説明

アルカリ電池

【課題】優れた放電特性を有するアルカリ電池を提供する。
【解決手段】正極2及び負極3がセパレータ4を介して電池ケース1内に収納されてなるアルカリ電池であって、前記正極2は電解二酸化マンガンと黒鉛を含み、前記電解二酸化マンガンの電位を酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対して290〜340mVの範囲とし、前記正極2中の二酸化マンガンの充填密度を2.45〜2.75g/cmの範囲とし、前記電解二酸化マンガンと前記黒鉛を92〜96.5:8〜3.5の質量比で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池に関し、さらに詳しくは正極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルカリ電池の放電性能の向上を目的として、電位の高い電解二酸化マンガンを用い、放電中の電池電圧を高めて相対的に放電持続時間を延ばす検討がなされている。(特許文献1参照)。
【0003】
また、正極の活物質である二酸化マンガンの充填においても、放電性能の向上を目的として、より高い充填密度に関する検討がなされている。(特許文献2参照)。
【0004】
また、これらの二酸化マンガンに対して導電性を高めることを目的として黒鉛粉末を加えて正極は構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−137129号公報
【特許文献2】特許第3462877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今日、懐中電灯や玩具に多く使用されるアルカリ乾電池の開路電圧の上限は、JIS規格やIEC規格によって1.65Vに定められている。そして、アルカリ乾電池を電源とする機器の多くはこの定格に基づいて設計されている。
【0007】
しかし、前述した特許文献1に係る高電位な電解二酸化マンガンを使用する場合にあっては、アルカリ乾電池の開路電圧が1.65Vを超えてしまうため、少なからず機器へのダメージが避けられなかった。例えば、懐中電灯では豆球のフィラメントが焼き切れてしまったり、玩具では異常発熱を引き起こしたりする場合があった。
【0008】
また、前述した特許文献2に係る高い充填密度で二酸化マンガンを使用する場合にあっては、機器へのダメージを増大させてしまう恐れがあった。
【0009】
さらに、複数の電池を直列で使用する場合にあっては、これらの不具合が助長されてしまい、実用性の面からは改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その上で、従来よりも優れた放電特性を有するアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、正極及び負極がセパレータを介して電池ケース内に収納されてなるアルカリ電池において、前記正極は電解二酸化マンガンと黒鉛を含み、前記電解二酸化マンガンの電位を酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対して290〜340mVの範囲とし、前記正極の二酸化マンガンの充填密度を2.45〜2.75g/cmの範囲とし、
前記電解二酸化マンガンと前記黒鉛の範囲の質量比を92〜96.5:8〜3.5とした構成にしている。
【発明の効果】
【0012】
酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対して290〜340mVの範囲を有する高電位な電解二酸化マンガンを使用することで、電池の開路電圧を高くすることができる。
【0013】
次に、正極の二酸化マンガンの充填密度を2.45〜2.75g/cmとし、正極と電池ケース間および正極を構成する粒子間の密着性を下げて放電初期における内部抵抗を高めることで、開路電圧は高いが、閉路電圧を下げることが出来る。これによって、機器に与えるダメージを緩和することができる。
【0014】
しかし、このままでは放電末期まで、閉路電圧が低下した状態が続いてしまい、機器の動作時間は短くなってしまう。これに対し、予め電解二酸化マンガンと黒鉛を92〜96.5:8〜3.5の範囲の質量比で構成し、上記の正極の二酸化マンガンの充填密度の範囲内において、放電後の正極の膨張によって放電末期の正極と電池ケース間および正極を構成する粒子間の密着性の向上させることができる。そして、内部抵抗の上昇を抑えて閉路電圧を高く維持することができ、放電持続時間を伸ばすことが可能となる。
【0015】
放電中の正極の膨張は、電池の高さ方向(両極の端子間)が顕著であることが知られているが、比較的充填密度が低い正極中に、潤滑性や離型性を有する黒鉛粉末を一定量存在させることによって、正極が3次元的に膨張するようになると考えられる。
【0016】
すなわち、放電初期で閉路電圧を下げて機器へのダメージを緩和し、放電末期で閉路電圧の低下を抑制して放電性能を向上できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態としての単3形のアルカリ電池の半断面正面図
【図2】電池3、8、10の3.3Ωの抵抗で1時間当たり4分間の放電を8時間行い16時間休止するサイクルで、閉路電圧が0.9Vに達するまでの放電持続時間とそのときの閉路電圧の関係図
【図3】(a)電解二酸化マンガン粒、黒鉛粒をそれぞれ均一な粒径の球状と仮定して最密充填した説明図、(b)同要部の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば、正極及び負極がセパレータを介して電池ケース内に収納されてなるアルカリ電池において、前記正極は電解二酸化マンガンと黒鉛を含み、前記電解二酸化マンガンの電位を酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対して290〜340mVの範囲とし、前記正極の二酸化マンガンの充填密度を2.45〜2.75g/cmの範囲とし、前記電解二酸化マンガンと前記黒鉛の質量比を92〜96.5:8〜3.5の範囲とした構成することによって、放電初期で閉路電圧を下げて機器へのダメージを緩和し、放電末期で閉路電圧の低下を抑制して放電性能を向上できるという効果を奏するものである。
【0019】
さらに、前記電解二酸化マンガンの電位を酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対して300〜340mVの範囲とすることで、例えば、その電池を豆電球で使用した場合、より明るく照らすことができる。
【0020】
また、前記電解二酸化マンガンの平均粒径を前記黒鉛の平均粒径の6.5倍以上にすることで、正極の3次元的な膨張を促し、さらに放電性能を向上できる。
【0021】
なお、本発明における正極中で所定の充填密度を有する「二酸化マンガン」は、正極に充填された活物質として機能する二酸化マンガンであり、他の水分や不純物を除外したものである。この二酸化マンガンの充填密度は以下の方法で測定することができる。まず正極の体積の測定については、その電池内部をX線透視カメラで撮影し、正極の外径、内径、高さの寸法を測定して正極の体積を算出する。次に正極中の二酸化マンガンの質量に関して、電池を分解し正極2をすべて取り出し十分に酸溶解させた後、不溶分を濾別して得られる水溶液をICP発光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により、その溶液中に含まれていたマンガンの含有量を調べる。次に、そのマンガン量を二酸化マンガン量に換算して電池の正極に含まれていた二酸化マンガンの質量を求める。この方法にて、正極の体積および正極に充填されている二酸化マンガンの質量を算出することで、正極中の二酸化マンガン充填密度を求めることができる。
【0022】
なお、電池を構成してから、アルカリ電解液が電池の内部全体に行き渡った後に上述の測定を行う必要がある。例えば、電池を構成してから常温で3日間保管した後に測定すればよく、これ以降の正極の体積変化は軽微であって無視できる。
【0023】
また、電解二酸化マンガンの酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対する電位は以下の方法で測定することができる。まず、電解二酸化マンガンを上皿天秤を用いて20g秤取し、50mlの遠沈管に入れる。次に40質量%の水酸化カリウム水溶液を遠沈管に20ml注ぎ、軽く振りまぜ、遠沈管の口を封入して、20℃で24時間保管した後、遠沈分離機にかけ個液分離を行う。次にφ0.5mmの白金電極を遠沈管底部の固形部に密着するように挿入し、酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極の先端を遠沈管の上澄液に浸し、デジタルボルトメータのプラス極側に白金電極を、マイナス極側に酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極を接続して電圧を読み取ることで、電解二酸化マンガンの酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対する電位を測定することができる。
【0024】
以下、本発明の一実施の形態を図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施の形態として単3形アルカリ乾電池(LR6)の半断面正面図である。
【0025】
正極端子と正極集電体を兼ねた有底円筒形の電池ケース1には、中空円筒状の正極2が内接するように収納されている。正極2の中空部には有底円筒形のセパレータ4を介して負極3が配置されている。電池ケース1の開口部は、正極2、負極3等の発電要素を収納した後、釘型の負極集電体6と電気的に接続された負極端子板7と樹脂封口体5を一体化した組立封口体9により封口される。電池ケース1の外表面は、外装ラベル8により被覆されている。
【0026】
前記正極2を構成する前記電解二酸化マンガンは、平均粒径が30〜50μmが好ましい。電解二酸化マンガンの平均粒径を50μm以下にすることで、正極中の電解二酸化マンガンの表面積を大きくすることができ、放電性能を向上させることができる。また、電解二酸化マンガンの平均粒径を30μm以下にすると正極を加圧成型しにくくなり、生産性が悪化するため好ましくない。よって平均粒径を30〜50μmとすることが好ましい。
【0027】
また、正極前記電解二酸化マンガン中のNa量は0.06%以下とすることが好ましい。電解二酸化マンガン中のNaは電池の化学反応を阻害し、そのため放電時の正極2の3次元的な膨張を抑制する。電解二酸化マンガン中のNaを可能な限り少なくすることで、電池の化学反応を促進させ、正極2の3次元的な膨張をより促進させることができ、放電性能を向上させることができる。 前記正極2を構成する前記黒鉛は、平均粒径が6〜10μmであることが好ましい。黒鉛の平均粒径を10μm以下にすることで、正極2中の黒鉛の表面積を大きくすることができ、正極2の導電性を向上させることができ、放電性能を向上させることができる。また、黒鉛の平均粒径を6μm以下にすると正極を加圧成型しにくくなり、生産性が悪化するため好ましくない。よって平均粒径を6〜10μmとすることが好ましい。平均粒径が6〜10μmである黒鉛は、例えば、日本黒鉛(株)製のSP−20Mというグレードの黒鉛を使用すればよい。
【0028】
また、本発明のアルカリ電池は、電池を構成してから常温(約15〜25℃の範囲内)で1週間保管した際の開路電圧を、1.65V以上としてもよい。さらには、1.67以上としてもよい。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。
【0030】
まずは、本発明の課題を電池の作成方法、評価方法を述べながら表1を用いて説明する。上記特許文献2より、二酸化マンガンをより高い密度である2.90g/cmで充填した電池を作成した場合、良好な放電性能は示すが、機器へのダメージが大きくなりすぎ、使用した機器の寿命を短期化してしまう場合がある。
【0031】
表1に示す所定の電位を有する電解二酸化マンガン粉末(以下表中ではEMD電位と表記する)と、平均粒径が9μmを有する黒鉛粉末と、アルカリ電解液として39質量%の水酸化カリウム、および2質量%の酸化亜鉛を含有する水溶液と、オキシ水酸化チタン粉末を準備した。
【0032】
これらを正極の電解二酸化マンガン粉末と黒鉛粉末の質量の合計を100%として、黒鉛粉末の質量比率が表1に示す2.5%の割合(以下表中では正極中黒鉛質量比と表記する)で混合し、さらに、電解二酸化マンガン粉末と黒鉛粉末の質量の合計を100%として、1.5%の前記アルカリ電解液、0.2%のオキシ水酸化チタンを添加し、充分に攪拌した後、フレーク状に圧縮成形した。ついで、フレーク状の正極を粉砕して顆粒状とし、これを篩によって分級し、10〜100メッシュのものを中空円筒状に加圧成形してペレット状の正極2を得た。
【0033】
ゲル化剤には増粘剤としてポリアクリル酸の粉末と、吸水性ポリマーとして架橋分岐型ポリアクリル酸ナトリウムの粉末とを併用し、前記アルカリ電解液と、無汞化の亜鉛合金粉末とを0.26:0.54:35.2:64.0の質量比で混合して負極3を得た。なお、亜鉛合金粉末は、0.025質量%のインジウムと、0.005質量%のビスマスと、0.006質量%のアルミニウムとを含有し、体積平均粒子径が130μmを有するものを用いた。
【0034】
樹脂封口体5は、6,12ナイロンを所定の寸法、形状に射出成型して得た。
【0035】
外部端子板7は、厚さ0.5mmのニッケルメッキ鋼板を所定の寸法、形状にプレス加工して得た。
【0036】
負極集電体6は、真鍮線条を用いて釘型に全長が37.0mm、胴部の直径がφ1.15となるようにプレス加工し、表面にスズめっきを施した。
【0037】
これらについて、まず外部端子板7に負極集電体6を電気溶接した後、樹脂封口体5の中心の貫通孔に圧入して、組立封口体9を作製した。
【0038】
図1に示す構造の単3形のアルカリ電池を下記の手順により作製した。上記で得られた所定の正極2を電池ケース1内に2個挿入し、加圧治具により正極2を加圧して、電池ケース1の内壁に密着させた。電池ケース1の内壁に密着させた正極2の中央に有底円筒形のセパレータ4を配置した。セパレータ4内にアルカリ電解液として33質量%の水酸化カリウム、および2質量%の酸化亜鉛を含有する水溶液を1.55g注入した。所定時間経過した後、上記で得られた負極3をセパレータ4内に6.2g充填した。なお、セパレータ4には、ポリビニルアルコール繊維およびレーヨン繊維を主体として混抄した不織布を用いた。電池ケース1の開口端部を、組立封口体9により封口した後、外装ラベル8で電池ケース1の外表面を被覆して、電池にして保存したときの正極2中の二酸化マンガン密度(以下表中では、正極中MnO密度と表記する)が表1に示す充填密度の2.90g/cmとなる電池を得た。
【0039】
次に、これらの電池の放電性能、開路電圧、閉路電圧、豆電球テストの結果を表1に示す。
【0040】
ここで、放電性能とは、3.3Ωの抵抗で1時間当たり4分間の放電を8時間行い、16時間休止するサイクルで閉路電圧が0.9Vに達するまでの放電持続時間(分)である。
【0041】
また、開路電圧は、電池を作製してから常温で1週間保管した後に測定した値である。なお、本発明の電池を含む一般的なアルカリ電池の開路電圧は、経時的に降下していく。例えば、単1形であれば1年あたり0.002〜0.005の範囲で、単2形であれば1年あたり0.004〜0.01の範囲で、単3形であれば1年あたり0.01〜0.015の範囲で、単4形であれば1年あたり0.015〜0.025の範囲で、直線的に降下していく傾向を有する。
【0042】
また、閉路電圧とは、電池を作製してから常温で1週間保管した後、3.3Ωの負荷を与えて1秒後の電池電圧である。
【0043】
また、豆電球テストとは、定格1.5V、0.3Aの豆電球を20個用意し、各々に作製した電池1本を用いて点灯させ、電池電圧が低下し豆電球が消灯するまでの間に、20個の豆電球のうち、何個の豆電球でフィラメントが切れるかを確認するテストである。
【0044】
表1には豆電球のフィラメントが切れた個数を示す。
【0045】
表1に示すように、電解二酸化マンガンの電位が高くなるに従い放電性能は向上するが、290mV以上の電位を有する電解二酸化マンガンを用いて上記正極二酸化マンガン密度で電池を作成した場合、機器へのダメージが顕著である。
【0046】
【表1】

【0047】
ここで、機器へのダメージは閉路電圧が高すぎるためであると考え、閉路電圧を下げるために正極2の二酸化マンガンの充填密度を下げる検討を行った。正極2の二酸化マンガンの充填密度を表2のように変化させた以外は、電池3と同様の電池を作製し、各電池について、放電性能、開路電圧、閉路電圧、豆電球テストの結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、正極2の二酸化マンガンの充填密度を2.45〜2.75g/cmにすることで、豆電球テストの結果より、実際に機器へのダメージが低減していることがわかる。
【0050】
これは、正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性が下がり、放電初期における内部抵抗を高めることで、開路電圧は高いが、閉路電圧は低下させることができるためと推察される。
【0051】
正極2の二酸化マンガンの充填密度が2.90/cm以上であるときは、正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性が保たれているため、閉路電圧が高くなってしまい、豆電球テストからわかるように、機器へのダメージが大きくなってしまうため、好ましくない。
【0052】
正極2の二酸化マンガンの充填密度が2.30g/cm以下であるときは内部抵抗が高まりすぎて放電性能が極端に低下してしまうため、好ましくない。
【0053】
しかし、このままでは放電末期まで正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性が低い状態が続いてしまい、内部抵抗が高いままになってしまうため、良好な放電性能を示さない。
【0054】
これに対し、放電中の正極2の膨張は、電池の高さ方向(両極の端子間)が顕著であることが知られているが、比較的充填密度が低い正極2中で、一定量の潤滑性や離型性を有する黒鉛粉末を存在させることによって、正極2が3次元的に膨張するようになると考え、このように構成すると、上記の正極2の二酸化マンガンの充填密度の範囲内において、放電後の正極2の膨張によって放電末期の正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性の向上させることができると考えた。そして、内部抵抗の上昇を抑えて閉路電圧を高く維持することができ、放電持続時間を伸ばすことが可能になると考えた。
【0055】
すなわち、放電初期で閉路電圧を下げて機器へのダメージを緩和し、放電末期で閉路電圧の低下を抑制して放電性能を向上できるという効果を奏するものであると考えた。
【0056】
そこで、正極2中の黒鉛の質量比を表3のように変化させた以外は、電池6と同様の電池を作製し、各電池について、放電性能、開路電圧、閉路電圧、豆電球テストの結果を表3に示した。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように正極2の黒鉛質量比率が3.5%〜8.0%のとき、機器へのダメージは低減したままで、放電性能が向上させることが出来た。
【0059】
正極2の二酸化マンガンの充填密度を2.45〜2.75g/cmの範囲で電池を作製したため、機器へのダメージを低減することが出来た。
【0060】
また、放電性能が向上したことは、放電中の正極2の膨張に起因している。放電中の正極2の膨張は、電池の高さ方向(両極の端子間)が顕著であることが知られているが、比較的充填密度が低い正極2中で、一定量の潤滑性や離型性を有する黒鉛粉末を存在させることによって、正極2が3次元的に膨張するようになると考えられる。この3次元的な膨張によって、放電末期の正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性を向上させることができる。そして、放電末期に内部抵抗の上昇を抑えて閉路電圧を高く維持することができ、放電持続時間を向上させることができる。
【0061】
正極2中の黒鉛質量比率が2.5%以下であるときは、黒鉛の質量比率が少なすぎるため、放電中の膨張が3次元的でなくなり、電池の高さ方向の膨張が顕著になる。そのため、放電末期に正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性が向上せず、内部抵抗の上昇を抑えることができず、放電性能が著しく低下し、好ましくない。
【0062】
また、正極2の黒鉛質量比率が10.0%以上であるときは、豆電球テストからわかるように、正極2中の黒鉛の導電性のため、放電初期の閉路電圧が高くなってしまい、機器へのダメージが大きくなってしまうため、好ましくない。
【0063】
図2に電池3、8、10の3.3Ωの抵抗で1時間当たり4分間の放電を8時間行い16時間休止するサイクルで、閉路電圧が0.9Vに達するまでの放電持続時間とそのときの閉路電圧を示す。
【0064】
図2より、正極2の二酸化マンガンの充填密度を下げることで、放電初期における閉路電圧を下げることができ、また正極2の黒鉛質量比率を増加させることで、放電が進行するにつれて正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性を向上させ、放電性能を向上させていることがわかる。
【0065】
【表4】

【0066】
表4に示すように、正極2中の二酸化マンガン充填密度を2.45〜2.75g/cmの範囲で電池を作製することで、閉路電圧を下げ、機器へのダメージを低減させつつ、また、正極2の黒鉛質量比率3.5〜8.0%とすることで、放電中に正極2を3次元的に膨張させ、放電末期の正極2と電池ケース1間および正極2を構成する粒子間の密着性を向上させることができ、そして、放電末期に内部抵抗の上昇を抑えて閉路電圧を高く維持することができ、放電性能を向上させることができる。
【0067】
正極2中の二酸化マンガン充填密度と正極2の黒鉛質量比率をそれぞれが効果を発揮しうる範囲の値に適宜組み合わせることによって、高電位な二酸化マンガンを使用する場合(電池を構成して開路電圧が1.65Vを越える場合)であっても、従来、問題であった機器へのダメージを軽減し、しかも、良好な放電性能を示すことができる電池を作製することができた。
【0068】
従来は電池の放電性能の向上のために電極密度を上げた検討がなされてきたが、本発明により、驚くべきことに、電極密度を下げても、放電初期の反応性を抑制して、放電末期の反応性を向上させることにより、電池の長寿命化を達成することができた。
【0069】
また、電池21、27、36、37について豆電球の明るさを比較したところ、電池21に比べ、電池27、36、37は豆電球をより明るく発光させることができた。したがって、電解二酸化マンガンの電位を300〜340mVとすることが好ましい。さらに好ましくは320〜340mVの範囲とすればよい。
【0070】
ここで、図3(a)に電解二酸化マンガン粒(以下、EMD粒と示す)および黒鉛粒を球状と仮定し、EMD粒が最密充填されており、その隙間に黒鉛粒が充填されている正極モデルを示し、さらに図3(b)に同要部の拡大図を示す。このようにEMD粒が最密充填されている場合、正極2の3次元的な膨張をより促進できると考えた。EMD粒(平均粒径Aとする)が最密充填したときの隙間に黒鉛粒(平均粒径Bとする)が配置するためには、図3より、黒鉛粒の半径B/2がA√3/3−A/2より小さくなればよい。したがって
B/2<A√3/3−A/2
を満たしているときEMD粒が最密充填される。前記式を整理すると次式となる。
【0071】
A>(3/(2√3−3))B
つまりEMD粒径を黒鉛粒径の6.5倍以上とすることが好ましい。
【0072】
そこで、放電末期における正極の膨張をさらに促すことを目的とし、正極2のEMD平均粒径と黒鉛平均粒径を表5のように変化させた以外は、電池36と同様の電池を作製し、放電性能、開路電圧、閉路電圧、豆電球テストの結果を表5に示した。
【0073】
【表5】

【0074】
表5に示すように、EMD平均粒径を黒鉛平均粒径の6.5倍以上にしたときにより良好な放電性能を示した。これは正極2中のEMD平均粒径を黒鉛平均粒径の6.5倍以上のときに3次元的な膨張がより促進されたためである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のアルカリ電池は優れた放電特性を有し、乾電池を電源とするあらゆる機器に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0076】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 樹脂封口体
6 負極集電体
7 負極端子板
8 外装ラベル
9 組立封口体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極がセパレータを介して電池ケース内に収納されてなるアルカリ電池であって、
前記正極は電解二酸化マンガンと黒鉛を含み、前記電解二酸化マンガンの電位を酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対して290〜340mVの範囲とし、前記正極の電解二酸化マンガンの充填密度を2.45〜2.75g/cmの範囲とし、前記電解二酸化マンガンと前記黒鉛を92〜96.5:8〜3.5の範囲の質量比で構成したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
前記電解二酸化マンガンの電位を酸化水銀(Hg/HgO)の参照電極に対して300〜340mVの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記電解二酸化マンガンの平均粒径は、前記黒鉛の平均粒径の6.5倍以上としたことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
電池を構成してから常温で1週間保管した際の開路電圧が、1.65V以上を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ電池。
【請求項5】
電池を構成してから常温で1週間保管した際の開路電圧が、1.67V以上を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルカリ電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−181373(P2011−181373A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45150(P2010−45150)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】