説明

アモルファス合金製医療デバイス

本発明は、アモルファス合金を含む、新しい部類の医療デバイス及び移植用材料を提供する。かかる医療デバイス及び移植用材料は、一時的なものでも永久的なものでもよく、ポリマー、セラミック及び従来の結晶質又は多結晶質合金などの、他の材料を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのアモルファス合金を含有する医療デバイスに関する。また、本発明は、少なくとも1つのアモルファス合金を含有する、一時的及び永久的な移植が可能な医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
移植可能な医療デバイスを部分的に又は完全に患者の体内に導入して多様な傷病状態を治療するのは、すでに一般的である。心機能異常、整形外科的状態、及び、外科的介入を必要とするその他様々な状態の治療において、移植可能な医療デバイスはいまや当たり前となっている。移植可能な医療デバイスは、永久的なデバイスと一時的なデバイスという2つのカテゴリーに大きく分けられる。一時的なデバイスについては、後で体内から除去してもよいし、又は、除去しなくても時間の経過により消滅する生体吸収性材料で作製されたものであってもよい。
【0003】
多くの場合、永久的なデバイス及び除去可能な一時的なデバイスの製造に用いる材料は、移植先の患者の身体又は器官の圧力や動きに応じて変形又は屈曲が可能な、強靭な物質で作られていなくてはならない。現在の金属は耐疲労性に限界があり、なかにはインビボで酸化しやすいものもある。また、用いられる製造方法が原因となって、容認可能な程度になめらかで均一な表面をもたない金属デバイスが多い。上記の特性は、体内でのデバイスの反対反応の防止、及び、移植されたデバイスの加速腐食の防止のために重要である。したがって、新規材料、すなわち、耐食性があり、弾性が高く、強靭な材料でこれらの医療デバイスを製造することが好ましい。
【0004】
本発明の1つの課題は、体内での使用時又は体内への移植時における反復的な変形にさらに耐性のある医療インプラントデバイスの製造に関する。
【0005】
本発明の別の課題は、耐食性があり、生体適合性が高い医療インプラントに関する。
【0006】
本発明のさらに別の課題は、反復的な弾性変形を十分耐えられる程度の耐久性を有する医療デバイスに関する。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、少なくとも1つのアモルファス合金を含有する医療デバイスに関する。そのような医療デバイスには、耐食性、望ましくない永久歪への耐性、及び放射線防護という利点がある。多くの医療デバイスが、そのような物理的及び化学的特性の増強から恩恵を受けることができる。そうした医療デバイスとしては、インプラント、放射線シールド、外科用デバイス・材料、義歯、及びその他多くの類似デバイスが例示できる。
【0008】
ある実施形態においては、本発明は、少なくとも1つのアモルファス合金を含む一時的又は永久的な医療インプラントを提供する。ここで使用されている「インプラント」は、例えば外科的処置により、完全に又は部分的に動物の体内に設置された物品又はデバイスを指す。本発明は、単数又は複数のアモルファス合金製構成部分のみからなるインプラントを意図するものであるとともに、少なくとも1つのアモルファス合金製構成部分と他の材料から製造された構成部分とが組み合わされてなるインプラントをも意図している。そのような他の材料としては、生体適合性材料が特に好ましい。
【0009】
本件の医療デバイスは1つ以上のアモルファス合金を含有していてもよい。かかる合金によって、抗張力、弾性変形性が向上し、デバイスに対する腐食電位が低下する。アモルファス合金で製造されているデバイス、又はアモルファス合金を含有しているデバイスは多岐に渡る。その例としては、移植片、外科用弁、関節、糸、布帛、留具、縫合糸、心臓弁用人工シート、ステントなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0010】
本発明の医療デバイスは、チルブロック溶融紡糸(chill block melt spinning)を含むプロセスを用いて作製されるのが好ましい。好ましい実施形態において、チルブロック溶融紡糸プロセスは、以下のステップで構成される:容器(reservoir)中の合金をその融解温度より50〜100℃高い温度に加熱して、溶融合金を形成するステップ、前記容器を約0.5〜2.0psigで加圧することにより、前記溶融合金を開口部から押し出すステップ、及び前記溶融合金を冷却基材(chill substrate)上に衝突させる(impinging)ステップであって、前記冷却基材の表面が300〜1600m/分の速度で前記開口部を通過するステップ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ガラス状合金としても知られるアモルファス合金は、長距離結晶構造をもたない不規則な合金である。二元合金、三元合金、四元合金、及び五元合金をも含めた、多様なアモルファス合金組成物が知られている。アモルファス合金及びその特性は、数多くの論文の主題として取り上げられてきた(例えば、Amorphous Metal Alloys, edited by F. E. Luborsky, Butterworth & Co, 1983及びその中の参考文献を参照のこと)。
【0012】
アモルファス合金は、これまで主にコンピュータ関連部品、ゴルフクラブヘッド、及びドリル用ビットのコーティングなどの物品に使用されてきた。これらの物品は、いわゆるバルク方式(bulk process)で作られている。しかし本発明は、ここに記載したような連続式熱間押出し法(continuous hot extrusion process)で製造したアモルファス合金が、医療デバイスへの使用という点で魅力的な候補となるほどの物理的及び化学的特性をもつことに気づいた。例えば、アモルファス合金は、従来の結晶質又は多結晶質合金に比べて、10倍の抗張力を有する場合がある。また、アモルファス合金は、弾性の範囲、すなわち、永久的な変形が生じる前の局所的なゆがみの範囲が、10倍も広い場合がある。これらは、医療デバイスにおける重要な特徴であり、体内で繰り返し変形することになるデバイスの耐疲労性寿命を延長する。加えて、これらの特徴によって、従来のかさばるデバイスと同等の強度をもつ、より小型で薄型のデバイスの製造が可能になる。
【0013】
アモルファス合金の形成には、多種多様な方法が用いられている。本発明の医療デバイスの好ましい製造方法は、ワイヤーや細片などの典型的な長尺物(continuous articles)の製品に対して、一般に加熱押出し(heat extrusion)として知られるプロセスを利用している。バルク方式でよく使用されている、アモルファス合金を非生体適合性にして毒性をも持たせることが可能な添加剤は、このプロセスでは使用されない。したがって、本プロセスは、生体適合性の高い材料を製造することができる。好ましい実施形態において、アモルファス合金製の長尺物は、チルブロック溶融紡糸として当該分野で知られている一種の加熱押出しで作製される。本発明の医療デバイスに適したアモルファス合金製物品を製造するチルブロック溶融紡糸技術の二つの一般的な方法は、自由噴流溶融紡糸(free jet melt-spinning)と平板流延(planar flow casting)である。自由噴流プロセスにおいて、溶融合金は、ガス圧下でノズルから放出され、基質表面に衝突する自由溶融噴流を形成する。平板流方法では、溶融放出物の坩堝は移動中の基質表面の近傍に保持されており、このため、溶融物がノズルと移動中の基質表面とに同時に接触することになる。この噴流溶融床(entrained melt flow)が溶融流の摂動を減衰させ、それにより、リボンの均一性が向上する(例えば、Liebermann, H. et al., “Technology of Amorphous Alloys” Chemtech, June 1987を参照)。これらの方法に適した基質表面としては、当該分野で周知のように、ドラム又はホイールの内側、ホイールの外側、2つのローラーの間、ベルトの上面などが挙げられる。
【0014】
本発明の医療デバイス用アモルファス合金製構成部分を製造するのに適した平板流延法及び自由噴流溶融紡糸法は、米国特許第4,142,571号、第4,281,706号、第4,489,773号、及び第5,381,856号に記載されており、それらの特許はすべてここにその全体が参照として組み込まれている。例えば、平板流延プロセスは、以下のステップを含んでいてもよい:容器中の合金をその融解温度より50〜100℃高い温度に加熱して、溶融合金を形成するステップ、前記容器を約0.5〜2.0psigで加圧することにより、前記溶融合金を開口部から押し出すステップ、及び前記溶融合金を冷却基材上に衝突させるステップであって、冷却基材の表面が300〜1600m/分の速度で前記開口部を通過し、前記開口部より0.03〜1mmに位置するステップ。自由噴流溶融紡糸に関する実施形態では、かかるプロセスは、以下のステップを含んでいてもよい:容器中の合金をその融点よりも高い温度に加熱するステップ、溶融合金を容器中の開口部から放出して、速度が1〜10m/秒の溶融流を形成するステップ、及び前記溶融流を冷却基材上に衝突させるステップであって、前記冷却基材の表面が、12〜50m/秒の速度で前記開口部を通過しているステップ。
【0015】
溶融金属の急冷(例えば、チルブロック溶融紡糸)以外に、基質上への金属のスパッタリング蒸着、イオン注入、及び固相反応によって、アモルファス合金を形成することができる。これらの方法にはそれぞれ、長所と短所がある。特定の製造方法の選択は、例えばプロセスの適合性、及びアモルファス合金製物品の所望の最終用途などの多くの変数に左右される。
【0016】
アモルファス合金は、その不規則な局所的微細構造により、通常の金属と比較してかなり異なる物理的特性を示している。粒界及びキャビティなどの短所を一般に有する通常の金属とは対照的に、アモルファス合金は一般に、顕微鏡的な規模で均一なランダム位相を示し、上記のような短所は有していない。結果として、アモルファス合金には粒界及び/又はキャビティに付随するひずみが生じない。したがって、高い弾性率、高い抗張力、硬度、及び耐疲労性など、優れた力学的性質を示す。
【0017】
また、アモルファス合金が結晶質合金に比べて優れた耐食性を有することは、数多くの研究によって示されている。(例えば、Amorphous Metal Alloys, edited by F. E. Luborsky, Butterworth & Co, 1983, p. 479を参照)。特に、いくつかのアモルファス合金は、強酸性溶液(例えば、12MのHCl)中の陽極分極による腐食にさえ耐性を有することが知られている。
【0018】
本発明は、加熱押出しで製造されたアモルファス合金を含む、新しい部類の医療デバイス及びインプラントを提供する。本発明が意図するアモルファス合金は、ほとんど全ての望ましい合金組成の長所を有しており、毒性添加物は含まず、結果的に生体適合性の大幅な向上につながる耐食性を有している。これらのアモルファス合金は、機械的強度の高さ、耐疲労性、耐食性、及び生体適合性などの、インプラントとしての使用に適した性質を数多く有している。本発明のインプラントを動物に移植してもよい。そのような動物として、爬虫類、鳥類、及び哺乳類が挙げられ、ヒトが特に好ましいが、それらに限定されることはない。少なくとも1つのアモルファス合金を含有すること以外に、本発明のインプラントは、異なる種類のアモルファス合金、従来の結晶質又は多結晶質金属若しくは合金、ポリマー、セラミック、及び天然又は合成の生体適合性材料などの他の材料を任意に含んでいてもよい。
【0019】
本発明のデバイスは、異なる方法で体内に移植されてもよい。そのような方法として、皮下移植、皮膚表面への移植、口腔内移植、縫合糸としての使用、その他の外科的な移植方法が挙げられるが、それらに限定されることはない。
【0020】
本デバイスは、1つ以上のアモルファス合金を含有していてもよい。加熱押出し法は非常に柔軟性があり、アモルファス合金を作ることができる金属の組み合わせは、数多い。例としては鉄系、コバルト系合金、銅系アモルファス合金などが挙げられ、他と同様に、ここに記載した加熱押出しによりそれらの合金を製造してもよい。ある実施形態においては、アモルファス合金は、半金属を含んでいてもよく、そうした半金属としてはシリコン、ホウ素、及びリンが挙げられるが、それらに限定されない。アモルファス合金として考えられるものの1つに、Fe−Cr−B−P合金がある。他にも同様の適切な合金は数多く存在しており、それらは当業者に周知である。
【0021】
ある好ましい実施形態では、本発明が意図するアモルファス合金は、結晶質又は多結晶質合金と比較して、かなり低い伝導性を示すか、又は非伝導性である。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態においては、インプラント用アモルファス合金製構成部分を使用してもよい。すなわち、インプラントが部分的にアモルファス合金で作られていることになる。これらの部分の提供については、多様な方法を用いることができる。例えば、アモルファス合金製の在庫品(例えば、ワイヤー、リボン、ロッド、チューブ、ディスクなど)を機械で加工して、又は処理して、そのような構成部分を製造してもよい。チルブロック溶融紡糸で作製されたアモルファス合金製在庫品を、そのような目的に用いることができる。本発明のインプラントを形成するために、本発明のアモルファス合金製構成部分を、アモルファス金属又はそれ以外の他の構成部分と任意に組み合わせても、そうした構成部分と一緒に組み立ててもよい。例えば、アモルファス合金製構成部分を、生体適合性ポリマー若しくはセラミック、生分解性ポリマー、治療薬(例えばここに記載した治癒促進剤)、又は他の金属若しくは合金製物品(結晶質又はアモルファス微細構造をもつ)と組み合わせてもよい。
【0023】
アモルファス合金製構成部分を他の構成部分と組み合わせる又は接合させる方法は、当該分野で周知の方法を使うことにより達成可能である。接合方法としては、物理的な接合(例えば、編む、織る、クリンプする、結ぶ、及び圧入する)及び接着法による接合(例えば、糊付け、ディップコーティング、及びスプレーコーティング)が挙げられるが、それらに限定されない。これらの方法の組み合わせも、本発明により意図されている。
【0024】
本発明のインプラントは、一時的又は永久的な医療インプラントであってもよく、少なくとも1つのアモルファス合金製構成部分を含んでいてもよい。ここで使用する「インプラント」とは、例えば外科的処置又は低侵襲性の方法によって、完全に若しくは部分的に動物の体内に設置された物品又はデバイスを指す。本発明は、単数又は複数のアモルファス合金製構成部分のみからなるインプラントを意図するものであるとともに、少なくとも1つのアモルファス合金製構成部分と他の材料から製造された構成部分とが組み合わされてなるインプラントをも意図している。そのような他の材料としては、生体適合性材料が特に好ましい。アモルファス合金で製造されているインプラント、又はアモルファス合金を含有しているインプラントは多岐に渡る。その例としては、移植片、外科用弁、関節、糸、布帛、留具、縫合糸、ステントなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0025】
本発明の1つの態様は、少なくとも1つのアモルファス合金を含有する移植可能な外科用留具(fastener)を提供するものである。かかる外科用留具は、吸収性ポリマー及び/又は治癒促進剤などのコーティングを任意に有するモノフィラメント又はマルチフィラメントの縫合糸であってもよい。移植可能な外科用留具はまた、クランプ、クリップ、シース、ステープルなどであってもよい。外科用留具の他の実施形態としては、人工靭帯又は腱として機能するアモルファス合金製ワイヤーが挙げられる。
【0026】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのアモルファス合金を含む外科用布帛を提供するものである。かかる布帛は織布であっても不織布であってもよい。いくつかの実施形態では、外科用布帛は、不織ポリマーシート及びそれに結合又は積層する少なくとも1つのアモルファス合金糸、ワイヤー又は箔で作られた不織布である。他の実施形態では、外科用布帛は、他の材質の繊維又は糸と組み合わせることもできる、少なくとも1つのアモルファス合金糸、繊維又は箔を含有する織布である。かかる織布は、少なくとも1つのアモルファス合金糸とともに織り込まれる複数のポリマー糸を含有していてもよい。かかるアモルファス合金糸は、ポリマーコーティングや治癒促進剤などのコーティングを任意に含んでいる。
【0027】
本発明の外科用布帛は、人工補装具又は人工補装具の一部として体内に移植してもよい。あるいは、かかる外科用布帛を、例えば、患者を放射線から防護するデバイスの一部として、体外で用いてもよい。
【0028】
本発明のさらに別の態様は、人工心臓弁又はペースメーカーなどの、人工心臓の構成部分であって、かかる人工心臓の構成部分がアモルファス合金製構成部分を含むものを提供するものである。いくつかの実施形態では、かかる人工心臓弁はアモルファス合金ケージを含むボールバルブである。他の実施形態では、かかる人工心臓弁はアモルファス合金で作製されたリーフを含むこともある。アモルファス合金製構成部分はまた、シース又は支柱であってもよい。アモルファス合金を含有するペースメーカーは、アモルファス合金によって身体からシールドされているエネルギー源を内蔵していてもよい。
【0029】
本発明はまた、ステント、移植片、又はそれに類似したデバイスであって、アモルファス合金を含有するチューブ、シース又はコイル状のワイヤーを含むデバイスを提供するものである。
【0030】
本発明の1つの態様は、アモルファス合金及び移植片用材料が付着した、概ねチューブ状の部材から構成される(comprising)ステントグラフトを提供するものである。移植片用材料は、アモルファス合金を含有する外科用布帛を任意に含んでおり、従来の材料よりも強度を高める、又は所定の望ましい強度の割には厚さを薄くするという利点をもっている。
【0031】
本発明は、アモルファス合金製構成部分を含む整形外科用インプラントデバイスも提供する。かかるインプラントデバイスを、再建外科に用いてもよい。いくつかの実施形態においては、整形外科用インプラントは、靭帯/腱、スプリング、組織成長リミッターなどとして機能するワイヤー及びシートを含有していてもよい。
【0032】
本発明の他の実施形態では、かかる整形外科用インプラントは、アモルファス合金を含む人工関節である。かかる人工関節は、股関節(ball-in-socket joint)、膝関節、又は肘関節であってもよく、そうした部位における靭帯/腱の代用品であってもよい。
【0033】
当業者であれば、本特許の教示及び開示に基づいて、例えばインプラント又はインプラントの構成部分など、多くの種類の医療デバイスが可能であることを認識するであろう。したがって、以下の実施例は、単に本発明の概念を例示するものとして見るべきものであり、いかなる場合も限定するものではない。
【実施例1】
【0034】
アモルファス合金を含む縫合糸
本発明は、再建外科用アモルファス合金を含むインプラントを提供する。本発明の1つの態様は、アモルファス合金を含む外科用留具を提供する。この文脈で使われている「外科用留具」との語は、組織を所定の位置に保持するために使うことができる移植可能なデバイスを指す。そのような留具の例としては、クランプ、クリップ、シース、縫合糸、及びステープルが挙げられるが、それらに限定されない。かかる外科用留具は一時的なもの(例えば、外科的切開を閉じる際に役立つが、その組織が治癒すれば除去される、除去可能なステープル)であってもよいし、永久的なもの(例えば、変位した靭帯又は腱の正しい位置を回復するために骨に留められているクリップ)であってもよい。
【0035】
アモルファス合金が適しているとされる理由は、その機械的強度の高さ、インビボでの酸化及び腐食に対する耐性、並びに全体的な生体適合性にある。かかる外科用留具を、前述した加熱押出し法によって作製してもよい。ある実施形態において、本発明の外科用留具は、生体に直接移植可能なアモルファス金属製物品からなっている。あるいは、かかる外科用留具を、例えば、生分解可能なポリマー及び/又は治癒を促すための治療薬(例えば、血栓症又は線維素溶解の抑制剤)などの他の構成部分と組み合わせてもよい。
【0036】
本発明のある実施形態においては、かかる外科用留具は縫合糸である。良質の縫合糸用材料は、厳しい力学的及び生物学的な要件を満たさなくてはならない。例えば、何か別の方法で結びつけられている又は固定されている縫合糸が切れる前の、その縫合糸が耐えられるであろう張力のポンド数として定義される縫合糸の抗張力は、縫合する組織の接合によって生じる歪みだけではなく、患者の必然的な動きによって生じるあらゆる付加的な歪みにも耐えられるものでなくてはならない。筋膜や腱など、自然状態で高い張力を有する組織の縫合にその縫合糸用材料を使う場合、これは特に重要である。厳格な力学的要件を満たすことに加えて、良質の縫合糸用材料は、生物学的に不活性で、患者からの組織反応を、もしあったとしても、最小限に引き出すものでなくてはならない。過剰な組織反応は感染を促進し、治癒を遅らせることが知られている。
【0037】
縫合糸用材料は、多様な範疇に分類することができる。例えば、縫合糸用材料は、材料の単一糸(「モノフィラメント」)から作製することも、また、典型的には編む、撚り合わせる、などの方法によって接合したいくつかのフィラメント(「マルチフィラメント」)から作製することもできる。モノフィラメント縫合糸はスムーズに結ぶことができ、微生物が付着する可能性が少ないが、結び目のずれ(knot slippage)がおこりやすくなる場合がある。一方、マルチフィラメント縫合糸は、取り扱い性及び結束性がよいが、微生物が付着する場合がある。
【0038】
本発明はアモルファス合金を含む縫合糸を提供する。かかる縫合糸は、単一糸のアモルファス合金フィラメントを含むモノフィラメント縫合糸であってもよい。ある実施形態においては、モノフィラメントアモルファス合金縫合糸は、そのモノフィラメント縫合糸の生物学的又は力学的性質を改変する付加的なシース又はコーティング(例えば、吸収性ポリマーコーティング)も含む。例えば、結び目のずれを防止するため若しくは減少させるため、生体適合性を高めるため、又は縫合糸表面の化学的性質を改変するために、かかるコーティング又はシースを用いてもよい。
【0039】
あるいは、かかる縫合糸は少なくとも1つのアモルファス合金フィラメントを含むマルチフィラメント縫合糸であってもよい。ある実施形態においては、かかるマルチフィラメント縫合糸は、(例えば、編むこと又は撚り合わせることにより)ポリマーフィラメントと接合している少なくとも1つのアモルファス合金フィラメントを含んでいる。そうしたポリマーフィラメントを、不活性であって生物分解性ではない材料又は吸収性ポリマーから、当該技術では周知の方法に基づいて作製してもよい。あるいは、ポリマーフィラメントはまったく用いずに、複数のアモルファス合金フィラメントと一緒に編むこと又は撚り合わせることによって、本発明のマルチフィラメント縫合糸を作製してもよい。本発明のモノフィラメント縫合糸の場合と同様に、本発明が意図するマルチフィラメント縫合糸におけるアモルファス合金フィラメントは、フィラメントの化学的、生化学的又は力学的性質を改善若しくは改変するために、コーティング又はシースを任意に有していてもよい。
【0040】
そのような用途のアモルファス合金フィラメントは当該技術で周知であり、ここに記載した加熱押出し法によって作製可能である。
【0041】
本発明が意図する縫合糸は永久的な縫合糸であってもよいし、一時的な縫合糸であってもよい。アモルファス合金フィラメントの強度、耐食性、耐疲労性、及び全体的な生体適合性が高いと、かかるフィラメントを含む縫合糸は永久的な縫合糸として特に適したものとなる。特に、アモルファス合金フィラメントの抗張力が高いと、かかるフィラメントを含む縫合糸は、腱や筋膜など自然状態で常に張力を受けていると予想される組織を永久的に接合するのに特に適したものとなる。そうした縫合糸の使用は、糸の直径をできるだけ小さくする必要がある場合にも有利だと思われる。しかし、本発明の縫合糸を術後の一時的な外科用留具として使用することもまた、意図されている。本発明の縫合糸を、従来の非吸収性縫合糸と同様に使用して、かかる縫合糸で接合した組織が十分に治癒したときに除去してもよい。
【実施例2】
【0042】
アモルファス合金を含む移植可能な外科用布帛
本発明は、アモルファス合金を含む移植可能な外科用布帛を提供する。これらの布帛におけるアモルファス合金の存在は、布帛を構造的に補強すること、及び/又は、布帛に有害な放射線を遮断する能力を付与することを含め、多様な目的に役立てられる。医療処置の間、(例えば、危険な放射線を伴う処置の間、患者又は操作技師の体の部位を覆う布帛として)かかる布帛を体内又は体外で用いてもよい。
【0043】
本発明が意図する移植可能な外科用布帛は、織布であってもよく、又は不織布であってもよい。ある実施形態においては、かかる移植可能な外科用布帛は、ポリマー糸及びアモルファス合金糸の両方を含む織布である。移植可能な外科用織布は、むき出しのアモルファス合金糸を含んでいてもよく、又は、生体適合性を高めるため、及び/又は治癒を促進するために、移植に先立ってコーティング材で処理されたアモルファス合金糸を任意に含んでいてもよい。例えば、かかるアモルファス合金糸は、少なくとも1つの吸収性ポリマー材料でコーティングされていてもよく、そうした材料の例としては、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリラクチド、アルギン酸塩、コラーゲン、キトサン、シュウ酸ポリアルキレン、ポリ無水物、ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド、又はポリデプシペプチドが挙げられるが、それらに限定されない。
【0044】
あるいは、かかるコーティング材は、血栓抑制剤、線維素溶解剤、血管拡張物質、抗炎症剤、細胞増殖阻害剤、及びマトリックスの生成又は発現の阻害剤などの治癒促進剤を含んでいてもよい。そうした物質の例は、ここにその全体が参照として組み込まれている米国特許第6,162,537号で論じられている。本発明は、治癒促進剤とポリマーコーティング(例えば、吸収性ポリマー)とを併用して、アモルファス合金ワイヤーのコーティングを行うことも意図している。
【0045】
本発明が意図する外科用織布のポリマー糸は、吸収性であってもよいし、生分解に対して完全に不活性であってもよい。ポリマー繊維が吸収性であれば、インビボでかかる繊維が生分解すると、その後には損傷組織を補強するアモルファス合金織布が残される。本発明のいくつかの実施形態では、吸収性及び不活性ポリマー糸の両方がアモルファス合金糸とともに織り込まれている。他の実施形態では、ポリマー糸(吸収性、不活性、又はその組み合わせ)が、例えば積層化によって、アモルファス合金箔に接合されている。
【0046】
本発明のある実施形態においては、外科用布帛はアモルファス合金糸を含むが、ポリマー糸は含んでいない。これらの実施形態では、アモルファス合金糸はむき出しのままでもよいし、上述のようにコーティングされていてもよい。
【0047】
本発明の外科用布帛は不織布であってもよい。例えば、かかる外科用布帛は、複数のアモルファス合金糸、目の細かいアモルファス合金網、又はアモルファス合金箔で補強された、少なくとも1つのフッ素重合体又はポリオレフィンシートを含んでいてもよい。かかるアモルファス合金の糸、網又は箔を、例えば積層化など当該技術分野で周知の方法により、1つ以上のフッ素重合体シートと結合させてもよい。
【0048】
本発明の、織布又は不織布である外科用布帛のある実施形態においては、アモルファス合金糸は、様々な長さで(in a non-isometric way)かかる布帛に加えられ、それによって、かかる布帛は方向によって異なる力学的性質をもつようになる。例えば、アモルファス合金糸を一方向に加えて、一方向には硬いが、その横軸方向には柔らかく、伸張が可能な布帛としてもよい。
【0049】
本発明が意図する外科用布帛は、多様な目的に使用してもよい。例えば、かかる外科用布帛で血管移植片を作製することもできる。かかる血管移植片においては、補強の役割を果たすアモルファス合金糸又は網の存在によって、動脈又は静脈の血流により生じる連続的な圧力に対する抵抗が向上する。本発明の外科用布帛はまた、哺乳動物の腹壁における異常を修復するため及びヘルニアの形成を防止するための、内部人工器官(endoprosthesis)として使用してもよい。
【0050】
本発明の外科用布帛の別の使用法に、内部放射線シールドとして用いることが挙げられる。例えば、外科用布帛を使って、医療デバイス(例えばペースメーカー)用の放射線源などのエネルギー又は放射線発生源を覆いくるむことができ、その結果、動力源周辺の組織が動力源から受ける損傷は、最小限又は皆無となる。
【実施例3】
【0051】
アモルファス合金を含むステント
ステントとは、外科的に体腔内に挿入して体腔を拡張するため又は体腔を確実に開放した状態に保つための、チューブ状のインプラントである。ステントは、脈管系、胆管系、泌尿器生殖器系、消化器系、及び呼吸器系の導管をはじめとする、体内における多くの導管の修復に使用されてきた。
【0052】
一般的に、折りたたんだ状態でステントを患者の体内に挿入し、修復すべき部位に留置した後、拡張する。ステントをより容易に留置するためには、折りたたんだ状態におけるステントの半径寸法が体腔の半径寸法よりも小さくなければならない。また、修復すべき部位へと至る、多くの場合は蛇行している経路をより容易に通り抜けられるように、ステントは長手方向に柔軟性がなくてはならない。これらの機械的要件を満たすため、ばね鋼、ステンレス鋼、ニチノール、エルジロイなどの弾力性のある物質、又はタンタル、チタン、銀、金などの弾力性のない物質でステントを作製してもよい。
【0053】
本発明は、少なくとも1つのアモルファス合金を含む移植可能なステントを提供する。アモルファス合金は、いくつかの理由により、特に好適なステント用材料である。例えば、アモルファス合金は弾性の範囲が広く、そのため、移植後に外部からの力を受けると思われる身体部位に移植されるステントとして理想的である。かかる材料は、その非伝導性(又は低伝導性)及び生体適合性のため、創傷性が低いと思われる。また、アモルファス合金の高い強度によって、より薄い材料でステントを作製することが可能になると思われ、さらに創傷性が低くなる。
【0054】
本発明のアモルファス合金ステントは、当該技術で周知のデザインに基づいて作製してもよい。例えば、かかるステントは、拡張可能な円筒状構造に成形したアモルファス合金ワイヤー、アモルファス金属シートに様々な方法でエッチングを施した後に、丸めて留めて円筒にしたアモルファス合金ワイヤー、又はアモルファス金属チューブにエッチングを施したアモルファス合金ワイヤーを含んでいてもよい。平板状であるかチューブ状であるかに関係なく、これらの実施形態におけるエッチングは、化学的エッチング、EDM、LASERカッティングなどによるものであってもよい。平板状構造物を円筒状にするための係止は、融合や機械的固定などの方法によって行ってもよい。
【0055】
本発明のアモルファス合金ステントは、他の物質も含んでいてもよい。いくつかの実施形態においては、ステントには、修復すべき部位における体腔壁へのステントの取り込みが促進されるように設計された、柔軟性のある生体適合性マトリックスを含む移植片が付加的に含まれている。かかるステント、移植片、又はその両方は、付加的にポリマー(例えば、吸収性ポリマー)又は治癒促進剤を含んでいてもよく、その例として血栓抑制剤、線維素溶解剤、血管拡張物質、抗炎症剤、細胞増殖阻害剤が挙げられるが、それらに限定されない。ある実施形態においては、アモルファス合金ステントは、ポリマー及び/又は治癒促進剤で直接コーティングされていてもよい。他の実施形態においては、移植片は、ここに開示したようにアモルファス合金を含有する外科用布帛を含んでいてもよい。好ましい実施形態においては、かかる外科用布帛は方向によって力学的性質が異なるように作られている。例えば、かかる移植片は、長手方向には柔らかく、伸張可能であるが、周方向には非常に硬く、伸張性がないものであってもよい。
【実施例4】
【0056】
アモルファス合金を含む人工心臓弁
信頼性のある永久的な人工心臓弁の設計及び作製には、材料を慎重に選択し、多くの様々な要素を熟考することが必要である。人工心臓弁は、体内の腐食環境に耐えられるものでなくてはならない。こうした腐食環境は、移植した心臓弁によって生じた免疫原反応の結果、並びに、電解質が血流及び周辺組織内に存在する結果、生じるものであり、人工心臓弁中の金属製構成部分を酸化及び/又は腐食させる可能性がある。また、人工心臓弁は、40,000,000回に上る開閉の心臓収縮サイクルの間に経験せざるをえない反復的な歪みに耐えられる材料で作製しなくてはならない。大量の血流中では弁の位置次第で、生体適合性におけるごく瑣末な問題が、高確率で弁が故障する事態へと変化する。また、その副作用にもかかわらず、血液の抗凝固薬を用いた非常に積極的で永久的な治療が必要になる場合もある。
【0057】
ヒンジ上で回転する、固定されたリーフで作られた超硬合金を含む人工心臓弁が知られている。この構造は次善のものではあるが、天然心臓弁に見られる歪みに耐えられる金属は知られていない。生体適合性が最適とは言えず血栓症を起こす場合があるため、金属弁もその寿命は限られている。
【0058】
これらの理由により、アモルファス合金は人工心臓弁の魅力的な代替材料と言える。耐歪性、生体適合性などのアモルファス合金の性質は、人工心臓弁の寿命をかなり延ばすことにつながる。本発明は、少なくとも1つのアモルファス合金製構成部分を含む人工心臓弁を提供する。アモルファス合金製構成部分が人工心臓弁に特に適している理由は、いくつか挙げられる。第一に、アモルファス合金は生体適合性及び耐食性が高い。第二に、アモルファス合金は、粒界及び内部キャビティといった短所がないため、耐疲労性及び耐クリープ性である。
【0059】
本発明は、ケージ、フランジ、ヒンジ、リング、支持支柱、並びにシース及びスプリングなどの、人工心臓弁用アモルファス合金製構成部分を提供することを意図している。かかるアモルファス合金製構成部分は、当該技術で周知のチルブロック溶融紡糸法などの加熱押出し法によって作製してもよい。また、かかるアモルファス合金製構成部分は、当該技術で周知のように、生体適合性ポリマー材料又はセラミック材料などの他の材料と併用してもよい。
【実施例5】
【0060】
再建外科用アモルファス合金を含むインプラント
本発明はアモルファス合金を含む整形外科用インプラントをも意図するものである。いくつかの実施形態においては、かかる整形外科用インプラントは、靭帯及び腱を修復する再建用金属製品の形態となっている。そうした再建用金属製品の例としては、ワイヤー、スプリング、網などが挙げられるが、それらに限定されない。高い疲労限界、塑性変形への耐性、良好な生体適合性、並びに耐酸化性及び耐食性を示すアモルファス合金から、かかる再建用金属製品を適切に作製することができる。加熱押出し及び機械加工などの当該技術で周知の製造方法で、再建用金属製品を作製してもよい。
【0061】
本発明は、アモルファス合金を含む移植可能な整形外科用補装具も提供する。本発明が意図する整形外科用補装具は、単独で、あるいは、生体適合性ポリマー若しくはプラスチック、セラミック又はその他の生体適合性金属などの、他の材料と組み合わせて使用されるアモルファス金属製物品であってもよい。
【0062】
本発明はまた、アモルファス合金を含む組織成長リミッターも提供する。本発明の組織成長リミッターは、生体適合性ポリマー及び/又はバイオソープションが可能なポリマーなどの、他の材料を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、組織成長リミッターは、アモルファス合金を含むシースの形態となっている。他の実施形態では、組織成長リミッターは、ここに記載した外科用布帛のような、アモルファス合金を含む布帛である。
【実施例6】
【0063】
アモルファス合金を含む歯列矯正用インプラント及び歯科用インプラント
本発明は、アモルファス合金を含む歯列矯正用インプラントを提供する。本発明が意図する歯列矯正用インプラントには、永久的インプラント(例えば組織成長リミッター)及び一時的インプラント(例えば、歯列を再調製するための歯列矯正用ブレースに使う歯列矯正用ワイヤー及びブレース)が含まれる。
【0064】
歯列矯正用ワイヤー及びブラケット
歯列矯正用ブレースに使用されるワイヤーは、厳しい力学的及び化学的要件を満たすものでなくてはならない。例えば、最初の挿入ステップで、歯に固定されている帯金又は固定デバイスにワイヤーを係止する際に、破損しないワイヤーでなくてはならない。いったん所定の位置に納まった後は、矯正歯科医が設定した一定の張力及び患者が食事をする際に生じる反復的な機械的応力に耐えられるワイヤーでなくてはならない。また、たとえ患者が酸性食品又は塩分の多い食品を摂取した場合でも、腐食しにくいワイヤーでなくてはならない。
【0065】
現在のところ、歯列矯正用ワイヤーについては数種類の材料が知られている。多くの歯列矯正用ブレースにおいて、ワイヤーとしての使用については、これまではステンレス鋼が有力な選択肢であった。しかし、他の金属又は合金が適切に応用されることがわかってきた。例えば、コバルトクロム合金のワイヤーを製造すると、様々な硬度の材料を提供することができる。また、ベータチタンとして知られるチタンモリブデン合金を用いると、ニッケルチタン製ワイヤーよりも硬いがステンレス鋼製ワイヤーほど硬くない、中程度の硬度を有するワイヤーの提供が可能となる。
【0066】
歯列矯正処置に使用されるいくつかの合金は、ある欠点を有することが知られている。例えば、ベータチタン製ワイヤーについては、臨床治療中に折り曲げたり、ねじったりすると、破損する傾向があるとの報告がある。こうした傾向は、微小ひび割れや包有物といった瑕疵によるものと思われる。さらに、ニッケルクロム合金に関しては、薄断面でも強度がある一方、橋脚歯が変色する恐れがある。
【0067】
本発明は、従来の歯列矯正用ブレースを用いて歯の移動を制御するための、アモルファス合金ワイヤーを提供する。アモルファス合金ワイヤーは、耐疲労性、生体適合性、及び耐食性が高いため、特に有用である。また、アモルファス合金は、弾性率が高いことでも知られている。したがって、かかるワイヤーは張力を受けた状態での耐張性がより強いため、歯に対する張力を一定に維持するのがより容易であり、治療時間の短縮につながる。
【0068】
当該技術で周知の技法によって、アモルファス合金ワイヤーを作製してもよい。また、かかるワイヤーは市販されている。かかるワイヤーを、現在当該技術で周知のワイヤーの場合と同様の方法で、従来の歯列矯正用金属部品(例えば、ブラケット又はクランプ)に挿入することができる。
【0069】
本発明は、アモルファス合金を含む歯列矯正用ブラケット及びクランプも提供する。かかるブラケットを、当該技術で周知のデザインに基づき、機械加工などの方法によって作製してもよい。本発明の好ましい実施形態においては、ブラケット及びクランプは、ここに記載したように、アモルファス合金を含む歯列矯正用ワイヤーと併用される。
【0070】
組織成長リミッター
本発明は、口腔用又は歯列矯正用インプラントのための、アモルファス合金を含む組織成長リミッターを提供する。いくつかの実施形態においては、かかる組織成長リミッターは、アモルファス合金製物品のみからなる。一方、他の実施形態においては、アモルファス合金製物品が他の生体適合性材料及び/又はバイオソープション可能な材料と組み合わされている。本発明が意図する組織成長リミッターの例としては、シース、網、及びここに記載した外科用布帛のような布帛が挙げられるが、それらに限定されない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス合金を含むことを特徴とする移植可能な医療デバイス。
【請求項2】
デバイスが、永久的に移植されることを特徴とする請求項1記載の医療デバイス。
【請求項3】
デバイスが、一時的に移植されることを特徴とする請求項1記載の医療デバイス。
【請求項4】
少なくとも1つのアモルファス合金を含むことを特徴とする移植可能な外科用留具。
【請求項5】
外科用留具が、アモルファス合金フィラメントを含むモノフィラメント縫合糸であることを特徴とする請求項4記載の移植可能な外科用留具。
【請求項6】
モノフィラメント縫合糸が、コーティングされていることを特徴とする請求項5記載の移植可能な外科用留具。
【請求項7】
コーティングが、ポリマー材料を含むことを特徴とする請求項6記載の移植可能な外科用留具。
【請求項8】
ポリマー材料が、吸収性ポリマーであることを特徴とする請求項7記載の移植可能な外科用留具。
【請求項9】
コーティングが、治癒促進剤を含むことを特徴とする請求項6記載の移植可能な外科用留具。
【請求項10】
外科用留具が、少なくとも1つのアモルファス合金フィラメントを含むマルチフィラメント縫合糸であることを特徴とする請求項4記載の移植可能な外科用留具。
【請求項11】
マルチフィラメント縫合糸が、少なくとも1つのポリマーフィラメントを含むことを特徴とする請求項10記載の移植可能な外科用留具。
【請求項12】
少なくとも1つのポリマーフィラメントが、吸収性ポリマーを含むことを特徴とする請求項11記載の移植可能な外科用留具。
【請求項13】
少なくとも1つのアモルファス合金フィラメントが、コーティングされていることを特徴とする請求項10記載の移植可能な外科用留具。
【請求項14】
コーティングが、吸収性ポリマー、治癒促進剤又はその両方を含むことを特徴とする請求項13記載の移植可能な外科用留具。
【請求項15】
移植可能な外科用留具が、クランプ、クリップ、シース又はステープルであることを特徴とする請求項4記載の移植可能な外科用留具。
【請求項16】
少なくとも1つのアモルファス合金を含むことを特徴とする移植可能な外科用布帛。
【請求項17】
外科用布帛が、不織布ポリマーシート及びそれに結合又は積層する少なくとも1つのアモルファス合金糸若しくはワイヤーを含む不織布であることを特徴とする請求項16記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項18】
外科用布帛が、少なくとも1つのアモルファス合金糸を含む織布であることを特徴とする請求項16記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項19】
織布が、少なくとも1つのアモルファス合金糸と織り交ぜられた複数のポリマー糸を含むことを特徴とする請求項18記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項20】
アモルファス合金糸が、コーティングされていることを特徴とする請求項19記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項21】
コーティングが、ポリマー材料を含むことを特徴とする請求項20記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項22】
ポリマー材料が、吸収性ポリマーであることを特徴とする請求項21記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項23】
コーティングが、治癒促進剤を含むことを特徴とする請求項20記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項24】
外科用布帛が、複数の織り込まれたアモルファス合金糸を含むことを特徴とする請求項18記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項25】
外科用布帛が、コーティングされていることを特徴とする請求項24記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項26】
外科用布帛が、ポリマー、治癒促進剤又はその両方を含むコーティングをされていることを特徴とする請求項25記載の移植可能な外科用布帛。
【請求項27】
人工心臓弁を含む人工心臓であって、該人工心臓弁がアモルファス合金製構成部分を含むことを特徴とする人工心臓。
【請求項28】
人工心臓弁が、アモルファス合金ケージを含むことを特徴とする請求項27記載の人工心臓。
【請求項29】
アモルファス合金製構成部分が、シース、フランジ、リーフ又はヒンジであることを特徴とする請求項27記載の人工心臓弁。
【請求項30】
アモルファス合金製構成部分が、支柱であることを特徴とする請求項27記載の人工心臓弁。
【請求項31】
概ねチューブ状の部材を含み、該部材が、アモルファス合金を含むチューブ、シース又はコイル状のワイヤーであることを特徴とするステント。
【請求項32】
アモルファス合金を含む支柱又はワイヤーを有する二股ステント。
【請求項33】
以下から構成されるステントグラフト:
アモルファス合金を含む概ねチューブ状の部材、
及び、該概ねチューブ状の部材に取り付けられた移植材料。
【請求項34】
移植材料が、アモルファス合金を含む外科用布帛を含んでいることを特徴とする請求項33記載のステントグラフト。
【請求項35】
再建外科のための、整形外科用インプラントであって、アモルファス合金を含むワイヤー、スプリング、又は網であることを特徴とする整形外科用インプラント。
【請求項36】
アモルファス合金を含む歯列矯正用ワイヤー又はブラケット。
【請求項37】
アモルファス合金を含有する医療デバイスであって、該アモルファス合金が、以下のステップにより形成される医療デバイス:
容器中の合金を加熱して、溶融合金を形成するステップ;
前記容器を加圧することにより、前記溶融合金を開口部から押し出すステップ;
及び、前記溶融合金を、冷却基材上に衝突させるステップ。
【請求項38】
アモルファス合金をその融解温度より50〜100℃高い温度に加熱することにより、該合金を形成することを特徴とする請求項37記載のアモルファス合金を含有する医療デバイス。
【請求項39】
溶融合金を開口部から押し出すために、容器を圧力にして約0.5〜2.0psigまで加圧することにより、アモルファス合金を形成することを特徴とする請求項37記載のアモルファス合金を含有する医療デバイス。
【請求項40】
溶融合金を冷却基材上に衝突させることにより、アモルファス合金を形成し、前記冷却基材の表面が、300〜1600m/分の速度で開口部を通過し、前記開口部より0.03〜1mmに位置することを特徴とする請求項37記載のアモルファス合金を含有する医療デバイス。
【請求項41】
アモルファス合金を含有する医療デバイスであって、該アモルファス合金が、以下のステップにより形成される医療デバイス:
容器中の合金をその融解温度よりも高い温度に加熱するステップ;
溶融合金を前記容器の開口部から放出して、溶融流を形成するステップ;
及び、前記溶融流を、冷却基材上に衝突させるステップ。
【請求項42】
溶融合金を容器の開口部から放出して、速度が1〜10m/秒の溶融流を形成することにより、アモルファス合金を形成することを特徴とする請求項41記載のアモルファス合金を含有する医療デバイス。
【請求項43】
溶融流を冷却基材上に衝突させることにより、アモルファス合金を形成し、前記冷却基材の表面が、12〜50m/秒の速度で開口部を通過することを特徴とする請求項41記載のアモルファス合金を含有する医療デバイス。
【請求項44】
アモルファス合金を含む放射線用シールドを有する医療デバイス。
【請求項45】
放射線用シールドが、外部使用に適していることを特徴とする請求項44記載の医療デバイス。
【請求項46】
放射線用シールドが、内部使用に適していることを特徴とする請求項44記載の医療デバイス。
【請求項47】
放射線用シールドが、エネルギー源を内蔵していることを特徴とする請求項46記載の医療デバイス。

【公表番号】特表2007−527734(P2007−527734A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516574(P2006−516574)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002096
【国際公開番号】WO2005/000152
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(506002409)ズーリ ホルディングズ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】