説明

アルカリ洗浄剤組成物

【課題】洗浄性及び油水分離性に優れるアルカリ洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】アルカリ剤(A)、下記式(1)で表されるカルボン酸(B−1)、


該カルボン酸(B−1)のCOOH基をCH2OHに置換した構造で表されるアルコール(B−2)、及び水を含有し、前記カルボン酸(B−1)と、前記アルコール(B−2)との重量比{(B−1)/(B−2)}が、97/3〜25/75である、アルカリ洗浄剤組成物。この洗浄剤組成物には更に、キレート剤(C)、非イオン界面活性剤(D)及び/又は水溶性高分子カルボン酸類(E)が含有されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄、アルミニウム、銅などからなる鋼板(鋼帯)に付着した汚れや、プラスチック部品やガラスなどの硬質材料の表面に付着した汚れ等を洗浄する際に用いられる、アルカリ洗浄剤組成物、及びアルカリ洗浄剤キットに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板表面のアルカリ洗浄は、酸洗浄と共にメッキ、塗装等の表面処理を行う前処理として必要であり、製品の良否を決定づける非常に大きな因子である。鋼板表面に付着している汚れとしては、冷間圧延時に付着する圧延油、防錆油などの油汚れや、鉄粉等の固体汚れ等が挙げられる。
【0003】
アルカリ洗浄に用いられるアルカリ洗浄剤としては、特定の分岐カルボン酸又はその塩を含有する洗浄剤(特許文献1及び2)や、特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含有する洗浄剤(特許文献3)、あるいは分岐アルコールを含有する洗浄剤(特許文献4)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−323298号公報
【特許文献2】特開平1−301799号公報
【特許文献3】特開2007−39724号公報
【特許文献4】特開2007−177265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼板の連続生産ラインにおいて、洗浄剤により汚れを除去する場合、洗浄剤中に油分等の汚れが蓄積されて洗浄性が低下するため、洗浄剤の交換を頻繁に行う必要があった。資源節約のためには、洗浄後の洗浄剤廃液から油分等の汚れを分離して除き、新たな洗浄剤の調製に再利用することが望ましい。しかし、近年、鋼板の洗浄速度が急速に速くなり、従来のアルカリ洗浄剤では、洗浄性と、洗浄後に油分等の汚れを効率よく分離できる性能(油水分離性)とを両立させることは困難であった。
【0006】
本発明は、洗浄性及び油水分離性に優れるアルカリ洗浄剤組成物及びアルカリ洗浄剤キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、
アルカリ剤(A)、
下記式(1)で表されるカルボン酸(B−1)、
【化1】

下記式(2)で表されるアルコール(B−2)、
【化2】

及び水を含有し、
前記カルボン酸(B−1)と、前記アルコール(B−2)との重量比{(B−1)/(B−2)}が、97/3〜25/75である、アルカリ洗浄剤組成物、に関する。
【0008】
また、本発明のアルカリ洗浄剤キットは、アルカリ剤(A)及び水を含む組成物と、前式(1)で表されるカルボン酸(B−1)、前記式(2)で表されるアルコール(B−2)及び水を含む組成物とからなるアルカリ洗浄剤キットである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルカリ洗浄剤組成物及びアルカリ洗浄剤キットによれば、洗浄性及び油水分離性に優れるアルカリ洗浄剤組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のアルカリ洗浄剤組成物(以下、洗浄剤組成物ともいう)に含まれる各成分について説明する。
【0011】
[アルカリ剤(A)]
本発明において用いられるアルカリ剤(A)は、洗浄剤組成物の油汚れの除去性を確保し洗浄性を高める観点から、水溶性のアルカリ剤であればいずれのものも使用できる。具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、セスキ珪酸ナトリウム等の珪酸塩、リン酸三ナトリウム等のリン酸塩、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等の炭酸塩、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩等が挙げられる。これらは、単一又は2種以上の組み合わせで用いられる。洗浄剤組成物の油汚れの除去性を確保し洗浄性を高める観点から、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、オルソ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。アルカリ剤(A)の含有量は、洗浄剤組成物中、2.0〜10.0重量%であることが好ましく、2.5〜8.0重量%であることがより好ましく、2.5〜6.0重量%であることが更に好ましい。
【0012】
[カルボン酸(B−1)]
本発明の洗浄剤組成物には、洗浄性を向上させる観点から、前記式(1)で表されるカルボン酸(B−1)が含まれる。本発明の洗浄剤組成物中において、カルボン酸(B−1)のカルボキシル基は、電離していても電離していなくてもよい。また、本発明の洗浄剤組成物を調製する際には、カルボン酸(B−1)をそのまま配合してもよく、カルボン酸(B−1)の塩の形態で配合してもよい。なお、本発明において、カルボン酸(B−1)を塩の形態で配合する場合、カルボン酸(B−1)の重量は、カルボン酸(B−1)の塩のカウンターイオンを水素に置き換えた化合物の重量をさすものとする。
【0013】
カルボン酸(B−1)又はその塩は、例えば、アルデヒドをアルドール縮合することによって得られるアルコールをオキソ法によって酸化し、次いで必要により塩とすることにより製造できるが、市販のものを使用することもでき、その例としては、日産化学工業社製のイソステアリン酸が挙げられる。
【0014】
前記カルボン酸(B−1)の塩としては、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属との塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチレントリアミン等の炭素数1〜4の脂肪族アミンとの塩;アンモニアとの塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の炭素数2〜10のアルカノールアミンとの塩などが挙げられる。カルボン酸(B−1)の含有量は、洗浄剤組成物中、0.05〜3.0重量%であることが好ましく、0.1〜2.7重量%であることがより好ましく、0.1〜2.5重量%であることが更に好ましい。
【0015】
[アルコール(B−2)]
本発明の洗浄剤組成物には、油水分離性を向上させる観点から、前記式(2)で表されるアルコール(B−2)が含まれる。アルコール(B−2)は、例えば、アルデヒドをアルドール縮合することにより製造できるが、市販のものを使用することもでき、その例としては、日産化学工業社製のファインオキソコール180等のイソステアリルアルコールが挙げられる。アルコール(B−2)の含有量は、洗浄剤組成物中、0.001〜2.3重量%であることが好ましく、0.003〜2.1重量%であることがより好ましく、0.003〜1.9重量%であることが更に好ましい。
【0016】
カルボン酸(B−1)とアルコール(B−2)の合計含有量は、洗浄性及び油水分離性を向上させる観点から、使用時(洗浄時)において、アルカリ洗浄剤組成物中、0.05〜2.7重量%であることが好ましく、0.1〜2.5重量%であることがより好ましく、0.1〜2.4量%であることが更に好ましい。
【0017】
本発明の洗浄剤組成物において、カルボン酸(B−1)とアルコール(B−2)の合計含有量は、洗浄剤組成物の洗浄性向上及び油水分離性向上の観点から、アルカリ剤(A)100重量部に対して、好ましくは1.1〜60.0重量部、より好ましくは2.2〜56.0重量部、更に好ましくは2.2〜52.0重量部である。
【0018】
本発明の洗浄剤組成物においては、洗浄性及び油水分離性を向上させる観点から、カルボン酸(B−1)とアルコール(B−2)との重量比{(B−1)/(B−2)}が、97/3〜25/75であり、97/3〜50/50であることが好ましく、97/3〜70/30であることがより好ましく、97/3〜80/10であることが更に好ましく、97/3〜85/15であることが更により好ましい。
【0019】
[キレート剤(C)]
本発明の洗浄剤組成物には、キレート剤(C)が更に含有されていてもよい。キレート剤(C)は汚れ中の金属原子と結合してこれを除去することにより洗浄効果を高めると共に、本発明の洗浄剤組成物中の各剤の分散性を向上できると考えられる。キレート剤(C)としては、例えば、グリシン、ニトリロ三酢酸、アスパラギン酸、ジヒドロキシエチレングリシン、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン二酢酸、イミノ二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、メタフェニレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ノルロイシンアミノ酢酸等のアルカリ金属塩若しくは低級アミン塩などのアミノカルボン酸類や、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、グルコヘプトン酸、粘液酸等のアルカリ金属塩若しくは低級アミン塩などのオキシカルボン酸型キレートビルダー等が挙げられる。これらは、単一又は2種以上の組み合わせで用いられる。これらのうち、洗浄性を向上させる観点から、グルコン酸、エチレンジアミン四酢酸、アスパラギン酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸等のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも一種のキレート剤が好ましく、前記群に含まれるキレート剤を2種以上使用することがより好ましく、グルコン酸とエチレンジアミン四酢酸の組み合わせが更に好ましい。
【0020】
キレート剤(C)の含有量は、洗浄剤組成物の洗浄性及び分散安定性を向上させる観点から、使用時(洗浄時)において、洗浄剤組成物中、0.01〜2重量%であることが好ましく、0.01〜1重量%であることがより好ましく、0.05〜1重量%であることが更に好ましい。
【0021】
[非イオン界面活性剤(D)]
本発明の洗浄剤組成物には、洗浄性を向上させる観点から、非イオン界面活性剤(D)が更に含有されていてもよい。非イオン界面活性剤(D)としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテルなどのポリオキシアルキレンエーテル系非イオン界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノ(ジ)エステル等のエステル系非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、単一又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0022】
なかでも、非イオン界面活性剤(D)としては、洗浄性を向上させる観点から、下記一般式(3)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D−1)が好ましい。
(R)CH−O−{(EO)x1/(PO)y1}(EO)z1−H (3)
(一般式(3)において、R、Rはそれぞれ炭素数1〜14の直鎖アルキル基を示し、RとRの炭素数の和が9〜15であり、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を示し、x1、z1はオキシエチレン基の平均付加モル数、y1はオキシプロピレン基の平均付加モル数であり、かつ、x1、y1、z1は、4≦x1≦7、1≦y1≦3、4≦z1≦7、7≦(x1+z1)≦14を満たす数である。{}内のPOとEOはランダム配列、ブロック配列のいずれでもよい。)
【0023】
前記一般式(3)において、RとRの炭素数は、同じであっても異なっていてもよいが、洗浄性を向上させる観点から、同じであることが好ましい。RとRの炭素数は、好ましくはそれぞれ2〜12であり、より好ましくは5〜7である。また、RとRの炭素数の和は、好ましくは10〜14であり、より好ましくは12〜14である。
【0024】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D−1)を得る際に用いられるエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加する前の原料の具体例として、日本触媒化学工業社製の商品名ソフタノール30、ソフタノール50、ソフタノール70、ソフタノール90、ソフタノールEP5035、ソフタノールEP7025、ソフタノールEP7045、ソフタノールEP9050等が挙げられる。
【0025】
また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(D−1)を得る際において、アルキレンオキサイドを付加する方法としては、公知のアルコキシル化法を採用できる。このアルコキシル化に用いられる触媒は酸触媒であっても塩基触媒であっても良く、また、特開平7−227540号公報に記載のMgO−ZnO、MgO−SnO、MgO−TiO、MgO−SbO等の狭いアルキレンオキサイド付加分布(narrow range)を与える触媒や、特開平1−164437号公報に記載の同様のMg系触媒のような選択的に狭いアルキレンオキサイド付加分布を与える触媒を用いても合成できる。これらの触媒は反応終了後に中和されるか、又は吸着処理により除くことが製品の安定性上好ましい。塩基触媒に対する中和剤は酢酸、グリコール酸、乳酸、レブリン酸等の低分子量有機酸が好ましい。
【0026】
非イオン界面活性剤(D)の含有量は、洗浄剤組成物の洗浄性を向上させる観点から、使用時(洗浄時)において、洗浄剤組成物中、0.005〜1.2重量%であることが好ましく、0.01〜0.6重量%であることがより好ましく、0.01〜0.3重量%であることが更に好ましい。
【0027】
[水溶性高分子カルボン酸類(E)]
本発明の洗浄剤組成物には、洗浄剤組成物の分散安定性を向上させる観点から、分散剤として水溶性高分子カルボン酸類(E)が更に含有されていてもよい。水溶性高分子カルボン酸類(E)は同様の観点から、下記式(4)で表されるものが好ましい。
【化3】

【0028】
前記式(4)中、R10〜R15は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシル基、COOM、OHのいずれかであり、全て同じでもそれぞれ異なっていてもよい。Mは水素原子、アルカリ金属、炭素数1〜4のアルキルアミン、炭素数1〜6のアルカノールアミンのいずれかである。前記式(4)の両末端は特に限定されないが、水素原子、OH、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシル基又はSOM(Mは前記の意味を示す)等が挙げられ、やはり同じでも異なっていてもよい。p及びqは、それぞれかっこ内のモノマーのモル数を示し、pは0でも構わない。pが0の楊合は、モル数をqで表すモノマーのホモポリマーとなる。pとqの共重合モル比(p/q)は0/10〜10/1である。前記式(4)で表される化合物の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜100,000であり、好ましくは3,000〜50,000、より好ましくは4,000〜20,000である。重合形態はブロックでもランダムでもよい。
【0029】
水溶性高分子カルボン酸類(E)の具体例としては、ポリアクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、イソブチレン−マレイン酸共重合体等、及びこれらのナトリウム塩等のアルカリ金属塩若しくはアミン塩等が挙げられる。好ましくはポリアクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、及びこれらのナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。水溶性高分子カルボン酸類(E)の重量平均分子量(MW)は、好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは3,000〜50,000、更に好ましくは4,000〜20,000である。水溶性高分子カルボン酸類(E)の重合形態はブロックでもランダムでもよい。具体的な製品名としては、花王社製ポイズ540、ポイズ530、ポイズ535、ポイズ521、ポイズ520、日本パーオキサイド社製ペールプラック250、ペールプラック1200、ペールプラック5000、日本ゼオン社製クインフロー540、クインフロー542、クインフロー543、クインフロー560、クインフロー640、クインフロー750、東亞合成社製アロンT‐40、アロンT‐50、クラレ社製イソバン06、イソバン04、イソバン600、日本触媒社製アクアリックDL100等が挙げられる。これらは、単一又は2種以上の組み合わせで用いられる。
【0030】
水溶性高分子カルボン酸類(E)の含有量は、洗浄剤組成物の分散安定性を向上させる観点から、使用時(洗浄時)において、洗浄剤組成物中、0.01〜2重量%が好ましく、0.05〜1重量%がより好ましく、0.05〜0.5重量%が更に好ましい。
【0031】
本発明の洗浄剤組成物は、アルカリ剤(A)、カルボン酸(B−1)、アルコール(B−2)、及び必要に応じてキレート剤(C)、非イオン界面活性剤(D)及び/又は水溶性高分子カルボン酸類(E)等と、水とを配合することにより調製される水系組成物である。当該水系組成物は、洗浄性を確保する観点から、好ましくはpHが12以上になるように、より好ましくはpHが13以上、更に好ましくはpHが14以上になるように調整される。pHはアルカリ剤(A)により調整することができる。なお、本発明の洗浄剤組成物には、前記成分の他に、任意の添加剤を加えることができるが、当該添加剤は、アルカリ剤(A)によりpHを有効に調整できるように、pHへの影響が少ないものが好ましい。
【0032】
一方、水の含有量は、前記成分の残部である。前記水としては、イオン交換水が望ましい。水により、洗浄剤組成物中の各成分の濃度を制御できる。水以外の成分の合計含有量は、洗浄剤組成物中、2.0〜16.0重量%であることが好ましく、2.3〜13.0重量%であることがより好ましく、2.5〜11.0重量%であることが更に好ましい。
【0033】
本発明の洗浄剤組成物は、使用時(洗浄時)には、アルカリ剤(A)、カルボン酸(B−1)、及びアルコール(B−2)を、前記濃度で含有するものが好ましく用いられるが、製造後の保存安定性、運送効率等を考慮すれば、例えば、アルカリ剤(A)及び水を含む組成物(以下、濃厚組成物Aともいう)と、カルボン酸(B−1)、アルコール(B−2)及び水を含む組成物(以下、濃厚組成物Bともいう)とを用意しておき、使用時に両濃厚組成物を混合し、洗浄時に、必要に応じて水で希釈して用いることができる。すなわち、本発明のアルカリ洗浄剤キットは、アルカリ剤(A)及び水を含む組成物と、前記式(1)で表されるカルボン酸(B−1)、前記式(2)で表されるアルコール(B−2)及び水を含む組成物とからなる。濃厚組成物Aと、濃厚組成物Bと、必要に応じて水等との混合は、予めこれら成分を混合してもよいし、使用時に洗浄槽にそれぞれ独立に、又は同時に供給して使用してもよい。
【0034】
前記態様において、濃厚組成物A中、アルカリ剤(A)の含有量は、スラリーとしての安定性の観点、及び洗浄剤組成物を配管で輸送する際の粘度を適正に保つ観点から、好ましくは5〜48重量%、より好ましくは10〜45重量%、更に好ましくは20〜42重量%になるように調整される。
【0035】
また、前記態様において、濃厚組成物B中、カルボン酸(B−1)及びアルコール(B−2)の合計含有量は、製造後の洗浄剤組成物の保存安定性、運送効率の観点から、それぞれ5〜90重量%及び0.1〜68重量%であることが好ましく、10〜70重量%及び0.3〜53重量%であることがより好ましく、20〜50重量%及び0.6〜38重量%であることが更に好ましい。なお、洗浄剤組成物の保存安定性、運送効率の観点から、キレート剤(C)、非イオン界面活性剤(D)、及び/又は水溶性高分子カルボン酸類(E)は、濃厚組成物Aに配合することが好ましい。
【0036】
濃厚組成物Aの一成分としてキレート剤(C)を配合する場合、濃厚組成物Aにおけるキレート剤(C)の含有量は、製造後の洗浄剤組成物の保存安定性、運送効率及びスラリーとしての安定性を向上させる観点から、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは0.5〜15重量%、更に好ましくは1.0〜10重量%である。
【0037】
濃厚組成物Aの一成分として非イオン界面活性剤(D)を配合する場合、濃厚組成物Aにおける非イオン界面活性剤(D)の含有量は、製造後の洗浄剤組成物の保存安定性、運送効率及びスラリーとしての安定性を向上させる観点から、好ましくは0.1〜15.0重量%、より好ましくは0.1〜10.0重量%、更に好ましくは0.2〜6.0重量%である。
【0038】
濃厚組成物Aの一成分として水溶性高分子カルボン酸類(E)を配合する場合、濃厚組成物Aにおける水溶性高分子カルボン酸類(E)の含有量は、製造後の洗浄剤組成物の保存安定性、運送効率及びスラリーとしての安定性を向上させる観点から、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.2〜10重量%、更に好ましくは0.3〜5重量%である。
【0039】
なお、濃厚組成物Aにおける水の含有量は、30〜75重量%が好ましく、35〜70重量%がより好ましく、40〜60重量%が更に好ましい。
【0040】
一方、濃厚組成物Bにおける水の含有量は、5〜70重量%が好ましく、10〜60重量%がより好ましく、15〜60重量%が更に好ましい。
【0041】
前記濃厚組成物A及びBは、使用前に、例えば、それらを混合又はさらに水を加えて希釈してもよく、各濃厚組成物をそれぞれ単独で洗浄槽に投入し、必要に応じて水で希釈してもよい。
【0042】
本発明の洗浄剤組成物は、鉄、アルミニウム、銅などからなる鋼板(鋼帯)に付着した汚れや、プラスチック部品やガラスなどの硬質材料の表面に付着した汚れ等を洗浄する際の洗浄剤として好適であり、なかでも、冷間圧延鋼板に付着した圧延油を除去するために使用される洗浄剤として好適である。
【実施例】
【0043】
<洗浄性>
(1)被洗浄鋼板
被洗浄鋼板は全て以下の手順で調製した。即ち、合成エステル系圧延油(グリセリン脂肪酸エステル[パーム油]:70重量%、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル:30重量%)で冷間圧延された厚さ0.5mmの鋼板を、25mm×50mmの大きさに切断したものを被洗浄鋼板とした。被洗浄鋼板の付着油分量は、100mg/m2であった。
【0044】
(2)洗浄試験手順
洗浄試験は全て以下の手順で行った。即ち、下記表1及び表2に示す各例の洗浄剤組成物に、所定量のパーム油と牛脂の混合物(パーム油:牛脂の重量比が1:1)を添加して、パーム油と牛脂の混合物が3.3重量%含まれる擬似劣化洗浄剤を調製した。次いで、70℃に加熱した該擬似劣化洗浄剤中に縦100mm×横50mmの大きさの電極板一対を設置し(電極間距離は20mm)、これら電極板の中心を結ぶ線上の中央に該極板に対して平行に被洗浄鋼板を1秒間浸漬した。その後、電流密度10A/dm2で鋼板電位を負の状態にして0.5秒間保持し、次いで鋼板電位を正の状態にして0.5秒間保持して電解洗浄した。次いで、洗浄後の鋼板を水でスプレーリンス(60℃の水をスプレー圧0.2MPaで2秒間スプレー)した後、温風乾燥した。次いで、洗浄試験後の鋼板表面に残存する付着油分量(残存付着油分量)を、鋼板付着油量測定装置EMIA−111(堀場製作所社製)を用いて測定した。測定値は5回測定した際の平均値とした。残存付着油分量が少ないほど、洗浄性に優れる洗浄剤組成物であると評価できる。
【0045】
<油水分離性>
下記表1及び表2に示す各例の洗浄剤組成物を用いて、前記と同様にパーム油と牛脂の混合物を3.3重量%含む擬似劣化洗浄剤を調製し、擬似劣化洗浄剤100mlを200mlの栓付きメスシリンダーに仕込み、温度70℃の恒温槽内で30分間静置させた後、取り出して、30cm幅で20回(1回/1秒)振とうした。その後直ちに該メスシリンダーを再び70℃の恒温槽内で30分間静置させた後、取り出して上層に浮上している油層の厚みをゲージで測定した。油層厚みが厚いほど、油水分離性に優れる洗浄剤組成物であると評価できる。
【0046】
(実施例1〜9及び比較例1〜7)
表1及び表2に示す各成分をホモジナイザーで10分間混合して洗浄剤組成物を調製し、前記の洗浄性及び油水分離性の評価を行った。結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示す。なお、表1及び表2に記載の非イオン界面活性剤(D)におけるオキシエチレン基、オキシプロピレン基の平均付加モル数の測定は、イソプロピルアルコールに非イオン界面活性剤(D)を3重量%溶解させたものをサンプルとして、下記の装置、カラム測定条件で行った。
【0047】
GC装置:Agilent Technologies製の6850SERIESII
カラム:Agilent 19091A‐102E ULTRA 1 メチルシロキサン
測定条件:60℃で2分間ホールドした後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温させ、300℃で20分間ホールド
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1及び表2の結果から、本発明の洗浄剤組成物は、比較例に比べ、鋼板表面に付着している油汚れに対する良好な洗浄性と、良好な油水分離性を有していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤(A)、
下記式(1)で表されるカルボン酸(B−1)、
【化1】

下記式(2)で表されるアルコール(B−2)、
【化2】

及び水を含有し、
前記カルボン酸(B−1)と、前記アルコール(B−2)との重量比{(B−1)/(B−2)}が、97/3〜25/75である、アルカリ洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記重量比{(B−1)/(B−2)}が、97/3〜50/50である、請求項1記載のアルカリ洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸(B−1)と前記アルコール(B−2)の合計含有量が、前記アルカリ剤(A)100重量部に対して1.1〜60.0重量部である、請求項1又は2記載のアルカリ洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記水以外の成分の合計含有量が、アルカリ洗浄剤組成物中、2.0〜16.0重量%である、請求項1〜3の何れか1項記載のアルカリ洗浄剤組成物。
【請求項5】
更に、キレート剤(C)、非イオン界面活性剤(D)及び/又は水溶性高分子カルボン酸類(E)を含有する、請求項1〜4の何れか1項記載のアルカリ洗浄剤組成物。
【請求項6】
アルカリ剤(A)及び水を含む組成物と、
下記式(1)で表されるカルボン酸(B−1)、下記式(2)で表されるアルコール(B−2)及び水を含む組成物とからなるアルカリ洗浄剤キット。
【化3】

【化4】


【公開番号】特開2012−201752(P2012−201752A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66358(P2011−66358)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】