説明

アルツハイマー病の治療のための大員環β−セクレターゼ阻害剤

本発明は、β−セクレターゼ酵素の阻害剤であり、アルツハイマー病などの、β−セクレターゼ酵素が関与する疾病の治療又は予防において有用な化合物に関する。本発明はまた、これらの化合物を含む医薬組成物、及びβ−セクレターゼ酵素が関与するこのような疾病の予防又は治療におけるこれらの化合物及び組成物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、35U.S.C.セクション119(e)に基づき、2003年8月14日付け米国予備出願第60/495,667号の優先権を主張する。
【0002】
アルツハイマー病は、細胞外斑及び細胞内の神経原線維変化の形態での、脳におけるアミロイドの異常な沈着を特徴とする。アミロイド蓄積の速度は、形成、凝集及び脳からの排出の程度を合わせたものである。アミロイド斑の主要な構成物質は、より大きいサイズの前駆体タンパク質のタンパク質分解産物である、4kDのアミロイドタンパク質(βA4。Aβ、βタンパク質及びβAPとも呼ばれる。)であることが一般に認められている。アミロイド前駆体タンパク質(APP又はAβPP)は、大きな細胞外ドメイン、膜貫通領域及び短い細胞質尾部を伴う受容体様の構造を有する。Aβドメインは、APPの細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン両方の部分を包含し、したがって、その放出は、そのNH及びCOOH末端を生成させるための、2つの別個のタンパク質分解反応が存在することを示唆する。APPを膜から放出し、APP(APP)の可溶性のCOOH末端型を生成させる、少なくとも2種類の分泌メカニズムが存在する。膜からAPP及びそのフラグメントを放出するプロテアーゼを、「セクレターゼ」と呼ぶ。α−APPを放出するためにAβタンパク質内で切断して、切断されていないAβの分泌を妨げる推定α−セクレターゼにより、殆どのAPPが放出される。APPのNH末端付近を切断し、Aβドメイン全体を含有するCOOH末端フラグメント(CTFs)を生成するβ−セクレターゼ(「β−セクレターゼ」)により、ごく一部のAPPが放出される。このように、β−セクレターゼ又はβ部位アミロイド前駆体タンパク質切断酵素(「BACE」)の活性により、アルツハイマー病の特徴である、脳におけるAPPの異常な切断、Aβの生成及びβアミロイド斑の凝集が起こる(R.N.Rosenberg,Arch.Neurol.vol.59,Sep 2002,pp.1367−1368;H.Fukumotoら、Arch.Nuerol.,vol.59,Sep 2002,pp.1381−1389;J.T.Huseら、J.Biol.Chem.,vol 277,No.18,2002年5月3日発表、pp.16278−16284;K.C.Chen及びW.J.Howe,Biochem.Biophys.Res.Comm,vol.292,pp702−708,2002を参照のこと。)。したがって、β−セクレターゼ又はBACEを阻害できる治療剤は、アルツハイマー病の治療に有用であり得る。
【0003】
本発明の化合物は、β−セクレターゼ又はBACEの活性を阻害し、したがって、不溶性Aβの形成を防ぎ、Aβの生成を阻止することによりアルツハイマー病の治療に有用である。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、β−セクレターゼ酵素の阻害剤であり、アルツハイマー病などのβ−セクレターゼ酵素が関与する疾病の治療において有用な化合物に関する。本発明はまた、これらの化合物を含む医薬組成物、及びβ−セクレターゼ酵素が関与するこのような疾病の予防又は治療におけるこれらの化合物及び組成物の使用にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明は、式I:
【0006】
【化5】

の化合物[式中、
は、
(1)水素、
(2)R−S(O)N(R)−(式中、
は、
(a)−C1−8アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(b)−NR
(c)フェニル及び
(d)ベンジルからなる群から独立に選択され、
及びRは、
(a)水素、
(b)−C1−6アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(c)フェニル及び
(d)ベンジル
からなる群から独立に選択され、
pは、独立に0、1又は2である。)、
(3)−CN、
(4)−C1−6アルキル−CN、
(5)ハロゲン、
(6)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)−CN、
(b)ハロ、
(c)−C1−6アルキル、
(d)−O−R
(e)−CO及び
(f)−C(O)Rから独立に選択される。)
(7)
【0007】
【化6】

(式中、nは、1、2、3又は4である。)
からなる群から選択され;
は、
(1)水素、
(2)−C1−6アルキル、−C2−6アルケニル、−C2−6アルキニル又は−C3−8シクロアルキル(置換されていないか、又は1個から7個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)ハロ、
(b)ヒドロキシ、
(c)−O−C1−6アルキル、
(d)−C3−6シクロアルキル、
(e)−S(O)−C1−6アルキル、
(f)−CN、
(g)−COH、
(h)−CO−C1−6アルキル、
(i)−CO−NR
(j)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(i)−C1−6アルキル、
(ii)−CN、
(iii)ハロ、
(iv)−CF
(v)−O−R及び
(vi)−CO
から独立に選択される。)
から独立に選択される。)、
(3)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)−C1−6アルキル、
(b)−CN、
(c)ハロ、
(d)−CF
(e)−O−R及び
(f)−CO
から独立に選択される。)
からなる群から選択され;
は、
(1)水素、
(2)−C1−6アルキル、−C2−6アルケニル、−C2−6アルキニル又は−C3−8シクロアルキル(置換されていないか、又は1個から7個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)ハロ、
(b)ヒドロキシ、
(c)−O−C1−6アルキル、
(d)−C3−6シクロアルキル、
(e)フェニル又はピリジル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(i)−C1−6アルキル、
(ii)−CN、
(iii)ハロ、
(iv)−CF
(v)−O−R及び
(vi)−COから独立に選択される。)、
(f)−S(O)N(R)−C1−6アルキル及び
(g)−S(O)N(R)−フェニル
から独立に選択される。)、
(3)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)−C1−6アルキル、
(b)−CN、
(c)ハロ、
(d)−CF
(e)−O−R及び
(f)−CO
から独立に選択される。)
からなる群から選択され;
Xは、
(1)−CH−及び
(2)−O−
からなる群から選択される。]及び医薬適合性のその塩に関する。
【0008】
本発明の代替的な実施形態は、
式Iの化合物:
【0009】
【化7】

(式中、
は、
(1)CH−S(O)N(CH)−;
(2)CHCH−S(O)N(CH)−;
(3)(CHCH−S(O)N(CH)−;
(4)フェニル−S(O)N(CH)−;及び
(5)(CHN−S(O)N(CH)−から選択され;
は、−C1−6アルキル(置換されていないか、又はシクロプロピルもしくはハロで置換されている。)であり;
は、−C1−6アルキル又は−C3−8シクロアルキルであり;
Xは、−CH−又は−O−である。)
及び医薬適合性のその塩に関する。
【0010】
本発明の第1の実施形態は、式II:
【0011】
【化8】

の化合物(式中、R、R、Rは、本明細書中で定義されるとおりである。)に関する。
【0012】
本発明の第2の実施形態は、式III:
【0013】
【化9】

の化合物(式中、R、R、Rは、本明細書中で定義されるとおりである。)に関する。
【0014】
本発明の実施形態において、Rは、R−S(O)N(R)−であり、式中、
は、
(a)−C1−6アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(b)フェニル及び
(c)ベンジル
からなる群から独立に選択され;
は、
(a)水素、
(b)−C1−6アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(c)フェニル及び
(d)ベンジル
からなる群から独立に選択される。
【0015】
本発明の別の実施形態において、Rは、
(1)CH−S(O)N(CH)−;
(2)CHCH−S(O)N(CH)−;
(3)(CHCH−S(O)N(CH)−;及び
(4)フェニル−S(O)N(CH)−;
(5)(CHN−S(O)N(CH)−から選択される。
【0016】
本発明のさらなる実施形態において、Rは、CH−S(O)N(CH)−である。
【0017】
本発明の実施形態において、Rは、−C1−6アルキル(置換されていないか、又はシクロプロピルもしくはハロで置換されている。)である。
【0018】
本発明の別の実施形態において、Rは、
(1)CH−;
(2)CHCH−;
(3)(CHCH−;
(4)CHCHCH−;
(5)(CHCHCH−;
(6)CHCHCHCH−;
(7)CHCHCHCHCH−;
(8)シクロプロピル−CH−;
(9)CFCH−;及び
(10)CHFCH−から選択される。
【0019】
本発明の実施形態において、Rは、−C1−6アルキル又は−C3−8シクロアルキルである。
【0020】
本発明の別の実施形態において、Rは、
(1)CH−;
(2)CHCH−;
(3)(CHCH−;
(4)CHCHCH−;
(5)(CHCHCH−;
(6)CHCHCHCH−;
(7)CHCHCHCHCH−及び
(8)ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−
から選択される。
【0021】
本発明のさらなる実施形態において、Rは、(CHCHCH−である。
【0022】
本発明の具体的な実施形態には、次の実施例の表題化合物から選択される化合物及び医薬適合性のそれらの塩が含まれる。
【0023】
本発明の化合物は、少なくとも1個の不斉中心を有する。分子上の様々な置換基の性質に依存して、さらなる不斉中心が存在し得る。不斉中心を有する化合物は、鏡像異性体(光学異性体)、ジアステレオマー(立体配置異性体)又は両方を生じさせ、混合物において、及び純粋な化合物として、又は部分的に精製された化合物として、生じうる鏡像異性体及びジアステレオマーは全て、本発明の範囲に含まれるものとする。本発明は、これらの化合物の係る異性体全てを包含するものとする。
【0024】
鏡像異性体の面で、又はジアステレオマーの面で濃縮された化合物の独立合成、又はクロマトグラフィーによるそれらの分離は、本明細書中に記載した方法を適切に変更することにより、本分野で公知のように遂行し得る。それらの絶対的な立体化学は、必要であれば、絶対配置が既知である不斉中心を含有する試薬で誘導体化された結晶産物又は結晶中間体のX線結晶構造解析によって決定し得る。
【0025】
必要であれば、各鏡像異性体が単離されるように、前記化合物のラセミ混合物を分離することができる。分離は、鏡像異性体として純粋な化合物に化合物のラセミ混合物をカップリングさせてジアステレオマー混合物を形成させた後に、分別再結晶又はクロマトグラフィーなどの標準的な方法によって各ジアステレオマーを分離するような、本分野で周知の方法によって実施することができる。カップリング反応は、多くの場合、鏡像異性体として純粋な酸又は塩基を用いた塩の形成である。次いで、付加されたキラル残基を切断することによって、ジアステレオマー誘導体を純粋な鏡像異性体に変換させることができる。前記化合物のラセミ混合物は、本分野で周知の方法であるキラル固定相を用いたクロマトグラフィー法によって、直接分離することも可能である。あるいは、化合物の任意の鏡像異性体は、本分野で周知の方法によって、立体配置が知られた、光学的に純粋な出発物質又は試薬を用いた立体選択的な合成により得ることができる。
【0026】
当業者により理解されるように、本明細書中で使用する場合、ハロ又はハロゲンは、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを含むものとする。同様に、C1−6アルキル中の場合のC1−6は、直鎖又は分枝鎖配置の1、2、3、4、5又は6個の炭素を有するような基を特定するものと定義され、例えば、C1−6アルキルは、具体的に、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、tert−ブチル、ペンチル及びヘキシルを含む。同様に、C3−8シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル及びそれらのビシクロのものを含む。置換基で独立に置換されるように指定される基は、このような置換基の複数で独立に置換され得る。
【0027】
実施例及び本明細書中で開示されている化合物の使用は、本発明の実例となる。本発明内の特定の化合物には、次の実施例で開示する化合物からなる群から選択される化合物及び医薬適合性のそれらの塩及びそれらの個々のジアステレオマーが含まれる。
【0028】
本発明の化合物は、スキーム1及び2で概説する方法により調製される。
【0029】
【化10】


【0030】
スキーム1を参照すると、パラジウムトリフェニルホスフィン及びアリトリブチルスズ(allytributyl tin)などの遷移金属触媒を用いて、ヨウ化アリールエステル(1−A)(本分野で公知のとおりに調製される。)をアリル化し、アリル安息香酸エステル(1−B)を得る。テトラヒドロフラン/メタノール中の2N NaOHなどの塩基性条件下でそのエステルを加水分解する。BOP剤及びアミン塩基などのカップリング剤の存在下で、得られた酸(1−C)をメチル−3−アリル−L−フェニルアラニナート塩酸塩にカップリングさせ、アミドジエン(1−D)を得る。閉環メタセシス触媒でそのジエンを処理し、大環状のアルケン(1−E)を得る。標準的な水素添加条件下で、得られた大環状のアルケンを還元し、飽和大員環(1−F)を得る。水素化ホウ素リチウムなどの還元剤を用いて、このエステルを対応するアルコール(1−G)に還元する。そのアルコールを、トリエチルアミンの存在下における硫黄トリオキシドピリジンなどの標準的な酸化条件に供し、アルデヒド(1−H)を得る。シアノ水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を用いて、適切なアミンとともに、得られたアルデヒドを還元的にアミノ化し、最終化合物(1−I)を得る。
【0031】
【化11】


【0032】
スキーム2を参照すると、ハロゲン化アリル及び炭酸カリウムなどの塩基を用いて、フェノールエステル(2−A)(本分野で公知のとおりに調製される。)をアリル化し、アリルエーテル安息香酸エステル(2−B)を得る。テトラヒドロフラン/メタノール中の2N NaOHなどの塩基性条件下でそのエステルを加水分解する。BOP剤及びアミン塩基などのカップリング剤の存在下で、得られた酸(2−C)をメチル−3−アリル−L−フェニルアラニナート塩酸塩にカップリングさせ、アミドジエン(2−D)を得る。閉環メタセシス触媒でそのジエンを処理し、大環状のアルケン(2−E)を得る。標準的な水素添加条件下で、得られた大環状のアルケンを還元し、飽和大員環(2−F)を得る。水素化ホウ素リチウムなどの還元剤を用いて、このエステルを対応するアルコール(2−G)に還元する。そのアルコールを、トリエチルアミンの存在下における硫黄トリオキシドピリジンなどの標準的な酸化条件に供し、アルデヒド(2−H)を得る。シアノ水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を用いて、適切なアミンとともに、得られたアルデヒドを還元的にアミノ化し、最終化合物(2−I)を得る。
【0033】
「実質的に純粋な」という用語は、単離された物質が、本分野で公知の分析技術によると、少なくとも90%純粋、及び、好ましくは95%純粋、及びさらにより好ましくは99%純粋であることを意味する。「医薬適合性の塩」という用語は、無機又は有機塩基及び無機又は有機酸を含む医薬適合性の非毒性塩基又は酸から調製された塩を表す。無機塩基由来の塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、三価マンガン(manganic)、二価マンガン(manganous)、カリウム、ナトリウム、亜鉛などが含まれる。特に好ましいのは、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム及びナトリウム塩である。固形中の塩は、複数の結晶構造で存在し得、水和物の形態でも存在し得る。医薬適合性の非毒性有機塩基から得られる塩には、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチルモルホリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどの、一級、二級及び三級アミン、天然に生じる置換アミンを含む置換アミン、環状アミン並びに塩基性イオン交換樹脂の塩が含まれる。本発明の化合物が塩基性である場合、塩は、無機及び有機酸を含む医薬適合性の非毒性の酸から調製され得る。このような酸には、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファスルホン酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモン酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸などが含まれる。特に好ましいものは、クエン酸、臭化水素酸、塩酸、マレイン酸、リン酸、硫酸、フマル酸及び酒石酸である。
【0034】
本発明は、β−セクレターゼ酵素活性又はβアミロイド前駆体タンパク質切断酵素(「BACE」)活性の阻害剤としての、そのような阻害を必要とする患者又は哺乳動物などの対象における、本明細書中で開示される有効量の前記化合物を投与することを含む、本明細書中で開示される化合物の使用に関する。「β−セクレターゼ酵素」、「βアミロイド前駆体タンパク質切断酵素」及び「BACE」という用語は、本明細書中で同義に使用される。ヒトに加え、本発明の方法に従い、様々な他の哺乳動物を治療することができる。
【0035】
本発明はさらに、本発明の化合物を医薬担体又は希釈剤と混合させることを含む、ヒト及び動物においてβ−セクレターゼ酵素活性を阻害するための薬物又は組成物を製造するための方法に関する。
【0036】
本発明の化合物は、アルツハイマー病、アミロイド前駆体タンパク質(APPとも呼ばれる。)の異常な切断が介在する他の疾病及びβ−セクレターゼの阻害により治療又は予防し得る他の症状の治療、進行の予防、改善、制御又はリスク低下において有用性がある。このような症状には、軽度認知障害、トリソミー21(ダウン症候群)、脳アミロイド血管症、変性痴呆、オランダ型遺伝性アミロイド性脳卒中(HCHWA−D)、クロイツフェルト−ヤコブ病、プリオン病、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上性麻痺、頭部外傷、卒中、ダウン症候群、膵炎、封入体筋炎、他の末梢アミロイド症、糖尿病及びアテローム性動脈硬化症が含まれる。
【0037】
本発明の化合物を投与する対象又は患者は、通常は、β−セクレターゼ酵素活性の阻害を必要とする男性又は女性のヒトであるが、β−セクレターゼ酵素活性の阻害又は上述の疾患の治療を必要とする他の哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、サル、チンパンジー又は他の類人猿もしくは霊長類等の動物でもよい。
【0038】
本発明の化合物は、薬剤を併用したほうが薬剤単独よりも安全又は有効である場合は、本発明の化合物が有用である疾病又は症状の治療、予防、制御、改善又はリスク低下において、1又は複数の他の薬物と組み合わせて使用することができる。さらに、本発明の化合物は、本発明の化合物の副作用又は毒性を治療する、予防する、制御する、改善する又はリスク低下させる1又は複数の他の薬物と組み合わせて使用し得る。このような他の薬物は、本発明の化合物と同時に、又は連続して、それに対して一般的に使用される経路及び量で投与され得る。したがって、本発明の医薬組成物には、本発明の化合物に加えて、1又は複数の他の活性成分を含有するものが含まれる。併用剤は単位剤形併用製剤の一部として、又は、治療計画の一部としての別々の投与形態で1もしくは複数のさらなる薬物を投与するキット又は治療プロトコールとして、この組み合わせを投与し得る。
【0039】
単位用量又はキット形態のいずれかにおける、他の薬物との本発明の化合物の組み合わせの例には、抗アルツハイマー病薬、例えば、他のβ−セクレターゼ阻害剤又はγ−セクレターゼ阻害剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤;イブプロフェンを含むNSAID;ビタミンE;ヒト化モノクローナル抗体を含む抗アミロイド抗体;CB−1受容体アンタゴニスト又はCB−1受容体逆アゴニスト;ドキシサイクリン及びリファンピンなどの抗体;メマンチンなどのN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニスト;ガランタミン、リバスチグミン、ドネペジル及びタクリンなどのコリンエステラーゼ阻害剤;イブタモレン、メシル酸イブタモレン及びカプロモレリンなどの成長ホルモン分泌促進剤;ヒスタミンHアンタゴニスト;AMPAアンタゴニスト;PDE−4阻害剤;GABA逆アゴニスト;神経ニコチンアゴニスト;又は、本発明の化合物の効力、安全性、利便性を高めるか、又は、本発明の化合物の望ましくない副作用もしくは毒性を低下させる受容体もしくは酵素に影響を与える他の薬物との組み合わせが含まれる。前述の併用剤の前記具体例は、単なる例示に過ぎず、制限をすることを何ら意図するものではない。
【0040】
本明細書において使用される場合、「組成物」という用語は、一定の成分を規定の量又は割合で含む生成物の他、一定の成分を一定の量で組み合わせることによって、直接又は間接的に得られるあらゆる生成物を包含するものとする。医薬組成物に関連したこの用語には、1又は複数の活性成分及び任意の担体を構成する不活性成分、並びに、任意の成分の2以上の化合、錯化もしくは凝集から、又は1もしくは複数の成分の解離から、又は1もしくは複数の成分の他の種類の反応又は相互作用から直接又は間接的に得られるあらゆる生成物を含むものとする。一般に、医薬組成物は、液体担体もしくは微粉化された固体担体又は両方に、前記活性成分を均質混和させ、必要であればその後、所望の製剤になるように生成物を成形することによって調製される。前記医薬組成物において、活性な対象化合物は、疾病の過程又は症状に対して所望の効果をもたらすのに十分な量で含有される。したがって、本発明の医薬組成物は、本発明の化合物と医薬適合性の担体とを混合することにより調製されるあらゆる組成物を包含する。
【0041】
経口用医薬組成物は、医薬組成物の製造の分野において公知である任意の方法に従って調製することができ、このような組成物は、医薬の面で洗練されかつ口当たりがよい製剤にするために、甘味料、香味料、着色料及び防腐剤からなる群から選択される1又は複数の薬剤を含有することができる。錠剤は、錠剤の製造に適した医薬適合性の非毒性賦形剤と混合された活性成分を含有する。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムなどの不活性な希釈剤;造粒剤及び崩壊剤、例えば、コーンスターチ又はアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン又はアラビアゴム、並びに潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであり得る。前記錠剤は素錠とすることができるか、又は胃腸管での崩壊及び吸収を遅延させることにより長時間にわたって持続的な作用を与えるために、公知の技術によってコーティングを施すことができる。
【0042】
経口用の組成物は、活性成分が不活性の固体希釈剤と混合されている硬ゼラチンカプセルの形態でもよいし、又は活性成分が水もしくは油媒体と混合されている軟ゼラチンカプセルの形態でもよい。
【0043】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合された活性物質を含有する。このような賦形剤は、懸濁剤及び分散剤又は湿潤剤を含む。水性懸濁液は、1又は複数の防腐剤、着色料、香味料及び甘味料も含有し得る。
【0044】
油性懸濁液は、活性成分を、植物油又は鉱油中に懸濁させることによって調合することができる。油性懸濁液は、増粘剤も含有し得る。口当たりがよい経口調製物を与えるために、甘味料及び香味料も添加し得る。これらの組成物は、抗酸化剤を添加することによって保存し得る。
【0045】
水を加えることによって水性懸濁液を調製するのに適した分散性粉末及び顆粒は、分散剤又は湿潤剤、懸濁剤及び1又は複数の防腐剤と混合された活性成分を与える。さらなる賦形剤、例えば、甘味料、香味料及び着色料も存在させ得る。
【0046】
本発明の医薬組成物は、水中油型乳剤の形態とすることもでき、これには、甘味料及び香味料などの賦形剤も含有させ得る。
【0047】
前記医薬組成物は、公知の技術により調合することができる無菌の注射可能な水性又は油脂性懸濁液の形態とすることができるか、又はその薬物の直腸投与のための坐薬の形態で投与することができる。
【0048】
本発明の化合物はまた、吸入により、当業者にとって公知の吸入装置を介して、又は経皮パッチを介して経皮的に、投与することもできる。
【0049】
「医薬適合性」という用語は、担体、希釈剤又は賦形剤が、製剤の他の成分に対して適合性があり、且つそれらの受容者に対して有害でないことを意味する。
【0050】
化合物の「投与」及び/又は「投与する」という用語は、治療を必要とする個体に、錠剤、カプセル、シロップ、懸濁液などの経口投与形態;IV、IM又はIPなどの注射可能な投与形態;クリーム、ゼリー、粉末又はパッチを含む経皮投与形態;口腔内投与形態;吸入粉末、スプレー、懸濁液など;及び直腸用坐薬を含むがこれらに限定されない、治療において有効な形態及び治療上の有効量で、その個体に導入可能な形態で、本発明化合物を与えることを意味すると理解されたい。
【0051】
「有効量」又は「治療上の有効量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床家によって調べられている組織、系、動物もしくはヒトの生物学的又は医学的反応を誘発する該当化合物の量を意味する。本明細書中で使用される場合、「治療」という用語は、特に該当疾病又は疾患の素因をもつ患者における、上記症状の治療と予防又は予防的治療の両方を意味する。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「治療する」という用語は、本発明の化合物のあらゆる投与を意味し、(1)前記疾病の病状又は症候が現れている、又はそれらの病状もしくは症候を呈している動物において疾病を抑制すること(つまり、病状及び/又は症候のさらなる進行を阻むこと。)、又は(2)前記疾病の病状又は症候が現れている、又はそれらの病状もしくは症候を呈している動物における疾病を改善すること(つまり、病状及び/又は症候を改善すること。)を含む。「制御する」という用語は、予防すること、治療すること、根絶すること、改善すること、又あるいは制御される症状の重症度を軽減させることを含む。
【0053】
本発明の化合物を含有する組成物は、単位剤形の形態とすると簡便であり医薬分野で周知のあらゆる方法により調製し得る。「単位剤形」という用語は、患者又は患者に薬物を投与する人が、そこに含有される完全な1回分が入った1個の容器又はパッケージを開封して、2個以上の容器又はパッケージからの成分を混合する必要がないように全ての活性及び不活性成分を適切なシステムに一体した単一用量を意味するものとする。単位剤形の代表的な例は、経口投与のための錠剤又はカプセル、注射用単一用量バイアル又は直腸投与のための坐薬である。単位剤形の前記具体例は、何ら限定することを意図するものではなく、単に単位剤形の医薬分野における代表的な典型例を示すだけに過ぎない。
【0054】
本発明の化合物を含有する組成物は、キット形態とし活性もしくは不活性の成分、担体、希釈剤などであり得る2以上の成分に加え患者又は患者にその薬物を投与する人が実際に剤形調製を行うための説明書を添付すると簡便である。このようなキットは、その中に含まれる必要な材料及び成分全てをキット梱包してもよいし、材料もしくは成分を使用もしくは調製するための説明書は患者又は患者にその薬物を投与する人が別に入手するようにしてもよい。
【0055】
アルツハイマー病又は本発明の化合物が用いられる他の疾病を治療する、予防する、制御する、改善する、又はリスク低下させる場合、約0.1mgから約100mg/kg動物体重の一日投与量で、好ましくは1日1回の投与もしくは1日に2回から6回に分割した投与又は持続放出形態で本発明の化合物を投与すると、一般に満足な結果が得られる。一日総投与量は、約1.0mgから約2000mg、好ましくは約0.1mgから約20mg/kg/体重である。70kgの成人の場合には、1日総投与量は、一般に、約7mgから約1,400mgとなろう。この投与計画は、最適の治療応答を与えるように調節することができる。本化合物は、1日あたり1回から4回、好ましくは1日あたり1回から2回の投与計画で投与され得る。一般に、例えばヒト及び高齢者の患者に対して、1日あたり0.0001から10mg/kg体重の投与量レベルで投与する。投与量の範囲は、通常、患者1人あたり1日約0.5mgから1.0gであり、これは単回又は複数回の投与で与えることができる。好ましくは、前記投与量の範囲は、患者1人あたり1日約0.5mgから500mg、より好ましくは、患者1人あたり1日約1mgから250mg、さらにより好ましくは、患者1人あたり1日約5mgから50mgとなろう。
【0056】
本発明の医薬組成物は、好ましくは約0.5mgから500mgの活性成分を含有する、より好ましくは、約1mgから250mgの活性成分を含有する固形の剤形で提供され得る。本医薬組成物は、好ましくは、約1mg、5mg、10mg、25mg、30mg、50mg、60mg、100mg、150mg、200mg又は250mgの活性成分を含有する固形の剤形で提供される。
【0057】
しかし、個々の患者に対する具体的な投与レベルと投与の頻度は使用する具体的な化合物の活性、その化合物の代謝的安定性及び作用期間、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与の様式及び時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、具体的な症状の重篤度、及び宿主の施療中の治療等の種々の因子によって異なることが理解されるであろう。
【0058】
β−セクレターゼ酵素活性の阻害剤としての、本発明による化合物の有用性は、本分野で公知の方法により明らかにすることができる。酵素阻害は、次のように測定する。
【0059】
HPLCアッセイ:BACE1で切断されてクマリンが結合したN−末端フラグメントを放出する基質(クマリン−CO−REVNFEVEFR)とともに、均一系エンドポイントHPLC(homogeneous end point HPLC)アッセイを用いる。本基質のKmは、100μMより大きく、本基質の溶解性に限界があるために決定できない。通常の反応には、総反応体積100μl中、約2nMの酵素、1.0μMの基質及び緩衝液(50mM NaOAc、pH4.5、0.1mg/ml BSA、0.2% CHAPS、15mM EDTA及び1mM デフェロキサミン)が含有される。この反応を30分間進行させ、1M Tris−HCl、pH8.0 25μlを添加することにより反応停止させる。得られた反応混合物をHPLCに載せ、5分間の直線的勾配により生成物を基質から分離した。これらの条件下で、基質の10%未満がBACE1により処理される。これらの研究で用いた酵素は、バキュロウイルス発現で産生された可溶性(膜貫通ドメイン及び細胞質伸長部分を除く。)ヒトタンパク質であった。化合物の阻害能を測定するために、DMSO中の阻害剤溶液(12種類の濃度の阻害剤を調製し、濃度範囲は、FRETにより予想される阻害能によって決めた。)を、反応混合液(最終DMSO濃度は10%)に含めた。実験は全て、上述の標準的な反応条件を用いて室温にて行った。本化合物のIC50を決定するために、曲線フィッティングのための、4種類のパラメーター方程式を用いる。解離定数の再現性における誤差は、通常、2倍未満である。
【0060】
特に、以下の実施例の化合物は、先述したアッセイにおいて、概してIC50が約1nMから1μMという、β−セクレターゼ酵素阻害活性を有していた。このような結果は、β−セクレターゼ酵素活性の阻害剤として使用する場合に固有活性をもつことを示している。
【0061】
本発明の化合物を調製するためのいくつかの方法を、以下のスキーム及び実施例で説明する。出発物質は、本分野において公知の手法又は本明細書で説明されている手法に従って調製される。次の実施例は、本発明をより完全に理解するために提供するものである。これらの実施例は、単なる例示に過ぎず、いかなる方法によっても本発明を制限をするものとして解釈されるべきではない。H NMRは、400MHzで稼動するスペクトロメーターで得た。
【実施例1】
【0062】
【化12】

【0063】
段階A:0℃のトリフルオロメタンスルホン酸(100mL)中の3−ニトロベンゾエート(35.3g、195mmol)に、N−ヨードスクシニミド(43.8g、195mmol)を分割して添加した。氷浴を取り外し、室温にて48時間撹拌を続けた。この反応混合物を0℃に冷却し、水(500mL)で反応停止させた。この混合物を、EtOAc(250mL)で3回抽出し、合わせた抽出物を10% NaHSO溶液で洗浄した。有機物をMgSOで乾燥させ、濃縮し、シリカゲル(Hex中10% EtOAc)で精製し、中間体を得た。H NMR(CDCl)δ8.81(s,1H),8.73(s,1H),8.68(s,1H),4.00(s,3H)。
【0064】
段階B:EtOH(50mL)中の塩化スズ(88.6g、392mmol)を還流させ、段階Aからのニトロベンゾエート(24.1g、78.4mmol)の、1:1 THF:EtOH(100mL)溶液を滴下添加した。この反応混合物を30分間還流させ、次に、0℃に冷却した。この溶液をNaCO水溶液でpH8−9に塩基性化した。水層をEtOAc(3x700mL)で抽出した。合わせた有機物をNaHCO飽和溶液、次に食塩水で洗浄した。有機物をNaSOで乾燥させ、濃縮し、未精製のアニリンを得た。LCMS[M+H]=278.0。
【0065】
段階C:3:1 CHCl:ピリジン(75mL)中の段階Bからのアニリン(21.7g、78.3mmol)の0℃溶液に、メタンスルホニルクロリド(6.36mL、82.2mmol)を添加した。15分後に、氷浴を取り外し、反応混合物を室温にて一晩撹拌した。反応混合物をEtOAc(200mL)で希釈し、2x1N HClで洗浄し、MgSOで乾燥させた。その溶媒を真空中で除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(1:1 EtOAc/ヘキサン)で精製し、スルホンアミドを得た。LCMS[M]355.8。H NMR(CDCl)δ8.17(s,1H),7.86(s,1H),7.18(s,1H),3.95(s,3H),3.08(s,3H)。
【0066】
段階D:DMF(20mL)中の段階Cからのスルホンアミド(3.12g、8.79mmol)及びヨウ化メチル(1.75g、12.3mmol)の溶液に、NaH(0.49g、12.30mmol、60% 油性分散液)を添加した。その反応物を50℃にて2時間撹拌し、その後、NHCl飽和溶液でその反応を停止させ、EtOAc(3x100mL)で抽出した。合わせた有機物を水(2x100mL)、食塩水(1x50mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させた。その溶媒を真空中で除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製(25% EtOAc/ヘキサン)し、N−メチルスルホンアミドを得た。LCMS[M]:369.9。H NMR(CDCl)δ8.29(s,1H),7.96(s,2H),3.93(s,3H),3.34(s,3H),2.88(s,3H)。
【0067】
段階E:段階Dからのヨウ化物(3.15g、8.54mmol)及びアリルトリブチルスタンナン(allyltributyl stannane)(3.39g、10.24mmol)のDMF溶液(20mL)を、15分間、アルゴン気流で脱気した。脱気した溶液に、Pd(PPh(0.99g、0.85mmol)を添加し、その後、反応混合物を80℃にて2時間加熱した。この溶液を冷却し、HO(250mL)で希釈し、EtOAc(3x100mL)で抽出した。合わせた有機層を水(2x100mL)、食塩水(1x50mL)で洗浄し、MgSOで乾燥させた。その溶媒を真空中で除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(40% EtOAc/ヘキサン)で精製し、アリル化生成物を得た。
LCMS[M+H]:284.1。H NMR(CDCl)δ7.84(s,1H),7.82(s,1H),7.47(s,1H),5.97(m,1H),5.14(m,2H),3.93(s,3H),3.46(d,J=6.7Hz,2H),3.36(s,3H),2.87(s,3H)。
【0068】
段階F:40mL THF:MeOH(1:1)中の段階Eからのエステル(1.79g、6.34mmol)に、2N NaOH(9.51mL、19.0mmol)を添加した。この溶液を50℃に1時間加熱した。反応混合物を濃縮し、1N HCl(50mL)で酸性化し、EtOAc(3x50mL)で抽出した。合わせた抽出物をMgSOで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮し、所望するカルボン酸を得た。LCMS[M+H]=270.2。
【0069】
段階G:段階Fからのカルボン酸(1.38g、5.13mmol)、m−アリルチロシンメチルエステル HCl(類似物質の調製のための、Tilleyら、J Med Chem 1991(34)(3)1125−1136を参照のこと。)(1.31g、5.13mmol)BOP剤(2.27g、5.39mmol)及びジイソプロピルエチルアミン(2.68mL、15.39mmol)を含有する溶液を室温にて1時間、DCM 100mL中で撹拌した。その溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(1:1 EtOAc/ヘキサン)により精製し、淡黄色の油状物質として所望するアミドを得た。LCMS[M+H]=471.1。H NMR(CDCl)δ7.60(s,1H),7.40(s,1H),7.38(s,1H),7.23(t,J=7.6Hz,1H),7.10(d,J=7.3Hz,1H),6.98(d,J=11Hz,1H),6.96(s,1H),6.55(d,J=7.2Hz,1H),5.98−5.86(m,2H),5.15−5.01(m,4H),3.77(s,3H),3.42(d,J=6.4Hz,2H),3.34(d,J=7.0Hz,2H),3.33(s,3H),3.23(dd,J=8.3,5.8Hz,2H),2.84(s,3H)。
【0070】
段階H:段階Gからのジエン 2.17g(4.61mmol)を、DCM(2L)に溶解し、アルゴンの気流で15分間脱気した。トリシクロヘキシルホスフィン[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾ[−2−イリジン][ベンジルイジン]ルテニウム(IV)2塩化物(0.42g、0.49mmol)を添加し、反応混合物を50℃に30分間加熱した。その反応物を冷却し、DMSO(1mL)を添加し、その反応物を室温にて12時間撹拌した。その溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(80% EtOAc/ヘキサン)により精製し、1個の幾何異性体として所望する大員環を得た。LCMS[M+H]=443.0。H NMR(CDCl)δ7.64(s,2H),7.47(s,1H),7.29(t,J=7.5Hz,1H),7.20(s,1H),7.18(d,J=9.3Hz,1H),6.96(d,J=7.5Hz,1H),6.40(d,J=9.0Hz,1H),5.73(m,2H),5.09(m,1H),3.80(s,3H),3.52−3.23(m,5H),3.32(s,3H),3.04(dd,J=13,5.4Hz,1H),2.83(s,3H)。
【0071】
段階I:MeOH 50mL中の段階Hからの大員環のアルケンの溶液を、10% Pd/Cの触媒量で処理し、室温にて、水素雰囲気下で2時間撹拌した。celiteのパッドを介してその反応物を濾過し、その溶媒を真空中で除去し、白色の泡状物質として還元された大員環を得た。LCMS[M+H]=445.26。H NMR(CDCl)δ7.59(s,1H),7.38(s,1H),7.28(t,J=7.6Hz,1H),7.16(d,J=7.5Hz,1H),7.05(s,1H),6.96(d,J=7.5Hz,1H)6.83(s,1H),6.19(d,J=8.0Hz,1H),4.99(dd,J=12,5.7Hz,1H),3.86(s,3H),3.31(s,3H),3.29(m,1H),3.18(dd,J=14,6.0Hz,1H),2.84(m,2H),2.83(s,3H),2.72(dd,J=18,6.5Hz,1H),2.59(t,J=11Hz,1H),1.81−1.58(m,4H)。
【0072】
段階J:THF(30mL)中の、段階Iからの還元されたアルケン(1.05g、2.36mmol)を含有する溶液を、LiBH(2.0M THF溶液、3.54mL、7.08mmol)で処理した。反応混合物を50℃に1時間加熱した。冷メタノールを添加することにより反応を停止させた。その溶媒を真空中で除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(5% メタノール/クロロホルム)で精製し、白色の泡状物質として所望するアルコールを得た。LCMS[M+H]=417.1。H NMR(CDCl)δ7.54(s,1H),7.37−7.33(m,2H),7.19−7.16(m,2H),7.08(s,1H),6.51(s,1H),6.18(d,J=4.0Hz,1H),4.03(m,1H),3.90(dd,J=11,2.9Hz,1H),3.80(dd,J=11,7.3Hz,1H),3.29(s,3H),3.12(dd,J=13,4.9Hz,1H),2.89(dd,J=13,4.9Hz,1H),2.83(s,3H),2.83(m,buried,1H),2.75−2.66(m,2H),2.59−2.53(m,1H)m1.83−1.64(m,4H)。
【0073】
段階K:4mL DMSO:DCM(3:1)中の、段階Jからのアルコール(0.143g、0.343mmol)を含有する溶液を、トリエチルアミン(0.17g、1.71mmol)で処理し、次に、SO−ピリジン複合体(0.21g、1.37mmol)で処理した。反応混合物を室温にて1時間撹拌した。この溶液をHO(25mL)で希釈し、EtOAc(3x25mL)で抽出した。合わせた有機層を1N HCl(2x50mL)及び食塩水(1x50mL)で洗浄し、次に、MgSOで乾燥させた。この溶液を濾過し、真空中で濃縮し、所望するアルデヒドを得た。LCMS[M+H]=415.1。
【0074】
段階L:5mL MeOH中の、段階Kからのアルデヒド(0.040g、0.096mmol)及びN−イソブチル−L−ノルロイシンアミド HCl(0.064g、0.289mmol)を含有する溶液を、NaCNBH(0.018g、0.289mmol)で処理し、室温にて12時間撹拌した。その溶媒を蒸発させ、残渣を逆相HPLCで精製して、表題化合物を得た。LCMS[M+H]=585.2。H NMR(CDOD)δ7.47(s,1H),7.35(s,1H),7.30(t,J=7.3,1H),7.30(s,1H),7.20(d,J=8.1Hz,1H),7.14(d,J=7.2Hz,1H)6.60(s,1H),4.29(m,1H),.391(t,J=6.5Hz,1H),3.41−3.27(m,2H),3.27(s,3H),3.25(m,2H),3.04(dd,J=13,6.9Hz,1H),2.89(m,1H),2.87(s,3H),2.75(m,2H),2.52(m,1H),1.93−1.64(m,9H),1.43(m,3H),0.96(d,J=6.7Hz,6H),0.96(t,buried,3H)。
【0075】
次の化合物は、適切な出発物質及び試薬を用いて、前述のスキーム及び実施例の化合物と同様にして調製した。
【0076】
【表2】






【0077】
以上、所定特定態様に関して本発明を記載し、説明してきたが、当業者に自明の通り本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、手法及びプロトコールに対して様々な改変、変更、修飾、置換、削除又は付加が可能である。したがって、本発明は、特許請求の範囲により定義されるものであり、係る特許請求の範囲は、妥当な範囲で広義に解釈されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

の化合物
(式中、
は、
(1)水素、
(2)R−S(O)N(R)−
(式中、
は、
(a)−C1−8アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(b)−NR
(c)フェニル及び
(d)ベンジルからなる群から独立に選択され、
及びRは、
(a)水素、
(b)−C1−6アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(c)フェニル及び
(d)ベンジル
からなる群から独立に選択され、
pは、独立に0、1又は2である。)、
(3)−CN、
(4)−C1−6アルキル−CN、
(5)ハロゲン、
(6)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)−CN、
(b)ハロ、
(c)−C1−6アルキル、
(d)−O−R
(e)−CO及び
(f)−C(O)R
から独立に選択される。)
(7)
【化2】

(式中、nは、1、2、3又は4である。)
からなる群から選択され;
は、
(1)水素、
(2)−C1−6アルキル、−C2−6アルケニル、−C2−6アルキニル又は−C3−8シクロアルキル(置換されていないか、又は1個から7個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)ハロ、
(b)ヒドロキシ、
(c)−O−C1−6アルキル、
(d)−C3−6シクロアルキル、
(e)−S(O)−C1−6アルキル、
(f)−CN、
(g)−COH、
(h)−CO−C1−6アルキル、
(i)−CO−NR
(j)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(i)−C1−6アルキル、
(ii)−CN、
(iii)ハロ、
(iv)−CF
(v)−O−R及び
(vi)−CO
から独立に選択される。)
から独立に選択される。)、
(3)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)−C1−6アルキル、
(b)−CN、
(c)ハロ、
(d)−CF
(e)−O−R及び
(f)−CO
から独立に選択される。)
からなる群から選択され;
は、
(1)水素、
(2)−C1−6アルキル、−C2−6アルケニル、−C2−6アルキニル又は−C3−8シクロアルキル(置換されていないか、又は1個から7個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)ハロ、
(b)ヒドロキシ、
(c)−O−C1−6アルキル、
(d)−C3−6シクロアルキル、
(e)フェニル又はピリジル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(i)−C1−6アルキル、
(ii)−CN、
(iii)ハロ、
(iv)−CF
(v)−O−R及び
(vi)−CO
から独立に選択される。)、
(f)−S(O)N(R)−C1−6アルキル及び
(g)−S(O)N(R)−フェニル
から独立に選択される。)、
(3)フェニル(置換されていないか、又は1個から5個の置換基で置換されており、該置換基は、
(a)−C1−6アルキル、
(b)−CN、
(c)ハロ、
(d)−CF
(e)−O−R及び
(f)−CO
から独立に選択される。)
からなる群から選択され;
Xは、
(1)−CH−及び
(2)−O−
からなる群から選択される。]
及び医薬適合性のその塩。
【請求項2】
式II:
【化3】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
が、
(1)CH−S(O)N(CH)−;
(2)CHCH−S(O)N(CH)−;
(3)(CHCH−S(O)N(CH)−;
(4)フェニル−S(O)N(CH)−;及び
(5)(CHN−S(O)N(CH)−から選択され;
が、−C1−6アルキル(置換されていないか、又はシクロプロピルもしくはハロで置換されている。)であり;
が、−C1−6アルキル又は−C3−8シクロアルキルであり;
Xが、−CH−又は−O−である、
請求項2に記載の化合物及び医薬適合性のその塩。
【請求項4】
式III:
【化4】

の請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
が、
(1)CH−S(O)N(CH)−;
(2)CHCH−S(O)N(CH)−;
(3)(CHCH−S(O)N(CH)−;
(4)フェニル−S(O)N(CH)−;及び
(5)(CHN−S(O)N(CH)−から選択され;
が、−C1−6アルキル(置換されていないか、又はシクロプロピルもしくはハロで置換されている。)であり;
が、−C1−6アルキル又は−C3−8シクロアルキルであり;
Xが、−CH−又は−O−である、
請求項1に記載の化合物及び医薬適合性のその塩。
【請求項6】
が、R−S(O)N(R)−であり、式中、
は、
(a)−C1−6アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(b)フェニル及び
(c)ベンジル
からなる群から独立に選択され;
は、
(a)水素、
(b)−C1−6アルキル(置換されていないか、又は1個から6個のフルオロで置換されている。)、
(c)フェニル及び
(d)ベンジル
からなる群から独立に選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
が、
(1)CH−S(O)N(CH)−;
(2)CHCH−S(O)N(CH)−;
(3)(CHCH−S(O)N(CH)−;及び
(4)フェニル−S(O)N(CH)−;
(5)(CHN−S(O)N(CH)−
から選択される、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
が、CH−S(O)N(CH)−である、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
が、−C1−6アルキル(置換されていないか、又はシクロプロピルもしくはハロで置換されている。)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
が、
(1)CH−;
(2)CHCH−;
(3)(CHCH−;
(4)CHCHCH−;
(5)(CHCHCH−;
(6)CHCHCHCH−;
(7)CHCHCHCHCH−;
(8)シクロプロピル−CH−;
(9)CFCH−;及び
(10)CHFCH−から選択される、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
が、−C1−6アルキル又は−C3−8シクロアルキルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
が、
(1)CH−;
(2)CHCH−;
(3)(CHCH−;
(4)CHCHCH−;
(5)(CHCHCH−;
(6)CHCHCHCH−;
(7)CHCHCHCHCH−及び
(8)ビシクロ[2.2.1]ヘプチル−
から選択される、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
が、(CHCHCH−である、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
【表1】






からなる群から選択される化合物及び医薬適合性のその塩。
【請求項15】
有効量の請求項1に記載の化合物と医薬適合性の担体とを含む、医薬組成物。
【請求項16】
施療を要する哺乳動物におけるβ−セクレターゼ活性の阻害方法であって、治療有効量の請求項1に記載の化合物を前記哺乳動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項17】
施療を要する患者におけるアルツハイマー病の治療方法であって、有効量の請求項1に記載の化合物を前記患者に投与することを含む、前記方法。

【公表番号】特表2007−502278(P2007−502278A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523290(P2006−523290)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/025791
【国際公開番号】WO2005/018545
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】