説明

アビプタジルのための処方物

本発明は、アビプタジルおよびその誘導体の薬学的処方物に関する。規定のpH範囲を有するバッファーで調製した規定濃度のアビプタジルを含有する処方物によりアビプタジル処方物の安定性は明らかに向上した。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、アビプタジルおよびその誘導体の薬学的処方物に関する。
【発明の背景】
【0002】
アビプタジル(VIP、血管活性腸管ペプチド)は、米国および欧州各国でヒトおよび動物が関与する管理実験で20年以上使われてきた。イギリス、デンマークおよびニュージーランドは注射用アビプタジルが、勃起機能不全の処置用にフェントラミンと組み合わせて承認されている。内因性ぺプチドであるアビプタジルの薬理学および毒物学は、1970年代初期にアビプタジルが発見されてから多くの専門家による刊行物に記載されている。
【0003】
内因性アビプタジル(血管活性腸管ペプチド(VIP)とも呼ばれる)は、28個のアミノ酸からなり、以下のアミノ酸配列(順序はN末端からC末端)を有するペプチドである:
His−Ser−Asp−Ala−Val−Phe−Thr−Asp−Asn−Tyr−Thr−Arg−Leu−Arg−Lys−Gln−Met−Ala−Val−Lys−Lys−Tyr−Leu−Asn−Ser−Ile−Leu−Asn
二次元NMRおよび円偏光二色性分光法によるアビプタジルの配座解析では、2個のβ回転を有する不規則な8個のアミノ酸残基を有するN−末端配列に続き、7乃至15番目の残基と19乃至27番目の残基の2個のらせんセグメントが存在し、このペプチド分子を可動性にする未定義の構造を持つ領域が接続している構造であることが示された。内因性アビプタジルは、170個のアミノ酸を含む前駆体分子から、小胞体中でシグナルペプチダーゼにより生物活性形態に処理され、最後にプロホルモン転換酵素およびカルボキシペプチダーゼ−Bのような酵素により開裂して、合成される。
【0004】
アビプタジルは、先ず腸から単離され、その数年後には、中枢神経系および末端神経系で存在が確認され、それ以来心臓、肺、甲状腺、腎臓、免疫系、尿道および性器を含む多くの臓器および組織で神経伝達物質または神経調節物質として作用する、広範に分布する神経ペプチドであることが認識されるようになった。
【0005】
哺乳動物(ヒトを含む)におけるアビプタジルのこのような広範な分布は、全身血管拡張、心拍出量増加、気管支拡張、および肺動脈の血圧調整を生じる平滑筋弛緩、胃腸管および胃運動での分泌過程での胃腸平滑筋細胞弛緩、および異なるいくつかの効果、高血糖、平滑筋細胞増殖の阻害、ホルモン調節、無痛覚症、異常高熱、向神経効果、学習および行動、ならびに骨代謝を含む種々の生理的活性と相関がある。
【0006】
アビプタジルは、30℃乃至60℃の等張性塩溶液中で酸および熱に不安定である。
【0007】
歴史的に、アビプタジルは、静脈内経路、海綿静脈洞内経路、または吸入経路のいずれかで投与される種々のヒト臨床試験で長期間使用されてきた。単独の医薬として臨床的に適用されるアビプタジルを調製する現行方法は、アビプタジル基質を白色粉末として合成する工程を含み、この白色粉末から0.033mg/mLの濃度になるように0.9%塩化ナトリウム溶液(等張性溶液)で実質的に再構築される。フェントラミンを含む別の組成物では、アビプタジルは、安定化剤としてのエチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)を含有するリン酸緩衝液(pH値2乃至4.5)に溶解させる(EP0493485;US5236904;US5447912;WO9505188)。
【0008】
多くの因子(活性成分の化学反応性、活性成分と非活性成分との潜在的相互作用、製造プロセス、投薬形態、容器の密閉システム、および運搬、貯蔵、ハンドリング中の環境条件、および製造から使用までの期間)が薬学的製品の安定性に影響を与える。薬学的製品の安定性は、処方物の化学安定性だけではなく物理的安定性によっても決まる。熱および光を含む物理的因子は、化学反応を開始させたり促進したりすることがある。
【0009】
処方物の物理的安定性の最適化は、少なくとも3つの主な理由によって非常に重要である。第1に、薬学的製品は、患者に投与されるときに新鮮で、きれいで、それらしく見える必要がある。物理的な外観変化(例えば色のくすみや変化)があると、患者または消費者は製品の信頼性が欠けると考えがちである。第2に、製品によっては複数の投薬容器に分配されるので、時間がたっても活性成分の投薬含量を均一にする必要がある。濁った溶液またはエマルジョンが破壊したものは、均一に投薬できない場合がある。第3に、活性成分は、調製物の予想される保管寿命の間は患者にとって有効でなくてはならない。製品が分解して不活性になったり、望ましくない形態になったりして、患者にその医薬を使用できなくなる可能性がある。
【0010】
薬学的製品の安定性は、特定の処方物がその物理的仕様、化学的仕様、微生物的仕様、治療的仕様、および毒物的仕様の範囲内に維持される性能として定めてもよい。
【0011】
安定溶液は、その保管寿命期間内は、初めの透明性、色、および臭気を維持している。溶液の透明性の維持は、物理的安定性を維持しているという主な目安である。溶液は、比較的広い温度範囲(例えば、4℃乃至約37℃)で透明性を維持するのがよい。これより低い範囲では、その温度での成分の溶解度が低くなるため沈殿を生じることがある一方、高い温度範囲だと、ガラス容器またはゴム蓋からの抽出物によって均質性が損われることがある。したがって、活性薬学的成分の溶液は、循環温度条件で取り扱うことができなければならない。同様に、処方物は、この温度範囲でその色を維持し、その臭気が安定に維持されるのがよい。
【0012】
小さなペプチドは一般的には不安定であり、水溶液中で分解しやすい。この観点で、アビプタジルの効能が効能書きの90%未満になると、患者への投与に適しているとはいえない。
【0013】
種々の糖、界面活性剤、アミノ酸および脂肪酸を単独または組み合わせて用いてタンパク質およびペプチド製品が分解しないようにする。Wang and Hanson,J.Parenteral Science and Technology Supplement,1988,Technical Report No.10にはタンパク質およびペプチドの非経口処方物が記載されている。腑形剤(例えば、バッファー、防腐剤、等張化剤、および界面活性剤)の例は、Manning他,6 Pharmaceutical Research,1989、Wang and Kowak,34 J.Parenteral Drug Association 452,1980、およびAvis 他,Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,Vol.1, 1992に記載されている。
【0014】
被検体への投与に適した薬学的処方物の開発が複雑であることは言うまでもない。冷蔵温度および室温で実質的に安定な単独投与形態または複数投与形態を提供するように設計されたアビプタジルの薬学的処方物に関する技術に対するニーズがある。さらに、このようなペプチドの物理的分解および化学的分解を最小限にする適切な容器/蓋に封入された液体の薬学的処方物に関する技術に対するニーズがある。
【0015】
本発明の目的は、必要な患者に吸入または注射により医薬品を投与するのに適した医薬を製造するための、有効で、より安定した液体アビプタジル処方物を提供することである。別の実施形態では、本発明の目的は、アビプタジルを含有する医薬を長期間保存可能で、貯蔵および運搬が簡単な液体アビプタジル処方物を提供することである。さらに別の実施形態では、本発明の目的は、薬理学的に活性な量のアビプタジルと薬理学的に活性な量の以下のペプチドを含有する液体の薬学的組成物を提供することである:
シクロD−Asp−Pro−D−Val−Leu−D−Trp、またはSer−Pro−Lys−Met−Val−Gln−Gly−Ser−Gly−Cys−Phe−Gly−Arg−Lys−Met−Asp−Arg−Ile−Ser−Ser−Ser−Ser−Gly−Leu−Gly−Cys−Lys−Val−Leu−Arg−Arg−His
【発明の詳細な説明】
【0016】
ここに記載する本発明の1つの局面は、患者に投与するための、生物学的に活性で安全な薬学的組成物にアビプタジルを処方化するための方法を特徴とする。
【0017】
ペプチド薬物は、溶液中で物理的および化学的分解を受け、その生物活性を失ってしまう。本発明で報告する投薬形態は、アビプタジルの化学分解(例えば、ペプチド結合の加水分解)を最少限にとどめ、2乃至8℃で1年以上も生物学的に活性のある形態でペプチドを維持する。この投薬形態は、動物およびヒトにも十分に許容される。
【0018】
ここに記載する本発明の1つの局面は、約0.001%乃至1.0%(w/v)のアビプタジルを含む液体薬学的処方物の製造について記載する。驚くことに、より高い濃度である、0.0066乃至、好ましくは0.01乃至、より好ましくは0.05乃至、なおさらに好ましくは0.1乃至1.0%(w/v)のアビプタジルを含有する処方物は実質的により安定であることが判明した。
【0019】
本発明のペプチド処方物の安定性は、処方物のpHを約4.8乃至6.7の範囲に維持することによって高められる。好ましくは、処方物のpHを、5.0乃至6.4、より好ましくは5.5乃至6.3、最も好ましくは5.7乃至6.1に維持する。特に好ましいpH範囲は5.9乃至6.1である。薬学的処方物のpHが6.7を超えるか、4.8未満になると、ペプチドの化学劣化が促進され、ペプチドの保管寿命が短くなることが分かった。
【0020】
用語バッファー、緩衝系、バッファー溶液および緩衝液は、水素イオン濃度すなわちpHを参照して使用される場合、系(特に水溶液)が酸またはアルカリを加えるか、または溶媒で希釈したときにpH変化に抗する系の能力を指す。緩衝液の特徴は、弱酸および弱酸の塩が存在することで、または弱塩基および弱塩基の塩が存在することで、酸および塩基を添加してもpH変化が小さい。前述の系の例は、クエン酸およびクエン酸ナトリウムである。この緩衝系が中和する能力を超える量のヒドロニウムまたはヒドロキシルイオンが加えられない限り、pH変化はわずかである。
【0021】
pHを4.8乃至6.7に維持するために、適切な緩衝能力を有する緩衝系が使用することが好ましい。解離していない形態と解離している形態(酸および共役塩基)が同じ濃度で存在するため、バッファーの緩衝能力はそのpKa値(解離定数)で最も高くなる。酸を添加すると、共役塩基の濃度が高くなることによって直ちに中和され、アルカリを添加すると、酸の濃度が高くなることによって中和される。この緩衝化は、緩衝系のpKa値からpH約1の範囲内が望ましいpHである場合に最適である。したがって、pKa値が3.8乃至7.7の緩衝系であればすべて、アビプタジルの安定化に好ましく使用される。好ましくは、バッファーのpKaは4.0乃至7.4、好ましくは4.5乃至7.3、さらに好ましくは4.7乃至7.1の範囲であり、特に好ましいのは4.9乃至7.1の範囲のバッファーである。
【0022】
緩衝系は、ギ酸塩(pKa=3.75)、乳酸塩(pKa=3.86)、安息香酸(pKa=4.2)、シュウ酸塩(pKa=4.29)、フマル酸塩(pKa=4.38)、アニリン(pKa=4.63)、酢酸バッファー(pKa=4.76)、クエン酸バッファー(pKa2=4.76,pKa3=6.4)、グルタミン酸塩バッファー(pKa=4.3)、リン酸塩バッファー(pKa=7.20)、コハク酸塩(pKa1=4.93、pKa2=5.62)、ピリジン(pKa=5.23)、フタル酸塩(pKa=5.41)、ヒスチジン(pKa=6.04)、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(pKa=6.15)、マレイン酸(pKa=6.26)、カコジル酸塩(ジメチルサルコシン酸塩、pKa=6.27)、炭酸(pKa=6.35)、ADA(N−(2−アセトアミド)イミノ−アセト酢酸(pKa=6.62)、PIPES(4−ピペラジンビス−(エタンスルホン酸;BIS−TRIS−プロパン(1,3−ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]−プロパン)、pKa=6.80)、エチレンジアミン(pKa=6.85)、ACES2−[(2−アミノ−2−オキソエチル)アミノ]エタンスルホン酸、pKa=6.9)、イミダゾール(pKa=6.95)、MOPS(3−(N−モルフィン)−プロパンスルホン酸、pKa=7.20)、ジエチルマロン酸(pKa=7.2)、TES(2−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノエタンスルホン酸、pKa=7.50)およびHEPES(N−2−ヒドロキシルエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸、pKa=7.55)バッファーまたはpKaが3.8乃至7.7であり、処方物のpHを4.8乃至6.7に維持する他のバッファーからなる群から選択できる。
【0023】
カルボン酸バッファー(例えば酢酸バッファー)およびジカルボン酸バッファー(例えばフマル酸塩、酒石酸塩およびフタル酸塩)およびトリカルボン酸バッファー(例えばクエン酸塩)の群が好ましい。別の群の好ましいバッファーは、無機バッファー(例えば、硫酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、水酸化カルシウムおよびリン酸塩緩衝液)である。
【0024】
好ましいバッファーの別の群は、窒素含有バッファー(例えば、イミダゾール、ジエチレンジアミン、ピペラジン)である。
【0025】
スルホン酸バッファー(例えば、TES、HEPES、ACES、PIPES、[(2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸(TAPS)、4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−プロパンスルホン酸(EPPS)、4−モルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)およびN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES))も好ましい。
【0026】
好ましいバッファーの別の群は、グリシンバッファー(例えば、グリシン、グリシル−グリシン、グリシル−グリシル−グリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシンおよびN−[2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシ−メチル)エチル]グリシン(トリシン))である。
【0027】
アミノ酸バッファー(例えば、グリシン、チロシン、グルタミン酸、グルタミン酸塩、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、バルビツール酸塩、5,5−ジエチルバルビツール酸塩、メチオニン、アルギニン、アラニン、トリプトファン、リジン、セリンおよびヒスチジン)も好ましい。
【0028】
以下のバッファーも好ましい:
【0029】
【表a】

【0030】
2.7乃至8.5、より好ましくは3.8乃至7.7および4.0乃至7,4、最も好ましくは4.5乃至7.3、特に好ましくは5.0乃至7.0である有効なpH範囲を有するバッファーが好ましい。各バッファーについて有効なpH範囲はpKa−1乃至pKa+1で定義することができ、ここで、Kaはバッファーの弱酸のイオン化定数であり、pKa=−logKである。
【0031】
これらのバッファーのカチオンとしては、ナトリウム、リチウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、トリメチルアンモニウムおよびアンモニウムが好ましい。
【0032】
薬学的用途に適したバッファーとして最も好ましいのは、例えば患者に投与するのに適したバッファー、例えば、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、グルタミン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、およびクエン酸塩の各バッファーである。一般的に使用される薬学的バッファーの特に好ましい例は、酢酸塩バッファー、クエン酸塩バッファー、グルタミン酸塩バッファーおよびリン酸塩バッファーである。適切な薬学的バッファーは、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載がある。
【0033】
カルボン酸バッファーの群は同じく最も好ましい。用語「カルボン酸バッファー」は、本明細書中で使用される場合、モノカルボン酸バッファー、ジカルボン酸バッファー、およびトリカルボン酸バッファーを指す。バッファーの組み合わせ、特に本明細書中に述べられるバッファーの組み合わせも本発明に有用である。
【0034】
本実施例に開示されるようないくつかの適切な薬学的バッファーは、クエン酸塩バッファー(好ましくは最終処方物濃度が約20乃至200mM、さらに好ましくは最終濃度が約30乃至120mM)または酢酸塩バッファー(好ましくは最終処方物濃度が約20乃至200mM)またはリン酸塩バッファー(好ましくは最終処方物濃度が約20乃至200mM)である。
【0035】
本発明ではさらに、所望のpHを維持し、バッファー成分として作用する塩化ナトリウムを使用してもよい。0.9%(w/v)塩化ナトリウム溶液中で調製したアビプタジル処方物のpHは、5.3乃至5.8である。
【0036】
従来技術の処方物は、pH2乃至4.5の強い酸性である。この非常に酸性のpHは、血液および哺乳動物の気道細胞のほぼ中性の生理学的pHとはかなり異なっている。本発明のアビプタジル処方物のpHは、好ましくは4.8乃至6.7、さらに好ましくは5.0乃至6.4、最も好ましくは5.5乃至6.3である。したがって、本発明の薬学的処方物は、従来技術で記載されるような非常に酸性の処方物を用いた場合に生じる膜刺激および他の副作用が生じにくい医薬を提供する。
【0037】
安定化剤は、本処方物中に含まれてもよいが、必須ではないことは重要である。しかし、含まれる場合には、本発明の実施に有用な安定化剤は、炭水化物または多価アルコールまたはキレート剤である。本発明の実施で有用な適切な炭水化物または多価アルコールは、薬学的組成物の約1乃至10%(w/v)である。適切なキレート剤は、薬学的処方物の約0.04乃至0.2%である。
【0038】
多価アルコールおよび炭水化物は、共通の化学的特徴(−CHOH−CHOH−)を持ち、ペプチドおよびタンパク質を安定化させる。多価アルコールとしては、例えば、ソルビトール、マンニトール、グリセロール、イノシトール、キシリトール、およびポリプロピレン/エチレングリコールコポリマー、および分子量200、400、1450、3350、4000、6000、および8000の種々のポリエチレングリコール(PEG)のような化合物が挙げられる。これらの分子は、直鎖分子である。炭水化物、例えば、マンノース、リボース、トレハロース、マルトースイノシトール、エリトリトールおよびラクトースは環状分子であり、ケト基またはアルデヒド基を含有していてもよい。これら2種の化合物は、高温で変性し得て、凍結融解または凍結乾燥プロセスで変性し得るペプチドおよびタンパク質を安定化するのに有効であることが示されている。
【0039】
実施の際に使用されるキレート剤は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸塩)およびその誘導体である。キレート剤は、所与の式中の成分が水中に存在する痕跡量の元素(特にミネラル)および望ましくない製品変化(例えば、手触り、臭気、および整合性の問題)をもたらす他の成分と結合するのを防ぐために薬物および化粧品中で使用される安定化剤である。特に、痕跡量の重金属がペプチドおよびタンパク質の自然に生じる加水分解を促進することが示されている。ソルビトールおよびマンニトールは好ましい多価アルコールである。多価アルコールの別の有用な特徴は、本明細書中に記載される凍結乾燥した処方物の等張性を維持することである。
【0040】
アメリカ薬局方(USP)では、複数投薬容器に含有される調製物には静菌性および静真菌性濃度で抗菌薬剤を添加しなければならないことが述べられている。皮下注射針およびシリンジと接触した一部分を抜き取る際または送達のための他の侵襲手段を用いる際に(例えば、ペンインジェクタ)調製物に不注意で入り込んだ微生物が増加することを防ぐために、使用時に抗菌薬剤が十分な濃度で存在しなければならない。抗菌薬剤は、処方物の他の全成分と適合するかどうか評価されるべきであり、この活性は、ある処方物中で有効な特定の薬剤が別の処方物中で効果を失っていないかどうかを処方物として評価するのがよい。特定の薬剤がある処方物中で有効であるが、別の処方物中では有効ではないことを見つけることは珍しいことではない。
【0041】
防腐剤は、一般的な薬学的な意味では、微生物の成長を予防するかまたは阻害する基質であり、微生物によって処方物が汚染されてしまうことを防ぐために薬学的処方物に添加されてもよい。防腐剤の量は多くはないが、ペプチドの最終的な安定性に影響を与えることがあるため、防腐剤の選択は困難である場合がある。
【0042】
本発明を実施するのに使用される防腐剤が0.005乃至1%(w/v)の範囲である場合、各防腐剤の好ましい範囲は、単独または他の薬剤と組み合わせて、ベンジルアルコール(0.2乃至1%)、またはm−クレゾール(0.1乃至0.3%、またはフェノール(0.1乃至0.8%)、またはメチルパラベン(0.05乃至0.25%)およびエチルパラベンまたはプロピルパラベンまたはブチルパラベン(0.005%乃至00.3%)の組み合わせである。パラベンは、p−ヒドロキシ安息香酸の低級アルキルエステルである。
【0043】
各防腐剤の詳細な記載は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、およびPharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,Vol.1,1992,Avis他にある。
【0044】
アビプタジルは、液体処方物の場合にはガラス容器のガラスに吸着する傾向があり、そのために、界面活性剤を加えて薬学的処方物をさらに安定化させることができる。界面活性剤は親水性分解および塩による架橋分離によってタンパク質を変性させることがよくある。比較的低濃度の界面活性剤は、界面活性剤部分とタンパク質の反応部位との強い相互作用のため強力な変性活性を発揮する。しかし、この相互作用をうまく使えば、ペプチドおよびタンパク質を安定化させて界面または表面での変性および吸着を防ぐことができる。ペプチドをさらに安定化する界面活性剤は、場合により、全処方物の約0.001乃至0.3%(w/v)で存在し、ポリソルベート80(すなわち、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート;Tween80)、CHAPS(登録商標)(すなわち、3−[(3−コラミドプロピル(cholamidopropyl))ジメチルアンモニオ]1−プロパンスルホン酸塩)、Brij(登録商標)(例えば、Brij 35(ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル)、ポロキサマーまたは別の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0045】
アビプタジル処方物は実質的に等張性であることが好ましい。そのために、薬学的処方物の等張性を調整するために、選択される等張剤に依存して塩化ナトリウムまたは他の塩を添加することが好ましい場合がある。しかし、これは任意であり、選択される特定の処方物に依存する。
【0046】
可能ならば、他の成分が本発明のペプチド薬学的処方物中に存在してもよい。このようなさらなる成分としては、湿潤剤、乳化剤、充填剤、等張性調整剤、金属イオン、油性ビヒクル、タンパク質(例えばヒト血清アルブミン、ゼラチン)および双性イオン(例えばアミノ酸、例えばベタイン、タウリン、アルギニン、グリシン、リジンおよびヒスチジン)を挙げることができる。このようなさらなる成分は、本発明の薬学的処方物の全体的な安定性に悪影響を与えないことはもちろんである。
【0047】
非経口の薬物および吸入用薬物にとって最も重要であるビヒクルは水である。吸入投与に適切な品質の水は、蒸留または逆浸透によって調製されなければならない。これらの手段のみが、種々の液体、気体および固体の汚染物質を適切に水から分離することができる。注射用水は、本発明の薬学的処方物で使用するための好ましい水性ビヒクルである。
【0048】
容器は、吸入用または注射用の処方物の必須部材であり、全体的に不溶解性であるか、含有する液体にいくらかでも影響を及ぼさない容器はないので(特に液体が水溶性である場合)、一成分であるとみなされてもよい。そのために、吸入用または非経口用薬学的処方物の容器の選択は、容器の組成および溶液の組成、および行われる処理に基づいて考慮されなければならない。バイアルのガラス表面へのペプチドの吸着は、ホウケイ酸ガラス、例えばFIOLAX(登録商標)o.c.−Klarガラス(Schott,Germany)、Wheaton−33(登録商標)低抽出性ホウケイ酸ガラス(Wheaton Glass Co.,USA)またはCorning(登録商標) Pyrex(登録商標) 7740(Corning Inc.,USA)を使用することによって最少にできる。使用可能な他の種類のガラス(例えば、無色ガラス、加水分解性クラスIプラス;DIN ISO 8362による6R(Schott,St.Gallen,Switzerland)は、ASTM(米国材料試験協会)、EP(ヨーロッパ薬局方)、およびUSP(アメリカ薬局方)のI種ホウケイ酸ガラスの基準を満たすと考えられる。例えば、アビプタジルの生物学的および化学的性質は、処方物によって安定化され、FIOLAX(登録商標)o.c.−Klarホウケイ酸ガラスバイアル中で凍結乾燥され、5%のマンニトールおよび0.02%のTween80存在下、アビプタジルの最終濃度は0.033mg/mL乃至2mg/mLである。
【0049】
ガラス製バイアルの栓(例えば、テフロン(商標)コーティングされたゴム栓)20mm、FM259/0濃灰色(Ph.Eur.typeI)(Helvoet Pharma,Alken,Belgium)または赤色注射ゴム栓20mm V9034(Helvoet Pharma,Alken,Belgium)または任意の等価の栓を吸入用または注射用の薬学的処方物のための蓋として使用できる。これらの栓は、処方物のアビプタジルおよび他の成分に適合性がある。
【0050】
上述の薬学的組成物の各成分は当該技術分野で既知であり、Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,Vo1.1,2nd ed.,Avis他.Ed.,Marcel Dekker,New York,N.Y.1992(本明細書に全体を参照して組み込む)に記載される。
【0051】
任意の滅菌プロセスを本発明のペプチド薬学的処方物の開発で使用できる。典型的な滅菌プロセスは、ろ過、蒸気(湿式加熱)、乾式加熱、ガス(例えば、エチレンオキシド、ホルムアルデヒド、二酸化塩素、プロピレンオキシド、β−プロピオラクトン、オゾン、クロロピエリン(chloropierin)、過酢酸臭化メチルなど)、放射露光および無菌ハンドリングが挙げられる。ろ過は、本発明の実施の際に好ましい滅菌方法である。滅菌ろ過は、0.22μmフィルタを通すろ過を含む。ろ過後、溶液を上述のような適切なバイアルに入れる。
【0052】
本発明のアビプタジル処方物を、凍結乾燥(フリーズドライ)してもよい。凍結乾燥した製品は、使用前に水を加えて戻すことができる。
【0053】
本発明の処方物は、好ましくは吸入投与を意図している。他の可能な投与経路としては、筋肉内、静脈内、海綿静脈洞、皮下、皮内、関節内、鞘内、粘膜などが挙げられる。
【0054】
本発明は、以下のステップを含む、アビプタジルを含有する液体の薬学的組成物を製造するためのプロセスおよび方法を記載する。
【0055】
1.薬学的に活性な量のアビプタジルおよび少なくとも1つの安定化剤が存在しない状態で、pH値を4.8乃至6.7に維持できるバッファー系の生成。
【0056】
2.薬学的に活性量のアビプタジルおよび少なくとも1つの安定化剤をこのバッファーに添加。
【0057】
好ましくは、バッファーは、水性またはほとんど水性のバッファーである。用語「ほとんど水性」は、水性バッファーの体積あたり有機溶媒を15%まで、好ましくは10%まで添加可能であることを意味する。適切な有機溶媒は、エタノールおよび/またはイソプロパノールである。さらに、少なくとも1つの安定化剤をアビプタジル含有溶液に添加することが有利であることが分かった。特に有用な安定化剤は、EDTAおよび/またはマンニトールもしくはソルビトールを含む。
【0058】
液体の薬学的組成物は、アビプタジルに加えて、薬理学的に活性な量のシクロ(D−Asp−Pro−D−Val−Leu−D−Trp)および/またはSer−Pro−Lys−Met−Val−Gln−Gly−Ser−Gly−Cys−Phe−Gly−Arg−Lys−Met−Asp−Arg−Ile−Ser−Ser−Ser−Ser−Gly−Leu−Gly−Cys−Lys−Val−Leu−Arg−Arg−Hisを含むことができる。
【0059】
本発明の開示されたバッファーは、少なくとも4週間、好ましくは少なくとも6週間、より好ましくは少なくとも10週間、さらになお好ましくは1年間、特に好ましくは2年間、最も好ましくは3年間、一定のpH値を維持することができる。これらの期間、pH値は、4.8乃至6.7、好ましくは5.0乃至6.4、より好ましくは5.5乃至6.3、最も好ましくは5.7乃至6.1、特に好ましくは5.9乃至6.1に維持される。
【0060】
本発明の液体の薬学的組成物は、特発性肺高血圧、家族性肺高血圧、膠原血管病(例えば、強皮症、紅斑性狼瘡)に関連する肺高血圧、先天性体肺動脈間短絡術(congenital systemic−to−pulmonary shunt)(大きな、小さな、回復しているか、または回復していない)に関連する肺高血圧、門脈圧亢進症に関連する肺高血圧、HIV感染に関連する肺高血圧、薬物(例えば食欲不振)および毒素に関連する肺高血圧、糖原病に関連する肺高血圧、ゴーシェ病に関連する肺高血圧、遺伝性出血性毛細管拡張症に関連する肺高血圧、異常ヘモグロビン症に関連する肺高血圧、骨髄増殖症候群に関連する肺高血圧、肺静脈の閉塞性疾患に関連する肺高血圧、肺毛細血管腫症に関連する肺高血圧、新生児の持続性肺高血圧を含む肺高血圧(PAH)を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0061】
本発明の液体の薬学的組成物は、左側心房または心室の心臓疾患に関連する肺高血圧、左側心臓弁膜の心臓疾患に関連する肺高血圧を含む左心臓疾患に関連する肺高血圧を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0062】
本発明の液体の薬学的組成物は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関連する肺高血圧、間質性肺疾患に関連する肺高血圧、睡眠呼吸障害に関連する肺高血圧、肺胞低換気障害に関連する肺高血圧、高山病に関連する肺高血圧、発達異常に関連する肺高血圧を含む慢性肺疾患および/または低酸素症に関連する肺高血圧を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0063】
本発明の液体の薬学的組成物は、慢性血栓症および/または塞栓症疾患に起因する肺高血圧(例えば、近位肺動脈の血栓塞栓性閉塞、遠位置肺動脈の血栓塞栓性閉塞)、腫瘍、寄生虫、異物に起因する肺塞栓、系内血栓症に関連する肺高血圧を含む慢性血栓症および/または塞栓症疾患に起因する肺高血圧を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0064】
本発明の液体の薬学的組成物は、サルコイドーシスに関連する肺高血圧、ヒスチオサイトーシスXに関連する肺高血圧、リンパ管腫症に関連する肺高血圧、鎌状赤血球病に関連する肺高血圧、アイゼンメンゲル症候群、慢性疲労症候群を含む肺高血圧に関連する雑多の疾患を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0065】
本発明の液体の薬学的組成物は、気管支ぜんそく、関節リウマチ、狼瘡、強皮症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、ヴェーゲナー肉芽腫症、1型糖尿病、橋本甲状腺炎、Grave病、多発性硬化症、ギランバレー症候群、アジソン病、急性散在性脳脊髄炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、重症筋無力症、眼球クローヌス−ミオクローヌス症候群、視神経炎、Ord甲状腺炎、サルコイドーシスを含む自己免疫疾患を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0066】
本発明の液体の薬学的組成物は、急性呼吸促迫症候群および急性肺損傷を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0067】
本発明の液体の薬学的組成物は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0068】
本発明の液体の薬学的組成物は、ハンマンリッチ症候群、特発性肺線維症、閉塞性細気管支炎、過敏性肺炎、リンパ管筋腫症(LAM)、通常型間質性肺炎(UIP)、フォンゲオルク症候群、オスラーウェーバーランデュ症候群を含む間質性肺疾患(ILD)を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0069】
本発明の液体の薬学的組成物は、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含む中枢神経系障害を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0070】
本発明の液体の薬学的組成物は、小細胞肺癌を予防および/または処置するための医薬の製造に適している。
【0071】
本発明の医薬は、吸入投与または注射投与のために優先的に処方化される。本発明によるアビプタジル処方物の投与に適したプロトコルは、以下の実施例6および7に示される。
【0072】
さらに、好ましい可溶性薬学的組成物は滅菌形態で調製される。
【0073】
長期間安定性に関する研究により、開示された液体の薬学的組成物および医薬は、従来の処方物よりも長期間にわたり安定である。
【0074】
本発明を、以下の非限定例を参照して詳細に説明する。
【0075】
本発明の処方物は、一般的には、先に説明した。ここでは本発明による種々の処方物の実施例を用意した。これら実施例は本発明を限定するものではなく、当業者は本特許請求範囲の中で他の処方物を容易に構成することができる。
【0076】
(実施例)
以下の実施例では、異なるアビプタジル処方物の安定性を、アビプタジルの純度の決定およびアビプタジルのアッセイ(定量)をHPLCによって評価する。
【0077】
アビプタジルの主な分解経路はペプチド結合の加水分解である。アッセイ(定量)での主なロスはガラス製バイアルへの付着によるものである。
【0078】
それぞれの実施例では、試験サンプルを基準サンプルと比較して、同じサンプルをゼロ日目に測定した。そして、純度ロス%およびアッセイでのロス%をすべての試験サンプルについて、ゼロ日目の、基準サンプルの純度値または基準サンプルのアッセイ値との差%で表わした。
【0079】
以下のすべての試験された処方物について、貯蔵時間経過後の薬学的組成物の外観は透明無色であった。
【実施例1】
【0080】
アビプタジルの安定性を、pH範囲5乃至7で以下の表1乃至4に示される温度および時間で観察した。
【0081】
150mMクエン酸塩バッファーおよび1mMのEDTA中のペプチドについてpH対純度およびアッセイのプロフィルを表1に示し、150mMの酢酸塩バッファー中のペプチドについて表2に示し、150mMのリン酸塩バッファー中のペプチドについて表3および表4に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
これらの表から、アビプタジルはpH約6で最も安定することが観察できた。図1は、上の表に示す純度ロスのデータからpH約6でのアビプタジルの安定性が向上していることをより明確に示すためにまとめたものである。
【実施例2】
【0087】
本実施例は、クエン酸塩バッファまたはバッファー成分を含まない0.9%塩化ナトリウムを用いたアビプタジルの液体処方物である。塩化ナトリウム溶液のpHは5.3乃至5.8であった。約6のpHを有する溶液は、アビプタジルの安定性を高めることが示された(実施例1を参照)。
【0088】
この処方物の別の重要な特徴は、溶液内のアビプタジルの量である。驚くことに、アッセイでのロス%を測定すると、0.0066%乃至0.2%のアビプタジルを含有する処方物が、0.0066%未満のアビプタジルを含有する処方物よりも安定していることを発見した(表5を参照)。サンプルの純度は、アビプタジル濃度が異なっても顕著な違いは見られなかった。保管寿命はアビプタジル濃度が0.033mg/mLから0.066mg/mLへ増加すると、約3倍に延びた。
【0089】
【表5】

【実施例3】
【0090】
アビプタジルはpH約6で最も安定しており、約0.0066%で最も安定するという発見に基づいて、以下の処方物を開発した。
【0091】
【表A】

【0092】
処方物Bでは、アビプタジルの安定性を高めるために、処方物へマンニトールが加えられている。
【0093】
【表B】

【0094】
【表C】

【0095】
【表D】

【0096】
上記処方物D(0.003%および0.2%のアビプタジルを含む)をラットの肺に気管内投与した。肺または気管の刺激は見られなかった。肺および気管の組織形態学的実験では、このアビプタジル処方物に関連する形態学的変化は見られなかった。
【0097】
0.0033%のアビプタジルを含む上記の処方物の安定性を5℃および25℃で評価した。アビプタジルのアッセイおよび純度をHPLCで決定した。約15%のアッセイでのロスおよび7%の純度ロスは容認しうると判断した。直接測定による薬学的処方物の25℃での保管寿命は、少なくとも27日である(表6参照)。
【0098】
【表6】

【0099】
5℃で貯蔵した場合、直接測定による薬学的処方物の5℃での保管寿命は、少なくとも9ヶ月である(表7参照)。
【0100】
【表7】

【0101】
実施例2で示されるように、アビプタジルの濃度が高いほど安定している。0.0033%の薬物を含む上記の処方物は、5℃で10週間貯蔵後に約4.4%のアッセイでのロスを示した。一方、0.0066%の薬物を含む処方物は、まったくロスがなかった。これらのデータを外挿すると、アビプタジルについて少なくとも2年の保管寿命が予想された。
【0102】
この処方物でクエン酸塩を酢酸塩と置き換えることができる。
【0103】
【表E】

【0104】
この処方物でクエン酸塩をリン酸塩と置き換えることもできる。
【0105】
【表F】

【0106】
【表G】

【実施例4】
【0107】
界面活性剤を添加することにより、ガラス製バイアルの表面にアビプタジルが吸着するのを減らすことができる
【0108】
【表H】

【0109】
【表I】

【実施例5】
【0110】
液体薬学的処方物を凍結乾燥することもできる。凍結乾燥した処方物の保管寿命は25℃で少なくとも1年であった。マンニトールまたはマンノースを用いて最少量のアビプタジルを処方化することができる。
【0111】
【表J】

【実施例6】
【0112】
以下の実施例は、pHが5.3乃至6.0の医薬処方物を臨床患者に吸入投与するための安全で効力のある薬物投薬の臨床例を提供する。
【0113】
(VSD後)
心室中隔欠損症後(VSD後)に関連する肺高血圧を患う患者に100μgのアビプタジルを1回吸入投与した。肺の刺激は見られなかった。この医薬は全身性の副作用もなく、患者のベースライン特性と比較して心拍出量の増加、平均肺動脈血圧の減少からなる肺血管抵抗が21%減少したことを示した。この患者の1日の投薬量は、アビプタジル400μgを各100μgずつの4回投薬に分けた。したがって、この患者の1週間の投薬量はアビプタジル2800μgであった。
【0114】
(IPAH)
特発性肺高血圧(IPAH)を患う患者に100μgのアビプタジルを1回吸入投与した。肺の刺激は見られなかった。この医薬は、全身性の副作用もなく、患者のベースライン特性と比較して心拍出量の増加、平均肺動脈血圧の減少からなる肺血管抵抗が20%減少したことを示した。この患者の1日の投薬量は、アビプタジル400μgを各100μgずつの4回投薬に分けた。したがって、この患者の1週間の投薬量はアビプタジル2800μgであった。
【0115】
(クレスト症候群)
強皮症(クレスト症候群−石灰沈着症;イノー病;食道の筋肉制御機能の消失;手指硬化症;毛細血管拡張症)に関連する肺高血圧を患う患者に100μgのアビプタジルを1回吸入投与した。肺の刺激はみられなかった。この医薬の効力は、全身性の副作用なく、患者のベースライン特性と比較して心拍出量の増加からなる肺血管抵抗が14%減少したことによって示された。この患者の1日の投薬量は、アビプタジル400μgを各100μgずつの4回投薬に分けた。したがって、この患者の1週間の投薬量はアビプタジル2800μgであった。
【0116】
(外因性アレルギー性肺胞炎)
外因性アレルギー性肺胞炎に関連する肺高血圧を患う患者に100μgのアビプタジルを1回吸入投与した。肺の刺激は見られなかった。この医薬の、全身性の副作用もなく、患者のベースライン特性と比較して心拍出量の増加、平均肺動脈血圧の減少からなる肺血管抵抗が21%減少したことを示した。この患者の1日の投薬量は、アビプタジル400μgを各100μgずつの4回投薬に分けた。したがって、この患者の1週間の投薬量はアビプタジル2800μgであった。
【0117】
(慢性閉塞性肺疾患)
慢性閉塞性肺疾患に関連する肺高血圧を患う患者に100μgのアビプタジルを1回吸入投与した。肺の刺激は見られなかった。この医薬は、全身性の副作用もなく、患者のベースライン特性と比較して心拍出量の増加、平均肺動脈血圧の減少からなる肺血管抵抗が20%減少したことを示した。この患者の1日の投薬量は、アビプタジル400μgを各100μgずつの4回投薬に分けた。したがって、この患者の1週間の投薬量はアビプタジル2800μgであった。
【0118】
慢性閉塞性肺疾患に関連する肺高血圧を患う患者に200μgのアビプタジルを1回吸入投与した。肺の刺激は見られなかった。この医薬は、全身性の副作用もなく、患者のベースライン特性と比較して心拍出量の増加、平均肺動脈血圧の減少からなる肺血管抵抗が25%減少したことを示した。この患者の1日の投薬量は、アビプタジル800μgを各200μgずつの4回投薬に分けた。したがって、この患者の1週間の投薬量はアビプタジル5600μgであった。
【実施例7】
【0119】
以下の実施例は、pH値が5.3乃至6.0の医薬処方物を、敗血症、やけど、ガス中毒および虚血に起因する呼吸窮迫症候群のような急性の生命を脅かす状態臨床患者に吸入投与するための安全で効力のある薬物投薬の臨床例を提供する。
【0120】
(急性呼吸促迫症候群)
急性呼吸促迫症候群を患う患者に静脈内注入で以下の投薬量のアビプタジルを投与した:50pmolのアビプタジル/kg体重/時間で12時間。患者の体重が71kg(75kgまで変動)であったので、患者には3,750pmolのアビプタジル/時間を投与した。これは、12時間で150μgのアビプタジルを注入したことになり、1時間あたり12.5μgのアビプタジルを注入したことになる。この患者には全身性の副作用は起こらず、命をとりとめ、集中治療室および病院から退院することができた。
【0121】
(腹膜炎からの敗血症に起因する急性呼吸促迫症候群)
腹膜炎からの敗血症に起因する急性呼吸促迫症候群を患う患者に静脈内注入で以下の投薬量のアビプタジルを投与した:50pmolのアビプタジル/kg体重/時間で12時間。患者の体重が63kg(65kgまで変動)であったので、患者には3,250pmolのアビプタジル/時間を投与した。これは、12時間で130μgのアビプタジルを注入したことになり、1時間あたり10.8μgのアビプタジルを注入したことになる。この患者には全身性の副作用は起こらず、命をとりとめ、リハビリのために集中治療室および病院から出ることができた。
【0122】
安全性が証明されたため、アビプタジルの吸入による投与は、50pmolアビプタジル/kg体重/時間で24時間および36時間まで容易に延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、バッファー溶液のpHに依存するアビプタジルの安定性を示す。図1は、実施例1の試験サンプルのアビプタジルの純度ロス%を、ゼロ日目の基準サンプルの純度値との差%で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約0.001乃至約1.0%(w/v)のアビプタジルと、pHが約4.8乃至約6.7のバッファーとを含む、液体の薬学的処方物。
【請求項2】
実質的に等張性である、
請求項1の液体の薬学的処方物。
【請求項3】
安定化剤として約1%乃至約10%の炭水化物または多価アルコールをさらに含む、
請求項1または2の液体の薬学的処方物。
【請求項4】
防腐剤をさらに含む、
請求項1、2または3の液体の薬学的処方物。
【請求項5】
前記バッファーが、ギ酸塩、乳酸塩、安息香酸、シュウ酸塩、フマル酸塩、アニリン、酢酸塩バッファー、クエン酸塩バッファー、グルタミン酸塩バッファー、リン酸塩バッファー、コハク酸塩、ピリジン、フタル酸塩、ヒスチジン、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、マレイン酸、カコジル酸塩、炭酸、N−(2−アセトアミド)イミノ−アセト酢酸、4−ピペラジンビス−(エタンスルホン酸)、BIS−TRIS−プロパン、エチレンジアミン、2−[(2−アミノ−2−オキソエチル)アミノ]エタンスルホン酸、イミダゾール、3−(N−モルフィン)−プロパンスルホン酸、ジエチルマロン酸、2−[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノエタンスルホン酸、およびN−2−ヒドロキシルエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸からなる群から選択される、
請求項1乃至4のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項6】
前記薬学的処方物が約0.0066%乃至1.0%(w/v)のアビプタジルを含む、
請求項1乃至5のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項7】
前記バッファーが酢酸塩バッファーまたはクエン酸塩バッファーである、
請求項1乃至6のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項8】
前記処方物のpHが5.0乃至6.4の範囲にある、
請求項1乃至7のいずれか一項の液体薬学的処方物。
【請求項9】
前記処方物のpHが5.7乃至6.1の範囲にある、
請求項8の液体の薬学的処方物。
【請求項10】
前記バッファーのpKaが3.8乃至7.7の範囲にある、
請求項1乃至9のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項11】
前記バッファーのpKaが4.5乃至7.3の範囲にある、
請求項10の液体の薬学的処方物。
【請求項12】
前記pHが塩化ナトリウムによって維持され、前記薬学的処方物が約0.0066%乃至1.0%(w/v)のアビプタジルを含む、
請求項1乃至11のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項13】
前記多価アルコールが、ソルビトール、マンニトール、グリセロール、イノシトール、キシリトール、ポリプロピレン/エチレングリコールコポリマー、PEG200、PEG400、PEG1450、PEG3350、PEG4000、PEG6000、およびPEG8000からなる群から選択される、
請求項3の液体の薬学的処方物。
【請求項14】
前記炭水化物が、マンノース、リボース、トレハロース、マルトース、イノシトール、エリトリトールおよびラクトースからなる群から選択される、
請求項3の液体の薬学的処方物。
【請求項15】
前記防腐剤が、ベンジルアルコール、m−クレゾール、フェノールパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンおよびフェノールからなる群から選択される、
請求項4の液体の薬学的処方物。
【請求項16】
前記防腐剤が約0.1%(w/v)乃至約0.3%(w/v)のクレゾールである、
請求項4または15の液体の薬学的処方物。
【請求項17】
前記処方物が界面活性剤をさらに含む、
請求項1乃至16のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項18】
前記界面活性剤が、ポリソルベート80(すなわち、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレインサン塩;Tween80)、CHAPS(登録商標)(すなわち、3−[(3−コラミドプロピル(cholamidopropyl))ジメチルアンモニオ]1−プロパンスルホネート)、Brij(登録商標)(例えば、Brij 35(ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル)、ポロキサマーまたは非イオン性界面活性剤からなる群から選択される、
請求項17の液体の薬学的処方物。
【請求項19】
前記界面活性剤が0.02%(w/v)のポリソルベート80である、
請求項17または18の液体の薬学的処方物。
【請求項20】
前記処方物が薬理活性ペプチドであるシクロ(D−Asp−Pro−D−Val−Leu−D−Trp)および/またはSer−Pro−Lys−Met−Val−Gln−Gly−Ser−Gly−Cys−Phe−Gly−Arg−Lys−Met−Asp−Arg−Ile−Ser−Ser−Ser−Ser−Gly−Leu−Gly−Cys−Lys−Val−Leu−Arg−Arg−Hisをさらに含む、請求項1乃至19のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項21】
凍結乾燥された、請求項1乃至20のいずれか1項の液体の薬学的処方物。
【請求項22】
特発性肺高血圧、家族性肺高血圧、膠原血管病(例えば、強皮症、紅斑性狼瘡)に関連する肺高血圧、先天性体肺動脈間短絡術(congenital systemic−to−pulmonary shunt)(大きな、小さな、回復しているかまたは回復していない)に関連する肺高血圧、門脈圧亢進症に関連する肺高血圧、HIV感染に関連する肺高血圧、薬物(例えば食欲不振)および毒素に関連する肺高血圧、糖原病に関連する肺高血圧、ゴーシェ病に関連する肺高血圧、遺伝性出血性毛細管拡張症に関連する肺高血圧、異常ヘモグロビン症に関連する肺高血圧、骨髄増殖症候群に関連する肺高血圧、肺静脈の閉塞性疾患に関連する肺高血圧、肺毛細血管腫症に関連する肺高血圧、新生児の持続性肺高血圧、左側心房または心室の心臓疾患に関連する肺高血圧、左側心臓弁膜の心臓疾患に関連する肺高血圧、慢性閉塞性肺疾患に関連する肺高血圧、間質性肺疾患に関連する肺高血圧、睡眠呼吸障害に関連する肺高血圧、肺胞低換気障害に関連する肺高血圧、高山病に関連する肺高血圧、発達異常に関連する肺高血圧、慢性血栓症および/または塞栓症疾患に起因する肺高血圧(例えば、近位肺動脈の血栓塞栓性閉塞、遠位置肺動脈の血栓塞栓性閉塞)、腫瘍、寄生虫、異物に起因する肺塞栓、系内血栓症に関連する肺高血圧、サルコイドーシスに関連する肺高血圧、ヒスチオサイトーシスXに関連する肺高血圧、リンパ管腫症に関連する肺高血圧、鎌状赤血球病に関連する肺高血圧、アイゼンメンゲル症候群、慢性疲労症候群、気管支ぜんそく、関節リウマチ、狼瘡、強皮症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、ヴェーゲナー肉芽腫症、1型糖尿病、橋本甲状腺炎、Grave病、多発性硬化症、ギランバレー症候群、アジソン病、急性散在性脳脊髄炎、抗リン脂質抗体症候群、再生不良性貧血、重症筋無力症、眼球クローヌス−ミオクローヌス症候群、視神経炎、Ord甲状腺炎、サルコイドーシス、急性呼吸促迫症候群、急性肺損傷、慢性閉塞性肺疾患、ハンマンリッチ症候群、特発性肺線維症、閉塞性細気管支炎、過敏性肺炎、リンパ管筋腫症(LAM)、通常型間質性肺炎(UIP)、フォンゲオルク症候群、オスラーウェーバーランデュ症候群、パーキンソン病、アルツハイマー病、または小細胞肺癌を予防および/または処置するための医薬を製造するための、先の請求項のいずれか1項の液体または凍結乾燥された薬学的処方物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2008−537542(P2008−537542A)
【公表日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500113(P2008−500113)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002084
【国際公開番号】WO2006/094764
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(507223579)モンドビーオテッヒ ライセンシング オアト アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】MondoBIOTECH Licensing Out AG
【住所又は居所原語表記】Dorfplatz 12, CH−6370 Stans, Switzerland
【Fターム(参考)】