説明

アリールメチルアミン誘導体およびその塩ならびにそれを構成成分とする薬物担体

【課題】核酸の細胞内への導入(トランスフェクション)、および薬物の目的部位への送達を効率的かつ安全に行うことができる薬物担体を形成しうるカチオン化脂質としてのアリールメチルアミン誘導体およびその塩、ならびにそれを構成成分とする薬物担体を提供する。
【解決手段】式(1)に示すアリールメチルアミン誘導体およびその塩、ならびにそれを構成成分とする薬物担体。


なお、式(1)中、Aは芳香環を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜14のアルキル基またはアルケニル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立してO、S、COO、OCO、CONH、およびNHCOからなる群より選択されるいずれか1の基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアリールメチルアミン誘導体およびその塩ならびにそれを構成成分とする薬物担体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リポソーム、エマルジョン、リピッドマイクロスフェアなどの閉鎖小胞を薬物担体としてドラッグデリバリーシステム(以下、DDSと称す)に応用しようとする研究が盛んに行われている。これら閉鎖小胞は一般的にリン脂質あるいはその誘導体、またはステロールやリン脂質以外の脂質等を基本膜構成成分として調製される。しかしながら、これら基本構成成分のみでは、閉鎖小胞同士の凝集、体内における滞留性の低下などの実際に応用していくうえでの様々な面での困難を克服することはできなかった。さらに、実際にDDS製剤として目的の部位に薬物を到達させることは非常に困難であった。
【0003】
そこで、薬物封入率の向上および閉鎖小胞の細胞接着性の向上を目的として、ステアリルアミン等のカチオン化脂質を構成成分として少量配合することにより、閉鎖小胞体の表面を生理的pH範囲でカチオン化する試みも行われている。特にDNAを含むカチオン性のリポソームはDNAの細胞中への移動(トランスフェクション)を促進することが知られているが、さらに導入効率、発現率、安全性の高いものが切望されている。
しかし、カチオン化脂質として選択できる脂質は限られており、安全性が高く、高機能を発現する薬物担体用カチオン化脂質の開発が強く望まれている。現在のところ、そのようなカチオン化脂質としては、たとえば、特許文献1〜4に記載されたものが報告されているが十分な効果は得られていない。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4897355号明細書
【特許文献2】米国特許第5334761号明細書
【特許文献3】特開平2−292246号公報
【特許文献4】特開平4−108391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、効率良くかつ安全にDNAを細胞中へ導入でき、またDNAの細胞中への移動以外にも、例えば血管内皮損傷部位、腎炎、腎ガン、肺炎、肺ガン、肝炎、肝ガン、膵ガン、リンパ腫などの患部に確実に、効率良くかつ安全に薬物のターゲッティングが行えDDS療法に有効な薬物担体の開発が強く望まれている。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、核酸の細胞内への導入(トランスフェクション)、および薬物の目的部位への送達を効率的かつ安全に行うことができる薬物担体を形成しうるカチオン化脂質としてのアリールメチルアミン誘導体およびその塩、ならびにそれを構成成分とする薬物担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、カチオン化脂質として炭素数10〜14のアルキル基またはアルケニル基を有する両親媒性アリールメチルアミン誘導体およびその塩を用いた場合に、上記目的に沿う薬物担体を形成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係るアリールメチルアミン誘導体およびその塩は、下記一般式(1)で示されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩である。
【0009】
【化1】

【0010】
なお、式(1)中、Aは芳香環を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜14のアルキル基またはアルケニル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立してO、S、COO、OCO、CONH、およびNHCOからなる群より選択されるいずれか1の基を表す。
【0011】
第1の発明に係るアリールメチルアミン誘導体およびその塩において、下記の式(2)で示されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩であってもよい。
【0012】
【化2】

【0013】
第2の発明に係る薬物担体は、下記の一般式(3)で表されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩を構成成分とする分子集合体よりなる。
【0014】
【化3】

【0015】
なお、式(3)中、Aは芳香環を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立してO、S、COO、OCO、CONH、およびNHCOからなる群より選択されるいずれか1の基を表す。
【0016】
第2の発明に係る薬物担体において、前記アリールメチルアミン誘導体が下記の式(4)で表されるものであってもよい。
【0017】
【化4】

【0018】
第2の発明に係る薬物担体において、前記薬物担体の内部に、診断および治療のいずれか一方または双方を行うための薬物が封入されていることが好ましい。
【0019】
第2の発明に係る薬物担体において、前記薬物が、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体のいずれか1または複数であってもよい。
【0020】
第2の発明に係る薬物担体において、前記薬物が、抗炎症剤、ステロイド剤、抗癌剤、酵素剤、酵素阻害剤、抗生物質、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖および遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、およびラジカルスカベンジャーのいずれか1または複数であってもよい。
【0021】
第2の発明に係る薬物担体において、前記薬物が、グリコサミノグリカンおよびその誘導体であってもよい。
【0022】
第2の発明に係る薬物担体において、前記薬物が、オリゴ糖、多糖、およびこれらの誘導体のいずれか1または複数であってもよい。
【0023】
第2の発明に係る薬物担体において、前記薬物が、タンパク質またはペプチドであってもよい。
【0024】
第2の発明に係る薬物担体において、前記薬物が、X線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、および核磁気共鳴診断用診断薬の1または複数であってもよい。
【0025】
第2の発明に係る薬物担体において、前記分子集合体は、大きさが0.02〜250μmの球状、円筒状または棒状の構造を有していてもよい。
【0026】
第2の発明に係る薬物担体において、前記分子集合体が閉鎖小胞を構成していてもよい。ここで「閉鎖小胞」とは、リポソーム、ミセル、リピッドマイクロスフェアおよびエマルジョンを意味する。
【0027】
第2の発明に係る薬物担体において、リン脂質およびその誘導体、リン脂質以外の脂質およびその誘導体、安定化剤、酸化防止剤、ならびに表面修飾剤のいずれか1または複数を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0028】
第1の発明に係るアリールメチルアミン誘導体およびその塩は、式(1)で表される分子構造を有するカチオン性脂質であるので、たとえば、診断および治療のいずれか一方または双方を行うための薬物を、投与対象となる細胞内に効率よく、かつ安全に導入することが可能な薬物担体を形成することができる。
特に、カチオン化脂質として使用されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩が式(2)で表されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩である場合には、市販されている遺伝子導入試薬よりも高い遺伝子導入能を有する薬物担体を形成することができる。
【0029】
第2の発明に係る薬物担体は、カチオン化脂質として、一般式(3)で表されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩を構成成分とする分子集合体よりなるので、薬物を、投与対象となる細胞内に効率よく、かつ安全に導入することができる。
特に、薬物担体の構成成分であるアリールメチルアミン誘導体およびその塩が式(4)で表されるアリールメチル誘導体およびその塩である場合には、市販されている遺伝子導入試薬よりも高い遺伝子導入能を有する。
【0030】
第2の発明に係る薬物担体において、薬物担体の内部に、診断および治療のいずれか一方または双方を行うための薬物が封入されている場合、細胞膜を通過できない水溶性の薬物や高分子量の薬物についても、細胞膜と薬物担体との膜融合を介して細胞内部に到達させることができる。
【0031】
第2の発明に係る薬物担体において、薬物が、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体のいずれか1または複数である場合には、欠失した遺伝子の投与、RNA干渉等による疾病の原因となる遺伝子の発現の抑制等を介した各種遺伝子疾患の治療を安全かつ効率よく行うことができる。
【0032】
第2の発明に係る薬物担体において、薬物が、(1)抗炎症剤、ステロイド剤、抗癌剤、酵素剤、酵素阻害剤、抗生物質、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖および遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、およびはラジカルスカベンジャーのいずれか1または複数、(2)グリコサミノグリカンおよびその誘導体、(3)オリゴ糖、多糖、およびこれらの誘導体のいずれか1または複数、あるいは、(4)タンパク質またはペプチドのいずれかである場合には、これらの薬物を標的細胞にのみ投与することにより、治療効果を高めるとともに副作用を抑制することができる。
【0033】
第2の発明に係る薬物担体において、薬物が、X線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、および核磁気共鳴診断用診断薬の1または複数である場合には、これらの診断薬を標的細胞にのみ投与することにより、標識効果を高めるとともに放射線等による細胞への悪影響を最小限にすることができる。
【0034】
第2の発明に係る薬物担体において、分子集合体が、大きさが0.02〜250μmの球状、円筒状または棒状の構造を有している場合、薬物の種類や投与対象部位等に応じて、最適な大きさおよび形状を有する薬物担体を選択することができるとともに、薬物の体内動態をも制御することができる。
【0035】
第2の発明に係る薬物担体において、分子集合体が閉鎖小胞を構成している場合には、水溶性、脂溶性のいずれの薬物についても薬物担体の内部に封入することができる。
【0036】
第2の発明に係る薬物担体において、リン脂質およびその誘導体、リン脂質以外の脂質およびその誘導体、安定化剤、酸化防止剤、ならびに表面修飾剤のいずれか1または複数を含有している場合には、薬物担体の安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係るアリールメチルアミン誘導体およびその塩は式(1)で示され、たとえば、式(5)で表されるようなアリールニトリル誘導体の還元反応によって製造することができる。
【0038】
【化5】

【0039】
なお、式(1)および式(5)中、Aは芳香環を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜14のアルキル基またはアルケニル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立してO、S、COO、OCO、CONH、およびNHCOからなる群より選択されるいずれか1の基を表す。
芳香環Aの具体例としては、ベンゼン、ピリジン、ビフェニル、ビピリジル、ナフタレン、キノリン、アントラセン、フェナントレン、アクリジン等が挙げられるが、好ましくはベンゼンである。
また、XおよびYはともにOであることが好ましい。R1およびR2は、好ましくは直鎖アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数12〜14の直鎖アルキル基である。
【0040】
原料となるアリールニトリル誘導体の合成法としては、オキシ塩化リンによるカルボン酸アミドの脱水反応、芳香族ジアゾニウム塩とシアン化第一銅との反応(Sandmeyer反応)、ハロゲン化アリールの芳香族求核置換反応等が挙げられる。
また、用いることのできる還元剤としては、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)等が挙げられる。
【0041】
このように製造されるアリールメチルアミン誘導体は、自体公知の分離、精製手段(例えば、クロマトグラフィー、再結晶)などにより単離採取することができる。
【0042】
ここで、アリールメチルアミン誘導体は、アミノ基がプロトン化された塩として用いることもできる。薬物担体の形成およびその内部への薬物の封入を妨げず、細胞毒性等の成体への有害な作用を有しない任意の塩を用いることができ、具体例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩等が挙げられる。
【0043】
薬物担体は、大きさが0.02〜250μm、好ましくは0.05〜0.4μmの分子集合体である。
分子集合体の構造としては、球状、円筒状、棒状等の様々な形態が考えられ、限定する必要はないが、特にその内部に高濃度の薬物を封入することのできる閉鎖小胞、すなわち、リポソーム、ミセル、リピッドマイクロスフェア(脂肪乳剤)およびエマルジョン(O/W型およびW/O型)のうちより少なくとも一つ以上の形態をとることが最も望ましい。
【0044】
アリールメチルアミン誘導体以外の薬物担体の構成成分としては、分子集合体の形成、分子集合体内部への薬物の封入、および脂質交換、エンドサイトーシス等を介した細胞内への薬物の導入を行うことができる任意の1または複数種類の脂質あるいはその誘導体が好ましい。脂質としては天然由来のものであっても、化学的に合成されたものであってもよく、脂肪酸トリグリセリド、リン脂質以外にも任意の構造を有する両親媒性化合物を用いることができるが、生体膜の構成成分であるリン脂質あるいはその誘導体が特に好ましい。
【0045】
リン脂質としては、ホスファチジルコリン(=レシチン)、ホスファジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、カルジオリビン等の天然あるいは合成のリン脂質、またはこれらを常法にしたがって水素添加したもの等を挙げることができる。
【0046】
アリールメチルアミン誘導体以外の構成成分として用いられる脂質の種類および複数種類の脂質を組み合わせて用いる場合における各脂質の組成比は、封入される薬剤の種類、薬物の送達部位、使用される条件等に依存するため一義的に決定することは困難であるが、目的とする形状および大きさを有する分子集合体(薬物担体)が安定に形成されるよう適宜調節される。また、アリールメチルアミン誘導体と他の脂質との組成比は、薬物の封入や細胞内への薬物の導入を効率よく行うことができ、かつ薬物単体の形成を妨げたり細胞毒性が発現したりしない範囲で適宜調節される。
【0047】
たとえば、薬物としてDNAを封入する場合、アリールメチルアミン誘導体以外の脂質としてはジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)を組み合わせて用いることが好ましい。また、アリールメチルアミン誘導体とDOPEとDPLCのモル比が1:0.4〜2.2:0.9〜1.1の範囲内であるのが好ましく、アリールメチルアミン誘導体とDOPEとDLPCのモル比が1:1〜2:1である場合が最も好ましい。
【0048】
また、薬物担体の保存性を改善し、投与時の安定性を高めるために安定化剤および酸化防止剤の一方または双方を添加してもよく、薬物の送達部位の特異性や血中滞留性(いわゆるステルス性)を向上させるための表面修飾剤を添加してもよい。
【0049】
安定化剤としては、膜流動性を低下させるコレステロールなどのステロール、あるいはグリセロール、シュクロースなどの糖類が挙げられる。
酸化防止剤としては、トコフェロール同族体すなわちビタミンEなどが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γ、δの4個の異性体が存在するが、いずれの異性体も使用できる。
表面修飾剤としては、親水性高分子やグルクロン酸、シアル酸、デキストランなどの水溶性多糖類の誘導体が挙げられる。
【0050】
親水性高分子としては、ポリエチレングリコール、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、合成ポリアミノ酸、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどが挙げられる。その中でもポリエチレングリコールは血中滞留性を向上させる効果が顕著であるため最も好ましい。
【0051】
また、親水性高分子は、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル等の疎水性化合物と結合させた誘導体を用いることによって、疎水性化合物部位を薬物担体(例えばリポソーム)の膜へ安定に挿入することができる。そのことにより、薬物担体表面に親水性高分子を存在させることができる。用いることができる好ましい親水性高分子誘導体の具体例としては、ポリエチレングリコール−ホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
【0052】
薬物担体に封入する薬剤としては、診断および治療のいずれか一方または双方の目的に応じて薬学的に許容し得る薬理的活性物質、生理的活性物質または診断用物質を用いることができる。
封入する薬剤としては、基本的にはいかなる性質を有する物質であってもよいが、担体の表面が陽電荷を持つため、電気的に中性あるいはアニオン性である物質の方が、静電反発が存在しないため、より高い封入率が期待できる。
【0053】
治療するために用いられる薬剤のうち、薬物担体に封入することができるものの種類は、薬物担体の形成を妨げないかぎり特に限定されるものではない。具体的には、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、抗炎症剤、ステロイド剤、抗癌剤、酵素剤、酵素阻害剤、抗生物質、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖および遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離阻害剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、ラジカルスカベンチャー、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖、多糖、およびこれらの誘導体、タンパク質、ペプチド等が挙げられる。
【0054】
また、診断するために用いられる薬剤のうち、薬物担体に封入することができるものの種類は、薬物担体の形成を妨げないかぎり特に限定されるものではない。具体的には、X線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬等が挙げられる
【0055】
薬物担体は、常法によって容易に調製することができるが、その一実施の形態を以下に示す。フラスコ内に一般式(1)で示されるアリールメチルアミン誘導体およびリン脂質等の他の担体構成成分を、クロロホルム等の有機溶媒により混合し、有機溶媒を留去後真空乾燥することによりフラスコ内壁に薄膜を形成させる。次に、当該フラスコ内に薬物を加え、激しく攪拌することにより、リポソーム分散液を得る。得られたリポソーム分散液を遠心分離し、上清をデカンテーションし封入されなかった薬物を除去することにより、薬物担体を分散液として得ることができる。また、上記の各構成成分を混合し、高圧吐出型乳化機により高圧吐出させることにより得ることもできる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例、試験例に限定されるべきものではない。
なお、「リットル」は大文字の「L」を用いて表記している。
【0057】
実施例1:3,5−ジドデシロキシベンジルアミン(X=Y=O、R1=R2=C1225である、式(2)で表されるアリールメチルアミン誘導体)の合成
ナスフラスコ中で3,5−ジヒドロキシベンゾニトリル1.01g、1−ブロモドデカン3.80g、炭酸カリウム2.13gおよびN,N−ジメチルホルムアミド25mL溶液を混合し、60℃で一夜攪拌した後、水を加え、析出した固体をろ取し、メタノール、ヘキサンで洗浄した。ここで得られた結晶を減圧下デシケーターで乾燥させた後、クロロホルムとエタノールの混合溶媒に溶解し、還流温度付近にて活性炭を加え還流後、活性炭をろ過により取り除き一晩静置した。析出してきた結晶をろ取し、この結晶を減圧下デシケーターで乾燥し、3,5−ジドデシロキシベンゾニトリル2.14gを得た。次に、等圧滴下ロートと窒素風船を付けた三口フラスコを窒素置換した後に、ジエチルエーテル15mLを加え、0℃に冷却した後、水素化リチウムアルミニウム0.12gを加えた。ジエチルエーテル5mLに3,5−ジドデシロキシベンゾニトリル1.03gを溶かした溶液を加え、30分間攪拌した。反応溶液にHO/THF(1/1,v/v)溶液、15%NaOH水溶液を加えた。ガラスフィルターにセライトをのせ、残留物をろ別した。ろ液を分液ロートに移し、酢酸エチルを加え、有機層と水層を分別した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、その有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、3,5−ジドデシロキシベンジルアミン0.44gを得た。H−NMR(CDCl)δ(ppm):6.44(s,2H),6.33(s,1H),3.93(t,4H,J=6.6Hz),3.79(s,2H),1.73‐1.79(quint,4H,J=6.9Hz),1.13‐1.49(m,36H),0.88(t,6H,J=6.6Hz)
【0058】
実施例2:3,5−ジペンタデシロキシベンジルアミン(X=Y=O、R1=R2=C1531である、式(2)で表されるアリールメチルアミン誘導体)の合成
遺伝子導入効率の比較を行うために、3,5−ジペンタデシロキシベンジルアミンを、実施例1と同様にして合成した。
【0059】
実施例3:脂質DNA複合体の調製
実施例1で調製した3,5−ジドデキロキシベンジルアミンを構成成分として含有し、薬剤としてDNAを封入した薬物担体の一例である脂質DNA複合体(リポプレックス)を下記の通りに調製した。
3,5−ジドデシロキシベンジルアミン、DOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、DLPC(ジラウロイルホスファチジルコリン)の脂質粉末を0.1μmol/10μLになるようにクロロホルム溶液に溶解したそれぞれの脂質溶液を、3,5−ジドデシロキシベンジルアミン:DOPE:DLPC=1:2:1(全脂質量:3.2μmol)で混合した。エバポレーターを用いて溶媒を留去して脂質薄膜を形成させた。これにPBS(1mL)を加え、60℃に加温し、超音波照射装置で分散させてリポソーム分散液を得た。次いで、ルシフェラーゼの遺伝子を組み込んだプラスミドDNA(pGL3)20μgを溶解した水溶液1mLを上記で調製されたリポソーム分散液と混合し、激しく振とう攪拌することによりリポプレックスを調製した。
なお、実施例2で調製した3,5−ジペンタデシロキシベンジルアミンを構成成分として含有する脂質DNA複合体も同様に調製した。
さらに、比較のため、アリールメチルアミン誘導体の代わりにカチオン化脂質として市販のポリアミン系遺伝子導入試薬であるリポフェクトアミン2000(商標名:インビトロジェン社)を構成成分とする脂質DNA複合体、および、対照としてカチオン化脂質を含まない脂質DNA複合体も、本実施例と同様の方法を用いて調製した。
【0060】
実施例4:脂質DNA複合体を用いたHep G2細胞への遺伝子導入
96ウェルプレート(ファルコン社製)に10%FBS(ウシ胎児血清)含有MEM培地で1×10cells/mLに調製したヒト肝細胞ガンHep G2細胞(日本癌研究バンクより入手可能)を100μLずつ播種し、実施例3で調製した脂質DNA複合体(プラスミドDNA(pGL3)0.2μgを含むリポソーム)懸濁液を加えた。その後、COインキュベーターで48時間培養し、新しい培地に交換した。さらに24時間インキュベートした後、PBSで洗浄した。細胞を溶解し、基質を添加して、酵素反応生成物の発光量をプレートリーダーで測定することにより、ルシフェラーゼ活性を求めた。細胞溶解液中の総タンパク質量を定量することでウェル間の規格化を行った。結果を図1に示す。なお、図1中、「control」はカチオン化脂質を含まない脂質DNA複合体を用いた実験結果を、「C12」、「C15」、「LP」は、それぞれ、カチオン化脂質として3,5−ジドデシロキシベンジルアミン、3,5−ジペンタデシロキシベンジルアミン、リポフェクトアミン2000を含む脂質DNA複合体を用いた実験結果を示す。また、「RLU」は、相対光量ユニット(Relative Light Units)を意味する。
図1に示したとおり、3,5−ジドデシロキシベンジルアミン(C12)および3,5−ジペンタデシロキシベンジルアミン(C15)を含むリポプレックスは、リポフェクトアミン2000(LP)を含むリポプレックスとくらべ、強い活性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】各種薬物担体を用いてルシフェラーゼ遺伝子を導入したHep G2細胞における遺伝子発現量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩。
【化1】

なお、式(1)中、Aは芳香環を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜14のアルキル基またはアルケニル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立してO、S、COO、OCO、CONH、およびNHCOからなる群より選択されるいずれか1の基を表す。
【請求項2】
請求項1に記載のアリールメチルアミン誘導体およびその塩において、下記の式(2)で示されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩。
【化2】

【請求項3】
下記の一般式(3)で表されるアリールメチルアミン誘導体およびその塩を構成成分とする分子集合体よりなる薬物担体。
【化3】

なお、式(3)中、Aは芳香環を表し、R1およびR2は、それぞれ独立して炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立してO、S、COO、OCO、CONH、およびNHCOからなる群より選択されるいずれか1の基を表す。
【請求項4】
請求項3記載の薬物担体において、前記アリールメチルアミン誘導体が下記の式(4)で表される薬物担体。
【化4】

【請求項5】
請求項3および4のいずれか1項に記載の薬物担体において、該薬物担体の内部に、診断および治療のいずれか一方または双方を行うための薬物が封入されている薬物担体。
【請求項6】
請求項5記載の薬物担体において、前記薬物が、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体のいずれか1または複数である薬物担体。
【請求項7】
請求項5記載の薬物担体において、前記薬物が、抗炎症剤、ステロイド剤、抗癌剤、酵素剤、酵素阻害剤、抗生物質、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖および遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、およびラジカルスカベンジャーのいずれか1または複数である薬物担体。
【請求項8】
請求項5記載の薬物担体において、前記薬物が、グリコサミノグリカンおよびその誘導体である薬物担体。
【請求項9】
請求項5記載の薬物担体において、前記薬物が、オリゴ糖、多糖、およびこれらの誘導体のいずれか1または複数である薬物担体。
【請求項10】
請求項5記載の薬物担体において、前記薬物が、タンパク質またはペプチドである薬物担体。
【請求項11】
請求項5記載の薬物担体において、前記薬物が、X線造影剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、および核磁気共鳴診断用診断薬のいずれか1または複数である薬物担体。
【請求項12】
請求項3〜11のいずれか1項に記載の薬物担体において、前記分子集合体が、大きさが0.02〜250μmの球状、円筒状または棒状の構造を有する薬物担体。
【請求項13】
請求項3〜12のいずれか1項に記載の薬物担体において、前記分子集合体が閉鎖小胞を構成する薬物担体。
【請求項14】
請求項3〜13のいずれか1項に記載の薬物担体において、リン脂質およびその誘導体、リン脂質以外の脂質およびその誘導体、安定化剤、酸化防止剤、ならびに表面修飾剤のいずれか1または複数を含有する薬物担体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−105961(P2008−105961A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287855(P2006−287855)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】