量は、アゾ顔料の総質量を基準として8質量%である。
【0081】
加熱エージング試験用の組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表11中に示した。
【0082】
【表11】

【0083】
これらの結果が示すように、アゾ顔料とシナジストの適切な選択を含むこれらのアゾ顔料分散液のそれぞれは、両方の配合において優れた熱安定性を有しており、そして結果として、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待される。
【0084】
例14
アゾ顔料分散液は、上記の共通手順を用いて調製した。シナジストとアゾ顔料の具体的な組み合わせが、下記の表12中に示されている。
【0085】
【表12】

【0086】
理解できるように、この組成物は、P1もしくはP5位にアルコキシ基を有さないアゾ顔料であるピグメントイエロー1、およびそれぞれがS3位に異なるイオン基もしくはイオン性基を有するシナジストの組み合わせを含んでいる。アゾ顔料と両方のシナジストのジアゾ成分は同じである(すなわち、S5=P5、そしてS6=P6)。また、シナジストの比率は、1:1の質量比で用いられ、そしてシナジストの総量は、アゾ顔料の質量を基準として8質量%であった。
【0087】
加熱エージング試験用の組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表13中に示した。
【0088】
【表13】

【0089】
これらの結果が示すように、アゾ顔料とシナジストの適切な選択を含むこのアゾ顔料分散液は、両方の配合において優れた熱安定性を有しており、そして結果として、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待される。
【0090】
例15
アゾ顔料分散液を、下記のように調製した。P1もしくはP5位にアルコキシ基を有さないアゾ顔料であるピグメントイエロー1(188.35g、カナダ国、トロント、Dominion Colour Corporationから、26.52%固形分の圧縮した塊りの形態で、商業的に入手可能であり、50gの顔料に相当する)を、ステンレス鋼ビーカーに加え、次いで、S3位にイオン基もしくはイオン性基を有し、そしてピグメントイエロー1と同じジアゾ成分を有するシナジスト(Syn7、上記のように調製し、これをろ過し、氷水で洗浄し、そして真空で、70℃で乾燥した)を2.00g加えた。この混合物を、310gのDI水で17%固形分に希釈し、そしてSilverson混合器中で、4500PRM、70℃の温度で、2時間に亘り均質化し、661nmの平均体積粒子径を有する顔料分散液を生成した。次いで、この分散液を冷却した容器に移して、そして浸漬プローブで、150Wで3時間に亘って超音波処理し、199nmの平均体積粒子径を有する分散液を与えた。次いで、これを4500RPMで40分間遠心分離して、178nmの平均体積粒子径を有する最終的な顔料分散液を与え、これを続いて膜ダイアフィルトレーション(AG Techの中空繊維500K膜)を用いて30%固形分に濃縮した。ピグメントイエローを基準とした収率は、65.2%であった。この例で用いたシナジストとアゾ顔料の具体的な組み合わせは、下記の表14中に示した。
【0091】
【表14】

【0092】
加熱エージング試験用の組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表15中に示した。
【0093】
【表15】

【0094】
これらの結果が示すように、アゾ顔料とシナジストの適切な選択を含むこのアゾ顔料分散液は、両方の配合において優れた熱安定性を有しており、そして結果として、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待される。
【0095】
比較例1〜14
以下の比較例は、本発明のインクジェットインク組成物に関して上記したような特定の構造的な特徴を有していない、アゾ顔料とシナジストを組み合わせで含むインクジェットインク組成物を説明している。
【0096】
比較例1
比較のアゾ顔料分散液を、上記の共通手順を用いて調製した。シナジストとアゾ顔料の具体的な組み合わせを下記の表16中に示した。
【0097】
【表16】

【0098】
理解できるように、この比較組成物は、P5位にメトキシ基を有するアゾ顔料を含んでおり、これがS3位にイオン基もしくはイオン性基を有し、そしてアゾ顔料と同じジアゾ成分を有するシナジスト(すなわち、S5=P5、そしてS6=P6)と組み合わされている。シナジストの総量は、アゾ顔料の質量を基準として8質量%であった。
【0099】
加熱エージング試験用の比較組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表17中に示した。
【0100】
【表17】

【0101】
これらの結果が示すように、アゾ顔料のP5位にアルコキシ基を有すること以外は、上記の構造的特徴の全てに合致するアゾ顔料とシナジストの組み合わせは、いずれの配合においても安定な分散液を形成しなかった。結果として、このアゾ顔料分散液は、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待されない。
【0102】
比較例2
比較のアゾ顔料分散液を、下記の混合結合法を用いて調製した。
【0103】
例7のアゾ顔料とシナジストを調製するのに用いたジアゾニウム溶液を、上記の手順を用いて調製した。次いで、アセトアセトニトリドを上記のように再沈殿させ、そしてこれをSyn6を調製するのに用いたアゾ結合成分で結合し、アゾ結合剤の混合物を形成した。これに、形成されたジアゾニウム溶液の全てを加えた。この反応混合物を80℃で2時間加熱し、そして結果として得られた黄色顔料の圧縮した塊りを、ろ過によって取り出し、水中に再分散し、超音波処理し、ダイアフィルトレーションを行い、そして遠心分離した。このようにして、結果として得られたピグメントイエロー1とSyn6を含むアゾ顔料分散液が、混合結合法によって均質混合物として調製された。シナジストの総量は、アゾ顔料の質量を基準として、8質量%であった。
【0104】
加熱エージング試験用の比較組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表18中に示した。
【0105】
【表18】

【0106】
これらの比較のアゾ顔料分散液は、シナジストが別個に加えられた成分ではない(むしろシナジストはアゾ顔料の合成の間に調整された)こと以外は、例7におけると同じアゾ顔料とシナジストを含んでいた。しかしながら、表18中の結果が示すように、これらの組成物は、両方の配合で、相当に貧弱な熱安定性を有している。従って、この比較のアゾ顔料分散液は、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待されない。
【0107】
比較例3
比較のアゾ顔料分散液を、上記の共通手順を用いて調製した。シナジストとアゾ顔料の具体的な組み合わせを下記の表19中に示した。
【0108】
【表19】

【0109】
理解できるように、この比較組成物は、P1もしくはP5位にメトキシ基を有さないアゾ顔料であるピグメントイエロー1、およびS2〜S4位のいずれにもイオン基もしくはイオン性基を有さないシナジストを含んでいる。むしろ、イオン基(カルボン酸ナトリウム基)はS6位にある。また、結果として、シナジストのこのジアゾ成分は、アゾ顔料のジアゾ成分とは異なっている(すなわち、S5=P5であるが、しかしながらS6 P6)。シナジストの総量は、アゾ顔料の質量を基準として、8質量%であった。
【0110】
加熱エージング試験用の比較組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表20中に示した。
【0111】
【表20】

【0112】
これらの結果が示すように、イオン基もしくはイオン性基をシナジストの異なる位置に有する以外は、上記の構造的特徴の全てに合致するアゾ顔料とシナジストの組み合わせを含むこの比較のアゾ顔料分散液は、相当に貧弱な熱安定性を有している。結果として、この比較のアゾ顔料分散液は、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待されない。
【0113】
比較例4
比較のアゾ顔料分散液を、下記の手順を用いて調製した。
【0114】
ジアゾニウム溶液を、2−ニトロ−4−メチルアニリンを用いて、上記の手順を用いて調製した。シナジストアゾ結合成分は、アレンドロン酸ナトリウムとジケテンを組み合わせることによって、上記の共通手順を用いて、下記のスキーム3中に示されるように調製した。
【0115】
【化11】

【0116】
このシナジストアゾ結合成分は、上記の共通手順に従って、ジアゾニウム溶液を用いてシナジストを調製するのに用いた。更に、ピグメントイエロー1もまた、上記の共通手順を用いて、このジアゾニウム溶液を用いて調製した。最後に、シナジストの量が、アゾ顔料の質量を基準として6質量%であること以外は、これも上記の共通手順を用いて、比較のアゾ顔料分散液を調製した。
【0117】
加熱エージング試験用の比較組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表21中に示した。
【0118】
【表21】

【0119】
これらの結果が示すように、この比較のアゾ顔料分散液は、上記の構造的特徴の全てに合致するアゾ顔料の組み合わせを、イオン基もしくはイオン性基は有しているが、しかしながらアゾ顔料と同じアゾ結合成分は有してはいないシナジストと組み合わせて含んでいるが、両方の配合において、相当に貧弱な熱安定性を有していた。結果として、これらの比較のアゾ顔料分散液は、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待されない。
【0120】
比較例5〜13
比較のアゾ顔料分散液を、上記の共通手順を用いて調製した。シナジストとアゾ顔料の具体的な組み合わせを、下記の表22中に示した。理解できるように、これらの比較組成物のそれぞれは、P1および/またはP5位にメトキシ基を有するアゾ顔料(比較例5〜7のピグメントイエロー203は、P1位にメトキシ基を有しており、一方で、比較例8〜13のピグメントイエロー74は、P1とP5の両方の位置にメトキシ基を有している)を、イオン基もしくはイオン性基を有する種々の異なるシナジストと共に含んでいる。比較例5〜11では、シナジストはまた、アゾ顔料と同じジアゾ成分を有している(すなわち、S5=P5、そしてS6=P6)。シナジストの総量は、アゾ顔料の質量を基準として、8質量%であった。2種のシナジストの1:1混合物を用いた比較例11では、シナジストの総量は、アゾ顔料の質量を基準として、8質量%であった。
【0121】
【表22】

【0122】
加熱エージング試験用の比較組成物を、配合Aおよび配合Bの両方を用いて調製し、そしてそれぞれの加熱エージング等級を下記の表23中に示した。
【0123】
【表23】

【0124】
これらの比較のアゾ顔料分散液は、P1および/またはP5位にアルコキシ基を有するアゾ顔料を含んでいる。これらの結果が示すように、それぞれは、どちらの種類のシナジストが用いられたかに関わらず、シナジストのジアゾ成分がアゾ顔料のジアゾ成分のジアゾ成分と同じであったとしても、両方の配合において相当に貧弱な熱安定性を有している。幾つかは、いずれの配合でも安定な分散液を形成しなかった(比較例7、12および13)。更に、シナジストSyn1およびSyn7の含有(比較例5および6)は、これはP1もしくはP5位のいずれにもアルコキシ基を有さないアゾ顔料と組み合わせて用いた場合には同じ2種の配合において、優れた熱安定性を有するアゾ顔料分散液を生成することが上記で示されているけれども、良好な熱安定性を有する分散液をもたらさなかった。貧弱な分散安定性が見出されたので、これらの比較のアゾ顔料分散液は、インクジェットインクプリンターにおいて確実に噴射するインクジェットインク組成物を形成することが期待されない。
【0125】
例16
本発明のインクジェットインク組成物を、下記の表24中に示した配合の1つを用いて調製した。(顔料の質量%は、乾燥品基準でのアゾ顔料/シナジストの組み合わせの量である)
【0126】
【表24】

【0127】
それぞれの例で用いた具体的なアゾ顔料分散液を、下記の表25中に示した。
【0128】
【表25】

【0129】
それぞれのインクジェットインク組成物で、EPSON C88+プリンタとXerox 4200普通紙を用いて、印刷した。試験画像を印刷し、そしてMacbeth ColorEye 0/45分光比色計を用いて色の読み取りを行なった。また、結果を表25中に示した。これらの結果が示すように、本発明のインクジェットインク組成物は、優れた総合的な色特性を有する印刷画像を生成した。
【0130】
本発明の好ましい実施形態のこれまでの説明は、例証および説明の目的のため提供されてきた。網羅的であるか、または本発明を開示された正確な様式に限定することは、意図されていない。修正および変更は、上記教示に照らして可能であるか、または本発明の実行から得ることが可能である。実施形態は、当業者が種々の実施形態において、および考えられる特定用途に適する種々の修正を伴って本発明を利用することを可能とする本発明の原理およびその実際の適用を説明するために、選択され記載された。本発明の範囲は、本明細書に添付されるクレーム、およびそれらの同等物によって規定されるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)液体媒質、
b)下記の式を有する着色剤を含む少なくとも1種のアゾ顔料、および
【化1】

c)下記の式を有する少なくとも1種のシナジスト、
【化2】

を含んでなるインクジェットインク組成物であって、式中、Rは、C1〜C6アルキル基であり、P1〜P6は、該アゾ顔料の該着色剤の置換基であり、かつP1およびP5はアルコキシ基ではなく、かつS1〜S6は、該シナジストの置換基であり、S2〜S4の少なくとも1つは、イオン基もしくはイオン性基を含んでおり、S5=P5であり、かつS6=P6である、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
Rが、メチル基である、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
S3が、イオン基またはイオン性基を含む、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
P5が、ニトロ基であり、かつS5がニトロ基である、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記イオン基もしくはイオン性基が、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、またはそれらの塩である、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記イオン基もしくはイオン性基が、ジェミナルビスホスホン酸基、その部分エステル、またはそれらの塩である、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記イオン基またはイオン性基が、式−CQ(PO)を有する基、その部分エステル、またはそれらの塩であり、ここでQは、H、R’、OR’、SR’、またはNR’であり、R’は、同じでも異なっていてもよく、H、C1〜C18アルキル基、C1〜C18アシル基、アラルキル基、アルカリル基、またはアリール基である、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
前記イオン基またはイオン性基が、式−(CH)−CQ(PO)を有する基、その部分エステル、またはそれらの塩であり、ここでnは1〜3である、請求項7記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
前記イオン基またはイオン性基が、式CR''(PO)を有する基またはその塩であり、ここでR''はHもしくはC1〜C6アルキル基である、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項10】
前記イオン基またはイオン性基が、式−CO−Z−CH(PO)または−SO−Z−CH(PO)を有する基、またはそれらの塩であり、ここでZはO、SもしくはNR’であり、R’は、H、C1〜C18アルキル基、C1〜C18アシル基、アラルキル基、アルカリル基またはアリール基である、請求項9記載のインクジェットインク組成物。
【請求項11】
Zが、NHである、請求項10記載のインクジェットインク組成物。
【請求項12】
前記液体媒質が、水性媒質である、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項13】
前記アゾ顔料が、ピグメントイエロー1、ピグメントイエロー1:1、ピグメントイエロー2、ピグメントイエロー3、ピグメントイエロー4、ピグメントイエロー5、ピグメントイエロー6、ピグメントイエロー9、ピグメントイエロー75、ピグメントイエロー98、およびピグメントイエロー116、またはそれらの組み合わせである、請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項14】
前記アゾ顔料が、ピグメントイエロー1、ピグメントイエロー1:1、ピグメントイエロー6、ピグメントイエロー9、またはそれらの組み合わせである、請求項1記載のインクジェットインク組成物。

【公表番号】特表2012−522865(P2012−522865A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503410(P2012−503410)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/000668
【国際公開番号】WO2010/117399
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(391010758)キャボット コーポレイション (164)
【氏名又は名称原語表記】CABOT CORPORATION
【Fターム(参考)】