説明

アゾ顔料分散体の製造方法

【課題】 簡易な工程を用いて小粒径で、かつ粒径の揃ったアゾ顔料分散体を製造し得る製造方法を提供する。
【解決手段】 ジアゾニウム化合物を含む溶液とカップリング剤を含む溶液とを反応させてアゾ顔料が分散するアゾ顔料分散体を製造する方法であって、前記反応を、前記アゾ顔料を溶媒中に分散させるための分散剤及びアルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤の存在下で行うアゾ顔料分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法を用いた画像記録等におけるインキとして有用なアゾ顔料分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット法を用いた画像記録等で使用されるインキに要求される性状は、耐光性、耐水性などの観点から染料よりも顔料に移行しつつある。顔料を用いる場合、分散性の高い、より均一で微細なナノ顔料の分散液が望まれている。
【0003】
しかしながら現状のインクジェット法に用いられるインキの製造は、多くの工程を抱え、同時に製造方法自体に起因する問題もある。一つは市販の顔料が、顔料というものの特性上、ナノサイズの均一な粉末を提供できないことである。このため購入した顔料をボールミル、ロールミル、サンドミル等の分散機を使用し粉砕後、フィルターや遠心分離機等で分級する等の工程を必要としている。しかしこのような粉砕を行っても数十ナノメートルの均一な顔料を得るのは極めて難しいのが実状である。
【0004】
特許文献1には顔料に表面処理を行った自己分散型顔料を水系媒体に分散する工程で、湿潤剤を添加して顔料の分散効率を向上させた顔料分散液の製造方法が開示されている。
【0005】
一方、特許文献2は、アゾ顔料のカップリング反応を用いた顔料組成物の製造方法を開示する。当該公報に記載の発明は、得られる顔料の水性懸濁液を脱水して水分を減少させるに際し、水の分離性のよい顔料組成物の製造方法を提供することを目的としている。そして、当該公報ではカップリング反応前、またはカップリング反応中に常温で固体の非水溶性樹脂を添加して、カップリング反応による顔料粒子の生成と同時に顔料粒子と樹脂を混合させる顔料組成物の製造方法を開示する。また、その実施例においては、酸性を示すpH緩衝溶液中に樹脂を加えておき、このpH緩衝溶液にテトラゾ溶液とカップラー溶液とを加えて顔料組成物を得ることを開示する。そしてこの実施例では、脱水処理、油性ワニス付加、デカンテーション等の工程を経てインクを得ている。
【特許文献1】USAA2002075369公報
【特許文献2】特開2002−80743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された方法によれば、保存安定性に優れた顔料分散液が提供できるとされている。しかし、この方法においては、顔料は予め粉砕処理したものを用いており、更に顔料を表面処理する工程、表面処理顔料の分散工程を有していて、分散工程において湿潤剤を添加することを必要としている。特許文献2に記載された技術で得られたインクの分散度は5μmであり、ナノメートルオーダーのより微小な粒径を有する分散体は得られていない。つまり、特許文献2に開示された方法では、簡易な工程でナノメートルオーダーの微小粒径を有する顔料分散体の製造方法については開示がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、できるだけ製造工程を省き、簡易な工程を用いて小粒径で、かつ粒径の揃ったアゾ顔料分散体を製造し得る製造方法を提供するものである。
【0008】
本発明により提供されるアゾ顔料分散体の製造方法は、ジアゾニウム化合物を含む溶液とカップリング剤を含む溶液とを反応させてアゾ顔料が分散するアゾ顔料分散体を製造する方法であって、前記反応を、前記アゾ顔料を溶媒中に分散させるための分散剤及びアルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤の存在下で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法は、アゾ顔料の合成と分散体形成まで、一挙に行うので、工程数が少なく簡易な製造方法となる。またカップリング反応をアルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤の存在下で行うことで、数百から数十ナノメートルまでの比較的粒径の揃った微小粒径の顔料分散体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で得られるアゾ顔料は、下記(1)式の構造を持つものである。
A−N=N−B (1)
ここでAは芳香族アミン側の原子団(ジアゾニウム化合物側)、Bはカップリング剤側の原子団を表す。またAは(1)の構造をもったジスアゾ化合物、トリスアゾ化合物であっても良い。
【0011】
(1)式で表されるアゾ顔料は、一般的な芳香族アミン類のジアゾ化物と、βナフトール系、βオキシナフトエ酸アニリド系、アセト酢酸アニリド系、またはピラゾロン系化合物などとの間で起こるカップリング反応により得られる。このようにAが複数のアゾ化合物である場合には、(1)が全体として水に難溶性もしくは不溶性アゾ顔料であることが望ましい。
【0012】
本発明においては、ジアゾニウム化合物とカップリング成分とのカップリング反応をアルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤の存在下で行う。
【0013】
本発明においては、カップリング剤側の反応液には、カップリング反応に必要な強アルカリとともに、pH緩衝能のある緩衝剤と分散剤とを共存させることができる。
【0014】
緩衝剤としては、アルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤であることが必要である。これには、例えば、飽和または不飽和アルキル鎖を持った1級アミン、2級アミン、3級アミン、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの4級アンモニウム塩を挙げることができる。
【0015】
また一部のグッド緩衝液にみられるようにアルカリ性側に緩衝能をもつ脂肪族、脂環式アミンのスルホン酸誘導体を用いることができる。同様にアミノ酸のようなカルボン酸誘導体でアルカリ性側に緩衝能をもつものも用いることができる。
【0016】
一般に芳香族アミンは水に溶けにくいが、本発明に用いることのできるアミンは、水溶性であればよく、カップリング剤を含む溶液に添加することができる。このとき緩衝剤が、分子内に酸性の官能基を持っていたとしても、アルカリで中和後、残されたアミノ基による等電点が、アルカリ性側にあれば、本発明のアルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤として使用することができる。
【0017】
更にアルカリ性にかけての一般的緩衝液であるリン酸緩衝液、炭酸重炭酸緩衝液の緩衝剤成分である、リン酸、炭酸を用いることができる。
【0018】
以下、アルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤の具体例を挙げる。
例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(以下、「TRIS」ともいう。)−塩酸緩衝液をpH7.2〜9.0の範囲で使用することができる。この場合、ジアゾニウム化合物を含む溶液中に塩酸を加えておき、カップリング剤を含む溶液にTRISを加えておき、2つの溶液を混合させることでTRIS−塩酸緩衝液を構成することもできる。また、2つの溶液とは別にTRIS−塩酸緩衝液を調整しておき、カップリング反応の際に緩衝液を加えても良い。
【0019】
グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液をpH8.6〜10.6の範囲で使用することもできる。また、炭酸−重炭酸緩衝液をpH9.2〜10.6の範囲で使用することもできる。更に、リン酸緩衝液をpH7.0〜8.0の範囲で使用することもできる。この他、いわゆるグッド緩衝液も使用できるが、これについては、後述する。
【0020】
アルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤を用いることが、粒径が極めて小さく透明な分散体を得る上で有用であるが、これに関連して若干の検討を行ったので、以下、これについて述べる。
検討−1:トリスヒドロキシメチルアミノメタンからアルコール性のOH基を取り除いたtert−ブチルアミンを用いた場合、透明な分散体を得ることができる。これに対し、メタノール、エタノールを用いた場合には、適切な分散体を得ることは出来ない。このことから分散に寄与している官能基は、TRIS分子中に存在するアルコール性のOH基ではなく、残るアミノ基、すなわちTRISのアミンとしての性質によるものと考えられる(実施例3参照)。
検討−2:緩衝能の無い水酸化ナトリウムをTRISの代わりに用いた場合、かなり過剰に加えても適切な分散体を得ることは出来ない。すなわちTRISのアミンとしての作用は、単なるアルカリとして作用しているわけではない(実施例3参照)。
検討−3:最も単純なアンモニアをTRISの代わりに用いた場合、適切な分散体を得ることは出来ない。ここで、アミンの塩基性の程度に注目してみると、ジアゾニウム塩を含む溶液側の余剰の強酸(塩酸)とカップリング剤を含む溶液側の弱塩基(アンモニア)によって、混合後のpHが弱酸性に傾いていることが予想される(実施例3参照)。
検討−4:弱酸性から中性、アルカリ性の範囲において緩衝液をつくることができるグッドの緩衝剤をTRISの代わりに用いると、緩衝作用のある領域が酸性のものほど適切な分散体が得られないことが確認できる(実施例4参照)。
【0021】
つまりジアゾニウム塩を含む溶液とカップリング剤を含む溶液を混合後、単に余剰にアルカリが存在して、混合後の溶液がアルカリ性であったとしても透明な分散体は形成されない。むしろ混合(カップリング反応)に際し、アルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤の存在が、透明な分散体を得るのに必要不可欠である。
【0022】
カップリング反応によってpHが急激に変化しようとしたとき、アルカリ性下で緩衝作用のある緩衝剤によってその働きを押さえ込み、顔料粒子の成長をおさえ、分散剤ポリマーが粒子表面に取りつくチャンスを与えているものと考えられる。
【0023】
本発明において用いることができる分散剤としては、ポリマーの場合、アルカリに可溶性のスチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体からなるブロック共重合体、あるいはランダム共重合体、又はこれらの塩等、および上記単量体の主にアニオン系ポリマーおよびノニオン系ポリマーを挙げることができる。
【0024】
また界面活性剤の場合には、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、アルキルアリル及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルアリルエーテルリン酸塩、ジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、イミダゾリニウムベタイン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等を挙げることができる。更に、界面活性剤と分散ポリマーを併用しても構わない。
【0025】
本発明においては、カップリング剤を含む溶液、例えばアルカリ性溶液と、ジアゾニウム化合物を含む溶液、例えば酸性溶液とを任意の割合で混合させることで、アゾ顔料分散体を製造することができる。尚、分散剤の量は生成顔料重量に対して等重量もしくこれ以下で良く、分散剤を少なくしていくほどより大きな粒子を得ることができる。
【0026】
緩衝剤の量は、少なくともジアゾニウム化合物を含む溶液中の余剰な塩酸を中和しアルカリ性側で緩衝作用を示すのに必要とされる緩衝組成となるのに十分な量が添加されていれば良い。また、分散剤ポリマーの酸価に相当する量と生成される顔料分子と前記余剰な塩酸分子すべての合計よりも少ない緩衝剤の量でよい。
【0027】
尚、ジアゾニウム塩およびカップリング剤は、若干の官能基の違いから、同種の反応が起こると考えられる場合、複数のジアゾニウム塩またはカップリング剤をそれぞれの溶液に混在させてもよい。
【0028】
本発明の分散体をインクジェットプリンターに使われるインクとして用いるためには、必要に応じて、防腐剤、pH調整剤、粘度調整剤、界面活性剤等の添加剤を配合してもかまわない。pH調整剤に関しては、本発明の緩衝剤で置き換えることも可能で、必ずしも添加する必要はない。
【0029】
界面活性剤はインクの表面張力や粘度を調整、インクジェットヘッドからの吐出を容易にするのと同時に紙への浸透性を改善し、さらに消泡性の観点から重要な要素である。こうした用件を満たすものとして、一般的にはアセチレノールなどエーテル結合を分子内にもつ多価アルコールの添加が知られている。
【0030】
本発明の緩衝剤であるトリスヒドロキシメチルアミノメタンは、アミノ基をもった多価アルコールであり、アミノ基によるpH調整剤としての役割と、界面活性剤としての役割を併せ持つため、本発明の分散体をそのままインクとして用いても差し支えない。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
(A液の調整)
2−メトキシ−4−ニトロアニリン3.45g(0.021モル)を、超純水75g、35%塩酸水溶液5.45g(0.052モル)に加え、メタノールを加えたアイスバス中にて攪拌しながら0℃に冷却する。その後亜硝酸ナトリウム1.45g(0.021モル)を2mlの水に溶解後添加し、60分間攪拌後、スルファミン酸0.2g(0.0021モル)を加えて亜硝酸を消去し、ジアゾニウム塩溶液とする。
【0032】
(B液の調整)
o−アセトアセトアニシジド4.45g(0.0214モル)を超純水75g、水酸化ナトリウム1.244g(0.0311モル)と共に溶解し、カップラー溶液とする。
【0033】
(ピグメントイエロー(PY)74分散体の合成)
B液1mlに対し、スチレン―アクリル共重合体ポリマー(分子量/4479、組成/アクリル酸:スチレン=3:7、酸価/198.6)を0.03g溶かした。そして、これに10mMの濃度になるように、予め作製しておいたトリスヒドロキシメチルアミノメタン1M溶液を添加して(C)液とする。
(分散体製造(1))上記(C)液を10μlと超純水990μlを混合し、100倍希釈液を1ml作製する。同様に(A)液の100倍希釈希釈液を1ml作製、両者を1:1で混合する。
(分散体製造(2))上記(C)液50倍希釈液を1ml作製、(A)液の50倍希釈希釈液を1ml作製し、両者を1:1で混合する。
【0034】
(DLS7000による粒度分布測定)
(1)及び(2)で得られた分散体を(A)液を基準として1/1000の濃度になるように超純水で希釈した後、光散乱測定装置DLS7000(大塚電子)を用いて分散体粒子の粒径分布を測定した。(1)の結果を図1に(2)の結果を図2に示す。図1及び図2において、グラフの横軸は粒径(nm)を縦軸は測定された個数を表している。
【0035】
図1においては、得られた分散体の粒径分布の平均値は57.9nmであり、標準偏差は27.8であった。
【0036】
図2においては、分散体の粒径分布の平均値は110.0nmであり、標準偏差は46.9であった。
【0037】
これらのことから、A液と反応させるB液(カップリング成分及び緩衝剤)の濃度を変化させることにより粒径の揃った所望の粒径の分散体を得ることが可能なことが理解される。
【0038】
(実施例2)
インクジェットプリンター用のインキは通常2〜5%顔料濃度が用いられる。このようなニーズに応えるために、顔料濃度が高い分散体の作成を試みる。
【0039】
(A液の調整)
実施例1と同様とする。
【0040】
(B液の調整)
o−アセトアセトアニシジド4.45g(0.0214モル)を超純水75g、水酸化ナトリウム2.23gと共に溶解し、スチレン―アクリル共重合体ポリマー7.88g(顔料重量に対して等ウエイト)を溶かし込む。さらに、トリスヒドロキシメチルアミノメタン3.96gを加え、カップラー溶液とする。
【0041】
(ピグメントイエロー(PY)74分散体の合成)
A液全量に対し、B液全量を混合する。
【0042】
(DLS7000による粒度分布測定)
得られた分散体を超純水で1/3000倍希釈した後、光散乱測定装置DLS7000(大塚電子)を用いて分散体粒子の粒径分布を測定した。結果を図3に示す。
【0043】
図3より、得られた分散体の粒径分布の平均値は36.8nmであった。
【0044】
(実施例3)
ここでは、ピグメントイエロー(PY)74の分散体合成において、緩衝剤を種々変更した例を示す。A液の調整は、実施例2と同じとする。また緩衝剤を含まないB液の調整は以下のように行う。
【0045】
(緩衝剤を含まないB液の調整)
o−アセトアセトアニシジド0.593gを1Nの水酸化ナトリウム液に7.19mlに溶かし、次いでスチレン―アクリル共重合体ポリマー1.05gを溶かす。純水2.81mlを足す。
【0046】
(緩衝剤の調整およびピグメントイエロー(PY)74分散体の合成確認実験)
上記緩衝剤を含まないB液を50μl取り、そこに種々の緩衝剤が43.6μmol入るように緩衝剤を追加した後、全体を100μlとした。一方A液は2倍希釈し、A液、B液、各100μlを1対1に混合し、透明性を肉眼で確認する。この結果を表1にまとめた。緩衝剤(1)〜緩衝材(7)を用いた場合には透明な適切な分散体が得られた(○で示してある)。緩衝材(8)〜(11)を用いた場合には適切な分散体が得られなかった(×で示してある)。緩衝材(8)〜(11)(×)について、その量を2倍、3倍に変更した場合でも適切な分散に至らなかった。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例4及び比較例1)
表2に、グッド緩衝剤の緩衝能を発揮できるpH範囲を示す。これに基づいて、緩衝剤による分散性とpHの関係を確認した。分散体製造の手順は実施例3に従った。ただしスルホン酸基が導入されている場合には、その官能基に等量モルの水酸化ナトリウムを加えた。
【0049】
その結果、MOPSより低いpKaを持つ化合物(BES,MOPSO,ACES,PIPEP,ADA,Bis−Tris及びMES)については、分散体は得られなかった。また、MOPS,TES,HEPES,DIPSOについては、分散体は得られるものの不透明であった。そして、TAPSOより高いpKaを持つもの、即ちTAPSO〜CAPSを用いると透明な分散体が得られた。このことよりアルカリ性下で緩衝作用のある緩衝剤を用いることが、透明な分散体製造に効果的であることが確認された。
【0050】
【表2】

【0051】
(実施例5)
アミノ酸にみられるカルボン酸基が導入されているアミンを用いた場合について分散性を確認するために、グリシンを用いて、実施例1及び2と同様に分散体を製造した。その結果、透明な分散体が得られた。
【0052】
(実施例6)
スチレン―アクリル共重合体ポリマーの代わりに、ノニオン性ポリマーであるIgepal CO−990(商品名、Sigma−Aldrich Japan K.K.製)(Mn:約4626)を顔料重量に対して等ウエイト加え、実施例1及び2と同様にして分散体を製造した。
【0053】
その結果、得られた分散体は透明なものであった。
【0054】
(実施例7)
(A液の調整)
3−アミノ−4−メトキシベンズアニリド5g(0.021モル)を超純水75gに分散させ、メタノールを加えたアイスバス中にて攪拌しながら0℃に冷却する。さらに35%塩酸水溶液6g(0.058モル)を加え10分間攪拌する。その後亜硝酸ナトリウム1.45g(0.021モル)を超純水2mlに溶解後添加、60分間攪拌後、スルファミン酸0.2g(0.002モル)を加えて亜硝酸を消去し、ジアゾニウム塩溶液とする。
【0055】
(B液の調整)
N−(5−クロロ−2−メトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキシアミド6.95g(0.021モル)を水75g、水酸化ナトリウム2.5g(0.0625モル)と共に90℃で溶解後室温にもどし、カップラー溶液とする。
【0056】
(ピグメントレッド(PR)269分散体の合成)
B液1mlに対し、スチレン―アクリル共重合体ポリマーを0.03g溶かし、10mMの濃度になるように、予め作製しておいたトリスヒドロキシメチルアミノメタン1M溶液を添加して(C)液とする。
【0057】
(分散体製造(3))上記(C)液を10μlと超純水990μlを混合し、100倍希釈液を1ml作製する。同様に(A)液の100倍希釈希釈液を1ml作製、両者を1:1で混合する。
【0058】
(分散体製造(4))上記(C)液50倍希釈液を1ml作製、(A)液の50倍希釈希釈液を1ml作製し、両者を1:1で混合する。
【0059】
(3)及び(4)で得られた分散体を(1)、(2)と同様にDLS7000で測定すると、平均粒径約40nmと約80nmの顔料分散体が得られる。
【0060】
(実施例8)
実施例2で作製したイエローの顔料分散体をキヤノン製インクジェットプリンターPIXUS iP4100(商品名)のインクタンクBCI−7Yに詰め替え、印字を評価した。
1.定着性:ベタ印字後、印字面上に同じ紙を乗せ、汚れが発生しなくなる秒数で評価した。その結果、20秒未満で汚れが発生しなくなり、定着性は良好であった。
2.文字品位:半角英数字を印字し、ブリーディング、フェザリングの状況を目視観察した。その結果、ブリーディング、フェザリング共にほとんど目立たず良好であった。
3.耐水性:2枚の紙に半角英数字を印字した後、一方の紙を水の入ったタッパーに一晩浸し、取り出して風乾したものを、目視で評価した。その結果、水に浸さなかったものと比較して、インクが流れ出した様子などは見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明により得られた分散体の粒径分布を示すグラフである。
【図2】本発明により得られた分散体の粒径分布を示すグラフである。
【図3】本発明により得られた分散体の粒径分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアゾニウム化合物を含む溶液とカップリング剤を含む溶液とを反応させてアゾ顔料が分散するアゾ顔料分散体を製造する方法であって、前記反応を、前記アゾ顔料を溶媒中に分散させるための分散剤及びアルカリ性下で緩衝作用のあるpH緩衝剤の存在下で行うことを特徴とするアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項2】
前記カップリング剤を含む溶液に前記分散剤及び前記pH緩衝剤が溶解している請求項1に記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項3】
前記ジアゾニウム化合物を含む溶液は酸性溶液であり、前記カップリング剤を含む溶液はアルカリ性溶液である請求項1に記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
前記酸性溶液は塩酸を含む請求項3に記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項5】
前記pH緩衝剤は、前記酸性溶液と前記アルカリ性溶液との中和反応の上、余剰となる前記塩酸を中和し、更にアルカリ性となる量存在している請求項4に記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項6】
前記pH緩衝剤はアミン類、アミノ酸、リン酸、炭酸のいずれかを含む請求項1記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項7】
前記アミン類は、トリスヒドロキシメチルメタンを含む請求項6記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項8】
前記分散剤はアニオン系ポリマー、またはノニオン系ポリマーから選択される請求項1に記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項9】
前記アニオン系ポリマーはスチレン−アクリル共重合体を含む請求項8記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項10】
前記ジアゾニウム化合物の材料として2−メトキシ−4−ニトロアニリン、前記カップリング剤としてo−アセトアセトアニシジドを用い、ピグメントイエロー74を得ることを特徴とする請求項1に記載のアゾ顔料分散体の製造方法。
【請求項11】
前記ジアゾニウム化合物の材料として3−アミノ−4−メトキシベンズアニリド、前記カップリング剤としてN−(5−クロロ−2−メトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボキシアミドを用い、ピグメントレッド269を得ることを特徴とする請求項1に記載のアゾ顔料分散体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−183041(P2006−183041A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342227(P2005−342227)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】