説明

アルカリ蓄電池およびアルカリ蓄電池システム

【課題】Laを含む希土類元素を含有した水素吸蔵合金を用いて高平衡圧化や高量論比化を行っても、低SOC領域においても高出力特性を達成できるアルカリ蓄電池を提供する。
【解決手段】本発明の水素吸蔵合金は一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(ただし、式中、LnはLaを含む希土類元素であり、MはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、0.1≦a≦0.2、0≦b≦0.1)と表され、希土類元素とMgとからなるA成分と、NiとAlとMとからなるB成分とからなるとともに、A成分に対するB成分の量論比(B/A)は3.5以上で3.7以下(3.5≦y≦3.7)で、水素吸蔵時のプラトー性の範囲P(MPa/水素化当量)が0.35(MPa/水素化当量)以上で0.80(MPa/水素化当量)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(PEV)などの車両用途に好適なアルカリ蓄電池、およびこのアルカリ蓄電池を用いたアルカリ蓄電池システムに係り、特に、水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と、ニッケル正極と、セパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池、およびこのアルカリ蓄電池が部分充放電制御がなされるアルカリ蓄電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の用途が拡大して、携帯電話、パーソナルコンピュータ、電動工具、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(PEV)など広範囲に亘って用いられるようになった。このうち特に、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(PEV)のような車両用途においてはアルカリ蓄電池が用いられるようになり、単体としてのアルカリ蓄電池の性能向上の技術や、アルカリ蓄電池の小型化、軽量化に伴う性能低下の補填技術として、抵抗低減による高出力化に関する数多くの技術開発がなされるようになった。
【0003】
特に、アルカリ蓄電池の負極に用いられる水素吸蔵合金については、本発明者等はLaを含むLnで表される希土類元素を含有した水素吸蔵合金を用いて、高平衡圧化や高量論比化を行うことにより、水素吸蔵合金中のニッケル(Ni)の含有量を向上させて、反応抵抗を低減する手法を、特許文献1(特開2008−300108号公報)や、特許文献2(特開2009−054514号公報)や、特許文献3(特開2009−087631号公報)などにおいて提案した。
【0004】
ここで、水素吸蔵合金中に含有されるニッケル(Ni)量を増大させて、水素吸蔵合金の高平衡圧化や高量論比化などを図るようにすると、水素吸蔵合金の活性度が向上するようになる。これにより、水素吸蔵合金の反応抵抗が低減することとなって、高出力特性を得ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−300108号公報
【特許文献2】特開2009−054514号公報
【特許文献3】特開2009−087631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1〜3にて提案されるように、Laを含む希土類元素を含有した水素吸蔵合金を用いて高平衡圧化や高量論比化(水素吸蔵合金中のニッケルの含有量を増大させること)を行って高出力特性を図ろうとした場合、充電深度(SOC:State Of Charge)が40%〜60%の通常のSOC領域においては出力特性を大幅に向上させることが可能となる。
【0007】
しかしながら、充電深度(SOC:State Of Charge)が10%〜30%の通常のSOC領域よりも低い低SOC領域においては、出力特性の向上率が小さくなり、場合によっては、高平衡圧化や高量論比化を行わなかったときよりも低下してしまい、低SOC〜高SOCにわたって常に一定以上の出力が求められるHEVの高出力用途においては好ましくないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記の如き問題を解決するためになされたものであって、ランタン(La)を含む希土類元素(Ln)を含有した水素吸蔵合金を用いて高平衡圧化や高量論比化を行っても、低SOC領域においても高出力特性を達成できるアルカリ蓄電池を提供し、かつこのアルカリ蓄電池を用いて長期間に亘って高出力特性が得られるアルカリ蓄電池システムを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のアルカリ蓄電池においては、水素吸蔵合金は一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(ただし、式中、LnはLaを含む希土類元素であり、MはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、0.1≦a≦0.2、0≦b≦0.1)と表され、希土類元素とマグネシウムとからなるA成分と、ニッケルとアルミニウムと元素MとからなるB成分からなるとともに、A成分に対するB成分の量論比(B/A)は3.5以上で3.7以下(3.5≦y≦3.7)で、水素吸蔵時のプラトー性の範囲P(MPa/水素化当量)が0.35(MPa/水素化当量)以上で0.80(MPa/水素化当量)以下(0.35(MPa/水素化当量)≦P≦0.80(MPa/水素化当量))であることを特徴とする。
【0010】
ここで、水素吸蔵時のプラトー性の範囲P(MPa/水素化当量)が0.35(MPa/水素化当量)以上で0.80(MPa/水素化当量)以下であると、通常よりも低SOC領域となるSOC20%充電においても、低温でのアシスト出力が向上することが明らかになった。一方、水素吸蔵時のプラトー性の範囲P(MPa/水素化当量)が0.80(MPa/水素化当量)よりも大きくなると、通常のSOC領域となるSOC50%充電においては、低温でのアシスト出力はそれほど低下することはないが、通常よりも低SOC領域となるSOC20%充電においては、低温でのアシスト出力が極端に低下することが明らかになった。この場合、水素吸蔵時のプラトー性の範囲P(MPa/水素化当量)が0.80(MPa/水素化当量)であっても、A成分に対するB成分の量論比(B/A=y)が3.7を越えるようになると、劣化度合(耐久性)が低下することが明らかになった。
【0011】
このため、本発明においては、一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(ただし、式中、LnはLaを含む希土類元素であり、MはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、0.1≦a≦0.2、0≦b≦0.1)と表され、A成分(Ln,Mg)に対するB成分(Ni,Al,M)の量論比(B/A=y)が3.5以上で3.7以下(3.5≦y≦3.7)で、水素吸蔵時のプラトー性の範囲P(MPa/水素化当量)が0.35(MPa/水素化当量)以上で0.80(MPa/水素化当量)以下(0.35(MPa/水素化当量)≦P≦0.80(MPa/水素化当量))の水素吸蔵合金を用いるようにしている。
【0012】
この場合、水素吸蔵合金は希土類元素としてランタン(La)以外に、SmあるいはNdから選択される少なくとも一元素を含有しているとともに、当該希土類元素に含まれるLaの含有量は50質量%以下となるように規制している。これは、Laの含有量が50質量%以下であるとプラトー性Pが0.80(MPa/水素化当量)以下となって、プラトー性Pが向上することが明らかになったからである。
そして、本発明の水素吸蔵合金を用いた水素吸蔵合金負極の場合、負極容量が10Ah以下となるような電池容量のより小さい系でさらに効果を発揮することとなる。これは、放電電流はこれまでどおりの電流値を用い、電池容量を削減すると、単位容量当たりの負荷が必然的に増加し、低SOC領域での性能低下が顕著になるためである。このため、このような電池容量を削減したような電池、即ち、負極容量が10Ah以下となるような電池の場合においては、上述のような一般式で表され、かつ上述のような条件を満たす水素吸蔵合金を用いるのが望ましい。
【0013】
そして、本発明のアルカリ蓄電池システムにおいては、上述したアルカリ蓄電池を用いて部分充放電制御するようになされている。この場合、部分充放電制御は、複数の電池を組み合わせた組電池とした場合に各電池間にバラツキが生じない電圧(この場合は、充電深度(SOC)が10%相当の電圧)に達すると放電を停止して充電を開始し、酸素過電圧に到達する前の電圧(この場合は、充電深度(SOC)が95%相当の電圧)に達すると充電を停止して放電を開始するようになされるようにすればよい。
なお、実用的には、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するように部分充放電制御がなされるのが好ましい。これは、プラトー性が良好で、SOCが低下しても、ある一定以上の出力が取り出せる範囲であると共に、SOC20%より低い領域になると、正極の容量不足による出力低下が顕著になってくるためである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、Laを含む希土類元素を含有した水素吸蔵合金を用いて高平衡圧化や高量論比化を行っても、低SOC領域においても高出力特性を達成できるアルカリ蓄電池を提供することが可能になるとともに、かつこのアルカリ蓄電池を用いて長期間に亘って高出力特性が得られるアルカリ蓄電池システムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のニッケル−水素蓄電池を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ついで、本発明の実施の形態を以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0017】
1.水素吸蔵合金
水素吸蔵合金は以下のようにして作製されている。この場合、例えば、ネオジウム(Nd)、ランタン(La)、サマリウム(Sm)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)を所定のモル比の割合で混合し、この混合物をアルゴンガス雰囲気中で溶解させ、これを溶湯急冷して一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(ただし、式中Lnはランタン(La)を含む希土類元素から選択された元素で、MはCo,Mn,Znから選択される少なくとも1種の元素)と表される水素吸蔵合金α1〜α8のインゴットを作製する。ついで、得られた各水素吸蔵合金α1〜α8について、DSC(示差走査熱量計)を用いて融(Tm)を測定した。その後、これらの水素吸蔵合金α1〜α8の融点(Tm)よりも30℃だけ低い温度(Ta=Tm−30℃)で所定時間(この場合は10時間)の熱処理を行った。
【0018】
なお、これらの水素吸蔵合金α1〜α8の組成を高周波プラズマ分光法(ICP)によっ分析すると、下記の表1に示すように、水素吸蔵合金α1は組成式がNd0.9Mg0.1Ni3.3Al0.2で表されものであることが分かった。同様に、水素吸蔵合金α2は組成式がLa0.5Sm0.4Mg0.1Ni3.7Al0.1で表され、水素吸蔵合金α3は組成式がLa0.5Sm0.4Mg0.1Ni3.65Al0.1で表され、水素吸蔵合金α4は組成式がLa0.5Sm0.4Mg0.1Ni3.6Al0.1で表されるものであることが分かった。また、水素吸蔵合金α5は組成式がLa0.4Nd0.1Sm0.4Mg0.1Ni3.6Al0.1で表され、水素吸蔵合金α6は組成式がLa0.45Nd0.45Mg0.1Ni3.6Al0.1で表され、水素吸蔵合金α7は組成式がLa0.1Nd0.8Mg0.1Ni3.4Al0.2で表され、水素吸蔵合金α8は組成式がLa0.2Sm0.7Mg0.1Ni3.25Al0.15Zn0.1で表されるものであることが分かった。
【0019】
なお、下記の表1には、各水素吸蔵合金α1〜α8を一般式Lnl-xMgxNiy-a-bAlab(MはCo,Mn,Znの少なくとも1つ以上からなる元素)で表した場合のA成分(希土類元素(Ln)とMg)のモル比、B成分のモル比(yのモル比)、B/A(A成分に対するB成分の量論比=y)の値およびLaの含有量(質量%:以下の表においては単に%と示しているが、これは質量%を意味している)も示している。
【0020】
(水素吸蔵合金の水素平衡圧の測定)
この後、これらの各水素吸蔵合金α1〜α8の塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して水素吸蔵合金粉末を作製した。ついで、水素吸蔵合金粉末α1〜α8を温度が40℃の環境雰囲気中で、水素吸蔵量(H/M)が0.2および0.5の時の解離圧を水素平衡圧として測定した。この場合、各水素吸蔵合金粉末α1〜α8の水素平衡圧(MPa)は、JIS H7201(1991)「水素吸蔵合金の圧力−組成等温線(PCT線)の測定法」に基づいて測定(なお、測定温度は一般的な使用環境において電池が示す実使用温度の平均値である40℃とした。)し、水素吸蔵量(H/M)が0.2(水素化当量)および0.5(水素化当量)のときの水素平衡圧(MPa)を直線で結び、その直線の傾きの大きさをプラトー性(MPa/水素化当量)として示すと、下記の表1に示すような結果となった。
【0021】
また、Cu−Kα管をX線源とするX線回折測装置を用いる粉末X線回折法で水素吸蔵合金粉末α1〜α8の結晶構造の同定を行った。こ場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンテップ1°、測定角度(2θ)20〜50°でX線回折測定を行った。得られたXRDロファイルよりJCPDSカードチャートを用いて、各水素吸蔵合金α1〜α8の結晶構造を同定した。ここで、各結晶構造において、A519型構造はCe5Co19型構造とPr519型構造とし、A27型構造はCe2Ni7型構造として、JCPDSによる各構造の回折角の強度値と42〜44°の最強強度値との比強度比を、得られたXRDプロファイルにあてはめて、各水素吸蔵合金α1〜α8の合金主相を求める下記の表1に示すような結果が得られた。
【表1】

【0022】
上記表1の結果から以下のことが明らかとなった。即ち、ランタン(La)の含有量が56質量%であるとプラトー性が0.80(MPa/水素化当量)以上となるのに対して、ランタン(La)の含有量が50質量%以下であるとプラトー性が0.80(MPa/水素化当量)以下となって、プラトー性が向上していることが分かる。このことから、ランタン(La)の含有量が50質量%以下となるよう添加させるのが望ましいということができる。なお、量論比(B/A)が3.5〜3.8であると、A27型構造とA519型構造とが存在することが分かる。
【0023】
2.水素吸蔵合金負極
水素吸蔵合金負極11はパンチングメタルからなる負極芯体に水素吸蔵合金スラリーが充填されて形成されている。この場合、上述のように作製された水素吸蔵合金のインゴットを、1000℃のアルゴンガス雰囲気で10時間の熱処理を行ってインゴットにおける結晶構造を調整した。この水素吸蔵合金を不活性雰囲気中で機械的に粉砕し、篩分けにより400メッシュ〜200メッシュの間に残る合金粉末を選別した。なお、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置により粒度分布を測定すると、質量積分50%にあたる平均粒径は25μmであった。これを水素吸蔵合金粉末とした。
【0024】
この後、得られた水素吸蔵合金粒子100質量部に対し、非水溶性高分子結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と、適量の水(あるいは純水)を加えて混練して、水素吸蔵合金スラリーを調製した。そして、得られた水素吸蔵合金スラリーをパンチングメタル(ニッケルメッキ鋼板製)からなる負極芯体の両面に塗着した後、100℃で乾燥させ、所定の充填密度(この場合は5.0g/cm3とした)になるように圧延した後、表面積(短軸長×長軸長×2)が1000cm2となる(この場合、極板容量は14Ahとなる)ように裁断して水素吸蔵合金負極11(x1〜x8)を作製した。
【0025】
ここで、水素吸蔵合金α1を用いたものを負極x1とし、水素吸蔵合金α2を用いたものを負極x2とし、水素吸蔵合金α3を用いたものを負極x3とし、水素吸蔵合金α4を用いたものを負極x4とし、水素吸蔵合金α5を用いたものを負極x5とし、水素吸蔵合金α6を用いたものを負極x6とし、水素吸蔵合金α7を用いたものを負極x7とし、水素吸蔵合金α8を用いたものを負極x8とした。
【0026】
3.ニッケル正極
ニッケル正極12は、基板となるニッケル焼結基板の多孔内に水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とが所定の充填量となるように充填されて形成されている。
この場合、ニッケル焼結基板は以下のようにして作製されたものを用いている。例えば、ニッケル粉末に、増粘剤となるメチルセルロース(MC)と高分子中空微小球体(例えば、孔径が60μmのもの)と水とを混合、混練してニッケルスラリーを作製する。ついで、ニッケルめっき鋼板からなるパンチングメタルの両面にニッケルスラリーを塗着した後、還元性雰囲気中で1000℃で加熱して、増粘剤や高分子中空微小球体を消失させるとともにニッケル粉末同士を焼結することにより作製される。
【0027】
そして、得られたニッケル焼結基板に以下のような含浸液を含浸する含浸処理と、アルカリ処理液によるアルカリ処理とを所定回数繰り返すことにより、ニッケル焼結基板の多孔内に所定量の水酸化ニッケルと水酸化亜鉛とを充填した後、所定の寸法(例えば、80.0cm×5.0cm)に裁断することにより、正極活物質が充填されたニッケル正極12が作製するようにしている。この場合、含浸液としては、硝酸ニッケルと硝酸亜鉛を所定のモル比となるように調製した混合水溶液を用い、アルカリ処理液としては、比重が1.3の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いている。なお、高温特性を高めるなどの目的で、硝酸コバルトや硝酸イットリウムや硝酸イッテルビウムなども添加した含浸液を用いるようにしても良い。
【0028】
そして、正極活物質となる水酸化ニッケルのニッケル質量に対して水酸化亜鉛の亜鉛質量の含有比率が、3質量%〜14質量%となるように、含浸処理およびアルカリ処理を以下のようにして行った。即ち、まず、ニッケル焼結基板を含浸液に浸漬して、ニッケル焼結基板の細孔内に含浸液を含浸させた後、乾燥させ、ついで、アルカリ処理液に浸漬してアルカリ処理を行う。これにより、ニッケル塩や亜鉛塩を水酸化ニッケルや水酸化亜鉛に転換させる。この後、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥させる。このような、含浸液の含浸、乾燥、アルカリ処理液への浸漬、水洗、および乾燥という一連の正極活物質の充填操作を6回繰り返すことにより、所定量の正極活物質がニッケル焼結基板に充填される。
【0029】
3.ニッケル−水素蓄電池
ついで、上述のようにして作製された水素吸蔵合金負極11(x1〜x8)とニッケル正極12とを用い、これらの間に、目付が55g/cm2のポリオレフィン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金電極11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル正極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル電極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0030】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット19が装着された封口体18の底部に溶接した。なお、封口体18には正極キャップ18aが設けられていて、この正極キャップ18a内に所定の圧力になると変形する弁体18bとスプリング18cよりなる圧力弁(図示せず)が配置されている。
【0031】
ついで、外装缶17の上部外周部に環状溝部17aを形成した後、アルカリ電解液を注液し、外装缶17の上部に形成された環状溝部17aの上に封口体18の外周部に装着された絶縁ガスケット19を載置した。この後、外装缶17の開口端縁17bをかしめることにより、公称容量は6AhでDサイズ(直径が32mmで、高さが60mm)のニッケル−水素蓄電池10(A〜H)を作製した。この場合、アルカリ電解液としては、水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)と水酸化リチウム(LiOH)との混合水溶液とし、電池容量(Ah)当り2.5g(2.5g/Ah)となるように注入した。
【0032】
ここで、水素吸蔵合金負極x1を用いたものを電池Aとした。同様に、水素吸蔵合金負極x2を用いたものを電池Bとし、水素吸蔵合金負極x3を用いたものを電池Cとした。また、水素吸蔵合金負極x4を用いたものを電池Dとし、水素吸蔵合金負極x5を用いたものを電池Eとし、水素吸蔵合金負極x6を用いたものを電池Fとした。また、水素吸蔵合金負極x7を用いたものを電池Gとし、水素吸蔵合金負極x8を用いたものを電池Hとした。
【0033】
4.電池試験
(1)活性化処理
これらの各電池A,B,C,D,E,F,G,Hを用い、25℃の温度雰囲において、電池容量(公称容量)に対して、1Itの充電電流で電池容量の120%まで充電(SOC120%充電)し、1時間休止した後、70℃の温度雰囲で24時間放置した。その後、45℃の温度雰囲で1Itの放電電流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させた。このような充電・休止・放置・放電を2サイクル繰り返して行って、各電池A,B,C,D,E,F,G,Hの活性化処理を行った。
【0034】
(2)−10℃電池出力(アシスト出力)
また、上述のように活性化した後、これらの各電池A,B,C,D,E,F,G,Hを、25℃の温度雰囲気で、1Itの充電電流でSOC(State Of Charge :充電深度)の50%まで充電(SOC50%充電)した後、−10℃の温度雰囲気で3時間休止させる。ついで、−10℃の温度雰囲気で、任意の充電レートで20秒間充電させた後、−10℃の温度雰囲気で30分間休止させる。この後、−10℃の温度雰囲気で、任意の放電レートで10秒間放電させた後、−10℃の温度雰囲気で30分間休止させる。このような−10℃の温度雰囲気で、任意の充電レートでの20秒間充電、30分の休止、任意の放電レートで10秒間放電、−10℃の温度雰囲気での30分の休止を繰り返した。
【0035】
この場合、任意の充電レートは、0.8It→1.7It→2.5It→3.3It→4.2Itの順で充電電流を増加させ、任意の放電レートは、1.7It→3.3It→5.0It→6.7It→8.3Itの順で放電電流を増加させ、各放電レートで10秒間経過時点での各電池A,B,C,D,E,F,G,Hの電池電圧(V)を各電流毎にそれぞれ測定した。ここで、放電特性(アシスト出力特性)の指標として放電V−Iプロット近似曲線上の0.9V電流をSOC50%時の−10℃アシスト出力として求めた。求めたSOC50%時の−10℃アシスト出力において、電池AのSOC50%時の−10℃アシスト出力を基準(100)とし、これとの相対比をSOC50%時の−10℃アシスト出力比(対電池A)として算出すると、下記の表2に示すような結果となった。
【0036】
同様に、上述のように活性化した後、これらの各電池A,B,C,D,E,F,G,Hを、25℃の温度雰囲気で、1Itの充電電流でSOC(State Of Charge :充電深度)の20%まで充電(SOC20%充電)した後、−10℃の温度雰囲気で3時間休止させる。ついで、−10℃の温度雰囲気で、上述と同様な充電レートで20秒間充電させた後、−10℃の温度雰囲気で30分間休止させる。この後、−10℃の温度雰囲気で、上述と同様な放電レートで10秒間放電させた後、−10℃の温度雰囲気で30分間休止させる。このような−10℃の温度雰囲気で、任意の充電レートでの20秒間充電、30分の休止、任意の放電レートで10秒間放電、−10℃の温度雰囲気での30分の休止を繰り返した。
そして、上述と同様にSOC20%時の−10℃アシスト出力として求め、求めたSOC20%時の−10℃アシスト出力において、電池AのSOC20%時の−10℃アシスト出力を基準(100)とし、これとの相対比をSOC20%時の−10℃アシスト出力比(対電池A)として算出すると、下記の表2に示すような結果となった。
【0037】
(3)部分充放電サイクル後の容量(耐久性)
さらに、上述のように活性化した後、これらの各電池A,B,C,D,E,F,G,Hを用い、55℃の温度雰囲において、8.3Itの充電電流にて、上記初期容量に対するSOC(State Of Charge:充電深度)が80%となる電圧まで充電した後、8.3Itの放電電流にてSOCが20%となる電圧まで放電させるというサイクルを繰り返す8.3Itの間欠充放電を2ヶ月間繰り返すサイクル試験を行った。その後、上述と同様にして−10℃電池出力(アシスト出力)の評価行い、活性化直後からの劣化度合を確認した。そして、求めた劣化度合において、電池Aの劣化度合を100とし、他の電池の劣化度合をそれとの比(対電池A)として求めると下記の表3に示すような結果となった。
【表2】

【0038】
上記表2の結果から以下のことが明らかになった。
即ち、SOC50%の充電においては、電池C,Dのようにプラトー性が0.88(MPa/水素化当量)以上と劣っていても、−10℃アシスト出力はそれほど低下していないことが分かる。ところが、SOC20%の充電においては、電池C,Dのようにプラトー性が0.88(MPa/水素化当量)以上と劣っていると、−10℃アシスト出力の低下割合が大きいことが分かる。これは、水素吸蔵合金のプラトー性が0.88(MPa/水素化当量)以上と大きくなると、蓄積された水素量が比較的少ないSOC20%領域では、元々の水素吸蔵圧力が低下していること、および水素吸蔵合金に蓄積された水素の放出に伴う、圧力の変動も大きくなることから、負極の抵抗が増大し、電位変動が大きくなるためと考えられる。
【0039】
一方、電池B,E〜Hのようにプラトー性が0.80(MPa/水素化当量)以下であってプラトー性が向上していると、SOC50%の充電であっても、SOC20%の充電であっても、−10℃アシスト出力が向上していることが分かる。これは、水素吸蔵合金のプラトー性が0.80(MPa/水素化当量)以下と小さくなると、水素吸蔵量の減少に伴う水素吸蔵圧力の変動も小さく、また、水素放出に伴う圧力変動も小さいため、電池電圧の変動が小さくなるためと考えられる。
【0040】
この場合、プラトー性が0.80(MPa/水素化当量)以下であっても、電池BのようにLaの含有比率が56質量%で、A成分に対するB成分の量論比(B/A=y)が3.8と大きくなると、劣化度合(耐久性)が低下するようになる。このため、Laの含有比率が50質量%以下で、A成分に対するB成分の量論比(B/A=y)が3.5以上、3.7以下とし、かつプラトー性Pが0.35(MPa/水素化当量)以上で、0.80(MPa/水素化当量)以下になるように規制するのが望ましいと言うことができる。
【0041】
5.アルカリ蓄電池システム
本発明のアルカリ蓄電池システムにおいては、上述したアルカリ蓄電池の複数個を組み合わせた組電池とし、この組電池を部分充放電制御するようになされている。この場合、一般的な部分充放電制御の条件としては、複数の電池を組み合わせた組電池とした場合に各電池間にバラツキが生じない電圧(この場合は、充電深度(SOC)が10%相当の電圧)に達すると放電を停止して充電を開始させ、酸素過電圧に到達する前の電圧(この場合は、充電深度(SOC)が95%相当の電圧)に達すると充電を停止して放電を開始させると定義することができるが、実用的には、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するように部分充放電制御がなされるのが好ましい。これは、プラトー性が良好で、SOCが低下しても、ある一定以上の出力が取り出せる範囲であると共に、SOC20%より低い領域になると、正極の容量不足による出力低下が顕著になってくるためである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
なお、上述した実施形態においては、公称容量が6AhでDサイズ(直径が32mmで、高さが60mm)のニッケル−水素蓄電池10(A〜H)を作製するために、表面積(短軸長×長軸長×2)が1000cm2となる(この場合、極板容量は14Ahとなる)水素吸蔵合金負極11(x1〜x8)を用いる例について説明した。
ところが、本発明の水素吸蔵合金を用いた水素吸蔵合金負極の場合、負極容量が10Ah以下となるような電池容量のより小さい系でさらに効果を発揮することとなる。これは、放電電流はこれまでどおりの電流値を用い、電池容量を削減すると、単位容量当たりの負荷が必然的に増加、低SOC領域での性能低下が顕著になるためである。
このため、上述のような電池容量を削減したような電池、すなわち負極容量が10Ah以下となるような電池の場合は、当該発明で提案した水素吸蔵合金を用いることが望ましい。
【符号の説明】
【0043】
10…ニッケル−水素蓄電池、11…水素吸蔵合金電極、11c…芯体露出部、12…ニッケル電極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、15a…集電リード部、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…正極キャップ、18b…弁板、18c…スプリング、19…絶縁ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と水酸化ニッケルを主正極活物質とするニッケル正極とセパレータとからなる電極群をアルカリ電解液とともに外装缶内に備えたアルカリ蓄電池であって、
前記水素吸蔵合金は一般式がLnl-xMgxNiy-a-bAlab(ただし、式中、LnはLaを含む希土類元素であり、MはCo,Mn,Znから選択された少なくとも1種の元素であり、0.1≦x≦0.2、0.1≦a≦0.2、0≦b≦0.1)と表され、
前記希土類元素とマグネシウムとからなるA成分と、前記ニッケルとアルミニウムと元素MとからなるB成分からなるとともに、前記A成分に対する前記B成分の量論比(B/A)は3.5以上で3.7以下(3.5≦y≦3.7)で、水素吸蔵時のプラトー性の範囲P(MPa/水素化当量)が0.35(MPa/水素化当量)以上で0.80(MPa/水素化当量)以下(0.35(MPa/水素化当量)≦P≦0.80(MPa/水素化当量))であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金は希土類元素としてLa以外に、SmあるいはNdから選択される少なくとも一元素を含有しているとともに、当該希土類元素に含まれるLaの含有量は50質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金負極の極板容量は10Ah以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池を備えたアルカリ蓄電池システムであって、部分充放電制御するようになされていることを特徴とするアルカリ蓄電池システム。
【請求項5】
前記部分充放電制御は、充電深度(SOC)が20%相当の電圧に達すると放電を停止して充電を開始し、充電深度(SOC)が80%相当の電圧に達すると充電を停止して放電を開始するようになされていることを特徴とする請求項4に記載のアルカリ蓄電池システム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−8994(P2011−8994A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149933(P2009−149933)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】