説明

アルカリ電池

【課題】 本発明は、水酸化ニッケル系化合物及び二酸化マンガンを正極活物質とした電池において、高容量で且つ貯蔵時の容量維持率に優れた電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、オキシ水酸化ニッケル系化合物、二酸化マンガンを正極活物質としたアルカリ電池において、1)負極/正極理論容量比の最適化、2)正極理論容量に対する電解液比率の最適化、3)アルカリ電解液の電気導電率の最適範囲の決定により、上記課題を解決する。すなわち、本発明の電池は、正極理論容量に対するアルカリ電解液比率を0.8〜1.2ml/Ahの範囲とし、アルカリ電解液が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムから選ばれた少なくとも一つ以上で構成されていて、その電気導電率が0.2S/cm以上であることを特徴とするアルカリ電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のオキシ水酸化ニッケル系化合物を主体としたアルカリ電池において、負極活物質の容量に対して正極活物質の容量を多くし、正極活物質に対する電解液比率を高める必要があった。これは、オキシ水酸化ニッケル系化合物は放電末期に導電性が大きく低下するためであり、放電特性の向上ならびに過放電時のガス発生を抑制するためになされたものである。
しかしながら、オキシ水酸化ニッケル系化合物の特性上、電池設計を行う上で過放電におけるマージンが小さいことから、電池特性の向上をはかることが難しくなっているのが現状である。
【特許文献1】特開2001−332249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、二酸化マンガンを正極活物質に混合することにより、従来のニッケル亜鉛電池における上述の優れた特性を損なうことなく、高容量で且つ貯蔵時の容量維持率に優れた電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、オキシ水酸化ニッケル系化合物、二酸化マンガンを正極活物質としたニッケル亜鉛電池を一次電池に適した構成とすることにより、上記の優れた特性を得ることができる。その特徴は、1)負極/正極理論容量比の最適化、2)正極理論容量に対する電解液比率の最適化、3)アルカリ電解液の電気導電率の最適範囲の決定、によって得られるものである。さらに、電池の自己放電を改善するために、4)正極への添加剤としてY、Yb、Er、Ca金属化合物を使用すること、5)アルカリ電解液への添加剤としてNaOH、LiOHを使用することにより、さらに効果が改善される。
【0005】
すなわち、第1の本発明は、オキシ水酸化ニッケル系化合物、及び二酸化マンガンを正極活物質とする密閉形ニッケル亜鉛一次電池において、二酸化マンガンの1価以上の放電バンドが期待できることから、オキシ水酸化ニッケル系化合物だけを正極活物質とした場合よりも正極理論容量に対する負極理論容量の比を0.85〜1.05と高めることが可能となり、正極理論容量に対するアルカリ電解液比率を0.8〜1.2ml/Ahの範囲とし、耐漏液特性の向上が期待できる低電解液比率を特徴とするアルカリ電池である。
【0006】
また、第2の本発明は、アルカリ電解液が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムから選ばれた少なくとも一つ以上で構成されていて、その電気導電率が0.2S/cm以上であることを特徴とするアルカリ電池である。
【0007】
また、第3の本発明は、正極活物質が、亜鉛およびコバルト単独もしくはこれらを共晶させたオキシ水酸化ニッケル系化合物であることを特徴とするアルカリ電池である。
【0008】
また、第4の本発明は、正極に、イットリウム、イッテルビウム、エルビウム、カルシウムから選ばれた少なくとも一種の金属の化合物をさらに含有させたものであることを特徴とするアルカリ電池である。
【発明の効果】
【0009】
以上の本発明のアルカリ電池は、放電レート特性を損なうこと無く、貯蔵時の容量維持率にも優れた高容量電池とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
本実施の形態のアルカリ電池は、オキシ水酸化ニッケル系化合物と二酸化マンガンを配合して正極活物質とした電池であって、正極理論容量に対する負極理論容量の比を、0.85〜1.05とし、かつ、正極理論容量に対するアルカリ電解液の比率を0.8〜1.2l/Ahとすることによって、上記課題を解決するものである。
本実施の形態において、正極理論容量に対する負極理論容量の比(以下理論容量比という)を上記範囲に限定するのは、これによって、正極活物質の量と負極活物質の量とのバランスがよく、発電に寄与しない物質量を削減することができ、高容量化をもたらす。理論容量比が上記範囲内にない場合には、いずれも容量が低下してしまう。
【0011】
一次電池において、理論容量比は、電気化学的に考えると正極活物質と負極活物質とを当量含有することが、不必要な成分を限られた電池容積の中に収容するため、最も効率のよい比率である。しかしながら、この場合には、電池の発電終端付近で起電効率が急速に低下して、活物質が消費されずに残存することになる。このために通常は、正極もしくは負極活物質のいずれかを過剰量使用し、電池の容積効率が低下するにもかかわらず、起電終端の効率低下を防止している。本願発明においては、上記起電終端付近の起電効率低下を防止するために、正極活物質の量に対するアルカリ電解液の量を上記範囲に限定することによって前記問題点を解決している。
【0012】
以下、本発明の電池の詳細な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明をいわゆるインサイドアウト構造(電池缶体が正極側、電池蓋側が負極側となっている構造)と呼ばれているJIS規格のLR6形(単3形)の電池に応用した例である。
【0013】
(電池構造)
本発明を適用することのできるアルカリ電池の1例について、図1を用いて説明する。図1において、1は正極端子を兼ねる有底円筒型の正極缶であり、この正極缶1内には中空円筒状に加圧成形した正極合剤2が充填されている。また、正極合剤2の中空部にはビニロン及びポリビニルアルコール繊維等の不織布からなる有底円筒状のセパレータ3を介して負極ゲル亜鉛4が充填されている。負極ゲル亜鉛4内には黄銅製の集電棒5を配置し、その上端部を負極ゲル亜鉛4に突出するように装着されている。集電棒5の突出部外周面および正極缶1の上部内周面には二重環状のポリアミド樹脂からなるパッキング6が配設されている。また,パッキング6の二重環状部の間にはリング状の金属板7が配設され、かつ金属板7には負極端子を兼ねる帽子形のメタルボトム8が集電棒5の頭部に当接するように配設されている。そして、正極缶1の開口縁を内方に屈曲させることによりパッキング6およびメタルボトム8で正極缶1内を密封口している。
【0014】
(正極)
本発明の正極は、発電要素である正極活物質と、正極活物質の電気伝導性を向上させるための炭素粒子などの導電材、及びこれらの成分を成形した成形体の保形性を改善するためのバインダー及び電解液からなっており、これらが混合され所定形状に成形されて正極として構成される。
本実施の形態においては、オキシ水酸化ニッケル系化合物と二酸化マンガンとを併用するものであるが、オキシ水酸化ニッケル系化合物を正極活物質として用いた電池は、重負荷放電特性に優れている。一方、二酸化マンガンを正極活物質として用いた電池は、高容量の電池を実現できる。そしてこれらの正極活物資を併用することによって、高率放電特性に優れ、かつ、高容量すなわち長寿命の電池とすることができる。そして、これら2種の正極活物質の配合比は、所望の電池特性によって、決定することができる。
【0015】
本実施の形態において用いる二酸化マンガンは、通常のマンガン乾電池において用いているものを使用することができるが、特に電解二酸化マンガンが好ましい。
【0016】
本発明で用いる正極活物質であるオキシ水酸化ニッケル系化合物は、NiOOHで表される化合物であり、その平均粒径としては10μm程度のものが最も優れた電池特性を有するため好ましい。このオキシ水酸化ニッケル系化合物は、次式に示す放電反応によって発電が行われる。
NiOOH + HO + e
→ Ni(OH) + OH
【0017】
本発明のオキシ水酸化ニッケル系化合物は、上記純オキシ水酸化ニッケルでもよいし、また、亜鉛およびコバルト単独もしくはこれらを共晶させて用いることもできる。この共晶オキシ水酸化ニッケル系化合物は、その結晶構造変化を少なくできるので好ましい。特に、亜鉛を共晶することによって、オキシ水酸化ニッケル系化合物の結晶性を改善することができるため、酸化還元時の結晶膨潤すなわち体積変化を抑制することができ、低電解液量の電池設計に大きく貢献する。さらに、オキシ水酸化ニッケル系化合物極に亜鉛極を組み合わせて成るニッケル亜鉛電池の場合、電解液に酸化亜鉛を飽和溶解させて亜鉛極の自己放電を抑制する手段がとられるが、無共晶のオキシ水酸化ニッケル系化合物は、貯蔵中に電解液中の亜鉛イオンを吸収してしまうため、その効果が低減してしまう。この場合、最初から亜鉛をドープしたオキシ水酸化ニッケル系化合物を用いることによってこの影響を取り除くことができる。また、コバルトを共晶することによって、オキシ水酸化ニッケル系化合物の放電利用率を改善することができる。また、亜鉛、コバルトを併せて共晶することによって酸素過電圧を大きくすることができるので正極における自己放電特性を改善することができる。
【0018】
(正極の成形)
オキシ水酸化ニッケル系化合物粒子、二酸化マンガンは、以下の工程によって正極に成形される。
【0019】
1) 正極合剤成分の混合正極合剤は、所定の平均粒径を有する正極活物質であるオキシ水酸化ニッケル系化合物、二酸化マンガンに正極合剤添加物である導電材、ポリオレフィン系樹脂であるバインダー、潤滑剤および電解液などを混合して得られる。この正極合剤の成分である導電材は、正極合剤中の内部電気抵抗を低減するために用いるものであり、一般にグラファイトが用いられる。また、バインダーは、前述のように正極合剤を成形する際に保形性を高め、成形作業中および電池内で保形性を維持するために用いられる。また、潤滑剤は、正極合剤を成形するにあたって、金型を用いて成形を行うが、正極合剤成形体と金型との滑りを向上させ、製造歩留まりを改善するために用いられる。この潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、エチレンビスステアラマイドなどが用いられる。また、電解液は、正極合剤中のイオン導電性を高めるためと、成形性を高めるために用いられる。この電解液は、電池の正極と負極の間のイオン導電を維持するために用いられる電解液と同じものを用いることが好ましい。好ましい電解液は40%KOH水溶液である。これらの正極合剤成分の配合比率は、質量比でオキシ水酸化ニッケル系化合物:二酸化マンガン:導電剤:バインダー:潤滑剤:電解液として、40〜45:50〜45:4〜8:0.05〜0.5:0.05〜0.3:4〜7の配合比が好ましい。これらの成分は、ロータリーミキサー、ヘンシェルミキサーなどの攪拌装置で混合される。
【0020】
2) ローラコンパクション処理上記工程において配合された正極合剤は、次いで、ローラコンパクタによって圧縮加圧され、造粒のために充填密度を高められる。このローラコンパクタは、双ロール間に正極合剤を供給し、加圧して充填密度を高めるものであり、圧縮応力は、印加力をローラ幅で割った0.5×10〜5×10N/cmの範囲のものが好ましく、1.5×10〜3.5×10N/cmの範囲がより好ましい。このローラコンパクタは、半径の2乗およびロール幅に比例して処理量を向上させることができる。
【0021】
3) グラニュレーション処理ローラコンパクション処理された正極合剤は、圧縮塊状となっている。これを用いて成形体を作製するためには一旦粒状に造粒する必要がある。そのためにロール表面に互いに嵌合する突起を有する双ロールを用いたグラニュレータによるグラニュレーション処理を行う。圧縮塊状に成形された正極合剤はこのグラニュレータに通すことによって、粒状に破砕される。得られる粒子の径は、10数μm〜1mm程度のものである。
【0022】
4) 分級処理上記工程で得られる正極合剤粒子はそのサイズによって分級される。本発明においては、200〜850μmの範囲の粒子とすることによって、充填密度の高い正極合剤成形体とすることができる。200μm未満の造粒粉は、金型成形する際、造粒粉の計量に時間が掛かり不適である。また、850μmを越える造粒粉は、金型成形する際、成形体の重量がばらつくため不適である。この分級処理によって篩分された径が大きな粒子は再度グラニュレータ処理に供給して再利用され、また、形の小さな粒子は、ローラコンパクタ処理工程に供給され再利用されるといった造粒システムが、量産設備の中で構築可能である。
【0023】
5) 成形上記工程で造粒された正極合剤粒子は、次いで、金型を用いて正極成形体に成形される。インサイドアウト型の正極合剤は、中空円筒状をしており、中央のマンドレルを有し、所要の体積を有する円筒形状の金型中に上記正極合剤粒子を充填して、雄型を圧入することにより成形が行われる。このときの成形圧力は、0.5×10〜9.8×10Paの圧力が好ましい。成形圧力が上記範囲を下回った場合、必要な正極合剤の充填密度が得られず、また、粒子同士の接触も確保しにくくなるので、電池とした場合、所定の放電容量が得られない。一方、成形圧力が上記範囲を上回った場合、正極合剤中に電解液が浸透しにくくなり、その利用率を下げてしまう。
【0024】
(負極)
本発明で用いられる負極材料は、負極活物質である亜鉛合金を主成分とする負極材料であり、公知の二酸化マンガン−亜鉛一次電池で使用されている亜鉛ゲルを用いることもできる。この負極材料は、ゲル状であることが取り扱いの点で望ましい。負極をゲル状とするためには、電解液とゲル化剤から作製されるゲル状電解液に負極活物質の亜鉛合金を分散させることにより容易にゲル状物にすることができる。亜鉛は次式に示す放電反応によって発電が行われる。
Zn + 2OH → ZnO + HO + 2e
【0025】
本発明において用いる亜鉛合金は、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。具体的には、インジウム0.01〜0.1質量%、ビスマス0.001〜0.05質量%、アルミニウム0.001〜0.015質量%を含む亜鉛合金が、水素ガス発生の抑制効果があり望ましい。特にインジウム、ビスマスは放電性能を向上させるため望ましい。負極作用物質として純亜鉛ではなく亜鉛合金を用いる理由は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くし、密閉系の電池製品とした場合の電池内部での水素ガス発生を抑制して、漏液などによる事故を防止するためである。
【0026】
また、亜鉛合金の形状は、表面積を大きくして大電流放電に対応できるように粉末状とすることが望ましい。本発明において好ましい亜鉛合金の平均粒径は、120〜160μmの範囲が好ましい。亜鉛合金の平均粒径が上記範囲を上回った場合、表面積が比較的小さくなり大電流放電に対応することは困難になる。また、平均粒径が上記範囲を下回った場合、電池組み立て時の取り扱いが難しく、電解液及びゲル化剤と均一に混合することが困難になるばかりでなく、表面が活性であることから酸化されやすく不安定である。
【0027】
また、本発明において用いられるゲル化剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸などを用いることができる。特に、ポリアクリル酸ナトリウムが、強アルカリ水溶液に対する吸水倍率に優れているため好ましい。また、耐洩糸性を高めるためにポリアクリル酸を用いることもできるが、ゲル亜鉛が高粘度になるために添加量を多くすることはできない。
【0028】
(電解液)
本発明で用いられるアルカリ電解液は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ塩を溶質として用いた水溶液が好ましく、特に、水酸化カリウムを用いることが、好ましい。また、本発明においては、上記水酸化カリウムなどのアルカリ塩を水に溶解して電解液とするが、さらに電解液中に亜鉛化合物を添加することが望ましい。かかる亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛などの化合物が挙げられるが、特に酸化亜鉛が好ましい。
【0029】
電解液として少なくとも亜鉛化合物を含有するアルカリ性水溶液を用いるのは、アルカリ性水溶液中での亜鉛合金の自己溶解が酸性系の電解液と比較して格段に少なく、更には亜鉛合金のアルカリ性電解液中での自己溶解を亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛を溶解して亜鉛イオンを予め存在させておくことにより更に抑制するためである。
【0030】
[第2の実施の形態]
前記第1の実施の形態において、オキシ水酸化ニッケル系化合物と二酸化マンガンは、所望の電池特性の必要に応じて、任意の比率で配合することを示したが、重負荷特性と電池容量特性のバランスからみて、前記オキシ水酸化ニッケル系化合物と前記二酸化マンガンとの配合比は、質量比にして6:4〜2:8であることが好ましい。オキシ水酸化ニッケル系化合物の量がこの範囲を下回った場合、前記第1の実施の形態において説明した理論容量比及び正極理論容量に対するアルカリ電解液比率を前記範囲に制御したとしても、高率放電特性において、従来の二酸化マンガン乾電池相当程度の特性しか得られず、オキシ水酸化ニッケル系化合物添加の効果が生じない。一方、オキシ水酸化ニッケル系化合物の量が上記範囲を上回ると、電池容量が、急速に低下してしまう。
この実施の形態の電池は、オキシ水酸化ニッケル系化合物と、二酸化マンガンの配合比を除いては、前記第1の実施の形態と同様にして作製することができる。
【0031】
[第3の実施の形態]
本願発明のアルカリ電池においては、前述の通り電解液として、アルカリ金属の水酸化物を溶質とし、これを水などの溶媒に溶解したものを用いる。前述の第1の実施の形態及び第2の実施の形態の電池においては、電解液の電気導電率は、正極の利用率に影響を及ぼす。種々検討の結果、上記ニッケル亜鉛系一次電池において、理論容量比及び電解液比率を上記範囲に設定した場合、電解液の電気導電率を0.2S/cm未満とすると、正極利用率が大幅に低下する。従って、上述の第1及び第2の実施の形態に示したニッケル亜鉛一次電池においては、電解液の電気伝導率を0.2S/cmとすることが望ましい。
電解液の電気導電率は、溶質の種類、濃度及び溶媒によって決定される。従って、この範囲の電気導電率を有する電解液を得る条件を一概に記載することはできないが、水酸化カリウムの水溶液の場合、8〜12N程度の濃度とすることによって、所用の電気伝導率を有する電解液とすることができる。
【0032】
[第4の実施の形態]
本願発明の正極においては、正極合剤として水酸化ニッケル系化合異物、二酸化マンガン及び炭素などの導電剤、及びバインダーなどが含まれている。本実施の形態においては、これに加えて、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)、及びカルシウム(Ca)から選ばれた少なくとも一種を含む化合物、さらに好ましくは、これらの金属の酸化物もしくはフッ化物を添加するものである。具体的には、例えばY、Er、Yb、などの金属酸化物、およびCaFなどの金属フッ化物があげられる。この実施の形態においては、かかる添加剤を用いることにより、正極利用率を損なうことなく、貯蔵時の容量維持率を向上させることができる効果を発揮する。
これらの金属化合物の添加量は、正極合剤100質量部に対して、0.1〜2質量%の範囲で用いられる。金属酸化物もしくは金属フッ化物の配合量が上記範囲を下回った場合、貯蔵特性の改善効果が得られず、一方配合量が上記範囲を上回った場合、相対的に正極活物質の量が減るので高容量化に適さなくなるため好ましくない。添加量がこの範囲を下回った場合、添加剤添加の効果が発揮されず、一方、添加量がこの範囲を上回った場合、容量が低下して好ましくない。
【0033】
[他の変形例]
以上、第1乃至第4の実施の形態に従って、本発明の目的にとって最適な電池を設計・製造することができる。
なお、本発明の趣旨を損なわない限り、他の構成要件については適宜変更を行うことも可能である。
【実施例】
【0034】
以下本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1〜5および比較例1〜3)
4.5%Zn、0.8%Coをドープした水酸ニッケル粒子に次亜塩素酸ナトリウムを加えて酸化を進め、オキシ水酸化ニッケル系化合物とした。この時のオキシ水酸化ニッケル系化合物のNi純度は、EDTA滴定並びにICP分析によって測定したところ57%であった。
【0035】
上記方法によって得られた正極活物質にカーボン及び電解液等を添加して成形し正極合剤を形成した。正極合剤を形成する各成分の量は、正極合剤の成形強度などを考慮し、下記の質量比で配合し、成形した。
平均粒径10μmのオキシ水酸化ニッケル系化合物40質量部に、電解二酸化マンガン47質量部に、導電剤の黒鉛7質量部を加え、平均粒径が5μmのポリエチレンを正極活物質に対して1000ppm加え、乾式攪拌を10分間、回転数300rpmで行った後、練液である12Nの水酸化カリウム水溶液5.0質量部を加え、湿式攪拌を回転数600rpmで10分間行って攪拌合剤とした。続いてこの攪拌合剤を圧縮強度200kg/mmで圧粉を行い、薄片状態のものを作製した。さらに、分級機を用いて薄片状態のものを破砕することにより顆粒合剤を製作した。
【0036】
その後、一定質量、一定寸法の正極合剤を成形し、正極缶内部に挿入する。続いて、正極合剤と正極缶との密着を図るために再加圧される。
負極ゲル亜鉛の作製は、12Nの水酸化カリウム水溶液165質量部に、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを4質量部、架橋型ポリアクリル酸を0.5質量部、酸化インジウム0.1質量部を混合したものを加えて攪拌し、ゲル状電解液を作製する。続いて、亜鉛粉300質量部とゲル状電解液180質量部を混合し、真空で脱泡しながら攪拌を行い、ゲル状亜鉛を作製する。ゲル状亜鉛はセパレータ内に所定量充填される。
【0037】
こうして得られた正極合剤、負極ゲルを質量測定しながら缶の中に収め正極理論容量に対する電解液比率1.0ml/Ahになるように12NのKOH水溶液を用いて注液し、表1の実施例1〜3に示す構成として、集電体/ガス・リリース・ベントを具備した金属板/負極トップを、一体化した封口体でクリンプ封口して、図1に示すJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0038】
更に正極理論容量に対する電解液比率を、1.3、1.2、0.8、0.7ml/Ahとなるようにしたこと以外は、実施例3の電池と同様にして、実施例4〜5および比較例2〜3の電池を作製した。
また、負極/正極理論容量比を表1のようにしたこと以外は実施例4と同様にして比較例1の電池を作製した。
【0039】
作製した電池の正極理論容量、負極理論容量、負極/正極理論用量比を表1に併記する。出来上ったそれぞれの電池を20℃雰囲気で3日間放置して活性化させた後、20℃雰囲気下で150mA1.0Vカット・オフの定電流放電を行なった。その後、得られた放電容量を正極の理論容量で割って正極利用率を算出した。以上の結果を表1に示す。また、45℃雰囲気下で10Ω定抵抗放電を行い、68時間後に開放し漏液の有無を確認した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から正極理論容量に対する電解液比率は、容量規制極である正極利用率と相関しており、0.8〜1.2ml/Ahが適正であることが判る。1.2ml/Ahを超える領域(1.3ml/Ah)では正極利用率が既に飽和しており、これを越える電解液の添加は決められた電池内体積の中では体積ロスになる。また、0.8ml/Ahに満たない領域(0.7ml/Ah)では正極利用率が激減し、実用的でないことが明らかである。これは、電解液が不足していて正極のオキシ水酸化ニッケル系化合物へのプロトン拡散が十分に行なわれないためと推測される。
上記表1において、比較例1及び比較例3において、漏液が発生しているが、これは、容量比が高いことにより、放電後に多く残存した負極活物質から水素ガスが発生したことによるものである。また、容量比が適正であっても、電解液比率が高いことにより、僅かに残存した亜鉛から水素ガスが発生しやすくなるためである。
【0042】
(実施例6〜8および比較例4)
表1の実施例4の電池において、電解液組成および電気導電率を表2の実施例6〜8に示すように変更したこと以外は上記実施例4に準じて電池を作製した。また、比較のために電気導電率を0.16S/cmに設定した電池(比較例4)を作製した。
【0043】
これらの電池を、上記実施例1〜5と同様に、20℃雰囲気で3日間放置して活性化させた後、これを2つに分けて、一方を20℃の雰囲気下で150mA 1.0Vカット・オフの定電流放電を行ない、もう一方を45℃の雰囲気に2週間放置したあと、同様に20℃雰囲気下で150mAの定電流放電を行ない、両者の利用率の比をとって45℃の雰囲気に2週間放置における容量維持率とした。
その結果を表2に併せて示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2から電気導電率と正極利用率とは相関し、電解液の電位導電率が0.2S/cm以上ないと十分な正極利用率が得られないことが明らかとなった。また容量維持率については、実施例4に見られるKOH単独の電解液よりもLiOH、NaOHが添加されている電解液(NaOHは単独系も含む)の方が高いことが明らかとなった。しかしながら電解液においてLiOHや、NaOHの比率が高くなると電気導電率が低下し正極利用率が低下することから、用途や要求特性に応じて選択して使用する必要があることが明らかとなった。
【0046】
以上の結果から、電気導電率が0.2S/cm以上であって、KOHをベースとしてNaOH、LiOHの少なくとも一つ以上が添加されている系、もしくはNaOHベースとするか、12Nに満たないNaOHを用いてLiOHが添加されている系が好ましいことが明らかとなった。また、NaOH、あるいはLiOHを用いて電気導電率を0.2S/cm以上とするためには、表2に示したトータル・アルカリ塩濃度を12N或いは12N+1N=13Nから、これをもっと薄い濃度、例えば9〜11Nに希釈して用いれば良いことが明らかとなった。
【0047】
(実施例9〜13)
表1の実施例4の電池において、正極合剤にY、Er、Yb、およびCaFの4種類の金属酸化物または金属フッ化物を0.4質量部添加したこと以外は同様の方法で電池を作製した。また、電池試作後のエージング条件、正極利用率並びに容量維持率の測定についても上述の方法と同様とした。その結果を表3に併せて示す。
【0048】
表3の結果から、Y、Er、Ybの酸化物、およびCaフッ化物を正極に添加した電池系を、表2の対応する実施例4の結果と比較した結果、容量維持率改善に効果的であることが確認できた。また表3の実施例の正極利用率は実施例4と比較しても遜色がないことが確認された。特に正極にYを添加した系と12N KOH+1N NaOHとの組み合せとなる容量維持率は非常に優れていることが明らかとなった。
【0049】
これは、電解液は、KOH単独系のみならずNaOH、LiOH添加と全体の濃度を適宜調整し電気導電率として0.2S/cm以上を保ちながら、正極にY、Er、Yb酸化物、あるいはCaフッ化物を添加することによって、正極利用率を損なうこと無く、貯蔵時の容量維持率を向上させることが可能なことを示唆している。
【0050】
【表3】

【0051】
尚、本実施例は何れも単3サイズをベースにしたが、必ずしもこれに限定されるわけではなく様々なサイズに適用し得るものである。


【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例であるアルカリ電池の断面図。
【符号の説明】
【0053】
1…正極缶
2…正極合剤
3…セパレータ
4…負極ゲル亜鉛
5…集電棒
6…パッキング
7…金属板
8…メタルボトム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシ水酸化ニッケル系化合物と二酸化マンガンとを配合して正極活物質とするアルカリ電池であって、
正極理論容量に対する負極理論容量の比を0.85〜1.05とし、正極理論容量に対するアルカリ電解液比率を0.8〜1.2ml/Ahとすることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
前記オキシ水酸化ニッケル系化合物と前記二酸化マンガンとの配合比が、質量比にして6:4〜2:8であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記アルカリ電解液は、溶質として水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムから選ばれた少なくとも一つ以上で構成されていて、その電気導電率が0.2S/cm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記正極活物質であるオキシ水酸化ニッケル系化合物が、オキシ水酸化ニッケル系化合物もしくは亜鉛およびコバルト単独もしくはこれらを共晶させたオキシ水酸化ニッケル系化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記正極活物質が、イットリウム、イッテルビウム、エルビウム、カルシウムから選ばれた少なくとも一種の金属の化合物をさらに含有したものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のアルカリ電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−250451(P2007−250451A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75015(P2006−75015)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】