説明

アミノアルキルアミンを調製するための方法

対応する式(III)または(IV)のニトリルを、水素を用いて水素化することによって、式(I)または(II)の多官能アミンを調製するための方法が記載されおり、その特徴は、式(III)または(IV)のニトリルの溶融物、溶液または懸濁液を、アンモニアおよび場合によっては他の添加物を含む溶媒中の触媒の懸濁液または溶液に、反応時間全体にわたって添加し、60〜150℃の範囲の温度で、水素圧力下撹拌する点にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノアルキルアミン、たとえば、テトラ−N,N,N’,N’−(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンの調製に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラ−N,N,N’,N’−(4−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンは、錯化剤として、モノマーとして、またはデンドリマーを調製するためのコア分子として使用することが可能なヘキサアミンである。それは、自由電子対を介して金属イオンを窒素原子に結合させる可能性があるところから、錯化剤として有効である。それは、4官能の一級アミンとして多官能求電子剤と反応して、ポリマー構造を与えることが可能であるために、モノマーとして使用することができる。ポリマーの一つの特殊な形態が、デンドリマーであるが、そこでは、テトラ−N,N,N’,N’−(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンが、調節下の反応工程を繰り返していって、樹枝状の構造を形成する。
【0003】
テトラ−N,N,N’,N’−(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンの工業的に適用可能な合成法が特許文献に記載されている。(特許文献1)および(特許文献2)には、1,4−ジアミノブタンから出発して、アクリロニトリルと4段階の反応をさせ、テトラ−N,N,N’,N’−(2−シアノエチル)−1,4−ジアミノブタンを得て、次いで水素化することによって、テトラ−N,N,N’,N’−(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンを調製することが記載されている。引用された公刊物の中では、その水素化は、アルコール性溶媒中アンモニアの存在下に、不均一系ラネー金属触媒上で実施される。引用された方法においては、その水素化は、最初に、アルコール性溶媒の中にテトラ−N,N,N’,N’−(2−シアノエチル)−1,4−ジアミノブタンを(洗浄により水を除去した)触媒と共に導入し、次いでアンモニアを加え、水素を注入し、反応温度を調節することによって実施される。反応時間が終了したところで、水素圧力を下げ、濾過により触媒から分離し、蒸留によりその生成物を溶媒から分離する。
【0004】
上述の方法の欠点は、極めて大量の上記のラネー触媒を必要とする点にある。記述されている内で最も低い触媒量は、使用したテトラ−N,N,N’,N’−(2−シアノエチル)−1,4−ジアミノブタンの重量を基準にして、12.3重量%の乾燥触媒である。さらなる例においては、最高で51.8重量%までの乾燥触媒が使用されている。この触媒は、水の割合が50%の湿潤懸濁液として供給されるので、所望の製品を得ようとすると、使用されるテトラ−N,N,N’,N’−(2−シアノエチル)−1,4−ジアミノブタンの量の、約25から最高では100重量%を超える触媒量が必要となる。このことは、効率的かつ経済的なプロセス転化率を妨害し、より少ない量の触媒を使用して同等の良好な品質の製品を製造する方法が望まれることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第95/2008号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第A707 611号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的とするところは、アミノアルキルアミンを調製するための、より効率的で、より経済的な方法を提供することにあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことには、テトラ−N,N,N’,N’−(2−シアノエチル)−1,4−ジアミノブタンの溶液を、水素化条件下で、ラネー触媒と、溶媒、アンモニアおよび水素との混合物に連続的に、反応によって消費される量で添加すると、顕著に少ない量の触媒を使用して、高純度で、テトラ−N,N,N’,N’−(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンを調製することが可能であることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、式(III)または(IV)の関連するニトリルを水素化させることによって、
【化1】

式(I)または(II)の多官能アミンを調製するための方法からなっており、
【化2】

ここで、
Aが、非置換もしくは置換のフェニレンもしくはナフチレン、メチレン、非置換もしくは置換のエチレン、プロピレン、非置換もしくは置換の直鎖状もしくは分岐状のブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレンの群からの芳香族もしくは脂肪族化合物であり、そして
Bが、直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭素鎖、たとえば、メチレン、非置換もしくは置換のエチレン、プロピレン、非置換もしくは置換の直鎖状もしくは分岐状のブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレンであるが、ここで少なくとも1個のCH単位は、アミノ基に直接隣接する位置にある必要があり、そして
Xが、不在であるか、あるいは、直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭素鎖、たとえば、メチレン、非置換もしくは置換のエチレン、プロピレン、非置換もしくは置換の直鎖状もしくは分岐状のブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレンであり、
式(III)または(IV)で表されるニトリルの溶融物、溶液または懸濁液を、アンモニアおよび場合によっては選択率を向上させるためのその他の添加物を含む溶媒中の触媒の懸濁液または溶液に、反応時間全体にわたってポンプ注入し、60〜150℃の範囲の反応温度で、水素圧力下に撹拌することを特徴とする。
【0009】
下記の基を有する式(III)または(IV)のニトリルを使用するのが好ましい:
Xが、エチレン基であり、そして
Aが、メチレン、エチレン、プロピレン、n−ブチレン、n−ペンチレン、n−ヘキシレンの基から選択される。
【0010】
これらから、水素化によって、下記の基を有する式(I)および(II)のアミンが製造される:
Bが、プロピレン基であり、そして
Aが、メチレン、エチレン、プロピレン、n−ブチレン、n−ペンチレン、n−ヘキシレンの基から選択される。
【0011】
反応させる前に、ニトリルを溶融させるか、または、適切な溶媒中に溶解または懸濁させる。適切な溶媒は、水素化において通常使用されるもの、特に、水、アルコール、環状もしくは鎖状のエーテル、ハロゲン化もしくは非ハロゲン化脂肪族もしくは芳香族炭化水素などである。
【0012】
水またはアルコールを使用するのが好ましく、また特に好ましいのは、アルコールたとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらのアルコールと水との、水対アルコールの混合比が(1:50)から(10:1)までの混合物である。
【0013】
その反応は、たとえば、撹拌装置を有する密閉加圧容器中で実施する。筒型反応器の中における連続的な処理も同様に考え得る。
【0014】
水素化は、水素ガスの存在下に実施する。ニトリル基を完全に還元させるためには、十分な量の水素を加える必要がある。ニトリル基1個あたり、少なくとも2当量の量の水素が必要である。十分な量の水素は、通常、圧力下に水素を注入することによって得られる。本発明による方法においては、圧力下に反応器の中にまず水素を導入した後で、反応をスタートさせる。水素をまず、好ましくは10〜200barの圧力下、特に好ましくは50〜150barの圧力下に、導入する。
【0015】
反応器中の圧力は、アンモニアを存在させることによって、さらに加えられる。アンモニアは、水素化の選択率を調節して、好ましい一級アミンを形成させるのに役立つ。アンモニアが存在しないと、経験からは、反応の副生物として二級および三級のアミンが生成する。出発物質中でのアンモニア対ニトリル基のモル比が、ニトリル基1モルあたり、0.25〜2モルの間、好ましくは0.65〜1.25の間のアンモニアとなるようにするべきである。
【0016】
さらなる添加物が、同様に、一級アミンのための反応選択率を向上させるために役立つ可能性もある。たとえば、塩基性添加物、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムまたは酸化カルシウムが適している。
【0017】
反応の温度は、60〜150℃の値、好ましくは80〜120℃の値となるように調節する。
【0018】
水素化は、好適な触媒の存在下に実施する。このためには、通常は、水素化触媒、好ましくは不均一系水素化触媒が使用される。触媒としては、元素周期律表の第VIII族からのものが使用できるが、それらは、公知のように、ニトリルに対する水素化活性を示す。特に好ましいのは、ニッケル、コバルト、白金、パラジウムおよびロジウムであって、特に高い活性表面積を有するものが好ましい。そのためには、担体物質の上に金属を薄層の形で適用することが可能である。いわゆるラネー触媒たとえば、ラネーニッケルまたはラネーコバルトが特に好適である。これらの触媒は当業者には公知であり、いくつかのメーカーから市販されている。
【0019】
ラネーニッケルおよびラネーコバルトは、ニッケルまたはコバルトとアルミニウムとの合金である。それらには、それらの活性または選択率を向上させる目的で、他の金属たとえばクロムや鉄を含ませることもできる。特に、ニトリルの水素化において高い活性を得るためには、クロムを添加することが有利である。
【0020】
ラネー触媒は多くの場合、水性懸濁液として供給される。本発明の文脈においては、触媒は水湿潤状態で使用することもできるし、あるいは、洗浄することによって、供給された形の中の水を溶媒と交換させる。好適な溶媒は、既に先に述べた溶媒であるが、それらは、ニトリルをポンプ送入するのにも役立たせることができる。
【0021】
本発明においては、(場合によっては洗浄した)触媒を、最初に、溶媒、水素およびアンモニアと同時に反応器に導入し、反応条件下で撹拌する。
【0022】
使用される触媒の量はまず、使用する反応器の形状寸法および処理法に依存する。さらに、水素化すべき物質の量にもそれは支配される。驚くべきことには、従来技術に比較して、必要とされる触媒の量を、約半分に下げることが可能であり、しかも触媒の選択率および活性が低下することはないということが今や見出された。国際公開第95/2008号パンフレット、および欧州特許出願公開第A707 611号明細書には、必要な量としては、出発物質の12〜50重量%の乾燥触媒を使用するとの記載がある。本発明の方法においては、出発物質のほんの5〜8重量%の乾燥触媒で、式(III)および(IV)で表されるニトリルを、式(I)および(II)で表されるアミンへと、ほぼ完全な選択率で完全に転化させるのに十分である。
【0023】
反応器の内容物は、十分な量の水素が反応混合物の中に導入され、かつ触媒が十分に循環されて出発物質との間で相互反応ができるように、注意深く混合してやらなければならない。この目的のためには、反応器の内部に撹拌装置を有しているのが好適である。
【0024】
出発物質の溶融物、溶液、または懸濁液を、水素圧力に逆らいながら、反応器の中にポンプ注入することによって、反応を開始させる。その反応は、出発物質を滴下により導入する従って、同時に起きる。その反応時間は、そのポンプ操作の時間によって主として決まってくる。通常、ポンプ注入は、30分〜24時間以内、好ましくは1時間〜8時間以内で実施する。ポンプ注入操作が完了したときに、反応がまだ完全には終わっていないことが理由で、引き続き水素が吸収されることも起こりうる。水素の吸収が終了したら、その反応は終わりである。後反応時間は、典型的には、5分〜4時間のあいだである。
【0025】
反応の後、使用した触媒を濾過して、反応混合物から除く。この操作は、反応器の外にあるフィルターユニットで実施することも可能であるし、あるいは容器の中の、フィルターキャンドルおよびライザーチューブを使用することもできる。このようにすることで、その触媒を適切な廃棄へ送ったり、そうでなければリサイクルしたりすることができる。リサイクルさせるためには、その触媒を反応器の中に残しておいて直ちに再使用することもできるし、あるいは再活性化させてから次の使用に供することもできる。再活性化のためには、その触媒を、たとえば、高温でNaOHまたはKOHの水性溶液で洗浄し、その後で洗浄溶液がほとんど中性になるまで、水を用いて洗浄することができる。
【実施例】
【0026】
実施例1
720gのテトラ−N,N,N’,N’−(2−シアノエチル)−1,4−ジアミノブタンを、720gのメタノールの中に溶解させた。96gの水湿潤ラネーコバルト触媒、たとえば、Grace製のRaney2724(48gの乾燥触媒に相当する)を、室温で、メタノール100mLずつを用いて3回洗浄してから、320mLのメタノールを用いて、3LのVA鋼製オートクレーブの中に移し込んだ。オートクレーブを密閉し、窒素を3回注入して大気酸素を置換してから、連続的に撹拌しながら、200gのアンモニアを強制注入した。次いで、その混合物を撹拌しながら加熱して95℃とし、水素を用いて初期圧力を100barにまで上げた。LEWA高圧膜ポンプを使用して、反応溶液を4時間かけてオートクレーブの中にポンプ注入したが、その間も、反応混合物は激しく撹拌した。注入が終わったら、その混合物をさらに15分間撹拌し、次いで冷却して25℃とし、圧力低下させてから、オートクレーブの内容物を、(活性触媒による発火の危険性があるため)空気を排除しながら、オートクレーブから濾過して取り出した。生成したメタノール溶液を、ロータリーエバポレーターを用い、80℃、20mbarで濃縮した。735gのテトラ−N,N,N’,N’−(3−アミノプロピル)−1,4−ジアミノブタンが残った。GCによる純度は97%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式の関連するニトリルを、水素を用いて水素化することによって、
【化1】

下記の式の多官能アミンを調製するための方法であって、
【化2】

ここで、
Aが、非置換もしくは置換のフェニレンもしくはナフチレン、メチレン、非置換もしくは置換のエチレン、プロピレン、非置換もしくは置換の直鎖状もしくは分岐状のブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレンの群からの芳香族もしくは脂肪族化合物であり、そして
Bが、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭素鎖、たとえば、メチレン、非置換もしくは置換のエチレン、プロピレン、非置換もしくは置換の直鎖状もしくは分岐状のブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレンであるが、ここで少なくとも1個のCH単位は、アミノ基に直接隣接する位置にある必要があり、そして
Xが、不在であるか、あるいは、1〜10個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状の脂肪族炭素鎖、たとえば、メチレン、非置換もしくは置換のエチレン、プロピレン、非置換もしくは置換の直鎖状もしくは分岐状のブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレンであり、
前記式(III)または(IV)のニトリルの溶融物、溶液または懸濁液を、アンモニアおよび場合によっては他の添加物を含む溶媒中の、触媒の懸濁液または溶液に、反応時間全体にわたって添加し、60〜150℃の範囲の温度で、水素圧力下に撹拌することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記触媒が、場合によっては担持物質の上に、ニッケル、コバルト、白金、パラジウムまたはロジウムを含む水素化触媒であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アンモニアと出発物質中のニトリル基との間のモル比が、0.25〜2.00であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素圧力が、10〜200barの間であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはそれらのアルコールと水との混合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
Xがエチレン基であり、Aが、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、n−ペンチルまたはn−ヘキシル基であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは酸化カルシウムを添加物として添加することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記温度が80〜120℃の間であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−514724(P2010−514724A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543432(P2009−543432)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063798
【国際公開番号】WO2008/080784
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(506207853)サルティゴ・ゲーエムベーハー (35)
【Fターム(参考)】