説明

アルカリ電池

【課題】正極合剤に二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルを含有させたアルカリ電池において、低負荷放電から強負荷放電までの広い放電条件において高容量化を図るとともに保存特性を維持する。
【解決手段】正極、負極およびアルカリ電解液からなり、正極は、オキシ水酸化ニッケル、電解二酸化マンガンおよび膨張黒鉛を含む正極合剤からなり、膨張黒鉛は、体積基準の平均粒子径が5〜25μm、BET比表面積が4〜10m2/g、かつ、静置法で測定した嵩比重(見かけ密度)が0.03〜0.10g/cm3であり、オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数が3.05以上であり、正極合剤に含まれるオキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガンと膨張黒鉛との合計量に占める膨張黒鉛の含有率が、3〜15重量%であるアルカリ電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極合剤中に活物質として二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルを含むアルカリ電池に関し、詳しくは、一次電池としてのニッケルマンガン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリマンガン乾電池に代表される一次電池としてのアルカリ電池は、正極端子を兼ねる正極ケースと、正極ケースの内側に密着して配置された円筒状の二酸化マンガンからなる正極合剤ペレットと、正極合剤ペレットの中空にセパレータを介して配置されたゲル状の亜鉛負極とを具備したインサイドアウト構造を有する。アルカリ電池の正極合剤は、一般に電解二酸化マンガンおよび黒鉛導電材からなる。
【0003】
近年のデジタル機器の普及に伴い、アルカリ電池が用いられる機器の負荷電力は次第に大きくなり、強負荷放電性能に優れる電池が要望されつつある。これに対応するべく、正極合剤にオキシ水酸化ニッケルを混合して、電池の強負荷放電特性を向上させることが提案されている(特許文献1参照)。また、高温で長期保存後も強負荷放電性能を維持するアルカリ電池を提供する観点から、正極合剤に亜鉛酸化物、カルシウム酸化物、イットリウム酸化物、二酸化チタン等の酸化物を含有させることが提案されている(特許文献2)。近年では、上記のようなアルカリ電池が実用化され、広く普及している。
【0004】
アルカリ電池に用いるオキシ水酸化ニッケルは、一般に、ニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル水素蓄電池等のアルカリ蓄電池(アルカリ二次電池)用途の球状もしくは鶏卵状の水酸化ニッケル(特許文献3参照)を、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の酸化剤で酸化したものである。
【0005】
この際、電池内への高密度充填を達成するために、嵩比重(見かけ密度)あるいはタップ密度が大きく、β型構造の結晶からなる水酸化ニッケルが、原料として用いられる。このような原料を酸化剤で処理すると、β型構造の結晶からなるオキシ水酸化ニッケルが得られる。化学的処理により生成したβ型構造の結晶からなるオキシ水酸化ニッケル中では、ニッケル価数がほぼ3価になっている。ニッケル価数がほぼ3価から2価近傍まで還元される際の電気化学的エネルギーが、電池の放電容量として利用される。
【0006】
電池の強負荷放電特性を高める目的で、コバルト、亜鉛等を含むアルカリ蓄電池用途の水酸化ニッケル(特許文献4参照)を原料として用いることもある。このような水酸化ニッケルの結晶中には、コバルト、亜鉛等が溶解しており、水酸化ニッケルの固溶体が形成されている。
【0007】
アルカリ蓄電池の分野では、充電時に、意図的にニッケル価数が3.5価近傍のγ型構造の結晶からなるオキシ水酸化ニッケルを生成させることで、飛躍的な容量の向上を図る提案がなされている(特許文献5〜7参照)。このような提案では、活物質の原料に、β型構造の結晶からなり、マンガン等の遷移金属を溶解した固溶体の水酸化ニッケルが用いられている。ただし、このようなアルカリ蓄電池には、サイクル寿命等に問題があり、実用化には到っていない。
【0008】
一方、アルカリマンガン乾電池を始めとする一次電池の分野では、正極合剤中に少量の膨張黒鉛を添加し、その導電性を高めると同時に正極合剤ペレットの成型性を向上させることが提案されている(特許文献8参照)。また、正極合剤に二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルを用いたニッケルマンガン電池では、その保存特性を改善する観点から、BET比表面積が3〜4m2/g、平均粒子径が8〜35μmの黒鉛粉末を正極合剤に添加することが提案されている(特許文献9参照)。さらに、正極合剤にオキシ水酸化ニッケルだけを用いたニッケル乾電池では、正極合剤の導電性とペレットの成型性を改善する目的で、平均粒子径5〜20μmの膨張黒鉛を導電材として正極合剤に添加することが提案されている(特許文献10参照)。
【特許文献1】特開昭57−72266号公報
【特許文献2】特開2001―15106号公報
【特許文献3】特公平4-80513号公報
【特許文献4】特公平7−77129号公報
【特許文献5】再公表特許WO97/19479号公報
【特許文献6】特開平10−149821号公報
【特許文献7】特許第3239076号明細書
【特許文献8】特開平9−35719号公報
【特許文献9】特開2001−332250号公報
【特許文献10】特開2003−17080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、アルカリ蓄電池の分野で検討されてきた水酸化ニッケルもしくはオキシ水酸化ニッケルの固溶体を一次電池用途として用いるための様々な検討を行った結果、高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルを原料に用いることにより、電池の大幅な高容量化が図れることを見出している。高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルは、例えばマンガンを溶解したβ型構造の結晶からなる水酸化ニッケルを原料に用いるなどして作製することができる。
【0010】
しかし、高酸化状態にあるオキシ水酸化ニッケルは、γ型構造の結晶を含有する。γ型構造の結晶からなるオキシ水酸化ニッケル(γ−NiOOH)は、放電に際してβ型ないしはα型の水酸化ニッケルに構造変化するため、大きな体積変化を起こす。そのため、放電時に活物質粒子間の集電をうまく確保できず、単相に近いβ型構造の結晶からなるオキシ水酸化ニッケル(β−オキシ水酸化ニッケル)(ニッケル価数:3.0)を用いて作製したアルカリ電池よりも強負荷放電特性が低下しやすい。従って、強負荷放電時の利用効率の低い二酸化マンガンにオキシ水酸化ニッケルを配合して強負荷放電特性に優れたアルカリ電池を得ようとする場合に、強負荷放電特性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、正極、負極およびアルカリ電解液からなるアルカリ電池に関り、その正極は、オキシ水酸化ニッケル、電解二酸化マンガンおよび膨張黒鉛を含む正極合剤からなる。ここで、膨張黒鉛は、(1)体積基準の平均粒子径が5〜25μmであり、(2)BET比表面積が4〜10m2/gであり、かつ、(3)静置法で測定した嵩比重(見かけ密度)が0.03〜0.10g/cm3である。また、オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は3.05以上である。正極合剤に含まれるオキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガンと膨張黒鉛との合計量に占める膨張黒鉛の含有率は、3〜15重量%である。
【発明の効果】
【0012】
膨張黒鉛は、結晶構造の発達した黒鉛を、硫酸、硝酸等で加熱処理することで膨張もしくは層間伸張させて得られる粒子である。膨張黒鉛は、天然黒鉛等の一般的な黒鉛と同様の高い電子伝導性を有するとともに、緩衝作用を発現する圧縮還元性や正極合剤内の応力緩和能力に優れている。
【0013】
すなわち、電池の放電時に、γ型構造の結晶を含む高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルが特有の体積変化を起こしても、膨張黒鉛粒子が体積変化に対する緩衝材としての機能を果たすため、活物質粒子(オキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガン)間の電気的な接続を十分に確保できる。従って、低負荷放電から強負荷放電までの広い放電条件において、高容量を有するアルカリ電池を得ることができる。
【0014】
また、膨張黒鉛のBET比表面積は比較的低く抑えられているため、黒鉛と電解液との反応が抑制され、ニッケルマンガン電池の保存特性を優れた状態に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、正極、負極およびアルカリ電解液からなるアルカリ電池に関し、その正極は、オキシ水酸化ニッケル、電解二酸化マンガンおよび膨張黒鉛を含む正極合剤からなる。オキシ水酸化ニッケルおよび電解二酸化マンガンは、正極活物質として機能し、膨張黒鉛は、基本的には導電材として機能する。
【0016】
ここで、オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数は3.05以上、好ましくは3.1以上である。本発明は、高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルを用いることにより、電池の大幅な高容量化を図るものだからである。
【0017】
高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルは、マンガンを溶解した固溶体の水酸化ニッケルを化学酸化すれば容易に得ることができる。オキシ水酸化ニッケルの原料である水酸化ニッケル中にマンガンを溶解させると、水酸化ニッケルの酸化還元電位が卑に移行する。そのため、高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルが得られやすい。オキシ水酸化ニッケルをできる限り高密度とする観点から、マンガンを溶解する固溶体の水酸化ニッケルは、β型構造の結晶からなることが好ましい。
【0018】
オキシ水酸化ニッケルの原料である水酸化ニッケルにおいて、ニッケルとマンガンとの合計に占めるマンガンの含有率は、1〜7mol%、さらには2〜5mol%であることが望ましい。マンガンの含有率が1mol%未満では、上記のような高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルを容易に得ることができない。逆に、マンガンの含有率が7mol%を超えると、水酸化ニッケル中のニッケルの割合が相対的に減少するため、満足な電池容量を得ることが困難となる。以上のような水酸化ニッケルを原料として用いる場合、オキシ水酸化ニッケル中のニッケルとマンガンとの合計に占めるマンガンの含有率も1〜7mol%となる。
【0019】
オキシ水酸化ニッケルの粒子表面には、コバルト酸化物が付着していることが好ましい。粒子表面にコバルト酸化物を有するオキシ水酸化ニッケルは、粒子からの集電性が高められているため、特に強負荷領域の放電特性がより一層向上する。
【0020】
また、コバルト酸化物の量は、オキシ水酸化ニッケルの量に対して、7重量%以下、さらには2〜5重量%であることが好ましい。コバルト酸化物の量が、オキシ水酸化ニッケルの7重量%を超え、コバルト酸化物の量が過剰になると、コバルトが電解液に溶出等して、電池の高温保存時の信頼性低下を引き起こす可能性がある。ただし、強負荷領域の放電特性をより一層向上させるには、オキシ水酸化ニッケルの量に対して、少なくとも2重量%以上のコバルト酸化物を用いることが好ましい。
【0021】
高酸化状態にあるオキシ水酸化ニッケルは、γ型構造の結晶を含有するため、電池の放電に伴って大きな体積変化を起こす。これを抑制する観点から、本発明では膨張黒鉛を用いる必要がある。
【0022】
ここで、膨張黒鉛は以下の物性を有する。
膨張黒鉛の体積基準の平均粒子径(D50)は、小さい方が好ましく、正極合剤中での分散性を考慮すると25μm以下、好ましくは20μm以下に設定することが要求される。ただし、膨張黒鉛の平均粒子径が小さくなるにつれて、正極合剤の加圧成型が困難となるため、平均粒子径は5μm以上、好ましくは10μm以上に設定することが要求される。
【0023】
次に、膨張黒鉛のBET比表面積は、小さ過ぎると、正極合剤の電解液保液性が低下し、電池の放電特性が低下するため、4m2/g以上、好ましくは5m2/g以上に設定することが要求される。一方、膨張黒鉛のBET比表面積が大き過ぎると、黒鉛の酸化劣化が進みやすくなり、電池の保存特性が低下するため、BET比表面積は10m2/g以下、好ましくは8m2/g以下に設定することが要求される。
【0024】
さらに、膨張黒鉛の静置法で測定した嵩比重(見かけ密度)は、低いものほど膨張黒鉛粒子のエッジの露出面が多く、エッジが集電に適した状態に広がっていると考えられるため、0.10g/cm3以下、好ましくは0.08g/cm3以下に設定することが要求される。一方、嵩比重があまりに低すぎると、正極合剤の加圧成型が困難となるため、少なくとも0.03g/cm3以上、好ましくは0.05g/cm3以上に設定することが要求される。
【0025】
膨張黒鉛は、黒鉛の膨張化処理により得られる黒鉛材料である。膨張化処理では、ミクロ的には、黒鉛構造の結晶面内に硫酸イオンなどの別イオン等が侵入して(002)面が広げられる。また、マクロ的には、黒鉛の結晶子が微細化して、結晶性が低下する。これらの構造変化の程度が大きいほど、圧縮還元性や応力緩和といった特性が得られやすい傾向がある。すなわち、本発明では、十分に膨張化処理がなされた膨張黒鉛を使用することが望ましい。
【0026】
上記を踏まえ、膨張黒鉛は、さらに以下の物性を満たすことが望ましい。
まず、粉末X線回折で求められる(002)面の面間隔:d002は、十分に広げられていることが好ましく、3.37Å(オングストローム)以上であることが望ましい。
【0027】
さらに、膨張黒鉛の結晶子の大きさ:Lc(002)は、十分に小さいことが好ましく、300Å(オングストローム)以下であることが望ましい。ここで、Lc(002)とは、(002)面に帰属されるX線回折ピークの半値幅から、Scherrerの式を用いて算出した結晶子の大きさを意味する。
【0028】
正極合剤中にオキシ水酸化ニッケルを含有する電池は、正極電位が高いため、電池を高温で保存した場合に黒鉛導電材の酸化・劣化が起こり易い。この現象は、特に不純物(揮発成分等)の含有率が多い黒鉛ほど顕著となる。また、正極合剤中鉄分が含まれる場合、電池保存時に鉄が錯イオンとなって電解液に溶出し、負極上に析出して容量低下の原因となる。このような不具合を抑制し、電池の信頼性を確保する観点から、本発明では、膨張黒鉛の前駆体として、高純度の黒鉛を用い、これを膨張化処理することが望ましい。
【0029】
具体的には、前駆体である黒鉛の不純物含有率は0.2重量%以下であることが望ましい。また、前記不純物を構成する鉄分の含有率は前駆体である黒鉛の0.05重量%以下であることが望ましい。
【0030】
膨張化処理としては、高純度の黒鉛を酸とともに加熱する方法が好ましい。そのときに用いる酸としては、硫酸、硝酸等が好ましい。
【0031】
正極合剤に含まれるオキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガンと膨張黒鉛との合計量に占める膨張黒鉛の含有率は、正極合剤における活物質の体積エネルギー密度を確保する観点からは、少ない方が好ましい。一方、前記合計量に占める膨張黒鉛の含有率が少なすぎると、十分な強負荷放電特性を確保しつつ、オキシ水酸化ニッケルの体積変化に対する緩衝作用を十分に得ることができなくなる。上記のような要求特性のバランスを考慮すると、前記合計量に占める膨張黒鉛の含有率は、3〜15重量%、好ましくは5〜10重量%に設定することが要求される。
【0032】
導電材および緩衝材(クッション)として機能する膨張黒鉛の含有率が、オキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガンと膨張黒鉛との合計量中、3重量%未満では、正極活物質間の電気的な接続を十分に保つことができない。また、膨張黒鉛の含有率が、15重量%より大きくなると、正極合剤中の活物質の割合が相対的に少なくなり、満足な電池容量が得られない。
【0033】
電解二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルとを比較した場合、単位重量あたりの容量(mAh/g)、ケース内への充填の容易さ、材料価格等の点では、電解二酸化マンガンの方が優れる。一方、放電電圧および強負荷放電特性の点では、オキシ水酸化ニッケルの方が優れる。従って、電池特性のバランスおよび価格を考慮すると、正極合剤中のオキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガンとの合計に占める電解二酸化マンガンの含有率は、20〜90重量%、さらには40〜70重量%であることが好ましい。
【0034】
なお、オキシ水酸化ニッケルのBET比表面積は、例えば10〜20m2/gが好ましく、体積基準の平均粒子径(D50)は、10〜20μmであることが好ましい。また、電解二酸化マンガンの体積基準の平均粒子径(D50)は、30〜50μmであることが好ましい。
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
《実施例1》
(原料水酸化ニッケルの調製)
攪拌翼を備えた反応槽に、純水と少量のヒドラジン(還元剤)を注ぎ、攪拌翼を稼働させた。窒素ガスによるバブリングを行いながら、攪拌中の槽内の水に、所定濃度の硫酸ニッケル(II)水溶液、硫酸マンガン(II)水溶液、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水を、槽内溶液のpHが一定となるようにポンプで定量供給した。その間、槽内溶液を十分に攪拌し続けることで、マンガンを溶解した固溶体であり、β型構造の結晶からなる球状の水酸化ニッケルを析出、成長させた。
【0037】
続いて、得られた水酸化ニッケルの固溶体を、上記とは別の水酸化ナトリウム水溶液中で加熱して硫酸根を除去した。その後、固溶体の水洗と真空乾燥を行い、続いて80℃で72時間の空気酸化を施して、Mnだけを4価近傍にまで酸化した。
【0038】
得られた水酸化ニッケルの固溶体の組成はNi0.95Mn0.05(OH)2であり、レーザ回折式粒度分布計で測定した体積基準の平均粒子径は18μm、BET比表面積は12m2/g、タップ密度(500回)は2.2g/cm3であった。
【0039】
(オキシ水酸化ニッケルの調製)
続いて、水酸化ニッケルの固溶体200gを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5重量%)を十分量加えて攪拌し、水酸化ニッケルをオキシ水酸化ニッケルに変換した。得られたオキシ水酸化ニッケルの固溶体(以下、オキシ水酸化ニッケルP)は、十分に水洗後、60℃で24時間の真空乾燥を行った。
【0040】
また、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、0.02mol/Lの水酸化ナトリウムを用いたこと以外は、上記と同様の条件で、オキシ水酸化ニッケルQを得た。
【0041】
オキシ水酸化ニッケルPは以下の物性を有した。
体積基準の平均粒子径:19μm
BET比表面積:14m2/g
タップ密度(500回):2.0g/cm3
また、オキシ水酸化ニッケルQは以下の物性を有した。
体積基準の平均粒子径:17μm
BET比表面積:15m2/g
タップ密度(500回):2.3g/cm3
【0042】
こうして作製したオキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数を、以下に示す化学的測定方法によって求めた。
[オキシ水酸化ニッケル中のニッケル含有率の測定]
ニッケル含有率の測定には、分析精度の高い重量法を用いた。
まず、オキシ水酸化ニッケル:0.05gに、濃硝酸10cm3を加えて、加熱・溶解させ、次いで酒石酸水溶液10cm3を加え、さらにイオン交換水を加えて、全量の体積を200cm3に調整した。得られた溶液のpHをアンモニア水および酢酸を用いて調整した後、臭素酸カリウム1gを加えて測定誤差となりうるマンガンイオンを3価以上の状態に酸化させた。
【0043】
次に、この溶液を加熱攪拌しながら、ジメチルグリオキシムのエタノール溶液を添加し、ニッケル(II)イオンをジメチルグリオキシム錯化合物として沈殿させた。続いて、吸引濾過を行い、生成した沈殿物を捕集して、110℃雰囲気で乾燥させ、沈殿物の重量を測定した。
【0044】
上記操作から、オキシ水酸化ニッケル中に含まれるニッケル含有率を、次式により算出した。
ニッケル含有率={沈殿物の重量(g)×0.2032}/{オキシ水酸化ニッケル試料の重量(g)}
【0045】
[オキシ水酸化ニッケル中のマンガン含有率の測定]
マンガン含有率は、オキシ水酸化ニッケルに硝酸水溶液を加えて、加熱・溶解させた後、得られた溶液のICP発光分析を行って定量した。測定装置には、VARIAN社製のVISTA−RLを用いた。
【0046】
[酸化還元滴定による平均ニッケル価数の測定]
オキシ水酸化ニッケル:0.2gに、ヨウ化カリウム1gと硫酸25cm3を加え、十分に攪拌を続けることで完全に溶解させ、得られた溶液を20分間放置した。この過程で、価数の高いニッケルイオンとマンガンイオンは、ヨウ化カリウムをヨウ素に酸化するとともに、自身は2価に還元された。20分間放置後の溶液に、pH緩衝液として酢酸−酢酸アンモニウム水溶液とイオン交換水とを加えて、反応を停止させた。
【0047】
次いで、生成・遊離したヨウ素を0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した。この際の滴定量は、上記のような価数が2価よりも大きい金属イオン量を反映する。そこで、既に求めたニッケル含有率およびマンガン含有率を用い、暫定的にオキシ水酸化ニッケル中のマンガンの平均価数を4価と仮定して、オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数を見積もった。その結果、オキシ水酸化ニッケルPの平均ニッケル価数は3.12、オキシ水酸化ニッケルQの平均ニッケル価数は3.01と見積もられた。
【0048】
(黒鉛導電材の調製)
本実施例では、正極合剤中に含有させる導電材として、表1に示す物性値等を有する黒鉛を用意した。
黒鉛a、bは、中国原鉱を粉砕・分級した後、高純度化して得た鱗片状天然黒鉛であり、黒鉛aと黒鉛bとで平均粒子径が異なるように、粉砕・分級の程度が制御されたものである。
【0049】
黒鉛c、dは、石炭由来のピッチコークスを炭化・黒鉛化した後、粉砕・分級して得た人造黒鉛であり、黒鉛cと黒鉛dとで平均粒子径が異なるように、粉砕・分級の程度が制御されたものである。
【0050】
黒鉛e、fは、鱗片状天然黒鉛を、硫酸中で加熱処理を行って膨張化(層間伸張)させた後、粉砕・分級した膨張黒鉛であり、黒鉛eと黒鉛fとで平均粒子径が異なるように、粉砕・分級の程度が制御されたものである。
【0051】
黒鉛g、hは、鱗片状天然黒鉛を、フッ酸で洗浄処理して十分に高純度化した後、硫酸中で加熱処理を行って膨張化(層間伸張)させ、その後、粉砕・分級した膨張黒鉛であり、黒鉛gと黒鉛hとで平均粒子径が異なるように、粉砕・分級の程度が制御されたものである。
【0052】
なお、表1中に示した物性値について以下に言及する。
嵩比重(見かけ密度)は、JIS−K5101に規定されている静置法に準拠して測定を行った。
体積基準の平均粒子径は、(株)日機装製のレーザー回折式粒度分布計「マイクロトラックFRA」を用いて湿式法で測定した。
BET比表面積は、(株)島津製作所製の比表面積測定装置「ASAP2010」を用い、試料の乾燥・脱気後にN2ガスを吸着させることで測定した。
【0053】
粉末X線回折(XRD)で求められる(002)面の面間隔:d002、結晶子の大きさLc(002)の測定は、日本学術振興会第117委員会にて規定されている方法に準拠して行った。
【0054】
【表1】

【0055】
(正極合剤ペレットの作製)
電解二酸化マンガンと、オキシ水酸化ニッケルPと、黒鉛aとを、重量比46:46:8の割合で配合し、さらにオキシ水酸化ニッケルPの5重量%に相当する量の酸化亜鉛を添加し、混合して、正極合剤粉を得た。オキシ水酸化ニッケルPと二酸化マンガンとの合計100重量部あたり、アルカリ電解液1重量部を添加した後、正極合剤粉をミキサーで撹拌し、均一になるまで混合するとともに、一定粒度に整粒した。なお、アルカリ電解液には、水酸化カリウムの40重量%水溶液を用いた。得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して、正極合剤ペレットA1を得た。
【0056】
また、黒鉛aの代わりに黒鉛b〜hを用いて、正極材料の重量等はすべて上記と同じにして、それぞれ正極合剤ペレットB1〜H1を得た。
【0057】
さらに、オキシ水酸化ニッケルPの代わりにオキシ水酸化ニッケルQを用い、黒鉛a〜hと組み合わせて、正極材料の重量等はすべて上記と同じにして、それぞれ正極合剤ペレットA2〜H2を得た。
【0058】
(ニッケルマンガン電池の作製)
上記の正極合剤ペレットA1〜H1およびA2〜H2を用いて、単3サイズのニッケルマンガン電池A1〜H1およびA2〜H2をそれぞれ作製した。図1は、ここで作製したニッケルマンガン電池の一部を断面にした正面図である。
【0059】
正極端子を兼ねる正極ケース1には、ニッケルメッキされた鋼板からなる缶状ケースを用いた。正極ケース1の内面には、黒鉛塗装膜2を形成した。正極ケース1内には、短筒状の正極合剤ペレット3を複数個挿入した。次いで、正極合剤ペレット3を正極ケース1内で再加圧して、正極ケース1の内面に密着させた。正極合剤ペレット3の中空にはセパレータ4を挿入し、中空内面に接触させた。中空内の缶状ケース底部には、絶縁キャップ5を配した。
【0060】
次に、正極ケース1内にアルカリ電解液を注液して、正極合剤ペレット3とセパレータ4とを湿潤させた。電解液の注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填した。ゲル状負極6には、ゲル化剤としてのポリアクリル酸ナトリウム、アルカリ電解液および負極活物質としての亜鉛粉末からなるものを用いた。アルカリ電解液には、水酸化カリウムの40重量%水溶液を用いた。
【0061】
一方、短筒状の中心部と薄肉の外周部からなり、外周部の周縁端部に内溝を有する樹脂製封口板7を準備した。封口板7の周縁端部の内溝には、負極端子を兼ねる底板8の周縁端部をはめ込んだ。封口板7と底板8との間には、絶縁ワッシャ9を介在させた。封口板7の中心部の中空には、釘状の負極集電体10を挿入した。
【0062】
上記のように予め封口板7、底板8および絶縁ワッシャ9と一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に挿入した。次いで、正極ケース1の開口端部を、封口板7の周縁端部を介して、底板8の周縁端部にかしめつけ、正極ケース1の開口を密閉した。最後に、正極ケース1の外表面を外装ラベル11で被覆し、ニッケルマンガン電池を完成させた。
【0063】
(電池の評価)
〈低負荷放電特性〉
初度のニッケルマンガン電池A1〜H1およびA2〜H2を、それぞれ20℃で50mAの定電流で連続放電させ、電池電圧が0.9Vに至るまでの放電容量を測定した。
【0064】
〈強負荷放電特性〉
初度のニッケルマンガン電池A1〜H1およびA2〜H2を、それぞれ20℃で1Wの定電力で連続放電させ、電池電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの放電時間を測定した。
【0065】
〈保存後放電容量〉
80℃で3日間保存後の電池A1〜H1およびA2〜H2を、それぞれ20℃で1Wの定電力で連続放電させ、電池電圧が終止電圧0.9Vに至るまでの放電時間を測定した。
【0066】
いずれの特性についても、電池A2について得られた放電容量もしくは放電時間をそれぞれ基準値100として、各電池で得られた結果を電池A2に対する相対値で表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2において、平均ニッケル価数がほぼ3.0価であるオキシ水酸化ニッケルQを用いた場合、黒鉛導電材の種類が異なる電池A2〜H2の間で、ほとんど特性に差が見られない。一方、平均ニッケル価数が十分に高められたオキシ水酸化ニッケルPを活物質として用いた場合には、導電材に膨張黒鉛(e〜h)を用いた方が、他の黒鉛(a〜d)を用いた場合よりも、低負荷放電特性(50mA放電)および強負荷放電特性(1W放電)が顕著に向上している。
【0069】
高酸化状態にあるオキシ水酸化ニッケルは、γ型構造の結晶(γ−NiOOH)を含み、γ−NiOOHは放電に際してβ型ないしはα型の水酸化ニッケルに構造変化する。その際、オキシ水酸化ニッケルが大きな体積変化を起こすため、一般的な黒鉛(a〜d)では、放電時に活物質粒子間の集電をうまく確保できず、低い容量に留まることになる。一方、膨張黒鉛(e〜h)は、圧縮還元性・応力緩和に優れるため、高酸化状態にあるオキシ水酸化ニッケルの体積変化が起こっても、膨張黒鉛が体積変化に対する緩衝材として働き、活物質間の電気的な接続を十分に確保できるものと考えられる。
【0070】
なお、高酸化状態にあるオキシ水酸化ニッケルを用いた電池は、マンガンを溶解せずに亜鉛やコバルトを溶解させたβ型構造の結晶からなるオキシ水酸化ニッケル(β−NiOOH)を用いた電池よりも、強負荷放電(1W放電)特性が低下する傾向がある。本発明の電池E1〜H1においてもその傾向が見られるが、低下してもなお、高水準の112〜115(表2)という値が得られており、上記のようなβ−NiOOHを用いた電池より優れた性能が得られている。従って、低負荷放電(50mA放電)での容量向上だけでなく、本発明によれば、低負荷〜強負荷の全域にわたり、既存のアルカリ電池よりも高性能化が図れることがわかる。
【0071】
電池の保存特性についても、本発明の電池E1〜H1は、いずれも比較的高い性能を確保している。特に、高純度化した黒鉛から得た膨張黒鉛g、hを用いた電池で高い特性が得られている。これは、膨張化高純度黒鉛では、BET比表面積が比較的小さく抑えられていることに加え、不純物・鉄分含有率が低く抑えられているため、黒鉛と電解液との反応が大幅に抑制されたためと理解できる。
【0072】
次に、平均ニッケル価数が3.12価であるオキシ水酸化ニッケルPの代わりに、平均ニッケル価数が3.05以上3.12未満の各種オキシ水酸化ニッケルを用いたこと以外、上記と同様の実験を行った。その結果、いずれの場合にも、オキシ水酸化ニッケルPを用いた場合と同様に、膨張黒鉛を用いた場合には優れた放電特性と保存特性が得られた。さらに、平均ニッケル価数が3.01より大きく3.04以下の各種オキシ水酸化ニッケルを用いたこと以外、上記と同様の実験を行ったところ、膨張黒鉛を用いても放電特性や保存特性の向上は特に見られなかった。
【0073】
《実施例2》
正極合剤中に含ませる膨張黒鉛の最適な含有率を明らかとするために、膨張黒鉛fを用いて、以下の評価を行った。
電解二酸化マンガンと、オキシ水酸化ニッケルPとを、重量比50:50の割合で配合し、さらにオキシ水酸化ニッケルPの5重量%に相当する量の酸化亜鉛を添加し、さらに黒鉛fをオキシ水酸化ニッケルPと電解二酸化マンガンと黒鉛fとの合計量に占める含有率がそれぞれ0.5重量%、1重量%、3重量%、5重量%、8重量%および15重量%となるように混合して、正極合剤粉X1、X2、X3、X4、X5およびX6を得た。
【0074】
上記の正極合剤粉X1〜X6を用いたこと以外、実施例1と同様にして、単3サイズのニッケルマンガン電池X1〜X6をそれぞれ作製し、これらの評価を実施例1の〈低負荷放電特性〉および〈強負荷放電特性〉と同様に行った。
【0075】
いずれの特性についても、実施例1の電池A2について得られた放電容量もしくは放電時間をそれぞれ基準値100として、各電池で得られた結果を電池A2に対する相対値で表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表3より、膨張黒鉛fの含有率が3重量%以上であれば、比較的良好な特性が得られることがわかる。なお、膨張黒鉛fの含有率が多くなるほど、正極合剤中の活物質の割合が相対的に減少するため、高容量化に不利となり、併せて保存特性の低下も懸念される。これらの点を考慮すると、膨張黒鉛fの含有率の上限は15重量%程度と推察される。
【0078】
《実施例3》
オキシ水酸化ニッケルの粒子表面にコバルト酸化物を付着させた場合の知見を得るために、以下の評価を行った。
(水酸化コバルトを担持した水酸化ニッケルの調製)
実施例1で調製した原料水酸化ニッケルと同じ水酸化ニッケル(組成:Ni0.95Mn0.05(OH)2)を、反応槽内の硫酸コバルト水溶液中に投入し、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に加え、槽内の液温が35℃、pHが10で一定となるように制御しながら槽内の攪拌を続けた。その結果、原料水酸化ニッケルの粒子表面に水酸化コバルトが析出した。水酸化ニッケルの粒子表面に析出させる水酸化コバルトの量は、原料水酸化ニッケルの量に対して、2重量%となるように調整した。
【0079】
(水酸化コバルトの酸化)
続いて、水酸化コバルトを担持した水酸化ニッケル200gを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5重量%)を十分量加え、攪拌した。その際、水酸化コバルトは高酸化状態に酸化され、同時に水酸化ニッケルはオキシ水酸化ニッケルに酸化された。得られた粒子は十分に水洗し、60℃で24時間の真空乾燥を行って、オキシ水酸化ニッケルRした。
【0080】
また、水酸化ニッケルの酸化の際に用いた1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、0.02mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いたこと以外、上記と同様の条件で、オキシ水酸化ニッケルSを得た。
【0081】
ここで得られたオキシ水酸化ニッケルR、Sについても、実施例1で行ったのと同様の方法で平均ニッケル価数の測定を行った。その結果、オキシ水酸化ニッケルRの平均ニッケル価数は3.1価程度の高酸化状態であり、オキシ水酸化ニッケルSの平均ニッケル価数は約3.0価であった。
【0082】
(正極合剤ペレットの作製)
電解二酸化マンガンと、オキシ水酸化ニッケルRと、黒鉛aとを、重量比46:46:8の割合で配合し、さらにオキシ水酸化ニッケルRの5重量%に相当する量の酸化亜鉛を添加し、混合して、正極合剤粉を得た。オキシ水酸化ニッケルRと二酸化マンガンとの合計100重量部あたり、アルカリ電解液1重量部を添加した後、正極合剤粉をミキサーで撹拌し、均一になるまで混合するとともに、一定粒度に整粒した。なお、アルカリ電解液には、水酸化カリウムの40重量%水溶液を用いた。得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して、正極合剤ペレットA3を得た。
【0083】
また、黒鉛aの代わりに黒鉛b〜hを用いて、正極材料の重量等はすべて上記と同じにして、それぞれ正極合剤ペレットB3〜H3を得た。
さらに、オキシ水酸化ニッケルRの代わりにオキシ水酸化ニッケルSを用い、黒鉛a〜hと組み合わせて、正極材料の重量等はすべて上記と同じにして、それぞれ正極合剤ペレットA4〜H4を得た。
【0084】
(ニッケルマンガン電池の作製)
上記の正極合剤ペレットA3〜H3およびA4〜H4を用いて、実施例1と同様にして、単3サイズのニッケルマンガン電池A3〜H3およびA4〜H4をそれぞれ作製した。
【0085】
次いで、得られた電池の評価を実施例1の〈低負荷放電特性〉、〈強負荷放電特性〉および〈保存後放電容量〉と同様に行った。いずれの特性についても、実施例1の電池A2について得られた放電容量もしくは放電時間をそれぞれ基準値100として、各電池で得られた結果を電池A2に対する相対値で表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
表4において、平均ニッケル価数がほぼ3.0価であり、粒子表面にコバルト酸化物を付着させたオキシ水酸化ニッケルSを用いた場合、黒鉛導電材の種類が異なる電池A4〜H4の間で、ほとんど特性に差が見られない。一方、平均ニッケル価数が十分に高められ、粒子表面にコバルト酸化物を付着させたオキシ水酸化ニッケルRを活物質として用いた場合には、導電材に膨張黒鉛(e〜h)を用いた方が、他の黒鉛(a〜d)を用いた場合よりも、低負荷放電特性(50mA放電)および強負荷放電特性(1W放電)が顕著に向上している。また、オキシ水酸化ニッケルの表面に導電性の高いコバルト酸化物を付着させたことにより、各粒子間の集電性がより一層高められたため、表2の電池A1〜H1に比べて、電池A4〜H4の性能はさらに向上している。
【0088】
《実施例4》
オキシ水酸化ニッケルの表面に付着させるコバルト酸化物の最適な量を明らかとするために、膨張黒鉛fを用いて、以下の評価を行った。
水酸化ニッケルの粒子表面に析出させる水酸化コバルトの量は、原料水酸化ニッケルの量に対して、1重量%となるように調整したこと以外、実施例3と同様にして、水酸化コバルトを担持した水酸化ニッケルを調製し、続いて、水酸化コバルトを担持した水酸化ニッケル200gを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5重量%)を十分量加え、攪拌した。その際、水酸化コバルトは高酸化状態に酸化され、同時に水酸化ニッケルはオキシ水酸化ニッケルに酸化された。得られた粒子は十分に水洗し、60℃で24時間の真空乾燥を行って、オキシ水酸化ニッケルT1とした。
【0089】
また、水酸化ニッケルの粒子表面に析出させる水酸化コバルトの量を、原料水酸化ニッケルの量に対して、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%および9重量%となるように調整したこと以外、上記と同様にして、オキシ水酸化ニッケルT2〜T9を作製した。
【0090】
(正極合剤ペレットの作製)
電解二酸化マンガンと、オキシ水酸化ニッケルT1と、黒鉛aとを、重量比46:46:8の割合で配合し、さらにオキシ水酸化ニッケルT1の5重量%に相当する量の酸化亜鉛を添加し、混合して、正極合剤粉を得た。オキシ水酸化ニッケルT1と二酸化マンガンとの合計100重量部あたり、アルカリ電解液1重量部を添加した後、正極合剤粉をミキサーで撹拌し、均一になるまで混合するとともに、一定粒度に整粒した。なお、アルカリ電解液には、水酸化カリウムの40重量%水溶液を用いた。得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して、正極合剤ペレットY1を得た。
【0091】
さらに、オキシ水酸化ニッケルT1の代わりにオキシ水酸化ニッケルT2〜T9を用い、正極材料の重量等はすべて上記と同じにして、それぞれ正極合剤ペレットY2〜Y9を得た。
【0092】
(ニッケルマンガン電池の作製)
上記の正極合剤ペレットY1〜Y9を用いて、実施例1と同様にして、単3サイズのニッケルマンガン電池Y1〜Y9をそれぞれ作製した。電池Y2は電池F3と実質上、同じ電池である。
【0093】
次いで、得られた電池の評価を実施例1の〈低負荷放電特性〉、〈強負荷放電特性〉および〈保存後放電容量〉と同様に行った。いずれの特性についても、実施例1の電池A2について得られた放電容量もしくは放電時間をそれぞれ基準値100として、各電池で得られた結果を電池A2に対する相対値で表5に示す。
【0094】
【表5】

【0095】
表5の結果では、コバルト酸化物のオキシ水酸化ニッケルに対する付着量が増すにつれて、強負荷放電特性は向上する傾向にある。一方、コバルト酸化物の付着量が過剰になると、高温保存時に電池の正極からコバルト溶出現象が顕著に起こると考えられ、電池性能が低下する傾向がある。以上を考慮すると、コバルト酸化物の量は、オキシ水酸化ニッケルの量に対して、7重量%以下が好ましいと考えられる。
【0096】
なお、上記実施例では、高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルを得る際に、原料水酸化ニッケルとしてマンガンを含む固溶体の水酸化ニッケルを用いたが、このことは本発明を限定するものではない。ただし、マンガンを含む固溶体の原料水酸化ニッケルは、化学酸化により高酸化状態になりやすいため、本発明で用いる原料水酸化ニッケルとして好適である。なお、ニッケル含量の高い高酸化状態のオキシ水酸化ニッケルを得る場合には、原料水酸化ニッケル中のニッケルとマンガンとの合計に占めるマンガンの含有率は1〜7mol%が好適である。
【0097】
上記実施例では、特定物性の膨張黒鉛e〜hを用いたが、体積基準の平均粒子径が5〜25μm、BET比表面積が4〜10m2/g、静置法で測定した嵩比重(見かけ密度)が0.03〜0.10g/cm3の膨張黒鉛であれば、同様の効果を得ることができる。
【0098】
膨張黒鉛は、圧縮還元性・応力緩和といった膨張黒鉛の機械的特性の観点から、d002が3.37Å以上、かつLc(002)が300Å以下の膨張黒鉛が好ましく、電池の保存特性の観点からは、膨張黒鉛の前駆体として不純物含有率が0.5重量%以下、かつ鉄分含有率が0.05重量%以下の高純度黒鉛を用いることが最も好ましい。なお、膨張黒鉛を主体として導電材に用い、少量の膨張化処理されていない黒鉛、カーボンブラック類、繊維状炭素等を含ませた正極合剤を用いても、ほぼ同様の特性を有するアルカリ電池の作製が可能と考えられる。
【0099】
さらに、上記実施例では、電解二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルとの混合割合を、重量比で50:50となるようにしたが、オキシ水酸化ニッケルと電解二酸化マンガンとの合計に占める電解二酸化マンガンの含有率が20〜90重量%であれば、同様のアルカリ電池を得ることができる。
【0100】
さらに、上記実施例では、正極合剤にオキシ水酸化ニッケルの5重量%に相当する酸化亜鉛を添加して電池を作製したが、本発明はこれを必須とするものではない。また、上記実施例では、いわゆるインサイドアウト型のアルカリ乾電池の構造を採用したが、本発明はアルカリボタン型、角型等の別構造の電池にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、正極合剤中に活物質として二酸化マンガンおよびオキシ水酸化ニッケルを含むアルカリ電池、特には一次電池としてのニッケルマンガン電池に適用される。本発明によれば、低負荷放電から強負荷放電までの広い放電条件において高容量を有し、かつ保存特性に優れたアルカリ電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施例に係るニッケルマンガン電池の一部を断面にした正面図である。
【符号の説明】
【0103】
1 正極ケース
2 黒鉛塗装膜
3 正極合剤ペレット
4 セパレータ
5 絶縁キャップ
6 ゲル状負極
7 封口板
8 底板
9 絶縁ワッシャ
10 負極集電体
11 外装ラベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極およびアルカリ電解液からなり、
前記正極は、オキシ水酸化ニッケル、電解二酸化マンガンおよび膨張黒鉛を含む正極合剤からなり、
前記膨張黒鉛は、
(1)体積基準の平均粒子径が5〜25μm、
(2)BET比表面積が4〜10m2/g、かつ、
(3)静置法で測定した嵩比重(見かけ密度)が0.03〜0.10g/cm3であり、
前記オキシ水酸化ニッケルの平均ニッケル価数が3.05以上であり、
前記正極合剤に含まれる前記オキシ水酸化ニッケルと前記電解二酸化マンガンと前記膨張黒鉛との合計量に占める前記膨張黒鉛の含有率が、3〜15重量%であるアルカリ電池。
【請求項2】
前記オキシ水酸化ニッケルと前記電解二酸化マンガンとの合計に占める前記電解二酸化マンガンの含有率が、20〜90重量%である請求項1記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記膨張黒鉛は、
(4)粉末X線回折で求められる(002)面の面間隔:d002が3.37Å以上、かつ、
(5)結晶子の大きさ:Lc(002)が300Å以下である請求項1または2に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記膨張黒鉛は、高純度の黒鉛前駆体を膨張させたものであり、前記前駆体の不純物含有率が0.2重量%以下であり、前記不純物を構成する鉄分含有率が前記前駆体の0.05重量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記オキシ水酸化ニッケルは、少なくともマンガンを溶解した固溶体である請求項1〜4のいずれかに記載のアルカリ電池。
【請求項6】
前記オキシ水酸化ニッケルに含まれるニッケルと前記マンガンとの合計に占める前記マンガンの含有率が、1〜7mol%である請求項5記載のアルカリ電池。
【請求項7】
前記オキシ水酸化ニッケルの粒子表面に、コバルト酸化物が付着している請求項1〜6のいずれかに記載のアルカリ電池。
【請求項8】
前記コバルト酸化物の量が、前記オキシ水酸化ニッケルの量に対して、7重量%以下である請求項7記載のアルカリ電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−12670(P2006−12670A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189701(P2004−189701)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】