説明

アダプティブアレーアンテナシステム、無線装置および重み係数算出方法

【課題】参照されるトレーニング信号がバースト受信となる場合において、ウエイト(重み係数)を算出するための適応信号処理を常時連続して実行することにより、通信品質の向上を図る。
【解決手段】複数のアンテナ素子1−1〜Nからなるアレーアンテナにより受信された受信信号に含まれるトレーニング信号から重み係数を算出する適応信号処理部3と、受信信号に含まれるトレーニング信号を記憶するトレーニング信号保存部5と、該保存されているトレーニング信号を使用して適応信号処理部3で使用されるトレーニング信号を連続的に供給するトレーニング信号供給部6と、適応信号処理部3で使用されるトレーニング信号に対応する参照信号を生成する参照信号生成部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダプティブアレーアンテナシステム、無線装置および重み係数算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信では、建物などの障害物により電波の反射、回析、散乱が起こる。このため、無線伝搬路は多重伝搬路となるために、多重波によるマルチパスフェージングが発生し、通信品質が悪化する。そこで、これらの悪影響を軽減するために、アダプティブアレーアンテナシステムが無線装置、例えば無線基地局や移動局に備えられている。
【0003】
アダプティブアレーアンテナシステムでは、複数のアンテナ素子を配置したアレーアンテナを備え、このアレーアンテナで受信した信号を適応信号処理により指向性パターンを形成し受信している。これにより、所望波の到来方向に受信指向性パターンを形成し、且つ遅延波などの干渉波の到来方向には指向性パターンのヌルを形成して干渉波を抑圧することができ、この結果として通信品質が改善されている。また、送信時に上記した指向性パターンを適用すれば、送信相手以外の無線装置に対する干渉を低減でき、且つ送信電力の軽減を図ることができるなどの利点がある。
【0004】
上記したアダプティブアレーアンテナシステムの適応信号処理には、MMSE(Minimum Mean Square Error:最小2乗誤差法)などに基づく適応アルゴリズムが使用される。MMSEベースの適応アルゴリズムとしては、例えばLMS(Least Mean Square)やRLS(Recursive Least-Squares)などが知られている。このMMSEベースの適応アルゴリズムによる適応信号処理では、無線装置内部で生成したローカルの参照信号と受信信号中のトレーニング信号との差から平均2乗誤差を求め、この誤差の値を最小にするように受信信号の位相と振幅を制御するためのウエイト(重み係数)を計算する(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】菊間信良著、「アレーアンテナによる適応信号処理」、株式会社科学技術出版、1998年11月、p.35−64
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の技術では、以下に示す問題がある。
トレーニング信号がバースト的に送信される無線通信方式として、TDMA(Time Division Multiple Access)方式や、「cdma2000 lxEV-DO」と呼ばれるCDMA方式等で採用されているHRPD(High Rate Packet Data)方式が知られている。これらの無線通信方式において、MMSEベース等の適応アルゴリズムによる適応信号処理が適用されると、参照されるトレーニング信号がバースト受信となるので、該適応信号処理はトレーニング信号受信毎にバースト的に実行されることとなる。したがって、ウエイトを算出するための適応信号処理においては、トレーニング信号受信区間以外の区間ではその処理は停止し、連続してウエイト算出演算を実行することができない。このため、一つのトレーニング信号受信区間内に最適なウエイトへと適応信号処理が収束することが望ましい。
【0006】
しかしながら、適応アルゴリズムの種別や受信電波環境等により適応信号処理の収束速度は異なるので、一つのトレーニング信号受信区間内に収束せず、最適なウエイトが得られない場合がある。例えば、LMSアルゴリズムとRLSアルゴリズムとを比較すると、LMSアルゴリズムの方が収束速度が遅い。したがって、LMSアルゴリズムでは、一つのトレーニング信号受信区間内に最適なウエイトが得られない可能性が高く、通信品質が劣化する虞がある。このために、RLSアルゴリズムに比べて演算負荷が軽く、回路構成が簡単であるという利点があるにもかかわらず、LMSアルゴリズムの採用が見送られることがある。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、参照されるトレーニング信号がバースト受信となる場合において、ウエイト(重み係数)を算出するための適応信号処理を常時連続して実行することにより、通信品質の向上を図ることができるアダプティブアレーアンテナシステムおよび重み係数算出方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、そのアダプティブアレーアンテナシステムを備えた無線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナシステムは、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより無線信号を受信し、この受信信号を前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数により重み付けするアダプティブアレーアンテナシステムにおいて、前記受信信号に含まれるトレーニング信号を記憶する信号保存手段と、適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から重み係数を算出する重み係数算出手段とを備え、前記重み係数算出手段は、前記受信信号にトレーニング信号が含まれていない全期間において、前記信号保存手段で保存されているトレーニング信号を使用して重み係数の算出を行うことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記信号保存手段で保存されているトレーニング信号を前記重み係数算出手段に供給する信号供給手段と、適応信号処理で使用されるトレーニング信号に対応する参照信号を生成する参照信号生成手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記重み係数算出手段で算出された重み係数を保存する保存手段と、最適な重み係数を選択する重み係数選択手段と、前記重み係数選択手段で選択された重み係数により前記受信信号を重み付けしてアレー出力信号を生成する信号生成手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記重み係数選択手段は、同じトレーニング信号による適応信号処理区間における最終的な重み係数を最適な重み係数として選択することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記重み係数選択手段は、同じトレーニング信号による適応信号処理区間毎に、最終的な重み係数を最適な重み係数として選択することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記重み係数選択手段は、前記重み係数算出手段で算出された重み係数の中から、該重み係数の精度に基づいて最適な重み係数を選択することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載のアダプティブアレーアンテナシステムにおいては、前記アレー出力信号から受信品質特性を測定する受信品質特性測定手段を備え、前記重み係数選択手段は、前記受信品質特性測定手段の測定結果に基づいて最適な重み係数を選択することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の無線装置は、請求項1乃至請求項7のいずれかの項に記載のアダプティブアレーアンテナシステムを備え、前記アダプティブアレーアンテナシステムにより無線通信することを特徴としている。
【0017】
請求項9に記載の重み係数算出方法は、複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより受信された信号の重み係数を算出する重み係数算出方法であって、前記受信信号に含まれるトレーニング信号を記憶する信号保存過程と、適応信号処理により、前記受信されたトレーニング信号から前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数を算出する第1の重み係数算出過程と、前記受信信号にトレーニング信号が含まれていない全期間において、前記記憶されているトレーニング信号を使用して、適応信号処理により、前記第1の重み係数算出過程に引き続き重み係数の算出を行う第2の重み係数算出過程とを含むことを特徴としている。
【0018】
請求項10に記載の重み係数算出方法においては、前記第1の重み係数算出過程または前記第2の重み係数算出過程で算出された重み係数の内、最適な重み係数をアレー出力信号の生成用に選択する重み係数選択過程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、参照されるトレーニング信号がバースト受信となる場合において、重み係数(ウエイト)を算出するための適応信号処理を常時連続して実行することができ、この結果として、収束するまで適応信号処理が実行される可能性が高くなるので、より適切なウエイトを得ることができ、通信品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。図1に示すアダプティブアレーアンテナシステムは、無線通信システムにおいて、例えば無線基地局に具備されるものであり、移動局から送信された無線信号を複数のアンテナ素子1−1〜Nからなるアレーアンテナを用いて受信し、この受信信号x1〜xNをアレーアンテナの指向性パターンを形成するためのウエイトw1〜wN(重み係数)で重み付けして合成し、アレー出力信号yを生成するものである。
【0021】
図1において、無線送受信部2は、アンテナ素子1−1〜Nにより送信と受信を行う。なお、図1においては送信機能に係る他のブロックは省略している。無線送受信部2は、アンテナ素子1−1〜NからのN個の受信信号を、増幅してベースバンド信号へ変換後、デジタル信号に変換し、受信信号x1〜xNとして出力する。これら受信信号x1〜xNはアンテナ素子1−1〜Nにそれぞれ対応している。
【0022】
適応信号処理部3は、MMSEベースなどの適応アルゴリズム、例えばLMSアルゴリズムを用いて適応信号処理を行うものであり、アレーアンテナの最適な指向性パターンを形成するためのウエイトw1〜wNを算出する。信号合成部4は、アンテナ素子1−1〜Nに各々対応して設けられているN個の乗算器11と1個の加算器12から構成される。信号合成部4には、受信信号x1〜xNとウエイトw1〜wNとが入力される。信号合成部4において、受信信号x1〜xNは、各乗算器11によってそれぞれ対応するウエイトw1〜wNが乗じられて重み付けされた後、加算器12によって加算されて合成される。この合成後の信号はアレー出力信号yとして出力される。
【0023】
適応信号処理部3では、トレーニング信号供給部6から供給されるトレーニング信号と、参照信号生成部7から供給される参照信号と、アレー出力信号yとから、(1)式によりウエイトベクトルWが算出される。参照信号生成部7から供給される参照信号は、トレーニング信号に対応する所定の信号である。
W(m)=W(m−1)−μ・Z(m−1)・e*(m−1)
=W(m−1)
−μ・Z(m−1)
・{r(m−1)−W(m−1)・Z(m−1)}* ・・・(1)
但し、ウエイトベクトルW=[w1,…,wN、Zはトレーニング信号であり、Z=[z1,…,zN、rはトレーニング信号に対応する所定の参照信号、eは参照信号rとアレー出力信号yの差である誤差信号、mは適応信号処理の更新回数、μはウエイト更新の割合を調整するためのステップサイズ、は転置の表記、は複素共役転置の表記、*は複素共役の表記、である。
【0024】
また、上記アレー出力信号yは(2)式で表される。
y=W・X ・・・(2)但し、受信信号ベクトルX=[x1,…,xN]]である。
上記(2)式で表されるように、アレー出力信号yはウエイトベクトルWにより受信信号ベクトルXが重み付けされて生成される。これにより、アレー出力信号yは、ウエイトw1〜wNによって形成されたアレーアンテナの指向性パターンに基づく受信信号となる。
【0025】
トレーニング信号保存部5は、受信信号x1〜xNに含まれるトレーニング信号を抽出して記憶する。
トレーニング信号供給部6は、適応信号処理部3へのトレーニング信号の供給を行う。トレーニング信号供給部6は、受信信号x1〜xNの中から任意の一つを用いてトレーニング信号受信区間を検出する。そして、トレーニング信号受信区間には、受信したトレーニング信号を適応信号処理部3に供給する。一方、トレーニング信号受信区間以外の区間には、トレーニング信号保存部5からトレーニング信号を読み出し、この読み出したトレーニング信号を使用して複製したトレーニング信号を適応信号処理部3へ供給する。この複製トレーニング信号の供給は、次のトレーニング信号の受信まで繰返し行われる。
【0026】
図2は、このトレーニング信号の供給方法を説明するための概念図である。図2の例では、受信信号のトレーニング信号間(p回目のレーニング信号と(p+1)回目のトレーニング信号の間)にデータ信号が含まれている。トレーニング信号の信号長はNtであり、データ信号の信号長はNdである。図2に示されるように、適応信号処理部3には、受信されたp回目のトレーニング信号に引き続き連続して複製トレーニング信号が、(p+1)回目のトレーニング信号の受信まで繰返し供給される。この繰返し回数は、最大「Nd/Nt」である。なお、NdがNtの整数倍ではない場合には、トレーニング信号の所定の信号長単位で複製するようにしてもよい。
【0027】
また、トレーニング信号供給部6は、参照信号生成部7へ参照信号の生成を指示する。この参照信号生成指示は、適応信号処理部3へのトレーニング信号供給の都度、行われる。この参照信号生成指示に従って、参照信号生成部7は、トレーニング信号に対応する所定の参照信号を生成する。
【0028】
これにより、適応信号処理部3には、トレーニング信号供給部6から供給されるトレーニング信号とともに、該トレーニング信号に対応する参照信号が連続して供給される。この結果、上記図2の例では、p回目と(p+1)回目のトレーニング信号間にはデータ信号が含まれており、トレーニング信号がバースト受信となるが、p回目のトレーニング信号の受信から(p+1)回目のトレーニング信号の受信までの区間T(p)_allにおいて、適応信号処理部3にはトレーニング信号と該トレーニング信号に対応する参照信号が連続して供給されるので、ウエイト算出のための適応信号処理が連続して実行される。
【0029】
上述したように本実施形態によれば、適応信号処理部3には、常時、トレーニング信号と該トレーニング信号に対応する参照信号が供給される。これにより、参照されるトレーニング信号がバースト受信となる場合において、ウエイトを算出するための適応信号処理を常時連続して実行することができる。この結果として、収束するまで適応信号処理が実行される可能性が高くなるので、より適切なウエイトを得ることができ、通信品質が向上する。
【0030】
また、RLSアルゴリズムに比べて収束速度は遅いが、演算負荷が軽く、回路構成が簡単となるLMSアルゴリズムが採用しやすくなり、該LMSアルゴリズムの使用により装置構成の簡略化や省電力化を図ることができる。
【0031】
なお、上述した第1の実施形態では、アレー出力信号yの生成に使用されるウエイトw1〜wNは、適応信号処理部3によるウエイト更新毎に更新される。また、適応信号処理のウエイト初期値には、直前のトレーニング信号に基づく適応信号処理の区間で最終的に算出されたウエイトw1〜wNを使用するようにしてもよい。例えば、(p+1)回目のトレーニング信号に基づく適応信号処理の区間T(p+1)_allにおいては、適応信号処理のウエイト初期値として、p回目のトレーニング信号に基づく適応信号処理の区間T(p)_allでの最終的なウエイトw1〜wNを使用する。これにより、現在の無線伝搬環境により合致したウエイト初期値から適応信号処理が開始されるので、収束時間の短縮を図ることができる。
【0032】
次に、第2の実施形態を説明する。図3は、本発明の第2の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。この図3において図1の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。
図3に示すアダプティブアレーアンテナシステムでは、図1の構成において、ウエイト保存部21と信号合成部22とをさらに設けている。なお、図3においては、信号合成部4は、適応信号処理で使用されるフィードバック信号yaを生成して適応信号処理部3へ出力するものとなっている。
【0033】
図3において、ウエイト保存部21は、適応信号処理部3で算出されたウエイトw1〜wNの中から、アレー出力信号yの生成に使用されるウエイトws1〜wsNを選択し保存する。信号合成部22には、ウエイト保存部21で保存されているウエイトws1〜wsNが入力される。そして、信号合成部22は、受信信号x1〜xNを該ウエイトws1〜wsNにより重み付けした後に合成して、アレー出力信号yを生成する。
【0034】
図3の構成では、アレー出力信号yの生成に使用されるウエイトws1〜wsNが選択されて保存される。このウエイト選択方法としては各種の方法が考えられるが、その例を挙げて以下に説明する。
【0035】
第1のウエイト選択方法;
図4は、第1のウエイト選択方法を説明するための概念図である。ウエイト保存部21は、図4において、受信信号のトレーニング信号により適応信号処理が実行される区間で最終的に算出されたウエイトw1〜wNをウエイトws1〜wsNとして記憶する。そして、ウエイト保存部21は、該受信信号のトレーニング信号に引き続き受信されたデータ信号に対して該記憶しているウエイトws1〜wsNで重み付けがなされるように、信号合成部22へ記憶しているウエイトws1〜wsNを設定する。例えば、区間T(p)_1で最終的に算出されたウエイトw1〜wNを記憶し、この記憶したウエイトw1〜wNをp回目のトレーニング信号に続くデータ信号に適用する。
【0036】
第2のウエイト選択方法;
図5は、第2のウエイト選択方法を説明するための概念図である。ウエイト保存部21は、図5において、適応信号処理部3へ供給されるトレーニング信号の供給区間毎に、該適応信号処理で最終的に算出されたウエイトw1〜wNをウエイトws1〜wsNとして記憶する。そして、ウエイト保存部21は、次のトレーニング信号の供給区間に対応する区間で受信されたデータ信号に対して、該記憶しているウエイトws1〜wsNで重み付けがなされるように、信号合成部22へ記憶しているウエイトws1〜wsNを設定する。
【0037】
例えば、区間T(p)_1で最終的に算出されたウエイトw1〜wNを記憶し、この記憶したウエイトw1〜wNを、p回目のトレーニング信号に続く区間T(p)_2に対応する受信信号のデータ信号に適用する。次いで、区間T(p)_2で最終的に算出されたウエイトw1〜wNを記憶し、この記憶したウエイトw1〜wNを、区間T(p)_3に対応する受信信号のデータ信号に適用する。このようにして、直前のトレーニング信号の供給区間で算出されたウエイトw1〜wNが、次の供給区間に対応する受信信号のデータ信号に対して適用される。そして、最後のトレーニング信号の供給区間T(p)_nに対応する受信信号のデータ信号に対して、区間T(p)_n−1で算出されたウエイトw1〜wNが適用される。
【0038】
なお、上記した図3に示す第2の実施形態においては、上記した第1の実施形態と同様に、適応信号処理のウエイト初期値には、直前のトレーニング信号に基づく適応信号処理の区間で最終的に算出されたウエイトw1〜wNを使用することが望ましい。
【0039】
次に、第3の実施形態を説明する。図6は、本発明の第3の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。この図6において図1の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。
図6に示すアダプティブアレーアンテナシステムでは、図1の構成において、ウエイト/2乗誤差保存部31とウエイト選択部32と信号合成部22とをさらに設けている。なお、図6においては、信号合成部4は、適応信号処理で使用されるフィードバック信号yaを生成して適応信号処理部3へ出力するものとなっている。また、適応信号処理部3は、(3)式により、ウエイトw1〜wNの精度を表す2乗誤差eを算出する。この2乗誤差は瞬時値又はある期間の平均値でもよい。
e=|r−W・Z| ・・・(3)
【0040】
図6において、ウエイト/2乗誤差保存部31には、適応信号処理部3で算出されたウエイトw1〜wNとこのウエイトの2乗誤差eとが入力される。そして、ウエイト/2乗誤差保存部31は、適応信号処理部3で過去に算出されたウエイトw1〜wNの内、最適なウエイトを2乗誤差eに基づいて選択し、ウエイトwm1〜wmNとして保存するとともに、該選択されたウエイトw1〜wNの2乗誤差eを2乗誤差emとして保存する。
【0041】
ウエイト選択部32には、ウエイト/2乗誤差保存部31で保存されているウエイトwm1〜wmNと2乗誤差emと、適応信号処理部3で算出されたウエイトw1〜wNとこのウエイトの2乗誤差eとが入力される。ウエイト選択部32は、ウエイト/2乗誤差保存部31で保存されていたウエイトwm1〜wmNまたは適応信号処理部3で算出された最新のウエイトw1〜wNの内、いずれか最適なウエイトを2乗誤差e,emに基づいて選択する。この選択されたウエイトは、ウエイトws1〜wsNとして信号合成部22に入力される。そして、信号合成部22は、受信信号x1〜xNを該ウエイトws1〜wsNにより重み付けした後に合成して、アレー出力信号yを生成する。
【0042】
図6の構成により、アレー出力信号yの生成に使用されるウエイトws1〜wsNが、2乗誤差eに基づいて適宜選択される。このウエイト選択方法としては各種の方法が考えられるが、その例を挙げて以下に説明する。なお、ウエイトベクトルWm=[wm1,…,wmNであり、ウエイトベクトルWs=[ws1,…,wsNである。
【0043】
第3のウエイト選択方法;
図7は、第3のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。この図7に示すように、第3のウエイト選択方法では、適応信号処理部3による適応信号処理によりウエイトw1〜wNと2乗誤差eが更新されると(ステップS1)、ウエイト選択部32は、2乗誤差eと2乗誤差の閾値esを比較する(ステップS2)。そして、2乗誤差eが閾値esより大きければウエイトwm1〜wmNをウエイトws1〜wsNとして選択する(ステップS3)。
【0044】
一方、2乗誤差eが閾値esより大きくなければウエイトw1〜wNをウエイトws1〜wsNとして選択する(ステップS4)。そして、ウエイト/2乗誤差保存部31が、該選択されたウエイトw1〜wNをウエイトwm1〜wmNとして保存し(ステップS5)、さらに、該選択されたウエイトw1〜wNの2乗誤差eを2乗誤差emとして保存する(ステップS6)。
なお、2乗誤差の閾値esは、予め定めてもよく、あるいは、適宜、受信信号に対応した値を設定するようにしてもよい。
【0045】
第4のウエイト選択方法;
図8は、第4のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。この図8に示すように、第4のウエイト選択方法では、適応信号処理部3による適応信号処理によりウエイトw1〜wNと2乗誤差eが更新されると(ステップS11)、ウエイト選択部32は、2乗誤差eと2乗誤差emを比較する(ステップS12)。そして、2乗誤差eが2乗誤差emより大きければウエイトwm1〜wmNをウエイトws1〜wsNとして選択する(ステップS13)。
【0046】
一方、2乗誤差eが2乗誤差emより大きくなければウエイトw1〜wNをウエイトws1〜wsNとして選択する(ステップS14)。そして、ウエイト/2乗誤差保存部31が、該選択されたウエイトw1〜wNをウエイトwm1〜wmNとして保存し(ステップS15)、さらに、該選択されたウエイトw1〜wNの2乗誤差eを2乗誤差emとして保存する(ステップS16)。
【0047】
なお、上記した図6に示す第3の実施形態においては、適応信号処理のウエイト初期値として、上記した第1の実施形態と同様に直前のトレーニング信号に基づく適応信号処理の区間で最終的に算出されたウエイトw1〜wNを使用するようにしてもよく、あるいは、ウエイト選択部32でウエイトws1〜wsNとして選択されたウエイトw1〜wNを使用するようにしてもよい。
【0048】
次に、第4の実施形態を説明する。図9は、本発明の第4の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。この図9において図6の各部に対応する部分には同一の符号を付け、その説明を省略する。
図9のアダプティブアレーアンテナシステムでは、上記図6のシステムの構成に受信品質特性測定部41がさらに設けられている。
【0049】
受信品質特性測定部41は、アレー出力信号yに基づいて受信品質特性を測定する。受信品質特性としては、例えば、CIR(Carrier to Interference power Ratio)やSINR(Signal to Interference and Noise power Ratio)、BER(Bit Error Rate)、FER(Frame Error Rate)などがある。
【0050】
受信品質特性測定部41で測定された受信品質特性データはウエイト選択部32に入力される。ウエイト選択部32は、該受信品質特性データを加味してウエイトの選択を行う。図10は、この第5のウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。この図10に示す方法では、受信品質特性としてSINRを使用し、上記図8の第4の選択方法と組み合わせている。
【0051】
図10において、先ず、受信品質特性(SINR)が測定される(ステップS21)。次いで、ウエイト選択部32は、測定結果のSINRと所定の閾値Thを比較し(ステップS22)、SINRが閾値Thより小さければ、ウエイトwm1〜wmNをウエイトws1〜wsNとして選択する(ステップS23)。一方、SINRが閾値Thより小さくなければ、2乗誤差eと2乗誤差emを比較する(ステップS24)。そして、2乗誤差eが2乗誤差emより大きければウエイトwm1〜wmNをウエイトws1〜wsNとして選択する(ステップS23)。
【0052】
一方、2乗誤差eが2乗誤差emより大きくなければウエイトw1〜wNをウエイトws1〜wsNとして選択する(ステップS25)。そして、ウエイト/2乗誤差保存部31が、該選択されたウエイトw1〜wNをウエイトwm1〜wmNとして保存し(ステップS26)、さらに、該選択されたウエイトw1〜wNの2乗誤差eを2乗誤差emとして保存する(ステップS27)。
【0053】
なお、上記した図9に示す第4の実施形態においては、上記した第3の実施形態と同様に、適応信号処理のウエイト初期値として、直前のトレーニング信号に基づく適応信号処理の区間で最終的に算出されたウエイトw1〜wNを使用するようにしてもよく、あるいは、ウエイト選択部32でウエイトws1〜wsNとして選択されたウエイトw1〜wNを使用するようにしてもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、受信処理に使用された最適なウエイトを送信用の指向性パターンの形成に用いるようにしてもよい。
【0055】
本実施形態によれば、以下に示される様々な効果が得られる。
本実施形態によれば、回路の構成が簡単であり、また、MMSEベースの各種の適応アルゴリズムに対して適用できるとともに、通信品質の改善効果が期待でき、且つ既に実際の装置に備わる回路構成との流用が可能である。
【0056】
また、適応信号処理のウエイト初期値として、最適なウエイト、例えば、直前のトレーニング信号に基づく適応信号処理の区間で最終的に算出されたウエイトw1〜wN、あるいは、ウエイト選択部32でウエイトws1〜wsNとして選択されたウエイトw1〜wNが使用できるので、最適値に収束するまでに多くの更新回数を要するLMSアルゴリズムであってもその収束速度が速められるので、RLSアルゴリズムなど他のMMSEベースの適応アルゴリズムに比べて回路構成が簡単で、且つ演算負荷も少ないというLMSアルゴリズムの利点を活用しつつ、受信品質特性の向上を図ることができる。
【0057】
また、受信電力の変動により収束が遅くなる適応アルゴリズム、例えばLMSアルゴリズムでは、移動通信のように受信電力が変動する無線伝播環境において、その収束速度が遅くなるが、バースト受信のトレーニング信号間にも適応信号処理が続行されるので、最適なウエイトに収束する可能性が高くなり、受信品質特性が早期に改善されるという効果が得られる。
【0058】
また、複製トレーニング信号による適用信号処理の過程で算出されたウエイトをデータ信号に随時適用することができるので、受信品質特性がさらに改善されるという効果が得られる。
【0059】
また、回路構成上、適応信号処理の演算速度が低速となる場合であっても、連続して適応信号処理が実行可能であるので、最適なウエイトに収束する可能性が高くなる。
【0060】
なお、本発明のアダプティブアレーアンテナシステムは、無線基地局や移動局などの無線装置に適用することができる。これにより、無線装置において、適切な指向性パターンによる無線信号の受信または送信が可能となり、通信品質が向上する。移動局としては、携帯電話機等の携帯型の無線端末や、自動車電話機等の移動物体に搭載される無線端末などがある。また、トレーニング信号がバースト的に送信される各種の無線通信方式、例えばTDMA(Time Division Multiple Access)方式や、「cdma2000 lxEV-DO」と呼ばれるCDMA方式等で採用されているHRPD(High Rate Packet Data)方式などに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るトレーニング信号の供給方法を説明するための概念図である。
【図3】本発明の第2の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るウエイト選択方法を説明するための概念図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るウエイト選択方法を説明するための概念図である。
【図6】本発明の第3の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第4の実施形態によるアダプティブアレーアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るウエイト選択方法の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1−1〜N…アンテナ素子、2…無線送受信部、3…適応信号処理部、4,22…信号合成部、5…トレーニング信号保存部、6…トレーニング信号供給部、7…参照信号生成部、21…ウエイト保存部、31…ウエイト/2乗誤差保存部、32…ウエイト選択部、41…受信品質特性測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより無線信号を受信し、この受信信号を前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数により重み付けするアダプティブアレーアンテナシステムにおいて、
前記受信信号に含まれるトレーニング信号を記憶する信号保存手段と、
適応信号処理により、前記受信信号に含まれるトレーニング信号から重み係数を算出する重み係数算出手段とを備え、
前記重み係数算出手段は、前記受信信号にトレーニング信号が含まれていない全期間において、前記信号保存手段で保存されているトレーニング信号を使用して重み係数の算出を行う
ことを特徴とするアダプティブアレーアンテナシステム。
【請求項2】
前記信号保存手段で保存されているトレーニング信号を前記重み係数算出手段に供給する信号供給手段と、
適応信号処理で使用されるトレーニング信号に対応する参照信号を生成する参照信号生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
【請求項3】
前記重み係数算出手段で算出された重み係数を保存する保存手段と、
最適な重み係数を選択する重み係数選択手段と、
前記重み係数選択手段で選択された重み係数により前記受信信号を重み付けしてアレー
出力信号を生成する信号生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
【請求項4】
前記重み係数選択手段は、同じトレーニング信号による適応信号処理区間における最終的な重み係数を最適な重み係数として選択することを特徴とする請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
【請求項5】
前記重み係数選択手段は、同じトレーニング信号による適応信号処理区間毎に、最終的な重み係数を最適な重み係数として選択することを特徴とする請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
【請求項6】
前記重み係数選択手段は、前記重み係数算出手段で算出された重み係数の中から、該重み係数の精度に基づいて最適な重み係数を選択することを特徴とする請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
【請求項7】
前記アレー出力信号から受信品質特性を測定する受信品質特性測定手段を備え、
前記重み係数選択手段は、前記受信品質特性測定手段の測定結果に基づいて最適な重み係数を選択することを特徴とする請求項3に記載のアダプティブアレーアンテナシステム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかの項に記載のアダプティブアレーアンテナシステムを備え、前記アダプティブアレーアンテナシステムにより無線通信することを特徴とする無線装置。
【請求項9】
複数のアンテナ素子からなるアレーアンテナにより受信された信号の重み係数を算出する重み係数算出方法であって、
前記受信信号に含まれるトレーニング信号を記憶する信号保存過程と、
適応信号処理により、前記受信されたトレーニング信号から前記アレーアンテナの指向性パターンを形成するための重み係数を算出する第1の重み係数算出過程と、
前記受信信号にトレーニング信号が含まれていない全期間において、前記記憶されているトレーニング信号を使用して、適応信号処理により、前記第1の重み係数算出過程に引き続き重み係数の算出を行う第2の重み係数算出過程と、
を含むことを特徴とする重み係数算出方法。
【請求項10】
前記第1の重み係数算出過程または前記第2の重み係数算出過程で算出された重み係数の内、最適な重み係数をアレー出力信号の生成用に選択する重み係数選択過程を含むことを特徴とする請求項9に記載の重み係数算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−295623(P2007−295623A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190964(P2007−190964)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【分割の表示】特願2003−119866(P2003−119866)の分割
【原出願日】平成15年4月24日(2003.4.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】