説明

アルカリ剥離性粘着剤組成物およびこれを利用した粘着シート

【課題】アルカリ水溶液中で容易に剥離するとともに、耐接着維持性、耐水白化性、凹凸追従性に優れ、かつアルカリ水溶液を汚染することのない粘着シートを提供すること。
【解決手段】
次の成分(A)ないし(C)
(A)少なくとも次の成分(a1)ないし(a3)
(a1)ホモポリマーのガラス転移温度が−80℃以上−60℃未満である(メタ)
アクリル酸アルキルエステル 10〜50質量%
(a2)ホモポリマーのガラス転移温度が−60℃以上10℃以下であるアクリ
ル酸アルキルエステル 40〜85質量%
(a3)カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体 5〜20質量%
を共重合してなるアクリル系ポリマー 100質量部
(B)次の成分(b1)および(b2)
(b1)窒素含有ラジカル重合性単量体 1〜10質量%
(b2)(メタ)アクリル酸アルキルエステル 90〜99質量%
を共重合してなり、分子量が1000〜5万であってガラス転移温度が0〜15
0℃であるアクリル系ポリマー 3〜30質量部
(C)多官能架橋剤
を含有することを特徴とするアルカリ剥離性粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ剥離性粘着剤組成物に関し、更に詳細には、アルカリ水溶液中で容易に剥離するとともに、凹凸追従性に優れ、さらに耐水白化性、耐水接着維持性にも優れる粘着剤組成物およびこれを利用した粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境保護、資源再利用という時流の中で、ガラスやプラスチックの再利用が進んでいる。粘着シートが貼付されたガラスやプラスチックを再利用するためには、粘着シートを除去する必要がある。粘着シートの除去方法として、アルカリ水溶液に浸漬して粘着シートを剥離する方法がある。
【0003】
粘着剤を水溶性とすることにより、アルカリ水溶液中で粘着シートを容易に剥がすことができる。例えば、デンプン系や、ポリビニルアルコール系粘着剤を用いれば、アルカリ水溶液中で容易に剥離する。またアクリル系粘着剤でも、ポリマー中のカルボキシル基を中和剤で中和することにより水溶性を付与した粘着剤が開示されている(特許文献1)。しかし、このような水溶性の粘着剤は、水分によりハガレや白化が起きやすくなるため、使用環境や用途が限定される。例えば、水濡れする製品や高湿度環境では使用できないし、意匠性や光学特性の観点から透明な粘着ラベルとする場合にも適さない。
【0004】
これに対し、本出願人は、カルボキシル基含有モノマー、エーテル結合を有するモノマーを共重合したアクリル系ポリマーを金属キレート架橋することにより、アルカリ水溶液には溶解するが、中性や酸性の水溶液には溶解しない粘着剤を提案している(特許文献2)。この粘着剤は、アルカリ溶解性と耐水性の両立を実現したものであるが、粘着剤がアルカリ水溶液に溶解するため、アルカリ水溶液が汚染される問題があった。
【0005】
さらに、被着体がビールびんや酒びんなどガラス容器の場合、意匠や機能の面から表面に凹凸構造が存在することも多い。このような凹凸構造への追従性が十分にない場合、ラベルの貼り付け時に気泡を巻き込みやすく、後のハガレや外観不良の原因となる。このため、ラベルの粘着剤には、凹凸構造に対して高い追従性を有することも要求される。
【0006】
このように、アルカリ水溶液での再利用処理用の粘着シートには、様々な特性が要求される。しかし、基本的にアルカリ水溶液での剥離のしやすさと耐水性(耐水接着維持性および耐水白化性)はトレードオフの関係にある上、アルカリ水溶液の汚染を防止するには、アルカリ水溶液への溶解性を高める従来の手法とは異なるアプローチが必要となるため、その実現は非常に困難とされていた。
【0007】
なお、特許文献3には、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アクリル酸を共重合した粘着性ポリマーと、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートを共重合した分子量7万の非粘着性ポリマーおよび架橋剤を用いた粘着剤組成物が開示されている。しかし、この粘着剤組成物はアルカリ水溶液中での再利用処理を目的としたものではなく、また非粘着性ポリマーの分子量が大きいため、アルカリ剥離性や凹凸追従性に欠け、当該用途には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−226776号公報
【特許文献2】特開平6−184508号公報
【特許文献3】特許2009−35602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、アルカリ水溶液中で容易に剥離するとともに、耐接着維持性、耐水白化性、凹凸追従性に優れ、さらにアルカリ水溶液を汚染することのない粘着シートの開発が切望されており、本発明はそのような粘着シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ガラス転点温度が異なるアクリル酸アルキルエステルを特定の配合量で併用したカルボキシル基を有する粘着性アクリル系ポリマーと、窒素を有する非粘着性アクリル系ポリマーとを組み合わせることによって、凹凸追従性、耐接着維持性、耐水白化性に優れるとともに、アルカリ水溶液中で速やかに界面剥離し、アルカリ水溶液の汚染も生じない粘着剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、次の成分(A)ないし(C)
(A)少なくとも次の成分(a1)ないし(a3)
(a1)ホモポリマーのガラス転移温度が−80℃以上−60℃未満である(メタ)
アクリル酸アルキルエステル 10〜50質量%
(a2)ホモポリマーのガラス転移温度が−60℃以上10℃以下であるアクリ
ル酸アルキルエステル 40〜85質量%
(a3)カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体 5〜20質量%
を共重合してなるアクリル系ポリマー 100質量部
(B)次の成分(b1)および(b2)
(b1)窒素含有ラジカル重合性単量体 1〜10質量%
(b2)(メタ)アクリル酸アルキルエステル 90〜99質量%
を共重合してなり、分子量が1000〜5万であってガラス転移温度が0〜15
0℃であるアクリル系ポリマー 3〜30質量部
(C)多官能架橋剤
を含有することを特徴とするアルカリ剥離性粘着剤組成物である。
【0012】
また本発明は、基材上に上記粘着剤組成物から形成される粘着剤層を設けてなる粘着シートである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粘着シートは、粘着剤層全体がアルカリ水溶液に溶解するのではなく、界面との結合を損失させることによって速やかに界面剥離させることができる。これにより、アルカリ水溶液の汚染を防ぎ、再生作業の効率を高めることが可能となる。また、耐水接着維持性と耐水白化性に優れるため、水が付着したり、湿熱環境下に置かれてもはがれや白化が生じにくい。さらに、凹凸追従性が高いため、ガラスびんなどの凹凸構造を有する被着体に対しても柔軟に貼付することができ、はがれや外観不良が生じないものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の粘着剤組成物に用いる成分(A)のアクリル系ポリマー(以下、「ポリマー(A)」ということがある)は、少なくとも(a1)ホモポリマーのガラス転移温度が−80℃以上−60℃未満である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(a2)ホモポリマーのガラス転移温度が−60℃以上10℃以下であるアクリル酸アルキルエステル、(a3)カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体を共重合して得られるものである。
【0015】
(a1)ホモポリマーのガラス転移温度が−80℃以上−60℃未満である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でもガラス転移温度が−80〜−65℃のものが、得られる粘着剤の凹凸への追従性を向上させるという点で好ましく、具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレートが挙げられる。
【0016】
ポリマー(A)の構成モノマー全体に対する(a1)の含有量は10〜50質量%(以下、「%」で示す)であり、好ましくは12〜30%である。10%よりも少ないと十分な凹凸追従性が得られず、50%よりも多いとカット性や打ち抜き性が悪く、ラベル等の用途においては非常に作業性に劣るものとなる。
【0017】
(a2)ホモポリマーのガラス転移温度が−60℃以上10℃以下であるアクリル酸アルキルエステルとしては、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、オクチルメタクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。中でもガラス転移温度が−55〜−20℃のものが得られる粘着剤にガラス容器に対する接着性を付与し、カット性や抜き打ち性を良好にするという点で好ましく、具体的には、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、オクチルメタクリレート等が例示される。
【0018】
ポリマー(A)の構成モノマー全体に対する(a2)の含有量は40〜85%であり、好ましくは60〜80%である。40%よりも少ないと十分な接着力を得ることができず、85%よりも多いと凹凸への追従性が不十分となるために好ましくない。
【0019】
(a3)カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体は、分子中にカルボキシル基およびラジカル重合性を有するモノマーであり、具体的には、(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、3−カルボキシプロピル(メタ)アクリレート、4−カルボキシブチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸が(a1)(a2)との共重合性が良好であるという点で好ましく用いられる。
【0020】
ポリマー(A)の構成モノマー全体に対する(a3)の含有量は5〜30%であり、好ましくは8〜15%である。5%よりも少ないと後述する架橋剤との反応による架橋構造の形成が不十分となったり、また、後述するポリマー(B)の窒素原子との静電結合による擬架橋構造の形成が不十分となるため接着力が不十分となったり、カット性、抜き打ち性に劣るため好ましくなく、30%よりも多いと架橋構造の形成が過剰となり凹凸への追従性や曲面貼り付け性に劣るために好ましくない。
【0021】
ポリマー(A)には、その他のラジカル重合性単量体を配合することができる。具体的には、i−オクチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート等の(a1)(a2)以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロ環含有(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレンオキサイド鎖を有する(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニルなどを用いることができる。成分(A)アクリル系ポリマーの構成モノマー全体に対するその他のラジカル重合性単量体の含有量は、0〜20%であり、好ましくは0〜10%である。20%よりも多いと、本発明の作用効果である凹凸への追従性、接着力、アルカリ剥離性を損なうおそれがあるため好ましくない。
【0022】
ポリマー(A)は、上記モノマー成分の混合物を、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の従来公知の重合法により重合させることにより製造することができる。これらの中でも、反応制御が容易であり、不純物の混入が少ない溶液重合法により製造したものが好適である。
【0023】
上記のようにして得られるポリマー(A)の重量平均分子量(Mw)は20〜200万であることが好ましく、40〜100万がより好ましい。この範囲であると、粘着剤溶液の塗工性が良好であるため好ましい。なお、本明細書において重量平均分子量は、実施例中に記載した測定方法により求められる値を意味する。
【0024】
また、ポリマー(A)は、ガラス転移温度(Tg)が−65〜−30℃あることが好ましく、−60〜−40℃であることがより好ましい。この範囲であると、凹凸への追従性と接着力とのバランスが良好であるため好ましい。なお、本明細書において、共重合体のガラス転移温度は、下記のFOXの式によって算出される値である。また、代表的な各単量体のホモポリマーのガラス転移温度を下記表1に示す。表1中に記載のない単量体については、文献(ポリマーハンドブック第3版:J. Brandrup , E. H. Immergut ,Wiley-Interscience ,1989)等に記載の値を用いることができる。
【0025】
(FOXの式)
1/Tg=Wa/Tga+Wb/Tgb+・・・
Tg:共重合体のガラス転移温度
Tga,Tgb,・・:単量体a,単量体b,・・・のホモポリマーのガラス転移温

Wa,Wb,・・・・:単量体a,単量体b,・・・の重量分率
【0026】
【表1】

【0027】
一方、本発明の粘着剤組成物に用いる成分(B)のアクリル系ポリマー(以下、「ポリマー(B)」ということがある)は、(b1)窒素含有ラジカル重合性単量体および(b2)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合させたものである。
【0028】
(b1)窒素含有ラジカル重合性単量体としては、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)などのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロイルモルホリン、ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。中でも、3級アミノ基を有する単量体が好ましく、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)が(b2)との共重合性が良好で、ポリマー(A)との静電結合性も良好であるという点で好適に用いられる。
【0029】
(b2)(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらのうち、メチルアクリレート、メチルメタクリレートがポリマー(B)のTgを好ましい範囲に調整し、アルカリ水溶液で処理した際の剥離性を良好にできるという点で好ましく用いられる。
また、ポリマー(B)中には、後述の架橋剤(C)との反応性の高い、カルボキシル基、水酸基を有するモノマーを使用しないことが好ましい。ポリマー(B)中にこれらの官能基が存在すると、架橋剤(C)によりポリマー(B)が架橋構造を形成してしまい、アルカリ溶液に浸漬した際にポリマー(B)の流動性が不十分となり、剥離性が低下するおそれがある。
【0030】
ポリマー(B)は、(b1)および(b2)を構成モノマーとし、(b1)の含有量は1〜10%、(b2)の含有量は90〜99%であり、好ましくは(b1)の含有量は2〜5%、(b2)の含有量は98〜95%である。この範囲であると、ポリマー(A)との静電結合性が良好で、十分なアルカリ剥離性が得られるという点で好ましい。
【0031】
ポリマー(B)は、上記成分(b1)および(b2)の混合物を、溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の従来公知の重合法により重合させることにより製造することができる。これらの中でも、反応制御が容易で、不純物の混入が少ないという点で、溶液重合法により製造したものが好適である。
【0032】
このようにして得られるポリマー(B)の重量平均分子量(Mw)は1000〜5万であり、好ましくは5000〜3万である。重量平均分子量が1000未満であるとカット性や抜き打ち性が悪くなり、5万よりも大きいとアルカリ溶液に浸漬した際の流動性が低下し剥離性が悪くなるため好ましくない。
【0033】
また、ポリマー(B)は、ガラス転移温度(Tg)が0〜150℃あり、好ましくは50〜120℃である。0℃よりも低いと、アルカリ溶液に浸漬した際にポリマー(B)が粘着剤層界面に移行してもポリマー(B)自体が粘着性を有するためアルカリ剥離性が低下してしまうおそれがあり、150℃よりも高いと、ポリマー(A)との相溶性が低下してしまい、ポリマー(A)とポリマー(B)との静電結合による疑似架橋構造を均一に形成することができなくなるため好ましくない。
【0034】
本発明に用いる成分(C)の多官能架橋剤は、成分(A)のアクリル系ポリマー中のカルボキシル基同士を結合できるものであれば特に限定されるものではなく、エポキシ架橋剤、イソシアネート架橋剤、金属キレート架橋剤などが用いられ、2種以上を併用することもできる。これらのうち、エポキシ架橋剤や金属キレート架橋剤などが好適である。また、基材との密着性を確保したい場合はエポキシ架橋剤及び/または金属キレート架橋剤にイソシアネート架橋剤を併用することが有効である。例えば、エポキシ架橋剤とイソシアネート架橋剤を併用する場合は、これらを質量比1:0.1〜1:10、好ましくは1:0.5〜1:5の範囲で併用できる。
【0035】
エポキシ架橋剤としては、ビスフェノールAエピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレンジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N’,N'−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N'−ジアミングリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でもN,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンが好ましく用いられる。
【0036】
イソシアネート架橋剤としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、クロルフェニレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水添されたジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物、およびこれらのジイソシアネート化合物にトリメチロールプロパンなどを付加したイソシアネート化合物、イソシアヌレート変性体、ビュレット変性体などを挙げることができる。このうち、トリレンジイソシアネート、又は、そのトリメチロールプロパン等の付加体がプラスチックフィルムに対する密着性を向上させることができるために好ましい。
【0037】
金属キレート架橋剤としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウム等の多価金属にアセチルアセトン、アセト酢酸エチル等が配位した化合物等が挙げられる。
【0038】
本発明の粘着剤組成物における成分(B)の配合量は、成分(A)100質量部(以下、「部」で示す)に対して、3〜30部であり、好ましくは5〜15部である。3部よりも少ないと十分なアルカリ剥離性が得られないため、30部よりも多いと成分(B)のTgが高く、また、成分(A)との疑似架橋構造が密になりすぎるため、粘着剤層が硬くなり凹凸への追従性、密着性が低下してしまうため好ましくない。
【0039】
また成分(C)の配合量は、成分(A)100部に対して、0.01〜5部であり、好ましくは0.05〜3部である。0.01部よりも少ないと十分な接着力が得られず、また、加工性悪くなるため、5部よりも多いと架橋密度が高くなり過ぎ、凹凸追従性、密着性が低下してしまうため好ましくない。
【0040】
本発明の粘着剤組成物の調製は、上記成分(A)ないし(C)と必要によりその他の任意成分を配合し、これらを常法に従って混合することによって行われる。使用可能な任意成分としては、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘着付与剤、染料、顔料、充填材、酸化防止剤等が挙げられる。これらの任意成分は本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0041】
かくして得られた粘着剤組成物を用い、基材上に粘着剤層を形成させることによって本発明の粘着シートが得られる。粘着剤層は、基材の表面に常法に従って粘着剤組成物を塗布し、乾燥、熟成することによって形成される。また、同様にセパレータ上に粘着剤層を形成させ、これを基材に転写させてもよい。乾燥は、通常50〜180℃、1〜
10分程度で行われる。また熟成は、20〜60℃で1〜14日間程度行われる。粘着剤層の厚みは、通常5〜100μm、好ましくは、10〜60μm程度である。
【0042】
基材としては、PET、熱収縮性フィルム(シュリンクフィルム)等を使用することができる。これらのうち、熱収縮性フィルムを用いるとアルカリ水溶液中での剥離時間をより一層早めることが可能となる。アルカリ水溶液の温度を高温とすることで、フィルムが収縮し、その力によってフィルムが被着体から剥がれやすくなるためである。熱収縮性フィルムとしては、熱収縮性を有するものであれば特に制限されない。一般的に使用されている、ポリスチレン系熱収縮性フィルム、ポリエステル系熱収縮性フィルム、または複合系熱収縮性フィルムなどが好適に使用できる。
【0043】
本発明の粘着シートは、種々の商品またはその包装容器等に貼付され、商品名などの情報を表示するシートまたはラベルとして好適に利用される。そして、使用後はアルカリ水溶液中で容易に剥離することができるため、ビールびん、酒びん等のガラス容器やプラスチック容器など再利用される容器用のラベル等として適している。特に、本発明の粘着シートは凹凸追従性に優れるため、曲面であり、凹凸構造を有するビールびん等に好適である。さらに、このようなラベル等には意匠性、光学特性から透明性が必要とされることが多いが、この粘着シートは水が付着したり、湿熱環境下でも白化が生じにくいため適している。
【0044】
本発明の粘着シートは、アルカリ水溶液中での剥離性に優れるが、アルカリ水溶液の汚染が少ないという特徴を有し、さらに、耐水接着維持性、耐水白化性に優れるとともに、高い凹凸追従性も備えているが、その理由は次のように考えられる。
すなわち、本発明の粘着シートにおいて、成分(A)のアクリル系ポリマーと成分(B)のアクリル系ポリマー(以下、それぞれ「(A)ポリマー」、「(B)ポリマー」ということがある)は、カルボキシル基と窒素原子との静電結合によって、擬似的架橋ネットワークを形成している。(A)ポリマーのカルボキシル基をアルカリ水溶液によって中和すると、(B)ポリマーはまったく架橋に関与しなくなる。架橋による束縛を失った(B)ポリマーは、低分子量であるため流動性が高く、水溶性の高い窒素原子によって粘着剤界面に移行する。高Tg、低分子である(B)ポリマーは、それ自身非粘着成分であり、被着体−粘着剤界面に偏在することで界面結合力が大幅に低下し、結果として粘着シートはアルカリ水溶液中で容易に界面剥離する。このように、粘着剤がアルカリ水溶液に溶解するのではなく、界面剥離によって剥離するため、アルカリ水溶液の汚染が生じない。
【0045】
一方、極性の高いカルボキシル基および窒素原子は、粘着剤と被着体界面に侵入した水分子を粘着剤層全体中に分散させるため、水分が界面で膜を形成してしまうことによる界面結合の低下を避ける働きがある。また、粘着剤が水分によって白化するのは、界面付近や粘着剤層に侵入した水分が微少な液滴となって、光を乱反射するためである。極性の高いカルボキシル基および窒素原子が水分子を粘着剤層全体中に分散させるため、水が液滴となることを防ぎ、その結果粘着剤の白化を抑制することが可能となる。そして、(A)ポリマー中の(a1)ガラス転移温度が−60℃未満の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを特定の範囲で添加することにより、柔軟性が生まれ、凹凸追従性が得られるのである。
【実施例】
【0046】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0047】
製 造 例 1
アクリル系ポリマーの製造((A)ポリマー):
撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)15質量部、n−ブチルアクリレート(BA)75質量部、アクリル酸(AA)10質量部、酢酸エチル100質量部を仕込みフラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコの内容物を70℃に加熱した。次いで、十分に窒素ガス置換した重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1質量部を攪拌下にフラスコ内に添加した。フラスコ内の内容物の温度が70℃に維持できるように、加熱及び冷却を8時間行い最後に酢酸エチル30部を添加してアクリル系ポリマーA1溶液を得た。また表2に示すモノマー組成に代えた以外は同様にしてアクリル系ポリマーA2〜A6溶液を得た。
【0048】
【表2】

【0049】
製 造 例 2
アクリル系ポリマーの製造((B)ポリマー):
撹拌機、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)2質量部、メチルメタクリレート(MMA)98質量部、トルエン100質量部を仕込みフラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコの内容物を90℃に加熱した。次いで、十分に窒素ガス置換した重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1質量部を攪拌下にフラスコ内に添加した。フラスコ内の内容物の温度が90℃に維持できるように、加熱及び冷却を8時間行い最後にトルエン30部を添加してアクリル系ポリマーB1溶液を得た。また表3に示すモノマー組成に代えた以外は同様にしてアクリル系ポリマーB2〜3、B6〜B9溶液を得た。なお、アクリル系ポリマーB4はB1とモノマー組成は同じであるが、製造条件中、初期仕込みのトルエン添加量を増量することで低分子量体とした。一方、B5も、初期仕込みのトルエン添加量を減量することで高分子量体とした。
【0050】
得られたアクリル系ポリマーB1〜B9について、重量平均分子量(Mw)を下記GPC測定条件に従って測定した。また上記FOXの式より、ガラス転移点温度(Tg)を求めた。モノマー組成と併せて表3に示す。
【0051】
<GPC測定条件>
測定装置:HLC−8120GPC(東ソー社製)
GPCカラム構成:以下の5連カラム(すべて東ソー社製)
(1)TSK−GEL HXL−H (ガードカラム)
(2)TSK−GEL G7000HXL
(3)TSK−GEL GMHXL
(4)TSK−GEL GMHXL
(5)TSK−GEL G2500HXL
サンプル濃度:1.0mg/cmとなるように、テトラヒドロフランで希釈
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流量: 1ml/min
カラム温度:40℃
【0052】
【表3】

【0053】
実 施 例 1
粘着シートの作製:
得られたアクリル系ポリマーA1の固形分100質量部に対して、アクリル系ポリマーB1の固形分10質量部、エポキシ系架橋剤テトラッドX(N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、三菱瓦斯化学社製)0.3質量部を添加して混合し粘着剤組成物を調製した。これを乾燥後の厚みが50μmになるように、剥離処理された38μmPETフィルム上に塗工し、80℃で2分間乾燥させた。乾燥後、38μmPETフィルムを粘着剤層側に貼り合わせ、23℃で7日間熟成し粘着シートを得た。
【0054】
実 施 例 2〜8
アクリル系ポリマー(A)および(B)並びに架橋剤を下記表4のように代えた以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物を調製した。また、得られた粘着剤組成物を用い、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。ただし、実施例6では、基材として20μmスチレン系熱収縮性フィルムを用いた。
【0055】
【表4】

【0056】
比 較 例 1〜12
アクリル系ポリマー(A)および(B)並びに架橋剤を下記表5のように代えた以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物を調製した。また、得られた粘着剤組成物を用い、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0057】
【表5】

【0058】
試 験 例 1
実施例1〜8および比較例1〜12で得た粘着シートについて、耐水接着維持性、湿熱白化性、凹凸追従性、アルカリ剥離性を以下の方法により評価した。これらの結果を表6にまとめて示す。
【0059】
(耐水接着維持性)
ガラスに試料を貼付した後、常温水に水没させ、1日後に取り出してその直後に粘着力を測定した(耐水後粘着力)。また、ガラスに試料を貼付した後、20分後に粘着力を測定したものを初期粘着力として、下記式より接着残存を求めた。
接着残存(%)=耐水後粘力÷初期粘着力×100
【0060】
(湿熱白化性)
ガラスに試料を貼付した後、60℃−95%RHに24時間投入し、その後23℃−50%RH環境下に2時間静置し、ヘイズを測定した。ヘイズの値が1%を超えると目視でも白化が認識され始めるため、湿熱耐久後にヘイズの値が1%を超えないものが望ましい。
【0061】
(凹凸追従性:微小クリープ)
貼付面積が10mm×10mmとなるように試料をガラス板に貼付し、60℃−dry環境下で剪断方向に1000秒、800gの一定加重をあたえ、その時の剪断方向へのズレ幅(μm)を測定した。ズレ幅が300μm以下の場合、固すぎて凹凸追従性が不十分であり、550μm以上では柔らかすぎて加工性に難がある。
【0062】
(アルカリ剥離性)
25mm×25mmにカットした試料をガラス板にし、常温で1日保管した後、80℃のNaOH水溶液(3質量%)に沈め、フィルムが自然に剥がれるまでに要した時間(min)を測定した。作業性の観点から、10分以内に剥離することが望ましい。
【0063】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の粘着シートは、アルカリ水溶液中で速やかに界面剥離させることができる。また、耐水接着維持性と耐水白化性に優れるため、水が付着してもはがれや白化が生じにくく、凹凸追従性も高い。したがって、ビールびん等の再利用される容器に貼付するシートまたはラベルとして有用なものである。
以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)ないし(C)
(A)少なくとも次の成分(a1)ないし(a3)
(a1)ホモポリマーのガラス転移温度が−80℃以上−60℃未満である(メタ)
アクリル酸アルキルエステル 10〜50質量%
(a2)ホモポリマーのガラス転移温度が−60℃以上10℃以下であるアクリ
ル酸アルキルエステル 40〜85質量%
(a3)カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体 5〜20質量%
を共重合してなるアクリル系ポリマー 100質量部
(B)次の成分(b1)および(b2)
(b1)窒素含有ラジカル重合性単量体 1〜10質量%
(b2)(メタ)アクリル酸アルキルエステル 90〜99質量%
を共重合してなり、分子量が1000〜5万であってガラス転移点温度が0〜15
0℃であるアクリル系ポリマー 3〜30質量部
(C)多官能架橋剤
を含有することを特徴とするアルカリ剥離性粘着剤組成物。
【請求項2】
基材上に請求項1記載の粘着剤組成物から形成される粘着剤層を設けてなる粘着シート。
【請求項3】
基材が熱収縮性フィルムである請求項2記載の粘着シート。

【公開番号】特開2012−153789(P2012−153789A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13636(P2011−13636)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000202350)綜研化学株式会社 (135)
【Fターム(参考)】