説明

アデノウィルス核酸を含有する医薬用組成物

【課題】ウィルス誘導腫瘍溶解用アデノウィルスシステムを改良し、腫瘍治療の成功率を上昇させること、及び、野生型p53の腫瘍に対しても有効なウィルス誘導腫瘍溶解用アデノウィルスシステムを提供すること。
【解決手段】アデノウィルス核酸を含む核酸であって、YB−1をコードする核酸配列をさらに含む核酸を提供し、当該核酸を腫瘍疾病の治療や予防に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアデノウィルス核酸を含有する核酸、この核酸を含有するアデノウィルス及びこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、腫瘍治療には数多くの治療策が用いられている。外科的技法の使用に加え、化学療法や放射線療法が主に用いられている。しかし、これらの方法はどれも、患者にとってかなりの副作用を伴うものである。
【0003】
複製選択的腫瘍溶解性ウィルスの使用は、腫瘍治療に新しい領域を創り出している。この方法では、作用ウィルスの複製が選択的に腫瘍内で誘発され、ウィルスが複製されると共に、感染腫瘍細胞が溶解し、周囲の腫瘍細胞へのウィルス感染が起こる。このウィルスは腫瘍細胞内でのみ複製されるため、正常組織はウィルスによる感染から防御され、よってウィルス性溶解からも防御される。このような複製選択的腫瘍溶解性ウィルスの例としては、遺伝子弱毒化アデノウィルスやヘルペスウィルスが挙げられる(マルトゥーサR.(Martuza, R.)ら、サイエンス(Science)、252、854〜858(1991);フエヨJ.(Fueyo, J.)ら、癌遺伝子(Oncogene)19、2〜12(2000))。
【0004】
このようなアデノウィルスの一例として、臨床第I相と第II相における使用が既に成功しているdl 1520(Onyx−015)が挙げられる(クーリF.(Khuri, F.)ら、自然医学(Nature Medicine)、6、879〜885(2000))。Onyx−015は、E1B55kDa遺伝子が欠失したアデノウィルスである。E1B55kDaの遺伝子産物は、p53の阻害、ウィルスmRNAの輸送、及び宿主細胞のタンパク合成の停止に関与している。ここで、p53は、アデノウィルスがコードしているE1B55kDaタンパクがp53と複合体を形成するために阻害される。p53はTP53にコードされており、複雑な調節機構の礎であり(ザンベッティG.P.(Zambetti, G.P.)ら、FASEB J.、7、855〜865)、例えば、細胞内でのウィルス(アデノウィルス等)の効率的な複製を抑制する。TP53遺伝子は、約50%のヒト腫瘍中で欠失しているか変異しているため、化学療法や放射線療法の結果として望まれるアポトーシスが起こらず、通常、これらの腫瘍治療は効果が上がらない。
【0005】
アデノウィルス等のDNA腫瘍ウィルスは、ウィルスのDNA複製を促進するために、その感染細胞を細胞周期のS期に進ませる。Onyx−015はE1B55kDaタンパクを発現せず、選択的に腫瘍細胞内において複製されるが、正常細胞では複製されない。更に、別の選択性として、p53が欠損している腫瘍は、野生型p53を有する腫瘍より、ウィルスによる腫瘍細胞の溶解により壊死する程度が大きいという点がある(クーリ(Khuri)ら、前出)。p53欠損腫瘍の場合のウィルス誘導腫瘍溶解において、Onyx−015は基本的には有効であるが、治療した腫瘍の15%という成功率は極めて低い。
【0006】
リーズらは、野生型p53の腫瘍に対してであってもOnyx−015を使用できる基本的な手法を記載している(リーズS.J.(Ries, S.J.)ら、自然医学(Nature Medicine)、6、1128〜1132(2000))。この場合、腫瘍抑制タンパクp14ARFは発現しない。p14ARFが存在しないことによりウィルス感染に対するp53システムの正常な反応が起こらないため、Onyx−015が腫瘍内でも複製される。しかしながら、この知見を適用するには、腫瘍細胞において適切な遺伝子バックグラウンドが存在する、あるいは適切な治療手段によりこのようなバックグラウンドが供給される必要がある。前者の場合は、Onyx−015を用いて治療され得る腫瘍の数が更に少なくなるであろうし、後者の場合は、腫瘍細胞の遺伝子バックグラウンドにおける複雑な改変が必要であろう。
【非特許文献1】マルトゥーサR.(Martuza, R.)ら、サイエンス(Science)、252、854〜858(1991)
【非特許文献2】フエヨJ.(Fueyo, J.)ら、癌遺伝子(Oncogene)19、2〜12(2000)
【非特許文献3】クーリF.(Khuri, F.)ら、自然医学(Nature Medicine)、6、879〜885(2000)
【非特許文献4】ザンベッティG.P.(Zambetti, G.P.)ら、FASEB J.、7、855〜865
【非特許文献5】リーズS.J.(Ries, S.J.)ら、自然医学(Nature Medicine)、6、1128〜1132(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、現存のウィルス誘導腫瘍溶解用アデノウィルスシステムを改良することである。特に、先行技術と比較して腫瘍治療の成功率を上昇させることを目的とする。
【0008】
本発明の別の目的は、野生型p53の腫瘍に対しても有効なウィルス誘導腫瘍溶解用アデノウィルスシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の様相において上述の目的は、アデノウィルス核酸を有する核酸であって、YB−1をコードする核酸配列を有する核酸によって達成される。
【0010】
一態様においては、前記アデノウィルス核酸はE1−Bをコードする核酸を有する。
【0011】
他の態様においては、前記アデノウィルス核酸はE4orf6をコードする核酸を有する。
【0012】
更に他の態様においては、E1−Bの発現を制御するプロモーターが備えられている。
【0013】
他の態様においては、E4orf6の発現を制御するプロモーターが備えられている。
【0014】
他の態様においては、E1BはE1−B55kDaタンパクである。
【0015】
他の態様においては、前記核酸は、機能的に不活性な遺伝子産物であるE1B及び/又はE1及び/又はE3及び/又はE4をコードする。
【0016】
第2の様相において上述の目的は、YB−1をコードする核酸配列及びYB−1の核輸送を仲介する核酸配列を有する核酸によって達成される。
【0017】
他の態様においては、YB−1の核輸送を仲介する核酸配列が、シグナル配列及び輸送配列からなる群より選択される。
【0018】
本発明の第3の様相は、アデノウィルス核酸を含む核酸であって、該アデノウィルス核酸が、機能的E2後期プロモーター(特に、機能的に活性のあるE2後期プロモーター)の代わりに腫瘍特異的プロモーターを含む核酸に関する。
【0019】
本発明の第4の様相は、アデノウィルス核酸を含む核酸であって、該アデノウィルス核酸が、機能的E2後期プロモーター(特に、機能的に活性のあるE2後期プロモーター)の代わりに組織特異的プロモーターを含む核酸に関する。
【0020】
第5の様相において上述の目的は、E1Aタンパクの発現を欠損したアデノウィルス核酸を含み、かつ、YB−1をコードする核酸配列を含むヘルパーウィルスの核酸を含む、アデノウィルス複製システムによって達成される。
【0021】
一態様においては、前記アデノウィルス核酸及び/又は前記ヘルパーウィルスの核酸が、複製ベクターとして存在する。
【0022】
第6の様相において上述の目的は、本発明の各種核酸のうちの1つを含むベクター(好ましくは発現ベクター)により達成される。
【0023】
第7の様相において上述の目的は、少なくとも2つのベクターを含むベクター群であっ
て、該ベクター群は、全体として、本発明のアデノウィルス複製システムを含む、ベクター群により達成される。
【0024】
一態様においては、前記アデノウィルス複製システムの各成分が適切なベクター(好ましくは発現ベクター)に存在する。
【0025】
他の態様においては、アデノウィルス複製システムの少なくとも2つの成分が前記ベクター群中の1ベクターに存在する。
【0026】
本発明の第8の様相は、本発明の各種核酸のうちの1つを含むアデノウィルスに関する。
【0027】
一態様においては、前記アデノウィルスがカプシドを含む。
【0028】
第9の様相は、本発明の核酸及び/又は本発明のアデノウィルス複製システム及び/又は本発明のベクター及び/又は本発明のベクター群及び/又は本発明のアデノウィルスを含む細胞に関する。
【0029】
本発明の第10の様相は、本発明の核酸及び/又は本発明のアデノウィルス複製システム及び/又は本発明のベクター及び/又は本発明のベクター群及び/又は本発明のアデノウィルス及び/又は本発明の細胞の、医薬の製造のための使用に関する。
【0030】
一態様においては、前記医薬は腫瘍疾病の治療及び/又は予防に使用される。
【0031】
更に他の態様においては、前記医薬は薬学的に有効な化合物を更に含む。
【0032】
一態様においては、前記薬学的に有効な化合物は細胞分裂抑制剤(cytostatic agents)からなる群から選ばれる。特に適切な細胞分裂抑制剤は、シスプラチン(cis-platinum)、タキソール(Taxol)、ダウノブラスチン(Daunoblastin)、アドリアマイシン(Adriamycin)、ミトキサントロン(Mitoxantron)等である。
【0033】
本発明の第11の様相は、腫瘍疾病の治療及び/又は予防用医薬の製造を目的とした、本発明の核酸及び/又は本発明のアデノウィルス複製システム及び/又は本発明のベクター及び/又は本発明のベクター群及び/又は本発明のアデノウィルス及び/又は本発明の細胞の使用であって、その際、細胞周期とは無関係にYB−1が腫瘍細胞の核内に存在する、使用に関する。
【0034】
一態様においては、前記核酸はアデノウィルス核酸をコードし、アデノウィルス核酸はE1B欠損(特に、E1B55kDa欠損)である。
【0035】
他の態様においては、前記アデノウィルスはE1B欠損(特に、E1B55kDa欠損)である。
【0036】
他の態様においては、前記核酸はアデノウィルス核酸をコードし、アデノウィルス核酸はE1B(特に、E1B55kDa)をコードする。
【0037】
一態様においては、前記アデノウィルスはE1B(特に、E1B55kDa)を発現する。
【0038】
更に他の態様においては、前記アデノウィルス核酸はE1Aをコードする。
【0039】
更に他の態様においては、前記アデノウィルスはE1Aを発現する。
【0040】
各態様において、腫瘍及び/又は腫瘍疾病は、p53陽性腫瘍、p53陰性腫瘍、悪性腫瘍、良性腫瘍、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる。
【0041】
本発明の第12の様相は、E1B欠損(好ましくはE1B55kDa欠損)アデノウィルスを用いて治療することができる患者のスクリーニング方法であって、次の各ステップ:
腫瘍組織のサンプルを調べるステップと、
細胞周期とは無関係にYB−1が核内に存在するかどうかを決定するステップと
を含む方法に関する。
【0042】
一態様においては、各種抗YB−1抗体からなる群から選択される剤を用いて腫瘍組織を調べる。
【0043】
本発明の第13の様相は、E1B欠損アデノウィルス(好ましくはE1B55kDa欠損アデノウィルス)で治療することができる患者(特に腫瘍患者)を決定するための抗YB−1抗体の使用に関する。
【0044】
本発明の第14の様相は、少なくとも1つのYB−1分子と、少なくとも1つのE1B55kDaタンパクとを含む複合体に関する。
【0045】
一態様においては、YB−1分子は形質転換YB−1分子である。
【0046】
他の態様においては、YB−1は核内で発現したYB−1である。
【0047】
本明細書において、核酸は、核酸配列も意味するものとして用いる。本発明の核酸及び本発明のアデノウィルスは、特に、それらが野生型と比べて改変されたものである場合、組換え産物であることが好ましい。本発明においては、本発明の核酸及び本発明のアデノウィルスは通常、E1欠失、E1〜E3欠失及び/又はE4欠失である。即ち、本発明核酸や対応アデノウィルスは、機能的に活性を有するE1及び/又はE3及び/又はE4発現産物を産生することができない、言いかえれば、このような産物をそれらから産生することができない。これは通常、欠失又は適切な変異(点変異等)によって達成される。
【0048】
本発明の第15の様相は、少なくとも1つのYB−1分子と、少なくとも1つのE1Aタンパクとを含む複合体の使用に関する。
【0049】
一態様においては、E1A領域の1つ以上のタンパク質は、アデノウィルス遺伝子発現に関する転写促進効果を有するが、アデノウィルスの複製を活性化しない。
【0050】
本発明の第16の様相は、腫瘍の治療(特に腫瘍溶解(tumour lysis))のための、少なくとも1つのYB−1分子と、少なくとも1つのE1Aタンパクとを含む本発明の複合体の使用に関する。
【0051】
本発明の第17の様相は、YB−1を核内に有する腫瘍の治療薬を製造するためのE1B欠損アデノウィルスの使用に関する。
【0052】
好ましい態様においては、YB−1が核内に存在することが、外因性処置の影響下において達成される。
【0053】
特に好ましい態様においては、前記外因性処置は照射、細胞分裂抑制剤及び高熱(hyperethermia)からなる群から選択される処置である。
【0054】
本発明の更に他の様相においては、前記医薬の投与対象の生体に対し、前記外因性処置を施す。
【0055】
その他の態様は、従属クレームから明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
本発明は、細胞(通常、腫瘍細胞)をアデノウィルスに感染させると、YB−1とアデノウィルス遺伝子産物E1B55kDaとの複合体が形成され、この複合体形成によりYB−1が核内へ輸送され、細胞核内でウィルスの複製をインビボで効率良く行うことができる、という驚くべき知見に基づいている。また、E4orf6もE1B−55Kに結合することも明らかになった(ウェイゲルS.(Weigel, S.)、ドベルステインM.J.(Dobbelstein, M.J.)、ウィルス学(Virology)、74、764〜772、2000)。アデノウィルス5型のE4orf6タンパク内の核外輸送シグナルは、ウィルスの複製及びウィルスmRNAの細胞質内蓄積を支えるものであり(ケイスN.レパード(Keith N. Leppard)、ウィルス学(Virology)セミナー、8、301〜307、1998、「アデノウィルス感染における制御されたRNAプロセッシング及びRNA輸送(Regulated RNA processing and RNA transport during adenovirus infection)」)、核内へのE1B−55Kの輸送や分散を仲介する。従って、E1B−55K及びYB−1又はE1B−55K、YB−1及びE4orf6の間の相互作用により、ウィルスを効果的に複製することができ、これにより細胞の溶解、ウィルスの放出、隣接する細胞の感染及び溶解をもたらす。このため、腫瘍細胞や腫瘍が感染すると、その腫瘍が完全に溶解する、即ち、腫瘍溶解(oncolysis)が起こる。
【0057】
本発明は、YB−1が転写因子としてアデノウィルスの後期E2プロモーターに結合し、その結果、アデノウィルスの複製が活性化される、という別の知見にも基づいている。これを利用して、腫瘍溶解用の新規アデノウィルス及びアデノウィルスシステムを提供する。
【0058】
また、本発明はアデノウィルスベクター中で導入遺伝子YB−1が発現することによりウィルスを複製することができる、という驚くべき知見にも基づいている。このプロセスにおいては、各ウィルス遺伝子E1B、E3及びE4は活性化されないが、これはアデノウィルスベクター中でE1及び/又はE3が欠失していることに主に起因する。しかしながら、これらの遺伝子は、複製と粒子形成を非常に効率的に行うのに必要である(ゴーラムF.D.(Goodrum, F.D.)、オーネルズD.A.(Ornelles, D.A.)、「細胞周期非依存アデノウィルス複製におけるE4orf6、orf3及びE1B55キロダルトンタンパクの役割(Roles for the E4orf6, orf3 and E1B 55-kilodalton proteins in cell cycle-independent adenovirus replication.)」、J.Virol.、73、74474〜7488(1999);メジハルキS.(Medghalchi, S.)、パドマナブハンR.(Padmanabhan, R.)、ケトナーG.(Ketner, G.)、「遺伝子学的に分離可能な2種類のメカニズムにより初期領域4がアデノウィルスDNAの複製を変調させる。(Early region 4 modulates adenovirus DNA replication by two genetically separable mechanisms.)」、ウィルス学(Virology)、236、8〜17(1997))。また、E1Aにコードされている2種のタンパク質(12S及び13Sタンパク)が、他のアデノウィルス遺伝子の発現を制御・誘導していることも知られている(ネビンスJ.R.(Nevins,J.R.)、「アデノウィルスE1A遺伝子産物による初期ウィルス転写の活性化メカニズム(Mechanism of activation of early viral transcription by the adenovirus E1A gene products.)」細胞(Cell)、26、213〜220(1981);ボウランジャーP(Boulange
r,P)ら(1991);Biochem.J.、275、281〜299)。13SタンパクのCR3領域が、転写促進機能の主因であることが明らかになっている(ウォンHK.(Wong HK)、ジフEB.(Ziff EB.)、「E1a保存領域1の相補的な機能は保存領域3と共にアデノウィルス血清型5の初期プロモーターを活性化する。(Complementary functions of E1a conserved region 1 cooperate with conserved region 3 to activate adenovirusserotype 5 early promoters.)」、J.Virol.、1994、68(8):4910〜20)。13SタンパクのCR1及び/又はCR2領域中において何らかの欠失を有するアデノウィルスは、複製することはできないが、ウィルス遺伝子やプロモーターの転写促進効果を有する。(ウォンHK(Wong HK)、ジフEB.(Ziff EB.)、「E1a保存領域1の相補的な機能は保存領域3と共にアデノウィルス血清型5の初期プロモーターを活性化する。(Complementary functions of E1a conserved region 1 cooperate with conserved region 3 to activate adenovirusserotype 5 early promoters.)」、J.Virol.、1994、69(8):4910〜20)。
【0059】
このようなシステム(即ち、ウィルス遺伝子を活性化するがウィルスの複製はできないシステム)と導入遺伝子YB−1の腫瘍特異的又は組織特異的発現とを組み合わせれば、逆に、非常に効率良くウィルス複製や粒子生成をすることができ、よって腫瘍溶解をすることができる。本明細書中に記載されたどのプロモーターも、好適な腫瘍特異的又は組織特異的プロモーターとして用いることができる。
【0060】
YB−1は、DNAのYボックスの配列モチーフと結合するYボックスタンパク質ファミリーの代表例である。該Yボックスモチーフは、細胞増殖を調整する役割をする多数の異なる遺伝子のプロモーター又はエンハンサー領域に見られる転写調節要素である(ラドメリーM.(Ladomery,M.)ら、1995;バイオアッセイ(Bioassays)、17:9〜11;ディディヤーD.K.(Didier,D.K.)ら、1988、PNAS、85、7322〜7326)。
【0061】
各種アデノウィルスが先行技術において知られている。また、それらはdsDNAウィルスである(ボーランジャーP.(Boulanger,P.)ら(1991);Biochem.J.、275、281〜299)。そのゲノム構成を図1に示す。アデノウィルスゲノムの全ヌクレオチド配列は知られており、それはクロボチェクJ.(Chroboczek,J.)らにより記載されている(クロボチェクJ.(Chroboczek,J.)ら、ウィルス学(Virology)、1992、186、280〜285)。ゲノムの内、アデノウィルスを利用するのに特に重要な部分は、いわゆる初期遺伝子とE1、E2、E3及びE4と称されるその遺伝子産物である。E1は癌遺伝子である2種の遺伝子産物E1A及びE1Bから構成される。E2グループの合計3種の遺伝子産物が、遺伝子産物E3及びE4と共に複製に関与する。
【0062】
先行技術において知られているOnyx−015等の腫瘍溶解用アデノウィルスシステムは、E1B55kDaタンパクが欠失したものである。この欠失は、完全な(intact)p53遺伝子がインビボでの効率良い複製を妨害するとの仮定の下、インビボでのアデノウィルス複製をp53陰性/変異細胞中でのみ行わせることを確実にするためになされたものであったが、結果としては、複製が減少したため、野生型と比べて粒子数が2桁減少している。一方、これらの先行技術のアデノウィルスシステムは、E2前期プロモーターによって仲介されるインビボにおける複製を制御するためにE1Aに依存するものである。
【0063】
本明細書に記載したアデノウィルスシステムはE2後期プロモーターに基づくものであるため、本発明は上述の原理とは異なるものである。
【0064】
本発明において、用語「アデノウィルス」と「アデノウィルスシステム」は、本質的に
同義である。アデノウィルスは、特に、カプシド及び核酸を含む完全ウィルス粒子として理解される。用語「アデノウィルスシステム」は、特に、核酸が野生型と比べて改変されることを表している。好ましくは、この改変は、アデノウィルスのゲノム構造の改変を包含するものである。例えば、プロモーター、調節配列及びコード配列(リーディングフレーム等)の欠失及び/又は付加及び/又は変異等が挙げられる。この用語「アデノウィルスシステム」は、好ましくはベクターに関して用いられる。
【0065】
本明細書で言及するアデノウィルス核酸は、先行技術において知られているものである。アデノウィルス核酸配列を欠失あるいは変異させる方法は、当業者であれば知っているであろうし、本発明にとって重要ではない。このような欠失は、例えば、E3をコードする核酸に影響を与え得る。好ましい形態においては、これらのアデノウィルス核酸は、更にウィルスのカプシドに包含されて感染性の粒子を形成し得る。本発明の核酸についても同じことが当てはまる。一般に、アデノウィルスシステムは、1以上の発現産物に関して欠落していてもよいことにも留意すべきである。考慮すべきであるのは、これが、発現産物をコードする核酸が完全に変異又は欠失している、あるいは発現産物がほぼ形成されない程度に変異又は欠失しているために、あるいは、調節要素や発現調節要素(プロモーターや転写因子等)が、核酸レベル(プロモーターなし;シス活性化要素(cis-acting element))においても、翻訳・転写システムレベル(トランス活性化要素(trans-acting elements))においても存在しないために、起こり得るということである。特に、後者の様相は、各細胞のバックグラウンドによって異なり得る。
【0066】
アデノウィルス核酸に加え更にYB−1をコードする核酸配列を含む本発明核酸は、組換え核酸であることが好ましい。本発明において、YB−1をコードする核酸のリーディングフレームは、発現及び/又は翻訳を制御する要素の制御下にあることができる。これは、例えばアデノウィルスプロモーターや非アデノウィルスプロモーターとすることができる。非アデノウィルスプロモーターは、サイトメガロウィルスプロモーター、RSV(ラウス肉腫ウィルス)プロモーター、アデノウィルス系プロモーターVa I及び非ウィルスYB−1プロモーターからなる群から選択することが好ましい。本明細書で開示した本発明の各様相と組み合わせて用いることのできる他のウィルスプロモーターの例としては、テロメラーゼプロモーター、アルファフェトプロテイン(AFP)プロモーター、癌胎児性抗原プロモーター(CEA)(カオG.(Cao,G.)、クリヤマS.(Kuriyama,S.)、ガオJ.(Gao,J.)、ミトロA.(Mitoro,A.)、キュイL.(Cui,L.)、ナカタニT.(Nakatani,T.)、チャンX.(Zhang,X.)、キクカワM.(Kikukawa,M.)、パンX.(Pan,X.)、フクイH.(Fukui,H.)、クイ(Qi,Z.)「強腫瘍選択性遺伝子の発現を誘導するためのヒト結腸直腸癌及び通常の近在粘膜から単離された癌胎児性抗原プロモーター領域の比較(Comparison of carcinoembryonic antigen promoter regions isolated
from human colorectal carcinoma and normal adjacent mucosa to induce strong tumour-selective gene expression.)」、Int.J.Cancer、78、242〜247、1998)、L−プラスチンプロモーター(チャンI.(Chung,I.)、シュワルツPE.(Schwartz,PE.)、クリスタルRC.(Crystal,RC.)、ピツォルノG.(Pizzorno,G)、リヴィットJ.(Leavitt,J.)、デイサロスAB.(Deisseroth,AB.)「通常の中皮細胞でなく卵巣癌細胞において導入遺伝子を発現させるアデノウィルスシステム開発のためのL−プラスチンプロモーターの使用(Use of L-plastin promoter to develop an adenoviral system that confers transgene expression in ovarian cancer cells but not in normal mesothelial cells.)」、癌遺伝子治療(Cancer Gene Therapy)、6、99〜106、1999)、アルギニン−バソプレッシンプロモーター(カールソンJM(Coulson,JM)、ステーリーJ.(Staley,J.)、ウォルPJ.(Woll,PJ.)「小細胞肺癌における腫瘍特異性アルギニンバソプレッシンプロモーターの活性化(Tumour-specific arginine vasopressin promoter activation in small cell lung cancer.)」、British J.Cancer、80、1935〜1944、1999)及びPSAプロ
モーター(ハーレンベックPL.(Hallenbeck PL)、チャンYN(Chang,YN,)、ヘイC.(Hay,C.)、ゴライトリーD.(Golightly,D.)、スチュワートD.(Stewart,D.)、リンJ.(Lin,J.)、フィップス(Phipps,S.)、チャンYL.(Chiang,YL.)、「肝細胞癌の遺伝子治療用新規腫瘍特異性複製限定アデノウィルスベクター(A novel tumour-specific replication-restricted adenoviral vector for gene therapy of hepatocellular carcinoma.)」、ヒト遺伝子療法(Human Gene Therapy)、10、1721〜1733、1999)が挙げられる。
【0067】
テロメラーゼプロモーターは、ヒト細胞にとって非常に重要なものであることが知られている。テロメラーゼ活性の調節は、酵素の触媒サブユニットであるテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子(hTERT)の転写制御によって達成される。テロメラーゼの発現は、ヒト腫瘍細胞の85%において活発であるが、逆にほとんどの正常細胞においては活発でない。但し、生殖細胞と胚組織は例外である(ブラウンステインI.(Braunstein, I.)ら(2001)、「正常細胞及び悪性ヒト卵巣上皮細胞におけるヒトテロメラーゼ逆転写プロモーター調節(Human telomerase reverse transcription promoter regulation in normal and malignant human ovarian epithelial cells.)」、癌研究(Cancer Research)、61、5529〜5536;マジュンダーAS(Majumdar AS)ら(2001))、「テロメラーゼ逆転写酵素プロモーターにより、構成プロモーターに対する肝細胞毒性を防ぎつつ有効な腫瘍自殺遺伝子療法を行う(The telomerase reverse transcriptase promoter drives efficacious tumour suicide gene therapy while preventing hepatotoxicity encountered with constitutive promoters.)」、遺伝子療法(Gene Therapy)、8、568〜578)。hTERTプロモーターの詳細な調査により、開始コドンから283bp及び82bp離れたプロモーターのフラグメントは、腫瘍細胞に特異的な発現を引き起こすのに十分であるということが明らかになっている。(ブラウンステインI.(Braunstein, I.)ら;マジュンダーAS(Majumdar AS)ら、前出)。従って、このプロモーター及びその特異的なフラグメントは、導入遺伝子を腫瘍細胞においてのみ特異的に発現させるのに適している。このプロモーターは、導入遺伝子YB−1及び/又は未だ機能的に活性のあるトランケート形のもの(truncated form)を腫瘍細胞においてのみ発現できなければならない。アデノウィルスベクターにおける導入遺伝子の発現により、アデノウィルスベクターのウィルスを複製することができ、その結果、腫瘍溶解を達成することができる。また、YB−1のリーディングフレームが、1以上のアデノウィルスシステム遺伝子産物とインフレームの関係にある、ということも本発明の範囲内であるが、YB−1のリーディングフレームは、それと無関係であってもよい。YB−1をコードする核酸は、完全な配列であり得るが、核酸配列がトランケートされていても本発明の範囲内であり得る。このようなトランケート形の核酸配列や、トランケート形のYB−1タンパクも、特に、このようなトランスケート形のYB−1が未だ完全なYB−1と同様の機能や特徴を有する限り本発明の範囲内である。このような機能や特徴とは、例えばE1B55kDaタンパクに結合してもしなくても核へ侵入する能力や、E2後期プロモーターへ結合する能力である。
【0068】
本発明の核酸に含まれるアデノウィルス核酸は、それ自身が複製されるアデノウィルス核酸であることもできるし、別の核酸配列と結合して複製されるアデノウィルス核酸であることもできる。他の核酸配列の例としては、YB−1が挙げられる。以下に説明するように、本発明においては、複製に必要な配列及び/又は遺伝子産物は、ヘルパーウィルスにより提供することができる。このようなアデノウィルス核酸の一例としては、E1BでなくE1Aを発現させるOnyx−015の核酸が挙げられる。
【0069】
本発明の核酸のこの形態、即ちYB−1をコードする核酸配列を含む核酸においては、アデノウィルス核酸はE1−Bをコードする核酸配列を含んでもよい。本発明において、E1−Bをコードする核酸は存在するにもかかわらず、この核酸がコードするE1−Bを
発現させないことも可能である。例えば、E1−Bをコードする核酸に適切なプロモーターが欠けている場合、これを達成することができる。これは、例えば、E1Aを発現させない場合である。しかしながら、例えば、E1−Bをコードする核酸が適切なプロモーターの制御下にある場合にE1−Bを発現させることも本発明の範囲内である。好適なプロモーターは、サイトメガロウィルスプロモーター、RSV(ラウス肉腫ウィルス)プロモーター、アデノウィルス系プロモーターVa I及び非ウィルスYB−1プロモーターを含む群から選択される。更に、この場合、前述のプロモーター、即ち、テロメラーゼプロモーター、アルファフェトプロテイン(AFP)プロモーター、癌胎児性抗原プロモーター(CEA)、L−プラスチンプロモーター、アルギニン−バソプレッシンプロモーター及びPSAプロモーターも好適である。
【0070】
本明細書に記載したように、E1−B−55kは細胞核中へのYB−1の分散及び輸送に関与している。一方、E4orf6はE1−B−55kに結合してE1−B−55の核中への輸送を担うため、E4orf6は、YB−1の細胞核中への分散及び輸送にも重要な役割を果たす。従って、E4領域の遺伝子、特にE4orf6が、上述の各種プロモーターの中の一種類の制御下にあることも本発明の範囲内である。本発明においては、アデノウィルスE4プロモーターがもはや機能しないという形態が好ましい。アデノウィルスE4プロモーターが欠失している場合が特に好ましい。
【0071】
YB−1をコードする核酸配列を有する本発明の核酸の一形態においては、アデノウィルス核酸はE1−Aをコードする核酸を含むが、E1−Bを発現させない。従って、このアデノウィルス核酸は、Onyx−015のDNA構造に対応する。
【0072】
一般に、本明細書においてE1−Bが言及される際は、特記しない限り、それは好ましくはE1B55kDaタンパクに当てはまる。
【0073】
本明細書において、コードする核酸配列について言及し、これらが既知の核酸配列である場合は、既知のものと同一の配列だけでなく、それから派生する各種配列を使用することも本発明の範囲内である。本明細書において、各種派生配列とは、特に、非派生配列(non-derived sequence)の機能に相当する機能を有する遺伝子産物が得られる配列と理解される。これは、簡単な日常的試験により確認することができる。この派生核酸配列の一例としては、同じ遺伝子産物、特に同じアミノ酸配列をコードするが、遺伝コードの縮重のため、異なる塩基配列を有する核酸が挙げられる。
【0074】
YB−1をコードする核酸及びYB−1を核内へ輸送するのを仲介する核酸配列を有する本発明の核酸の他の様相は、YB−1が核に存在(特に、細胞周期とは関係なく)する場合、この細胞内(好ましくは腫瘍細胞内)でアデノウィルスの複製が起こる、という驚くべき知見に基づくものである。これに関連して、本発明の核酸、アデノウィルス及びアデノウィルスシステムは、それぞれ、単独であるいはOnyx−015等の従来技術において知られているアデノウィルスと組み合わせて、アデノウィルス、アデノウィルスシステム、これらに相当する各種核酸として用いることができる。
【0075】
核輸送を仲介する好適な核酸配列は当業者には知られており、各種文献(例えば、ウィタカーG.R.(Whittaker, G.R.)ら、「ウィルス学(Virology)」、246、1〜23、1998;フリードバーグE.C.(Friedberg, E.C.)、TIBS、17、347、1992;ジャンスD.A.(Jans, D.A.)ら、「バイオアッセイ(Bioessays)」、2000年6月;22(6):532〜44;ヨネダY.(Yoneda, Y.)、J.Biochem.(東京)1997年5月;121(5):811〜7;ボーリカスT(Boulikas, T.)、Crit.Rev.Eukaryot.Gene Expr.、1993;3(3):193〜227)に記載されている。核輸送を仲介する核酸配列により異なる様々
な機構を用いることができる。これらのうちの一機構においては、YB−1とシグナルペプチドとの融合タンパクを生成し、このシグナルペプチドによりYB−1を細胞核内へ輸送する。別の機構においては、YB−1に輸送配列を備えさせることによりYB−1を細胞核内へ輸送する。この細胞核において、YB−1がウィルス複製を促進するが、YB−1が細胞質内で合成された後に促進するのが好ましい。核への輸送の仲介に特に効果的な核酸配列の一例は、HIVのTAT配列であるが、これは、このタイプの他の好適な核酸配列と共に、各種文献(例えば、エフシミアディスA.(Efthymiadis, A.)、ブリグスLJ(Briggs, LJ)、ジャンスDA.(Jans, DA.)、「HIV−1 tat核存在配列は、新たな核移入特性を与える(The HIV-1 tat nuclear localisation sequence confers novel nuclear import properties.)」、JBC、273、1623)に記載されている。
【0076】
本発明の他の様相では、アデノウィルス核酸がE2後期プロモーターの代わりに腫瘍特異的プロモーターを含むアデノウィルス核酸を有する核酸を含む。この様相もまた、アデノウィルスの発現、更に複製、またこれによる腫瘍溶解は、本質的には、アデノウィルス遺伝子及び遺伝子産物を制御することによるものであり、この制御は特にE2後期プロモーターによりE2領域で、特にインビボにおいて行われる、という驚くべき知見に基づくものである。転写ユニットであるアデノウィルスのE2領域は、ウィルス複製にとって重要なタンパク(pTP(末端タンパク前駆体)、DNAポリメラーゼ及び多機能性DNA結合タンパクであるDBP)をコードするE2A及びE2B遺伝子から構成される。本発明の範囲において、欠失(deleted)プロモーター、非機能的に活性のある(non-functionally active)プロモーター、機能的に不活性の(functionally non-active)プロモーター、非機能的(non-functional)プロモーターとは、もはや活性がない(即ち、もはや転写しない)プロモーターを意味する。このような非機能的(non-functional)プロモーターは、既知の方法で当業者により生成することができる。例えば、プロモーターの完全欠失、プロモーターの一部欠失、あるいは点変異により達成することができる。これらのプロモーターを変異する別の方法としては、例えば、プロモーターを構成する各要素間の空間的な関係を変更し機能的に不活性にする、という方法がある。
【0077】
E2後期プロモーターを不活性化し、このE2後期プロモーターを腫瘍特異的プロモーター又は組織特異的プロモーターへ置換し、かくして本発明の核酸のうちの一種を生成することにより、アデノウィルス複製にとって重要な遺伝子や遺伝子産物が、その腫瘍やそれに対応する組織の制御下にあること、そしてその結果アデノウィルスの複製がその腫瘍においてあるいは特定の組織において特異的に起こること、を確実にする。これは、特定のウィルス仲介細胞溶解のための必要条件を満たしており、システムの安全性を確実なものとする。ここで、E2後期プロモーターを完全に欠失させることにより、E2後期プロモーターを不活性化することができる。しかしながら、本発明においては、E2後期プロモーターがプロモーターとしてもはや機能的に活性を有さないように、E2後期プロモーターを改変することも可能である。これは、例えば、YB−1がプロモーターにもはや結合できないように、プロモーターのYB−1結合部位を改変(変異、欠失等)させることにより実施できる。そのような欠失の一例として、プロモーターのYボックスの欠失が挙げられる。ここで使用されている用語「本発明の核酸がE2プロモーターの代わりに組織特異的プロモーター又は腫瘍特異的プロモーターを含む」は上述の各方法を包含するものである。この点に関する限り、この用語は、機能面についてのことであると理解されるべきである。
【0078】
腫瘍特異的プロモーター又は組織特異的プロモーターによりE2遺伝子産物の発現を制御するシステムの安全性を更に高めるため、好ましい実施形態においては、E2後期プロモーターと同時にE2前期プロモーターを機能的に不活性にすべきである。例えば、欠失、または、プロモーターとしてもはや機能的に活性を有さないように改変することにより
不活性化する。このようにすることで、E2前期プロモーターのE2遺伝子発現に対する影響を確実に除くことができる。あるいは、好ましくはこれら2種類のプロモーター、即ち、E2後期プロモーター及びE2前期プロモーターを、本発明の組織特異的プロモーター又は腫瘍特異的プロモーターに置き換える。この場合においても、YB−1をコードする核酸配列に関して本明細書に記載した各種プロモーターを使用することができる。
【0079】
アデノウィルス核酸やこれに対応する各種アデノウィルスは、好ましくはE1A、E1B、E2及びE3をコードする遺伝子を有する。好ましい実施形態においては、E3をコードする核酸を欠失させることができる。
【0080】
上述の各種アデノウィルス構築物(特にこれらの核酸)を、部分的に、細胞(特に腫瘍細胞)に導入することもできる。この場合、様々な個々の成分の存在のため、それらの個々の成分が一個の核酸から由来しているように、それらは相互に作用する。本明細書においてアデノウィルス複製システムといわれるものの典型的な例としては、アデノウィルス核酸がE1Aタンパクの発現に対して欠損しているものが挙げられる。好ましい細胞複製システムは、ヘルパーウィルスの核酸を含み、このヘルパーウィルスの核酸はYB−1をコードする核酸配列を含む。ここで、アデノウィルス核酸又はヘルパーウィルスの核酸は、複製ベクターとして個々に又は別々に存在してもよい。
【0081】
本発明の核酸はベクターとして存在することができ、好ましくはウィルスベクターである。本発明の核酸がアデノウィルス核酸を含む場合、ウィルス粒子はベクターである。しかしながら、本発明の核酸がプラスミドベクター内に存在することも本発明の範囲内である。このような場合、このベクターは被挿入核酸の増殖(複製)と、場合により被挿入核酸の発現とを引き起こすあるいは制御する要素を有する。適切なベクター(特に発現ベクター)や要素は、当業者には知られており、例えば、グランハウスA.(Grunhaus, A.)、ホルウィッツM.S.(Horwitz, M.S.)、1994「クローニングベクターとしてのアデノウィルス(Adenoviruses as cloning vectors.)」In ライスC.(Rice, C.)編、ウィルス学セミナー(Seminars in virology)、ロンドン:ソーンダース科学出版(Saunders Scientific Publications)、1992、237〜252に記載されている。
【0082】
上述の実施形態では、本発明の核酸の各種要素は、必ずしも一個のベクターのみに含まれている必要はない。この実施形態は、ベクター群を含む本発明の様相を考慮したものである。対応して、1つのベクター群は少なくとも2つのベクターを含む。その他の点では、ベクターに関して本明細書中で一般的に述べたことと同様のことが、当該ベクターに当てはまる。
【0083】
本発明のアデノウィルスは、本明細書に記載の各種核酸により特徴付けられる。その他の点では、当業者に知られている全ての要素を含み、これは野生型のアデノウィルスの場合も同様である(シェンクT.(Shenk, T.)、「アデノウィルス科:ウィルス及びその複製(Adenoviridae: The virus and their replication)」、フィールズのウィルス学(Fields Virology)、第3版、フィールズB.N.(Fields, B.N.)、ナイプD.M.(Knipe, D.M.)、ホーリーP.M.(Howley, P.M.)ら、リッピン・レーベン出版(Lippincott-Raven Publishers)、フィラデルフィア、1996、67章)。
【0084】
本発明の剤(即ち、核酸、ベクター、ベクター群、細胞、アデノウィルス、該核酸を含むアデノウィルス複製システム)は、医薬の製造に使用できる。本発明の剤は特定の活性を有するため、この医薬を腫瘍疾病の治療・予防薬として使用するのが好ましい。本発明の剤は基本的には全ての腫瘍疾病及び腫瘍に適しているが、特に、p53を含む腫瘍やp53が存在しない腫瘍に適している。用語「腫瘍」は、悪性腫瘍と良性腫瘍の両方を含む。
【0085】
この医薬は、様々な剤型、好ましくは液剤とすることができる。この医薬は、安定剤、緩衝剤、保存剤、その他ガレン派医学(galenics)分野の当業者には知られているもの等の副成分を更に含む。
【0086】
特に、この医薬は、他の薬学的に活性な化合物も含むことができる。薬学的に活性な化合物のタイプや量は、当該医薬が使用される症状のタイプにより異なる。この医薬を腫瘍疾病の治療及び/又は予防に使用する場合、通常、シスプラチン、タキソール、ダウノブラスチン、アドリアマイシン、ミトキサントロン等の細胞分裂抑制剤を使用する。
【0087】
E1B55kDaタンパクが欠損している弱毒化アデノィルス(Onyx−015等)は、ウィルスによる腫瘍溶解に使用しても通常ほとんど成功しない。驚くべきことに本発明者は、細胞周期に関係なくYB−1が細胞核に発生する腫瘍に対しては、これらの弱毒ウィルス(特にOnyx−015)を用いる場合は成功率が特に高いことを見出した。YB−1は、通常は細胞質に、特に核周辺の細胞質に存在する。細胞周期S期において、YB−1は正常細胞と腫瘍細胞の細胞核に存在する。しかしながら、これだけでは、弱毒化アデノィルスによる腫瘍溶解を達成するのに十分ではない。先行技術において説明されるOnyx−015等の弱毒化アデノィルスの有効性がかなり低いのは、その誤った使用によるものである。即ち、このようなシステム、特にOnyx−015は、ウィルスを用いる腫瘍溶解のための分子生物学的必要条件が揃えば、極めて有効に使用できる。特にOnyx−015の場合、細胞周期に関係なくYB−1が核に存在している腫瘍疾病では、このような必要条件は揃っている。核存在のこの形態は腫瘍のタイプにより異なり得、又は、本明細書に記載の本発明の剤によって引き起こすことができる。従って、本発明は、本発明の剤、特に、先行技術において既に説明されている弱毒化アデノィルス、好ましくはE1B欠損(より好ましくはE1B55kDa欠損)アデノウィルス、更に好ましくはOnyx−015で、高い成功率で治療できる、腫瘍又は腫瘍疾病の新たなグループ、及び新たな患者群を特定する。
【0088】
先行技術において説明されているアデノウィルス、特にONYX−015等のE1B欠損アデノウィルスを用いて治療できる別の患者群は、ある条件を設定することによりYB−1が核に確実に移動する又は輸送される患者群である。この患者群にこのようなアデノウィルスを使用することは、YB−1の核存在の後、E2後期プロモーターと結合してウィルスの複製が誘導されるという知見に基づいている。ここに開示した知見は、E1B欠損のアデノウィルスONYX−015は、細胞のYB−1の、核への輸送を仲介できないことを示している。これが、核内に既にYB−1を有する腫瘍に対してはONYX−015の使用と成功が限定される理由である。しかしながら、これが当てはまる患者群は非常に僅かである。YB−1の核存在は、外部からのストレスや局所的なストレスにより誘導され得る。例えば、照射(特に、紫外線照射)、細胞分裂抑制剤(例えば、本明細書に記載した細胞分裂抑制剤)の投与、高温によりこのような誘導を達成し得る。高温については、このような誘導を極めて特異的に達成することができ、YB−1の核への輸送も特異的であり、その結果、アデノウィルスの複製、更には細胞や腫瘍の溶解に対する必要条件が満たされていることに注意すべきである(ステインU.(Stein U)、ジャコットK(Jurchott K)、ウォルサーW.(Walther W.)、バーグマンS.(Bergmann S.)、シュラグPM(Schlag PM)、ロイヤーHD(Royer HD)、「転写因子YB−1の高温誘導核転位が多剤耐性関連ABCトランスポーターの発現上昇を導く(Hyperthermia-induced nuclear translocation of transcription factor YB-1 leads to enhanced expression of multidrug resistance-related ABC transporters.)」、J. Biol. Chem.、2001、276(30):28562〜9;フーZ.(Hu Z,)、ジンS.(Jin S,)、スコットKW.(Scotto KW.)、「紫外線照射によるMDR1遺伝子の転写促進化 NF−Y及びSp1の役割(Transcriptional activation of the MDR1 gene by UV irradiation. Role
of NF-Y and Sp1.)」、」、J. Biol. Chem.、2000年1月28日;275(4):2979〜85;オーガT.(Ohga T,)、ウチウミT.(Uchiumi T,)、マキノY.(Makino Y,)、コイケK.(Koike K,)、ワダM.(Wada M,)、クワノM.(Kuwano M,)、コーノK.(Kohno K.)、「ヒト多剤耐性1遺伝子の遺伝毒性ストレス誘導活性化におけるYボックス結合タンパクYB−1の直接関与(Direct involvement of the Y box binding protein YB-1 in genotoxic stress-induced activation of the human multidrug resistance 1 gene.)」、J. Biol. Chem.、1998、273(11):5997〜6000)。
【0089】
従って、本発明の医薬は、このような患者や患者群に投与することができ、YB−1の輸送、特に、腫瘍細胞へのYB−1の輸送を適切な前処理により誘導し得る患者に適する。
【0090】
従って、本発明の別の様相は、Onyx−015等の弱毒化アデノィルス、一般にはE1B欠損(好ましくはE1B55kDa欠損)アデノウィルスを用いて治療することができる患者のスクリーニング方法であって、次の各ステップ:
腫瘍組織のサンプルを調べるステップと、
細胞周期とは無関係にYB−1が核内に存在するかどうかを決定するステップと
を含む方法に関する。
【0091】
ここで、腫瘍組織のサンプルは、穿刺法又は外科手術により得ることができる。顕微鏡技法及び/又は通常抗体を用いる免疫組織分析を用いて、細胞周期に関係なく核内にYB−1が存在するか否かを測定することが多い。YB−1は、各種抗YB−1抗体からなる群から選択される剤を用いて検出される。YB−1の核存在についての試験、特に細胞周期とは無関係に存在することについての試験は当業者には知られている。例えば、YB−1の核存在は、YB−1を染色した組織断面をスクリーニングすることにより容易に検出できる。この場合、YB−1の核内発生頻度により、細胞周期に無関係な核存在であるかがわかる。核内のYB−1を細胞周期に関係なく検出する別の方法は、YB−1を染色し、YB−1が核内に存在するかを決定し、細胞の細胞周期におけるステージを決定することである。これは、適切な抗体を用いて実施することもできる(二重免疫組織分析)。
【0092】
次に、本発明を図面と実施例を用いて更に説明する。これにより、本発明の特徴、実施形態、用途、利点が一層良く理解されるであろう。
【0093】
図2は、本発明の各種核酸及び核酸の構築物を示す。即ち、図2.1Aは、E1A欠損及びE1B欠損であるがタンパクYB−1を発現する本発明の組換えアデノウィルスベクターを示す。
【0094】
図2.1Bは、YB−1を発現するがE1A領域が欠損した本発明の組換えアデノウィルスベクターを示す。E1AはE1Bの発現に影響を与えるため、ベクターはこの遺伝子を含んでいるにもかかわらず、E1Bは全く、あるいはわずかな程度しか活性化されない。
【0095】
図2.2は、YB−1を発現する本発明の組換えアデノウィルスベクターを示す。この場合、遺伝子E1B及びE1B55kDaは各々、外部のE1A独立プロモーターにより制御されている。該プロモーターとしては、CMV、RSV、又はYB−1プロモーターが挙げられる。
【0096】
図2.3は、YB−1非依存E2後期プロモーターを有する本発明の別の組換えアデノウィルスベクターを示す。このベクターは、E2後期プロモーターを完全に除去するか、
あるいはYB−1が結合する該プロモーター中の遺伝子配列(いわゆるYボックス)を特異的に改変することにより得ることができる。
【0097】
図2.4は、E2後期プロモーターだけでなくE2前期プロモーターも欠失したため、もはや機能的に活性がない本発明の別の組換えアデノウィルスベクターを示す。図式的に示した該ベクターにおいて、2個のプロモーターは、本明細書中で述べたような腫瘍特異的プロモーター又は組織特異的プロモーターに置換されている。
【実施例】
【0098】
実施例1: アデノウィルス複製におけるYB−1の重要性
YB−1がE2後期プロモーターによるE2の発現を制御することを示すために、次の実験手法を実施した。
【0099】
野生型のアデノウィルス、即ちE1−マイナスアデノウィルス、又はYB−1を発現するE1−マイナスアデノウィルス(AdYB−1)を、それぞれ腫瘍細胞(HeLa細胞)に感染させた(ここにおいて、Kはコントロール(即ち非感染)を表す)。全RNAを24時間後に単離した後、ノーザンブロット分析を行った。その後、ホルムアルデヒド−アガロースゲルにおけるゲル電気泳動により、単離したRNAをサイズ別に分離し、それをナイロン膜にブロットし、紫外線で固定した。E2前期プロモーターとE2後期プロモーターの間に位置する配列に相補的なcDNAフラグメント(250ベース)を、放射性標識プローブとして用いた。該プローブは、アマシャム(Amersham)社製ランダムプライムラベリングシステム(random prime labeling system)を用いて標識した。フィルムの分析により、E2特異シグナルは、野生型のアデノウィルスに感染した細胞中にしか存在しないことが明らかになった。
【0100】
実施例2: アデノウィルス複製におけるYB−1の重要性
YB−1がE2後期プロモーターによるE2の発現を制御することを示すために、実施例1に記載のプロトコルに基づく次の実験手法を実施した。
【0101】
実施例1の放射性プローブを水中で2分間煮沸して除去し、別のcDNAプローブと再びハイブリダイズした。このプローブは、E2後期プロモーターの上流に位置する。
【0102】
上記の分析により、次の結果が得られた:AdYB−1に感染した細胞と同様、野生型のアデノウィルスに感染した細胞も、明確なシグナル及び特異的なE2バンドを有する。従って、YB−1はE2後期プロモーターによりE2領域を制御し、活性化する。
【0103】
実施例3: YB−1のE2プロモーターへの特異的結合の証明
この実験は、転写因子であるYB−1がE2後期プロモーター内のYボックス(CAAT配列)に結合するはずである、という予想に基づいている。YB−1とこのプロモーターとの特異的な結合を検出するために、いわゆるEMSA分析(electrophoretic mobility shift assay)を行う。即ち、野生型アデノウィルスを細胞に感染させた24時間後に核タンパクを単離する。次いで、タンパク(1〜10μg)とE2後期プロモーター配列を含む短いDNAフラグメント(長さ:30〜80ベース)とを共に37℃で30分間インキュベートする。このDNAフラグメント(オリゴ)を、前もって5’末端においてキナーゼを用いて32Pで放射性標識する。その後、そのままの(native)ポリアクリルアミドゲルを用いて分離する。タンパクYB−1が該オリゴの配列と結合する場合、5’末端において放射性標識された短いDNAフラグメントは、YB−1がその短いDNAフラグメントと結合しているために、未結合のオリゴよりもゆっくりとゲル内で移動するため、いわゆるシフトが見られる。このシフトは、100倍過剰の未標識のオリゴを反応混合物に添加するとすぐに、再び消失させることができる。
【0104】
その結果、YB−1がE2後期プロモーターに特異的に結合することが明らかになった。
【0105】
競合実験をコントロールとして行った。過剰の未標識E2後期プロモーターフラグメントを反応混合物に添加したところ、上述の反応混合物中においてシフトはもはや見られなかった。
【0106】
本明細書中、上の記載において先行技術を参照している場合は、それら自体あるいはそれらの内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0107】
本明細書、請求項、図面にて開示した本発明の各特徴は、個々に、またいかなる組み合わせにおいても、各種形態において本発明を実現する上で重要であろう。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】アデノウィルスの基本的な分子−遺伝子構成を示す。
【図2】本発明の各種核酸及びアデノウィルスの構築物の概観を示す。
【図3】ノーザンブロット分析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウィルス核酸を有する核酸であって、該核酸がYB−1をコードする核酸配列を有することを特徴とする核酸。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸において、前記アデノウィルス核酸はE1−Bをコードする核酸を有することを特徴とする核酸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の核酸において、前記アデノウィルス核酸はE4orf6をコードする核酸を有することを特徴とする核酸。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の核酸において、E1−Bの発現を制御するプロモーターが備えられていることを特徴とする核酸。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の核酸において、E4orf6の発現を制御するプロモーターが備えられていることを特徴とする核酸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の核酸において、E1BはE1−B55kDaタンパクであることを特徴とする核酸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の核酸において、前記核酸は、機能的に不活性な遺伝子産物であるE1B及び/又はE1及び/又はE3及び/又はE4をコードすることを特徴とする核酸。
【請求項8】
YB−1をコードする核酸及びYB−1の核輸送を仲介する核酸配列を有する核酸。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸において、YB−1の核輸送を仲介する核酸配列が、シグナル配列及び輸送配列からなる群より選択されることを特徴とする核酸。
【請求項10】
アデノウィルス核酸を含む核酸であって、該アデノウィルス核酸が、機能的E2後期プロモーターの代わりに腫瘍特異的プロモーターを含むことを特徴とする核酸。
【請求項11】
アデノウィルス核酸を含む核酸であって、該アデノウィルス核酸が、機能的E2後期プロモーターの代わりに組織特異的プロモーターを含むことを特徴とする核酸。
【請求項12】
請求項10又は11のいずれかに記載の核酸において、該アデノウィルス核酸が、非機能的E2前期プロモーターを含むことを特徴とする核酸。
【請求項13】
E1Aタンパクの発現を欠損したアデノウィルス核酸を含み、かつ、YB−1をコードする核酸配列を含むヘルパーウィルスの核酸を含む、アデノウィルス複製システム。
【請求項14】
請求項13に記載のアデノウィルス複製システムにおいて、前記アデノウィルス核酸及び/又は該ヘルパーウィルスの核酸が、複製ベクターとして存在することを特徴とするアデノウィルス複製システム。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の核酸のうちの1つを含むベクター(好ましくは発現ベクター)。
【請求項16】
少なくとも2つのベクターを含むベクター群であって、該ベクター群が、全体で、請求項13又は14に記載のアデノウィルス複製システムを含む、ベクター群。
【請求項17】
請求項16に記載のベクター群において、前記アデノウィルス複製システムの各成分が適切なベクター(好ましくは発現ベクター)に存在することを特徴とするベクター群。
【請求項18】
請求項16に記載のベクター群において、アデノウィルス複製システムの少なくとも2つの成分が前記ベクター群中の1ベクターに存在することを特徴とするベクター群。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれかに記載の核酸のうちの1つを含むアデノウィルス。
【請求項20】
カプシドを含む請求項19に記載のアデノウィルス。
【請求項21】
請求項1〜11のいずれかに記載の核酸及び/又は請求項13又は14に記載のアデノウィルス複製システム及び/又は請求項15に記載のベクター及び/
又は請求項16〜18のいずれかに記載のベクター群及び/又は請求項19又は20に記載のアデノウィルスを含む細胞。
【請求項22】
請求項1〜12のいずれかに記載の核酸及び/又は請求項13又は14に記載のアデノウィルス複製システム及び/又は請求項15に記載のベクター及び/又は請求項16〜18のいずれかに記載のベクター群及び/又は請求項19又は20に記載のアデノウィルス及び/又は請求項21に記載の細胞の、医薬の製造のための使用。
【請求項23】
請求項22に記載の使用において、前記医薬が腫瘍疾病の治療及び/又は予防に使用されることを特徴とする使用。
【請求項24】
請求項22又は23に記載の使用において、前記医薬が薬学的に有効な化合物を更に含むことを特徴とする使用。
【請求項25】
請求項24に記載の使用において、前記薬学的に有効な化合物は細胞分裂抑制剤からなる群から選ばれことを特徴とし、前記細胞分裂抑制剤は、好ましくはシスプラチン、タキソール、ダウノブラスチン、アドリアマイシン及びミトキサントロンからなる群から選ばれるものである、使用。
【請求項26】
細胞周期とは無関係にYB−1が腫瘍細胞の核内に存在する腫瘍疾病の治療及び/又は予防用医薬の製造のための、請求項1〜12のいずれかに記載の核酸及び/又は請求項13又は14に記載のアデノウィルス複製システム及び/又は請求項12に記載のベクター及び/又は請求項16〜18のいずれかに記載のベクター群及び/又は請求項19又は20に記載のアデノウィルス及び/又は請求項21に記載の細胞の使用。
【請求項27】
請求項26に記載の使用において、前記核酸はアデノウィルス核酸をコードし、アデノウィルス核酸はE1B欠損(特に、E1B55kDa欠損)であることを特徴とする使用。
【請求項28】
請求項25に記載の使用において、前記アデノウィルスがE1B欠損(特に、E1B55kDa欠損)であることを特徴とする使用。
【請求項29】
請求項26に記載の使用において、前記核酸がアデノウィルス核酸をコードし、アデノウィルス核酸はE1B(特に、E1B55kDa)をコードすることを特徴とする使用。
【請求項30】
請求項26に記載の使用において、前記アデノウィルスがE1B(特に、E1B55kDa)を発現することを特徴とする使用。
【請求項31】
請求項26、27、28のいずれかに記載の使用において、前記アデノウィルス核酸がE1Aをコードすることを特徴とする使用。
【請求項32】
請求項26、27、28のいずれかに記載の使用において、前記アデノウィルスがE1Aを発現することを特徴とする使用。
【請求項33】
請求項26〜32のいずれかに記載の使用において、腫瘍及び/又は腫瘍疾病は、p53陽性腫瘍、p53陰性腫瘍、悪性腫瘍、良性腫瘍、及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれることを特徴とする使用。
【請求項34】
E1B欠損(好ましくはE1B55kDa欠損)アデノウィルスを用いて治療することができる患者のスクリーニング方法であって、次の各ステップ:
腫瘍組織のサンプルを調べるステップと、
細胞周期とは無関係にYB−1が核内に存在するかどうかを決定するステップと
を含む方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法において、各種抗YB−1抗体からなる群から選択される剤を用いて前記腫瘍組織を調べることを特徴とする方法。
【請求項36】
E1B欠損アデノウィルス(好ましくはE1B55kDa欠損アデノウィルス)で治療することができる患者(特に腫瘍患者)を決定するための抗YB−1抗体の使用。
【請求項37】
少なくとも1つのYB−1分子と、少なくとも1つのE1B55kDaタンパクとを含む複合体。
【請求項38】
請求項37に記載の複合体において、YB−1分子は形質転換YB
−1分子であることを特徴とする複合体。
【請求項39】
少なくとも1つのYB−1分子と、少なくとも1つのE1Aタンパクとを含む複合体。
【請求項40】
請求項39に記載の複合体において、E1A領域の1つ以上のタンパク質は、アデノウィルス遺伝子発現に関する転写促進効果を有するが、アデノウィルスの複製を活性化しないことを特徴とする複合体。
【請求項41】
腫瘍の治療(特に腫瘍溶解)のための、請求項39に記載の複合体の使用。
【請求項42】
請求項37又は38に記載の複合体において、YB−1が核内で発現したYB−1であることを特徴とする複合体。
【請求項43】
YB−1を核内に有する腫瘍の治療薬を製造するためのE1B欠損アデノウィルスの使用。
【請求項44】
請求項43に記載の使用において、YB−1の核存在が外因性処置の影響下において達成されることを特徴とする使用。
【請求項45】
請求項44に記載の使用において、前記外因性処置は照射、細胞分裂抑制剤及び高熱からなる群から選択される処置であることを特徴とする使用。
【請求項46】
請求項44又は45に記載の使用において、前記医薬の投与対象の生体に対し、前記外因性処置を施すことを特徴とする使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−237219(P2008−237219A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96110(P2008−96110)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【分割の表示】特願2002−555221(P2002−555221)の分割
【原出願日】平成13年12月21日(2001.12.21)
【出願人】(503233347)
【Fターム(参考)】