説明

アルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法及びアルキルグリシジルエーテルの製造方法

【課題】アルコールとエピクロルヒドリンとを触媒の存在下に開環反応させてアルキルクロルヒドリンエーテルを製造し、得られたアルキルクロルヒドリンエーテルをアルカリと接触させて閉環反応させることによりアルキルグリシジルエーテルを製造する方法において、アルキルクロルヒドリンエーテルの選択性、触媒コストを改善して、低コストで効率的な反応を行う。
【解決手段】エピクロルヒドリンの開環反応触媒として、触媒金属成分が固体酸に担持されてなる金属担持固体酸触媒を用いる。金属担持固体酸触媒であれば、開環反応の触媒活性に優れ、目的とするアルキルクロルヒドリンエーテルを高い選択率で製造することができると共に、固体触媒であることにより反応後は目的物と容易に分離回収することができ、またこの金属担持固体酸触媒は安価な金属塩を用いて容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法とアルキルグリシジルエーテルの製造方法に係り、特に、触媒の存在下に、アルコールによりα−エピクロルヒドリン(以下「エピクロルヒドリン」と称す。)を開環反応させてβ−アルキルクロルヒドリンエーテル(以下「アルキルクロルヒドリンエーテル」と称す。)を製造する方法と、この方法で得られたアルキルクロルヒドリンエーテルをアルカリと接触させて閉環反応させることによりアルキルグリシジルエーテルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂希釈剤、電子材料、その他の用途で工業的に重要なアルキルグリシジルエーテルの製造方法として、以下の反応式に示すように、触媒の存在下にアルコール(R−OH)によりエピクロルヒドリンを開環反応させてアルキルクロルヒドリンエーテルを得、得られたアルキルクロルヒドリンエーテルをアルカリ(NaOH等)と接触させて閉環反応させることによりアルキルグリシジルエーテルを製造する2段階法が知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
この2段階法によるアルキルグリシジルエーテルの製造方法における、第1段階の開環反応に用いる触媒については、従来、種々の提案がなされており、例えば、特許文献1には三フッ化ホウ素又はその錯体、塩化第二スズ、トリフルオロメタンスルホン酸塩又は過塩素酸塩といったルイス酸触媒、具体的にはランタントリフルオロメタンスルホネート等を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−255293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来提案されている触媒は、以下の欠点があり、このため、目的とするアルキルグリシジルエーテルの生産効率が低く、また製造コストが高いという問題があった。
(1) アルキルクロルヒドリンエーテルの選択率が低い。
(2) 触媒が高価である。
(3) いずれも液体であるか、反応系に溶解する均一系触媒であるため、反応後、目的物との分離回収が困難である。
【0007】
本発明は上記従来の問題点を解決し、アルコールとエピクロルヒドリンとを触媒の存在下に開環反応させてアルキルクロルヒドリンエーテルを製造する方法、或いは更に、得られたアルキルクロルヒドリンエーテルをアルカリと接触させて閉環反応させることによりアルキルグリシジルエーテルを製造する方法において、アルキルクロルヒドリンエーテルの選択率が高く、比較的安価に製造することができ、しかも目的物との分離回収が容易な触媒を用いて、アルキルクロルヒドリンエーテル、更にはアルキルグリシジルエーテルを低コストで効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、触媒金属成分を固体酸に担持させた金属担持固体酸触媒であれば、上記開環反応の触媒活性に優れ、目的とするアルキルクロルヒドリンエーテルを高い選択率で製造することができると共に、固体触媒であることにより反応後は目的物と容易に分離回収することができ、またこの金属担持固体酸触媒は安価な金属塩を用いて容易に製造することができることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] アルコールとα−エピクロルヒドリンとを触媒の存在下に反応させてβ−アルキルクロルヒドリンエーテルを製造する方法において、該触媒として、触媒金属成分が固体酸に担持されてなる金属担持固体酸触媒を用いることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【0011】
[2] [1]において、前記触媒金属が、亜鉛、インジウム及び周期表第3A族に含まれる金属よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【0012】
[3] [1]又は[2]において、前記固体酸がモンモリロナイトであることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【0013】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、該金属担持固体酸触媒が、前記触媒金属の無機酸塩及び/又は有機酸塩を含む溶液に前記固体酸を接触させて得られることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【0014】
[5] [4]において、前記触媒金属の無機酸塩が、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、又は硝酸塩であり、有機酸塩が、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、酢酸塩、又はプロピオン酸塩であることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【0015】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記アルコールが炭素数1〜12の第一級脂肪族一価アルコールであることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【0016】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載のアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法により製造されたアルキルクロルヒドリンエーテル。
【0017】
[8] [7]に記載のアルキルクロルヒドリンエーテルをアルカリと接触させて閉環反応させることを特徴とするアルキルグリシジルエーテルの製造方法。
【0018】
[9] [8]に記載のアルキルグリシジルエーテルの製造方法により製造されたアルキルグリシジルエーテル。
【発明の効果】
【0019】
本発明で用いる金属担持固体酸触媒は、触媒金属成分を固体酸に担持させてなるものであり、アルコールによるエピクロルヒドリンの開環反応における触媒活性に優れ、アルキルクロルヒドリンエーテルを高い選択性で得ることができる。しかも、固体酸に担持された固体触媒であることから、反応後、反応液を固液分離することにより容易に目的物と分離回収して再利用することができる。
また、この金属担持固体酸触媒は、触媒金属の有機酸塩又は無機酸塩を固体酸に接触させることにより容易に製造することができ、その際、金属塩を形成するアニオン成分の種類は、得られる金属担持固体酸触媒の触媒性能には殆ど影響しないことから、安価な金属塩を用いることができ、触媒製造コストを低減することができる。
【0020】
本発明によれば、このようなアルキルクロルヒドリンエーテルの選択性に優れ、また、安価に製造することができると共に、反応後の回収再利用も容易な金属担持固体酸触媒を用いて、アルキルクロルヒドリンエーテル、更にはアルキルグリシジルエーテルを低コストで効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明のアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法及びアルキルグリシジルエーテルの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
[金属担持固体酸触媒]
まず、本発明で用いる金属担持固体酸触媒(以下「本発明の金属担持固体酸触媒」と称す場合がある。)について説明する。
本発明の金属担持固体酸触媒は、固体酸に触媒活性を示す金属成分を担持してなるものである。
【0023】
<固体酸>
本発明において、触媒金属成分を担持する固体酸としては特に制限はなく、酸性白土、活性白土のような天然粘土鉱物や、ゼオライト、その他の金属酸化物、イオン交換樹脂などが挙げられる。これらの固体酸は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
固体酸としては、特に容易に入手することができ、比較的安価で、また、触媒金属成分を担持させることによる触媒活性(例えばアルキルクロルヒドリンエーテルの選択性)の向上効果に優れることから、モンモリロナイトが好ましい。モンモリロナイトとしては市販の酸性白土や活性白土を用いることができる。
【0024】
<触媒金属成分>
固体酸に担持させる触媒金属成分としては、目的とする反応に対して触媒活性を示すものであれば良く、特に制限はないが、触媒金属としては、亜鉛、インジウム、周期表第3A族金属等が挙げられる。ここで周期表第3A族金属としては、イットリウム、或いはランタン、セリウム、ネオジム、イットリビウム等のランタノイドが好ましい。これらのうち、特に亜鉛、ランタン、インジウム、ネオジム、及びセリウムが好ましく、とりわけランタンが好ましい。
【0025】
これらの触媒金属は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0026】
<担持量>
上述の触媒金属成分は、後述の製造方法に従って、固体酸に担持され、具体的には、固体酸に含まれるカチオンと触媒金属カチオンとがイオン交換されることにより、固体酸に担持される。
従って、そのイオン交換容量から求められるイオン交換率として示される触媒金属成分の担持量は、80%以上、特に95〜100%以上であることが好ましい。このイオン交換率が低過ぎると十分な触媒活性を得ることができない。このイオン交換率は、後述の金属担持固体酸触媒の製造方法において、用いる金属塩溶液の濃度や処理時間等の条件を制御することにより調整することができる。
【0027】
なお、イオン交換容量の測定方法及びイオン交換率の算出方法は、後述の実施例の項に記載される通りである。
【0028】
<製造方法>
触媒金属成分を固体酸に担持してなる本発明の金属担持固体酸触媒を製造するには、触媒金属成分となる化合物を含む溶液を調製し、この溶液に固体酸を分散させるなどして該化合物を付着させた後、水洗、乾燥する方法が挙げられる。
【0029】
ここで、触媒金属成分となる化合物としては、触媒金属成分の金属の無機酸塩や有機酸塩を用いることができ、金属塩を形成するための無機酸としては、硫酸、塩酸、リン酸塩、亜リン酸塩、硝酸塩などが挙げられる。また、有機酸としては、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0030】
前述の如く、本発明の金属担持固体酸触媒の調製に用いる金属酸塩のアニオン成分の種類により、得られる触媒の触媒活性に殆ど差異はないことから、本発明では、トリフルオロメタンスルホン酸塩のような比較的高価な金属塩を用いずに、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、硫酸塩といった比較的安価な金属塩を用いて金属担持固体酸触媒を製造することができ、工業的に有利である。
【0031】
これらの金属塩は、通常1〜50重量%程度で、担持する固体酸のイオン交換容量の1〜5倍程度の金属成分を含む水溶液に調製され、この金属塩水溶液に固体酸を浸漬ないし分散させて接触させることにより、金属塩を担持させ、その後固液分離して固体酸を回収する。この接触処理は通常20〜80℃で1〜24時間程度行われる。前述の如く、この処理における水溶液濃度及び水溶液量、処理時間や処理温度等の処理条件を調整することにより、得られる金属担持固体酸触媒の触媒金属成分担持量を制御することができる。
【0032】
上記固液分離後は、水洗した後、50〜130℃で3〜24時間加熱して乾燥させることにより、本発明の金属担持固体酸触媒を得ることができる。
【0033】
[アルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法]
本発明のアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法は、上述の本発明の金属担持固体酸触媒の存在下に、アルコールによるエピクロルヒドリンの開環反応でアルキルクロルヒドリンエーテルを製造する方法である。
【0034】
本発明において、反応に用いるアルコールとしては、脂肪族一価アルコール、脂肪族二価アルコール等が挙げられる。これらの脂肪族アルコールは、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良く、また、飽和脂肪族であっても不飽和脂肪族であっても良い。このうち、脂肪族二価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、オクタン−1,8−ジオール等の炭素数2〜12の脂肪族二価アルコールが挙げられるが、このうち、モンモリロナイトの層間距離が小さいことにより脂肪族一価アルコールが好ましく、特に一級脂肪族一価アルコールが好ましい。なお、この一級脂肪族一価アルコールは直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。また、飽和脂肪族アルコールであっても不飽和脂肪族アルコールであっても良い。
【0035】
特に、一級脂肪族一価アルコールの中でも、金属担持固体酸触媒による触媒活性を有効に得ることができることから、炭素数1〜12、とりわけ炭素数1〜8の一級脂肪族一価アルコールであることが好ましく、このような一級脂肪族一価アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n−アミルアルコール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−デカノール、イソデカノール、アリルアルコール等が挙げられる。
【0036】
本発明の金属担持固体酸触媒を用いて、アルコールとエピクロルヒドリンとの反応を行う場合、通常、アルコールに所定量の金属担持固体酸触媒を添加して窒素等の不活性ガス雰囲気下、攪拌しながら昇温し、その後エピクロルヒドリンをこの反応液中に滴下する。
【0037】
このようにして、アルコールとエピクロルヒドリンとを触媒の存在下に反応させることにより、アルキルクロルヒドリンエーテルが生成する。
【0038】
反応に供するアルコールとエピクロルヒドリンとの比率は、目的とするアルキルグリシジルエーテルの不純物となるエピクロルヒドリンの残留を防止するべく、アルコールを反応当量よりも過剰に用いることが好ましく、エピクロルヒドリンをアルコール1モルに対して0.1〜2モル、特に0.2〜0.8モル反応させることが好ましい。この範囲よりもアルコールが少ないとアルキルクロルヒドリンエーテルに更にエピクロルヒドリンの付加した高沸点生成物が副生する。また、これよりもアルコールを多く用いても、単位容積当たりのアルキルグリシジルエーテルの収量が低下し、生産効率が悪化する。
【0039】
また、アルコールとエピクロルヒドリンとの反応における、本発明の金属担持固体酸触媒の使用量が少な過ぎると十分な触媒効果が得られず、多過ぎても、それ以上の効果の向上はなく、経済的に不利である。従って、金属担持固体酸触媒はその触媒金属成分の種類やその担持量等によっても異なるが、通常アルコールに対して0.1〜50重量%、特に0.5〜20重量%程度用いることが好ましい。
【0040】
反応温度は、通常0〜180℃、好ましくは80〜130℃であり、反応時間は通常0.5〜5時間である。
【0041】
反応後は、反応液を固液分離することにより容易に目的物と触媒とを分離することができ、分離した触媒は、必要に応じて洗浄、乾燥することにより、再度、反応に使用することができる。
【0042】
なお、本発明の金属担持固体酸触媒は、固体触媒であることにより、上述のようなバッチ方法による反応の他、これをカラムに充填して反応液を通液する連続方式による反応にも用いることができる。
【0043】
[アルキルグリシジルエーテルの製造方法]
本発明のアルキルグリシジルエーテルの製造方法は、上述の本発明のアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法により製造されたアルキルクロルヒドリンエーテルをアルカリと接触させて閉環反応(脱塩化水素反応)させることによりアルキルグリシジルエーテルを製造するものである。
【0044】
ここで用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物の1種又は2種以上が挙げられるが、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0045】
このアルキルクロルヒドリンエーテルの脱塩化水素反応においては、アルキルクロルヒドリンエーテルに対して、1.0〜2.0モル倍量、特に1.1〜1.5モル倍量のアルカリを用いるのが好ましい。接触させるアルカリの形態としては、固体でも液体でも差し支えないが、例えば、10〜48重量%水溶液として添加するのが好ましい。
【0046】
なお、アルカリの添加に先立ち、反応に用いたアルキルクロルヒドリンエーテルの製造に用いた過剰のアルコールは、予め減圧蒸留等により分離回収しておくことが好ましい。
【0047】
また、このアルキルクロルヒドリンエーテルの閉環反応の反応温度は10〜100℃程度とするのが好ましく、反応時間は通常0.1〜10時間程度である。
【0048】
アルカリの使用量が上記範囲を超える場合、又は、反応温度が100℃を超える場合は、脱塩化水素反応でアルキルクロルヒドリンエーテルが加水分解して、アルキルグリセリルエーテルとなり、収率を大幅に低下させる恐れがある。一方、アルカリの使用量が上記範囲未満の場合、或いは、反応温度が10℃未満の場合には、脱塩化水素反応の進行が遅く、好ましくない。
【0049】
反応終了後は、通常、静置して水層と有機層とを分け、分離した有機層を蒸留することで製品のアルキルグリシジルエーテルを得る。
【実施例】
【0050】
以下に実施例、比較例及び参考例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0051】
なお、以下の表中の略字は、次の通りである。
Et:C
TfO:CFSO(トリフルオロメタンスルホン酸残基)
OAc:CHC(O)O(酢酸残基)
MSA:CHSO(メタンスルホン酸残基)
PTS:CHSO(パラトルエンスルホン酸残基)
【0052】
また、反応の選択率(反応したエピクロルヒドリンからのアリルクロルヒドリンエーテルの選択率)及び転化率(エピクロルヒドリンの転化率)は、反応生成液をガスクロマトグラフィーで分析することにより求めた。
【0053】
[参考例1〜6]
反応容器にアリルアルコールと、触媒として表1に示す金属塩をアルコールに対して1.0重量%仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら、100℃まで昇温した後、この温度を維持した状態で、エピクロルヒドリンをアルコール1モルに対して1/3モル(アルコール/エピクロルヒドリン=3(モル比))となるように攪拌下に滴下した。その後1時間この温度で反応させた後、選択率と転化率を調べ、結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
なお、この参考例1〜6では、いずれも均一系触媒であることにより、反応後、蒸留又は抽出などの操作により、目的物と触媒との分離を行う必要があった。
【0056】
[実施例1〜8]
<触媒の調製>
表2に示す金属塩を10重量%濃度の水溶液とした。この水溶液中にモンモリロナイト(水沢化学社製活性白土Hタイプ(商品名「ガレオンアース」)30gを分散させて、50℃で6時間攪拌した。金属塩水溶液は、モンモリロナイトのイオン交換容量の2.5倍当量の金属塩量となるような割合で用いた。上記攪拌後、濾過し、濾液が中性になるまで水洗し、その後、100℃の恒温槽に入れ、5時間乾燥した。
【0057】
なお、得られた金属担持固体酸触媒について、冷却後、10重量%NaCl水溶液に入れ、未置換のイオン交換容量を測定した。測定されたイオン交換容量から、以下の式でイオン交換率を算出したところ、いずれも97%であった。
【0058】
【数1】

【0059】
<開環反応>
触媒として上記で調製された金属担持固体酸触媒を用いたこと以外は、参考例1〜6と同様にして反応を行った。なお、金属担持固体酸触媒はアルコールに対して1.0重量%用いた。
本実施例では、いずれも、反応後、固液分離するのみで、容易に目的物から金属担持固体酸触媒を分離回収することができた。
参考例1〜6と同様に選択率と転化率を調べ、結果を表2に示した。
【0060】
<閉環反応>
上記開環反応後、固液分離により金属担持固体酸触媒を除去して得られた分離液から減圧蒸留により過剰のアリルアルコールを分離回収した後、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液をアルカリ添加量がアリルクロルヒドリンエーテル1モルに対して1.05モルとなるように加え、40℃で0.5時間攪拌した。その後、室温まで冷却し、水層を除き減圧蒸留で精製して、アリルグリシジルエーテルを得た。
ガスクロマトグラフィー分析により、得られたアリルグリシジルエーテルの収率(出発原料であるエピクロルヒドリンに対する収率)を調べ、結果を表2に示した。
【0061】
[比較例1]
実施例1において、金属担持固体酸触媒の代りに触媒金属成分を担持していないモンモリロナイトを用いたこと以外は同様にして反応を行い、同様に選択率及び転化率と収率を調べ、結果を表2に示した。
【0062】
【表2】

【0063】
[実施例9〜12]
実施例1において、金属塩として表3に示すものを用いて調整した金属担持固体酸触媒を用い、その使用量をアルコールに対して2重量%としたこと以外は同様にして反応を行い、同様に選択率及び転化率と収率を調べ、結果を表3に示した。
【0064】
【表3】

【0065】
[実施例13〜16]
実施例1において、金属塩として表4に示すものを用いて調整した金属担持固体酸触媒を用いて反応を行い(実施例13)、実施例13において回収した触媒を繰り返し使用して同様に反応を行い(実施例14〜16)、同様に選択率及び転化率と収率を調べ、結果を表4に示した。
【0066】
【表4】

【0067】
[実施例17〜23]
実施例8において、アルコールとして、アリルアルコールの代りに表5に示すものを用いたこと以外は同様にして反応を行い、同様に選択率及び転化率と収率を調べ、結果を表5に示した。なお、表5には実施例8の結果も併記した。
【0068】
[比較例2〜8]
比較例1において、アルコールとして、アリルアルコールの代りに表5に示すものを用いたこと以外は同様にして反応を行い、同様に選択率及び転化率と収率を調べ、結果を表5に示した。なお、表5には比較例1の結果も併記した。
【0069】
【表5】

【0070】
以上の結果から、固体酸に触媒金属成分を担持してなる本発明の金属担持固体酸触媒を用いて、高い選択率でアルキルクロルヒドリンエーテルを得ることができ、得られたアルキルクロルヒドリンエーテルからアルキルグリシジルエーテルを高収率で得ることができることが分かる。
また、この金属担持固体酸触媒の調整に用いる金属塩のアニオン成分による触媒活性の差異は殆どなく(例えば、実施例2〜5において、ほぼ同等の選択率が得られる。)、工業的に容易に入手し得る安価な金属塩を用いて高活性の触媒を安価に調整することができることが分かる。しかも、触媒金属成分によっては、固体酸に担持することにより、触媒活性が飛躍的に向上する(例えば、参考例5、6と実施例3、4)。
本発明によるアルキルクロルヒドリンエーテルの製造において、原料アルコールにより反応成績には若干の差異があり、アルコールの炭素数は、6以下であることが好ましく、また、分岐アルコールよりも直鎖アルコールが好ましく、また飽和アルコールが好ましいことが分かる(実施例8、17〜23)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下に、アルコールによりα−エピクロルヒドリンを開環反応させてβ−アルキルクロルヒドリンエーテルを製造する方法において、該触媒として、触媒金属成分が固体酸に担持されてなる金属担持固体酸触媒を用いることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記触媒金属が、亜鉛、インジウム及び周期表第3A族に含まれる金属よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記固体酸がモンモリロナイトであることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該金属担持固体酸触媒が、前記触媒金属の無機酸塩及び/又は有機酸塩を含む溶液に前記固体酸を接触させて得られることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記触媒金属の無機酸塩が、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、又は硝酸塩であり、有機酸塩が、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、酢酸塩、又はプロピオン酸塩であることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記アルコールが炭素数1〜12の第一級脂肪族一価アルコールであることを特徴とするアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアルキルクロルヒドリンエーテルの製造方法により製造されたアルキルクロルヒドリンエーテル。
【請求項8】
請求項7に記載のアルキルクロルヒドリンエーテルをアルカリと接触させて閉環反応させることを特徴とするアルキルグリシジルエーテルの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のアルキルグリシジルエーテルの製造方法により製造されたアルキルグリシジルエーテル。

【公開番号】特開2010−265193(P2010−265193A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116691(P2009−116691)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000180449)四日市合成株式会社 (17)
【Fターム(参考)】