説明

アルキル化芳香族炭化水素製造のための触媒および方法

本発明は、1.5以上のモル比[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]に相当するルイス酸部位およびブロンステッド酸部位分布に特徴を有する、ベータタイプ結晶構造を有する新規なゼオライトに関連する。この新規なゼオライトは、芳香族化合物のアルキル化および/またはトランスアルキル化によるアルキル化芳香族炭化水素の製造方法において有用である。また、該新規なゼオライトの製造方法も本発明の目的である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、ベータタイプの結晶構造を有し、酸部位類型の特定の分布に特徴を有する新規のゼオライトに関する。この新規なゼオライトは、芳香族化合物のアルキル化および/またはトランスアルキル化によるアルキル化芳香族炭化水素の製造方法において有用である。とりわけ、該ゼオライトは、クメンおよびエチルベンゼンを得るための、それぞれ、プロピレンまたはエチレンによるベンゼンのアルキル化およびポリイソプロピルベンゼンまたはポリエチルベンゼンによるベンゼンのトランスアルキル化において有用である。また、該新規ゼオライトの製造方法も本発明の目的である。
【0002】
(背景技術)
芳香族基質のアルキル化およびトランスアルキル化触媒としてのベータゼオライトの使用は、従来公知である。工業的応用の点での最適の結果は、例えば、EP 432,814号に記載されているようにベータタイプ構造を有するゼオライトを使用する、とりわけ、EP 687,500号およびEP 847,802号に記載されている内容に従うベータゼオライトを含有する触媒を使用するクメンおよびエチルベンゼンの合成において得られている。
ゼオライト触媒に基づくクメンおよびエチルベンゼンの工業的製造方法は、通常、アルキル化区分(モノアルキル化生成物がある種のポリアルキル化副生成物画分および不純物と一緒に得られる)の存在並びにトランスアルキル化区分(ポリアルキル化副生成物を回収しモノアルキル化生成物および不純物を再生させる)の存在に特徴を有する。
アルキル化区分におけるモノアルキル化生成物に対する選択性(該選択性は、その後のトランスアルキル化区分において回収すべき低画分のポリアルキル化生成物を有するためには、可能な限り高くなければならない)は、不純物、とりわけ、沸点がクメンの製造の場合におけるn-プロピルベンゼンまたはエチルベンゼンの製造の場合におけるキシレンのようなモノアルキル化生成物の沸点と極めて近い不純物の低生成量と共に、これらの方法において重要な役割を有する。
また、クメンの場合におけるオリゴマー、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン類またはエチルベンゼンの場合におけるジフェニルエタンのような他の不純物生成の低減も、クメンおよびエチルベンゼンの工業的生産において重要な役割を有する。
【0003】
ベータタイプ結晶構造および特定の酸性度特性を有し、モノアルキル化生成物に対するより高めの選択性並びに不純物のより低い生成を達成し得る新たなゼオライト物質が見出されてきている。
ベータゼオライトは、米国特許第3,308,069号において始めて開示され、下記の一般的化学組成を有する:
(x/n) M・(1.0-x) TEA・AlO2・y SiO2・w H2O (I)
(式中、yは、5〜100であり;wは、4以下であり;Mは、例えば、ナトリウムのような金属イオンであり;nは、金属イオンMの原子価であり、xは、0〜1範囲の値を有し得;TEAは、テトラエチルアンモニウムイオンである)。
上記金属イオンが、例えば、硝酸アンモニウムとのイオン交換によってゼオライトから除去され得ることは知られている。ゼオライトは、いわゆるその酸形において、その後のカ焼後に得られる。
ブロンステッド部位(プロトン部位)として分類されるベータゼオライト中の種々の種類の酸部位およびルイス部位(非プロトン部位)として分類し得る酸部位の存在は、例えば、Zeolites, 1990, 10, 304, V. L. Zholobenko et al;および、J. Catal, 1998, 180, 234, P.J. Kunkeler et al に記載されている。
ブロンステッドおよびルイス酸部位の定性的および定量的測定は、赤外線分光分析によって、プローブ分子(これらの分子のうちではピリジンが最も頻繁に使用されている)の助けにより、例えば、CA. EmeisによりJournal of Catalysis, 1993, 141, 347において記載されているようにして実施し得る。
【0004】
一般的なゼオライト中の、とりわけ、ベータゼオライト中の酸部位の量および性質(ブロンステッドまたはルイス)は、イオン交換処理、蒸気処理、酸による処理または熱処理からなるゼオライト物質において行なった合成後操作によって変化し得ることは知られている。
これらの処理は、一般に、ゼオライトの結晶格子中に存在するアルミニウム構造体を分解すること、アルミニウム構造体を格子外位置に再配置させること、または上記アルミニウムをゼオライトから除去して、例えば、高Si/Al比を有するゼオライトを得ることを指向している。
脱アルミニウム化処理は、触媒性能を増強するための、主要且つ最も広く使用されるタイプのゼオライトにおける合成後処理の1つの実際的な代表である。
Zeolites 1990, 10, 304において、V. L. Zholobenko等は、蒸気を使用する合成後脱アルミニウム化処理を記載しており、その結果として、n-ヘキサンのクラッキングにおけるHZSM-5ゼオライトの触媒活性が著しく改良されたことを立証している。HZSM-5ゼオライトの性能におけるこの改良は、おそらくは蒸気による上記脱アルミニウム化処理の効果によって生じた超構造アルミニウムに基づく、ルイス酸部位の存在に由来し得る。一方、他の場合において、上述した処理のような合成後処理によって生じさせたルイス酸部位の存在は、触媒を使用する特定の化学反応次第でマイナスであることが判明し得ている。
ベータゼオライトの場合、例えば、ルイス部位の存在は、Appl. Catal. A, 1999, 185, 123, Baburek J. et al に記載されているように、n-ブタンの異性体化反応における触媒性能においてはマイナスである。
ベータゼオライトに対して行なう脱アルミニウム化合成後処理は、例えば、米国特許第5,310,534号 (使用するベータゼオライトは、非カ焼形であり、合成に由来する有機化合物を依然として含有している)において、さらにまた、EP 0690024号 (ベータゼオライトは、対照的に、カ焼形、即ち、合成に由来する有機化合物を排除した形にある)において記載されている。
J. Catal., 1998, 180, 234 P. J. Kunkeler et al は、例えば、ベータゼオライトに対して行なう制御された条件下でのカ焼による合成後処理を記載しており、その結果として、ケトン類の還元のための特定のメールウェイン・ポンドルフ・バーレイ (Meerwein-Ponndorf-Verley) 反応におけるベータゼオライトの触媒特性を増強し得るルイス酸部位を形成させている。
一連の通常のイオン交換、カ焼および625〜675℃範囲の温度での活性化処理によって調製し、それによって、n-ブタンのクラッキング反応における活性の上昇が得られるベータゼオライトは、米国特許第5,116,794号に記載されている。
【0005】
(発明の開示)
本出願人は、今回、如何なる合成後処理も行わないで、ゼオライト表面上に酸部位類型の特定の分布に特徴を有するベータゼオライトの合成が可能であり、この分布により、芳香族化合物のアルキル化および/またはトランスアルキル化によるアルキル化芳香族化合物の調製方法における増強された触媒性能を得ることができることを見出した。
従って、本発明の第1の目的は、1.5以上のモル比[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]に相当するルイス酸部位(非プロトン酸部位)およびブロンステッド酸部位(プロトン酸部位)分布に特徴を有する、ベータゼオライトに関する。
本発明のゼオライトの結晶格子におけるモル比SiO2/Al2O3は、10〜30、好ましくは10〜25範囲内で変動し得る。
Na+イオンの含有量は、好ましくは、カ焼後に得られるその酸形のゼオライトの質量に対して200質量ppm未満である。
ブロンステッドおよびルイス酸部位の定性的および定量的測定は、本発明の目的である当該物質において、CA. EmeisによるJournal of Catalysis 1993, 141, 347に記載されているようにして、プローブ分子としてのピリジンの助けによる赤外線分光分析によって実施した。
【0006】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明物質のルイスおよびブロンステッド酸部位の特定の分布特性は、芳香族化合物のアルキル化およびトランスアルキル化反応において当該物質の最良の性能を創出する。とりわけ、アルキル化芳香族炭化水素の調製反応において使用するこの物質は、モノアルキル化生成物に対するより高い選択性を得ること、回収不能なポリアルキル化副生成物の生成低減、臨界的副生成物の生成低減、並びにコークスの形成に基づく触媒の失活速度の低減を可能にする。
ベンゼンとプロピレンから出発するクメンの工業的合成の特定の場合においては、本発明の目的である新規のゼオライト物質は、固形酸触媒、とりわけゼオライト触媒の失活の原因となる重質有機生成物、いわゆるコークスの形成において一般にプレカーサーの役割の起因となるプロピレンオリゴマーの形成を低めるのを可能にする。本発明の目的であるゼオライト物質のこの特性は、クメンの工業的合成におけるもう1つの極めて重要な結果、即ち、n-プロピルベンゼン不純物形成の低減を得るための基本である。ベンゼンとプロピレンから出発するクメン合成におけるn-プロピルベンゼンの形成は、実際には、反応温度の上昇により通常は好ましく、一方、プロピレンオリゴマーの形成は、逆に、温度の低下により好ましい。本発明のゼオライト物質の使用によれば、低めの温度での反応を、プロピレンオリゴマー形成の低減により、結果としてのn-プロピルベンゼンの低めの形成の利点でもって、触媒の耐久性を損なうことなく実施することが可能である。
本発明のゼオライト物質は、ルイス酸部位およびブロンステッド酸部位間の特定のモル比の形成を決定する適切な方法によって製造する。
【0007】
従って、本発明のさらなる目的は、1.5以上のルイスタイプおよびブロンステッドタイプ酸部位の量間モル比に特徴を有するベータゼオライトの調製方法に関する。
米国特許第3,308,069号は、下記のモル比でケイ素およびアルミニウム源をテンプレート剤のテトラエチル水酸化アンモニウム(TEAOH)と一緒に含有する反応混合物から出発する、水性環境下での熱水合成から実質的になるベータゼオライトの製造手順を記載している:
10〜200範囲の[SiO2]/[Al2O3]、
0.1〜1.0範囲の[TEAOH]/[SiO2]、
20〜75範囲の[H2O]/[TEAOH]、
0.0〜0.1範囲の[Na2O]/[TEAOH]。
上記試薬混合物を、式(I)の結晶生成物が得られるまで、75〜200℃範囲の温度に維持している。
今回、驚くべきことに、当該物質の酸性特性、とりわけルイスおよびブロンステッド酸部位間のモル比、即ち、[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]比を、熱水結晶化に供すべき試薬混合物の組成を適切に選択することによって予め決定することができることを見出した。
本発明によれば、ベータゼオライトを、アルミニウム源としての、アルミン酸ナトリウムおよびアルミニウムアルコキシドまたはアルミニウムアルコキシドの代替物としてのアルミニウム無機塩、およびコロイド状シリカ、ケイ酸テトラアルキルおよびアモルファスシリカから選ばれたシリカ源からなり、テンプレート剤としてのテトラエチル水酸化アンモニウムを含む試薬混合物から出発して、水性環境中で合成する。
上記各化合物を含有する試薬混合物は、下記のモル比に特徴を有する:
[SiO2]/[Al2O3] = 10〜30、好ましくは10〜25、
[TEAOH]/[SiO2] = 0.10〜0.35、好ましくは0.15〜0.30
[H2O]/[SiO2] = 7〜20、好ましくは8〜15
[Na2O]/[TEAOH] 0.1以上。
【0008】
本発明の目的においては、上記の各パラメーター以外に、0.68よりも高く1未満でなければならない合成混合物中での[Na]/[Al]モル比の厳格な管理は必要である。このパラメーターは、後記の実施例において示すように、本発明の目的であるベータゼオライトの合成の成功においてとりわけ重要である。0.68以下の[Na]/[Al]モル比においては、実際には、ベータゼオライトは得られず、結晶質の代りにむしろ非晶質の最終生成物が得られ、一方、1.00以上の[Na]/[Al]モル比においては、良好に結晶化されたベータゼオライトが得られるが、常に1.5未満のルイスおよびブロンステッド酸部位間のモル比値に特徴を有する。
ケイ酸テトラアルキルは、テトラメチル-、テトラエチル-またはテトラプロピル-シリケートから選択し得る。
アルミニウムアルコキシドは、好ましくは、アルミニウムイソプロピレートまたはターブチレートである。
上記アルミニウム塩は、硝酸アルミニウムまたは硫酸アルミニウムであり得る。
試薬混合物からのゼオライトの結晶化は、150〜190℃、好ましくは165〜180℃範囲の温度の熱水条件下に、10〜240時間、好ましくは18〜150時間範囲の時間で実施する。
そのようにして得られる懸濁液またはスラリーを濾過する。結晶化終了時に得られた懸濁液は、濾過する前に、必要に応じて、例えば、酢酸、塩酸、硝酸、ギ酸、プロピオン酸またはシュウ酸によって、3〜6範囲のpHに達するまで酸性化し得、その後、水で1〜10範囲の比(添加水の容量)/(スラリー容量)に希釈する。
濾過により得られた固形生成物を水中に再び分散させ、アンモニウム塩、例えば、酢酸アンモニウムとの当該技術の既知の方法に従うイオン交換処理に供して、アンモニウム/アルキルアンモニウム形のゼオライトを得る。該操作の終了時に、そのようにして得られた固形物を濾過し、100〜200℃範囲の温度で8〜16時間乾燥し、その後、空気中で、450〜650℃範囲の温度で4〜8時間カ焼する。このようにして得られたベータゼオライトは、1.5以上のL/B [ルイス部位]/[ブロンステッド部位]モル比を有する。
【0009】
また、本発明の手順に従って得られたベータゼオライトは、寸法が一般に300Å未満であり、好ましくは、300Å未満の寸法を有する少なくとも90%の晶子を含む晶子のサブミクロン凝集体からなることも判明している。この特性は、本発明の化学反応目的においてベータゼオライトの触媒活性に有利に作用する。
固定床触媒反応器において使用するのに適する、本発明の目的であるベータゼオライトを含有する触媒は、ベータゼオライトの活性相と無機バインダーから出発して調製する。
無機バインダーは、上記ゼオライトに対して80:20〜5:95、好ましくは70:30〜10:90で変動する質量割合のアルミニウム、ケイ素または酸化マグネシウム、天然クレーまたはこれらの混合物から選択する。また、上記混合物は、素練り促進剤および可塑剤も含有し得る。調製条件および手順は、当業者にとって全て公知であり、触媒は、ペレット、錠剤、円筒状物または当該目的に適する任意の他の形状で製造し得る。アンモニウム/アルキルアンモニウム形のベータタイプゼオライトを特定の手順に従い無機バインダーによって結合させている、EP 847,802号に記載されているベータゼオライト系触媒の調製手順は、とりわけ好ましい:この場合、得られた触媒は、固定床反応器における使用に適し得、本発明のベータゼオライトを含有し、さらに、少なくとも0.80ml/gに等しい総容積を有し且つ100Åよりも大きい半径を有する少なくとも25%の孔画分からなる超ゼオライト有孔率(即ち、メソ有効率を触媒組成物のマクロ有孔率に加算し、従って、ゼオライトによるミクロ有孔率の寄与を除外することによって得られた有孔率)に特徴を有する。
【0010】
本発明の目的であるゼオライト物質の特定の局面は、芳香族化合物のアルキル化およびトランスアルキル化反応における、とりわけ、それぞれクメンおよびエチルベンゼンを得るための、プロピレンおよびエチレンによるベンゼンのアルキル化反応並びにポリイソプロピルベンゼンおよびポリエチルベンゼンによるベンゼンのトランスアルキル化反応における選択性に関して観察された予想外の挙動からなる: 本発明の目的であるベータゼオライトおよび該ゼオライトに由来する触媒は、その総アルミニウム含有量にもかかわらず、回収不能なポリアルキル化副生成物および他の臨界的副生成物形成の低減、および触媒の失活速度の低減でもってモノアルキル化に対しより選択性であることが判明している。
従って、本発明のさらなる目的は、1.5以上のルイス酸部位(L)の量とブロンステッド酸(B)の量間のモル比に特徴を有するベータゼオライトを含有する触媒の存在下に実施する、芳香族炭化水素、好ましくはベンゼンのエチレンまたはプロピレンによるアルキル化方法に関する。
芳香族化合物のアルキル化方法、とりわけ、クメンまたはエチルベンゼンを得るためのベンゼンのプロピレンまたはエチレンによるアルキル化反応は、それぞれ、当該技術状況において公知の内容に従い、通常100〜300℃範囲の反応器温度および通常1〜100バール範囲の反応圧で実施する。ベンゼンのプロピレンによるクメンへのアルキル化の場合、上記温度は、好ましくは150〜200℃、より好ましくは120〜180℃の範囲にある。
ベンゼンのエチレンによるエチルベンゼンへのアルキル化の場合は、反応器温度は、好ましくは150〜250℃、より好ましくは170〜230℃の範囲である。
プロピレンによるベンゼンアルキル化、さらにまたエチレンによるベンゼンアルキル化の場合双方における反応器圧は、好ましくは、反応を少なくとも部分的に液相の条件下で実施するように選定し、従って、反応器圧は、好ましくは、10〜50バール範囲にある。
芳香族化合物と反応に供給するオレフィン間のモル比は、通常1〜30、好ましくは2〜15範囲である。
【0011】
上記方法は、バッチ法式、半連続または連続で、当該技術状況において通常公知の内容に従う幾つかのタイプの反応器において実施するが、好ましくは、直列の1基以上の固定床触媒反応器において連続で実施する。この場合、空間速度(WHSV;触媒中に含ませたゼオライト質量のみを参照しての、1時間毎の触媒kg当りの供給試薬混合物のkgで表す)は、通常0.1〜20hrs-1、好ましくは0.5〜10hrs-1範囲である。また、上記方法を連続で実施する場合、必要に応じて冷却後の反応器自体への流出物の一部リサイクルを含む反応装置構造を使用することも可能である。
反応の発熱性を克服し、温度を選定した範囲内に維持することを担保するためには、触媒を各層内または1連の数基の反応器内に分布させ得、さらに、冷却を各触媒層間または各反応器間で実施し得る。各試薬は1連の触媒床または反応器の1番目に供給してもよく、或いは片方または双方の試薬の供給を個々の床または個々の反応器間で分割してもよい。
この操作手順は、最高反応温度のより効果的な抑制、並びに全体的に同じ比率の供給による芳香族化合物とアルキル化剤間の高めの比率の獲得を、当業者にとっては既知であるとおりのモノアルキル化生成物に対する選択性に関しての明白な利益でもって可能にし得る。
【0012】
本発明のさらなる目的は、1.5以上のルイス酸部位(L)量とブロンステッド酸部位(B)量とのモル比に特徴を有するベータゼオライトを含有する触媒の存在下に実施する、芳香族炭化水素の1種以上のポリアルキル化芳香族炭化水素によるトランスアルキル化方法に関する。芳香族炭化水素は、好ましくは、ベンゼンである。ポリアルキル化芳香族炭化水素は、好ましくは、芳香族炭化水素類、主としてジ-アルキル化炭化水素類の混合物である。さらにより好ましくは、ポリアルキル化芳香族炭化水素は、必要に応じてトリエチルベンゼンとの混合物中のジエチルベンゼン、および必要に応じてトリイソプロピルベンゼンとの混合物中のジイソプロピルベンゼンから選ばれる。ベンゼンのジエチルベンゼンおよび必要に応じてのトリエチルベンゼンによるトランスアルキル化並びにベンゼンのジイソプロピルベンゼンおよび必要に応じてのトリイソプロピルベンゼンによるトランスアルキル化は、とりわけ好ましい。
この反応は、100〜350℃範囲の温度で実施する。ベンゼンのポリイソプロピルベンゼンによるクメンへのトランスアルキル化の場合、温度は、好ましくは、150〜250℃の範囲である。ベンゼンのポリエチルベンゼンによるエチルベンゼンへのトランスアルキル化の場合は、温度は、好ましくは、180〜300℃の範囲である。反応圧は、好ましくは、反応を少なくとも部分的に液相の条件下で、より好ましくは液相条件下で実施するように選定し、従って、好ましくは、20〜50バールの範囲にある。上記方法は、好ましくは、固定床反応器内で連続で実施する。この場合、空間速度(WHSV;触媒中に含ませたゼオライト質量のみを参照しての、1時間毎の触媒kg当りの供給試薬混合物のkgで表す)は、通常0.5〜10hrs-1の範囲にある。トランスアルキル化反応への供給混合物中の芳香族炭化水素とポリアルキル化芳香族炭化水素の総計間のモル比は、1〜40、好ましくは3〜30で変動し得る。
【0013】
本発明のさらなる局面は、下記の工程を含むモノアルキル化芳香族炭化水素の増強製造方法である:
a) 芳香族炭化水素を、本発明の触媒目的物の存在下、アルキル化条件下にオレフィンと接触させる工程;
b) 得られた生成物を、芳香族炭化水素含有画分、モノアルキル化芳香族炭化水素含有画分、好ましくはジアルキル化芳香族炭化水素を主として含有するポリアルキル化芳香族炭化水素含有画分、および重質芳香族炭化水素画分として分離する工程;
c) 好ましくはジアルキル化芳香族炭化水素を主として含有する上記ポリアルキル化芳香族炭化水素含有画分を、本発明の触媒目的物の存在下、トランスアルキル化条件下に上記芳香族炭化水素と接触させる工程;
d) 工程c)で得られた生成物を工程b)において既に得られたのと同じ各画分として分離し、その後、上記芳香族炭化水素含有画分は、1部は工程a)に、1部は工程c)に、さらに上記ポリアルキル化芳香族炭化水素含有画分は工程c)にリサイクルさせる工程。
工程c)およびa)の流出物が送られる工程b)からのモノアルキル化芳香族炭化水素含有画分は、所望の生成物を示す。
アルキル化工程において使用するオレフィンは、好ましくは、エチレンおよびプロピレンから選択する。アルキル化およびトランスアルキル化工程において使用する芳香族炭化水素は、好ましくはベンゼンである。アルキル化生成物をベンゼンとプロピレンのアルキル化反応により取得する場合、工程(b)における第1画分は主としてベンゼンからなり、第2画分は主としてクメンからなり、第3の画分は主としてジイソプロピルベンゼンからなる。アルキル化生成物をベンゼンとエチレンのアルキル化反応により取得する場合、工程(b)における第1画分は主としてベンゼンからなり、第2画分は主としてエチルベンゼンからなり、第3画分は主としてジエチルベンゼンからなる。
【0014】
(実施例)
数例の具体的な実施例は、本発明のより一層の良好な理解のために、また本発明の実施態様として提示するが、如何なる形においても、本発明の範囲自体を限定するものとみなすべきではない。
実施例1
157.1gの水溶液中35質量%のテトラメチル水酸化アンモニウムを35.6gの脱塩水に添加する。その後、14.0gの54質量%Al2O3のアルミン酸ナトリウムと12.2gのアルミニウムイソプロピレートを、約70℃で絶えず撹拌しながら、透明溶液が得られるまで添加する。280.4gの40%SiO2のLudox HS 40コロイド状シリカをこの溶液に添加する。均質懸濁液が得られ、この懸濁液を、アンカー撹拌機を備えたAISI 316スチールオートクレーブ中に装入する。混合物を、170℃の熱水条件下に24時間結晶化せしめる。
この時点で、オートクレーブを冷却する。結晶化スラリーを、撹拌しながら、3N濃度の水溶液中の130gの酢酸で処理して、かなり濃密な懸濁液を得、この懸濁液に3リットルの脱塩水を添加する。このようにして得られた懸濁液を濾過する。その後、得られたゼオライトを、50gの酢酸アンモニウムを前以って溶解させている3リットルの脱塩水中に再分散させる。3時間後、固形物を濾過する。このようにして、ベータゼオライトの湿潤パネルをアンモニウム/アルキルアンモニウム形で得る。パネルを150℃で乾燥し、その後、550℃の空気中で5時間カ焼する。最終生成物をX線粉末回折法によって分析したところ、これらの結果から、生成物は、高純度のベータゼオライトからなっているようである。最終生成物の化学分析では、モル比[SiO2]/[Al2O3] = 17.2を示している。
【0015】
ブロンステッドおよびルイス酸部位の定性および定量測定は、C. A. Emeis in Journal of Catalysis, 1993, 141, 347に記載されているようにして、プローブ分子としてピリジンの助けにより、赤外線分光法によって実施する。手順は、下記のとおりである:
1.ベータゼオライトのサンプルを、IRスペクトル測定に適する錠剤に圧縮加工する。 2.サンプルを、高真空(1.3×10-3 Pa (10-5トール)下に、IRスペクトル測定に適するセル内に400℃で1時間置く。
3.このようにして処理したサンプルを、ピリジンと接触させる;ピリジン蒸気は、適切な液状供給物から上記セル内に、ピリジン蒸気圧と等しい圧力にて室温で15分間導入する。
4.過剰のピリジンを、サンプルから250℃で1時間真空化下に脱着させる。
5.IRスペクトルを記録し、ブロンステッド酸部位との相互作用により形成されたピリジニウムイオンに関連する1545cm-1でのバンド並びにルイス酸部位に吸着されたピリジンに関連する1455cm-1でのバンドの積分強度、いわゆるIを測定する。
酸部位Aの濃度(ミリモル/gゼオライト)は、下記の等式によって得られる:
A = I/(ε x S)
上記式中、Sは、錠剤のいわゆる“厚さ”であり、(mg/cm2)として表し;ε(cm/マイクロモル)は、モル消衰係数であり、値2.22および1.67(cm/マイクロモル)を、それぞれ、1545cm-1および1455cm-1でのバンドにおいて使用する (C. A. Emeis in Journal of Catalysis, 1993, 141, 347に記載された内容に従う)。
ルイス酸部位(L)の量とブロンステッド酸部位(B)の量間の、上記ゼオライトについて実施したIR分析によって示されたモル比は、2.0に等しい。
合成条件および関連結果は、下記の表1に示している。
【0016】
実施例2 (比較例)
157.1gの水溶液中35質量%テトラエチル水酸化アンモニウムを、299.5gの脱塩水に添加する。その後、20.8gの54質量%Al2O3のアルミン酸ナトリウムを添加し、混合物を、約70℃で、透明溶液が得られるまで撹拌下に維持する。280.4gの40%SiO2のLudox HS 40コロイド状シリカを溶液に添加する。均質懸濁液が得られ、この懸濁液を、アンカー撹拌機を備えたAISI 316スチールオートクレーブ中に装入する。ゲルを、170℃の熱水条件下で168時間結晶化せしめる。
その後、オートクレーブを冷却し、スラリーを実施例1に記載したように処理する。
最終生成物を粉末のX線回折分析に供したところ、得られた結果は、最終生成物が高純度ベータゼオライトからなることであった。最終生成物についての化学分析は、モル比[SiO2]/[Al2O3] = 16.4を示す。
実施例1に記載したようにして実施したIR分析によれば、上記ゼオライトは、1.2に等しいルイス酸部位(L)の量とブロンステッド酸部位(B)の量間のモル比を示す。
合成条件および関連結果は、下記の表1に示す。
【0017】
実施例3 (比較例)
157.1gの水溶液中35質量%テトラエチル水酸化アンモニウムを、36.3gの脱塩水に添加する。その後、14.2gの54質量%Al2O3のアルミン酸ナトリウムを添加し、混合物を、約70℃で、透明溶液が得られるまで撹拌下に維持する。280.4gの40%SiO2のLudox HS 40コロイド状シリカを溶液に添加する。均質懸濁液が得られ、この懸濁液を、アンカー撹拌機を備えたAISI 316スチールオートクレーブ中に装入する。ゲルを、170℃の熱水条件下で24時間結晶化せしめる。
その後、オートクレーブを冷却し、スラリーを実施例1に記載したように処理する。
最終生成物を粉末のX線回折分析に供したところ、得られた結果は、最終生成物が高純度ベータゼオライトからなることであった。最終生成物についての化学分析は、モル比[SiO2]/[Al2O3] = 26を示す。
実施例1に記載したようにして実施したIR分析によれば、上記ゼオライトは、0.97に等しいルイス酸部位(L)の量とブロンステッド酸部位(B)の量間のモル比(L/B)を示す。
合成条件および関連結果は、下記の表1に示す。
【0018】
実施例4 (比較例)
157.1gの水溶液中35質量%テトラエチル水酸化アンモニウムを、35.9gの脱塩水に添加する。その後、14.2gの54質量%Al2O3のアルミン酸ナトリウムと14.3gのアルミニウムイソ-プロポキシドを添加し、混合物を、約70℃で、透明溶液が得られるまで撹拌下に維持する。280.4gの40%SiO2のLudox HS 40コロイド状シリカを溶液に添加する。均質懸濁液が得られ、この懸濁液を、アンカー撹拌機を備えたAISI 316スチールオートクレーブ中に装入する。ゲルを、170℃の熱水条件下で168時間結晶化せしめる。
その後、オートクレーブを冷却し、スラリーを実施例1に記載したように処理する。
X線回折分析は、このようにして得られた生成物が非晶質であることを示している。
合成条件および関連結果を下記の表1に示す。
【0019】
この表においては、第1欄は、実施例参照番号を示し;第2、第3、第4および第5欄は、各実施例における各種試薬間のモル比を示す。第6欄は、熱水合成の継続時間を示す。第7欄は、XRD分析に基づき得られた相特性、即ち、結晶質かまたは非晶質かを示す。第8欄は、シリカ/アルミナ SAR (シリカ対アルミナ比)モル比としての化学分析の結果を示し、最終の欄は、ルイス酸部位およびブロンステッド酸部位間のモル比として表した、各酸部位のピリジンによる滴定(上述したような)によって得られた結果を示す。

表1.


実施例1におけるような1.5以上の[L]/[B]比は、0.68よりも高く且つ1未満の[Na]/[Al]モル比で操作することによってしか得ることができないことを観察し得る。
これに対し、[Na]/[Al]パラメーターに求められる範囲の上限丁度で操作した場合でさえも、実施例2および3におけるように、1.5よりも低い[L]/[B]比が得られている。[Na]/[Al]パラメーターに求められる範囲の下限よりも下で操作した場合は、非晶質物質が、実施例4におけるように得られている。
【0020】
実施例5
実施例1に記載する内容に従って調製し、120℃で16時間前以って乾燥させた0.4gのベータゼオライトを、機械的撹拌機およびベンゼンおよびプロピレン試薬の供給に必要な装置の全てを備え0.5リットルに等しい内部容量を有する電気的に加熱したオートクレーブに装入する。
オートクレーブを密閉し、外部連結したポンプによる吸引によって真空下に置き、その後、352gのベンゼンを吸引により装入する。オートクレーブを窒素により約6バールの圧力に達するまで加圧し、加熱を150℃のプログラム化した温度へ始動させる。オートクレーブ内の温度が予め選定した値に安定して達したときに、26gのプロピレンを圧力タンクにより急速に供給し、混合物を、プロピレン供給の終了時から開始して計測した厳密に1時間の間反応せしめる。
反応の終了時に、生成物を排出し、ガスクロマトグラフィーにより分析する。次の生成物が反応の終了時の混合物中に存在する:ベンゼン、クメン、プロピレンのC6およびC9オリゴマー、ジイソプロピルベンゼン、他のジイソプロピルベンゼン異性体(C6-フェニル=式Ci2Hi8によって一般的に示される芳香族生成物)、トリイソプロピルベンゼン、他のトリイソプロピルベンゼン異性体(C9-フェニル=式Ci5H24によって一般的に示される芳香族生成物)、トリイソプロピルベンゼンよりも高い分子量を有するポリアルキル化生成物(重質ポリアルキル化生成物)。
プロピレン変換率は97.0%よりも高いことが判明し、転換プロピレンに対比してのモノアルキル化生成物(クメン)への選択性は91.3%に等しく、転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)への選択性は97.5%に等しい。
(ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン+C6-フェニル+C9-フェニル+重質ポリアルキル化生成物)の合計と(クメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン+C6-フェニル+C9-フェニル+重質ポリアルキル化生成物)の合計との質量比、いわゆるRは、0.052に等しいことが判明する。この比Rは、反応中に形成した生成物およびアルキル化副生成物全体に対比してのポリアルキル化副生成物のみの総量の尺度である。
【0021】
実施例6 (比較例)
実施例5に記載した触媒試験を、実施例2に従って調製したベータゼオライトを使用して繰返した。
反応生成物のガスクロマトグラフィー分析に基づき、プロピレン転換率を、90.9%に等しい転換プロピレンに対比してのモノアルキル化生成物(クメン)への選択性および96.6%に等しい転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)への選択性と一緒に、97.0%よりも高いと算出する。実施例1におけるように定義した比Rは、0.061に等しいことが判明する。
本発明の代表ではない触媒を使用すれば、高めのポリアルキル化副生成物画分が、一方での本発明に従う触媒を使用して得られるポリアルキル化副生成物画分に対比して得られていることが明白である。
【0022】
実施例7 (比較例)
実施例5に記載した触媒試験を、実施例3に記載した内容に従って調製したベータゼオライトを使用して繰返した。
反応生成物のガスクロマトグラフィー分析に基づき、プロピレン変換を、89.8%に等しい転換プロピレンに対比してのモノアルキル化生成物(クメン)への選択性および95.0%に等しい転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)への選択性と一緒に、98.1%よりも高いと算出する。実施例1におけるように定義した比Rは、0.064に等しいことが判明する。
本発明の代表ではない触媒を使用すれば、高めのポリアルキル化副生成物画分が、一方での本発明に従う触媒を使用して得られるポリアルキル化副生成物画分に対比して得られていることが明白である。
【0023】
実施例8
アンモニウム/アルキルアンモニウム形、即ち、最終カ焼工程を受けない形の実施例1のベータゼオライトを、EP 847,802号の実施例4に記載された手順を使用するペレット形の触媒の製造において使用する。p-ベーマイト形のアルミナはバインダーとして使用する。このように調製した触媒を550℃で5時間カ焼する。最終触媒中のゼオライトの割合は55質量%に等しく、該触媒は、次の有孔率特性を有する:
0.85cc/gに等しいEPV(超ゼオライト有孔容積);51%に等しい半径>100Åを有する孔画分。
このようにして得られた触媒(触媒Aと称する)を使用して、以下に説明する装置のような試験装置を使用してのベンゼンのプロピレンによるアルキル化における連続触媒試験を実施する。
上記試験装置は、試薬タンク、個々の供給用ポンプ、反応に供給する前の試薬の固定ミキサー、電気加熱炉内部に位置し反応器内部に温度調節を備えたスチール反応器、空気弁による反応器内部の圧力調節装置、反応流出物の冷却器、および液体およびガス状生成物の収集装置からなる。
加熱炉内部に位置する反応器は、メカニカルシーリング装置および約2cmに等しい内径を有する円筒状スチールチューブからなる。
1mmに等しい直径を有し、反応器の大軸に沿って滑動自由なサーモカップルを含む温度測定用シースを、反応器の内部に大軸に沿って位置させる。前以て粉砕し、篩分けして1〜1.25mm範囲の粒度とした触媒Aを、反応器内に、5gに等しい量で、6cmに等しい触媒床の高さ全体に装填する。
一定量の不活性石英材を、触媒床の上3cm、下3cmに等しい高さで触媒床の上下に装填する。
【0024】
反応器の電気加熱を、触媒を乾燥させるための窒素流と一緒に、反応器内部のプログラム化した150℃の温度まで作動させる。選定温度に達した時点で、窒素流を16時間維持し、その後、窒素流を遮断し、ベンゼンを先ず2時間供給し、その後、プロピレンを、20hrs-1に等しい全体的WHSVおよび7に等しい供給物中の[ベンゼン]/[プロピレン]モル比を得るように供給する。反応を実施する圧力は、38バールに等しい。
サンプリングを、同じ反応条件下に連続で実施している反応の21時間、93時間、118時間、260時間および284時間後の反応流出物から行ない、その後、ガスクロマトグラフィー分析に供する。
反応流出物の各サンプルについて行なった分析に基づき、プロピレン転換率は、常に99.0%よりも高いことが判明する。また、以下の触媒Aの平均性能も得られている:
・0.4%に等しい標準偏差でもっての90.2%に等しい転換プロピレンに対比してのクメンへの選択性;
・0.06%に等しい標準偏差でもっての99.7%に等しい転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)への選択性;
・14ppmに等しい標準偏差でもっての238ppmに等しいクメンに対比してのn-プロピルベンゼン濃度;
・204ppmに等しいクメンに対比してのプロピレンのC6-〜C9-オリゴマー濃度。
試験中に、反応の発熱量によって測定した最高温度に相当する位置を、反応器の大軸に沿って滑動するサーモカップルによって記録した。この方法において、触媒の失活速度の直接の測度を示すいわゆるホットポイントの進行速度を測定することが可能である。触媒床の終点までの測定値を外挿することによって、2,800kg クメン/kgの触媒Aに等しい装填触媒の総計量を示す、触媒床の上記終点に達する時点でのクメン生成量を推定することが可能であった。
【0025】
実施例9(比較例)
アンモニウム/アルキルアンモニウム形の実施例2のベータゼオライトを、EP 847,802号の実施例4に記載した手順を使用するペレット形の触媒の製造において使用する。p-ベーマイト形のアルミナを使用する。このように調製した触媒を550℃で5時間カ焼する。最終触媒中のゼオライトの割合は55質量%に等しく、触媒は次の有孔率特性を有する:
0.82cc/gに等しいEPV(超ゼオライト有孔容積)、52%に等しい半径>100Åを有する孔の画分。
このようにして得られた触媒(触媒Bと称する)は、本発明を代表するものではない。
触媒Bを使用して、ベンゼンのプロピレンによるアルキル化における連続触媒試験を、実施例8に記載された装置のような試験装置を使用し且つ触媒試験自体は同じ作動および操作的手順によって実施する。
サンプリングを、同じ反応条件下に連続で実施している反応の47時間、124時間、165時間、190時間および286時間後の反応流出物から行ない、その後、ガスクロマトグラフィー分析に供する。
反応流出物の各サンプルについて実施した分析に基づき、プロピレン転換率は、常に99.0%よりも高いことが判明する。また、以下の触媒Bの平均性能も得られている:
・0.4%に等しい標準偏差でもっての87.5%に等しい転換プロピレンに対比してのクメンへの選択性;
・0.03%に等しい標準偏差でもっての99.7%に等しい転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)への選択性;
・8ppmに等しい標準偏差でもっての253ppmに等しいクメンに対比してのn-プロピルベンゼン濃度;
・264ppmに等しいクメンに対比してのプロピレンのC6-〜C9-オリゴマー濃度。
【0026】
また、この場合も、試験中に、最高温度に相当する位置を、反応器の大軸に沿って滑動するサーモカップルによって、触媒の失活速度の直接の測度を示すいわゆるホットポイントの進行速度を測定するために記録した。触媒床の終点までの測定値を外挿することによって、2,150kg クメン/kg触媒Bに等しい装填触媒の総計量を示すクメン生成量を推定することが可能であった。
触媒Bは、本発明を代表するものではなく、本発明に従う触媒Aにより得られた選択性よりもはるかに低い、転換プロピレンに対比してのクメンへの選択性、即ち、モノアルキル化生成物に対する選択性を有する。このことは、一方で、触媒Aにおいて既に得られた選択性に実質的に同等である触媒Bにおける転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)への選択性に関する結果からなお一層明白である。換言すれば、本発明に従う触媒Aを使用する場合は、本発明を代表するものでない触媒Bによって得られた生成物分布よりもモノアルキル化生成物により特化しているモノ-およびジ-アルキル化生成物の分布が、モノ-およびジ-アルキル化生成物の全体的形成に対しては同じ選択性でもって得られている。
さらにまた、触媒Bは、ほぼ確実に、触媒Aに対比して多めのプロピレンのC6〜C9オリゴマー生成物形成の結果として、触媒Aにおいて記録した失活速度よりも高い失活速度に特徴を有する。
【0027】
実施例10
実施例8において既に使用した同じ触媒Aを、140℃にセットした反応器温度を除き、実施例8において記載したのと同じ条件下の触媒試験に供した。
反応流出物のサンプリングを、同じ反応条件下に連続して実施する反応の46時間、119時間、137時間、142時間および160時間後に行い、その後、ガスクロマトグラフィー分析に供する。
ガスクロマトグラフィーの分析に基づき、プロピレン転換率は、常に99.0%よりも高いことが判明する。また、以下の触媒Aの平均性能も得られている:
・0.8%に等しい標準偏差でもっての89.9%に等しい転換プロピレンに対比してのクメンへの選択性;
・0.08%に等しい標準偏差でもっての99.5%に等しい転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン)への選択性;
・7ppmに等しい標準偏差でもっての187ppmに等しいクメンに対比してのn-プロピルベンゼン濃度;
・279ppmに等しいクメンに対比してのプロピレンのC6-〜C9-オリゴマー濃度。
また、この場合も、試験中に、最高温度に相当する位置を、反応器の大軸に沿って滑動するサーモカップルによって、触媒の失活速度の直接の測度を示すいわゆるホットポイントの進行速度を測定するために記録した。触媒床の終点までの測定値を外挿することによって、1,730kg クメン/kg触媒Aに等しい装填触媒の総計量を示すクメン生成量を推定することが可能であった。
従って、n-プロピルベンゼンおよびプロピレンオリゴマー不純物の形成は、予期した傾向にある:前者の不純物は温度の低下によって減少しているが、一方、後者の不純物は、触媒Aで既に得られた不純物(反応を前出の実施例8におけるように高めの温度で実施している)に対比して温度低下によって増大している。
結果として、低めの反応温度は、特定且つ高度の純度を有するクメンの生成においては選定し得る。
【0028】
実施例11(比較例)
実施例9において既に使用した同じ触媒Bを、実施例10において記載したのと同じ条件下の触媒試験に、140℃にセットした反応温度によって供した。
反応流出物のサンプリングを、同じ反応条件下に連続して実施する反応の28時間、94時間、100時間、118時間および122時間後に行い、その後、ガスクロマトグラフィー分析に供する。
ガスクロマトグラフィー分析に基づき、プロピレン転換率は、常に99.0%よりも高いことが判明する。また、以下の触媒Bの平均性能も得られている:
・0.4%に等しい標準偏差でもっての87.3%に等しい転換プロピレンに対比してのクメンへの選択性;
・0.2%に等しい標準偏差でもっての99.2%に等しい転換プロピレンに対比しての(クメン+ジイソプロピルベンゼン)への選択性;
・2ppmに等しい標準偏差でもっての188ppmに等しいクメンに対比してのn-プロピルベンゼン濃度;
・443ppmに等しいクメンに対比してのプロピレンのC6-〜C9-オリゴマー濃度。
また、この場合も、試験中に、最高温度に相当する位置を、反応器の大軸に沿って滑動するサーモカップルによって、触媒の失活速度の直接の測度を示すいわゆるホットポイントの進行速度を測定するために記録した。触媒床の終点までの測定値を外挿することによって、1,020kg クメン/kg触媒Bに等しい装填触媒の総計量を示すクメン生成量を推定することが可能であった。
また、この場合も140℃の温度で触媒Bを使用することで、150℃の温度で反応を実施したときの同じ触媒Bにより得られた生成物に対比してn-プロピルベンゼンの形成の効果的な低減があることは明白である。しかしながら、この低減は、プロピレンオリゴマー形成の著しい増大並びに同じ温度での触媒Aによって得られた耐久性とははるかに異なる結果としての触媒耐久性の有意の低下を伴っている。
従って、本発明の代表である触媒Aは、反応を、n-プロピルベンゼン不純物形成の低減を得るためのより好ましい温度で実施するのを可能にし、これに対し、この低減は、本発明を代表するものでない触媒Bによっては得ることができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5以上のモル比[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]に相当するルイス酸部位およびブロンステッド酸部位分布に特徴を有する、ベータゼオライト。
【請求項2】
SiO2/Al2O3モル比が、10〜30の範囲内で変動する、請求項1記載のベータゼオライト。
【請求項3】
SiO2/Al2O3モル比が、10〜25の範囲内で変動する、請求項2記載のベータゼオライト。
【請求項4】
晶子のサブミクロン凝集体の形にあり、該晶子の少なくとも90%が300Åよりも小さい寸法を有する、請求項1記載のベータゼオライト。
【請求項5】
下記を含有する、請求項1記載の触媒組成物:
‐1.5以上のモル比[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]に相当するルイス酸部位およびブロンステッド酸部位分布に特徴を有するベータゼオライト;
‐無機バインダー。
【請求項6】
前記無機バインダーが、アルミニウム、ケイ素または酸化マグネシウム、天然クレーまたはそれらの混合物から選ばれる、請求項5記載の触媒組成物。
【請求項7】
バインダーとゼオライトの質量比が、80:20〜5:95で変動する、請求項5記載の触媒組成物。
【請求項8】
0.80ml/g以上の総容積を有する超ゼオライト有孔率に特徴を有し、且つ100Åよりも大きい半径を有する少なくとも25%の孔画分からなる、請求項5記載の触媒組成物。
【請求項9】
アルミニウム源としてのアルミン酸ナトリウムおよびアルミニウムアルコキシドまたはアルミニウムの無機塩;コロイド状シリカ、ケイ酸テトラアルキルおよびアモルファスシリカから選ばれたシリカ源;および、テンプレート剤としてテトラエチル水酸化アンモニウムを含有する試薬混合物を、水性環境において、150〜190℃の温度範囲の熱水条件下に10〜240時間の時間で結晶化することを含み、前記混合物がモル比において下記の組成を有することを特徴とする、請求項1記載のゼオライトの製造方法:
[SiO2]/[Al2O3] = 10〜30、
[TEAOH]/[SiO2] = 0.10〜0.35、
[H2O]/[ SiO2] = 7〜20、
[Na2O]/[TEAOH] 0.1より大、
[Na]/[Al] 0.68より大で1.00未満。
【請求項10】
結晶化により生じた混合物を濾過し、得られた固形生成物をアンモニウム塩とのイオン交換に供し、その後、乾燥させ、カ焼する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記結晶化を、165〜180℃の温度で、18〜150時間の時間で実施する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記アンモニウムアルコキシドを、アルミニウムイソプロピレートまたはターブチレートから選択し、前記ケイ酸テトラアルキルを、テトラメチル-、テトラエチル-、またはテトラプロピル-シリケートから選択し;前記アルミニウム無機塩を、硝酸塩および硫酸塩から選択する、請求項9記載の方法。
【請求項13】
試薬混合物が、モル比において以下の組成を有する、請求項9記載の方法:
[SiO2]/[Al2O3] = 10〜25、
[TEAOH]/[SiO2] = 0.15〜0.30、
[H2O]/[ SiO2] = 8〜15、
[Na2O]/[TEAOH] 0.1より大、
[Na]/[Al] 0.68より大で1.00未満。
【請求項14】
前記結晶化により生じた懸濁液を、濾過に供する前に、3〜6の範囲のpHに達するまで酸性化し、水で1〜10の範囲の比(添加水の容量)/(懸濁液の容量)に希釈する、請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記結晶化混合物の濾過により得られた固形生成物を水中に再分散させ、アンモニウム塩とのイオン交換処理に供し、濾過し、100〜200℃の温度で8〜16時間乾燥させ、450〜650℃の温度で4〜8時間カ焼する、請求項10記載の方法。
【請求項16】
芳香族炭化水素を、エチレンおよびプロピレンから選ばれるオレフィンと、1.5以上のモル比[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]に相当するルイス酸部位およびブロンステッド酸部位分布に特徴を有するベータゼオライトの存在下に接触させることを特徴とする、芳香族炭化水素のアルキル化方法。
【請求項17】
100〜300℃の温度および通常1〜100バールの反応圧で実施する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記芳香族炭化水素がベンゼンである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記芳香族炭化水素がベンゼンであり、前記オレフィンがプロピレンであり、前記反応を100〜200℃の温度で実施する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
120〜180℃の温度で実施する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記芳香族炭化水素がベンゼンであり、前記オレフィンがエチレンであり、前記反応を150〜250℃の温度で実施する、請求項17記載の方法。
【請求項22】
170〜230℃の温度で実施する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
少なくとも部分的に液相で実施する、請求項17記載の方法。
【請求項24】
10〜50バールの圧力で実施する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記芳香族化合物と反応に供給するオレフィンとのモル比が、通常1〜30の範囲である、請求項16記載の方法。
【請求項26】
芳香族炭化水素を、1種以上のポリアルキル化芳香族炭化水素と、1.5以上のモル比[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]に相当するルイス酸部位およびブロンステッド酸部位分布に特徴を有するベータゼオライトの存在下に接触させることを特徴とする、芳香族炭化水素のトランスアルキル化方法。
【請求項27】
前記芳香族炭化水素がベンゼンである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記ポリアルキル化芳香族炭化水素が、ジアルキル化芳香族炭化水素を主として含有する混合物である、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
前記ポリアルキル化芳香族炭化水素が、必要に応じてトリエチルベンゼンとの混合物中のジエチルベンゼン、および必要に応じてトリイソプロピルベンゼンとの混合物中のジイソプロピルベンゼンから選ばれる、請求項26または27記載の方法。
【請求項30】
100〜350℃の温度で実施する、請求項26記載の方法。
【請求項31】
前記芳香族炭化水素がベンゼンであり、前記ポリアルキル化芳香族炭化水素がポリイソプロピルベンゼンであり、温度が150〜250℃である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記芳香族炭化水素がベンゼンであり、前記ポリアルキル化芳香族炭化水素がポリエチルベンゼンであり、温度が180〜300℃である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
少なくとも部分的に液相の条件下で実施する、請求項30記載の方法。
【請求項34】
液相条件下に実施する、請求項33記載の方法。
【請求項35】
20〜50バールの圧力で実施する、請求項33または34記載の方法。
【請求項36】
前記芳香族炭化水素と前記ポリアルキル化炭化水素の総量とのモル比が、1〜40で変動する、請求項26記載の方法。
【請求項37】
前記モル比が3〜30である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
下記の工程を含む、請求項16記載の方法:
(a) 芳香族炭化水素を、エチレンおよびプロピレンから選ばれたオレフィンと、請求項1記載のゼオライトの存在下に、アルキル化条件下に接触させる工程;
(b) 得られた生成物を、前記芳香族炭化水素含有画分、モノ-アルキル化芳香族炭化水素含有画分、ジアルキル化芳香族炭化水素を主として含有するポリアルキル化芳香族炭化水素含有画分、および重質芳香族炭化水素画分として分離する工程;
(c) ジアルキル化芳香族炭化水素を主として含有する前記ポリアルキル化芳香族炭化水素含有画分を、前記芳香族炭化水素と、請求項1記載のゼオライトの存在下に、トランスアルキル化条件下に接触させる工程;
(d) 工程(c)から得られた生成物を工程(b)において得られたのと同じ各画分として分離し、その後、前記芳香族炭化水素含有画分は、1部は工程(a)に、1部は工程(c)に、さらに前記ポリアルキル化芳香族炭化水素含有画分は工程(c)にリサイクルさせる工程。
【請求項39】
下記を含有する触媒組成物の存在下に実施する、請求項16または26記載の方法:
‐1.5以上のモル比[ルイス部位]/[ブロンステッド部位]に相当するルイス酸部位およびブロンステッド酸部位分布に特徴を有するベータタイプゼオライト;
‐無機バインダー。
【請求項40】
前記触媒組成物が、0.80ml/g以上の総容積を有する超ゼオライト有孔率に特徴を有し、100Åよりも大きい半径を有する少なくとも25%の孔画分からなる、請求項39記載の方法。

【公表番号】特表2008−503431(P2008−503431A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517183(P2007−517183)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006704
【国際公開番号】WO2006/002805
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(502198696)ポリメーリ エウローパ ソシエタ ペル アチオニ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLIMERI EUROPA S.P.A.
【住所又は居所原語表記】VIA E.FERMI 4, I−72100 BRINDISI, ITALY
【出願人】(599068430)エニ、ソシエタ、ペル、アチオニ (16)
【氏名又は名称原語表記】ENI S.P.A.
【Fターム(参考)】