説明

アルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法

【課題】金属触媒存在下で、ケトンの水添反応を行い、得られたアルコールをアルキル化剤として用い、芳香族炭化水素と反応させるアルキル化芳香族化合物の製造方法であって、効率良くクメン等のアルキル化芳香族化合物を製造するための方法を提供することと、該方法によってクメンを得る工程を有するフェノールの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒の存在下で、ケトンの水添反応を行い、アルコールを含む反応液を得る工程(工程1)と、前記反応液をフィルターに通液した後に、固体酸触媒存在下で、反応液中のアルコールによる芳香族化合物のアルキル化反応を行う工程(工程2)とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クメンを出発原料としてフェノールを製造するクメン法は公知であるが、クメン法においては生成フェノールと等モル量のアセトンが常に副生する。副生するアセトンは溶剤または有機合成原料として広範囲な用途があるが、その時々の市場の動向によってはアセトンが過剰であったり、市況が悪い場合があり製造するフェノールの経済性を低下させる原因となっている。クメンは通常ベンゼンをプロピレンでアルキル化することにより製造されている。プロピレンはナフサの熱分解で製造されており同時に併産されるエチレンとプロピレンの需要バランスによりプロピレンが不足しクメン生産の隘路となる場合が多い。
【0003】
この隘路を避ける目的でフェノール製造時に併産されるアセトンを水添してイソプロパノールとし、これを更に脱水してプロピレンとし、クメン製造などの原料としてリサイクル使用する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながらこの方法では水添工程と脱水工程という2つの工程が増えるという問題点がある。
【0004】
そこで工程短縮のために、アセトン水添によって得られたイソプロパノールを脱水せずにそのままアルキル化剤として使用しベンゼンと反応させてクメンを製造する方法が提案されている(特許文献2〜4参照)。
【特許文献1】特開平2−174737号公報
【特許文献2】特開平2−231442号公報
【特許文献3】特開平11−35497号公報
【特許文献4】特表2003−523985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体酸触媒存在下で、アルコールをアルキル化剤として使用しアルキル化芳香族化合物を製造する方法では、アルコールが直接芳香族炭化水素をアルキル化する反応の他に、アルコールの脱水により得られたオレフィンによる芳香族炭化水素のアルキル化反応も同時に起こる。
【0006】
また、ケトンの水添反応では、通常転化率を高めるためにケトンに対して過剰モルの水素をフィードする。このため、過剰モルの水素をフィードしたことによる余剰水素や生成したアルコールに溶解した水素が、アルコールによる芳香族化合物のアルキル化工程においても存在する可能性がある。
【0007】
よって、ケトンの水添反応により得られたアルコールをアルキル化剤として用いて、アルキル化芳香族化合物を製造する場合には、ケトンの水添反応に用いる触媒が触媒破砕などにより微粉化され、微粉化した触媒がアルキル化工程に流れ込み、水素と水添触媒が共存状態となり、アルコールの脱水により得られたオレフィンを水添しパラフィンを副生する可能性が考えられる。
【0008】
このパラフィンはアルキル化剤としては働かないためにアルキル化芳香族化合物の生成には寄与せず、アルキル化芳香族化合物の生産性を著しく低下させる原因となる。
上述のような不都合は、ケトンの水添反応により得られたアルコールをアルキル化剤として使用してアルキル化芳香族化合物を得る場合には解決しなければならない課題である

【0009】
本発明は、金属触媒存在下で、ケトンの水添反応を行い、得られたアルコールをアルキル化剤として用い、芳香族炭化水素と反応させるアルキル化芳香族化合物の製造方法であって、効率良くクメン等のアルキル化芳香族化合物を製造するための方法を提供することを目的とする。また、該方法によってクメンを得る工程を有するフェノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ケトンの水添反応を行う工程と、アルコールによる芳香族化合物のアルキル化反応を行う工程との間にフィルターを設置することで、水添触媒として作用する金属触媒と水素とオレフィンとが共存することを防止し、副生パラフィンを抑制できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係るアルキル化芳香族化合物の製造方法およびフェノールの製造方法は以下の(1)〜(8)に関する。
(1) 銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒の存在下で、ケトンの水添反応を行い、アルコールを含む反応液を得る工程(工程1)と、
前記反応液をフィルターに通液した後に、固体酸触媒存在下で、反応液中のアルコールによる芳香族化合物のアルキル化反応を行う工程(工程2)とを有することを特徴とするアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0012】
(2) 金属触媒が第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含むことを特徴とする(1)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0013】
(3) 固体酸触媒がゼオライトであることを特徴とする(1)または(2)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(4) ゼオライトが10〜12員環構造を有するゼオライトであることを特徴とする(3)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0014】
(5) 金属触媒と、固体酸触媒とが、別々の反応器に充填されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(6) 金属触媒と、固体酸触媒とが、同一の反応器に充填されており、
上流側に金属触媒からなる触媒層が形成されており、下流側に固体酸触媒からなる触媒層が形成されており、
金属触媒からなる触媒層と、固体酸触媒からなる触媒層との間に、フィルターが存在することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【0015】
(7) 芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
(8) 下記工程(a)〜工程(e)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)、(d)を(7)に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とするフェノールの製造方法。
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンの水添反応によりイソプロパノー
ルを得る工程
工程(d):上記工程(c)で得られるイソプロパノールを用いて、ベンゼンとイソプロパノールとを反応させてクメンを合成する工程
工程(e):上記工程(d)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法によれば、アセトン等のケトンの水添反応により得られたアルコールとベンゼン等の芳香族化合物とからクメン等のアルキル化芳香族化合物を、パラフィンの副生が抑制された工業上、実用的な方法で得ることができる。しかも得られるクメンは、プロピレンとベンゼンとから得られるクメンと比べ何ら品質的に問題が無い。
【0017】
本発明のフェノールの製造方法は、上記アルキル化芳香族化合物の製造方法を適用することにより、従来のクメン法の工程数を増やすことなく、フェノールの製造の際に併産するアセトンを再使用することが可能となる。よって本発明のフェノールの製造方法はプロセス上および経済上著しく優位にフェノールを生産することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒の存在下で、ケトンの水添反応を行い、アルコールを含む反応液を得る工程(工程1)と、前記反応液をフィルターに通液した後に、固体酸触媒存在下で、反応液中のアルコールによる芳香族化合物のアルキル化反応を行う工程(工程2)とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、前記工程1および工程2が、別々の反応器で行われてもよく、一つの反応器で行われてもよい。すなわち金属触媒と、固体酸触媒とが、別々の反応器に充填されていてもよく、金属触媒と、固体酸触媒とが、同一の反応器に充填されていてもよい。
【0020】
なお、本発明において、金属触媒と、固体酸触媒とが、別々の反応器に充填されている場合には、少なくとも金属触媒が充填されている反応器の下部、固体酸触媒が充填されている反応器の上部または、金属触媒が充填されている反応器と固体酸触媒が充填されている反応器との間の配管等にフィルターが存在しており、前記二箇所以上にフィルターが存在していてもよい。また、金属触媒と、固体酸触媒とが、同一の反応器に充填されている場合には、上流側に金属触媒からなる触媒層が形成されており、下流側に固体酸触媒からなる触媒層が形成されており、金属触媒からなる触媒層と、固体酸触媒からなる触媒層との間に、フィルターが存在する。
【0021】
本発明に用いるフィルターの種類は、反応温度域や原料による形状変化や劣化を伴わないフィルターであれば特に限定はなく、好ましくはガラス繊維、セルロース繊維、またはシリカ繊維からなるフィルターが選択される。また、本発明においては、複数のフィルターを用いてもよく、複数のフィルターを用いる場合には、各フィルターは、同一の素材でも、異なる素材でもよく、保留粒子径は同一でも異なっていてもよい。
【0022】
本発明に用いるフィルターの保留粒子径としては、特に限定はないが、アルキル化芳香族化合物の製造時における圧損と、ケトンの水添反応に用いる金属触媒の微粉の捕捉の観点から、好ましくは保留粒子径が0.1〜10μmであるフィルターが用いられる。
【0023】
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法において、前記芳香族化合物としては、ベンゼン、ナフタレン等が挙げられ、中でもベンゼンが好適であり、前記ケトンとしては、
アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられ、中でもアセトンが好適である。
【0024】
本発明に用いる金属触媒は、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒からなる。金属触媒としては、該金属元素の単体そのものでもよく、ReO2、Re27、NiO、CuOなどの金属酸化物や
、ReCl3、NiCl2、CuCl2などの金属塩化物や、Ni−Cu、Ni−Cu−C
rなどのクラスター金属であってもよい。
【0025】
また金属触媒には、第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含んでいてもよい。
【0026】
なお、上記元素としては具体的にはZn、Cd、Hg、B、Al、Ga、In、Tl、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Ptが挙げられる。
中でも、金属触媒として、銅に加えて、Znや、Alを含有すると、触媒寿命の延長効果の点で好適である。
【0027】
銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒としては、ケトンが有するカルボニル基を水添し、アルコールが得られるものであれば良く特に制限はないが、いわゆる水添触媒として市販されているものがそのまま使用可能であり、種々の担体に担持したもの等が市場で入手でき、これらを用いてもよい。例えば、5%Reカーボン触媒、5%Reアルミナ触媒、シリカアルミナ担持ニッケル触媒、及び列記した種類の担持量を、1%や0.5%へ変えたもの等が挙げられる。担体としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシア、シリカマグネシア、ジルコニア、カーボンのうちの少なくとも1つを選択することが好ましい。
【0028】
銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属成分の形状は特に制限は無く、球状・円柱状・押し出し状・破砕状いずれでもよく、またその粒子の大きさも、0.01mm〜100mmの範囲のもので反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0029】
本発明に用いる固体酸触媒は、酸としての機能を持つ触媒であり、一般的に固体酸と呼ばれるものであれば良く、ゼオライト、シリカアルミナ、アルミナ、硫酸イオン担持ジルコニア、WO3担持ジルコニアなどを用いることができる。
【0030】
特に、ケイ素とアルミニウムから構成される無機の結晶性多孔質化合物であるゼオライトは耐熱性や目的とするアルキル化芳香族化合物(クメン)の選択率の面から本発明に好適な固体酸触媒である。
【0031】
アルキル化芳香族化合物として、クメンを製造する際には、ゼオライトとしては、クメンの分子径と同程度の細孔を有する、10〜12員環構造を有するゼオライトが好ましく、β型、MCM−22が特に好ましい。
【0032】
12員環構造を有するゼオライトの例としては、Y型、USY型、モルデナイト型、脱アルミニウムモルデナイト型、β型、MCM−22型、MCM−56型などが挙げられ、とくにβ型、MCM−22型、MCM−56型が好適な構造である。
【0033】
これらゼオライトのケイ素とアルミニウムの組成比は2/1〜200/1の範囲にあれば良く、特に活性と熱安定性の面から5/1〜100/1のものが好ましい。さらにゼオ
ライト骨格に含まれるアルミニウム原子を、Ga、Ti、Fe、Mn、Bなどのアルミウム以外の金属で置換した、いわゆる同型置換したゼオライトを用いることも出来る。
【0034】
固体酸触媒の形状は特に制限は無く、球状・円柱状・押し出し状・破砕状いずれでもよく、またその粒子の大きさも、例えば0.01mm〜100mmの範囲のものを用いることができ、反応器の大きさに応じ選定すればよい。
【0035】
本発明を実施するに際して、その方法は固体触媒を用いた連続流通式の方法で実施する。その際、液相、気相、気−液混合相の、いずれの形態においても実施することが可能である。触媒の充填方式としては固定床反応器が選択され、反応方式も気液並流・向流のどちらでもよく、そのフロー方向も下降流・上昇流のどちらでも構わない。
【0036】
クメンの生産量を維持するために、反応器を2つまたは3つ並列に並べ、1つの反応器が再生している間に、残った1つまたは2つの反応器で反応を実施するメリーゴーランド方式をとっても構わない。さらに反応器が3つある場合、他の反応器2つを直列につなぎ、生産量の変動を少なくする方法をとっても良い。
【0037】
本発明における原料の供給速度は高生産性を達成するために、前記工程1および工程2を別々の反応器で行う場合には、工程1を行う金属触媒が充填された反応器における触媒重量に対する液重量基準空間速度(WHSV)は通常100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは20以下であり、工程2を行う固体酸触媒が充填された反応器における触媒重量に対する液重量基準空間速度(WHSV)は通常50以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。また、工程1および2を一つの反応器で行う場合には、該反応器における触媒重量に対する液重量基準空間速度(WHSV)は通常50以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。また、前記液重量基準空間速度(WHSV)は通常1以上である。
【0038】
上記範囲では、高収率でクメン等のアルキル化芳香族化合物を製造することができる。
なお、本発明において、金属触媒と固体酸触媒との量比は特に限定はされないが、通常は金属触媒に含まれる銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素の重量と固体酸触媒との重量比(金属元素/固体酸触媒)が、通常は0.001〜10、好ましくは0.01〜2である。
【0039】
本発明に用いる芳香族化合物は、原理的には、ケトンと等モル以上あればよく、分離回収の点から、ケトンに対して、1〜15倍モルであることが好ましく、1〜5倍モルであることがより好ましい。
【0040】
また、本発明に用いる水素は、分離回収の点から、ケトンに対して、1〜20倍モルであることが好ましく、1〜10倍モルであることがより好ましい。
本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法を固定床反応器中で行う場合には通常、該反応器内の反応温度は、100〜300℃の範囲、好ましくは120〜250℃の範囲である。また、反応圧力は0.5〜10MPaG、好ましくは2〜5MPaGの範囲である。
【0041】
なお、本発明のアルキル化芳香族化合物の製造方法としては、以下の二つの態様を例示することができる。
第1の態様は、前記アルキル化芳香族化合物の製造方法において、前記ケトンの水添反応を芳香族化合物存在下で行い、前記アルコールを含む反応液が、アルコールおよび芳香族化合物を含む反応液であり、前記アルコールによる芳香族化合物のアルキル化反応に用いられる芳香族化合物が、反応液中に含まれる芳香族化合物である態様である。すなわち
第1の態様のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒および芳香族化合物の存在下で、ケトンの水添反応を行い、アルコールおよび芳香族化合物を含む反応液を得る工程(工程1)と、前記反応液をフィルターに通液した後に、固体酸触媒存在下で、反応液中のアルコールにより、反応液中の芳香族化合物のアルキル化反応を行う工程(工程2)とを有する。
【0042】
第1の態様においては、工程1を芳香族化合物の存在下でケトンの水添反応を行うことを特徴としている。すなわち第1の態様は、芳香族化合物、ケトンおよび水素が工程1に導入される。
【0043】
また、工程1の時点で芳香族化合物が導入されるため、第1の態様においては、金属触媒と、固体酸触媒とが、同一の反応器に充填されていてもよい。この場合には同一の反応器内で、工程1と工程2が行われる。
【0044】
第2の態様は、前記アルキル化芳香族化合物の製造方法において、前記工程1を芳香族化合物の存在しないあるいはほとんど存在しない条件で行い、工程1で得られた反応液と芳香族化合物とを混合し、工程2を行う態様である。
【0045】
すなわち第2の態様のアルキル化芳香族化合物の製造方法は、銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒の存在下で、ケトンの水添反応を行い、アルコールを含む反応液を得る工程(工程1)と、前記反応液をフィルターに通液した後に、固体酸触媒存在下で、反応液中のアルコールにより、芳香族化合物のアルキル化反応を行う工程(工程2)とを有し、反応液をフィルターに通液する前または、後に反応液と芳香族化合物とを混合することを特徴とする。
【0046】
本発明のフェノールの製造方法は、下記工程(a)〜工程(e)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)、(d)を前述のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とする。なお、フェノールの製造方法の工程(c)、(d)として、前述のアルキル化芳香族化合物の製造方法を実施する場合には、前記芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンである。
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンの水添反応によりイソプロパノールを得る工程
工程(d):上記工程(c)で得られるイソプロパノールを用いて、ベンゼンとイソプロパノールとを反応させてクメンを合成する工程
工程(e):上記工程(d)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程
本発明のフェノールノ製造方法は、工程(a)および(b)においてクメンからフェノールを生成し、副生するアセトンを工程(c)でイソプロパノールに水素化し、工程(d)において、クメンを生成し、工程(e)において、工程(d)で得られたクメンを工程(a)に循環するため、理論上はアセトンを反応系外から導入する必要がなく、コストの面でも優れている。なお実際のプラントにおいては、アセトンを100%回収することは困難であり、少なくとも減少した分のアセトンは新たに反応系に導入される。
【0047】
また本発明のフェノールの製造方法においては、種々の改良法を提供しても問題ない。
【実施例】
【0048】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって
限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〕
内径:38.4mm、長さ:4800mmのステンレス製縦型反応管に、反応管上部より金属充填物であるヘリパック(東京特殊金網):100g、固体酸触媒としてβゼオライト触媒(φ1.5mmのペレット状、東ソー製):1806g(2895mm)、フィルターとしてガラス繊維ろ紙(桐山製作所、φ40mm、保留粒子径 0.8μm)を25枚、金属触媒としてCu-Zn触媒(φ3mm×H3mmの円柱状、ズードケミー製、元素質量%Cu 32〜35%、Zn 35〜40%、Al 6〜7%、ZnのCuに対する原子比1.0〜1.2)):885g(602mm)、ヘリパ
ック:100gを順番に充填した。
【0050】
充填後、イソプロパノール:24L/hを反応器上部より流し、1時間触媒洗浄を実施。洗
浄終了後、反応器内を3MPaG、予熱温度:100℃にて水素:630NL/h流して触媒活性化処理
を3時間行った。
【0051】
反応器にベンゼン:7.7L/h、アセトン:0.61L/h、水素:348NL/hを送り込み、金属触媒から形成された層の入口温度を181℃、ゼオライト触媒から形成された層の入口温度を175℃に保った。
今回の反応条件は、プロパン生成有無を明確にするために、低いクメン類選択率での条件に設定した。反応成績は表1に示す。これより、クメン選択率:34.7%、クメン類選択率:35.7%、プロパン選択率は1.9%、プロピレン選択率:41.8%であり、プロパン副生
が抑制されていることが分かる。
【0052】
また、反応終了後、ゼオライト触媒へのCu-Zn触媒の混入の有無を確かめるためにゼオ
ライト中の金属(Cu、Zn)の含有量を分析した。分析箇所は、ゼオライト層上部より0、300、1000、2800mmの4点である。
【0053】
分析方法としては、まずゼオライトに希硫酸及びフッ化水素酸を加えて加熱処理後、灰化した。次いで灰化したゼオライトを、硫酸水素カリウムで融解後、希硝酸に溶解し、純水にて定容後、ICP発光分析法(装置:バリアン社 VISTA-MPX)にて金属成分の定量を行
った。分析結果を表2に示す。これより、ゼオライト触媒へのCu-Zn触媒の混入はほぼ無
く、フィルターによる金属触媒(Cu-Zn触媒)の混入防止効果が確認出来た。
【0054】
〔比較例1〕
金属触媒(Cu-Zn触媒)と固体酸触媒(ゼオライト触媒)を1つの反応器に層状に充填し
、両触媒間にフィルター(ガラス繊維ろ紙)を挿入せずに評価した。
【0055】
実施例1に記載した実験装置及び実験条件において、触媒間にフィルターを挿入しない
以外は実施例1と同様にして触媒試験を実施した。反応成績は表1に示す。これより、ククメン選択率:30.7%、クメン類選択率:33.2%、プロパン選択率は57.2%、プロピレン選択率:5.5%であり、プロパンが多量に副生した。
【0056】
また、ゼオライト触媒の金属含有量分析の結果を表2に示す。これより、上部ほど金属含有量が多く、最下部においても30〜40ppmの金属が検出された。これにより、金属触媒
が、アルキル化反応を行う工程2に混入するとプロパンが副生し反応成績を悪化させることが証明された。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、ニッケル、コバルトおよびレニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む金属触媒の存在下で、ケトンの水添反応を行い、アルコールを含む反応液を得る工程(工程1)と、
前記反応液をフィルターに通液した後に、固体酸触媒存在下で、反応液中のアルコールによる芳香族化合物のアルキル化反応を行う工程(工程2)とを有することを特徴とするアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
金属触媒が第IIB族元素、IIIA族元素、VIB族元素およびVIII族元素(但し、ニッケルとコバルトとを除く)からなる群から選択される少なくとも一種の元素をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
固体酸触媒がゼオライトであることを特徴とする請求項1または2に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
ゼオライトが10〜12員環構造を有するゼオライトであることを特徴とする請求項3に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
金属触媒と、固体酸触媒とが、別々の反応器に充填されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
金属触媒と、固体酸触媒とが、同一の反応器に充填されており、
上流側に金属触媒からなる触媒層が形成されており、下流側に固体酸触媒からなる触媒層が形成されており、
金属触媒からなる触媒層と、固体酸触媒からなる触媒層との間に、フィルターが存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
芳香族化合物がベンゼンであり、ケトンがアセトンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
下記工程(a)〜工程(e)を含むフェノールの製造方法において、工程(c)、(d)を請求項7に記載のアルキル化芳香族化合物の製造方法に従って実施することを特徴とするフェノールの製造方法。
工程(a):クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドへ変換する工程
工程(b):クメンヒドロペルオキシドを酸分解させてフェノールとアセトンとを得る工程
工程(c):上記工程(b)において得られるアセトンの水添反応によりイソプロパノールを得る工程
工程(d):上記工程(c)で得られるイソプロパノールを用いて、ベンゼンとイソプロパノールとを反応させてクメンを合成する工程
工程(e):上記工程(d)で得られるクメンを工程(a)へ循環する工程

【公開番号】特開2010−13377(P2010−13377A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173236(P2008−173236)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】