アミノ糖化合物及びその生産方法
【課題】α-アミラーゼ阻害作用を有する医薬組成物、特に糖尿病治療用医薬組成物の有効成分として有用な化合物を提供する
【解決手段】本発明者らは、ストレプトマイセス属の放線菌であるストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)6982株の産生する化合物から、α-アミラーゼ阻害活性を有する化合物について検討したところ、アミノ糖化合物がα-アミラーゼ阻害作用を有することを確認し、本発明を完成した。本発明のアミノ糖化合物はα-アミラーゼ阻害作用を有し、糖尿病、肥満、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の予防及び/又は治療剤、殊として、食後過血糖の改善剤として使用しうる。
【解決手段】本発明者らは、ストレプトマイセス属の放線菌であるストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)6982株の産生する化合物から、α-アミラーゼ阻害活性を有する化合物について検討したところ、アミノ糖化合物がα-アミラーゼ阻害作用を有することを確認し、本発明を完成した。本発明のアミノ糖化合物はα-アミラーゼ阻害作用を有し、糖尿病、肥満、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の予防及び/又は治療剤、殊として、食後過血糖の改善剤として使用しうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬組成物、殊に糖尿病治療用医薬組成物の有効成分として有用なアミノ糖化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
食事摂取された多糖類は、口腔及び胃内において唾液由来α-アミラーゼにより一部消化され、次いで、十二指腸及び空腸内で膵臓由来α-アミラーゼにより大部分が消化されることで、二糖類やオリゴ糖となる。これらは小腸上皮微絨毛膜に局在するマルターゼ、スクラーゼに代表されるグルコシダーゼによって単糖へと加水分解され、単糖が腸管より吸収される。吸収された単糖は血中に移行し、血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌され、肝臓からの糖放出を低下させると共に、筋肉や脂肪組織への糖取り込みを増加させる事によって、上昇した血糖値を降下させ、その恒常性は保たれている。
【0003】
しかしながら、糖尿病態では、インスリンの分泌不全、あるいはインスリン抵抗性(インスリン作用不足)により、食後高血糖や空腹時高血糖などの慢性的な血糖制御不全状態に陥っている。
【0004】
近年、大規模臨床試験により、糖尿病性合併症の発症ならびに進展抑制には食後高血糖の是正が重要であることが確認された。食後高血糖はたとえ軽度であっても心血管死の独立した危険因子であることを示している。以上のような背景により、食後高血糖(例えば、食後2時間の血糖値が 200 mg/dL以上の状態)に対する薬物治療の重要かつ必要性が認識されるようになっている。
【0005】
食後高血糖の治療薬として、消化酵素阻害剤であるグルコシダーゼ阻害剤が臨床において実際に用いられている(例えば、アカルボースやボグリボース)。しかしながら、グルコシダーゼ阻害による、消化器症状(腹部膨満感、下痢、軟便、鼓腸、放屁など)が起こるという副作用が問題となっている。
【0006】
また、異なる食後高血糖の治療薬(消化酵素阻害薬)として、α-アミラーゼ阻害剤が挙げられる。グルコシダーゼを阻害すると、未消化のオリゴ糖(二糖類)を多く副生させるが、α-アミラーゼを阻害しても未消化のオリゴ糖(二糖類)は副生させる量が少ないため、下痢等の消化器症状を引き起こさずに糖の吸収阻害が発揮できると期待されている。
【0007】
まず、アミラーゼ阻害活性を有するアミノ糖化合物としては、ストレプトマイセス属の放線菌から単離されたトレスタチン誘導体(下記式、但し、式中nは1〜3を示す)が報告されている(特許文献1)。
【化5】
【0008】
また、α-アミラーゼ阻害活性を有するヘキサヒドロ-3,5,6-トリヒドロキシ-1H-アゼピンを必須骨格とするマルト-オリゴ糖化合物が報告されている(特許文献2)。
【化6】
(式中、nは0〜3を、XはH又は疎水性基を示す。)
【0009】
下式中nが0から3である末端に還元糖構造を有する化合物がα-アミラーゼ阻害活性を有することが知られている(非特許文献1)。
【化7】
【0010】
更に、下記に示す縮合環化合物が知られている(特許文献3、非特許文献2、3、4)。また、当該化合物がアミラーゼ阻害活性を有することも記載されているが、当該記載はそれを完全に証明するものではない(特許文献3)。
【化8】
【0011】
一方、下記に示す縮合環を有するアミノ糖化合物が知られている(非特許文献3)。
【化9】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭54-163511号公報
【特許文献2】米国特許第6596696号明細書
【特許文献3】特開昭50-58099号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Carbohydrate Research, 343 (2008), 882-892
【非特許文献2】J.Antibiotics, 34 (1981), 1429-1433
【非特許文献3】J.Antibiotics, 36 (1983), 1166-1175
【非特許文献4】J.Antibiotics, 36 (1983), 1157-1165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
医薬組成物、特に糖尿病治療用医薬組成物の有効成分として有用な化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
α-アミラーゼ阻害薬としては、消化管内で安定性を示す必要がある。消化管内において不安定であることは、その分解産物が吸収され、予期しない副作用を起こす可能性がある。
本発明者らは、医薬品の探索を目的として、微生物が産生する物質について鋭意検討した結果、ストレプトマイセス属の放線菌6982株が優れたα-アミラーゼ阻害活性を有する化合物を生産することを見い出して本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明は、式(I)
【化10】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
の化合物又はその塩、式(I)の化合物又はその塩、及び賦形剤を含有する医薬組成物、並びに、式(I)の化合物又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は式(II)
【化11】
の化合物又はその塩を製造原料とする式(I)の化合物又はその塩の製造法に関する。また、式(II)の化合物のうち、nが4又は5である化合物は新規化合物であり、本発明は当該化合物又はその塩にも関する。更に、本発明は、式(I)及び/又は(II)の化合物又はその塩を含有する組成物にも関する。
【0017】
また、本発明は、培地中で、α−アミラーゼ阻害活性を有する化合物又はその塩を産生するストレプトマイセス属の微生物を培養し、その培養液から当該化合物又はその塩を回収することにより得られた、α−アミラーゼ阻害活性を有し、分子式がC113H187N5O76、又は、C132H218 N6O88の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩、及びこれらの化合物又はその塩を含有する組成物、あるいはこれらの化合物又はその塩の製造方法に関する。
さらに、本発明は、式(I)の化合物又はその塩を含有する糖尿病の予防用及び/又は治療用医薬組成物、即ち、式(I)の化合物又はその塩を含有する糖尿病治療剤に関する。
また、本発明は、糖尿病の予防用及び/又は治療用医薬組成物の製造のための式(I)の化合物又はその塩の使用、若しくは、糖尿病の予防及び/又は治療のための式(I)の化合物又はその塩の使用、並びに、式(I)の化合物又はその塩の有効量を患者に投与することからなる糖尿病の予防及び/又は治療方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
式(I)及び(II)の化合物又はその塩は、α-アミラーゼ阻害作用を有し、糖尿病、肥満、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)等の予防及び/又は治療剤として使用できる。また、グルコシダーゼ阻害剤とは異なり、下痢等の消化器症状を引き起こさずに糖の吸収阻害が発揮できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、化合物Aの1H-NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は、化合物Aの13C-NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、化合物Bの1H-NMRスペクトルを示す。
【図4】図4は、化合物Bの13C-NMRスペクトルを示す。
【図5】図5は、化合物Eの1H-NMRスペクトルを示す。
【図6】図6は、化合物Eの13C-NMRスペクトルを示す。
【図7】図7は、化合物Fの1H-NMRスペクトルを示す。
【図8】図8は、化合物Fの13C-NMRスペクトルを示す。
【図9】図9は、化合物Gの1H-NMRスペクトルを示す。
【図10】図10は、化合物Gの13C-NMRスペクトルを示す。
【図11】図11は、化合物Hの1H-NMRスペクトルを示す。
【図12】図12は、化合物Hの13C-NMRスペクトルを示す。
【図13】図13は、炭水化物負荷時の化合物Aによる血糖上昇抑制作用を示す。(A)は血糖値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【図14】図14は、炭水化物負荷時の化合物Gによる血糖上昇抑制作用を示す。(A)は血糖値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【図15】図15は、炭水化物負荷時の化合物Aによるインスリン上昇抑制作用を示す。(A)はインスリン値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【図16】図16は、炭水化物負荷時の化合物Gによるインスリン上昇抑制作用を示す。(A)はインスリン値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
例えば、本発明の化合物(I)において、nが4の化合物は、下式で示される化合物を意味する。
【化12】
また、例えば、本発明の化合物(II)において、nが4の化合物は、下式で示される化合物を意味する。
【0021】
【化13】
【0022】
式(I)及び(II)の化合物には、幾何異性体が存在しうる。本明細書中、式(I)及び(II)の化合物が異性体の一形態のみで記載されることがあるが、本発明は、それ以外の異性体も包含し、異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
また、式(I)及び(II)の化合物には、不斉炭素原子に基づく光学異性体が存在しうる。本発明は、式(I)及び(II)の化合物の光学異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
【0023】
さらに、本発明は、式(I)及び(II)で示される化合物の製薬学的に許容されるプロドラッグも包含する。製薬学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で、アミノ基、水酸基等に変換されうる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、例えば、Prog. Med., 5, 2157-2161(1985)や、「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0024】
また、式(I)及び(II)の化合物の塩とは、式(I)及び(II)の化合物の製薬学的に許容される塩であり、酸付加塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、が挙げられる。
【0025】
さらに、本発明は、式(I)及び(II)の化合物及びその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0026】
本明細書において、「末端に非還元糖構造を有する化合物」とは、構造上末端に位置する糖のアノマー位で、隣接する糖のヒドロキシ基とグリコシド結合を形成している天然物等の化合物を意味し、特に限定されないが、例えば、前述のトレスタチン等が挙げられる。
【0027】
(生産方法)
本発明の化合物は、ストレプトマイセス属に属し、かつ該化合物又はその製薬学的に許容される塩の生産能を有する微生物を用いて製造することができる。このような微生物として好ましくは、沖縄県西表島で採取された土壌より分離されたストレプトマイセス属に属するストレプトマイセス エスピ-(Streptomyces sp.)6982株である。本菌株の菌学的性状は次の通りである。
【0028】
ストレプトマイセス エスピー6982株は、沖縄県西表島で採集された土壌サンプルから分離された。本菌株の形態、培養性状、生理的性質を調べるための培地および方法は、主にシャーリング、ゴットリーブ(Shirling, E. B. and D. Gottlieb: Methods for characterization of Streptomyces species. Int. J. Syst. Bacteriol. 16, 313-340, 1966)、および、ワックスマン(Waksman, S. A.: The actinomycetes Vol. 2: Classification, identification and description of genera and species: The Williams and Wilkins Co., Baltimore, 1961)に従った。培養温度30℃、培養日数は14日間、培養した後に観察した。
【0029】
形態観察は、酵母エキス-デンプン寒天培地において培養した後に、光学および走査型電子顕微鏡で観察することにより判定した。酵母エキス-デンプン寒天は、粉末酵母エキスS(和光純薬製)2.0 g、可溶性デンプン10 g および寒天16 gを含む水道水 1 Lの溶液を、1M NaOH水溶液でpH=7.2に調製した後、オートクレーブで滅菌して調製した。生育温度は、酵母エキス-デンプン寒天で判定した。炭素源の利用性は、プリドハム・ゴットリーブの培地(Pridoham,T.G. and D. Gottlieb: The utilization of carbon compounds by some Actinomycetales as an acid for species determination: J. Bacteriol. 56: 107-114,1948)において判定した。
【0030】
色名は「メシューエン・ハンドブック・オブ・カラー」( Kornerup, A. and J. H. Wanscher: Methuen Handbook of Colour, Methuen, London, 1978)から引用した。
【0031】
細胞壁のアミノ酸の分析は、ベッカーらの方法に従った(Becker, B., M. P. Lechevalier, R. E. Gordon and H. A. Lechevalier: Rapid differentiation between Nocardia and Streptomyces by paper chromatography of whole-cell hydrolysates: Appl. Microbiol. 12, 421-423, 1964)。
【0032】
16SrDNAの塩基配列は、中川らの方法に従って決定した(中川恭好、川▲崎▼浩子、放線菌の分類と同定 pp. 83-117. 2001年日本放線菌学会編: 東京、日本学会事務センター)。
【0033】
相同性検索は、国立遺伝学研究所のウェブサイトのFASTA検索
(a) http://www. ddbj. nig.ac.jp
(b)D. J. Lipman, W. R. Pearson: Rapid and sensitive protein similarity searches, Science, 227, 1435-1441 (1985) 及び
(c) W. R. Pearson, D. J. Lipman: Improved tools for biological sequence comparison, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 2444-2448 (1988)
を用い、基準株の16SrDNA塩基配列は国立遺伝学研究所のデータベース(http:// www.ddbj.nig.ac.jp)より入手した。
【0034】
系統樹はClustal Wパッケージを用いて近隣結合法により作成した(Clustal W Thompson, J.D., Higgins, D.G. and Gibson, T.J.: CLUSTAL W: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alighnment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice. Nucleic Acids Res. 22, 4673-4680, 1994)。
【0035】
また、ストレプトマイセス エスピー6982株とその近縁株とのDNA相同性は、以下の文献に示される江崎らの方法により確認できる。
(a)Ezaki, T., Hashimoto, Y., Takeuchi, T., Yamamoto, H., Liu, S.-L., Matsui, K & Yabuuchi, E., J Clin Microbiol., 26, (1988) 1708-1713
(b)Ezaki, T., Hashimoto, Y. & Yabuuchi, E., Int J Syst Bacteriol., 39, (1989) 224-229
【0036】
本明細書において「近縁株」とは、ストレプトマイセス エスピー6982株と16SrDNAの塩基配列の相同値が97%以上である菌株をいう。尚、16SrDNAの塩基配列の相同値が97%未満である場合、それらは別種と判断されることが知られている。
Stackebrandt, E. & Goebel, B. M., Int J Syst Bacteriol., 44, (1994) 846-849
【0037】
(1)形態的特徴
基生菌糸はよく発達し、不規則に分枝した。気菌糸は不完全ならせん状を呈し、10個以上の分節胞子連鎖で形成されていた。胞子の表面は平滑、形状は楕円状、サイズは1.2 x 1.0μmであった。菌核、胞子嚢、基生菌糸の断裂、遊走子は観察されなかった。
【0038】
(2)培養性状
気菌糸は、酵母エキス-デンプン寒天、酵母エキス-麦芽エキス寒天、オートミール寒天、無機塩-デンプン寒天、グリセリン-アスパラギン寒天上で、良好な着生を示し、チロシン寒天上ではかすかに着生が認められた。ペプトン-酵母エキス-鉄寒天上では気菌糸着生は認められなかった。気菌糸の色は灰色味褐色、褐色味灰色であった。生育裏面の色は黄色味褐色、褐色味ベージュ、灰色味黄色、淡黄色、褐色味橙色、淡橙色であった。トリプトン-酵母エキス培地及びペプトン-酵母エキス-鉄寒天上で、メラノイド色素の産生は認められなかった。可溶性色素の産生が認められなかった。菌体内色素はpHにより変化しなかった。
【0039】
これらの各培地上での生育状況を表1に示した。略号は次の意味を示す。G:生育 A:気菌糸 R:生育裏面の色 S:可溶性色素
【0040】
【表1】
【0041】
(3)細胞壁タイプ
全菌体分解物を分析した結果、アミノ酸としてLL-ジアミノピメリン酸の存在が確認できた。
【0042】
(4)生理学的性質
D-グルコース、シュークロース、D-キシロース、D-フルクトース、L-ラムノース、ラフィノース、L-アラビノース、イノシトール、D-マンニトールの利用性は陽性であった。表2に、ストレプトマイセス エスピー6982株の生理学的特徴を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
(5)16SrDNA塩基配列による解析
ストレプトマイセス エスピー6982株の16SrDNA部分塩基配列を、後記配列表に示した。相同性検索の結果、相同値が99.2 %であるストレプトマイセス グラウセセンス DSM40716株(Accession No:X79322)が最も近縁な株であった。また、ストレプトマイセス属の基準種の基準株であるストレプトマイセス アルブス NBRC 13014株(Accession No: AB184257)との相同値は、96.2 %であった。また、16SrDNA部分塩基配列により作成した系統樹では、ストレプトマイセス各種と同一のクラスターを形成した。
【0045】
(6)同定
下記文献(a)〜(d)を参考に、形態観察、化学分析および16SrDNA塩基配列による解析の結果から、本菌株はストレプトマイセス属に属すると考えられる。
(a)Euzeby, J.P.: List of Bacterial names with standing in nomenclature: a folder available on the internet. Int. J. Syst. Bacteriol., 1997, 47, pp.590-592.
(b) Waksman, S.A., et al.: The nomenclature and classification of the actinomycetes. Journal of Bacteriology, 1943, 46, pp.337-341.
(c) Williams, S. T: Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, Vol. 4. 1989.
(d) Zhang, Z.et al.: A proposal to revive the genus Kitastospora Int. J. Syst. Bacteriol., 1997, 47, pp.1048-1054.
【0046】
そこで本菌株をストレプトマイセス エスピー 6982株と命名した。本菌株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国、〒305-8566、茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託番号FERM BP-10802 (受託日2007年3月22日)として国際寄託されている。
また、微生物は人工的に又は自然に変異を起こすので、本発明は、ストレプトマイセス エスピー6982株を、天然から分離された微生物の他に、これを紫外線、X線、化学薬剤などで人工的に変異させたもの及びそれらの天然変異株についても包含する。
【0047】
本発明のアミノ糖誘導体は、ストレプトマイセス属に属しかつα-アミラーゼ活性を有する化合物の生産能を有する微生物、好ましくは、当該アミノ糖誘導体生産能を有する微生物、さらに好ましくはストレプトマイセス エスピー6982株を、栄養源を含有する培地に接種し好気的に発育させることにより得ることが出来る。
【0048】
培養に用いられる培地は、使用する微生物が生育可能な培地であればよく、合成培地、半合成培地あるいは天然培地を用いることができる。
【0049】
栄養物としては、本発明の菌株が資化する栄養源を使用すればよい。例えば、窒素源としては、きな粉、脱脂大豆粉、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、綿実粉、落花生粉、大豆粉、酵母エキス、乾燥酵母、NZ-アミン、カゼインの水解物、魚粉、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の無機または有機の窒素源が使用できる。炭素源としては、ポテトスターチ、コーンスターチなどのデンプン、糖蜜、デキストリン、ショ糖、グルコース、マルトース、トレハロース、フラクトース、キシロース、ラムノース、マンニトール、グリセリン等の炭水化物あるいは脂肪等が使用できるが、好ましくはデンプン及びきな粉である。
【0050】
また金属塩として、Na、K、Mg、Ca、Zn、Fe等の硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩等が必要に応じて添加されるが、好ましくは炭酸カルシウム及び/又はNaClである。さらに必要に応じて通常知られているアミノ酸類や、オレイン酸メチル、ラード油、シリコーン油、界面活性剤等の生成促進化合物または消泡剤が適宜使用される。これらのもの以外でも、該生産菌が利用し、本発明化合物の生産に役立つものであれば所望により使用することができる。
【0051】
培養は、一般の抗生物質製造における培養と同様に行えばよく、その培養方法は固体培養でも液体培養でもよい。液体培養の場合は静置培養、振とう培養、攪拌培養のいずれを実施してもよく、例えば、通気攪拌培養で実施してもよい。培養条件として、培養温度は生産菌が発育し、本発明の化合物を生産しうる温度、すなわち15〜42℃の範囲で適宜適用できるが約20〜30℃が好ましく、23〜27℃がより好ましい。pHは4〜9の範囲で適宜適用できるが、6〜8が好ましい。培養時間は種々の条件によって異なり、通常1〜30日の範囲で適宜適用できるが、4〜10日が好ましい。
【0052】
また、式(I)の化合物又はその塩は、培養により生産した式(II)の化合物又はその塩を塩基性条件下で処理することにより製造できる。ここで、「塩基性条件下で処理する」とは、以下の反応条件で反応させることを意味する。本反応は、反応に不活性な溶媒中、又は無溶媒下、冷却下から加熱下、好ましくは室温から100℃において通常0.1時間〜5日間撹拌して行われる。本反応で用いられる塩基としては、特に限定されないが、ナトリウム tert-ブトキシド、炭酸カリウム、ビス(メチルシリル)ナトリウムアミド、KOH若しくはNaOH等が挙げられ、反応系のpHとしては、11〜14であり、好ましくは、12〜14である。
尚、本反応は、式(II)の化合物を培養液から精製若しくは単離した後に行ってもよい。また、式(II)の化合物を含む培養液若しくは組成物を用いて本反応を行った後に、式(I)の化合物を精製若しくは単離してもよい。
【化14】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
【0053】
培養物から目的とする化合物を単離するには、微生物の代謝産物を単離する際に用いる通常の抽出、分離、精製の手段が適宜利用できる。培養物中の該物質は培養液をそのままか、又は遠心分離あるいは培養物にろ過助剤を加えてろ過によってろ液を得る。この際、培養液にアセトン、MeOH、EtOH、MeCNなどの有機溶剤を加えても良く、所望によりpH調節のため塩酸等を加えてもよい。また、ろ液を適宜の担体に接触させ、ろ液中の生産物質を吸着させ、次いで適当な溶媒で溶出することにより該物質を分離することができる。例えば、アンバーライト(登録商標)XAD2、ダイヤイオン(登録商標)HP20、ダイヤイオンCHP20P、又はダイヤイオンSP850のような多孔性吸着樹脂に接触させて該物質を吸着させる。次いで、アセトン、MeOH、EtOH、MeCN等の有機溶媒と水の混合液を用いて該物質を溶出させる。所望によりpH調節のため塩酸等を加えてもよい。このときの有機溶媒の混合比率を低濃度より段階的に又は連続的に高濃度まで上げていくことにより、該物質を含む画分を効率よく得ることができる場合がある。
【0054】
式(I)及び(II)の化合物は、遊離化合物、その塩、水和物、溶媒和物、あるいは結晶多形の物質として単離され、精製される。式(I)及び(II)の化合物の塩は、常法の造塩反応に付すことにより製造することもできる。単離、精製は、抽出、分別結晶化、各種分画クロマトグラフィー等、通常の化学操作を適用して行なわれる。
【0055】
本明細書において、「回収」とは、本発明化合物(I)及び/若しくは(II)を単体であるいは組成物として入手するために行われる操作を意味し、「精製」や「単離」を含む。
【0056】
本明細書において、「精製」には、本発明化合物を「単離」することを目的として行われる操作を含み、「精製」により本発明化合物が「単離」されてもよい。
【0057】
各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより製造でき、あるいは異性体間の物理化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は、ラセミ体の一般的な光学分割法(例えば、光学活性な塩基又は酸とのジアステレオマー塩に導く分別結晶化や、キラルカラム等を用いたクロマトグラフィー等)により得ることもできる。
【0058】
式(I)及び/又は(II)の化合物又はその塩を含有する組成物とは、式(I)又は(II)の化合物を精製若しくは単離する段階において得られる組成物を包含し、また医薬の製造原体として使用し得るものも包含する。特に限定されないが、例えば、1種又は2種以上の式(I)の化合物又はその塩と、1種又は2種以上の式(II)の化合物又はその塩、アカルビオスタチンIV03等の活性成分若しくは他の成分との混合物が挙げられる。また、別の態様としては、式(I)の化合物又はその塩、及び/又は、式(II)の化合物のうちnが4又は5である化合物又はその塩を含有する組成物である。
【0059】
式(I)の化合物又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
尚、特に限定されないが、本発明化合物の使用態様としては、経口投与が好ましい。
【0060】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
【0061】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はEtOHを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0062】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、EtOHのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通すろ過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0063】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ロ-ション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はロ-ション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノーステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0064】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調製剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0065】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.01〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜10 mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2回〜4回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001〜100 mg/kgを1日1回〜複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0066】
式(I)及び(II)の化合物は、前述の式(I)及び(II)の化合物が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤及び/又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づき、式(I)及び(II)の化合物の製造法をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の化合物に限定されるものではない。また、式(I)及び(II)の化合物の製造法は、以下に示される具体的実施例の製造法のみに限定されるものではなく、式(I)及び(II)の化合物はこれらの製造法の組み合わせ、あるいは当業者に自明である方法によっても製造されうる。
【0068】
本明細書において以下の略号を用いることがある。
EtOH:エタノール、
MeCN:アセトニトリル、
MeOH:メタノール、
NaCl:塩化ナトリウム、
NaOH:水酸化ナトリウム、
TFA:トリフルオロ酢酸。
【0069】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではない。
【0070】
実施例1
(培養)
種培地は、500 mL容の三角フラスコに、可溶性デンプン 20 g、パインデックス#3(松谷化学社製) 10 g、きな粉 20 g及び蒸留水1 Lを含む培地(pH=7.0)を、100 mLずつ分注し、121℃で30分間オートクレーブで滅菌することにより調製した。
この種培地に、ストレプトマイセス エスピー6982株の斜面培養物を、1白金耳分接種し、30℃で3日間、振とう培養した。
生産培地は、30 L容のジャーファーメンターに、パインデックス#100(松谷化学社製) 1000 g、きな粉 600 g、アデカノール(ADEKA社製) 20 gおよびシリコン(信越化学社製) 20 gおよび蒸留水20 Lを含む培地を注ぎ、121℃で30分間滅菌することにより調製した。
この生産培地に、前記の種培養液を、500 mLずつ接種し、25℃で4日間培養した。
【0071】
(培養液からの粗精製)
上記の培養方法により得られた培養液90 Lを47% 硫酸水溶液でpH=3に調整した後、吸引ろ過した。ろ液を6 M NaOH水溶液でpH=8に調整した後、ダイヤイオンHP20(樹脂量5 L)に通液し、10% MeOH水溶液で洗浄した後、25%及び50% MeOH水溶液で溶出した。
【0072】
この活性画分をDOWEX 50W X1 (ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社製)陽イオン交換樹脂(樹脂量 2 L)に通液し、0.5 M NaCl水溶液で洗浄した後、3 M NaCl水溶液で溶出した。
次いで、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量2 L、ダイソー社製)を用いて、15%、20%、25% MeOH水溶液で溶出した。
【0073】
実施例2
(1) 化合物A、Gの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た化合物Aを含む20% MeOH水溶液を、ダイソーパックSP-120-10−ODS-B(50 mm I.D. x 250 mm、ダイソー社製)に通液し、3%、4%、5% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
上記の4%、5% MeOH溶出区を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量80 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、640 mgの粉末を得た。
粉末100 mgを水に溶解して、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)を用いて、3% - 6% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物A(66 mg)を得た。
上記の3% MeOH溶出区に6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量157 mL)に通液し、20% MeOH水溶液で溶出した。
溶出区を減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物G(65 mg)を得た。
【0074】
(2) 化合物B、Hの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た化合物Bを含む25% MeOH水溶液を、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量177 mL)に通液し、7% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
上記の7% MeOH溶出区の一部を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、150 mgの粉末を得た。
凍結乾燥粉末を水に溶解して、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)を用いて、2% - 5% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物B(106 mg)を得た。
上記の7% MeOH溶出区の一部に6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量157 mL)に通液し、20%、25% MeOH水溶液で溶出した。
溶出区を減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物H(58 mg)を得た。
(3) 化合物Dの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た15% MeOH水溶液の一部を減圧濃縮し、凍結乾燥により、3.5 gの粉末を得た。
上記粉末300 mgを水に溶解して、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm、東ソー社製)に通液し、70% - 60% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、10% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物D(6.9 mg)を得た。
【0075】
(4) 化合物Eの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た15% MeOH水溶液の一部を減圧濃縮し、凍結乾燥により、7 gの粉末を得た。
上記粉末600 mgを水に溶解して、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm)に通液し、65% - 55% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)に通液し、15% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物E(29 mg)を得た。
【0076】
(5) 化合物Fの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た20% MeOH水溶液の一部を減圧濃縮し、凍結乾燥により、4.6 gの粉末を得た。
上記粉末600 mgを水に溶解して、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm)に通液し、65% - 55% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)に通液し、15% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物F(45 mg)を得た。
【0077】
参考例1
(6) 化合物Cの精製・単離
アカルボース100 mgを水に溶解し、て、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm)に通液し、80% - 75% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を減圧濃縮した後、活性炭に通液し、50 % MeOH水溶液で溶出した。その後、活性画分を減圧濃縮し、凍結乾燥して化合物C(65 mg)を得た。
【0078】
化合物A、B、E、F、G及びHの物理化学的性質
上記抽出、分離、精製された化合物A、B、E、F、G及びHは、それぞれ以下の物理化学的性質を有した。
(1)化合物A
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +172°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C113H187N5O76
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1416.0539
実測値 [M+2H]2+ 1416.0536
6)元素分析:C113H187N5O76 17H2Oとして
計算値:C 43.25%, H 7.10%, N 2.23%
実測値:C 43.09%, H 7.13%, N 2.34%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 1640, 1385, 1150, 1025
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図1に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図2に示す。
【0079】
(2)化合物B
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +148°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C132H218N6O88
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1648.6462
実測値 [M+2H]2+ 1648.6459
6)元素分析:C132H218N6O88 19H2Oとして
計算値:C 43.56%, H 7.09%, N 2.31%
実測値:C 43.44%, H 7.08%, N 2.25%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 1640, 1150, 1040
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図3に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図4に示す。
【0080】
(3)化合物E
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +92°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C51H83N3O31
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 1234.5089
実測値 [M+H]+ 1234.5093
6)元素分析:C51H83N3O31 13H2Oとして
計算値:C 41.72%, H 7.48%, N 2.86%
実測値:C 40.62%, H 6.52%, N 2.70%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3375, 2930, 2360, 1635, 1415, 1045, 930
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図5に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図6に示す。
【0081】
(4)化合物F
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +119°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C70H114N4O43
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 1699.6935
実測値 [M+H]+ 1699.6938
6)元素分析:C70H114N4O43 17H2Oとして
計算値:C 41.91%, H 7.44%, N 2.79%
実測値:C 41.12%, H 6.70%, N 2.83%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 2360, 1640, 1385, 1045, 930
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図7に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図8に示す。
【0082】
(5)化合物G
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +122°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C89H145N5O55
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1082.9430
実測値 [M+2H]2+ 1082.9429
6)元素分析:C89H145N5O55 11H2Oとして
計算値:C 45.23%, H 7.12%, N 2.96%
実測値:C 44.99%, H 7.25%, N 3.12%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3365, 2930, 2360, 1640, 1385, 1150, 1045
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図9に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図10に示す。
【0083】
(6)化合物H
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +135°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C108H176N6O67
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1315.5353
実測値 [M+2H]2+ 1315.5356
6)元素分析:C108H176N6O67 15H2Oとして
計算値:C 44.72%, H 7.16%, H 2.90%
実測値:C 44.68%, H 7.12%, H 2.85%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 2360, 1640, 1390, 1150, 1045, 925
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図11に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図12に示す。
【0084】
化合物C及びDの物理化学的性質
上記抽出、分離、精製された化合物C及びDは、それぞれ以下の物理化学的性質を有した。
(7)化合物C
1)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 304.1396
実測値 [M+H]+ 304.1393
(8)化合物D
1)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 769.3241
実測値 [M+H]+ 769.3242
【0085】
上記の物理化学的性質から化合物A、B、E、F、G及びHの化学構造を、下記のように決定した。
【化15】
上記式中、化合物A;n=4及び化合物B;n=5。
【化16】
上記式中、化合物E;n=2、化合物F;n=3、化合物G;n=4及び化合物H;n=5。
また、化合物C及びDの化学構造は、上記の物理化学的性質及び下記文献から下式のように同定した。
化合物C:
【化17】
化合物D:
【化18】
[文献]
J.Antibiotics, 34 (1981), 1429-1433
J.Antibiotics, 36 (1983), 1166-1175
J.Antibiotics, 36 (1983), 1156-1165
特開昭50-58099号公報
【0086】
実施例2
本発明化合物のα-アミラーゼ阻害活性は以下の方法で確認した。
(1)実験方法
マウス、ラット、イヌ及びサル膵臓α-アミラーゼ溶液はICRマウス(雄、8週齢、日本SLCより購入)、SDラット(雄、8週齢、日本チャールスリバーより購入)、ビーグルイヌ(雄、35ヶ月齢、株式会社ナルクより購入)及びカニクイザル(雄、10歳、日本クレアより購入)膵臓より調製した。ヒト唾液及び膵臓α-アミラーゼ溶液はSigma-Aldrich Co.より購入した酵素より調製した。これらのα-アミラーゼ溶液は全てアッセイバッファー(48 mM NaCl、5.4 mM KCl、28 mM Na2HPO4、43 mM NaH2PO4、35 mM マンニトール、pH=7.0)を用いて800 U/mLになるように希釈調製した。96-wellマイクロプレートに各種α-アミラーゼ溶液(20 U、25μL)及びアッセイバッファーで溶解調製した化合物(25μL)を添加して37℃、10分間インキュベーションした。その後,デンプン溶液 (5 mg/mL、50μL)を添加して10分間、37℃でインキュベーションした。0.33 M過塩素酸溶液(50μL)を添加して酵素反応を停止させた後、0.01 Mヨウ素溶液(50μL)を添加して呈色させ、吸光度(660 nm)を測定した。α-アミラーゼ活性を50%阻害する化合物の濃度をIC50値として算出した。
(2)結果
単離化合物のα-アミラーゼ阻害活性を表3にまとめた。本発明化合物である化合物A、B、E、F、G及びHは検討を行った全ての種のα-アミラーゼに対して優れた阻害活性を有していた。また、これらの化合物は、化合物C及びDと比較して、有利なα-アミラーゼ阻害活性が確認された。
【表3】
【0087】
実施例3
本発明化合物の経口活性を以下の方法で確認した。
(1)実験方法
動物は雄性ICR(正常)マウス(6週齢、日本SLCより購入)を使用した。化合物は0.5% メチルセルロース溶液を用いて溶解液を調製した。一晩絶食させたマウスより血糖値及び血漿インスリン値測定用採血を行い、溶媒もしくは化合物AまたはG(0.3、1、3、10 mg/kg)を経口投与し、直ちに炭水化物溶液(75 mg/mLデンプン、25 mg/mLスクロース、20 mL/kg)を経口投与した。次いで、0.25、0.5及び1時間後に血漿インスリン値測定用採血を、0.5、1及び2時間後に血糖値測定用採血を行った。
血糖値はグルコースCII-テストワコー試薬(和光純薬)を用いて、血漿インスリン濃度はマウスインスリンELISAキット(株式会社シバヤギ)を用いてそれぞれ測定した。試験結果は平均値±標準誤差で示した。
化合物投与後2時間までの血糖値より血糖値-時間曲線下面積 (AUC)を、1時間までの血漿インスリン値より血漿インスリン値-時間AUCを算出して、溶媒投与群と化合物AまたはG投与群間でDunnett's multiple range testを用いて検定を行い、危険率5% 未満を有意とした。
(2)結果
化合物AおよびG(0.3から10 mg/kg)の経口投与により用量依存的な血糖上昇抑制作用が認められ、その作用は1 mg/kg以上の用量において有意であった(図13、14)。この時、用量依存的かつ有意な血漿インスリン値の低下作用も併せて認められた(図15、16)。
【0088】
上記試験の結果、式(I)及び(II)の化合物はα-アミラーゼ阻害、血糖値及び血漿インスリン値の低下作用を有することが確認され、糖尿病等の治療等に使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
式(I)及び(II)の化合物又はその塩は、α-アミラーゼ阻害作用を有し、糖尿病、肥満、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)等の予防及び/又は治療剤として使用できる。また、グルコシダーゼ阻害剤と異なり、下痢等の消化器症状を引き起こさずに糖の吸収を阻害できると期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
ストレプトマイセス エスピー6982株の16SrDNA部分塩基配列を配列表に示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬組成物、殊に糖尿病治療用医薬組成物の有効成分として有用なアミノ糖化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
食事摂取された多糖類は、口腔及び胃内において唾液由来α-アミラーゼにより一部消化され、次いで、十二指腸及び空腸内で膵臓由来α-アミラーゼにより大部分が消化されることで、二糖類やオリゴ糖となる。これらは小腸上皮微絨毛膜に局在するマルターゼ、スクラーゼに代表されるグルコシダーゼによって単糖へと加水分解され、単糖が腸管より吸収される。吸収された単糖は血中に移行し、血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌され、肝臓からの糖放出を低下させると共に、筋肉や脂肪組織への糖取り込みを増加させる事によって、上昇した血糖値を降下させ、その恒常性は保たれている。
【0003】
しかしながら、糖尿病態では、インスリンの分泌不全、あるいはインスリン抵抗性(インスリン作用不足)により、食後高血糖や空腹時高血糖などの慢性的な血糖制御不全状態に陥っている。
【0004】
近年、大規模臨床試験により、糖尿病性合併症の発症ならびに進展抑制には食後高血糖の是正が重要であることが確認された。食後高血糖はたとえ軽度であっても心血管死の独立した危険因子であることを示している。以上のような背景により、食後高血糖(例えば、食後2時間の血糖値が 200 mg/dL以上の状態)に対する薬物治療の重要かつ必要性が認識されるようになっている。
【0005】
食後高血糖の治療薬として、消化酵素阻害剤であるグルコシダーゼ阻害剤が臨床において実際に用いられている(例えば、アカルボースやボグリボース)。しかしながら、グルコシダーゼ阻害による、消化器症状(腹部膨満感、下痢、軟便、鼓腸、放屁など)が起こるという副作用が問題となっている。
【0006】
また、異なる食後高血糖の治療薬(消化酵素阻害薬)として、α-アミラーゼ阻害剤が挙げられる。グルコシダーゼを阻害すると、未消化のオリゴ糖(二糖類)を多く副生させるが、α-アミラーゼを阻害しても未消化のオリゴ糖(二糖類)は副生させる量が少ないため、下痢等の消化器症状を引き起こさずに糖の吸収阻害が発揮できると期待されている。
【0007】
まず、アミラーゼ阻害活性を有するアミノ糖化合物としては、ストレプトマイセス属の放線菌から単離されたトレスタチン誘導体(下記式、但し、式中nは1〜3を示す)が報告されている(特許文献1)。
【化5】
【0008】
また、α-アミラーゼ阻害活性を有するヘキサヒドロ-3,5,6-トリヒドロキシ-1H-アゼピンを必須骨格とするマルト-オリゴ糖化合物が報告されている(特許文献2)。
【化6】
(式中、nは0〜3を、XはH又は疎水性基を示す。)
【0009】
下式中nが0から3である末端に還元糖構造を有する化合物がα-アミラーゼ阻害活性を有することが知られている(非特許文献1)。
【化7】
【0010】
更に、下記に示す縮合環化合物が知られている(特許文献3、非特許文献2、3、4)。また、当該化合物がアミラーゼ阻害活性を有することも記載されているが、当該記載はそれを完全に証明するものではない(特許文献3)。
【化8】
【0011】
一方、下記に示す縮合環を有するアミノ糖化合物が知られている(非特許文献3)。
【化9】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭54-163511号公報
【特許文献2】米国特許第6596696号明細書
【特許文献3】特開昭50-58099号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Carbohydrate Research, 343 (2008), 882-892
【非特許文献2】J.Antibiotics, 34 (1981), 1429-1433
【非特許文献3】J.Antibiotics, 36 (1983), 1166-1175
【非特許文献4】J.Antibiotics, 36 (1983), 1157-1165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
医薬組成物、特に糖尿病治療用医薬組成物の有効成分として有用な化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
α-アミラーゼ阻害薬としては、消化管内で安定性を示す必要がある。消化管内において不安定であることは、その分解産物が吸収され、予期しない副作用を起こす可能性がある。
本発明者らは、医薬品の探索を目的として、微生物が産生する物質について鋭意検討した結果、ストレプトマイセス属の放線菌6982株が優れたα-アミラーゼ阻害活性を有する化合物を生産することを見い出して本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明は、式(I)
【化10】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
の化合物又はその塩、式(I)の化合物又はその塩、及び賦形剤を含有する医薬組成物、並びに、式(I)の化合物又はその塩の製造方法に関する。
また、本発明は式(II)
【化11】
の化合物又はその塩を製造原料とする式(I)の化合物又はその塩の製造法に関する。また、式(II)の化合物のうち、nが4又は5である化合物は新規化合物であり、本発明は当該化合物又はその塩にも関する。更に、本発明は、式(I)及び/又は(II)の化合物又はその塩を含有する組成物にも関する。
【0017】
また、本発明は、培地中で、α−アミラーゼ阻害活性を有する化合物又はその塩を産生するストレプトマイセス属の微生物を培養し、その培養液から当該化合物又はその塩を回収することにより得られた、α−アミラーゼ阻害活性を有し、分子式がC113H187N5O76、又は、C132H218 N6O88の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩、及びこれらの化合物又はその塩を含有する組成物、あるいはこれらの化合物又はその塩の製造方法に関する。
さらに、本発明は、式(I)の化合物又はその塩を含有する糖尿病の予防用及び/又は治療用医薬組成物、即ち、式(I)の化合物又はその塩を含有する糖尿病治療剤に関する。
また、本発明は、糖尿病の予防用及び/又は治療用医薬組成物の製造のための式(I)の化合物又はその塩の使用、若しくは、糖尿病の予防及び/又は治療のための式(I)の化合物又はその塩の使用、並びに、式(I)の化合物又はその塩の有効量を患者に投与することからなる糖尿病の予防及び/又は治療方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
式(I)及び(II)の化合物又はその塩は、α-アミラーゼ阻害作用を有し、糖尿病、肥満、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)等の予防及び/又は治療剤として使用できる。また、グルコシダーゼ阻害剤とは異なり、下痢等の消化器症状を引き起こさずに糖の吸収阻害が発揮できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、化合物Aの1H-NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は、化合物Aの13C-NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は、化合物Bの1H-NMRスペクトルを示す。
【図4】図4は、化合物Bの13C-NMRスペクトルを示す。
【図5】図5は、化合物Eの1H-NMRスペクトルを示す。
【図6】図6は、化合物Eの13C-NMRスペクトルを示す。
【図7】図7は、化合物Fの1H-NMRスペクトルを示す。
【図8】図8は、化合物Fの13C-NMRスペクトルを示す。
【図9】図9は、化合物Gの1H-NMRスペクトルを示す。
【図10】図10は、化合物Gの13C-NMRスペクトルを示す。
【図11】図11は、化合物Hの1H-NMRスペクトルを示す。
【図12】図12は、化合物Hの13C-NMRスペクトルを示す。
【図13】図13は、炭水化物負荷時の化合物Aによる血糖上昇抑制作用を示す。(A)は血糖値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【図14】図14は、炭水化物負荷時の化合物Gによる血糖上昇抑制作用を示す。(A)は血糖値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【図15】図15は、炭水化物負荷時の化合物Aによるインスリン上昇抑制作用を示す。(A)はインスリン値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【図16】図16は、炭水化物負荷時の化合物Gによるインスリン上昇抑制作用を示す。(A)はインスリン値の経時変化、(B)はAUCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
例えば、本発明の化合物(I)において、nが4の化合物は、下式で示される化合物を意味する。
【化12】
また、例えば、本発明の化合物(II)において、nが4の化合物は、下式で示される化合物を意味する。
【0021】
【化13】
【0022】
式(I)及び(II)の化合物には、幾何異性体が存在しうる。本明細書中、式(I)及び(II)の化合物が異性体の一形態のみで記載されることがあるが、本発明は、それ以外の異性体も包含し、異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
また、式(I)及び(II)の化合物には、不斉炭素原子に基づく光学異性体が存在しうる。本発明は、式(I)及び(II)の化合物の光学異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
【0023】
さらに、本発明は、式(I)及び(II)で示される化合物の製薬学的に許容されるプロドラッグも包含する。製薬学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で、アミノ基、水酸基等に変換されうる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、例えば、Prog. Med., 5, 2157-2161(1985)や、「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0024】
また、式(I)及び(II)の化合物の塩とは、式(I)及び(II)の化合物の製薬学的に許容される塩であり、酸付加塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、が挙げられる。
【0025】
さらに、本発明は、式(I)及び(II)の化合物及びその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0026】
本明細書において、「末端に非還元糖構造を有する化合物」とは、構造上末端に位置する糖のアノマー位で、隣接する糖のヒドロキシ基とグリコシド結合を形成している天然物等の化合物を意味し、特に限定されないが、例えば、前述のトレスタチン等が挙げられる。
【0027】
(生産方法)
本発明の化合物は、ストレプトマイセス属に属し、かつ該化合物又はその製薬学的に許容される塩の生産能を有する微生物を用いて製造することができる。このような微生物として好ましくは、沖縄県西表島で採取された土壌より分離されたストレプトマイセス属に属するストレプトマイセス エスピ-(Streptomyces sp.)6982株である。本菌株の菌学的性状は次の通りである。
【0028】
ストレプトマイセス エスピー6982株は、沖縄県西表島で採集された土壌サンプルから分離された。本菌株の形態、培養性状、生理的性質を調べるための培地および方法は、主にシャーリング、ゴットリーブ(Shirling, E. B. and D. Gottlieb: Methods for characterization of Streptomyces species. Int. J. Syst. Bacteriol. 16, 313-340, 1966)、および、ワックスマン(Waksman, S. A.: The actinomycetes Vol. 2: Classification, identification and description of genera and species: The Williams and Wilkins Co., Baltimore, 1961)に従った。培養温度30℃、培養日数は14日間、培養した後に観察した。
【0029】
形態観察は、酵母エキス-デンプン寒天培地において培養した後に、光学および走査型電子顕微鏡で観察することにより判定した。酵母エキス-デンプン寒天は、粉末酵母エキスS(和光純薬製)2.0 g、可溶性デンプン10 g および寒天16 gを含む水道水 1 Lの溶液を、1M NaOH水溶液でpH=7.2に調製した後、オートクレーブで滅菌して調製した。生育温度は、酵母エキス-デンプン寒天で判定した。炭素源の利用性は、プリドハム・ゴットリーブの培地(Pridoham,T.G. and D. Gottlieb: The utilization of carbon compounds by some Actinomycetales as an acid for species determination: J. Bacteriol. 56: 107-114,1948)において判定した。
【0030】
色名は「メシューエン・ハンドブック・オブ・カラー」( Kornerup, A. and J. H. Wanscher: Methuen Handbook of Colour, Methuen, London, 1978)から引用した。
【0031】
細胞壁のアミノ酸の分析は、ベッカーらの方法に従った(Becker, B., M. P. Lechevalier, R. E. Gordon and H. A. Lechevalier: Rapid differentiation between Nocardia and Streptomyces by paper chromatography of whole-cell hydrolysates: Appl. Microbiol. 12, 421-423, 1964)。
【0032】
16SrDNAの塩基配列は、中川らの方法に従って決定した(中川恭好、川▲崎▼浩子、放線菌の分類と同定 pp. 83-117. 2001年日本放線菌学会編: 東京、日本学会事務センター)。
【0033】
相同性検索は、国立遺伝学研究所のウェブサイトのFASTA検索
(a) http://www. ddbj. nig.ac.jp
(b)D. J. Lipman, W. R. Pearson: Rapid and sensitive protein similarity searches, Science, 227, 1435-1441 (1985) 及び
(c) W. R. Pearson, D. J. Lipman: Improved tools for biological sequence comparison, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 2444-2448 (1988)
を用い、基準株の16SrDNA塩基配列は国立遺伝学研究所のデータベース(http:// www.ddbj.nig.ac.jp)より入手した。
【0034】
系統樹はClustal Wパッケージを用いて近隣結合法により作成した(Clustal W Thompson, J.D., Higgins, D.G. and Gibson, T.J.: CLUSTAL W: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alighnment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice. Nucleic Acids Res. 22, 4673-4680, 1994)。
【0035】
また、ストレプトマイセス エスピー6982株とその近縁株とのDNA相同性は、以下の文献に示される江崎らの方法により確認できる。
(a)Ezaki, T., Hashimoto, Y., Takeuchi, T., Yamamoto, H., Liu, S.-L., Matsui, K & Yabuuchi, E., J Clin Microbiol., 26, (1988) 1708-1713
(b)Ezaki, T., Hashimoto, Y. & Yabuuchi, E., Int J Syst Bacteriol., 39, (1989) 224-229
【0036】
本明細書において「近縁株」とは、ストレプトマイセス エスピー6982株と16SrDNAの塩基配列の相同値が97%以上である菌株をいう。尚、16SrDNAの塩基配列の相同値が97%未満である場合、それらは別種と判断されることが知られている。
Stackebrandt, E. & Goebel, B. M., Int J Syst Bacteriol., 44, (1994) 846-849
【0037】
(1)形態的特徴
基生菌糸はよく発達し、不規則に分枝した。気菌糸は不完全ならせん状を呈し、10個以上の分節胞子連鎖で形成されていた。胞子の表面は平滑、形状は楕円状、サイズは1.2 x 1.0μmであった。菌核、胞子嚢、基生菌糸の断裂、遊走子は観察されなかった。
【0038】
(2)培養性状
気菌糸は、酵母エキス-デンプン寒天、酵母エキス-麦芽エキス寒天、オートミール寒天、無機塩-デンプン寒天、グリセリン-アスパラギン寒天上で、良好な着生を示し、チロシン寒天上ではかすかに着生が認められた。ペプトン-酵母エキス-鉄寒天上では気菌糸着生は認められなかった。気菌糸の色は灰色味褐色、褐色味灰色であった。生育裏面の色は黄色味褐色、褐色味ベージュ、灰色味黄色、淡黄色、褐色味橙色、淡橙色であった。トリプトン-酵母エキス培地及びペプトン-酵母エキス-鉄寒天上で、メラノイド色素の産生は認められなかった。可溶性色素の産生が認められなかった。菌体内色素はpHにより変化しなかった。
【0039】
これらの各培地上での生育状況を表1に示した。略号は次の意味を示す。G:生育 A:気菌糸 R:生育裏面の色 S:可溶性色素
【0040】
【表1】
【0041】
(3)細胞壁タイプ
全菌体分解物を分析した結果、アミノ酸としてLL-ジアミノピメリン酸の存在が確認できた。
【0042】
(4)生理学的性質
D-グルコース、シュークロース、D-キシロース、D-フルクトース、L-ラムノース、ラフィノース、L-アラビノース、イノシトール、D-マンニトールの利用性は陽性であった。表2に、ストレプトマイセス エスピー6982株の生理学的特徴を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
(5)16SrDNA塩基配列による解析
ストレプトマイセス エスピー6982株の16SrDNA部分塩基配列を、後記配列表に示した。相同性検索の結果、相同値が99.2 %であるストレプトマイセス グラウセセンス DSM40716株(Accession No:X79322)が最も近縁な株であった。また、ストレプトマイセス属の基準種の基準株であるストレプトマイセス アルブス NBRC 13014株(Accession No: AB184257)との相同値は、96.2 %であった。また、16SrDNA部分塩基配列により作成した系統樹では、ストレプトマイセス各種と同一のクラスターを形成した。
【0045】
(6)同定
下記文献(a)〜(d)を参考に、形態観察、化学分析および16SrDNA塩基配列による解析の結果から、本菌株はストレプトマイセス属に属すると考えられる。
(a)Euzeby, J.P.: List of Bacterial names with standing in nomenclature: a folder available on the internet. Int. J. Syst. Bacteriol., 1997, 47, pp.590-592.
(b) Waksman, S.A., et al.: The nomenclature and classification of the actinomycetes. Journal of Bacteriology, 1943, 46, pp.337-341.
(c) Williams, S. T: Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, Vol. 4. 1989.
(d) Zhang, Z.et al.: A proposal to revive the genus Kitastospora Int. J. Syst. Bacteriol., 1997, 47, pp.1048-1054.
【0046】
そこで本菌株をストレプトマイセス エスピー 6982株と命名した。本菌株は独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国、〒305-8566、茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託番号FERM BP-10802 (受託日2007年3月22日)として国際寄託されている。
また、微生物は人工的に又は自然に変異を起こすので、本発明は、ストレプトマイセス エスピー6982株を、天然から分離された微生物の他に、これを紫外線、X線、化学薬剤などで人工的に変異させたもの及びそれらの天然変異株についても包含する。
【0047】
本発明のアミノ糖誘導体は、ストレプトマイセス属に属しかつα-アミラーゼ活性を有する化合物の生産能を有する微生物、好ましくは、当該アミノ糖誘導体生産能を有する微生物、さらに好ましくはストレプトマイセス エスピー6982株を、栄養源を含有する培地に接種し好気的に発育させることにより得ることが出来る。
【0048】
培養に用いられる培地は、使用する微生物が生育可能な培地であればよく、合成培地、半合成培地あるいは天然培地を用いることができる。
【0049】
栄養物としては、本発明の菌株が資化する栄養源を使用すればよい。例えば、窒素源としては、きな粉、脱脂大豆粉、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、綿実粉、落花生粉、大豆粉、酵母エキス、乾燥酵母、NZ-アミン、カゼインの水解物、魚粉、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の無機または有機の窒素源が使用できる。炭素源としては、ポテトスターチ、コーンスターチなどのデンプン、糖蜜、デキストリン、ショ糖、グルコース、マルトース、トレハロース、フラクトース、キシロース、ラムノース、マンニトール、グリセリン等の炭水化物あるいは脂肪等が使用できるが、好ましくはデンプン及びきな粉である。
【0050】
また金属塩として、Na、K、Mg、Ca、Zn、Fe等の硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩等が必要に応じて添加されるが、好ましくは炭酸カルシウム及び/又はNaClである。さらに必要に応じて通常知られているアミノ酸類や、オレイン酸メチル、ラード油、シリコーン油、界面活性剤等の生成促進化合物または消泡剤が適宜使用される。これらのもの以外でも、該生産菌が利用し、本発明化合物の生産に役立つものであれば所望により使用することができる。
【0051】
培養は、一般の抗生物質製造における培養と同様に行えばよく、その培養方法は固体培養でも液体培養でもよい。液体培養の場合は静置培養、振とう培養、攪拌培養のいずれを実施してもよく、例えば、通気攪拌培養で実施してもよい。培養条件として、培養温度は生産菌が発育し、本発明の化合物を生産しうる温度、すなわち15〜42℃の範囲で適宜適用できるが約20〜30℃が好ましく、23〜27℃がより好ましい。pHは4〜9の範囲で適宜適用できるが、6〜8が好ましい。培養時間は種々の条件によって異なり、通常1〜30日の範囲で適宜適用できるが、4〜10日が好ましい。
【0052】
また、式(I)の化合物又はその塩は、培養により生産した式(II)の化合物又はその塩を塩基性条件下で処理することにより製造できる。ここで、「塩基性条件下で処理する」とは、以下の反応条件で反応させることを意味する。本反応は、反応に不活性な溶媒中、又は無溶媒下、冷却下から加熱下、好ましくは室温から100℃において通常0.1時間〜5日間撹拌して行われる。本反応で用いられる塩基としては、特に限定されないが、ナトリウム tert-ブトキシド、炭酸カリウム、ビス(メチルシリル)ナトリウムアミド、KOH若しくはNaOH等が挙げられ、反応系のpHとしては、11〜14であり、好ましくは、12〜14である。
尚、本反応は、式(II)の化合物を培養液から精製若しくは単離した後に行ってもよい。また、式(II)の化合物を含む培養液若しくは組成物を用いて本反応を行った後に、式(I)の化合物を精製若しくは単離してもよい。
【化14】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
【0053】
培養物から目的とする化合物を単離するには、微生物の代謝産物を単離する際に用いる通常の抽出、分離、精製の手段が適宜利用できる。培養物中の該物質は培養液をそのままか、又は遠心分離あるいは培養物にろ過助剤を加えてろ過によってろ液を得る。この際、培養液にアセトン、MeOH、EtOH、MeCNなどの有機溶剤を加えても良く、所望によりpH調節のため塩酸等を加えてもよい。また、ろ液を適宜の担体に接触させ、ろ液中の生産物質を吸着させ、次いで適当な溶媒で溶出することにより該物質を分離することができる。例えば、アンバーライト(登録商標)XAD2、ダイヤイオン(登録商標)HP20、ダイヤイオンCHP20P、又はダイヤイオンSP850のような多孔性吸着樹脂に接触させて該物質を吸着させる。次いで、アセトン、MeOH、EtOH、MeCN等の有機溶媒と水の混合液を用いて該物質を溶出させる。所望によりpH調節のため塩酸等を加えてもよい。このときの有機溶媒の混合比率を低濃度より段階的に又は連続的に高濃度まで上げていくことにより、該物質を含む画分を効率よく得ることができる場合がある。
【0054】
式(I)及び(II)の化合物は、遊離化合物、その塩、水和物、溶媒和物、あるいは結晶多形の物質として単離され、精製される。式(I)及び(II)の化合物の塩は、常法の造塩反応に付すことにより製造することもできる。単離、精製は、抽出、分別結晶化、各種分画クロマトグラフィー等、通常の化学操作を適用して行なわれる。
【0055】
本明細書において、「回収」とは、本発明化合物(I)及び/若しくは(II)を単体であるいは組成物として入手するために行われる操作を意味し、「精製」や「単離」を含む。
【0056】
本明細書において、「精製」には、本発明化合物を「単離」することを目的として行われる操作を含み、「精製」により本発明化合物が「単離」されてもよい。
【0057】
各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより製造でき、あるいは異性体間の物理化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は、ラセミ体の一般的な光学分割法(例えば、光学活性な塩基又は酸とのジアステレオマー塩に導く分別結晶化や、キラルカラム等を用いたクロマトグラフィー等)により得ることもできる。
【0058】
式(I)及び/又は(II)の化合物又はその塩を含有する組成物とは、式(I)又は(II)の化合物を精製若しくは単離する段階において得られる組成物を包含し、また医薬の製造原体として使用し得るものも包含する。特に限定されないが、例えば、1種又は2種以上の式(I)の化合物又はその塩と、1種又は2種以上の式(II)の化合物又はその塩、アカルビオスタチンIV03等の活性成分若しくは他の成分との混合物が挙げられる。また、別の態様としては、式(I)の化合物又はその塩、及び/又は、式(II)の化合物のうちnが4又は5である化合物又はその塩を含有する組成物である。
【0059】
式(I)の化合物又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
尚、特に限定されないが、本発明化合物の使用態様としては、経口投与が好ましい。
【0060】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
【0061】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はEtOHを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0062】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、EtOHのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通すろ過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0063】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ロ-ション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はロ-ション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノーステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0064】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調製剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0065】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.01〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜10 mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2回〜4回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001〜100 mg/kgを1日1回〜複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0066】
式(I)及び(II)の化合物は、前述の式(I)及び(II)の化合物が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤及び/又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づき、式(I)及び(II)の化合物の製造法をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の化合物に限定されるものではない。また、式(I)及び(II)の化合物の製造法は、以下に示される具体的実施例の製造法のみに限定されるものではなく、式(I)及び(II)の化合物はこれらの製造法の組み合わせ、あるいは当業者に自明である方法によっても製造されうる。
【0068】
本明細書において以下の略号を用いることがある。
EtOH:エタノール、
MeCN:アセトニトリル、
MeOH:メタノール、
NaCl:塩化ナトリウム、
NaOH:水酸化ナトリウム、
TFA:トリフルオロ酢酸。
【0069】
以下、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではない。
【0070】
実施例1
(培養)
種培地は、500 mL容の三角フラスコに、可溶性デンプン 20 g、パインデックス#3(松谷化学社製) 10 g、きな粉 20 g及び蒸留水1 Lを含む培地(pH=7.0)を、100 mLずつ分注し、121℃で30分間オートクレーブで滅菌することにより調製した。
この種培地に、ストレプトマイセス エスピー6982株の斜面培養物を、1白金耳分接種し、30℃で3日間、振とう培養した。
生産培地は、30 L容のジャーファーメンターに、パインデックス#100(松谷化学社製) 1000 g、きな粉 600 g、アデカノール(ADEKA社製) 20 gおよびシリコン(信越化学社製) 20 gおよび蒸留水20 Lを含む培地を注ぎ、121℃で30分間滅菌することにより調製した。
この生産培地に、前記の種培養液を、500 mLずつ接種し、25℃で4日間培養した。
【0071】
(培養液からの粗精製)
上記の培養方法により得られた培養液90 Lを47% 硫酸水溶液でpH=3に調整した後、吸引ろ過した。ろ液を6 M NaOH水溶液でpH=8に調整した後、ダイヤイオンHP20(樹脂量5 L)に通液し、10% MeOH水溶液で洗浄した後、25%及び50% MeOH水溶液で溶出した。
【0072】
この活性画分をDOWEX 50W X1 (ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社製)陽イオン交換樹脂(樹脂量 2 L)に通液し、0.5 M NaCl水溶液で洗浄した後、3 M NaCl水溶液で溶出した。
次いで、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量2 L、ダイソー社製)を用いて、15%、20%、25% MeOH水溶液で溶出した。
【0073】
実施例2
(1) 化合物A、Gの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た化合物Aを含む20% MeOH水溶液を、ダイソーパックSP-120-10−ODS-B(50 mm I.D. x 250 mm、ダイソー社製)に通液し、3%、4%、5% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
上記の4%、5% MeOH溶出区を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量80 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、640 mgの粉末を得た。
粉末100 mgを水に溶解して、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)を用いて、3% - 6% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物A(66 mg)を得た。
上記の3% MeOH溶出区に6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量157 mL)に通液し、20% MeOH水溶液で溶出した。
溶出区を減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物G(65 mg)を得た。
【0074】
(2) 化合物B、Hの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た化合物Bを含む25% MeOH水溶液を、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量177 mL)に通液し、7% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
上記の7% MeOH溶出区の一部を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、150 mgの粉末を得た。
凍結乾燥粉末を水に溶解して、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)を用いて、2% - 5% MeOH水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、50% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物B(106 mg)を得た。
上記の7% MeOH溶出区の一部に6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量157 mL)に通液し、20%、25% MeOH水溶液で溶出した。
溶出区を減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物H(58 mg)を得た。
(3) 化合物Dの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た15% MeOH水溶液の一部を減圧濃縮し、凍結乾燥により、3.5 gの粉末を得た。
上記粉末300 mgを水に溶解して、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm、東ソー社製)に通液し、70% - 60% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーゲルSP-120-15/30-ODS-B(樹脂量20 mL)に通液し、10% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物D(6.9 mg)を得た。
【0075】
(4) 化合物Eの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た15% MeOH水溶液の一部を減圧濃縮し、凍結乾燥により、7 gの粉末を得た。
上記粉末600 mgを水に溶解して、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm)に通液し、65% - 55% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)に通液し、15% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物E(29 mg)を得た。
【0076】
(5) 化合物Fの精製・単離
前記のODSカラムクロマトグラフィーで得た20% MeOH水溶液の一部を減圧濃縮し、凍結乾燥により、4.6 gの粉末を得た。
上記粉末600 mgを水に溶解して、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm)に通液し、65% - 55% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を6 M NaOH水溶液でpH=7に調整し、ダイソーパックSP-120-5−ODS-B(20 mm I.D. x 250 mm)に通液し、15% MeOH水溶液で溶出した。溶出区は減圧濃縮した後、凍結乾燥により、化合物F(45 mg)を得た。
【0077】
参考例1
(6) 化合物Cの精製・単離
アカルボース100 mgを水に溶解し、て、6 M NaOH水溶液を最終濃度0.1 Mになるように添加し、60℃で3時間加温した。その後、6 M HCl水溶液でpH=7に調整し、TSKgel Amide-80(21.5 mm I.D. x 300 mm)に通液し、80% - 75% MeCN水溶液(0.05% TFA含有)で溶出した。
この活性画分を減圧濃縮した後、活性炭に通液し、50 % MeOH水溶液で溶出した。その後、活性画分を減圧濃縮し、凍結乾燥して化合物C(65 mg)を得た。
【0078】
化合物A、B、E、F、G及びHの物理化学的性質
上記抽出、分離、精製された化合物A、B、E、F、G及びHは、それぞれ以下の物理化学的性質を有した。
(1)化合物A
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +172°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C113H187N5O76
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1416.0539
実測値 [M+2H]2+ 1416.0536
6)元素分析:C113H187N5O76 17H2Oとして
計算値:C 43.25%, H 7.10%, N 2.23%
実測値:C 43.09%, H 7.13%, N 2.34%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 1640, 1385, 1150, 1025
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図1に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図2に示す。
【0079】
(2)化合物B
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +148°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C132H218N6O88
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1648.6462
実測値 [M+2H]2+ 1648.6459
6)元素分析:C132H218N6O88 19H2Oとして
計算値:C 43.56%, H 7.09%, N 2.31%
実測値:C 43.44%, H 7.08%, N 2.25%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 1640, 1150, 1040
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図3に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図4に示す。
【0080】
(3)化合物E
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +92°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C51H83N3O31
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 1234.5089
実測値 [M+H]+ 1234.5093
6)元素分析:C51H83N3O31 13H2Oとして
計算値:C 41.72%, H 7.48%, N 2.86%
実測値:C 40.62%, H 6.52%, N 2.70%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3375, 2930, 2360, 1635, 1415, 1045, 930
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図5に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図6に示す。
【0081】
(4)化合物F
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +119°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C70H114N4O43
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 1699.6935
実測値 [M+H]+ 1699.6938
6)元素分析:C70H114N4O43 17H2Oとして
計算値:C 41.91%, H 7.44%, N 2.79%
実測値:C 41.12%, H 6.70%, N 2.83%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 2360, 1640, 1385, 1045, 930
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図7に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図8に示す。
【0082】
(5)化合物G
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +122°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C89H145N5O55
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1082.9430
実測値 [M+2H]2+ 1082.9429
6)元素分析:C89H145N5O55 11H2Oとして
計算値:C 45.23%, H 7.12%, N 2.96%
実測値:C 44.99%, H 7.25%, N 3.12%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3365, 2930, 2360, 1640, 1385, 1150, 1045
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図9に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図10に示す。
【0083】
(6)化合物H
1)色及び形状:白色粉末。
2)酸性、中性、塩基性の区分:塩基性。
3)比旋光度:[α]23D +135°(c=0.5、H2O)
4)分子式:C108H176N6O67
5)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+2H]2+ 1315.5353
実測値 [M+2H]2+ 1315.5356
6)元素分析:C108H176N6O67 15H2Oとして
計算値:C 44.72%, H 7.16%, H 2.90%
実測値:C 44.68%, H 7.12%, H 2.85%
7)溶解性:水、DMF、DMSOにはよく溶けるが、アセトン、MeOH、MeCNにはほとんど溶けない。
8)紫外部吸収スペクトル(溶剤:水):末端吸収を示す
9)赤外部吸収スペクトル(νmax (KBr)cm-1):3390, 2930, 2360, 1640, 1390, 1150, 1045, 925
10)1H-NMRスペクトル(500MHz,D2O):図11に示す。
11)13C-NMRスペクトル(125MHz,D2O):図12に示す。
【0084】
化合物C及びDの物理化学的性質
上記抽出、分離、精製された化合物C及びDは、それぞれ以下の物理化学的性質を有した。
(7)化合物C
1)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 304.1396
実測値 [M+H]+ 304.1393
(8)化合物D
1)高分解能TOF-マススペクトル: 理論値 [M+H]+ 769.3241
実測値 [M+H]+ 769.3242
【0085】
上記の物理化学的性質から化合物A、B、E、F、G及びHの化学構造を、下記のように決定した。
【化15】
上記式中、化合物A;n=4及び化合物B;n=5。
【化16】
上記式中、化合物E;n=2、化合物F;n=3、化合物G;n=4及び化合物H;n=5。
また、化合物C及びDの化学構造は、上記の物理化学的性質及び下記文献から下式のように同定した。
化合物C:
【化17】
化合物D:
【化18】
[文献]
J.Antibiotics, 34 (1981), 1429-1433
J.Antibiotics, 36 (1983), 1166-1175
J.Antibiotics, 36 (1983), 1156-1165
特開昭50-58099号公報
【0086】
実施例2
本発明化合物のα-アミラーゼ阻害活性は以下の方法で確認した。
(1)実験方法
マウス、ラット、イヌ及びサル膵臓α-アミラーゼ溶液はICRマウス(雄、8週齢、日本SLCより購入)、SDラット(雄、8週齢、日本チャールスリバーより購入)、ビーグルイヌ(雄、35ヶ月齢、株式会社ナルクより購入)及びカニクイザル(雄、10歳、日本クレアより購入)膵臓より調製した。ヒト唾液及び膵臓α-アミラーゼ溶液はSigma-Aldrich Co.より購入した酵素より調製した。これらのα-アミラーゼ溶液は全てアッセイバッファー(48 mM NaCl、5.4 mM KCl、28 mM Na2HPO4、43 mM NaH2PO4、35 mM マンニトール、pH=7.0)を用いて800 U/mLになるように希釈調製した。96-wellマイクロプレートに各種α-アミラーゼ溶液(20 U、25μL)及びアッセイバッファーで溶解調製した化合物(25μL)を添加して37℃、10分間インキュベーションした。その後,デンプン溶液 (5 mg/mL、50μL)を添加して10分間、37℃でインキュベーションした。0.33 M過塩素酸溶液(50μL)を添加して酵素反応を停止させた後、0.01 Mヨウ素溶液(50μL)を添加して呈色させ、吸光度(660 nm)を測定した。α-アミラーゼ活性を50%阻害する化合物の濃度をIC50値として算出した。
(2)結果
単離化合物のα-アミラーゼ阻害活性を表3にまとめた。本発明化合物である化合物A、B、E、F、G及びHは検討を行った全ての種のα-アミラーゼに対して優れた阻害活性を有していた。また、これらの化合物は、化合物C及びDと比較して、有利なα-アミラーゼ阻害活性が確認された。
【表3】
【0087】
実施例3
本発明化合物の経口活性を以下の方法で確認した。
(1)実験方法
動物は雄性ICR(正常)マウス(6週齢、日本SLCより購入)を使用した。化合物は0.5% メチルセルロース溶液を用いて溶解液を調製した。一晩絶食させたマウスより血糖値及び血漿インスリン値測定用採血を行い、溶媒もしくは化合物AまたはG(0.3、1、3、10 mg/kg)を経口投与し、直ちに炭水化物溶液(75 mg/mLデンプン、25 mg/mLスクロース、20 mL/kg)を経口投与した。次いで、0.25、0.5及び1時間後に血漿インスリン値測定用採血を、0.5、1及び2時間後に血糖値測定用採血を行った。
血糖値はグルコースCII-テストワコー試薬(和光純薬)を用いて、血漿インスリン濃度はマウスインスリンELISAキット(株式会社シバヤギ)を用いてそれぞれ測定した。試験結果は平均値±標準誤差で示した。
化合物投与後2時間までの血糖値より血糖値-時間曲線下面積 (AUC)を、1時間までの血漿インスリン値より血漿インスリン値-時間AUCを算出して、溶媒投与群と化合物AまたはG投与群間でDunnett's multiple range testを用いて検定を行い、危険率5% 未満を有意とした。
(2)結果
化合物AおよびG(0.3から10 mg/kg)の経口投与により用量依存的な血糖上昇抑制作用が認められ、その作用は1 mg/kg以上の用量において有意であった(図13、14)。この時、用量依存的かつ有意な血漿インスリン値の低下作用も併せて認められた(図15、16)。
【0088】
上記試験の結果、式(I)及び(II)の化合物はα-アミラーゼ阻害、血糖値及び血漿インスリン値の低下作用を有することが確認され、糖尿病等の治療等に使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
式(I)及び(II)の化合物又はその塩は、α-アミラーゼ阻害作用を有し、糖尿病、肥満、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)等の予防及び/又は治療剤として使用できる。また、グルコシダーゼ阻害剤と異なり、下痢等の消化器症状を引き起こさずに糖の吸収を阻害できると期待される。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
ストレプトマイセス エスピー6982株の16SrDNA部分塩基配列を配列表に示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物又はその塩。
【化1】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
【請求項2】
下記の化合物又はその塩。
【化2】
【請求項3】
下記の化合物又はその塩。
【化3】
【請求項4】
式(II)
【化4】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
の化合物又はその塩を塩基性条件下で処理することを特徴とする請求項1記載の式(I)の化合物又はその塩の製造法。
【請求項5】
ストレプトマイセス属の微生物の培養液から、精製若しくは単離された、
式(I)の化合物又はその塩、及び/又は、式(II)の化合物のうちnが4又は5である化合物又はその塩を含有する組成物。
【請求項6】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
培地中で、α−アミラーゼ阻害活性を有する化合物又はその塩を産生するストレプトマイセス属の微生物を培養し、その培養液から当該化合物又はその塩を回収することにより得られた、α−アミラーゼ阻害活性を有し、分子式がC113H187N5O76、又は、C132H218 N6O88の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩。
【請求項8】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項7記載の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩。
【請求項9】
ストレプトマイセス属の微生物の培養液から、精製若しくは単離することを特徴とする請求項2若しくは3記載の化合物又はその塩の生産方法。
【請求項10】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項9記載の生産方法。
【請求項11】
培地中で、α−アミラーゼ阻害活性を有する化合物を産生するストレプトマイセス属の微生物を培養し、その培養液から当該化合物を回収することを含む、α−アミラーゼ阻害活性を有し、分子式がC113H187N5O76、又は、C132H218 N6O88の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩の生産方法。
【請求項12】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項11記載の生産方法。
【請求項13】
請求項1記載の化合物又はその塩、及び製薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物。
【請求項14】
請求項1記載の化合物又はその塩を含有する糖尿病の予防用若しくは治療用医薬組成物。
【請求項15】
糖尿病の予防及び/又は治療用医薬組成物の製造のための請求項1記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項16】
糖尿病の予防及び/又は治療のための請求項1記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項17】
請求項1記載の化合物又はその塩の有効量を患者に投与することからなる糖尿病の予防及び/又は治療方法。
【請求項1】
式(I)の化合物又はその塩。
【化1】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
【請求項2】
下記の化合物又はその塩。
【化2】
【請求項3】
下記の化合物又はその塩。
【化3】
【請求項4】
式(II)
【化4】
(式中、nは、2、3、4、又は、5である。)
の化合物又はその塩を塩基性条件下で処理することを特徴とする請求項1記載の式(I)の化合物又はその塩の製造法。
【請求項5】
ストレプトマイセス属の微生物の培養液から、精製若しくは単離された、
式(I)の化合物又はその塩、及び/又は、式(II)の化合物のうちnが4又は5である化合物又はその塩を含有する組成物。
【請求項6】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
培地中で、α−アミラーゼ阻害活性を有する化合物又はその塩を産生するストレプトマイセス属の微生物を培養し、その培養液から当該化合物又はその塩を回収することにより得られた、α−アミラーゼ阻害活性を有し、分子式がC113H187N5O76、又は、C132H218 N6O88の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩。
【請求項8】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項7記載の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩。
【請求項9】
ストレプトマイセス属の微生物の培養液から、精製若しくは単離することを特徴とする請求項2若しくは3記載の化合物又はその塩の生産方法。
【請求項10】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項9記載の生産方法。
【請求項11】
培地中で、α−アミラーゼ阻害活性を有する化合物を産生するストレプトマイセス属の微生物を培養し、その培養液から当該化合物を回収することを含む、α−アミラーゼ阻害活性を有し、分子式がC113H187N5O76、又は、C132H218 N6O88の化合物(ただし、末端に非還元糖構造を有する化合物を除く)又はその塩の生産方法。
【請求項12】
ストレプトマイセス属の微生物が、ストレプトマイセス エスピー6982株(FERM BP-10802号)である請求項11記載の生産方法。
【請求項13】
請求項1記載の化合物又はその塩、及び製薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物。
【請求項14】
請求項1記載の化合物又はその塩を含有する糖尿病の予防用若しくは治療用医薬組成物。
【請求項15】
糖尿病の予防及び/又は治療用医薬組成物の製造のための請求項1記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項16】
糖尿病の予防及び/又は治療のための請求項1記載の化合物又はその塩の使用。
【請求項17】
請求項1記載の化合物又はその塩の有効量を患者に投与することからなる糖尿病の予防及び/又は治療方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−84614(P2011−84614A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237209(P2009−237209)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】
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