説明

アトマイズ金粉末並びにそれを用いた導電性金ペーストおよび装飾用金粘土

【課題】 焼結過程における膨張・収縮量を抑制することのできる金粉末を提供する。
【解決手段】 金粉末は、アトマイズ法によって作製したものであり、その結晶粒径が100〜800nmであり、粉末平均粒径が1〜10μmである。また、金粉末の焼結過程での収縮挙動開始温度が350℃以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アトマイズ法によって得られた金粉末並びにそれを用いた導電性金ペーストおよび装飾用金粘土に関するものであり、特に、エレクトロニクス回路形成用導体ペーストや、指輪・ネックレスなどの宝飾品・装飾製品を作製するための金粘土に使用されるアトマイズ金粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド集積回路やマルチチップモジュールなどに用いられるセラミックス配線基板やその他の電子部品等に、所定のパターンの導電膜(配線や電極など)を形成する材料として、導電性ペーストが用いられる。例えば基板上に導電膜を形成した場合には、導電膜のデラミネーションやクラックなどの構造欠陥の発生を防止しなければいけない。また焼成過程での膨張・収縮現象をできる限り抑制し、かつ焼結開始温度が高い導電性金属粉末が要求される。
【0003】
例えば、特開2002−20809号公報(特許文献1)は、厚膜ペースト、特にセラミック積層電子部品を製造するための導体ペーストに適した球状で粒度の揃った高純度、高密度、高分散性の微細な高結晶性金属粉末を製造する方法を開示している。この公報には、エレクトロニクス回路形成用導体ペーストに使用される導電性金属粉末に対する要求特性として、不純物が少ないこと、平均粒径が0.1μm〜10μm程度までの微細な粉末であること、粒子形状および粒径が揃っていること、凝集のない単分散粒子であること、ペースト中での分散性が良いこと、不均一な焼結を起こさないよう結晶性が良好であることが指摘されている(段落番号0002)。ここで、結晶性が良好ということは、焼成中に酸化還元による膨張収縮が起こりにくく、かつ焼結開始温度が高い、球状で活性の低い高結晶性または単結晶であることを意味している(段落番号0002)。
【0004】
他方、最近では指輪やネックレスなどの貴金属宝飾品や美術工芸品などについて、オリジナリティのあるものを個人が手軽にかつ容易に作製するための貴金属製粘土が販売されている。そのような粘土状の加工材料を好みの形に造形したり、彫刻を施したりした後、加熱・焼結することで上記の宝飾品や工芸品などを作製する。その際、焼結過程での膨張・収縮量をできる限り小さくすることにより、寸法や形状を好み通りにすることができる。
【0005】
特開2003−193101号公報(特許文献2)は、銀粘土焼結体の表面に金被膜または金合金被膜を形成するためのペーストおよびその形成方法を開示している。この公報には、流動体ペーストに含まれる金または金合金粉末を銀粘土に含まれる銀粉末よりも一層微細な平均粒径3μmの微粉末にすると、火炎に当てるだけで金または金合金被膜を形成することができることが記載され、さらに、化学還元法によって平均粒径3μm未満の球状金微粉末を得ることができることが記載されている(段落番号0005)。
【0006】
金粉末の製造方法として、噴霧熱分解法、化学還元法、アトマイズ法などがある。導電ペーストや粘土材料の特性は、それらに含まれる金粉末の特性に大きく依存し、また金粉末の粉体特性はその製造方法によって大きく異なる。
【0007】
特開平10−102108号公報(特許文献3)は、噴霧熱分解法による厚膜ペースト用貴金属粉末の製造方法を開示している。噴霧熱分解法は、粉末を構成する金属の塩を含む溶液を噴霧して液滴にし、この液滴を金属塩の分解温度より高温(金属の融点近傍以上)で加熱して金属塩を熱分解し、金属粉末を析出させる方法である。
【0008】
特開2003−193101号公報(特許文献2)にも記載されている化学還元法は、粉末を構成する金属の塩を含む溶液(原料塩溶液)を還元して粉末を製造する方法である。
【0009】
アトマイズ法は、粉末を構成する金属を加熱して溶融状態とし、この溶融金属を噴霧して液滴にし、冷却する過程で凝固させて粉末粒子を製造する方法である。特開平8−134501号公報(特許文献4)は、貴金属原料を水アトマイズ法によって粉末化して得られる貴金属製品用焼結材料を開示している。この公報には、水アトマイズ法によって得た貴金属粉末に、有機系結合材溶液と酸化鉛とを添加し、さらに酸化珪素とアルミナのうちどちらか一方、或いは両方を添加して粘土状材料を作製し、これを成形・焼結することで貴金属宝飾品を製造することが記載されている。ここで金粉末に添加する酸化物として、酸化珪素またはアルミナのほかに、酸化鉛を必須のものとするのは、無色で高い強度の焼結体を得るためである(段落番号0011)。
【特許文献1】特開2002−20809号公報
【特許文献2】特開2003−193101号公報
【特許文献3】特開平10−102108号公報
【特許文献4】特開平8−134501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の先行技術に見られるように、導電性ペーストや粘土材料において用いられる金属粉末の一つとして金(Au)がある。前述したように、セラミックス配線基板等の上に形成される導電膜については、焼成中における導電膜の膨張・収縮現象をできる限り抑制することが必要である。また、金粉末を含む貴金属製粘土を所望の寸法や形状の宝飾品に仕上げるには、焼結過程での膨張・収縮量をできる限り小さくすることが必要である。
【0011】
本願発明者は、金粉末の結晶粒径が、ペーストや粘土を焼結する過程における膨張・収縮現象と密接な関係があることを見出した。上記に引用した特許文献1〜4には、金粉末の結晶粒径についての記載がない。
【0012】
噴霧熱分解法によれば、金粉末の素地を構成する結晶粒径が50ナノメートル(nm)といった微細な組識構造を有する粉末を製造することが可能である。このように微細な結晶粒径を有する金粉末をペーストや粘土材料として用いた場合、加熱過程において金粉末粒子間での拡散・焼結現象が低温で顕著に進行するため、異常な収縮挙動を示す。この異常な収縮挙動は、ペースト薄膜におけるクラックや基板との剥離などの問題や、宝飾品の変形や寸法誤差などの外観不良を引き起こす。このような異常な収縮挙動を生じさせないようにするには、金粉末の結晶粒径をより大きくすることが必要である。しかしながら、噴霧熱分解法では、より適切な結晶粒径の範囲、例えば、100nm〜1μmの結晶粒径を有する金粉末を製造することは困難である。
【0013】
化学還元法による金粉末の製造方法においても、噴霧熱分解法と同様、100nm〜1μm程度の結晶粒径を有する金粉末を製造することは困難である。
【0014】
特開平8−134501号公報(特許文献4)は、貴金属製品用焼結材料として、水アトマイズ法によって得られた金粉末の使用を記載している。そして、焼結体の強度向上のために、金のような貴金属粉末に対して、有機系結合材溶液と酸化鉛とを添加し、さらに酸化珪素とアルミナのうちどちらか一方、或いは両方を添加して粘土状にすることを特徴としている。この方法の場合、微細な酸化物粒子が凝集し易いため、十分な攪拌処理を行なわないと却って焼結体の強度を低下させてしまう。また、環境面からは、鉛成分を有する酸化鉛の必須使用は好ましくないといった問題点を指摘できる。そこで、焼結体の強度向上に関しては、特開平8−134501号公報に開示されたような酸化物粒子の添加といったアプローチに頼らない別の手法が要望される。
【0015】
この発明の目的は、焼結過程における膨張・収縮量を抑制することのできる金粉末を提供することである。
【0016】
この発明の他の目的は、上記の金粉末を用いた導電性金ペーストを提供することである。
【0017】
この発明のさらに他の目的は、上記の金粉末を用いた装飾用金粘土を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、アトマイズ法によって得られた金粉末であって、その結晶粒径が100〜800ナノメートル(nm)であることを特徴とする。なお、本明細書においては、「結晶粒径」は、平均結晶粒径のことを意味する。
【0019】
より好ましい金粉末の結晶粒径は、200〜500nmである。
【0020】
好ましい金粉末の平均粒径は、1〜10μmであり、より好ましくは、3〜5μmである。
【0021】
好ましくは、金粉末は、焼結過程で膨張挙動を示さない特性を有する。なお、本明細書においては、「焼結」という用語と、「焼成」という用語とを厳格に使い分けておらず、両者を含む概念として主に「焼結」という用語を使用する。
【0022】
好ましくは、金粉末の焼結過程での収縮挙動開始温度が350℃以上である。
【0023】
好ましくは、金粉末の融点が600℃以上であり、より好ましくは800℃以上である。
【0024】
金粉末は、好ましくは、金溶湯からの微細液滴に水を噴霧して凝固後に得られた水アトマイズ金粉末である。
【0025】
この発明に従った導電性金ペーストは、上記のアトマイズ金粉末を用いたことを特徴とする。
【0026】
この発明に従った装飾用金粘土は、上記のアトマイズ金粉末を用いたことを特徴とする。好ましくは、装飾用金粘土は、アトマイズ金粉末に加えて、有機系結合材溶液と、酸化物粒子とを含む。この場合、酸化物粒子は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化銅および酸化銀からなる群から選ばれた1または2以上の酸化物である。
【0027】
本発明の構成は上記の通りであるが、各構成の作用効果、意義等については、以下の「発明を実施するための最良の形態」の項で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(1)アトマイズ金粉末の結晶粒径
本願発明者は、金粉末の結晶粒径が、導電性ペーストや粘土状材料に用いた場合における、焼結過程での膨張・収縮挙動と焼結体の強度に大きく影響を及ぼすことを見出した。金粉末の結晶粒径は100〜800ナノメートル(nm)の範囲にすることが必要であり、より好ましい範囲は、200〜500nmである。
【0029】
本願発明者は、多くの試作および実験等を通して、金粉末の結晶粒径が100nm未満の場合には、金粉末粒子間での拡散が進行し易くなるために、350℃までの焼成過程において異常な収縮現象が生じることを見出した。そのため、結晶粒径が100nm未満の金粉末を導電性ペーストとして用いた場合には、収縮によってペースト膜におけるクラックや基板とペーストの間での剥離といった問題が生じる。またそのような微細な結晶粒径の金粉末を宝飾品用焼結粘土材料として用いた場合、焼結前の粘土状態と比較して、焼結後の宝飾品での寸法変化や変形が顕著になるので宝飾品や工芸品として利用できなくなる。
【0030】
さらに、結晶粒径が100nm未満の金粉末の場合には、融点が700〜800℃を下回るようになり、その結果、焼結過程において粘土成形体が溶融して宝飾品の製作が困難となる。
【0031】
図1〜図3は、結晶粒径の異なる金粉末について、加熱過程における膨張・収縮挙動をデラートメーターで測定した結果を示す。図1は、水アトマイズ法によって作製した金粉末を用いた場合の結果であり、図2は、化学還元法によって作製した金粉末を用いた場合の結果であり、図3は、噴霧熱分解法によって作製した金粉末を用いた場合の結果である。各粉末の結晶粒径および粉末平均粒径は、次の通りであった。
【0032】
図1の水アトマイズ法によって作製した金粉末の場合、結晶粒径が255nmであり、粉末平均粒径が4.6μmであった。図2の化学還元法によって作製した金粉末の場合、結晶粒径が54nmであり、粉末平均粒径が0.5μmであった。図3の噴霧熱分解法によって作製した金粉末の場合、結晶粒径が55nmであり、粉末平均粒径が5.7μmであった。
【0033】
図1に示す結晶粒径255nmの水アトマイズ金粉末では、407℃において収縮現象が開始するのに対して、図2に示す結晶粒径51nmの化学還元法による金粉末では、221℃といった低温度域において収縮現象が開始する。また図3の結晶粒径55nmの噴霧熱分解法による金粉末では、400℃付近において膨張現象を示す。このような膨張現象を起こす金粉末を導電性ペーストとして用いた場合には、膨張現象によって基材とペースト間での剥離を引き起こすといった問題を伴う。
【0034】
一方、各粉末の融点を比較すると、図1の水アトマイズ法による金粉末は約1000℃の融点を有するのに対して、図2および図3に示す100nm未満の微細な結晶粒径を有する化学還元法あるいは噴霧熱分解法による金粉末は680〜700℃といった低い融点を有することがわかる。
【0035】
導電性ペーストおよび粘土状材料は、600〜800℃付近で焼結する。図1〜図3において、例えば600℃における各金粉末の収縮量を比較すると、水アトマイズ金粉末では0.4%であるのに対して、化学還元法あるいは噴霧熱分解法による金粉末は、それぞれ2.5%と2.7%と高い値を示している。この結果からわかるように、100nm未満の微細な結晶粒径を有する金粉末では、焼結が顕著に進行する結果、焼結過程での収縮量が増大してペースト膜の亀裂や基板との剥離、宝飾品における亀裂や変形、寸法誤差などの外観不良を引き起こす。
【0036】
他方、焼結後のペースト膜や粘土焼結体の強度の観点からは、金粉末の結晶粒径は小さい方が望ましい。結晶粒径が800nmを超えると、焼結後のペースト膜や粘土焼結体において十分な強度や硬さが得られなくなる。また、800nmを超えるような大きな結晶粒径の金粉末では焼結性が低下するために、高い導電性を有する良好なペーストを得ることが困難となる。
【0037】
以上のように、焼結過程での収縮量を出来る限り低減し、しかも焼結後の強度を向上させるためには、金粉末をアトマイズ法よって作製し、かつその結晶粒径を100nm〜800nmの範囲にすることが必要である。より好ましい結晶粒径としては、200〜500nmである。
【0038】
(2)アトマイズ金粉末の平均粒径
金粉末の粒子径は、粉末間の焼結性を支配する要因の一つである。本発明に従ったアトマイズ金粉末の平均粒径は、好ましくは、1〜10μmの範囲である。さらに、焼結過程における異常な収縮現象を抑えて、良好な焼結性を確保するには、金粉末の平均粒径を3〜5μmの範囲にすることがより望ましい。
【0039】
金粉末の平均粒径が1μm未満の場合、粉末間での表面拡散が促進するので焼結に伴う収縮現象の開始温度が350℃を下回るようになり、ペーストや粘土状材料に用いた場合には上述のような欠陥が生じる。また粉末の凝集や、タップ密度が低下するといった問題が生じるため、導電ペーストに適さなくなる。
【0040】
他方、金粉末の平均粒径が10μmを超える場合、ペーストとしての要求特性である、微細な電子回路パターンの形成が困難となる。
【0041】
なお、化学還元法により作製した金粉末では、粉末平均粒径が0.5〜1μm以下と微細であるため、粉末表面拡散が進行し易く、前述のように220〜250℃付近で粉末間の焼結が開始する。そのため、600〜800℃での焼結においては異常な収縮現象を伴い、ペースト膜中の亀裂や基板との剥離といった問題が生じる。
【0042】
(3)アトマイズ金粉末の焼結過程での挙動および融点
前述したように、焼結過程で膨張現象を起こす金粉末を導電性ペーストとして用いると、膨張現象によって基材とペースト間での剥離を引き起こす。そこで、好ましくは、アトマイズ金粉末は、不活性ガス雰囲気中または大気中での焼結過程で膨張挙動を示さない特性を有する。
【0043】
金粉末の結晶粒径および粉末平均粒径を適正な範囲にすることにより、焼結過程の低温度域での異常な収縮挙動を抑えることができる。焼結に伴う多少の収縮現象は避けられないが、本発明の金粉末の場合、好ましくは、不活性ガス雰囲気中または大気中の焼結過程での収縮挙動開始温度が350℃以上である。
【0044】
噴霧熱分解法や化学還元法によって作製した金粉末に比べて、アトマイズ法によって作製した金粉末は、不活性ガス雰囲気中または大気中の焼結過程で高い融点を示す。好ましい金粉末の融点は600℃以上であり、より好ましくは800℃以上である。
【0045】
アトマイズ法には、ガスアトマイズ法と水アトマイズ法とがあるが、上述したような適正範囲の結晶粒径および粉末平粒径等の物理特性を有する金粉末を得るには、水アトマイズ法が好ましい。具体的には、金粉末は、好ましくは、金溶湯からの微細液滴に水を噴霧して凝固後に得られた水アトマイズ金粉末である。
【0046】
(4)アトマイズ金粉末を用いた導電性金ペースト
上述したような好ましい物理特性を有するアトマイズ金粉末を用いた導電性金ペーストであれば、焼結過程での導電膜の膨張・収縮現象を抑制できるので、信頼性の高い導電膜を得ることができる。
【0047】
(5)アトマイズ金粉末を用いた装飾用金粘土
上述したような好ましい物理特性を有するアトマイズ金粉末に、有機系結合材溶液と酸化物粒子とを加えて金粘土を作製すれば、高強度でかつ寸法変化量が少ない、高寸法精度を有する金製宝飾品や金製工芸品などを製造できる。添加する酸化物粒子は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化銅および酸化銀からなる群から選ばれた1または2以上の酸化物である。
【0048】
前述したように、特開平8−134501号公報(特許文献4)に開示された金粘土の作製方法では、焼結体の強度向上の目的から、酸化鉛の添加が必須である。環境面を考慮すると、鉛成分を有する酸化鉛の利用は好ましくない。これに対して、本発明の好ましい実施形態である水アトマイズ金粉末においては、酸化鉛以外の酸化物粒子を用いた場合であっても、結晶粒径が100〜800nmといった適正範囲を満足することで、高い強度を有し、しかも焼結前後における寸法変化、特に異常収縮現象を伴うことなく、良好な金製宝飾品や金製工芸品を得ることができる。
【実施例1】
【0049】
金粘土製リングの焼成時における収縮量の比較
平均粒径が3μmの水アトマイズ法により作製した金粉末(平均結晶粒径:280nm)を重量比で92%、水溶性セルロース粘土を8%準備し、それらを混錬してアトマイズ製金粉末入りの金粘土(粘土Aとする)を作製した。一方、平均粒径が1.2μmの化学還元法により作製した金粉末(平均結晶粒径:60nm)も同様に、同配合比率で水溶性セルロース粘土と混錬し、化学還元製金粉末入りの金粘土(粘土Bとする)を作製した。粘土A、粘土Bから厚み3mm、直径13mmのリング状試験片を各5個ずつ作製し、内部雰囲気温度が150℃の乾燥機にそれぞれ10分間入れて乾燥させた。その後800℃の焼成炉内で10分間加熱保持して焼成し、収縮率を測定した。その際、焼成前の試験片の直径に対して5%以上の膨張収縮が生じるか否かを評価した。その結果、粘土Aの試験片は全て5%未満の収縮であった。これに対して粘土Bの試験片はいずれも7〜12%程度と大きな収縮現象が観察できた。
【実施例2】
【0050】
水アトマイズ法により作製した平均粒径が3.1μm、平均結晶粒径315nmの金粉末(粉末A)と、その金粉末を熱処理して平均結晶粒径を2.4μmとした金粉末(粉末B)、また化学還元法によって作製した平均粒径が0.9μm、平均結晶粒径45nmの金粉末(粉末C)を準備し、これらを用いてセラミックス配線基板用導電性金ペーストを作製した。各ペーストを用いて基板上に配線パターンを作製し、焼成したところ、粉末Aではペースト薄膜に亀裂もなく、また基板との間に剥離もない良好な配線が得られた。他方、粉末Bを用いた場合には、金粉末間での焼結が十分に進行しないためにペースト薄膜内に多数の亀裂が発生した。また粉末Cにおいては、焼成後のペーストの収縮量が大きく、基板との間で剥離が生じた。
【実施例3】
【0051】
水アトマイズ法によって異なる平均粒径および平均結晶粒径を有する金粉末を作製した。また一部の金粉末においては、平均結晶粒径を調整するために真空雰囲気中で熱処理を行った。各粉末の平均粒径および平均結晶粒径を表1に示す。各金粉末の加熱過程における膨張・収縮挙動をデラートメーターを用いて評価した。収縮開始温度を同表1に示す。また各金粉末と水溶性セルロース粘土の混合体において、金粉末の含有量が全体の92重量%となるように配合し、得られた金粘土からリング状試験片を作製して、それぞれを150℃での乾燥工程を経て800℃で20分間焼成した。得られたリング試験片の圧環強度を測定した。その結果を同表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1中、試料No.4〜9は本発明例であり、試料No.1〜3,10は比較例である。
【0054】
本発明例のアトマイズ製金粉末においては、適正な平均粒径および平均結晶粒径を有することで、800℃での焼成後に亀裂等のない良好なリング状焼成体が得られ、またリングとしての強度も十分である。他方、比較例においては以下のような問題が確認された。
【0055】
すなわち、試料No.1,2では、平均粒径および平均結晶粒径が小さいために焼成過程で大きな異常収縮が生じ、その結果、試料No.1ではリング形状が維持できず、測定が不可能であった。また試料No.2では変形によってリング強度の低下が生じた。試料No.3,4では、平均結晶粒径が適正値を越えて大きいため、800℃での焼成において十分に焼結が進行せず、その結果、リング体の強度が低下した。
【実施例4】
【0056】
水アトマイズ法により作製した平均粒径が3.1μm、平均結晶粒径315nmの金粉末、有機系結合材として6%濃度メチルセルロース水溶液、酸化錫と酸化アルミニウムの混合粉末(重量比で70:30)を準備した。重量基準で98%の金粉末と2%の上記の混合酸化物粉末を配合し、この配合粉末に対して重量基準で10%の上記メチルセルロース水溶液に配合粉末を添加・混錬して粘土状とした。この金粘土をリング状金型に充填し、成型固化した後、その成型体を100℃以下で30分間乾燥し、続いて780℃で30分間焼成してリング状焼結体を作製した。得られた焼結体は、乾燥前の成型体の寸法に対して、平均収縮率は1.8%と小さく、亀裂や変形も見られず、また強度も十分であった。このことから本アトマイズ製金粉末を使用することで、環境や人体に影響を及ぼす酸化鉛を使用せずに良好な金粘土が得られることがわかった。なお、乾燥工程は成型体中の水分および有機系結合材を蒸発・除去することを目的としている。
【実施例5】
【0057】
水アトマイズ法により作製した平均粒径が4.2μm、平均結晶粒径416nmの金粉末、有機系結合材として6%濃度エチルセルロース水溶液、酸化マグネシウムと酸化カルシウムの混合粉末(重量比で50:50)を準備した。重量基準で98%の金粉末と2%の上記の混合酸化物粉末を配合し、この配合粉末に対して重量基準で10%の上記エチルセルロース水溶液に配合粉末を添加・混錬して粘土状とした。この金粘土をリング状金型に充填し、成型固化した後、その成型体を180℃で30分間乾燥し、続いて800℃で30分間焼成してリング状焼結体を作製した。得られた焼結体は、乾燥前の成型体の寸法に対して、平均収縮率は2.1%と小さく、亀裂や変形も見られず、また強度も十分であった。このことから本アトマイズ製金粉末を使用することで、環境や人体に影響を及ぼす酸化鉛を使用せずに良好な金粘土が得られることがわかった。なお、乾燥工程は成型体中の水分および有機系結合材を蒸発・除去することを目的としている。
【0058】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、金粉末ならびにそれを用いた導電性金ペーストおよび装飾用金粘土に有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】水アトマイズ法によって作製した金粉末の加熱過程における膨張・収縮挙動をデラートメーターで測定した結果を示す図である。
【図2】化学還元法によって作製した金粉末の加熱過程における膨張・収縮挙動をデラートメーターで測定した結果を示す図である。
【図3】噴霧熱分解法によって作製した金粉末の加熱過程における膨張・収縮挙動をデラートメーターで測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトマイズ法によって得られた金粉末であって、その結晶粒径が100〜800ナノメートル(nm)であることを特徴とする、アトマイズ金粉末。
【請求項2】
前記金粉末の結晶粒径が200〜500nmである、請求項1に記載のアトマイズ金粉末。
【請求項3】
前記金粉末の平均粒径が1〜10μmである、請求項1または2に記載のアトマイズ金粉末。
【請求項4】
前記金粉末の平均粒径が3〜5μmである、請求項1〜3のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項5】
前記金粉末は、焼結過程で膨張挙動を示さない特性を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項6】
前記金粉末の焼結過程での収縮挙動開始温度が350℃以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項7】
前記金粉末の融点が600℃以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項8】
前記金粉末の融点が800℃以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項9】
前記金粉末は、金溶湯からの微細液滴に水を噴霧して凝固後に得られた水アトマイズ金粉末である、請求項1〜8のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のアトマイズ金粉末を用いた導電性金ペースト。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のアトマイズ金粉末を用いた装飾用金粘土。
【請求項12】
前記装飾用金粘土は、前記アトマイズ金粉末に加えて、有機系結合材溶液と、酸化物粒子とを含み、
前記酸化物粒子は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化銅および酸化銀からなる群から選ばれた1または2以上の酸化物である、請求項11に記載の装飾用金粘土。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトマイズ法によって得られた金粉末であって、その結晶粒径が250〜750ナノメートル(nm)で、粉末の平均粒径が2.5〜9.5μmであることを特徴とする、アトマイズ金粉末。
【請求項2】
前記金粉末は、焼結過程で膨張挙動を示さない特性を有する、請求項1に記載のアトマイズ金粉末。
【請求項3】
前記金粉末の焼結過程での収縮挙動開始温度が350℃以上である、請求項1または2に記載のアトマイズ金粉末。
【請求項4】
前記金粉末の融点が600℃以上である、請求項1〜3のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項5】
前記金粉末の融点が800℃以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のアトマイズ金粉末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアトマイズ金粉末を用いた導電性金ペースト。
【請求項7】
水アトマイズ法によって得られた金粉末と、有機系結合材溶液と、酸化物粒子とを含み、
前記金粉末は、その結晶粒径が250〜750ナノメートル(nm)で、粉末の平均粒径が2.5〜9.5μmであり、
前記酸化物粒子は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化銅および酸化銀からなる群から選ばれた1または2以上の酸化物である、装飾用金粘土。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−183076(P2006−183076A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375794(P2004−375794)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(503221643)日本アトマイズ加工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】