アルツハイマー病及び他のQPCT関連障害の治療のためのインビボスクリーニングモデル
本発明は、トランスジェニック非ヒト動物、特にQpct関連疾患に関係したQpctタンパク質をコードするトランスジェニックマウスを提供する。加えて本発明は、Qpctのためにコードしている導入遺伝子を含む、細胞及び細胞株を提供する。さらに本発明は、Qpct関連疾患の治療用組成物に使用するための、Qpctに影響を及ぼす薬剤を評価する方法及び組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、トランスジェニック動物に関し、並びに疾患、特にQpctに関する疾患をスクリーニング及び治療する方法及び組成物に関する。
【0002】
特に、本発明は、グルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)とも称される、アンモニアを遊離しながらのN-末端グルタミン残基のピログルタミン酸(5-オキソ-プロリル、pGlu*)への分子内環化、及び水を遊離しながらのN-末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸への分子内環化を触媒する、Qpct(すなわちグルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ)に関する。
【背景技術】
【0003】
QCは、1963年にMesserにより熱帯植物カリカ・パパイヤ(Carica papaya)のラテックスから最初に単離された(Messer, M.の論文、1963 Nature 4874, 1299)。24年後、対応する酵素活性が、動物の下垂体で発見された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H.及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci USA 84, 3628-3632)。哺乳動物のQCに関して、QCによるGlnのpGluへの転換が、TRH及びGnRHの前駆体について示されている(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H.及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci USA 84, 3628-3632)。加えて、最初のQC局在化実験は、ウシ下垂体におけるその触媒の推定上の生成物との同時局在を明らかにし、ペプチドホルモン合成において示唆された機能を更に強化した(Bockers, T. M.らの論文、1995 J Neuroendocrinol 7, 445-453)。対照的に、植物のQCの生理機能は、余り明確ではない。C.パパイヤ由来の酵素の場合には、病原性微生物に対する植物防御での役割が示唆された(El Moussaoui, A.らの文献2001 Cell Mol Life Sci 58、556-570)。他の植物に由来する推定上のQCが、最近の配列比較により同定された(Dahl, S. W.らの文献.2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。しかしこれらの酵素の生理機能は依然曖昧である。
【0004】
植物及び動物由来の公知のQCは、それらの基質のN-末端位置でのL-グルタミンに対する厳密な特異性を示し、かつそれらの反応速度論的挙動は、ミカエリス-メンテン式に従うことがわかった(Pohl, T.らの論文、1991 Proc Natl Acad Sci USA 88, 10059-10063;Consalvo, A. P.らの論文、1988 Anal Biochem 175, 131-138;Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。しかしC.パパイヤ由来のQCの一次構造と哺乳動物由来の高度に保存されたQCの一次構造との比較は、いかなる配列相同性も明らかにしなかった(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。植物QCは新たな酵素ファミリーに属するように見える(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)のに対し、哺乳動物のQCは、細菌のアミノペプチダーゼと顕著な配列相同性を有することがわかり(Bateman, R. C.らの論文、2001 Biochemistry 40, 11246-11250)、このことは植物及び動物に由来するQCは、進化の起源が異なるという結論に繋がっている。
【0005】
EP 02 011 349.4には、昆虫グルタミニルシクラーゼをコードしているポリヌクレオチド、これらによりコードされたポリペプチドが開示されている。さらに、この出願は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。昆虫QCを含む単離ポリペプチド、及び宿主細胞は、グルタミニルシクラーゼ活性を低下させる薬剤のスクリーニング方法において有用である。この種の薬剤は、農薬として有効であると言われる。
【0006】
本発明の主題は、特にQpct関連疾患の分野に役立ち、その1つの例はアルツハイマー病である。アルツハイマー病(AD)は、ジストロフィニューロン、反応性星状細胞及びミクログリアと密接に関連している細胞外アミロイド斑の異常な蓄積によって特徴づけられる(Terry, R. D.及びKatzman, R. 1983 Ann Neurol 14, 497-506; Glenner, G. G.及びWong, C. W. 1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890; Intagaki, S.らの文献. 1989 J Neuroimmunol 24, 173-182; Funato, H.らの文献. 1998 Am J Pathol 152, 983-992; Selkoe, D. J. 2001 Physiol Rev 81, 741-766)。アミロイド-ベータ(Aβと略記される)ペプチドは、老人斑の主要構成要素であり、ADの病因及び進行に直接関係していると考えられる。遺伝子研究で支持される仮説である(Glenner, G. G.及びWong, C. W. 1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890; Borchelt, D. R.らの文献. 1996 Neuron 17, 1005-1013; Lemere, C. A.らの文献. 1996 Nat Med 2, 1146-1150; Mann, D. M.及びIwatsubo, T. 1996 Neurodegeneration 5, 115-120; Citron, M.らの文献. 1997 Nat Med 3, 67-72; Selkoe, D. J. 2001 Physiol Rev 81, 741-766)。Aβは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク分解性処理によって生じる(Kang, J.らの文献. 1987 Nature 325, 733-736; Selkoe, D. J. 1998 Trends Cell Biol 8, 447-453)。これは、N末端のβ-セクレターゼ、及びAβのC末端のγ-セクレターゼによって順次切断される(Haass, C.及びSelkoe, D. J. 1993 Cell 75, 1039-1042; Simons, M.らの文献. 1996 J Neurosci 16 899-908)。N末端基(Aβ1-42/40)でL-Aspから始まる優位なAβペプチドに加えて、老人斑においては、N-末端切断形態の大きな異質性が生じる。この種の短ペプチドは、インビトロで神経毒であり、全長アイソフォームより急速に凝集することが報告されている(Pike, C. J.らの文献. 1995 J Biol Chem 270, 23895-23898)。N-末端切断ペプチドは、早期発症型家族性AD(FAD)対象において過剰産生されること(Saido, T. C.らの文献. 1995 Neuron 14, 457-466; Russo, C,らの文献. 2000 Nature 405, 531-532)、ダウン症(DS)脳において早期に現れ、かつ年齢とともに増加すること(Russo, C.らの文献. 1997 FEBS Lett 409, 411-416, Russo, C.らの文献. 2001 Neurobiol Dis 8, 173-180; Tekirian, T. L.らの文献. 1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94)が知られている。最後に、それらの量は、疾患の進行性重症度を反映する(Russo, C.らの文献. 1997 FEBS Lett 409, 411-416; Guntert, A.らの文献. 2006 Neuroscience 143, 461-475)。付加的な翻訳後工程は、1及び7位のアスパラギン酸塩の異性化又はラセミ化によって、及び残基3及び11のグルタミン酸塩の環化によって、N末端基を更に修正することができる。3位でのピログルタミン酸含有アイソフォーム[pGlu3Aβ3-40/42]は、老人斑のN-末端切断種の顕著な形態―総Aβ量の約50%―である(Mori, H.らの文献. 1992 J Biol Chem 267, 17082-17086, Saido, T. C.らの文献. 1995 Neuron 14, 457-466; Russo, C.らの文献. 1997 FEBS Lett 409, 411-416; Tekirian, T. L.らの文献. 1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94; Geddes, J. W.らの文献. 1999 Neurobiol Aging 20, 75-79; Harigaya, Y.らの文献. 2000 Biochem Biophys Res Commun 276, 422-427)。これらは前アミロイド病変にも存在する(Lalowski、M.らの文献1996J Biol Chem 271、33623-33631)。AβN3(pE)ペプチドの蓄積は凝集を増進し、大部分のアミノペプチダーゼに対する抵抗を与える構造変化の原因となる可能性がある(Saido、T. C.らの文献1995 Neuron 14、457-466; Tekirian, T. L.らの文献. 1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。この証拠は、AD病因におけるAβN3(pE)ペプチドの重要な役割についての手掛かりを提供する。しかし、それらの神経毒性及び凝集特性についてはほとんどわかっていない(He, W.及びBarrow, C. J. 1999 Biochemistry 38, 10871-10877; Tekirian, T. L.らの文献. 1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。さらに、グリア細胞におけるこれらのアイソフォームの作用及びこれらのペプチドに対するグリア反応は完全に知られていないが、活性グリアは老人斑に強く関連しており、アミロイド沈着物の蓄積に積極的に関与する可能性がある。最近の研究において、Aβ1-42、Aβ1-40、[pGlu3]Aβ3-42、[pGlu3]Aβ3-40、[pGlu11]Aββ11-42及び[pGlu11]Aβ11-40ペプチドの毒性、凝集特性及び異化作用がニューロン及びグリア細胞培養物において調査され、ピログルタミン酸修飾がAβ-ペプチドの毒性特性を悪化させ、更に培養星状細胞によってそれらの分解を阻害することが示された。Shirotaniらは、インビトロでSindbisウイルスに感染された初代皮質ニューロンにおいて、[pGlu3]Aβペプチドの産生を調査した。彼らは、アミノ酸置換及び欠失によって[pGlu3]Aβの潜在的前駆体をコードしたアミロイド前駆体タンパク質相補的DNAを構築した。天然前駆体におけるピログルタミン酸の代わりにN-末端グルタミン残基から始まる1つの人工前駆体について、グルタミニルシクラーゼからピログルタミン酸塩への自然発生的な転換又は酵素転換が示唆された。[pGlu3]Aβの天然前駆体において、3位のN末端グルタミン酸塩の環化機序は、インビトロ、インサイチュー又はインビボでも決定されなかった(Shirotani, K.らの文献. 2002 NeuroSci Lett 327, 25-28)。
【発明の概要】
【0007】
(本発明の要旨)
本発明は、Qpct関連疾患のための非ヒト(特に哺乳動物)トランスジェニックモデルのための方法及び組成物を含む。具体的には、本発明は、Qpctを過剰発現させる非ヒトトランスジェニック動物モデルを含む。
【0008】
本発明はさらに、制限されないが以下を含むQpct関連疾患を調整する、生物学的活性薬剤のためのスクリーニング用組成物又は方法を含む:軽度認識障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管障害、レヴィー小体痴呆、ダウン症の神経変性、アミロイド症(オランダ型)を有する遺伝性脳溢血、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性状態、統合失調症、不妊性、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、後天性免疫不全症候群、移植片拒絶、ハンチントン病(HD)、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮内の白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害又は体液の調節障害、及びグアム‐パーキンソン痴呆複合。本発明の別の態様は、Qpct阻害剤のためのスクリーニング方法及び組成物を含む。
【0009】
さらに本発明は、Qpct関連疾患の治療及び/又は予防の方法及び組成物、特にQpctを阻害又は促進する方法及び組成物を含む。
【0010】
したがって、本発明の目的は、Qpctを過剰発現させるトランスジェニック動物を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、QpctをコードしているDNA構築物を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、プロモーターに連結されたQpctをコードしているDNA構築物を提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、非ヒトトランスジェニック動物モデル系を提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、特定の組織種におけるQpctのインビボ及びインビトロ調節及び効果を研究するための非ヒトトランスジェニック動物モデル系を提供することである。
【0015】
阻害研究によって、ヒト及びマウスQCが金属依存性トランスフェラーゼであることが示された。QCアポ酵素は、亜鉛イオンによって最も効率的に復活することができ、亜鉛依存性アミノペプチダーゼの金属結合モチーフはヒトQCにも存在する。活性部位結合金属と相互作用する化合物は、強力な阻害剤である。
【0016】
予想外に、組換え型ヒトQC、並びに脳抽出液由来QC-活性、双方が、N-末端グルタミニル、並びにグルタミン酸環化を触媒することを示した。最も特筆すべきことは、QC触媒Glu1-転換は約pH 6.0で有利に働くが、pGlu-誘導体へのGln1-転換は約8.0のpH-最適条件によって生じるという発見である。pGlu-Aβ関連ペプチドの形成が組換えヒトQC及びブタ下垂体抽出物由来QC-活性の阻害によって抑制されることができるので、酵素QCは例えばアルツハイマー病治療のための薬剤開発の標的である。
【0017】
哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、下記から選択される状態を予防又は緩和又は治療することができる:軽度認識障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管障害、レヴィー小体痴呆、ダウン症の神経変性、アミロイド症(オランダ型)を有する遺伝脳溢血、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性状態、統合失調症、不妊性、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、後天性免疫不全症候群、移植片拒絶、ハンチントン病(HD)、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮内の白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害及び体液の調節障害。
【0018】
更に、哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、消化管細胞増殖、好ましくは胃粘膜細胞、上皮細胞の増殖、酸産生性壁細胞の急性酸分泌及び分化、及びヒスタミン分泌性腸クロム親和性様細胞を刺激することができる。
【0019】
さらに、哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、骨髄前駆細胞の増殖を抑制することができる。
【0020】
加えて、QC阻害剤の投与は、雄の受精能を抑制することができる。
【0021】
本発明は、少なくとも1種のQCのエフェクターを、任意に慣習的な担体及び/又は賦形剤と組み合わせて含む、非経口、腸内又は経口投与のための医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
これらの更なる理解及び他の本発明の態様は、以下に表す図を参照することで得られるであろう:
【0023】
【図1】図1A及びB:(A)マウスQpct cDNAカセットの存在を示すプラスミド、「ベクターpPCR Script Cam SK(+)のmQC cDNA」の地図。(B)ベクター骨格の配列−cDNA接合部。クローニングに利用されるプライマーのSphI制限配列により、付加的なATGをベクターpPCR Script Cam SK(+)の開始コドンの4bp上流に挿入した。
【0024】
【図2】図2:クローニング戦略。最初にQpct cDNAを、pPCR-Script Cam SK(+)ベクター骨格からNsiI及びNotIを介して分離し、pBlueScript SK+(1 + 2)に、PstI及びNotIを介してサブクローニングした。その後、cDNAカセットを、pcDNA3.1(3 + 4)のプラスミドCAG Prに、制限部位HindIII及びNotIを介してサブクローニングした。結果として得られるpTG-CAG-mQCは、偏在的に発現するCAGプロモータ及びBGHポリAシグナルの制御下のQpct cDNAカセットから構成されている。
【0025】
【図3】図3:トランスジェニック構築プラスミドpTG-CAG-mQC及びその限定解析の制限酵素地図。(A)配列領域を、狭い幅の線としてラベルする(配列番号:1及び2)。ジェノタイピングプライマー(genotyping primers)の結合部位及び限定解析において使用する酵素の制限部位を、プラスミド地図に示す。ジェノタイピングプライマー(CAG-Pr-F1及びGX1675-TOR1-FF)の位置を灰色矢印(B、C)として示す。すべてのDNA消化は、表Mにおいて予測される期待断片サイズを生じた:MassRuler DNA-Ladder Mix(GeneRuler;MBI)。
【0026】
【図4】図4:スクリーニングPCRの感受性試験。最適化PCRスクリーンは、H20(-WT DNA)又は150μgのゲノム野生型DNA(+WT DNA)のpTG-CAG-mQCプラスミドの系列希釈を用いて行った。1マウスゲノム当たり0.1、1及び10コピーのトランスジェニックベクターの等価物を試験した。プライマー対CAG-Pr-F1/GX1675を有するトランスジェニックDNAのPCR増幅により、1585bp産物を得た。野生型ゲノムDNA(WT)及びH20(φ)を、ネガティブコントロールとして含めた。M:1kbのDNAラダー(New England Biolabs, NEB)。
【0027】
【図5】図5:pTG-CAG-mQCトランスジェニック構築物の調製及び確認。(A)SalI及びDraIIIの制限部位及びスクリーニングプライマーの結合部位を示すベクターpTG-CAG-mQCのプラスミドカード(Plasmid card)。(B) pTG-CAG-mQC(1)及び単離トランスジェニック構築物(2)のDraIII/SalI制限。M:1kbのDNAラダー(New England Biolabs, NEB)
【0028】
【図6】図6:前核マイクロインジェクション。(A)注入前の卵母細胞。雄前核が、明確に見える。(B) 注入後の卵母細胞。雄前核は明らかに拡大され、成功した注入を示す。
【0029】
【図7】図7:創始動物(founders)のスクリーニング。最後に生まれた19匹の子のPCR結果を示す。プライマーCAG-Pr-F1/GX1675-TOR1-FF(導入遺伝子PCR;1.6kb)及びプライマー対BGH-F1/CAG-Pr-R2(頭尾PCR(head-to-tail PCR);0.8kb)を用いるPCRを、F0世代由来ゲノムDNAを用いて行った。導入遺伝子PCRのためのポジティブコントロール(+)は、野生型ゲノムDNAで希釈されたプラスミドpTG-CAG-mQCとした。DNAの品質は、431bp野生型シグナルを増幅するコントロールPCRによって確認した。頭尾PCRのためのポジティブコントロール(TG)は、1.3kbのPCR産物を生じる同じプロモータ-ポリAシグナル配列を有するトランスジェニック系統のゲノムDNAとした。ネガティブコントロールは、野生型DNA(WT)とした。付加的なネガティブコントロールとしてH20(φ)を用いた。M:100bp DNAラダー(New England Biolabs, NEB)
【0030】
【図8】図8:F1世代の遺伝子型特定。17匹の子のPCR結果を例として示す。プライマーCAG-Pr-F1/GX1675-TOR1-FFを用いるPCR(導入遺伝子PCR; 1.6kb)を、F1世代由来ゲノムDNAを用いて行った。導入遺伝子PCRのためのポジティブコントロール(+)は、野生型ゲノムDNAで希釈されたプラスミドpTG-CAG-mQCとした。ネガティブコントロールは、野生型DNA(WT)とした。付加的なネガティブコントロールとしてH20(φ)を使用した。M1:100bp DNAラダー(NEB)
【0031】
【図9】図9:9A:Merck RP18-LiChrocart 125-4カラムを備えているMerck-Hitachi L-6210 HPLCシステムを用いて調製したピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検量線。化合物は、280nmでの吸収によって検出した。
【0032】
9B:グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンのQC媒介環化生成物としてのピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンのHPLC-検出による、QC-トランスジェニックマウス(三つ組、左列)及び野生型同腹子(三つ組、右列)の脳組織のQC-活性の測定。回帰曲線の傾斜は、QC触媒作用による生成物形成の初速度に相当する。プロットの前に、面積単位(HPLCの読み出し)は、ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検量線を用いて、濃度に変換した。
【0033】
【図10】図10:PCR及びリアルタイムPCR 10Aを用いるQC-転写物の評価。10A:HPLCを用いてピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの定量化により測定した、EDTA血漿、肝臓及び脳のQC活性は、体積(血漿)又は湿重量(組織)に関連していた。10B:EDTA血漿、肝臓及び脳のQC活性はタンパク量に関連していた。10C:2匹のトランスジェニックQC-マウス(QC)及びコントロール(WT)の脳(a)、肝臓(b)及び腎臓(c)の生成されたcDNAからのマウスQCの定性的PCR。10D:鋳型としてQCトランスジェニック(QC、N=2)マウス及びコントロール(WT、N=2)マウスの脳、肝臓及び腎臓からのcDNAを用いる定量的リアルタイムRT-PCR。
【0034】
【図11】図11:トランスジェニックマウス(hQC-系統53 番号27、四角)及び非トランスジェニック同腹子(hQC-系統53 番号25、円)の脳ホモジネートのQC活性。活性は、HPLCを用いてピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検出及び定量化に基づくアッセイを用いて決定された。トランスジェニック動物の場合において、急勾配は、導入遺伝子(ヒトQC)の発現を証明している。
【0035】
【図12】図12:トランスジェニックマウス(hQC-系統53 No.27、四角)及び非トランスジェニック同腹子(hQC-系統53 No.25、円)の脳ホモジネートのQC活性。活性は、QC活性の蛍光定量的検出に基づくアッセイを用いて決定された。トランスジェニック動物の場合、より高い傾斜は、導入遺伝子QCの表示を証明する。
【0036】
【図13】図13:Thy-1プロモーター(系統53、系統37及び系統43)又はマウスQC(pbd17E3)によって遍在的に駆動されるヒトQCをニューロン特異的に発現しているトランスジェニックマウスの脳ホモジネートのQC-活性の比較。A)異なる創始系統の動物の脳サンプルのQC-活性の比較。明らかに、hQCトランスジェニック動物だけが有意なQC-活性を示し、非トランスジェニック同腹子では示さなかった。これは導入遺伝子がQC活性の増加を仲介するということを示している。B)これらの結果に基づいて、脳サンプルの最も高いQC活性を示すヒトのQC-トランスジェニック創始系統53が選択された。
【0037】
【図14】図14:異なるトランスジェニック動物の脳ホモジネートのウエスタンブロット分析。一次ポリクローナル抗体を使用して、マウス及びヒトQCを検出した。結果は、QC活性の分析を正確に反映している。最も高いQC免疫反応は、系統53のトランスジェニック動物において得られた。pbd17E3マウスでは、かすかな染色だけが観察された。QC転位は、ポジティブコントロール(組換えヒトQC)によって示される。系統:1:標準タンパク質、2:hQC-系統53No.23(tg, 雌)、3:hQC-系統53 No.25(ntg, 雌)、4:hQC-系統53 No.27(tg, 雌)、5:hQC-系統37 No.43(tg, 雌)、6:hQC-系統37 No.43 Nr.34(ntg, 雄)、7:hQC-系統37 No.43 Nr.57(tg, 雌)、8:hQC-系統43 No.31(tg, 雌)、9:hQC-系統43 No.36(ntg, 雄)、10:hQC-系統43 Nr.32(tg, 雄)、11:hQC、ポジティブコントロール[40ng]、系統12-15:PBD17E3 12:No.7936 tg, 13:Nr.8860 tg, 14:Nr.8862 tg, 15:Nr.8863 tg.
【0038】
【図15】図15:ニューロン特異的にヒトQCを過剰発現させるトランスジェニックマウスの生成に使用するプラスミドの概略図。
【0039】
【図16】図16:生成されたプラスミドベクターの分析制限酵素消化。7929のサイズを有する断片を、マイクロインジェクションに使用した。レーン:1、Hind III-ラダー;2、pUC18-mThy1-hQC/Not I/Pvu I(7929bp + 1443bp + 896bp);3、Pst I-ラダー;4、PCR: pUC18-mThy1-hQC 27ng(1316bp);5、PCR:pUC18-mThy1-hQC 27ng + 100ngのgDNA(1316bp);6、PCR:100ng gDNA;7、PCR:非鋳型コントロール;8、1kb ラダー
【0040】
【図17】図17:3つの異なる創始系統のヒトQC(リアルタイムPCR)の転写レベルの定量。レベルは、標準GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)と比較して相対値として示す。最大転写レベルは系統53で測定され、それは最も高いQC活性をも示した。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の他の目的、利点及び特徴は、以下の詳細な説明によって明らかになる。
【0042】
(発明の詳細な説明)
本発明は、Qpct関連疾患及びトランスジェニック非ヒト動物それ自体の研究ためのトランスジェニック動物モデルの生成方法及び組成物を含む。本発明は具体的に、グルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ酵素(Qpct)を過剰発現させるトランスジェニック動物モデル及びトランスジェニック非ヒト動物それ自体を生成する方法及び組成物を含む。本発明は更に、Qpct阻害剤及びプロモーターを試験するための方法及び組成物、並びにQpct阻害剤/プロモーターを用いる予防/治療方法及び医薬組成物を含む。
【0043】
本発明はまた、軽度認識障害(MCI)、アルツハイマー病、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、及びダウン症の神経変性の治療のための新規方法を提供する。アルツハイマー病及びダウン症候群脳において沈着されるアミロイドβ-ペプチド、及び家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症において沈着されるアミロイドペプチドADan及びABriのN末端は、ピログルタミン酸を有する。改質アミロイドβ-ペプチド、ADan及びABriがアミロイド凝集及び毒性の増加傾向を示し、疾患の発症及び進行を悪化させ得るので、pGlu形成は疾患の発生及び進行における重要な事象である。(Russo, C.らの文献2002J Neurochem 82、1480-1489;Ghiso、J.らの文献2001 Amyloid 8、277-284)。
【0044】
対照的に、天然Aβ-ペプチド(3-40/42)において、グルタミン酸がN末端アミノ酸として存在する。
【0045】
(定義)
「導入遺伝子」という用語は、宿主ゲノムに組み込まれた又は宿主細胞の自律複製ができ、かつ一つ以上の細胞産物の発現を生じることができるDNA断片を意味する。典型的な導入遺伝子は、対応する形質転換細胞又は動物と比較して新しい表現型を有する宿主細胞又はそれから開発される動物を提供する。
【0046】
「トランスジェニック動物」という用語は、その細胞部分の染色体外の要素として存在するか又はその生殖系DNAに安定して組み込まれた、非内因性核酸配列を有するヒト以外の動物(通常、哺乳動物)を意味する。
【0047】
「構築物」という用語は、組換え核酸、通常、特定のヌクレオチド配列の発現目的で生成された又は他の組換えヌクレオチド配列の構築において使用される、組換えDNAを意味する。組換え核酸は、例えばキメラ又はヒト化ポリペプチドをコードすることができる。
【0048】
本明細書中のポリペプチドは、10以上のアミノ酸を含むすべての可能性があるアミノ酸配列に関連する。
【0049】
「作動可能に連結」という用語は、適当な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が制御配列に結合された場合、DNA配列及び制御配列が遺伝子発現可能であるような様式で結合されることを意味する。
【0050】
「作動可能に挿入」という用語は、対象のヌクレオチド配列が、対象の導入ヌクレオチド配列の転写及び翻訳を導くヌクレオチド配列に隣接して配置されることを意味する。
【0051】
(導入遺伝子)
本発明の導入遺伝子を含むQpctポリヌクレオチドは、Qpct cDNAを含み、改質Qpct cDNAも含む。本明細書中で用いられる、核酸の「改質」は、参照配列に関して1以上のヌクレオチド付加、欠失又は置換を含むことができる。核酸の改質は、遺伝子コードの縮重のためコード化アミノ酸配列を変えない置換、又は保存的置換となる置換を含むことができる。この種の改質は、ポリA尾部の付加などの、意図的な変更、又は核酸複製時の突然変異として生じる変更に相当し得る。
【0052】
本明細書中に使用される「実質的に同一のヌクレオチド配列」という用語は、参照ポリヌクレオチドに対して十分な同一性を有するDNAを指す。それは中程度のストリンジェント又は高いストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で参照ヌクレオチドにハイブリダイズする。参照ヌクレオチド配列としての「実質的に同一のヌクレオチド配列」を有するDNAは、参照ヌクレオチド配列に関して少なくとも60%〜少なくとも95%の範囲の同一性を有することができる。
【0053】
「中程度のストリンジェントなハイブリダイゼーション」という語句は、標的核酸が相補的核酸を結合することができる条件を指す。ハイブリダイズされた核酸は、通常、少なくとも約60%〜少なくとも約95%の範囲の同一性を有する。中程度のストリンジェント条件は、50%ホルムアミド、5x デンハルツ溶液、5xリン酸ナトリウムEDTA緩衝液(SSPE)、0.2%SDS(Aldrich)中、約42℃でのハイブリダイゼーション、続く0.2x SSPE、0.2%SDS(Aldrich)中、約42℃での洗浄と同等の条件である。
【0054】
高いストリンジェントなハイブリダイゼーションは、0.018M NaCl中、約65℃で、安定なハイブリッドを形成するそれらの核酸配列のみがハイブリダイゼーションできる条件を指す。例えば、ハイブリッドが0.018M NaCl中、約65℃で安定でない場合、本明細書中に意図されるように、それは高いストリンジェント条件下で安定でない。高いストリンジェント条件は、例えば、50%ホルムアミド、5x デンハルツ溶液、5x SSPE、0.2%SDS中、約42℃でのハイブリダイゼーション、続く0.lx SSPE及び0.1%SDS中、約65℃での洗浄によって提供されることができる。
【0055】
他の適切な中程度のストリンジェント及び高いストリンジェントなハイブリダイゼーション緩衝液及び条件は、当業者にとって周知であり、例えば、Sambrookらの文献. Molecular Cloning; A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y. (1989); 及びAusubelらの文献(「分子生物学の現在のプロトコル(付録47)(Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47))」, John Wiley & Sons, New York (1999))に記載されている。
【0056】
本発明の導入遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、ヒト由来のQpct配列又は任意種、好ましくはマウス種由来のQpct相同体であることができる。本発明の導入遺伝子によってコードされるアミノ酸配列はまた、断片が全長Qpct配列の機能の一部若しくは全部を保持する限り、Qpctアミノ酸配列の断片であることができる。配列は、改質Qpct配列でもよい。個々の置換、欠失又は付加は、単一アミノ酸又は少ないパーセンテージのアミノ酸(典型的には10%未満、より典型的には5%未満、さらに典型的には1%未満)の変更、付加又は欠失する。アミノ酸配列の「改質」は、アミノ酸配列の保存的置換を包含する。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当業者に公知である。以下の6つの各グループは、互いに保存的置換となるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(1)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
及び、
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
他の軽微な改質は、ポリペプチドがQpctポリペプチドの構造及び/又は機能特徴の一部若しくは全部を保持する限り、配列中に含まれる。典型的な構造又は機能特徴は、配列同一性又は類似性、抗体反応性、RNA結合ドメイン又は酸性ドメインなどの保存された構造ドメインの存在を含む。
【0057】
(DNA構築物及びベクター)
本発明は、上記の通りにQpct導入遺伝子を含むDNA構築物を更に提供する。本明細書中で用いられる「DNA構築物」という用語は、DNA分子中の遺伝因子の特定の配列を指す。ヒトQpct又はその変異形態に加えて、本発明はまた、他の種由来のポリペプチド、並びにヒト以外の種由来のBACE1を発現するQpct変異非ヒト哺乳動物由来のポリペプチドを用いる、DNA構築物を提供する。
【0058】
必要に応じて、DNA構築物は、適当な細胞又は組織において、DNA構築物中の遺伝因子の発現を許容するためにプロモーター又はエンハンサーなどの適当な発現要素と作動可能に連結されるように、処理されることができる。発現制御機序の使用は、対象の遺伝子の標的化送達及び発現を可能にする。例えば、本発明の構造物は、転写の5'-3'方向、脳組織の遺伝子発現と関連している転写及び翻訳開始領域、変異又は野生型Qpctタンパク質をコードしているDNA、及び宿主動物において機能的な転写及び翻訳終端領域に含む発現カセットを用いて構築されることができる。一つ以上のイントロンも、存在することができる。転写開始領域は、宿主動物に内因性、又は宿主動物に外来性又は外因性であることができる。
【0059】
本明細書中に記載されているDNA構築物は、Qpctを過剰発現する変異非ヒト哺乳動物を生成する適当な細胞に、伝播又はトランスフェクションのためのベクターに組み込まれることができ、これも本発明に包含される。当業者は、所望の特性に基づいてベクターを選択することができる。例えば、哺乳動物の細胞又は細菌細胞などの特定の細胞中でベクターを製造するために選択することができる。
【0060】
ベクターは、作動可能に連結した核酸の組織特異的又は誘導可能な発現を提供する制御要素を含むことができる。当業者は、所望される組織中のQpctポリペプチドの発現を可能にする適当な組織特異的プロモーター又はエンハンサーを容易に決定することができる。本明細書中に記載されている組織特異的発現は、好ましい組織以外の組織中で、発現が完全に欠如することを必要としない点に留意する必要がある。代わりに、「細胞特異的」又は「組織特異的」発現は、好ましい細胞種又は組織中で、対象となる特定遺伝子の大部分が発現することを指す。
【0061】
様々な誘導プロモーター又はエンハンサーの幾つかは、制御され得るQpctポリペプチド又は核酸の発現ベクター中に含まれることができる。このような誘導可能なシステムは、例えば、テトラサイクリン誘導可能システムを含む(Gossen & Bizard, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992);Gossenらの文献., Science, 268:17664769 (1995);Clontech, Palo Alto, Calif.);重金属によって誘導されるメタロチオネインプロモーター;エクジソン又はムリステロンなどの関連ステロイドに応答する昆虫ステロイドホルモン (Noらの文献., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996);Yaoらの文献., Nature, 366:476-479 (1993);Invitrogen, Carlsbad, Calif.);グルココルチコイド及びエストロゲンなどのステロイドによって誘導されるマウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)( Leeらの文献., Nature, 294:228-232 (1981);及び温度変化によって誘導可能な熱ショックプロモーター;ラットニューロン特異的エノラーゼ遺伝子プロモーター(Forss-Petter,らの文献., Neuron 5;197-197 (1990));ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーター(Ray,らの文献., Genes and Development (1991) 5:2265-2273);ヒト血小板誘導化成長因子B(PDGF-B)鎖遺伝子プロモーター(Sasahara,らの文献., Cell (1991) 64:217-227);ラットナトリウムチャネル遺伝子プロモーター(Maue,らの文献., Neuron (1990) 4:223-231);ヒト銅-亜鉛スーパオキシドジスムターゼ遺伝子プロモーター(Ceballos-Picot,らの文献., Brain Res.(1991) 552:198-214);及び哺乳動物POU-ドメイン調節性遺伝子ファミリーの一員のためのプロモータ(Xiらの文献., (1989) Nature 340:35-42)。
【0062】
プロモーター又はエンハンサーなどの制御要素は、制御の性質に応じて、構成又は制御されることができ、様々な組織又は1以上の特定組織において制御されることができる。ポリヌクレオチド配列と制御配列との物理的及び機能関係がポリヌクレオチド配列の転写を許容するように、制御配列又は制御要素は、本発明のポリヌクレオチド配列の1つと作動可能に連結する。真核細胞中の発現に有用なベクターは、例えば、CAGプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)ステロイド-誘導性プロモーター、Pgtf、モロニーマウス肉腫ウイルス(MMLV)プロモーター、thy-1プロモーターなどの制御要素を含むことができる。
【0063】
必要に応じて、ベクターは、選択可能マーカーを含むことができる。本明細書中で用いられる「選択可能マーカー」は、選択可能な表現型を、選択可能マーカーが導入された細胞に提供する遺伝因子を指す。選択可能マーカーは、通常、遺伝子産物が、細胞成長を阻害又は細胞を殺す薬剤に対して抵抗性を提供する遺伝子である。様々な選択可能マーカーを、本発明のDNA構築物に用いることができる。例えば、以下の文献に記載されているNeo、Hyg、hisD、Gpt及びBle遺伝子がある:Ausubelらの文献.(「分子生物学の現在のプロトコル(付録47)(Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47))」, John Wiley & Sons, New York (1999))及び米国特許第5,981,830号。選択可能マーカーの存在を選定するのに有用な薬剤は、例えば、NeoのためのG418、Hygのためのハイグロマイシン、hisDのためのヒスチジノール、Gptのためのキサンチン及びBleのためのブレオマイシンを含む(上記、Ausubelらの文献(1999);米国特許第5,981,830号を参照)。本発明のDNA構築物は、ポジティブ選択可能マーカー、ネガティブ選択可能マーカー又は両方を組み込むことができる(米国特許第5,981,830号参照)。
【0064】
(非ヒトトランスジェニック動物)
本発明は、第一に、ゲノムがQpctポリペプチドをコードしている導入遺伝子を含む非ヒトトランスジェニック動物を提供する。DNA断片は、当業者に公知の任意の方法によってトランスジェニック動物のゲノムに組み込まれることができる。導入された分子がホモロジーのその領域で組換えされ得る任意の方法によって、所望の遺伝子配列を含んでいるDNA分子を、ES細胞などの多能性細胞に導入することができる。用いることができる技術は、リン酸カルシウム/DNA共沈、核へのDNAのマイクロインジェクション、電気穿孔法、無傷細胞との細菌プロトプラスト融合、トランスフェクション、及びポリカチオン(例えば、ポリブレン、ポリオルニチンなど)を含むが、これらに限定されるものではない。DNAは、一本鎖又は二本鎖DNA、直線又は環状であることができる。(例えば以下を参照されたい。Hoganらの文献., 「マウス胚操作(Manipulating the Mouse Embryo)」:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory (1986);Hoganらの文献., 「マウス胚操作(Manipulating the Mouse Embryo)」: A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor Laboratory (1994), 米国特許第5,602,299号;5,175,384;6,066,778;4,873,191及び6,037,521;「生殖細胞系へのレトロウイルス媒介遺伝子導入(retrovirus mediated gene transfer into germ lines)」(Van der Puttenらの文献., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:6148-6152 (1985));「胚幹細胞の遺伝子標的(gene targeting in embryonic stem cells)」(Thompsonらの文献., Cell 56:313-321 (1989));胚の電気穿孔法(Lo, Mol Cell. Biol. 3:1803-1814 (1983));及び「精子媒介遺伝子導入(sperm-mediated gene transfer)」(Lavitranoらの文献., Cell 57:717-723 (1989))。
【0065】
例えば、接合子はマイクロインジェクション法にとって良好な目標であり、接合子をマイクロインジェクションする方法は周知である(US 4,873,191を参照)。
【0066】
様々な発育期の胚性細胞を、トランスジェニック動物生成のための導入遺伝子の導入に用いることができる。胚性細胞の発育期に応じて、異なる方法が用いられる。このようなトランスフェクトされた胚幹細胞は、その後、胚盤胞期の胚の胞胚腔中にそれらが導入された後胚をコロニー形成して、生ずるキメラ動物の生殖細胞系に寄与する。(Jaenischの総説, Science 240:1468-1474 (1988))。トランスフェクトされたES細胞を胞胚腔中に導入する前に、トランスフェクトされたES細胞を種々の選択計画に付して、導入遺伝子がこのような選択手段を持つことを前提に該導入遺伝子を組み込んだES細胞を濃縮してもよい。あるいは、該導入遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングするためにPCRを使用してもよい。
【0067】
さらに、導入遺伝子を非ヒト動物に導入するために、レトロウイルス感染を用いることもできる。発育中の非ヒト胚は、胚盤胞期にインビトロで培養されることができる。この間に、割球は、レトロウイルス感染の標的であることができる(Janenich, Proc. Nati. Acad. Sci. USA 73:1260-1264 (1976))。割球の効果的な感染は、透明帯を除くために、酵素処理によって得られる(上記、Hoganらの文献1986)。導入遺伝子を導入するために用いるウィルスベクター系は、典型的には、導入遺伝子を運搬する複製欠損レトロウイルスである(Jahnerらの文献., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927-6931 (1985);Van der Puttenらの文献., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6148-6152 (1985))。トランスフェクションは、ウイルス産生性細胞の単層上の割球を培養することによって、容易かつ効率的に得られる(Van der Putten, supra, 1985;Stewartらの文献., EMBO J. 6:383-388 (1987))。あるいは、感染は、後期に実行されることができる。ウイルス又はウイルス産生性細胞は、割腔に注入され得る(Jahner D.らの文献., Nature 298:623-628 (1982))。大部分の創始動物は、組込みが細胞の一部にのみ起こるので、導入遺伝子のモザイクであり、トランスジェニック動物を形成する。更に、創始動物は、ゲノムの異なる位置で導入遺伝子の様々なレトロウイルス挿入を含むことができる。一般にそれは子孫において分離するであろう。さらに、導入遺伝子は、半妊娠期胚の子宮内レトロウイルス感染によって、生殖細胞系に導入されることができる(上記、Jahnerらの文献1982)。当業者に公知のトランスジェニック動物を作製するためのレトロウイルス又はレトロウイルスベクターのさらなる使用方法は、レトロウイルスを生産するレトロウイルス粒子又はマイトマイシンC処理細胞の、受精卵又は初期胚の囲卵空間へのマイクロインジェクションを含む(WO 90/08832(1990);Haskell及びBowen, Mal.Reprod.Dev. 40:386 (1995)).
【0068】
導入遺伝子を非ヒト動物に導入する任意の他の技術、例えばノックイン又は救出技術を、本発明の課題を解決するために用いることもできる。例えば、Casasらの文献. (2004) Am J Pathol 165, 1289-1300に記載されているように、ノックイン技術は公知技術である。
【0069】
一旦、創始動物ができると、それらを、交配、同系交配、異系交配又は異種交配し、特定の動物群体を生成することができる。このような繁殖戦略の例を挙げると、以下を含むが、これに限定されるものではない:別々の系統を確立するために、2以上の組込み部位をもつ創始動物を異系交配すること;各導入遺伝子の付加的発現の影響のため、高レベルで導入遺伝子を発現する複合トランスジェニック(compound transgenic)を生成するために別々の系統を同系繁殖させること;発現を増やし、かつDNA分析による動物のスクリーニングの必要性を排除するために、所与の組込み部位の同型接合マウスを生成するために異型接合トランスジェニックマウスを交配させること;複合異型接合体又は同型接合系統を生成するために別々の同型接合系統を交配させること;導入遺伝子の発現上の対立遺伝子の改質影響及び発現の影響を検討するために、異なる同系交配遺伝子的背景に動物を交配させること。
【0070】
トランスジェニック動物をスクリーニングし、評価して、対象の表現型を有するそれらの動物を選択する。最初のスクリーニングは、例えば、導入遺伝子の組込みが起こったことを検証するために、動物組織を分析するサザンブロット分析又はPCR技術を使用して実行され得る。トランスジェニック動物の組織中の導入遺伝子のmRNA発現レベルは、動物、インサイチューハイブリッド形成分析、及び逆転写酵素-PCR(rt-PCR)から得られる組織サンプルのノーザンブロット解析を含むが、これに限定されるものではない技術を用いて評価されることもできる。適切な組織サンプルは、Qpct特異的抗体、又はEGFPなどのタグを有する抗体を用いて、免疫細胞化学的に評価されることができる。トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、本発明の方法に役立つ表現型を有するそれらの動物を同定するために、更に特徴付けられることができる。特に、Qpctを過剰発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、本明細書中に開示される方法を用いてスクリーニングされることができる。例えば、組織切片をレポーター遺伝子の存在を示す蛍光の存在する型について蛍光顕微鏡で見ることができる。
【0071】
Qpctタンパク質の組織特異的発現に影響を及ぼす別の方法は、組織特異的プロモーターを用いることである。適切な組織特異的プロモーターの非限定的な例を挙げると、アルブミンプロモータ (肝臓特異的;Pinkertらの文献., (1987) Genes Dev. 1:268-277);リンパ特異的プロモーター(Calame and Eaton (1988) Adv.Immunol.43:235-275)、特にT細胞レセプタのプロモーター(Winoto及びBaltimore (1989) EMBO J. 8:729-733)、及び免疫グロブリンのプロモーター(anerjiらの文献., (1983) Cell 33:729-740;Queen and Baltimore (1983) Cell 33:741-748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター、Thy-1プロモーター又はBri-タンパク質プロモーター;Sturchler-Pierratらの文献., (1997) Proc. Natl. Acad Sci. USA 94:13287-13292, Byrne and Ruddle (1989) PNAS 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(dlundらの文献., (1985) Science 230:912-916)、心臓特異的発現(アルファミオシン重鎖プロモータ、Subramaniam, A, Jones WK, Gulick J, Wert S, Neumann J, 及びRobbins J. 「トランスジェニックマウスにおけるアルファミオシン重鎖遺伝子プロモーターの組織特異的制御(Tissue-specific regulation of the alpha-myosin heavy chain gene promoter in transgenic mice.)」, J Biol Chem 266:24613-24620, 1991.)、及び乳腺特異的プロモーター(例えば、乳漿プロモーター;米国特許第4,873,316号及び欧州特許公開第264,166号)。
【0072】
本発明は更に、本発明のDNA構築物を含む単離細胞を提供する。DNA構築物は、周知のトランスフェクション方法のいずれかによって、細胞に導入され得る(Sambrookらの文献、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y. (1989);上記、Ausubelらの文献(1999))。あるいは、該細胞は、本明細書中に記載されているように作製された変異非ヒト哺乳動物から細胞を単離することによって得ることができる。従って、本発明は、本発明のQpct変異非ヒト哺乳動物、特にQpct変異マウスから単離去れた細胞を提供する。該細胞は、マウスなどの同型接合Qpct変異非ヒト哺乳動物、又はマウスなどの異型接合Qpct変異非ヒト哺乳動物から得ることができる。
【0073】
(エフェクター)
その用語が本明細書中に使われるように、エフェクターは、酵素に結合し、インビトロで及び/又はインビボでそれらの活性を増加(
【数1】
促進)又は減少(
【数2】
阻害)させる分子として定義される。いくつかの酵素は、それらの触媒活性に影響を及ぼす分子のための結合部位を有する;刺激分子は、活性化因子と呼ばれる。酵素は、2以上の活性化因子又は阻害剤を認識する複数のサイトを有することもできる。酵素は、様々な分子の濃度を検出することができ、それら自身の活性を変化させるその情報を使用することができる。
【0074】
酵素は活性及び不活性な配座を想定することができるので、エフェクターは酵素活性を調整することができる:活性化因子は正のエフェクターであり、阻害剤は負のエフェクターである。エフェクターは酵素の活性部位でだけでなく、調節部位又はアロステリック部位でも作用する(調節部位が触媒部位とは異なる酵素の要素であることを強調し、かつ調節のこの形態と、触媒部位での基質及び阻害剤の競合とを区別するように使用される用語)(Darnell, J., Lodish, H. and Baltimore, D. 1990, 「分子細胞生物学(Molecular Cell Biology)」, 第二版, Scientific American Books, New York, ページ63)。
【0075】
(ペプチド)
ペプチド又はアミノ酸が本発明に記載されている場合、各アミノ酸残基は、以下の従来のリストに従って、アミノ酸の慣用名に相当する1文字又は3文字表記によって表される:
【表1】
【0076】
(QC)
本明細書で用いられる用語「QC」又は「Qpct」は双方とも同じものを指し、グルタミニルシクラーゼ(QC)(すなわちグルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ(EC 2.3.2.5.))及びQC-様酵素を含むことを意図する。QC及びQC-様酵素は、同一又は類似した酵素活性を有し、該活性はQC活性として更に定義される。これに関して、QC-様酵素は、基本的にそれらの分子構造がQCとは異なり得る。
【0077】
本明細書で用いられる「QC活性」という用語は、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化、又はアンモニア遊離を受けて、N末端L-ホモグルタミン若しくはL-β-ホモグルタミンの環式ピロ-ホモグルタミン誘導体への分子内環化と定義される。スキーム1及び2を参照。
【化1】
【化2】
【0078】
本明細書中で使用される用語「EC」は、グルタメートシクラーゼ(EC)としてのQC及びQC-様酵素の副活性を含み、さらに該活性をEC活性と定義する。
【0079】
本明細書において使用される用語「EC活性」は、QCによるN-末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化として定義される。スキーム3を参照。
【0080】
本明細書で用いられる「金属依存性酵素」という用語は、それらの触媒機能を果たすために結合される金属イオンを必要とし、かつ/又は触媒的に活性な構造を形成するために結合される金属イオンを必要とする酵素として定義される。
【化3】
【0081】
本明細書で用いられる「Qpct関連疾患」という用語は、Qpctによって調節される全てのそれらの疾患、障害又は状態を指す。
【0082】
(治療薬のアッセイ及び同定)
本発明の方法及び組成物は、特にQpctのエフェクターの評価、及び軽度認識障害、アルツハイマー病、ダウン症の神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症などのアミロイド関連疾患の治療及び予防のための薬剤及び治療薬の開発の評価に有用である。
【0083】
本発明のトランスジェニック動物又はトランスジェニック動物の細胞は、様々なスクリーニングアッセイに使用されることができる。例えば、Qpct及びアミロイド蓄積に影響を及ぼす疑いのある様々な潜在的薬剤のいずれか、並びに、適当な拮抗剤及びブロッキング治療薬を、トランスジェニック動物に投与し、かつこれらの薬剤の作用を細胞の機能及び表現型について、及びトランスジェニック動物の(神経学的な)表現型について評価することによってスクリーニングすることができる。
【0084】
運動技術、学習及び記憶の障害を評価するように設計された行動研究などの研究を、潜在的治療薬を試験するために使用することもできる。この種の試験の例には、「モリスの水迷路(the Morris Water maze)」(Morris (1981) Learn Motivat 12:239-260)がある。さらに、行動研究は、例えば、ローターロッド及びオープンフィールドを有するなど、自発運動の評価を含むことができる。
【0085】
有利には、本発明の方法は、アミロイド蓄積を研究し、かつ潜在的治療化合物を試験するために、同型接合又は異型接合Qpct変異非ヒト哺乳動物から単離された細胞を使用することができる。本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞株など、Qpctを発現する細胞を用いることもできる。
【0086】
Qpct過剰発現細胞は、Aβ関連疾患を治療するための潜在的治療薬としての化合物をスクリーニングするインビトロ方法に使用されることができる。この種の方法において、化合物を、Qpct過剰発現細胞、トランスフェクトされた細胞又はQpct変異非ヒト動物由来の細胞と接触し、Qpct発現と関連している表現型の変化をスクリーニングすることができる。細胞アッセイ及びトランスジェニック動物のAβ生産における変化は、当業者に周知の方法によって評価されることができる。
【0087】
Qpctの発現が蛍光強度によってモニターされることができるので、QpctなどのQpct融合ポリペプチドは、前記スクリーニング方法に特に役立ち得る。他の典型的な融合ポリペプチドは、他の蛍光タンパク質又はその修飾体、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質、及びポリHisなど、又は任意の型のエピトープタグを含む。例えば、このような融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドに特異的な抗体を用いて検出されることができる。融合ポリペプチドは、その機能部分が所望の特性、例えば、抗体結合活性又は蛍光活性を保持する限り、ポリペプチド全体又はその機能部分であることができる。
【0088】
本発明は更に、上記したように疾患の治療に使用される潜在的治療薬を同定する方法を提供する。該方法は、Qpctポリペプチドコード化ポリヌクレオチドを含むDNA構築物の含有細胞を、化合物と接触させる工程、細胞をQpct産生減少に関してスクリーニングする工程、それによって、Qpct関連疾患の治療に使用する潜在的治療薬を同定する工程を含む。該細胞は、Qpct DNA構築物を含む有核細胞を有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物から単離され得る。あるいは、該細胞は、緑色蛍光タンパク質融合又は他の融合ポリペプチドをQpctポリペプチドとともにコードしている核酸を含む、DNA構築物を含有することができる。
【0089】
さらに、Qpctポリペプチド発現細胞は、化合物を、Qpct発現と関連している表現型を変化させる活性を有する潜在的治療薬と同定するための予備スクリーニングに用いられることができる。Qpct変異非ヒト哺乳動物を用いるインビボスクリーニングと同様に、適当なコントロール細胞を、スクリーニング結果の比較のために使用することができる。必要に応じて、Qpct発現細胞を用いる最初のインビトロスクリーニングによって同定される化合物の有効性を、本発明のQpct変異非ヒト哺乳動物を用いて、インビボで更に試験することができる。従って、本発明は、細胞系アッセイ、例えばハイスループットスクリーニングを用いて、多数の化合物をスクリーニングする方法、並びにAβ関連障害の動物モデルにおいて、治療薬としての化合物を更に試験する方法を提供する。
【0090】
QCは、アミロイドβ-ペプチドの凝集を助長するピログルタミン酸の形成に関与している。従って、QCの抑制は、環化機構とは独立に、アルツハイマー病及びダウン症の発症及び進行を生じる、プラーク成形[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43の沈殿の予防に通じる。
【0091】
グルタミン酸は、アミロイドβ-ペプチドの3、11及び22位に見い出せる。そのうちの22位でのグルタミン酸(E)からグルタミン(Q)への変異(アミロイド前駆体タンパク質APP770, Swissprot entry: P05067のアミノ酸693に相当する)は、いわゆるオランダ型脳動脈アミロイド症変異(Dutch type cerebroarterial amyloidosis mutation)と呼ばれている。
【0092】
3、11及び/又は22位にピログルタミン酸残基を有するβ-アミロイドペプチドは、Aβl-40/4243より細胞障害性及び疎水性であることが示されている(Saido T.C. 2000 Medical Hypotheses 54(3): 427-429)
【0093】
複数のN末端変化は、異なる部位でのβ-セクレターゼ酵素β-部位アミロイド前駆体タンパク質-切断酵素(BACE)によって(Huse J.T.らの文献. 2002 Biol. Chem. 277 (18): 16278-16284)、及び/又はアミノペプチダーゼ処理によって生じることができる。
【0094】
未知のグルタミルシクラーゼ(EC)によるGlu1-ペプチドのpGlu-ペプチドへの酵素変換を支持する実験証拠は存在していない(Garden, R. W., Moroz, T. P., Gleeson, J. M., Floyd, P. D., Li, L. J., Rubakhin, S. S.,及びSweedler, J. V. (1999) J Neurochem 72, 676-681; Hosoda R.らの文献. (1998) J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095)。このような酵素活性、N-末端がプロトン化され且つ弱アルカリ性又は中性pH条件下で負に荷電するGlu1γ-カルボン酸部分を有するGlu1-ペプチドを環化可能な酵素活性は確認されていない。
【0095】
Gln1基質に対するQC活性は、pH 7.0未満で劇的に低下する。対照的に、Glu1-転換は酸性反応条件で起こるようである(例えば、Iwatsubo, T., Saido, T. C., Mann, D. M., Lee, V. M.,及びTrojanowski, J. Q. (1996) Am J Pathol 149, 1823-1830)。
【0096】
以前に、QCが弱酸性条件下でアミロイド-β誘導化ペプチドを認識及び変化することができるかどうかが調査された(WO 2004/098625)。従って、酵素の潜在的基質としてペプチド[Gln3]Aβ1-11a、Aβ3-11a、[Gln3]Aβ3-11a、Aβ3-21a、[Gln3]Aβ3-21a、及び[Gln3]Aβ3-40が合成及び調査された。これらの配列は、天然N-末端及びC-末端切断[Glu3]Aβペプチド及び翻訳後Glu-アミド化のため生じ得る[Gln3]Aβペプチドを模倣して選択された。
【0097】
パパイヤ及びヒトQCがグルタミニル及びグルタミル環化に触媒作用を及ぼすことが示された。明らかに、QCの主要生理学的機能は、ホルモン分泌プロセスに先立つ、又はその間の、グルタミン環化による内分泌細胞内のホルモン成熟を完成させることである。そのような分泌小胞は、酸性pHであることが知られている。従って、5.0〜7.0の狭いpH範囲において酵素副活性は、Glu-Aβペプチドも環化するその新たに発見されたグルタミルシクラーゼ活性である可能性がある。しかし、Gln転換に比べてGlu環化はかなり遅く起こるので、該グルタミル環化が有意義な生理的役割を果たすかどうかは、疑問の余地がある。しかしながら、神経変性疾患の病理においては、該グルタミル環化は関連性がある。
【0098】
この酵素の反応のpH依存性を調査することにより、非プロトン化N末端基がGln1-ペプチドの環化に必須であったこと、及びそれに応じて、基質のpKa-値がQC-触媒作用のpKa-値と同一であったことが示された。従って、QCは、γ-カルボニル炭素上の非プロトン化α-アミノ部分の分子内求核攻撃を安定させる。
【0099】
N末端グルタミンを含むペプチドに存在する一価の電荷とは対照的に、Glu含有ペプチドのN末端Glu-残基は、中性pHで主に二価の電荷である。グルタミン酸は、γ-カルボン酸及びα-アミノ部分についてそれぞれ約4.2及び7.5のpKa-値を示す。すなわち、中性pH以上でα-アミノ窒素は、一部又は完全に非プロトン化され、求核性であり、γ-カルボン酸基は非プロトン化され、結果、求電子性カルボニル活性を発揮しない。したがって、分子内環化反応は不可能である。
【0100】
しかし、それらの各pKa-値の間の約5.2〜6.5のpH範囲において、2つの官能基は、総N末端Glu含有ペプチドの約1-10%(-NH2)又は10-1%(-COOH)の濃度で、双方とも非イオン化型で存在する。結果として、弱酸性pH-範囲では、N末端Glu-ペプチド種は、双方の基が非荷電であり、従って、QCがpGlu-ペプチドへの分子内環化の中間体を安定化することがある。すなわち、γ-カルボン酸基がプロトン化される場合、カルボニル炭素は、非プロトン化α-アミノ基により求核攻撃されるのに十分に求電子性である。このpHでは、ヒドロキシルイオンは、脱離基として機能する。これらの仮定は、Glu-βNAのQC触媒変換のために得られたpH依存性データによって裏付けされる。QCによるGln-βNAのグルタミン変換とは対照的に、触媒作用のpH-最適条件は、約pH 6.0の酸性範囲、すなわち、基質分子種が、同時に豊富なプロトン化γ-カルボン酸基及び非プロトン化α-アミノ基を有するpH-範囲に変わる。さらに、7.55+/-0.02の動力学的に決定されたpKa-値は、滴定によって測定されたGlu-β3NAのα-アミノ基のもの(7.57±0.05)と優れた一致を示す。
【0101】
生理的に、pH 6.0でのQC触媒グルタミン酸環化の二次速度定数(又は特異性定数、kcat/KM)は、グルタミン環化のそれより1*105〜1*106倍遅い範囲であろう。しかし、モデル基質Glu-βNA及びGln-βNAの非酵素的変換はごくわずかであり、ごくわずかなpGlu-ペプチド形成の観測と一致する。それゆえ、QCによるpGlu形成において、酵素対非酵素の速度定数の比から、少なくとも108の促進を推定することができる(該酵素触媒の二次速度定数を、各非酵素環化反応の一次速度定数と比較すると、Gln変換、及びGlu変換における触媒有効係数(catalytic proficiency factor)は、各々109〜1010 M-1である。)。これらのデータからの結論は、pGlu形成をもたらす酵素経路が、インビボでのみあり得ると思われる。
【0102】
QCが脳で非常に豊富であり、0.9分-1の高変換速度を考慮することにより、近年、30μMの(Gln-)TRH様ペプチドの成熟が見い出されたので(Prokal, L., Prokai-Tatrai, K., Ouyang, X., Kim, H. S., Wu, W. M., Zharikova, A.,及びBodor, N. (1999) J Med Chem 42, 4563-4571)、類似の反応条件が設けられている場合、適当なグルタミン酸基質について約100時間の環化半減期を予測することができる。さらに、分泌経路における脳QC/ECの区画化及び局在化を考慮すると、実際のインビボ酵素及び基質濃度及び反応条件は、無傷細胞の酵素的環化において、なおさら好都合であり得る。そして、N末端GluがGlnに転換されている場合、QCにより媒介される迅速なpGlu形成が予想され得る。インビトロで、両方の反応は、QC/EC-活性の阻害剤を適用することによって抑制された。
【0103】
要約すると、脳内で非常に豊富であるヒトQCが、Glu-Aβ及びGln-Aβ前駆体からのアミロイド生成性pGlu-Aβペプチド形成の触媒である可能性が示された。それはアルツハイマー病で見出されるプラーク沈着物の50%以上を形成する。これらの見解は、QC/ECを、老人性プラーク形成のプレーヤーとして特定し、従って、アルツハイマー病の治療、ダウン症の神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症の新規薬剤標的として特定する。
【0104】
好ましい実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて、軽度認識障害、アルツハイマー病、ダウン症、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症のpGlu-アミロイドペプチド形成の抑制のために選択される、QC及びEC活性減少性エフェクターの使用を提供する。
【0105】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて、消化管細胞増殖、特に胃粘膜細胞増殖、上皮細胞増殖、酸産生性壁細胞及びヒスタミン分泌性腸クロム親和性様(ECL)細胞の分化、及びECL細胞のヒスタミン合成及び貯蔵と関連している遺伝子の発現のために、並びに、活性[pGlul]-ガストリンの濃度を維持又は増加させることによる哺乳動物の急性酸分泌の刺激のために選択される、QC活性増加性エフェクターの使用を提供する。
【0106】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて、不活性[Gln1]ガストリンの活性[pGlul]ガストリンへの変換速度を減少させることによって、哺乳動物のヘリコバクターピロリを伴う又は伴わない十二指腸潰瘍疾患及び胃癌の治療のために選択される、QC活性減少性エフェクターの使用を提供する。
【0107】
ニューロテンシン(NT)は、統合失調症において誤調節されることが以前に明らかにされた、神経伝達物質系を特異的に変調する統合失調症の病態生理に関与した神経ペプチドである。脳脊髄液(CSF) NT濃度が測定された臨床研究は、有効な抗精神病薬治療によって回復する、減少したCSF NT濃度を有する精神分裂症患者のサブセットを示した。抗精神病薬の作用機序におけるNTシステムの関与と調和した考えられ得る証拠も存在する。中心的に投与されたNTの行動及び生化学影響は、全身的に投与された抗精神病薬のものによく似ていて、抗精神病薬はNT神経刺激伝達を増加させる。この見解の結びつけは、NTが内在性抗精神病薬として機能するという仮説に繋がる。更に典型又は非典型抗精神病薬は、黒質線条体及び中脳辺縁系ドーパミン末端領域におけるNT神経伝達を示差的に変更し、かつこれらの作用は、各々の副作用の易罹病性及び有効性を予測する(Binder, E.B.らの論文、2001 Biol Psychiatry 50 856-872)。
【0108】
別の実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、抗精神病薬の調製及び/又は哺乳動物の統合失調症治療のためのQC活性増加エフェクターの使用を提供する。QCのエフェクターは、活性[pGlul]ニューロテンシンの濃度を維持又は増加させる。
【0109】
受精促進ペプチド(FPP)は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)に関連したトリペプチドであり、これは精漿中に認められる。最近、インビトロ及びインビボにおいて得られた証拠は、FPPは、精子受精能の調節において重要な役割を果たすことを示した。詳細には、FPPは最初に、受精していない(受精能未獲得の)精子を「スイッチを入れる」よう刺激し、より迅速に受精するようにするが、次に受精能獲得を停止し、その結果精子は、自然誘発的な先体の喪失を受けず、従って受精能を失わない。これらの反応は、アデニリルシクラーゼ(AC)/cAMPシグナル伝達経路を調節することがわかっているアデノシンにより模倣され及び事実上増強される。FPP及びアデノシンの両方は、受精能未獲得の細胞においてcAMP生成を刺激するが、受精能獲得細胞においてはこれを阻害することが示されており、FPP受容体は何らかの形でアデノシン受容体及びGタンパク質と相互作用し、ACの調節を実現している。これらの事象は、一部は最初の「スイッチを入れる」際に重要であり、他は恐らく先体反応それ自身に関与しているような、様々なタンパク質のチロシンリン酸化状態に影響を及ぼす。カルシトニン及びアンジオテンシンIIも精漿中に認められるが、これらはインビトロにおいて受精能未獲得の精子に対し類似した作用を有し、かつFPPに対する反応を増強することができる。これらの分子は、インビボにおいて同様の作用を有し、受精能を刺激しかつその後維持することにより、受精率に影響を及ぼす。FPP、アデノシン、カルシトニン、及びアンジオテンシンIIの利用可能性の低下又はそれらの受容体の欠損のいずれかが、雄の不妊症に寄与している(Fraser, L. R.及びAdeoya-Osiguwa, S. A.の論文、2001 Vitam Horm 63, 1-28)。
【0110】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、受精抑制薬剤の調製及び/又は哺乳動物の受精能を低下させるためのQC活性低下エフェクターの使用を提供する。QC活性低下エフェクターは、活性[pGlu1]FPPの濃度を低下させ、受精能獲得の防止及び精子細胞の失活を導く。対照的に、QC活性増加エフェクターは、雄の受精能を刺激して、不妊性を治療することができる可能性が示された。
【0111】
別の実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、病態生理学的状態、例えば骨髄前駆細胞の増殖の抑制、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、悪性転移、黒色腫、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、移植片拒絶、後天性免疫不全症候群、体液性及び細胞性免疫反応障害、白血球接着及び内皮における転位プロセスの、治療用医薬の調製のためのQCエフェクターの使用を提供する。
【0112】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、摂食障害及び睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害及び体液の調節障害の治療用医薬の調製のためのQCエフェクターの使用を提供する。
【0113】
いくつかのタンパク質のポリグルタミン発現は、ハンチントン病、パーキンソン病及びケネディ病などの神経変性障害を導く。従って、その機序は、大部分未知のままである。ポリグルタミン繰り返しの生化学的性質は、1つの考えられる解釈を示唆する:グルタミニル-グルタミニル結合の内因性溶解開裂(endolytic cleavage)、続くピログルタミン酸形成は、ポリグルタミニルタンパク質の異化作用の安定性、疎水性、アミロイド形成性及び神経毒性の増大による病因に関与し得る(Saido, T.C.; Med Hypotheses (2000) Mar; 54(3):427-9).
【0114】
従って、さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルで選択される、パーキンソン病及びハンチントン病の治療用医薬の調製のための、QCエフェクターの使用を提供する。
【0115】
別の実施態様において、本発明は、上記で選択された試験薬剤を用いて、QCの酵素活性を低下又は阻害する一般的方法を提供する。
【0116】
哺乳動物QCの阻害は、最初に1,10-フェナントロリンに関してのみ検出され、6-メチルプテリンを低下させる(Busby, W. H. J.らの文献. 1987 J Biol Chem 262, 8532-8536)。EDTAは、QCを阻害しなかった、従って、QCは金属依存性酵素でないと結論された(Busby, W. H. J.らの文献, 1987 J Biol Chem 262, 8532-8536, Bateman, R.C.J.らの文献. 2001 Biochemistry 40, 11246-11250, Booth, R.E.らの文献. 2004 BMC Biology 2)。しかし、1,10-フェナントロリン、ジピコリン酸、8-ヒドロキシ-キノリン及び他のキレート剤によるQCの阻害特性、及び遷移金属イオンによるQCの再活性化によって示されるように、ヒトQC及び他の動物のQCは金属依存性酵素であることが示された。最終的に、この金属依存性は、他の金属依存性酵素と配列比較することによって説明され、ヒトQCのキレートアミノ酸残基の保護を示している。活性部位に結合した金属イオンとの化合物の相互作用は、QC活性を低下又は阻害する一般的方法を表す。
【0117】
哺乳動物のQC、特にヒト若しくはマウスQC又はパパイヤQCは、上記のスクリーニング方法の使用に好ましい。これらのスクリーニング方法によって同定されるエフェクターは、哺乳動物、特にヒトの疾患の治療に使用されるので、哺乳動物のQCが特に好ましい。
【0118】
Qpctのイソ酵素をコードする、非ヒトトランスジェニック動物も好ましい。
【0119】
グルタミニルシクラーゼに対して有意な配列類似性を有するこれらのイソ酵素は、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト由来(更に、ヒトisoQCとして命名される)(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス由来(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル由来(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル由来(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ由来(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット由来(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ由来(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体由来のタンパク質(Qpctl)である。
【0120】
これらの配列を、配列番号15〜25に示す。これらのタンパク質をコードする核酸配列を、更に開示する(配列番号26〜36)。
【0121】
本発明では、配列番号15〜17、24及び25に示される、イソ型及びスプライス形態を含むヒトQpctl;ラット(配列番号21)、及びマウス(配列番号22)からなる群から選択されるQpctlが好ましい。
【0122】
本発明にとってより好ましくは、配列番号15〜17に示されるイソ型を含むヒトQpctl;及びマウス(配列番号:22)からなる群から選択されるQpctlである。
【0123】
本発明に最も好ましくは、ヒト(配列番号15)及びマウス(配列番号22)からなる群から選択されるQpctlある。
【0124】
この点に関して、特定の引例は、Qpct-イソ酵素の特定の更なる開示のためのUS 60/846,244である。この出願は、本願明細書に引用により取り込まれる。
【0125】
上記のスクリーニング方法によって選択される薬剤は、QCの少なくとも一つの基質の変換を減少させることにより(負のエフェクター、阻害剤)、又はQCの少なくとも一つの基質の変換を増加させることにより(正のエフェクター、活性化因子)、機能することができる。
【0126】
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換され得る。
【0127】
本発明の化合物の塩は、無機塩又は有機塩の形態であることができる。
【0128】
本発明の化合物を、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換し、使用することができる。医薬として許容し得る塩は、一般に、塩基性側鎖が無機又は有機酸によってプロトン化されている形態をとる。代表的な有機酸又は無機酸には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、サリチル酸、サッカリン酸、又はトリフルオロ酢酸を含む。本発明の化合物の医薬として許容し得る酸付加塩形態の全ては、本発明の範囲に包含されることが意図されている。
【0129】
遊離化合物とそれらの塩形態の化合物との間には密接な関係があるので、ある化合物をこの文脈で言及する場合、そのような塩がその状況下で考え得るか又は適切であるなら、対応する塩をも意図されている。
【0130】
本発明の化合物が少なくとも1個のキラル中心を有する場合、これらはそれに応じてエナンチオマーとして存在することができる。本化合物が2個以上のキラル中心を有する場合、これらはさらにジアステレオマーとして存在することができる。全てのそのような異性体及びそれらの混合物は、本発明の範囲内に包含されることが理解されるであろう。更に、本化合物の幾つかの結晶形は、多形体として存在してよく、そのようなものが、本発明に包含されることが意図されている。加えて、本化合物の幾つかは、水(すなわち水和物)又は一般的有機溶媒と溶媒和物を形成することができ、そのような溶媒和物も、本発明の範囲内に包含されることが意図されている。
【0131】
それらの塩を含む本化合物はまた、それらの水和物の形態で得られるか、又はそれらの結晶化に使用された他の溶媒を含むことができる。
【0132】
さらなる実施態様において、本発明は、QC酵素活性の変調によって媒介される状態を予防又は治療する方法であって、その必要がある対象に、本発明の化合物のいずれか又はその医薬組成物を、該状態を治療するのに治療的に有効な量及び投与計画で投与することを含む、前記方法を提供する。さらに、本発明は、QC活性の変調によって媒介される状態の予防又は治療用医薬の調製のために、本発明の化合物及びそれらの対応する医薬として許容し得る酸付加塩形態の使用を含む。該化合物を、従来の任意の投与経路、制限されないが静脈内、経口、皮下、筋肉内、皮内、非経口、及びそれらの組み合わせによって患者に投与することができる。
【0133】
実施の更に好ましい形態において、本発明は、少なくとも1種の本発明の化合物又はその塩を1種以上の医薬として許容し得る担体及び/又は溶媒と任意に組み合わせて含む、医薬組成物、すなわち医薬に関する。
【0134】
医薬組成物は、例えば、非経口又は腸溶性製剤の形態とし、適当な担体を含むことができるか、又は医薬組成物は、経口投与に適切な適当な担体を含むことができる経口製剤の形態とすることができる。好ましくは、医薬組成物は、経口製剤の形態である。
【0135】
本発明により投与されるQC活性のエフェクターは、哺乳動物のQCタンパク質濃度を低下させるタンパク質又はそれらの酵素タンパク質の抗体を結合する、阻害剤として又は阻害剤、基質、偽基質、QC発現の阻害剤と組み合わせて、薬学的に投与可能な製剤又は製剤複合物中に使用されることができる。本発明の化合物は、治療を患者及び疾患に個別に適合させることができ、特に個々の不耐性、アレルギー及び副作用を回避することが可能である。
【0136】
また該化合物は、活性の程度が時間の関数として異なることを示す。したがって、医師が提供する治療は、患者の個々の状況に異なって応じる機会を与えられる:医師は、正確に調整することができ、一方では、作用の発生速度、一方では、作用の期間、特に作用の強度を調整することが可能である。
【0137】
本発明の好ましい治療方法は、哺乳動物のQC酵素活性の変調によって媒介される状態の予防又は治療のための新しいアプローチを表す。単純であり、商業的適用が可能であり、かつ哺乳動物、特にヒトにおいて、薬剤の生理的活性QC基質のアンバランスな濃度に基づく疾患の治療における使用に適するという利点がある。
【0138】
有利には、該化合物は、例えば、先行技術から公知の希釈液、賦形剤及び/又は担体のような慣習的な添加剤と組み合わせて活性成分を含む医薬品の形態で投与されることができる。例えば、それらは、非経口的に(例えば生理的食塩水で静脈内に)、又は経腸的に(例えば、慣習的な担体を用いて製剤化されたもので経口的に)投与されることができる。
【0139】
それらの内在的安定性及びそれらの生物学的利用能に応じて、一以上の該化合物の投与量は、1日当たり血中グルコース値の所望の正常化を成し遂げるように与えられることができる。例えば、ヒトへの投与量範囲は、1日当たり約0.01mg〜250.0mgの範囲、好ましくは体重1kg当たり化合物約0.01〜100mgの範囲とすることができる。
【0140】
哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、軽度認識障害、アルツハイマー病、ダウン症、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ハンチントン病、ヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性状態、統合失調症、不妊性、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、移植片拒絶、後天性免疫不全症候群、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮内の白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害及び体液の調節障害から選択される状態を、予防又は緩和又は治療することが可能である。
【0141】
更に、哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、消化管細胞増殖、特に胃粘膜細胞増殖、上皮細胞増殖、酸産生性壁細胞及びヒスタミン分泌性腸クロム親和性様(ECL)細胞の急性酸分泌及び分化を刺激することが可能である。
【0142】
さらに、哺乳動物へのQC阻害剤の投与は、精子機能を損失させ、よって雄の受精能を抑制することができる。従って、本発明は、雄の受精能の調節及び制御の方法、及び避妊医薬の調製のためのQC活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0143】
さらに、哺乳動物にQC活性エフェクターを投与することによって、骨髄前駆細胞の増殖を抑制することが可能である。
【0144】
本発明に使用される化合物を、それ自体公知の方法で、不活性な無毒性の医薬として適切な担体及び添加剤又は溶媒を用いて、従来の製剤、例えば、錠剤、カプセル、糖衣錠、ピル、坐薬、顆粒剤、エアロゾル、シロップ、液体、固体及びクリーム状エマルジョン及び懸濁液及び溶液に変換することができる。それらの製剤の各々において、治療的に有効な化合物は、好ましくは全混合物の約0.1〜80重量%、より好ましくは約1〜50重量%の濃度、すなわち得られるべき前述の投与量範囲に十分な量で存在する。
【0145】
物質を、糖衣錠、カプセル、ビタブルカプセル(bitable capsules)、錠剤、ドロップ、シロップの形態で医薬として、又は坐薬として若しくは鼻腔用スプレーとして使用することができる。
【0146】
製剤は、例えば、任意に乳化剤及び/又は分散剤を用いて、溶媒及び/又は担体で活性成分を希釈することによって調製することができる。例えば、水を希釈剤として用いる場合、有機溶媒を補助溶媒として任意に使用することができる。
【0147】
本発明に関連して有用な賦形剤の例は、以下のものを含む:水、無毒の有機溶媒、例えば、パラフィン(例えば、天然油留分)、植物油(例えば、なたね油、落花生油、ゴマ油)、アルコール(例えば、エチルアルコール、グリセロール)、グリコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)など;固体担体、例えば、天然粉末状ミネラル(例えば、高度に分散したシリカ、ケイ酸塩)、糖(例えば、粗糖、ラクトース及びブドウ糖);乳化剤、例えば、非イオン性及びアニオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル、スルホン酸アルキル及びアリールスルホナート)、分散剤(例えば、リグニン、亜硫酸蒸留液、メチルセルロース、デンプン及びポリビニルピロリドン)、及び潤滑油(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ステアリン酸及びラウリル硫酸ナトリウム)、及び任意に香料である。
【0148】
投与は、通常の方法、好ましくは経腸的又は非経口的、特に経口的に行うことができる。経腸的投与の場合、錠剤は、前述の担体に加えて、デンプン、好ましくはジャガイモデンプン、ゼラチンなどの様々な添加剤と共に、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムなどの更なる添加剤を含有することができる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及び滑石などの潤滑油を、錠剤にするために、付随して用いることができる。経口投与を目的とする水性懸濁剤及び/又はエリキシルの場合、様々な味覚矯正剤又は着色剤を、上述の賦形剤に加えて活性成分に加えることができる。
【0149】
非経口投与の場合、適切な液体担体を用いて活性成分の溶液を使用することができる。一般に、静脈内投与の場合、有効な結果を得るのに1日当たり体重の約0.01〜2.0mg/kgの量、好ましくは約0.01〜1.0mg/kgの投与が有利であり、経腸的投与の場合、投与量は1日当たり体重の約0.01〜2mg/kg、好ましくは約0.01〜1mg/kgである。
【0150】
場合によっては、実験動物又は患者の体重に応じて又は投与経路の種類に応じて、また動物種及び個人の薬剤に対する応答又は投与が行われる間隔に基づいて、規定量から外れた量が必要な場合がある。したがって、場合によって、上述の最小量より少ない量で十分であってもよく、一方、他の場合によっては、前述の上限を超える量にしなければならない。比較的多い量が投与される場合、その量を1日に渡って数回の単回投与量に分けることが望ましい。ヒトの薬剤の投与のために、同じ投与量範囲が提供される。上記の見解は、その場合において同じように適用する。
【0151】
医薬組成物の例に関して、特定の引例は、WO 2004/098625、50-52ページの例である。それはその全体において本願明細書に引用により取り込まれている。
【0152】
上記の開示は、一般に本発明を記載する。より完全な理解は、以下の実施例を参照することで得ることができる。これらの実施例は、説明のためだけに記載されるものであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。特定の用語が本明細書中に使用されるが、そのような用語は記述的な意義を意図しており、限定のためでない。
【実施例】
【0153】
(参照実施例1:ヒト及びPapaya QCの調製)
(宿主株及び媒体)
Pichia pastoris株X33(AOX1、AOX2)を、ヒトQCの発現のために使用し、培養し、形質転換し、製造業者の説明書(Invitrogen)に従って分析した。P. pastorisに必要な媒体、すなわち緩衝グリセロール(BMGY)複合媒体又はメタノール(BMMY)複合媒体、及び発酵基礎塩類媒体(fermentation basal salts medium)を製造業者の推奨手順に従って調製した。
【0154】
(ヒトQCをコードするプラスミドベクターの分子クローニング)
全てのクローニング手順は、標準的な分子生物学的技術を適用した。酵母の発現のために、ベクターpPICZαB(Invitrogen)を使用した。E.コリにおいてヒトQCを発現するために、pQE-31ベクター(Qiagen)を用いた。コドン38から始まる成熟QCのcDNAを、6xヒスチジンタグをコードするプラスミドを用いてインフレームで融合した。プライマーpQCyc-1及びpQCyc-2(WO 2004/098625)及びサブクローニングを利用して増幅後、断片を、SphI及びHindIIIの制限部位を利用している発現ベクターに挿入した。
【0155】
(P. pastorisの形質転換及び小スケール発現)
プラスミドDNAを、E.コリJM109において増幅し、製造業者(Qiagen)の推奨手順に従って精製した。使用する発現プラスミド(pPICZαB)において、直線化のために3つの制限部位を提供する。SacI及びBstXIがQC cDNA内を切るので、PmeIを直線化のために選択した。20〜30μgのプラスミドDNAをPmeIで直線化し、エタノールで沈殿させ、無菌の脱イオン水に溶解した。続いて10μgのDNAを、製造業者の説明書(BioRad)に従って、電気穿孔法により形質転換受容性P. pastoris細胞の形質転換に適用した。150μg/ml Zeocinを含むプレートを選択した。線形化プラスミドを用いる1つの形質変換から、数百の形質転換体を得た。
【0156】
組換え酵母クローンをQC発現に関して試験するため、組換え体を、2mlのBMGYを含む10mlコニカルチューブ中で24時間成長させた。その後、酵母を遠心分離し、0.5%のメタノールを含む2mlのBMMY中に再懸濁した。24時間〜72時間毎に、メタノールを添加してこの濃度を維持した。その後、上清のQC活性を測定した。融合タンパク質の存在は、6xヒスチジンタグ(Qiagen)に対する抗体を用いて、ウェスタンブロット解析によって確認した。最も高いQC活性を示したクローンを、追実験及び発酵のために選択した。
【0157】
(発酵槽中での大規模スケール発現)
基本的に「Pichia属発酵プロセスガイドライン(Pichia fermentation process guidelines)」(Invitrogen)に説明されているように、QCの発現を、5Lの反応器(Biostat B, B. Braun biotech)中で行った。簡潔には、細胞を、トレース塩類及び唯一の炭素源としてのグリセロールで補充された発酵基礎塩類媒体(pH 5.5)中で成長させた。最初のバッチ相約24時間及び次の供給されたバッチ相約5時間の間に、細胞塊が蓄積された。細胞湿重量が200 g/lになってすぐに、QC発現の誘発を、メタノールで、約60時間の全発酵時間に対して3段階の供給プロファイルを適用して行った。その後、6000xg, 4℃で15分間の遠心によって、QC含有上清から細胞を除去した。NaOHを添加して、pHを6.8に調節し、得られた懸濁溶液を、37000xg, 4℃で40分間、再び遠心分離した。濁りが持続する場合、セルロース膜(孔幅0.45μm)を用いる濾過工程を追加した。
【0158】
(P. pastorisにおいて発現される6xヒスチジンタグ化QCの精製)
最初に、Hisタグ化QCを固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。通常の精製において、1000mlの培養上清を、750mMのNaClを含む50mMリン酸緩衝液pH 6.8で平衡化されたNi2+充填キレートセファロースFFカラム(1.6 x 20 cm, Pharmacia)に5ml/分の流速で通した。10カラム体積の平衡化緩衝液及び5カラム体積の5mMヒスチジン含有平衡化緩衝液で洗浄した後、150mMのNaCl及び100mMヒスチジンを含む50mMリン酸緩衝液pH 6.8に変え、結合されたタンパク質を溶出した。得られた溶出液を、20mMのBis-トリス/HCl(pH 6.8)に対して、4℃で一晩透析した。その後、QCを、陰イオン交換クロマトグラフィー、透析緩衝液で平衡化されたMomo Q6カラム(BioRad)で更に精製した。そのQC含有画分を、4ml/分の流速を用いて、カラムにかけた。その後、カラムを、100mMのNaClを含む平衡化緩衝液で洗浄した。溶出は、それぞれ、30又は5カラム体積の240mM及び360mM NaCl含有平衡化緩衝液で得られる2つの勾配を用いて行った。6mlの画分を回収し、純度をSDS-PAGEで分析した。同種のQCを含む画分をプールし、限外ろ過によって濃縮した。長期間保存(−20℃)のために、グリセロールを、最終濃度50%になるように加えた。タンパク質は、Bradford又はGill及びvon Hippelの方法に従って定量化した(Bradford, M. M. 1976 Anal Biochem 72, 248-254; Gill, S.C.及びvon Hippel, P.H. 1989 Anal Biochem 182, 319-326.)。
【0159】
(E.コリ中のQCの発現及び精製)
QCをコードする構築物を、M15細胞(Qiagen)に形質転換し、選択的LB寒天プレート37℃で成長させた。タンパク質発現は、1%グルコース及び1%エタノールを含むLB媒体中で行った。培養が約0.8のOD600に達した時、0.1 mM IPTGによって発現を一晩誘発させた。1サイクルの凍結解凍後、細胞を、4℃で、300mMのNaClを含む50mMリン酸緩衝液(pH 8.0)に2.5mg/mlのリゾチームを添加することによって溶解した。その溶液を、約30分間の2mMのヒスチジンは37000xg, 4℃で30分間、遠心によって透明にし、続いてガラスフリットを用いて濾過(DNA分離)し、粗沈殿物及び微細沈殿物のためにセルロースフィルターを用いて2回、追加的に濾過した。上清(約500ml)を、1ml/分の流速で、Ni2+アフィニティーカラム(1.6×20cm)にかけた。QCの溶出は、150mMのNaCl及び100mMヒスチジンを含む50mMリン酸緩衝液で行った。QC含有分画を、限外ろ過によって濃縮した。
【0160】
(パパイヤ・ラテックス由来QCの精製)
パパイヤ・ラテックス由来QCは、以前に報告された方法(Zerhouni, S.らの文献. 1989 Biochim Biophys Acta 138, 275-290)の改良版を用いるBioCAD 700E(Perseptive Biosystems, Wiesbaden, Germany)で調製した。それに記載されているように、50gのラテックスを水に溶解し、遠心分離した。プロテアーゼの不活性化は、S-メチルメタンチオスルホン酸塩を用いて行い、得られた粗抽出液を透析した。透析の後、全ての上清を、100mM酢酸ナトリウム緩衝液pH 5.0で平衡化されたSPセファロースFast Flowカラムに流速3ml/分でかけた(21X2.5 cm i.d.)溶出は、2ml/分の流速で、酢酸ナトリウム緩衝液濃度を増加させることによって、3段階で行った。第1段階は、0.5カラム体積の0.1〜0.5M酢酸緩衝液の線形勾配とした。第2段階は、4カラム体積の0.5〜0.68M緩衝液濃度の線形増加とした。最後の溶出段階の間は、1カラム体積の0.85M緩衝液を適用した。最も高い酵素活性を含む画分(6ml)をプールした。0.02Mトリス/HCl pH 8.0への濃度及び緩衝液変化は、限外ろ過を介して行った(Amicon; 膜10kDaの分子量切捨て)。
【0161】
硫酸アンモニウムを、イオン交換クロマトグラフィー工程から得られた濃縮パパイヤ酵素に最終濃度2Mになるように加えた。この溶液を、2Mの硫酸アンモニウム, 0,02 Mトリス/HCl, pH 8.0で平衡化した、(21X2.5 cm i.d.)ブチルセファロース4 Fast Flowカラムにかけた(流速1.3ml/分)。溶出を、硫酸アンモニウムの濃度を減少させて3段階で行った。第1段階の間では、2〜0.6Mの硫酸アンモニウム, 0.02Mのトリス/HCl, pH 8.0の線形勾配を、1.3ml/分、0.5カラム体積で適用した。第2段階は、0.6〜0Mの硫酸アンモニウム, 0.02Mトリス/HCl, pH 8.0の線形勾配、流速1.5ml/分、5カラム体積とした。最後の溶出段階は、pH 8.0で0.02Mトリス/HCl、流速1.5ml/分、2カラム体積を適用することにより行った。QC活性を含む全ての画分をプールし、限外ろ過によって濃縮した。得られた同種のQCを−70℃で保存した。最終タンパク質濃度を、ブラッドフォード法を用いて、ウシ血清アルブミンによって得られた検量線と比較することにより測定した。
【0162】
ヒトQpctのcDNA配列を配列番号12に示す。そのタンパク質配列を配列番号13に示す。
【0163】
(参照実施例2:グルタミニルシクラーゼ活性の評価)
(蛍光分析評価法)
マイクロプレート用のBioAssay Reader HTS-7000Plus (Perkin Eimer)又はNovoStar (BMG Labtechnologies)リーダーを用いて、30℃で測定を行った。QC活性は、H-Gln-βNAを用いて蛍光分析で評価した。サンプルは、0.2mMの蛍光発生基質、20mMのEDTAを含む0.2Mトリス/HCl pH 8.0中の0.25Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Unizyme, Horsholm, Denmark)、及びQCの適切に希釈されたアリコートから最終体積250μlで構成した。励起/発光波長は320/410nmとした。評価反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性は、評価法条件下のβ-ナフチルアミンの検量線から測定した。1単位は、前記条件下、1分当たりH-Gln-βNAから1μmolのpGlu-βNAの形成を触媒するQCの量として定義する。
【0164】
第2の蛍光分析評価法において、QC活性を、基質としてH-Gln-AMCを用いて測定した。反応は、30℃で、マイクロプレート用NOVOStarリーダー(BMG labtechnologies)を利用して行った。サンプルは、様々な濃度の蛍光発生基質、5mMのEDTAを含む0.05Mトリス/HCl, pH 8.0中の0.1Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Qiagen)、及びQCの適切に希釈されたアリコートから最終体積250μlで構成した。励起/発光波長は380/460nmとした。評価反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性を、評価条件下、7-アミノ-4-メチルクマリンの検量線から測定した。速度データを、GraFitソフトウェアを用いて評価した。
【0165】
(QCの分光光度的評価法)
この新規評価法を、ほとんどのQC基質に対して、速度パラメーターを測定するために使用した。QC活性を、連続的な方法を用いて、分光光度的に分析した。該方法は、補助的な酵素としてグルタメートデヒドロゲナーゼを利用する、以前の非連続的評価法(Batemanの論文、R.C.J.1989 J Neurosci Methods 30、23-28)を適合させることにより得られた。サンプルは、それぞれのQC基質、0.3mMのNADH、14mMα-ケトグルタル酸、及び30 U/mlグルタミン酸デヒドロゲナーゼから最終体積250μlで構成した。QCの添加によって反応を開始し、8〜15分間、340nmの吸光度の低下をモニタリングすることによって追跡した。
【0166】
初期速度を評価し、かつ酵素活性を、評価条件下のアンモニアの検量線から測定した。すべてのサンプルは、マイクロプレート用のSPECTRAFIuor Plus又はSunrise(双方ともTECAN)リーダーを用いて30℃で測定した。速度データを、GraFitソフトウェアを用いて評価した。
【0167】
(阻害剤アッセイ)
阻害剤試験に関して、加えられる推定上の阻害性化合物を除いて、サンプル組成は、上記と同じとした。QC-阻害の迅速試験のために、サンプルに、4 mMのそれぞれの阻害剤、及び1KMでの基質濃度を含ませた。該阻害の詳細な調査、及びKi-値の測定のために、初めに、補助的な酵素の阻害剤の影響を調査した。全ての場合において、検出された酵素の影響はなかった。従って、QC阻害の信頼できる測定が可能である。該阻害定数を、GraFitソフトウェアを用いて、一連のプログレス曲線と、競合阻害の一般的な式とを一致させることにより評価した。
【0168】
(参照実施例3:MALDI-TOF質量分析)
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析を、飛行線形時間分析計を備えたHewlett-Packard G2025 LD-TOFシステムを用いて行った。該機器は、337 nm窒素レーザー、電位加速源(5 kV)、及び1.0 mの飛行管を備えた。検出操作は、正イオンモードであり、かつシグナルを、パーソナルコンピューターに接続したLeCroy 9350Mデジタルストレージオシロスコープを用いて記録し、かつフィルターに通した。サンプル(5μl)を、等量のマトリックス溶液と混合した。マトリックス溶液に関して、本発明者らは、水(1/1, v/v)、1mlのアセトニトリル/0.1%TFA中、30mgの2',6'-ジヒドロキシアセトフェノン(Aldrich)及び44mgのクエン酸二アンモニウム(Fluka)を溶解することによって調製されたDHAP/DAHCを使用した。少量(≒1μl)のマトリックス-検体-混合物をプローブチップに移し、迅速かつ均一なサンプル結晶化を確実にするために、直ちに減圧チャンバー(Hewlett-Packard G2024A サンプル調製付属品)中で蒸発させた。
【0169】
Glu1-環化の長期試験のために、Aβ-誘導ペプチドを、100μlの0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.2)又は0.1Mビス-トリス緩衝液(pH 6.5)中、30℃でインキュベートした。ペプチドを、0.5mM[Aβ3-11a]又は0.15mM[Aβ3-21a]の濃度で適用し、0.2UのQCを全24時間加えた。Aβ3-21aの場合には、アッセイは、1%のDMSOを含んだ。異なる時間でサンプルを分析管から取り出し、ペプチドを製造業者の推奨手順に従ってZipTips(Millipore)を用いて抽出し、マトリックス溶液(1:1 v/v)と混合し、その後質量スペクトルを記録した。ネガティブコントロールは、QCも熱不活性化酵素も含まなかった。阻害剤の研究に関して、サンプル組成物は、添加される阻害性化合物を除き、前述のものと同様である(5 mM ベンゾイミダゾール、又は2 mM 1,10-フェナントロリン)。
【0170】
(参照実施例4:マウスQpct)
マウスQpctは、マウスインスリノーマ細胞株β-TC 3から、推定上のマウスQC cDNAに由来したプライマーを用いるRT-PCRによって単離された。それは、エントリーAK017598としてヌクレオチドデータベースに寄託されており、ベクターpPCR Script CAM SK(+)にサブクローン化されたものである(Schilling S.らの文献.; Biochemistry 44(40) 13415-13424)。下記実施例に用いられているマウスQpctは、構造物、すなわち遺伝子カセット(配列番号9)に含まれる;そのアミノ酸配列を配列番号10に示す。
【0171】
(マウスQCのクローニング)
mQCのオープンリーディングフレームの単離のためのプライマーは、推定上のmQCをコードしているPubMedヌクレオチドエントリーAK017598を用いて設計した。プライマー配列は、以下の通りであった:
センス
【化4】
アンチセンス
【化5】
全RNAは、マウスインスリノーマ細胞株β-TC 3細胞から、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて単離し、SuperScriptII(Invitrogen)によって逆転写した。その後、mQC cDNAを、Herculase強化DNA-ポリメラーゼ(Herculase Enhanced DNA-Polymerase)(Stratagene)を用いて、50μl反応において1:12.5希釈の生成物で増幅し、PCR Script CAMクローニングベクター(Stratagene)に挿入し、かつ配列決定により検証した。成熟mQCをコードするcDNA断片を、プライマー
【化6】
(XhoI, センス)及び
【化7】
(XbaI, アンチセンス)を用いて増幅した。消化された断片をベクターpPICZαBに連結し、E.コリ中で増幅し、センス及びアンチセンス鎖の配列決定によって検査した。最後に、発現プラスミドを、PmeIを用いて線形化し、沈殿させ、−20℃で保存した。
【0172】
(P. pastorisの形質転換及びマウスQCの小規模スケール発現)
1〜2μgのプラスミドDNAを、製造業者の説明書(BioRad)に従って、電気穿孔法により形質転換受容性P. pastoris細胞の形質転換に適用した。100μg/ml Zeocinを含むプレートを選択した。組換え酵母クローンをQC発現に関して試験するため、組換え体を、2mlのBMGYを含む10mlコニカルチューブ中で24時間成長させた。その後、酵母を遠心分離し、0.5%のメタノールを含む2mlのBMMY中に再懸濁した。24時間〜72時間毎に、メタノールを添加してこの濃度を維持した。その後、上清のQC活性を測定した。最も高い活性を示したクローンを、追実験及び発酵のために選択した。
【0173】
(マウスQCの大規模スケール発現及び精製)
mQCの発現は、5L反応器(Biostad B, B. Braun biotech, Melsungen, Germany)中で行った。発酵は、トレース塩で補充された基礎塩類媒体中、pH 5.5で行った。最初に、バイオマスを、約28時間、唯一の炭素源としてグリセロールを有するバッチ相及び供給バッチ相に堆積した。mQCの発現は、約65時間の全発酵時間の間、Invitrogen社によって推奨される3段階プロファイルに従ってメタノールを供給することにより開始した。その後、細胞及び濁りを、それぞれ、15分及び4時間、6000x g及び38000x gで、2回の経時的な遠心工程によってmQC含有上清から取り除いた。精製のために、発酵ブロスを、水で約5mS/cmの伝導率に希釈し、0.05Mリン酸緩衝液, pH 6.4で平衡化したStreamline SP XLカラム(2.5×100cm)に逆流方向(15mL/分)で流した。2カラム体積の平衡化緩衝液を用いる逆流方向での洗浄工程の後、タンパク質を、順方向で、1.5M NaClを含む0.15Mトリス緩衝液, pH 7.6を用いて、流速8mL/分で溶出した。QC含有断片をプールし、硫酸アンモニウムを最終濃度1Mになるように加えた。得られた溶液を、流速4mL/分で、ブチルセファロースFFカラム(1.6×13cm)に流した。結合されたmQCを、0.75M硫酸アンモニウムを含む0.05Mリン酸緩衝液pH 6.8, 5カラム体積で洗浄し、0.05Mリン酸緩衝液pH 6.8を用いて逆流方向で溶出した。mQCを含む画分をプールし、0.025MトリスpH 7.5に対して、透析によって一晩脱塩した。
その後、pHを、NaOHの添加によって8.0に調節し、0.02Mトリス,pH 8.1で平衡化したUno Qカラム(BioRad)にかけた(4.0mL/分)。平衡化緩衝液を用いる洗浄工程の後、mQCを、0.18M NaClを含む同じ緩衝液を用いて溶出した。QC活性を示す画分をプールし、pHを、1Mビス-トリス緩衝液pH 6.0を添加することによって7.4に調節した。mQCは、最高1ヵ月間の4℃で安定であった。−20℃での長期保存のため、50%グリセロールを加えた。
【0174】
(本発明を実施するための最良の実施態様)
(実施例1:トランスジェニックベクターpTG-CAG-mQCのクローニング)
ベクター「pPCR Script CamにおけるmQC cDNA(mQC K10)」は、環状プラスミドDNAのアリコートである。それは、付加的な制限部位を含むプライマーを使用する、上記に示したマウスQpctのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。この増幅されたcDNAを、Srfl制限部位(図1Aを参照)を介して、ベクターpPCR Script CAM SK(+)(Stratagene)に挿入した。
【0175】
送達されたプラスミドを、NcoI、NotI及びNsiIを用いて限定解析によって検証した。予想される消化プロファイルが得られ、低下の徴候は観察されなかった。
【0176】
ORF単離のために使用された5'-プライマー内の付加的なSphI制限部位のために、核酸配列ATGをQpct開始コドン(図1Bを参照)の4塩基対下流に挿入した。このcDNAカセットがプロモーターの下流にクローン化される場合、この付加的なATGは翻訳のフレームシフトを導くであろう。従って、SphI認識部位のATGを、トランスジェニックベクターのプロモーター及びcDNAの構築前に除去しなければならなかった。
【0177】
この目的のために、Qpct cDNAカセットを、制限部位NsiI(5')及びNotI(3')を介して分離し、制限酵素PstI及びNotI(図2を参照)を用いて線形化されたクローニングベクターpBlue Script SK+(Stratagene)に挿入した。NsiI-/PstI-突出部の再連結は、Qpct-ORF無処置の開始-ATGの残部を残して、介在ATGの欠失を導く。その後、改質cDNAカセットを、pBlue Script SK+骨格からHindIII及びNotIを介して単離し、pcDNA3.1ベクター骨格(Invitrogen)(図2を参照)内の既にCAG-プロモーター及びBGHポリAシグナル配列を含む発現ベクターに挿入した。
【0178】
得られるプラスミドは、偏在的に過剰発現するCAGプロモーターカセットのマウスグルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ遺伝子下流及びBGHポリAシグナルの上流のORFを含む。トランスジェニックベクターは、pTG-CAG-mQCと命名した。
【0179】
プラスミドpTG-CAG-mQCを、限定解析(図3を参照)及び配列決定によって検証した。トランスジェニック構造物は、ApaLI/DraIII制限酵素二重消化を用いて、プラスミド骨格から除去することができる。
【0180】
(実施例2:配列検証)
トランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCの関連接合領域を、DNA配列決定法にり検査した。表1は、使用するプライマーの配列を示す。クローニング接合断片の得られた配列を以下に示す(配列番号1、配列番号2)。これらの配列により、Qpct cDNAカセットの正しい挿入が確認された。
【表2】
【表3】
【0181】
(実施例3:スクリーニングPCRの確立)
生成されたトランスジェニックマウスの遺伝子型特定のためのPCRスクリーニングを確立するために、2つのプライマを、pTGCAG-mQC DNA(図3を参照)から約1585bpの特定のPCR生成物を増幅して設計した。フォワードプライマーCAG-Pr-F1(配列番号2)は、CAGプロモータ部分に特異的に結合し、リバースプライマーGX1675-TOR1-FF(配列番号6)は、Qpct cDNAカセットのBGHポリA配列中に結合する。スクリーニングPCRが、ゲノムDNAのレベルで十分に高い感度があることを確認するために、トランスジェニックベクターDNAを、野生型ゲノムDNAで連続希釈した。プライマー配列及び最適化されたPCR条件を、表2に示す。図4は、感度スクリーニングの結果を示す。
【表4】
pTG-CAG-mQC DNAは、反応混合物当たり0.1コピーの希釈でまだ検出可能であり、PCRスクリーニングは、潜在的創始動物マウスのスクリーニングに関して組込みを検出するのに十分な高い感度があることを確認した。
【0182】
図3に示すように、ApaLI/DraIII制限部位によって、トランスジェニック構造物DNAがプラスミド骨格から分離されることができる。プラスミドpTG-CAG-mQCは、この酵素によって消化され、得られる3806 bpサイズの断片は、マウス卵母細胞へのマイクロインジェクションのために単離され、精製される。
【0183】
上記に示すように実施例1〜3で生成されるトランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCを、受精卵母細胞の雄の前核に注入した。一晩培養後、得られた2種類の細胞胚を、擬似妊娠養母に移植した。生まれたマウスを、PCR分析によって導入遺伝子組込みを明らかにした。
【0184】
以下は、プロジェクトの前核注入(PNI)局面に関して行われた研究を記載し、創始動物の同定を詳述する。
【0185】
(実施例4:構造物の調製)
pTG-CAG-mQCベクターを、上記に示すようにクローン化した。Qpct遺伝子カセットを、ハイブリッドCMVエンハンサー/鳥ベータアクチン(CAG)プロモーターの下流及びウシ成長ホルモン(BGH)ポリAシグナルの上流に直接クローン化し、トランスジェニックベクターpTG-CAG-mQCを生成した。
【0186】
pTG-CAG-mQCプラスミドを、DraIII及びSalI制限酵素によって消化し、対象のトランスジェニック構造物を含む3552bp断片を、電気泳動的にベクター骨格から分離した(図5)。〜3.6kbのトランスジェニック構造物断片を単離し、精製し、マイクロインジェクション緩衝液で5ng/μlの濃度に希釈した。その構造物純度及び濃度を、アガロースゲル電気泳動によって検証した(図5)。
【0187】
3〜4週齢の雌のC57BL/6マウスを、雄のC57BL/6マウスと交尾させた。得られた受精卵母細胞を、塞がれた雌のマウスの卵管から回収し、2つの明確な前核が見えるまで培養した。精製したトランスジェニック構造物を、雄の前核にマイクロインジェクションし(図6)、注入された胚を、2細胞期まで一晩培養した。続いて2細胞期胚を、交尾後0.5日で擬似妊娠養母の卵管に移植した。
【0188】
18〜19日後に、子が養母から生まれた。表3は、行われたDNAマイクロインジェクションのセッションを要約する。
【表5】
表3に示すように、総数689の胚を養母に移入し、61匹の生存可能な子が生まれた。
【0189】
(実施例5:トランスジェニック創始動物のスクリーニング)
61匹の離乳した子から尾部先端生検を調製し、DNAを抽出した。個々のDNAを、前記実施例で確立されたトランスジェニックスクリーニングPCRによって遺伝子型を特定した。プライマー対CAG-Pr-F1/GX1675-TOR1-FF(図5Aにおいて灰色矢印で示す。配列番号4及び7)は、プロモーター-cDNA接合を増幅し、トランスジェニック構造物が宿主ゲノムに組み込まれた時に特定の1585bp PCR生成物をもたらす。
【0190】
トランスジェニック構造物のBGHポリA配列に結合するフォワードプライマーBGH-F1(配列番号7)、及びプロモーターカセットの5'末端と結合するリバースプライマーCAG-Pr-R2(配列番号8)を用いる第二のPCRは、トランスジェニック構造物の頻繁に観測される頭尾組込みを利用し、約834bp断片を増幅する。トランスジェニック構造物の2以上のコピーが直列に組み込まれた場合、この増幅産物のみが生じる。
【0191】
プライマー配列を表4に示し、両PCRの最適化されたPCR条件を表5及び表6に示す。DNAの品質は、制御遺伝子に特異的なプライマーを用いて確認した。図7は、PCRスクリーニング結果の例を示す。
【表6】
【表7】
【表8】
【0192】
両方のジェノタイピングPCR型をもつ61匹の子のPCRスクリーニングは、1匹の正のトランスジェニック動物の識別に結果としてなった。図7で見られるように、創始動物番号37460(表7に示す)は、導入遺伝子PCRを用いて同定され得る。また、頭尾PCRでも明確に証明され、トランスジェニック構造物の直列型組込みが生じたことを示している。
【0193】
DNAマイクロインジェクションの結果は、1.6%の遺伝子型特定動物だけに導入遺伝子DNAが組み込まれたことを示している。
【表9】
実施例4及び5は、前核マイクロインジェクション(PNI)アプローチを用いてCAG-mQCトランスジェニックマウスモデルの生成のために行った研究を要約する。
【0194】
トランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCを調製し、精製し、受精卵母細胞の雄の前核に注入し、総数689の胚を養母に移植した。これらのマイクロインジェクションセッションにより、61匹の生存可能な子が出生した。PCRスクリーニングにより、ゲノムに組み込まれるトランスジェニック構造物を持つ一匹の雌の創始動物を同定した。
【0195】
トランスジェニック構造物組込みの低い割合は、卵母細胞毒性又は胚発生と非互換である表現型影響に頻繁に関連している。
【0196】
先の実施例において、トランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCを、689の受精卵母細胞の雄の前核に注入し、一匹のトランスジェニック創始動物(すなわち、動物番号37460)を同定した。この雌の創始動物を、それらのゲノムに導入遺伝子CAG-mQCを有するC57BL/6雄F1世代マウスと交配させた。
【0197】
以下は、F1世代相への繁殖のために行った研究を記載する。
【0198】
(実施例6:前核注入相の概要)
(6-1注入セッション)
トランスジェニック構築物を、上記に示すようにクローン化したpTG-CAG-mQCベクターから単離した。受容卵母細胞を、SPF(特定かつ病原体のない(Specific and Pathogen Free))健康状態の妊娠したC57BL/6J雌から単離した。導入遺伝子DNAを、689の受精卵母細胞の雄の前核に注入し、これらの操作された胚を、SOPF(特定かつ日和見病原体のない(Specific and Opportunistic Pathogen Free))健康状態の23匹のOF1擬似妊娠の雌に再移植した。
【0199】
(6-2トランスジェニック創始動物)
注入セッションにより、69匹の子が生まれ、その中で、61匹の子が離乳期を生き残った。全61匹の生存可能なF1子を、確立したスクリーニングPCRにより特徴付けし、一匹の雌(番号37460、*25.05.05)だけが、ゲノムにランダムに組み込まれたトランスジェニックDNAを有することが同定された。
【0200】
(実施例7:F1動物の生成)
トランスジェニック雌番号37460を、F1トランスジェニックマウスを生成することによってトランスジェニックCAG-mQCマウス系統を確立するために、2005年7月12日から野生型C57BL/6雄(健康状態SOPF-特定の日和見病原体のなし(Specific Opportunist Pathogen Free))と繁殖させた。
【0201】
下記表8は、3同腹子のトランスジェニックF1繁殖の結果を要約する。不運なことに、最初の同腹子( *05.08.05に生まれる)は、それらの母に共食いされた。
【0202】
表8に記載されるように、50%を上回るF1誕生動物が、それらのゲノム中に導入遺伝子を有し、トランスジェニック創始動物が導入遺伝子を胚葉を経て運ぶことができることを示している。
【表10】
【0203】
(実施例8:F1世代の遺伝子型特定)
17匹の離乳した子から尾部先端生検を調製し、DNAを抽出した。個々のDNAを、上記で確立されたトランスジェニックスクリーニングPCRによって遺伝子型特定した。プライマー対CAG-Pr-F1/ GX1675-TOR1-FF (配列番号4及び6)は、プロモーター-cDNA接合を増幅し、トランスジェニック構造物が宿主ゲノムに組み込まれた時に特定の1585bp PCR産物をもたらす。
【0204】
プライマー配列及び最適化されたPCR条件を、表9に示す。DNAの品質は、制御遺伝子に特異的なプライマーを用いて確認した。図8は、PCRスクリーニング結果の例を示す。
【表11】
17匹のF1子のPCRスクリーニングにより、10匹のポジティブトランスジェニック動物を同定した。
【表12】
実施例6〜8は、雌創始動物番号37460をC57BL/6雄と繁殖させるすることによって生じるCAG-mQCトランスジェニックマウス系統の確立のために行った研究を要約する。
【0205】
トランスジェニック雌番号37460の繁殖により、3同腹子が生まれた。*05.08.2005に生まれた最初の同腹子は、不運なことに、それらの母によって共食いされた。更なる2匹の同腹子の遺伝子特定により、17匹の生存可能なF1子のうち、3匹のトランスジェニック雄及び7匹のトランスジェニック雌を同定した。
【0206】
従って、偏在的に過剰発現するQpctマウス系統の生成のためのF1繁殖は、みごとに完成された。
【0207】
以下実施例の結果は、標的遺伝子の過剰発現を証明する。発現は、EDTA-血漿中及び肝臓、腎臓及び脳の組織ホモジネート中のQC活性の測定によって評価した。EDTA-血漿中において、pbd17E3は、野生型同腹子と比較して21倍特異的なQC活性を示した。組織ホモジネート中のQC発現を、tg動物についてのみ正確に定量化し、この場合にも顕著な過剰発現が示された。
【0208】
脳、肝臓及び腎臓において、標的遺伝子発現を、RT-PCR及びリアルタイムPCRによっても分析した。従って、その結果は、酵素活性に関する結果を確実にする。脳及び肝臓において、野生型と比較してそれぞれ4倍及びの5倍のmRNA濃度が測定された。腎臓のmRNA濃度は、66倍と大幅に上昇した。
【0209】
このデータは、病態生理学的状態、例えばアルツハイマー病のQCの役割に関する更なる研究のため、好ましくは確立した動物モデルとの繁殖による又は更なるADマウスモデルの生成のための、pbd17E3の適合性を証明する。
【0210】
下記実施例の目的は、この酵素を過剰発現する異型接合トランスジェニックマウスの酵素グルタミニルシクラーゼ(QC)活性の測定である。この表現型特定のために、グルタミニルシクラーゼ活性は、等しい遺伝子背景を有する2匹のトランスジェニック動物及び2匹の野生型コントロールの脳、肝臓、腎臓及びEDTA-血漿を測定すべきである。さらに、記載されている器官のQC-mRNA発現を検討しなければならない。すべての動物は雌とした。
【0211】
(実施例9:材料及び方法)
(9.1.QC-活性のためのHPLC-分析)
野生型及びトランスジェニック動物の組織中のQC活性を、HPLCベースのアッセイを用いて、グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンからピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンへのQC媒介環化の定量化によって評価した。測定は、Merck KGaA社から提供されるMerck-Hitachi及びRP18 LiChroCART 125-4カラムによって製造されたHPLCシステム「La chrome」を用いて行った。分離のために、各々1%のTFAを含む水及びアセトニトリルの勾配を、以下のようにp. r. t.使用した:
【表13】
グルタミニル-ベータ-ナフチルアミン及びピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検出は、、Hitachi社によって製造されるDiode Array Detector L7455を用いて280nmの波長で行った。すべての測定は、室温で行った。ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの濃度は、検量線を用いて計算した。
【0212】
(実施例9−1:サンプル調製)
QC-活性の測定は、脳、肝臓、腎臓及び血漿から組織ホモジネートを用いて行った。血漿を、4℃及び10分間の13000xgで遠心分離し、QC-アッセイに適用した。また、コントロール群の血漿を、測定(100μl)のために乾燥して、直接使用した。一方、QC-トランスジェニックマウスの血漿は、MOPS緩衝液(25mM、pH 7.0)で1:25に希釈した。脳、肝臓及び腎臓の組織を、40倍体積の溶解緩衝液に混合し、Downsホモジナイザーを用いてホモジナイズした。溶解緩衝液(pH 7.5)は、トリス-塩基(10mM)、EDTA(5mM)、Triton (0.5%)及びグリセリン(10%)から構成した。
【0213】
その後、サンプルを、超音波棒(16サイクル、強度70%)で処理し、その後、遠心分離した(25分, 13000xg, 4℃)。上清を取り、測定のために直ちに使用した(100μl)。
【0214】
(9.3. QC活性の測定)
サンプル調整後、ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの測定を、下記プロトコルに従って行い、検量線の測定は精製された組換えQC酵素と一致し、時間-変換-グラフの測定はホモジナイズした組織サンプル由来QCと一致した。
【0215】
1.5mLチューブ中、500μLの基質溶液(25mMのMOPS緩衝液中、100μM グルタミニル-ベータ-ナフチルアミン, pH 7.0)を、システイン-プロテアーゼインヒビターとして400μLのN-エチルマレイミド溶液(25mMのMOPS緩衝液中250μM, pH 7.0)と混合した。混合液を、350rpmで加熱ブロック中、10分間、30℃で平衡化させた。平衡化の後、反応を、1000μLの総体積に対して100μLの細胞可溶化液又は血漿(トランスジェニック動物の組織の場合には希釈した)の添加によって開始した。次に反応混合液を、350rpm、30℃で45分間インキュベートした。総反応体積から、サンプル(100μL)を、0、4、8、12、16、20、24、35及び45分後に取り出した。グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンからピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンへの進行中の変換を停止するために、これらのサンプルを、酵素グルタミニル-シクラーゼを不活性化するために、沸騰水中で5分間、直ちに加熱した。その後、サンプルを直ちに−20℃で凍結させた。実験は、3つの複製において同時に行った。HPLCを用いる分析前に、すべてのサンプルを一度凍結させた。測定のために、サンプルを解凍し、その後、HPLCシステムの測定プロセスを始める前に、室温で、13000 rpmで10分間遠心した。その後、サンプル25μLを、蒸留水(water bidest)で1:1希釈し、混合した。この溶液を、100μLのHamiltonシリンジで、HPLCシステムの20μLサンプルループに完全に注入した。測定の間に、Hamiltonシリンジを、水で2回、アセトンで2回、その後、水で2回洗浄した。新たなサンプルを有するシリンジを引く前に、針をその新たなサンプルで2回(2x3μL)、でリンスした。
【0216】
ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンに関して得られたピーク面積(Rt: 〜6. 8分、グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンの保持時間は、Rt: 〜4. 85分であった)を、検量線を用いてピログルタミニル-ベータ-ナフチルアミンの濃度に変換した。得られたデータを、時間(x軸)-変換(y軸)-線図にプロットした。グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンからピログルタミニル-ベータ-ナフチルアミンへの変換反応の初速度を、反応の最初の20分間に通常観察される直線的な生成物形成の領域において直線回帰によって計算した。得られた線図及び初速度を、具体例として脳のQC-活性に関して示す(図9を参照)。
【0217】
(実施例10:EDTA血漿及び組織ホモジネート中のQC活性)
雌のQC-トランスジェニックマウスの血漿において、QC-活性の21倍の増加が体積に対して検出された。肝臓の組織ホモジネートにおいて、QC-活性(重量に対して)は、QC-動物の血漿のものと同等だった。QC-活性のほぼ3倍の増加が、トランスジェニック動物の血漿と比較してQC tgマウスの脳組織において観察された。トランスジェニック動物由来組織中の測定されたQC-活性を、非トランスジェニックコントロールのものと比較することはできなかった。コントロール群において、サンプル調製をQCトランスジェニック動物(40倍希釈の溶解液)と同様に行った場合、QC-活性は測定されなかった。従って、理論的には、QC-活性の無限倍数が生じる。コントロール群由来組織ライセートを1:40より高い濃度で測定した場合、QCの基質として反応に与えられる大部分のグルタミニル-ベータ-ナフチルアミンは、ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンへの転換なく失われた。従って、コントロールマウスの組織中のQC-活性の測定はできなかった。QCトランスジェニックマウスとコントロールマウスとの直接比較は、EDTA血漿に関してのみ利用有効であった。ここで、QCマウスは、QC活性の21倍の相対的な増加を示した。(図10 A及びB)。
【0218】
(10.2 PCR及びリアルタイムPCRを用いるQC転写レベルの評価)
全mRNAを、肝臓、腎臓及び脳の組織から、NucleoSpin-キット(Macherey Nagel)を用いて製造業者のプロトコルに従って単離し、その後で、単離した1μgのmRNAを、プライマーにランダムヘキサマーオリゴヌクレオチドを適用するcDNAに転写した。
【0219】
すべての組織の定性的PCRを、製造業者の説明書に従ってThermus aquaticus由来のDNAポリメラーゼ(Taq-ポリメラーゼ, Promega)を用いて行った。反応は、以下の条件を適用して行った:アニール:57℃、45秒;伸長:72℃、60秒;融解:95℃、30秒。サンプルを、TBE緩衝液の1.4%アガロースゲルで分析した。
【0220】
予想され得るように、コントロール群と比較してマウスQC mRNAの著しく高い濃度が、QCトランスジェニックマウスにおいて検出された(図10-C)。
【0221】
mRNA-レベルのQCの発現を定量化するために、リアルタイムRT-PCRを、Corbett Research「Rotor Gene 3000」を用いて行った。
【0222】
脳、肝臓及び腎臓において、QC mRNA濃度は、コントロール群と比較して、大きく増加した(図10D)。最も高い発現が、腎臓においてQC mRNA濃度の66倍の増加で観察された。
【0223】
(実施例11:ニューロン特異的ヒトQCを過剰発現するトランスジェニックマウスの特徴付け)
基本的に、偏在的にマウスQCを過剰発現するトランスジェニックマウスに関する実施例1〜9に記載したように、Thy-1プロモーターにより駆動されたヒトQCを過剰発現するトランスジェニックマウスを生成した。実施例12で更に概説する。3匹の創始動物を効率的に交配し、QC発現を、QC-活性アッセイ及び特異的抗体を用いるウェスタンブロットにより特徴付けした。QC-活性の測定のために、50mgの脳組織を、10mMトリスpH 7,5、100mM NaCl、5mM EDTA及び0,5% Triton X-100及び10%グリセロールから構成されている1mlの緩衝液でホモジナイズした。組織を、Downs-ホモジナイザー中、数回のストロークによりホモジナイズし、12mlコニカルチューブに注いだ。その後、そのホモジネートを3x10秒、超音波衝撃に曝した。得られたホモジネートを、25分間、4℃で遠心し、上清のQC-活性を測定した。
【0224】
基本的に実施例9で説明したように、hQC活性をHPLC-アッセイを用いて測定した。簡潔に言うと、サンプルは、500μlの基質(Q-βNA、最終濃度50μM)、400μlのN-エチルマレイミド(最終濃度100μM)、及び100μlのQC含有サンプルからなる。反応を30℃でインキュベートし、サンプルを0、5、10、15、22、30及び45分後に取り出した。その後、5分間、沸騰水浴でインキュベートすることにより反応を終了した。図11に図示するように、hQC導入遺伝子を有するトランスジェニック動物から得られるサンプルは、非トランスジェニック同腹子と比較して、著しく減少したQC-活性を含んでいた。明らかに、トランスジェニック動物のhQC発現を証明している。
【0225】
更にトランスジェニックのQC-発現を立証し、かつ最も高いQC-活性を示す創始動物系統を選択するために、酵素活性の蛍光定量的測定に基づく第二のアッセイを適用した(Schilling,らの文献., Anal. Biochem. (2002) 303:49-56)。図12に示すように、非移植遺伝子の同腹子と比較してpGlu-βNA形成の35倍の増加が、hQC-トランスジェニックマウスの脳ホモジネートにおいて観察され、該酵素の過剰発現が証明された。
【0226】
図13Aに示すように、ヒトQCの発現を、3匹の異なる創始動物マウス系統(系統53、37及び43)及びマウスQCを過剰発現させる系統pbd17E3について特徴付けした。QCの有意な過剰発現が、全てのhQC tg動物において検出された。比較において、pbd17E3のマウスQCは、脳での発現がより少なかった。これは、使用した異なるプロモーター(pbd17E3の偏在的CAGプロモーター及びhQCトランスジェニックマウスのマウスThy-1ニューロン特異的プロモーター)に起因する。これらの結果に基づいて、hQC-トランスジェニックマウス創始動物系統53は、最も高いQC発現を示した(図13B)。
【0227】
QC-活性の分析結果を、QC-特異抗体(図14)を用いて、ウエスタンブロット分析によって最終的に立証した。最も顕著なバンドは、ヒトQCトランスジェニックマウス系統53由来であり、既に最も高い酵素活性を示したサンプルにおいて観察された。系統43は中程度のシグナルを示し、系統37は最も低いQCシグナルを示した。これらは約32kDaの分子量に対応する。pbd17E3マウスでは、わずかなシグナルだけが得られた。これは脳サンプル中のQC活性の測定結果を反映している。
【0228】
酵素活性についての2つの異なる分析によるQC測定及びウエスタンブロット分析によるQC測定に基づいて集約することにより、トランスジェニックマウスのヒトQCの有効な発現を達成した。上記のように、ニューロン特異的プロモーターは、発現を非常に効率的に誘発する。従って、これらのマウスは、QCに関連し、かつ/又はQCによって促進又は加速される疾患状態(例えばアルツハイマー病、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、ハンチントン舞踏病)のモデル化を目的とするトランスジェニックマウスの開発に最適である。
【0229】
(実施例12:ヒトQCをニューロン特異的に過剰発現させるトランスジェニックマウスの生成)
(12.1トランスジェニックプラスミドの確立及びマイクロインジェクション)
ヒトQC(スイス-プロット登録Q16769)のオープンリーディングフレームを含むプラスミドpcDNA3.1-hQCを、以下のプライマーを有するhQC cDNAのPCR増幅のテンプレートとして使用した:
・mThy1-hQC-XhoI-F(5´-AAT AAT CTC GAG GCC ACC ATG GCA GGC GGA AGA CAC CG-3´, 配列番号42)
・mThy1-hQC-BsrGI-R(5´-ACA TAT GTA CAT TAC AAA TGA AGA TA-3´, 配列番号43)。
PCR産物を、XhoI及びBsrGIで消化し、pUC18-mThy1ベクタープラスミド(図15)と結合させた。正しいプラスミドクローンを、制限及び配列決定によって同定した。トランスジェニックプラスミドpUC18-mThy1-hQCを、プラスミド配列を除去するために、Pvu I及びNot Iを用いて線形化した。トランスジェニック構造物に相当する7929bp断片を、アガロースゲル電気泳動によってベクター骨格から分離し、更に精製した。プラスミド骨格を、Not I及びPvu Iを用いる消化によって取り除いた(図16)。得られた7929bp DNA断片を、(C57BL/6 x CBA) F2卵母細胞への前核マイクロインジェクションに使用し、続いて、最小150の生存可能なマイクロインジェクションされた卵母細胞を偽妊娠マウスに再移植した。
【0230】
(12.2 トランスジェニック創始動物の同定)
PCRスクリーニング戦略を、以下のプライマーを用いて行った:
フォワードプライマhQCF1: ・
【化8】
リバースプライマmThy1R1:
【化9】
プローブ13p:
【化10】
。
さらに、頭尾PCRを直列型組込みの同定のために使用した:
フォワードプライマHTT-mthy1-F:
【化11】
リバースプライマHTT-mThy1-R:
【化12】
。
同定された創始動物を表12-1に示す。
【表14】
本発明者らは、トランスジェニック構造物の整合性及び複数のトランスジェニックコピー(プライマーHTT-mthy1-F及びHTT-mthy1-R)を調査するために、頭尾PCRを行った。ここで、本発明者らは、以下の結果を得た:
Fo#37 弱い正しいPCR断片バンド
Fo#38 強い正しいPCR断片バンド
Fo#43 弱い正しいPCR断片バンド
Fo#48 弱い正しいPCR断片バンド
Fo#53 強い正しいPCR断片バンド
【0231】
この結果は、すべての創始動物が、直列方向において組込まれている複数のトランスジェニック断片を有するという結論につながる(図3にて図示したように)。
【0232】
構造物がより直列方向に組み込まれるほど、頭尾PCRバンドシグナルがより強い。すべての創始動物を、B6CBA繁殖パートナーとともに育てた。F1マウスは、上記qPCRプライマー/プローブセットを用いてスクリーニングした。トランスジェニックの子は、Fo#37、Fo#43及びFo#53についてのみ同定することができた。創設者Fo#38及びFo#48 F1子は、すべての非トランスジェニックであった。Fo#37、Fo#43及びFo#53の異なるトランスジェニックF1の子(年齢: 2〜3.5ヵ月)の皮質(Co)、海馬(Hi)及び脊髄(SC)のサンプルを、1匹の非トランスジェニックコントロールの子とともにRT-qPCRによって調査した。結果を、図17に示す。
最大mRNAレベルは、Fo#53サンプルにおいて検出され得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、トランスジェニック動物に関し、並びに疾患、特にQpctに関する疾患をスクリーニング及び治療する方法及び組成物に関する。
【0002】
特に、本発明は、グルタミニルシクラーゼ(QC、EC 2.3.2.5)とも称される、アンモニアを遊離しながらのN-末端グルタミン残基のピログルタミン酸(5-オキソ-プロリル、pGlu*)への分子内環化、及び水を遊離しながらのN-末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸への分子内環化を触媒する、Qpct(すなわちグルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ)に関する。
【背景技術】
【0003】
QCは、1963年にMesserにより熱帯植物カリカ・パパイヤ(Carica papaya)のラテックスから最初に単離された(Messer, M.の論文、1963 Nature 4874, 1299)。24年後、対応する酵素活性が、動物の下垂体で発見された(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H.及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci USA 84, 3628-3632)。哺乳動物のQCに関して、QCによるGlnのpGluへの転換が、TRH及びGnRHの前駆体について示されている(Busby, W. H. J.らの論文、1987 J Biol Chem 262, 8532-8536;Fischer, W. H.及びSpiess, J.の論文、1987 Proc Natl Acad Sci USA 84, 3628-3632)。加えて、最初のQC局在化実験は、ウシ下垂体におけるその触媒の推定上の生成物との同時局在を明らかにし、ペプチドホルモン合成において示唆された機能を更に強化した(Bockers, T. M.らの論文、1995 J Neuroendocrinol 7, 445-453)。対照的に、植物のQCの生理機能は、余り明確ではない。C.パパイヤ由来の酵素の場合には、病原性微生物に対する植物防御での役割が示唆された(El Moussaoui, A.らの文献2001 Cell Mol Life Sci 58、556-570)。他の植物に由来する推定上のQCが、最近の配列比較により同定された(Dahl, S. W.らの文献.2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。しかしこれらの酵素の生理機能は依然曖昧である。
【0004】
植物及び動物由来の公知のQCは、それらの基質のN-末端位置でのL-グルタミンに対する厳密な特異性を示し、かつそれらの反応速度論的挙動は、ミカエリス-メンテン式に従うことがわかった(Pohl, T.らの論文、1991 Proc Natl Acad Sci USA 88, 10059-10063;Consalvo, A. P.らの論文、1988 Anal Biochem 175, 131-138;Gololobov, M. Y.らの論文、1996 Biol Chem Hoppe Seyler 377, 395-398)。しかしC.パパイヤ由来のQCの一次構造と哺乳動物由来の高度に保存されたQCの一次構造との比較は、いかなる配列相同性も明らかにしなかった(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)。植物QCは新たな酵素ファミリーに属するように見える(Dahl, S. W.らの論文、2000 Protein Expr Purif 20, 27-36)のに対し、哺乳動物のQCは、細菌のアミノペプチダーゼと顕著な配列相同性を有することがわかり(Bateman, R. C.らの論文、2001 Biochemistry 40, 11246-11250)、このことは植物及び動物に由来するQCは、進化の起源が異なるという結論に繋がっている。
【0005】
EP 02 011 349.4には、昆虫グルタミニルシクラーゼをコードしているポリヌクレオチド、これらによりコードされたポリペプチドが開示されている。さらに、この出願は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。昆虫QCを含む単離ポリペプチド、及び宿主細胞は、グルタミニルシクラーゼ活性を低下させる薬剤のスクリーニング方法において有用である。この種の薬剤は、農薬として有効であると言われる。
【0006】
本発明の主題は、特にQpct関連疾患の分野に役立ち、その1つの例はアルツハイマー病である。アルツハイマー病(AD)は、ジストロフィニューロン、反応性星状細胞及びミクログリアと密接に関連している細胞外アミロイド斑の異常な蓄積によって特徴づけられる(Terry, R. D.及びKatzman, R. 1983 Ann Neurol 14, 497-506; Glenner, G. G.及びWong, C. W. 1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890; Intagaki, S.らの文献. 1989 J Neuroimmunol 24, 173-182; Funato, H.らの文献. 1998 Am J Pathol 152, 983-992; Selkoe, D. J. 2001 Physiol Rev 81, 741-766)。アミロイド-ベータ(Aβと略記される)ペプチドは、老人斑の主要構成要素であり、ADの病因及び進行に直接関係していると考えられる。遺伝子研究で支持される仮説である(Glenner, G. G.及びWong, C. W. 1984 Biochem Biophys Res Comm 120, 885-890; Borchelt, D. R.らの文献. 1996 Neuron 17, 1005-1013; Lemere, C. A.らの文献. 1996 Nat Med 2, 1146-1150; Mann, D. M.及びIwatsubo, T. 1996 Neurodegeneration 5, 115-120; Citron, M.らの文献. 1997 Nat Med 3, 67-72; Selkoe, D. J. 2001 Physiol Rev 81, 741-766)。Aβは、β-アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク分解性処理によって生じる(Kang, J.らの文献. 1987 Nature 325, 733-736; Selkoe, D. J. 1998 Trends Cell Biol 8, 447-453)。これは、N末端のβ-セクレターゼ、及びAβのC末端のγ-セクレターゼによって順次切断される(Haass, C.及びSelkoe, D. J. 1993 Cell 75, 1039-1042; Simons, M.らの文献. 1996 J Neurosci 16 899-908)。N末端基(Aβ1-42/40)でL-Aspから始まる優位なAβペプチドに加えて、老人斑においては、N-末端切断形態の大きな異質性が生じる。この種の短ペプチドは、インビトロで神経毒であり、全長アイソフォームより急速に凝集することが報告されている(Pike, C. J.らの文献. 1995 J Biol Chem 270, 23895-23898)。N-末端切断ペプチドは、早期発症型家族性AD(FAD)対象において過剰産生されること(Saido, T. C.らの文献. 1995 Neuron 14, 457-466; Russo, C,らの文献. 2000 Nature 405, 531-532)、ダウン症(DS)脳において早期に現れ、かつ年齢とともに増加すること(Russo, C.らの文献. 1997 FEBS Lett 409, 411-416, Russo, C.らの文献. 2001 Neurobiol Dis 8, 173-180; Tekirian, T. L.らの文献. 1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94)が知られている。最後に、それらの量は、疾患の進行性重症度を反映する(Russo, C.らの文献. 1997 FEBS Lett 409, 411-416; Guntert, A.らの文献. 2006 Neuroscience 143, 461-475)。付加的な翻訳後工程は、1及び7位のアスパラギン酸塩の異性化又はラセミ化によって、及び残基3及び11のグルタミン酸塩の環化によって、N末端基を更に修正することができる。3位でのピログルタミン酸含有アイソフォーム[pGlu3Aβ3-40/42]は、老人斑のN-末端切断種の顕著な形態―総Aβ量の約50%―である(Mori, H.らの文献. 1992 J Biol Chem 267, 17082-17086, Saido, T. C.らの文献. 1995 Neuron 14, 457-466; Russo, C.らの文献. 1997 FEBS Lett 409, 411-416; Tekirian, T. L.らの文献. 1998 J Neuropathol Exp Neurol 57, 76-94; Geddes, J. W.らの文献. 1999 Neurobiol Aging 20, 75-79; Harigaya, Y.らの文献. 2000 Biochem Biophys Res Commun 276, 422-427)。これらは前アミロイド病変にも存在する(Lalowski、M.らの文献1996J Biol Chem 271、33623-33631)。AβN3(pE)ペプチドの蓄積は凝集を増進し、大部分のアミノペプチダーゼに対する抵抗を与える構造変化の原因となる可能性がある(Saido、T. C.らの文献1995 Neuron 14、457-466; Tekirian, T. L.らの文献. 1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。この証拠は、AD病因におけるAβN3(pE)ペプチドの重要な役割についての手掛かりを提供する。しかし、それらの神経毒性及び凝集特性についてはほとんどわかっていない(He, W.及びBarrow, C. J. 1999 Biochemistry 38, 10871-10877; Tekirian, T. L.らの文献. 1999 J Neurochem 73, 1584-1589)。さらに、グリア細胞におけるこれらのアイソフォームの作用及びこれらのペプチドに対するグリア反応は完全に知られていないが、活性グリアは老人斑に強く関連しており、アミロイド沈着物の蓄積に積極的に関与する可能性がある。最近の研究において、Aβ1-42、Aβ1-40、[pGlu3]Aβ3-42、[pGlu3]Aβ3-40、[pGlu11]Aββ11-42及び[pGlu11]Aβ11-40ペプチドの毒性、凝集特性及び異化作用がニューロン及びグリア細胞培養物において調査され、ピログルタミン酸修飾がAβ-ペプチドの毒性特性を悪化させ、更に培養星状細胞によってそれらの分解を阻害することが示された。Shirotaniらは、インビトロでSindbisウイルスに感染された初代皮質ニューロンにおいて、[pGlu3]Aβペプチドの産生を調査した。彼らは、アミノ酸置換及び欠失によって[pGlu3]Aβの潜在的前駆体をコードしたアミロイド前駆体タンパク質相補的DNAを構築した。天然前駆体におけるピログルタミン酸の代わりにN-末端グルタミン残基から始まる1つの人工前駆体について、グルタミニルシクラーゼからピログルタミン酸塩への自然発生的な転換又は酵素転換が示唆された。[pGlu3]Aβの天然前駆体において、3位のN末端グルタミン酸塩の環化機序は、インビトロ、インサイチュー又はインビボでも決定されなかった(Shirotani, K.らの文献. 2002 NeuroSci Lett 327, 25-28)。
【発明の概要】
【0007】
(本発明の要旨)
本発明は、Qpct関連疾患のための非ヒト(特に哺乳動物)トランスジェニックモデルのための方法及び組成物を含む。具体的には、本発明は、Qpctを過剰発現させる非ヒトトランスジェニック動物モデルを含む。
【0008】
本発明はさらに、制限されないが以下を含むQpct関連疾患を調整する、生物学的活性薬剤のためのスクリーニング用組成物又は方法を含む:軽度認識障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管障害、レヴィー小体痴呆、ダウン症の神経変性、アミロイド症(オランダ型)を有する遺伝性脳溢血、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性状態、統合失調症、不妊性、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、後天性免疫不全症候群、移植片拒絶、ハンチントン病(HD)、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮内の白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害又は体液の調節障害、及びグアム‐パーキンソン痴呆複合。本発明の別の態様は、Qpct阻害剤のためのスクリーニング方法及び組成物を含む。
【0009】
さらに本発明は、Qpct関連疾患の治療及び/又は予防の方法及び組成物、特にQpctを阻害又は促進する方法及び組成物を含む。
【0010】
したがって、本発明の目的は、Qpctを過剰発現させるトランスジェニック動物を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、QpctをコードしているDNA構築物を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、プロモーターに連結されたQpctをコードしているDNA構築物を提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、非ヒトトランスジェニック動物モデル系を提供することである。
【0014】
本発明の更なる目的は、特定の組織種におけるQpctのインビボ及びインビトロ調節及び効果を研究するための非ヒトトランスジェニック動物モデル系を提供することである。
【0015】
阻害研究によって、ヒト及びマウスQCが金属依存性トランスフェラーゼであることが示された。QCアポ酵素は、亜鉛イオンによって最も効率的に復活することができ、亜鉛依存性アミノペプチダーゼの金属結合モチーフはヒトQCにも存在する。活性部位結合金属と相互作用する化合物は、強力な阻害剤である。
【0016】
予想外に、組換え型ヒトQC、並びに脳抽出液由来QC-活性、双方が、N-末端グルタミニル、並びにグルタミン酸環化を触媒することを示した。最も特筆すべきことは、QC触媒Glu1-転換は約pH 6.0で有利に働くが、pGlu-誘導体へのGln1-転換は約8.0のpH-最適条件によって生じるという発見である。pGlu-Aβ関連ペプチドの形成が組換えヒトQC及びブタ下垂体抽出物由来QC-活性の阻害によって抑制されることができるので、酵素QCは例えばアルツハイマー病治療のための薬剤開発の標的である。
【0017】
哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、下記から選択される状態を予防又は緩和又は治療することができる:軽度認識障害(MCI)、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管障害、レヴィー小体痴呆、ダウン症の神経変性、アミロイド症(オランダ型)を有する遺伝脳溢血、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性状態、統合失調症、不妊性、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、後天性免疫不全症候群、移植片拒絶、ハンチントン病(HD)、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮内の白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害及び体液の調節障害。
【0018】
更に、哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、消化管細胞増殖、好ましくは胃粘膜細胞、上皮細胞の増殖、酸産生性壁細胞の急性酸分泌及び分化、及びヒスタミン分泌性腸クロム親和性様細胞を刺激することができる。
【0019】
さらに、哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、骨髄前駆細胞の増殖を抑制することができる。
【0020】
加えて、QC阻害剤の投与は、雄の受精能を抑制することができる。
【0021】
本発明は、少なくとも1種のQCのエフェクターを、任意に慣習的な担体及び/又は賦形剤と組み合わせて含む、非経口、腸内又は経口投与のための医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
これらの更なる理解及び他の本発明の態様は、以下に表す図を参照することで得られるであろう:
【0023】
【図1】図1A及びB:(A)マウスQpct cDNAカセットの存在を示すプラスミド、「ベクターpPCR Script Cam SK(+)のmQC cDNA」の地図。(B)ベクター骨格の配列−cDNA接合部。クローニングに利用されるプライマーのSphI制限配列により、付加的なATGをベクターpPCR Script Cam SK(+)の開始コドンの4bp上流に挿入した。
【0024】
【図2】図2:クローニング戦略。最初にQpct cDNAを、pPCR-Script Cam SK(+)ベクター骨格からNsiI及びNotIを介して分離し、pBlueScript SK+(1 + 2)に、PstI及びNotIを介してサブクローニングした。その後、cDNAカセットを、pcDNA3.1(3 + 4)のプラスミドCAG Prに、制限部位HindIII及びNotIを介してサブクローニングした。結果として得られるpTG-CAG-mQCは、偏在的に発現するCAGプロモータ及びBGHポリAシグナルの制御下のQpct cDNAカセットから構成されている。
【0025】
【図3】図3:トランスジェニック構築プラスミドpTG-CAG-mQC及びその限定解析の制限酵素地図。(A)配列領域を、狭い幅の線としてラベルする(配列番号:1及び2)。ジェノタイピングプライマー(genotyping primers)の結合部位及び限定解析において使用する酵素の制限部位を、プラスミド地図に示す。ジェノタイピングプライマー(CAG-Pr-F1及びGX1675-TOR1-FF)の位置を灰色矢印(B、C)として示す。すべてのDNA消化は、表Mにおいて予測される期待断片サイズを生じた:MassRuler DNA-Ladder Mix(GeneRuler;MBI)。
【0026】
【図4】図4:スクリーニングPCRの感受性試験。最適化PCRスクリーンは、H20(-WT DNA)又は150μgのゲノム野生型DNA(+WT DNA)のpTG-CAG-mQCプラスミドの系列希釈を用いて行った。1マウスゲノム当たり0.1、1及び10コピーのトランスジェニックベクターの等価物を試験した。プライマー対CAG-Pr-F1/GX1675を有するトランスジェニックDNAのPCR増幅により、1585bp産物を得た。野生型ゲノムDNA(WT)及びH20(φ)を、ネガティブコントロールとして含めた。M:1kbのDNAラダー(New England Biolabs, NEB)。
【0027】
【図5】図5:pTG-CAG-mQCトランスジェニック構築物の調製及び確認。(A)SalI及びDraIIIの制限部位及びスクリーニングプライマーの結合部位を示すベクターpTG-CAG-mQCのプラスミドカード(Plasmid card)。(B) pTG-CAG-mQC(1)及び単離トランスジェニック構築物(2)のDraIII/SalI制限。M:1kbのDNAラダー(New England Biolabs, NEB)
【0028】
【図6】図6:前核マイクロインジェクション。(A)注入前の卵母細胞。雄前核が、明確に見える。(B) 注入後の卵母細胞。雄前核は明らかに拡大され、成功した注入を示す。
【0029】
【図7】図7:創始動物(founders)のスクリーニング。最後に生まれた19匹の子のPCR結果を示す。プライマーCAG-Pr-F1/GX1675-TOR1-FF(導入遺伝子PCR;1.6kb)及びプライマー対BGH-F1/CAG-Pr-R2(頭尾PCR(head-to-tail PCR);0.8kb)を用いるPCRを、F0世代由来ゲノムDNAを用いて行った。導入遺伝子PCRのためのポジティブコントロール(+)は、野生型ゲノムDNAで希釈されたプラスミドpTG-CAG-mQCとした。DNAの品質は、431bp野生型シグナルを増幅するコントロールPCRによって確認した。頭尾PCRのためのポジティブコントロール(TG)は、1.3kbのPCR産物を生じる同じプロモータ-ポリAシグナル配列を有するトランスジェニック系統のゲノムDNAとした。ネガティブコントロールは、野生型DNA(WT)とした。付加的なネガティブコントロールとしてH20(φ)を用いた。M:100bp DNAラダー(New England Biolabs, NEB)
【0030】
【図8】図8:F1世代の遺伝子型特定。17匹の子のPCR結果を例として示す。プライマーCAG-Pr-F1/GX1675-TOR1-FFを用いるPCR(導入遺伝子PCR; 1.6kb)を、F1世代由来ゲノムDNAを用いて行った。導入遺伝子PCRのためのポジティブコントロール(+)は、野生型ゲノムDNAで希釈されたプラスミドpTG-CAG-mQCとした。ネガティブコントロールは、野生型DNA(WT)とした。付加的なネガティブコントロールとしてH20(φ)を使用した。M1:100bp DNAラダー(NEB)
【0031】
【図9】図9:9A:Merck RP18-LiChrocart 125-4カラムを備えているMerck-Hitachi L-6210 HPLCシステムを用いて調製したピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検量線。化合物は、280nmでの吸収によって検出した。
【0032】
9B:グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンのQC媒介環化生成物としてのピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンのHPLC-検出による、QC-トランスジェニックマウス(三つ組、左列)及び野生型同腹子(三つ組、右列)の脳組織のQC-活性の測定。回帰曲線の傾斜は、QC触媒作用による生成物形成の初速度に相当する。プロットの前に、面積単位(HPLCの読み出し)は、ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検量線を用いて、濃度に変換した。
【0033】
【図10】図10:PCR及びリアルタイムPCR 10Aを用いるQC-転写物の評価。10A:HPLCを用いてピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの定量化により測定した、EDTA血漿、肝臓及び脳のQC活性は、体積(血漿)又は湿重量(組織)に関連していた。10B:EDTA血漿、肝臓及び脳のQC活性はタンパク量に関連していた。10C:2匹のトランスジェニックQC-マウス(QC)及びコントロール(WT)の脳(a)、肝臓(b)及び腎臓(c)の生成されたcDNAからのマウスQCの定性的PCR。10D:鋳型としてQCトランスジェニック(QC、N=2)マウス及びコントロール(WT、N=2)マウスの脳、肝臓及び腎臓からのcDNAを用いる定量的リアルタイムRT-PCR。
【0034】
【図11】図11:トランスジェニックマウス(hQC-系統53 番号27、四角)及び非トランスジェニック同腹子(hQC-系統53 番号25、円)の脳ホモジネートのQC活性。活性は、HPLCを用いてピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検出及び定量化に基づくアッセイを用いて決定された。トランスジェニック動物の場合において、急勾配は、導入遺伝子(ヒトQC)の発現を証明している。
【0035】
【図12】図12:トランスジェニックマウス(hQC-系統53 No.27、四角)及び非トランスジェニック同腹子(hQC-系統53 No.25、円)の脳ホモジネートのQC活性。活性は、QC活性の蛍光定量的検出に基づくアッセイを用いて決定された。トランスジェニック動物の場合、より高い傾斜は、導入遺伝子QCの表示を証明する。
【0036】
【図13】図13:Thy-1プロモーター(系統53、系統37及び系統43)又はマウスQC(pbd17E3)によって遍在的に駆動されるヒトQCをニューロン特異的に発現しているトランスジェニックマウスの脳ホモジネートのQC-活性の比較。A)異なる創始系統の動物の脳サンプルのQC-活性の比較。明らかに、hQCトランスジェニック動物だけが有意なQC-活性を示し、非トランスジェニック同腹子では示さなかった。これは導入遺伝子がQC活性の増加を仲介するということを示している。B)これらの結果に基づいて、脳サンプルの最も高いQC活性を示すヒトのQC-トランスジェニック創始系統53が選択された。
【0037】
【図14】図14:異なるトランスジェニック動物の脳ホモジネートのウエスタンブロット分析。一次ポリクローナル抗体を使用して、マウス及びヒトQCを検出した。結果は、QC活性の分析を正確に反映している。最も高いQC免疫反応は、系統53のトランスジェニック動物において得られた。pbd17E3マウスでは、かすかな染色だけが観察された。QC転位は、ポジティブコントロール(組換えヒトQC)によって示される。系統:1:標準タンパク質、2:hQC-系統53No.23(tg, 雌)、3:hQC-系統53 No.25(ntg, 雌)、4:hQC-系統53 No.27(tg, 雌)、5:hQC-系統37 No.43(tg, 雌)、6:hQC-系統37 No.43 Nr.34(ntg, 雄)、7:hQC-系統37 No.43 Nr.57(tg, 雌)、8:hQC-系統43 No.31(tg, 雌)、9:hQC-系統43 No.36(ntg, 雄)、10:hQC-系統43 Nr.32(tg, 雄)、11:hQC、ポジティブコントロール[40ng]、系統12-15:PBD17E3 12:No.7936 tg, 13:Nr.8860 tg, 14:Nr.8862 tg, 15:Nr.8863 tg.
【0038】
【図15】図15:ニューロン特異的にヒトQCを過剰発現させるトランスジェニックマウスの生成に使用するプラスミドの概略図。
【0039】
【図16】図16:生成されたプラスミドベクターの分析制限酵素消化。7929のサイズを有する断片を、マイクロインジェクションに使用した。レーン:1、Hind III-ラダー;2、pUC18-mThy1-hQC/Not I/Pvu I(7929bp + 1443bp + 896bp);3、Pst I-ラダー;4、PCR: pUC18-mThy1-hQC 27ng(1316bp);5、PCR:pUC18-mThy1-hQC 27ng + 100ngのgDNA(1316bp);6、PCR:100ng gDNA;7、PCR:非鋳型コントロール;8、1kb ラダー
【0040】
【図17】図17:3つの異なる創始系統のヒトQC(リアルタイムPCR)の転写レベルの定量。レベルは、標準GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)と比較して相対値として示す。最大転写レベルは系統53で測定され、それは最も高いQC活性をも示した。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の他の目的、利点及び特徴は、以下の詳細な説明によって明らかになる。
【0042】
(発明の詳細な説明)
本発明は、Qpct関連疾患及びトランスジェニック非ヒト動物それ自体の研究ためのトランスジェニック動物モデルの生成方法及び組成物を含む。本発明は具体的に、グルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ酵素(Qpct)を過剰発現させるトランスジェニック動物モデル及びトランスジェニック非ヒト動物それ自体を生成する方法及び組成物を含む。本発明は更に、Qpct阻害剤及びプロモーターを試験するための方法及び組成物、並びにQpct阻害剤/プロモーターを用いる予防/治療方法及び医薬組成物を含む。
【0043】
本発明はまた、軽度認識障害(MCI)、アルツハイマー病、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、及びダウン症の神経変性の治療のための新規方法を提供する。アルツハイマー病及びダウン症候群脳において沈着されるアミロイドβ-ペプチド、及び家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症において沈着されるアミロイドペプチドADan及びABriのN末端は、ピログルタミン酸を有する。改質アミロイドβ-ペプチド、ADan及びABriがアミロイド凝集及び毒性の増加傾向を示し、疾患の発症及び進行を悪化させ得るので、pGlu形成は疾患の発生及び進行における重要な事象である。(Russo, C.らの文献2002J Neurochem 82、1480-1489;Ghiso、J.らの文献2001 Amyloid 8、277-284)。
【0044】
対照的に、天然Aβ-ペプチド(3-40/42)において、グルタミン酸がN末端アミノ酸として存在する。
【0045】
(定義)
「導入遺伝子」という用語は、宿主ゲノムに組み込まれた又は宿主細胞の自律複製ができ、かつ一つ以上の細胞産物の発現を生じることができるDNA断片を意味する。典型的な導入遺伝子は、対応する形質転換細胞又は動物と比較して新しい表現型を有する宿主細胞又はそれから開発される動物を提供する。
【0046】
「トランスジェニック動物」という用語は、その細胞部分の染色体外の要素として存在するか又はその生殖系DNAに安定して組み込まれた、非内因性核酸配列を有するヒト以外の動物(通常、哺乳動物)を意味する。
【0047】
「構築物」という用語は、組換え核酸、通常、特定のヌクレオチド配列の発現目的で生成された又は他の組換えヌクレオチド配列の構築において使用される、組換えDNAを意味する。組換え核酸は、例えばキメラ又はヒト化ポリペプチドをコードすることができる。
【0048】
本明細書中のポリペプチドは、10以上のアミノ酸を含むすべての可能性があるアミノ酸配列に関連する。
【0049】
「作動可能に連結」という用語は、適当な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が制御配列に結合された場合、DNA配列及び制御配列が遺伝子発現可能であるような様式で結合されることを意味する。
【0050】
「作動可能に挿入」という用語は、対象のヌクレオチド配列が、対象の導入ヌクレオチド配列の転写及び翻訳を導くヌクレオチド配列に隣接して配置されることを意味する。
【0051】
(導入遺伝子)
本発明の導入遺伝子を含むQpctポリヌクレオチドは、Qpct cDNAを含み、改質Qpct cDNAも含む。本明細書中で用いられる、核酸の「改質」は、参照配列に関して1以上のヌクレオチド付加、欠失又は置換を含むことができる。核酸の改質は、遺伝子コードの縮重のためコード化アミノ酸配列を変えない置換、又は保存的置換となる置換を含むことができる。この種の改質は、ポリA尾部の付加などの、意図的な変更、又は核酸複製時の突然変異として生じる変更に相当し得る。
【0052】
本明細書中に使用される「実質的に同一のヌクレオチド配列」という用語は、参照ポリヌクレオチドに対して十分な同一性を有するDNAを指す。それは中程度のストリンジェント又は高いストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で参照ヌクレオチドにハイブリダイズする。参照ヌクレオチド配列としての「実質的に同一のヌクレオチド配列」を有するDNAは、参照ヌクレオチド配列に関して少なくとも60%〜少なくとも95%の範囲の同一性を有することができる。
【0053】
「中程度のストリンジェントなハイブリダイゼーション」という語句は、標的核酸が相補的核酸を結合することができる条件を指す。ハイブリダイズされた核酸は、通常、少なくとも約60%〜少なくとも約95%の範囲の同一性を有する。中程度のストリンジェント条件は、50%ホルムアミド、5x デンハルツ溶液、5xリン酸ナトリウムEDTA緩衝液(SSPE)、0.2%SDS(Aldrich)中、約42℃でのハイブリダイゼーション、続く0.2x SSPE、0.2%SDS(Aldrich)中、約42℃での洗浄と同等の条件である。
【0054】
高いストリンジェントなハイブリダイゼーションは、0.018M NaCl中、約65℃で、安定なハイブリッドを形成するそれらの核酸配列のみがハイブリダイゼーションできる条件を指す。例えば、ハイブリッドが0.018M NaCl中、約65℃で安定でない場合、本明細書中に意図されるように、それは高いストリンジェント条件下で安定でない。高いストリンジェント条件は、例えば、50%ホルムアミド、5x デンハルツ溶液、5x SSPE、0.2%SDS中、約42℃でのハイブリダイゼーション、続く0.lx SSPE及び0.1%SDS中、約65℃での洗浄によって提供されることができる。
【0055】
他の適切な中程度のストリンジェント及び高いストリンジェントなハイブリダイゼーション緩衝液及び条件は、当業者にとって周知であり、例えば、Sambrookらの文献. Molecular Cloning; A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y. (1989); 及びAusubelらの文献(「分子生物学の現在のプロトコル(付録47)(Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47))」, John Wiley & Sons, New York (1999))に記載されている。
【0056】
本発明の導入遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、ヒト由来のQpct配列又は任意種、好ましくはマウス種由来のQpct相同体であることができる。本発明の導入遺伝子によってコードされるアミノ酸配列はまた、断片が全長Qpct配列の機能の一部若しくは全部を保持する限り、Qpctアミノ酸配列の断片であることができる。配列は、改質Qpct配列でもよい。個々の置換、欠失又は付加は、単一アミノ酸又は少ないパーセンテージのアミノ酸(典型的には10%未満、より典型的には5%未満、さらに典型的には1%未満)の変更、付加又は欠失する。アミノ酸配列の「改質」は、アミノ酸配列の保存的置換を包含する。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当業者に公知である。以下の6つの各グループは、互いに保存的置換となるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(1)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
及び、
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
他の軽微な改質は、ポリペプチドがQpctポリペプチドの構造及び/又は機能特徴の一部若しくは全部を保持する限り、配列中に含まれる。典型的な構造又は機能特徴は、配列同一性又は類似性、抗体反応性、RNA結合ドメイン又は酸性ドメインなどの保存された構造ドメインの存在を含む。
【0057】
(DNA構築物及びベクター)
本発明は、上記の通りにQpct導入遺伝子を含むDNA構築物を更に提供する。本明細書中で用いられる「DNA構築物」という用語は、DNA分子中の遺伝因子の特定の配列を指す。ヒトQpct又はその変異形態に加えて、本発明はまた、他の種由来のポリペプチド、並びにヒト以外の種由来のBACE1を発現するQpct変異非ヒト哺乳動物由来のポリペプチドを用いる、DNA構築物を提供する。
【0058】
必要に応じて、DNA構築物は、適当な細胞又は組織において、DNA構築物中の遺伝因子の発現を許容するためにプロモーター又はエンハンサーなどの適当な発現要素と作動可能に連結されるように、処理されることができる。発現制御機序の使用は、対象の遺伝子の標的化送達及び発現を可能にする。例えば、本発明の構造物は、転写の5'-3'方向、脳組織の遺伝子発現と関連している転写及び翻訳開始領域、変異又は野生型Qpctタンパク質をコードしているDNA、及び宿主動物において機能的な転写及び翻訳終端領域に含む発現カセットを用いて構築されることができる。一つ以上のイントロンも、存在することができる。転写開始領域は、宿主動物に内因性、又は宿主動物に外来性又は外因性であることができる。
【0059】
本明細書中に記載されているDNA構築物は、Qpctを過剰発現する変異非ヒト哺乳動物を生成する適当な細胞に、伝播又はトランスフェクションのためのベクターに組み込まれることができ、これも本発明に包含される。当業者は、所望の特性に基づいてベクターを選択することができる。例えば、哺乳動物の細胞又は細菌細胞などの特定の細胞中でベクターを製造するために選択することができる。
【0060】
ベクターは、作動可能に連結した核酸の組織特異的又は誘導可能な発現を提供する制御要素を含むことができる。当業者は、所望される組織中のQpctポリペプチドの発現を可能にする適当な組織特異的プロモーター又はエンハンサーを容易に決定することができる。本明細書中に記載されている組織特異的発現は、好ましい組織以外の組織中で、発現が完全に欠如することを必要としない点に留意する必要がある。代わりに、「細胞特異的」又は「組織特異的」発現は、好ましい細胞種又は組織中で、対象となる特定遺伝子の大部分が発現することを指す。
【0061】
様々な誘導プロモーター又はエンハンサーの幾つかは、制御され得るQpctポリペプチド又は核酸の発現ベクター中に含まれることができる。このような誘導可能なシステムは、例えば、テトラサイクリン誘導可能システムを含む(Gossen & Bizard, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992);Gossenらの文献., Science, 268:17664769 (1995);Clontech, Palo Alto, Calif.);重金属によって誘導されるメタロチオネインプロモーター;エクジソン又はムリステロンなどの関連ステロイドに応答する昆虫ステロイドホルモン (Noらの文献., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996);Yaoらの文献., Nature, 366:476-479 (1993);Invitrogen, Carlsbad, Calif.);グルココルチコイド及びエストロゲンなどのステロイドによって誘導されるマウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)( Leeらの文献., Nature, 294:228-232 (1981);及び温度変化によって誘導可能な熱ショックプロモーター;ラットニューロン特異的エノラーゼ遺伝子プロモーター(Forss-Petter,らの文献., Neuron 5;197-197 (1990));ヒトβ-アクチン遺伝子プロモーター(Ray,らの文献., Genes and Development (1991) 5:2265-2273);ヒト血小板誘導化成長因子B(PDGF-B)鎖遺伝子プロモーター(Sasahara,らの文献., Cell (1991) 64:217-227);ラットナトリウムチャネル遺伝子プロモーター(Maue,らの文献., Neuron (1990) 4:223-231);ヒト銅-亜鉛スーパオキシドジスムターゼ遺伝子プロモーター(Ceballos-Picot,らの文献., Brain Res.(1991) 552:198-214);及び哺乳動物POU-ドメイン調節性遺伝子ファミリーの一員のためのプロモータ(Xiらの文献., (1989) Nature 340:35-42)。
【0062】
プロモーター又はエンハンサーなどの制御要素は、制御の性質に応じて、構成又は制御されることができ、様々な組織又は1以上の特定組織において制御されることができる。ポリヌクレオチド配列と制御配列との物理的及び機能関係がポリヌクレオチド配列の転写を許容するように、制御配列又は制御要素は、本発明のポリヌクレオチド配列の1つと作動可能に連結する。真核細胞中の発現に有用なベクターは、例えば、CAGプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)ステロイド-誘導性プロモーター、Pgtf、モロニーマウス肉腫ウイルス(MMLV)プロモーター、thy-1プロモーターなどの制御要素を含むことができる。
【0063】
必要に応じて、ベクターは、選択可能マーカーを含むことができる。本明細書中で用いられる「選択可能マーカー」は、選択可能な表現型を、選択可能マーカーが導入された細胞に提供する遺伝因子を指す。選択可能マーカーは、通常、遺伝子産物が、細胞成長を阻害又は細胞を殺す薬剤に対して抵抗性を提供する遺伝子である。様々な選択可能マーカーを、本発明のDNA構築物に用いることができる。例えば、以下の文献に記載されているNeo、Hyg、hisD、Gpt及びBle遺伝子がある:Ausubelらの文献.(「分子生物学の現在のプロトコル(付録47)(Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 47))」, John Wiley & Sons, New York (1999))及び米国特許第5,981,830号。選択可能マーカーの存在を選定するのに有用な薬剤は、例えば、NeoのためのG418、Hygのためのハイグロマイシン、hisDのためのヒスチジノール、Gptのためのキサンチン及びBleのためのブレオマイシンを含む(上記、Ausubelらの文献(1999);米国特許第5,981,830号を参照)。本発明のDNA構築物は、ポジティブ選択可能マーカー、ネガティブ選択可能マーカー又は両方を組み込むことができる(米国特許第5,981,830号参照)。
【0064】
(非ヒトトランスジェニック動物)
本発明は、第一に、ゲノムがQpctポリペプチドをコードしている導入遺伝子を含む非ヒトトランスジェニック動物を提供する。DNA断片は、当業者に公知の任意の方法によってトランスジェニック動物のゲノムに組み込まれることができる。導入された分子がホモロジーのその領域で組換えされ得る任意の方法によって、所望の遺伝子配列を含んでいるDNA分子を、ES細胞などの多能性細胞に導入することができる。用いることができる技術は、リン酸カルシウム/DNA共沈、核へのDNAのマイクロインジェクション、電気穿孔法、無傷細胞との細菌プロトプラスト融合、トランスフェクション、及びポリカチオン(例えば、ポリブレン、ポリオルニチンなど)を含むが、これらに限定されるものではない。DNAは、一本鎖又は二本鎖DNA、直線又は環状であることができる。(例えば以下を参照されたい。Hoganらの文献., 「マウス胚操作(Manipulating the Mouse Embryo)」:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory (1986);Hoganらの文献., 「マウス胚操作(Manipulating the Mouse Embryo)」: A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor Laboratory (1994), 米国特許第5,602,299号;5,175,384;6,066,778;4,873,191及び6,037,521;「生殖細胞系へのレトロウイルス媒介遺伝子導入(retrovirus mediated gene transfer into germ lines)」(Van der Puttenらの文献., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:6148-6152 (1985));「胚幹細胞の遺伝子標的(gene targeting in embryonic stem cells)」(Thompsonらの文献., Cell 56:313-321 (1989));胚の電気穿孔法(Lo, Mol Cell. Biol. 3:1803-1814 (1983));及び「精子媒介遺伝子導入(sperm-mediated gene transfer)」(Lavitranoらの文献., Cell 57:717-723 (1989))。
【0065】
例えば、接合子はマイクロインジェクション法にとって良好な目標であり、接合子をマイクロインジェクションする方法は周知である(US 4,873,191を参照)。
【0066】
様々な発育期の胚性細胞を、トランスジェニック動物生成のための導入遺伝子の導入に用いることができる。胚性細胞の発育期に応じて、異なる方法が用いられる。このようなトランスフェクトされた胚幹細胞は、その後、胚盤胞期の胚の胞胚腔中にそれらが導入された後胚をコロニー形成して、生ずるキメラ動物の生殖細胞系に寄与する。(Jaenischの総説, Science 240:1468-1474 (1988))。トランスフェクトされたES細胞を胞胚腔中に導入する前に、トランスフェクトされたES細胞を種々の選択計画に付して、導入遺伝子がこのような選択手段を持つことを前提に該導入遺伝子を組み込んだES細胞を濃縮してもよい。あるいは、該導入遺伝子を組み込んだES細胞をスクリーニングするためにPCRを使用してもよい。
【0067】
さらに、導入遺伝子を非ヒト動物に導入するために、レトロウイルス感染を用いることもできる。発育中の非ヒト胚は、胚盤胞期にインビトロで培養されることができる。この間に、割球は、レトロウイルス感染の標的であることができる(Janenich, Proc. Nati. Acad. Sci. USA 73:1260-1264 (1976))。割球の効果的な感染は、透明帯を除くために、酵素処理によって得られる(上記、Hoganらの文献1986)。導入遺伝子を導入するために用いるウィルスベクター系は、典型的には、導入遺伝子を運搬する複製欠損レトロウイルスである(Jahnerらの文献., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6927-6931 (1985);Van der Puttenらの文献., Proc. Natl. Acad Sci. USA 82:6148-6152 (1985))。トランスフェクションは、ウイルス産生性細胞の単層上の割球を培養することによって、容易かつ効率的に得られる(Van der Putten, supra, 1985;Stewartらの文献., EMBO J. 6:383-388 (1987))。あるいは、感染は、後期に実行されることができる。ウイルス又はウイルス産生性細胞は、割腔に注入され得る(Jahner D.らの文献., Nature 298:623-628 (1982))。大部分の創始動物は、組込みが細胞の一部にのみ起こるので、導入遺伝子のモザイクであり、トランスジェニック動物を形成する。更に、創始動物は、ゲノムの異なる位置で導入遺伝子の様々なレトロウイルス挿入を含むことができる。一般にそれは子孫において分離するであろう。さらに、導入遺伝子は、半妊娠期胚の子宮内レトロウイルス感染によって、生殖細胞系に導入されることができる(上記、Jahnerらの文献1982)。当業者に公知のトランスジェニック動物を作製するためのレトロウイルス又はレトロウイルスベクターのさらなる使用方法は、レトロウイルスを生産するレトロウイルス粒子又はマイトマイシンC処理細胞の、受精卵又は初期胚の囲卵空間へのマイクロインジェクションを含む(WO 90/08832(1990);Haskell及びBowen, Mal.Reprod.Dev. 40:386 (1995)).
【0068】
導入遺伝子を非ヒト動物に導入する任意の他の技術、例えばノックイン又は救出技術を、本発明の課題を解決するために用いることもできる。例えば、Casasらの文献. (2004) Am J Pathol 165, 1289-1300に記載されているように、ノックイン技術は公知技術である。
【0069】
一旦、創始動物ができると、それらを、交配、同系交配、異系交配又は異種交配し、特定の動物群体を生成することができる。このような繁殖戦略の例を挙げると、以下を含むが、これに限定されるものではない:別々の系統を確立するために、2以上の組込み部位をもつ創始動物を異系交配すること;各導入遺伝子の付加的発現の影響のため、高レベルで導入遺伝子を発現する複合トランスジェニック(compound transgenic)を生成するために別々の系統を同系繁殖させること;発現を増やし、かつDNA分析による動物のスクリーニングの必要性を排除するために、所与の組込み部位の同型接合マウスを生成するために異型接合トランスジェニックマウスを交配させること;複合異型接合体又は同型接合系統を生成するために別々の同型接合系統を交配させること;導入遺伝子の発現上の対立遺伝子の改質影響及び発現の影響を検討するために、異なる同系交配遺伝子的背景に動物を交配させること。
【0070】
トランスジェニック動物をスクリーニングし、評価して、対象の表現型を有するそれらの動物を選択する。最初のスクリーニングは、例えば、導入遺伝子の組込みが起こったことを検証するために、動物組織を分析するサザンブロット分析又はPCR技術を使用して実行され得る。トランスジェニック動物の組織中の導入遺伝子のmRNA発現レベルは、動物、インサイチューハイブリッド形成分析、及び逆転写酵素-PCR(rt-PCR)から得られる組織サンプルのノーザンブロット解析を含むが、これに限定されるものではない技術を用いて評価されることもできる。適切な組織サンプルは、Qpct特異的抗体、又はEGFPなどのタグを有する抗体を用いて、免疫細胞化学的に評価されることができる。トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、本発明の方法に役立つ表現型を有するそれらの動物を同定するために、更に特徴付けられることができる。特に、Qpctを過剰発現するトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、本明細書中に開示される方法を用いてスクリーニングされることができる。例えば、組織切片をレポーター遺伝子の存在を示す蛍光の存在する型について蛍光顕微鏡で見ることができる。
【0071】
Qpctタンパク質の組織特異的発現に影響を及ぼす別の方法は、組織特異的プロモーターを用いることである。適切な組織特異的プロモーターの非限定的な例を挙げると、アルブミンプロモータ (肝臓特異的;Pinkertらの文献., (1987) Genes Dev. 1:268-277);リンパ特異的プロモーター(Calame and Eaton (1988) Adv.Immunol.43:235-275)、特にT細胞レセプタのプロモーター(Winoto及びBaltimore (1989) EMBO J. 8:729-733)、及び免疫グロブリンのプロモーター(anerjiらの文献., (1983) Cell 33:729-740;Queen and Baltimore (1983) Cell 33:741-748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター、Thy-1プロモーター又はBri-タンパク質プロモーター;Sturchler-Pierratらの文献., (1997) Proc. Natl. Acad Sci. USA 94:13287-13292, Byrne and Ruddle (1989) PNAS 86:5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(dlundらの文献., (1985) Science 230:912-916)、心臓特異的発現(アルファミオシン重鎖プロモータ、Subramaniam, A, Jones WK, Gulick J, Wert S, Neumann J, 及びRobbins J. 「トランスジェニックマウスにおけるアルファミオシン重鎖遺伝子プロモーターの組織特異的制御(Tissue-specific regulation of the alpha-myosin heavy chain gene promoter in transgenic mice.)」, J Biol Chem 266:24613-24620, 1991.)、及び乳腺特異的プロモーター(例えば、乳漿プロモーター;米国特許第4,873,316号及び欧州特許公開第264,166号)。
【0072】
本発明は更に、本発明のDNA構築物を含む単離細胞を提供する。DNA構築物は、周知のトランスフェクション方法のいずれかによって、細胞に導入され得る(Sambrookらの文献、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 第二版, Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y. (1989);上記、Ausubelらの文献(1999))。あるいは、該細胞は、本明細書中に記載されているように作製された変異非ヒト哺乳動物から細胞を単離することによって得ることができる。従って、本発明は、本発明のQpct変異非ヒト哺乳動物、特にQpct変異マウスから単離去れた細胞を提供する。該細胞は、マウスなどの同型接合Qpct変異非ヒト哺乳動物、又はマウスなどの異型接合Qpct変異非ヒト哺乳動物から得ることができる。
【0073】
(エフェクター)
その用語が本明細書中に使われるように、エフェクターは、酵素に結合し、インビトロで及び/又はインビボでそれらの活性を増加(
【数1】
促進)又は減少(
【数2】
阻害)させる分子として定義される。いくつかの酵素は、それらの触媒活性に影響を及ぼす分子のための結合部位を有する;刺激分子は、活性化因子と呼ばれる。酵素は、2以上の活性化因子又は阻害剤を認識する複数のサイトを有することもできる。酵素は、様々な分子の濃度を検出することができ、それら自身の活性を変化させるその情報を使用することができる。
【0074】
酵素は活性及び不活性な配座を想定することができるので、エフェクターは酵素活性を調整することができる:活性化因子は正のエフェクターであり、阻害剤は負のエフェクターである。エフェクターは酵素の活性部位でだけでなく、調節部位又はアロステリック部位でも作用する(調節部位が触媒部位とは異なる酵素の要素であることを強調し、かつ調節のこの形態と、触媒部位での基質及び阻害剤の競合とを区別するように使用される用語)(Darnell, J., Lodish, H. and Baltimore, D. 1990, 「分子細胞生物学(Molecular Cell Biology)」, 第二版, Scientific American Books, New York, ページ63)。
【0075】
(ペプチド)
ペプチド又はアミノ酸が本発明に記載されている場合、各アミノ酸残基は、以下の従来のリストに従って、アミノ酸の慣用名に相当する1文字又は3文字表記によって表される:
【表1】
【0076】
(QC)
本明細書で用いられる用語「QC」又は「Qpct」は双方とも同じものを指し、グルタミニルシクラーゼ(QC)(すなわちグルタミニル-ペプチドシクロトランスフェラーゼ(EC 2.3.2.5.))及びQC-様酵素を含むことを意図する。QC及びQC-様酵素は、同一又は類似した酵素活性を有し、該活性はQC活性として更に定義される。これに関して、QC-様酵素は、基本的にそれらの分子構造がQCとは異なり得る。
【0077】
本明細書で用いられる「QC活性」という用語は、N末端グルタミン残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化、又はアンモニア遊離を受けて、N末端L-ホモグルタミン若しくはL-β-ホモグルタミンの環式ピロ-ホモグルタミン誘導体への分子内環化と定義される。スキーム1及び2を参照。
【化1】
【化2】
【0078】
本明細書中で使用される用語「EC」は、グルタメートシクラーゼ(EC)としてのQC及びQC-様酵素の副活性を含み、さらに該活性をEC活性と定義する。
【0079】
本明細書において使用される用語「EC活性」は、QCによるN-末端グルタミン酸残基のピログルタミン酸(pGlu*)への分子内環化として定義される。スキーム3を参照。
【0080】
本明細書で用いられる「金属依存性酵素」という用語は、それらの触媒機能を果たすために結合される金属イオンを必要とし、かつ/又は触媒的に活性な構造を形成するために結合される金属イオンを必要とする酵素として定義される。
【化3】
【0081】
本明細書で用いられる「Qpct関連疾患」という用語は、Qpctによって調節される全てのそれらの疾患、障害又は状態を指す。
【0082】
(治療薬のアッセイ及び同定)
本発明の方法及び組成物は、特にQpctのエフェクターの評価、及び軽度認識障害、アルツハイマー病、ダウン症の神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症などのアミロイド関連疾患の治療及び予防のための薬剤及び治療薬の開発の評価に有用である。
【0083】
本発明のトランスジェニック動物又はトランスジェニック動物の細胞は、様々なスクリーニングアッセイに使用されることができる。例えば、Qpct及びアミロイド蓄積に影響を及ぼす疑いのある様々な潜在的薬剤のいずれか、並びに、適当な拮抗剤及びブロッキング治療薬を、トランスジェニック動物に投与し、かつこれらの薬剤の作用を細胞の機能及び表現型について、及びトランスジェニック動物の(神経学的な)表現型について評価することによってスクリーニングすることができる。
【0084】
運動技術、学習及び記憶の障害を評価するように設計された行動研究などの研究を、潜在的治療薬を試験するために使用することもできる。この種の試験の例には、「モリスの水迷路(the Morris Water maze)」(Morris (1981) Learn Motivat 12:239-260)がある。さらに、行動研究は、例えば、ローターロッド及びオープンフィールドを有するなど、自発運動の評価を含むことができる。
【0085】
有利には、本発明の方法は、アミロイド蓄積を研究し、かつ潜在的治療化合物を試験するために、同型接合又は異型接合Qpct変異非ヒト哺乳動物から単離された細胞を使用することができる。本発明の方法は、トランスフェクトされた細胞株など、Qpctを発現する細胞を用いることもできる。
【0086】
Qpct過剰発現細胞は、Aβ関連疾患を治療するための潜在的治療薬としての化合物をスクリーニングするインビトロ方法に使用されることができる。この種の方法において、化合物を、Qpct過剰発現細胞、トランスフェクトされた細胞又はQpct変異非ヒト動物由来の細胞と接触し、Qpct発現と関連している表現型の変化をスクリーニングすることができる。細胞アッセイ及びトランスジェニック動物のAβ生産における変化は、当業者に周知の方法によって評価されることができる。
【0087】
Qpctの発現が蛍光強度によってモニターされることができるので、QpctなどのQpct融合ポリペプチドは、前記スクリーニング方法に特に役立ち得る。他の典型的な融合ポリペプチドは、他の蛍光タンパク質又はその修飾体、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質、及びポリHisなど、又は任意の型のエピトープタグを含む。例えば、このような融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドに特異的な抗体を用いて検出されることができる。融合ポリペプチドは、その機能部分が所望の特性、例えば、抗体結合活性又は蛍光活性を保持する限り、ポリペプチド全体又はその機能部分であることができる。
【0088】
本発明は更に、上記したように疾患の治療に使用される潜在的治療薬を同定する方法を提供する。該方法は、Qpctポリペプチドコード化ポリヌクレオチドを含むDNA構築物の含有細胞を、化合物と接触させる工程、細胞をQpct産生減少に関してスクリーニングする工程、それによって、Qpct関連疾患の治療に使用する潜在的治療薬を同定する工程を含む。該細胞は、Qpct DNA構築物を含む有核細胞を有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物から単離され得る。あるいは、該細胞は、緑色蛍光タンパク質融合又は他の融合ポリペプチドをQpctポリペプチドとともにコードしている核酸を含む、DNA構築物を含有することができる。
【0089】
さらに、Qpctポリペプチド発現細胞は、化合物を、Qpct発現と関連している表現型を変化させる活性を有する潜在的治療薬と同定するための予備スクリーニングに用いられることができる。Qpct変異非ヒト哺乳動物を用いるインビボスクリーニングと同様に、適当なコントロール細胞を、スクリーニング結果の比較のために使用することができる。必要に応じて、Qpct発現細胞を用いる最初のインビトロスクリーニングによって同定される化合物の有効性を、本発明のQpct変異非ヒト哺乳動物を用いて、インビボで更に試験することができる。従って、本発明は、細胞系アッセイ、例えばハイスループットスクリーニングを用いて、多数の化合物をスクリーニングする方法、並びにAβ関連障害の動物モデルにおいて、治療薬としての化合物を更に試験する方法を提供する。
【0090】
QCは、アミロイドβ-ペプチドの凝集を助長するピログルタミン酸の形成に関与している。従って、QCの抑制は、環化機構とは独立に、アルツハイマー病及びダウン症の発症及び進行を生じる、プラーク成形[pGlu3]Aβ3-40/42/43又は[pGlu11]Aβ11-40/42/43の沈殿の予防に通じる。
【0091】
グルタミン酸は、アミロイドβ-ペプチドの3、11及び22位に見い出せる。そのうちの22位でのグルタミン酸(E)からグルタミン(Q)への変異(アミロイド前駆体タンパク質APP770, Swissprot entry: P05067のアミノ酸693に相当する)は、いわゆるオランダ型脳動脈アミロイド症変異(Dutch type cerebroarterial amyloidosis mutation)と呼ばれている。
【0092】
3、11及び/又は22位にピログルタミン酸残基を有するβ-アミロイドペプチドは、Aβl-40/4243より細胞障害性及び疎水性であることが示されている(Saido T.C. 2000 Medical Hypotheses 54(3): 427-429)
【0093】
複数のN末端変化は、異なる部位でのβ-セクレターゼ酵素β-部位アミロイド前駆体タンパク質-切断酵素(BACE)によって(Huse J.T.らの文献. 2002 Biol. Chem. 277 (18): 16278-16284)、及び/又はアミノペプチダーゼ処理によって生じることができる。
【0094】
未知のグルタミルシクラーゼ(EC)によるGlu1-ペプチドのpGlu-ペプチドへの酵素変換を支持する実験証拠は存在していない(Garden, R. W., Moroz, T. P., Gleeson, J. M., Floyd, P. D., Li, L. J., Rubakhin, S. S.,及びSweedler, J. V. (1999) J Neurochem 72, 676-681; Hosoda R.らの文献. (1998) J Neuropathol Exp Neurol. 57, 1089-1095)。このような酵素活性、N-末端がプロトン化され且つ弱アルカリ性又は中性pH条件下で負に荷電するGlu1γ-カルボン酸部分を有するGlu1-ペプチドを環化可能な酵素活性は確認されていない。
【0095】
Gln1基質に対するQC活性は、pH 7.0未満で劇的に低下する。対照的に、Glu1-転換は酸性反応条件で起こるようである(例えば、Iwatsubo, T., Saido, T. C., Mann, D. M., Lee, V. M.,及びTrojanowski, J. Q. (1996) Am J Pathol 149, 1823-1830)。
【0096】
以前に、QCが弱酸性条件下でアミロイド-β誘導化ペプチドを認識及び変化することができるかどうかが調査された(WO 2004/098625)。従って、酵素の潜在的基質としてペプチド[Gln3]Aβ1-11a、Aβ3-11a、[Gln3]Aβ3-11a、Aβ3-21a、[Gln3]Aβ3-21a、及び[Gln3]Aβ3-40が合成及び調査された。これらの配列は、天然N-末端及びC-末端切断[Glu3]Aβペプチド及び翻訳後Glu-アミド化のため生じ得る[Gln3]Aβペプチドを模倣して選択された。
【0097】
パパイヤ及びヒトQCがグルタミニル及びグルタミル環化に触媒作用を及ぼすことが示された。明らかに、QCの主要生理学的機能は、ホルモン分泌プロセスに先立つ、又はその間の、グルタミン環化による内分泌細胞内のホルモン成熟を完成させることである。そのような分泌小胞は、酸性pHであることが知られている。従って、5.0〜7.0の狭いpH範囲において酵素副活性は、Glu-Aβペプチドも環化するその新たに発見されたグルタミルシクラーゼ活性である可能性がある。しかし、Gln転換に比べてGlu環化はかなり遅く起こるので、該グルタミル環化が有意義な生理的役割を果たすかどうかは、疑問の余地がある。しかしながら、神経変性疾患の病理においては、該グルタミル環化は関連性がある。
【0098】
この酵素の反応のpH依存性を調査することにより、非プロトン化N末端基がGln1-ペプチドの環化に必須であったこと、及びそれに応じて、基質のpKa-値がQC-触媒作用のpKa-値と同一であったことが示された。従って、QCは、γ-カルボニル炭素上の非プロトン化α-アミノ部分の分子内求核攻撃を安定させる。
【0099】
N末端グルタミンを含むペプチドに存在する一価の電荷とは対照的に、Glu含有ペプチドのN末端Glu-残基は、中性pHで主に二価の電荷である。グルタミン酸は、γ-カルボン酸及びα-アミノ部分についてそれぞれ約4.2及び7.5のpKa-値を示す。すなわち、中性pH以上でα-アミノ窒素は、一部又は完全に非プロトン化され、求核性であり、γ-カルボン酸基は非プロトン化され、結果、求電子性カルボニル活性を発揮しない。したがって、分子内環化反応は不可能である。
【0100】
しかし、それらの各pKa-値の間の約5.2〜6.5のpH範囲において、2つの官能基は、総N末端Glu含有ペプチドの約1-10%(-NH2)又は10-1%(-COOH)の濃度で、双方とも非イオン化型で存在する。結果として、弱酸性pH-範囲では、N末端Glu-ペプチド種は、双方の基が非荷電であり、従って、QCがpGlu-ペプチドへの分子内環化の中間体を安定化することがある。すなわち、γ-カルボン酸基がプロトン化される場合、カルボニル炭素は、非プロトン化α-アミノ基により求核攻撃されるのに十分に求電子性である。このpHでは、ヒドロキシルイオンは、脱離基として機能する。これらの仮定は、Glu-βNAのQC触媒変換のために得られたpH依存性データによって裏付けされる。QCによるGln-βNAのグルタミン変換とは対照的に、触媒作用のpH-最適条件は、約pH 6.0の酸性範囲、すなわち、基質分子種が、同時に豊富なプロトン化γ-カルボン酸基及び非プロトン化α-アミノ基を有するpH-範囲に変わる。さらに、7.55+/-0.02の動力学的に決定されたpKa-値は、滴定によって測定されたGlu-β3NAのα-アミノ基のもの(7.57±0.05)と優れた一致を示す。
【0101】
生理的に、pH 6.0でのQC触媒グルタミン酸環化の二次速度定数(又は特異性定数、kcat/KM)は、グルタミン環化のそれより1*105〜1*106倍遅い範囲であろう。しかし、モデル基質Glu-βNA及びGln-βNAの非酵素的変換はごくわずかであり、ごくわずかなpGlu-ペプチド形成の観測と一致する。それゆえ、QCによるpGlu形成において、酵素対非酵素の速度定数の比から、少なくとも108の促進を推定することができる(該酵素触媒の二次速度定数を、各非酵素環化反応の一次速度定数と比較すると、Gln変換、及びGlu変換における触媒有効係数(catalytic proficiency factor)は、各々109〜1010 M-1である。)。これらのデータからの結論は、pGlu形成をもたらす酵素経路が、インビボでのみあり得ると思われる。
【0102】
QCが脳で非常に豊富であり、0.9分-1の高変換速度を考慮することにより、近年、30μMの(Gln-)TRH様ペプチドの成熟が見い出されたので(Prokal, L., Prokai-Tatrai, K., Ouyang, X., Kim, H. S., Wu, W. M., Zharikova, A.,及びBodor, N. (1999) J Med Chem 42, 4563-4571)、類似の反応条件が設けられている場合、適当なグルタミン酸基質について約100時間の環化半減期を予測することができる。さらに、分泌経路における脳QC/ECの区画化及び局在化を考慮すると、実際のインビボ酵素及び基質濃度及び反応条件は、無傷細胞の酵素的環化において、なおさら好都合であり得る。そして、N末端GluがGlnに転換されている場合、QCにより媒介される迅速なpGlu形成が予想され得る。インビトロで、両方の反応は、QC/EC-活性の阻害剤を適用することによって抑制された。
【0103】
要約すると、脳内で非常に豊富であるヒトQCが、Glu-Aβ及びGln-Aβ前駆体からのアミロイド生成性pGlu-Aβペプチド形成の触媒である可能性が示された。それはアルツハイマー病で見出されるプラーク沈着物の50%以上を形成する。これらの見解は、QC/ECを、老人性プラーク形成のプレーヤーとして特定し、従って、アルツハイマー病の治療、ダウン症の神経変性、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症の新規薬剤標的として特定する。
【0104】
好ましい実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて、軽度認識障害、アルツハイマー病、ダウン症、家族性デンマーク型認知症及び家族性英国型認知症のpGlu-アミロイドペプチド形成の抑制のために選択される、QC及びEC活性減少性エフェクターの使用を提供する。
【0105】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて、消化管細胞増殖、特に胃粘膜細胞増殖、上皮細胞増殖、酸産生性壁細胞及びヒスタミン分泌性腸クロム親和性様(ECL)細胞の分化、及びECL細胞のヒスタミン合成及び貯蔵と関連している遺伝子の発現のために、並びに、活性[pGlul]-ガストリンの濃度を維持又は増加させることによる哺乳動物の急性酸分泌の刺激のために選択される、QC活性増加性エフェクターの使用を提供する。
【0106】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて、不活性[Gln1]ガストリンの活性[pGlul]ガストリンへの変換速度を減少させることによって、哺乳動物のヘリコバクターピロリを伴う又は伴わない十二指腸潰瘍疾患及び胃癌の治療のために選択される、QC活性減少性エフェクターの使用を提供する。
【0107】
ニューロテンシン(NT)は、統合失調症において誤調節されることが以前に明らかにされた、神経伝達物質系を特異的に変調する統合失調症の病態生理に関与した神経ペプチドである。脳脊髄液(CSF) NT濃度が測定された臨床研究は、有効な抗精神病薬治療によって回復する、減少したCSF NT濃度を有する精神分裂症患者のサブセットを示した。抗精神病薬の作用機序におけるNTシステムの関与と調和した考えられ得る証拠も存在する。中心的に投与されたNTの行動及び生化学影響は、全身的に投与された抗精神病薬のものによく似ていて、抗精神病薬はNT神経刺激伝達を増加させる。この見解の結びつけは、NTが内在性抗精神病薬として機能するという仮説に繋がる。更に典型又は非典型抗精神病薬は、黒質線条体及び中脳辺縁系ドーパミン末端領域におけるNT神経伝達を示差的に変更し、かつこれらの作用は、各々の副作用の易罹病性及び有効性を予測する(Binder, E.B.らの論文、2001 Biol Psychiatry 50 856-872)。
【0108】
別の実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、抗精神病薬の調製及び/又は哺乳動物の統合失調症治療のためのQC活性増加エフェクターの使用を提供する。QCのエフェクターは、活性[pGlul]ニューロテンシンの濃度を維持又は増加させる。
【0109】
受精促進ペプチド(FPP)は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)に関連したトリペプチドであり、これは精漿中に認められる。最近、インビトロ及びインビボにおいて得られた証拠は、FPPは、精子受精能の調節において重要な役割を果たすことを示した。詳細には、FPPは最初に、受精していない(受精能未獲得の)精子を「スイッチを入れる」よう刺激し、より迅速に受精するようにするが、次に受精能獲得を停止し、その結果精子は、自然誘発的な先体の喪失を受けず、従って受精能を失わない。これらの反応は、アデニリルシクラーゼ(AC)/cAMPシグナル伝達経路を調節することがわかっているアデノシンにより模倣され及び事実上増強される。FPP及びアデノシンの両方は、受精能未獲得の細胞においてcAMP生成を刺激するが、受精能獲得細胞においてはこれを阻害することが示されており、FPP受容体は何らかの形でアデノシン受容体及びGタンパク質と相互作用し、ACの調節を実現している。これらの事象は、一部は最初の「スイッチを入れる」際に重要であり、他は恐らく先体反応それ自身に関与しているような、様々なタンパク質のチロシンリン酸化状態に影響を及ぼす。カルシトニン及びアンジオテンシンIIも精漿中に認められるが、これらはインビトロにおいて受精能未獲得の精子に対し類似した作用を有し、かつFPPに対する反応を増強することができる。これらの分子は、インビボにおいて同様の作用を有し、受精能を刺激しかつその後維持することにより、受精率に影響を及ぼす。FPP、アデノシン、カルシトニン、及びアンジオテンシンIIの利用可能性の低下又はそれらの受容体の欠損のいずれかが、雄の不妊症に寄与している(Fraser, L. R.及びAdeoya-Osiguwa, S. A.の論文、2001 Vitam Horm 63, 1-28)。
【0110】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、受精抑制薬剤の調製及び/又は哺乳動物の受精能を低下させるためのQC活性低下エフェクターの使用を提供する。QC活性低下エフェクターは、活性[pGlu1]FPPの濃度を低下させ、受精能獲得の防止及び精子細胞の失活を導く。対照的に、QC活性増加エフェクターは、雄の受精能を刺激して、不妊性を治療することができる可能性が示された。
【0111】
別の実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、病態生理学的状態、例えば骨髄前駆細胞の増殖の抑制、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、悪性転移、黒色腫、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、移植片拒絶、後天性免疫不全症候群、体液性及び細胞性免疫反応障害、白血球接着及び内皮における転位プロセスの、治療用医薬の調製のためのQCエフェクターの使用を提供する。
【0112】
さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルを用いて選択される、摂食障害及び睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害及び体液の調節障害の治療用医薬の調製のためのQCエフェクターの使用を提供する。
【0113】
いくつかのタンパク質のポリグルタミン発現は、ハンチントン病、パーキンソン病及びケネディ病などの神経変性障害を導く。従って、その機序は、大部分未知のままである。ポリグルタミン繰り返しの生化学的性質は、1つの考えられる解釈を示唆する:グルタミニル-グルタミニル結合の内因性溶解開裂(endolytic cleavage)、続くピログルタミン酸形成は、ポリグルタミニルタンパク質の異化作用の安定性、疎水性、アミロイド形成性及び神経毒性の増大による病因に関与し得る(Saido, T.C.; Med Hypotheses (2000) Mar; 54(3):427-9).
【0114】
従って、さらなる実施態様において、本発明は、本発明の動物モデルで選択される、パーキンソン病及びハンチントン病の治療用医薬の調製のための、QCエフェクターの使用を提供する。
【0115】
別の実施態様において、本発明は、上記で選択された試験薬剤を用いて、QCの酵素活性を低下又は阻害する一般的方法を提供する。
【0116】
哺乳動物QCの阻害は、最初に1,10-フェナントロリンに関してのみ検出され、6-メチルプテリンを低下させる(Busby, W. H. J.らの文献. 1987 J Biol Chem 262, 8532-8536)。EDTAは、QCを阻害しなかった、従って、QCは金属依存性酵素でないと結論された(Busby, W. H. J.らの文献, 1987 J Biol Chem 262, 8532-8536, Bateman, R.C.J.らの文献. 2001 Biochemistry 40, 11246-11250, Booth, R.E.らの文献. 2004 BMC Biology 2)。しかし、1,10-フェナントロリン、ジピコリン酸、8-ヒドロキシ-キノリン及び他のキレート剤によるQCの阻害特性、及び遷移金属イオンによるQCの再活性化によって示されるように、ヒトQC及び他の動物のQCは金属依存性酵素であることが示された。最終的に、この金属依存性は、他の金属依存性酵素と配列比較することによって説明され、ヒトQCのキレートアミノ酸残基の保護を示している。活性部位に結合した金属イオンとの化合物の相互作用は、QC活性を低下又は阻害する一般的方法を表す。
【0117】
哺乳動物のQC、特にヒト若しくはマウスQC又はパパイヤQCは、上記のスクリーニング方法の使用に好ましい。これらのスクリーニング方法によって同定されるエフェクターは、哺乳動物、特にヒトの疾患の治療に使用されるので、哺乳動物のQCが特に好ましい。
【0118】
Qpctのイソ酵素をコードする、非ヒトトランスジェニック動物も好ましい。
【0119】
グルタミニルシクラーゼに対して有意な配列類似性を有するこれらのイソ酵素は、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト由来(更に、ヒトisoQCとして命名される)(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス由来(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル由来(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル由来(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ由来(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット由来(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ由来(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体由来のタンパク質(Qpctl)である。
【0120】
これらの配列を、配列番号15〜25に示す。これらのタンパク質をコードする核酸配列を、更に開示する(配列番号26〜36)。
【0121】
本発明では、配列番号15〜17、24及び25に示される、イソ型及びスプライス形態を含むヒトQpctl;ラット(配列番号21)、及びマウス(配列番号22)からなる群から選択されるQpctlが好ましい。
【0122】
本発明にとってより好ましくは、配列番号15〜17に示されるイソ型を含むヒトQpctl;及びマウス(配列番号:22)からなる群から選択されるQpctlである。
【0123】
本発明に最も好ましくは、ヒト(配列番号15)及びマウス(配列番号22)からなる群から選択されるQpctlある。
【0124】
この点に関して、特定の引例は、Qpct-イソ酵素の特定の更なる開示のためのUS 60/846,244である。この出願は、本願明細書に引用により取り込まれる。
【0125】
上記のスクリーニング方法によって選択される薬剤は、QCの少なくとも一つの基質の変換を減少させることにより(負のエフェクター、阻害剤)、又はQCの少なくとも一つの基質の変換を増加させることにより(正のエフェクター、活性化因子)、機能することができる。
【0126】
本発明の化合物は、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換され得る。
【0127】
本発明の化合物の塩は、無機塩又は有機塩の形態であることができる。
【0128】
本発明の化合物を、酸付加塩、特に医薬として許容し得る酸付加塩に変換し、使用することができる。医薬として許容し得る塩は、一般に、塩基性側鎖が無機又は有機酸によってプロトン化されている形態をとる。代表的な有機酸又は無機酸には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、サリチル酸、サッカリン酸、又はトリフルオロ酢酸を含む。本発明の化合物の医薬として許容し得る酸付加塩形態の全ては、本発明の範囲に包含されることが意図されている。
【0129】
遊離化合物とそれらの塩形態の化合物との間には密接な関係があるので、ある化合物をこの文脈で言及する場合、そのような塩がその状況下で考え得るか又は適切であるなら、対応する塩をも意図されている。
【0130】
本発明の化合物が少なくとも1個のキラル中心を有する場合、これらはそれに応じてエナンチオマーとして存在することができる。本化合物が2個以上のキラル中心を有する場合、これらはさらにジアステレオマーとして存在することができる。全てのそのような異性体及びそれらの混合物は、本発明の範囲内に包含されることが理解されるであろう。更に、本化合物の幾つかの結晶形は、多形体として存在してよく、そのようなものが、本発明に包含されることが意図されている。加えて、本化合物の幾つかは、水(すなわち水和物)又は一般的有機溶媒と溶媒和物を形成することができ、そのような溶媒和物も、本発明の範囲内に包含されることが意図されている。
【0131】
それらの塩を含む本化合物はまた、それらの水和物の形態で得られるか、又はそれらの結晶化に使用された他の溶媒を含むことができる。
【0132】
さらなる実施態様において、本発明は、QC酵素活性の変調によって媒介される状態を予防又は治療する方法であって、その必要がある対象に、本発明の化合物のいずれか又はその医薬組成物を、該状態を治療するのに治療的に有効な量及び投与計画で投与することを含む、前記方法を提供する。さらに、本発明は、QC活性の変調によって媒介される状態の予防又は治療用医薬の調製のために、本発明の化合物及びそれらの対応する医薬として許容し得る酸付加塩形態の使用を含む。該化合物を、従来の任意の投与経路、制限されないが静脈内、経口、皮下、筋肉内、皮内、非経口、及びそれらの組み合わせによって患者に投与することができる。
【0133】
実施の更に好ましい形態において、本発明は、少なくとも1種の本発明の化合物又はその塩を1種以上の医薬として許容し得る担体及び/又は溶媒と任意に組み合わせて含む、医薬組成物、すなわち医薬に関する。
【0134】
医薬組成物は、例えば、非経口又は腸溶性製剤の形態とし、適当な担体を含むことができるか、又は医薬組成物は、経口投与に適切な適当な担体を含むことができる経口製剤の形態とすることができる。好ましくは、医薬組成物は、経口製剤の形態である。
【0135】
本発明により投与されるQC活性のエフェクターは、哺乳動物のQCタンパク質濃度を低下させるタンパク質又はそれらの酵素タンパク質の抗体を結合する、阻害剤として又は阻害剤、基質、偽基質、QC発現の阻害剤と組み合わせて、薬学的に投与可能な製剤又は製剤複合物中に使用されることができる。本発明の化合物は、治療を患者及び疾患に個別に適合させることができ、特に個々の不耐性、アレルギー及び副作用を回避することが可能である。
【0136】
また該化合物は、活性の程度が時間の関数として異なることを示す。したがって、医師が提供する治療は、患者の個々の状況に異なって応じる機会を与えられる:医師は、正確に調整することができ、一方では、作用の発生速度、一方では、作用の期間、特に作用の強度を調整することが可能である。
【0137】
本発明の好ましい治療方法は、哺乳動物のQC酵素活性の変調によって媒介される状態の予防又は治療のための新しいアプローチを表す。単純であり、商業的適用が可能であり、かつ哺乳動物、特にヒトにおいて、薬剤の生理的活性QC基質のアンバランスな濃度に基づく疾患の治療における使用に適するという利点がある。
【0138】
有利には、該化合物は、例えば、先行技術から公知の希釈液、賦形剤及び/又は担体のような慣習的な添加剤と組み合わせて活性成分を含む医薬品の形態で投与されることができる。例えば、それらは、非経口的に(例えば生理的食塩水で静脈内に)、又は経腸的に(例えば、慣習的な担体を用いて製剤化されたもので経口的に)投与されることができる。
【0139】
それらの内在的安定性及びそれらの生物学的利用能に応じて、一以上の該化合物の投与量は、1日当たり血中グルコース値の所望の正常化を成し遂げるように与えられることができる。例えば、ヒトへの投与量範囲は、1日当たり約0.01mg〜250.0mgの範囲、好ましくは体重1kg当たり化合物約0.01〜100mgの範囲とすることができる。
【0140】
哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、軽度認識障害、アルツハイマー病、ダウン症、家族性デンマーク型認知症、家族性英国型認知症、ハンチントン病、ヘリコバクターピロリ感染を伴う又は伴わない潰瘍疾患及び胃癌、病原性精神病性状態、統合失調症、不妊性、新生物形成、炎症性宿主反応、癌、乾癬、関節リュウマチ、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、肺線維症、肝臓線維症、腎臓線維症、移植片拒絶、後天性免疫不全症候群、体液性及び細胞性免疫反応障害、内皮内の白血球接着及び遊走プロセス、摂食障害、睡眠覚醒、エネルギー代謝の恒常性制御障害、自律神経機能障害、ホルモン平衡障害及び体液の調節障害から選択される状態を、予防又は緩和又は治療することが可能である。
【0141】
更に、哺乳動物にQC活性のエフェクターを投与することによって、消化管細胞増殖、特に胃粘膜細胞増殖、上皮細胞増殖、酸産生性壁細胞及びヒスタミン分泌性腸クロム親和性様(ECL)細胞の急性酸分泌及び分化を刺激することが可能である。
【0142】
さらに、哺乳動物へのQC阻害剤の投与は、精子機能を損失させ、よって雄の受精能を抑制することができる。従って、本発明は、雄の受精能の調節及び制御の方法、及び避妊医薬の調製のためのQC活性低下エフェクターの使用を提供する。
【0143】
さらに、哺乳動物にQC活性エフェクターを投与することによって、骨髄前駆細胞の増殖を抑制することが可能である。
【0144】
本発明に使用される化合物を、それ自体公知の方法で、不活性な無毒性の医薬として適切な担体及び添加剤又は溶媒を用いて、従来の製剤、例えば、錠剤、カプセル、糖衣錠、ピル、坐薬、顆粒剤、エアロゾル、シロップ、液体、固体及びクリーム状エマルジョン及び懸濁液及び溶液に変換することができる。それらの製剤の各々において、治療的に有効な化合物は、好ましくは全混合物の約0.1〜80重量%、より好ましくは約1〜50重量%の濃度、すなわち得られるべき前述の投与量範囲に十分な量で存在する。
【0145】
物質を、糖衣錠、カプセル、ビタブルカプセル(bitable capsules)、錠剤、ドロップ、シロップの形態で医薬として、又は坐薬として若しくは鼻腔用スプレーとして使用することができる。
【0146】
製剤は、例えば、任意に乳化剤及び/又は分散剤を用いて、溶媒及び/又は担体で活性成分を希釈することによって調製することができる。例えば、水を希釈剤として用いる場合、有機溶媒を補助溶媒として任意に使用することができる。
【0147】
本発明に関連して有用な賦形剤の例は、以下のものを含む:水、無毒の有機溶媒、例えば、パラフィン(例えば、天然油留分)、植物油(例えば、なたね油、落花生油、ゴマ油)、アルコール(例えば、エチルアルコール、グリセロール)、グリコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)など;固体担体、例えば、天然粉末状ミネラル(例えば、高度に分散したシリカ、ケイ酸塩)、糖(例えば、粗糖、ラクトース及びブドウ糖);乳化剤、例えば、非イオン性及びアニオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル、スルホン酸アルキル及びアリールスルホナート)、分散剤(例えば、リグニン、亜硫酸蒸留液、メチルセルロース、デンプン及びポリビニルピロリドン)、及び潤滑油(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ステアリン酸及びラウリル硫酸ナトリウム)、及び任意に香料である。
【0148】
投与は、通常の方法、好ましくは経腸的又は非経口的、特に経口的に行うことができる。経腸的投与の場合、錠剤は、前述の担体に加えて、デンプン、好ましくはジャガイモデンプン、ゼラチンなどの様々な添加剤と共に、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウムなどの更なる添加剤を含有することができる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及び滑石などの潤滑油を、錠剤にするために、付随して用いることができる。経口投与を目的とする水性懸濁剤及び/又はエリキシルの場合、様々な味覚矯正剤又は着色剤を、上述の賦形剤に加えて活性成分に加えることができる。
【0149】
非経口投与の場合、適切な液体担体を用いて活性成分の溶液を使用することができる。一般に、静脈内投与の場合、有効な結果を得るのに1日当たり体重の約0.01〜2.0mg/kgの量、好ましくは約0.01〜1.0mg/kgの投与が有利であり、経腸的投与の場合、投与量は1日当たり体重の約0.01〜2mg/kg、好ましくは約0.01〜1mg/kgである。
【0150】
場合によっては、実験動物又は患者の体重に応じて又は投与経路の種類に応じて、また動物種及び個人の薬剤に対する応答又は投与が行われる間隔に基づいて、規定量から外れた量が必要な場合がある。したがって、場合によって、上述の最小量より少ない量で十分であってもよく、一方、他の場合によっては、前述の上限を超える量にしなければならない。比較的多い量が投与される場合、その量を1日に渡って数回の単回投与量に分けることが望ましい。ヒトの薬剤の投与のために、同じ投与量範囲が提供される。上記の見解は、その場合において同じように適用する。
【0151】
医薬組成物の例に関して、特定の引例は、WO 2004/098625、50-52ページの例である。それはその全体において本願明細書に引用により取り込まれている。
【0152】
上記の開示は、一般に本発明を記載する。より完全な理解は、以下の実施例を参照することで得ることができる。これらの実施例は、説明のためだけに記載されるものであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。特定の用語が本明細書中に使用されるが、そのような用語は記述的な意義を意図しており、限定のためでない。
【実施例】
【0153】
(参照実施例1:ヒト及びPapaya QCの調製)
(宿主株及び媒体)
Pichia pastoris株X33(AOX1、AOX2)を、ヒトQCの発現のために使用し、培養し、形質転換し、製造業者の説明書(Invitrogen)に従って分析した。P. pastorisに必要な媒体、すなわち緩衝グリセロール(BMGY)複合媒体又はメタノール(BMMY)複合媒体、及び発酵基礎塩類媒体(fermentation basal salts medium)を製造業者の推奨手順に従って調製した。
【0154】
(ヒトQCをコードするプラスミドベクターの分子クローニング)
全てのクローニング手順は、標準的な分子生物学的技術を適用した。酵母の発現のために、ベクターpPICZαB(Invitrogen)を使用した。E.コリにおいてヒトQCを発現するために、pQE-31ベクター(Qiagen)を用いた。コドン38から始まる成熟QCのcDNAを、6xヒスチジンタグをコードするプラスミドを用いてインフレームで融合した。プライマーpQCyc-1及びpQCyc-2(WO 2004/098625)及びサブクローニングを利用して増幅後、断片を、SphI及びHindIIIの制限部位を利用している発現ベクターに挿入した。
【0155】
(P. pastorisの形質転換及び小スケール発現)
プラスミドDNAを、E.コリJM109において増幅し、製造業者(Qiagen)の推奨手順に従って精製した。使用する発現プラスミド(pPICZαB)において、直線化のために3つの制限部位を提供する。SacI及びBstXIがQC cDNA内を切るので、PmeIを直線化のために選択した。20〜30μgのプラスミドDNAをPmeIで直線化し、エタノールで沈殿させ、無菌の脱イオン水に溶解した。続いて10μgのDNAを、製造業者の説明書(BioRad)に従って、電気穿孔法により形質転換受容性P. pastoris細胞の形質転換に適用した。150μg/ml Zeocinを含むプレートを選択した。線形化プラスミドを用いる1つの形質変換から、数百の形質転換体を得た。
【0156】
組換え酵母クローンをQC発現に関して試験するため、組換え体を、2mlのBMGYを含む10mlコニカルチューブ中で24時間成長させた。その後、酵母を遠心分離し、0.5%のメタノールを含む2mlのBMMY中に再懸濁した。24時間〜72時間毎に、メタノールを添加してこの濃度を維持した。その後、上清のQC活性を測定した。融合タンパク質の存在は、6xヒスチジンタグ(Qiagen)に対する抗体を用いて、ウェスタンブロット解析によって確認した。最も高いQC活性を示したクローンを、追実験及び発酵のために選択した。
【0157】
(発酵槽中での大規模スケール発現)
基本的に「Pichia属発酵プロセスガイドライン(Pichia fermentation process guidelines)」(Invitrogen)に説明されているように、QCの発現を、5Lの反応器(Biostat B, B. Braun biotech)中で行った。簡潔には、細胞を、トレース塩類及び唯一の炭素源としてのグリセロールで補充された発酵基礎塩類媒体(pH 5.5)中で成長させた。最初のバッチ相約24時間及び次の供給されたバッチ相約5時間の間に、細胞塊が蓄積された。細胞湿重量が200 g/lになってすぐに、QC発現の誘発を、メタノールで、約60時間の全発酵時間に対して3段階の供給プロファイルを適用して行った。その後、6000xg, 4℃で15分間の遠心によって、QC含有上清から細胞を除去した。NaOHを添加して、pHを6.8に調節し、得られた懸濁溶液を、37000xg, 4℃で40分間、再び遠心分離した。濁りが持続する場合、セルロース膜(孔幅0.45μm)を用いる濾過工程を追加した。
【0158】
(P. pastorisにおいて発現される6xヒスチジンタグ化QCの精製)
最初に、Hisタグ化QCを固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した。通常の精製において、1000mlの培養上清を、750mMのNaClを含む50mMリン酸緩衝液pH 6.8で平衡化されたNi2+充填キレートセファロースFFカラム(1.6 x 20 cm, Pharmacia)に5ml/分の流速で通した。10カラム体積の平衡化緩衝液及び5カラム体積の5mMヒスチジン含有平衡化緩衝液で洗浄した後、150mMのNaCl及び100mMヒスチジンを含む50mMリン酸緩衝液pH 6.8に変え、結合されたタンパク質を溶出した。得られた溶出液を、20mMのBis-トリス/HCl(pH 6.8)に対して、4℃で一晩透析した。その後、QCを、陰イオン交換クロマトグラフィー、透析緩衝液で平衡化されたMomo Q6カラム(BioRad)で更に精製した。そのQC含有画分を、4ml/分の流速を用いて、カラムにかけた。その後、カラムを、100mMのNaClを含む平衡化緩衝液で洗浄した。溶出は、それぞれ、30又は5カラム体積の240mM及び360mM NaCl含有平衡化緩衝液で得られる2つの勾配を用いて行った。6mlの画分を回収し、純度をSDS-PAGEで分析した。同種のQCを含む画分をプールし、限外ろ過によって濃縮した。長期間保存(−20℃)のために、グリセロールを、最終濃度50%になるように加えた。タンパク質は、Bradford又はGill及びvon Hippelの方法に従って定量化した(Bradford, M. M. 1976 Anal Biochem 72, 248-254; Gill, S.C.及びvon Hippel, P.H. 1989 Anal Biochem 182, 319-326.)。
【0159】
(E.コリ中のQCの発現及び精製)
QCをコードする構築物を、M15細胞(Qiagen)に形質転換し、選択的LB寒天プレート37℃で成長させた。タンパク質発現は、1%グルコース及び1%エタノールを含むLB媒体中で行った。培養が約0.8のOD600に達した時、0.1 mM IPTGによって発現を一晩誘発させた。1サイクルの凍結解凍後、細胞を、4℃で、300mMのNaClを含む50mMリン酸緩衝液(pH 8.0)に2.5mg/mlのリゾチームを添加することによって溶解した。その溶液を、約30分間の2mMのヒスチジンは37000xg, 4℃で30分間、遠心によって透明にし、続いてガラスフリットを用いて濾過(DNA分離)し、粗沈殿物及び微細沈殿物のためにセルロースフィルターを用いて2回、追加的に濾過した。上清(約500ml)を、1ml/分の流速で、Ni2+アフィニティーカラム(1.6×20cm)にかけた。QCの溶出は、150mMのNaCl及び100mMヒスチジンを含む50mMリン酸緩衝液で行った。QC含有分画を、限外ろ過によって濃縮した。
【0160】
(パパイヤ・ラテックス由来QCの精製)
パパイヤ・ラテックス由来QCは、以前に報告された方法(Zerhouni, S.らの文献. 1989 Biochim Biophys Acta 138, 275-290)の改良版を用いるBioCAD 700E(Perseptive Biosystems, Wiesbaden, Germany)で調製した。それに記載されているように、50gのラテックスを水に溶解し、遠心分離した。プロテアーゼの不活性化は、S-メチルメタンチオスルホン酸塩を用いて行い、得られた粗抽出液を透析した。透析の後、全ての上清を、100mM酢酸ナトリウム緩衝液pH 5.0で平衡化されたSPセファロースFast Flowカラムに流速3ml/分でかけた(21X2.5 cm i.d.)溶出は、2ml/分の流速で、酢酸ナトリウム緩衝液濃度を増加させることによって、3段階で行った。第1段階は、0.5カラム体積の0.1〜0.5M酢酸緩衝液の線形勾配とした。第2段階は、4カラム体積の0.5〜0.68M緩衝液濃度の線形増加とした。最後の溶出段階の間は、1カラム体積の0.85M緩衝液を適用した。最も高い酵素活性を含む画分(6ml)をプールした。0.02Mトリス/HCl pH 8.0への濃度及び緩衝液変化は、限外ろ過を介して行った(Amicon; 膜10kDaの分子量切捨て)。
【0161】
硫酸アンモニウムを、イオン交換クロマトグラフィー工程から得られた濃縮パパイヤ酵素に最終濃度2Mになるように加えた。この溶液を、2Mの硫酸アンモニウム, 0,02 Mトリス/HCl, pH 8.0で平衡化した、(21X2.5 cm i.d.)ブチルセファロース4 Fast Flowカラムにかけた(流速1.3ml/分)。溶出を、硫酸アンモニウムの濃度を減少させて3段階で行った。第1段階の間では、2〜0.6Mの硫酸アンモニウム, 0.02Mのトリス/HCl, pH 8.0の線形勾配を、1.3ml/分、0.5カラム体積で適用した。第2段階は、0.6〜0Mの硫酸アンモニウム, 0.02Mトリス/HCl, pH 8.0の線形勾配、流速1.5ml/分、5カラム体積とした。最後の溶出段階は、pH 8.0で0.02Mトリス/HCl、流速1.5ml/分、2カラム体積を適用することにより行った。QC活性を含む全ての画分をプールし、限外ろ過によって濃縮した。得られた同種のQCを−70℃で保存した。最終タンパク質濃度を、ブラッドフォード法を用いて、ウシ血清アルブミンによって得られた検量線と比較することにより測定した。
【0162】
ヒトQpctのcDNA配列を配列番号12に示す。そのタンパク質配列を配列番号13に示す。
【0163】
(参照実施例2:グルタミニルシクラーゼ活性の評価)
(蛍光分析評価法)
マイクロプレート用のBioAssay Reader HTS-7000Plus (Perkin Eimer)又はNovoStar (BMG Labtechnologies)リーダーを用いて、30℃で測定を行った。QC活性は、H-Gln-βNAを用いて蛍光分析で評価した。サンプルは、0.2mMの蛍光発生基質、20mMのEDTAを含む0.2Mトリス/HCl pH 8.0中の0.25Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Unizyme, Horsholm, Denmark)、及びQCの適切に希釈されたアリコートから最終体積250μlで構成した。励起/発光波長は320/410nmとした。評価反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性は、評価法条件下のβ-ナフチルアミンの検量線から測定した。1単位は、前記条件下、1分当たりH-Gln-βNAから1μmolのpGlu-βNAの形成を触媒するQCの量として定義する。
【0164】
第2の蛍光分析評価法において、QC活性を、基質としてH-Gln-AMCを用いて測定した。反応は、30℃で、マイクロプレート用NOVOStarリーダー(BMG labtechnologies)を利用して行った。サンプルは、様々な濃度の蛍光発生基質、5mMのEDTAを含む0.05Mトリス/HCl, pH 8.0中の0.1Uピログルタミルアミノペプチダーゼ(Qiagen)、及びQCの適切に希釈されたアリコートから最終体積250μlで構成した。励起/発光波長は380/460nmとした。評価反応は、グルタミニルシクラーゼの添加により開始した。QC活性を、評価条件下、7-アミノ-4-メチルクマリンの検量線から測定した。速度データを、GraFitソフトウェアを用いて評価した。
【0165】
(QCの分光光度的評価法)
この新規評価法を、ほとんどのQC基質に対して、速度パラメーターを測定するために使用した。QC活性を、連続的な方法を用いて、分光光度的に分析した。該方法は、補助的な酵素としてグルタメートデヒドロゲナーゼを利用する、以前の非連続的評価法(Batemanの論文、R.C.J.1989 J Neurosci Methods 30、23-28)を適合させることにより得られた。サンプルは、それぞれのQC基質、0.3mMのNADH、14mMα-ケトグルタル酸、及び30 U/mlグルタミン酸デヒドロゲナーゼから最終体積250μlで構成した。QCの添加によって反応を開始し、8〜15分間、340nmの吸光度の低下をモニタリングすることによって追跡した。
【0166】
初期速度を評価し、かつ酵素活性を、評価条件下のアンモニアの検量線から測定した。すべてのサンプルは、マイクロプレート用のSPECTRAFIuor Plus又はSunrise(双方ともTECAN)リーダーを用いて30℃で測定した。速度データを、GraFitソフトウェアを用いて評価した。
【0167】
(阻害剤アッセイ)
阻害剤試験に関して、加えられる推定上の阻害性化合物を除いて、サンプル組成は、上記と同じとした。QC-阻害の迅速試験のために、サンプルに、4 mMのそれぞれの阻害剤、及び1KMでの基質濃度を含ませた。該阻害の詳細な調査、及びKi-値の測定のために、初めに、補助的な酵素の阻害剤の影響を調査した。全ての場合において、検出された酵素の影響はなかった。従って、QC阻害の信頼できる測定が可能である。該阻害定数を、GraFitソフトウェアを用いて、一連のプログレス曲線と、競合阻害の一般的な式とを一致させることにより評価した。
【0168】
(参照実施例3:MALDI-TOF質量分析)
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析を、飛行線形時間分析計を備えたHewlett-Packard G2025 LD-TOFシステムを用いて行った。該機器は、337 nm窒素レーザー、電位加速源(5 kV)、及び1.0 mの飛行管を備えた。検出操作は、正イオンモードであり、かつシグナルを、パーソナルコンピューターに接続したLeCroy 9350Mデジタルストレージオシロスコープを用いて記録し、かつフィルターに通した。サンプル(5μl)を、等量のマトリックス溶液と混合した。マトリックス溶液に関して、本発明者らは、水(1/1, v/v)、1mlのアセトニトリル/0.1%TFA中、30mgの2',6'-ジヒドロキシアセトフェノン(Aldrich)及び44mgのクエン酸二アンモニウム(Fluka)を溶解することによって調製されたDHAP/DAHCを使用した。少量(≒1μl)のマトリックス-検体-混合物をプローブチップに移し、迅速かつ均一なサンプル結晶化を確実にするために、直ちに減圧チャンバー(Hewlett-Packard G2024A サンプル調製付属品)中で蒸発させた。
【0169】
Glu1-環化の長期試験のために、Aβ-誘導ペプチドを、100μlの0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.2)又は0.1Mビス-トリス緩衝液(pH 6.5)中、30℃でインキュベートした。ペプチドを、0.5mM[Aβ3-11a]又は0.15mM[Aβ3-21a]の濃度で適用し、0.2UのQCを全24時間加えた。Aβ3-21aの場合には、アッセイは、1%のDMSOを含んだ。異なる時間でサンプルを分析管から取り出し、ペプチドを製造業者の推奨手順に従ってZipTips(Millipore)を用いて抽出し、マトリックス溶液(1:1 v/v)と混合し、その後質量スペクトルを記録した。ネガティブコントロールは、QCも熱不活性化酵素も含まなかった。阻害剤の研究に関して、サンプル組成物は、添加される阻害性化合物を除き、前述のものと同様である(5 mM ベンゾイミダゾール、又は2 mM 1,10-フェナントロリン)。
【0170】
(参照実施例4:マウスQpct)
マウスQpctは、マウスインスリノーマ細胞株β-TC 3から、推定上のマウスQC cDNAに由来したプライマーを用いるRT-PCRによって単離された。それは、エントリーAK017598としてヌクレオチドデータベースに寄託されており、ベクターpPCR Script CAM SK(+)にサブクローン化されたものである(Schilling S.らの文献.; Biochemistry 44(40) 13415-13424)。下記実施例に用いられているマウスQpctは、構造物、すなわち遺伝子カセット(配列番号9)に含まれる;そのアミノ酸配列を配列番号10に示す。
【0171】
(マウスQCのクローニング)
mQCのオープンリーディングフレームの単離のためのプライマーは、推定上のmQCをコードしているPubMedヌクレオチドエントリーAK017598を用いて設計した。プライマー配列は、以下の通りであった:
センス
【化4】
アンチセンス
【化5】
全RNAは、マウスインスリノーマ細胞株β-TC 3細胞から、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて単離し、SuperScriptII(Invitrogen)によって逆転写した。その後、mQC cDNAを、Herculase強化DNA-ポリメラーゼ(Herculase Enhanced DNA-Polymerase)(Stratagene)を用いて、50μl反応において1:12.5希釈の生成物で増幅し、PCR Script CAMクローニングベクター(Stratagene)に挿入し、かつ配列決定により検証した。成熟mQCをコードするcDNA断片を、プライマー
【化6】
(XhoI, センス)及び
【化7】
(XbaI, アンチセンス)を用いて増幅した。消化された断片をベクターpPICZαBに連結し、E.コリ中で増幅し、センス及びアンチセンス鎖の配列決定によって検査した。最後に、発現プラスミドを、PmeIを用いて線形化し、沈殿させ、−20℃で保存した。
【0172】
(P. pastorisの形質転換及びマウスQCの小規模スケール発現)
1〜2μgのプラスミドDNAを、製造業者の説明書(BioRad)に従って、電気穿孔法により形質転換受容性P. pastoris細胞の形質転換に適用した。100μg/ml Zeocinを含むプレートを選択した。組換え酵母クローンをQC発現に関して試験するため、組換え体を、2mlのBMGYを含む10mlコニカルチューブ中で24時間成長させた。その後、酵母を遠心分離し、0.5%のメタノールを含む2mlのBMMY中に再懸濁した。24時間〜72時間毎に、メタノールを添加してこの濃度を維持した。その後、上清のQC活性を測定した。最も高い活性を示したクローンを、追実験及び発酵のために選択した。
【0173】
(マウスQCの大規模スケール発現及び精製)
mQCの発現は、5L反応器(Biostad B, B. Braun biotech, Melsungen, Germany)中で行った。発酵は、トレース塩で補充された基礎塩類媒体中、pH 5.5で行った。最初に、バイオマスを、約28時間、唯一の炭素源としてグリセロールを有するバッチ相及び供給バッチ相に堆積した。mQCの発現は、約65時間の全発酵時間の間、Invitrogen社によって推奨される3段階プロファイルに従ってメタノールを供給することにより開始した。その後、細胞及び濁りを、それぞれ、15分及び4時間、6000x g及び38000x gで、2回の経時的な遠心工程によってmQC含有上清から取り除いた。精製のために、発酵ブロスを、水で約5mS/cmの伝導率に希釈し、0.05Mリン酸緩衝液, pH 6.4で平衡化したStreamline SP XLカラム(2.5×100cm)に逆流方向(15mL/分)で流した。2カラム体積の平衡化緩衝液を用いる逆流方向での洗浄工程の後、タンパク質を、順方向で、1.5M NaClを含む0.15Mトリス緩衝液, pH 7.6を用いて、流速8mL/分で溶出した。QC含有断片をプールし、硫酸アンモニウムを最終濃度1Mになるように加えた。得られた溶液を、流速4mL/分で、ブチルセファロースFFカラム(1.6×13cm)に流した。結合されたmQCを、0.75M硫酸アンモニウムを含む0.05Mリン酸緩衝液pH 6.8, 5カラム体積で洗浄し、0.05Mリン酸緩衝液pH 6.8を用いて逆流方向で溶出した。mQCを含む画分をプールし、0.025MトリスpH 7.5に対して、透析によって一晩脱塩した。
その後、pHを、NaOHの添加によって8.0に調節し、0.02Mトリス,pH 8.1で平衡化したUno Qカラム(BioRad)にかけた(4.0mL/分)。平衡化緩衝液を用いる洗浄工程の後、mQCを、0.18M NaClを含む同じ緩衝液を用いて溶出した。QC活性を示す画分をプールし、pHを、1Mビス-トリス緩衝液pH 6.0を添加することによって7.4に調節した。mQCは、最高1ヵ月間の4℃で安定であった。−20℃での長期保存のため、50%グリセロールを加えた。
【0174】
(本発明を実施するための最良の実施態様)
(実施例1:トランスジェニックベクターpTG-CAG-mQCのクローニング)
ベクター「pPCR Script CamにおけるmQC cDNA(mQC K10)」は、環状プラスミドDNAのアリコートである。それは、付加的な制限部位を含むプライマーを使用する、上記に示したマウスQpctのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。この増幅されたcDNAを、Srfl制限部位(図1Aを参照)を介して、ベクターpPCR Script CAM SK(+)(Stratagene)に挿入した。
【0175】
送達されたプラスミドを、NcoI、NotI及びNsiIを用いて限定解析によって検証した。予想される消化プロファイルが得られ、低下の徴候は観察されなかった。
【0176】
ORF単離のために使用された5'-プライマー内の付加的なSphI制限部位のために、核酸配列ATGをQpct開始コドン(図1Bを参照)の4塩基対下流に挿入した。このcDNAカセットがプロモーターの下流にクローン化される場合、この付加的なATGは翻訳のフレームシフトを導くであろう。従って、SphI認識部位のATGを、トランスジェニックベクターのプロモーター及びcDNAの構築前に除去しなければならなかった。
【0177】
この目的のために、Qpct cDNAカセットを、制限部位NsiI(5')及びNotI(3')を介して分離し、制限酵素PstI及びNotI(図2を参照)を用いて線形化されたクローニングベクターpBlue Script SK+(Stratagene)に挿入した。NsiI-/PstI-突出部の再連結は、Qpct-ORF無処置の開始-ATGの残部を残して、介在ATGの欠失を導く。その後、改質cDNAカセットを、pBlue Script SK+骨格からHindIII及びNotIを介して単離し、pcDNA3.1ベクター骨格(Invitrogen)(図2を参照)内の既にCAG-プロモーター及びBGHポリAシグナル配列を含む発現ベクターに挿入した。
【0178】
得られるプラスミドは、偏在的に過剰発現するCAGプロモーターカセットのマウスグルタミニルペプチドシクロトランスフェラーゼ遺伝子下流及びBGHポリAシグナルの上流のORFを含む。トランスジェニックベクターは、pTG-CAG-mQCと命名した。
【0179】
プラスミドpTG-CAG-mQCを、限定解析(図3を参照)及び配列決定によって検証した。トランスジェニック構造物は、ApaLI/DraIII制限酵素二重消化を用いて、プラスミド骨格から除去することができる。
【0180】
(実施例2:配列検証)
トランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCの関連接合領域を、DNA配列決定法にり検査した。表1は、使用するプライマーの配列を示す。クローニング接合断片の得られた配列を以下に示す(配列番号1、配列番号2)。これらの配列により、Qpct cDNAカセットの正しい挿入が確認された。
【表2】
【表3】
【0181】
(実施例3:スクリーニングPCRの確立)
生成されたトランスジェニックマウスの遺伝子型特定のためのPCRスクリーニングを確立するために、2つのプライマを、pTGCAG-mQC DNA(図3を参照)から約1585bpの特定のPCR生成物を増幅して設計した。フォワードプライマーCAG-Pr-F1(配列番号2)は、CAGプロモータ部分に特異的に結合し、リバースプライマーGX1675-TOR1-FF(配列番号6)は、Qpct cDNAカセットのBGHポリA配列中に結合する。スクリーニングPCRが、ゲノムDNAのレベルで十分に高い感度があることを確認するために、トランスジェニックベクターDNAを、野生型ゲノムDNAで連続希釈した。プライマー配列及び最適化されたPCR条件を、表2に示す。図4は、感度スクリーニングの結果を示す。
【表4】
pTG-CAG-mQC DNAは、反応混合物当たり0.1コピーの希釈でまだ検出可能であり、PCRスクリーニングは、潜在的創始動物マウスのスクリーニングに関して組込みを検出するのに十分な高い感度があることを確認した。
【0182】
図3に示すように、ApaLI/DraIII制限部位によって、トランスジェニック構造物DNAがプラスミド骨格から分離されることができる。プラスミドpTG-CAG-mQCは、この酵素によって消化され、得られる3806 bpサイズの断片は、マウス卵母細胞へのマイクロインジェクションのために単離され、精製される。
【0183】
上記に示すように実施例1〜3で生成されるトランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCを、受精卵母細胞の雄の前核に注入した。一晩培養後、得られた2種類の細胞胚を、擬似妊娠養母に移植した。生まれたマウスを、PCR分析によって導入遺伝子組込みを明らかにした。
【0184】
以下は、プロジェクトの前核注入(PNI)局面に関して行われた研究を記載し、創始動物の同定を詳述する。
【0185】
(実施例4:構造物の調製)
pTG-CAG-mQCベクターを、上記に示すようにクローン化した。Qpct遺伝子カセットを、ハイブリッドCMVエンハンサー/鳥ベータアクチン(CAG)プロモーターの下流及びウシ成長ホルモン(BGH)ポリAシグナルの上流に直接クローン化し、トランスジェニックベクターpTG-CAG-mQCを生成した。
【0186】
pTG-CAG-mQCプラスミドを、DraIII及びSalI制限酵素によって消化し、対象のトランスジェニック構造物を含む3552bp断片を、電気泳動的にベクター骨格から分離した(図5)。〜3.6kbのトランスジェニック構造物断片を単離し、精製し、マイクロインジェクション緩衝液で5ng/μlの濃度に希釈した。その構造物純度及び濃度を、アガロースゲル電気泳動によって検証した(図5)。
【0187】
3〜4週齢の雌のC57BL/6マウスを、雄のC57BL/6マウスと交尾させた。得られた受精卵母細胞を、塞がれた雌のマウスの卵管から回収し、2つの明確な前核が見えるまで培養した。精製したトランスジェニック構造物を、雄の前核にマイクロインジェクションし(図6)、注入された胚を、2細胞期まで一晩培養した。続いて2細胞期胚を、交尾後0.5日で擬似妊娠養母の卵管に移植した。
【0188】
18〜19日後に、子が養母から生まれた。表3は、行われたDNAマイクロインジェクションのセッションを要約する。
【表5】
表3に示すように、総数689の胚を養母に移入し、61匹の生存可能な子が生まれた。
【0189】
(実施例5:トランスジェニック創始動物のスクリーニング)
61匹の離乳した子から尾部先端生検を調製し、DNAを抽出した。個々のDNAを、前記実施例で確立されたトランスジェニックスクリーニングPCRによって遺伝子型を特定した。プライマー対CAG-Pr-F1/GX1675-TOR1-FF(図5Aにおいて灰色矢印で示す。配列番号4及び7)は、プロモーター-cDNA接合を増幅し、トランスジェニック構造物が宿主ゲノムに組み込まれた時に特定の1585bp PCR生成物をもたらす。
【0190】
トランスジェニック構造物のBGHポリA配列に結合するフォワードプライマーBGH-F1(配列番号7)、及びプロモーターカセットの5'末端と結合するリバースプライマーCAG-Pr-R2(配列番号8)を用いる第二のPCRは、トランスジェニック構造物の頻繁に観測される頭尾組込みを利用し、約834bp断片を増幅する。トランスジェニック構造物の2以上のコピーが直列に組み込まれた場合、この増幅産物のみが生じる。
【0191】
プライマー配列を表4に示し、両PCRの最適化されたPCR条件を表5及び表6に示す。DNAの品質は、制御遺伝子に特異的なプライマーを用いて確認した。図7は、PCRスクリーニング結果の例を示す。
【表6】
【表7】
【表8】
【0192】
両方のジェノタイピングPCR型をもつ61匹の子のPCRスクリーニングは、1匹の正のトランスジェニック動物の識別に結果としてなった。図7で見られるように、創始動物番号37460(表7に示す)は、導入遺伝子PCRを用いて同定され得る。また、頭尾PCRでも明確に証明され、トランスジェニック構造物の直列型組込みが生じたことを示している。
【0193】
DNAマイクロインジェクションの結果は、1.6%の遺伝子型特定動物だけに導入遺伝子DNAが組み込まれたことを示している。
【表9】
実施例4及び5は、前核マイクロインジェクション(PNI)アプローチを用いてCAG-mQCトランスジェニックマウスモデルの生成のために行った研究を要約する。
【0194】
トランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCを調製し、精製し、受精卵母細胞の雄の前核に注入し、総数689の胚を養母に移植した。これらのマイクロインジェクションセッションにより、61匹の生存可能な子が出生した。PCRスクリーニングにより、ゲノムに組み込まれるトランスジェニック構造物を持つ一匹の雌の創始動物を同定した。
【0195】
トランスジェニック構造物組込みの低い割合は、卵母細胞毒性又は胚発生と非互換である表現型影響に頻繁に関連している。
【0196】
先の実施例において、トランスジェニック構造物pTG-CAG-mQCを、689の受精卵母細胞の雄の前核に注入し、一匹のトランスジェニック創始動物(すなわち、動物番号37460)を同定した。この雌の創始動物を、それらのゲノムに導入遺伝子CAG-mQCを有するC57BL/6雄F1世代マウスと交配させた。
【0197】
以下は、F1世代相への繁殖のために行った研究を記載する。
【0198】
(実施例6:前核注入相の概要)
(6-1注入セッション)
トランスジェニック構築物を、上記に示すようにクローン化したpTG-CAG-mQCベクターから単離した。受容卵母細胞を、SPF(特定かつ病原体のない(Specific and Pathogen Free))健康状態の妊娠したC57BL/6J雌から単離した。導入遺伝子DNAを、689の受精卵母細胞の雄の前核に注入し、これらの操作された胚を、SOPF(特定かつ日和見病原体のない(Specific and Opportunistic Pathogen Free))健康状態の23匹のOF1擬似妊娠の雌に再移植した。
【0199】
(6-2トランスジェニック創始動物)
注入セッションにより、69匹の子が生まれ、その中で、61匹の子が離乳期を生き残った。全61匹の生存可能なF1子を、確立したスクリーニングPCRにより特徴付けし、一匹の雌(番号37460、*25.05.05)だけが、ゲノムにランダムに組み込まれたトランスジェニックDNAを有することが同定された。
【0200】
(実施例7:F1動物の生成)
トランスジェニック雌番号37460を、F1トランスジェニックマウスを生成することによってトランスジェニックCAG-mQCマウス系統を確立するために、2005年7月12日から野生型C57BL/6雄(健康状態SOPF-特定の日和見病原体のなし(Specific Opportunist Pathogen Free))と繁殖させた。
【0201】
下記表8は、3同腹子のトランスジェニックF1繁殖の結果を要約する。不運なことに、最初の同腹子( *05.08.05に生まれる)は、それらの母に共食いされた。
【0202】
表8に記載されるように、50%を上回るF1誕生動物が、それらのゲノム中に導入遺伝子を有し、トランスジェニック創始動物が導入遺伝子を胚葉を経て運ぶことができることを示している。
【表10】
【0203】
(実施例8:F1世代の遺伝子型特定)
17匹の離乳した子から尾部先端生検を調製し、DNAを抽出した。個々のDNAを、上記で確立されたトランスジェニックスクリーニングPCRによって遺伝子型特定した。プライマー対CAG-Pr-F1/ GX1675-TOR1-FF (配列番号4及び6)は、プロモーター-cDNA接合を増幅し、トランスジェニック構造物が宿主ゲノムに組み込まれた時に特定の1585bp PCR産物をもたらす。
【0204】
プライマー配列及び最適化されたPCR条件を、表9に示す。DNAの品質は、制御遺伝子に特異的なプライマーを用いて確認した。図8は、PCRスクリーニング結果の例を示す。
【表11】
17匹のF1子のPCRスクリーニングにより、10匹のポジティブトランスジェニック動物を同定した。
【表12】
実施例6〜8は、雌創始動物番号37460をC57BL/6雄と繁殖させるすることによって生じるCAG-mQCトランスジェニックマウス系統の確立のために行った研究を要約する。
【0205】
トランスジェニック雌番号37460の繁殖により、3同腹子が生まれた。*05.08.2005に生まれた最初の同腹子は、不運なことに、それらの母によって共食いされた。更なる2匹の同腹子の遺伝子特定により、17匹の生存可能なF1子のうち、3匹のトランスジェニック雄及び7匹のトランスジェニック雌を同定した。
【0206】
従って、偏在的に過剰発現するQpctマウス系統の生成のためのF1繁殖は、みごとに完成された。
【0207】
以下実施例の結果は、標的遺伝子の過剰発現を証明する。発現は、EDTA-血漿中及び肝臓、腎臓及び脳の組織ホモジネート中のQC活性の測定によって評価した。EDTA-血漿中において、pbd17E3は、野生型同腹子と比較して21倍特異的なQC活性を示した。組織ホモジネート中のQC発現を、tg動物についてのみ正確に定量化し、この場合にも顕著な過剰発現が示された。
【0208】
脳、肝臓及び腎臓において、標的遺伝子発現を、RT-PCR及びリアルタイムPCRによっても分析した。従って、その結果は、酵素活性に関する結果を確実にする。脳及び肝臓において、野生型と比較してそれぞれ4倍及びの5倍のmRNA濃度が測定された。腎臓のmRNA濃度は、66倍と大幅に上昇した。
【0209】
このデータは、病態生理学的状態、例えばアルツハイマー病のQCの役割に関する更なる研究のため、好ましくは確立した動物モデルとの繁殖による又は更なるADマウスモデルの生成のための、pbd17E3の適合性を証明する。
【0210】
下記実施例の目的は、この酵素を過剰発現する異型接合トランスジェニックマウスの酵素グルタミニルシクラーゼ(QC)活性の測定である。この表現型特定のために、グルタミニルシクラーゼ活性は、等しい遺伝子背景を有する2匹のトランスジェニック動物及び2匹の野生型コントロールの脳、肝臓、腎臓及びEDTA-血漿を測定すべきである。さらに、記載されている器官のQC-mRNA発現を検討しなければならない。すべての動物は雌とした。
【0211】
(実施例9:材料及び方法)
(9.1.QC-活性のためのHPLC-分析)
野生型及びトランスジェニック動物の組織中のQC活性を、HPLCベースのアッセイを用いて、グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンからピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンへのQC媒介環化の定量化によって評価した。測定は、Merck KGaA社から提供されるMerck-Hitachi及びRP18 LiChroCART 125-4カラムによって製造されたHPLCシステム「La chrome」を用いて行った。分離のために、各々1%のTFAを含む水及びアセトニトリルの勾配を、以下のようにp. r. t.使用した:
【表13】
グルタミニル-ベータ-ナフチルアミン及びピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの検出は、、Hitachi社によって製造されるDiode Array Detector L7455を用いて280nmの波長で行った。すべての測定は、室温で行った。ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの濃度は、検量線を用いて計算した。
【0212】
(実施例9−1:サンプル調製)
QC-活性の測定は、脳、肝臓、腎臓及び血漿から組織ホモジネートを用いて行った。血漿を、4℃及び10分間の13000xgで遠心分離し、QC-アッセイに適用した。また、コントロール群の血漿を、測定(100μl)のために乾燥して、直接使用した。一方、QC-トランスジェニックマウスの血漿は、MOPS緩衝液(25mM、pH 7.0)で1:25に希釈した。脳、肝臓及び腎臓の組織を、40倍体積の溶解緩衝液に混合し、Downsホモジナイザーを用いてホモジナイズした。溶解緩衝液(pH 7.5)は、トリス-塩基(10mM)、EDTA(5mM)、Triton (0.5%)及びグリセリン(10%)から構成した。
【0213】
その後、サンプルを、超音波棒(16サイクル、強度70%)で処理し、その後、遠心分離した(25分, 13000xg, 4℃)。上清を取り、測定のために直ちに使用した(100μl)。
【0214】
(9.3. QC活性の測定)
サンプル調整後、ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンの測定を、下記プロトコルに従って行い、検量線の測定は精製された組換えQC酵素と一致し、時間-変換-グラフの測定はホモジナイズした組織サンプル由来QCと一致した。
【0215】
1.5mLチューブ中、500μLの基質溶液(25mMのMOPS緩衝液中、100μM グルタミニル-ベータ-ナフチルアミン, pH 7.0)を、システイン-プロテアーゼインヒビターとして400μLのN-エチルマレイミド溶液(25mMのMOPS緩衝液中250μM, pH 7.0)と混合した。混合液を、350rpmで加熱ブロック中、10分間、30℃で平衡化させた。平衡化の後、反応を、1000μLの総体積に対して100μLの細胞可溶化液又は血漿(トランスジェニック動物の組織の場合には希釈した)の添加によって開始した。次に反応混合液を、350rpm、30℃で45分間インキュベートした。総反応体積から、サンプル(100μL)を、0、4、8、12、16、20、24、35及び45分後に取り出した。グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンからピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンへの進行中の変換を停止するために、これらのサンプルを、酵素グルタミニル-シクラーゼを不活性化するために、沸騰水中で5分間、直ちに加熱した。その後、サンプルを直ちに−20℃で凍結させた。実験は、3つの複製において同時に行った。HPLCを用いる分析前に、すべてのサンプルを一度凍結させた。測定のために、サンプルを解凍し、その後、HPLCシステムの測定プロセスを始める前に、室温で、13000 rpmで10分間遠心した。その後、サンプル25μLを、蒸留水(water bidest)で1:1希釈し、混合した。この溶液を、100μLのHamiltonシリンジで、HPLCシステムの20μLサンプルループに完全に注入した。測定の間に、Hamiltonシリンジを、水で2回、アセトンで2回、その後、水で2回洗浄した。新たなサンプルを有するシリンジを引く前に、針をその新たなサンプルで2回(2x3μL)、でリンスした。
【0216】
ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンに関して得られたピーク面積(Rt: 〜6. 8分、グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンの保持時間は、Rt: 〜4. 85分であった)を、検量線を用いてピログルタミニル-ベータ-ナフチルアミンの濃度に変換した。得られたデータを、時間(x軸)-変換(y軸)-線図にプロットした。グルタミニル-ベータ-ナフチルアミンからピログルタミニル-ベータ-ナフチルアミンへの変換反応の初速度を、反応の最初の20分間に通常観察される直線的な生成物形成の領域において直線回帰によって計算した。得られた線図及び初速度を、具体例として脳のQC-活性に関して示す(図9を参照)。
【0217】
(実施例10:EDTA血漿及び組織ホモジネート中のQC活性)
雌のQC-トランスジェニックマウスの血漿において、QC-活性の21倍の増加が体積に対して検出された。肝臓の組織ホモジネートにおいて、QC-活性(重量に対して)は、QC-動物の血漿のものと同等だった。QC-活性のほぼ3倍の増加が、トランスジェニック動物の血漿と比較してQC tgマウスの脳組織において観察された。トランスジェニック動物由来組織中の測定されたQC-活性を、非トランスジェニックコントロールのものと比較することはできなかった。コントロール群において、サンプル調製をQCトランスジェニック動物(40倍希釈の溶解液)と同様に行った場合、QC-活性は測定されなかった。従って、理論的には、QC-活性の無限倍数が生じる。コントロール群由来組織ライセートを1:40より高い濃度で測定した場合、QCの基質として反応に与えられる大部分のグルタミニル-ベータ-ナフチルアミンは、ピログルタミル-ベータ-ナフチルアミンへの転換なく失われた。従って、コントロールマウスの組織中のQC-活性の測定はできなかった。QCトランスジェニックマウスとコントロールマウスとの直接比較は、EDTA血漿に関してのみ利用有効であった。ここで、QCマウスは、QC活性の21倍の相対的な増加を示した。(図10 A及びB)。
【0218】
(10.2 PCR及びリアルタイムPCRを用いるQC転写レベルの評価)
全mRNAを、肝臓、腎臓及び脳の組織から、NucleoSpin-キット(Macherey Nagel)を用いて製造業者のプロトコルに従って単離し、その後で、単離した1μgのmRNAを、プライマーにランダムヘキサマーオリゴヌクレオチドを適用するcDNAに転写した。
【0219】
すべての組織の定性的PCRを、製造業者の説明書に従ってThermus aquaticus由来のDNAポリメラーゼ(Taq-ポリメラーゼ, Promega)を用いて行った。反応は、以下の条件を適用して行った:アニール:57℃、45秒;伸長:72℃、60秒;融解:95℃、30秒。サンプルを、TBE緩衝液の1.4%アガロースゲルで分析した。
【0220】
予想され得るように、コントロール群と比較してマウスQC mRNAの著しく高い濃度が、QCトランスジェニックマウスにおいて検出された(図10-C)。
【0221】
mRNA-レベルのQCの発現を定量化するために、リアルタイムRT-PCRを、Corbett Research「Rotor Gene 3000」を用いて行った。
【0222】
脳、肝臓及び腎臓において、QC mRNA濃度は、コントロール群と比較して、大きく増加した(図10D)。最も高い発現が、腎臓においてQC mRNA濃度の66倍の増加で観察された。
【0223】
(実施例11:ニューロン特異的ヒトQCを過剰発現するトランスジェニックマウスの特徴付け)
基本的に、偏在的にマウスQCを過剰発現するトランスジェニックマウスに関する実施例1〜9に記載したように、Thy-1プロモーターにより駆動されたヒトQCを過剰発現するトランスジェニックマウスを生成した。実施例12で更に概説する。3匹の創始動物を効率的に交配し、QC発現を、QC-活性アッセイ及び特異的抗体を用いるウェスタンブロットにより特徴付けした。QC-活性の測定のために、50mgの脳組織を、10mMトリスpH 7,5、100mM NaCl、5mM EDTA及び0,5% Triton X-100及び10%グリセロールから構成されている1mlの緩衝液でホモジナイズした。組織を、Downs-ホモジナイザー中、数回のストロークによりホモジナイズし、12mlコニカルチューブに注いだ。その後、そのホモジネートを3x10秒、超音波衝撃に曝した。得られたホモジネートを、25分間、4℃で遠心し、上清のQC-活性を測定した。
【0224】
基本的に実施例9で説明したように、hQC活性をHPLC-アッセイを用いて測定した。簡潔に言うと、サンプルは、500μlの基質(Q-βNA、最終濃度50μM)、400μlのN-エチルマレイミド(最終濃度100μM)、及び100μlのQC含有サンプルからなる。反応を30℃でインキュベートし、サンプルを0、5、10、15、22、30及び45分後に取り出した。その後、5分間、沸騰水浴でインキュベートすることにより反応を終了した。図11に図示するように、hQC導入遺伝子を有するトランスジェニック動物から得られるサンプルは、非トランスジェニック同腹子と比較して、著しく減少したQC-活性を含んでいた。明らかに、トランスジェニック動物のhQC発現を証明している。
【0225】
更にトランスジェニックのQC-発現を立証し、かつ最も高いQC-活性を示す創始動物系統を選択するために、酵素活性の蛍光定量的測定に基づく第二のアッセイを適用した(Schilling,らの文献., Anal. Biochem. (2002) 303:49-56)。図12に示すように、非移植遺伝子の同腹子と比較してpGlu-βNA形成の35倍の増加が、hQC-トランスジェニックマウスの脳ホモジネートにおいて観察され、該酵素の過剰発現が証明された。
【0226】
図13Aに示すように、ヒトQCの発現を、3匹の異なる創始動物マウス系統(系統53、37及び43)及びマウスQCを過剰発現させる系統pbd17E3について特徴付けした。QCの有意な過剰発現が、全てのhQC tg動物において検出された。比較において、pbd17E3のマウスQCは、脳での発現がより少なかった。これは、使用した異なるプロモーター(pbd17E3の偏在的CAGプロモーター及びhQCトランスジェニックマウスのマウスThy-1ニューロン特異的プロモーター)に起因する。これらの結果に基づいて、hQC-トランスジェニックマウス創始動物系統53は、最も高いQC発現を示した(図13B)。
【0227】
QC-活性の分析結果を、QC-特異抗体(図14)を用いて、ウエスタンブロット分析によって最終的に立証した。最も顕著なバンドは、ヒトQCトランスジェニックマウス系統53由来であり、既に最も高い酵素活性を示したサンプルにおいて観察された。系統43は中程度のシグナルを示し、系統37は最も低いQCシグナルを示した。これらは約32kDaの分子量に対応する。pbd17E3マウスでは、わずかなシグナルだけが得られた。これは脳サンプル中のQC活性の測定結果を反映している。
【0228】
酵素活性についての2つの異なる分析によるQC測定及びウエスタンブロット分析によるQC測定に基づいて集約することにより、トランスジェニックマウスのヒトQCの有効な発現を達成した。上記のように、ニューロン特異的プロモーターは、発現を非常に効率的に誘発する。従って、これらのマウスは、QCに関連し、かつ/又はQCによって促進又は加速される疾患状態(例えばアルツハイマー病、家族性英国型認知症、家族性デンマーク型認知症、ハンチントン舞踏病)のモデル化を目的とするトランスジェニックマウスの開発に最適である。
【0229】
(実施例12:ヒトQCをニューロン特異的に過剰発現させるトランスジェニックマウスの生成)
(12.1トランスジェニックプラスミドの確立及びマイクロインジェクション)
ヒトQC(スイス-プロット登録Q16769)のオープンリーディングフレームを含むプラスミドpcDNA3.1-hQCを、以下のプライマーを有するhQC cDNAのPCR増幅のテンプレートとして使用した:
・mThy1-hQC-XhoI-F(5´-AAT AAT CTC GAG GCC ACC ATG GCA GGC GGA AGA CAC CG-3´, 配列番号42)
・mThy1-hQC-BsrGI-R(5´-ACA TAT GTA CAT TAC AAA TGA AGA TA-3´, 配列番号43)。
PCR産物を、XhoI及びBsrGIで消化し、pUC18-mThy1ベクタープラスミド(図15)と結合させた。正しいプラスミドクローンを、制限及び配列決定によって同定した。トランスジェニックプラスミドpUC18-mThy1-hQCを、プラスミド配列を除去するために、Pvu I及びNot Iを用いて線形化した。トランスジェニック構造物に相当する7929bp断片を、アガロースゲル電気泳動によってベクター骨格から分離し、更に精製した。プラスミド骨格を、Not I及びPvu Iを用いる消化によって取り除いた(図16)。得られた7929bp DNA断片を、(C57BL/6 x CBA) F2卵母細胞への前核マイクロインジェクションに使用し、続いて、最小150の生存可能なマイクロインジェクションされた卵母細胞を偽妊娠マウスに再移植した。
【0230】
(12.2 トランスジェニック創始動物の同定)
PCRスクリーニング戦略を、以下のプライマーを用いて行った:
フォワードプライマhQCF1: ・
【化8】
リバースプライマmThy1R1:
【化9】
プローブ13p:
【化10】
。
さらに、頭尾PCRを直列型組込みの同定のために使用した:
フォワードプライマHTT-mthy1-F:
【化11】
リバースプライマHTT-mThy1-R:
【化12】
。
同定された創始動物を表12-1に示す。
【表14】
本発明者らは、トランスジェニック構造物の整合性及び複数のトランスジェニックコピー(プライマーHTT-mthy1-F及びHTT-mthy1-R)を調査するために、頭尾PCRを行った。ここで、本発明者らは、以下の結果を得た:
Fo#37 弱い正しいPCR断片バンド
Fo#38 強い正しいPCR断片バンド
Fo#43 弱い正しいPCR断片バンド
Fo#48 弱い正しいPCR断片バンド
Fo#53 強い正しいPCR断片バンド
【0231】
この結果は、すべての創始動物が、直列方向において組込まれている複数のトランスジェニック断片を有するという結論につながる(図3にて図示したように)。
【0232】
構造物がより直列方向に組み込まれるほど、頭尾PCRバンドシグナルがより強い。すべての創始動物を、B6CBA繁殖パートナーとともに育てた。F1マウスは、上記qPCRプライマー/プローブセットを用いてスクリーニングした。トランスジェニックの子は、Fo#37、Fo#43及びFo#53についてのみ同定することができた。創設者Fo#38及びFo#48 F1子は、すべての非トランスジェニックであった。Fo#37、Fo#43及びFo#53の異なるトランスジェニックF1の子(年齢: 2〜3.5ヵ月)の皮質(Co)、海馬(Hi)及び脊髄(SC)のサンプルを、1匹の非トランスジェニックコントロールの子とともにRT-qPCRによって調査した。結果を、図17に示す。
最大mRNAレベルは、Fo#53サンプルにおいて検出され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
QpctをコードするDNA導入遺伝子を含む細胞を含む、Qpctを過剰発現するためのトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
前記動物が導入遺伝子の異型接合体である、請求項1記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
前記動物が導入遺伝子の同型接合体である、請求項1記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
前記動物がマウスである、請求項1〜3のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
前記導入遺伝子がマウス起源である、請求項1〜4のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
前記導入遺伝子がヒト起源である、請求項1〜4のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項7】
前記導入遺伝子が組換え遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
前記組換え導入遺伝子がキメラ又はヒト化ポリペプチドをコードする、請求項7記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項9】
前記導入遺伝子がQpctのイソ酵素をコードする、請求項1〜8のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項10】
前記イソ酵素が、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体からなる群から選択されるタンパク質である、請求項9記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項11】
前記イソ酵素のアミノ酸配列が配列番号15〜25のいずれか1つからなる群から選択される、請求項10記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項12】
前記導入遺伝子が組織特異的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項1〜11のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項13】
試験薬剤を請求項1〜12のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物に投与すること、及び産生されたQpctの量において該薬剤の効果を測定することを含む、インビボでQpct産生を阻害又は促進する生物学的活性薬剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記トランスジェニック非ヒト動物が導入遺伝子の異型接合体である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記トランスジェニック非ヒト動物が導入遺伝子の同型接合体である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記動物がマウスである、請求項13〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記導入遺伝子がマウス起源である、請求項13〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記導入遺伝子がヒト起源である、請求項13〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記導入遺伝子が組換え遺伝子である、請求項13〜18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記組換え導入遺伝子がキメラ又はヒト化ポリペプチドをコードする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記導入遺伝子がQpctのイソ酵素をコードする、請求項13〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記イソ酵素が、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体からなる群から選択されるタンパク質である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記イソ酵素のアミノ酸配列が配列番号15〜25のいずれか1つからなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜12のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物由来の細胞又は細胞株。
【請求項25】
プロモーターに作動可能に連結され、マウスのゲノムに組込まれる、Qpctをコードしているトランスジェニック核酸配列を含むトランスジェニックマウスであって、該マウスがQpct阻害剤で逆転又は寛解され得る表現型を示す、前記トランスジェニックマウス。
【請求項26】
前記マウスがQpctを過剰発現する、請求項25記載のマウス。
【請求項27】
Qpctの異型接合体である、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項28】
Qpctの同型接合体である、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項29】
前記トランスジェニック配列が、マウスQpctをコードする、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項30】
前記トランスジェニック配列が、ヒトQpctをコードする、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項31】
前記導入遺伝子がQpctのイソ酵素をコードする、請求項25〜30のいずれか1項記載のマウス。
【請求項32】
前記イソ酵素が、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体からなる群から選択されるタンパク質である、請求項31記載のマウス。
【請求項33】
前記イソ酵素のアミノ酸配列が配列番号15〜25のいずれか1つからなる群から選択される、請求項32記載のマウス。
【請求項34】
(a)試験薬剤を請求項25〜33のいずれか1項記載のトランスジェニックマウスに投与すること、
(b)該マウスの神経学的表現型において該試験薬剤の効果を評価すること、
(c)Qpct活性を阻害又は促進する試験薬剤を選択すること、
を含む、Qpct活性を阻害又は促進する治療薬のスクリーニング方法。
【請求項35】
(a)請求項34記載の選択された試験薬剤を投与すること、
(b)Qpct関連疾患について臨床指数が低下した患者をモニタリングすること、
を含む、Qpct関連疾患の治療又は予防方法。
【請求項36】
前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
請求項34記載の選択された試験薬剤を含む、医薬組成物。
【請求項38】
Qpct関連疾患の治療及び/又は予防用の医薬の調製のために、請求項34記載の選択された試験化合物の使用。
【請求項1】
QpctをコードするDNA導入遺伝子を含む細胞を含む、Qpctを過剰発現するためのトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
前記動物が導入遺伝子の異型接合体である、請求項1記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
前記動物が導入遺伝子の同型接合体である、請求項1記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
前記動物がマウスである、請求項1〜3のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
前記導入遺伝子がマウス起源である、請求項1〜4のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
前記導入遺伝子がヒト起源である、請求項1〜4のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項7】
前記導入遺伝子が組換え遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
前記組換え導入遺伝子がキメラ又はヒト化ポリペプチドをコードする、請求項7記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項9】
前記導入遺伝子がQpctのイソ酵素をコードする、請求項1〜8のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項10】
前記イソ酵素が、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体からなる群から選択されるタンパク質である、請求項9記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項11】
前記イソ酵素のアミノ酸配列が配列番号15〜25のいずれか1つからなる群から選択される、請求項10記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項12】
前記導入遺伝子が組織特異的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項1〜11のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項13】
試験薬剤を請求項1〜12のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物に投与すること、及び産生されたQpctの量において該薬剤の効果を測定することを含む、インビボでQpct産生を阻害又は促進する生物学的活性薬剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
前記トランスジェニック非ヒト動物が導入遺伝子の異型接合体である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記トランスジェニック非ヒト動物が導入遺伝子の同型接合体である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記動物がマウスである、請求項13〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記導入遺伝子がマウス起源である、請求項13〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記導入遺伝子がヒト起源である、請求項13〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記導入遺伝子が組換え遺伝子である、請求項13〜18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記組換え導入遺伝子がキメラ又はヒト化ポリペプチドをコードする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記導入遺伝子がQpctのイソ酵素をコードする、請求項13〜20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記イソ酵素が、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体からなる群から選択されるタンパク質である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記イソ酵素のアミノ酸配列が配列番号15〜25のいずれか1つからなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
請求項1〜12のいずれか1項記載のトランスジェニック非ヒト動物由来の細胞又は細胞株。
【請求項25】
プロモーターに作動可能に連結され、マウスのゲノムに組込まれる、Qpctをコードしているトランスジェニック核酸配列を含むトランスジェニックマウスであって、該マウスがQpct阻害剤で逆転又は寛解され得る表現型を示す、前記トランスジェニックマウス。
【請求項26】
前記マウスがQpctを過剰発現する、請求項25記載のマウス。
【請求項27】
Qpctの異型接合体である、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項28】
Qpctの同型接合体である、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項29】
前記トランスジェニック配列が、マウスQpctをコードする、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項30】
前記トランスジェニック配列が、ヒトQpctをコードする、請求項25又は26記載のマウス。
【請求項31】
前記導入遺伝子がQpctのイソ酵素をコードする、請求項25〜30のいずれか1項記載のマウス。
【請求項32】
前記イソ酵素が、少なくとも50%/75%の配列同一性/類似性、好ましくは70%/85%の配列同一性/類似性、最も好ましくは90%/95%の配列同一性/類似性を有する、ヒト(GenBankアクセッション番号NM_017659)、マウス(GenBankアクセッション番号NM_027455)、カニクイザル(GenBankアクセッション番号AB168255)、アカゲザル(GenBankアクセッション番号XM_001110995)、ネコ(GenBankアクセッション番号XM_541552)、ラット(GenBankアクセッション番号XM_001066591)、ウシ(GenBankアクセッション番号BT026254)又はそれらの類似体からなる群から選択されるタンパク質である、請求項31記載のマウス。
【請求項33】
前記イソ酵素のアミノ酸配列が配列番号15〜25のいずれか1つからなる群から選択される、請求項32記載のマウス。
【請求項34】
(a)試験薬剤を請求項25〜33のいずれか1項記載のトランスジェニックマウスに投与すること、
(b)該マウスの神経学的表現型において該試験薬剤の効果を評価すること、
(c)Qpct活性を阻害又は促進する試験薬剤を選択すること、
を含む、Qpct活性を阻害又は促進する治療薬のスクリーニング方法。
【請求項35】
(a)請求項34記載の選択された試験薬剤を投与すること、
(b)Qpct関連疾患について臨床指数が低下した患者をモニタリングすること、
を含む、Qpct関連疾患の治療又は予防方法。
【請求項36】
前記Qpct関連疾患がアルツハイマー病である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
請求項34記載の選択された試験薬剤を含む、医薬組成物。
【請求項38】
Qpct関連疾患の治療及び/又は予防用の医薬の調製のために、請求項34記載の選択された試験化合物の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A−B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A−B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2010−516235(P2010−516235A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545932(P2009−545932)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050532
【国際公開番号】WO2008/087197
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(505403119)プロビオドルグ エージー (39)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/050532
【国際公開番号】WO2008/087197
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(505403119)プロビオドルグ エージー (39)
【Fターム(参考)】
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