説明

アルコールを含まないアルガトロバン製剤

本発明は、アルコールを全く含まないとはいかないまでも、実質的に含まない、アルガトロバン及び関連化合物の水性製剤を、再構成可能な製剤と共に開示している。これらの製剤は、単糖、二糖、及びオリゴ糖もまた同様に全く含まないとまではいかなくても、実質的に含んでいない。特に好適な実施形態は、アルガトロバン、ラクトビオン酸、及びメチオニンを有する、すぐに投与可能な1mg/ml注入投与形態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2006年10月11日出願の米国仮特許出願第60/850,725号及び2006年9月27日出願の米国仮特許出願第60/847,556号の利益を主張する。同様に、これと同時に出願された共同所有の米国特許出願を参照し、前記米国特許出願は、本出願と同一発明者による同一主題を有し、上記の同じ二つの仮特許出願から優先権を主張している。これら出願のそれぞれ、及び本明細書中に記載の特許及び特許出願のそれぞれの記述は、それら全体が参照によって援用される。
【0002】
本発明は、アルガトロバン及び関連化合物に関し、アルコールもしくは他の溶媒を必要とせず、かつ/或いは糖類を用いることなく、水媒体中の所望濃度の注入物質及び他の水溶液をもたらすアルガトロバン及び関連化合物の可溶化に関する。
【背景技術】
【0003】
アルギニンスルホンアミド類は、抗血栓作用を有することが知られている(特許第1382377号公報(特許文献1)を参照)。しかしながら、これらは一般的に水に難溶性であることから、アルギニンスルホンアミド類のいずれかを含有する高濃度の溶液を調製することは極めて困難である。それ故に、一般的には、これらの化合物を高濃度で含有する注入製剤として用いるのには適していない。米国特許第5214052号明細書(特許文献2)では、これらの化合物を、水、エタノール、及び糖類(単糖、二糖、オリゴ糖、及びそれらの対応する還元糖アルコールを含む)を含む溶出溶媒に溶解させることで、この問題を解決しようと試みている。現在米国においてEncysive社より販売されているアルガトロバンは、750mgのD-ソルビトール、及び1mlあたり1000mgの無水アルコールを含有する100mg/mlアルガトロバン濃縮物の2.5mlバイアルとして販売されており、その後に実際使用する時点で、この濃縮物は1mg/mlのアルガトロバンに希釈される。この製剤は、充填及び最終濃度への溶解の面において利点を有する一方で、僅かではない量のエタノールを含有するという欠点を有しており、対象となる患者が低体重である場合にはとりわけ問題となる。現状の投与速度は、50kgの患者の場合は(1mg/ml希釈溶液を)1時間あたり6ml、140kgの患者の場合で(1mg/ml希釈溶液を)1時間あたり17mlであり、それぞれアルガトロバンの投与について望ましい処置継続時間にわたってである。従って、供給されるそれぞれのバイアルは250mlの投与可能な希釈溶液を提供し、ほとんど長時間にわたる処置において結果的に多大なる量の薬品の無駄が生じる(溶液250mlは、50kgの患者の場合、40時間にわたって投与され、140kgの患者の場合、14時間にわたって投与されるのに十分な量である)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第1382377号公報
【特許文献2】米国特許第5214052号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、完全な水溶液系においてアルギニンスルホンアミドの溶解性を向上させる方法を提供することであり、具体的には、炭素数1〜4のモノアルコール類、とりわけエタノールなどの有機溶媒を用いなくとも、非経口的投与用の高濃度溶液を調製することを目的としている。
【0006】
本発明のさらなる目的は、単糖、二糖、オリゴ糖、及びそれらの対応する糖アルコールを含めた糖類を本質的に含まないアルギニンスルホンアミド製剤を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、使用時のさらなる希釈が、多くの典型的な投与形態において多大なる薬品廃棄物をもたらすほど濃縮されていないアルギニンスルホンアミドの剤形を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、高希釈を必要としないが、使用する際に調製するのに好都合であるよう十分に濃縮されており、かつ現状販売されているアルガトロバンよりも溶解誤差が生じにくいアルギニンスルホンアミドの剤形を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、アルギニンスルホンアミドをすぐに投与できる1mg/ml溶液を5ml〜500mlのバイアル及び25ml〜500mlの輸液バッグで提供することである。
【0010】
本発明のさらなる別の目的は、少なくとも18ヶ月程度の貯蔵安定性を有している、アルギニンスルホンアミドをすぐに投与できる剤形を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる他の目的は、最終滅菌工程でpHについて十分な安定性を有している、アルギニンスルホンアミドをすぐに投与できる剤形を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、最終滅菌工程で分解産物について十分な安定性を有している、アルギニンスルホンアミドをすぐに投与できる剤形を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、無菌工程或いは最終滅菌工程において、メチオニンなどの抗酸化剤の存在下、分解産物について十分な安定性を有している、アルギニンスルホンアミドをすぐに投与できる剤形を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる他の目的は、アルギニンスルホンアミドの水溶解度ならびに安定性を向上させるために、可溶化剤及び/または安定剤としてラクトビオン酸を用いることである。
【0015】
本発明のさらなる別の目的は、炭酸イオン及び/または重炭酸イオンを含有する、アルガトロバンをすぐに投与できる注入用水溶液を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる他の目的は、特に、軟膏、クリーム、坐薬、液体入りタブレット、液体入りカプセル、及び経皮的手段を含む、非注入投与形態に組み込み可能なアルギニンスルホンアミドの水性製剤を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる他の目的は、アルギニンスルホンアミドの水溶解度ならびに安定性を向上させるために、可溶化剤及び/または安定剤としてラクトビオン酸を用いることである。
【0018】
本発明のさらなる別の目的は、当業者にとって明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、実質的に低級アルコールを含まず、本質的に糖類(単糖、二糖、及びオリゴ糖、ならびにこれらの対応する糖アルコール)を含まない水性緩衝系へのアルギニンスルホンアミド(最も好ましくはアルガトロバン)の溶解を含む、アルギニンスルホンアミドを溶解する方法を提供する。さらに、本発明は、アルギニンスルホンアミドを含む医薬組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ある実施例において、本発明は、一般式(I)で示すN2-アリールスルホニル-L-アルギニン或いはその医薬上許容される塩の溶解を含む、アルギニンスルホンアミドを溶解する方法を提供し、
【化1】

式中、R1は、非置換もしくは置換基を有する2-カルボキシピペリジノ基〔この基には、アルキル、カルボキシ、アミド化されたカルボキシ(前記アミド化されたカルボキシの窒素原子はさらに非置換であるか、あるいは1つまたは2つのアルキル置換基を有し、前記アルキル置換基は結合して、前記アミド化されたカルボキシの窒素原子とともに5、6、または7員環を形成していてもよい)〕、エステル化されたカルボキシ、または前記カルボキシキの医薬として許容可能な塩を表し、好ましくは4-アルキル-カルボキシピペリジノ基であり、さらに好ましくは(2R,4R)-4-アルキル-2-カルボキシピペリジノ基である。本明細書中に記載されるアルキル基は、1〜5個の炭素原子を有する低級アルキルであり、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、及びブチルを含むが限定するものではない。好ましくは、R1基は(2R,4R)-4-メチル-2-カルボキシピペリジノ基を示す。
【0021】
R2は、フェニル基または縮合多環式化合物残基を表す。本明細書中で定義される縮合多環式化合物残基は、スルフォニル基の硫黄原子と結合し、1またはそれ以上の他の環と縮合されたベンゼン環を含み、その他の環は炭素環または複素環であってよく、さらにはその環構成原子として3〜14個の炭素原子(但し、スルフォニル基の硫黄原子と結合するベンゼン環内の環原子を除く)を含む。縮合多環式化合物残基に含まれるベンゼン環は、一般式(I)内のスルフォニル基の硫黄原子とそのベンゼン環の任意の位置で結合する。但し、硫黄原子と結合するベンゼン環上の位置は特に限定されているわけではない。複素環を構成する1つまたは複数のヘテロ原子は、酸素、窒素または硫黄原子であってよい。上記の一般式(I)のスルフォニル基の硫黄原子と直接結合するベンゼン環以外の他の環は、芳香環もしくは部分的に飽和されていてもよく、三環式基の場合、ベンゼン環と結合されていない第3の環はさらに完全に飽和されていてもよい。複素環の窒素原子はさらに非置換であっても、或いはアルキルでさらに置換されていてもよく、かつ複素環の硫黄原子は酸化されてなくても、一段階酸化或いは二段階酸化(すなわち、-S-、-S(O)-、または-SO2-)されてもよい。好ましくは、縮合多環式化合物残基は、二つの環(好ましくは、五員環または六員環の二つの環であり、それぞれが複素環であってよい)と縮合されたベンゼン環を含む一つの他の環(好ましくは、複素環もしくは三環式化合物残基であり得る一つの五員環または六員環)と縮合されるベンゼン環を含む二環式化合物残基である。このような縮合多環式化合物残基の例として、アントリル、フェナントリル、ベンゾフラニル、ジベンゾチエニル、フェノキチニル(phenoxthinyl)、キノリル、カルバゾリル、アクリジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル、ベンジミダゾリル、フルオレニル、2,3-ジヒドロベンゾフラニル、チオキサテニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、イソキノリル、テトラヒドロキノリル、及びテトラヒドロイソキノリルを含む。
【0022】
必要に応じて、R2基は、低級アルキル基、低級アルコキシ基、及び低級アルキル置換アミノ基から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。低級アルキル基は、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びt-ブチルを含むが限定するものではない。低級アルコキシ基は、1〜5個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、及びブトキシを含むが限定するものではない。低級アルキル置換アミノ基は、非置換またはさらには一置換もしくは二置換であってよく、そのような置換基はそれぞれ1〜5個の炭素原子を有する低級アルキルから選択され、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びt-ブチルを含むが限定するものではない。
【0023】
好ましくは、R2基は、3-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-8-キノリル基を示す。
【0024】
さらには、本明細書において特に限定しないか、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、1個以上の不斉中心を有する上記式(I)の範囲内のあらゆる化合物には、個々の光学異性体及びそれらの異性体の混合物が含まれると見なされ、不斉中心を有すると示される式(I)の範囲内のあらゆる化合物は、光学異性体であるか否かを問わず、個々の光学異性体のそれぞれ及びあらゆる割合のそれらの混合物をまた含み、かつ光学異性体として同定される式(I)の範囲内のあらゆる化合物は、その他の光学異性体及びさまざまな比率におけるこれらの混合物への言及が含まれる。
【0025】
本発明において使用するのに好適なアルギニンスルホンアミドの例として、以下に示す化合物及びそれらの医薬上許容される塩が含まれる:
(2R,4R)-1-[N2-(3-イソプロポキシベンゼンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(3,5-ジメチル-4-プロポキシベンゼンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-2-ナフタレンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(5-ジメチルアミノ-1-ナフタレンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(3-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-8-キノリンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(2-ジベンゾチオフェンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(2,4-ジメトキシ-3-ブトキシベンゼンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(3,5-ジメチル-4-プロポキシベンゼンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(3-エチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-8-キノリンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(2-カルバゾールスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(2-フルオレンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(2-フェノキシチンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、
(2R,4R)-1-[N2-(2-アントラセンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸、及び
(2R,4R)-1-[N2-(7-メチル-2-ナフタレンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸;
及びこれらの4-エチル類縁体、4-プロピル類縁体、4-ブチル類縁体、及び4-ペンチル類縁体;ならびに酸付加塩(化合物中の塩基性窒素の塩酸塩)もしくは塩基性塩(スルホンアミド基及び/またはカルボキシ基のアミン塩)である、これらの医薬上許容される塩。本発明中で使用される最も好ましいアルギニンスルホンアミドは、アルガトロバンまたはその医薬上許容される塩である。
【0026】
本発明において、一般式(I)で示されるアルギニンスルホンアミド類の塩を用いてよい。塩は、一般式(I)で示されるアルギニンスルホンアミドを医薬上許容される無機酸または有機酸と反応させることによって調製される酸付加塩(スルホンアミド基及び多くの化合物の場合、さらなるカルボキシ基を含む)であってよく、無機酸または有機酸は、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、燐酸、酢酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルクロン酸もしくはグルコン酸のエステル類(例えば、ラクトビオン酸)、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸などを含むが限定するものではない。さらには、塩は、一般式(I)で示されるアルギニンスルホンアミドを医薬上許容される有機塩基または無機塩基と反応させることによって調製される無機塩または有機塩であってよく、有機塩基または無機塩基は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエチルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン及びN-エチルピペリジンを含む。
【0027】
本発明に係るアルギニンスルホンアミドを溶解する一つの方法において、アルギニンスルホンアミド及び/またはその塩はアミノ酸水溶液に溶解される。本発明において用いられるアミノ酸は、好ましくは、アルギニン、グリシン、メチオニン、もしくはpKa>9.0の塩基性基を少なくとも一つ有するその他のアミノ酸、またはこれらの混合物からなる群から選択される。アミノ酸は、酸もしくはこれらの塩、もしくはこれらの混合物として使用してよい。D-もしくはL-、またはD,L-アミノ酸が用いられる一方で、L-アミノ酸は第1の実施形態において典型的に好ましい。他の実施形態において、以下に記載されるとおり、D,L-アミノ酸が一般的に好ましい。製剤及びアミノ酸溶液のpHは、例えば、酢酸または他のあらゆるカルボン酸、ジカルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸を含むがこれらに限定されない1つ以上の医薬上許容されるカルボン酸で約8.0〜約10.0に調整され、そのような塩または塩及び酸の混合を用いることで適当なpHに到達し得るのであれば酸自身もしくはそれらの塩、またはこれらの混合物によって調整され得る。好適なアミノ酸類は、アルギニン、グリシン、及びメチオニンである。この第1の実施形態においては、アルギニン及びグリシンが極めて好ましい一方で、第2の実施形態においては、以下により詳細に述べるが、メチオニンがより好適なアミノ酸である。
【0028】
本発明において、塩または遊離形態として存在し得る化合物の与えられた質量への言及は、その化合物の遊離形態についてのものである。従って、526ダルトンの分子量を有するアルガトロバン、548ダルトンの分子量を有するアルガトロバンモノナトリウム塩、及び561ダルトンの分子量を有するアルガトロバンモノ塩酸塩などの化合物の場合、「52.6mgのアルガトロバン」との記載は非塩形態のアルガトロバン52.6mgを意味し、モノナトリウム塩についての記載の場合、52.6mgのアルガトロバンは、52.6mgのアルガトロバン成分を有する54.8mgのアルガトロバンモノナトリウム塩を意味し、或いはアルガトロバンモノ塩酸塩についての記載の場合、非塩形態のアルガトロバン成分52.6mgを有する56.1mgのアルガトロバンモノ塩酸塩を意味する。その他の塩類の、記述される塩形態の正確な重量を見出すための対応する算定方法は、当業者に既知である。アミノ酸の質量もまた、当業者に既知である特定の塩の正確な質量を見出すために、適当な算定方法で、それらの非塩形態についてのものである。
【0029】
アミノ酸は、一般的には、(式(I)の化合物の非塩形態に基づいて)存在する式(I)で示される化合物の量の約1.5〜約2.5倍、好ましくは約2倍の量が含まれる。(炭酸塩以外の)カルボン酸は、一般的には、(式(I)の化合物の非塩形態に基づいて)存在する式(I)の化合物の量の約1.5〜約2.5倍、好ましくは約2倍の量が含まれる一方で、炭酸塩は、一般的には、(式(I)の化合物の非塩形態に基づいて)存在する式(I)の化合物の量の約3.0〜約9.8倍(CO3に基づく)の量を含み、アミノ酸を含まない場合、好ましくは約1.4〜約5.2倍、より好ましくは約1.5〜約2.5倍、更に好ましくは約1.9〜約2.0倍であり、アミノ酸を含む場合、好ましくは約3.0〜約5.2倍、更に好ましくは約4.1〜約4.2倍である。当業者であれば、(炭酸塩以外の)カルボン酸を炭酸塩とともに含むとき、状況に応じてこれらの量を調節することは可能である。
【0030】
本発明において使用される水は、(別途示さない、或いは特に断らない限り)注入用水性液体を含み、この注入用水性液体は、蒸留水、精製水、注射用蒸留水、生理食塩水、リンゲル液(Ringer's Solution)、ラクトリンゲル液(Lactated Ringer's Solution)、及び5%リンゲルデキストロース溶液(dextrose Ringer's solution)を含むが、限定するものではない。
【0031】
一般式(I)を有するアルギニンスルホンアミドを水及び任意にアミノ酸水溶液中に溶解する方法は、特別に限定されるものではない。一般的には、アミノ酸(もしくはその塩、またはアミノ酸及びその塩の混合物)を含むならば、それは水に溶解され、次いで必要に応じて、無機もしくは有機塩基(またはカルボン酸の塩類またはその塩類の混合物及びそれらの共役酸もしくは共役塩基(アルカリ金属塩類及びカルボン酸のアンモニウム塩類を含む))の添加、続いて混合することにより、pH値を約8.7〜約10に上方調節する。これら二つの工程は、必要に応じて順序を逆にしてもよい。続いて、アルギニンスルホンアミドを徐々に添加し、完全に溶解するまで攪拌する。必要に応じて、続いてpH値を下方調節してもよいが、必須ではない。濃縮物が後に希釈されるように調製される場合、注入投与する前に後の希釈物のpHが生理的pH値域へと調整されるので、高いpHは溶解及び保存段階において許容される。アミノ酸を50mg/ml含む濃縮液は、(特にアミノ酸としてアルギニンを用いた場合)アルギニンスルホンアミドを添加する前にはpHが約11〜約11.5である。これらの濃縮液で、アルギニンスルホンアミドは溶解され、上述したように適切な酸またはバッファを用いることにより、約8.7〜9.5の範囲に下方調節される。すぐ投与できる注入製剤が望ましい場合、溶解pHは約9.2のpH値以下であるべきであり、より好ましくは、一般的に溶解pHが約8.7、約8.8、または約8.9である。
【0032】
溶解時の温度は特に限定されない。しかしながら、アルギニンスルホンアミドが水に溶解される場合は、溶解速度を上昇させるために水を約40℃から約70℃に加熱することが好ましい。
【0033】
溶液中のアルギニンスルホンアミドの濃度は、目的の用途に応じて幅広く選択されてよい。本発明によれば、アルギニンスルホンアミドを溶解する溶液は、水のみにおけるアルギニンスルホンアミドの溶解度によって一般的に得られるアルギニンスルホンアミドの濃度より数倍高いアルギニンスルホンアミドの濃度を結果的にもたらし得る。本発明において最も有利には、アルガトロバンまたはその医薬上許容される塩が活性物質である場合、アルガトロバンは最大約7.5mg/ml、好ましくは約6mg/ml、最も好ましくは約5mg/ml(アルガトロバンの非塩形態に基づく)溶解されてよい。本発明に係るさらなる実施形態は、式(I)の化合物を含む、約0.8〜約1.25mg/ml、好ましくは約0.9〜約1.1mg/ml、さらに好ましくは約1mg/mlのすぐに投与できる溶液である。記載したすべての量は、式(I)で示される遊離化合物、すなわち非塩形態の化合物の量である。種々の塩類の対応する量は、当業者による決められた計算方法によって容易に計算することが可能である。
【0034】
本発明の第2の実施形態において、式(I)のアルギニンスルホンアミド化合物、好ましくはアルガトロバン、またはこれらの医薬上許容される塩は、グルコン酸もしくはグルクロン酸(または糖の1位が、グルコンもしくはグルクロン酸の一つの水酸基とエーテル化された糖エーテルであり、好ましくはラクトビオン酸、またはその塩である)及び/または炭酸のアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩(例えば、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、及びこれらの混合物)、及び任意にアミノ酸またはその塩、の水溶液中に溶解される。いずれの場合においても、塩類を含むならば、医薬上許容される塩であり、溶液が注入物質として使用される場合、塩は注入製剤としての使用に適合される。製剤は、好ましくは、式(I)の化合物もしくはその医薬上許容される塩;グルコン酸もしくはグルクロン酸、またはいずれか一方のエーテルまたはそれらの医薬上許容される塩(好ましくは、ラクトビオン酸またはその医薬上許容される塩)、及び/または炭酸のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩、好ましくは炭酸のナトリウム塩または炭酸のナトリウム塩類の混合物;任意選択により、アミノ酸、D-、L-、もしくはD,L-型、好ましくはD,L-型である抗酸化アミノ酸(より好ましくはメチオニン)、アルギニン、またはグリシンであり、前記アミノ酸は任意にそれらの医薬上許容される塩の形態である;及び水(必要に応じて溶液を適当なオスモル濃度に調節するために、水はさらに(糖類以外の)任意の不活性オスモル濃度調整剤を含有してもよい);を含有しており、かつ前記製剤は、実質的にエタノールを含んでおらず、好ましくは実質的に炭素数1〜4の一価のアルコールを含んでおらず;さらには、製剤は、実質的に単糖、二糖、及びオリゴ糖ならびにそれらの対応する糖アルコールを含んでいない。本発明において、低級アルコールについて「実質的に含んでいない」とは、約5%v/v未満、好ましくは約2.5%v/v未満、より好ましくは約1%v/v未満、さらに好ましくは約0.5%v/v未満を意味し、「糖類」については、約10%w/v未満、好ましくは約7.5%未満、より好ましくは約5%未満、さらに好ましくは約2.5%未満、さらに一段好ましくは約1%未満、特に好ましくは約0.05%w/v未満を意味する。メチオニンまたはその他の抗酸化アミノ酸の包含は、最終滅菌に関する製品の安定性が向上されるので、これはとりわけ好ましい一実施形態である。
【0035】
この実施形態において、第一に水を加熱、好ましくは沸騰させることが望ましく、続いて約30〜50℃、好ましくは約35℃の温度まで水を冷却させる。カルボン酸(好ましくは、ラクトビオン酸もしくはその医薬上許容される塩、及び/または炭酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩)が添加され、溶解される。続いて、任意のアミノ酸が添加され、溶解される。次いで、式(I)の化合物(またはその医薬上許容される塩)が添加され、溶解される。この手段において、アミノ酸及びカルボン酸を添加する工程は必要に応じて逆にしてもよく、アミノ酸は式(I)の化合物が添加された後に添加してもよい。pH値は、式(I)の化合物の溶解を容易にするために、式(I)の化合物またはその医薬上許容される塩を添加する前に、pH約8.5を超えて、好ましくは約8.6を超えて、より好ましくはpH約8.7〜約9.2を超えて、さらに好ましくは約8.7、約8.8、約8.9、約9.0、約9.1または約9.2となるように任意の時点で適切に調整される。
【0036】
より高いpH値の状態は、実際の注入の前にさらに希釈される濃縮製剤の溶解段階に適当であり、最終的な使用濃度へと希釈されることによって、pH値は注入用途に生理学的に許容される値となり、典型的には約9.2未満、好ましくは約9.0未満、より好ましくは約8.8未満、さらに好ましくは8.7未満の範囲へとpH値を希釈することによって低下させる。必要に応じて、pH値の最終調整は適当な酸または塩基または緩衝剤を用いて実施してよく、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、またはカルボン酸/カルボン酸塩(炭酸のアルカリ金属若しくはアンモニウム塩の混合物を含む)及び/またはアミノ酸/アミノ酸塩両方またはいずれか一方の緩衝溶液などが挙げられる。したがって、濃縮製剤が本発明において調製されてもよく、その製剤は実質的に高いpH値を有し、一方、すぐに使用できる剤形は一般的に弱アルカリpHを有し、一般的には約8.6よりも大きく、かつ約9.2未満である。
【0037】
このようにして得られた、一般式(I)を有するアルギニンスルホンアミド、アミノ酸、水、及びカルボン酸を含む溶液は、本発明の医薬組成物の第1の実施形態を構成する一方で、(a)式(I)の化合物;(b)水;(c)(1)グルコン酸、グルクロン酸、及び/またはこれらのエーテル、及び/または(c)(2)炭酸のアルカリ金属またはアンモニウム塩または炭酸のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩の混合物;及び(d)任意にアミノ酸(好ましくは抗酸化剤)を含有する溶液は、第2の実施形態を構成する。容易に認識されるように、第1の実施形態におけるカルボン酸が、グルコン酸、グルクロン酸、いずれか一方のエーテル(特にラクトビオン酸)及び炭酸のアルカリ金属またはアンモニウム塩またはアルカリ金属もしくはアンモニウム塩の混合物から選択され、第1の実施形態におけるアミノ酸が抗酸化アミノ酸であるとき、これら二つの実施形態は重複する。
【0038】
本発明に係る医薬組成物は、血栓症の治療、及び活性剤が有用であると既に知られている他のあらゆる疾患の治療及び/または予防に有益である。従って、この医薬組成物は抗血栓剤として用いることができる。
【0039】
本発明に係る医薬組成物は、防腐剤、抗酸化剤、鎮痛剤、及び同類のものを含んでよい。そして、必要に応じて、複合製剤(combined preparation)を形成するのにアルギニンスルホンアミド以外の任意の医薬成分を添加してもよい(但し、そのような他の成分が投与の指示及び経路に許容されることを前提とする)が、本発明に係る組成物及び一連の製造過程は、(1)エチルアルコール、または(2)糖類、好ましくは単糖もしくは二糖もしくはオリゴ糖、より好ましくはあらゆる糖類(ここで本明細書中の糖類はそれらの対応する還元糖アルコールを含む)、または(3)(1)及び(2)の両方、を実質的に含まないか、そうでなければ全く含まない。
【0040】
第1の実施形態における本発明の第1の組成物は、医薬上注入可能な組成物であり、注入形態として投与される。この注入可能な組成物は、さらには注入に適用可能な安定剤、緩衝剤、防腐剤、及び同類のものを含んでよい。必要に応じて、本発明に係る注入可能な組成物は、高濃度でアルギニンスルホンアミドを含むように調製され、水、電解液(例えば、とりわけ生理食塩水など)、糖液(例えば、5%Dextrose)、リンガー溶液及び同類の液体を用いて、投与時または投与間近に希釈することにより(例えば、輸液及び/または透析によって)使用される。濃縮された製剤は、1mlあたり(遊離のアルギニンスルホンアミド(非塩形態)に基づいて)最大約7.5mg、好ましくは最大約5mgの用量を含有してもよい。アルギニンスルホンアミドの場合、投与するためには一般的に(非塩形態アルギニンスルホンアミドに基づいて)約1mg/mlに希釈される。濃縮液を注入形態に用いるための他の濃度への希釈は、当業者の通常の知識の範囲内でなされることである。製剤は、以下にさらに詳細に説明するように、適当な希釈剤によって再構成される凍結乾燥製剤、または無菌乾燥充填剤として調製することも可能である。
【0041】
第2の実施形態における本発明の第1の組成物もまた、医薬上許容される注入用組成物としてであり、主にすぐに投与できる組成物として構成される。本実施形態において、好ましくはアルガトロバンであるアルギニンスルホンアミド(または遊離のアルギニンスルホンアミドに基づくその塩)は、pH値約8.5〜約9.2、好ましくは約8.6〜約8.9、より好ましくはpH約8.7〜約8.9である水溶液中で約1.25mg/ml、好ましくは約1.1mg/ml、より好ましくは約1mg/ml以下の濃度で含まれ、水溶液は(a)カルボン酸として、 (1)グルコン酸、グルクロン酸、及びそれらの糖エーテル、特にラクトビオン酸及びその医薬上許容される塩から選択される少なくとも1つのもの、及び/または(2)炭酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩またはアルカリ金属塩及び/もしくはアンモニウム塩の混合物、及び任意に(b)少なくとも1つのアミノ酸(好ましくは抗酸化アミノ酸)もしくはその医薬上許容される塩、を含有する。遊離のアルガトロバンの濃度が約1.0よりも大きい場合、アミノ酸またはカルボン酸を含む、或いは含まない、適当なpH値の十分な水で濃縮物を希釈することができる。浸透圧調節物質が利用される実施形態において(投与時における希釈の一部として以外に)、浸透圧調節剤は糖または糖アルコールでないことが好ましい。
【0042】
また、他の実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、局所に適用するための溶液、軟膏もしくはクリーム(溶液は適当な局所軟膏またはクリーム基材に配合される)、または坐剤(溶液は適当な坐剤の基剤に配合される)である。この医薬組成物が局所に適用するための溶液として用いられるとき、上記のとおり調製された溶液はそのまま用いてもよく、或いは希釈してから用いてもよい(使用時の濃度は、1.0mg/mlにとどまらない)。(一般的には濃縮されている)溶液は、アルガトロバンの局所または全身投与のための経皮用製品の調製に用いることも可能である。経皮投与に使用されるとき、経皮剤形は溶液を含有することが一般的に可能な形態であり、例えば、不透過性裏当て層と、(使用する前に)取り外し可能な不透過性層で被覆されている透過性皮膚接触層との間の空間によって規定された活性剤貯蔵部を(特に限定しないが)有する貯蔵型経皮剤形が挙げられるが、限定するものではない。或いは、経皮剤形は一体層に溶解されたアルガトロバンを含んでもよく、その一体層に粘着性物質をさらに含んでも、または含まなくてもよく、一体層は(使用する前に)取り外し可能な不透過性層で被覆されていてよい。経皮用製品を投与する時に、取り外し可能な不透過性層は取り除かれ、残りの部分は、薬剤が患者の皮膚内に浸透するように患者の皮膚に適用される。
【0043】
ここで、本発明を、以下に示す限定されない実施例によって、更に詳しく説明する。
【0044】
[実施例1]
(2R,4R)-1-[N2-(3-メチル-1,2,3,4-テトラヒドロ-8-キノリンスルホニル)-L-アルギニル]-4-メチル-2-ピペリジンカルボン酸(アルガトロバン)を、50mg/mlのアルギニンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、酢酸を用いて最終的な溶液のpH値を9.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、25℃で行った。
【0045】
[実施例2]
アルガトロバンを、50mg/mlのアルギニンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、酢酸を用いてpH値を9.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、50℃で行った。
【0046】
[実施例3]
アルガトロバンを、50mg/mlのアルギニンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、酒石酸を用いてpH値を9.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、25℃で行った。
【0047】
[実施例4]
アルガトロバンを、50mg/mlのアルギニンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、クエン酸を用いてpH値を9.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、25℃で行った。
【0048】
[実施例5]
アルガトロバンを、50mg/mlのアルギニンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、アジピン酸を用いてpH値を9.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、25℃で行った。
【0049】
[実施例6]
アルガトロバンを、50mg/mlのリシンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、酢酸を用いてpH値を9.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、25℃で行った。
【0050】
[実施例7]
アルガトロバンを、50mg/mlのアルギニンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、酢酸を用いてpH値を10.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、25℃で行った。
【0051】
[実施例8]
アルガトロバンを、50mg/mlのアルギニンを含む水溶液系に溶解させ(濃度5mg/ml)、酢酸を用いてpH値を8.0に調整した。アルガトロバンの溶解は、25℃で行った。
【0052】
[実施例9]
実施例1〜8を反復するが、但し、下記の温度及びアルガトロバンの形態を用いて、示した(アルガトロバンの非塩形態に基づく)濃度で溶解する。
【0053】
【表1A】

【表1B】

【0054】
[実施例10]
実施例1〜9を反復するが、但し、下記式
【化2】

(式中、R1及びR2が下記の表に記載のとおり選択される、)を有するアルガトロバン類縁体を用い、各々の先行実施例に示したmg量は、本実施例の遊離化合物の質量であり、アルガトロバンの質量ではない。
【0055】
【表2A】

【表2B】

【0056】
[実施例11]
実施例1の5mg/mlアルガトロバン溶液の6つのバイアルを、1mg/mlに希釈し、総容量30mlの1mg/ml溶液とし、同溶液を、1時間あたり6mg/mlの速度で50kgの患者に投与するのに用い、この処置は4.5時間かかると見込まれる。現在販売されている2.5mlバイアルのアルガトロバン100mg/mlより生じる200mgを超える量と比較すると、上記処置が終了する際、ごく僅かの未使用薬物(5mg未満)しか存在しない。
【0057】
僅か30mg(0.3ml)希釈するために現在販売されている100mg/mlの2.5mlバイアルを部分的に使用するという試みは、その後の希釈のために採取される実質的な量のばらつきをもたらすので、本発明の5mg/mlバイアルすべてを使用するときほど確実なものではない。
【0058】
[実施例12]
実施例1の溶液を、医薬上許容されるクリームもしくは軟膏基剤(例えば、Aquaphor(商標)など)に配合し、局所適用形態として使用する。
【0059】
[実施例13]
実施例1の溶液を、不透過性裏当て層(impermeable backing layer)上に適用し、かつ透過性膜及び遠位に位置する不透過性リリースライナーから成る積層体で覆い、これら集合体は、実施例1に係る溶液の経皮的に投与可能な剤形を形成するために融合させる。
【0060】
実施例1の溶液を、アルガトロバンの坐薬形態を調製するためにポリエチレングリコール8000の基剤に配合させる。
【0061】
[実施例14]
水を沸騰するまで加熱し、約35℃に冷却する。その水に約2mg/mlの濃度に達する量のラクトビオン酸を添加する。そこへ約1mg/mlの濃度に達するのに十分な量のアルガトロバンを添加する。溶液は、すぐに使用できる注入物質として適当な容器に充填し、完成品を最後に加熱滅菌する。
【0062】
[実施例15]
実施例14を反復するが、但し、ラクトビオン酸を添加した後、アルガトロバンを添加する前に、溶液のpHを約8.7に調整する。
【0063】
[実施例16]
実施例14を反復するが、但し、ラクトビオン酸及びアルガトロバンの量をさらに10%増加し、アルガトロバンが溶解された後、アルガトロバンの最終濃度を約1mg/ml、ラクトビオン酸の最終濃度を約2mg/mlになるように、さらにpH約8.7の水を任意に添加する。
【0064】
[実施例17]
水を沸騰するまで加熱し、約35℃に冷却する。D,L-メチオニンを添加し、メチオニン成分の濃度を約2mg/mlとする。次いで、約2mg/mlの濃度に達する量のラクトビオン酸を添加する。そこへ約1mg/mlの濃度に達するのに十分な量のアルガトロバンを続いて添加する。溶液は、すぐに使用できる注入物質として適当な容器に充填し、完成品を最後に加熱滅菌する。
【0065】
[実施例18〜19]
実施例15〜16を反復するが、但し、ラクトビオン酸を添加する前にDL-メチオニンを添加する。
【0066】
[実施例20〜25]
実施例16〜16を反復するが、但し、実施例20〜22において、DL-メチオニンは、ラクトビオン酸を添加した後、アルガトロバンを添加する前に添加し、実施例23〜25においては、D,L-メチオニンをアルガトロバンの後に添加する。さらに、実施例23〜25のそれぞれにおいては、D,L-メチオニン約2mg/mlの濃度となるような量を添加し、実施例20〜22においては、実施例17〜19よりも約10%増やした量を添加する。
【0067】
[実施例26]
2.6mlの0.025M炭酸ナトリウム溶液に11mgのアルガトロバンを溶解し、pH値を0.025N塩酸を1.5ml添加することにより調整する。最終的な溶液体積を10mlとし、pH値が約9.12となるように、注入に十分な量の水を添加する。
【0068】
[実施例27〜28]
5.5mlの0.025N炭酸ナトリウム溶液に11mgのアルガトロバンを溶解する。実施例27では、20mgのD,L-メチオニンを添加し、次いで1.5ml の0.025N塩酸を用いてpH値を下方調整する。実施例28では、これら二つの工程の順序を逆にする。続いて、最終的な溶液体積を10mlとし、最終溶液がpH値約8.85となるように、注入するための水を十分な量で添加する。
【0069】
[実施例29]
グリシン成分の最終濃度が2mg/mlとなる十分な量のグリシンを水に溶解する。続いて、pH値を1N水酸化ナトリウムを用いて約9.2に調整する。そこへ十分な量のアルガトロバンを添加し、結果的にアルガトロバン成分の最終濃度を約1mg/mlとする。最終的なpH値は、必要に応じて、1N水酸化ナトリウムを用いて約9.2に調整する。
【0070】
[実施例30〜34]
実施例29を反復するが、但し、ラクトビオン酸の最終濃度が約2mg/mlになる量のラクトビオン酸を、グリシンを溶解した後、pH値を調整する前に、添加し、前記pH値を8.5(実施例30)、8.7(実施例31)、9.0(実施例32)、9.5(実施例33)、または10.0(実施例34)に調整する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリpH条件下で、アミノ酸及び緩衝液を含む水溶液中に溶解された式(I)の化合物の医薬上許容される製剤であり、エタノールを実質的に含んでおらず、単糖、二糖、オリゴ糖を実質的に含んでおらず、かつ糖アルコールを実質的に含んでいない製剤。
【化1】

[式中、
R1は、非置換もしくは置換基を有する2-カルボキシピペリジノ基〔この基には、アルキル、カルボキシ、アミド化されたカルボキシ(前記アミド化されたカルボキシの窒素原子はさらに非置換であるか、あるいは1つまたは2つのアルキル置換基を有し、前記アルキル置換基は結合して、前記アミド化されたカルボキシの窒素原子とともに5、6、または7員環を形成していてもよい)〕、エステル化されたカルボキシ、または前記カルボキシキの医薬として許容可能な塩を表し、
R2は、フェニル基または縮合多環式化合物残基を表し、前記残基は、式中のスルフォニル基の硫黄原子と結合しているベンゼン環を含み、さらに、ヘテロ環であってよくかつ前記のスルフォニルの硫黄原子に結合したベンゼン環に含まれる炭素原子を除いた環構成原子として3〜14の炭素原子を有していてもよい1つ以上の別の環とベンゼン環が縮合しており、前記のへテロ原子は窒素、酸素、及び硫黄から選択され、ここで前記窒素原子は非置換であるかまたは低級アルキルで置換されていてよく、前記硫黄原子は酸化されていなくても、一段階酸化されていても、または二段階されていてもよく、前記へテロ環は1〜4のヘテロ原子を有する。]
【請求項2】
前記化合物がアルガトロバンまたはその医薬上許容される塩である、請求項1の製剤。
【請求項3】
式(I)で示される前記化合物が、(前記化合物の非塩形態に基づいて)約1mg/ml、約1.25mg/ml、約2mg/ml、約2.5mg/ml、及び約5mg/mlを含む群から選択される量に相当する濃度で含まれる、請求項1の製剤。
【請求項4】
前記アミノ酸が、メチオニン、グリシン、アルギニン、リシン、もしくは少なくとも一つの塩基性基のpKaが8.5より大きいその他のアミノ酸、またはそれらの混合物もしくはそれらの塩、或いは前記アミノ酸及び前記塩の混合物の群から選択される、請求項1の製剤。
【請求項5】
前記アミノ酸がアルギニン、グリシン、またはメチオニンである、請求項1の製剤。
【請求項6】
前記緩衝剤が、(1) 少なくともその酸性基のpKaが3.0以上である、カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸、及びそれらの塩、または前記カルボン酸及びそれらの前記塩の混合物;及び(2)炭酸アルカリ金属塩もしくは炭酸アンモニウム、重炭酸アルカリ金属塩もしくは重炭酸アンモニウム、またはそれらの混合物;の少なくとも1つを含む群から選択される少なくとも1つのものである、請求項1の製剤。
【請求項7】
前記緩衝剤が、酢酸緩衝液、アミノ酸緩衝液、またはラクトビオン酸緩衝液、または炭酸緩衝液である、請求項1の製剤。
【請求項8】
前記アミノ酸が、約1mg/ml〜約50mg/mlの量で含まれる、請求項1の製剤。
【請求項9】
(1)式(I)に示される前記化合物が、アルガトロバンもしくはその医薬上許容される塩、またはそれらの混合物であり、(2)前記アミノ酸が、アルギニン、グリシン、もしくはメチオニン、またはそれらの医薬上許容される塩、或いはそれらの混合物であり、かつ(3)前記緩衝液が、酢酸緩衝液、ラクトビオン酸緩衝液、または炭酸アルカリ金属塩もしくは炭酸アンモニウム緩衝溶液である、請求項1の製剤。
【請求項10】
5mg/バイアル〜500mg/バイアルから選択されるバイアル、または25ml/バッグ〜約500ml/バッグから選択される大きさのIV型輸液バッグに充填された、請求項1の製剤。
【請求項11】
式(I)に示される前記化合物がアルガトロバンまたはその医薬上許容される塩であり、
(a)少なくとも約0.75mg/ml(アルガトロバン成分に基づく)の量のアルガトロバンまたはその医薬上許容される塩;
(b)(1)アルガトロバンの質量(アルガトロバン成分に基づく)の少なくとも約1.5倍の量のラクトビオン酸もしくはその医薬上許容される塩、または前記ラクトビオン酸及びラクトビオン酸塩の混合物、
及び/または
(b)(2)アルガトロバンの質量(アルガトロバン成分に基づく)の少なくとも約1.4倍のCO3に基づく量のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩、または炭酸のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩の混合物、或いはラクトビオン酸塩の混合物;
かつ任意に、アルガトロバンの質量(アルガトロバン成分に基づく)の少なくとも約1.5倍(メチオニンの非塩形態に基づく)の量のメチオニンもしくはその医薬上許容される塩;
を含む、すぐに投与できる水溶液形態の請求項1のアルギニンスルホンアミド製剤。
【請求項12】
前記アルガトロバンまたはその医薬上許容される塩が、それらの非塩形態に基づいて約0.75mg/mlから約1.25mgの量含まれる、請求項11の製剤。
【請求項13】
前記ラクトビオン酸もしくはその医薬上許容される塩が、アルガトロバンの質量(その非塩形態に基づく)の最大約2.5倍の量(それらの非塩形態に基づく)含まれ、かつ、前記炭酸のアルカリ金属塩もしくは炭酸のアルカリ金属塩の混合物が、アルガトロバンの質量(アルガトロバンの非塩形態に基づく)の最大約5.2倍のCO3に基づく量含まれる(それらの非塩形態に基づく)、請求項11の製剤。
【請求項14】
前記メチオニンまたはその医薬上許容される塩が、アルガトロバンの質量(その非塩形態に基づく)の最大約2.5倍の量(それらの非塩形態に基づく)含む、請求項11の製剤。
【請求項15】
pHが8.5より大きい、請求項11の製剤。
【請求項16】
pHが約8.6より大きい、請求項15の製剤。
【請求項17】
pHが約8.7、約8.8、約8.9、約9.0、約9.1、または約9.2である、請求項15の製剤。
【請求項18】
(1)アルガトロバンまたはその医薬上許容される塩:ラクトビオン酸またはその医薬上許容される塩:メチオニンまたは医薬上許容される塩、の質量比が、(それぞれは対応する非塩形態に基づいて)約0.75〜約1.25:約1.50〜約2.50:約1.50〜約2.50である、或いは
(2)アルガトロバンまたはその医薬上許容される塩:(CO3に基づいて)炭酸のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩またはアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩の混合物:メチオニンまたはその医薬上許容される塩の質量比が、(それぞれのアルガトロバン及びアミノ酸塩は対応する非塩形態に基づいて)約0.75〜約1.25:約1.4〜約5.2:約1.50〜約2.50である、請求項11の製剤。
【請求項19】
前記比が、(a)ラクトビオン酸を含み、炭酸塩を含まない場合、約1:約2:約2、(b)炭酸塩を含み、アミノ酸を含まない場合、約1:約1.9〜約2.0:約2、或いは(c)炭酸塩を含み、アミノ酸を含まない場合、約1:約4.1〜約4.2:約2、である、請求項8の製剤。
【請求項20】
クリーム基剤、軟膏基剤、坐薬基剤、液体入りタブレット成分、液体入りカプセル成分、または経皮的手段成分をさらに含む、請求項1の医薬製剤。
【請求項21】
(a)式(I)の化合物もしくはその塩、またはそれらの混合物、
(b)任意に、アミノ酸もしくはその塩、またはそれらの混合物、
(c)(1)非アミノ酸カルボン酸もしくはその塩、またはそれらの混合物、及び(2)炭酸のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩またはそれらの混合物、のうち少なくとも1つ、
を備えた、式(I)の化合物の再構成可能な製剤。
【化2】

[式中、
R1は、非置換もしくは置換基を有する2-カルボキシピペリジノ基〔この基には、アルキル、カルボキシ、アミド化されたカルボキシ(前記アミド化されたカルボキシの窒素原子はさらに非置換であるか、あるいは1つまたは2つのアルキル置換基を有し、前記アルキル置換基は結合して、前記アミド化されたカルボキシの窒素原子とともに5、6、または7員環を形成していてもよい)〕、エステル化されたカルボキシ、または前記カルボキシキの医薬として許容可能な塩を表し、
R2は、フェニル基または縮合多環式化合物残基を表し、前記残基は、式中のスルフォニル基の硫黄原子と結合しているベンゼン環を含み、さらに、ヘテロ環であってよくかつ前記のスルフォニルの硫黄原子に結合したベンゼン環に含まれる炭素原子を除いた環構成原子として3〜14の炭素原子を有していてもよい1つ以上の別の環とベンゼン環が縮合しており、前記のへテロ原子は窒素、酸素、及び硫黄から選択され、ここで前記窒素原子は非置換であるかまたは低級アルキルで置換されていてよく、前記硫黄原子は酸化されていなくても、一段階酸化されていても、または二段階されていてもよく、前記へテロ環は1〜4のヘテロ原子を有する。]
【請求項22】
請求項1の製剤で定義される式(I)の前記化合物の医薬上許容される濃縮製剤またはすぐに投与できる製剤を提供することを含む、式(I)の化合物を投与する際の投薬投与の誤差を低減する方法。
【請求項23】
請求項1に係る医薬上許容される投与形態で式(I)の前記化合物を提供する工程を備える方法であって、式(I)の化合物の製剤において医薬活性物質の廃棄量を低減すると同時に、バイアルを部分的に使用することによる投与誤差を防ぐ方法。
【請求項24】
アルガトロバンによる治療が可能である疾患を有する患者への、請求項1の組成物の投与を含む、アルガトロバンで治療可能な疾患を治療する方法。
【請求項25】
前記組成物がすぐに投与できる形態である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が濃縮された形態であり、前記濃縮物を注入するために、注入に適した水性希釈剤を用いて適当な濃度に希釈される、請求項24の方法。

【公表番号】特表2010−504971(P2010−504971A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530403(P2009−530403)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/020725
【国際公開番号】WO2008/039473
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(509085984)イーグル・ファーマシューティカルズ・インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】