説明

アポトーシス誘導のためのN−アルキルグリシン三量体の同定

ヒト癌細胞の細胞周期を停止させ、かつ癌の治療に有用なアポトーシスを誘導する能力を有するN−アルキルグルシン三量体。前記N−アルキルグリシン三量体とタキソールとの組合せ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の概要)
本発明は、N−アルキルグリシンの三量体のライブラリのスクリーニングから得られた、本明細書中N10−13−10CおよびN13−13−10Cと呼ばれる2種の擬似ペプチドの同定、合成、および精製に関する。これらの化合物は、細胞周期を停止させた後、ヒトの癌細胞にアポトーシスを誘導する能力を有する。
【0002】
(現行技術)
細胞増殖は、細胞外増殖シグナル、細胞サイズ、およびDNAの完全性を一体化する多数のチェックポイントに関与する、順序付けられかつ厳密に規制された過程である。体細胞周期は、DNA合成期(S期)と、単一の細胞が2個の娘細胞に分裂する分裂期とに分けられる。これらの期は、2つのギャップ期(G1およびG2)によって切り離されている。
【0003】
人体の細胞の大部分は、非分裂終末分化状態、すなわちG0期にある。しかし、増殖因子や細胞同士の接触、細胞外基質への付着など、適切な外部からの刺激によって、サイクリン依存性キナーゼ(Cdk)の触媒活性が制御され、したがって複製開始点が形成される。特定のCdkによるpRbのリン酸化は、E2F/DPとの結合を弱め、G1からS期への進行が可能になり(Chellappan,s.P.他、1991)、p15INK4b、p16INK4a、p21Cip1、およびp27KIP1などのCdk阻害剤による負の制御を受ける(Sherr, C.J.およびRoberts, J.M.、1995)。DNA合成が首尾よく終了した後、細胞はG2期に入って有糸分裂に備える。一旦開始したらDNA複製を終了しなければならない。G1制限点は、細胞周期を、増殖因子依存性の初期G1と、後期G1から有糸分裂までの増殖因子依存性の期とに分ける。シグナル伝達経路は、初期G1期細胞が制限点を通過して最終的な細胞分裂をするのか、またはシグナル伝達強度が不十分であるために細胞周期から出てG0期に入るのか、またはアポトーシスに入るのかを決定する。プロアポトーシスシグナルと抗アポトーシスシグナルとの全体的なバランスが、細胞の運命を決定する。
【0004】
腫瘍細胞は、細胞喪失を最小限に抑え、すなわちアポトーシスを抑制し、かつ/または調節解除された増殖を高める恒常的メカニズムを乱す、遺伝的変化をもたらす。ヒト癌細胞の一般的な特徴は、p16の不活性化、サイクリンDの過剰発現、および/またはpRbの不活性化である(Hall, M.およびPeters, G.、1996)。腫瘍細胞および/または内皮細胞などの腫瘍増殖を支える非腫瘍細胞にアポトーシスを誘導することは、癌治療で最も重要な目標である。癌細胞は、アポトーシス機構のいくつかの構成要素における突然変異が原因で、通常はアポトーシスに対して抵抗力がある。
【0005】
腫瘍学で現在使用されている最も広範にわたる抗腫瘍性スペクトルを持つ薬物の中にタキソールがある。タキソールは、微小管を安定化し、チューブリンに戻る解重合を阻害し、微小管動態の動力学的崩壊を引き起こすことによってG2/M期停止を誘導する。タキソールは、遺伝子転写(例えばbax、bak)、サイクリン依存性キナーゼ、c−jun N末端キナーゼ(JNK/SAPK)、およびbcl−2のリン酸化の活性化を誘導する、まだ十分に記述されていないいくつかのメカニズムを通して、アポトーシスを誘導することもできる(Srivastava, R.K他、1999)。タキソールは、癌ならびに健常な細胞にもアポトーシスを誘導するので、深刻な副作用を持つ。
【0006】
(発明の説明)
本発明の結果は、N10−13−10CおよびN13−13−10Cなどの化合物が、細胞周期およびアポトーシスの仕組みを調節することによって機能し、したがってこれらの化合物またはその誘導体は、癌の予防および/または処置薬として、またその他の増殖性疾患の処置薬として、好ましく使用できることを実証している。さらに、同定された化合物は、アポトーシス過程の導入に関与する別の分子標的の研究に、いくつかの手段を提供する。
【0007】
2種の化合物、例えばN−アルキルグリシン三量体のコンビナトリアルライブラリのスクリーニングから得られたN10−13−10CおよびN13−13−10Cは、G1停止を誘導し、アポトーシスを誘導することができた。
【0008】
N10−13−10CおよびN13−13−10C化合物は、ヒト結腸腺癌、ヒトグリア芽細胞腫、慢性骨髄性白血病、ヒト乳癌、および肺癌などの癌を示すヒト癌細胞系の一団に対し、増殖阻害特性を有する。同定された化合物は、フローサイトメトリーおよびアネキシンVアッセイと組み合わせたDNA断片化によって決定されたように、アポトーシスの誘導原であると同定された。アポトーシスは化学療法薬が癌細胞の増殖を阻害する重要な細胞機能である。
【0009】
より詳細には、N10−13−10CおよびN13−13−10Cは、血清飢餓によって、指数関数的に増殖する細胞またはG0/G1期で同調する細胞にG1細胞停止を誘導する。N13−13−10Cによって誘導された細胞周期進行中のG1停止は、pRbおよびp130の過剰リン酸化の阻害に関連していた。さらに、pRb、p107、cycA、およびその活性化パートナーCdk2のE2F依存性タンパク質発現に、著しい減少が観察された。最後に、CKI、p21Cip1、およびp27kip1の過剰発現が示された。p27kip1のレベルは、主にユビキチン−プロテオソーム経路によって制御されると考えられる(Hengst, L.およびReed, S.I.、1996;Shirane, L.他、1999)。特定のプロテアソーム阻害剤が新規な抗癌剤として作用する可能性については、現在徹底的に調査中であり、したがって、p27kip1の蓄積を説明し、かつN10−13−10CおよびN13−13−10Cが働くメカニズムを定義するために、さらなる分析が行われる。p27kip1の発現は、広範な腫瘍スペクトルの診断で、非依存性予後因子であることが報告されている。ヒト腫瘍でのp27kip1発現の減少または欠如は、様々な悪性腫瘍の病原力が高いこと、およびその予後が不十分であることに関連していた(Lloyd, R.V.他、1999;Karter他、2000)。p27kip1の異所性過剰発現は異種移植モデルで腫瘍の発生を誘導できなかったことに関係していた(Chen J.他、1996)。したがって、N10−13−10CおよびN13−13−10Cは癌処置で最も重要な候補である。
【0010】
その他の目標の中で、その他の効果の中でもタキソールの動作との相乗作用を示すことのできる化合物を同定するために、化合物を選択する初期スクリーンを考慮に入れた。選択されたアッセイでは、タキソール効果との相乗作用を示す化合物の混合物を同定することが可能であった。一部の混合物は細胞増殖の阻害剤であることがわかり、またタキソールと併用するとそのような阻害が妨害された。本発明では、細胞増殖を阻害し、血清飢餓によって指数関数的細胞およびG0/G1期で同調した細胞にG1細胞停止を誘導し、かつアポトーシスを誘導することのできる、化合物の同定について記述する。これらの化合物は抗癌剤と見なす好ましい治療プロフィルを有する。
【0011】
細胞周期のG1停止を誘発する化合物は、指数関数的細胞とG0/G1同調細胞との両方で観察され、pRbおよびp130の低リン酸化と関係している。さらに、pRb、p107、cycA、およびその活性化パートナーCdk2の、E2F依存性タンパク質発現の著しい減少が観察される。最後に、p21Cip1およびp27kip1の付随的誘導が検出される。化合物のプロアポトーシス作用は、アネキシンV染色およびDNAの低2倍性によって評価され、サブG1特異的であることが確認された。この化合物の別の特徴は、リン酸化によってbcl−xLを不活性化しないことである。
【0012】
10,648個の化合物を含むペプトイドライブラリのスクリーニングでは、N−アルキルグリシンオリゴマー分子(ペプトイド)の三量体の制御された混合物を、4つの位置的走査フォーマットで使用しかつ構成した。化学的多様性は、位置R1、R2、およびR3を22種の異なる第1級アミンで置換することによって導入した。R1、R2、およびR3に応じて3つのサブグループに分割された66種の制御された混合物は、位置を画定した。このライブラリを、細胞増殖アッセイで、HT29ヒト結腸腺癌細胞によりスクリーニングした。化合物は、単独で、または低用量のタキソール(11nM)と一緒に試験をした。培養から72時間後、細胞生存度をMTTアッセイで測定した。
【0013】
一部の混合物は細胞増殖の阻害剤であることがわかったが、タキソールと併用するとそのような阻害はいくらか妨害された。用量反応曲線を作成し6種の混合物を同定した。4種の異なるアミンがR1の位置にあり、1種のアミンがR2の位置にあり、1種がR3の位置にある。次いで4種の化合物を合成し、符号化命名法により、N4−13−10C、N5−13−10C、N10−13−10C、およびN13−13−10Cと名付けた(N4、N5、N10、およびN13とも省略する)。これらはそのN末端残基が互いに異なっていた。4種の化合物は全て、試験系内の細胞増殖を阻害したが、タキソールは、N10−13−10C(図1.B)およびN13−13−10C(図1.A)の場合のみその化合物の作用を妨げた。N13−13−10Cは、IC50=35μMの最も強力な増殖阻害剤であり、次いでIC50=40μMのN10−13−10C、IC50=100μMのN4−13−10CおよびN5−13−10Cであった。
【0014】
N10−13−10CおよびN13−13−10Cは、それぞれのIC50で連続希釈したタキソールと組み合わせてアッセイを行った場合、これらの化合物の抗増殖作用がタキソール単独の場合に比べて強化されたことが観察された(図1.C)。
【0015】
これらの化合物によって誘導された増殖の阻害を、ヒト結腸腺癌(HT29およびLoVo)、ヒトグリア芽細胞腫(T98g)、慢性骨髄性白血病(K562)、ヒト乳腺癌(MDA.MB 435およびその肺転移性誘導体であるlung2およびlung6)を含めたいくつかの細胞系で評価した。4種の化合物で処置した後72時間で得られた細胞増殖阻害(MTTアッセイ)のIC50値を表1に示す。
【0016】
N10−13−10CおよびN13−13−10Cは、処置後72時間でのフローサイトメトリーDNA分析およびサブG1ピーク検出によって決定されたように、HT29細胞にアポトーシスを誘導することができた。これに対し、サブG1ピークは、N4−13−10CおよびN5−13−10Cで処置した細胞では観察されなかった(図2)。この観察はHT29細胞だけに限定されるものではなかった。N10−13−10CおよびN13−13−10Cは、HT29およびMDA.MB.435 lung2誘導体細胞で最高のアポトーシス(50〜70%)を誘導した(図3.A)。腺癌LoVo細胞、MDA.MB.435、およびそのlung6誘導体は約20〜30%のアポトーシスを示したのに対し、N4−13−10CおよびN5−13−10Cはアポトーシスを示さなかった。
【0017】
HT29細胞を、高用量のN10−13−10CまたはN13−13−10Cで72時間処置し、サブG1ピークをフローサイトメトリーで検出した。図3.Bに示すように、N10−13−10CおよびN13−13−10でHT29を処置した結果、用量依存性のアポトーシスが生じた。
【0018】
N10−13−10CおよびN13−13−10Cのアポトーシスの特徴を検出するために、時間経過分析を実施した(図4.A)。アポトーシスは、すでに48時間後にHT29処置の細胞で著しく、72時間でアッセイを行った最高用量で最大に到達し、N10−13−10Cの場合で20%、N13−13−10Cの場合で約40%であった。さらに、どちらの化合物も単独で、培養から24時間後にG1期の細胞のパーセンテージが上昇したように見えるが、G2/Mの蓄積は時間が経過しても観察されなかった。しかし、低用量のタキソールとの併用では、N−10−13−10CまたはN13−13−10Cで処置した細胞集団の約60%がG2/M期で保持され、タキソール単独の場合と比べても高いパーセンテージであった。これは、タキソールの抗増殖作用に比べ、HT29細胞に対するN13−13−10Cの作用が強化されたことを説明している(図1)。
【0019】
DNA染色の分析は、N13−13−10CまたはN10−13−10Cで処置したHT29細胞に関し、複数の時間パルスで実施した。次いで細胞を、薬物無しで最長72時間、培地に戻した。図4.Bに示すように、アポトーシスの不可逆的誘導を引き起こすには、最短で24時間のN13−13−10Cのパルスが必要であった。N13−13−10Cにより、1時間、3時間、および6時間という短い時間パルスで処置した細胞は、対照細胞と異ならない細胞周期プロフィルを示す。
【0020】
アポトーシスの初期事象は、アネキシンV、すなわちホスファチジルセリンに対して親和性の高いリン脂質結合タンパク質を介してモニタすることのできる、原形質膜の内部小葉から外部小葉へのホスファチジルセリンの転座である。アネキシンV−FITC検出アッセイを実施して、N13−13−10CによりHT29細胞に誘導された初期アポトーシスの発症を確認した。アネキシンV検出の時間経過分析によれば、N13−13−10C(35μM)で処置してから40時間後、初期アポトーシス細胞(IP陰性、アネキシンV陽性)が14%であることが示された。これは、対照細胞に比べて3.5倍の増加であることを表し、タキソール処置をした細胞と類似している(図5)。
【0021】
様々なストレス要因に応答してアポトーシスを活性化するために、JNKが細胞内シグナルを仲介することがすでに報告されているので(Tournier他、2000;Xia他、1995;Minden A.およびKarin,M.、1997:lp,Y.およびDavis,R.J.、1998;Chen他、1996;Johnson他、1996;Verheij他、1996;Park他、1997)、HT29細胞は、N10−13−10CまたはN13−13−10Cで処置されてきた。ウェスタンブロット分析では、JNK−リン酸化特異的抗体と共にブロットをインキュベーションした後に観察されるように、3〜6時間後にJNKが活性化することが明らかになった(図6A)。
【0022】
抗アポトーシスBcl−2タンパク質は、シトクロームcの遊離をミトコンドリアから守り、それによって細胞の生存を保つことが、当技術分野で知られている。一方タキソールは、微小管安定化剤であり、Bcl−xLおよびBcl−2のJNK依存性リン酸化を誘導することが記述されている(Razandi他、2000;Srivastava他、1999)。そのようなリン酸化は、抗アポトーシスBcl−2タンパク質の不活性化を仲介する。N10−13−10CまたはN13−13−10C単独で、あるいはタキソールと併用して処置したHT29細胞において、JNKの活性化が、Bcl−2ファミリーのタンパク質の1種であるBcl−xLのリン酸化に関係するのかを評価するために、経時分析を行った。タキソールで処置したHT29細胞抽出物では、ゆっくりと移行するバンドが検出されたが、これはリン酸化したbcl−xLに対応するものであった。この作用は、N10−13−10Cで処置した細胞では観察されなかった(図6.B)。さらに、タキソールと併用した場合、N10−13−10Cによる処置は、タキソールで誘導されたBcl−xL過剰リン酸化を妨げなかった。これと同じパターンがN13−13−10Cで処置した細胞で観察された(データは図示せず)。Bax、すなわちbclファミリーのプロアポトーシスの一種は、HT29細胞をN10−13−10Cおよび/またはタキソールに曝露した後に増加しなかった。
【0023】
すでに述べたように、N10−13−10CまたはN13−13−10Cで処置した細胞では、24時間後にG0/G1期の細胞のわずかな増加が観察されたが(図4.A)、この作用は、細胞周期の特定のチェックポイントでの細胞停止に起因すると予測される。実験的に、この発見は、同調細胞を持つ細胞モデルで化合物を分析することにより立証された。T98g細胞は、72時間後、MCDB 105培地中の血清飢餓により、G1期で停止した(82%)。10%の血清を再び添加すると、細胞は細胞周期に再び入ることが可能になった。FCS導入から19時間後、細胞の50%を超える量がS期にあり、わずか20%がG1に残った。血清添加時にN10−13−10CまたはN13−13−10Cを培養物に添加すると、S期進入が抑制された(図7.A)。細胞の約40%がG1に残った。結論として、N10−13−10CとN13−13−10Cの両方は、細胞周期DNA分析によって決定されたように、非同調または同調の細胞培養でG1停止を引き起こすことができた。比較すると、cdk2阻害剤であるオロムチンはG1で細胞の80%を保持していた。トポイソメラーゼII型阻害剤エトポシドで処置した細胞は細胞周期のS期で停止した(細胞集団の85%)。タキソールはG2/M停止を誘導するので、その動作はG1/Sチェックポイントと無関係であり、処置から19時間後に細胞周期プロフィルをもたらさない。
【0024】
細胞周期のG1停止を確認するために、本発明者等はBrdU取込みアッセイによってDNA合成を分析した。化合物N4−13−10C、N5−13−10C、N10−13−10C、N13−13−10C、エトポシド、またはオロムチンの連続希釈物について、図7.Aに示すように、同調T98g細胞でアッセイを行った。停止細胞は、血清を単独でまたは試験化合物と共に再び添加することによって、17時間、細胞周期に再進入させ、その後2時間、10μM BrdUと組み合わせた。図7.BおよびCに示すように、オロムチンはBrdU取込みの非常に強力な阻害剤であり(IC50=50μM)、DNA染色により観察されたG1期の82%の細胞と相関している(図7.A)。DNA合成阻害の順位は、N13−13−10C(IC50=150μM)、N10−13−10C(IC50=100μM)、エトポシド(IC50=200μM)の順である。N5−13−10Cはある程度までBrdU取込みを阻害するが(180μMで30%)、N4−13−10Cは阻害しない。
【0025】
細胞周期の進行は、いくつかのメカニズム全体を通してその制御を維持し、その1つでは、網膜芽細胞腫pRbなどのチェックポイントタンパク質が関係する。pRb、p130、およびp107は、いわゆるポケットタンパク質ファミリーを構成するが、結局pRbだけが、G1/Sチェックポイント制御の中心である(Harrington他、1998)。その非リン酸化形態では、pRbは、E2F、すなわちS期進行に必要不可欠な遺伝子の転写を制御する転写因子に結合し、これを抑圧する。分裂促進的刺激の後、pRbは、サイクリンD/cdk4によって部分的にリン酸化し、サイクリンEの発現に十分なE2Fを遊離する。さらに、サイクリンE/cdk2はpRbを完全にリン酸化し、遊離E2Fを放出し、S期へのE2F依存的進行を促進させる。
【0026】
N10−13−10CまたはN13−13−10Cで処置した細胞によって誘導されたG1停止の分析では、pRbのリン酸化状態が注目された。N10−13−10CおよびN13−13−10C HT29処置済み細胞の、pRb発現の時間経過分析は、ウェスタンブロットによって行った。本発明者等は、Ser780でのpRbの特異的cycD1/cdk4リン酸化について分析した(Kitagawa他、1996)。このSer780でのpRbリン酸化は、全体的なpRbレベルに比べ、N13−13−10CでHT29細胞を処置した後に低下しなかった(図8.A)。この結果は、cycD1/cdk4活性が損なわれず、cycE/Cdk2活性がある程度まで阻害されることを示すと考えられる。さらに、pRbレベルは、培養から24時間後、対照の場合よりも化合物で処置した細胞の場合に低下した。
【0027】
同調T98g細胞上のN13−13−10Cおよびタキソールが、ポケットタンパク質、サイクリン、およびCdkのタンパク質発現に及ぼす影響は、G1チェックポイントに関係していた。図8.Aに示すHT29細胞では、T98g細胞をN13−13−10Cで処置することによって、pRb過剰リン酸化が妨げられ、全体的なpRbレベルが低下した(図8.B)。一方、p130も低リン酸化状態のままであるが、全体的なレベルは上昇する。最後にp107レベルのダウンレギュレーションが行われる。cycA、p107、およびpRbなどのE2F制御遺伝子の発現は、ダウンレギュレーションされる。pRbリン酸化の時間経過は、cycE/Cdk2活性の阻害によるG0/G1停止と十分相関している。pRbのダウンレギュレーションはアポトーシスと相関する。
【0028】
3μMまたは30μMのN10−13−10CまたはN13−13−10Cの存在下、cycD、Cdk4、およびpRbタンパク質を含む33Pan Qinaseアッセイを行った。そのようなアッセイでは、pRb低リン酸化の阻害が観察されず、cycD/Cdk4活性がN10−13−10CまたはN13−13−10Cの影響を受けないことが確認された(図8.A)。
【0029】
本発明者等は、cycAタンパク質レベルおよびpRbリン酸化が、N10−13−10CまたはN13−13−10Cで処置した細胞の細胞抽出物で低下することを観察した(図8)。これらの化合物が、Cdk2活性の直接阻害剤であるかどうかを評価するために、Cdk2に関するin vitro キナーゼアッセイを行った。どちらの化合物も、3μMまたは30μMでcycA−Cdk2キナーゼ活性を阻害することはできなかった。
【0030】
タンパク質のリン酸化および細胞周期の進行を促進させるため、サイクリンによる活性化と共にTyr/Thr残基のリン酸化では、Cdkが必要であることが当技術分野で知られている。Cyc/Cdk活性は、P15INK4bやp16INK4a、p21Cip1、p27KIP1などのCKIによって、負に調節される(Sherr, C.J.およびRoberts, J.M.、1995)。本発明者等は、G1/S移行チェックポイントで細胞の進入を制御することが知られているp21Cip1およびp27kip1のレベルを、ウェスタンブロットによって分析した(図8.B)。p27kip1およびp21Cip1はどちらも、アセンブリCdk4−6/CycD複合体の増強剤であると記述されている(LaBaer他、1997)。一方、p27kip1およびp21Cip1は、全てのCdk2複合体の強力な阻害剤であり、1分子のp21Cip1は、これら複合体の活性を完全に阻害するのに十分である(Hengst他、1998;Adkins他、2000)。正常な細胞では、G0期中はp27kip1の量が高いが、TGF□やp53、またはAMPcなどの特定の分裂促進因子によって引き起こされたG1/S期への再進入によって、その量は急速に減少する(Poon、R.Y.他、1995)。p27kip1の強制発現の結果、G1期で細胞停止になる(Polyak, K.他、1994;Toyoshima, H.およびHunter, T.、1994)。ウェスタンブロットによれば、T98g細胞でのN13−13−10Cによる処置の15時間後、p27kip1の誘導がかなりのものであることが明らかになったが、これは、低リン酸化したpRbの検出と並行したものである。
【0031】
p21Cip1の分析は、N13−13−10Cによる処置の17時間後、ピークレベルを示した。p21Cip1およびp27kip1の過剰発現は、N13−13−10Cで24時間処置し、また48時間(図8.C.)処置したHT29細胞でも観察された。p21Cip1は、p53の下流媒介物でもあり(Haapajarvi他、1999)、HT29細胞が変異したp53を含み、T98g細胞はp53の野生型なので;p21Cip1発現の誘導はp53に無関係であることを示している。さらに、p53のレベルは、N13−13−10Cによる処置の後に変化しない。
【0032】
(その他の実施例)
N−アルキルグリシンのライブラリの合成。66種の制御された混合物中、10,648個の化合物のライブラリを、固相中、位置走査フォーマットを使用して合成した。22種の市販されている第1級アミンを集めたものを使用して、このライブラリに所望の化学的多様性を導入した。この合成の詳細は他の箇所で述べる(WO0228885)。簡単に言うと、リンクアミド樹脂(Rapp Polymere、0.7ミリ当量)から開始し、8ステップ合成経路では、Fmoc保護基の初期遊離を行った。次いで、塩化クロロアセチルとのアシル化の後、特定の第1級アミンまたは22種のアミンの等モル混合物を使用して、クロロメチル中間体の対応するアミノ化を行う連続ステップを、必要に応じて実施した。これらの反応の全ては二重に行った。最後に、トリフルオロ酢酸−ジクロロメタン−水の混合物を使用して、生成物を樹脂から引き離し、溶媒を蒸発させ、残留物を凍結乾燥し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)に10mg/mlの濃度で溶解して、スクリーニングにかけた。
【0033】
N13−13−10CおよびN10−13−10Cの合成。これらの化合物は、ポリスチレンリンクアミドAM RAM樹脂を固体支持体として使用して(0.6g、負荷0.7mmol/g、0.42mmol)、10mLのポリプロピンレンシリンジ内で合成した。脱保護:樹脂を膨潤させた後、ピペリジンの20%DMF(ジメチルホルムアミド)溶液5mLを含有する溶液を添加し、この混合物を25℃で30分間撹拌した。樹脂を濾過し、DMF(3×5mL)、iPrOH(3×5mL)、およびDCM(ジクロロメタン)(3×5mL)で洗浄した。アシル化:樹脂を、クロロ酢酸(198mg、2.1mmol)およびN,N'−ジイソプロピルカルボジイミド(2.1mmol)を5mLのDCM−DMF(2:1)に溶かした溶液で処理した。反応混合物を、室温で30分間撹拌し、濾過した。樹脂の液分を除去し、DCM(3×5mL)、iPrOH(3×5mL)、およびDMF(3×5mL)で洗浄した。アミンのカップリング:フェネチルアミン(2.1mmol)およびトリエチルアミン(2.1mmol)を5mlのDMFに溶かした溶液を、樹脂に添加し、その懸濁液を25℃で3時間撹拌した。上澄みを除去し、混合物の液分を除去して、DMF(3×3mL)、iPrOH(3×3mL)、およびCH2Cl2(3×3mL)で洗浄した。第2および第3のアシル化ステップと、アミンのカップリングを、上述のように実施した。これら2種のアミンのカップリングは、N13−13−10Cの場合は4−メトキシフェネチルアミン(2.1mmol)を使用して、またN10−13−10Cの場合は第3のアミノ化ステップでフェネチルアミンを使用して実施した。切断:樹脂を、25℃で30分間、60:40:2(v/v/v)TFA/DCM/H2Oの混合物で処理した。切断混合物を濾過し、合わせた濾液を貯めて、溶媒を減圧下で蒸発させることにより除去した。上記プロセスの全ては二重に実施した。
【0034】
分析および構造データ
分析は、Kromasil 100 C8(15×0.46cm、5μm)カラムを使用して、流量1ml/分の高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によって行った。溶媒Aは、0.07%TFA(トリフルオロ酢酸)を含有するアセトニトリル(CH3CN)からなり、溶媒Bは、H2Oに0.1%のTFAを溶かしたものであった。分析条件は、2分で20%溶媒A、17分で20〜80%、1分で80%溶媒A、流量1ml/分およびλ220nmで設定した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
細胞。HT29およびLoVo(ヒト結腸腺癌)およびMDA.MB.435細胞と、これらの誘導体であるMDA.MB.435Lung2およびMDA.MB.435 Lung6(ヒト乳腺癌)細胞を、ウシ胎児血清(FCS)10%を含有するDMEM−F12培地で培養した。ヒトグリア芽細胞腫T98gおよび慢性骨髄性白血病K562細胞を、10%FCSを含有するRPMI 1640培地で増殖させた。全ての細胞は、その指数増殖期にあるものを使用し、EZ−PCRマイコプラズマ試験キット(Biological Industries)を用いてマイコプラズマが無いかどうか試験をした。
【0038】
細胞アッセイ。HT29ヒト結腸腺癌細胞を用いた細胞増殖アッセイで、コンビナトリアルライブラリをスクリーニングした。化合物は、単独で、または低用量のタキソール(nM)と共に試験をした。培養から3日後、細胞生存度をMTTアッセイ(3−4,5−ジメチル−2−チアゾリル−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド)により測定した。MTTを、細胞培養物中に、1mg/mlの最終濃度で添加し、37℃で4時間インキュベーションした後、15%SDS/DMF(v/v)を用いて細胞溶解を行った。570nmでのMTT−ホルマザンと、630nmでの参照フィルタの分光光度測定により、細胞生存度を定量した。化合物だけに起因する増殖阻害を、タキソールおよび化合物で処置した培養物で観察された阻害と比較した。
【0039】
アネキシンVアッセイ。処理した細胞を、EDTA 0.02%を溶かしたハンクス液(HBSS)により収集し、HBSSで洗浄し、次いで1%BSA(ウシ血清アルブミン)を含有するPBS(リン酸緩衝生理食塩液)で洗浄し、最後に、1%BSAを含有するアネキシンVインキュベーション緩衝液(10mM HEPES 7.4;140mM NaCl;2.5mM CaCl2)に再懸濁した。105個の細胞を、5μlのアネキシン−V−FITC(Bender MedSystems)と共に室温で1時間、暗所でインキュベートした。死細胞を2μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。分析はフローサイトメトリーによって直ちに行った。
【0040】
DNA分析。化合物で処理した浮遊細胞および付着細胞を、トリプシン処理によって収集し、PBSで2回洗浄した。これらの細胞を、氷冷した70%エタノールを用いて−20℃で一晩、透過化処理した。これらの細胞を、PBS中で洗浄し、0.5×106細胞/mlに調節し、20μg/mlのヨウ化プロピジウムおよび2μm/mlのRNase/DNaseフリーで30分間、37℃でインキュベートした。細胞を、4℃で一晩維持し、次いでフローサイトメトリーにより分析した。フローサイトメトリー実験は、Epics XLフローサイトメータ(Coulter Corporation、Hialeah、フロリダ州)を使用して実施した。機器は標準的な構成で設定した。サンプルの励起は、出力15mWの標準的な488nm空冷アルゴンイオンレーザを使用して行った。PIの前方散乱(FSC)、側方散乱(SSC)、および赤色(620nm)蛍光が得られた。光学調節は、10nm蛍光ビーズ(Immunocheck、Epics Division)からの最適化シグナルを基にした。時間は、機器の安定性の管理として使用した。赤色蛍光を、1024モノパラメトリックヒストグラムに投影した。凝集体は、ピーク蛍光シグナルに対してその領域の近くの単細胞をゲート処理することにより、排除した。単一蛍光ヒストグラムに関するDNA分析(Ploidy分析)は、Multicycleソフトウェア(Phoenix Flow Systems、San Diego、Ca)を使用して行った。
【0041】
ウェスタンブロット法。浮遊細胞および付着細胞を収集し、ペレットを、RIPA緩衝液(50mM Tris/HCl 7.4、250mM NaCl、0.5% Igepal CA630、5mM EDTA、1mM PMSF、10μg/mlロイペプチン、50mM NaF、0.1mM Na3VO4)またはデオキシコール酸緩衝液(10mM リン酸緩衝液7.4、0.1mM NaCl、0.5%デオキシコレート、1% Igepal、0.1% SDS、1mM PMSF)に再懸濁した。タンパク質の濃度は、RIPA抽出物に関してはBCAタンパク質アッセイキット(Pierce)で、デオキシコレート抽出物に関してはブラッドフォードアッセイ(BioRad)で決定した。全タンパク質(20〜30μg/レーン)を、SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜(Gellman)に移し、Bcl−xL(Transduction);Bax(Santa Cruz);JNK(Santa Cruz);ホスホ−JNK(Cell Signaling);pRb(Pharmingen);pRb−ホスホSer780(Cell signalling);p130(Santa Cruz);p107(Santa Cruz);Cdk2(Santa Cruz);p27Kip1(Santa Cruz);p21Cip1(Santa Cruz);アクチン(Sigma);またはチューブリン(ICN)に対する抗体でプローブし、ECLシステム(Amercham Pharmacia biotech)で進化させた。
【0042】
BrdUアッセイ。マイクロタイタープレート中、5000細胞/ウェルのT98gグリア芽腫細胞を、MCDB 105培地の血清欠乏状態によって72時間、G1期で停止させた。血清(10%)の再添加により、細胞を、連続希釈した化合物で17時間処理し、その後、10μM BrdUと2時間半一緒にした。BrdUの取込み、すなわちDNAの合成は、製造業者が述べるように、細胞増殖ELISAシステムのバージョン2(AmershamPharmacia biotech)で定量した。
【0043】
Cdk2/CycA−Eキナーゼ活性の試験をするためのキナーゼアッセイ。ELISAプレートを、200μlの遮断溶液(1%BSA、0.02% Tween、および0.02%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で一晩、4℃で遮断した。次いでプレートを、続けて3回、それぞれ5分ずつ、100μlの洗浄溶液(0.02% Tweenおよび0.02%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で洗浄した。次いでプレートを室温で2〜4時間乾燥した。キナーゼアッセイは、ヒストンH1 4μg、30μM ATP、2mM DTT、ATP−P32 0.1μl、800nM GST−CDK2、および800nM GST−サイクリンAを含有して最終体積が60μlになるキナーゼ緩衝液(Hepes 25mM pH7.4 およびMgCl2 10mM)中で行った。アッセイは、チェックされるペプチド混合物を種々の濃度で含み、または含まない状態で実施した。阻害の制御は、反応媒体に800nMのp21を添加して行った。混合物を37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、各混合物50μlをドットブロット装置内に配置したニトロセルロース膜に濾過した。次いでサンプルを、200μlのキナーゼ緩衝液で洗浄し、次いで35μlの10% TCAで洗浄し、最後に2回、100μlの10%TCAの後に100μlのH2Oで洗浄した。このプロセスの後、膜を室温で乾燥した。膜に関連する放射能を「Phosphor-imager(蛍リン光体イメージャ)」で検出した。
【0044】
Cdk4/CycD1キナーゼ活性のアッセイを行うため、バキュロウイルス発現系を用いて組換えGST−融合タンパク質としてSf9昆虫細胞内にCdk4を発現させた。キナーゼアッセイは、33PanQinase活性アッセイ(ProQinase)およびベックマンコールター/Sagianロボットシステムを使用し、96ウェルフラッシュプレート(NEN)で、50μl反応体積中で行った。反応カクテルは、アッセイ緩衝液20ul(50mM Hepes-NaOH pH7.5、3mM MgCl2、3μM MnCl2、3μM オルトバナジン酸Na、1mM DTT、0.1μM (33P)-dATP);pRbタンパク質1μg;酵素100ng;および試験化合物の10%DMSO溶液5μlであった。この反応カクテルを、30℃で80分間インキュベートした。反応を、50μlの0.2%(v/v)H3PO4で停止させ、プレートを吸引し、0.9%(w/v)NaClで2回洗浄した。33Pの取込みは、マイクロプレートシンチレーションカウンタ(Microbeta、Wallac)で決定した。
【0045】
図の説明
図1で、化合物N10−13−10C、N13−13−10C、N4−13−10C、およびN5−13−10Cは、HT29増殖を阻害する。タキソールは、N10−13−10CおよびN13−13−10Cの作用を妨げる。(A、B)HT29細胞を、タキソール(11nM)と共に、またはタキソール無しで、いくつかの濃度のペプトイドで増殖させた。MTTアッセイを処理から72時間後に行った。増殖の阻害は、対照細胞の増殖と比較したN4−13−10CおよびN13−13−10C(A.)、N5−13−10CおよびN10−13−10C(B.)で示されている。IC50値はペプトイドごとに指定される。N10−13−10CおよびN13−13−10Cは、HPLCによる精製ペプトイドであり、大部分の活性画分に相当する。N4−13−10CおよびN5−13−10CペプトイドはHPLCで精製しなかった。(C)HT29細胞を、タキソール単独あるいはIC50値のN13−13−10C(35μM)またはN10−13−10C(40μM)と組み合わせて連続希釈したもので処理した。増殖を、処理から72時間後にMTTアッセイで評価した。100%の任意の値を未処理の培養物の濃度測定速度に割り当て、その他全ての値をその基準に対して示した。これらの値は6回(n=6)繰り返した平均である。
【0046】
図2は、N10−13−10CおよびN13−13−10Cがプロアポトーシスペプトイドであり、一方、N4−13−10CおよびN5−13−10Cがそうではない状態を示す図である。細胞周期プロフィルをDNA染色によって分析した。N4−13−10C(100μM)、N5−13−10C(100μM)、N10−13−10C(40μM)、N13−13−10C(35μM)、タキソール(11nM)、または対照としてDMSOの存在下、HT29細胞を72時間増殖させた。G0/G1、S、G2/M、またはサブG1ピークでの細胞の画分を特定した。
【0047】
図3は、N10−13−10CおよびN13−13−10Cの特異的なプロアポトーシス作用を示す図である。(A)表1に明記したIC50値でのN10−13−10CまたはN13−13−10Cで処理した72時間後の、HT29、LoVo、MDA.MB.435、およびその肺転移性誘導体lung2およびlung6を含んだいくつかの細胞系に関するサブG1ピーク分析である。(B)それぞれ1、5、10、20、30、および35、または40μMで、N10−13−10CまたはN13−13−10CによりHT29細胞を処理した72時間後の、サブG1ピークの用量反応分析。両方において、浮遊細胞および付着細胞を収集し、固定し、ヨウ化プロピジウムで染色し、DNA含量をフローサイトメトリーにより評価した。低2倍体DNA含量、すなわちサブG1ピークを有する細胞の画分を示す。
【0048】
図4(A)は、HT29細胞をN10−13−10C(40μM)、N13−13−10C(35μM)、および/またはタキソール(11nM)で24時間、48時間、および72時間処理した後の、細胞周期プロフィルの時間経過分析を示す図である。サブG1(濃青色)、G0/G1(赤色)、S(黄色)、G2/M(青色)DNA含量を有する細胞の画分を、全細胞集団の%として示す。図4(B)は、N13−13−10Cパルス実験を示す図である。HT29細胞を、35μMのN13−13−10Cで1、3、6、24、48、または72時間、過渡的に処理し、最長72時間で、生成物無しで培地に戻した。DNA染色をフローサイトメトリーによって分析した。
【0049】
図5は、初期アポトーシスの検出を示す図である。DMSO(右パネル)、N13−13−10C、35μM(中央パネル)、またはタキソール、11nM(左パネル)で処理してから40時間後のアネキシンVアッセイである。HT29処理済み細胞を、アネキシンV−FITCおよびPIで染色し、フローサイトメトリーにかけた。アネキシンV陽性細胞(縦軸)およびPI陽性細胞(横軸、対数値)の蛍光ドットブロットを示す。集団のパーセンテージとして表した細胞分布を示す。初期アポトーシス細胞は第1象限、Q1(AnV+/IP−);死細胞はQ2(AnV+/IP+);生細胞はQ3(AnV−/IP−);壊死細胞はQ4(AnV−/IP+)にある。
【0050】
図6(A)は、JNKが、N13−13−10Cで処理した後に活性化する状態を示す。HT29細胞を、N13−13−10C(35μM)で1、3、6、および24時間処理し、収集し、免疫ブロットして、SAP/JNK MAPキナーゼの活性化を評価した。ウェスタンブロットは、最初にJNK蛍リン光体特異的抗体でプローブし、ストリップし、pan−JNK抗体およびアクチンで再びプローブして、全タンパク質レベルを標準化した。JNKのリン酸化は、N13−13−10Cで処理してから3〜6時間後に観察された。図6(B)は、Bcl−xLが、N10−13−10Cでの処置後に、リン酸化によって翻訳後修飾されない状態を示す。HT29細胞を、N10−13−10C(40μM)、タキソール(11nM)、またはこれら両方の組合せで3、6、および24時間処理した。浮遊細胞および付着細胞からの抽出物を、Bcl−xL、Bax、およびアクチンに対して免疫ブロットして、全タンパク質負荷を標準化した。
【0051】
図7は、N10−13−10CおよびN13−13−10CがG1細胞周期停止を誘導するが、N4−13−10CおよびN5−13−10Cは誘導しない状態を示す。(A)T98g細胞を同調させ、FCS単独、あるいはN10−13−10C(100μM)、N13−13−10C(100μM)、オロムチン(100μM)、エトポシド(5μM)、またはタキソール(30nM)と組み合わせて19時間、再初期化した。細胞周期プロフィルを、ヨウ化プロピジウムDNA染色によって評価し、フローサイトメトリーにより分析した。G1、S、G2/M DNA含量を有する細胞の画分を、全細胞集団の%として示す。(BおよびC)同調させたT98g細胞を、FCS単独、あるいは連続希釈したN4−13−10C、N5−13−10C、N10−13−10C、N13−13−10C、オロムチン、またはエトポシドと組み合わせて19時間、再初期化し、最後の2時間でBrdUにより標識した。BrdUの取込みを、抗BrdU抗体を使用するELISAによって評価した。100%の任意の値を、未処理の培養物によるDNA合成の濃度測定測定速度に割り当て、その他の全ての値は、その基準に対して示した。これらの値は3回(n=3)繰り返した平均である。
【0052】
図8は、G0/G1チェックポイントに含まれるタンパク質の発現を示す図である。(A)HT29細胞を、N10−13−10C(40μM)またはN13−13−10C(35μM)で1、3、6、および24時間処理し、収集し、免疫ブロットして、全pRbレベル、またはpRb−Ser780(PbRb)でのCdk4特異的リン酸化を評価した。ウェスタンブロットは、最初にpRb−Ser780リン酸化特異的抗体でプローブし、ストリップし、pan-pRb抗体およびチューブリンで再びプローブして、全タンパク質レベルを標準化した。(B)T98g細胞を、血清飢餓により同調させ、10%FCSおよびDMSO(C)、N13−13−10C(100μM)またはタキソール(30nM)で、15、17、24、または29時間再初期化した。全タンパク質抽出物のウェスタンブロットは、p130、pRb、p107、Cdk2、cycA、p27、p21、およびアクチンに対する抗体でプローブした。非リン酸化、低リン酸化、ならびに過剰リン酸化したpRbが検出される(矢印)。(C)N13−13−10C(40μM)、または対照としてDMSOで、24時間および48時間処理したHT29細胞である。免疫ブロットは、Cdk2、cycA、p21、p27、およびアクチンに対する抗体で染色した。
【0053】
表1で、N10−13−10CおよびN13−13−10Cは、HT29、LoVo、K562、T98g、MDA.MB.435、およびその肺転移性誘導体lung2およびlung6を含んだヒト癌細胞系の一団に対し、増殖阻害性を有する状態を示す。細胞系ごとに処理後72時間でMTTアッセイを行うことにより、N10−13−10C、N13−13−10C、N4−13−10C、およびN5−13−10CのIC50を決定した(n.d.と定められていない限り)。
【0054】
(引用文献)
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】化合物N10−13−10C、N13−13−10C、N4−13−10C、およびN5−13−10Cは、HT29増殖を阻害する。
【図2】N10−13−10CおよびN13−13−10Cがプロアポトーシスペプトイドであり、一方、N4−13−10CおよびN5−13−10Cがそうではない状態を示す図である。
【図3】N10−13−10CおよびN13−13−10Cの特異的なプロアポトーシス作用を示す図である。
【図4】(A)は、HT29細胞をN10−13−10C(40μM)、N13−13−10C(35μM)、および/またはタキソール(11nM)で24時間、48時間、および72時間処理した後の、細胞周期プロフィルの時間経過分析を示す図であり、(B)は、N13−13−10Cパルス実験を示す図である。
【図5】初期アポトーシスの検出を示す図である。
【図6】(A)は、JNKが、N13−13−10Cで処理した後に活性化する状態を示し、(B)は、Bcl−xLが、N10−13−10Cでの処置後に、リン酸化によって翻訳後修飾されない状態を示す。
【図7】N10−13−10CおよびN13−13−10CがG1細胞周期停止を誘導するが、N4−13−10CおよびN5−13−10Cは誘導しない状態を示す。
【図8】G0/G1チェックポイントに含まれるタンパク質の発現を示す図である。
【図9】表1は、N10−13−10CおよびN13−13−10Cは、HT29、LoVo、K562、T98g、MDA.MB.435、およびその肺転移性誘導体lung2およびlung6を含んだヒト癌細胞系の一団に対し、増殖阻害性を有する状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タキソールと式Iの化合物とを含む、医薬品組成物
【化1】

(式中、R1は、HまたはOR’であり、
2は、H、R”であり、
3は、H、R”であり、
4は、H、R”、OR’であり、
R’は、C1〜C6アルキル残基であり、
R”は、メチル、エチル、ブチルである)。
【請求項2】
1はHであり、R2はOR’であり、R3はHであり、OR’はパラ位にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1はOR’であり、R2はOR’であり、R4はHであり、OR’はパラ位にある、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
4はHである、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
アポトーシス誘導用の薬物を調製するための、請求項1から4のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項6】
過剰増殖性疾患治療用の薬物を調製するための、請求項1から4のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項7】
化合物を同時にまたは順次施用する、請求項1から6のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項8】
タキソールを含む第1のパッケージと式Iの化合物を含む第2のパッケージとを含む部品の医薬品キット。
【請求項9】
癌治療の方法であって、
タキソールで第1の治療を行うステップと、
前記癌細胞にアポトーシスを誘導する請求項1から5のいずれかに記載の化合物で、患者に第2の治療を行うステップと
を含み、前記第1および第2の治療を、任意の順序でまたは同時に行う方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2007−524587(P2007−524587A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505059(P2006−505059)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003749
【国際公開番号】WO2004/092204
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】