説明

アルコキシフェノールギ酸エステル類及びアルコキシフェノール類の製造方法

【課題】 3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノールギ酸エステル類及び3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノール類の工業的に効率のよい製造方法を提供する。
【解決手段】 3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するアルコキシベンズアルデヒド類を、ギ酸の存在下、過カルボン酸により酸化して、アルコキシフェノールギ酸エステル類を得る。ギ酸の使用量は、アルコキシベンズアルデヒド類1モルに対して、0.8〜20モルであるのが好ましい。過カルボン酸としては、炭素数1〜7の過カルボン酸が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノールギ酸エステル類の製造方法、及び該製造方法で得られたアルコキシフェノールギ酸エステル類を加水分解又は加アルコール分解する3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するアルコキシフェノール類の製造方法に関する。こうして得られるアルコキシフェノール類は、医薬品、農薬、化粧品、酸化防止剤等の精密化学品の原料などとして有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコキシベンズアルデヒド類を出発原料とするアルコキシフェノール類の製造方法として、アルコキシベンズアルデヒド類をバイヤービリガー酸化反応に付し、生成するアルコキシフェノールギ酸エステル類を加水分解又は加アルコール分解してアルコキシフェノール類とする方法が知られている。このような方法として、具体的には、m−クロロ過安息香酸を酸化剤として用い、塩化メチレン中で反応を行う方法(非特許文献1)、塩化メチレン溶媒に、過酸化水素水及びギ酸を添加した不均一系で反応を行う方法(特許文献1)、クロロホルム溶媒中、過ギ酸と反応させる方法(特許文献2)、メタノール溶媒中、過酸化水素水及び硫酸を添加して反応を行う方法(特許文献3)、酢酸溶媒中、過酢酸と反応させる方法(非特許文献2)などが挙げられる。
【0003】
しかし、m−クロロ過安息香酸を酸化剤として用いる方法は、m−クロロ過安息香酸が高価であるという問題があり、塩化メチレンやクロロホルムを溶媒として使用する方法は、環境への影響が懸念されるため、工業的な実施は好ましくない。また、硫酸を添加する方法は、装置の腐食が問題となる。さらに、上記の過酢酸を酸化剤に用いる方法は、反応時間が長く(例えば15時間)、反応効率に問題があることに加え、アルコキシ安息香酸類が多く副生するため、目的のアルコキシフェノール類の収率が低いという問題がある。
【0004】
一方、3,4−(メチレンジオキシ)フェノール(通称、セサモール)を、過酢酸を酸化剤として、3,4−(メチレンジオキシ)ベンズアルデヒド(通称、ヘリオトロピン)のバイヤービリガー酸化反応により合成する際、ギ酸を添加することで選択率を向上させる方法が報告されている(特許文献4)。しかし、この方法は出発原料がセサモールに限定されており、他の出発原料を用いた場合のギ酸の添加効果は不明であった。また、この文献では生成したセサモールを蒸留精製しており、蒸留残渣中へのロスにより目的物の収率が低下する。さらに、セサモールよりも高沸点化合物を目的とする場合には、高温高真空下での蒸留が必要となるため、工業的実施が困難となるという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5840997号明細書
【特許文献2】USSR特許第688492号明細書
【特許文献3】特開昭60−16637号公報
【特許文献4】特開2002−138087号公報
【非特許文献1】J.Chem.Soc.Perkin Trans.II,1993,11,2165
【非特許文献2】Can.J.Chem.,1966,44,1875
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノールギ酸エステル類及び3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノール類の工業的に効率のよい製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するベンズアルデヒド類をギ酸の存在下で過カルボン酸により酸化すると、対応する3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノールギ酸エステル類が高い選択率及び収率で生成すること、及びこうして生成した3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノールギ酸エステル類を、水及び/又はアルコール類で分解すると、対応する3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノール類に収率よく変換でき、純度の高いアルコキシフェノール類を工業的に効率よく得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシベンズアルデヒド類を、ギ酸の存在下、過カルボン酸により酸化して、下記式(2)
【化2】

(式中、R1、R2は前記に同じ)
で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を得ることを特徴とするアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法を提供する。
【0009】
この方法において、ギ酸の使用量は、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類1モルに対して、0.8〜25モルであるのが好ましい。過カルボン酸としては、炭素数1〜7の過カルボン酸が好ましい。反応溶媒としては、炭素数1〜7のカルボン酸、及び炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステルから選択された少なくとも1種の有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0010】
また、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類及び下記式(3)
【化3】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシフェノール類の生成量の和に対する、下記式(4)
【化4】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシ安息香酸類の生成量の割合を、高速液体クロマトグラフィーのクロマトグラムにおけるピーク面積の割合として、8%以下に制御するのが好ましい。
【0011】
本発明は、また、上記の製造方法により得られた下記式(2)
【化5】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を、水及び/又はアルコール類を加えて分解し、下記式(3)
【化6】

(式中、R1、R2は前記に同じ)
で表されるアルコキシフェノール類を得ることを特徴とするアルコキシフェノール類の製造方法を提供する。
【0012】
この方法においては、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を塩基性化合物の存在下で分解するのが好ましい。塩基性化合物は、系内に酸が存在する場合は該酸を中和する量に加え、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類に対して1当量以上使用するのが好ましい。
【0013】
式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を塩基性化合物の存在下で分解した後、酸を添加してpHを9未満とし、続いて水と非水溶性有機溶媒とを用いた抽出操作により、式(3)で表されるアルコキシフェノール類を有機層側に抽出する工程を含んでいてもよい。酸としては、鉱酸、スルホン酸及びカルボン酸から選択された少なくとも1種を使用できる。非水溶性有機溶媒としては、炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステル等を使用できる。
【0014】
なお、本明細書では、便宜上、ベンゼン環にベンジルオキシ基を有するベンズアルデヒド類、フェノールギ酸エステル類、フェノール類及び安息香酸類も、それぞれ、「アルコキシベンズアルデヒド類」、「アルコキシフェノールギ酸エステル類」、「アルコキシフェノール類」、「アルコキシ安息香酸類」と称している。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するベンズアルデヒド類から、対応する3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノールギ酸エステル類を、短時間で、副生物の生成を抑制しつつ、工業的に効率よく得ることができる。また、生成した3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノールギ酸エステル類を加水分解又は加アルコール分解することにより、対応する3位及び4位にメトキシ基又はベンジルオキシ基を有するフェノール類を工業的に効率よく、しかも高い純度で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[アルコキシフェノールギ酸エステル類の製造]
本発明のアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法では、前記式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類を、ギ酸の存在下、過カルボン酸により酸化して、前記式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を生成させる。式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す。
【0017】
式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類は、具体的には、3,4−ジメトキシベンズアルデヒド、3−ベンジルオキシ−4−メトキシベンズアルデヒド、4−ベンジルオキシ−3−メトキシベンズアルデヒド、3,4−ビス(ベンジルオキシ)ベンズアルデヒドである。
【0018】
過カルボン酸としては、特に限定されないが、炭素数1〜7の過カルボン酸が好ましく、具体的には、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸などが挙げられる。これらの中でも、特に過酢酸が好ましい。
【0019】
過カルボン酸の使用量は、特に制限はないが、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類1モルに対して、例えば1〜5モル、好ましくは1〜2モルである。過カルボン酸の使用量が、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類1モルに対して1モル未満の場合には、反応における転化率が100%に達せず、また5モルを超えると、過カルボン酸の残存量が多くなり、不経済であるとともに、後処理が煩雑となりやすい。
【0020】
ギ酸の使用量は、反応の選択性及び経済性等を損なわない範囲で適宜選択できるが、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類1モルに対して、一般に0.8〜25モルの範囲が好ましく、より好ましくは1.6〜10モルである。ギ酸の使用量が、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類1モルに対して0.8モル未満では、前記式(4)で表されるアルコキシ安息香酸類の副生量が増加しやすくなり、また25モルを超えると、反応後の後処理工程においてギ酸の除去に多くのエネルギーや労力を費やすことになり好ましくない。
【0021】
反応系に水が存在すると、反応で生成した前記式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類が加水分解してアルコキシフェノール類が生成し、これが過カルボン酸により酸化されるため好ましくない。したがって、ギ酸については、95重量%以上の純度(水分5重量%以下)、さらには98重量%以上の純度(水分2重量%以下)のものを使用することが好ましい。また、過カルボン酸については、水分を含まない有機溶媒溶液(好ましくは、酢酸エチル溶液)を使用することが好ましい。水分を含まない過カルボン酸溶液(例えば、過酢酸の酢酸エチル溶液)は、アルデヒド(例えば、アセトアルデヒド)の酢酸エチル溶液を空気酸化することにより製造できる。
【0022】
式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類の酸化反応は、溶媒の存在下又は不存在下で行われる。溶媒としては、過カルボン酸に対して安定であり、原料及び生成物を溶解可能な有機溶媒が好ましく、例えば、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸(炭素数1〜7のカルボン酸等);酢酸エチル、ギ酸エチルなどのカルボン酸エステル(炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステル等)などが好ましい。これらの中でも、酢酸エチルなどの、炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステルが特に好ましい。
【0023】
溶媒の使用量は、過カルボン酸溶液中の溶媒も含めて、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類に対して、500重量%以下が好ましく、より好ましくは300重量%以下である。溶媒の量が多すぎると、精製工程で多量の溶媒を留去する必要があり、エネルギー的に不利である。
【0024】
反応温度は、特に制限されないが、ギ酸又はギ酸と溶媒の混合系の沸点以下が好ましく、例えば、酢酸エチル等を溶媒として用いる場合には、好ましくは0〜70℃の範囲であり、さらに好ましくは30〜60℃である。反応温度が低すぎると反応速度が小さくなり、反応温度が高すぎるとエネルギー的に不利であるとともに、過カルボン酸の分解も生じやすくなる。
【0025】
反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方式で行ってもよい。反応には特別な操作は必要としない。例えば、原料である式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類とギ酸と有機溶媒(必要に応じて)との混合液中に、過カルボン酸溶液を、反応速度と反応熱の除去速度を考慮しつつ、間欠的又は連続的に滴下し、必要に応じて熟成する方法などを採用できる。過カルボン酸溶液を滴下する場合、その滴下時間及び滴下後の熟成時間は、使用する過カルボン酸や溶媒の種類、量などにより異なるが、一般には、滴下時間は、例えば0.3〜10時間、好ましくは0.5〜3時間程度であり、熟成時間は、例えば1〜10時間、好ましくは1.5〜5時間程度である。
【0026】
反応により、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類に対応する式(2)で表されるアルコキシフェノルールギ酸エステル類が主生成物として生成する。反応収率は、例えば75%以上、好ましくは80%以上である。反応条件により、前記式(3)で表されるアルコキシフェノール類、及び式(4)で表されるアルコキシ安息香酸類が副生することがある。例えば、系内に水分が存在する場合には、式(3)で表されるアルコキシフェノール類が副生しうる。また、用いるギ酸の量や反応温度等により、式(4)で表されるアルコキシ安息香酸類が副生しうる。なお、酸化反応に続いて加水分解又は加アルコール分解により式(2)で表されるアルコキシフェノルールギ酸エステル類を式(3)で表されるアルコキシフェノール類に変換して該アルコキシフェノール類を製造しようとする場合には、式(3)で表されるアルコキシフェノール類は目的化合物となるためある程度含まれていてもよい。したがって少なくとも式(4)で表されるアルコキシ安息香酸類の副生を抑制することが望ましい。
【0027】
本発明の好ましい態様では、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類及び式(3)で表されるアルコキシフェノール類の生成量の和に対する、式(4)で表されるアルコキシ安息香酸類の生成量の割合Rを8%以下(好ましくは5%以下)に制御する。この割合が8%を超えると、目的物の収率が低いだけでなく、続く加水分解又は加アルコール分解後のアルコキシフェノール類の分離精製工程において、アルコキシ安息香酸類が目的物に混入し、高純度のアルコキシフェノール類を得ることが困難となるので好ましくない。
【0028】
上記の生成割合Rは、ギ酸の使用量、過カルボン酸の種類及び使用量、反応温度、反応時間など、特にギ酸の使用量を調整することにより制御できる。なお、上記の生成割合Rは、反応生成物を高速液体クロマトグラフィーに付し、得られたクロマトグラムにおけるピーク面積から求めることができる。すなわち、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類のピーク面積をA2、式(3)で表されるアルコキシフェノール類のピーク面積をA3、式(4)で表されるアルコキシ安息香酸類のピーク面積をA4としたとき、次式により上記の生成割合R(%)を算出できる。
R(%)={A4/(A2+A3)}×100
【0029】
なお、上記の生成割合Rは重量基準で8%以下(特に5%以下)であるのも好ましい。重量基準の値も高速液体クロマトグラフィーにより(検量線を用いて)求めることができる。
【0030】
反応終了後、反応生成物は、例えば、液性調整、濾過、分液、洗浄(水洗等)、抽出、濃縮、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなど、又はこれらの組み合わせにより分離精製できる。例えば、得られた反応混合物を、好ましくは減圧下に濃縮して、ギ酸や過カルボン酸由来のカルボン酸、有機溶媒等の低沸点化合物を留去することにより、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を主成分とする濃縮物を得ることができる。濃縮する前に、反応混合物に水と非水溶性有機溶媒(必要であれば)を加え、好ましくは30℃以下の温度で撹拌し、残存する過カルボン酸を水層に移行させ、得られた有機層を好ましくは減圧下に濃縮して、前記低沸点化合物を留去することにより、式(2)で表される化合物を主成分とする濃縮物を得てもよい。こうして得られた濃縮物をさらに精製して高純度のアルコキシフェノールギ酸エステル類とすることもできるが、本発明の方法によれば副生物の生成量が少ないため、この濃縮物を次の加水分解又は加アルコール分解に供しても支障はない。なお、上記の反応で得られた反応混合物をそのまま次の分解工程に供することもできるが、分解工程での塩基性化合物の使用量を低減するためには、副生するギ酸や過カルボン酸由来のカルボン酸を蒸留等により除去して分解工程に供するのが好ましい。
【0031】
上記の反応混合物に加える非水溶性有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル(炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステル等);ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アニソール等のエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、酢酸エチルなどの、炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステルが特に好ましい。
【0032】
[アルコキシフェノール類の製造]
本発明のアルコキシフェノール類の製造方法では、上記のアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法により得られた式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を、水及び/又はアルコール類を加えて分解(加水分解及び/又は加アルコール分解)して、式(3)で表されるアルコキシフェノール類を得る。上記のアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法により得られた式(2)で表される化合物を原料として用いると、アルコキシ安息香酸等の不純物含量が極めて低いため、分解反応後、比較的簡単な操作で純度の高いアルコキシフェノール類を得ることができる。
【0033】
原料として用いるアルコキシフェノールギ酸エステル類としては、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を主成分として含み(例えば75重量%以上、好ましくは80重量%以上)、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類及び式(3)で表されるアルコキシフェノール類の和に対する、式(4)で表されるアルコキシ安息香酸類の割合が8%以下(特に5%以下)のものが好ましい。この割合は前記と同様、高速液体クロマトグラフィーにより求めることができる。
【0034】
上記のアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルコール(特に、炭素数1〜3のアルコール)が挙げられる。これらの中でもメタノール又はエタノールが好ましく、特にメタノールが好ましい。
【0035】
水、アルコール類の使用量は、合計で、前記式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類1モルに対して、例えば1〜1000モル、好ましくは100〜900モル程度である。水、アルコールの使用量が合計で1モル未満では、反応転化率が100%に達成せず、また1000モルを超えると後処理に大きなエネルギーや労力を必要とするため好ましくない。
【0036】
水とアルコール類は、それぞれ単独で用いてもよいが、原料や生成物の溶解性、塩基性化合物を使用する場合の塩基性化合物の溶解性、反応性、後に抽出操作を行う場合の操作性(分液性等)などの観点から、水とアルコール類とを組み合わせて用いるのが好ましい。水とアルコール類とを組み合わせて用いる場合、その割合は上記の点を考慮して適宜選択できるが、一般には、水/アルコール類(重量比)=10/90〜90/10の範囲であり、好ましくは水/アルコール類(重量比)=20/80〜80/20、さらに好ましくは水/アルコール類(重量比)=30/70〜70/30である。水の割合が小さすぎると、塩基性化合物の溶解性、抽出操作性が低下しやすくなり、逆に水の割合が大きすぎると、原料や生成物の溶解性が低下しやすくなる。
【0037】
加水分解、加アルコール分解は、反応速度を上げるため、塩基性化合物の存在下で行うのが好ましい。塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩;塩基性イオン交換樹脂などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属含有化合物、特に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0038】
塩基性化合物の使用量は、反応速度、コスト、後に抽出操作を行う場合の操作性(分液性等)などを考慮して適宜選択できるが、好ましくは、系内に酸が存在する場合は該酸を中和する量に加え、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類に対して1当量以上(例えば、1〜10当量)、より好ましくは2当量以上(例えば、2〜8当量)である。すなわち、塩基性化合物が水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物等の場合の使用量は、系内に酸が存在する場合は該酸を中和する量に加え、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類1モルに対して、1モル以上(例えば、1〜10モル)が好ましく、より好ましくは2モル以上(例えば、2〜8モル)である。塩基性化合物を、系内に酸が存在する場合は該酸を中和する量に加え、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類に対して1当量以上(特に2当量以上)用いると、反応速度が格段に速くなるだけでなく、分解反応に少なくともアルコール類を使用するとともに分解反応後に酸を添加して水と非水溶性有機溶媒とによる抽出操作を行う場合には、相当量の塩が存在することとなり、分液性が大幅に向上し、アルコキシフェノール類の回収が極めて容易となる。これに対し、塩基性化合物の使用量が少ないと、後の抽出操作の際に分液性が確保できない場合が生じる。
【0039】
反応温度は、反応が進行し且つ副反応が生じにくい範囲であれば特に制限はないが、一般には0〜100℃、好ましくは20〜80℃程度である。また、反応は、副生するギ酸エステルを留去しながら実施してもよい。反応時間は、反応の進行具合を見て適宜選択できるが、通常0.3〜6時間、好ましくは0.5〜4時間程度である。
【0040】
上記反応により、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類に対応する式(3)で表されるアルコキシフェノール類が生成するとともに、ギ酸又はギ酸エステルが副生する。式(2)で表される化合物の分解に水を比較的多く用いた場合にはギ酸が主に副生し、アルコールを多く用いた場合にはギ酸エステルが主に副生する。また、塩基性化合物を使用した場合には、その使用量に応じて、フェノールは該塩基性化合物との塩、ギ酸は該塩基性化合物との塩として得られる。
【0041】
分解反応終了後、反応生成物は、例えば、液性調整、濾過、分液、洗浄、抽出、濃縮、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなど、又はこれらの組み合わせにより分離精製することができる。特に、分解反応時に塩基性化合物を比較的多く用いた場合[例えば、系内に酸が存在する場合は該酸を中和する量に加え、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類に対して1当量以上用いた場合など]には、式(3)で表されるアルコキシフェノール類は通常該塩基性化合物の塩の状態で系内に存在するので、これを遊離化して回収を容易にするため、酸を添加して液のpHを9未満(例えば1以上9未満)、好ましくは7未満(例えば2以上7未満)、さらに好ましくは6.5以下(例えば3〜6.5)、特に好ましくは4〜6.5の範囲に調整するのが望ましい。pHが9以上ではアルコキシフェノール類の回収率が低下しやすい。なお、pHが1未満の場合は原料コスト及び排水処理の点で不利になりやすい。また、pHを調整することにより、不純物であるアルコキシ安息香酸類等の混入量を低減することもできる。
【0042】
pH調整に用いる酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸などが挙げられる。塩酸は濃塩酸、希塩酸の何れであってもよい。カルボン酸としては、後の抽出操作後の有機層濃縮時等に留去が容易なギ酸、酢酸が好ましい。反応装置の材質の腐食が懸念される場合は、カルボン酸の使用が好ましい。pH調整は、望ましくない反応が起こるのを防止するため、30℃以下の温度で行うのが好ましい。
【0043】
酸によりpH調整した後には、水と非水溶性有機溶媒とを用いた抽出操作により、式(3)で表されるアルコキシフェノール類を有機層側に移行させ、次いで該有機層を蒸留やフラッシュに付して濃縮することにより、式(3)で表されるアルコキシフェノール類を得ることができる。得られたアルコキシフェノール類は、必要に応じて晶析等により、さらに純度を上げることができる。
【0044】
抽出操作に用いる非水溶性有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル(炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステル等);ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル,アニソール等のエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの中でも、酢酸エチルなどの、炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステルが特に好ましい。
【0045】
抽出操作において、水は必要に応じて添加すればよく、分解反応に水を用いた場合には、抽出操作の際に改めて水を添加しなくてもよい。また、非水溶性有機溶媒の量は、分液性や抽出効率を考慮して適宜選択できるが、分解反応後の反応粗液100重量部に対して、一般には5〜500重量部、好ましくは8〜300重量部程度である。非水溶性有機溶媒の使用量が少なすぎると式(3)で表されるアルコキシフェノール類の回収率が低下しやすくなり、逆に多すぎると溶媒の回収に多くのエネルギーを要することになる。
【0046】
また、残存する酸類の除去効率を高めるため、前記抽出操作における非水溶性有機溶媒添加時に、或いは前記抽出操作操作後の有機層に、炭酸水素ナトリウム水溶液(好ましくは飽和炭酸水素ナトリウム水溶液)などの弱アルカリ性水溶液を添加して、洗浄を実施してもよい。
【0047】
式(3)で表されるアルコキシフェノール類を含む有機層の濃縮は、望ましくない反応を防止するため、比較的低い温度(例えば100℃以下)で減圧下に実施するのが好ましい。
【0048】
本発明の方法により得られるアルコキシフェノール類は、医薬品、農薬、化粧品、酸化防止剤等の精密化学品の原料などとして使用できる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。生成物の分析は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行い、生成割合は得られたクロマトグラムにおけるピーク面積の比により求めた。HPLC分析条件は下記の通りである。
カラム:YMC J’sphere ODS−M80(粒径4μm、細孔径8nm、カラム長250mm×4.6mmID)
カラム温度:40℃
移動層:A液:0.1重量%リン酸水溶液、B液:アセトニトリル
流量:1.0mL/min
グラジエント条件:A/B=50/50×10分+(A/B=50/50→A/B=30/70)/5分+(A/B=30/70→A/B=0/100)/5分+A/B=0/100×5分+A/B=50/50×5分
検出器:UV 254nm
分析時間:30分
サンプル注入量:5μL
【0050】
実施例1(3,4−ジメトキシフェノールの製造)
3,4−ジメトキシベンズアルデヒド41gを、酢酸エチル41g、ギ酸41gに溶解させた後、反応系内部の温度を40℃に保ちながら、過酢酸を30重量%含む酢酸エチル溶液95gを約1時間かけて滴下した。40℃で3時間さらに撹拌を続け、反応を終了した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、3,4−ジメトキシフェノールギ酸エステル及び3,4−ジメトキシフェノールの生成量の和に対する、3,4−ジメトキシ安息香酸の生成量の割合は7%であった。3,4−ジメトキシフェノールギ酸エステルの反応収率は91%であった。
反応混合液に30℃以下の撹拌状態で水299gと酢酸エチル101gを添加した。撹拌を停止して下層の水層を分離除去した。有機層から60℃、50Torr(6666Pa)の条件で、溶媒、ギ酸及び酢酸等の低沸点化合物を留去し、残留液43gを得た。得られた残留液にメタノール619g、10重量%水酸化カリウム水溶液523gを加え、50℃で2時間撹拌した。その後、30℃以下の撹拌状態で濃塩酸40gを添加して液のpHを約6に調整した後、酢酸エチル118gを加えて10分間撹拌した。撹拌を停止し、下層の水層を分離除去した。上層の有機層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液107gを加えて10分間撹拌した後、下層の水層を分離除去した。上層の有機層を70℃、20Torr(2660Pa)の条件で濃縮することにより、純度94重量%の3,4−ジメトキシフェノールを35g得た。収率は91%(3,4−ジメトキシベンズアルデヒド基準)であった。
【0051】
実施例2(3−ベンジルオキシ−4−メトキシフェノールの製造)
3−ベンジルオキシ−4−メトキシベンズアルデヒド1500gを、酢酸エチル1500g、ギ酸1500gに溶解させた後、反応系内部の温度を40℃に保ちながら、過酢酸を30重量%含む酢酸エチル溶液2375gを約2時間かけて滴下した。40℃で3時間さらに撹拌を続け、反応を終了した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、3−ベンジルオキシ−4−メトキシフェノールギ酸エステル及び3−ベンジルオキシ−4−メトキシフェノールの生成量の和に対する、3−ベンジルオキシ−4−メトキシ安息香酸の生成量の割合は3%であった。3−ベンジルオキシ−4−メトキシフェノールギ酸エステルの反応収率は90%であった。
反応混合液から、エバポレーターを用いて、溶媒、ギ酸及び酢酸等の低沸点化合物を留去した。得られた残留液にメタノール4400g、5重量%水酸化カリウム水溶液15000gを加え、50℃で1時間撹拌した。その後、30℃以下の撹拌状態で酢酸750gを添加して液のpHを約5に調整した後、酢酸エチル10700gを加えて10分間撹拌した。撹拌を停止し、下層の水層を分離除去した。上層の有機層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10700gを加えて10分間撹拌した後、下層の水層を分離除去した。上層の有機層を90℃、30Torr(4000Pa)の条件で濃縮することにより、純度96重量%の3−ベンジルオキシ−4−メトキシフェノールを1280g得た。収率は90%(3−ベンジルオキシ−4−メトキシベンズアルデヒド基準)であった。
【0052】
実施例3(4−ベンジルオキシ−3−メトキシフェノールの製造)
4−ベンジルオキシ−3−メトキシベンズアルデヒド100gを、酢酸エチル100g、ギ酸100gに溶解させた後、反応系内部の温度を40℃に保ちながら、過酢酸を30重量%含む酢酸エチル溶液157gを約1時間かけて滴下した。40℃で4時間さらに撹拌を続け、反応を終了した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、4−ベンジルオキシ−3−メトキシフェノールギ酸エステル及び4−ベンジルオキシ−3−メトキシフェノールの生成量の和に対する、4−ベンジルオキシ−3−メトキシ安息香酸の生成量の割合は4%であった。4−ベンジルオキシ−3−メトキシフェノールギ酸エステルの反応収率は89%であった。
反応混合液に30℃以下の撹拌状態で水501gを添加した。撹拌を停止して下層の水層を分離除去した。有機層から60℃、50Torr(6666Pa)の条件で、溶媒、ギ酸及び酢酸等の低沸点化合物を留去し、残留液105gを得た。得られた残留液にメタノール519g、5重量%水酸化ナトリウム水溶液2359gを加え、50℃で2時間撹拌した。その後、30℃以下の撹拌状態で濃塩酸53gを添加して液のpHを約6に調整した後、酢酸エチル1475gを加えて10分間撹拌した。撹拌を停止し、下層の水層を分離除去した。上層の有機層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1310gを加えて10分間撹拌した後、下層の水層を分離除去した。上層の有機層を70℃、20Torr(2660Pa)の条件で濃縮することにより、純度98重量%の4−ベンジルオキシ−3−メトキシフェノールを88g得た。収率は89%(4−ベンジルオキシ−3−メトキシベンズアルデヒド基準)であった。
【0053】
実施例4(3,4−ビス(ベンジルオキシ)フェノールの製造)
3,4−ビス(ベンジルオキシ)ベンズアルデヒド100gを、酢酸エチル101g、ギ酸101gに溶解させた後、反応系内部の温度を40℃に保ちながら、過酢酸を30重量%含む酢酸エチル溶液80gを約1時間かけて滴下した。40℃で4時間さらに撹拌を続け、反応を終了した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、3,4−ビス(ベンジルオキシ)フェノールギ酸エステル及び3,4−ビス(ベンジルオキシ)フェノールの生成量の和に対する、3,4−ビス(ベンジルオキシ)安息香酸の生成量の割合は5%であった。3,4−ビス(ベンジルオキシ)フェノールギ酸エステルの反応収率は90%であった。
反応混合液に30℃以下の撹拌状態で水500gを添加した。撹拌を停止して下層の水層を分離除去した。有機層から60℃、50Torr(6666Pa)の条件で、溶媒、ギ酸及び酢酸等の低沸点化合物を留去し、得られた残留液にエタノール501g、5重量%水酸化ナトリウム水溶液2000gを加え、50℃で2時間撹拌した。その後、30℃以下の撹拌状態で酢酸51gを添加して液のpHを約5に調整した後、酢酸エチル1475gを加えて10分間撹拌した。撹拌を停止し、下層の水層を分離除去した。上層の有機層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液1202gを加えて10分間撹拌した後、下層の水層を分離除去した。上層の有機層を70℃、20Torr(2660Pa)の条件で濃縮することにより、純度97重量%の3,4−ビス(ベンジルオキシ)フェノールを87g得た。収率は90%(3,4−ビス(ベンジルオキシ)ベンズアルデヒド基準)であった。
【0054】
比較例1(3,4−ジメトキシフェノールの製造)
3,4−ジメトキシベンズアルデヒド40gを酢酸エチル80gに溶解させた後、反応系内部の温度を40℃に保ちながら、過酢酸を30重量%含む酢酸エチル溶液92gを約1時間かけて滴下した。40℃で7時間さらに撹拌を続け、反応を終了した。反応混合液を高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、3,4−ジメトキシフェノールギ酸エステル及び3,4−ジメトキシフェノールの生成量の和に対する、3,4−ジメトキシ安息香酸の生成量の割合は26%であった。3,4−ジメトキシフェノールギ酸エステルの反応収率は84%であった。
反応混合液に30℃以下の撹拌状態で水301gと酢酸エチル100gを添加した。撹拌を停止して下層の水層を分離除去した。有機層から60℃、50Torr(6666Pa)の条件で、溶媒及び酢酸等の低沸点化合物を留去し、残留液41gを得た。得られた残留液にメタノール602g、10重量%水酸化カリウム水溶液501gを加え、50℃で2時間撹拌した。その後、30℃以下の撹拌状態で濃塩酸38gを添加して液のpHを約6に調整した後、酢酸エチル120gを加えて10分間撹拌した。撹拌を停止し、下層の水層を分離除去した。上層の有機層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液105gを加えて10分間撹拌した後、下層の水層を分離除去した。上層の有機層を70℃、20Torr(2660Pa)の条件で濃縮することにより、純度86重量%の3,4−ジメトキシフェノールを32g得た。収率は84%(3,4−ジメトキシベンズアルデヒド基準)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシベンズアルデヒド類を、ギ酸の存在下、過カルボン酸により酸化して、下記式(2)
【化2】

(式中、R1、R2は前記に同じ)
で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を得ることを特徴とするアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法。
【請求項2】
ギ酸の使用量が、式(1)で表されるアルコキシベンズアルデヒド類1モルに対して、0.8〜25モルである請求項1記載のアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法。
【請求項3】
過カルボン酸が炭素数1〜7の過カルボン酸である請求項1又は2記載のアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法。
【請求項4】
反応溶媒として、炭素数1〜7のカルボン酸、及び炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステルから選択された少なくとも1種の有機溶媒を用いる請求項1〜3の何れかの項に記載のアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法。
【請求項5】
式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類及び下記式(3)
【化3】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシフェノール類の生成量の和に対する、下記式(4)
【化4】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシ安息香酸類の生成量の割合を、高速液体クロマトグラフィーのクロマトグラムにおけるピーク面積の割合として、8%以下に制御する請求項1〜4の何れかの項に記載のアルコキシフェノールギ酸エステル類の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの項に記載の製造方法により得られた下記式(2)
【化5】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、メチル基又はベンジル基を示す)
で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を、水及び/又はアルコール類を加えて分解し、下記式(3)
【化6】

(式中、R1、R2は前記に同じ)
で表されるアルコキシフェノール類を得ることを特徴とするアルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項7】
式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を塩基性化合物の存在下で分解する請求項6記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項8】
塩基性化合物を、系内に酸が存在する場合は該酸を中和する量に加え、式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類に対して1当量以上使用する請求項7記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項9】
式(2)で表されるアルコキシフェノールギ酸エステル類を塩基性化合物の存在下で分解した後、酸を添加してpHを9未満とし、続いて水と非水溶性有機溶媒とを用いた抽出操作により、式(3)で表されるアルコキシフェノール類を有機層側に抽出する工程を含む請求項7又は8記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項10】
酸が、鉱酸、スルホン酸及びカルボン酸から選択された少なくとも1種である請求項9記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項11】
非水溶性有機溶媒が、炭素数1〜7のカルボン酸の炭素数1〜6のアルコールとのエステルである請求項9記載のアルコキシフェノール類の製造方法。

【公開番号】特開2007−314431(P2007−314431A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142442(P2006−142442)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】