説明

アポトーシス調節剤のスクリーニング方法

【課題】アポトーシスを制御する方法およびアポトーシスを制御する薬剤のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】本発明はPAL31およびそのホモログを利用したアポトーシスを制御する薬剤のスクリーニング方法を提供する。本発明者はPAL31がアポトーシスから細胞を保護する作用を有することを見出した。PAL31の過剰発現によりUVまたはエトポシドにより誘導されたアポトーシスは抑制された。PAL31はカスパーゼ3の基質であり、これにより切断され、切断産物はアポトーシスを阻害できず、PAL31の抗アポトーシス活性を阻害する。従って、PAL31の発現レベルを亢進またはPAL31の分解を抑制する化合物は、アポトーシスを抑制するための薬剤となり、PAL31の発現レベルを低下またはPAL31の活性を阻害する化合物は、アポトーシスを促進するための薬剤となる。本発明のスクリーニングにより得れる化合物は、アポトーシスが関与する様々な疾患に対する医薬としての利用が期待される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はアポトーシスを制御する方法およびアポトーシスを制御する薬剤のスクリーニングに関する。
【0002】
【従来の技術】
プログラムされた細胞死であるアポトーシスは、胚発生、免疫系の発生、および組織のホメオスタシスの維持を含め、多くの生物過程で重要な役割を果たしている。アポトーシスによる細胞死は、細胞および核の縮小、膜での泡状突起の出現、核クロマチンの凝縮、およびDNA断片化という特徴を持つ(Reed, J. C. (2000) Am J Pathol 157, 1415-1430 (非特許文献1))。カスパーゼは、多様な細胞内蛋白質を切断し、その活性または機能を修飾することによって、アポトーシスの実行に重要な役割を果たしている。執行蛋白質(executioner)であるカスパーゼは、特定の細胞内蛋白質、すなわち死の基質(death substrates)を特異的に切断することによって、アポトーシス表現型を特徴づける形態的な変化を制御している(Chang, H. Y. and X. Yang (2000) Microbiol Mol Biol Rev 64, 821-846 (非特許文献2))。
【0003】
哺乳動物では、ミトコンドリア依存性および非依存性の細胞死経路が、カスパーゼ活性を調節していることが報告されている。ミトコンドリア依存性細胞死経路では、低酸素、UV照射、および化学療法薬のような多様な細胞外ストレスによって、ミトコンドリアから細胞質へのシトクロームc放出が誘導される(Green, D. R. and J. C. Reed (1998) Science 281, 1309-1312 (非特許文献3))。シトクロームc、アポトーシス促進因子 (apoptosis promoting factor)-1、およびdATP(またはATP)は、プロカスパーゼ9と複合体を形成してこれを活性化し、それが下流のエフェクターカスパーゼを切断して活性化する(Li, P. et al. (1997) Cell 91: 479-489 (非特許文献4))。ミトコンドリアのシトクロームc放出は、アポトーシス促進および抗アポトーシス作用を持つBcl-2ファミリー蛋白質によって調節されており、これらの蛋白質はミトコンドリア外膜の透過性上昇(permeabilization)を誘導または防止する。Bcl-2は種々のアポトーシス促進性刺激の存在下で、ミトコンドリアからのシトクロームcの放出を阻害する(Yang, Y. L. and X. M. Li (2000) Cell Res 10, 169-177 (非特許文献5))。また、Bcl-xLがApaf-1に結合し、それによってApaf-1によるカスパーゼ9の動員が妨害されることが示された。また、Bcl-2はアポトーシス促進蛋白質であるBaxとヘテロダイマーを形成し、それによって、ミトコンドリア膜で細胞傷害性の孔を形成するために必要な構造変化がBaxで起こることを防止する。さらにBcl-2は、アポトーシス促進蛋白質BADをリン酸化および不活化する蛋白質キナーゼであるRaf-1と結合する(Reed, J. C. (2000) Am J Pathol 157, 1415-1430 (非特許文献1))。
【0004】
Ku70は、Ku70とKu80のヘテロダイマーからなるKu蛋白質の70 kDaサブユニットであり(Walker, J. R. et al. (2001) Nature 412, 607-614 (非特許文献6))、サイトゾルと核の両方に局在している(Fewell, J. W. and E. L. Kuff (1996) J Cell Sci 109, 1937-1946 (非特許文献7))。Kuは哺乳動物細胞で広汎に発現され、DNA二重鎖切断の修復に重要な役割を果たしている(Khanna, K. K. and S. P. Jackson (2001) Nat Genet 27, 247-254 (非特許文献8); Walker, J. R. et al. (2001) Nature 412, 607-614 (非特許文献6); Fewell, J. W. and E. L. Kuff (1996) J Cell Sci 109, 1937-1946 (非特許文献7))。
【0005】
さらに、ミトコンドリア非依存性の細胞死経路が存在するが、これは細胞表面で発現される死の受容体を、上流のイニシエーターカスパーゼであるカスパーゼ8に結びつけるものである(Muzio, M. et al. (1996) Cell 85: 817-827 (非特許文献9))。適当なリガンド[例えば、Fasリガンドまたは腫瘍壊死因子(TNF)]が死の受容体に結合すると、Fas関連死ドメイン(Fas-associated death domain; FADD)およびTNF受容体関連死ドメイン(TNF receptor-associated death domain)のようなアダプター分子が動員され、これがプロカスパーゼ8分子に結合する。その近傍でプロカスパーゼ8分子は互いに切断して活性化される。受容体を介したこの過程によってカスパーゼ8が活性化されると、これがカスパーゼ3,6,および7のような下流のエフェクターカスパーゼを切断および活性化する。もともとはバキュロウイルスにおいてウイルス感染に対する昆虫細胞のアポトーシス応答を阻害するファミリー蛋白質として同定されたアポトーシス阻害蛋白質(inhibitor of apoptosis proteins; IAP)は、ミトコンドリア依存性および非依存性のアポトーシスの両方を阻害する。これらの蛋白質はBcl-2ファミリー蛋白質とは構造的に異なっており、2つのN末端リピート(バキュロウイルスIAPリピート、BIR)およびC末端リングフィンガードメイン(C-terminal Ring finger domain; Yang, Y. L. and X. M. Li (2000) Cell Res 10, 169-177 (非特許文献5))を持つ。サバイビン(survivin; Tamm, I. et al. (1998) Cancer Res 58, 5315-5320 (非特許文献10))、XIAP (Deveraux, Q. L. et al. (1997) Nature 388, 300-304 (非特許文献11))、NAIP (Seidl, R. et al. (1999) J Neural Transm Suppl 57, 283-291 (非特許文献12))および他を含む幾つかのIAPが記述されている。IAPファミリー蛋白質の抗アポトーシス作用は、エフェクターカスパーゼに直接結合してこれを阻害することによると考えられる。
【0006】
ところでPAL31(Prolifelation-Associated Leucine Rich Protein, MW 31 KDa)は胎児ラットの脳から単離されたユビキタスに発現される蛋白質である。この蛋白質は272のアミノ酸を含み、N末端にはロイシンに富むリピート(LRR)のタンデム構造、C末端には高度の酸性の領域と推定される核局在化シグナル(NLS)を含んでいる(Mutai, H. et al. (2000) Biochem. Biophys. Res. Commun. 274,427-433 (非特許文献13))。PAL31は核および細胞質の両方で同定されている(Mutai, H. et al. (2000)Biochem. Biophys. Res. Commun. 274,427-433 (非特許文献13); Sun, W. et al. (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 280, 1048-1054 (非特許文献14); Oda, M. et al. (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 287, 721-726 (非特許文献15))。マウスPAL31はラットPAL31と98.9%の同一性をもち、種間でも高く保存されている。ヒトのPAL31ホモログはAPRIL (SSP29, または PHAPI2a とも呼ばれる) である。
【0007】
細胞を有糸分裂促進剤(ヒツジプロラクチン (PRL)、組み換えラット胎盤ラクトゲン-I (PL-1) およびヒトIL-3)で処理すると、PRL依存性細胞株Nb2、およびIL-3依存性細胞株BaF3において、PAL31 mRNAの発現が用量依存的に上昇する。PAL31の発現は後期G1およびS期に特異的であり、S期に核に蓄積する。Nb2細胞へのPAL31のアンチセンスオリゴヌクレオチドの導入は、この細胞のG1期の細胞の割合を上昇させ、細胞増殖を阻害する。またPAL31のトランスフェクションはS期の開始を促進することによって細胞増殖が加速する(Weiyoung, S. et al. (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 280: 1048-1054 (非特許文献16))。
【0008】
【非特許文献1】
Reed, J. C. (2000) Am J Pathol 157, 1415-1430
【非特許文献2】
Chang, H. Y. and X. Yang (2000) Microbiol Mol Biol Rev 64, 821-846
【非特許文献3】
Green, D. R. and J. C. Reed (1998) Science 281, 1309-1312
【非特許文献4】
Li, P. et al. (1997) Cell 91: 479-489
【非特許文献5】
Yang, Y. L. and X. M. Li (2000) Cell Res 10, 169-177
【非特許文献6】
Walker, J. R. et al. (2001) Nature 412, 607-614
【非特許文献7】
Fewell, J. W. and E. L. Kuff (1996) J Cell Sci 109, 1937-1946
【非特許文献8】
Khanna, K. K. and S. P. Jackson (2001) Nat Genet 27, 247-254
【非特許文献9】
Muzio, M. et al. (1996) Cell 85: 817-827
【非特許文献10】
Tamm, I. et al. (1998) Cancer Res 58, 5315-5320
【非特許文献11】
Deveraux, Q. L. et al. (1997) Nature 388, 300-304
【非特許文献12】
Seidl, R. et al. (1999) J Neural Transm Suppl 57, 283-291
【非特許文献13】
Mutai, H. et al. (2000) Biochem. Biophys. Res. Commun. 274,427-433
【非特許文献14】
Sun, W. et al. (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 280, 1048-1054
【非特許文献15】
Oda, M. et al. (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 287, 721-726
【非特許文献16】
Weiyoung, S. et al. (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 280: 1048-1054
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アポトーシスを制御する方法およびアポトーシスを制御する薬剤のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、PAL31の発現を制御可能な発現系を用いてPAL31の機能解析を行った。Tet-off発現ベクターpTre2にFLAG融合PAL31蛋白質をコードするDNAを組み込み、細胞株Rat1にトランスフエクションして、PAL31の発現がテトラサイクリン依存的に調節できる細胞株であるClone A34とClone B27を作製した。PAL31を強制発現した細胞ではS期へ進入する細胞が1.5倍に増え、細胞増殖も速くなったことから、PAL31は細胞増殖シグナル、特にG1/S期への進入を促進する因子であることが支持された。
【0011】
Clone A34とClone B27を、0〜2μg/ml のテトラサイクリンと72時間インキュベートした後、それぞれを抗ガン剤etoposideで24時間処理し、アポトーシスをHoechst33258を用いた蛍光染色により観察した。その結果、アポトーシスに特徴的な核の断片化およびアポトーシス小体の形成はPAL31の発現により阻害されることが確認された。スライド1枚あたり400個の細胞を数えた結果、PAL31を発現するTet-off Rat1細胞におけるアポトーシスがPAL31の発現量依存的に減少した。またNb2細胞にアンチセンスPAL31をトランスフエクションさせ、48時間後、PIで染色し、フローサイトメーターにより測定したところ、DNAの含量の低下したアポトーシスの細胞が認められた。以上の結果から、PAL31はアポトーシスを抑制する遺伝子であることが判明した。
【0012】
多くのアポトーシス誘導系において、ミトコンドリアからシトクロームcが放出される。シトクロームcの抗体を用い、ウエスタンブロッティング法を用いて調べた結果、PAL31を過剰発現しても、ミトコンドリアからのシトクロームcの放出は阻害されなかったことから、PAL31はこの過程を抑制していないことが確認された。このことから、PAL31はミトコンドリア非依存性の経路でアポトーシスを阻害するはずであり、これはBcl-2ファミリー蛋白質やKu70とは異なっている(Reed, J. C. (2000) Am J Pathol 157, 1415-1430)。アポトーシスの重要な媒体であるカスパーゼの活性を測定した結果、PAL31はカスパーゼの活性を抑制することが判明した。カスパーゼはアポトーシスが起こる際に細胞内で活性化されるシステインプロテアーゼであり、様々な細胞死の刺激によって活性化する。PAL31はカスパーゼの活性を阻害し、各種の細胞死を抑制することから、細胞死実行経路の主要な部分にPAL31が深く関与することが明らかとなった。
【0013】
ところで、分子量31 KDaのPAL31は、Rat1細胞において、etoposideにより引き起こされたアポトーシスでは、19 KDaの断片が生じた。アポトーシスを引き起こす刺激によりカスパーゼのカスケードが活性化され、さまざまな細胞内タンパク質が分解される。PAL31は、カスパーゼ3により切断されるDXXDのアミノ酸配列をもつことから、カスパーゼ3により切断される可能性があると考えた。その可能性を検討するため、GSTPAL31の融合タンパクを精製し、in vitro でカスパーゼ3により切断されるかどうかを調べた。その結果、58 KDaのGSTPAL31はカスパーゼ3により切断され、46 KDaの断片を生じた。GSTは27 KDaのタンパクであり、in vivoとin vitroの結果は良く一致したことから、PAL31は、カスパーゼ3により切断されることが明らかとなった。カスパーゼ3切断部位のDXXDモチーフD176GVD179が、PAL31蛋白質のC末端の酸性領域の直前に存在することは興味深い。PAL31のNLSはC末端に存在するので、アポトーシス誘導時のカスパーゼ3によるPAL31の切断によって2つの断片、すなわちサイトゾルでのみ発現されるLRR核外移行シグナルを持つN末端切断産物、およびNLSの助けによって核内に入るC末端断片が生成する。PAL31 N末端断片については、Flagタグ付きPAL311-179を一過的に発現させても、アポトーシスの促進も阻害も検出されなかった。また、Flagタグ付きPAL31180-272を一過的に発現したところ、細胞死が誘導された。したがって、PAL31のC末端断片は、PAL31のドミナントネガティブ型として働き、PAL31のアンチセンスオリゴヌクレオチドのようにG1停止およびアポトーシスを引き起こすと考えられる。
【0014】
また、カスパーゼの阻害剤であるZ-VADがインビボでPAL31のダウンレギュレーションを完全に阻害しなかったことは、PAL31の分解には他の因子が関与していることを示唆する。興味深いことに、アポトーシスにおいて、サイトゾルにおけるPAL31レベルが低下するが、核のPAL31レベルは一定であり、これはPAL31破壊因子がサイトゾルに存在することを示唆する。19 kDaのN末端切断産物および31 kDaの本来のPAL31は両方とも、エトポシドに誘導されるRat1細胞アポトーシスにおいて、用量依存的に蛋白質分解を受ける。したがって、カスパーゼ以外に、サイトゾルに他のPAL31破壊因子(群)が存在する。カスパーゼ阻害因子PAL31は、アポトーシスにおいて蛋白質分解を受け、それによってさらなるカスパーゼが活性化され、最終的には不可逆的細胞死に結びつくような正のフィードバックループが作られる。カルパイン、カテプシンD、および20Sプロテオソームを含むいくつかのプロテアーゼが、アポトーシスの過程で活性化されることが示されている(Wyllie, A. H. (1995) Curr Opin Genet Dev 5, 97-104)。これらのプロテオソームに対する阻害剤が、PAL31の分解を抑制する可能性がある。
【0015】
以上のように、PAL31を発現するTet-off Rat1細胞におけるアポトーシスがPAL31の発現量依存的に減少すること、アンチセンスPAL31がアポトーシスを起こすこと、またPAL31はカスパーゼの活性を抑制することから、PAL31は抗アポトーシス分子として機能していることが明らかとなった。アポトーシスの制御不全は多くのヒト疾患の病因に関与している。アポトーシスの実行因子カスパーゼの阻害タンパクであるPAL31はこれらの疾患の治療薬開発の標的となる。またPAL31はリンパ腫細胞での発現が高いことから、発癌機構との関連性も考えられる。PAL31は、今後の細胞周期研究および癌研究の新たな標的分子になる。
【0016】
すなわち本発明は、アポトーシスを制御する方法およびアポトーシスを制御する薬剤のスクリーニング方法に関し、より具体的には、
(1)配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の発現量を細胞において上昇または低下させる工程を含む、それぞれアポトーシスを抑制または促進する方法、
(2)配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の活性を阻害する工程を含む、アポトーシスを促進する方法、
(3)アポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の内因的発現量または活性を測定する工程、
(b)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該発現量または活性を低下または上昇させる化合物を選択する工程、を含む方法、
(4)アポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質または該蛋白質と機能的に同等の蛋白質、あるいはそれらの部分を発現する細胞にアポトーシスを誘導する工程、
(b)該蛋白質またはそれらの部分の分解を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該分解を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法、
(5)アポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質のカスパーゼ3切断部位またはカスパーゼ3切断部位を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質とカスパーゼ3を接触させる工程、
(b)該カスパーゼ3切断部位を含む蛋白質のカスパーゼ3による切断を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該切断を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法、
(6)アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物を、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質のカスパーゼ3切断部位またはカスパーゼ3切断部位を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質に接触させる工程、
(b)該被検化合物と該カスパーゼ3切断部位との結合を検出する工程、
(c)該切断部位に結合する化合物を選択する工程、を含む方法、
(7)配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の発現量を細胞において上昇または低下させる化合物を含む、それぞれアポトーシスの抑制剤または促進剤、
(8)配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の活性を阻害する化合物を含む、アポトーシス促進剤、
(9)配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質または酸性領域を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質の酸性領域の少なくとも一部を含むポリペプチドであって、アポトーシスを誘導する活性を有するポリペプチド、
(10)(9)に記載のポリペプチドの量を細胞において上昇または低下させる工程を含む、それぞれアポトーシスを促進または抑制する方法、
(11)アポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、(9)に記載のポリペプチドを細胞で発現させる工程、
(b)該細胞のアポトーシスを検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該細胞のアポトーシスを抑制する化合物を選択する工程、を含む方法、
(12)(9)に記載のポリペプチドまたは該ポリペプチドを発現する核酸を含む、アポトーシスの促進剤、に関する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、PAL31蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の発現量を細胞において上昇または低下させる工程を含む、それぞれアポトーシスを抑制または促進する方法を提供する。例えば、該蛋白質を外来的に細胞に導入または発現させることにより、アポトーシスを抑制することができる。また、該蛋白質の内因的な発現レベルを上昇または低下させることにより、それぞれアポトーシスを抑制または促進することができる。また、細胞における該蛋白質の分解を促進または抑制することにより、それぞれアポトーシスを促進または抑制することができる。
【0018】
アポトーシスとは細胞が自発的に行う細胞死である。アポトーシスは特定の条件に合致した細胞で起こり、形態的には細胞の空洞化とそれに伴う核または細胞質の濃縮、あるいはapoptotic bodyと呼ばれる小胞への細胞の分断化などにより特徴付けられる。このとき核内のゲノムDNAは、ヌクレオソーム構造に基づく特徴的な大きさの断片に分解されていることから、アポトーシスは核内ゲノムDNAの断片化を電気泳動で確認することによって検出することができる。あるいは、ゲノムDNAの断片化という特徴から、TdT-mediated dUTP nick end labeling (TUNEL) 法を用いることで生化学的または免疫組織化学的にアポトーシスを検出することが可能である。
【0019】
細胞における蛋白質の発現量を上昇させるには、例えばその蛋白質をコードする遺伝子を外来的に発現させたり、あるいは内在性のその遺伝子の発現を上昇させればよい。遺伝子を外来的に発現させるには、この蛋白質をコードする核酸を発現ベクターに組み込み、これを細胞に導入すればよい。用いられる発現ベクターには制限はなく、プラスミドベクター、ウイルスベクター、およびその他が含まれる。あるいは、この蛋白質の分解を抑制してもよい。例えばカスパーゼ3阻害剤によりこの蛋白質の分解を抑制することができる。
【0020】
細胞における蛋白質量を低下させるには、例えばその蛋白質をコードする遺伝子のアンチセンス核酸、短鎖二本鎖RNA、またはRNA切断型リボザイムなどを細胞に導入または発現させることができる。アンチセンス核酸としては、PAL31またはそのカウンターパートをコードする天然の遺伝子の転写される配列の連続した13ヌクレオチド以上、好ましくは14ヌクレオチド以上、さらに好ましくは15ヌクレオチド以上に対するアンチセンス配列を含む核酸であってよい。例えば、初期転写配列中のエクソン−イントロン境界、イントロン−エクソン境界、翻訳開始コドンを含む領域、または成熟mRNA中の蛋白質コード配列の連続した13ヌクレオチド以上、好ましくは14ヌクレオチド以上、さらに好ましくは15ヌクレオチド以上、さらに好ましくは17ヌクレオチド以上に対するアンチセンス配列を含む核酸などが好ましい。ラットPAL31遺伝子においては、翻訳開始コドンの最初の塩基を1とした時のmRNAの+240〜+254に対する15ヌクレオチドのアンチセンス核酸(5'-TCTGCTAGTCTGTCG-3'/配列番号:13)が、PAL31の発現を有意に阻害する。従って、この領域を含むアンチセンス核酸、または他の生物のカウンターパートにおいてこれに対応する領域を含むアンチセンス核酸を用いることは好適である。
【0021】
また、短鎖二本鎖RNAも好適に用いることができる。標的遺伝子の転写配列の部分を含む2本鎖RNAを細胞に導入することにより、RNAi(RNA干渉)により標的遺伝子の発現を特異的に抑制することができる(Fire A, et al: Nature (1998) 391:806-811)。2本鎖のRNAは細胞内において、dicerにより3'末端から21〜23bpからなる断片に酵素的に切断される。生成した2本鎖RNAの断片は、同じ配列を持つ標的塩基配列を認識して結合し、当該塩基配列がRNaseIII様のヌクレアーゼ活性によって切断される(Hammond et al. (2000) Nature, 404: 293-298; Zamore et al. (2000). Cell 101: 25-33)。哺乳動物においては、長い2本鎖RNAはインターフェロン応答を引き起こすが、短い(19〜24塩基対程度)の二本鎖RNA (short interfering RNA ; siRNA) は哺乳類細胞において細胞毒性を示さずにRNAiを誘導できる (Elbashir SM, et al: Nature(2001) 411: 494-498)。
【0022】
リボザイムは、標的遺伝子のアンチセンス配列と、触媒作用に必要な配列を持つRNAである。リボザイムを構成するアンチセンス配列は、リボザイムの触媒ユニットの構造に合わせて、適宜選択することができる。一方リボザイムの触媒ユニットは公知である。たとえば、ハンマーヘッド型リボザイム(Rossi et al. (1991) Pharmac. Ther. 50: 245-254)やヘアピン型のリボザイム(Hampel et al. (1990) Nucl. Acids Res. 18: 299-304, and U.S. Pat. No. 5,254,678)が、塩基配列特異的な切断作用を有することが知られている。これらのリボザイムは、アンチセンス配列がハイブリダイズするポリヌクレオチドの特定の位置を、その触媒作用によって切断することができる。
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断する。ハンマーヘッド型リボザイムの活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断できることが示されている(Koizumi M, et al: FEBS Lett 228: 228, 1988)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi M, et al: FEBS Lett 239: 285, 1988、小泉誠および大塚栄子: タンパク質核酸酵素 35: 2191, 1990、 Koizumi M, et al: Nucl Acids Res 17: 7059, 1989)。
【0023】
上記のアンチセンスRNAやリボザイムなどは、化学的に合成することができる。この場合、ヌクレアーゼによる分解を防ぐためにRNAを修飾しておくことができる。たとえば、チオ化されたRNAは、ヌクレアーゼの作用を受けにくいため好適である。あるいは、これらのRNAを細胞内で発現させることもできる。標的細胞で活性を持つプロモーターの下流に目的のRNAをコードする核酸を連結したベクターを作製し、これを細胞に導入する。ベクターとしては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターなどが利用できる。これらのベクター系を利用して、ex vivo法やin vivo法などにより患者へ投与を行う遺伝子治療が可能となる。
【0024】
また本発明は、PAL31蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の活性を阻害する工程を含む、アポトーシスを促進する方法に関する。PAL31を活性を阻害するには、例えばPAL31に対する抗体またはその可変領域を含む断片などを投与してPAL31に結合させたり、あるいはPAL31に結合する低分子化合物を投与することにより実施することができる。
【0025】
ラットPAL31蛋白質と機能的に同等の蛋白質とは、ラットPAL31蛋白質(配列番号:2)に加え、ラットPAL31蛋白質の他の生物におけるカウンターパート、並びにそれらの蛋白質の多型および派生体などが含まれる。ラットPAL31遺伝子の塩基配列(配列番号:1)は accession No. AB025581、蛋白質のアミノ酸配列(配列番号:2)は protein ID BAB12435 として参照される。ラットPAL31のカウンターパートは、マウスおよびヒトを含む哺乳動物に広く保存されている。例えばマウスPAL31の塩基配列(配列番号:3)は accession No. AB025582に、蛋白質のアミノ酸配列(配列番号:4)は protein ID BAB12436 に例示されている。マウスPAL31はAnp32bと呼ばれることもある(accession No. NM_130889, protein ID NP_570959)。また、ラットPAL31のヒトカウンターパートとしては、核外移行因子CRM1と相互作用する核細胞質間輸送蛋白質であるAPRILが挙げられる(例えば配列番号:5および6; Brennan, C. M. et al. (2000) J Cell Biol 151, 1-14)。APRILは、SSP29、PHAPI2a、または Anp32b とも呼ばれる(accession No. Y07969, U70439, Y07569, NM_006401, protein ID CAA69265, AAB37579, CAA68855, NP_006392)。ヒトを含む哺乳動物PAL31ホモログのアミノ酸配列のアライメントを図10に示した。ラットPAL31とヒトAPRILのアミノ酸配列は約80%の同一性を持つ。
【0026】
より具体的には、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質と機能的に同等の蛋白質には、以下の蛋白質であって、アポトーシスを抑制する活性を有する蛋白質が含まれる:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列と70%以上の同一性を有する蛋白質;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において、81個以内のアミノ酸を置換、欠失、および/または付加したアミノ酸配列からなる蛋白質;
(c)配列番号:1の塩基配列またはその相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸がコードする蛋白質;
(d)(a)から(c)のいずれかに記載の蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質。
【0027】
アミノ酸配列の同一性は、比較したい2つの蛋白質のアミノ酸配列全長を、アミノ酸が一致するように適宜ギャップを挿入して整列させ、一致するアミノ酸の割合として算出することができる。アミノ酸の整列(アライメント)は、所望のコンピュータプログラムを利用することができ、例えばCLUSTAL W(Higgins, D. et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22:4673-4680)、BLAST(National Center for Biothchnology Information)などを用いることができる。ギャップはミスマッチした塩基と同様に扱い、アライメントの全範囲の塩基数(ギャップを含む)のうち、両者の配列で一致した塩基数の割合として同一性が決定される。但し、両方の配列の同じ位置に共にギャップを入れた場合には、そのギャップは計算から除外する。配列番号:2のアミノ酸配列との同一性は、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0028】
例えばBLASTによりアミノ酸配列の同一性を決定する場合は、文献「Altschul, S. F. et al., 1990, J. Mol. Biol. 215: 403-410」に記載の方法に従って実施することができる。具体的には、塩基配列の同一性を決定するにはblastnプログラム、アミノ酸配列の同一性を決定するにはblastpプログラムを用い、例えばNCBI(National Center for Biothchnology Information)のBLASTのウェブページにおいて"Low complexity"などのフィルターの設定は全てOFFにして計算を行う(Altschul, S.F. et al. (1993) Nature Genet. 3:266-272; Madden, T.L. et al. (1996) Meth. Enzymol. 266:131-141; Altschul, S.F. et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) Genome Res. 7:649-656)。パラメータの設定は、例えばopen gapのコストはヌクレオチドは5で蛋白質は11、extend gapのコストはヌクレオチドは2で蛋白質は1、nucleotide mismatchのペナルティーは-3、nucleotide matchの報酬は1、expect valueは10、wordsizeはヌクレオチドは11で蛋白質は2、Dropoff (X) for blast extensions in bitsはblastnでは20で他のプログラムでは7、X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastn以外では15、final X dropoff value for gapped alignment (in bits)はblastnでは50で他のプログラムでは25 にする。アミノ酸配列の比較においては、スコアのためのマトリックスとしてBLOSUM62を用いることができる。2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)により、2配列のアライメントを作成し、配列の同一性を決定することができる。
【0029】
また、上記(b)の蛋白質において、置換、欠失、および/または付加させるアミノ酸の総数は、好ましくは68個以内、より好ましくは54個以内、より好ましくは40個以内、より好ましくは27個以内、より好ましくは13個以内、より好ましくは10個以内、より好ましくは5個以内、より好ましくは3個以内である。置換、欠失、および付加は任意に組み合わせてよい。
【0030】
アミノ酸を置換する場合、性質の似たアミノ酸に置換すれば、もとの蛋白質の活性が維持されやすいと考えられる。このような置換を保存的置換という。アミノ酸の保存的置換は、当業者にはよく知られている。保存的置換に相当するアミノ酸のグループとしては、例えば、塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸 (例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸 (例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸 (例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸 (例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族アミノ酸 (例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などが挙げられる。本発明において用いられる蛋白質は、配列番号:2の任意のアミノ酸を保存的置換したアミノ酸配列からなる蛋白質であってもよい。
【0031】
上記の配列番号:1の塩基配列とのハイブリダイゼーションにおいては、この配列またはその相補鎖、あるいはその一部をプローブとして、対象とする配列に対してハイブリダイゼーションを行い、ストリンジェントな条件下で洗浄後にプローブが対象とする配列に有意にハイブリダイズしているかを確認する。プローブとしては、配列番号:1の連続した15塩基以上、好ましくは18塩基以上、さらに好ましくは20塩基以上、さらに好ましくは30塩基以上、さらに好ましくは50塩基以上、さらに好ましくは100塩基以上を用いる。もしプローブに配列番号:1またはその相補鎖以外の配列が含まれる場合には、ネガティブコントロールとしてその配列だけをプローブにして同様にハイブリダイゼーションを行い、同様の条件下で洗浄後にそのプローブが対象とする配列に有意にハイブリダイズしないことを確認すればよい。ハイブリダイゼーションは、ニトロセルロース膜またはナイロン膜などを用いて慣用の方法にて実施することができる。上記のストリンジェントな条件を具体的に例示すれば、例えば6×SSC、0.5%(W/V) SDS、100μg/ml 変性サケ精子DNA、5×デンハルト溶液(1×デンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、および0.2%フィコールを含む)を含む溶液中、42℃、好ましくは50℃、より好ましくは60℃、さらに好ましくは65℃で一晩ハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイゼーション後の洗浄を、ハイブリダイゼーションと同じ温度にて、4×SSC、0.5% SDS、20分を3回の洗浄を行う条件である。より好ましくはハイブリダイゼーション後の洗浄を、ハイブリダイゼーションと同じ温度にて 4×SSC、0.5% SDS、20分を2回、2×SSC、0.5% SDS、20分を1回の洗浄を行う条件である。より好ましくはハイブリダイゼーション後の洗浄を、ハイブリダイゼーションと同じ温度にて 4×SSC、0.5% SDS、20分を2回、続いて 1×SSC、0.5% SDS、20分を1回行う条件である。より好ましくはハイブリダイゼーション後の洗浄を、ハイブリダイゼーションと同じ温度にて 2×SSC、0.5% SDS、20分を1回、続いて 1×SSC、0.5% SDS、20分を1回、続いて 0.5×SSC、0.5% SDS、20分を1回行う条件である。
【0032】
ハイブリダイゼーションにより他の生物からPAL31のカウンターパートを単離する場合は、例えば上記のように配列番号:1の塩基配列またはその相補鎖、あるいはその一部をプローブとして、単離したい生物から作製したcDNAライブラリーをスクリーニングする。本発明においては、このようにして得た天然の遺伝子がコードするラットPAL31のカウンターパートを好適に用いることができる。カウンターパートを単離するための材料は特に制限されない。好ましくは、哺乳動物のゲノムDNAまたはcDNAである。具体的には、特にマウス、ヤギ、サル、ヒトなどが挙げられる。
【0033】
本発明において用いられるPAL31、そのホモログ、多型、および派生体等は、ロイシンリッチリピート(LRR)および酸性領域を含んでいる。LRRとは、蛋白質同士の相互作用に関与すると考えられるロイシンに富む配列であり、典型的には xLxxLxLxxN (xは任意のアミノ酸) のような配列を有している。酸性領域とは酸性アミノ酸に富む領域である。好ましくは、N端半分側にLRR、C端半分側に酸性領域が含まれている。酸性領域は、好ましくはアスパラギン酸および/またはグルタミン酸が連続して5個以上、より好ましくは7個以上、より好ましくは10個以上、より好ましくは12個以上連続して並ぶ領域である。また好ましくは、中央付近にEAPDSD(V/G/A)E配列を含んでいる。また好ましくは、C端半分側に核局在化シグナル(NLS)(例えばRKREなど)を含んでいるか、あるいは細胞で発現させた場合に少なくとも核にも存在する(核以外にも存在してよい)。
【0034】
なお、本発明において用いられるPAL31およびそのホモログ、派生体は、他の蛋白質との融合蛋白質であってもよい。融合蛋白質とは、天然において隣接していない少なくとも2つの蛋白質が連結した蛋白質であり、ペプチド合成により、または2つ以上の蛋白質のコード配列をフレームが一致するように連結させた核酸を発現させることにより製造することができる。他の蛋白質としてはタグのような数残基の短いペプチドから蛋白質のような長いポリペプチドまで任意のポリペプチドが挙げられる。具体的には、Hisタグ、FLAGタグ、HAタグなどのペプチドタグ配列、GFP(緑色蛍光蛋白質)、マルトース結合蛋白質(MBP)、グルタチオン S-トランスフェラーゼ (GST)、β-ガラクトシダーゼなどが挙げられる。例えばHisタグを付加した蛋白質は、ニッケルカラムにより精製することができる。また、例えばGSTとの融合蛋白質は、グルタチオンカラムを用いて精製することができる。また、融合する他の蛋白質としては抗体断片(Fc断片)などが挙げられる。さらに、リーダー配列、分泌シグナル、ペプチド切断のシグナル配列などが挙げられるが、それらに制限されない。
【0035】
また本発明は、PAL31またはこれと機能的に同等の蛋白質またはそれらの遺伝子を利用した、アポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法の一つの態様は、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の内因的発現量または活性を測定する工程、
(b)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該発現量または活性を低下または上昇させる化合物を選択する工程、を含む方法である。該発現量または活性を低下させる化合物はアポトーシスを促進する化合物、該発現量または活性を上昇させる化合物はアポトーシスを抑制する化合物となる。
【0036】
内因的発現量は、PAL31 mRNAまたはPAL31蛋白質を検出することにより知ることができる。mRNAは、例えばノーザンハイブリダイゼーション、定量または半定量RT-PCR、DNAマイクロアレイを用いた発現の測定などで定量することができる。蛋白質は、この蛋白質に対する抗体を用いたウェスタンブロッティング、免疫沈降、ELISAなどで定量することができる。上記のスクリーニングにおいて、PAL31の発現量を直接または間接に低下または上昇させる化合物を選択する。すなわち、PAL31の転写または翻訳を上昇または低下させる化合物、およびPAL31の分解を抑制または促進する化合物等を選択することにより、PAL31の発現量をそれぞれ上昇または低下させる化合物を得ることができる。
【0037】
また上記のスクリーニングは、PAL31のプロモーターを用いたレポーターアッセイ系を用いて行うこともできる。例えばPAL31のプロモーターの下流にレポーター遺伝子を連結させたコンストラクトを構築したり、あるいはPAL31遺伝子のコード領域をレポーター遺伝子のそれと置換したノックイン動物またはノックイン細胞を作製すれば、PAL31のプロモーター活性に応じてレポーター遺伝子を発現させることができる。このレポーター遺伝子の発現を検出することにより、PAL31の内因的発現量を知ることができる。このようにPAL31の内因的プロモーターの活性を指標にしたスクリーニング方法も、上記の本発明のスクリーニング方法に含まれる。このようなスクリーニング方法は具体的には、(a)被検化合物の存在下、配列番号:1の塩基配列を含む遺伝子またはまたはこれと機能的に同等の遺伝子の内因的プロモーターの活性を測定する工程、(b)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該活性を低下または上昇させる化合物を選択する工程、を含む方法である。プロモーター活性を低下させる化合物はアポトーシスを促進する化合物、プロモーター活性を上昇させる化合物はアポトーシスを抑制する化合物となる。
【0038】
またPAL31蛋白質の活性を指標としてスクリーニングを行う場合は、例えばPAL31の核移行活性、細胞周期をS期に進入させる活性、またはカスパーゼと相互作用する活性などを指標にすることができる。核移行活性は、例えばPAL31にGFPを融合させた蛋白質を発現させ、蛍光顕微鏡によりGFPの蛍光を検出して細胞内のPAL31の分布を観察することにより知ることができる。あるいは、PAL31抗体を用いて、免疫染色により細胞内局在を検出してもよい。または、分画により細胞から核フラクションを得て、PAL31を定量することによりPAL31の核局在を検出することもできる。S期への進入は、フローサイトメーターを用いた細胞内DNA量の測定により知ることができる(実施例参照)。またカスパーゼとの相互作用は、例えば後述のようにカスパーゼによるPAL31の切断を検出することにより知ることができる。
【0039】
また、上記の工程(a)により、被検化合物のアポトーシスを調節する作用を検査することができる。この検査は、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の内因的発現量または活性を測定する工程、
(b)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べたときの、該発現量または活性の低下を該化合物のアポトーシスの促進作用に、該発現量または活性の上昇を該化合物のアポトーシスの抑制作用に関連付ける工程、を含む方法である。このようなアッセイにより、化合物のアポトーシス調節作用を調べることができる。
【0040】
本発明において、アポトーシスの誘導によりPAL31は細胞内で分解を受けることが判明した。従って、アポトーシスを起こすような刺激を受けた細胞においてPAL31の分解を抑制できれば、アポトーシスを抑制することが可能と考えられる。本発明は、PAL31の分解を制御できる化合物を選択することによるアポトーシスを調節する化合物のスクリーニング方法を提供する。この方法は、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質または該蛋白質と機能的に同等の蛋白質、あるいはそれらの部分を細胞に導入または発現させる工程、
(b)該蛋白質またはそれらの部分の分解を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該分解を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法である。
【0041】
このスクリーニングには、PAL31の全長または部分を用いることができる。後述のように、ラットPAL31はカスパーゼ3により2つの断片に切断されるが、その結果生じる19 kDaのN末端切断産物および31 kDaの本来のPAL31は両方とも、アポトーシスにおいてさらに蛋白質分解を受けることから、カスパーゼ以外に、サイトゾルに他のPAL31破壊因子(群)が存在する。PAL31またはその部分ペプチドを細胞に導入または発現させ、その分解を促進または抑制する化合物を選択すれば、これらの化合物は、それぞれアポトーシスを促進または抑制する化合物の候補となる。アポトーシスを抑制する化合物を選択するスクリーニングにおいては、好ましくは、工程(a)においてアポトーシスを誘導することも好適である。アポトーシスの誘導によりPAL31の分解が促進されるので、これを阻害するような化合物を選択する。このような方法は、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質または該蛋白質と機能的に同等の蛋白質、あるいはそれらの部分を発現する細胞にアポトーシスを誘導する工程、
(b)該蛋白質またはそれらの部分の分解を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該分解を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法である。このような態様は、上記のスクリーニング方法に含まれる。
【0042】
アポトーシスの誘導は、例えば実施例に記載したように、エトポシドまたはUVにより誘導することができる。PAL31の部分を用いる場合は、特にN末端半分を含む部分ペプチドが好ましい。例えばカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質においては、N末端からカスパーゼ3切断部位までの部分ペプチドを好適に用いることができる。あるいは、外来的にPAL31を発現させなくても、内因的に発現しているPAL31の分解を検出してもよい。そのような態様も、上記のスクリーニングに含まれる。被検化合物の存在下でPAL31またはその部分ペプチドの分解を検出し、該被検化合物の非存在下または低用量を使用した場合に比べこの分解を促進または抑制する化合物を選択する。PAL31の分解を促進する化合物はアポトーシスを促進する化合物、PAL31の分解を抑制する化合物はアポトーシスを抑制する化合物となる。
【0043】
また、上記の工程(a)および(b)により、被検化合物のアポトーシスを調節する作用を検査することができる。この検査は、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質または該蛋白質と機能的に同等の蛋白質、あるいはそれらの部分を細胞に導入または発現させる工程、
(b)該蛋白質またはそれらの部分の分解を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べたときの、該分解の促進を該化合物のアポトーシスの促進作用に、該分解の抑制を該化合物のアポトーシスの抑制作用に関連付ける工程、を含む方法である。このようなアッセイにより、化合物のアポトーシス調節作用を調べることができる。上記のスクリーニングと同様に、工程(a)においてアポトーシスを誘導してもよい。
【0044】
また本発明において、PAL31はカスパーゼ3により切断されることが判明した。これを指標にして、本発明のスクリーニングを行うことが可能である。この方法の一態様は、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質のカスパーゼ3切断部位またはカスパーゼ3切断部位を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質とカスパーゼ3を接触させる工程、
(b)該カスパーゼ3切断部位を含む蛋白質のカスパーゼ3による切断を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該カスパーゼ3切断部位を含む蛋白質のカスパーゼ3による切断を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法である。
【0045】
このスクリーニングには、PAL31の全長またはカスパーゼ3切断部位を含む部分を用いることができる。これらの蛋白質は他の蛋白質との融合蛋白質であってもよい。カスパーゼ3切断部位は、DxxD (xは任意のアミノ酸) で表される配列であり、ラットPAL31(配列番号:2)においては、176〜179番目のDGVDである。他の蛋白質においても、ラットPAL31のアミノ酸配列とアライメントを作成し、ラットPAL31の176〜179番目に相当する部位またはその近傍のDxxD配列を同定することにより、カスパーゼ3切断部位を見つけ出すことができる。カスパーゼ3としては、例えば実施例のように精製活性カスパーゼ3を用いることができる。あるいは、工程(a)においてアポトーシスを誘導することによって、細胞内でカスパーゼ3を誘導することもできる。このように、上記のスクリーニングは試験管内(無細胞系)または細胞内で行うことができる。被検化合物の存在下でカスパーゼ3による切断を検出し、該被検化合物の非存在下または低用量を使用した場合に比べこの切断を促進または抑制する化合物を選択する。カスパーゼ3による切断を促進する化合物はアポトーシスを促進する化合物、カスパーゼ3による切断を抑制する化合物はアポトーシスを抑制する化合物となる。
【0046】
また、上記の工程(a)および(b)により、被検化合物のアポトーシスを調節する作用を検査することができる。この検査は、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質のカスパーゼ3切断部位またはカスパーゼ3切断部位を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質とカスパーゼ3を接触させる工程、
(b)該カスパーゼ3切断部位を含む蛋白質のカスパーゼ3による切断を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べたときの、該切断の促進を該化合物のアポトーシスの促進作用に、該切断の抑止を該化合物のアポトーシスの抑制作用に関連付ける工程、を含む方法である。このようなアッセイにより、化合物のアポトーシス調節作用を調べることができる。
【0047】
また、PAL31のカスパーゼ3切断部位に結合する化合物により、カスパーゼ3がPAL31に相互作用するのを阻害することによりPAL31のカスパーゼ3による切断を阻害することも考えられる。このような化合物のスクリーニング方法は、
(a)被検化合物を、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質のカスパーゼ3切断部位またはカスパーゼ3切断部位を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質に接触させる工程、
(b)該被検化合物と該カスパーゼ3切断部位との結合を検出する工程、
(c)該切断部位に結合する化合物を選択する工程、を含む方法である。
蛋白質の結合は、プルダウンアッセイなどの公知の方法により検出することができる。PAL31のカスパーゼ3切断部位に結合する化合物は、カスパーゼ3による切断を阻害することによりアポトーシスを抑制することが期待される。
【0048】
また本発明は、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の酸性領域の少なくとも一部を含むポリペプチドであって、アポトーシスを誘導する活性を有するポリペプチドを提供する。本発明において、PAL31のカスパーゼ3による切断により生じる、酸性領域を含むC末端側の断片が、アポトーシスを誘導する活性を有することが判明した。この断片は、アポトーシスを促進するため、またPAL31の活性を阻害するために有用である。酸性領域とは上記のように酸性アミノ酸に富む領域であり、好ましくはアスパラギン酸および/またはグルタミン酸が連続して5個以上、より好ましくは7個以上、より好ましくは10個以上、より好ましくは12個以上連続して並ぶ領域である。上記ポリペプチドは、もっとも好ましくは、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質に含まれる酸性領域の全てを含んでいる。また上記ポリペプチドは、好ましくは核局在化シグナル(NLS)を含む。NLSは当業者に周知の配列であってよく、例えばRKREなどが好ましい。また上記ポリペプチドは、好ましくはLRRを含まない。例えば、上記ポリペプチドは、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはカスパーゼ3切断部位を含み、該蛋白質と機能的に同等の蛋白質の断片であって、該カスパーゼ3切断部位からC末端までの断片を含むポリペプチド、または該断片と他のポリペプチドとの融合ポリペプチドであってよい。具体的には、例えば、ラット、マウス、およびヒトなどを含む哺乳動物PAL31ホモログのカスパーゼ3切断部位からC末端までの断片、またはそれを含む融合ポリペプチドなどであってよい。
【0049】
また本発明は、上記のアポトーシスを誘導する活性を有するポリペプチドの量を細胞において上昇または低下させる工程を含む、アポトーシスを促進または抑制する方法を提供する。このポリペプチドの量を細胞において上昇させるには、このポリペプチドをコードする核酸を細胞に導入して発現させればよい。あるいはトランスフェクション等によりポリペプチドを細胞内に導入してもよい。
【0050】
また本発明は、上記のアポトーシスを誘導する活性を有するポリペプチドを用いてアポトーシスを抑制する化合物をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、
(a)被検化合物の存在下、アポトーシスを誘導する活性を有する上記のポリペプチドを細胞で発現させる工程、
(b)該細胞のアポトーシスを検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該細胞のアポトーシスを抑制する化合物を選択する工程、を含む方法である。
被検化合物の存在下で本明細書に記載したようにアポトーシスを検出し、該被検化合物の非存在下または低用量を用いた場合に比べアポトーシスを抑制する化合物を選択する。アポトーシスを完全に抑制する化合物、または該被検化合物の非存在下または低用量を用いた場合に比べ有意に抑制する化合物を選択する。例えば、同じ化合物の抗アポトーシス効果を他の方法により誘導されたアポトーシスに対して調べ、上記ポリペプチドにより誘導されるアポトーシスを特異的に阻害する化合物を選択すれば、PAL31の分解により誘導されるアポトーシスを特異的に阻害する化合物を得ることが期待できる。また、上記の工程(a)および(b)を含むアポトーシスの検出方法は、被検化合物がPAL31が関与するアポトーシス経路に作用するかを検証するために有用である。
【0051】
実施例に示されるように、PAL31はカスパーゼの作用を阻害することによりアポトーシスを抑制する。従って、本明細書に記載したアポトーシスを抑制または促進する方法、およびアポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法は、それぞれカスパーゼの作用を抑制または促進する方法、およびカスパーゼの作用を促進または抑制する化合物のスクリーニング方法としても、同様に実施することが可能である。
【0052】
配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の発現量を細胞において上昇させる化合物、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3による切断を阻害する化合物、および配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位に結合する化合物は、アポトーシスの抑制剤およびカスパーゼ阻害剤として使用することができる。また配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の発現量を細胞において低下させる化合物、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の活性を阻害する化合物、および配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3による切断を促進する化合物は、アポトーシス促進剤として使用することができる。さらに、上記のアポトーシスを誘導する活性を有するポリペプチドまたは該ポリペプチドを発現する核酸も、アポトーシス促進剤として使用することができる。これらは適宜、薬学的に許容される担体(滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、他の蛋白質 (BSAなど))と組み合わせることができ、アポトーシスを調節するための試薬および医薬として用いることができる。また本発明は、アポトーシス促進剤または抑制剤の製造における、上記化合物、蛋白質、または核酸の使用を提供する。
【0053】
アポトーシスの制御不全は多くのヒト疾患の病因に関与していることから、本発明のアポトーシス促進剤および抑制剤は、アポトーシスが関与する種々の疾患の治療に有用と考えられる。特にPAL31はリンパ腫細胞などの癌細胞での発現が高いことから、PAL31の機能を阻害する薬剤の開発により、癌に対する新たな治療が可能となることが期待される。
【0054】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書に引用された文献は、全て本明細書の一部として組み込まれる。
【0055】
[実施例1] PAL31発現ベクターの構築および変異導入
野生型ラットPAL31をpFLAG-CMV-2ベクター(Eastman Kodak社)にサブクローニングするために、プライマー PAL31wt-F 5'-g aat tcc ATG GAC ATG AAG AGG AGG ATC-3'(配列番号:7)および PAL31wt-R 5'-t cta GAG CAG TCC AAC CAT ACT CAA C-3'(配列番号:8)を用いてPCRによりラットPAL31遺伝子を増幅した。目的のコンストラクトの両末端に、制限酵素消化によって突出粘着末端ができるように、プライマーには、EcoRI部位(PAL31wt-Fの場合)またはXbaI(PAL31wt-Rの場合)部位を導入した。以下の条件でサンプルを30サイクルの増幅に供した:Robotサイクラー(Stratagene社)を用いて、各サイクルで94℃で30秒間変性、54℃で30秒間アニーリング、72℃で1分間伸長を行い、最後の伸長は72℃で5分間行った。変異がないことを確認後、コンストラクトをpFLAG-CMV-2ベクター(Eastman Kodak社)のEcoRI/XbaI部位にサブクローニングした。
【0056】
DNA断片(FLAG-PAL31)をpTre2ベクター(Clontech社)にサブクローニングするため、QuikChangeTM Site-directed mutagenesis kit(Stratagene社)を用いて、製造元の指示にしたがって、pFLAG-CMV-2のFLAGタグ配列の上流にSacII部位を生成した。位置特異的変異導入に用いたオリゴヌクレオチド配列は以下の通りである;FLAGSac2F 5'-CTCGTTTAGTGAACCGCGGGAATTGATCTACCATG-3'(配列番号:9);FLAGSac2R 5'-CATGGTAGATCAATTCCCGCGGTTCACTAAACGAG-3'(配列番号:10)。変異したpCMV2-FLAGPAL31およびpTre2ベクターをSacIIおよびXbaIで消化した後、FLAGPAL31断片をpTre2ベクターに挿入した。
【0057】
野生型PAL31をpGEX4T3ベクター(Amersham Pharmacia Biotech社)にサブクローニングするため、プライマー rPAL31 (-3)-F 5'-AAC ATG GAC ATG AAG AGG AGG ATC CA-3'(配列番号:11)および 5'-GAG CAG TCC AAC CAT ACT CAA CAG TTC-3'(配列番号:12)をPCRに用いた。サンプルを以下の条件で30サイクルの増幅に供した:Robotサイクラー(Stratagene社)を用いて、各サイクルが94℃で30秒間変性、55℃で30秒間アニーリング、72℃で2分間伸長、および最後の伸長は72℃で5分間。その後、PCR産物をpGEM-Teasyベクター(Promega社)にサブクローニングした。変異がないことを確認した後、このコンストラクトをpGEM-Teasyベクターから切り出して、EcoRI部位を用いてpGEX4T3ベクターにサブクローニングした。シークエンシングにより方向が正しいことを確認した。
【0058】
[実施例2] PAL31を誘導発現する細胞株の作製
PAL31を発現する細胞株を作製するため、GossenおよびBujard(Freundlieb, S. et al. (1997) Methods Enzymol 283, 159-173)が開発したtetトランスアクチベーターシステムを使用した。テトラサイクリン応答性の組み換えPAL31細胞株は、全長のFLAGタグ付きPAL31をコードするpTre2ベクター(Clontech社)およびハイグロマイシン耐性マーカープラスミドを20:1の比率で、トランスフェクション試薬としてLipofectamine Plus(Invitrogen社)を用いてRat1 Tet-Off細胞(Clontech社)にトランスフェクションし、10% FBS、2μg/ml テトラサイクリン、150μg/ml ハイグロマイシン、および350μg/mlジェネティシン(G418)を添加したDMEM中で増殖させることで作製した。トランスフェクションされた細胞をハイグロマイシンに対して約3週間選択した。安定にトランスフェクトされた2つの細胞株(クローンA34およびB27)を以下の実施例において用いた。ウェスタンブロットによって誘導性のPAL31発現を解析した。用量応答性を調べるため、細胞は種々の濃度のテトラサイクリン(0〜2000 ng/ml)と72時間インキュベートした。
【0059】
ウェスタンブロット解析のために、細胞のライセートを15%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で解析した。PVDFメンブレンに転写し、5%スキムミルクで非特異的結合をブロックした後、1:1000に希釈した抗FLAG抗体(Sigma社)、その後1:2500希釈のペルオキシダーゼ結合抗マウスIgGを用いて、増強ケミルミネセンス検出キット(Amersham Pharmacia Biotech)によりFLAG-PAL31蛋白質を検出した。
【0060】
上記で得たPAL31発現が誘導可能な2つの細胞株をテトラサイクリン(tet)を含まない培地で培養すると、図1に示したように、両方のRat1細胞株(A34およびB27)でFLAG-PAL31の発現が観察された。クローンA34では、テトラサイクリン濃度を20 ng/mlに増加させると、FLAG-PAL31の発現は急激に低下した。B27では、テトラサイクリン濃度を200 ng/mlに増加させると発現レベルが低下した。このように、この2つの細胞株(A34およびB27)は、テトラサイクリン濃度を変えることによってPAL31発現レベルが調節されるPAL31発現細胞であることが確認された。クローンB27におけるFLAG-PAL31発現は、テトラサイクリンによってA34よりもより厳密に制御されている。
【0061】
[実施例3] 細胞周期に対するPAL31過剰発現の影響
細胞増殖に対するPAL31の発現の効果を細胞株A34およびB27を用いて調べた。増殖アッセイは以下のように行った。まずテトラサイクリン応答性組み換えPAL31 Rat1トランスフェクタントを5 x 104/ウェルで6ウェル組織培養プレートに播き、2μg/mlのテトラサイクリンを含む増殖培地と含まない増殖培地中で4日間培養した。48時間ごとに新しい培地を提供した。細胞を毎日回収し、血球計算板を用いて細胞数を決定した。これらの実験には、Rat 1トランスフェクタントの2つの独立したクローン(クローンA34およびクローンB27)を使用し、以下に示すように類似の結果を得た。
【0062】
A34では、3日および4日後におけるFLAG-PAL31発現トランスフェクタントの総細胞数は、FLAG-PAL31発現が抑制されている同じトランスフェクタントに対して、それぞれ1.2倍および1.5倍であった(図2)。B27では、3日および4日後のFLAG-PAL31発現細胞の総数は、FLAG-PAL31を発現しない細胞の約2倍であった。したがって、いずれの細胞株でも、PAL31の発現は増殖速度を増加させ、細胞の倍加時間を短縮した。さらにPAL31の過剰発現が細胞周期の各期の分布を変えるかどうか調べた。そのために、細胞株B27をテトラサイクリンの存在下または非存在下で3日間増殖させた後、フローサイトメーターで分析した。具体的には、2μg/mlのテトラサイクリンを含む増殖培地と含まない増殖培地中で3日間培養したテトラサイクリン応答性組み換えPAL31 Rat 1細胞株(クローンB27)を、トリプシン処理によって培養ディッシュから剥がし、完全培地で1:1に希釈し、23℃での低速遠心で回収した。細胞の沈殿を再懸濁し、70%エタノール 1 mlで固定し、0.1 mg/ml RNaseで処理し、20μg/mlのヨウ化プロピジウムで染色した。サンプルを44μmのナイロンメッシュでろ過し、直ちにフローサイトメトリーで分析した。各細胞のヨウ化プロピジウム染色DNA含有量を、細胞周期プロファイルのパラメーターとして用いた。細胞周期のG1, SおよびG2/M期の割合は、コンピュータプログラムModfit LT(Verity Software House社, トプシャム, メイン州)を用いた解析により決定した。
図3に示すように、テトラサイクリンを含まない培地の細胞の36.63%はS期であるのに対し、対照では20.24%の細胞がS期だった。したがって、PAL31の過剰発現は、非誘導の対照細胞と比べて、S期のサブポピュレーションを1.5倍に増加させた。これらの結果は、PAL31がS期に入るために必要であるという本発明者らの得た知見と一致している。
【0063】
[実施例4] PAL31によるアポトーシスの阻害
トポイソメラーゼII酵素阻害剤であるエトポシドは、固形癌および白血病の治療に使われる薬剤である(Scovassi, A. L. et al. (2001) Anticancer Res 21, 2803-2808)。PAL31がアポトーシスの調節に関与している可能性を考え、PAL31がエトポシドに誘導される細胞死を阻害するかどうかを調べた。
【0064】
具体的には、Rat1細胞株A34およびB27を種々の濃度のテトラサイクリンを含む増殖培地で72時間培養した後、5μg/ml エトポシド存在下で24時間インキュベートした。細胞を回収、固定し(4%ホルマリンを含むPBS;10分、室温)、PBSで洗い、Hoechst染色溶液(0.1μg/ml Hoechst 33248 PBS中, 10分)中に再懸濁し、再度洗い、スライド上にスポットして蛍光顕微鏡で観察した。アポトーシス細胞は典型的な核の形態によって同定した。すなわち、核が凝縮して小さくなりまたは分断されている細胞をアポトーシスを起こしていると判断した。計数時のバイアスを避けるために、無作為に選んだ視野および数字を付けたスライドを用いて計数した。全ての実験は最低3回行なった。
【0065】
図4に示されるように、2μg/mlのテトラサイクリンを含む培地で培養したFLAG-PAL31を発現しない細胞と比較すると、FLAG-PAL31発現細胞の方がアポトーシス細胞が少なかった。図5では、カバースリップ(n=3)ごとに無作為に選んだ5つの視野におけるアポトーシス細胞の割合を計算した。これらの実験で2つの独立した細胞株(A34およびB27)は類似した結果を示し、PAL31の量が増えるほど抗アポトーシス効果はより顕著になった。これらのデータを合わせて考えると、PAL31は抗アポトーシス蛋白質であり、Rat1細胞においてエトポシドに誘導されるアポトーシスを阻害することを示唆する。
【0066】
[実施例5] PAL31のアンチセンスオリゴヌクレオチドによるアポトーシスの誘導
アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、Nb2細胞の細胞保護作用における内在性PAL31の役割を調べた。Nb2細胞を 1 x 106細胞/ウェルの密度で24ウェルディッシュ(Nalge Nunc International社)に播いた。PAL31 mRNAのATG翻訳開始部位の下流の配列に相補的な15塩基のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、Nb2細胞におけるPAL31発現をダウンレギュレーションする。そこで、5μM PAL31アンチセンスオリゴヌクレオチド5'-TCTGCTAGTCTGTCG-3'(配列番号:13)または対照のセンスオリゴヌクレオチド 5'-CGACAGACTAGCAGA-3'(配列番号:14)の存在下、増殖培地中で細胞を培養した。48時間のインキュベーション後、Nb2細胞を遠心し、PBSで洗い、70%エタノールで固定した。その後、細胞を0.5 mg/ml RNaseで37℃で1時間処理し、50μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI、Molecular probes社、オレゴン州)で染色した。室温で30分間インキュベートした後、FACScan (Becton Dickinson社、ニュージャージー州) を用いた定量的フローサイトメトリーによってDNA含有量を決定した。
【0067】
図6に示すように、Nb2細胞をアンチセンスオリゴヌクレオチドで48時間処理すると、G1停止を誘導するのみならず、DNAの分断化を誘導することが判明した。DNAヒストグラムのサブG1ピークは、PAL31のアンチセンスオリゴヌクレオチドがアポトーシスを誘導したことを示している。センスオリゴヌクレオチドで処理した細胞では、サブG1ピークにも細胞周期の分布にも変化がなかった。これらの結果は、PAL31がアポトーシスシグナルの阻害因子として生理的な役割を果たすことを示唆する。
【0068】
[実施例6] PAL31はUV誘導アポトーシスからRat1細胞を保護する
UV誘導アポトーシスにおいて、PAL31の効果を抗アポトーシス蛋白質XIAPと比較した。PAL31またはXIAP cDNAを含むpFLAG-CMV-2ベクターをRat1細胞にトランジェント(一過的)にトランスフェクトし、UVを照射して細胞死の同定を行った。
具体的には、Rat1線維芽細胞株を6ウェルプレートに1ウェルあたり1 x 105細胞の密度で播き、加湿した5% CO2を含む大気中、10% FBSおよび抗生物質(100ユニット/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン)を添加したダルベッコ改変イーグル培地中で37℃で培養した。翌日、Lipofectamine Plusを用いて、pFLAG-PAL31またはXIAPを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、200 J/m2 UVを細胞に照射した。その後、細胞を回収、固定し(4%ホルマリンを含むPBS;10分間、室温)、PBSで洗浄、Hoechst染色溶液(PBS中0.1μg/ml Hoechst 33248、10分間)に再懸濁し、再度洗浄、そしてスライド上にスポットして蛍光顕微鏡で観察した。核が凝縮して小さくなりまたは分断されている細胞をアポトーシスと判断した。計数時のバイアスを避けるために、無作為に選んだ視野および数字を付けたスライドを用いて計数した。全ての実験は最低3回行なった。
【0069】
以前の報告に一致して(Xu, D. et al. (1999) J Neurosci 19, 5026-5033)、図7Aに示されるように、XIAPの過剰発現は細胞がアポトーシスを起こすのを抑止した。この系では、PAL31もXIAPに匹敵する抗アポトーシス作用を示した。したがって、PAL31がRat1細胞においてエトポシド誘導アポトーシスと同様、UVにより誘導されるアポトーシスも阻害することが明らかとなった。
【0070】
[実施例7] PAL31によるカスパーゼ活性の阻害
UVはカスパーゼの活性化によりアポトーシスを介して細胞死を誘導する(Wright, S. et al. (1998) Biochem Biophys Res Commun 245, 797-803)。アポトーシス調節におけるPAL31の機能を探るために、PAL31過剰発現細胞においてカスパーゼ活性を調べた。カスパーゼ活性の測定は以下のようにして行った。細胞抽出物(50μg蛋白質)を40μM DEVD-AMCペプチド基質と共に総容量100μl中で30分間インキュベートした。アスパラギン酸-AMC結合の切断の結果生じる遊離アミノメチルクマリン(AMC)の蛍光を、immunomini-NJ2300蛍光計を用い、励起波長および発光波長をそれぞれ360 nMおよび460 nMで30分間以上にわたり連続的にモニターした。各ウェルからの発光を時間に対してプロットし、各曲線の初速(傾き)の線形回帰分析で活性を求めた。
【0071】
図7Bに示すように、UV照射がないとRat1細胞のカスパーゼ活性は非常に低かった。細胞にUVを照射すると、カスパーゼ活性が30倍に上昇することが観察された。PAL31の発現によって、UVにより誘導されるカスパーゼ活性は大幅に低下した。PAL31の阻害活性はXIAPに匹敵した。
【0072】
ミトコンドリアのシトクロームc放出もUV誘導アポトーシスを仲介する(Gao, W. et al. (2001) J Cell Sci 114, 2855-2862)。PAL31がシトクロームcの放出に影響を与えるかどうか調べるために、細胞にUV照射を行ない、細胞質画分およびミトコンドリア画分のイムノブロッティングを行なった。具体的には、Rat1細胞に空ベクターまたはpFLAG-PAL31をトランスフェクトし、トランスフェクションの24時間後に 200 J/m2 UVで処理した。さらに24時間後に細胞を回収し、5 mlのPBSで2回洗った。細胞沈殿物を氷冷した溶解緩衝液(20 mM HEPES, 10 mM KCl, 1.5 mM MgCl2, 0.1% NP-40, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, 1mM ジチオスレイトール、250 mM スクロース、0.5 mM フェニルメチルスルホニルフルオライド)200μl中に穏やかに再懸濁した。氷上に5分間おいた後、750 g、10分間の遠心で核を沈殿させ、溶解緩衝液に再懸濁した。上清はさらに10,000 gで20分間遠心した。サイトゾル画分(上清)を新しいチューブに移し、重い膜画分(ミトコンドリアおよびERなど)である沈殿は溶解緩衝液に再懸濁した。イムノブロッティングのためのシトクロームc抗体は、Becton Dickinson社より購入し、販売元の推奨通りに使用した。
【0073】
結果は図7Cに示した。正常な条件下では、シトクロームcはミトコンドリアで発現されるが、サイトゾルでは発現されない。細胞を200 J/m2 UVで処理すると、シトクロームcはミトコンドリアからサイトゾルへ放出された。PAL31発現は、UVに誘導されるシトクロームc放出に影響を与えなかった。これらのデータから、PAL31によるアポトーシスの阻害はミトコンドリア非依存性の経路を介することが実証された。
【0074】
[実施例8] インビボおよびインビトロでのアポトーシスの誘導時にPAL31は切断される
細胞がアポトーシスを起こすのを防ぐためにPAL31発現が重要ならば、細胞がアポトーシスを起こすときにPAL31の発現は低下することが予想される。実際に、図8Aに示すように、トランスフェクトしてないRat1細胞で、エトポシドに誘導されるアポトーシスにおいて、細胞の内在性PAL31レベルが用量依存的に低下していることが観察された。非常に興味深いことに、抗PAL31抗血清を用いた細胞溶解物のウェスタンブロット分析では、本来の31 kDa PAL31に加えて、19 kDaの断片が余分に観察された。この結果は、アポトーシス過程において、PAL31が部位特異的に切断されることを示す。したがって、PAL31は細胞死の調節を行なう非常に独特な分子であると考えられる。
【0075】
図8Bに示されるように、PAL31配列を調べると、カスパーゼ3の潜在的な切断部位(DXXDモチーフ)が同定され、この過程にカスパーゼ3が関与している可能性が示された(Fattman, C. L. et al. (2001) Oncogene 20, 2918-2926)。この可能性をさらに深く探るために、pGEX4T-3発現ベクターを用いて、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)とPAL31の融合蛋白質の発現を行い、これを用いてインビトロでのPAL31切断のアッセイを行った。グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白質を生成させるため、pGEX4T3-PAL31でOrigamiTM B株(Novagen社)を形質転換し、GST-PAL31をアフィニティ精製した。100 ngの精製GST-PAL31を10 ngまたは100 ngの精製活性カスパーゼ3と37℃で3時間インキュベートした。生成産物に対して、抗PAL31抗血清を用いてウェスタンブロット解析を行った。
【0076】
図8Cに示すように、ウェスタンブロットによって、抗PAL31抗血清が58 kDaの融合蛋白質(31 kDa PAL31 + 27 kDa GST)が認識されることが示された。カスパーゼ3の濃度を上げて37℃で3時間処理すると、58 kDa GST-PAL31が特異的に切断され、検出可能な46 kDa切断産物が用量依存的に生成した。この結果から、PAL31はカスパーゼ3の直接の基質であると結論される。
【0077】
[実施例9] カスパーゼ阻害剤Z-VADはUV誘導アポトーシスにおいてPAL31のダウンレギュレーションを阻害しない
UVに誘導されるアポトーシスの際に、非特異的カスパーゼ阻害剤Z-VADが本来のPAL31発現の低下を阻害できるかどうかを調べた。図9に示すように、UVに誘導されるアポトーシスにおいて、サイトゾルでのPAL31の発現は大きく低下したが、核および重い膜に発現されるPAL31のレベルは変わらなかった。この低下は、ミトコンドリア依存性のアポトーシス経路を阻害する抗アポトーシス蛋白質であるKu70の過剰発現によって完全に阻害されたが、カスパーゼ阻害剤Z-VADでは阻害されなかった。これらの結果は、PAL31の破壊に2つの経路があることを示唆する。第1の経路はアポトーシスにおけるカスパーゼ3依存性のPAL31破壊であり、第2の経路としてカスパーゼ以外の他のPAL31破壊蛋白質が存在していると考えられる。
【0078】
【発明の効果】
本発明により、PAL31およびそのホモログを利用したアポトーシスを制御するための新たな系が提供された。PAL31を利用してアポトーシスを制御する化合物をスクリーニングすることにより、細胞死を制御するための新たな薬剤を開発することが可能である。アポトーシスの制御は、特に癌治療において有効である。PAL31のヒトホモログはリンパ腫細胞での発現が高い。アポトーシス制御の破綻は癌を含む様々な疾患に深く関与することから、本発明の方法により得られた薬剤は、アポトーシスが関与する疾患の治療および予防のための医薬として用いられることが期待される。
【0079】
【配列表】




















【図面の簡単な説明】
【図1】テトラサイクリン抑制性プロモーターの制御下でPAL31を発現する安定なrat1細胞株からのPAL31の発現を示す図である。テトラサイクリン応答性の組み換えPAL31細胞株は、実施例に記載したように、FLAGタグ付きPAL31をコードするpTre2ベクターおよびハイグロマイシン耐性マーカープラスミドを20:1の比でトランスフェクションすることにより、Rat1 tet-off細胞で作製された。細胞は、図示したようにテトラサイクリン存在下または非存在下で72時間培養した。その後細胞を回収し、抗Flag抗体を用いたウェスタンブロットに用いた。
【図2】細胞増殖に対するPAL31過剰発現の効果を示す図である。2μg/mlのテトラサイクリン存在下(Tet(+))および非存在下(Tet(-))でのPAL31過剰発現細胞株の増殖曲線。細胞を50000細胞/ウェルで6ウェルのディッシュに播き、24時間ごとにトリプシン処理をして、血球計算板を用いて計数した。(A) クローンA34。(B)クローンB27。
【図3】細胞周期に対するPAL31発現の影響を示す図である。PAL31は細胞周期の進行を促進した。テトラサイクリン応答性(tet-off)の組み換えPAL31細胞株(クローンB27)を、2μg/mlのテトラサイクリン存在下(Tet(+))または非存在下(Tet(-))で72時間培養した。フローサイトメーターを用いて、細胞周期の異なる段階にある細胞の割合を測定した。
【図4】 PAL31はエトポシドに誘導されるアポトーシスを阻害することを示す図である。Rat1クローンB27を、2μg/mlのテトラサイクリン存在下(Tet(+))または非存在下(Tet(-))で72時間培養した。その後、細胞を5μg/mlのエトポシドで24時間処理し、位相差顕微鏡(x10)により写真撮影した。核はHoechstで染色し、蛍光顕微鏡(x100)で可視化した。矢印はアポトーシス細胞を示す。
【図5】 PAL31の抗アポトーシス効果を示す図である。テトラサイクリン応答性の組み換えPAL31細胞株を、図示したようにテトラサイクリンの存在化または非存在化で72時間培養した。その後、細胞を5μg/mlのエトポシドで24時間処理し、アポトーシス細胞を計数した。
【図6】アンチセンスPAL31処理によるNb-2細胞死の誘導を示す図である。Nb2細胞を5μMのアンチセンスPAL31またはセンスPAL31オリゴとインキュベートした。48時間後に細胞を回収し、フローサイトメトリーにより解析した。矢印はDNAの分断化を示す。
【図7】 PAL31によるアポトーシス抑制効果を示す図である。PAL31はRat1細胞においてUVに誘導されるアポトーシスおよびカスパーゼ活性を阻害するが、シトクロームc放出には影響を与えない。図示したようにRat1細胞にpFlag-PAL31、XIAP、または空ベクターのいずれかをトランスフェクトした。24時間後に細胞をUV処理した。さらに24時間後に細胞を回収した。(A) 核をDAPIで染色し、アポトーシス細胞を計数した。 (B) 37℃で30分のインキュベーションにおけるAMC放出量によりカスパーゼ活性を決定した。(C) サイトゾルおよびミトコンドリア細胞画分を用いて、ミトコンドリアからサイトゾルへのCytC放出を調べた。抗Cyc抗体を用いて解析した。増強ケミルミネセンスで検出した。
【図8】 PAL31はカスパーゼ3によりインビボおよびインビトロで切断されることを示す図である。(A) Rat1細胞を図示した濃度のエトポシドと24時間インキュベートした。抗PAL31抗血清(1:1000)を用いてウェスタンブロットを行った。(B) 予想されるカスパーゼ3切断部位。(C) 100 ngの精製GST PAL31を、精製活性カスパーゼ3と37℃で3時間インキュベートした。抗PAL31抗血清(1:2000)を用いてウェスタンブロットを行った。
【図9】 UVに誘導されるアポトーシスにおけるPAL31の発現を示す図である。Rat1細胞をKu70 (UV+Ku70) をトランスフェクトするか、または50μM Z-VAD (UV+Z-VAD)とインキュベートし、その後UVで処理した。6時間後に細胞を回収した。各細胞画分をサンプリングし、抗PAL31抗血清(1:1000)を用いてウェスタンブロットを行った。
【図10】ラットPAL31、マウスPAL31、およびヒトAPRIL(ヒトPAL31ホモログ)のアミノ酸配列のアライメントを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の発現量を細胞において上昇または低下させる工程を含む、それぞれアポトーシスを抑制または促進する方法。
【請求項2】
配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の活性を阻害する工程を含む、アポトーシスを促進する方法。
【請求項3】
アポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の内因的発現量または活性を測定する工程、
(b)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該発現量または活性を低下または上昇させる化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項4】
アポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質または該蛋白質と機能的に同等の蛋白質、あるいはそれらの部分を発現する細胞にアポトーシスを誘導する工程、
(b)該蛋白質またはそれらの部分の分解を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該分解を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項5】
アポトーシスを促進または抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質のカスパーゼ3切断部位またはカスパーゼ3切断部位を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質とカスパーゼ3を接触させる工程、
(b)該カスパーゼ3切断部位を含む蛋白質のカスパーゼ3による切断を検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該切断を促進または抑制する化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項6】
アポトーシスを促進する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物を、配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質のカスパーゼ3切断部位またはカスパーゼ3切断部位を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質のカスパーゼ3切断部位を含む蛋白質に接触させる工程、
(b)該被検化合物と該カスパーゼ3切断部位との結合を検出する工程、
(c)該切断部位に結合する化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項7】
配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の発現量を細胞において上昇または低下させる化合物を含む、それぞれアポトーシスの抑制剤または促進剤。
【請求項8】
配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質またはこれと機能的に同等の蛋白質の活性を阻害する化合物を含む、アポトーシス促進剤。
【請求項9】
配列番号:2のアミノ酸配列を含む蛋白質または酸性領域を含み該蛋白質と機能的に同等の蛋白質の酸性領域の少なくとも一部を含むポリペプチドであって、アポトーシスを誘導する活性を有するポリペプチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリペプチドの量を細胞において上昇または低下させる工程を含む、それぞれアポトーシスを促進または抑制する方法。
【請求項11】
アポトーシスを抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
(a)被検化合物の存在下、請求項9に記載のポリペプチドを細胞で発現させる工程、
(b)該細胞のアポトーシスを検出する工程、
(c)該被検化合物の非存在下または(a)に比べて低用量の存在下と比べ、該細胞のアポトーシスを抑制する化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項12】
請求項9に記載のポリペプチドまたは該ポリペプチドを発現する核酸を含む、アポトーシスの促進剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−180703(P2006−180703A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−39715(P2003−39715)
【出願日】平成15年2月18日(2003.2.18)
【出願人】(503065782)
【出願人】(503065793)
【出願人】(503065737)
【出願人】(599144262)
【Fターム(参考)】