説明

アルツハイマー型痴呆症治療薬塩酸ドネペジルのプロドラッグ

【課題】本発明の目的は、塩酸ドネペジル投与後にまれにみられる嘔吐、下痢、悪夢などの副作用の緩解、軽減が期待できる化合物を提供することある。
【解決手段】一般式
【化1】


[式中Rは、置換されてもよいC1−6アルキル基、1ないし2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、1ないし3の置換基で置換されてもよいアリールオキシカルボニル基、1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基、または置換されてもよいアリールカルボニル基を示し、nは0または1の整数を示す]で表される化合物またはその医薬上許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルツハイマー型痴呆症治療薬塩酸ドネペジルの新規なプロドラッグおよびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルツハイマー型痴呆症に代表される老人性痴呆症が今後の老年人口の増加とともに大きな社会問題となっており、その優れた治療薬の開発が切望されている。
アルツハイマー型痴呆症では、ベータアミロイドの蓄積とともにアセチルコリン、ノルエピネフリン、セロトニンなどの神経伝達物質が減少することが報告されている。それらの神経伝達物質のなかで、記憶を含めた認知機能の低下とコリン作動性ニューロンの変性が密接に関連する点に注目して、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が開発された。アルツハイマー型痴呆症の治療薬としてはじめて認可されたアセチルコリンエステラーゼ阻害薬はタクリンであったが、タクリンは主薬効発現よりも肝機能障害や末梢性の副作用、半減期が短いことなどの欠点が先行する傾向があった。その後の研究によりこれらの欠点を克服した塩酸ドネペジル、リバスティグミン、そしてガランタミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が開発された。
【0003】
これらのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のうち、塩酸ドネペジルは半減期が長いことから服用回数が少なく、またブチルコリンエステラーゼに対するアセチルコリンエステラーゼへの選択性が高いため、末梢性の副作用が少ない良好な治療薬である。(特許文献1、非特許文献1参照)臨床試験の結果、塩酸ドネペジルは軽症から中等度のアルツハイマー型痴呆症に対する効果が確認され、効能効果は、軽症および中等度のアルツハイマー型痴呆症における痴呆症状の進行抑制である。さらにその後の臨床試験の結果より、高度アルツハイマー型痴呆症の効能・効果の追加申請が提出されている。
【特許文献1】日本特許公報 第2578475号
【特許文献2】日本特許公報 第2777159号
【非特許文献1】J of Med Chem(1995)38,4821
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塩酸ドネペジルは薬効、吸収、分布、毒性などの観点からはきわめて優れたアルツハイマー型痴呆症治療薬であり、世界的に最も広く使用されている。塩酸ドネペジルはその良好な吸収分布のため服用後すみやかに血中濃度が上昇し薬効が発現する一方で、投与初期の急な血中濃度増加に由来すると考えられる嘔吐、下痢、悪夢などの副作用が観察されることが報告されている。これらときに散見される服用後の嘔吐、下痢、悪夢などの副作用の緩解、軽減が本発明の課題である。しかしながら、現在までのところその有用なる緩解の方法は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意努力を重ねた結果、塩酸ドネペジルをプロドラッグ化することにより薬物活性本体の血中放出をゆるやかにし急激な血中濃度上昇を抑えることが出来た。これにより、まれに観察される上記の嘔吐、下痢、悪夢などの副作用を緩解、軽減することを可能ならしめ、本発明を完成させた。すなわち本発明は、
1)式(I)
【0006】
【化1】

【0007】
[式中Rは、 置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示し、nは0または1の整数を示す]で表される化合物またはその医薬上許容される塩。
[置換基群α]
C1−6アルコキシ基、C2−6アルケニル基、C1−6アルキル基、C1−6アルキルチオ基、C2−6アルキニル基、C6−14アリール基、シアノ基、C3−8シクロアルコキシ基、C3−8シクロアルキル基、C3−8シクロアルキルチオ基、ハロゲン原子及びニトロ基。
2)構造式(III)
【0008】
【化2】

【0009】
で表される化合物またはその塩と、
式(IV)
【0010】
【化3】

【0011】
[式中Rは、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいアミノ基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシ基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリール基を示し、Xは脱離基を示す]で表される化合物とを反応させるか、
または構造式(III)
【0012】
【化4】

【0013】
で表される化合物またはその塩と、式(V)
【0014】
【化5】

【0015】
[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基を示す]で表される化合物とを反応させて、
式(II)
【0016】
【化6】

【0017】
[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示す]で表される化合物とし、要すれば、式(II)の化合物を医薬として許容される塩に変換し、さらに要すれば酸化反応に付すことを特徴とする、
式(I)
【0018】
【化7】

【0019】
[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示し、nは0または1の整数を示す]で表される化合物または医薬上許容される塩の製造方法。
および
3)式(I)
【0020】
【化8】

【0021】
[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいアリールカルボニル基を示し、nは0または1の整数を示す]で表される化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物に関する。
【0022】
[置換基群α]
C1−6アルコキシ基、C2−6アルケニル基、C1−6アルキル基、C1−6アルキルチオ基、C2−6アルキニル基、C6−14アリール基、シアノ基、C3−8シクロアルコキシ基、C3−8シクロアルキル基、C3−8シクロアルキルチオ基、ハロゲン原子及びニトロ基。
【発明の効果】
【0023】
本発明式(I)の化合物は、たとえばアルツハイマー型老年痴呆等の各種老人性痴呆症、たとえば脳卒中(脳出血、脳梗塞)、脳動脈硬化、頭部外傷に伴う脳血管障害、たとえば脳炎後遺症、脳性麻痺等に伴う注意力低下、言語障害、意欲低下、情緒障害、記銘障害、幻覚―妄想状態、行動異常等の治療、予防、緩解、改善等に有効であることが期待される。
また、塩酸ドネペジル投与に伴い、まれに観察される嘔吐、下痢、悪夢などの副作用の緩解、軽減が本発明の期待される効果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本文中の記載において「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を示し、好ましくは塩素原子、臭素原子である。
「C3−8シクロアルキル基」とは、炭素数3ないし8の環状アルキル基を示し、当該基における好ましい基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
「C1−6アルキル基」とは、炭素数が1ないし6個のアルキル基を示し、好ましい基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、1−メチル−2−エチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基等の直鎖または分枝状アルキル基が挙げられる。より好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基である。
「C2−6アルケニル基」とは、炭素数が2ないし6個のアルケニル基を示し、好ましい基としては、例えばビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテン−1−イル基、1−ブテン−2−イル基、1−ブテン−3−イル基、2−ブテン−1−イル基、2−ブテン−2−イル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルケニル基が挙げられる。
「C2−6アルキニル基」とは、炭素数が2ないし6個のアルキニル基を示し、好ましい基としては、例えばエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等の直鎖状または分子鎖状のアルキニル基が挙げられる。
「C1−6アルコキシ基」とは、炭素数1ないしは6個のアルキル基の、水素原子が酸素原子に置換された基を示し、好ましい基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、i−ペントキシ基、sec−ペントキシ基、t−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基、i−ヘキソキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、2−エチルプロポキシ基、1−メチル−2−エチルプロポキシ基、1−エチル−2−メチルプロポキシ基、1,1,2−トリメチルプロポキシ基、1,1,2−トリメチルプロポキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
「C3−8シクロアルコキシ基」とは、炭素数3ないし8の環状アルキル基において、一つの水素原子が酸素原子に置換された基を示し、当該基における好ましい基としては、例えばシクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペントキシ基、シクロヘキソキシ基、シクロヘプチロキシ基、シクロオクチロキシ基等が挙げられる。
「C1−6アルキルチオ基」とは、炭素数1ないしは6のアルキル基において、1つの水素原子が硫黄原子に置換された基を示し、好ましい基としては、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、i−ペンチルチオ基、ネオペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、1−メチルプロピルチオ基等が挙げられる。
「C3−8シクロアルキルチオ基」とは、炭素数3ないし8の環状アルキル基において、一つの水素原子が硫黄原子に置換された基を示し、当該基における好ましい基としては、例えばシクロプロピルチオ基、シクロブチルチオ基、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、シクロヘプチルチオ基、シクロオクチルチオ基等が挙げられる。
「C6−14アリール基」とは、例えばフェニル基、ナフチル基、アンスリル基等が挙げられ、なかでもフェニル基が好ましい。
「C6−14アリールオキシカルボニル基」とは、C6から14の芳香環フェノールにカルボニルが結合した基で、好ましくはフェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アンスリルオキシカルボニル基等が挙げられ、好ましくはフェニルオキシカルボニル基である。
「C6−14アリールカルボニル基」とは、C6から14の芳香環にカルボニル基が結合したもので、好ましくはベンゾイル基、ナフトイル基等が挙げられ、好ましくはベンゾイル基である。
【0025】
次に、本発明の式(I)の化合物[以下、化合物(I)という、他式で表される化合物についても同様]またはその塩の製造法について説明する。
本発明の式(I)の化合物またはその塩は、以下に示すように化合物(III)またはその塩を出発原料として合成される。
【0026】
【化9】

すなわち、化合物(I)のRが、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、アルカノイル基、アリールカルボニル基である場合は下記の方法1で合成される。
[方法1]
化合物(III)またはその塩
【0027】
【化10】

と、
式(IV)
【0028】
【化11】

【0029】
[式中Rは、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいアミノ基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシ基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリール基を示し、Xは脱離基を示す]で表される化合物とを、(1)Rが1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいアミノ基のとき、ピリジン溶媒中封管条件0〜100℃,好ましくは90℃の温度で、(2)Rが置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシのとき、または(3)Rが置換基群αから選択される置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、または置換基群αから選択される置換基で置換されてもよいC6−14アリール基のとき、リチウムビストリメチルシリルアミドまたはリチウムジイソプロピルアミド等を塩基として、テトラヒドロフラン、ジメチルフォルムアミドなどの不活性溶媒中、−60℃から室温にて反応させる。
【0030】
出発原料(IV)の合成に関しては、(1)Rが1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいアミノ基のとき、文献(Tetrahedron Lett、1994、35、839)に従い対応するアミンを原料として汎用的にRCOXが合成される。
(2)Rが置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシのとき、文献[J of Med Chem(1983)26、264、Synthesis(1993)103]に従い該フェノールを出発原料として汎用的にRCOXが合成される。
(3)Rが置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリール基のとき、文献(丸善株式会社、第4版、実験化学講座22巻、115)に従い対応するカルボン酸を塩化チオニルまたは塩化オキザリルで処理することにより収率よく汎用的に得られる。
または、化合物(I)のRが、置換されてもよいC1−6アルキル基である場合は方法2で合成される。
[方法2]
式(V)
【0031】
【化12】

【0032】
[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基を示す]などのオルトフォルメートと、塩酸、トシル酸などの酸存在下、封管中0〜100℃、好ましくは90−100℃の温度で反応させる。また、同反応はマイクロウェーブ照射反応によっても進行する。
これらの反応により、化合物(II)が得られる。
【0033】
化合物(V)は文献[J.Am.Chem.Soc.74,554(1952)、ibid.77,3801(1955)]に従い対応するアルコールとエチルオルトフォルメートを原料として収率よく汎用的に合成することができる。
【0034】
【化13】

【0035】
[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示す]
これらの化合物(II)は必要により、常法に従って塩酸、臭化水素酸、トシル酸などの塩とすることができる。さらに、化合物(II)またはその塩は必要に応じて、過酸化水素、ハイドロパーオキサイドや過安息香酸などの酸化剤で酸化して、Nオキサイドエノール化合物(I)
【0036】
【化14】

【0037】
[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示し、nは0または1の整数を示す]
に変換される。
【0038】
式(I)の化合物は、アルツハイマー型痴呆症治療薬として有用であり、治療のために経口的あるいは非経口的に投与することができる。経口投与剤としては、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などの固形製剤あるいはシロップ剤、エキシル剤などの液状製剤とすることができる。また、非経口投与剤として注射剤,吸入剤、経皮製剤あるいは座薬等とすることができる。これらの製剤は活性成分に薬理学的、製剤学的に認容される製造助剤を加えることにより常法に従って製造される。投与量は、対象疾患の種類、患者の年齢、性別、体重、症状、あるいは投与形態により異なるが、一般には、ドネペジルの量に換算して、1日あたり約1−10mgであり、1回あるいは数回に分けて服用される。
【0039】
次に、本発明の化合物の医薬としての有用性を示すために、実施例1の化合物を代表化合物に選んで、以下の薬物代謝試験を行った。
(試験方法)
実施例1の化合物を10%DMSO/10%Tween20溶液として、絶食雄性ラット(8週齢、n=2)に投与したときの原体と生体内で生成するドネペジルを経時的に測定し、それぞれの血中濃度推移面積(AUC)を以下に示す。
【0040】
【表1】

【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されることはない。また、実施例において使用される略語は当業者に周知の慣用的な略語である、いくつかの略語は以下に示す。
プロトン核磁気共鳴スペクトルは400Mz、溶媒はCDCl、化学シフトは、テトラメチルシランに対するδ単位(ppm)で記録、カップリング定数はヘルツ(Hz)で記録されている。パターンは、s;シングレット、d;ダブレット、t;トリプレット、b;ブロード。分析薄層クロマトグラフィー(TLC)はプレコートしたシリカゲルプレート(60F−254)上で行い、UV光、エタノール性リンモリブデン酸を用いて視覚化検出した。
[実施例1]1−ベンジル−4−〔(1,5,6−トリメトキシ−3H−インデン)−2−イル〕メチルピペリジン
【0042】
【化15】

【0043】
ドネペジル(200mg、0.527mmol)にトリメチルオルトフォルメート1mlと1.25M塩化水素メタノール溶液2mlを加え、反応混合物を封管中90℃にて5日間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷後、減圧濃縮して溶媒を除去し、塩化メチレンを加え、さらに飽和重曹水にて洗浄した。有機層を乾燥(MgSO)し、減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(NH−シリカゲル、n−へキサン/酢酸エチル)にて精製し、淡黄白色粉末として目的化合物(43.0mg、収率:21%)を得た。
【0044】
また別法として、封管中にドネペジル(250mg、0.659mmol)、トリメチルオルトフォルメート1mlさらに1.25M塩化水素メタノール溶液3mlを加え、出力100ワット、反応温度90℃にて反応混合物を40分間マイクロウェーブ照射を行った。反応混合物を室温まで放冷後、減圧濃縮して溶媒を除去し、飽和重曹水を加え塩化メチレンにて抽出した。有機層を乾燥(MgSO)し、減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−へキサン/酢酸エチル)にて精製し、淡黄白色粉体として目的化合物(69.3mg、収率:27%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.19−1.31(2H,m)1.37−1.47(1H,m)1.55−1.62(2H,m)1.85(2H,d−t,J=0.20Hz,J=1.16Hz)2.31(2H,d,J=0.72Hz)2.80(2H,b−d,J=1.16Hz)3.06(2H,s)3.41(2H,s)3.80(3H,s),3.81(3H,s)3.84(3H,s)6.80(1H,s)6.88(1H,s)7.13−7.25(5H,m).ESI−MS:m/z=394(M+H).
[実施例2]1−ベンジル−4−〔(1−N,N−ジイソプロピルカルバモイルオキシ−5,6−ジメトキシ−3H−インデン)−2−イル〕メチルピペリジン
【0045】
【化16】

【0046】
ドネペジル(200mg、0.527mmol)にN、Nジイイソプロピルカルバモイルクロライド(94.9mg、0.580mmol)とピリジン2mlを加え、封管中90℃にて反応混合物を5日間攪拌した。反応混合物を室温まで放冷後、減圧濃縮して溶媒を除去し、酢酸エチルを加え、さらに飽和重曹水、飽和食塩水にて順次洗浄した。有機層を乾燥(MgSO)し、減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(NH−シリカゲル;n−へキサン/酢酸エチル)、さらに一部混合物を分取用薄層クロマトグラフィー(塩化メチレン/メタノール)にて精製し、淡黄色油状物として目的化合物(47.0mg、収率:18%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.16−1.34(14H,m),1.37−1.48(1H,m)1.57−1.64(2H,m)1.84(2H,d−t,J=0.20&1.16Hz)2.24(2H,d,J=0.71Hz)2.78(2H,b−d,J=1.16Hz)3.16(2H,s)3.40(2H,s)3.78(3H,s)3.79(3H,s)3.88−4.08(2H,m)6.56(1H,s)6.87(1H,s)7.15−7.25(5H,m). ESI−MS:m/z=507(M+H).
[実施例3]1−ベンジル−4−〔(1−フェノキシカルボニルオキシ−5,6−ジメトキシ−3H−インデン)−2−イル〕メチルピペリジン
【0047】
【化17】

【0048】
ドネペジル(100mg、0.264mmol)を窒素雰囲気、テトラヒドロフラン(THF、3ml)に溶解し、−60℃に冷却後、反応混合物にリチウムビストリメチルシリルアミド(1.0M、THF溶液、0.40ml、0.40mmol)を注入した。1.5時間かけて−60℃から−10℃まで昇温した後、再び−60℃に冷却し、反応混合物にフェニルクロロフォルメート(0.050ml、0.40mmol)のTHF溶液(1ml)を注入した。−60℃から徐々に室温まで昇温し、反応混合物を一晩攪拌後、反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルにて抽出した。有機層を乾燥(MgSO)後、減圧濃縮して得られた残渣を分取用薄層クロマトグラフィー(塩化メチレン/メタノール)にて精製し、淡黄色油状物として目的化合物(43.4mg、収率:33%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.24−1.38(2H,m)1.43−1.54(1H,m)1.62(2H,b−d,J=1.24Hz)1.89(2H,b−t,J=1.07Hz)2.32(2H,d,J=0.71Hz)2.82(2H,b−d,J=1.07Hz)3.21(2H,s)3.44(2H,b−s)3.81(3H,s)3.83(3H,s)6.70(1H,s)6.91(1H,s)7.15−7.25(8H,m)7.32−7.37(2H,m). ESI−MS:m/z=500(M+H).
[実施例4]1−ベンジル−4−〔(1−ベンゾイルオキシ−5,6−ジメトキシ−3H−インデン)−2−イル〕メチルピペリジン
【0049】
【化18】

【0050】
実施例3の方法に準じて、フェニルクロロフォルメートのかわりにベンゾイルクロライドを用い反応させ、淡黄色アモルファスとして目的化合物(収率:32%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.20−1.32(3H,m)1.35−1.43(1H,m)1.47−1.55(1H,m)1.71−1.83(2H,m)2.06−2.12(2H,m)2.66−2.76(2H,m)2.99(1H,d,J=1.72Hz)3.38(2H,s)3.62(1H,d,J=1.72Hz)3.86(3H,s)3.92(3H,s)6.84(1H,s)7.14(1H,s)7.15−7.27(7H,m)7.38(1H,t,J=0.75Hz)7.62(2H,d,J=0.75Hz). ESI−MS:m/z=484(M+H).
[実施例5]1−ベンジル−4−〔(1−エトキシ−5,6−ジメトキシ−3H−インデン)−2−イル〕メチルピペリジン
【0051】
【化19】

【0052】
実施例1の方法に準じて、トリメチルオルトフォルメートと塩化水素メタノールのかわりにトリエチルオルトフォルメートと塩化水素エタノールを用い反応させ、淡黄白色粉末として目的化合物(収率:23%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.23−1.35(2H,m)1.30(3H,t,J=0.70Hz)1.38−1.48(1H,m)1.56−1.63(2H,m)1.89(2H,b−t,J=1.10Hz)2.30(2H,d,J=0.71Hz)2.83(2H,b−d,J=1.10Hz)3.08(2H,s)3.47(2H,s),3.80(3H,s)3.83(3H,s)4.00(2H,q,J=0.70Hz)6.77(1H,s)6.88(1H,s)7.15−7.27(5H,m). ESI−MS:m/z=408(M+H).
[実施例6]1−ベンジル−4−〔(1−アセトキシ−5,6−ジメトキシ−3H−インデン)−2−イル〕メチルピペリジン
【0053】
【化20】

【0054】
実施例3の方法に準じて、フェニルクロロフォルメートのかわりにアセチルクロライドを用い反応させ、淡黄色油状物として目的化合物(収率:43%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.20−1.34(3H,m)1.44−1.52(2H,m)1.72−1.86(3H,m)2.18−2.23(1H,m)2.20(3H,s)2.69−2.76(2H,m)2.74(1H,d,J=1.70Hz)3.67(2H,s)3.78(1H,d,J=1.70Hz)3.81(3H,s)3.90(3H,s)6.81(1H,s)7.03(1H,s)7.13−7.25(5H,m). ESI−MS:m/z=423(M+H).
[実施例7]1−ベンジル−4−[(1,5,6−トリメトキシ−3Hインデン)−2−イル]メチルピペリジン−1−オキサイド
【0055】
【化21】

【0056】
1−ベンジル−4−[(1,5,6−トリメトキシ−3Hインデン)−2−イル]メチルピペリジン(21.0mg、0.053mmol)中にメタノール2mlと30%過酸化水素水0.5mlを加え室温中反応混合物を二日間攪拌した。反応混合物を減圧濃縮して溶媒を除去し、飽和重曹水を加え塩化メチレンにて抽出した。有機層を乾燥(MgSO)し、減圧濃縮して得られた残渣を薄層クロマトグラフィーにて精製し、淡黄色オイルとして目的化合物(6.9mg、収率:32%)を得た。
H−NMR(CDCl)δ:1.40−1.52(1H,m) 1.53(2H,b−d,J=1.44Hz)2.09−2.35(3H,m)2.38(2H,d,J=0.86Hz)2.96−3.16(3H,m)3.04(2H,s)3.79(3H,s)3.80(3H,s)3.83(3H,s)4.34(2H,s)6.80(1H,s)6.86(1H,s)7.30−7.45(5H,m).ESI−MS:m/z=410(M+H).
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、式(I)の化合物またはその塩は、副作用のより少ないアルツハイマー型痴呆症治療薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

[式中Rは、 置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示し、nは0または1の整数を示す]で表される化合物またはその医薬上許容される塩。
[置換基群α]
C1−6アルコキシ基、C2−6アルケニル基、C1−6アルキル基、C1−6アルキルチオ基、C2−6アルキニル基、C6−14アリール基、シアノ基、C3−8シクロアルコキシ基、C3−8シクロアルキル基、C3−8シクロアルキルチオ基、ハロゲン原子及びニトロ基。
【請求項2】
構造式(III)
【化2】

で表される化合物またはその塩と、
式(IV)
【化3】

[式中Rは、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいアミノ基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシ基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリール基を示し、Xは脱離基を示す]で表される化合物とを反応させるか、
または構造式(III)
【化4】

で表される化合物またはその塩と、式(V)
【化5】

[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基を示す]で表される化合物とを反応させて、
式(II)
【化6】

[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示す]で表される化合物とし、要すれば、式(II)の化合物を医薬として許容される塩に変換し、さらに要すれば酸化反応に付すことを特徴とする、
式(I)
【化7】

[式中Rは、前述と同意義を示す]で表される化合物または医薬上許容される塩の製造方法。
[置換基群α]
C1−6アルコキシ基、C2−6アルケニル基、C1−6アルキル基、C1−6アルキルチオ基、C2−6アルキニル基、C6−14アリール基、シアノ基、C3−8シクロアルコキシ基、C3−8シクロアルキル基、C3−8シクロアルキルチオ基、ハロゲン原子及びニトロ基。
【請求項3】
式(I)
【化8】

[式中Rは、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC1−6アルキル基、1または2のC1−6のアルキル基で置換されてもよいカルバモイル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールオキシカルボニル基、置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC2−6アルカノイル基または置換基群αから選択される1ないし3の置換基で置換されてもよいC6−14アリールカルボニル基を示し、nは0または1の整数を示す]で表される化合物またはその医薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
[置換基群α]
C1−6アルコキシ基、C2−6アルケニル基、C1−6アルキル基、C1−6アルキルチオ基、C2−6アルキニル基、C6−14アリール基、シアノ基、C3−8シクロアルコキシ基、C3−8シクロアルキル基、C3−8シクロアルキルチオ基、ハロゲン原子及びニトロ基。

【公開番号】特開2008−280248(P2008−280248A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319382(P2005−319382)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】